(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】透明液状化粧料用増粘剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/60 20060101AFI20240213BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240213BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20240213BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
A61K8/60
A61K8/02
A61K8/81
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2019234585
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 怜
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127464(JP,A)
【文献】特開2010-280597(JP,A)
【文献】特開2011-184386(JP,A)
【文献】特開2001-172395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/60
A61K 8/02
A61K 8/81
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分、
(A)カルボキシビニルポリマー、及び
(B)ポリオキシアルキレンアルキルグルコシド
から成り、
(A)と(B)の重量比、(A)/(B)が0.01~0.1である、
(A)と(B)を均一混合した、スラリー状透明液状化粧料用増粘剤
。
【請求項2】
成分(B)ポリオキシアルキレンアルキルグルコシドが、POP(10)メチルグルコシド、またはPOP(20)メチルグルコシドである
請求項1に記載の透明液状化粧料用増粘剤
。
【請求項3】
請求項1又は2記載の増粘剤と水の混合物をパルセーターで分散する工程を含む透明液状化粧料の製造方法
。
【請求項4】
成分(A)カルボキシビニルポリマーの含有量が0.15重量%以下である、請求項3記載の透明液状化粧料の製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に効率良く分散することができ、また経時的な粘度変化を抑制することのできる増粘剤、またその増粘剤を含有した透明液状化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧料において増粘剤は、剤形の安定性向上や感触改善のために用いられてきた。
【0003】
特に透明液状化粧料においては、とろみを付与することにより、高級感の演出や、コットン使用時における肌あたりの向上のために用いられてきたが、キサンタンガム等の多糖類系の増粘剤はべたつきを感じるなどの使用性に問題があり、ベントナイト等の粘土鉱物系の増粘剤はきしみを感じるなどの使用性に問題があった。
【0004】
一方で、カルボキシビニルポリマー等のポリアクリル酸系親水性合成高分子は、多糖類系や粘土鉱物系の増粘剤と比較して、べたつき感を感じにくく、さっぱりとした使用感であるため、化粧料において広く使用されてきたが、カルボキシビニルポリマーを、ホモミキサーを用いて分散させると、初期粘度がせん断力に依存するため、製造スケールによる粘度のブレが問題となる場合がある。この問題を解決するために、パルセーターを用いて分散させる方法があるが、水にカルボキシビニルポリマーを添加した際に生じる凝集物が短時間では消えないため、十分な分散に時間がかかり、非効率である。一方で、キサンタンガムに関しては、キサンタンガム表面にカリウム塩を結着させることで、キサンタンガムの水への分散性を向上させた技術が開示されているが(特許文献1)、カルボキシビニルポリマーの分散に関する技術については知られていない。また、カルボキシビニルポリマーにおいては、経時的な粘度低下が生じ、問題となることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水に効率よく分散させることができ、経時的な粘度安定性に優れた増粘剤、またその増粘剤を含有した透明液状化粧料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、次の成分、
(A)カルボキシビニルポリマー、及び
(B)ポリオキシアルキレンアルキルグルコシド
から成り、(A)/(B)が0.01~0.1であるスラリー状透明液状化粧料用増粘剤を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、上記増粘剤を含有し、成分(A)の含有量が0.15重量%以下である透明液状化粧料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスラリー状透明液状化粧料用増粘剤は、水に効率良く分散することができ、経時的な粘度変化を抑制できることに優れている。
