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特許7433764ガラスの透過率の改善を促進させる方法、及びガラスの製造方法及びガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ガラスの透過率の改善を促進させる方法、及びガラスの製造方法及びガラス
(51)【国際特許分類】
   C03B 32/00 20060101AFI20240213BHJP
   C03B 5/235 20060101ALI20240213BHJP
   C03C 3/15 20060101ALI20240213BHJP
   C03C 3/155 20060101ALI20240213BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C03B32/00
C03B5/235
C03C3/15
C03C3/155
G02B1/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019007268
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020117411
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 将士
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090473(JP,A)
【文献】特開2017-019696(JP,A)
【文献】特開2006-137645(JP,A)
【文献】特開2015-040171(JP,A)
【文献】特開2009-167075(JP,A)
【文献】特開2000-169176(JP,A)
【文献】特開昭58-125636(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191270(WO,A1)
【文献】特開2014-172798(JP,A)
【文献】特開2005-060193(JP,A)
【文献】特開2011-195386(JP,A)
【文献】特開2017-202972(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065097(WO,A1)
【文献】特開2015-020913(JP,A)
【文献】国際公開第2009/144947(WO,A1)
【文献】特開2011-225384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/235
C03B 32/00
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+の少なくとも一つを含むB-La系母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
熔融状態のガラスからガラスブロック又はガラスカレットを得た後、雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)下で前記ガラスブロック又は前記ガラスカレットを再熔解することによって還元色を低減させる工程とを含む、B-La系ガラスの透過率の改善を促進させる方法。
【請求項2】
Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+の少なくとも一つを含むB-La系母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して、0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
ガラスが熔融状態のままで、雰囲気を雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)にすることにより、熔融状態においてガラスの還元色を低減する工程とを含む、B-La系ガラスの透過率の改善を促進させる方法。
【請求項3】
雰囲気(II)は、大気またはそれ以上の酸化度を有する雰囲気である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属カチオンがLiである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記母ガラスは、成分として、Sb3+、As3+、Sn4+、またはCe4+を実質的に含まない、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記母ガラスの成分が、
3+ 10~45カチオン%、
La3+ 10~45カチオン%、
Nb5+ 0~45カチオン%、
Ti4+ 0~45カチオン%、
6+ 0~20カチオン%、及び
Bi3+ 0~35カチオン%
を含み、(Nb5++Ti4++W6++Bi3+)が0超である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
雰囲気中に水又は水蒸気を導入することにより、雰囲気(I)を形成する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス原料に、さらに含炭素化合物を添加する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+の少なくとも一つを含むB-La系母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
熔融状態のガラスからガラスブロック又はガラスカレットを得た後、雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)下で前記ガラスブロック又は前記ガラスカレットを再熔解することによって還元色を低減させる工程とを含む、B-La系ガラスの製造方法。
【請求項10】
Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+の少なくとも一つを含むB-La系母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して、0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
ガラスが熔融状態のままで、雰囲気を雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)にすることにより、熔融状態においてガラスの還元色を低減させる工程と
を含む、B-La系ガラスの製造方法。
【請求項11】
雰囲気(II)は、大気またはそれ以上の酸化度を有する雰囲気である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属カチオンがLiである、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記母ガラスは、成分として、Sb3+、As3+、Sn4+、またはCe4+を実質的に含まない、請求項9乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記母ガラスが、
3+ 10~45カチオン%、
La3+ 10~45カチオン%、
