(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】異物反応が低減された三次元埋入型マトリックス
(51)【国際特許分類】
A61L 27/14 20060101AFI20240213BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240213BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240213BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240213BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240213BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240213BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240213BHJP
A61K 49/04 20060101ALI20240213BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240213BHJP
A61F 2/12 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
A61L27/14
A61L27/56
A61L27/58
A61L27/22
A61L27/34
A61L27/40
A61L27/54
A61K49/04
C12Q1/02
A61F2/12
(21)【出願番号】P 2023537904
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 IB2020059352
(87)【国際公開番号】W WO2022074427
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-06-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523127198
【氏名又は名称】テンシブ ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ゲルゲス,イリニ
(72)【発明者】
【氏名】トッチオ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】マルテッロ,フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】タンプレニッツァ,マルゲリータ
(72)【発明者】
【氏名】チンカリーニ,ジュリア・マリア・フォスカリーナ
(72)【発明者】
【氏名】コマン,ステファノ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/037649(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/162523(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03594254(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0189177(US,A1)
【文献】Acta Biomaterialia,2018年,73,pp.141-153
【文献】Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics,2012年,50,pp.724-737
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟組織および/もしくは結合組織ならびに/または器官を再建および/または再生および/または創生するための異物反応が低減された三次元生分解性埋入型マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)であって、
該マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)は、
算術平均が95μm以下である複数の局所厚みおよび110°以下の接触角θを示す、相互連結された孔/空隙スペース(11;21A…21H;31A…31F)を持つ固体成分(12;22A…22H)を有し、
40kg/m
3以下の密度;
固体成分(12;22A…22H)の前記局所厚みが2つの分布範囲、すなわち、上限局所厚み範囲および下限局所厚み範囲に入り、下限局所厚み範囲
が2μmから15μm
であること;
1,000から15,000μmの範囲の平均孔径/空隙スペース径(11;21A…21H;31A…31F);
算術平均が3μm以下である固体成分(12;22A…22H)の表面粗さRa
により特徴づけられる、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項2】
前記密度が
、5kg/m
3から30kg/m
3の範
囲であり;
前記上限局所厚み範囲が
、20μmから45μm
であり;
前記平均孔径/空隙スペース径(11;21A…21H;31A…31F)が
、2,000μmから15,000μmの範
囲であり、2,000μmから10,000μmの範囲
の径を有する孔/空隙スペースが総孔/空隙スペース数の30%から100%
に達するような分布を有し;
前記接触角θ
が、10°から90°の範
囲である、
請求項1に記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項3】
マトリックスで満たされた体積の力学的特性と標的組織の力学的特性との間の即時適合を可能にする、請求項1または2に記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項4】
再建および/または再生および/または創生され得る前記組織が軟組織であり、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)が、
10%以下の、ASTM D395-16に従って測定される圧縮永久歪みにより表される弾性と、
0.2kPaから100kPaの範
囲の圧縮弾性率(Ec)とを有し、
これにより、最大70%の圧縮ひずみと130%の引張ひずみまで変形した後、元の形状を回復する能力を有し、埋入部位への注入または針もしくはチューブによる挿入を含む侵襲性が極めて小さい外科的アプローチにより埋入可能である、
請求項1から3のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項5】
腫瘍の診断、および再発の検出のための放射線不透過性
の物質(複数可)および/または
物体(複数可);
金属粒子またはセラミックを含む有機材料および/または無機材料(複数可);
分子
イメージング診断用の化学プローブ(複数可)
で充填されている、および/または表面上で機能化されている、
請求項1から4のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項6】
タンパク質(複数可)、ペプチド(複数可)、ポリペプチド(複数可)、タンパク質-ペプチド複合体、疑似ペプチド(複数可)または合成高分子(複数可)
