(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240213BHJP
F02D 41/14 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
F02D45/00 368F
F02D41/14
(21)【出願番号】P 2020037503
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】安田 和也
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敦之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智裕
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-077738(JP,A)
【文献】特開2008-144656(JP,A)
【文献】特開2004-360706(JP,A)
【文献】特開2010-019178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載した内燃機関を制御する
制御装置であって、
内燃機関を運転しているとき、内燃機関の排気通路に装着されている排気浄化用の触媒の現在温度を計測若しくは推定し、触媒の現在温度が上限閾値を上回っていることを条件として内燃機関の運転の停止を許可し、
また、内燃機関の運転を停止しているとき、前記触媒の現在温度を計測若しくは推定し、触媒の現在温度が下限閾値を下回ったことを条件として内燃機関を始動するものであり、
停止していた内燃機関を始動した
直後、
前記触媒に流入するガスの空燃比が増減している状態で、排気通路における触媒の下流に設置した空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小するまでの期間の長さを計測し、または同空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小したときの触媒の温度を計測若しくは推定し
て、
前記空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小するまでの期間が長いほど触媒の劣化の度合いが大きいと推測し、または前記空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小したときの触媒の温度が高いほど触媒の劣化の度合いが大きいと推測し、
さらに、停止していた内燃機関を始動した直後の前記空燃比センサの出力信号の振幅が所定以上に大きくなっているならば、以後、前記上限閾値をこれまでよりも高く引き上げるか、または前記下限閾値をこれまでよりも高く引き上げる内燃機関の制御装置。
【請求項2】
停止していた内燃機関を始動した直後の前記空燃比センサの出力信号の振幅が所定以上に大きくなっているならば、以後、前記上限閾値をこれまでよりも高く引き上げ、かつ前記下限閾値をこれまでよりも高く引き上げる請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
触媒の劣化が進行していると判定した場合にその旨を出力する請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載した内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電動機及び内燃機関の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献を参照)は、内燃機関により発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置、即ちリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ及び/またはキャパシタに蓄えるとともに、走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動するモータリングを行うことで、余剰の電力を消費する。
【0004】
ハイブリッド車両では、内燃機関が燃料を燃焼させて回転駆動力を発生させるファイアリングを行わなくとも、走行用モータジェネレータが出力する回転駆動力により車両を走行させることが可能である。故に、車両の運用中であっても、内燃機関の回転を停止している状態が継続することがある。
【0005】
蓄電装置に蓄えている電荷の量が減少したときや、走行用モータジェネレータに対する要求出力が大きいときには、内燃機関を始動し、内燃機関が出力する回転駆動力を以て発電用モータジェネレータを駆動し、発電を実施して蓄電装置を充電、または走行用モータジェネレータに供給する電力を増強する。
【0006】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する準備として内燃機関をモータリング(または、クランキング)する役割を兼ねる。モータリング時には、蓄電装置から必要な電力の供給を受ける。
【0007】
内燃機関をファイアリングしていない間は、排気通路に装着された排気浄化用の三元触媒が冷却されてその温度が徐々に低下してゆく。触媒は、顕著に低温となると失活(不活化)し、燃焼ガスに含まれる有害物質の浄化能率が悪化する。
【0008】
そこで、内燃機関の停止中、触媒の現在温度を推定または実測し、現在温度が閾値を下回ったことを条件として内燃機関を再始動、ファイアリングを再開して触媒を保温する制御を実施することがある。
【0009】
従前の制御では、触媒の現在温度と比較するべき閾値を、車齢や走行距離等によらず一律に設定していた。だが、触媒の性能は経年劣化により減退してゆき、必要な浄化能力を発揮するために要求される触媒温度も変動(上昇)してゆく。新品の、または経年劣化していない触媒を念頭に置いて閾値を比較的低位に定めると、触媒の経年劣化が進んだ場合に、内燃機関の再始動が間に合わない、即ち触媒による有害物質の浄化能率が明らかに悪化した後に内燃機関を始動することになり、有害物質の排出量が増加する懸念が生じる。
【0010】