Nb5+ 0~45カチオン%、
Ti4+ 0~45カチオン%、
6+ 0~20カチオン%、及び
Bi3+ 0~35カチオン%
を含み、(Nb5++Ti4++W6++Bi3+)が0超である、請求項9乃至13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
雰囲気中に水又は水蒸気を導入することにより、雰囲気(I)を形成する、請求項9乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ガラス原料に、さらに含炭素化合物を添加する、請求項9乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ガラスの成分として、
3+ 10~45カチオン%、
La3+ 10~45カチオン%、
Nb5+ 0~8.0カチオン%、
Ti4+ 0~45カチオン%、
6+ 0~カチオン%、
Bi3+ 0~35カチオン%、
Zr4+ 5.2カチオン%以下、
Mg2+ 0~5カチオン%、
Ca2+ 0~11カチオン%、
Al3+ 0~3カチオン%、
Zn2+ 0.3カチオン%以上、カチオン%以下、
及び
Li 1.0~5.0カチオン%(外割)
を含み、
(Nb5++Ti4++W6++Bi3+)が0超であり、
Si4+及びB3+の合計含有量(Si4++B3+)が32.5カチオン%以上であり、
Ta5+、Ge4+またはPb2+を含まず、
ndが1.87以上であり、下記(1)の方法で得られたガラスのλ70の値が、下記(2)の方法で得られたガラスのλ70よりも小さい、B-La系ガラス:
(1)前記ガラス成分を有するガラス原料(ガラスとして50cc)を、水を2.5cc/分の流量で導入することにより形成した、大気より酸化度が低い雰囲気(I)中で白金るつぼを用いて1400℃で2時間熔融させ、その後、大気下にて1400℃で20分保持した後、熔融ガラスを型に流し込み、大気下でTgよりも0~10℃低い温度で30分保持し、その後30℃/時間の速さで徐冷させ、徐冷開始から4時間後、自然放冷させることにより得られるガラス;
(2)前記ガラス成分からLiを除いたガラス成分を有するガラス原料(ガラスとして50cc)を、水を2.5cc/分の流量で導入することにより形成した、大気より酸化度が低い雰囲気(I)中で前記(1)と同じ白金るつぼを用いて1400℃で2時間熔融させ、その後、大気下で1400℃で20分保持した後、熔融ガラスを型に流し込み、大気下にてTgよりも0~10℃低い温度で30分保持し、その後30℃/時間の速さで徐冷させ、徐冷開始から4時間後、自然放冷させることにより得られるガラス。
【請求項18】
ガラスの成分として、
Nb5+ 1.0~8.0カチオン%、
Ti4+ 1.5~30カチオン%、
を含む請求項17に記載のガラス。
【請求項19】
νdが15以上55以下である、請求項17又は18に記載のガラス。
【請求項20】
前記ガラスは、成分として、S 3+、As3+、Sn4+、またはCe4+を実質的に含まない、請求項17乃至19のいずれか1項に記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの透過率の改善を促進させる方法、及びガラスの製造方法及びガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像光学系、投射光学系等の装置の高機能化、コンパクト化に伴い、光学素子の材料として、高屈折率の光学ガラスの需要が高まってきている。
【0003】
特許文献1に記載されている高屈折率のリン酸塩系光学ガラスは、ガラス成分としてPとともに、Nb、W、Bi等の高屈折率成分を多量に含有している。このようなガラスは、ガラスの熔解工程で還元されやすく、還元状態のガラスは、可視光領域で光を吸収するため、ガラスが着色(以下、「還元色」ということがある)される。
【0004】
また、ガラス成分として、Ti、Nb、La等の高融点成分を含有する場合、高い熔解温度が必要であるため、反応活性の高い余分な酸素が発生し、るつぼの材料の白金等の貴金属材料と反応(酸化)してしまう。貴金属は可視光を吸収するため、酸化された貴金属が熔融ガラス中に溶出することにより、ガラスが可視光を吸収することになりガラスが着色してしまう。
【0005】
ガラスの熔解を非酸化性雰囲気で行うと、白金等の貴金属の溶出が抑制され、貴金属由来の着色は低減できる一方、還元色が増大してしまう。ガラスの還元色を改善する方法として、固化したガラスに対して熱処理を行う方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-246344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リン酸塩系の光学ガラスと並ぶ代表的な高屈折率光学ガラスとして、Nb及び/またはTi及び/またはW及び/またはBiを含むB-La系の光学ガラスが知られているが、特許文献1にはNb及び/またはTi及び/またはW及び/またはBiを含むを含むB-La系の光学ガラスに関する記載がない。Nb及び/またはTi及び/またはW及び/またはBiを含むB-La系の光学ガラスにおいても、NbやTiやWやBiを含まないガラスと比較し、透過率が低下するという問題がある。
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、Nb及び/またはTi及び/またはW及び/またはBiを含むB-La系ガラスの透過率を改善させる方法、及び透過率の高いNb及び/またはTi及び/またはW及び/またはBiを含むB-La系ガラスの製造方法及びB-La系ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、Nb及び/またはTi及び/またはW及び/またはBiB-La系ガラスに所定量のアルカリ金属を母ガラスに添加することにより、添加しない場合よりも、透過率を改善しやすくすることができることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+の少なくとも一つを含む母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
熔融状態のガラスからガラスブロック又はガラスカレットを得た後、雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)下で前記ガラスブロック又は前記ガラスカレットを再熔解することによって還元色を低減させる工程とを含む、B-La系ガラスの透過率の改善を促進させる方法(以下、第一の実施形態ということがある)。
[2] Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+の少なくとも一つを含む母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して、0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
ガラスが熔融状態のままで、雰囲気を雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)にすることにより、熔融状態においてガラスの還元色を低減する工程とを含む、B-La系ガラスの透過率の改善を促進させる方法(以下、第二の実施形態ということがある)。
