(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】流動床反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/16 20170101AFI20240213BHJP
B01J 8/24 20060101ALI20240213BHJP
B01J 23/75 20060101ALI20240213BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240213BHJP
【FI】
C01B32/16
B01J8/24
B01J23/75 M
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2018127048
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】10-2017-0084234
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン ラル
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
(72)【発明者】
【氏名】スン ミン ジ
(72)【発明者】
【氏名】キム サン ウク
(72)【発明者】
【氏名】ソン ジュン ユル
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-334535(JP,A)
【文献】国際公開第2016/144092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/16
B01J 8/24
B01J 23/75
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床反応器に触媒と炭素源を供給してカーボンナノチューブを製造する方法であって、
前記流動床反応器は、膨張部(expanded zone)を備え、
前記流動床反応器の内部物質の、最小流動化速度及び終端速度の値が同様であって、流動床反応器に供給される原料物質の流速(線速度)は、流動床反応器の
前記内部物質の終端速度以上であり、
希釈(dilute)領域に上昇した前記内部物質は、前記膨張部
に進入すると、流速が前記内部物質の終端速度以下に減少
し、前記内部物質の終端速度未満となって再び下降して、上昇と下降を繰り返し、前記内部物質は、凝集及び分散を繰り返すことを特徴とする、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記原料物質の流速は、内部物質の最小流動化速度の10倍以上であることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記原料物質の流速は、20cm/s以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記炭素源は、炭素数1~4の飽和及び不飽和炭化水素からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記触媒は、金属触媒であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記金属触媒は、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、鉛(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)及び金(Au)のいずれかの金属またはこれらの合金から選択されたいずれかであることを特徴とする、請求項5に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは、直径が0.4~10nmであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブは、1~10層の層からなることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記流動床反応器は、0.05~1.5bar.gの圧力を有するものである、請求項1~8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項10】
前記流動床反応器は、300~1600℃の温度を有するものである、請求項1~9のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1991年に飯島博士によって発見されたCarbon nanotube(以下、カーボンナノチューブ)は、チューブの形状を有するとともに、数ナノメートルの直径を有する炭素物質である。上記カーボンナノチューブは、シリンダ状に巻かれた層数に応じて単層カーボンナノチューブ(Single walled carbon nanotube)、二層カーボンナノチューブ(Double walled carbon nanotube)、多層カーボンナノチューブ(Multi walled carbon nanotube)に区分することができる。