逆に、経年劣化した触媒を念頭において閾値を比較的高位に定めると、触媒の経年劣化が進んでいない場合に、内燃機関の再始動が早すぎる、即ち触媒の浄化能率が未だ十分維持されているのに不必要に内燃機関を始動することとなって、無駄な燃料消費を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、燃料消費量の増加を抑制しながら、長期に亘りエミッション性能を高く保つことを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、車両に搭載した内燃機関を制御する制御装置であって、内燃機関を運転しているとき、内燃機関の排気通路に装着されている排気浄化用の触媒の現在温度を計測若しくは推定し、触媒の現在温度が上限閾値を上回っていることを条件として内燃機関の運転の停止を許可し、また、内燃機関の運転を停止しているとき、前記触媒の現在温度を計測若しくは推定し、触媒の現在温度が下限閾値を下回ったことを条件として内燃機関を始動するものであり、停止していた内燃機関を始動した直後、前記触媒に流入するガスの空燃比が増減している状態で、排気通路における触媒の下流に設置した空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小するまでの期間の長さを計測し、または同空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小したときの触媒の温度を計測若しくは推定して、前記空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小するまでの期間が長いほど触媒の劣化の度合いが大きいと推測し、または前記空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小したときの触媒の温度が高いほど触媒の劣化の度合いが大きいと推測し、さらに、停止していた内燃機関を始動した直後の前記空燃比センサの出力信号の振幅が所定以上に大きくなっているならば、以後、前記上限閾値をこれまでよりも高く引き上げるか、または前記下限閾値をこれまでよりも高く引き上げる内燃機関の制御装置を構成した。
【0016】
触媒の劣化が進行していると判定した場合に、その旨を出力することも考えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車両に搭載した内燃機関の燃料消費量の増加をできる限り抑制しながらも、長期に亘りエミッション性能を高く保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関の概要を示す図。
【
図3】同実施形態の内燃機関の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図4】同実施形態の内燃機関の始動直後の時期における触媒の上流及び下流の空燃比の推移を例示するタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0020】
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転トルクの伝達がなされない。つまり、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が充分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が充分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0021】
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と歯車機構を介して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転トルクを発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転トルクを発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのモータリング(クランキング)を実行する。
【0022】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0023】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として稼働させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒11への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0024】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0025】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)の一部をなす。
【0026】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0027】
図2に、本実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1の概要を示している。内燃機関1は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒11(例えば、三気筒。
図1には、そのうち一つを図示)を包有している。各気筒11の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ111を設けている。また、各気筒11の燃焼室の天井部に、点火プラグ112を取り付けてある。点火プラグ112は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0028】
吸気を供給するための吸気通路13は、外部から空気を取り入れて各気筒11の吸気ポートへと導く。吸気通路13上には、エアクリーナ131、電子スロットルバルブ132、サージタンク133、吸気マニホルド134を、上流からこの順序に配置している。エアクリーナ131は、吸気通路13における最上流の位置、即ち空気を取り入れる吸気口に所在する。吸気口は、冷たい空気を取り入れて内燃機関の充填効率を上げるために、車両の前方に開口している。
【0029】
排気を排出するための排気通路14は、気筒11内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒11の排気ポートから外部へと導く。この排気通路14上には、排気マニホルド142及び排気浄化用の三元触媒141を配置している。排気通路4における触媒41の上流及び下流には、排気通路4を流通するガスの空燃比を検出するための空燃比センサ143、144を設置する。空燃比センサ143、144はそれぞれ、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよく、排気ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよい。排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力するO2センサの出力特性は、理論空燃比近傍の一定範囲(ウィンドウ)では空燃比に対する出力の変化率が大きく急峻な傾きを示し、それよりも空燃比が大きいリーン領域では低位飽和値に漸近し、空燃比が小さいリッチ領域では高位飽和値に漸近する、いわゆるZ特性曲線を描く。