である、細胞受容体インテグリン結合物質(複数可)および/または細胞接着分子もしくは高分子で化学的および/または物理的に官能基化および/またはコーティングされ
た、請求項1から5のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)であって、
前記インテグリン結合物質(複数可)および細胞接着分子(複数可)および高分子(複数可)が
、
植物起源または動物起源のゼラチン;
コラーゲン;
ラミニン;
フィブロネクチン;
ビトロネクチン;
血清タンパク質;
ポリ(L-リジン);
ペプチド模倣繰り返し単位を含む合成ポリマー;
RGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)トリペプチド;
RGDトリペプチドモチーフ;
RGD-タンパク質複合体(複数可);
RGD誘導体
から選択される、
前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項7】
細胞接着受容体アクチベーター;
リシルオキシダーゼ(LOX)
の阻害剤およびトランスグルタミナーゼ2の阻害剤(複数可)
から選択される、コラーゲン架橋酵素の阻害剤;
TGF(トランスフォーミング増殖因子)-ベータサイトカイン活性の阻害剤;
細胞外マトリックス(ECM)成分;
アントラサイクリンおよびタキサン
から選択される、抗腫瘍薬
から選択される1つまたは複数の追加成分を含む、請求項1から6のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項8】
・以下の(a)~(c)から選ばれる、PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)-ガンマ活性化物質(複数可):
(a)リノール酸、アラキドン酸、オレイン酸
およびパルミチン酸
から選択される代謝脂肪酸;
またはラウリン
酸;
(b)ロシグリタゾン、ピオグリタゾンおよびトログリタゾン
から選択される、チアゾリジンジオン(TZD);
(c)インドメタシン
、フェノプロフェン
、イブプロフェン
およびフルフェナム酸
から選択される、抗炎症薬としても作用する合成PPAR-ガンマアゴニスト;
・生物活性分子
または高分子;
・宿主全身に放出される可能性もある、細胞、抗体および/またはウイルス
である、生物および/または非生物;
・生物活性分子または細胞または細胞小島も含み得る、マイクロ粒子および/またはナノ粒子;
・分子
イメージングまたはin vivo診断用の放射性標識マーカー(複数可)または診断プローブ(複数可
)
のうちの1つまたは複数が、in vitroで培養細胞および培養組織に放出されるように、ならびに/あるいはin vivoで埋入部位近傍の局所組織に送達され、および/または非経口投与により全身に送達されるように配置される、
請求項1から7のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項9】
マトリックス体積全体にわたってランダムに分布された不均一な形状および大きさを持つ孔/空隙スペース(11;31A…31F)を有する多孔質構造から構成される、請求項1から8のいずれかに記載のマトリックス(10;30A…30F)。
【請求項10】
相互連結された開口孔/空隙スペースを有する所定の形状および大きさの複数の単位(23A…23H)からなり、前記単位が、孔/空隙スペース(21A…21H)を規定するポリマーフィラメント(22A…22H)から形成され、三次元構造の軸に沿って繰り返される、
請求項1から8のいずれかに記載のマトリックス(20A…20H;30A…30F)。
【請求項11】
前記孔/空隙スペース(11;21A…21H;31A…31F)と相互連結された三次元通路(34)をさらに含む、請求項1から10のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項12】
空隙スペース/孔/繰り返し単位が、場合によってはマトリックスの
生分解性材料とは異なる生体材料を含む、生体再吸収性または生体除去性または除去可能な材料で一時的に充填され、密封されている、請求項1から11のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項13】
前記軟組織および/もしくは結合組織ならびに/または器官の臨床的に適切な体
積を再建、創生および/または再生するための、請求項1から12のいずれかに記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項14】
乳房再建および豊胸のための、請求項13に記載のマトリックス(10;20A…20H;30A…30F)。
【請求項15】
以下の適用のうちの1つ以上のための、請求項1から14のいずれかに記載のマトリック
ス:
第1の細胞療法において、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)がin vitroで細胞と共に播種され、生体組織が採取され、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)を通してin vitroで培養された後、宿主生物に埋入される;
第2の細胞療法において、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)は細胞なしで埋入され、生体組織および/または細胞が、宿主生物に既に埋入された前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)に、直ちにまたはしばらく後に、注入される;
バイオリアクターとして、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)は細胞なしで埋入され、宿主細胞によって定着され血管新生されるまで静置した後、定着されたマトリックスに治療細胞が注入される;
細胞送達;
脱細胞化マトリックスとして、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)はin vitroで細胞と播種され、生体組織が採取され、in vitroで静的および/または動的条件下にて培養され、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)の孔/空隙スペース(11;21A…21H)内に細胞外マトリックスを生成させ、次いで、出発マトリックス+細胞+細胞外マトリックスが処理され、望ましくない細胞成分が除去される;
薬物スクリーニング試験を含むin vitro生物学的アッセイにおいて、細胞はin vitroで前記マトリックスへと播種され、試験薬物に対する細胞応答がマトリックス+前記細胞によってin vitroで試験される;
埋入型デバイスのコーティングとして、前記マトリックス(10;20A…20H;30A…30F)は、前記デバイスと周囲/隣接組織との間の境界面に配置されて、デバイスに対する異物反応が低減され、被膜拘縮が最小限に抑制される;
生物活性分子、ペプチド、薬物の放出および/または送達のため;
高精度放射線治療のための埋入型スペーサーとして;
放射線治療のための標的として;
腫瘍切除後の積極的なフォローアップ、ならびに腫瘍の早期診断および腫瘍再発の検出のための埋入型デバイスとして;
生物学的組織および器官の損傷部分の創傷治癒ならびに修復/再建において;
豊胸および/または先天性奇形の処置を含む、審美的および/または美容的処置のため;
