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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20240213BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240213BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240213BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240213BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240213BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240213BHJP
   F02N 11/00 20060101ALI20240213BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20240213BHJP
   F02N 15/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/48 ZHV
B60L50/16
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F02D29/02 321C
F02N11/00 N
F02N11/08 V
F02N15/00 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023069976
(22)【出願日】2023-04-21
(62)【分割の表示】P 2019015841の分割
【原出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2023101483
(43)【公開日】2023-07-21
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿目 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑治
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-020646(JP,A)
【文献】特開2018-103742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0131899(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/48
F02D 29/02
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸とモータの回転軸とに巻き掛けられたベルトと、
前記エンジンおよび前記モータに対して制御を行う複数の機能を有し、前記複数の機能のうち禁止する機能を前記ベルトのスリップ状態量に応じて決定する制御部と、を備えるハイブリッド車両であって、
前記複数の機能は、
前記モータの出力のみで車両を走行させるEV走行機能と、
前記エンジンを自動停止させる自動停止機能と、を含み、
前記制御部は、
前記自動停止機能を禁止するスリップ状態量閾値を、前記EV走行機能を禁止するスリップ状態量閾値よりも高く設定していることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記複数の機能は、前記モータが前記エンジンの出力をアシストするアシスト機能を含み、
前記制御部は、
前記アシスト機能を禁止するスリップ状態量閾値を、前記EV走行機能を禁止するスリップ状態量閾値よりも高く設定していることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記制御部は、
前記スリップ状態量が、前記EV走行機能を禁止するスリップ状態量閾値以上となった場合は、前記スリップ状態量に基づいて前記モータの出力を補正することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両として、特許文献1に記載されるものが知られている。特許文献1に記載のハイブリッド車両は、エンジンとモータとを含む駆動源の運転状態に応じて所定の条件を決定し、エンジンの出力軸の回転速度とモータの回転軸の回転速度との関係が所定の条件を満たした場合に、エンジンの出力軸とモータの回転軸とに巻き掛けられたベルトに異常が発生したことを検出し、モータの出力トルクを制限したり、アイドルストップ機能の実行を禁止したりするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-20646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の従来のハイブリッド車両にあっては、ベルトに僅かなスリップが発生した段階で回生機能を含むモータの機能を全て禁止すると、バッテリの充電量が不足してしまう。一方で、ベルトに大きなスリップが発生しているにもかかわらずアイドルストップ機能を継続すると、エンジンを自動停止状態から再始動する際にスリップによって速やかに再始動できず、エンジントルクの発生タイミングがドライバの意図するタイミングより遅れ、ドライバビリティを損なってしまう。したがって、一定の水準以上で、バッテリの充電量を維持でき、かつ、ドライバビリティを確保できるように、更に検討する余地があった。