【0030】
外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置12は、排気通路14と吸気通路13とを連通する外部EGR通路121と、EGR通路121上に設けたEGRクーラ122と、EGR通路121を開閉し当該EGR通路121を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ123とを要素とする。EGR通路121の入口は、排気通路14における触媒141の下流の所定箇所に接続している。EGR通路121の出口は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の所定箇所、特にサージタンク133に接続している。
【0031】
内燃機関1には、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減するためのブレーキブースタ15が付帯している。ブレーキブースタ15は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流側の部位(または、サージタンク133)から吸気負圧を導き入れ、その負圧を用いてブレーキペダルの踏力を倍力する、この分野では広く知られているものである。ブレーキブースタ15は、負圧を蓄える定圧室(負圧室)と、大気圧が加わる変圧室(大気圧室)とを有し、定圧室が負圧管路151を介して吸気通路13に接続している。負圧管路151は、スロットルバルブ132の下流側の吸気負圧を定圧室へと導く。負圧管路151上には、負圧を定圧室内に留め、定圧室に正圧が加わることを防止するためのチェックバルブ152を設けてある。
【0032】
運転者によりブレーキペダルが操作されていないとき、定圧室と変圧室とが連通し、かつ変圧室が大気圧から隔絶される。ブレーキペダルが操作されると、定圧室と変圧室との間が遮断され、かつ変圧室に大気が導入される。結果、定圧室と変圧室との圧力差が、ブレーキペダルの踏力を倍力する制御圧力となる。ブレーキブースタ15により増幅されたブレーキ踏力は、マスタシリンダ16において液圧力に変換される。マスタシリンダ16が出力するマスタシリンダ圧、即ちマスタシリンダ16が吐出するブレーキ液の圧力は、液圧回路を介してブレーキキャリパやホイールシリンダ等といったブレーキ装置に伝達され、当該ブレーキ装置による車両の制動に用いられる。
【0033】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、発電用モータジェネレータ2及び発電機インバータ21を制御する発電機ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03、走行用モータジェネレータ4及び駆動機インバータ41を制御する駆動機ECU04等、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECUが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
【0034】
ECU0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路13(特に、サージタンク133)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、蓄電装置3に蓄えている電荷量(または、SOC(State Of Charge))を検出するセンサ、特にバッテリ3の端子電流及び/または端子電圧を検出するセンサから出力される信号f、外気温を検出する外気温センサから出力される外気温信号g、発電用モータジェネレータ2への印加電流及び/または印加電圧を検出するセンサから出力される信号h、触媒141の上流における排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ143から出力される信号m、触媒141の下流における排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ144から出力される信号n等が入力される。
【0035】
ECU0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセル開度や、シフトポジション即ちシフトレバー(セレクタレバー)の位置、運転者が操作するスイッチのON/OFF、現在の車両の車速、路面の勾配、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、ブレーキブースタ15が蓄えている負圧の大きさ、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転トルク、内燃機関1が出力する回転トルク、発電用モータジェネレータ2が発電する電力または発電用モータジェネレータ2が出力する回転トルクを増減制御する。
【0036】
原則として、蓄電装置3が現在充分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が小さいならば、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が蓄えている電荷の量が減少し、または走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいならば、内燃機関1を始動し気筒11に燃料を供給してこれを燃焼させるファイアリングを実行し、内燃機関1の出力する回転トルクを以て発電機モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0037】
内燃機関1の気筒11に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動して発電用モータジェネレータ2による発電を実行しようとするためには、まず、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。そして、内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転し、内燃機関1の各気筒11の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了した後、内燃機関1の各気筒の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるファイアリングを開始する。内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及び回転速度即ちエンジン回転数は、発電用モータジェネレータ2に付帯するレゾルバを介して(発電機ECU02において)検出することができ、内燃機関1に付帯するクランク角センサを介して(EFI ECU01において)検出することもできる。