[3] 雰囲気(II)は、大気またはそれ以上の酸化度を有する雰囲気である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記アルカリ金属カチオンがLiである、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記ガラスは、成分として、Sb3+、As3+、Sn4+、またはCe4+を実質的に含まない、[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] 前記母ガラスの成分が、
3+ 10~45カチオン%、
La3+ 10~45カチオン%、
Nb5+ 0~45カチオン%、
Ti4+ 0~45カチオン%、
6+ 0~20カチオン%、及び
Bi3+ 0~35カチオン%
を含む、[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 雰囲気中に水又は水蒸気を導入することにより、雰囲気(I)を形成する、[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8] 前記ガラス原料に、さらに含炭素化合物を添加する、[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9] Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+の少なくとも一つを含む母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
熔融状態のガラスからガラスブロック又はガラスカレットを得た後、雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)下で前記ガラスブロック又は前記ガラスカレットを再熔解することによって還元色を低減させる工程とを含む、B-La系ガラスの製造方法(以下、第三の実施形態ということがある)。
[10] Nb5+、Ti4+、W6+、及びBiの少なくとも一つを含む母ガラスの原料に、母ガラス全体量に対して、0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
ガラスが熔融状態のままで、雰囲気を雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)にすることにより、熔融状態においてガラスの還元色を低減させる工程と
を含む、B-La系ガラスの製造方法(以下、第四の実施形態ということがある)。
[11] 雰囲気(II)は、大気またはそれ以上の酸化度を有する雰囲気である、[9]又は[10]に記載の方法。
[12] 前記アルカリ金属カチオンがLiである、[9]乃至[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13] 前記母ガラスは、成分として、Sb3+、As3+、Sn4+、またはCe4+を実質的に含まない、[9]乃至[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14] 前記母ガラスが、
3+ 10~45カチオン%、
La3+ 10~45カチオン%、
Nb5+ 0~45カチオン%、
Ti4+ 0~45カチオン%、
6+ 0~20カチオン%、及び
Bi3+ 0~35カチオン%
を含む、[9]乃至[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15] 雰囲気中に水又は水蒸気を導入することにより、雰囲気(I)を形成する、[9]乃至[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16] 前記ガラス原料に、さらに含炭素化合物を添加する、[9]乃至[15]のいずれか一項に記載の方法。
[17] ガラスの成分として、
3+ 10~45カチオン%、
La3+ 10~45カチオン%、
Nb5+ 0~45カチオン%、
Ti4+ 0~45カチオン%、
6+ 0~20カチオン%、
Bi3+ 0~35カチオン%、及び
Li 0.1~5.0カチオン%(外割)
を含み、下記(1)の方法で得られたガラスのλ70の値が、下記(2)の方法で得られたガラスのλ70よりも小さい、B-La系ガラス:
(1)前記ガラス成分を有するガラス原料(ガラスとして50cc)を、水を2.5cc/分の流量で導入することにより形成した、大気より酸化度が低い雰囲気(I)中で白金るつぼを用いて1400℃で2時間熔融させ、その後、大気下にて1400℃で20分保持した後、熔融ガラスを型に流し込み、大気下でTgよりも0~10℃低い温度で30分保持し、その後30℃/時間の速さで徐冷させ、徐冷開始から4時間後、自然放冷させることにより得られるガラス;
(2)前記ガラス成分からLiを除いたガラス成分を有するガラス原料(ガラスとして50cc)を、水を2.5cc/分の流量で導入することにより形成した、大気より酸化度が低い雰囲気(I)中で前記(1)と同じ白金るつぼを用いて1400℃で2時間熔融させ、その後、大気下で1400℃で20分保持した後、熔融ガラスを型に流し込み、大気下にてTgよりも0~10℃低い温度で30分保持し、その後30℃/時間の速さで徐冷させ、徐冷開始から4時間後、自然放冷させることにより得られるガラス(以下、第五の実施形態ということがある)。
[18] ndが1.80以上であり、νdが15以上55以下である、[17]に記載のガラス。
[19] 前記ガラスは、成分として、Sb3+、As3+、Sn4+、またはCe4+を実質的に含まない、[17]又は[18]に記載のガラス。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガラスの透過率の改善の促進方法によれば、Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むB-La系ガラスの還元色の着色の改善を促進することができため、熔解工程中に酸化状態にして、短時間で還元色を低減することができ、白金の溶出を抑制することができる。さらには、従来のガラス製造に大きな設備や時間がかかる工程を新たに導入することなく、還元色のない、又は還元色の少ないNb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むB-La系ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について説明するが、本発明は趣旨を逸脱しない限り、発明を実施するための形態に記載された具体例や実施例に限定されるものではない。
【0011】
本明細書において、ガラス組成について、主にカチオン%で含有量を記載する。カチオン%表示とは、すべてのカチオン成分の含有量を100%としたときのモル百分率をいう。カチオン%での合計含有量とは、複数種のカチオン成分の含有量(含有量が0%である場合も含む)の合計量をいう。また。カチオン比とは、カチオン%表示において、カチオン成分同士の含有量(複数種のカチオン成分の合計含有量も含む)の割合(比)をいう。
