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特許7433591ボールネジのネジ溝の表面性状測定方法および表面性状測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ボールネジのネジ溝の表面性状測定方法および表面性状測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/28 20060101AFI20240213BHJP
   G01B 5/20 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G01B5/28 102
G01B5/20 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020205701
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092789
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501292142
【氏名又は名称】株式会社小坂研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松島 秀信
(72)【発明者】
【氏名】伊東 隼人
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-152402(JP,A)
【文献】特開2016-61631(JP,A)
【文献】特開昭52-42756(JP,A)
【文献】特開2015-42953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00 - 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタイラスと、ボールネジのネジ軸またはナットを保持するようにされた保持部と、前記スタイラスと前記保持部とを相対的に移動させるようにされた移動機構部と、を備える表面性状測定装置によって前記ネジ軸またはナットに螺旋状に形成されたネジ溝の表面性状を測定する方法であって、
前記保持部に保持されたネジ軸またはナットの中心長手軸線に沿った縦断面上での前記ネジ溝の溝底に対する前記中心長手軸線の方向での一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第1長手接触位置として取得するステップと、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線に垂直な方向での位置と同じ垂直位置で、前記溝底に対して前記一方の側とは反対の他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
前記他方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第2長手接触位置として取得するステップと、
前記第1長手接触位置と前記第2長手接触位置との中点位置を求めるステップと、
前記中点位置を基準として、前記スタイラスによって表面性状を測定する前記ネジ溝の前記縦断面上での測定位置を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記測定位置を決定するステップが、前記中点位置から前記一方の側または前記他方の側に所定のオフセット距離だけ離れたオフセット長手位置において前記スタイラスを前記中心長手軸線に垂直な方向で前記ネジ溝に向かって移動させたときに前記スタイラスが前記ネジ溝に接触する位置を測定開始位置とするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定開始位置で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させた状態で、前記保持部を前記中心長手軸線の周りで回転させながら前記スタイラスを前記中心長手軸線の方向に移動させることにより前記スタイラスを前記ネジ溝に沿って移動させて、前記ネジ溝の表面性状を前記ネジ溝に沿って測定するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、
前記ネジ溝の前記一方の側で前記ネジ軸の外周面または前記ナットの内周面に前記スタイラスを接触させるステップと、
前記外周面または前記内周面に前記スタイラスを接触させた状態で前記スタイラスを前記他方の側に向かって移動させて、前記ネジ溝の前記一方の側での第1エッジにおいて前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
を含み、
前記他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、
前記ネジ溝の前記他方の側で前記ネジ軸の外周面または前記ナットの内周面に前記スタイラスを接触させるステップと、