【0038】
モータリング及びファイアリングにより内燃機関1の回転が加速し、その回転数が始動判定値を超えたならば、内燃機関1が始動して自立的に回転する状態となった(発電用モータジェネレータ2の出力を低減させてもなおエンジン回転数が上昇傾向を維持できるようになった)と判定し、電動機として作動させている発電用モータジェネレータ2の出力を0まで低減させてモータリングを終了する。
【0039】
内燃機関1の始動判定後は、内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を回転駆動する。さらに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させ、その発電電力を0から増大させる。
【0040】
なお、ECU0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、h、m、nを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量(いわば、エンジン負荷率)を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を実現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。このEFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123等に対して出力する。
【0041】
内燃機関1の運転を停止しているとき、換言すれば内燃機関1をファイアリングしていないときには、触媒141の温度が徐々に低下してゆく。触媒141は、顕著に低温となると失活し、燃焼ガスに含まれる有害物質の浄化能率が悪化する。
図3に示すように、本実施形態の内燃機関1を制御するECU0(または、EFI ECU01)は、内燃機関1の運転の停止中(ステップS1)の触媒141の現在温度を随時実測または推定し(ステップS2)、触媒141の現在温度が下限閾値を下回ったことを条件として(ステップS3)、運転者によるアクセルペダルの踏込量や蓄電装置3が蓄えている電荷量、ブレーキブースタ15が蓄えている負圧等如何によらず、内燃機関1を再始動しファイアリングを再開する(ステップS4)。これにより、触媒141に燃料を燃焼させた燃焼ガスを流入させて、触媒141の温度の上昇を図り、触媒141が必要最低限の浄化能率を発揮できる状態に保温する。
【0042】
その後、触媒141の現在温度が上限閾値を上回ったならば(ステップS5)、運転者によるアクセルペダルの踏込量が大きかったり、蓄電装置3に蓄えている電荷量が減少していたり、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が減少していたり等といった、内燃機関1のファイアリングを維持するべき状況にない限り(ステップS6)、内燃機関1のファイアリングを停止する(ステップS7)。当然ながら、ステップS5にいう上限閾値は、ステップS3にいう下限閾値よりも高い。
【0043】
触媒141の温度に関して補足すると、触媒141の温度を検出するセンサを設置しているシステムでは、ECU0が当該温度センサの出力信号を参照して触媒141の現在温度を直接計測することが可能である。そのような温度センサを設置していないシステムでは、ECU0が既知の手法に則って触媒141の現在温度を推定することになる。内燃機関1をファイアリングして運転しているときの触媒141の温度は、内燃機関1の運転領域[エンジン回転数,スロットルバルブ開度]、空燃比及び点火タイミング等に応じた触媒141に流入する排気の温度、並びに外気温及び車速(車速が高くなるほどエンジンルームに吹き込む走行風の流量が増加して排気通路14が空冷される)等を基に推定できる。また、内燃機関1の運転を停止しているときの触媒141の温度は、内燃機関1の運転を停止する直前の触媒141の温度、内燃機関1の運転を停止している期間の長さ、外気温及び車速等を基に推定できる。
【0044】
ところで、触媒141の酸素吸蔵能力を含む性能は、経年劣化により減退してゆく。それに伴い、必要最小限の浄化能率を発揮するために要求される触媒141の温度値も高まってゆく。新品のまたは経年劣化していない触媒141と、経年劣化が進んだ触媒141とでは、要求される温度値が異なる。ひいては、触媒141の温度及び能力を維持するべく内燃機関1を再始動するべき条件が異なる。
【0045】
そこで、本実施形態のECU0は、触媒141の経年劣化の度合いを推測し、それに応じて、運転を停止している内燃機関1を再始動する条件となる、ステップS3にいう下限閾値の温度、及び/または、ステップS5にいう上限閾値の温度を変更する。
【0046】
詳述すると、
図4に示すように、運転を停止していた内燃機関1を再始動してファイアリングを再開した時点t
0以降、触媒141に流入する燃焼ガスの空燃比、即ち触媒141の上流側の空燃比センサ143の出力信号mは、理論空燃比またはその近傍の目標空燃比を跨いで上下に振動する。ここで、時点t
0は、運転者の手によりイグニッションスイッチがOFFからONに操作されて内燃機関1を冷間始動したときや、内燃機関1の運転を一定以上の長期間停止した後に内燃機関1を始動したとき等であり、触媒141の温度が外気温またはその近くまで低下している状態にあり、触媒141は活性化しておらず、触媒141の酸素吸蔵能力も低い。このため、触媒141から下流に流出するガスの空燃比、即ち触媒141の下流側の空燃比センサ144の出力信号nも、上流側の空燃比センサ43の出力信号mに同期するように上下に振動し、その振幅が大きい。
【0047】
内燃機関1のファイアリングを再開してからある程度以上の期間が経過すると、触媒141に流入する燃焼ガスにより触媒141が加熱されてその温度が上昇し、触媒141が活性化するとともに、触媒141の酸素吸蔵能力が高まる。つまり、触媒141に流入するガスの空燃比が目標空燃比よりもリーンであるときに余剰の酸素を吸蔵し、触媒141に流入するガスの空燃比が目標空燃比よりもリッチであるときに吸蔵していた酸素を放出する。その結果、触媒141から下流に流出するガスの空燃比振幅が明らかに小さくなる。
【0048】
これに鑑み、ECU0は、内燃機関1の運転を再開した時点t
0から、触媒141の下流の空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以下に縮小する時点t
1、t
2までの経過期間を計測することで、触媒141の経年劣化の度合いを推測する。
図4中に実線で表しているように、経年劣化していない触媒141では、内燃機関1の運転再開時点t
0から空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以下に縮小する時点t