【0005】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、バッテリの充電量を維持でき、かつ、ドライバビリティを確保できるハイブリッド車両を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンの出力軸とモータの回転軸とに巻き掛けられたベルトと、前記エンジンおよび前記モータに対して制御を行う複数の機能を有し、前記複数の機能のうち禁止する機能を前記ベルトのスリップ状態量に応じて決定する制御部と、を備えるハイブリッド車両であって、前記複数の機能は、前記モータの出力のみで車両を走行させるEV走行機能と、前記エンジンを自動停止させる自動停止機能と、を含み、前記制御部は、前記自動停止機能を禁止するスリップ状態量閾値を、前記EV走行機能を禁止するスリップ状態量閾値よりも高く設定していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように上記の本発明によれば、バッテリの充電量を維持でき、かつ、ドライバビリティを確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御部による禁止機能決定動作を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御部によるトルク補正制御において参照される補正マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両は、エンジンの出力軸とモータの回転軸とに巻き掛けられたベルトと、エンジンおよびモータに対して制御を行う複数の機能を有し、複数の機能のうち禁止する機能をベルトのスリップ状態量に応じて決定する制御部と、を備えるハイブリッド車両であって、複数の機能は、モータの出力のみで車両を走行させるEV走行機能と、エンジンを自動停止させる自動停止機能と、を含み、制御部は、自動停止機能を禁止するスリップ状態量閾値を、EV走行機能を禁止するスリップ状態量閾値よりも高く設定していることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両は、バッテリの充電量を維持でき、かつ、ドライバビリティを確保できる。
【実施例
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について詳細に説明する。図1に示すように、本発明の実施例に係る車両1は、内燃機関型のエンジン2と、モータ3と、バッテリ4と、変速機5と、駆動輪6、エンジン2およびモータ3を制御する制御部25と含んで構成される。車両1は、本発明におけるハイブリッド車両を構成している。
【0011】
本実施例において、エンジン2は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うとともに、圧縮行程及び膨張行程の間に、点火が行われる4サイクルのエンジンによって構成されている。
【0012】
モータ3は、例えば、三相交流モータによって構成され、バッテリ4は、二次電池によって構成される。モータ3は、バッテリ4に蓄えられた電力を動力に変換したり、動力から変換した電力をバッテリ4に蓄えたりするようになっている。
【0013】
また、モータ3は、エンジン2を始動するスタータとしても機能する。このように、モータ3は、スタータとジェネレータの両方の機能を備えたいわゆるISG(Integrated Starter Generator)である。
【0014】
エンジン2は、出力軸10を有し、出力軸10には、出力軸10と一体に回転する図示しないプーリが設けられている。一方、モータ3は、回転軸13を有し、回転軸13には、回転軸13と一体に回転する図示しないプーリが設けられている。エンジン2の出力軸10のプーリと、モータ3の回転軸13のプーリには、ベルト15が巻き掛けられている。エンジン2とモータ3とは、ベルト15を介して相互に動力を伝達する。
【0015】
変速機5は、エンジン2及びモータ3を含む駆動源によって生成された動力を変速するようになっている。例えば、変速機5は、オートマチックトランスミッション、セミオートマチックトランスミッション、デュアルクラッチトランスミッション、又は、CVT(Continuously Variable Transmission)などによって構成される。
【0016】
車両1は、アクセル操作を行うアクセルペダル8と、このアクセルペダル8の踏込み量を検出するアクセルセンサ8Aとを備えている。車両1は、ブレーキ操作を行うブレーキペダル9と、このブレーキペダル9の踏込み量を検出するブレーキセンサ9Aとを備えている。
【0017】
制御部25は、いわゆるECU(Electronic Control Unit)であり、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、フラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートと、ネットワークモジュールとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0018】
ネットワークモジュールは、図示しない他のECU(Electronic Control Unit)と、CAN(Controller Area Network)又はフレックスレイ等の規格に準拠した図示しない車内LAN(Local Area Network)を介して通信を行うことができるようになっている。
【0019】
