(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】非加熱食品の変色を抑制するための組成物及び変色が抑制された食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/41 20160101AFI20240213BHJP
A23B 4/20 20060101ALI20240213BHJP
A23B 7/154 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
A23L5/41
A23B4/20 A
A23B7/154
(21)【出願番号】P 2019107492
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(72)【発明者】
【氏名】澤 桃子
(72)【発明者】
【氏名】冨山 香里
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝紹
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-336882(JP,A)
【文献】特開2002-017251(JP,A)
【文献】特開平07-289163(JP,A)
【文献】特開2012-075415(JP,A)
【文献】特開平07-255368(JP,A)
【文献】特開平08-131064(JP,A)
【文献】特開平02-222645(JP,A)
【文献】米国特許第05547693(US,A)
【文献】特開2008-054503(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056648(WO,A1)
【文献】特開昭57-174067(JP,A)
【文献】特開2018-166476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00- 7/16
A23L 5/40- 5/49
A23L 13/00-13/77
C12P 1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果物、野菜及び食肉からなる群から選択される非加熱食品の変色を抑制するための組成物であって、下記の糖組成の還元水飴;
単糖が1~50質量%、
二糖が6~75質量%、
三糖が7~25質量%、
四糖が1~13質量%、
五糖以上が1~81質量%、
又はマルチトール
からなる、前記組成物。
【請求項2】
前記
還元水飴は、下記の糖組成の高糖化還元水飴;
単糖が40~50質量%、
二糖が40~50質量%、
三糖が8~13質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~5質量%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を、果物、野菜及び食肉からなる群から選択される非加熱食品に接触させる工程を含む、変色が抑制された食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非加熱食品の変色を抑制するための組成物及び変色が抑制された食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非加熱状態の果実は、良好な果実味及び甘味のみならず、鮮やかな色味を有するため、多岐に渡る菓子に利用されている。また、非加熱状態の野菜として、例えばナスは、色鮮やかな浅漬け等の食品に利用されている。さらに食肉として、例えば、非加熱食品の代表格といえる生ハムは、鮮やかな色味が好まれる傾向にある。
【0003】
一方、食品の有する色味は、消費者の購買意欲に大きな影響を与えるが、非加熱状態の果実、野菜及び食肉は、酸化等のさまざまな要因により経時的に変色又は退色をきたしやすい傾向にある。変色又は退色を生じた果実、野菜及び食肉は、外観不良により流通不可となり、最終的には廃棄されることが問題視されてきた。
【0004】
このため、食品の変色を防止する方法が開発されてきた。変色防止剤として、一般に、L-アスコルビン酸(ビタミンC)が知られているが、L-アスコルビン酸は、果実、野菜及び食肉の食味及び甘味を大きく低下させるものであった。そこで、食味への影響を抑えつつ、効果的に食品の変色を防止できる方法が求められ、その方法について、いくつか提言されてきた。
【0005】
特許文献1には、カットフルーツをカテキン含有ゼリーで覆うことにより変色を抑制する方法が記載されている。また、特許文献2には、果実と、非加熱状態で搾汁、擂潰又は切断されたネギ類と、を接触処理することにより、果実の変色を防止する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-112855号公報
