(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】保護素子
(51)【国際特許分類】
H01H 85/17 20060101AFI20240213BHJP
H01H 85/06 20060101ALI20240213BHJP
H01H 85/08 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
H01H85/17
H01H85/06
H01H85/08
(21)【出願番号】P 2019136245
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】米田 吉弘
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-095898(JP,A)
【文献】特開2014-220184(JP,A)
【文献】特開2010-129172(JP,A)
【文献】実開昭57-040244(JP,U)
【文献】特開2016-071972(JP,A)
【文献】特開2013-101801(JP,A)
【文献】特表2009-510708(JP,A)
【文献】登録実用新案第3196848(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/00 - 87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒューズエレメントと、
絶縁性ペーストを含浸させない絶縁性無機繊維物と、
前記ヒューズエレメントの少なくとも一部、及び、前記絶縁性無機繊維物を封入するカバー部材と、を有し、
前記絶縁性無機繊維物は、アーク放電時に前記ヒューズエレメントの溶融飛散物が飛散していく空間を有することで、前記溶融飛散物による導電パス形成を抑制しアーク放電の継続を防止する、保護素子。
【請求項2】
前記ヒューズエレメントの少なくとも一部は、前記絶縁性無機繊維物に接触または近接して配置される、請求項1に記載の保護素子。
【請求項3】
前記絶縁性無機繊維物は、シート状である、請求項1又は2のいずれかに記載の保護素子。
【請求項4】
前記ヒューズエレメントは、平板状、棒状、又は、ワイヤー状のいずれかである、請求項1~3のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項5】
前記ヒューズエレメントは複数のヒューズエレメントからなり、前記複数のヒューズエレメントが並列に配置している、請求項1~4のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項6】
前記複数のヒューズエレメントが並列に配置するヒューズエレメント群が複数、重畳して配置している、請求項5に記載の保護素子。
【請求項7】
前記絶縁性無機繊維物は、少なくとも前記ヒューズエレメントの一部を挟み込むように配置している、請求項1~6のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項8】
前記ヒューズエレメントは、低融点金属層と高融点金属層の積層体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項9】
前記積層体は、内層を前記低融点金属層、外層を前記高融点金属層とする積層構造である、請求項8に記載の保護素子。
【請求項10】
前記低融点金属層はSnもしくはSnを主成分とする金属からなる、請求項
8又は9に記載の保護素子。
【請求項11】
前記高融点金属層は、Ag、Cu、又は、AgもしくはCuを主成分とする金属からなる、請求項
8~10
のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項12】
前記低融点金属層の膜厚は30μm以上であり、前記高融点金属層の膜厚は1μm以上である、請求項8~11のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項13】
前記絶縁性無機繊維物
は、ガラス繊維あるいはセラミック繊維である、請求項1~12のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項14】
前記ヒューズエレメントの通電方向の両端部のそれぞれに端子部材を有し、
前記端子部材の一部が露出するように、前記カバー部材内に、前記ヒューズエレメントと前記絶縁性無機繊維物とが封入されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項15】
絶縁基板と、前記絶縁基板上に互いに離間して配置された2つの電極とを有し、
前記ヒューズエレメントの通電方向の両端部のそれぞれに、前記2つの電極のそれぞれが接続されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の保護素子。
【請求項16】
絶縁基板と、前記絶縁基板上に互いに離間して配置された2つの電極と、前記絶縁基板上に配置された発熱体と、前記発熱体の第1端に接続された発熱体電極と、前記発熱体の第2端と前記ヒューズエレメントに接続された発熱体引出電極と、を有し、