美容外科のため。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、医療用インプラントに関し、より詳しくは、軟組織および/もしくは結合組織ならびに/または器官を再生および/または再建および/または創生するための、異物反応が低減された三次元(3D)生分解性埋入型マトリックス(または足場、本明細書ではこの2つの用語は交換可能に使用される)に関する。
【0002】
[0002]好ましくは、限定するものではないが、このマトリックスは、前記組織および/または器官の臨床的に適切な体積の再建および/または創生および/または再生を意図している。本明細書で使用される場合の「臨床的に適切な体積」とは、≧20cm3の体積を意味する。そのような臨床的に適切な体積が必要とされる例示的な適用は、例えば、乳腺腫瘍摘出術または乳房切除術の後の乳房再建である。
【背景技術】
【0003】
[0003]医学で用いられる埋入型生体材料に対する異物反応は、創傷治癒および組織修復において重大なプロセスである。このようなプロセスには多くの細胞イベントが含まれ、埋入型生体材料の特性に応じてモジュレートされ得る。タンパク質の吸着、単球接着、異物巨細胞の形成などを含む、生体材料の埋入後の炎症反応および異物反応に関与する細胞イベントは、生体材料の化学的性質ならびにその物理的特徴および形態学的特徴に関連している(Anderson, J.M.ら、「Foreign body reaction to biomaterials」、Seminars in immunology、Academic Press、2008年、86~100ページ)。埋入された生体材料に対する異物反応の規模および持続性は、創傷治癒と埋入失敗との間の境界線を引く可能性がある。重度の異物反応は、特に組織修復用の埋入型足場の場合、周囲/隣接組織への一体化および組織内殖の観点から、インプラントの安全性だけでなく、その有効性も危うくなる。重度の身体反応に関連する欠点は、関与する一連の局所イベントおよび/または全身イベントに応じて多かれ少なかれ劇的になる可能性があり、バイオフィルム形成から線維性被膜拘縮へとエスカレートし腫瘍形成に進行する可能性がある(Mempin, M.ら、「The A, B and C’s of Silicone Breast Implants: Anaplastic Large Cell Lymphoma, Biofilm and Capsular Contracture」 Materials、2018年、11.12:2393;Fitzal, F.ら、「Is breast implant-associated anaplastic large cell lymphoma a hazard of breast implant surgery?」、Open Biology、2019年、9.4:190006)。
【0004】
[0004]比較的体積の小さい(V<20cm3)2Dメッシュおよび3D足場とは異なり、大きな3D足場(V≧20cm3)は、主として以下に関係する一連の問題に直面する:(i)力学-周囲/隣接宿主組織に対する摩擦;(ii)物理学-足場の体積が増加するにつれて細胞および体液が足場の内核に到達しにくくなることによる、内核を通る細胞の定着および血管新生の遅延;(iii)化学-小さな足場の分解から生成されるものと比べて高い局所濃度の分解副産物、これは、例えば周囲/隣接組織の局所pHを変化させ、それによって酸媒介性炎症反応を引き起こし得る。
【0005】
[0005]埋入型マトリックスに対する異物反応をモジュレートし、臨床的に適切な体積を再生させることを目的とする多くの提案が知られている。
[0006]例えば、WO2016/038083A1およびChhaya M. P.らによる関連の論文「Transformation of Breast Reconstruction via Additive Biomanufacturing」、Scientific Reports 2016年、6:28030には、硬質熱可塑性ポリマーの3Dプリントによって得られる、臨床的に適切な体積の乳房組織を再建および再生するための構造的に安定した大きな足場が開示されている。そのようにして得られた足場の平均孔径は容易に調整することができ、足場の固体成分を形成するポリマーフィラメント間の距離を制御することによって孔の間の相互連結性が最大限に達し得る。しかし、その足場は、ポリマーの剛性が比較的厚い局所厚み(200~300μm)と相まって、3Dコンストラクト/マトリックスの機械的特性と周囲/隣接組織の機械的特性との間に不適合を示す。これは、周囲/隣接組織に対する摩擦によって、in vivoでマトリックスに対して力学的に誘導された異物反応を引き起こし、間葉系幹細胞の脂肪生成分化のための力学的に誘導されたシグナル伝達のプロセスを妨げる可能性がある。このような理由のため、自己由来の脂肪吸引物を埋入された足場に注入することによって生物学的性能の低下を改善する必要があり、そうでない場合には、埋入された足場内で確認される組織の性質は、線維性が優性となり、脂肪組織が不十分である。
【0006】
[0007]WO2017/029633A1は、軟組織再生用のインプラントの製造に使用される足場材料を開示している。この材料は、平均孔径が数センチメートルまでの宿主組織内殖用の孔を有する液体吸収性マイクロゲル粒子から得られる成形可能なペーストの形態である。前記成形可能なペーストの乾燥材料含有量の総質量は0.1%~10%で構成されており、したがって、マイクロゲル材料に対する異物反応は、足場中の固体材料が低含有量であることにより制御される。しかし、この足場は変形後に元の形状に戻ることができず、患者の日常の活動に伴う継続的な力学的要求およびストレスに耐えることができない。弾力性が欠如すると、足場から未分化間葉系細胞への正確な力学的シグナル伝達は阻害され、新しく再生された組織に適切な力学的サポートを供給する能力も損なわれるようである(Mitsak, A. G.ら、「Mechanical characterization and non-linear elastic modelling of poly (glycerol sebacate) for soft tissue engineering」、Journal of the mechanical behaviour of biomedical materials, 2012年、11、3~15頁;Dado, D.ら、「Mechanical control of stem cell differentiation」、Regenerative medicine、2012年、7(1)、101~116頁)。したがって、この先行技術の足場は、多量の軟組織の再生には特に適してはいない。
【0007】
[0008]WO2017/037649A1は、軟質ポリマー発泡体で作成された乳房再建または豊胸用の生分解性医療用デバイスを開示している。得られたマトリックスの形態パラメータは、空隙率(80~90%、実施例1および表1)ならびに孔壁の厚さ(
図2)の点で、考慮中の目的に対して完全に満足するものではなかった。
【0008】