【文献】特開2002-335859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、果実が必ずゼリーに覆われてしまうことから、ゼリーを不要とする食品用途には利用できず、また、食味及び食感に影響を与えるという問題点を有していた。また、特許文献2の方法では、ネギ特有の臭みが食品に移ってしまい、品質の低下を招く恐れがある点で課題を残していた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、非加熱食品の食感及び食味を維持しつつ優れた変色抑制効果を発揮する組成物及び変色が抑制された食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る果物、野菜及び食肉からなる群から選択される非加熱食品の変色を抑制するための組成物は、
糖アルコールを有効成分として含有する。
【0010】
例えば、前記糖アルコールは、下記の糖組成の還元水飴;
単糖が1~50質量%、
二糖が6~75質量%、
三糖が7~25質量%、
四糖が1~13質量%、
五糖以上が1~81質量%、
エリスリトール又はマルチトールである。
【0011】
例えば、前記糖アルコールは、下記の糖組成の高糖化還元水飴;
単糖が40~50質量%、
二糖が40~50質量%、
三糖が8~13質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~5質量%。
又はエリスリトールである。
【0012】
本発明の第2の観点に係る変色が抑制された食品の製造方法は、
本発明の第1の観点に係る組成物を、果物、野菜及び食肉からなる群から選択される非加熱食品に接触させる工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非加熱食品の食感及び食味を維持しつつ優れた変色抑制効果を発揮する組成物及び変色が抑制された食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】マスカットの変色抑制効果を示す写真図であり、(a)はコントロールの浸漬0時間後の写真図、(b)はコントロールの浸漬3時間後の写真図、(c)は5% 高糖化還元水飴(SE600)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(d)は10% SE600含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(e)は5% 中糖化還元水飴(SE57)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(f)は10% SE57含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(g)は5% 低糖化還元水飴(SE100)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(h)は10% SE100含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(i)は5% 還元麦芽糖水飴(Malbit)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(j)は10% Malbit含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(k)は5% エリスリトール(ERT)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(l)は10% ERT含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図である。
【
図2】りんごの変色抑制効果を示す写真図であり、(a)はコントロールの浸漬0時間後の写真図、(b)はコントロールの浸漬3時間後の写真図、(c)は10% 高糖化還元水飴(SE600)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(d)は10% 中糖化還元水飴(SE57)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(e)は10% 低糖化還元水飴(SE100)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(f)は10% 還元麦芽糖水飴(Malbit)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(g)は10% エリスリトール(ERT)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図である。
【
図3】洋梨の変色抑制効果を示す写真図であり、(a)はコントロールの浸漬0時間後の写真図、(b)はコントロールの浸漬3時間後の写真図、(c)は10% 高糖化還元水飴(SE600)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(d)は10% 中糖化還元水飴(SE57)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(e)は10% 低糖化還元水飴(SE100)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(f)は10% 還元麦芽糖水飴(Malbit)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図、(g)は10% エリスリトール(ERT)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図である。