【0003】
単層カーボンナノチューブは、単に一層の黒鉛板が巻かれている構造で、直径は0.5~3nmである。二層カーボンナノチューブは、二層の単層カーボンナノチューブが同心軸をなしている形状で、直径は1.4~3nmである。多層カーボンナノチューブは、層数が3~15層に重なっており、直径が5~100nmを有する物質である。
【0004】
カーボンナノチューブは、一次元的構造と黒鉛固有の電気的構造に起因して、非常に低い抵抗値を有し、例えば単層カーボンナノチューブの抵抗値は、銅の1/100に過ぎない。カーボンナノチューブの電流輸送能力は、銅の1000倍に及ぶ独特な電気的特性を有する。また、炭素-炭素間のsp2結合をなしているため、非常に高い剛性や強度といった機械的特徴を有し、ダイヤモンドの2倍に及ぶ熱伝導度と、大気中で750℃まで熱安定性に優れるという特徴を有している。
【0005】
カーボンナノチューブは、巻き具合に応じて導体または半導体の性質を帯び、直径の大きさに応じてエネルギーギャップが変わり、一次元的構造を有するため、特異な量子効果を奏する。カーボンナノチューブは、かかる特異な構造及び機能を有するため、ディスプレイ分野、メモリ素子、水素貯蔵物質及びナノ複合材料の分野で活発な適用研究が進んでいる。特に、エンジニアリングプラスチック複合体に電気伝導性を付与して電気及び電子製品などに適用することで、電磁波シールド、帯電防止などの高付加価値の材料として用いられている。
【0006】
かかるカーボンナノチューブは、一般的に高価であるため、様々な分野において有効に適用させるためには、カーボンナノチューブを安価で大量に合成することが求められる。
【0007】
カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザー蒸着法、プラズマ化学気相蒸着法、熱化学気相蒸着法、気相合成法など様々な方法により合成されている。
【0008】
アーク放電法では、二つの電極の間で放電が起こると、陽極として使用されたグラファイト棒から落ちた炭素クラスタが、低い温度の陰極グラファイト棒に凝縮して集められることにより、カーボンナノチューブが製造される。
【0009】
レーザー蒸着法では、1200℃のオーブンの中にある黒鉛ターゲット(Target)にレーザーを照射して黒鉛を気化させる。気化した黒鉛は、コレクタ(collector)に吸着した後に凝縮して集められる。プラズマ化学気相蒸着法では、カーボンナノチューブを成長させる基板(Si、SiO2、Glass基板に触媒金属を蒸着した物質)を下部電極上に置き、原料ガスを上部電極側から供給しRFグロー放電を起こして、基板上にカーボンナノチューブを合成する。熱化学気相蒸着法では、カーボンナノチューブの合成温度に維持される反応器内の触媒金属を蒸着した基板に炭化水素ガスを供給してカーボンナノチューブを合成する。
【0010】
しかし、かかる技術を用いたカーボンナノチューブの合成方法は、大量生産が困難であるという欠点を有する。一方、流動床反応器を用いたカーボンナノチューブの合成方法(KR2007-0141265、KR2007-0077714、JP2006-116111)や連続工程のために縦型(vertical)CVD装置を用いた合成技術(US2005-663451)では、カーボンナノチューブの大量合成が可能であるという利点から、最近注目されている。
【0011】
大量生産のために適用される縦型CVDの場合、滞留時間が極めて短いという欠点と、滞留時間を制御することが困難であるという欠点を有する。しかし、流動床チャンバー内に炭素源(carbon source)のガスを用いて触媒を流動させることで触媒の表面にカーボンナノチューブを合成する方法は、触媒の滞留時間が制御可能であり(合成時間が制御可能)、大量生産が可能であるという利点を有する。
【0012】
カーボンナノチューブは依然として複雑な方式で形成される。かかるカーボンナノチューブの形成及び形成されたカーボンナノチューブの特性は、触媒として使用された金属成分又は様々な金属成分の組み合わせ、使用された支持体物質、触媒と支持体との間の相互作用、反応物ガス及びその部分圧、水素又は追加のガス混合、反応温度及び滞留時間ならびに使用された反応器に依存する。したがって、製造工程を最適化させることが、産業的工程において特別な課題となっている。
【0013】
流動床においてカーボンナノチューブを製造する際、一般的には、気泡形成流動化(bubbling fluidization)領域を維持するために終端速度(U
t:terminal velocity)以下の流速範囲で操業を行う(
図1の(b)~(d)領域)。気泡形成流動化領域は、粒子が反応床(bed)外に飛散しない領域であるため、安定した操業条件に有利であるが、カーボンナノチューブの生産量を増大させるには限界がある。
【0014】