カチオン成分の価数(例えばB3+の価数は+3、Si4+の価数は+4、La3+の価数は+3)は、慣習により定まった値であり、ガラス成分としてのB、Si、Laを酸化物基準で表記する際、B、SiO、Laと表記するのと同様である。したがって、ガラス組成を分析する際、カチオン成分の価数まで分析しなくてもよい。また、アニオン成分の価数(例えばO2-の価数が-2)も慣習により定まった値であり、上記のように酸化物基準におけるガラス成分を、例えばB、SiO、Laと表記するのと同様である。したがって、ガラス成分を分析する際、アニオン成分の価数まで分析しなくてもよい。
【0012】
ガラス成分の含有量は、公知の方法、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量することができる。また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容する。
【0013】
本明細書では、屈折率は、特記しない限り、ヘリウムのd線(波長587.5nm)における屈折率ndをいう。
【0014】
アッベ数νdは、分散に関する性質を表す値として用いられるものであり、下記式(1)で表される。ここで、nFは青色水素のF線(波長486.13nm)における屈折率、nCは赤色水素のC線(656.27nm)における屈折率である。
νd=(nd-1)/(nF-nC) ・・・(1)
【0015】
[ガラスについて]
以下、本発明に係るガラスについて詳しく説明する。
【0016】
本発明の第一の実施形態乃至第五の実施形態において、もとになるガラス(以下、母ガラスと呼ぶ)の組成は、Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むB-La系ガラスであり、アルカリ金属を実質的に含まないこの母ガラスの原料にアルカリ金属を外割で少量(0.1~5.0カチオン%)添加することにより、Nb5+やTi4+やW6+やBi3+に起因する還元色(着色)の改善が促進される。また、本発明の方法は、還元色が着色しやすいような、高屈折率及び高分散性の光学ガラスに適用することが好ましい。なお、本明細書において、B-La系ガラスとは、ガラス成分として、B及びLaを含むガラスである。
【0017】
[アルカリ金属]
本発明の第一の実施形態乃至第四の実施形態では、母ガラスに含まれる全カチオン成分の合計含有量に対して1~5カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属を外割で添加したガラス原料を用いる。すなわち、アルカリ金属以外の全カチオン成分の合計含有量を100カチオン%としたときのアルカリ金属の含有量、すなわち、外割でのアルカリ金属の含有量は、0.1~5.0カチオン%である。以下、アルカリ金属カチオンの含有量は、外割での含有量を意味する。アルカリ金属カチオンの含有量は、より好ましくは0.5~4.0カチオン%、さらに好ましくは1.0~3.0カチオン%である。
【0018】
アルカリ金属の含有量を上記範囲とすることにより、母ガラスと比較してガラスの還元色を低減するのに必要な酸化処理の時間を短縮でき、白金の溶出を抑制することができる。一方で、アルカリ金属カチオンの含有量が5.0カチオン%より多い場合は、屈折率ndが低下し、アッベ数νdが上昇し、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性、耐候性が低下するおそれがあるため、母ガラスの特性とはかけ離れたものとなってしまう。
【0019】
本発明では母ガラスにアルカリ金属カチオンを上記の範囲で添加することにより、熔融状態においてガラスの還元色を低減する処理(雰囲気(II)での熔解)に要する時間を短縮でき、白金の溶出を抑制し、還元色を取り除くための追加の工程を行わない、または短時間にすることができる。
【0020】
アルカリ金属カチオンを所定量、母ガラスに添加したガラスでは、母ガラスに比べて還元色を消失するための酸化処理時間を短くすることができる。したがって、白金の溶け込みやすい、ガラス熔解初期を酸化度の低い雰囲気にしつつ、ガラス原料が実質的に熔解した後、雰囲気の酸化度を上昇させることで、得られるガラスの還元色を改善でき、しかも、白金による着色を抑制することができる。
【0021】
添加するアルカリ金属としては、Liが特に好ましい。特定のガラス領域では、Liは、高屈折率、高分散を達成させることのみのためには、必ずしも好ましい成分ではないが、ガラス成分にわずかに加えることで、劇的にガラスの着色改善の速度を上げることができる。
【0022】
[ガラスの組成]
特記しない限り、以下、「ガラス」、「本発明に係るガラス」とは、第一の実施形態乃至第四の実施形態における母ガラスと母ガラスにアルカリ金属を添加したガラスの両方を意味するとともに、第五の実施形態におけるガラスを意味する。
本発明に係るガラスは、B3+を含む。本発明に係るガラスは、B3+を10~45カチオン%含有することが好ましい。B3+の含有量は、12~43カチオン%、14~41カチオン%、16~40カチオン%、18~38%の順により好ましい。
【0023】
3+は、ガラスのネットワークの形成成分であり、B3+を所定量含有させることにより、高屈折率成分であるLa、Nb、Tiを多めに加えても、ガラスを失透しにくくさせる。また、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。B3+の含有量が多すぎると、ガラス熔融時にガラス成分の揮発量が増加するおそれがある。また、耐失透性が低下する傾向がある。そのため、B3+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0024】
本発明に係るガラスは、La3+を含む。本発明に係るガラスは、La3+を10~45カチオン%含有することが好ましいLa3+の含有量は、12~41カチオン%、14~39カチオン%、16~37カチオン%、17~35カチオン%の順により好ましい。
【0025】
La3+は屈折率ndを高める働きを有する。また、化学的耐久性を高める働きも有する。一方、La3+の含有量が多すぎると比重が増加し、またガラスの熱的安定性が低下する、そのため、La3+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0026】
本発明に係るガラスは、Nb5+を0~45カチオン%含有することが好ましい。Nb5+の含有量は、0.3~40カチオン%、0.5~35カチオン%、0.7~30カチオン%、1.0~25カチオン%、1.5~20カチオン%、2.0~15カチオン%、2.5~10カチオン%、3.0~8.0カチオン%の順により好ましい。
【0027】
Nb5+は、高屈折率化および高分散化に寄与する成分である。また、ガラスの熱的安定性および化学的耐久性を改善するガラス成分でもある。一方、Nb5+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下し、また、ガラスの着色が強まる傾向がある。したがって、Nb5+の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0028】
本発明に係るガラスは、Ti4+を0~45カチオン%含有することが好ましい。Ti4+の含有量は、0.5~45カチオン%、0.7~40カチオン%、0.9~36カチオン%、1.1~34カチオン%、1.3~32カチオン%、1.5~30カチオン%の順により好ましい。