【
図4】10% エリスリトール含有浸漬液及び10% 高糖化還元水飴(SE600)含有浸漬液によるアボカドの変色抑制効果を示す写真図である。
【
図5】10% エリスリトール含有液及び10% 高糖化還元水飴(SE600)含有液による生ハムの変色抑制効果を示す写真図である。
【
図6】白桃の変色抑制効果を示す写真図であり、(a)はコントロールの浸漬0時間後の写真図、(b)はコントロールの浸漬3時間後の写真図、(c)は10% エリスリトール(ERT)含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図である。
【
図7】高糖化還元水飴(SE600)含有浸漬調味液によるナスの変色抑制効果を示す写真図である。
【
図8】浸漬10日後(使用後)の高糖化還元水飴(SE600)含有浸漬調味液の吸光度を表すグラフ図である。
【
図9】各種濃度のエリスリトール(ERT)含有浸漬液によるマスカットの変色抑制効果を示す写真図であり、(a)はコントロールの浸漬0時間後の写真図、(b)はコントロールの浸漬3時間後の写真図、(c)は1% ERT含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図であり、(d)は2.5% ERT含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図であり、(e)は5% ERT含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図であり、(f)は10% ERT含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図であり、(g)は20% ERT含有浸漬液の浸漬3時間後の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明による非加熱食品の変色を抑制するための組成物について詳細に説明する。
【0016】
本発明の非加熱食品の変色を抑制するための組成物は、糖アルコールを有効成分として含有する。該組成物を果物、野菜及び食肉からなる群から選択される非加熱食品に適用することにより、食感及び食味を維持しつつ非加熱食品の変色を抑制することができる。
【0017】
ここで、糖アルコールは、アルデヒド基(-CHO)を持つ糖を還元し、末端をアルコール(-CH2OH)に変化させた化合物をいう。糖アルコールは、一般に、高圧下で触媒を用いて糖を還元(水素付加)することにより得られる。原料とする糖の種類に応じて糖アルコールは種々存在するが、本発明では、後述する実施例で示すように、各種の糖アルコールを用いて、非加熱食品の変色を抑制することができる。
【0018】
本発明で用いられる糖アルコールを具体的に例示すると、下記の糖組成の還元水飴、エリスリトール又はマルチトールを挙げることができる;
単糖が1~50質量%、
二糖が6~75質量%、
三糖が7~25質量%。
四糖が1~13質量%、
五糖以上が1~81質量%。
【0019】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールの一種である。ここで、水飴はデンプンを酸や酵素などで糖化して得られるものであり、単糖(ブドウ糖)及び多糖(オリゴ糖、デキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴も、単糖の糖アルコール及び多糖(二糖、三糖又は四糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。
【0020】
還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴(糖の総重量を100%とした場合において単糖アルコールが30~50質量%、二糖アルコールが20~50質量%、三糖以上の糖アルコールが25質量%以下)、中糖化還元水飴(糖の総重量を100%とした場合において単糖アルコールが30質量%未満かつ五糖以上の糖アルコールが50質量%未満)及び低糖化還元水飴(糖の総重量を100%とした場合において五糖以上の糖アルコールが50質量%以上)に分けられる場合があるが、本発明においては、これらのいずれも用いることができる。好ましくは、単糖が1~50質量%、二糖が6~75質量%、三糖が7~25質量%及び四糖が1~13質量%、五糖以上が1~81質量%の糖組成の還元水飴が用いられ得る。
【0021】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0022】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水や水を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピー クの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