例えば、韓国特許公開第2014-0110100号公報では、流動床反応器内のガス速度を粒子の下降速度未満に設定するか、または排出された粒子を再循環させる装置を用いてカーボンナノチューブを製造することを目的としている。
【0015】
特開2016-108175号公報では、アセチレンからカーボンナノチューブを製造する方法において、支持体同士の衝突によるカーボンナノチューブの剥離抑制の観点から、原料ガスの線流速を20cm/s以下、より好ましくは15cm/s以下に制限している。
【0016】
韓国特許公開第2012-0001448号公報では、隔壁が形成された特殊な流動床反応器を用いてカーボンナノチューブを製造することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2016-108175号公報
【文献】韓国特許公開第2012-0001448号公報
【文献】韓国特許公開第2014-0110100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、従来の流動床反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法において、カーボンナノチューブの収率及び純度の限界を克服するために案出されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一側面によると、流動床反応器に触媒と炭素源を供給してカーボンナノチューブを製造する方法であって、上記流動床反応器は、膨張部(expanded zone)を備え、流動床反応器に供給される原料物質の流速(線速度)は、流動床反応器の内部物質の終端速度以上であることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0020】
上記原料物質の流速は、膨張部(expanded zone)で終端速度以下に減少するものである。
【0021】
上記原料物質の流速は、最小流動化速度の10倍以上であることができる。
【0022】
上記原料物質の流速は、20cm/s以上であることができる。
【0023】
上記炭素源は、炭素数1~4の飽和及び不飽和炭化水素からなる群から選択された一つ以上であることができる。
【0024】
上記触媒は、金属触媒であることができる。
【0025】
上記金属触媒は、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、鉛(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)及び金(Au)のいずれかの金属またはこれらの合金から選択されたいずれかであることができる。
【0026】
上記カーボンナノチューブは、直径が0.4~10nmであることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、流動床において触媒反応によりカーボンナノチューブを製造する際に、流速を気泡形成流動化(bubbling fluidization)領域の流速より大きくすることにより、乱流(turbulent)あるいは高速流動化(fast fluidization)領域で操業を行った際にカーボンナノチューブの収率及び純度が飛躍的に上昇する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】流動床反応器の流動様式を概略的に示した図である。
【
図2】流動床反応器において流速が大きい場合を示した図である。
【
図3】膨張部を備えた流動床反応器を概略的に示した図である。
【
図4】膨張部を備えた流動床反応器における、流速による内部物質の挙動を概略的に示した図である。
【
図5】上記流動床反応器から得られたカーボンナノチューブの収率及び量を示した図である。
【
図6】上記流動床反応器から得られたカーボンナノチューブの収率及び量を示した図である。
【
図7】上記流動床反応器から得られたカーボンナノチューブの純度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明において、流動床反応器は、膨張部(expanded zone)を備え、流動床反応器に供給される原料物質の流速(線速度)は、流動床反応器の内部物質の終端速度以上であることが好ましい。
【0030】
気泡形成流動化領域を維持する流速では、床の膨張により濃厚相の高さが増加するが、それ以上のガス流速によりカーボンナノチューブ(CNT)の粒子飛散量が急激に増加して、濃厚相の高さは停滞またはやや減少し、濃厚相と希薄相が混在した遷移領域を含む高さは、増加する傾向を示す。かかる現象が現れ始める流速を該当カーボンナノチューブの終端速度と規定する。
【0031】
流速を気泡形成流動化速度(Bubbling fluidized velocity)より大きくして終端速度U
t以上となった場合には、反応床(bed)内の流動様式(flow regime)が変わる(
図1の(g)~(h)領域)。即ち、粒子と流体がさらに激しく混合され、反応床外に粒子が飛散し始める(