【0029】
Ti4+は、Nb5+と同様に、高屈折率化および高分散化に寄与する成分である、一方、Ti4+はガラスの着色を増大しやすい成分でもある。したがって、本発明に係るガラスにおいて、Ti4+の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0030】
本発明に係るガラスは、Si4+を0~30カチオン%含有することが好ましい。Si4+の含有量は、1~25カチオン%、3~20カチオン%、4~17カチオン%、5~15カチオン%の順により好ましい。
【0031】
Si4+は、ガラスのネットワーク形成成分であり、熱的安定性、化学的耐久性、耐候性を改善する働きを有する。一方、Si4+の含有量が多いと、ガラスの耐失透性が低下するおそれがある。そのため、Si4+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0032】
本発明に係るガラスは、Mg2+を0~20カチオン%含有してもよい。Mg2+の含有量は、0~15カチオン%、0~10カチオン%、0~5カチオン%の順により好ましい。
【0033】
本発明に係るガラスは、Ca2+を0~20カチオン%含有してもよい。Ca2+の含有量は、0~11カチオン%、0~9カチオン%、0~7カチオン%の順により好ましい。
【0034】
本発明に係るガラスは、Sr2+を0~20カチオン%含有してもよい。Sr2+の含有量は、0~15カチオン%、0~10カチオン%、0~5カチオン%の順により好ましい。
【0035】
Mg2+、Ca2+、Sr2+は、いずれもガラスの熱的安定性および耐失透性を改善させる働きを有するガラス成分である。一方、これらのガラス成分の含有量が多くなると、高分散性が損なわれ、また、ガラスの熱的安定性および耐失透性が低下する。そのため、これらガラス成分の各含有量は、上記範囲とすることが好ましい。
【0036】
本発明に係るガラスは、Ba2+を0~25カチオン%含有することが好ましい。Ba2+の含有量は、0~17カチオン%、0~15カチオン%、0~13カチオン%の順により好ましい。。
【0037】
Ba2+は、ガラスの熱的安定性および耐失透性を改善させる働きを有するガラス成分である。一方、Ba2+含有量が多くなると、比重が増加し、耐失透性が低下する。そのため、Ba2+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0038】
本発明に係るガラスは、Zn2+を0~25カチオン%含有することが好ましい。Zn2+の含有量は、0.3~19カチオン%、0.5~13カチオン%、0.7~10カチオン%、0.8~7カチオン%の順により好ましい。
【0039】
Zn2+はガラスの熱的安定性を改善するとともに、ガラスの熔解性、化学的耐久性を改善する働きを有する成分である。また、ガラス転移温度Tgを低下させる働きを有する。一方、Zn2+の含有量が多すぎると比重が上昇する。そのため、Zn2+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0040】
本発明に係るガラスは、Gd3+を0~21カチオン%含有することが好ましい。Gd3+の含有量は、0~19カチオン%、0~17カチオン%、0~15カチオン%、0~13カチオン%の順により好ましい。
【0041】
本発明に係るガラスは、Y3+を0~15カチオン%含有することが好ましい。Y3+の含有量は、0~13カチオン%、0~12カチオン%、0~11カチオン%、0~10カチオン%の順により好ましい。
【0042】
Gd3+およびY3+はいずれもガラスの化学的耐久性、耐候性の改善や高屈折率化に寄与する成分である。一方、含有量が多くなりすぎるとガラスの熱的安定性が低下し、製造中にガラスが失透しやすくなる。そのため、Gd3+およびY3+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0043】
本発明に係るガラスは、Yb3+を0~5カチオン%含有することが好ましい。Yb3+の含有量は、より好ましくは0~3カチオン%、さらに好ましくは0~1カチオン%である。
【0044】
Yb3+は、耐候性の改善や高屈折率化に寄与する成分である。一方、Yb3+は、La3+、Gd3+、Y3+と比べて原子量が大きいため、ガラスの比重を増大させてしまうため、多く入れすぎないようにすることが好ましい。したがって、Yb3+の含有量を低減させて、ガラスの比重の増大を抑えることが望ましい。
【0045】
本発明に係るガラスは、Zr4+を0~15カチオン%含有することが好ましい。Zr4+の含有量は、0.5~13カチオン%、0.7~11カチオン%、1.1~9カチオン%、1.5~8カチオン%の順により好ましい。
【0046】
Zr4+は、高屈折率化に寄与する成分であり、ガラスの熱的安定性および耐失透性改善する働きを有するガラス成分である。一方、Zr4+の含有量が多すぎると、熱的安定性が低下し、ガラスを熔解するときにガラス原料の熔け残りが生じやすくなる。そのため、Zr4+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0047】
本発明に係るガラスは、Ta5+を0~13カチオン%含有することが好ましい。Ta5+の含有量は、0~11カチオン%、0~9カチオン%、0~7カチオン%の順により好ましい。
【0048】
Ta5+は、高屈折率化に寄与する成分であり、ガラスの熱的安定性を改善する働きも有する。一方、Ta5+の含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性が低下し、ガラスを熔解するときにガラス原料の溶け残りが生じやすくなる。そのため、Ta5+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0049】
本発明に係るガラスは、W6+を0~20カチオン%含有することが好ましい。W6+の含有量は、0~15カチオン%、0~11カチオン%、0~9カチオン%、0~7カチオン%、0~5カチオン%、0~3カチオン%の順により好ましい。
【0050】
6+は、ガラス転移温度Tgを低下させる働きを有する。一方、W6+の含有量が多くなりすぎると、ガラスの着色が増大し、また、比重が増加する。そのため、W6+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0051】
本発明に係るガラスは、Bi3+を0~35カチオン%含有することが好ましい。Bi3+の含有量は、0~30カチオン%、0~25カチオン%、0~20カチオン%、0~15カチオン%、0~10カチオン%、0~5カチオン%の順により好ましい。
【0052】
Bi3+は、高屈折率化および高分散化に寄与する成分である。Bi3+を適量を含有させることにより、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、B3+の含有量を高めると、ガラスの着色が増大し、また比重が増加する。そのため、Bi3+の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0053】
