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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/13 20160101AFI20240213BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240213BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240213BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20240213BHJP
   B60L 50/15 20190101ALI20240213BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20240213BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20240213BHJP
【FI】
B60W20/13
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60L7/14
B60L50/15
B60L50/61
B60L58/13
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019143121
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021024400
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 守人
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-001351(JP,A)
【文献】特開平04-322105(JP,A)
【文献】特開2011-011714(JP,A)
【文献】特開2001-238303(JP,A)
【文献】特開2006-280161(JP,A)
【文献】特開2016-084061(JP,A)
【文献】特開2017-065617(JP,A)
【文献】特開2018-078737(JP,A)
【文献】特開平09-266601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/13
B60K 6/46
B60W 10/08
B60L 7/14
B60L 50/15
B60L 50/61
B60L 58/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を電力に変換可能かつ前記エンジンをモータリング可能な発電用モータと、前記発電用モータが発生する電力により充電される電池とを搭載した車両であり、力行運転により前記発電用モータが発生する電力または前記電池の電力を前記車両の走行のための動力に変換し、回生運転により前記車両の動力を電力に変換する駆動用モータをさらに搭載した車両に用いられるモータ制御装置であって、
前記電池の充電状態を表す値がその上限値と下限値との間の範囲内で設定されるモータリング開始値を超えている場合に、前記発電用モータによる前記エンジンのモータリングを実行するモータリング実行手段と、
前記電池の充電状態を表す値を上昇させるファクタを検出し、当該ファクタに応じて前記モータリング開始値を可変に設定するモータリング開始値設定手段とを含み、
前記モータリング実行手段は、前記駆動用モータの運転状況にかかわらず、前記電池の充電状態を表す値が前記モータリング開始値を超えている場合に、前記発電用モータによる前記エンジンのモータリングを実行する、モータ制御装置。
【請求項2】
前記ファクタは、前記車両の所在値の高度、前記車両の走行路面の勾配、または、前記駆動用モータの回生運転により発生する回生電力の少なくとも1つである、請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッドシステムを駆動系に採用した車両、いわゆるハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)が知られている。
【0003】
ハイブリッドシステムの一例では、エンジンの動力が発電用のモータ(MG1)で電力に変換され、その電力が駆動用のモータ(MG2)の駆動に使用されて、駆動用のモータの動力が駆動輪に伝達される。また、車両の減速時には、駆動用のモータが回生運転されることにより、駆動輪から駆動用のモータに伝達される動力が電力に変換される。このとき、駆動用のモータが走行駆動系の抵抗となり、その抵抗が車両を制動する制動力(回生制動力)として作用する。駆動用のモータが発生する電力は、電池に蓄えられて、駆動用のモータの駆動に利用される。これにより、車両の走行燃費が向上する。
【0004】
ところが、電池の充電容量に対する充電残量の比率であるSOC(State Of Charge)が上限に達すると、電池が電力を受け入れることができなくなる。これを回避するため、電池のSOCが一定値に到達すると、駆動用のモータの回生運転により発生する電力で発電用のモータを駆動して、エンジンをモータリングすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-6525号公報