[0009]Ra Jo, A.ら、「Fabrication of cylindrical PCL scaffolds using a knitting technique and assessment of cell proliferation in the scaffolds」、Tissue Engineering and Regenerative Medicine、2014年、11.1:16~22頁は、ポリカプロラクトン(PCL)の2D編みフラットシートを巻くことにより生成された円筒状の足場を開示している。前記足場の特徴は、ポリマーモノフィラメントの厚さ(100ミクロン)の点で、本発明に近い先行技術を示している。このような厚さは、WO2016/038083A1およびChhayaらによる関連論文に開示されている足場の厚さ(200~300ミクロン)よりも著しく薄いが、軟組織/結合組織の再生において満足して使用するにはまだ厚すぎる。実際、得られたこれらの足場の高密度(密度>200kg/m3;空隙率<78%)は、PCLの剛性と相まって、これらの足場を骨組織修復にとってより適したものにする(密度の濃いコラーゲン束の形成をもたらすことが、軟組織の場合とは異なり、望ましい結果である)。実際、これらの足場の生物学的性能は、骨肉腫細胞を使用してin vitroで評価されている。
【0009】
[0010]したがって、人体に埋入された場合、特に創生および/または修復しようとする組織および/または器官の臨床的に適切な体積と関連して使用される場合に、生物活性足場に対する過剰な異物反応に関する問題を軽減することができる生物活性足場が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
[0011]本発明は、
40kg/m3以下、好ましくは5kg/m3~30kg/m3の範囲、より好ましくは10kg/m3~25kg/m3の範囲の密度;
算術平均が95μm以下であるマトリックスの固体成分の複数の局所厚みであって、前記複数の局所厚みが2つの分布範囲、すなわち、(i)上限範囲、好ましくは20μm~95μm、より好ましくは25μm~40μm;および(ii)下限範囲、好ましくは2μm~15μm、より好ましくは5μm~10μmに入る、局所厚み;
15,000μm以下、好ましくは2,000μm~10,000μmの範囲、より好ましくは1,000μm~5,000μmの範囲の平均孔径/空隙スペース径;
算術平均が3μm以下の孔壁/フィラメントの表面粗さRa;
軟組織の場合、0.2kPa~100kPaの範囲、好ましくは0.2kPa~10kPaの範囲、より好ましくは0.2kPa~5kPaの範囲の圧縮弾性率(Ec)により表される、インプラント領域での組織の力学的特性と適合する力学的特性;
110°以下、好ましくは10°~90°の範囲、より好ましくは30°~60°の範囲である、固体成分の接触角θ
により特徴づけられる、相互連結された孔/空隙スペースを持つ固体成分を有する埋入型の生分解性ポリマーマトリックスを提供する。
【0011】
[0012]前記特徴の効果により、本発明のマトリックスは、異物反応が低減し、生体適合性が著しく高いことにより特徴づけられる。
[0013]本発明の第1の実施形態では、マトリックスは多孔質構造を有し、その孔は、マトリックス体積全体にランダムに分布された不均一な形状(非幾何学的でも)および大きさを有する。この種のマトリックスは、例えば、発泡、相分離、粉末床融合、微粒子浸出、およびそのような技術の組合せによって生成することができる。
【0012】
[0014]本発明の第2の実施形態では、このマトリックスは、相互連結された開口空隙スペースを有する所定の形状および大きさの複数の単位(繰り返し単位)からなり、これらの単位は、三次元構造の軸に沿って繰り返され、空隙スペースを規定するフィラメントで形成される。前記実施形態によるマトリックスは、マトリックスの体積全体にわたって、同じ幾何学および形状(例えば、立方体、平行六面体、任意の多角形ベースを有する角柱、もしくは一般に多面体)の「繰り返し単位」を全く同様に繰り返すことによって、または異なる形状および幾何学の繰り返し単位を組み合わせることによって、得ることができる。この種のマトリックスは、例えば、細い繊維の織りおよび/または編み、犠牲テンプレート浸出;層ごとの融合堆積;フォトリソグラフィー;ステレオリソグラフィー;熱可塑性ポリマーの3Dプリント、光架橋性前駆体の3Dプリント、ならびにそのような技術の組合せによって生成することができる。
【0013】
[0015]好ましい適用では、このマトリックスは、臨床的に適切な体積(≧20cm3)の軟組織および/もしくは結合組織ならびに/または器官を再建および/または創生および/または再生することを意図する。そのような適用の一例は乳房再建であり、本発明はまた、上記マトリックスを含む乳房再建用の足場に関する。
【0014】
[0016]好ましい実施形態では、本発明のマトリックスは、いくつかの生物医学的および/または薬学的適用において使用され、限定するものではないが、
細胞療法;
細胞送達;
バイオリアクター;
脱細胞化マトリックス;
薬物スクリーニング試験;
埋入型デバイスのコーティング;
in vitroおよび/またはin vivo生物学的試験;
生物活性分子、ペプチド、薬物の放出および/または送達;
美容整形;
高精度放射線治療のためおよび放射線治療のための標的としての埋入型スペーサー;
腫瘍切除後の積極的なフォローアップ、ならびに腫瘍の早期診断および腫瘍再発の検出のための埋入型デバイスとして;
生物学的組織および器官の損傷部分の創傷治癒および修復
が含まれる。
【0015】
[0017]本発明の上記および他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、非限定的な例として行われる好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】[0018]
図1は、本発明の第1の実施形態によるマトリックスのUCT(超高速コンピュータ断層撮影)スキャンの2Dレンダリングを示す。
【
図2】[0019]
図2は、本発明の第2の実施形態による多数の埋入型マトリックスの内部形態に関する図示である。
【
図3】[0020]
図3は、臨床的に適切な体積の軟組織の再生および修復に使用される、本発明による多数の埋入型マトリックスの例示的な外部形態の図示である。
【
図4】[0021]
図4は、本発明の第1の実施形態による発泡架橋ポリウレタンベースのマトリックスを生成するための2つの例示的な混合プロファイルのグラフ表示である。
【
図5】[0022]
図5は、実施例1に記載の方法に従って生成された、本発明の第1の実施形態による外植マトリックス(ブタ動物モデル由来、埋入3ヶ月後)の切片の組織学的画像である。
【
図6】[0023]
図6は、先行技術マトリックスに関連した、
図1に対応する図示である。
【
図7】
図7は、先行技術マトリックスに関連した、
図5に対応する図示である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[0024]
図1は、架橋中にポリマー前駆体または複数のポリマー前駆体を発泡させることによって得られる、本発明の第1の実施形態による相互連結された多孔質構造を有するマトリックス10を示す。マトリックス10の孔11は、マトリックス体積全体にわたりランダムに分布された不均一な形状および大きさを有する。参照番号12は孔壁を示し、これは、本発明によれば、下記でより詳細に論じるように、複数の局所厚みを示す。
【0018】
[0025]
