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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240213BHJP
   G03G 21/20 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G21/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018127991
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2019066824
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-07-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017194103
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 祥
(72)【発明者】
【氏名】田中 正志
(72)【発明者】
【氏名】衣川 達也
(72)【発明者】
【氏名】村田 直史
【合議体】
【審判長】藤本 義仁
【審判官】殿川 雅也
【審判官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109869(JP,A)
【文献】特開2015-176010(JP,A)
【文献】特開2019-12114(JP,A)
【文献】特開2010-231139(JP,A)
【文献】特開2016-4231(JP,A)
【文献】特開2015-84054(JP,A)
【文献】特開2013-41118(JP,A)
【文献】特開2014-225004(JP,A)
【文献】特開2002-296954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
G03G 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、
筒状の伝熱部材と、前記伝熱部材の内面に接触する加熱部材と、を有し、前記トナー画像が形成された前記記録材を、前記伝熱部材を介した前記加熱部材からの熱で加熱して、前記トナー画像を前記記録材に定着する定着部と、
前記加熱部材の目標温度を設定し、設定した前記目標温度となるように前記加熱部材の発熱を制御する制御手段と、
を有する電子写真記録技術を用いた画像形成装置において、
前記制御手段は、
前記記録材の領域に関して前記記録材の搬送方向に複数の領域に区切り、
前記複数の領域のそれぞれに対応づけて、前記記録材の後端側に向うに従って大きくなるようにZone係数を設定し、
前記記録材に形成する前記トナー画像に対応する画像データにおける所定濃度以上の濃度を有する画素を印字部としたとき、前記印字部が位置する領域に対応する前記Zone係数を前記印字部に対して重み付けした値を定着重み指数として算出し、
前記画像データにおける任意の位置座標(n、m)の画素を含む所定の検査範囲内の各画素の前記定着重み指数を足し合わせた値であるCnmを算出し、
前記検査範囲の位置を前記伝熱部材の一回転周期と等しい長さだけ前記記録材の搬送方向下流側へオフセットし、オフセットした前記検査範囲内の各画素の前記定着重み指数を足し合わせた値を前記Cnmに加算し、
前記任意の位置座標について行った前記Cnmに加算する処理を、前記画像データにおける全ての位置座標の画素について実行するとともに、前記全ての位置座標の画素について実行した前記Cnmのうちの最大値を定着画素カウントMax_Cとして取得し、
前記記録材の前記領域の全面にベタ黒画像を印字した場合の定着に必要となる前記目標温度と、低印字の文字画像の定着が可能な前記目標温度との温度差、及び、前記定着画素カウントMax_Cに基づいて、前記記録材に前記トナー画像を定着させるときの前記目標温度の補正量を算出し、算出した補正量で補正した温度を前記目標温度として設定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記定着部は更に、前記伝熱部材を介して前記加熱部材と共に前記記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材を有することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、画像が形成された前記搬送方向の先端が前記ニップ部に到達する前に、前記目標温度を設定することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記記録材に形成される画像をビットマップ化して前記画像データを生成するプリント画像処理手段を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記加熱部材の温度を検知する温度検知手段と、
前記温度検知手段によって検知される前記加熱部材の検知温度を基にPID制御又はPI制御を行うことによって前記加熱部材の温度を制御する定着制御手段と、を備え、
前記定着制御手段は、前記PID制御又は前記PI制御のP項ゲインとI項ゲインとD項ゲインのすべて若しくは何れかを前記検知温度によって変更することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記加熱部材の温度を検知する温度検知手段と、
前記温度検知手段によって検知される前記加熱部材の検知温度を基にPID制御又はPI制御を行うことによって前記加熱部材の温度を制御する定着制御手段と、を備え、
前記定着制御手段は、前記PID制御又は前記PI制御の積分制御の計算値を前記検知温度によって変更することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタなどの画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式の複写機やプリンタは、記録材に画像を形成する画像形成部と、記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部(定着装置)と、を有している。定着装置としてフィルム加熱方式の装置が知られている。特許文献1にはこのタイプの定着装置が開示されている。
【0003】
フィルム加熱方式の定着装置は、通電によって発熱する発熱抵抗体を有するヒータと、ヒータに内周面が接触しつつ回転する筒状のフィルムと、フィルムを介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有している。画像形成部によって未定着のトナー画像が形成された記録材は定着部のニップ部によって搬送されつつ加熱され、これによってトナー画像は記録材上に定着される。
【0004】
フィルム加熱方式の定着装置では、フィルムの熱容量が小さいため、高印字の画像パターンが形成されている記録材がニップ部を通過すると、画像パターンによってフィルムの熱が奪われフィルム温度の低下が発生する。
【0005】
従って、高印字の画像パターンの記録材搬送方向の長さがフィルム周長より長い場合や、フィルムの回転周期に合わせて高印字の画像パターンが繰り返される場合に、記録材後端側の画像パターンの定着性が低下してしまう。また記録材がニップ部を通過する際に、記録材によってフィルムの熱が奪われフィルム温度が低下するため、記録材後端に行くほどフィルム温度が下がりトナー画像の定着性が低下してしまう。
【0006】
また、加圧ローラに関しても、ウエイトタイムの短縮化(クイックスタート性:オンデマンドで作動)や省電力化を図るために、弾性層の熱容量を小さくした場合は、両面印字の2面目の定着温度は、1面目のトナーの載り量の影響を受けてしまう。そのため1面目のトナー載り量が多いと、トナーの熱容量が紙の熱容量に加わるため、2面目の定着温度を高くする必要があった。
【0007】
さらに1面目の高印字の画像パターンの記録材搬送方向の長さが加圧ローラ周長より長い場合や、加圧ローラの回転周期に合わせて高印字の画像パターンが繰り返される場合に、記録材後端側の加圧ローラ温度が低下してしまうことがあった。
【0008】
従来、画像データから求めたトナー載り量に応じて、定着装置の定着温度を制御する技術が知られている。特許文献2は、入力された画像データに画像間引き処理を施したのち、ページ内ドットの最大トナー量を判定し、トナー載り量の多い画像を定着する場合、少ない画像を定着する場合よりも定着装置の定着温度を高くする方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭63-313182号公報