図2及び
図3)。この際、希釈(dilute)領域(反応床の上部分において粒子が少ない部分)に上昇した粒子は、膨張部(expanded zone)に進入すると、流速が急減して終端速度U
t未満の条件となって再び下降する。粒子は、このように上昇と下降を繰り返し(
図4)、この場合、内部物質は凝集及び分散を繰り返すようになる。
【0032】
流動化速度に対する影響が触媒粒子と製造されたカーボンナノチューブ粒子に同様に作用する場合、つまり、最小流動化速度U
mf及び終端速度U
tの値がほぼ同様である場合、終端速度U
t以上で混合特性が良好となって、カーボンナノチューブの収率が飛躍的に上昇する(
図5及び
図6)。したがって、カーボンナノチューブを製造する際に生産量の増大につながるように、従来の流速範囲より終端速度U
t以上で操業を行うことが好ましい。
【0033】
上記流動床反応器に供給される原料物質の流速は、流動床反応器の内部物質の終端速度以上であれば、特に限定しないが、最小流動化速度の10倍以上であることが好ましく、より具体的には、上記原料物質の流速は20cm/s以上であることが好ましい。一方、その上限は、膨張部の設計基準に応じて変更されることができるが、膨張部で終端速度以下の流速を有することが好ましい。
【0034】
流動床反応器は、大気圧または大気圧を超える圧力でカーボンナノチューブを製造することができる。0.05~1.5bar.gの絶対圧で工程を行うことができ、0.5~1.0bar.gの圧力が特に好ましい。
【0035】
反応器を外部加熱するにあたって、温度は300℃~1600℃の温度範囲で様々に変更されてもよい。しかし、かかる温度は、分解による炭素の沈着が十分な速度で起こるように十分に高くなければならず、且つガス状炭化水素の顕著な自己-熱分解を生じさせてはならない。なぜなら、これにより、結果として高い含有量の非晶質炭素を有する物質が形成されるためである。有利な温度範囲は、500℃~800℃であり、特に、500℃~600℃の分解温度が好ましい。
【0036】
触媒は、実際に反応チャンバーに導入する前に還元させることができ、触媒を主に触媒活性的金属の酸化物形態で添加、または沈殿した水酸化物または炭酸塩の形態で添加することもできる。従来技術に広く記載されている触媒としては、一般的に遷移金属またはその合金が適当である。本発明では、一般的な属性を制限することなく、いくつかの例のみを説明する。
【0037】
上記のような方法は、マンガン、鉄、コバルト及び支持体物質を含むとともに、鉄、コバルト及びマンガンを金属形態の活性成分の含有量を基準に2~98モル%の量で含有する触媒において好ましく用いられる。さらに好ましくは、モリブデンをさらに含む触媒において用いられる。
【0038】
支持体上に担持される触媒の直径は、0.2nm~2000nmであることが好ましく、10nm~1000nmであることがより好ましい。触媒の直径は、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。触媒担体層と触媒との組み合わせとしては、カーボンナノチューブの生産性の観点から、触媒担体層がAl2O3であり、触媒がFeであることが好ましい。また、直径が小さいカーボンナノチューブを効率的に得る観点からは、触媒担体層がAl2O3であり、触媒がCoであることが好ましい。
【0039】
支持体は、耐熱性を有する粒子型耐熱性ビーズで構成されている。支持体の材料としては、Si、Al、Mg、Zr、Ti、O、N、C、Mo、Ta及びWからなる群から選択される1種以上の元素を含むことが好ましい。具体的な材料としては、SiO2、Al2O3及びMgOなどの酸化物、SiN4及びAlNなどの窒化物、SiCなどの炭化物などを挙げることができる。また、Al2O3-SiO2のような複合酸化物であってもよい。
【0040】
支持体の直径は、100μm~2000μmであることが好ましく、200μm~2000μmであることがより好ましい。支持体の直径が100μm以上であると、反応管内に支持体が安定的に支持されて、効率的に流動しやすい傾向があり、また、同一の反応管内で支持体とカーボンナノチューブとを分離しやすい傾向がある。一方、支持体の直径が2000μm以下であると、支持体が流動しやすくなる傾向がある。
【0041】
本発明の一具体例として、支持体上の触媒担体を含むことができる。実施例に応じて、触媒担持工程において支持体上に触媒担体層を形成した後、触媒担体層上に触媒を担持するか、または触媒担体層無しに支持体に触媒を担持することもできる。
【0042】