【0010】
本発明における透明の定義については以下の通りとした。分光光度計UV-160A(島津製作所製)を用いて、可視領域の波長600nmにおける光の透過率を厚さ10mmの石英セルで測定し、透過率が90%以上のものを透明と定義した。ただし、ここでは水の透過率を100%と定義した。
【0011】
本発明における液状とは、25℃で流動性を有するものとする。
【0012】
本発明におけるスラリーとは、カルボキシビニルポリマーと液体とを混合した流動性を有する粘性流体と定義した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における成分(A)カルボキシビニルポリマーは、一般的に化粧料に用いられるものであれば良く、例えば市販品としてはカーボポール(CARBOPOL)940、941、980、981(いずれもB.F.Goodrich社製)、ハイビスワコー104、105(いずれも和光純薬工業社製)、NTC-CARBOMER380、381(いずれもTINCI社製)等が挙げられる。
【0014】
本発明における成分(B)ポリオキシアルキレンアルキルグルコシドとしては、例えば、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選択される1種または2種を、アルキルグルコシドに付加したものを使用することができ、その平均モル数としては、1~20モル程度が好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルグルコシドにおけるアルキル基としては、炭素数1~4のものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が好ましい例である。ポリオキシアルキレンアルキルグルコシドの好ましい具体例としては、ポリオキシエチレンメチルグルコシドやポリオキシプロピレンメチルグルコシドが挙げられ、より具体的には、POE(10)メチルグルコシド、POE(20)メチルグルコシド、POP(10)メチルグルコシド及びPOP(20)メチルグルコシド等が挙げられるが、中でもPOP(10)メチルグルコシドまたはPOP(20)メチルグルコシドが好ましい。
【0015】
本発明における成分(B)ポリオキシアルキレンアルキルグルコシドに対する成分(A)カルボキシビニルポリマーの比率(A)/(B)は、好ましくは0.01~0.1であり、より好ましくは0.02~0.07である。(A)/(B)が0.01未満であると、カルボキシビニルポリマーを分散しにくくなり、0.1を超えると、粘度が高くなり、スラリーを形成できないため好ましくない。
【0016】
本発明におけるスラリー状透明液状化粧料用増粘剤を用いて透明液状化粧料を調整する際は、増粘剤と水の混合物をパルセーターで分散する工程を含む。ホモミキサーを用いて分散を行うと、初期粘度のブレや経時的な粘度低下を引き起こすため好ましくない。
【0017】
本発明におけるスラリー状透明液状化粧料における成分(A)カルボキシビニルポリマーの含有量は、好ましくは0.15重量%以下であり、より好ましくは0.12重量%以下である。0.15重量%を超えると、中和後の粘度が高くなりすぎるため、その他の成分を混合しにくくなる場合がある。
【0018】
本発明のスラリー状透明液状化粧料用増粘剤を用いた透明液状化粧料は、上記成分(A)、(B)の他に、通常の化粧料に用いられる成分として、例えば水性成分、非イオン界面活性剤、アルカリ剤、紫外線吸収剤、防腐剤、キレート剤、香料、着色剤等を本発明の効果を損なわない範囲にて含有することができる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。尚、含有量は特記しない限りすべて重量%である。
【0020】
下記の表1に挙げたように、カルボキシビニルポリマーと保湿成分(POP(10)メチルグルコシド、POP(20)メチルグルコシド、POE(10)メチルグルコシド、グリセリン、1,3-ブチレングリコール)を混合し、水に分散した際の凝集物の様子を目視にて確認した。
【0021】
(製造方法)
カルボキシビニルポリマーと各保湿成分をビーカーに秤量し、撹拌棒を用いて1分間撹拌した。その後、混合物を水に添加し、パルセーターにて分散を行い、目視にて凝集物が消えるまでの時間を評価した。
【0022】
(評価方法)
分散の状態について、以下の基準にて示した。
◎:凝集物が30分未満で消えた。
○:凝集物が消えるまでの所要時間30分以上60分未満。
△:凝集物が消えるまでの所要時間60分以上90分未満。
×:90分以上経過しても凝集物は消えなかった。
【0023】
【表1】
※1 NTC-CARBOMER381(TINCI社製)
※2 マクビオブライドMG-10P(日油株式会社製)
※3 マクビオブライドMG-20P(日油株式会社製)
※4 マクビオブライドMG-10E(日油株式会社製)
【0024】