【文献】特開2016-4231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示された従来の構成では、ページ内ドットの最大トナー載り量が同じであれば同じ定着温度となる。そのため、定着性が低下する記録材後端側に在る記録材搬送方向に長い画像パターンを十分に定着できるように定着温度を設定すると、定着温度設定が最も高くなり、消費電力が最大になる。この設定の場合、記録材先端側にのみ印字され最大トナー載り量が記録材後端側の画像パターンと同じである他の画像パターンでは、フィルム温度の低下が起きないため定着性が良いにも関わらず、記録材後端側の画像パターンと定着温度が同じになってしまう。
【0011】
従って、記録材先端側の画像パターンは消費電力を抑えても定着できるにも関わらず、定着温度を高く設定してしまうため、無駄なエネルギーを消費してしまい、省エネルギー性が損なわれる。一方、消費電力を抑えるために定着温度を低く設定すれば、定着性が低下する記録材後端側の画像パターンに定着不良が発生してしまう。
【0012】
本発明の目的は、画像の定着不良の抑制と省エネルギー性を両立できる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明に係る画像形成装置は、
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、
筒状の伝熱部材と、前記伝熱部材の内面に接触する加熱部材と、を有し、前記トナー画像が形成された前記記録材を、前記伝熱部材を介した前記加熱部材からの熱で加熱して、前記トナー画像を前記記録材に定着する定着部と、
前記加熱部材の目標温度を設定し、設定した前記目標温度となるように前記加熱部材の発熱を制御する制御手段と、
を有する電子写真記録技術を用いた画像形成装置において、
前記制御手段は、
前記記録材の領域に関して前記記録材の搬送方向に複数の領域に区切り、
前記複数の領域のそれぞれに対応づけて、前記記録材の後端側に向うに従って大きくなるようにZone係数を設定し、
前記記録材に形成する前記トナー画像に対応する画像データにおける所定濃度以上の濃度を有する画素を印字部としたとき、前記印字部が位置する領域に対応する前記Zone係数を前記印字部に対して重み付けした値を定着重み指数として算出し、
前記画像データにおける任意の位置座標(n、m)の画素を含む所定の検査範囲内の各画素の前記定着重み指数を足し合わせた値であるCnmを算出し、
前記検査範囲の位置を前記伝熱部材の一回転周期と等しい長さだけ前記記録材の搬送
方向下流側へオフセットし、オフセットした前記検査範囲内の各画素の前記定着重み指数を足し合わせた値を前記Cnmに加算し、
前記任意の位置座標について行った前記Cnmに加算する処理を、前記画像データにおける全ての位置座標の画素について実行するとともに、前記全ての位置座標の画素について実行した前記Cnmのうちの最大値を定着画素カウントMax_Cとして取得し、
前記記録材の前記領域の全面にベタ黒画像を印字した場合の定着に必要となる前記目標温度と、低印字の文字画像の定着が可能な前記目標温度との温度差、及び、前記定着画素カウントMax_Cに基づいて、前記記録材に前記トナー画像を定着させるときの前記目標温度の補正量を算出し、算出した補正量で補正した温度を前記目標温度として設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、画像の定着不良の抑制と省エネルギー性を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】画像形成装置の概略構成を示す断面図
図2】プリンタ制御装置のシステム構成を示すブロック図
図3】定着装置の概略構成を示す断面図
図4】定着装置を記録材搬送方向上流側から見たときの図
図5】実施例1の温度制御シーケンスを説明するための図
図6】実施例1における定着画素カウントを算出する手順を示すフローチャート
図7図6のフローチャートの処理内容を示す模式図
図8】温度補正制御シーケンスを説明するための図
図9】実験例で用いた画像パターンを示す図
図10】実施例2における定着画素カウントを算出する手順を示すフローチャート
図11図10のフローチャートの処理内容を示す模式図
図12】実施例2の温度制御シーケンスを説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の好適な実施形態は、本発明における最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は以下の実施形態により限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において他の種々の構成に置き換えることは可能である。
【実施例1】
【0017】
図1を参照して、本発明に係る画像形成装置を説明する。図1は電子写真記録技術を用いた画像形成装置(本実施例においてはモノクロレーザープリンタ)100の一例の概略構成を示す断面図である。
【0018】
画像形成装置100は、記録材に画像を形成する画像形成部10と、記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部(以下、定着装置と記す)20と、を有している。
【0019】
画像形成部10において、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)1は、モータ(不図示)によって矢印方向に所定のプロセススピード(周速度)にて回転駆動される。
【0020】
この感光ドラム1は、感光ドラムの外周面(表面)が帯電ローラ(帯電手段)2によって、所定の極性・電位に一様に帯電される。感光ドラム1表面の帯電面には、レーザスキャナ(露光手段)3から照射されるレーザビームによって静電潜像が形成される。レーザスキャナ3は、画像情報に応じてON/OFF制御された走査露光を行い、感光ドラム1表面の露光部分の電荷を除去して感光ドラム表面に静電潜像を形成する。この静電潜像は、現像装置(現像手段)4によってトナーを用いることにより現像され、可視化される。
【0021】
装置本体100Aに設けられたカセット101に収納されている記録材としての転写材Pはローラ102の回転によって1枚ずつ繰り出される。その転写材Pはローラ103の回転によって感光ドラム1と転写部材5とによって形成された転写部に搬送され、転写材の搬送中に転写部材に転写バイアスが印加されることによって感光ドラム1表面から転写材上にトナー画像が転写される。未定着のトナー画像を担持した転写材Pは定着装置20に送られ、トナー画像は定着装置によって転写材に定着される。定着装置20を出た転写材Pはローラ104の回転によってトレイ105に排出される。
【0022】
トナー画像転写後の感光ドラム1表面はクリーナー6によってクリーニングされる。
【0023】
本実施例に示す画像形成装置100は、解像度600dpi、30枚/分(LTR縦送り:プロセススピード約222mm/s)、耐久寿命10万枚の装置である。
【0024】
(プリンタ制御装置304)
画像形成装置100全体の制御を司るプリンタ制御装置304について、図2を参照しながら説明する。図2はプリンタ制御装置304のシステム構成を説明するためのブロック図である。
【0025】
プリンタ制御装置304は、コントローラインターフェイス305を用いてホストコンピュータ300と接続し通信を行う。このプリンタ制御装置304は、大別して、コントローラ部301と、エンジン制御部302と、に分かれている。
【0026】
コントローラ部301は、コントローラインターフェイス305と、画像処理部303と、を有している。
【0027】
エンジン制御部302は、ビデオインターフェイス310と、ASIC314と、制御手段としてのCPU311と、ROM312と、RAM313と、を有している。更にエンジン制御部302は、定着制御手段としての定着制御部320と、転写材搬送制御部330と、画像形成制御部340を、を有している。ここで、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)は特定用途向け集積回路である。
【0028】