制御部25のROMには、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御部25として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、制御部25において、CPUがROMに格納されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、制御部25として機能する。
【0020】
制御部25の入力ポートには、エンジン2の出力軸10の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ20、アクセルセンサ8A、ブレーキセンサ9Aなどの各種センサ類が接続されている。また、制御部25の出力ポートには、エンジン2およびモータ3を制御するための各種制御対象類が接続されている。制御部25は、入力ポートに接続された各種センサ類から得られた情報に基づいて、出力ポートに接続された各種制御対象類を制御するようになっている。
【0021】
また、制御部25の入力ポートには、モータ3の回転軸13の回転速度を検出するモータ回転速度センサ21などの各種センサ類が接続されている。また、制御部25の出力ポートには、モータ3を制御するための各種制御対象類に加えて、図示しないインストルメントパネルなどの表示装置及びスピーカなどの音声出力装置などが接続されている。
【0022】
制御部25は、入力ポートに接続された各種センサ類から得られた情報に基づいて、出力ポートに接続された各種制御対象類を制御するようになっている。
【0023】
本実施例において、制御部25は、ベルト15に異常が発生したことを検出する制御部25を構成する。具体的には、制御部25は、エンジン2の出力軸10の回転速度とモータ3の回転軸13の回転速度との関係が所定の条件を満たした場合に、ベルト15に異常が発生したことを検出するようになっている。
【0024】
より詳細には、制御部25は、エンジン回転速度センサ20によって検出され、制御部25によって送信された情報が表すエンジン2の出力軸10の回転速度と、モータ回転速度センサ21によって検出されたモータ3の回転軸13の回転速度との関係が所定の条件を満たした場合に、ベルト15に異常が発生したことを検出するようになっている。
【0025】
本実施例では、制御部25は、エンジン2とモータ3とを含む駆動源に対して制御を行う複数の機能を有している。複数の機能には、EV走行機能、EVアイドル機能、自動停止機能、アシスト機能、回生機能および通常発電機能が含まれる。
【0026】
EV走行機能は、エンジン2を自動停止させた状態でモータ3の出力(駆動トルク)のみで車両1を走行させる機能である。このEV走行機能が許可(実施)された状態では、エンジン2が燃料を消費しないことによる燃費向上等の効果を得ることができる。
【0027】
EVアイドル機能は、減速走行時などの車両が非駆動状態での走行中に、エンジンの燃料噴射を停止し、エンジン回転速度をモータ3の出力によってアイドル回転速度に維持する機能である。EVアイドル機能の実行により、車両の非駆動状態での燃料噴射を抑え、かつ、エンジン回転速度をアイドル回転速度に維持する維持するため、エンジン停止状態からの始動と比較して、再始動に要する電力量が少なく、エンジンが駆動力を発生し始めるまでの時間も短縮できる。
【0028】
自動停止機能は、停車中など車両1の非駆動状態においてエンジン2を自動で停止状態とする機能である。この自動停止機能が許可(実施)された状態では、燃料使用量を削減できる。なお、モータ3は、エンジン2の自動停止後、エンジン2を再始動するための駆動力を発生する。
【0029】
アシスト機能は、主にエンジン2のエンジントルクによって車両1が走行しているときに、モータ3のモータトルクをエンジントルクに追加して車両の総トルクを得る機能である。アシスト機能の実行により、ドライバの要求する出力に対してエンジンの出力を抑制し、使用する燃料を少なくすることができる。なお、抑制したエンジントルクはモータトルクにより代替されるため、アシスト機能を実行していないときと総トルクは同等となる。
【0030】
回生機能は、車両1の減速時にモータ3が発電を行って発電トルクによって車両1を減速(制動)させ、車両1の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリ4に蓄電する機能である。
【0031】
通常発電機能は、エンジン2が燃料を使用して運転している状態で、エンジン2の出力を用いてモータ3で発電し、電気負荷7に必要な電力をバッテリ4に確保する機能である。
【0032】
本実施例において、制御部25は、エンジン2の出力軸10の回転速度と、モータ3の回転軸13の回転速度との関係として、モータ3の回転軸13の回転速度Nmをエンジン2の出力軸10の回転速度Neで除したスリップ率Rを算出するようになっている。
【0033】
制御部25は、スリップ率R=|Ne-B×Nm|/Neの数式に基づき、ベルト15のスリップ率Rを算出する。Bはベルト15の減速比である。
【0034】
ここで、スリップ率Rは、ベルト15に発生するスリップ(以下、ベルトスリップともいう)を定量的に示す値であり、本発明におけるスリップ状態量に相当する。なお、制御部25は、スリップ率Rに代えてスリップ量を算出して用いる構成としてもよい。スリップ量は、|Ne-B×Nm|の数式から求めることができる値である。
【0035】
本実施例では、制御部25は、前述の複数の機能が全て許可(実行)されている状態で、次に説明する禁止機能決定動作を実行することにより、複数の機能のうち禁止(停止)する機能を決定する。禁止機能決定動作は、ベルト15のスリップ率Rに応じて、禁止(停止)する機能を決定する動作である。