図2は、本発明の第2の実施形態による相互連結されたネットワーク構造を有する埋入型マトリックス20A...20Hの一部の例の内部形態を示す。マトリックス20A...20Hは、X軸、Y軸およびZ軸に沿って繰り返される、所定の形状、幾何学および寸法の実質的に立方体の開口テンプレート(繰り返し単位RU)23A...23Hによって形成されており、孔21A...21Hを定めるポリマーフィラメント22A...22Hで作られている。以下、接尾語A...Hは、特定の構成に言及されない限り省略される。マトリックス20は、同じ幾何学および形状のRU23、または異なる幾何学および形状のRU23のいずれかを組み合わせることによって得ることができる。この図では、左列および中央列は、それぞれ、例示的なRU23の2D表示および3D表示である。右列は、順に、各行において、3×3×3配列に27個のRU23を含むマトリックス20の一部を示す。有利には、立方体RUの辺は、平均で数ミリメートルの長さ、例えば約3mmを有する。
【0019】
[0026]RU23については、異なる形状および構造(立方体、平行六面体、任意の多角形ベースを持つ角柱、または一般的には多面体)が可能であり、前記マトリックスの異なる内部形態がもたらされる。図示した例において:
RU23Aは、シンプルな立方体形状を有する;
RU23Bは、さらに内部に直線フィラメント22B’を含む;
RU23C、23Dは、外部立方体形状および内部円柱形状を有し、立方体の角は凹状円弧で置き換えられている;さらに、角領域は、RU23Cでは中空であり、RU23Dでは中実である(すなわち、ポリマー材料で充填されている);
RU23E、23Fは、RU23C、23Dと同様に、外部立方体形状および内部円柱形状を有し、角領域は、RU23Eでは中空であり、RU23Fでは中実である;RU23E、23Fは、さらに内部に円形フィラメント22E’、22F’を含む;
RU23G、23Hは、RU23E、23Fと同様の形状を有するが、円形フィラメントを欠いている。
【0020】
[0027]
図1の孔壁12のように、フィラメント22は複数の局所厚みを示す。例として、10μmおよび40μmの2種の局所厚みが示されている。
[0028]
図3は、例えば、乳房再建および豊胸用の足場で必要とされる、軟組織および結合組織の大部分(V≧20cm
3)を再生するための埋入型マトリックス30A...30Fの一部の例の外部形態を示す。また、この図の説明では、マトリックスおよびその部分に関する接尾語A...Fは、特定の構成が言及されない限り、省略される。半円形で平底の楕円形マトリックス30A、30Bは、体積230cm
3、長さ110mm、および最大突出部47mmである;半円形で凹底の楕円形マトリックス30C、30Dは、体積150cm
3、長さ110mm、最大突出部47mmである;円形マトリックス30E、30Fは、体積220cm
3、最大直径90mm、最大突出部45mm、上部丸縁35mm、下部丸縁10mmである。それらの形状が何れであれ、マトリックス30は、相互連結された空隙スペース31(
図1および
図2でそれぞれ示した孔または開口RU)を持つ内部構造を有する。図の下段のマトリックス30B、30D、30Fについて示したように、マトリックス30はまた、製造技術に応じて、孔/空隙スペースまたはRUと相互連結され得るかまたは相互連結され得ない三次元通路(channel)34を含むこともできる。通路34の特徴、配置、および機能は、WO2017/037649A1に開示されている。示した例では、通路34の直径は5mm程度であり、それらの相互距離は5mm~30mmの範囲内である。
【0021】
[0029]マトリックス30は、人体に埋入された場合に異物反応の低減が達成され、前記マトリックスの特徴によって、特に軟組織および/または結合組織の大部分を再生/修復/創生するために使用する場合に、例えば乳房再建および豊胸用の足場で生じ得るように、そのような結果が提供される任意の製造技術によって生成することができる。そのような結果を提供する特徴は、下記により詳細に開示する。そのような技術のうち、すでに記述した発泡以外に、本発明者らは以下のものを挙げることができる:層ごとの融合堆積;相分離;粉末床融合;エレクトロスピニング;細い繊維の織りおよび/または編み;フォトリソグラフィー;ステレオリソグラフィー;3Dプリント;粒子浸出;犠牲テンプレート浸出。また、異なる技術の組合せも可能である。
【0022】
[0030]より詳しくは、発泡、相分離、粉末床融合、および粒子浸出は、孔/空隙スペースが明確な幾何学的形状を有さず、
図1に示したマトリックス10のように、ランダムな大きさ分布を有するマトリックスの生成に適している。細い繊維の織りおよび/または編み、犠牲テンプレート浸出、層ごとの溶融堆積、フォトリソグラフィー、ステレオリソグラフィー、熱可塑性ポリマーまたは光架橋性/光硬化性前駆体の3Dプリントは、反対に、
図2に示したマトリックス20A...20Hのように、孔/空隙スペースが定められた同様の幾何学(繰り返し単位)であるマトリックスの生成に適している。
【0023】
[0031]マトリックス10、20、30の生成に使用することができる生体材料の例は、合成ポリマー、天然ポリマー、化学修飾天然ポリマー、タンパク質官能基化天然および合成ポリマー、生体分子および/または生体高分子、DNAおよびRNAなどのポリヌクレオチド、多糖、またはそれらの混合物である。好ましくは、ポリマー材料はポリウレタンベースの材料である。
【0024】
[0032]製造技術および出発材料が何であれ、特に軟組織および/または結合組織の大部分(≧20cm3)を創生および/または回復および/または再生するために人体に埋入された場合にそれらに対する異物反応に関連した問題を軽減することができる、本発明によるマトリックスは、以下の特徴を有する:
40kg/m3以下、好ましくは5kg/m3~30kg/m3の範囲、より好ましくは10kg/m3~25kg/m3の範囲の密度;
算術平均が95μm以下である、孔壁/フィラメントの複数の局所厚み;より詳しくは、局所厚みについては2つの分布範囲が特定され得る、すなわち:(i)上限局所厚み範囲、好ましくは20μm~95μm、より好ましくは25μm~40μm;および(ii)下限局所厚み範囲、好ましくは2μm~15μm、より好ましくは5μm~10μm;
15,000μm以下、好ましくは2,000μm~15,000μmの範囲、より好ましくは1,000μm~5,000μmの範囲の平均孔径/空隙径。さらに、2,000μm~10,000μmの範囲の径を有する孔/空隙スペースは、総孔/空隙スペース数の30%~100%、好ましくは40%~80%、より好ましくは50%~70%に達する;
マトリックスの固体成分(孔壁12/フィラメント22/RU23の固体角の材料)の表面粗さRaは、3μm以下の算術平均を有する;
再生および/または復元および/または創生される標的組織の力学的特性と適合する力学的特性。この適合は、軟組織の場合、0.2kPa~100kPaの範囲、好ましくは0.2kPa~10kPaの範囲、より好ましくは0.2kPa~5kPaの範囲の圧縮弾性率(Ec)によって表される。
【0025】
110°以下、好ましくは10°~90°の範囲、より好ましくは30°~60°の範囲の固体成分の接触角θ。このような値の接触角は、マトリックスに親水性を増強する。
[0033]好ましい実施形態では、異なる程度の剛性/弾性は、基材の剛性と相関して細胞移動を促進するように達成される。より詳しくは、ソフトマトリックスは、標準ASTM D395-16に従って測定される、10%以下の圧縮永久歪みとEc.<5kPaを有し、これにより、70%の圧縮ひずみと130%の引張ひずみまで変形した後、元の形状に回復する能力を有する。この種のマトリックスは、チューブまたは針を使用して生体内に簡単に注入することができるので、侵襲性が極めて小さい外科的アプローチが可能である。