【文献】特開2011-11714号公報
【文献】特開2010-143310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エンジンのモータリングにより発電用のモータで消費される電力量よりも駆動用のモータによる発電量の方が大きい場合、モータリングが実施されても、電池のSOCが上限に到達する。この場合、駆動用のモータの回生運転を制限せざるを得ず、その制限により回生制動力が低下して減速度が低くなるので、車両のドライバ(運転者)に違和感を与えてしまう。
【0007】
本発明の目的は、電池の充電状態を表す値が上限に到達することを抑制できる、モータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係るモータ制御装置は、エンジンの動力を電力に変換可能かつエンジンをモータリング可能なモータと、モータが発生する電力により充電される電池とを搭載した車両に用いられるモータ制御装置であって、電池の充電状態を表す値がその上限値と下限値との間の範囲内で設定されるモータリング開始値を超えている場合に、モータによるエンジンのモータリングを実行するモータリング実行手段と、電池の充電状態を表す値を上昇させるファクタを検出し、当該ファクタに応じてモータリング開始値を可変に設定するモータリング開始値設定手段とを含む。
【0009】
この構成によれば、電池の充電状態を表す値を上昇させるファクタが検出され、その検出されたファクタに応じて、モータリング開始値が可変に設定される。そして、電池の充電状態を表す値がモータリング開始値を超えている場合には、モータによるエンジンのモータリングが実行される。
【0010】
ファクタから電池の充電状態を表す値の大きな上昇が見込まれる場合には、モータリング開始値が低く設定されることにより、モータによるエンジンのモータリングが実行されやすくなる。その結果、モータリングによる電力の消費量が増加するので、電池の充電状態を表す値が上限に到達することを抑制できる。
【0011】
モータは、発電用モータであり、車両は、力行運転により発電用モータが発生する電力または電池の電力を車両の走行のための動力に変換し、回生運転により車両の動力を電力に変換する駆動用モータをさらに搭載していてもよい。この場合、モータリング実行手段は、駆動用モータの運転状況にかかわらず、電池の充電状態を表す値がモータリング開始値を超えている場合に、発電用モータによるエンジンのモータリングを実行することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、駆動用モータが回生運転されている状態であっても力行運転されている状態であっても、電池の充電状態を表す値がモータリング開始値を超えている場合には、発電用モータによるエンジンのモータリングが実行される。駆動用モータが力行運転されている状態において、その後の駆動用モータの回生運転による電池の充電残量の増大(充電状態を表す値の上昇)が見込まれる場合に、モータリングが実行されることにより、その充電残量の増大に備えておくことができ、充電残量の増大により電池の充電状態を表す値が上限に到達することを良好に抑制できる。
【0013】
ファクタは、車両の所在値の高度、車両の走行路面の勾配、または、駆動用モータの回生運転により発生する回生電力のいずれかであってもよいし、それらの組合せであってもよい。
【0014】
たとえば、駆動用のモータを搭載する車両が高地から平地に降りる場合、車両の所在地の高度が大きいほど、駆動用のモータの回生運転による発電量が多くなる。また、車両が下り勾配の路面を連続走行する場合、その下り勾配が大きいほど、駆動用のモータの回生運転による発電量が多くなる。
【0015】
そこで、車両の所在地の高度が大きいほど、モータリング開始値が小さい値に設定される。また、車両の走行路面の下り勾配が大きいほど、モータリング開始値が小さい値に設定される。これにより、モータリングの実行の機会が増え、モータリングにより強制的に電力が消費されることにより、車両の所在地の高度が大きいほど、また、車両の走行路面の勾配が大きいほど、電池の充電残量を少なくすることができる。その結果、電池の充電状態を表す値が上限に到達することを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電池の充電状態を表す値が上限に到達することを抑制できるので、車両の制動時に、駆動用のモータの回生運転の制限により回生制動力が低下することを抑制でき、車両のドライバにその回生制動力の低下による違和感を与えることを可及的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッドシステムが採用された車両の構成を示すブロック図である。
図2】モータリング制御処理の流れを示すフローチャートである。
図3】強制消費開始SOCマップを示す図である。
図4】強制消費エンジン回転数マップを示す図である。
図5】回生/消費電力、SOCおよびモータリング回転数の時間変化の一例を示す図である。
図6】アクセル戻し量および車速と回生電力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<ハイブリッドシステムの構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッドシステムが採用された車両1の構成を示すブロック図である。