【0036】
以上のように構成された車両1の禁止機能決定動作について図2を参照して説明する。なお、以下に説明する禁止機能決定動作は、所定の時間間隔で定期的にスタートする。また、初期状態では、スリップ率Rが10%未満であり、EV走行機能、EVアイドル機能、自動停止機能、アシスト機能、回生機能および通常発電機能は、全て許可(実行)されているものとする。
【0037】
まず、ステップS1で、制御部25は、エンジン2の出力軸10の回転速度Neと、モータ3の回転軸13の回転速度Nmとを、エンジン回転速度センサ20とモータ回転速度センサ21とで、それぞれ検出する。そして、制御部25は、ベルト15のスリップ率Rを算出する。
【0038】
次いで、制御部25は、ステップS2で、スリップ率Rが10%以上であるか否かを判断する。このスリップ率Rの10%は、EV走行を禁止するスリップ率閾値である。スリップ率閾値は本発明におけるスリップ状態量閾値に相当する。制御部25は、スリップ率Rが10%未満の場合は今回の禁止機能決定動作を終了し、スリップ率Rが10%以上の場合はステップS3に進む。
【0039】
ステップS3で、制御部25はEV走行を禁止する。ここで、EV走行は、アクセルセンサ8A等の検出信号から算出される目標駆動力となるようモータ3を駆動することをいう。スリップが発生した場合には、モータ3が伝達する駆動力が低くなる。そのため、ドライバが想定する駆動力に対して実際の車両1の駆動力が不足し、ドライバビリティが低下する。
【0040】
そこで、本実施例では、スリップが発生した場合に、最も低いスリップ率閾値(10%)でEV走行を禁止することにより、駆動力不足を防止でき、ドライバビリティを確保できる。
【0041】
次いで、ステップS4で、制御部25はスリップ率Rが15%以上であるか否かを判断する。このスリップ率Rの15%は、EVアイドル機能、自動停止機能を禁止するスリップ率閾値である。制御部25は、スリップ率Rが15%未満の場合は、ステップS10の実施後に今回の禁止機能決定動作を終了し、スリップ率Rが15%以上の場合はステップS5に進む。
【0042】
ステップS5で、制御部25はEVアイドル機能、自動停止機能を禁止し、アシスト機能のトルク最大値を制限する。
【0043】
ここで、EVアイドル機能は、減速走行時等にモータ3の駆動によってエンジン回転速度をアイドル回転速度に維持する機能である。また、自動停止機能は、自動停止後の再始動時に、ESGの駆動によってエンジン回転速度をアイドル回転速度まで上昇させる機能である。
【0044】
そのため、両機能とも、モータ3を駆動させ、アイドル回転速度を目標としてエンジン回転速度を制御するため、スリップ率Rが増えると、エンジン2の始動に要する時間が長くなる。
【0045】
詳しくは、EVアイドル機能においては、スリップによりエンジン回転速度をアイドル回転速度に維持することができず、ドライバがアクセルペダル8を踏んだことに応じてエンジン2を再始動する際に、エンジン回転速度がアイドル回転速度より低いので、エンジン2を短時間で速やかに始動できないという事情がある。
【0046】
また、スリップ率Rが大きい状態では、自動停止機能によるエンジン2の停止からの再始動時に、エンジン回転速度がアイドル回転速度に上昇するまでの時間が長くなり、再始動に時間を要する時間が長くなるという事情がある。
【0047】
これらの事情により、ドライバが意図するタイミングでエンジン2を始動して駆動力を発生することができないため、ドライバビリティが低下することがある。
【0048】
このような理由から、本実施例において、制御部25は、第2の閾値(15%)で両機能を禁止する。また、両機能は、燃費向上効果が大きいため、スリップ率Rが10%から15%の範囲では、制御部25は、それらの機能を維持し、燃費の低下を抑制する。
【0049】
また、ベルト15の劣化の進行を抑制するため、制御部25は、アシスト機能の実行中のモータ3のトルクの最大値を制限する。エンジン2のトルクと比較してモータ3のトルクが小さいため、アシスト機能においては、ベルトスリップが発生していてもエンジン2のトルクで車両1の駆動力を概ね調整できる。
【0050】
また、アシスト機能は、再始動処理を含んでないため、ドライバが意図するタイミングで動力を発生することが可能である。しかし、駆動トルクが大きい場合はベルト15の劣化が進行するため、制御部25は、モータ3のトルクの最大値を制限し、ベルト15の劣化の進行を抑制している。
【0051】
次いで、ステップS6で、制御部25はスリップ率Rが20%以上であるか否かを判断する。このスリップ率Rの20%は、アシスト機能を禁止するスリップ率閾値である。制御部25は、スリップ率Rが20%未満の場合は、今回の禁止機能決定動作を終了し、スリップ率Rが20%以上の場合はステップS7に進む。
【0052】
ステップS7で、制御部25はアシスト機能を禁止する。これは、スリップ率Rが20%以上に大きくなった状態では、ベルト15の動力伝達効率が低下してアシスト機能による燃費改善率が悪化するため、スリップ率Rが20%以上では、アシスト機能を禁止しても、燃費を大きく低下させることがなく、かつ、ベルト15の劣化の進行を抑制できるからである。
【0053】
制御部25は、回生機能におけるトルク最大値を制限する。これは、バッテリ4の充電状態が低下すると電気負荷7に電力を十分に供給できず、電気負荷7の機能が停止するおそれがあるので、電気負荷7の機能停止を防止するためである。回生機能の許可およびトルク最大値の制限は、アシスト機能を禁止する閾値よりも高い閾値(25%)まで継続される。