本発明に係るガラスは、P5+を0~20カチオン%含有することが好ましい。P5+の含有量は、0~15カチオン%、0~10カチオン%、0~5カチオン%の順により好ましい。P5+の含有量は0カチオン%であってもよい。
【0054】
5+は、屈折率ndを低下させる成分であり、ガラスの熱的安定性を低下させる成分でもあるが、適量の導入であればガラスの安定性を改善することがある。
【0055】
本発明に係るガラスは、Al3+を0~10カチオン%含有することが好ましい。Al3+の含有量は、0~5カチオン%、0~3カチオン%、0~1カチオン%の順により好ましい。Al3+の含有量は0カチオン%であってもよい。
【0056】
Al3+はガラスの化学的耐久性、耐候性を改善する働きを有するガラス成分である。一方、Al3+の含有量が多くなると、ガラスの耐失透性が低下する、また、ガラス転移温度Tgが上昇する、熱的安定性が低下する等の問題が生じやすい。そのため、Al3+の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0057】
本発明に係るガラスにおいて、Sc3+の含有量は、0~2カチオン%が好ましい。
【0058】
本発明に係るガラスにおいて、Hf4+の含有量は、0~2カチオン%が好ましい。
【0059】
Sc3+およびHf4+は、ガラスの屈折率及び分散性を高める働きを有するが、高価な成分である。そのため、Sc3+およびHf4+の各含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0060】
本発明に係るガラスにおいて、Lu3+の含有量は、0~2カチオン%が好ましい。
【0061】
Lu3+は、ガラスの屈折率及び分散性を高める働きを有するが、分子量が大きいことから、ガラスの比重を増加させるガラス成分でもある。そのため。Lu3+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0062】
本発明に係るガラスにおいて、Ge4+の含有量は、0~2カチオン%が好ましい。
【0063】
Ge4+は、ガラスの屈折率及び分散性を高める働きを有するが、一般的に使用されるガラス成分の中で突出して高価な成分である。したがって、ガラスの製造コストを低減する観点からGe4+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0064】
本発明に係るガラスにおいて、Si4+およびB3+の合計含有量(Si4++B3+)は、10~75カチオン%であることが好ましい。合計含有量(Si4++B3+)は、15~65カチオン%、20~55カチオン%、25~50カチオン%の順により好ましい。
【0065】
Si4+およびB3+はガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熱的安定性および耐失透性を改善する成分である。そのため、Si4+およびB3+の合計含有量(Si4++B3+)は上記範囲とすることが好ましい。
【0066】
本発明に係るガラスにおいて、Nb5+およびTi4+の合計含有量(Nb5++Ti4+)は、0~65カチオン%であることが好ましい。合計含有量(Nb5++Ti4+)は、0.5~65カチオン%、1~60カチオン%、1.5~55カチオン%、2.5~50カチオン%、3.0~45カチオン%、3.5~40カチオン%、4.0~35カチオン%の順により好ましい。
【0067】
Nb5+およびTi4+は高屈折率化及び高分散化に寄与する成分である。一方、Nb5+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性および耐失透性が低下する。そのため、Nb5+およびTi4+の合計含有量[Nb5++Ti4+]は上記範囲とすることが好ましい。
【0068】
本発明に係るガラスにおいて、Nb5+、Ti4+、W6+およびBi3+の合計含有量(Nb5++Ti4++W6++Bi3+)は、0.5~75カチオン%であることが好ましい。合計含有量(Nb5++Ti4++W6++Bi3+)は、1.0~70カチオン%、1.5~65カチオン%、2.0~60カチオン%、2.5~55カチオン%、3.0~50カチオン%、3.5~45カチオン%、4.0~40カチオン%、4.5~35カチオン%の順により好ましい。
【0069】
Nb5+、Ti4+、W6+およびBi3+は高屈折率化及び高分散化に寄与する成分である。一方、(Nb5++Ti4++W6++Bi3+)の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性および耐失透性が低下する。そのため、合計含有量(Nb5++Ti4++W6++Bi3+)は上記範囲とすることが好ましい。
【0070】
なお、ガラス中に所望のガラス成分を所望の含有量となるように導入することができれば、ガラスの原料は特に限定されないが、原料として使用できる化合物として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、フッ化物等が挙げられる。
【0071】
第一の実施形態乃至第四の実施形態の熔解工程において、熔解するための容器である白金(Pt)がガラス中に熔解(溶出)するのを抑制する目的で、ガラス原料にガラスを還元させる還元剤を添加することができる。ただし、還元剤を必要以上に多く混入させてしまうと、白金容器の損傷が激しくなり、好ましくない。還元剤としては、特に限定されるものではないが、例えば有機化合物や活性炭(含炭素化合物)などのガラスを還元させる物質が挙げられる。
【0072】
[含有すべきでない成分について]
Sb3+、As3+、Sn4+、及びCe4+は清澄剤として機能する成分である。しかし、これらの成分は酸化度が強く、添加していくと白金るつぼ由来の白金の酸化を促進させるおそれがある。また、精密プレス成型のときにガラスに含まれるこれらの成分がプレス成形型の成形面を酸化するため、精密プレス成型を重ねるうちに、成形面が著しく劣化し、精密プレス成形ができなくなるおそれがある。したがって、本発明に係るガラスは、Sb3+、As3+、Sn4+、及びCe4+は1カチオン%以下が好ましく、0.1カチオン%以下がより好ましく、0.001%以下がさらに好ましく、実質的に含まないことが最も好ましい。ここで、本明細書において「実質的に含まない」とは、意図的に当該成分を含有させない、という意味であり、不純物等で不可避的に含有してしまう態様は除外される。
【0073】
Pb、As、Cd、Tl、Be、Seはいずれも毒性を有する。そのため、本発明に係るガラスは、これら成分を実質的に含まないことが好ましい。
【0074】
U,Th、Raはいずれも放射性成分である。そのため、本発明に係るガラスは、これら成分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0075】
Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ceはガラスの着色を増大させ、蛍光の発生源となり得る。そのため、本発明に係るガラスは、これら成分を実質的に含まないことが好ましい。
【0076】
なお、本発明に係るガラスは、基本的に上記ガラス成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他成分を含有することも可能である。また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
