(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】水晶デバイスの製造法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20240213BHJP
H03H 9/19 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
H03H3/02 B
H03H9/19 C
(21)【出願番号】P 2022555910
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2022034326
(87)【国際公開番号】W WO2023042834
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2022-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2021152722
(32)【優先日】2021-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507407711
【氏名又は名称】株式会社ジェナジー
(73)【特許権者】
【識別番号】000146009
【氏名又は名称】株式会社昭和真空
(74)【代理人】
【識別番号】100169188
【氏名又は名称】寺岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】竹内 公彦
(72)【発明者】
【氏名】矢部 裕
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-37522(JP,U)
【文献】特開2005-136575(JP,A)
【文献】特開2020-25344(JP,A)
【文献】特開2013-236290(JP,A)
【文献】国際公開第2015/004755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルーセル式スパッタリング装置を用いて、
水晶振動片の表面から順に、下地層と金と第2の金属とを有する層と、
前記金と、前記第2の金属を有し、前記第2の金属を50体積%以上有する層と、
前記金と、前記第2の金属を有し、前記第2の金属を50体積%未満有する層と、
前記金を95体積%以上有する金属で成膜する層と、を有するように成膜する、
水晶デバイスの製造法。
【請求項2】
請求項1記載の水晶デバイスの製造法であって、
前記第2の金属は、銀層である、
水晶デバイスの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶デバイスの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶デバイスは、デジタルカメラ、スマートフォン、時計、パーソナルコンピュータ、テレビ、メディアプレーヤ等の多岐にわたる電子機器等に用いられている。水晶デバイスは、デジタル制御には欠かせない基準信号(クロック)を作り出す部品で、人間にたとえると「心臓」のやくわりをする重要な部品である。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周波数経時変化(エージング特性)が重要な特性になってきた中で、水晶振動片の電極は、銀電極から金電極が主流になってきている。しかしながら金は、材料代が高価であり、水晶デバイスのコストアップの要因となっていた。
【0005】
一つの改善策として、電極材料を金銀合金(たとえば、22金または20金等)にする技術も実用化されている。しかしながら、主力のスパッタリング装置で使用するターゲット材の装置等に付着した金等を回収し、精製する工程が、単一金属の場合に比べ、複雑であり、コストダウン効果が少ない。
【0006】
また、金銀合金ターゲットを用いて成膜した場合は、銀が金の中にまんべんなく分布するため、電極最表面にも銀成分が分布する。このため、水晶デバイスのパッケージ内に残留するアウトガスと反応して、金電極品と比較すると、エージング特性が悪化する原因となっている。
【0007】
そこで本発明の目的は、エージング特性を低下させずに、原材料費としての貴金属ターゲットのコストダウンを可能にする水晶デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の水晶デバイスの製造法は、カルーセル式スパッタリング装置を用いて、水晶振動片の表面から順に、下地層と金と第2の金属とを有する層と、金と、第2の金属を有し、第2の金属を50体積%以上有する層と、金と、第2の金属を有し、第2の金属を50体積%未満有する層と、金を95体積%以上有する金属で成膜する層と、を有するように成膜する。
【0009】