コントローラ部301では、ホストコンピュータ300からインターフェイス305を介して受信した情報を基に画像処理部303のプリント画像処理手段としてのプリント画像処理部403が文字コードのビットマップ化処理を行う。また、コントローラ部301では、グレイスケール画像のハーフトーニング処理等を行う。そして画像処理部303はインターフェイス305を介してエンジン制御部302のインターフェイス310へ画像情報を送信する。
【0029】
画像情報には、レーザスキャナ3の点灯タイミングを制御する情報と、制御温度や転写バイアスなどのプロセス条件を制御するプリントモードと、画像サイズ情報が含まれる。
【0030】
レーザスキャナ3の点灯タイミングの情報は、インターフェイス310を介してASIC314に送信される。ASIC314は、レーザスキャナ3などの画像形成部10の一部を制御する。一方、プリントモードと、画像サイズ情報は、インターフェイス310を介してCPU311へ送信される。
【0031】
CPU311は、必要に応じてRAM313に情報をストアしたり、ROM312若しくはRAM313に保存してあるプログラムを使用したり、ROM若しくはRAMに保存してある情報を参照したりする。そしてこれらの情報を基に、定着制御部320によって定着装置20の制御温度の制御を行ったり、転写材搬送制御部330によってローラ102の動作間隔の制御を行ったりする。また、画像形成制御部340によってプロセススピードや、現像/帯電/転写の制御を行ったりする。
【0032】
またコントローラ部301では、ユーザがコンピュータ300上で行った指示に応じて、プリント命令、キャンセル指示などの指示情報をインターフェイス305を介してエンジン制御部302のインターフェイス310に送信する。その指示情報はCPU311を介して画像形成制御部340に送信され、画像形成制御部が印字動作の開始や中止などの制御を行う。
【0033】
(定着装置20)
定着装置20の構成について、図3図4を参照しながら説明する。図3は定着装置20の概略構成を示す断面図である。図4は定着装置20を記録材搬送方向Xの上流側から見たときの図である。
【0034】
定着装置20は、加熱部材としてのセラミックヒータ21と、ヒータを支持する支持部材としてのホルダー22と、ホルダーを加圧するステイ23と、を有している。更に定着装置20は、筒状の伝熱部材としてのフィルム24と、フィルムを介してヒータとニップ部Nを形成する加圧部材としての加圧ローラ25と、を有している。
【0035】
(フィルム24)
フィルム24は、SUS等の薄い金属製素管や、ポリイミド等の耐熱樹脂とグラファイトなどの熱伝導フィラーを混練したものを筒状に成型した基層の外周面(表面)に離型性層を設けた複合層フィルムである。離型性層は、基層の表面に直接又はプライマー層を介してPFA、PTFE、FEP等をコーティング又はチューブ被覆されている。
【0036】
本実施形態では、フィルム24の基層として、ポリイミドにPFAをコーティングしたものを用いた。フィルム24の総膜厚は70μm、外周長は56mmである。
【0037】
フィルム24は、フィルムの中空部に挿通されたヒータ21およびホルダー22にフィルムの内周面(内面)が摺擦(接触)しながら回転するため、ヒータとフィルム内面、およびホルダーとフィルム内面との間の摩擦抵抗を小さく抑える必要がある。このため、フィルム24内面が摺動するヒータ21およびホルダー22の表面に耐熱性グリース等の潤滑剤を介在させてある。これによってフィルム24はスムーズに回転することが可能となる。
【0038】
(ホルダー22)
ホルダー22は、記録材搬送方向Xに直交する長手方向Yにおいて、加圧ローラ25側の平坦面に設けられた溝22aによってヒータ21を支持している。ヒータ21を支持させたホルダー22の外周にはフィルム24がルーズに外嵌されている。ホルダー22の加圧ローラ25とは反対側の平坦面には、記録材搬送方向Xに直交する長手方向Yにおいて、ホルダー22に強度を持たせるための金属製のステイ23が設置されている。
【0039】
上記のようにホルダー22は、ヒータ11を支持すると共に、ニップ部Nとは反対方向への放熱を防ぐ断熱性の部材であり、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等により形成されている。
【0040】
本実施形態では、ホルダー22として、ホルダーの材質を液晶ポリマーとし、耐熱性260℃、熱膨張率6.4×10-5のものを用いた。
【0041】
(ヒータ21)
ヒータ21は、アルミナ又は窒化アルミから成る細長い基板21aを有している。基板21aの加圧ローラ25側の基板面には、通電によって発熱する発熱抵抗体としての発熱抵抗層21bが基板の長手方向に沿って設けられている。そして発熱抵抗層21bの絶縁と耐摩耗性の為に発熱抵抗層を保護層としてのガラス層21cによって覆っている。
【0042】
本実施形態では、ヒータ21の基板21aの材質にアルミナを用いた。基板21aの寸法は、記録材搬送方向Xの幅6.0mm、記録材搬送方向Xに直交する長手方向Yの長さ260.0mm、記録材厚み方向Zの厚み1.00mmであり、熱膨張率は7.6×10-6/℃である。発熱抵抗層21bは、銀パラジウム合金で形成され総抵抗値20Ω、抵抗率の温度依存性は700ppm/℃である。ガラス層21cは、熱伝導率1.0W/m・K、耐圧特性2.5KV以上、膜厚70μmである。
【0043】
(加圧ローラ25)
加圧ローラ25は、鉄等からなる芯金25aと、芯金25aの外周面上に設けられた弾性層25bと、弾性層の外周面上に設けられた離型層25cと、を有している。弾性層25bとして、絶縁性のシリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱ゴムを発泡したものを用いている。そして弾性層の外周面上に接着層としてプライマー処理されて接着性をもつRTVシリコーンゴムを塗布し、更に離型層25cとして、PFA、PTFE、FEP等にカーボン等の導電剤を分散させたチューブを被覆又はコーティング塗工している。
【0044】
本実施形態では、ローラ外径を20mm、ローラ硬度を48°(Asker-C 600g加重)とした加圧ローラ25を使用している。
【0045】
図4に示すように、記録材搬送方向Xに直交する長手方向Yにおいて、定着装置20の左右のフレームFには、加圧ローラ25の芯金25aの両端部が軸受Bを介して回転可能に支持されている。また左右のフレームFには、ホルダー22、及びステイ23の両端部が支持されている。
【0046】
ステイ23の両端部は加圧バネ27によってフィルム24の母線方向に直交する方向(記録材厚み方向Z)へ荷重147N(15kg・f)で加圧されている。この加圧力によってホルダー22はヒータ21をフィルム24の内周面(内面)に加圧してフィルムの外周面(表面)を加圧ローラ25の外周面(表面)に圧接させる。これによって加圧ローラ25の弾性層25bが潰れて弾性変形し加圧ローラ表面とフィルム表面とによって記録材搬送方向Xに所定幅のニップ部Nが形成される。
【0047】
(加熱定着処理動作)
図2の定着制御部320によってモータM(図4参照)が回転駆動されると、モータの回転が加圧ローラ25の芯金25aの一端部に設けられたギアGに伝達され、これによって加圧ローラは図3の矢印方向へ回転する。フィルム24はフィルム内面がヒータ21のガラス層21cに摺動しながら加圧ローラ25の回転に追従して図3の矢印方向へ回転する。
【0048】
また定着制御部320によって電源(不図示)からヒータ21の発熱抵抗層21bに電力が供給されると、発熱抵抗層が発熱してヒータは急速に昇温する。定着制御部320はヒータ21の温度を検知するサーミスタ(温度検知手段)26(図4)から出力される検知温度に基づいてヒータの温度が所定の定着温度(目標温度:以下、制御温度と記す)を維持するようにヒータへの電力供給量(通電量)を制御する。
【0049】
未定着のトナー画像tを担持する転写材Pはニップ部Nによって挟持搬送されつつ加熱され、これによってトナー画像は記録材上に定着される。
【0050】
(定着制御部320)
図2において、定着制御部320はROM312に保存されている温度制御プログラムに従って動作する。定着制御部320では、サーミスタ26の検知温度を基にヒータ21の温度をトナー画像Tの定着に必要な所定の制御温度に維持する制御を行う。
【0051】
制御方法としては、比例項、積算項、微分項からなるPID制御が好ましい。制御式を以下に示す。
【0052】
f(t)=α1×e(t)+α2×Σe(t)+α3×(e(t)-e(t-1))
・・・式1
t:制御タイミング
f(t):タイミングtでの制御周期内のヒータ通電時間割合(1以上がフル点灯)