【0020】
車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムを採用しており、エンジン(E/G)11、発電用モータ(MG1)12および駆動用モータ(MG2)13を搭載している。なお、ハイブリッドシステムの方式は、シリーズ方式に限らず、シリーズ・パラレル方式であってもよい。
【0021】
エンジン11は、たとえば、ガソリンエンジンであり、エンジン11の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどを備えている。
【0022】
発電用モータ12は、たとえば、永久磁石同期モータからなる。発電用モータ12の回転軸は、エンジン11のクランクシャフトと機械的に連結されている。発電用モータ12は、エンジン11の停止時に、エンジン11をクランキングさせるスタータモータとして使用される。エンジン11の始動後、発電用モータ12は、エンジン11の動力を電力に変換する発電機として機能することができる。
【0023】
駆動用モータ13は、たとえば、発電用モータ12よりも大型の永久磁石同期モータからなる。駆動用モータ13の回転軸は、動力伝達機構に連結されている。動力伝達機構には、デファレンシャルギヤが含まれており、駆動用モータ13の動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の前輪または後輪からなる駆動輪14に分配されて伝達される。
【0024】
車両1には、発電用モータ12および駆動用モータ13をそれぞれ駆動するためのインバータやマイコン(マイクロコントローラユニット)などを内蔵するPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15と、複数の二次電池を組み合わせた組電池からなる駆動用電池(BAT)16とが搭載されている。
【0025】
PCU15は、駆動用電池16に接続されている。発電用モータ12で発生する交流電力は、PCU15で直流電力に変換されて、駆動用モータ13に駆動電力として供給される。また、余剰な電力は、駆動用電池16に蓄えられる。駆動用電池16に蓄えられた電力は、PCU15で直流電力から交流電力に変換されて、発電用モータ12および駆動用モータ13に駆動電力として供給可能である。
【0026】
車両1にはさらに、マイコンを含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。図1には、PCU15を制御するための1つのECU17のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、複数のECUが搭載されている。ECU17を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0027】
ECU17には、ECU17による制御に必要な各種のセンサが接続されている。各種のセンサには、車速センサ21、Gセンサ22および気圧センサ23が含まれる。
【0028】
車速センサ21は、たとえば、車両1の走行に伴って回転する磁性体からなるロータと、ロータと非接触に設けられた電磁ピックアップとを備え、ロータが一定角度回転する度に電磁ピックアップから出力されるパルス信号を出力する。このパルス信号の周波数は、車両1の実車速に対応している。ECU17では、車速センサ21から入力されるパルス信号の周波数が求められて、その周波数が車速に換算される。
【0029】
Gセンサ22は、錘の変位に応じた信号を車両1の加速度に応じた検出信号として出力する。ECU17では、Gセンサ22の検出信号から車両1の加速度を求めることができる。Gセンサ22の検出信号から求まる加速度には、車速の変化による加速度成分と、車両1が走行している路面の勾配による加速度成分とが含まれる。一方、車速センサ21の検出信号から求まる車速を微分して得られる加速度は、車速の変化による加速度成分のみである。したがって、Gセンサ22の検出信号から求まる加速度と車速の微分値との差を求めることにより、路面勾配による加速度成分が得られるので、その加速度成分に基づいて、ECU17では、路面勾配を推定することができる。
【0030】
気圧センサ23は、大気圧に応じた検出信号を出力する。高度(標高)が高くなるにつれて、大気圧が低下する。したがって、ECU17では、気圧センサ23の検出信号から車両1の所在地の高度を推定することができる。なお、車両1にナビゲーション装置が搭載されている場合など、車両1の所在地の位置情報を取得可能な場合には、その位置情報から車両1の所在地の高度が取得されてもよい。
【0031】
ECU17は、各種のセンサの検出信号から取得される情報や他のECUから入力される情報などに基づいて、PCU15を制御し、駆動用電池16に対する電力の入出力を制御する。
【0032】
<モータリング制御処理>
図2は、モータリング制御処理の流れを示すフローチャートである。図3は、強制消費開始SOCマップを示す図である。図4は、強制消費エンジン回転数マップを示す図である。
【0033】
車両1では、その走行中、アクセルペダルが踏み込まれた状態からその踏み込みが緩められる操作、つまりアクセル戻し操作が行われると、ECU17により、駆動用モータ13の回生運転が制御される。
【0034】