【0077】
[ガラス特性]
(屈折率nd)
本発明に係るガラスにおいて、ガラスの屈折率ndは、特に限定されるものではないが、1.80以上であることが好ましく、1.83以上であることがさらに好ましく、1.85以上であることが一層好ましく、1.87以上であることが特に好ましい。このような高屈折率を有するガラスは、ガラスを還元させる成分を多く含むため、本発明の透過率改善促進の効果が大きくなる。なお、屈折率はJIS B 7071-1に則って測定する。
【0078】
(アッベ数νd)
本発明に係るガラスにおいて、アッベ数は特に限定されるものではないが、アッベ数νdの下限は、15以上であることが好ましく、17以上であることがさらに好ましく、19以上であることが一層好ましく、21以上であることが特に好ましい。アッベ数νdの上限は、55以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、47以下であることがさらに好ましく、46以下であることが一層好ましく、45以下であることが特に好ましい。
【0079】
(透過率λ70)
本発明に係るガラスの光透過性はλ70により評価できる。ガラスサンプルを、厚さ10mmで、互いに平行かつ光学研磨された平面を有するように加工し、波長280nmから700nmまでの波長域における分光透過率を測定した。光学研磨された一方の平面に垂直に入射する光線の強度を強度Aとし、他方の平面から出射する光線の強度を強度Bとして、分光透過率B/Aを算出した。分光透過率が70%になる波長をλ70とした。なお、分光透過率には試料表面における光線の反射損失も含まれる。
【0080】
第一の実施形態乃至第四の実施形態におけるアルカリ金属を含むガラスおよび第五の実施形態のガラスの着色改善のための熱処理後のλ70は、600nm以下であることが好ましく、570nm以下であることがさらに好ましく、550nm以下であることが一層好ましく、530nm以下であることがより一層好ましく、520nm以下であることが特に好ましい。λ70の値は、白金含有量の低減および還元色の低減により、低く抑えることができる。
【0081】
第五の実施形態のガラスは、下記の条件(1)、(2)でガラスを得た場合に、条件(1)で得たガラスのλ70の値が、条件(2)で得たガラスのλ70の値よりも小さいことが特徴である。条件(1)、(2)は下記の通りである。
条件(1)外割でアルカリ金属カチオン(好ましくはLi)を含むガラス原料(ガラスとして50cc)を、水を2.5cc/分の流量で導入することにより形成した、大気より酸化度が低い雰囲気(I)中で白金るつぼを用いて1400℃で2時間熔融させ、その後、大気下にて1400℃で20分保持した後、熔融ガラスを型に流し込み、大気下でTgよりも0~10℃低い温度で30分保持し、その後30℃/時間の速さで徐冷させ、徐冷開始から4時間後、自然放冷させることにより得られるガラス;
条件(2)前記ガラス成分からLiを除いたガラス成分を有するガラス原料(ガラスとして50cc)を、水を2.5cc/分の流量で導入することにより形成した、大気より酸化度が低い雰囲気(I)中で前記条件(1)と同じ白金るつぼを用いて1400℃で2時間熔融させ、その後、大気下で1400℃で20分保持した後、熔融ガラスを型に流し込み、大気下にてTgよりも0~10℃低い温度で30分保持し、その後30℃/時間の速さで徐冷させ、徐冷開始から4時間後、自然放冷させることにより得られるガラス。
【0082】
条件(1)で得たガラスのλ70の値(単位nm)は、条件(2)で得たガラスのλ70の値(単位nm)よりも、10nm小さいことが好ましい。さらに、条件(1)で得たガラスのλ70の値(単位nm)は、条件(2)で得たガラスのλ70の値(単位nm)よりも、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nmの順に、小さいことがより好ましい。
【0083】
(ガラス転移温度Tg)
本発明に係るガラスにおいて、ガラス転移温度Tgは、好ましくは360~850℃であり、440~830℃、500~810℃、540~790℃、560~770℃、の順により好ましい。である。ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析装置を使用し、昇温速度10℃/分にしてガラス転転移Tgを測定した。
【0084】
ガラス転移温度Tgの上限が上記範囲を満たすことにより、ガラスの成形温度およびアニール温度の上昇を抑制することができ、プレス成型用設備およびアニール設備への熱的ダメージを軽減できる。また、ガラス転移温度Tgの下限が上記範囲を満たすことにより、所望のアッベ数、屈折率を維持しつつ、ガラスの熱的安定性を良好に維持されやすくなる。
【0085】
[透過率を改善させる方法]
本発明のガラスの透過率を改善させる一つの方法(態様(1))は、
Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む母ガラス全体に対して0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb、及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
熔融状態のガラスからガラスブロック又はガラスカレットを得た後、雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)下でガラスブロック又はガラスカレットを再熔解することによって還元色を低減させる工程とを含む、B-La系ガラスの透過率の改善を促進させる方法、である。
【0086】
本発明のガラスの透過率を改善させる別の一つの方法(態様(2))は、
Nb5+、Ti4+、W6+、及びBi3+からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む母ガラス全体に対して、0.1~5.0カチオン%のLi、Na、K、Rb及びCsの少なくとも一種のアルカリ金属カチオンを外割で添加したガラス原料を、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる工程と、
ガラスが熔融状態のままで、雰囲気を雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)にすることにより、熔融状態においてガラスの還元色を低減させる工程とを含む、B-La系ガラスの透過率の改善を促進させる方法、である。
【0087】
(雰囲気(I)での熔解工程)
上記態様(1)、(2)の方法では、まず、外割で1~5カチオン%のアルカリ金属を含有させたガラスを、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で熔解させる。具体的には、外割で1~5カチオン%のアルカリ金属を外割で含有させたガラス原料を調合し、十分混合して白金るつぼ中に入れて熔解させる。ガラスの原料を熔解させる工程は、原料を熔解させるために高い温度で実施するため、白金がガラス中に溶け込みやすい。そのため、大気より酸化度が低い雰囲気(I)で行うことによって、白金の溶け込みを低減させることが好ましい。また、ガラス原料は、粉体状の原料のみならず、カレット原料も使用することができる。