e(t):現在tの目標温度と実温度との温度差
e(t-1):前回t-1での目標温度と実温度との温度差
α1~α3:ゲイン定数
α1 P(比例)項ゲイン
α2 I(積分)項ゲイン
α3 D(微分)項ゲイン
式1において、目標温度とはトナー画像tを転写材Pに定着させるのに必要な制御温度であり、実温度とはサーミスタ26の検知温度である。
【0053】
式1の右辺第二項のe(t)は比例制御に対応し、右辺第四項のΣe(t)は積分制御に対応し、右辺第六項の(e(t)-e(t-1))は微分制御に対応している。ここで、α1,α2,α3は制御周期内のヒータ通電時間割合の増減量に重み付けを行う為の比例係数である。定着装置20の特性に応じてα1~α3を設定することで、最適な温度制御を可能にする。f(t)の値に応じて制御周期内でのヒータ通電時間を決定し、不図示のヒータ通電時間制御回路を駆動させヒータ21への供給電力を決定する。
【0054】
また、D項ゲインのα3を0に設定することでP項とI項のみが機能する制御をPI制御とよび、D項が必要でなければ、PI制御で制御してもよい。
【0055】
本実施例では、制御タイミングは制御周期100msec間隔で更新した、P項ゲイン(α1)を0.05℃-1、I項ゲインを0.01℃-1(α2)、D項ゲインを0.001℃-1(α3)とした。f(t)値が1のとき制御周期内の通電時間が最大となり、計算結果が1より大きい場合は制御周期内の最大通電時間通電する設定とした。
【0056】
定着制御部320では、PID制御又は前記PI制御のP項ゲインとI項ゲインとD項ゲインのすべて若しくは何れかを検知温度によって変更してもよい。また定着制御部320では、PID制御又はPI制御の積分制御の計算値を前記検知温度によって変更してもよい。
【0057】
また定着制御部320は、画像形成装置100の印字動作ステップに対応して、定着装置20の制御温度を図5に示す温度制御シーケンスを用いて設定する。
【0058】
図5に、二枚の転写材Pに連続印字する場合の温度制御シーケンスを示す。図5において、横軸は印字動作ステップであり、縦軸は印字動作ステップに対応させて設定された制御温度℃である。
【0059】
二枚の転写材Pに連続印字する場合、図5に示すように、前回転中(印字動作開始から一枚目転写材先端がニップ部Nに突入するまでの期間)は制御温度を180℃に設定している。ここで、前回転とは、加熱定着処理動作を開始する前に加圧ローラ25とフィルム24を所定時間回転させることをいう。
【0060】
一枚目転写材搬送中(一枚目転写材先端がニップ部Nに到達してから一枚目転写材後端がニップ部を抜けるまでの期間)は制御温度を200℃に設定している。
【0061】
転写材間中(一枚目転写材後端がニップ部Nを抜けてから二枚目転写材先端がニップ部に到達するまでの期間)は制御温度を190℃に設定している。
【0062】
上記の制御温度は全面に黒を印字した画像(全面ベタ黒印字画像)が定着できるように設定した温度である。
【0063】
(画像処理部303)
図2に示す画像処理部303は、画像検知手段としての画像検知部401と、補正量算出手段(補正量取得手段)としての制御温度補正量算出部402と、プリント画像処理手段としてのプリント画像処理部403と、を有している。
【0064】
CPU311(制御手段)は、転写材(記録材)に形成する画像に対応する画像データのうち、転写材搬送方向においてフィルム24(伝熱部材)の周長と対応する間隔ごとの複数の画素について、所定濃度以上の画像を形成する画素であるかを解析する。そして、解析結果に応じてセラミックヒータ21(加熱部材)の制御温度(目標温度)を設定する。
【0065】
CPU311は、前記所定濃度以上の画像を形成する画素の数が第1の数である場合は制御温度を第1の温度と設定し、第1の数より多い第2の数である場合は制御温度を第1の温度よりも高い第2の温度と設定する。
【0066】
CPU311はプリント画像処理部403(プリント画像処理手段)でビットマップ化された画像データに基づき、転写材搬送方向においてフィルム24の周長と対応する間隔ごとの複数の画素について、所定濃度以上の画像を形成する画素であるかを解析する。
【0067】
画像検知部401(画像検知手段)は転写材の搬送方向と直交する方向に、前記画像データを複数の領域に分割し、複数の領域のそれぞれにおいて、所定濃度以上の画像を形成する画素の数を算出し、最大画素数を算出する。CPU311はその最大画素数に基づいて制御温度を設定する。
【0068】
以下、より具体的に説明する。
【0069】
(プリント画像処理部403)
プリント画像処理部403は、プリンタに不図示のネットワーク等を介して接続されたホストコンピュータ300等からのプリント指示に基づいて、プリンタが出力可能なビットマップデータに変換するためのプリント画像処理を行う。
【0070】
一般的に文字やグラフィックス、イメージオブジェクトを受け取り、ビットマップ化やスクリーン処理、濃度補正処理が施される。
【0071】
本実施例の画像形成装置100では600dpiの解像度で上記の処理を行った。
【0072】
(画像検知部401)
画像検知部401は、制御温度の補正が必要なトナー画像に対して制御温度に相関のある定着画素カウントを算出する処理を行う。定着画素カウントの算出方法(取得方法)について、図6図7を参照しながら説明する。図6は定着画素カウントを算出する手順を示すフローチャートである。図7図6に示すフローチャートの処理内容を示す模式図である。
【0073】
図6に示す定着画素カウントの算出方法を説明する。
【0074】
<Step1>
転写材先端に相当する位置(図7の転写材左上端)を先端に、印字する転写材の長さ×幅の領域を転写材領域(図7参照)(記録材領域)と定義して600dpiに区切った領域を定義する。
【0075】
<Step2>
Step1で定義した領域に転写材先端からフィルム24の一回転周期と等しい56mm毎にZoneを設定する。これによって図7の模式図の様にzoneの区分けが表現される。Zone毎に定着画素を算出のためのZone係数を設けた。Zone毎のZone係数は表1の様に定義した。
【0076】
【表1】
【0077】
<Step3>
プリント画像処理部403によって600dpiにビットマップ化された画像を、Step1で定義した転写材領域と重ねる。ビットマップ化された画像の各画素の位置座標を(n,m)と表す。
【0078】
<Step4>
ビットマップ化された画像の各画素をStep2で設定したZoneに割りあて、印字部(図7参照)の画素数にZone係数をかけて、各画素に重みをつける(式2参照)。各画素に定着重み指数として、印字部dotにはzone係数の値1を設定し、非印字部dotにはzone係数の値0を設定する(式3参照)。
【0079】
【数1】
【0080】
<Step5>
転写材左上端(図7参照)を起点に236dot(10mm)×236dot(10mm)の検査範囲(破線にて示す四角形状領域)を設定し、検査範囲内の定着重み指数を足し合わせたものを、Cnmとする(式4参照)。ここで、検査範囲を236dot(10mm)×236dot(10mm)に設定したのは次の理由による。検査範囲と同等の大きさの四角形状の印字部がフィルム24の一回転周期56mmで転写材搬送方向に繰り返された場合の定着性と、全面印字(全体印字率100%)の定着性が等しいからである。
【0081】
【数2】
【0082】
<Step6>
Step5で定義した検査範囲から、フィルムの一回転周期と等しい1323dot(56mm)転写材搬送方向下流側へオフセットした検査範囲の定着重み指数を積算し、Cnmに加算する。このとき検査範囲が転写材領域からはみ出していない場合は、更に1323dot(56mm)転写材搬送方向下流側へオフセットした検査範囲の定着重み指数を積算しCnmに加算する。この処理は検査範囲が転写材領域からはみ出るまで繰り返す。
【0083】
図7の矢印Aはこの検知範囲を1323dot(56mm)転写材搬送方向下流側へ繰り返す処理を模式的に表したものである。
【0084】
<Step7>
Step1からStep6までの処理を各画素のすべての位置座標(n,m)について計算し、Cnmの最大値を検知画像の定着画素カウント(Max_C)とする。つまり、検知画像について、定着画素カウント(Max_C)とは記録材搬送方向の最大画素数のことである。
【0085】
(制御温度補正量算出部402)