【0026】
[0034]本発明によるマトリックスの密度は、ASTM D3574-08(試験A、セクション9~15)のガイドラインに従って、乾燥マトリックスの公称重量(kg)を、孔/空隙スペースが占める体積を含むマトリックスが占める体積(m3)で割ることにより測定することができる。
【0027】
[0035]孔径/空隙スペース径の算術平均および孔数/空隙スペース数の関数としてのその分布、ならびに局所厚みの算術平均(場合によっては、孔壁数の関数としてのその分布)は、UCT(超高速コンピュータ断層撮影)により定量化することができる。
【0028】
[0036]表面粗さは、ISO 13565-3のガイドラインに従って、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。
[0037]接触角θ、したがって親水性は、液滴法を使用して決定することができる。
【0029】
[0038]好ましい実施形態では、マトリックスの空隙スペース/孔/RUは、生体吸収可能な、または生体脱離可能な、または除去可能な材料(例えば、出発の生分解性材料とは異なる)によって充填され、一時的に封止される。埋入後、前記材料は、化学的または物理的刺激、例えばイオン力、局所温度、pHの変化などに応答して、または外部刺激、例えば磁場もしくは放射線(ガンマ線、ベータ線、X線)に応答して、または、例えば酵素反応もしくは加水分解反応の結果としての分解によって、または機械的除去(例えば吸引)によって、固体状態から液体状態への相転移を起こす。前記材料のプログラムされた溶解、分解または除去の後、マトリックスの関連領域は、細胞および体液に到達可能になる。このことは、異なるマトリックス領域で段階的にプログラムされた細胞の定着にとって好ましい。
【0030】
[0039]好ましい実施形態では、マトリックスは、
1)細胞接着性および生体適合性の観点から、in vitroおよび/またはin vivoでの生物学的性能を増強する目的で、インテグリン結合タンパク質、ポリペプチド、疑似ペプチドまたは合成高分子(複数可)でコーティングされる。インテグリン結合物質および細胞接着分子およびマトリックス表面に固定化することができる高分子の非限定的な例としては、次のものが挙げられる:タンパク質、ペプチド、タンパク質-ペプチド複合体、ポリペプチド、およびそれらの化学修飾誘導体、例えば、コラーゲン;ゼラチン;ラミニン;フィブロネクチン;ビトロネクチン;血清タンパク質、RGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)トリペプチドモチーフ、RGD-タンパク質複合体、RGD誘導体、繰り返し単位中にRGDペプチド模倣モチーフを含む合成ポリマー;ポリ(L-リジン)などの合成細胞接着性ポリマー;
2)埋入後に前記マトリックスに対する細胞応答を制御して、細胞分化のプロセスを促進し、特定の医薬品治療をin situで実施することを目的として、生物学的に活性な分子および/または薬物が装填される;
3)腫瘍および疾患の診断のため、ならびに腫瘍再発の検出のための放射線不透過性物質(複数可)および/または物体(複数可)が充填される。前記放射線不透過性物質および/または物体は、マトリックス表面上に固定化することもできる;
4)有機材料および/または無機材料、例えば、金属粒子またはセラミックが充填される;
5)分子画像診断用の化学プローブ(複数可)が充填される。前記プローブは、マトリックス表面に固定化することもできる。
【0031】
[0040]好ましい実施形態では、マトリックスは、以下の追加成分のうちの1つまたは複数を任意選択で含む:
マトリックス表面に固定化され、および/またはモノマーとして、もしくは繰り返し単位としてマトリックスのポリマー構造に挿入される、細胞接着受容体アクチベーター(複数可);
コラーゲン架橋酵素の阻害剤(複数可)、例えば、リシルオキシダーゼ(LOX)またはトランスグルタミナーゼ2の阻害剤(複数可);
TGF(トランスフォーミング増殖因子)-ベータサイトカイン活性の阻害剤(複数可)。前記阻害剤(複数可)は、マトリックス表面に固定化され、および/またはマトリックスポリマー構造に共重合され、および/またはマトリックスからマトリックス内およびマトリックスを取り囲む/隣接する組織および細胞に対して、in vitroおよび/またはin vivoで放出され得る;
抗腫瘍薬、例えば、アントラサイクリンおよびタキサン。
【0032】
[0041]好ましい実施形態では、このマトリックスを使用して、下記の物質のうちの1つまたは複数を、in vitroで培養細胞および組織に放出および/または送達し、および/またはin vivoで埋入部位近傍の局所組織に送達し、および/またはin vivoで非経口投与により全身に送達することができる:
PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)-ガンマ活性化物質(複数可);この分子は、マトリックスにその製造中に装填される可能性があり、および/またはマトリックス自体の高分子構造の化学的分解または酵素的分解から生じ得る。PPAR-ガンマ活性化物質の非限定的な例は:(i)代謝脂肪酸、例えば:リノール酸、アラキドン酸、オレイン酸、パルミチン酸;ラウリン酸;(ii)チアゾリジンジオン(TZD)、例えば:ロシグリタゾン、ピオグリタゾンおよびトログリタゾン;(iii)抗炎症薬としても作用する合成PPAR-ガンマアゴニスト、例えば:インドメタシン;フェノプロフェン;イブプロフェン;フルフェナム酸である。
【0033】
生物活性分子および高分子、抗体、ペプチド、タンパク質、細胞成分、ウイルス、不活化されたもの、またはウイルスの一部など、例えば、個別化治療および予防治療のためのもの。前記生物活性物質は、マトリックスにその製造中に初期装填されるか、マトリックス表面にその元の状態で固定化されるか、マイクロ粒子および/またはナノ粒子にカプセル化される;
生体、例えば、単一細胞としての、または膵島もしくはオルガノイドで組織化された、ならびに/あるいはマクロ粒子および/または微粒子中に含まれた、異なる種類の細胞(成体、人工多能性幹細胞(iPS)、胚性幹細胞および臍帯血幹細胞、分化細胞、免疫系細胞など)。
【0034】
[0042]上記の特徴は相乗的に作用して、埋入後の前記マトリックスに対する異物反応を低減し、前記マトリックスを介して新しく再生された組織への正しい力学的および生化学的シグナル伝達が可能になり、それによってin vivoでの生物学的性能が増強される。
【0035】
[0043]特に、マトリックスは、前記マトリックスを取り囲む/隣接する天然組織、または埋入部位でそれに隣接する天然組織のものに匹敵するか、あるいは前記マトリックスを介して再生および/または修復および/または創生され得る標的組織のものに匹敵する、即時に適合する軟性または剛性を付与する。
【0036】
[0044]極端に薄い局所厚みは、大きな孔径/空隙径/RU径、表面の滑らかさ、および親水性の増強と相まって、埋入後のごく初期の数時間の間、単球およびリンパ球接着を困難にし、化学誘引性サイトカインを含む非特異的タンパク質の吸着を妨げるのに連動して役立つ。
【0037】
[0045]複数の局所厚みと、その結果生じる孔壁/フィラメントの剛性におけるわずかな差は、マイクロメートルスケールでの力学的勾配を作ることを目的としている。したがって、宿主細胞は、足場を介した細胞移動の力学的合図(メカノタキシス)を認識することができる。