ここで、第2の金属は、銀層である、こととしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明ではエージング特性を低下させずに、原材料費としての貴金属のコストダウンを可能にする水晶デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】水晶振動片と、電極の配置を示し、(A)は水晶振動片の平面図であり、(B)は水晶振動片の正面図であり、(C)は水晶振動片の底面図である。
【
図2】本実施の形態の水晶デバイスの製造法に用いる、カルーセル式3源スパッタリング装置の平面図(上から見た図)であり、成膜室を示す図である。
【
図3】本実施の形態で成膜した、水晶デバイスの電極の縦断面模式図であり、一つの丸が金等の分子の大きさのものである、
図1では、水晶振動片の両面に電極が配置されるが、それを片面だけに省略した図である。
【
図4】変形例の実施の形態で成膜した、水晶デバイスの電極の縦断面模式図であり、一つの丸が金等の分子の大きさのものである、
図1では、水晶振動片の両面に電極が配置されるが、それを片面だけに省略した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本実施の形態の水晶デバイスの製造法)
以下、本の形態の水晶デバイスの製造法について、
図1と
図2に基づいて説明する。本実施の形態で用いる水晶デバイス1は、
図1に示すような水晶振動片12と、電極3A,3Bの配置となっている。
図1の(A)は水晶振動片12の平面図であり、
図1の(B)は水晶振動片12の正面図であり、
図1の(C)は水晶振動片12の底面図である。
【0013】
図1(A)の、電極3Aは、水晶振動片12の平面を電極3Aが大きく占めるように配置されている。電極3Bは、水晶振動片12の平面の右下端を小さく占めるように配置されている。
図1(B)は、
図1(A)から続くように電極3A,3Bが配置されている。
図1(C)は、
図1(B)から続くように水晶振動片12の底面を電極3Bが大きく占めるように配置されている。
【0014】
本実施の形態の水晶デバイス1の製造法は、
図2に示すカルーセル式3源スパッタリング装置10を用いる。カルーセル式3源スパッタリング装置10とは、水晶振動片(ワーク)12が数十~数百個セットされた基板13を公転回転させ、ワーク12に対向する3ヶ所の位置にスパッタリングターゲット14,16,18を配置し、スパッタリングを行うことで、連続的に異種金属を成膜できる装置である。
【0015】
このカルーセル式3源スパッタリング装置10の公転回転速度は、5~99rpmであり、矢印Mの方向に回転し、空移動時間が少なく、また、個々のスパッタリングターゲット14,16,18(クロムターゲット14、銀ターゲット16、金ターゲット18)の成膜パワーまたは、電源のON/OFFを制御することで、任意の膜組成を形成できる。
【0016】
たとえば、下地層であるクロムターゲット14を最初に成膜するときは、銀ターゲット16、金ターゲット18の電源をOFFにする。また、銀またはクロムの薄い成膜をするときは、成膜パワーを小さくする、および/または成膜時間を短くする。金の厚い成膜をするときは、成膜パワーを大きくする、および/または成膜時間を長くする。
【0017】
そして、カルーセル式3源スパッタリング装置10を用いて、水晶振動片12の表面に下地層であるクロム層を成膜し、下地層の表面に金を成膜し、その後銀と金を交互に積層成膜し、下地層から一番遠い表面層に金を成膜する。
【0018】
このように、各成膜を積層したものを
図3に示す。まず、カルーセル式3源スパッタリング装置10を用いて、水晶振動片(ワーク12)の表面から順に、下地層の構成要素であるクロム20と、金22と、銀24を有する層30を成膜する。次いで、金22と、銀24を有し、銀24を50体積%以上にした層32を成膜する。次いで、金22と、銀24を有し、銀24を50体積%未満にした層34を成膜する。次いで、金22を95体積%以上有する層36を成膜する。これで、水晶デバイス1が製造される。
【0019】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
本実施の形態によれば、エージング特性を低下させずに、貴金属ターゲットのコストダウンを可能にする水晶デバイス1を提供することができる。水晶デバイス1の電極は、金電極が、酸化しやすい材料(銀、鉄、クロム等)の含有が少ないこと等が、エージング特性を低下させないと言われている。その点、本実施の形態によれば、銀と金を交互に積層成膜していることから、金電極、が酸化しやすい材料の含有が少なく、エージング特性を低下させない。
【0020】
また、水晶デバイス1の電極を形成するのに、金/銀合金ターゲットが実用化されている。しかし、この合金ターゲットは、金重量が減る分のコストダウンは可能になるが、均一な合金組成に形成すること、故品または防着板等の貴金属を回収するのに金22と銀24の精製が必要であり、工数がかかり、コストダウン率は以外に劣る。この点でも本実施の形態の水晶デバイス1の電極を形成方法は、優位性がある。