前記ヒューズエレメントの通電方向の両端部のそれぞれに、前記2つの電極のそれぞれが接続されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の保護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定格を超える電流が流れたときに発熱し溶断して電流経路を遮断するヒューズエレメントを備える保護素子(ヒューズ素子)が用いられている。
【0003】
保護素子としては、例えば、はんだをガラス管に封入したホルダー固定型ヒューズや、セラミック基板表面にAg電極を印刷したチップヒューズ、銅電極の一部を細らせてプラスチックケースに組み込んだねじ止め又は差し込み型保護素子等が多く用いられている。かかる保護素子は、リフローによる表面実装が困難であり、部品実装の効率が低くなるため、近年では表面実装型の保護素子が開発されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
表面実装型の保護素子は例えば、リチウムイオン二次電池を使用した電池パックの過充電や過電流の保護素子として採用されている。リチウムイオン二次電池は、ノートパソコン、携帯電話、スマートフォンなどのモバイル機器において使われており、近年では電動工具、電動自転車、電動バイク及び電気自動車等にも採用されている。そのため、大電流、高電圧用の保護素子が求められている。
【0005】
高電圧用の保護素子では、ヒューズエレメントが溶断される際にアーク放電が生じ得る。アーク放電が発生すると、ヒューズエレメントが広範囲にわたって溶融し、蒸気化した金属が飛散する場合がある。この場合、飛散した金属によって新たに電流経路が形成され、アーク放電が継続し保護素子の破壊や発火事故を起こすおそれがある。そのため、高電圧用保護素子では、アーク放電を発生させない、あるいは、アーク放電を早期に止める対策が施されている。
【0006】
アーク放電を発生させない、あるいは、アーク放電を止める対策として、ヒューズエレメントの周りに消弧材を詰めることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6249600号公報
【文献】特許第6249602号公報
【文献】特許第4192266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の消弧材を用いた保護素子では製造工程が複雑になり、保護素子の小型化が難しいという問題がある。
【0009】
また、大電流、高電圧用の保護素子の電流遮断試験において、消弧材を用いないで樹脂ケース破損したのと同じ条件で、消弧剤を用いたところ、樹脂ケースが燃焼した場合があった。本発明者がその詳細を調べたところ、ヒューズエレメントの溶融飛散物が消弧剤に付着して導電パスを形成し、この導電パスを介してアーク放電が継続されたものと推測される。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、アーク放電を防止し又はアーク放電を迅速に阻止可能な保護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る保護素子は、ヒューズエレメントと、前記ヒューズエレメントの少なくとも一部に接触または近接して配置する、絶縁性無機繊維物又は絶縁性無機多孔質材と、前記ヒューズエレメントの少なくとも一部、及び、前記絶縁性無機繊維物又は絶縁性無機多孔質材を封入するカバー部材と、を有する。
【0013】
(2)上記(1)に記載の態様において、前記絶縁性無機繊維物又は絶縁性無機多孔質材は、セラミック又はガラスからなってもよい。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)のいずれかに記載の態様において、前記前記絶縁性無機繊維物又は絶縁性無機多孔質材は、シート状であってもよい。
【0015】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の態様において、前記ヒューズエレメントは、平板状、棒状、又は、ワイヤー状のいずれかであってもよい。
【0016】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の態様において、前記ヒューズエレメントは複数のヒューズエレメントからなり、前記複数のヒューズエレメントが並列に配置していてもよい。
【0017】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の態様において、複数のヒューズエレメントが並列に配置するヒューズエレメント群が複数、重畳して配置していてもよい。
【0018】
(7)上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の態様において、前記絶縁性無機繊維物又は絶縁性無機多孔質材は、少なくとも前記ヒューズエレメントの一部を挟み込むように配置していてもよい。
【0019】
(8)上記(1)~(7)のいずれか一つに記載の態様において、前記ヒューズエレメントは、低融点金属層と高融点金属層の積層体であってもよい。
【0020】