補正量算出部402は、上記の定着画素カウント(Max_C)に基づいて検知画像の定着に必要な制御温度の補正量を算出する処理を行う。制御温度補正量の算出方法を説明する。ここでは、転写材PのサイズをA4として計算方法を例示する。A4以外のサイズについては転写材サイズの定着性能によって計算式を決定するのが好ましい。
【0086】
本実施例では、制御温度補正量を以下の計算式で算出する。
【0087】
制御温度補正量=INT(2.39e-5×(Max_C-835440))
・・・ 式5
式5において、係数2.39e-5は次のようにして導き出した値である。全面ベタ黒印字画像の定着性を良好に保つために必要な転写材搬送中の制御温度200℃と、低印字の文字画像が定着できる制御温度180℃の温度差20℃を、A4サイズの用紙で全面印字の際の(Max_C)の値835440で割った値である。
【0088】
補正量算出部402では、転写材搬送方向に繰り返される画素の繰り返し回数が多いほど制御温度補正量を高くする。また補正量算出部402では、転写材搬送方向に繰り返される画素が転写材搬送方向下流側にあるほど制御温度補正量を高くする。これは表1のように転写材搬送方向下流側(記録材搬送方向下流側)に向うに従ってZone係数が大きなっていることに因る。
【0089】
(制御温度補正制御処理)
図8はエンジン制御部302のCPU311によって実行される温度補正制御シーケンスの説明図である。
【0090】
図8において、点線部は制御温度に補正の無い温度制御シーケンス(図5参照)の制御温度に対応しており、実線が本実施例の温度補正時に変更される制御温度である。
【0091】
図2において、ホストコンピュータ300から印字命令と画像がインターフェイス305へ送信されると、画像処理部303は受信した画像をプリント画像処理部403がビットマップ化する。そしてそのビットマップ化した画像情報を基に画像検知部401が前述の定着画素カウントMax_Cを算出する。次に補正量算出部402が定着画素カウントMax_Cを基に制御温度補正量を算出する。
【0092】
エンジン制御部302のCPU311は、コントローラ部301からの印字命令に基づき、印字動作を開始する。印字動作開始時は図5に示す制御温度で印字動作を開始する。
【0093】
図8に示すように、一枚目転写材先端のニップ部N到達からフィルム24一周前のタイミング(同図のフィルム一周前タイミング)において、一枚目転写材に印字するトナー画像に対応した制御温度補正量を算出する。そして制御温度180℃よりも低い制御温度に変更する。そして一枚目転写材後端がニップ部Nから抜けたタイミングで制御温度補正を終了する。
【0094】
その後、二枚目転写材先端のニップ部N到達からフィルム24一周前のタイミング(同図のフィルム一周前タイミング)において、二枚目転写材に印字するトナー画像に対応した制御温度補正量を算出し、制御温度190℃よりも低い制御温度に変更する。
【0095】
つまり、画像検知部401によって、記録材に形成される画像に、濃度が所定濃度以上であって且つ記録材搬送方向における間隔が前記伝熱部材の周長と一致する画素があるか否かを検知する。そして、ある場合はない場合よりも、CPU311は制御温度を高く設定する。
【0096】
(本実施例の効果を示す実験の説明)
次に具体的な実験例について説明する。本実験例では、本実施例と比較例1、2の画像形成装置の制御温度補正において、画像毎の定着性と消費電力を比較する。本実験例の結果は上記の画像検知部401による検知画像の定着画素カウント(Max_C)に基づいて制御温度補正を行った結果を示す。
【0097】
比較例1は転写材全体の印字率によって制御温度を決定する方法であり、全面印字(印字率100%)では制御温度を変更せず、中間印字率の画像では(1-印字率)×20℃の制御温度補正を行う(印字率0なら-20℃)。
【0098】
比較例2では、画像によらず良好な定着性を得るため、画像によらず全面印字で定着可能な20℃アップの制御温度に設定する。
【0099】
本実験では、気温25℃、湿度50%の環境で、以下に指定する画像パターンが形成された用紙をニップ部Nに100枚連続搬送させて確認を行った。用紙はCANON Red Label 80g/cm2 (用紙サイズA4)を用いた。
【0100】
本実験で用いた画像パターンを図9に示す。
【0101】
表2は本実施例の効果を示すための実験に用いた図9の画像の特徴を示した一覧表である。表2には、本実施例に示す画像検知から定着画素カウントを算出した結果と、定着画素カウントを基に制御温度補正量を算出した結果を示している。また表2には、全体印字率と比較例1における制御温度補正量も示している。
【0102】
【表2】
【0103】
図9の画像3を用いて、本実施例の定着画素カウントの算出方法を例示する。
【0104】
用紙サイズはA4、画像3は用紙の左1/3に用紙先端からフィルム3周期の長さの印字部を有する(56mm×3)画像である。
【0105】
図6のフローチャートに従い説明する。
【0106】
Step1-Step4までは画像に寄らない処理のため割愛する。
【0107】
先ず左上端の(0,0)座標で計算を行う。Step5の検索範囲では検索は全て印字部であるので、Co,oは以下の計算になる
Co,o=236×236×1 …式6
=55696
次にstep6において、検索範囲を用紙搬送方向下流側へオフセットして積算する。
【0108】
用紙がA4(298mm)サイズであるので、用紙上をフィルム(56mm)は5周できる。そのため、検索領域のオフセット回数は4回である。また、用紙はフィルム3周期の長さの画像を有し、その画像の用紙搬送方向下流側には画像が無いので検索範囲の定着重み指数の積算値は以下となる。
【0109】
オフセット一回目=236×236×2
オフセット二回目=236×236×3
オフセット三回目= 0× 0×4
オフセット四回目= 0× 0×5
よって
Co,o=236×236×1+236×236×2+236×236×3+0×0×4+0×0×5
=334176 …式7
次にstep7で全ての位置座標について、Cnmを算出する。
【0110】
画像3では画像が用紙領域先端(転写材領域先端)からフィルム3周期で続いているので、フィルム3周分(オフセット2回分)の積算を行っているCo,oが最大値と等しい。よって、画像3の定着画素カウント(Max_C)は334176である。
【0111】
表3に、本実験例の画像毎の定着性と消費電力を示す。
【0112】
表3において、定着性の○は、定着不良による画像の欠けなどが無い良好な定着状態であることを表している。定着性の△は、定着不良による画像欠けが軽微に発生していることを表している。定着性の×は、定着不良による画像欠けが発生していることを表している。
【0113】
消費電力は本実験で画像が形成された用紙をニップ部Nに100枚連続搬送させて画像の定着を行った際の定着装置が消費した電力の積算値である。制御温度補正量については、本実施例の制御温度補正量の算出による画像毎の制御温度補正量と、比較例1における画像毎の制御温度補正量を示している。
【0114】
【表3】
【0115】
本実施例の画像形成装置の効果について説明する。本実施例の画像形成装置では、画像の検知結果から定着画素カウントを算出しそれに応じた制御温度補正を行ったため、画像1から画像6全て定着性が良好である。
【0116】
画像1は、全面印字であるのでフィルムの回転周期に合わせて印字部の画素が繰り返されるため、トナーの熱容量によってフィルム温度が印字されていない画素部に比べ低下した。この温度低下のために本実施例の画像検知による制御温度補正を行い、制御温度を変更しなかった。これにより画像1では全面に印字した画像を定着させられる制御温度の設定となったため、定着性が良好であった。
【0117】
画像2から画像6は、フィルムの回転周期位置に印字されていない部分があるため、初期設定より低い制御温度でも定着が可能となる。よって、画像の検知結果から定着画素カウントを算出し、それに応じた制御温度補正を行うことで、制御温度を適切に低下(変更)させた。これにより、定着性を良好に保ちつつ消費電力を画像1に比べて低下させることができた。特に、画像5では消費電力が25.7Whと最も小さくできた。
【0118】
画像5は、図9に示すように、印字部の画素がフィルム一周目のZone1のみに存在するため、印字部がフィルムの回転周期で繰り返すことによるフィルム温度の低下が発生していない。さらに、印字部の位置が用紙先端側であるため用紙によるフィルム温度の低下も発生していない状況のため、定着性が良い画像である。よって、本実施例の画像の検知結果に基づく制御温度補正量も小さく設定した。これにより補正後の制御温度が本実験で用いた画像の中で最も低くなった。これにより定着装置の消費電力を最も小さくできた。