【0021】
また、層30、層32,層34,層36をこの順に水晶振動片12の表面から積層することで、特に銀24の濃度を少しずつ変えることができ(層32,層34,層36)、各層の温度による体積変化を緩やかにし、膜応力等を抑制できる。
【0022】
また、本来、カルーセル式3源スパッタリング装置10の成膜速度は、いわゆるインターバック式のスパッタリングの成膜速度とほとんど変わらない。しかし、カルーセル式の多源スパッタリング装置10を用いると、いわゆるインターバック式のスパッタリングに比べ、たとえば数倍~数十倍の速度で成膜できる。いわゆるインターバック式のスパッタリングは、カルーセル式の多源スパッタリング装置10に比べ、空移動時間が増えてスパッタリング工程の生産性(装置能力)を悪化させる。
【0023】
言い換えると、いわゆるインターバック式のスパッタリング装置で本発明の積層成膜をする場合、水晶振動片12が数十~数百個セットされた基板13を1~2枚搬送治具に載せてターゲット間を往復移動させるが成膜は往路のみであり復路は、空移動になるため多源になればなるほど、また、積層が多くなるほどから空移動時間が増えてスパッタリング工程の生産性(装置能力)を悪化させる。
【0024】
しかし、カルーセル式スパッタリング装置10を用いると、基板13をたとえば8~12枚一定方向に回転させることで成膜できるため、ターゲットの種類がたとえば2源から3源、あるいは4源と増えても回転時間は変わらないためスパッタリング工程の生産性(装置能力)を悪化させることはない。
【0025】
なお、銀24、金22等の積層成膜の際に、膜厚方向の断面に銀24等が若干露出する。しかし、この程度の露出は、水晶デバイス1のエージング特性を殆ど低下させない。
【0026】
(他の形態)
上述した本実施の形態に係る水晶デバイス1の製造法は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0027】
たとえば、本実施の形態では、銀24と金22を積層成膜する等しているが、この銀24(第2の金属)に代えてチタン層、タングステン層、ニッケル等の1または2または3種を用いてもよい。
【0028】
また、そのためには、本実施の形態では、カルーセル式3源スパッタリング装置10を用いているが、カルーセル式4源スパッタリング装置等を用いて、他元素・多元素のスパッタリングターゲットを用いることとしても良い。
【0029】
本実施の形態では、カルーセル式スパッタリング装置10を用いて、水晶振動片の表面から順に、下地層と金と第2の金属とを有する層と、金と、第2の金属を有し、第2の金属を50体積%以上有する層と、金と、第2の金属を有し、第2の金属を50体積%未満有する層と、金を95体積%以上有する金属で成膜する層と、を有するように成膜する。
【0030】
(水晶デバイス1の変形例)
そして、水晶デバイス1の変形例の水晶デバイス40の各成膜を積層したものを
図4に示す。まず、カルーセル式3源スパッタリング装置10を用いて、板状の水晶42の表面から順に、下地層の構成要素であるクロム60と、金62と、銀66を有する層64を成膜する。次いで、金62と、銀66を有し、銀66を50体積%未満にした層68を成膜する。次いで、金62と、銀66を有し、銀24を疎にした層70を成膜する。次いで、金62と、銀66を有し、銀66を50体積%未満にした層72を成膜する。次いで、金62と、銀66を有し、銀66を50体積%未満にした層74を成膜する。次いで、金62と、銀66を有し、銀66を50体積%未満にした層76を成膜する。次いで、金62と、銀66を有し、銀66を50体積%未満にした層78を成膜する。次いで、金62と、銀66を有し、銀66を50体積%未満にした層80を成膜する。次いで、金62と、95体積%以上を有する層82を成膜する。これで、水晶デバイス40が製造される。
【0031】
(変形例の実施の形態によって得られる主な効果)
変形例の形態によれば、エージング特性を低下させずに、原材料費としての貴金属のコストダウンを可能にする水晶デバイス40を、水晶デバイス1と同様に提供することができる。水晶デバイス40の電極は、金電極が酸化しやすい材料(銀、鉄、クロム等)の含有が少ないこと等が、エージング特性を低下させないと言われているのは、水晶デバイス1と同様である。その点、変形例の実施の形態によれば、銀と金を交互に積層成膜していることから、水晶デバイス1と同様に、金電極が酸化しやすい材料の含有が少なく、エージング特性を低下させない。
【符号の説明】
【0032】
1,40 水晶デバイス
10 カルーセル式スパッタリング装置
12 水晶振動片(ワーク)
22,62 金
24,66 第2の金属(銀)
30,64 下地層
32,34,36,68,70,72,74,76,78,80,82 層