・HPLCの条件
カラム;Shodex SUGAR KS-802 HQ(8.0mm ID x 300mm) 2本
溶離液;高純水
流速;1.0mL/分
注入量;200μL
カラム温度;50℃
検出;示差屈折率検出器Shodex RI
【0023】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0024】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を 70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる 。
【0025】
エリスリトールは、化学名が1,2,3,4-Butaneterolである糖アルコールであり、エリトリトールとも呼ばれる。エリスリトールは、市販されているものを用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。
【0026】
公知の製造方法としては、グルコースなどを炭素源としてエリスリトール生産菌を培養して生産させ、これを精製して得る方法を挙げることができる。ここで、エリスリトール生産菌としては、例えば、トリゴノプシス属又はカンジダ属に属する微生物(特公昭47-41549号公報)、トルロプシス属、ハンゼヌラ属、ピヒア属又はデバリオミセス属に属する微生物(特公昭51-21072号公報)、モニリエラ属に属する微生物(特開昭60-110295号公報、特開平10-215887)、オーレオバシデュウム属に属する微生物(特公昭63-9831号公報)、イエロビア属に属する微生物(特開平10-215887号公報)などを挙げることができ、培養条件は、各菌に適した通常の条件で行うことができる。また、エリスリトールの精製は、菌体分離、クロマトグラフィーによるエリスリトールの分取、脱塩、脱色、晶析、結晶分解及び乾燥の工程を常法に従って行うことができる。
【0027】
マルチトールは、グルコースとソルビトールとが結合した糖アルコールであり、還元麦芽糖とも呼ばれる。マルチトールは、市販されているものを用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。公知の製造方法としては、デンプンから酵素糖化法により得られた二糖類のマルトースを原料として、高圧下で接触還元する方法が例示される。マルチトールとして、麦芽糖水飴を原料として製造された還元麦芽糖水飴を用いてもよく、この場合、好ましくは、単糖が1~10質量%、二糖が75~85質量%、三糖が5~15質量%、四糖が1~10質量%及び五糖以上が1~10質量%の糖組成の還元水飴が用いられる。
【0028】
本発明で用いられる糖アルコールとして、変色抑制効果の観点から、下記の糖組成の高糖化還元水飴又はエリスリトールが好適に用いられ得る;
単糖が40~50質量%、
二糖が40~50質量%、
三糖が8~13質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~5質量%。
【0029】
本発明の組成物が適用される非加熱食品は、果物、野菜及び食肉からなる群から選択される。
【0030】
果物としては、ぶどう(マスカット、巨峰等)、りんご、桃(白桃、すもも等)、梨(洋梨等)、アボガド、イチゴ、梅、バナナ、オレンジ、みかん、プルーン、パイナップル、キウイ、ゆず、レモン、メロンなどの通常食用される部分(例えば、果肉)を例示することができ、野菜としては、ナス、きゅうり、大根、にんじん、かぶ、白菜、キャベツ、レタス、ピーマン、オクラ、ゴボウなどの通常食用される部分を例示することができる。果物及び野菜は、皮(表皮等)を剥いた生の状態のものでもよく、皮付きのままの生の状態のものでもよい。また、カットフルーツ又はカット野菜のように、分割切断された状態の断片であってもよい。
【0031】
食肉としては、豚肉、牛肉、鶏肉、猪肉、鯨肉、鹿肉、羊肉などの加熱していない状態のものが例示され、生ハム(燻製はするが加熱しないもの、又は塩漬け及び乾燥のみで燻製しないもの)も含まれる。
【0032】
本発明の組成物を、前述の非加熱食品に接触させることで、非加熱食品の変色を抑制することができる。この接触の方法としては、例えば、本発明の組成物を食用に適する液体(例えば、水)に一定量添加し、該液体中に非加熱食品を一定時間浸漬させる方法;本発明の組成物を食用に適する液体(例えば、水)に一定量添加し、該液体を非加熱食品に一定量噴霧する方法などを挙げることができる。
【0033】
本発明の組成物を食用に適する液体(例えば、水)に一定量添加して非加熱食品に接触させる場合、変色抑制効果の観点から、該液体中に糖アルコールが、固形分濃度で、例えば、1.1%以上、1.2%以上、1.5%以上、1.8%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、4%以上、5%以上含まれているのが好ましい。
【0034】
本明細書において、「(非加熱食品の)変色を抑制する(変色抑制)」とは、非加熱状態で果物、野菜又は食肉の本来有する色が、一定時間経過することで、他の色に変化する(例えば、褐変)、又は退色するのを、目視で確認できる程度に抑制又は防止することを意味する。