触媒担体としては、Si、Al、Mg、O、C、Mo及びNの中から選択される1以上の元素を含むことが良い。中でも特に触媒担体の前駆体は、SiO2、Al2O3またはMgOなどの酸化物、Si3N4またはAlNなどの窒化物、あるいはSiCなどの炭化物を含む触媒担体層を形成するものでも良い。また、触媒担体の前駆体は、Al2O3-SiO2の複合酸化物を含む触媒担体層を形成するものであってもよい。特に、触媒担体の前駆体は、触媒粒子の安定性の観点から、Al2O3からなる触媒担体層を形成するものであることが好ましい。触媒の前駆体としては、具体的にアルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムsec-ブトキシドなどのアルコキシド、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム、塩化アルミニウムなどを挙げることができる。
【0043】
支持体上に形成される触媒担体層の平均厚さは、1nm~100nmであることが好ましく、1nm~50nmであることがより好ましい。触媒担体層の厚さが1nm以上であると、触媒粒子が触媒担体層に安定的に担持され、オストワルドライプニング(Ostwald ripening)が発生しにくく、カーボンナノチューブが長尺に成長しやすくなる傾向がある。一方、触媒担体層の厚さが100nm以下であると、合成中に触媒粒子が触媒担体層に取り込まれにくく、カーボンナノチューブが長尺に成長しやすくなる傾向がある。
【0044】
カーボンナノチューブを製造するために、脂肪族及びオレフィンのような軽質のガス状炭化水素を個々にまたは混合物として分解する。しかし、アルコール、炭素酸化物、特にCO、ヘテロ原子を有するか、有しない芳香族化合物、及び官能化炭化水素、例えば、アルデヒドまたはケトンが触媒上で分解される限り、それらを使用することもできる。上述の炭化水素の混合物を使用することもできる。
【0045】
特に適当な反応物ガスは、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタンまたはより高分子量の脂肪族、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエンまたはより高分子量のオレフィン、または芳香族炭化水素または炭素酸化物またはアルコールまたはヘテロ原子を有する炭化水素である。短鎖及び中鎖の、即ち、それぞれ1または2~10の炭素数を有する脂肪族またはオレフィン性炭化水素あるいは単核または二核芳香族炭化水素が好ましく用いられる。それぞれ1~4、または2~4の炭素数xを有する脂肪族(CxH2x+2)及びオレフィン(CxHy)が特に好ましく用いられる。
【0046】
工程を行うにあたって、例えば、窒素、水素またはアルゴンのような不活性ガスを添加することで、ガス混合物を適当なガス分配器を介して反応器の下端にある装置に通過させる。ガス混合物中の不活性ガスのモル比は、0.1~0.5であることが好ましい。
【0047】
以下、添付された図面を参照して、本発明の好ましい実施例を説明する。しかし、本発明の実施例は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例
反応に用いられた流動床反応器は、上下方向に直線状に延長され、内径0.15m及び長さ2.0mの導入部と、上記導入部と傾斜して連結され、内径0.30m及び長さ0.65mである膨張部で構成され、反応終了後、カーボンナノチューブを排出するための内径25mmの貫通孔が形成された分散板を備え、その下端からガスを供給し、上端からガスを排出する構造となっている。また、加熱部は、導入部及び膨張部の所定高さまでの区間の周囲を覆って導入部及び膨張部を加熱する加熱装置である。
【0049】
Al
2O
3支持体に鉄及びコバルトが担持された130ミクロンの粒径及び1300kg/m
3の密度を有する触媒を、
図3に示された構造を有する流動床反応器に投入した。反応器内における触媒の温度を690℃に維持し、不活性ガスとして水素(モル比0.2)及びエチレンを530℃の温度にして反応器に導入した。使用された触媒及びカーボンナノチューブの物理的特性を表1に示した。
【0050】
冷間モデル(Cold model)から流体力学的特性を確認した結果、Ut値は22~24cm/sと予想され、この流速を前後に流動様式が変わることが予想されることから、炭化水素及び触媒の流動化速度を表2に記載されたように変更させて30分間反応させた。
【0051】
流速が増加すると、流量が多くなるため(即ち、流動化速度が高いほど)同一のシステム内における反応圧力は比例してやや増加する。一方、円滑な流動化のために同様の方法で製造したカーボンナノチューブを250g充填した後、触媒は、流速に応じて同一の比流速(specific velocity)を維持できるように充填した。
【0052】
【0053】
【0054】
反応実験の結果、収率(yield)及び触媒当たりのカーボンナノチューブの生産量は、予測したU
t値を基準に、それ以下より以上である場合に飛躍的に増加したことが確認され(
図4~5参照)、触媒当たりのカーボンナノチューブがより多く生産されたため、最終製品の純度(purity)も、これを起点に大きく変化することが確認できた(
図6参照)。
【0055】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。