前記外周面または前記内周面に前記スタイラスを接触させた状態で前記スタイラスを前記一方の側に向かって移動させて、前記ネジ溝の前記他方の側での第2エッジにおいて前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
を含み、
前記第1長手接触位置は前記スタイラスが前記第1エッジに接触したときの位置であり、前記第2長手接触位置は前記スタイラスが前記第2エッジに接触したときの位置である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、前記ネジ溝の前記溝底と前記ネジ溝の前記一方の側での第1エッジとの間の任意の中間位置において、前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップを含み、
前記他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、前記スタイラスを前記中間位置に接触した状態から前記中心長手軸線と平行に前記他方の側に向かって移動させて、前記溝底よりも前記他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップを含む、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ボールネジのネジ軸またはナットに螺旋状に形成されたネジ溝の表面性状を測定するようにされた表面性状測定装置であって、
スタイラスと、
ボールネジのネジ軸またはナットを保持するようにされた保持部と、
前記スタイラスと前記保持部とを相対的に移動させるようにされた移動機構部と、
前記移動機構部を制御して前記スタイラスを前記保持部に保持された前記ネジ軸またはナットのネジ溝に沿って移動させながら、前記スタイラスの変位を検出して前記ネジ溝の表面性状の測定を行うようにする制御部と、
を備え、
前記制御部が、
前記ネジ軸またはナットの中心長手軸線に沿った縦断面上での前記ネジ溝の溝底に対する前記中心長手軸線の方向での一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるように前記移動機構部を制御し、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第1長手接触位置として取得し、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線に垂直な方向での位置と同じ垂直位置で、前記溝底に対して前記一方の側とは反対の他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるように前記移動機構部を制御し、
前記他方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第2長手接触位置として取得し、
前記第1長手接触位置と前記第2長手接触位置との中点位置を求めて、前記中点位置を基準として前記スタイラスによって表面性状を測定する前記ネジ溝の前記縦断面上での測定位置を決定する、
ようにされた、表面性状測定装置。
【請求項7】
前記移動機構部が、前記保持部に保持された前記ネジ軸またはナットが前記中心長手軸線の周りで回転するように前記保持部を回転駆動する回転機構部と、前記スタイラスを少なくとも前記中心長手軸線の方向と前記中心長手軸線に垂直な方向とに移動させるようにされたスタイラス移動機構部と、を備え、
前記制御部が、
前記中点位置から前記一方の側または前記他方の側に所定のオフセット距離だけ離れたオフセット長手位置において前記スタイラスを前記中心長手軸線に垂直な方向で移動させて前記ネジ溝に接触させるように前記スタイラス移動機構部を制御し、
前記保持部を回転駆動しながら前記スタイラスを前記中心長手軸線に沿って移動させて前記スタイラスを前記ネジ溝に沿って移動させるように前記回転機構部と前記スタイラス移動機構部とを制御して、前記ネジ溝の表面性状を前記ネジ溝に沿って測定する、
ようにされた、請求項6に記載の表面性状測定装置。
【請求項8】
前記スタイラスの先端部分が、前記ネジ溝の前記測定位置に接触したときに前記ネジ溝の前記測定位置の表面に対して略垂直な方向となるように延びるようにされた、請求項6または7に記載の表面性状測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールネジのネジ軸およびナットに螺旋状に形成されたネジ溝の表面性状を測定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主に円柱状又は円筒状の部材の外周面や内周面の真円度や表面粗さなどの表面性状を測定するようにした表面性状測定装置が知られている(特許文献1)。このような表面性状測定装置は真円度測定装置とも呼ばれる。表面性状測定装置を使用してボールネジのネジ軸およびナットに螺旋状に形成されたネジ溝の表面性状を測定しようとする試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-45312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ネジ溝は、その中を転がるボールがネジ溝に対して所定の角度位置で接触するように形状付けられており、例えばゴシックアーチ形状と呼ばれるような、溝底がやや尖った形状になっていることが多い。また、溝底に小さな溝がさらに形成されていることもある。このようなネジ溝の表面性状を測定する場合には、ボールが接触する位置で測定をすることが要求される。