【0088】
この熔解工程についてさらに説明すると、この熔解工程における白金による着色は、熔解雰囲気中の酸素が、熔解するための容器(るつぼ等)等の材料である白金と反応して、二酸化白金や白金イオン(Pt4+)が生じ、それが熔融ガラス中に溶け込むことで生じる。酸化度が低い雰囲気であれば、白金るつぼ由来の白金の酸化が抑制されて、熔融ガラスに溶け込むPt量を低減することができる。本発明においては、大気より酸化度が低い雰囲気(I)(第一段階目の熔解)での熔解を行うことにより、熔解雰囲気中の酸素分圧が低減することで、白金の酸化を抑制し、熔融ガラスに溶け込むPt量を低減できる。その結果、Pt由来の着色を低減することができる。
【0089】
本明細書において、大気より酸化度が低い雰囲気(I)とは、特に限定されるものではないが、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気や、大気に水又は水蒸気を付加した雰囲気、または、エタノールなどのアルコール類を希釈した水または水蒸気を付加した雰囲気などが挙げられる。雰囲気(I)としては、特に水蒸気付加雰囲気が好ましい。水蒸気付加雰囲気は、例えば、大気中で熔融しているガラスに対し、熔解炉に設けた開口部から連結パイプをるつぼ内へ挿入し、必要に応じてこのパイプを通して水蒸気をるつぼ内の空間へと供給する方法等が挙げられる。
【0090】
大気に水蒸気を所定量付加した気体を熔解雰囲気とすることにより、ガラスへのPt等の溶け込みを有効に抑制できる。また、脱泡性及び清澄性を改善するのに十分な溶存ガスをガラスに供給できる可能性もある。
【0091】
本発明の態様(1)における雰囲気(I)下での熔解工程において、熔融物の攪拌を目的として、非酸化性の気体を用いたバブリングを行うこともできる。熔融時のバブリングは、調合材料を熔融した後も継続してもよい。熔解工程において熔融物を非酸化性の気体で攪拌することにより、ガラスの酸化度が低下し、白金の熔融物への溶け込みが抑制されて白金由来の着色も低減される。
【0092】
バブリングに用いる非酸化性の気体は、必ずしも限定されるものではないが、公知の非酸化性の気体を用いることができる。例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、空気、および水蒸気を含むこれらの気体が挙げられる。
【0093】
(雰囲気(II)での熔解工程)
次に雰囲気(II)での熔解工程について説明する。
本発明の態様(1)では、雰囲気(I)の熔解工程の後に、ガラスをガラスブロック又はガラスカレットにした後、これらを再度熔解する。再度熔解する際は、雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)下で熔解を実施する。雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)にすることにより、低い酸化度の雰囲気(I)で発生した還元色を低減させる(好ましくは消失させる)ことができる。
【0094】
雰囲気(I)よりも高い酸化度の雰囲気(II)としては、例えば、酸素を含むガスが挙げられ、好ましくは大気、又は大気以上の酸化度の雰囲気が挙げられる。酸素の割合は特に限定されるものではない。大気以外でも、窒素などの不活性気体に酸素を混合させたガスを用いることができ、その時の酸素の割合は、20%以上であることが好ましい。
【0095】
雰囲気(II)での熔解時間は特に限定されず、還元色がなくなるまで加熱処理を行うことが好ましい。好ましい時間としては、ガラスの熔解体積量に応じて例えば、1分~200時間である。
【0096】
本発明の態様(2)の場合、ガラス原料を熔解する際は、熔解初期は雰囲気(I)で実施するが、ガラス原料がおおよそ熔融状態になった時に、雰囲気(I)を雰囲気(II)にしてもよい。このようにすることにより、白金が溶け込みやすい初期の熔解段階では、還元雰囲気(雰囲気(I))で行い、白金溶け込みをできるだけ抑制させることができる。また、その後の熔融状態(ガラスが熔融している状態)では、より酸化度が高い雰囲気(II)にし、ガラスの酸化度を上げることにより、初期の熔解工程で生じた還元による着色を低減することができる。
【0097】
(徐冷)
一般的に、ガラスの製造においては、ガラスブロックを成形した後に屈折率等のガラス特性の調整や、ガラスひずみを除くため、徐冷処理(アニール処理)を行うことができる。徐冷の方法は、公知の方法が挙げられる。例えば、30℃/時の速度でガラスのTgよりも100℃~150℃低い温度まで徐々に温度を降下させる方法が挙げられる。通常、その後は放冷させる方法が挙げられる。
【0098】
さらに別の具体的な方法としては、例えば、雰囲気(I)で熔融したガラスを急冷、粉砕してカレットを作製する。さらにカレットを白金るつぼ中に入れて加熱、再熔融(リメルト)して熔融ガラスとし、さらに清澄、均質化した後に熔融ガラスを成形し、徐冷する。
再熔融を含むその後の工程は、雰囲気(II)好ましくは大気またはそれ以上の酸化度の雰囲気で実施する。そして、ガラスの成形、徐冷には公知の方法を適用すればよい。
【0099】
以上の製造方法により、ガラスの透過率の改善が期待される。
【実施例
【0100】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
(実施例1)
ガラス組成が、Si4+が9.9カチオン%、B3+が22.6カチオン%、Ba2+が9.9カチオン%、Zn2+が1.4カチオン%、La3+が20.0カチオン%。Zr4+が5.2カチオン%、Ti4+が24.9カチオン%、Nb5+が6.1カチオン%の組成を有する母ガラス成分に対して外割でLiが2.0カチオン%の50ccのガラスが得られる様に準備したガラス原料を白金るつぼに投入し、加水雰囲気下(流量2.5cc/分)で、1400℃で2時間熔解した後、熔融ガラスを型に流し込み成形してガラスを得た。次に、得られたガラスのうち10ccを切り出し、大気雰囲気下で1400℃で20分間再熔融し、熔融ガラスを型に流し込み成形し、ガラス1を得た。表1に透過率の測定結果を示す。
なお、上記ガラスのTgは、671℃であった。屈折率nd、アッベ数νdは、得られたガラスをTg近傍から30℃/時間で徐冷したガラスを用いて測定した値であり、ndは2.000、νdは25.5であった。
【0102】
(参考例1)
実施例1(ガラス1)のガラス成分からLiを除いたガラス成分を有するガラス原料を秤量、調合して、得られた調合原料をガラス量として50ccとなるように白金るつぼに投入し、加水雰囲気下(流量2.5cc/分)で、1400℃で2時間熔解した後、熔融ガラスを型に流し込み成形してガラスを得た。次に、得られたガラスのうち10ccを切り出し、大気雰囲気下で1400℃で20分間再熔融し、熔融ガラスを型に流し込み成形し、ガラス2を得た。表1に透過率λ70の測定結果を示す。
なお、上記ガラスのTgは、694℃であった。屈折率nd、アッベ数νdは、得られたガラスをTg近傍から30℃/時間で徐冷したガラスを用いて測定した値であり、ndは2.002、νdは25.5であった。
【0103】
【表1】
【0104】
実施例、参考例の結果より、Liを含むガラスは、Liを含まないガラスに比べて、同じ再熔融時間(再熔融時間20分)でもλ70が小さく、着色改善が速いことがわかった。