【0038】
[0046]標的組織の力学的特性と適合する力学的特性は、低密度のマトリックスと相まって、周囲/隣接組織に対する局所摩擦を低減するのに役立ち、したがって、前記マトリックスを異物として認識するマクロファージに関連する力学的合図を低減する。
【0039】
[0047]上記の大きな孔径は、PPAR-ガンマアゴニストおよびおそらくはコラーゲン架橋酵素阻害剤の局所放出と相まって、コラーゲン束の構築および肥厚を困難にし、足場周囲の線維芽細胞の層化を妨げ、それにより内部線維化の速度を遅らせ、線維血管から軟分化組織、例えば脂肪組織への組織リモデリングを促進するのに役立つ。
【0040】
[0048]さらに、マイクロメートルスケールの局所厚みは、適合した力学的特性およびコラーゲン架橋酵素の阻害剤の局所放出と相まって、新しく再生された組織を通じて動員される血管組織の石灰化を低減および/または回避することを目的としている(Joverら、「Inhibition of enzymes involved in collagen cross-linking reduces vascular smooth muscle cell calcification」、The Faseb Journal、2018年)。
【0041】
[0049]本発明によるマトリックスは、腫瘍切除後または外傷による変形後の乳房を再建するための足場として使用するのに特に適している。
[0050]成分に応じて、他の生物医学適用および医薬適用が想定され、限定するものではないが、次のものが含まれる:
細胞療法(I型):マトリックスがin vitroで細胞と播種され、生体組織が採取され、前記マトリックスを通してin vitroで培養された後、宿主生物に埋入される;
細胞療法(II型):マトリックスが細胞なしで(無細胞)埋入され、生体組織および/または細胞が、直ちにまたはしばらく後に、宿主生物に既に埋入された前記マトリックスへのin vivo注入のために処置される;
バイオリアクターとして:マトリックスが細胞なしで(無細胞)埋入され、宿主細胞によって定着され血管新生されるまで静置した後、定着されたマトリックスに治療細胞が注入される;
脱細胞化マトリックスとして:マトリックスがin vitroで細胞と播種され、生体組織が採取され、in vitroで静的および/または動的条件下にて培養され、マトリックス孔内に細胞外マトリックスを生成させる。次いで、構築マトリックス+細胞+細胞外マトリックスが、十分に規定された手順に従って処理され、望ましくない細胞成分が除去される;
薬物スクリーニング試験において、細胞がin vitroで前記マトリックスへと播種され、次いで、構築マトリックス+細胞がin vitroでの試験薬物に対する細胞応答を試験するために使用される;
埋入型デバイスのコーティングとして:マトリックスが、前記デバイスと周囲/隣接組織との間の境界面に配置されて、デバイスに対する異物反応が低減され、被膜拘縮が最小限に抑制される;
in vitro生物学的試験のため、電気的刺激および/または電磁的刺激、機械的刺激、分子的刺激を含む様々な刺激の影響に対処することを目的とする;
生物活性分子、ペプチド、薬物の放出のため;
審美的および/または美容的処置のため、例えば、豊胸術および/または先天性奇形の処置;
生物学的組織および器官の損傷部分の創傷治癒および修復において。
【0042】
[0051]このような適用は、相互に排他的ではなく、一緒に組み合わせることができる。
[0052]本発明によるマトリックス10、20、30の非限定的な例を、同じマトリックスを製造するための適切な製造方法および出発生体材料とともに、以下の実施例で報告する。
【実施例】
【0043】
[0053]実施例1~6
[0054]これらの実施例は、低密度で可撓性があり柔らかい(D≦30kg/m3、Ec≦10kPa)ポリウレタンベースの生分解性埋入型マトリックス10(
図1)の発泡法による調製を示す。
【0044】
[0055]高分子当たり3個以上の反応性基の平均数を有する多官能性ポリイソシアネート末端プレポリマーを、95~110の範囲のNCOインデックスに従って、それぞれ4および12のHLB数(親水性-親油性バランスの差)を有する2つの表面活性分子の低分子量ポリオール、ならびに有機スズ系触媒の存在下で架橋させた。反応混合物を、カスタマイズされた計量混合機によって混合し、ここで、ミキシングヘッドでの反応混合物の温度は30℃であった。マトリックス体積に沿ってランダムに分布された、孔壁12(
図1)の複数の局所厚み(平均局所厚み<50μm)および不均一な孔径(平均孔径<15,000μm)を達成するために、表1で報告し、実施例1(黒線)および実施例4(灰色線)に関して
図4で図示したように、反応混合物を機械的に混合した。この機械的混合プロセスは、以下のステップを含む:
反応混合物を1,000~10,000rpmで2~20秒間混合して、反応混合物の全成分の迅速かつ効果的な混合を達成し、微細な気泡(10μm<気泡Φ<5μm)により核形成させる;
混合を1~20秒間停止して、マイクロメートルの気泡核形成の安定を保持する;
30~300rpmで2~50秒間、混合を再開し、一定量のパーセンテージの気泡が崩壊した後に反応混合物を均質化し、巨視的な気泡(500μm<気泡Φ<10,000μm)を核形成させる;
混合速度を20~100rpmに落とし、ゲルポイントに達するまで、生成反応混合物が崩壊または沸騰するのを防ぎながら、そうして得られた気泡を膨張させる。
【0045】
架橋された粗製マトリックスは、任意選択で、以下のステップに従って複数の凍結乾燥サイクルにかけられる:
1)マトリックスを水中に完全浸漬しながら、室温で80%歪みまで複数回の圧縮-減圧サイクルを実施する;
2)T<-5℃の温度で少なくとも2時間凍結する;
3)解凍する;
4)非膨潤水から排出する;
5)T<-5℃で少なくとも2時間再凍結する;
6)凍結乾燥する;
7)2)~6)のステップを少なくとも2回繰り返す。
【0046】
そのようにして得られたマトリックスの形態学的特徴を表2に報告する。
[0056]表1
[0057]機械的混合パラメータ
【0047】
【0048】
[0058]表2
[0059]形態学的特徴
【0049】
【0050】
[0060]先行技術より優れた本発明の利点を証明するために、実施例4に従って生成された低密度マトリックス(マトリックスI)を、WO2017/037649A1の実施例1に従って生成された高密度マトリックス(マトリックスII)と比較した。この比較は、ブタモデルにおいて皮下埋入を行った後の線維性被膜形成に関する内部形態と生物学的性能の両方に関するものであった。両マトリックスは、架橋ポリウレタン-エステル-エーテルベースの発泡体のファミリーに属していた。
【0051】
[0061]
図5は、ブタモデルにおいて皮下埋入した3ヶ月後の、外植マトリックスIのヘマトキシリンおよびエオシン(HE)染色切片の組織学的画像を示す。
図1に示したものに対応する構成要素は、接尾語Aを付けた、対応する参照番号によって示されている。参照番号14は、アスタリスクによっても示されている、外層線維性被膜を示す。
【0052】
[0062]
図6および
図7は、それぞれ、
図1および
図5に示した画像と同様の先行技術のマトリックスIIの画像を示す。
図6および
図7において、
図1および
図5に示したものに対応する構成要素は、数字4から始まる対応する参照番号によって示されている。外層線維性被膜44は、二重アスタリスクで示されている。