【0005】
ボールが接触するネジ溝内での位置は、通常、ネジ溝の溝底の中心位置を基準とした位置として設定されている。そのため、表面性状測定装置のスタイラスをボールが接触する位置に正確に接触させるためには、ネジ溝の溝底の中心位置をまず正確に特定する必要がある。しかしながら、上述のようにネジ溝は溝底がやや尖った形状であったり小さな溝がさらに形成された複雑な形状であったりする場合があり、そのような場合にはスタイラスが溝底の最深部にまで適切に届かず、正確に溝底の中心位置を特定できないことがある。レーザー等を利用した非接触式の測定装置を利用すればそのような問題が解決される場合もあるが、一般に非接触式の測定装置は値段が高いという問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、ネジ溝の溝底にスタイラスを直接接触させることなく溝底の中心位置を特定して、その中心位置を基準とした所望の位置での溝底の表面性状の測定を行うことができるようにした表面性状測定方法、およびそのような測定を可能とする接触式の表面性状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
スタイラスと、ボールネジのネジ軸またはナットを保持するようにされた保持部と、前記スタイラスと前記保持部とを相対的に移動させるようにされた移動機構部と、を備える表面性状測定装置によって前記ネジ軸またはナットに螺旋状に形成されたネジ溝の表面性状を測定する方法であって、
前記保持部に保持されたネジ軸またはナットの中心長手軸線に沿った縦断面上での前記ネジ溝の溝底に対する前記中心長手軸線の方向での一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第1長手接触位置として取得するステップと、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線に垂直な方向での位置と同じ垂直位置で、前記溝底に対して前記一方の側とは反対の他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
前記他方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第2長手接触位置として取得するステップと、
前記第1長手接触位置と前記第2長手接触位置との中点位置を求めるステップと、
前記中点位置を基準として、前記スタイラスによって表面性状を測定する前記ネジ溝の前記縦断面上での測定位置を決定するステップと、
を含む、方法を提供する。
【0008】
当該方法においては、同一な垂直位置におけるネジ溝の溝底に対する一方の側と他方の側での位置(第1長手接触位置と第2長手接触位置)を取得してその中点位置を求めるようにしている。この中点位置はネジ溝の溝底の中心位置に対応する位置となるため、当該方法においてはネジ溝の溝底をスタイラスで直接接触することなく、溝底の中心位置を特定することが可能となる。
【0009】
また、前記測定位置を決定するステップが、前記中点位置から前記一方の側または前記他方の側に所定のオフセット距離だけ離れたオフセット長手位置において前記スタイラスを前記中心長手軸線に垂直な方向で前記ネジ溝に向かって移動させたときに前記スタイラスが前記ネジ溝に接触する位置を測定開始位置とするステップを含むようにすることができる。
【0010】
オフセット距離をボールがネジ溝に接触する設計上での位置に対応するものとすることにより、ボールが接触する位置での表面性状測定を行うことが可能となる。
【0011】
また、前記測定開始位置で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させた状態で、前記保持部を前記中心長手軸線の周りで回転させながら前記スタイラスを前記中心長手軸線の方向に移動させることにより前記スタイラスを前記ネジ溝に沿って移動させて、前記ネジ溝の表面性状を前記ネジ溝に沿って測定するステップをさらに含むようにすることができる。
【0012】
さらに、
前記一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、
前記ネジ溝の前記一方の側で前記ネジ軸の外周面または前記ナットの内周面に前記スタイラスを接触させるステップと、
前記外周面または前記内周面に前記スタイラスを接触させた状態で前記スタイラスを前記他方の側に向かって移動させて、前記ネジ溝の前記一方の側での第1エッジにおいて前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