【0054】
次いで、制御部25は、ステップS8で、スリップ率Rが25%以上であるか否かを判断する。このスリップ率Rの25%は、回生機能を禁止するスリップ率閾値である。制御部25は、スリップ率Rが25%未満の場合は、今回の禁止機能決定動作を終了し、スリップ率Rが25%以上の場合はステップS9に進む。
【0055】
次いで、制御部25は、ステップS9で、回生機能を禁止し、今回の禁止機能決定動作を終了する。ただし、通常発電機能は禁止せず継続する。
【0056】
このように、充電量を確保するため、スリップ率Rが、最も大きい閾値である25%になるまでは回生機能を禁止しない。そして、スリップ率Rが25%まで大きくなった場合は、ベルト15の更なる劣化を防止するために回生機能を禁止する。また、制御部25は、回生機能を禁止した場合であっても通常発電機能は継続(許可を継続)する。これにより、バッテリ4の電力不足を防止できる。
【0057】
制御部25は、ステップS10で、EVアイドル機能の実行中、自動停止機能からの再始動時およびアシスト機能の実行中に、モータ3の駆動トルク(図中、ISG駆動トルクと記す)を補正する。ここでは、制御部25は、図3に示す補正マップを用いて補正係数Kを決定し、この補正係数Kを補正前の駆動トルクに乗算することにより、補正後の駆動トルクを決定する。
【0058】
図3に示す補正マップにおいて、スリップ率Rが大きくなるほど補正係数Kが大きくなるように設定されている。これにより、スリップの発生によるトルク伝導率の低下を相殺でき、車両1の走行トルクが低下することを抑制できる。また、制御部25は、回生トルクは補正しないので、ドライバが想定した以上の車両1の減速が発生することを防止でき、ドライバビリティを確保できる。
【0059】
以上説明したように、本実施例では、制御部25は、EV走行機能を禁止するスリップ率閾値(10%)を、回生機能を禁止するスリップ率閾値(25%)より低く設定している。
【0060】
これにより、EV走行中にベルトスリップが発生した場合には車両1駆動力が低下することに対応し、低いベルトスリップ率RでEV走行機能を禁止することができる。
【0061】
また、ベルトスリップが発生していても、バッテリ4の充電量を維持するため、EV走行を禁止するスリップ率閾値よりも高いスリップ率Rになるまで回生機能を維持(許可)することができる。この結果、バッテリ4の充電量を維持でき、かつ、ドライバビリティを確保できる。
【0062】
また、本実施例では、制御部25は、回生機能を禁止した場合であっても通常発電機能は許可する。
【0063】
これにより、スリップ率Rが上昇した際は、ベルト15の更なる劣化を防止するために回生機能は禁止するが、通常発電はバッテリ4の充電量を維持(許可)するので、バッテリ4の充電量を維持でき、かつ、ドライバビリティを確保できる。
【0064】
また、本実施例では、制御部25は、自動停止機能を禁止するスリップ率閾値(15%)を、EV走行機能を禁止するスリップ率閾値(10%)よりも高く設定している。
【0065】
これにより、ベルトスリップが発生している状態において、自動停止機能を実施した場合に、通常よりもエンジン2の再始動に要する時間が長くなることを防止できる。このため、エンジン2の駆動力の発生開始のタイミングがドライバの意図するタイミングよりも遅れることを防止できる。
【0066】
また、EV走行時のベルトスリップによる駆動力不足が生じることと比較して、ドライバビリティへの影響は少ないため、EV走行機能を禁止するスリップ率Rより高いスリップ率Rで自動停止機能を禁止することで、燃費の低下を抑制できる。この結果、燃費性能の低下を抑制でき、かつ、ドライバビリティを確保できる。
【0067】
また、本実施例では、制御部25は、アシスト機能を禁止するスリップ率閾値(20%)を、EV走行機能を禁止するスリップ率閾値(10%)よりも高く、かつ、回生機能を禁止するスリップ率閾値(25%)よりも低く設定している。
【0068】
これにより、アシスト機能は回生機能のようにバッテリ4の充電をする機能ではないため、回生機能を禁止するスリップ率Rよりも低いスリップ率Rでアシスト機能を禁止するようにスリップ率閾値を設定することにより、ベルト15の劣化の進行を抑制できる。
【0069】
また、アシスト機能においては、ベルトスリップの発生によりモータ3からエンジン2に伝達される駆動力が不足している場合であっても、エンジン2によって駆動力を補うことができる。このため、EV走行機能のようにベルトスリップ時に駆動力不足は生じることがない。そのため、EV走行機能よりも高いスリップ率Rでアシスト機能を禁止するようにスリップ率閾値を設定したことで、燃費の低下を抑制できる。この結果、燃費性能の低下を抑制でき、かつ、ドライバビリティを確保できる。
【0070】
また、本実施例では、制御部25は、スリップ率Rが、EV走行機能を禁止するスリップ率閾値(10%)以上となった場合は、スリップ率Rに基づいてモータ3の出力(駆動トルク)を補正する。
【0071】
これにより、EV走行機能を禁止した場合はスリップ率Rに基づいてモータ3の出力を補正し、例えばスリップにより損失する動力伝達を相殺するようにモータ3に適正な出力を発生させることができる。このため、ドライバビリティをより多く確保できる。
【0072】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0073】
1 車両(ハイブリッド車両)
2 エンジン
3 モータ
10 出力軸
13 回転軸
15 ベルト
25 制御部
図1
図2
図3