(9)上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の態様において、前記積層構造は、内層を低融点金属、外層を高融点金属とする積層体であってもよい。
【0021】
(10)上記(1)~(9)のいずれか一つに記載の態様において、前記低融点金属はSnもしくはSnを主成分とする金属からなってもよい。
【0022】
(11)上記(1)~(10)のいずれか一つに記載の態様において、前記高融点金属は、Ag、Cu、又は、AgもしくはCuを主成分とする金属からなってもよい。
【0023】
(12)上記(1)~(11)のいずれか一つに記載の態様において、前記低融点金属層の膜厚は30μm以上であり、前記高融点金属層の膜厚は1μm以上であってもよい。
【0024】
(13)上記(1)~(12)のいずれか一つに記載の態様において、前前記前記絶縁性無機繊維物又は絶縁性無機多孔質材に絶縁性ペーストが含侵されていてもよい。
【0025】
(14)上記(1)~(13)のいずれか一つに記載の態様において、前記ヒューズエレメントの通電方向の両端部のそれぞれに端子部材を有し、前記端子部材の一部が露出するように、前記カバー部材内に、前記ヒューズエレメントと前記絶縁性無機繊維物又は絶縁性無機多孔質材とが封入されていてもよい。
【0026】
(15)上記(1)~(13)のいずれか一つに記載の態様において、絶縁基板と、前記絶縁基板上に互いに離間して配置された2つの電極とを有し、前記ヒューズエレメントの通電方向の両端部のそれぞれに、前記2つの電極のそれぞれが接続されていてもよい。
【0027】
(16)上記(1)~(13)のいずれか一つに記載の態様において、絶縁基板と、前記絶縁基板上に互いに離間して配置された2つの電極と、前記絶縁基板上に配置された発熱体と、前記発熱体の第1端に接続された発熱体電極と、前記発熱体の第2端と前記ヒューズエレメントに接続された発熱体引出電極と、を有し、 前記ヒューズエレメントの通電方向の両端部のそれぞれに、前記2つの電極のそれぞれが接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、アーク放電を防止し又はアーク放電を迅速に阻止可能な保護素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る保護素子の斜視模式図である。
【
図3】積層体の構造の例を模式的に示した斜視図であり、(a)は、方形状あるいは板状のものであり、内層として低融点金属層とし、外層として高融点金属層としたものであり、(b)は、丸棒状のものであり、内層として低融点金属層とし、外層として高融点金属層としたものであり、(c)は、方形状あるいは板状のものであり、低融点金属層と高融点金属層とが積層された二層構造のものであり、(d)は、方形状あるいは板状のものであり、低融点金属層を上下の高融点金属層及び高融点金属層で挟み込んだ三層構造のものである。
【
図4】第2実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
【
図5】第3実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
【
図6】4つのヒューズエレメントが並列配置するヒューズエレメント群がz方向に2段に配置する構成を示した断面模式図である。
【
図7】第4実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
【
図8】第5実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
【
図9】(a)は第5実施形態に係る保護素子のヒューズエレメントが溶断する前の回路図であり、(b)は溶断した後の回路図である。
【
図10】第6実施形態に係る保護素子の断面模式図である。
【
図11】第7実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
【
図12】第7実施形態に係る保護素子のヒューズエレメントが溶断する前の回路図である。
【
図13】第8実施形態に係る保護素子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。また、一つの実施形態にのみ、あるいは、いくつかの実施形態にのみに記載した構成要素であっても適宜、他の実施形態にも適用可能である。
【0031】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
図2は、第1実施形態に係る保護素子の斜視模式図である。
以下、ヒューズエレメントに通電する方向をx方向、ヒューズエレメントの幅方向をy方向、ヒューズエレメントの厚み方向をz方向という。
【0032】
図1に示す保護素子100は、ヒューズエレメント3と、ヒューズエレメント3の少なくとも一部に接触または近接して配置する絶縁性無機繊維物4と、ヒューズエレメント3の一部及び絶縁性無機繊維物4を封入するケース部材5と、を有する。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【0033】
<ヒューズエレメント>