を含み、
前記他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、
前記ネジ溝の前記他方の側で前記ネジ軸の外周面または前記ナットの内周面に前記スタイラスを接触させるステップと、
前記外周面または前記内周面に前記スタイラスを接触させた状態で前記スタイラスを前記一方の側に向かって移動させて、前記ネジ溝の前記他方の側での第2エッジにおいて前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップと、
を含み、
前記第1長手接触位置は前記スタイラスが前記第1エッジに接触したときの位置であり、前記第2長手接触位置は前記スタイラスが前記第2エッジに接触したときの位置であるようにすることができる。
【0013】
または、
前記一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、前記ネジ溝の前記溝底と前記ネジ溝の前記一方の側での第1エッジとの間の任意の中間位置において、前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップを含み、
前記他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップが、前記スタイラスを前記中間位置に接触した状態から前記中心長手軸線と平行に前記他方の側に向かって移動させて、前記溝底よりも前記他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるステップを含むようにすることができる。
【0014】
本発明はさらに、
ボールネジのネジ軸またはナットに螺旋状に形成されたネジ溝の表面性状を測定するようにされた表面性状測定装置であって、
スタイラスと、
ボールネジのネジ軸またはナットを保持するようにされた保持部と、
前記スタイラスと前記保持部とを相対的に移動させるようにされた移動機構部と、
前記移動機構部を制御して前記スタイラスを前記保持部に保持された前記ネジ軸またはナットのネジ溝に沿って移動させながら、前記スタイラスの変位を検出して前記ネジ溝の表面性状の測定を行うようにする制御部と、
を備え、
前記制御部が、
前記ネジ軸またはナットの中心長手軸線に沿った縦断面上での前記ネジ溝の溝底に対する前記中心長手軸線の方向での一方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるように前記移動機構部を制御し、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第1長手接触位置として取得し、
前記一方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線に垂直な方向での位置と同じ垂直位置で、前記溝底に対して前記一方の側とは反対の他方の側で前記スタイラスを前記ネジ溝に接触させるように前記移動機構部を制御し、
前記他方の側で前記スタイラスが前記ネジ溝に接触したときの前記保持部に対する前記スタイラスの前記中心長手軸線の方向での位置を第2長手接触位置として取得し、
前記第1長手接触位置と前記第2長手接触位置との中点位置を求めて、前記中点位置を基準として前記スタイラスによって表面性状を測定する前記ネジ溝の前記縦断面上での測定位置を決定する、
ようにされた、表面性状測定装置を提供する。
【0015】
この表面性状測定装置においては、
前記移動機構部が、前記保持部に保持された前記ネジ軸またはナットが前記中心長手軸線の周りで回転するように前記保持部を回転駆動する回転機構部と、前記スタイラスを少なくとも前記中心長手軸線の方向と前記中心長手軸線に垂直な方向とに移動させるようにされたスタイラス移動機構部と、を備え、
前記制御部が、
前記中点位置から前記一方の側または前記他方の側に所定のオフセット距離だけ離れたオフセット長手位置において前記スタイラスを前記中心長手軸線に垂直な方向で移動させて前記ネジ溝に接触させるように前記スタイラス移動機構部を制御し、
前記保持部を回転駆動しながら前記スタイラスを前記中心長手軸線に沿って移動させて前記スタイラスを前記ネジ溝に沿って移動させるように前記回転機構部と前記スタイラス移動機構部とを制御して、前記ネジ溝の表面性状を前記ネジ溝に沿って測定する、
ようにすることができる。
【0016】
また、前記スタイラスの先端部分が、前記ネジ溝の前記測定位置に接触したときに前記ネジ溝の前記測定位置の表面に対して略垂直な方向となるように延びるようにすることができる。
【0017】
以下、本発明に係る表面性状測定装置、および該表面性状測定装置を使用したボールネジのネジ軸およびナットに螺旋状に形成されたネジ溝の表面性状測定方法の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る表面性状測定装置の外観図である。