回生運転の制御モードとして、通常回生モードと強回生モードとが設定されている。通常回生モードと強回生モードとを切り替えるために、たとえば、車室内の運転席に着座した運転者が操作可能な位置には、回生切替スイッチが設けられている。回生切替スイッチが押操作される度に、ECU17により、回生運転の制御モードが通常回生モードと強回生モードとに切り替えられる。通常回生モードでは、駆動用モータ13の回生運転による発電が発電用モータ12によるエンジン11のモータリングで消費される電力を超えない。一方、強回生モードでは、駆動用モータ13の回生運転による発電が発電用モータ12によるエンジン11のモータリングでの電力の消費を超える場合がある。
【0035】
車両1の走行中、ECU17により、モータリング制御処理が所定の周期で実行される。
【0036】
モータリング制御処理では、まず、強制消費開始SOCが設定される(ステップS1)。強制消費開始SOCは、発電用モータ12がエンジン11のモータリングを開始する閾値、つまりモータリングによる駆動用電池16の電力の強制消費を開始する閾値となるSOC(State Of Charge)である。SOCは、駆動用電池16の充電容量に対する充電残量の比率であり、ECU17によって常に監視されている。
【0037】
強制消費開始SOCの設定には、図3に示される強制消費開始SOCマップが使用される。強制消費開始SOCマップは、車両1の所在地の高度および走行路面の勾配と強制消費開始SOCとの関係を定めたマップである。強制消費開始SOCマップは、車両1の所在地の高度が高いほど強制消費開始SOCが小さい値に設定されるように、また、車両1の走行路面の下り勾配が大きいほど強制消費開始SOCが小さい値に設定されるように作成されている。車両1が平地に所在する場合、強制消費開始SOCが通常の充電制御でのSOC上限値またはそれに近い値に設定される。強制消費開始SOCマップは、ECU17のマイコンに内蔵の不揮発性メモリに記憶されている。
【0038】
強制消費開始SOCマップに従って強制消費開始SOCが設定されると、次に、その設定された強制消費開始SOCと現在の駆動用電池16のSOCとの差(SOC差)が計算される(ステップS2)。
【0039】
また、現在の駆動用電池16のSOCが強制消費開始SOCよりも高いか否かが判断される(ステップS3)。現在のSOCの方が強制消費開始SOCよりも高い場合(ステップS3のYES)、現在の車速とSOC差とに応じた強制消費エンジン回転数が設定される(ステップS4)。強制消費エンジン回転数は、発電用モータ12によるエンジン11のモータリング時のエンジン回転数である。
【0040】
強制消費エンジン回転数の設定には、図4に示される強制消費エンジン回転数マップが使用される。強制消費エンジン回転数マップは、車速およびSOC差と強制消費エンジン回転数との関係を定めたマップである。強制消費エンジン回転数マップは、車速が大きいほど強制消費エンジン回転数が大きい値に設定されるように、また、SOC差が大きいほど強制消費エンジン回転数が大きい値に設定されるように作成されている。なお、強制消費エンジン回転数マップは、車速と強制消費エンジン回転数との関係を定めたマップであってもよい。
【0041】
そして、その設定された強制消費エンジン回転数でエンジン11が回転するように、駆動用電池16から発電用モータ12への駆動電力の供給が制御されて、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが実行される(ステップS5)。
【0042】
一方、現在のSOCが強制消費開始SOC以下である場合(ステップS3のNO)、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングは実行されず、エンジン11が停止したままにされる(ステップS6)。
【0043】
図5は、回生/消費電力、SOCおよびモータリング回転数の時間変化の一例を示す図である。
【0044】
たとえば、駆動用電池16のSOCが強制消費開始SOCを下回る期間は、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが実行されない。駆動用モータ13の回生運転による発電により、駆動用電池16のSOCが強制消費開始SOCを超えると(時刻T1)、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが開始される。これにより、駆動用モータ13の回生運転が継続されても、モータリングが実行されない制御(この場合のSOCの変化が二点鎖線で示されている。)と比較して、駆動用電池16のSOCの増加が抑制される。
【0045】
その後、駆動用モータ13が回生運転から力行運転に変わっても(時刻T2)、駆動用電池16のSOCが強制消費開始SOCを上回っている間は、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが継続され、駆動用電池16の電力が強制的に消費される。
【0046】
モータリングの継続により、駆動用電池16のSOCが強制消費開始SOC以下に低下するのに対し、モータリングが実行されない制御では、駆動用モータ13の回生運転により駆動用電池16のSOCが上限ガードに近づく。そのため、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが実行される制御では、モータリングによる消費電力を上回る電力を発電する強回生運転の実施が可能であるのに対し(時刻T4-T5、時刻T6-T7)、モータリングが実行されない制御では、強回生運転の実施が制限される。