【0119】
一方、制御温度補正量の最も高い画像1、画像2では消費電力が最も大きく28.3Whであった。よって本実施例では、定着性の良い画像である画像5に合わせて制御温度を補正することによって最も消費電力の大きい画像1、画像2に比べおよそ9%の省エネルギーを実現することが可能となった。
【0120】
次に、比較例1について説明する。
【0121】
比較例1では、画像の全体印字率に基づいて制御温度補正を行っているため、制御温度補正量が画像パターンの定着性と一致していない場合がある。
【0122】
画像2は、画像左端1/3を印字しているため、画像の印字率としてしては33%である。しかしながら、印字部の画像が用紙搬送方向へ先端から後端まで連続しているため、この画像パターンの定着性は全面印字と同じである。しかしながら、制御温度補正により制御温度を-13℃にしてしまったため、定着不良が発生した。
【0123】
画像3、画像4も同様に用紙搬送方向に画像が連続しているため、用紙搬送方向にフィルムの回転周期の画像繰り返しがある。よって定着性がよくない画像パターンである。しかしながら、印字率で制御温度を補正すると制御温度補正量が大きすぎてしまったため、定着不良が発生した。
【0124】
一方、画像5は、フィルムの回転周期の繰り返しが無く、さらにフィルム温度が用紙によって奪われない用紙先端に画像があるため、定着性の良い画像パターンである。しかしながら、比較例1では、印字率に応じて制御温度を補正するため、定着に必要な制御温度より制御温度を高く設定してしまう。よって消費電力が26.1Whと本実施例の25.7Whより大きくなり、本実施例と比較して約2%省エネルギー性が損なわれた。
【0125】
画像6では、比較例1と本実施例の制御温度補正量が同じになったため、定着性も消費電力も同じとなった。
【0126】
次に、比較例2について説明する。
【0127】
比較例2では、画像パターンによらず制御温度補正を行わないため、画像1から画像6全て定着性が良好であった。しかしながら、画像5など定着性の良い画像パターンが形成された用紙をニップ部に搬送させても消費電力が28.3Whとなってしまったため、画像パターンによって省エネルギーを実現することが出来ていなかった。例えば画像5で本実施例の消費電力と比較すると、約9%のエネルギーを過剰に供給していることになった。
【0128】
この様に本実施例の画像形成装置100は、画像が形成された転写材の搬送方向の先端がニップ部に到達する前に制御温度を変更するため、画像パターンに応じた最適の制御温度が得られる。これによって画像パターンによらず良好な定着性が得られると共に、不要な消費電力を抑え省エネルギー性にも優れるという効果を奏する。
【実施例2】
【0129】
本実施例で適用する画像形成装置の構成において前記実施例1と同様のものには、同一部材には同一符号を付し説明を省略する。
【0130】
実施例1は転写材(記録材)Pの印刷モードが一度も定着器(定着部)を通過しない転写材Pのみに対して定着を行う片面プリント(第1の印刷モード)における制御である。本実施例2は転写材Pの印刷モードが定着器を通過した転写材を含む転写材に対して行う両面プリント(第2の印刷モード)における制御である。
【0131】
本実施例では両面プリント時において、一度定着器を通過した転写材Pに対する2面目画像形成時の場合、次のような制御を行うものである。即ち、フィルム24側に印字される2面目の画像情報に加え、加圧ローラ25側にすでに印字されている1面目の画像情報から、それぞれ定着フィルム周期及び加圧ローラ周期で繰り返される印字率情報の解析をそれぞれ行う。そして、制御温調を変更することを特徴としている。
【0132】
CPU311(制御手段)は、転写材の片面に画像を形成する第1の印刷モード、又は転写材の両面に画像を形成する第2の印刷モードにより画像形成が行われるように制御し、第2の印刷モードで画像を形成する場合は次のようにする。即ち、転写材の加圧ローラ25に対面する側の面にすでに印字されている画像のうち、転写材搬送方向において加圧ローラ25の周長と対応する間隔ごとの複数の画素について、所定濃度以上の画像を形成する画素であるかを解析する。そして、解析結果に応じてヒータ21の制御温度を設定する。
【0133】
CPU311は、所定濃度以上の画像を形成する画素の数が第3の数である場合は目標温度を第3の温度と設定し、前記第3の数より多い第4の数である場合はヒータ21の制御温度を第3の温度よりも高い第4の温度と設定する。
【0134】
以下、より具体的に説明する。
【0135】
(本実施例の動作)
本実施例の適用範囲に関して、両面プリント時の2面目画像形成時であり、1面目の画像形成時における画像情報から制御温調を決定する手法に関しては実施例1と同じである。
【0136】
両面プリント時の2面目画像形成時における本実施例の動作を図10図11を用いて説明する。
【0137】
図10は本実施例の特徴であるフィルム24側に印字される画像に対する定着画素カウントの算出に加えて、加圧ローラ25側に印字されている1面目画像の定着画素カウントを行い、制御温度補正量を算出する動作フローチャートである。図11図10に示すStep8~14の処理内容を示す模式図である。
【0138】
<Step1~7>
両面プリント時の2面目画像形成時のフィルム24側の定着画素カウント方法に関しては実施例1と同様なので詳細を割愛する。
【0139】
<Step8>
加圧ローラ25側の転写材P先端に相当する位置(図11の転写材P左上端)を先端に、印字する転写材の長さ×幅の領域を転写材P領域(図11参照)(記録材領域)と定義して600dpiに区切った領域を定義する。
【0140】
<Step9>
Step8で定義した領域に転写材P先端から加圧ローラ25の一回転周期と等しい63mm毎にZoneを設定する。これによって図11の模式図のようにZoneの区分けが表現される。Zone毎に定着画素を算出するためのZone係数を設けた。Zone毎のZone係数は表4の様に定義した。
【0141】
【表4】
【0142】
<Step10>
プリント画像処理部403によって600dpiにビットマップ化された画像を、Step8で定義した転写材領域と重ねる。ビットマップ化された画像の各画素の位置座標を(n’,m’)と表す。
【0143】
<Step11>
ビットマップ化された画像の各画素をStep9で設定したZoneに割りあて、印字部(図11参照)の画素数にZone係数をかけて、各画素に重みをつける(式8参照)。各画素に定着重み指数として、印字部dotにはzone係数の値1を設定し、非印字部dotにはzone係数の値0を設定する(式9参照)。
【0144】
【数3】
【0145】
<Step12>
転写材P左上端(図11参照)を起点に236dot(10mm)×236dot(10mm)の検査範囲(破線にて示す四角形状領域)を設定し、検査範囲内の定着重み指数を足し合わせたものを、Cn’m’とする(式10参照)。ここで、検査範囲を236dot(10mm)×236dot(10mm)に設定したのは次の理由による。検査範囲と同等の大きさの四角形状の印字部が加圧ローラ25の一回転周期63mmで転写材搬送方向に繰り返された場合の定着性と、全面印字(全体印字率100%)の定着性が等しいからである。
【0146】
【数4】
【0147】
<Step13>
Step12で定義した検査範囲から、加圧ローラ25の一回転周期と等しい1488dot(63mm)転写材搬送方向下流側へオフセットした検査範囲の定着重み指数を積算し、Cn’m’に加算する。このとき検査範囲が転写材領域からはみ出していない場合は、更に1488dot(63mm)転写材搬送方向下流側へオフセットした検査範囲の定着重み指数を積算しCn’m’に加算する。この処理は検査範囲が転写材領域からはみ出るまで繰り返す。
【0148】
図11の矢印Aはこの検知範囲を1488dot(63mm)転写材搬送方向下流側へ繰り返す処理を模式的に表したものである。
【0149】
<Step14>
Step8からStep13までの処理を各画素のすべての位置座標(n’,m’)について計算し、Cn’m’の最大値を加圧ローラ25側の1面目検知画像の定着画素カウント(Max_C2)とする。つまり、検知画像について、定着画素カウント(Max_C2)とは記録材搬送方向の最大画素数のことである。
【0150】
(制御温度補正量算出部402)
補正量算出部402は、
・Step1~7で得られたフィルム24側に印字される2面目の定着画素カウント(Max_C)と、