図2】ボールネジのネジ軸の縦断面における、ネジ溝の拡大図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る表面性状測定方法を示す第1の図である。
図3B】本発明の一実施形態に係る表面性状測定方法を示す第2の図である。
図3C】本発明の一実施形態に係る表面性状測定方法を示す第3の図である。
図3D】本発明の一実施形態に係る表面性状測定方法を示す第4の図である。
図3E】本発明の一実施形態に係る表面性状測定方法を示す第5の図である。
図3F】本発明の一実施形態に係る表面性状測定方法を示す第6の図である。
図4A】本発明の別の実施形態に係る表面性状測定方法を示す第1の図である。
図4B】本発明の別の実施形態に係る表面性状測定方法を示す第2の図である。
図5】本発明の別の実施形態に係る表面性状測定装置のスタイラスを示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る表面性状測定装置によってボールネジのナットを測定している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る表面性状測定装置1は、図1に示すように、装置本体部2と、被測定物となるボールネジのネジ軸10またはナット20(図6)を保持する回転ステージ(保持部)3と、スタイラス4を備えた測定ユニット5と、を備える。図示の例では、回転ステージ3にはネジ軸10が保持されているが、ナット20を保持することもできる。表面性状測定装置1は、測定ユニット5のスタイラス4と回転ステージ3とを相対的に移動させるための移動機構部として、回転ステージ3を回転させる回転機構部6と、スタイラス4を3軸方向に直線移動させる直動機構部(スタイラス移動機構部)7とをさらに備える。装置本体部2内には、測定ユニット5、回転機構部6、および直動機構部7を含む当該表面性状測定装置1が備える各種機器を制御するための制御部8が配置されている。
【0020】
当該実施形態において回転ステージ3上に保持されているネジ軸10は、中心長手軸線Lに沿って延びていて、その外周面12に螺旋状に形成されたネジ溝14を有する。ネジ溝14は、図2に示すように、そこに配置されるボール16よりも大きな曲率半径を有する下側の面14aおよび上側の面14bと、溝底14cに形成された小さな溝14dを有する。このネジ溝14は、溝底14cに対する中心角が40°の位置でボール16がネジ溝14に接触するように設計されている。
【0021】
当該表面性状測定装置1によって、ネジ軸10の外周面12に形成されたネジ溝14の表面性状を測定する際には、図3A図3Dに示すようにして、まずはネジ溝14の溝底14cの中心位置Cを特定する。
【0022】
具体的には、中心長手軸線Lの方向Dでネジ溝14よりも下側(一方の側)で、スタイラス4をネジ軸10の外周面12に接触させる(図3A)。制御部8は、直動機構部7を制御して、外周面12にスタイラス4を接触させた状態で、スタイラス4を中心長手軸線Lの方向Dでの上側(他方の側)に向かって移動させる。スタイラス4がネジ溝14の下側の第1エッジ14eに至るとスタイラス4が変位し、それを測定ユニット5が検知する(図3B)。制御部8は、スタイラス4の変位を検出したとき、すなわちスタイラス4がネジ溝14の第1エッジ14eにおいてネジ溝14に接触したときのスタイラス4の中心長手軸線Lの方向Dでの位置を第1長手接触位置Pとして取得し記憶する。次に制御部8は、直動機構部7を制御して、スタイラス4を一旦ネジ軸10から離し、ネジ溝14よりも上側でネジ軸10の外周面12に接触させる(図3C)。そして、外周面12にスタイラス4を接触させた状態で、スタイラス4を下側に向かって移動させる。スタイラス4がネジ溝14の上側の第2エッジ14fに至るとスタイラス4が変位し、それを測定ユニット5が検知する(図3D)。制御部8は、スタイラス4の変位を検出したとき、すなわちスタイラス4がネジ溝14の第2エッジ14fにおいてネジ溝14に接触したときのスタイラス4の中心長手軸線Lの方向Dでの位置を第2長手接触位置Pとして取得して記憶する。制御部8はさらに、第1長手接触位置Pと第2長手接触位置Pとの中点位置Mを求め、この中点位置Mが中心長手軸線Lの方向Dでのネジ溝14の溝底14cの中心位置Cであると判断する。当該表面性状測定装置1は、このようにして、スタイラス4をネジ溝14の溝底14cに直接接触させることなく、ネジ溝14の中心位置Cを特定する。
【0023】
制御部8はさらに、求めた中点位置M(中心位置C)を基準として、スタイラス4によって表面性状を測定するネジ溝14の縦断面上での測定位置を決定する。具体的には、中点位置Mから下側に所定のオフセット距離Oだけ離れたオフセット長手位置Qにまでスタイラス4を移動させ(図3E)、スタイラス4を中心長手軸線Lに垂直な方向Dでネジ溝14に向かって移動させてネジ溝14に接触させる(図3F)。このときにスタイラス4が接触した位置をネジ溝14の縦断面上での測定開始位置に決定する。なお、上述の所定のオフセット距離Oは、ネジ溝14の中心位置Cからボール16がネジ溝14に接触する設計上の位置までの中心長手軸線Lの方向Dでの距離である。よって測定開始位置はボール16が接触する位置となる。