1までの経過期間が短い。対して、
図4中に破線で表しているように、経年劣化した触媒141では、内燃機関1の運転再開時点t
0から空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以下に縮小する時点t
2までの経過期間が長くなる。
【0049】
従って、ECU0は、計測した経過期間が長いほど、触媒141の経年劣化が進んでいるものと判断して、ステップS3にいう下限閾値の温度をより高い値に設定し、及び/または、ステップS5にいう上限閾値の温度をより高い値に設定する。
【0050】
内燃機関1の運転を再開した時点t0から空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以下に縮小する時点t1、t2までの経過期間の長さは、タイマにより直接計測することができる。但し、タイマによらず、空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以下に縮小した時点t1、t2における触媒41の実測温度若しくは推定温度に基づいて、上記の経過期間の長さを間接的に計測することも可能である。即ち、時点t1、t2における触媒41の実測温度若しくは推定温度が高いほど、上記の経過期間が長いものと推測できる。
【0051】
因みに、内燃機関1の運転再開後、触媒141に流入するガスの空燃比をうまく上下動させると、触媒141内で発生する反応熱により、触媒141をより速やかに昇温させることが可能である。このことは、有害物質の排出量のより一層の低減に資する。
【0052】
本実施形態では、車両に搭載した内燃機関1を制御するものであって、停止していた内燃機関1を始動した後、その排気通路14に装着されている排気浄化用の触媒141に流入するガスの空燃比が増減している状態で、排気通路14における触媒141の下流に設置した空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以下に縮小するまでの経過期間を計測し、または同空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以下に縮小したときの触媒141の温度を計測若しくは推定し、それを基に触媒141の劣化の度合いを推測する内燃機関1の制御装置0を構成した。
【0053】
その上で、本実施形態の制御装置0は、前記期間の長さに応じて、内燃機関1の運転を停止しているときに触媒41の温度を維持するべく内燃機関1を再始動する条件を変更する。
【0054】
本実施形態によれば、触媒141の経年劣化が進んでいない場合、上に述べた下限閾値や上限閾値がより低位の値となり、触媒141の温度及び浄化能率が未だ維持されている段階で不必要に早く内燃機関1を再始動することを回避でき、また再始動した内燃機関1の運転を早期に停止させることができる。これにより、無駄な燃料消費を削減することができる。
【0055】
触媒141の経年劣化が進んでいる場合には、下限閾値や上限閾値がより高位の値となり、触媒141の温度及び浄化能率が著しく低下する前に速やかに内燃機関1を再始動することができ、また再始動した内燃機関1の運転を早期に停止せずに維持することができる。これにより、触媒141において確実に有害物質を酸化/還元して無害化でき、長期に亘り有害物質の排出を抑制することが可能となる。加えて、内燃機関1のエミッションの良化の目的のために、触媒141に使用する高価な貴金属の量を徒に増加させる必要がない。
【0056】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、触媒141の現在温度が下限閾値を下回った(ステップS3)ときに、既に触媒141の下流の空燃比センサ144の出力信号nの振幅が所定以上に大きくなっているならば、内燃機関1の再始動、運転再開が間に合っていないということであるので、以後、ステップS3にいう下限閾値、及び/または、ステップS5にいう上限閾値を、より高く引き上げて、内燃機関1の再始動を早め、また内燃機関1の運転期間を延長することが好ましい。
【0057】
本発明を、ハイブリッド車両でない車両に搭載された内燃機関の制御、特にアイドルストップの実行条件の変更に適用することもできる。具体的には、内燃機関をアイドルストップしている最中、排気浄化用の触媒の現在の実測温度若しくは推定温度が下限閾値を下回ったことを必要条件として内燃機関を再始動するという制御を行うに際し、当該下限閾値を、停止していた内燃機関を始動した後触媒の下流に設置した空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小するまでの経過期間が長いほど(または、当該空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小したときの触媒の実測温度若しくは推定温度が高いほど)、つまりは触媒の劣化が進んでいるほど、高く引き上げる。あるいは、触媒の現在の実測温度若しくは推定温度が上限閾値を上回っていることを必要条件として内燃機関のアイドルストップを許可するという制御を行うに際して、当該上限閾値を、触媒の劣化が進んでいるほど高く引き上げる。
【0058】
また、停止していた内燃機関を始動した後触媒の下流に設置した空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小するまでの経過期間が所定以上に長い場合(または、当該空燃比センサの出力信号の振幅が所定以下に縮小したときの触媒の実測温度若しくは推定温度が所定以上に高い場合)、即ち触媒の劣化が進行していると判定した場合に、制御装置がその旨を出力することもできる。具体的には、触媒の劣化が進行している旨を示すダイアグノーシスコードをメモリに書き込んだり、その旨を車両の運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で出力(例えば、コックピットのエンジンチェックランプを点灯させる、ディスプレイに表示する、警告音を出力する等)したりすることが考えられる。
【0059】
触媒の劣化の度合いを推測した結果は、内燃機関の暖機完了/未完了の判定や、ハイブリッド車両における始動直後の電動機(のみ)による駆動走行の許可/不許可の判定、その他種々の制御における判定に援用することができる。
【0060】
その他、各部の具体的な構成や処理の内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0061】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
11…気筒
111…インジェクタ
112…点火プラグ
14…排気通路
141…触媒
143…触媒の上流側の空燃比センサ
144…触媒の下流側の空燃比センサ
m…触媒の上流側の空燃比信号
n…触媒の下流側の空燃比信号