・Step8~14で得られた加圧ローラ25側に印字された1面目画像の定着画素カウントと、
に基づいて検知画像の定着に必要な制御温度の補正量を算出する処理を行う。
【0151】
制御温度補正量の算出方法を説明する。ここでは、転写材PのサイズをA4として計算方法を例示する。A4以外のサイズについては転写材サイズの定着性能によって計算式を決定するのが好ましい。
【0152】
本実施例では、制御温度補正量を以下の計算式で算出する。
【0153】
フィルム24側の2面目画像の制御温度補正量:A=INT(2.39e-5×(Max_C-835440))
加圧ローラ25側の1面目画像の制御温度補正量:B=INT(1.19e-5×(Max_C2-835440))
2面目印字時の制御温度補正量=A+B ・・・式11
式11において、係数2.39e-5は実施例1と同じである。加圧ローラ25側の1面目画像の制御温度補正量の係数1.19e-5は次のようにして導き出した値である。
【0154】
・両面プリント時に1面目の画像が全面べた黒で2面目がべた黒の場合に定着性を良好に保つ制御温度190℃と、
・1面目の画像が全面べた白で2面目がべた黒の場合に定着性を良好に保つ制御温度180℃と、
の温度差10℃を、A4サイズの用紙で全面印字の際の(Max_C2)の値835440で割った値である。
【0155】
補正量算出部402では、転写材搬送方向に繰り返される画素の繰り返し回数が多いほど制御温度補正量を高くする。また補正量算出部402では、転写材搬送方向に繰り返される画素が転写材搬送方向下流側にあるほど制御温度補正量を高くする。これは表1のように転写材搬送方向下流側(記録材搬送方向下流側)に向うに従ってZone係数が大きなっていることによる。
【0156】
(制御温度補正制御処理)
図12はエンジン制御部302のCPU311によって実行される温度補正制御シーケンスの説明図である。
【0157】
図12において、点線部は制御温度に補正の無い温度制御シーケンスの制御温度に対応しており、実線が本実施例の温度補正時に変更される制御温度である。
【0158】
図2において、両面プリントの2面目画像形成時は、ホストコンピュータ300から印字命令と画像がインターフェイス305へ送信されると、画像処理部303は受信した画像をプリント画像処理部403がビットマップ化する。
【0159】
1面目の画像形成時に画像処理部403がビットマップ化した画像情報を2面目プリント時の加圧ローラ25側の1面目画像情報としてRAM313に格納する。
【0160】
そして2面目の画像形成時には画像処理部403が2面目画像をビットマップ化した画像情報を元に画像検知部は定着画素カウントMax_Cを算出する。この算出処理(取得処理)に加え、RAM313に格納されているすでにビットマップ化されている1面目の画像情報を元に画像検知部401が定着画素カウントMax_C2を算出(取得)する。
【0161】
エンジン制御部302のCPU311は、コントローラ部301からの印字命令に基づき、印字動作を開始する。両面プリント時の印字動作は図12に示す制御温度で印字動作を開始する。
【0162】
一枚目転写材の先端のニップ部N到達からフィルム24一周前のタイミング(同図のフィルム一周前タイミング)において、一枚目転写材に印字するトナー画像に対応した制御温度補正量を算出し、制御温度180℃よりも低い制御温度に変更する。そして一枚目転写材後端がニップ部Nから抜けたタイミングで制御温度補正を終了する。
【0163】
1面目ニップ部を抜けた転写材Pは不図示の転写材反転機構・両面搬送パスによりにより反転搬送されて、再度ローラ103に送られて、2面目画像を感光ドラム1と転写部材5とによって形成された転写部に搬送される。その間は定着器の温度設定を下げることができるため、制御温度としては160℃に変更する。
【0164】
一枚目の二面目転写材の先端がニップ部N到達からフィルム24一周前のタイミングで一枚目の二面目転写材に印字するMax_C、Max_C2から求められた制御温度補正量を算出し、制御温度195℃よりも低い制御温度に変更する。そして一枚目の二面目転写材後ろ端部がニップ部Nから抜けたタイミングで制御温度補正を終了する。
【0165】
その後、二枚目転写材先端のニップ部N到達からフィルム24一周前のタイミング(同図のフィルム一周前タイミング)において、二枚目転写材の一面目に印字するトナー画像に対応した制御温度補正量を算出する。そして、制御温度190℃よりも低い制御温度に変更する。
【0166】
つまり、画像検知部401によって、記録材に形成される画像に、濃度が所定濃度以上であって且つ記録材搬送方向における間隔が前記伝熱部材の周長と一致する画素があるか否かを検知する。そして、ある場合はない場合よりも、CPU311は制御温度を高く設定する。
【0167】
(本実施例の効果を示す実験の説明)
次に具体的な実験例について説明する。本実験例では、本実施例と比較例3、4の画像形成装置の制御温度補正において、画像毎の定着性と消費電力を比較する。
【0168】
本実施例の結果は上記の画像検知部401によるフィルム24側の2面目画像の定着画素カウント(Max_C)、加圧ローラ25側の1面目画像の定着画素カウント(Max_C2)に基づいて制御温度補正を行った結果を示す。
【0169】
比較例3は実施例1の比較例1と同様に転写材全体の印字率によって制御温度を決定する方法である。フィルム24側の2面目画像と、加圧ローラ25側の1面目画像に対してそれぞれ印字率補正を行っている。
【0170】
全面印字(印字率100%)では制御温度を変更せず、中間印字率の画像ではフィルム24側の2面目画像に関しては(1-印字率)×20℃、加圧ローラ25側の1面目画像に関しては(1-印字率)×10℃の制御温度補正を行う。
【0171】
比較例4では、画像によらず良好な定着性を得るため、画像によらず全面印字で定着可能な制御温度とする。そのため、フィルム24側の2面目画像、加圧ローラ25側の1面目画像共に全面べた黒が印字されたときに定着性を満足する設定となっている(制御温度補正量=0とする)。
【0172】
本実験では、気温25℃、湿度50%の環境で、以下に指定する画像パターンが形成された用紙をニップ部Nに50枚(100イメージ)を両面プリントモードで連続搬送させて確認を行った。用紙はCANON Red Label 80g/cm2 (用紙サイズA4)を用いた。表4は
・本実施例の効果を示すための実験に用いた画像パターンと、
・フィルム24側の2面目画像の定着画素カウントMax_Cの算出結果と制御温度補正量A、
・加圧ローラ25側の1面目画像の定着画素カウントMax_C2の算出結果と制御温度補正量B、
・実際に2面目プリント時の制御温度補正量
の一覧表である。また表5には、全体印字率と比較例3における制御温度補正量も示している。
【0173】
本実施例で使用した画像に関して説明する。
【0174】
両面プリント2面目印字時にフィルム24側に印字される画像1及び画像6は実施例1の説明で使用した図9に記載されているものと同一であり、本実験例では、フィルム24側の2面目画像には印字率の高い画像1と印字率の低い画像6を用いた。
【0175】
加圧ローラ25側の1面目画像には図9の画像1~6に対して、各Zoneの間隔がフィルム24周期(56mm)から加圧ローラ25周期(63mm)に変更された画像1’~画像6’を用いた。
【0176】
【表5】
【0177】
各画像におけるフィルム24側の2面目画像の定着画素カウントMax_C、加圧ローラ25側の1面目画像の定着画素カウントMax_C2の算出方法をフィルム24側の2面目画像が画像1、加圧ローラ25の1面目画像が画像3’の場合を用いて例示する。
【0178】
用紙サイズはA4、画像3’は用紙の左1/3に用紙先端から加圧ローラ25周期の長さの印字部を有する(63mm×3)画像である。
【0179】
図10のフローチャートに従い説明する。
【0180】
Step1~Step7に関しては実施例1と同様であり、フィルム24側の2面目画像である画像1は印字率が100%の全面べた黒画像であり、定着画素カウントMax_Cは835440である。
【0181】
Step8~Step11までは画像によらない処理のため割愛する。
【0182】
加圧ローラ25側の1面目画像の定着画素カウントの算出にあたり、先ず左上端の(0,0)座標で計算を行う。Step5の検索範囲では検索は全て印字部であるので、Co’,o’は以下の計算になる
Co’,o’=236×236×1 …式12
=55696