表1の実施例1~6に示したように、成分1/成分2の値が0.01~0.1であり、成分2としてPOP(10)メチルグルコシド、POP(20)メチルグルコシド、POE(10)メチルグルコシドを用いた場合は、満足する結果が得られた。一方で、比較例1~3に示したように、成分1/成分2の値が0.01未満であったり、0.1を超えた場合は、POP(10)メチルグルコシドを用いていても、満足する結果が得られなかった。さらに、グリセリン、1,3-ブチレングリコールを用いた場合も、満足する結果が得られなかった。
【0025】
下記のように調製を行った透明液状化粧料について、表2に挙げたように、凝集物が消えるまでの時間と、試料を50℃の恒温槽に1ヶ月間静置した場合の経時的な粘度変化について下記の条件で評価した。
【0026】
(製造方法)
実施例7:成分1、2を混合したものを成分3に加え、パルセーターにて30分間分散し、その後成分4、5を均一混合した。
実施例8:成分1、2を混合したものを成分3に加え、ホモミキサーにて30分間分散し、その後成分4、5を均一混合した。
実施例9:成分1のみを成分3に加え、ホモミキサーにて30分間分散し、その後成分2、4、5を均一混合した。
比較例6:成分1のみを成分3に加え、パルセーターにて30分間分散し、その後成分2、4、5を均一混合した。
【0027】
<粘度測定>
20℃恒温槽に12時間静置した試料について、VISCOMETER TVB-10(東機産業社製のB型粘度計)を用いて、測定開始から30秒後の値を粘度とした。
【0028】
<経時的な粘度変化>
調製翌日の粘度を初期粘度とし、『{(初期粘度―1ヶ月後の粘度)/(初期粘度)}×100=粘度変化率(%)』と定義し、粘度変化率の大きさで粘度変化の評価を行った。
【0029】
(評価方法)
「凝集物が消えるまでの時間」
表1の評価方法に同じ
【0030】
【0031】
表2の実施例7、8に示したように、成分1、2の混合物を成分3に添加した場合、分散方法に関係なく、成分1、2の混合物を効率良く分散させることができ、実施例9に示したように、成分1のみを成分3に添加した場合、ホモミキサーでは効率良く分散させることができた。中でも、実施例8、9に比べて実施例7では粘度変化率は小さく、経時的な粘度低下は抑えられた。一方で、比較例6に示したように、成分1のみを成分3に添加し、パルセーターにて分散を行った場合、凝集物が消えるまでの時間に関して満足する結果が得られなかった。
【0032】
次に、本発明のその他の実施例を示す。実施例10~12の透明液状化粧料は、いずれにおいても、同様の評価項目において満足する結果が得られた。
【0033】
(実施例10:透明液状化粧料1)
(成分) (重量%)
(1)カルボキシビニルポリマー※1 0.1
(2)POP(10)メチルグルコシド※2 3.0
(3)精製水 残 余
(4)エデト酸二ナトリウム 0.05
(5)1,2-ペンタンジオール 7.0
(6)1,3-ブチレングリコール 5.0
(7)エタノール 7.0
(8)PEG-40水添ヒマシ油 0.2
(9)香料 適 量
(10)パラヒドロキシ安息香酸メチル 適 量
(11)2-アミノー2-メチル-1,3-プロパンジオール 0.07
(製造方法)
成分(1)を成分(2)に混合し、それを成分(3)に加え、パルセーターにて30分間撹拌した。その後、成分(4)~(11)を均一混合することにより透明液状化粧料1を得た。
【0034】
(実施例11:透明液状化粧料2)
(成分) (重量%)
(1)カルボキシビニルポリマー※1 0.12
(2)POP(10)メチルグルコシド※2 4.0
(3)精製水 残 余
(4)メタリン酸ナトリウム 0.05
(5)グリセリン 8.0
(6)1,3-ブチレングリコール 3.0
(7)ジプロピレングリコール 3.0
(8)エタノール 3.0
(9)PEG-60水添ヒマシ油 0.2
(10)香料 適 量
(11)パラヒドロキシ安息香酸メチル 適 量
(12)アルギニン 0.14
(製造方法)
成分(1)を成分(2)に混合し、それを成分(3)に加え、パルセーターにて30分間撹拌した。その後、成分(4)~(12)を均一混合することにより透明液状化粧料2を得た。
【0035】
(実施例12:透明液状化粧料3)
(成分) (重量%)
(1)カルボキシビニルポリマー※1 0.15
(2)POP(20)メチルグルコシド※2 2.0
(3)精製水 残 余
(4)メタリン酸ナトリウム 0.05
(5)グリセリン 8.0
(6)1,2-ペンタンジオール 6.0
(7)エタノール 5.0
(8)PEG-60水添ヒマシ油 0.2
(9)香料 適 量
(10)フェノキシエタノール 適 量
(11)2-アミノー2-メチル-1,3-プロパンジオール 0.11
(製造方法)
成分(1)を成分(2)に混合し、それを成分(3)に加え、パルセーターにて30分間撹拌した。その後、成分(4)~(11)を均一混合することにより透明液状化粧料3を得た。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、水に効率良く分散することができ、さらには経時的な粘度変化を抑制することのできる増粘剤、またその増粘剤を含有した透明液状化粧料を提供することができる。