【0035】
次に、本発明の変色が抑制された食品の製造方法について説明する。
【0036】
本発明の変色が抑制された食品の製造方法は、前述の本発明の組成物を、非加熱食品に接触させる工程を含む。
【0037】
本発明の組成物は、前述の糖アルコールを有効成分として含有し、その詳細については前述の通りである。また、非加熱食品は、果物、野菜及び食肉からなる群から選択され、その詳細についても前述の通りである。
【0038】
前述の本発明の組成物を、非加熱食品に接触させる方法の詳細については、前述の通りである。
【0039】
以上説明したように、本発明の非加熱食品の変色を抑制するための組成物は、糖アルコールを有効成分として含有することで、非加熱食品に対して優れた変色抑制効果を発揮することができる。また、本発明の有効成分である糖アルコールは、非加熱食品に接触させる処理のみで優れた変色抑制効果を発揮する。さらに、還元水飴、エリスリトール及びマルチトールといった糖アルコールは、刺激的な味又は臭いを有さず、良好な甘味質を呈する。また、糖アルコールは、比較的低濃度で用いても変色抑制効果を発揮し得る。さらに、糖アルコールを、その水溶液に非加熱食品を浸漬させる方法で用いる場合は、水に非加熱食品を浸漬させる場合と比較して、当該食品成分の流出、水分の流入又は食味の低下を抑制し得る。これらのことから、該組成物は、食感及び食味に与える影響が少なく、種々の果物、野菜又は食肉に対して幅広く効果的に利用することができる。したがって、該組成物を非加熱食品に用いることで、コンビニエンスストア、スーパー、スイーツ店などで一定時間陳列された状態でも、食感及び食味を維持しつつ、変色を抑制することができる。このため、消費者の購買意欲を増進させるのみならず、変色による食品廃棄の量を低減することもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
以下の実施例では、特段の記載のない限り、百分率(%)は質量%を示す。また、本実施例において、糖アルコールのうち、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴、低糖化還元水飴及びマルチトールについては、表1に記載の市販品を用い、エリスリトールについては、物産フードサイエンス株式会社製の製品(商品名:エリスリトール50M、形態:白色粉末)を用いた。
【0042】
【0043】
(実施例1)
(マスカット(果物)の変色抑制)
皮を剥いたマスカットを、水に糖アルコールを溶解した浸漬液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0044】
各浸漬液の組成を表2に示す。糖アルコールとして、高糖化還元水飴(SE600)、中糖化還元水飴(SE57)、低糖化還元水飴(SE100)、マルチトール(還元麦芽糖水飴、Malbit)又はエリスリトール(ERT)を用いて、各々、5%又は10%の浸漬液を調製した。各濃度については、固形分換算して規定した。なお、コントロールとして、糖アルコールを添加していない水を用いた。
【0045】
【0046】
表2に示した処方にて配合した浸漬液70gに、外皮を剥いたマスカット1粒を浸漬し、浸漬直後及び1、2、3時間後における変色の程度を、目視により観察した。
【0047】
結果を、
図1及び表3に示す。コントロールでは、浸漬1時間後には変色がみられ、浸漬3時間後には強い変色が確認された(
図1(b)、表3)。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液では、いずれも変色抑制効果が確認された(
図1(c)~(l)、表3)。特に、エリスリトールを添加した浸漬液では、浸漬2時間後も変色せず、浸漬3時間後では、5%濃度で弱い変色がみられた(
図1(k)、表3)ものの、10%濃度では変色が認められず(
図1(l)、表3)、高い変色抑制効果が示された。
【0048】
【0049】
また、浸漬3時間後のマスカットを喫食して食味を確認した。
【0050】
結果を表4に示す。コントロールにおける浸漬3時間後のマスカットは、水っぽさが強く、食味(甘味)が大幅に低下していた。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液に浸漬したマスカットは、水っぽくならず、甘味が維持される傾向にあった。特に、高糖化還元水飴(SE600)、マルチトール又はエリスリトールを添加した浸漬液(10%濃度)では、甘味の低下がみられず、食味が良好に維持されることが示された。
【0051】
【0052】
(実施例2)
(りんご(果物)の変色抑制)
カットしたりんごを、水に糖アルコールを溶解した浸漬液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0053】
実施例1で調製した以下の浸漬液を用いた。なお、コントロールとして、糖アルコールを添加していない水を用いた。
・10% 高糖化還元水飴(SE600)
・10% 中糖化還元水飴(SE57)
・10% 低糖化還元水飴(SE100)
・10% マルチトール(還元麦芽糖水飴、Malbit)
・10% エリスリトール(ERT)
【0054】