【0053】
[0063]形態学的特性を決定するために、UCTスキャンを各マトリックスからの試料に対して実施した。試料は、4μmの焦点スポットX線管から発生する、市販のキャビネットコーンビームμCT(μCT50、SCANCO Medical AG社、ブリュッティーゼレン、スイス)により測定した。光子はCCDベースのエリア検出器によって検出され、投影データは3042x3042の画像マトリックスにコンピュータで再構成される。スキャン画像を、X線吸収が>0.2cm-1(-120mg HA/ccmに相当)であるポリマー材料の閾値でセングメント化した。画像処理は、IPL(SCANCO Medical AG社)を使用して行った。
【0054】
[0064]HLB数が少なくとも5ポイント異なる2つの表面活性分子の本発明による使用により、異なる親水性特性の反応性成分の効果的なミセル化が保証され、特に架橋の初期段階中にポリマーマトリックスの極めて薄い基質によって囲まれる孔の合体(coalition)が低減される。上記の機械的混合は、WO2017/037649A1のように、有機溶媒を用いることによって混合物の粘度を操作することを必要とせず、反応混合物の効果的な核生成と孔寸法の微調整を可能にする。
【0055】
[0065]分析した2つの試料の間の密度、平均孔径、および局所厚みの点での違いは表3に報告されており、
図1と
図6との比較でも明白である。
[0066]表3
[0067]UCTスキャンによって算出された、2つのポリウレタン-エステル-エーテル発泡マトリックスの形態学的特徴。
【0056】
【0057】
[0068]生物学的性能については、大容量マトリックス(V=25cm
3)を、無細胞マトリックスとして、平均体重50~70kgのメスのミニブタに3か月間皮下埋入した。安楽死させた後、足場を周囲組織とともに切除し、10%の中性緩衝ホルマリンで固定した。ホルマリン固定した試料をパラフィンワックスに埋め込み、4μm厚で切片化し、ヘマトキシリンとエオシン(HE)で慣例的に染色し、宿主反応を組織学的評価するために光学顕微鏡で評価した。
図5および
図7の染色した外植片の組織学的画像は、2つの足場の周囲に形成された線維性被膜14、44の厚さの有意な差を示す。特に、本発明の実施例4に記載の方法に従って生成した外植低密度マトリックスIは、薄くて不連続な線維性被膜14(厚さ~100μm)によって囲まれていたが、WO2017/037649A1の実施例1に従って生成した高密度マトリックスIIは、厚くて密な線維状被膜44(厚さ~1200μm)によって囲まれていた。足場内の組織内殖は、マトリックスIIでは厚くて密な線維性被膜が形成されるため、部分的であることが示されたが、マトリックスIは、血管新生化結合軟組織により完全に定着された。
【0058】
[0069]実施例7および実施例8
[0070]実施例7および実施例8は、光硬化性前駆体のステレオリソグラフィー(SLA)3Dプリントによる、軟組織および器官の臨床的に適切な体積の再生用生分解性埋入型マトリックス20(
図2)の調製を示す。
【0059】
[0071]実施例7では、光硬化性前駆体は、30~90%の範囲の平均分子脱アセチル化度を有する化学修飾キトサン光硬化性前駆体であった。最初に、2種類の溶液を調製した:溶液A:キトサンおよびノルボルネンカルバミドNB-CAを、キトサンとNB-CAのNH官能基間の等モル比と20%(w/v)の溶液中最終濃度を使用し、リン酸緩衝生理食塩水PBS 1X pH7.4に溶解した。キトサンの官能基化は、40℃~60℃の温度で5時間~35時間、光への直接暴露を避け、進行させた。
【0060】
[0072]溶液B:ジペプチドシステイニル-システイン(チオール架橋剤)およびラミニンペプチド(インテグリン結合物質)を、PBS 1X pH7.4中で1:1の重量比にて混合し、室温で20分間、200rpmで機械的に攪拌した。溶液Bの最終濃度は100mg/mlであった。
【0061】
[0073]溶液Bを、均一な溶液が得られるまで、500rpmの機械的攪拌下で溶液Aに滴下添加し、次いで、リボフラビン(光開始剤)、β-アミノプロピオニトリル(LOX阻害剤)、およびベルベリン(PPAR-ガンマアゴニスト)を前記混合物に添加して溶解させた後、SLA-3Dプリント装置のチャンバーに装填した。
【0062】
[0074]最終目的物のCADベクタースキームを作成し、SLA-3Dプリント装置に送った。UV-Vis光曝露は可視波長の400nmに設定し、出力は5~15mW/cm-2に設定した。架橋は、マトリックス量と光の出力に応じて、20秒~30秒で得られる。
【0063】
[0075]実施例8では、光硬化性前駆体は化学修飾ゼラチンであった。実施例7と同様に、2種類の溶液を調製した:
溶液A:300g Bloomのゲル強度を有するブタ皮膚由来のゼラチンタイプAをPBS 1X pH7.4に50℃で3%(w/v)の濃度にて溶解した。ゼラチン溶液の粘度は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド/N-ヒドロキシスクシンイミドEDC/NHSの存在下で、ゼラチン由来のNH2とNO-5-CA由来のCOOHがそれぞれ1:1のモル比のノルボルネン-5-カルボン酸(NO-5-CA)とのカップリングにより高めた。
【0064】
[0076]溶液B:ジペプチドシステイニル-システイン(チオール架橋剤)をPBS 1X pH7.4中1:1の重量比で混合し、50℃で20分間、室温にて200rpmで機械的に撹拌した。溶液Bを、均一な溶液が得られるまで、500rpmの機械的攪拌下で溶液Aに滴下添加し、次いで、カンファーキノン(光開始剤)、(2-クロロピリジン-4-イル)メタンアミン(LOX阻害剤)、およびベルベリン(PPAR-ガンマアゴニスト)を前記混合物に添加して溶解させた後、SLA-3Dプリント装置のチャンバーに装填した。
【0065】
[0077]Berardi, A. C.(編)、「Extracellular Matrix for Tissue Engineering and Biomaterials」、Humana Press (2018年)に記載されているように、ゼラチンの高分子構造にはRGDモチーフが豊富に含まれているので、この製剤に追加のインテグリン結合剤は添加しなかった。
【0066】
[0078]最終目的物のCADベクタースキームを作成し、SLA-3Dプリント装置に送った。UV-Vis光曝露は可視波長の400nmに設定し、出力は10~20mW/cm-2に設定した。架橋は、マトリックス量と光の出力に応じて、30秒~120秒の時間で得られた。
【0067】
[0079]実施例7および実施例8に従って調製したマトリックスの形態学的特徴を表4に報告する。
[0080]表4
[0081]2種類の3D-プリントマトリックスの形態学的特徴
D-プリントマトリックス
【0068】
【0069】
[0082]前記マトリックスのポリマーフィラメントの局所厚み(算術平均10μmおよび40μm)は、前記マトリックスに対する異物反応を低減し、埋入後の足場への細胞浸潤および足場の定着の段階における細胞メカノタキシスを促進するように選択された。
【0070】
[0083]上記の説明は非限定的な例としてのみ与えられたものであり、以下の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、変更および修正が可能であることは明らかである。