ヒューズエレメント3としては、公知のヒューズエレメントに用いられる材料のものを用いることができる。典型的には、合金を含む金属材料のものを用いることができる。具体的には、Pb85%/SnやSn/Ag3%/Cu0.5%などを例示できる。
【0034】
図1に示すヒューズエレメント3は、1個の部材(パーツ)からなるが、複数個の部材(パーツ)からなるものであってもよい。ヒューズエレメントが複数の部材(パーツ)からなる場合、溶断時に隣接する部材(パーツ)は互いに接触しない程度の距離を隔てて配置する。以下では、ヒューズエレメントを構成する複数の部材(パーツ)のそれぞれをヒューズエレメントと称することもある。
また、ヒューズエレメント3を構成する1個の部材、又は、複数個の部材のそれぞれの形状は、ヒューズとして機能可能であれば特に形状に制限はなく、ヒューズエレメントとして機能可能であれば制限はなく、平板状、棒状、又は、ワイヤー状のものを例示できる。ヒューズエレメント3は、平板状の部材である。
【0035】
ヒューズエレメント3は、ケース部材5の外部に位置する第1の端部3a及び第2の端部3bと、第1の端部3a及び第2の端部3bの間に位置する中間部3cとからなる。第1の端部3a及び第2の端部3bのそれぞれには、外部端子孔3aa、外部端子孔3baを備えている。
一対の外部端子孔3aa、外部端子孔3baのうち、一方の外部端子孔は電源側へ接続するために用いることができ、他方の外部端子孔は負荷側へ接続するために用いることができる。
ここで、外部端子孔3aa、外部端子孔3baの形状は図示しない電源側あるいは負荷側の端子に係合可能な形状であれば特に制限はなく、
図1(b)に示す外部端子孔3aa、外部端子孔3baは開放部分がない貫通穴であるが、一部に開放部分を有するつめ形状などでもよい。
【0036】
ヒューズエレメント3のケース部材5内に配置する中間部3cの一部に溶断されやすい切断部3ccを有してもよい。
図1に示す切断部3ccは、幅方向に並ぶ3個の穿孔と、両側端のそれぞれに切り欠きを有する構成を例示している。
【0037】
ヒューズエレメント3を構成する1個の部材、又は、複数個の部材のそれぞれは、低融点金属層と高融点金属層の積層体としてもよい。
低融点金属層に用いられる低融点金属として、SnもしくはSnを主成分とする金属を用いることが好ましい。Snの融点は232℃であるため、Snを主成分とする金属は低融点であり、低温で柔らかくなるからである。例えば、Sn/Ag3%/Cu0.5%合金の融点は217℃である。
高融点金属層に用いられる高融点金属としては、Ag、Cu又はこれらを主成分とする金属を用いることが好ましい。例えば、Agは融点962℃であるため、Agを主成分とする金属からなる高融点金属層は低融点金属層が柔らかくなる温度では剛性を維持できるからである。
【0038】
ヒューズエレメント3が低融点金属層と高融点金属層の積層体からなる場合、ヒューズエレメント3は、溶融した低融点金属層が高融点金属層を溶解することにより(言い換えると、固体状態の高融点金属が溶融状態の低融点金属に溶け出すことにより)、高融点金属層がその融点よりも低い温度で溶融を開始する。この場合のヒューズエレメント3では、低融点金属による高融点金属の溶解作用を利用して(言い換えると、高融点金属が低融点金属に溶け出す現象を利用して)、ヒューズエレメント3を高融点金属の融点よりも低い温度で溶断可能である。
【0039】
低融点金属による高融点金属の溶解作用(高融点金属が低融点金属に溶け出す現象)を利用してヒューズエレメント3を迅速に溶断する観点で、低融点金属層の膜厚は30μm以上であることが好ましく、高融点金属層の膜厚は1μm以上であることが好ましい。
【0040】
積層体の構造としては種々の構造をとることができる。
図3に、積層体の構造の例を模式的に示した斜視図を示す。
図3(a)に示す積層体(ヒューズエレメント)3Aは、方形状あるいは板状のものであり、内層として低融点金属層3Aaとし、外層として高融点金属層3Abとしたものであるが、内層と外層とを逆にしてもよい。
図3(b)に示す積層体(ヒューズエレメント)3Bは、丸棒状のものであり、内層として低融点金属層3Baとし、外層として高融点金属層3Bbとしたものであるが、内層と外層とを逆にしてもよい。
図3(c)に示す積層体(ヒューズエレメント)3Cは、方形状あるいは板状のものであり、低融点金属層3Caと高融点金属層3Cbとが積層された二層構造のものである。
図3(d)に示す積層体(ヒューズエレメント)3Dは、方形状あるいは板状のものであり、低融点金属層3Daを上下の高融点金属層3Db及び高融点金属層3Dcで挟み込んだ三層構造のものである。逆に、高融点金属層を二層の低融点金属層で挟み込んだ三層構造としてもよい。
図3(a)~(d)は、二層又は三層の積層体としたものであるが、四層以上としてもよい。
【0041】
ヒューズエレメント3が内層とそれを挟む外層の三層からなる積層体である場合、内層が低融点金属層、外層が高融点金属層であることが好ましいが、外層が低融点金属層、内層が高融点金属層であってもよい。
【0042】
<絶縁性無機繊維物、絶縁性無機多孔質材>
絶縁性無機繊維物4は、ヒューズエレメント3の溶断等、電気的な特性に影響を与えることがないように絶縁性であり、無機材料からなり、かつ、溶融飛散物が飛散していく空間を有するものである。