各浸漬液70gに、りんご1個を36分の1に分割したカットりんごを浸漬し、浸漬直後及び1、2、3時間後における変色の程度を、目視により観察した。
【0055】
結果を、
図2及び表5に示す。コントロールでは、浸漬1時間後には変色がみられ、浸漬3時間後には強い変色が確認された(
図2(b)、表5)。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液では、いずれも変色抑制効果が確認された(
図2(c)~(g)、表5)。特に、高糖化還元水飴(SE600)又はエリスリトールを添加した浸漬液では、浸漬3時間後でも変色が認められず(
図2(c)及び(g)、表5)、高い変色抑制効果が示された。
【0056】
【0057】
また、浸漬3時間後のりんごを喫食して食味を確認した。
【0058】
結果を表6に示す。コントロールにおける浸漬3時間後のりんごは、水っぽさが強く、食味(甘味)が大幅に低下していた。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液に浸漬したりんごは、水っぽくならず、甘味が維持される傾向にあった。特に、マルチトール又はエリスリトールを添加した浸漬液では、甘味の低下がみられず、食味が良好に維持されることが示された。
【0059】
【0060】
(実施例3)
(洋梨(果物)の変色抑制)
カットした洋梨を、水に糖アルコールを溶解した浸漬液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0061】
実施例1で調整した以下の浸漬液を用いた。なお、コントロールとして、糖アルコールを添加していない水を用いた。
・10% 高糖化還元水飴(SE600)
・10% 中糖化還元水飴(SE57)
・10% 低糖化還元水飴(SE100)
・10% マルチトール(還元麦芽糖水飴、Malbit)
・10% エリスリトール(ERT)
【0062】
各浸漬液70gに、洋梨1個を36分の1に分割したカット洋梨を浸漬し、浸漬直後及び1、2、3時間後における変色の程度を、目視により観察した。
【0063】
結果を、
図3及び表7に示す。コントロールでは、浸漬1時間後には変色がみられ、浸漬3時間後には強い変色が確認された(
図3(b)、表7)。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液では、いずれも変色抑制効果が確認された(
図3(c)~(g)、表7)。特に、エリスリトールを添加した浸漬液では、浸漬3時間後でも変色が認められず(
図3(g)、表7)、高い変色抑制効果が示された。
【0064】
【0065】
また、浸漬3時間後の洋梨を喫食して食味を確認した。
【0066】
結果を表8に示す。コントロールにおける浸漬3時間後の洋梨は、水っぽさが強く、食味(甘味)が大幅に低下していた。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液に浸漬した洋梨は、水っぽくならず、甘味が維持される傾向にあった。特に、高糖化還元水飴(SE600)、マルチトール又はエリスリトールを添加した浸漬液では、甘味の低下がみられず、食味が良好に維持されることが示された。
【0067】
【0068】
(実施例4)
(アボガド(果物)の変色抑制)
カットしたアボガドを、水に糖アルコールを溶解した浸漬液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0069】
実施例1で調整した以下の浸漬液を用いた。
・10% エリスリトール
・10% 高糖化還元水飴(SE600)
【0070】
各浸漬液に、厚さ5mmにカットしたアボガド(外皮を剥いた状態)を浸漬した(アボガド全体が浸漬液に浸かる程度の量の浸漬液を用いた)。1時間浸漬した後、液切りし、3日間冷蔵保存した後の変色の程度を、目視により観察した。なお、コントロールとして、カットしたアボガドを浸漬せずに3日間冷蔵保存したものを用いた。
【0071】
結果を、
図4に示す。コントロールでは、3日間冷蔵保存後に強い変色(褐変)が確認された。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液では、いずれも変色抑制効果が確認された。特に、高糖化還元水飴(SE600)を添加した浸漬液で、高い変色抑制効果が示された。
【0072】
(実施例5)
(生ハム(食肉)の変色抑制)
スライスした生ハムを、水に糖アルコールを溶解した浸漬液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0073】
各浸漬液の組成を表9に示す。糖アルコールとして、高糖化還元水飴(SE600)又はエリスリトール(表中「ERT」と表される)を用いて、各々、30%の浸漬液を調製した。各濃度については、固形分換算して規定した。
【0074】
【0075】
スライスした生ハムに、各浸漬液を、霧吹き器を用いて、生ハムの一方の面に5プッシュ、続いて他方の面に5プッシュ噴霧した。その後、容器に並べて、室温、蛍光灯照射下にて6時間保管した後の変色の程度を、目視により観察した。なお、コントロールとして、スライスした生ハムを何も処理せずに蛍光灯照射下にて6時間保管したものを用いた。