次にstep6において、検索範囲を用紙搬送方向下流側へオフセットして積算する。
【0183】
用紙がA4(298mm)サイズであるので、用紙上を加圧ローラ25(63mm)は5周できる。そのため、検索領域のオフセット回数は4回である。また、用紙は加圧ローラ25の3周期分の長さの画像を有し、その画像の用紙搬送方向下流側には画像が無いので検索範囲の定着重み指数の積算値は以下となる。
【0184】
オフセット一回目=236×236×2
オフセット二回目=236×236×3
オフセット三回目= 0× 0×4
オフセット四回目= 0× 0×5
よって
Co’,o’=236×236×1+236×236×2+236×236×3+0×0×4+0×0×5
=334176 …式13
次にstep14で全ての位置座標について、Cn’m’を算出する。
【0185】
画像3’では画像が用紙領域先端(転写材領域先端)から加圧ローラ25の3周期分で続いているので、加圧ローラ25の3周分(オフセット2回分)の積算を行っているCo’,o’が最大値と等しい。よって、画像3の定着画素カウント(Max_C2)は334176である。
【0186】
表6に、本実験例の画像毎の定着性と消費電力を示す。表6において、定着性の判定手法に関しては実施例1と同様である。
【0187】
消費電力は本実験で画像が形成された用紙をニップ部Nに50枚両面プリントにて連続搬送させて画像の定着を行った際の定着装置が消費した電力の積算値である。制御温度補正量については、本実施例の制御温度補正量の算出による画像毎の制御温度補正量と、比較例3における画像毎の制御温度補正量を示している。
【0188】
【表6】
【0189】
まず、画像パターンに応じて制御温度を補正しない比較例4の構成について説明する。比較例4の構成において、両面プリント時の2面目画像形成時において、加圧ローラ25側の1面目画像は全面印字を想定した制御温度を設定している。そのため、加圧ローラ25側の1面目画像が画像1’~画像6’の全てに関して2面目の画像1及び画像6で定着性が良好であるものの、消費電力は画像パターンによらず32.3Whとなっており、省エネルギー性を実現できていない構成となっていた。
【0190】
本実施例の画像形成装置の効果について説明する。本実施例の画像形成装置では、両面プリント時の2面目画像形成時において、加圧ローラ25側に印字された1面目画像を分析して、定着画素カウントを算出しそれに応じた制御温度補正を行った。そのため、1面目の画像1’~6’すべてのパターンにおいてフィルム24側の2面目画像である画像1及び画像6共に良好な定着性が得られている。
【0191】
画像1’は、全面印字であるので加圧ローラ25の回転周期に合わせて印字部の画素が繰り返されているため、トナーの熱容量によって加圧ローラ25の温度が印字されていない画素部に比べて低下した。
【0192】
画像2’に関しても全面印字ではないものの、転写材の長手方向Yの一部が加圧ローラ25の回転周期に合わせて印字部の画素が繰り返されており、画像1’と同様にトナーの熱容量によって加圧ローラ25の温度が印字されていない画素部に比べて低下した。
【0193】
この温度低下のために加圧ローラ25側の1面目画像に関しては画像1’、2’共に定着画素カウントMax_C2の値は835440となったので加圧ローラ25側の1面目画像の制御温度補正量Bは0となる。したがって、フィルム24側の2面目画像の制御温度補正量A(画像1の場合は0℃、画像6の場合は-16℃)が両面プリント時の2面目制御温度補正量となり、定着性が良好となった。
【0194】
画像3’から画像6’は、加圧ローラ25の回転周期位置に印字されていない部分があるため、初期設定より低い制御温度でも定着が可能となる。よって、加圧ローラ25側の1面目画像の検知結果から定着画素カウントを算出し、それに応じた制御温度補正を行うことで、制御温度を適切に低下(変更)させた。
【0195】
これにより、定着性を良好に保ちつつ消費電力を加圧ローラ25側の1面目画像が全面印字を想定して制御温度を決定する比較例4の構成よりも低下させることができた。特に画像5’では、両面プリント時の2面目画像が画像1の場合で31.6Wh、画像6の場合で29.1Whと比較例4のように画像パターンにより制御温度を補正しない構成と比べてそれぞれ2%、10%と消費電力を小さくできた。
【0196】
次に、比較例3について説明する。比較例3では、両面プリント時の2面目画像形成時において、フィルム24側の2面目画像に加え、加圧ローラ25側の1面目画像のそれぞれに関して、画像の全体印字率に基づいて制御温度補正を行っている。そのため、制御温度補正量が画像パターンの定着性と一致していない場合があった。
【0197】
加圧ローラ25側の1面目画像が画像2’の場合は、画像左端1/3を印字しているため、画像の印字率としては33%である。しかしながら、印字部の画像が用紙搬送方向へ先端から後端まで連続しているため、印字領域の加圧ローラ25の温度は全面印字の場合と同じとなる。しかしながら両面プリント時の2面目画像形成時に、1面目画像の印字率で制御温調を画像1の場合で-6℃、画像6の場合で-22℃と過剰に下げてしまったため定着不良が発生した。
【0198】
また加圧ローラ側の1面目画像が画像3’、画像4’も同様に用紙搬送方向に画像が連続しているため、用紙搬送方向に加圧ローラ25の回転周期の繰り返しがあり。よって定着性が良くないパターンであるのにも関わらず、印字率で制御温度を補正すると制御温度補正量が大きすぎてしまったため、両面プリント時の2面目に画像1及び6を印字した時に定着不良が発生した。
【0199】
一方、加圧ローラ側の1面目画像が画像5’は、加圧ローラ25の回転周期の繰り返しがなく、さらに加圧ローラ25の温度が用紙によって奪われない用紙先端に画像があるため、定着性の良い画像パターンである。しかしながら比較例3では、印字率に応じて制御温度を補正するため、定着に必要な制御温度より制御温度を高く設定してしまう。よって両面プリント時の2面目画像が画像1及び6の場合において、消費電力は31.7Wh、29.2Whと本実施例の31.6Wh、29.1Whより大きくなり、本実施例と比較して約1%省エネルギー性が損なわれる結果となった。
【0200】
このように本実施例の画像形成装置100は、両面プリント時に2面目の画像情報と1面目に印字されている画像情報から、フィルム24周期及び加圧ローラ25周期で繰り返される印字率情報の解析をそれぞれ行う。そして、温調温度設定を変更することにより、画像パターンに応じた最適の制御温度が得られる。これによって画像パターンによらず良好な定着性が得られると共に、不要な消費電力を抑え省エネルギー性にも優れるという効果を奏する。
【0201】
(他の実施例)
本実施例の画像形成装置100において、ホストコンピュータ300に代えてネットワーク上で接続されたコンピュータ、もしくはプリントサーバを画像形成装置に接続して画像形成動作を行わせてもよい。
【0202】
画像の定着画素カウント、及び制御温度補正量の算出はコントローラ部301の画像処理部303に限られない。画像の定着画素カウント、及び制御温度補正量の算出の一部もしくは全てを、ホストコンピュータ、ネットワーク上のプリンタ、又はプリントサーバが所有するプログラムで行ってもよい。
【0203】
画像検知部410に設定されている検査範囲は236dot(10mm)×236dot(10mm)であるが、本実施例の意図は検査範囲の領域を限定するものではなく、画像形成装置100の特性に応じて検査範囲の大きさや形状を変更してもよい。
【0204】
補正量算出部402によって算出した制御温度補正量は、制御温度を決定するための定着モードや、不図示のメディアセンサなどによる転写材種類判断手段の情報を基に変更してもよい。
【0205】
定着制御部320では制御温度のみの変更を行ったが、制御温度制御に用いるPID制御のゲインやオフセット量を変更してもよい。また定着制御部320では画像検知部401によって画像検知が為された転写材Pがニップ部Nに到達する前に制御温度を変更したが、画像検知部によって画像検知が為されたトナー画像がニップ部に到達する前に制御温度を変更してもよい。
【符号の説明】
【0206】
10:画像形成部、20:定着装置、21:セラミックヒータ、24:筒状のフィルム、25:加圧ローラ、26:サーミスタ、311:CPU、320:定着制御部、401:画像検知部、402:制御温度補正量算出部、403:プリント画像処理部、P:転写材、t:未定着のトナー画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12