【0024】
次に制御部8は、回転機構部6と直動機構部7とを同時に制御して、回転ステージ3を回転させてネジ軸10を中心長手軸線Lの周りで回転させながらスタイラス4を中心長手軸線Lに沿って移動させて、スタイラス4が螺旋状のネジ溝14に沿って移動するようにする。このときスタイラス4は、縦断面上でのネジ溝14の溝底14cに対する相対的位置を維持しながら、ボール16が接触する軌道上を移動していく。これにより、スタイラス4によってボール16が接触する軌道上の表面性状を測定することができる。表面性状測定は、所定の長さ、例えばネジ軸10の一周分の長さ、に亘って行われる。測定が完了すると、制御部8は測定したデータに基づいてネジ溝14の表面粗さ、真円度、うねりの周期性などの様々な表面性状を演算して求める。なお、溝底14cの下側での表面性状測定に続いて、中点位置Mから上側に所定のオフセット距離Oだけ離れた上側のオフセット長手位置Q図3F)におけるネジ溝14の表面性状測定を同様に行うようにしてもよい。
【0025】
別の実施形態においては、ネジ溝14の溝底14cの中心位置Cを特定するために、まずネジ溝14の溝底14cとネジ溝14の第1エッジ14eとの間の適当な任意の中間位置でスタイラス4をネジ溝14に接触させる(図4A)。制御部8は、このときのスタイラス4の中心長手軸線Lの方向Dでの位置を第1長手接触位置Pとして取得し記憶する。次に制御部8は、スタイラス4を第1長手接触位置Pにおいてネジ溝に接触している状態から中心長手軸線Lと平行に上側に向かって移動させて、第1長手接触位置Pと同じ垂直位置において溝底14cよりも上側でスタイラス4をネジ溝14に接触させる(図4B)。制御部8は、このときのスタイラス4の中心長手軸線Lの方向Dでの位置を第2長手接触位置Pとして取得し記憶する。制御部8はさらに、第1長手接触位置Pと第2長手接触位置Pとの中点位置Mを求め、この中点位置Mが中心長手軸線Lの方向Dでのネジ溝14の溝底14cの中心位置Cであると判断する。この後の表面性状を測定する方法および制御は、上記実施形態において図3E-3Fに基づいて説明したものと同様である。
【0026】
別の実施形態に係る表面性状測定装置においては、図5に示すように、スタイラス104の先端部分が中心長手軸線Lに対して傾いている。この傾きは、スタイラス104がネジ溝14の測定位置Rに接触したときにその表面に対して略垂直となるように設定されている。スタイラス104が測定する表面に対して垂直な方向で接触することにより、より正確な表面性状測定が可能となる。このような傾いたスタイラス104を用いる場合には、ネジ溝14の上側の測定位置Rにおける表面性状測定を行う際に、スタイラス104の向きを変えるか又は別のスタイラスに交換する必要がある。
【0027】
上記実施形態においてはボールネジのネジ溝14の外周面12に形成されたネジ溝14の表面性状測定について説明をしたが、図6に示すように、ボールネジのナット20の内周面22に形成されたネジ溝24の表面性状測定も同様に行うことができる。ナット20のネジ溝24の表面性状測定は、スタイラス4をナット20の内側に挿入した状態で行う。ネジ溝24の表面性状の測定方法は上記実施形態と同様である。
【0028】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、スタイラス移動機構部は、中心長手軸線の方向とそれに直交する方向の2方向にだけ移動するものとしてもよい。また、スタイラスとネジ軸またはナットを保持する保持部とを相対的に移動させるための移動機構部は、一方を固定して他方のみを3次元的に移動させるようなものとしてもよい。そのようなものとしては、例えば、三次元空間上を自在に動くロボットアームが考えられる。なお、上記実施形態の説明における「上」「下」などの方向を示す用語は、実施形態での説明を明確にするために用いたものであり、本発明の構成はこれらの方向に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0029】
1 表面性状測定装置
2 装置本体部
3 回転ステージ(保持部)
4 スタイラス
5 測定ユニット
6 回転機構部
7 直動機構部(スタイラス移動機構部)
8 制御部
10 ネジ軸
12 外周面
14 ネジ溝
14a 下側の面
14b 上側の面
14c 溝底
14d 溝
14e 第1エッジ
14f 第2エッジ
16 ボール
20 ナット
22 内周面
24 ネジ溝
104 スタイラス
C 中心位置
中心長手軸線Lに垂直な方向
中心長手軸線Lの方向
L 中心長手軸線
M 中点位置
O オフセット距離
第1長手接触位置
第2長手接触位置
オフセット長手位置
オフセット長手位置
測定位置
測定位置
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図5
図6