【0076】
結果を、
図5に示す。コントロールでは、6時間保管後に強い変色(茶色)が確認された。一方で、糖アルコールを添加した浸漬液では、いずれも変色抑制効果が確認された。
【0077】
(実施例6)
(白桃(果物)の変色抑制)
白桃を、水に糖アルコールを溶解した浸漬液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0078】
実施例1で調製した10% エリスリトール(ERT)の浸漬液を用いた。なお、コントロールとして、糖アルコールを添加していない水を用いた。
【0079】
浸漬液150gに、外皮を剥いた白桃1個を12分の1に分割したカット白桃を浸漬し、浸漬直後及び1、2、3時間後における変色の程度を、目視により観察した。
【0080】
結果を、
図6及び表10に示す。コントロールでは、浸漬1時間後には変色がみられ、浸漬3時間後には強い変色が確認された(
図6(b)、表10)。一方で、エリスリトールを添加した浸漬液では、変色抑制効果が確認された(
図6(c)、表10)。
【0081】
【0082】
また、浸漬3時間後の白桃を喫食して食味を確認した。
【0083】
結果を表11に示す。コントロールにおける浸漬3時間後の白桃は、水っぽさが強く、食味(甘味)が大幅に低下していた。一方で、エリスリトールを添加した浸漬液に浸漬した白桃は、水っぽくならず、甘味が維持されることが示された。
【0084】
【0085】
(実施例7)
(ナス(野菜)の変色抑制)
約3cm×約2cmの大きさにカットしたなすを、糖アルコールを添加した浸漬調味液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0086】
表12に示す浸漬調味液(浅漬け用調味液)を調製した。糖アルコールとして、高糖化還元水飴(SE600)を用いた。各濃度については、固形分換算して規定した。なお、コントロールとして、SE600を添加せずに調製した浸漬調味液を調製した。また、比較例として、SE600のかわりに上白糖を添加して調製した浸漬調味液を調製した。
【0087】
【0088】
カットしたナスを、3倍量の浸漬調味液に浸漬し、10日間冷蔵保管した。その後、ナス及び使用後の浸漬調味液の変色の程度を目視により観察した。また、浸漬10日後(使用後)の浸漬調味液について、吸光度を測定した。
【0089】
結果を、
図7及び
図8に示す。コントロール及び上白糖を用いた比較例では、10日間保管後には変色(褐変)が確認された(
図7上段)。一方で、高糖化還元水飴(SE600)を添加した浸漬液では、変色抑制効果が確認された(
図7上段)。また、浸漬10日後(使用後)の浸漬調味液について、SE600を添加した浸漬液では、コントロールに比して褐色の濃さの程度が低いことがわかった(
図7下段)。さらに、使用後の浸漬調味液について、吸光度を測定した結果、コントロール及び上白糖を用いた比較例に比して、SE600を添加した浸漬液では、吸光度の値が低いことが示された(
図8)。
【0090】
また、浸漬して5日間冷蔵保管後のナスを喫食して、コントロールと比較した食感(柔らかさ)及び甘味を確認した。
【0091】
結果を表13に示す。上白糖を用いた比較例では、コントロールに比してグニャッと柔らかく、食感が不良で、かつ、甘味についても甘さが目立つ結果となった。一方、SE600を添加した浸漬液では、コントロールに比して、歯の入りが良く、食感が良好で、甘味については若干甘く感じられるものの、食味として問題となるレベルではなかった。
【0092】
【0093】
(実施例8)
(濃度検討)
皮を剥いたマスカットを、種々の濃度の糖アルコール含有浸漬液に浸漬し、変色の程度を目視により観察した。
【0094】
各浸漬液の組成を表14に示す。糖アルコールとして、エリスリトール(ERT)を用いて、1%、2.5%、5%、10%又は20%の浸漬液を調製した。各濃度については、固形分換算して規定した。なお、コントロールとして、糖アルコールを添加していない水を用いた。
【0095】
【0096】
表9に示した処方にて配合した浸漬液70gに、外皮を剥いたマスカット1粒を浸漬し、浸漬直後及び1、2、3時間後における変色の程度を、目視により観察した。
【0097】
結果を、
図9及び表15に示す。コントロールでは、浸漬1時間後には変色がみられ、浸漬3時間後には強い変色が確認された(
図9(b)、表15)。一方で、エリスリトール含有浸漬液では、濃度2.5%以上で変色抑制効果が確認され、5%以上で顕著な変色抑制効果が確認された(
図9(d)~(g)、表15)。
【0098】
【0099】
また、浸漬3時間後のマスカットを喫食して食味を確認した。
【0100】
結果を表16に示す。コントロールにおける浸漬3時間後のマスカットは、水っぽさが強く、食味(甘味)が大幅に低下していた。一方で、エリスリトールを添加した浸漬液に浸漬した洋梨は、水っぽくならず、甘味が維持される傾向にあり、特に、5%以上の濃度においてその傾向が顕著であった。
【0101】
【0102】
以上より、本実施例の糖アルコール含有浸漬液を用いることで、各種の野菜、果物及び食肉の食感及び食味を維持しつつ変色抑制効果が得られることが確認された。