【0047】
<作用効果>
【0048】
以上のように、車両1の所在地の高度および車両1が所在する路面の勾配など、駆動用電池16の充電残量の上昇が見込まれるファクタが検出されて、その検出されたファクタに応じた強制消費開始SOC(モータリング開始値の一例)が設定され、駆動用電池16の充電状態を表すSOCが強制消費開始SOCを超えている場合には、駆動用モータ13が回生運転されているか力行運転されているかにかかわらず、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが実行されて、そのモータリングにより電力が強制的に消費される。
【0049】
車両1が高地から平地に降りる場合、車両1の所在地の高度が大きいほど、駆動用モータ13の回生運転による発電量が多くなるので、駆動用電池16の充電残量の上昇、つまりSOCの上昇が見込まれる。また、車両1が下り勾配の路面を連続走行する場合、その下り勾配が大きいほど、駆動用モータ13の回生運転による発電量が多くなるので、この場合にも駆動用電池16のSOCの上昇が見込まれる。
【0050】
そこで、車両1の所在地の高度が大きいほど、強制消費開始SOCが小さい値に設定される。また、車両1の走行路面の勾配が大きいほど、強制消費開始SOCが小さい値に設定される。これにより、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングの機会が増え、そのモータリングにより電力を積極的かつ強制的に消費することができる。駆動用モータ13の力行運転中に発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが実行されることにより、駆動用電池16の充電残量を積極的に減らすことができ、車両1の所在地の高度が大きいほど、また、車両1の走行路面の勾配が大きいほど、駆動用電池16の充電残量を少なくすることができる。また、駆動用モータ13の回生運転による発電が行われなくても、高度や勾配の増大により強制消費開始SOCが小さい値に設定されると、駆動用電池16のSOCが強制消費開始SOCを超えやすくなり、発電用モータ12によるエンジン11のモータリングが積極的に行われる。その結果、駆動用モータ13の回生運転による発電量が発電用モータ12によるエンジン11のモータリングで消費される電力量を上回るような強回生運転が行われても、駆動用電池16のSOCが上限に到達することを抑制できる。
【0051】
また、駆動用電池16のSOCと強制消費開始SOCとのSOC差が大きいほど、発電用モータ12によるエンジン11のモータリング時のエンジン回転数の目標である強制消費エンジン回転数が大きい値に設定される。これにより、発電用モータ12の消費電力が増大するので、駆動用電池16の電力の消費量が増大し、駆動用電池16のSOCを速やかに低下させることができる。
【0052】
さらに、車速が大きいほど、強制消費エンジン回転数が大きい値に設定される。これにより、車速が大きいほど発電用モータ12によるエンジン11のモータリング時のエンジン音が大きくなるので、エンジン音のフィーリングの向上を図ることができる。
【0053】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0054】
たとえば、前述の実施形態では、車両1の所在地の高度が大きいほど、強制消費開始SOCが小さい値に設定され、また、車両1の走行路面の下り勾配が大きいほど、強制消費開始SOCが小さい値に設定されるとした。これに限らず、車両1の走行路面の勾配にかかわらず、車両1の所在地の高度が大きいほど、強制消費開始SOCが小さい値に設定されてもよい。また、車両1の所在地の高度にかかわらず、車両1の走行路面の下り勾配が大きいほど、強制消費開始SOCが小さい値に設定されてもよい。
【0055】
なお、強制消費開始SOCの設定に用いられる勾配のパラメータは、勾配そのものの値であってもよいし、減速トルクと車速とから求められる減速抵抗の値など、勾配に対応する値を用いてもよい。
【0056】
また、駆動用モータ13の回生運転時には、その回生運転により発生する回生電力に応じて強制消費開始SOCが設定されてもよい。回生電力は、アクセルペダルが踏み込まれた状態からの戻し量(アクセル戻し量)と車速とによって決まる。すなわち、回生電力は、図6に示されるように、アクセルペダルの戻し量が大きいほど大きくなり、また、車速の低下に伴って増加し、駆動用モータ13の強回生運転により車両1が停止する直前に最大となる。したがって、駆動用モータ13の回生運転時の強制消費開始SOCは、回生電力に応じて設定されてもよいが、アクセル戻し量および/または車速に応じて設定されてもよい。
【0057】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1:車両
11:エンジン
12:発電用モータ(モータ)
16:駆動用電池(電池)
17:ECU(モータ制御装置、モータリング実行手段、モータリング開始値設定手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6