図1に示す保護素子100では、ヒューズエレメント3の一方の側3Aに、ヒューズエレメント3の少なくとも一部に接触または近接して配置する絶縁性無機繊維物4を備える。
図1に示す保護素子100では、絶縁性無機繊維物4はヒューズエレメント3の一方の側3Aに載置した構成である。
絶縁性無機繊維物は、ヒューズエレメント3の他方の側3Bにも備えてもよい。この場合、2つの絶縁性無機繊維物でヒューズエレメント3を厚み方向の両側から挟み込む構成である。
【0043】
絶縁性無機繊維物4を構成する無機繊維(無機ファイバー)としては、公知の無機繊維を用いることができる。具体的には、セラミック繊維、ガラス繊維などを挙げることができる。本明細書において、セラミック繊維とは、セラミック材料を主成分とする無機繊維であって、ガラス繊維を除くものを指し、また、ガラス繊維とは、SiO2を主成分とする繊維を指す。
セラミック繊維としては、具体的には、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、ムライト、炭化珪素(SiC)等からなるものやこれらを主成分とするものが挙げられる。
【0044】
無機繊維の市販品の例としては、セラミックペーパーあるいはセラミックファイバーペーパー(坂口電熱株式会社製、有限会社タクミ産業製、ニコー物産株式会社製)などを例示できる。
【0045】
絶縁性無機繊維物4の厚さとしては、
図1(a)に示すように、上部ケース部材5Aとヒューズエレメント3との距離と同程度とすることができる。または、上部ケース部材5Aとヒューズエレメント3との距離よりも厚い絶縁性無機繊維物4を上部ケース部材5Aで押さえ込む構成でもよい。この場合、絶縁性無機繊維物4がヒューズエレメント3に接触する部分が大きくなる。
または、後述する
図4等に示すように、絶縁性無機繊維物を上部ケース部材とヒューズエレメントとの距離よりも薄くすることもできる。すなわち、絶縁性無機繊維物4と上部ケース部材との間に隙間が空いた構成である。この場合でもあっても、絶縁性無機繊維物4の自重によってヒューズエレメント3に接触する部分がある。
【0046】
絶縁性無機繊維物4の幅(y方向長さ)は、
図1(b)に示すように、ヒューズエレメント3と同程度の幅あるいはそれよりも幅広の方がアーク防止あるいはアーク継続阻止の効果が大きいが、ヒューズエレメント3よりも幅狭でも効果はある。
【0047】
絶縁性無機繊維物4の長さ(x方向長さ)は、
図1(a)に示すように上部ケース部材5Aの内部の長さとほぼ同程度とすることができる。この場合、ヒューズエレメント3のケース部材内のどの位置で溶断しても、アーク放電防止あるいはアーク放電継続阻止の効果が得られる。絶縁性無機繊維物4は、上部ケース部材5Aの内部の長さよりも短くすることもできる。
【0048】
図に示す例は、絶縁性無機繊維物が1枚の場合だけであるが、複数枚で構成してもよい。
【0049】
上述の通り、絶縁性無機繊維物の替わりに絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
絶縁性無機多孔質材の材料としては、公知の無機多孔質材料を用いることができる。具体的には、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、ムライト、炭化珪素(SiC)等からなるものや、これらを主成分とするものが挙げられる。
【0050】
絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材の材料としては、熱伝導率が高い材料であることが好ましい。ヒューズエレメント3の熱を放熱する機能(ヒューズエレメント3を冷却する機能)を高めて、アーク放電防止又はアーク放電継続阻止の効果を高めるためである。
ガラスの熱伝導率は1W/mK程度であるのに対して、酸化物系のセラミックでは、マグネシアの熱伝導率は30W/mK程度、アルミナの熱伝導率は20W/mK程度、ムライトの熱伝導率は4W/mK程度、ジルコニアの熱伝導率は3W/mK程度である。また、炭化珪素の熱伝導率は100W/mK以上である。
【0051】
絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材は、アーク放電時に、溶融飛散物が飛散していく空間を有する。アーク放電によってヒューズエレメントの溶融飛散物が飛散する空間を有すると、溶融飛散物が導電パスを形成せず、アーク放電の継続を防止できる。
アーク放電による溶融飛散物が散っていく空間を確保する観点で、絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材の密度は、孔や隙間がない場合の密度(その材料の密度)の1/100~1/4であることが好ましい。例えば、アルミナの密度は3.95g/cm3であるが、0.04g/cm3~1.0g/cm3となるアルミナ繊維あるいはアルミナ多孔質材とすることが好ましい。
【0052】
通常作動時に絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材がヒューズエレメント3に直接接触していない場合であっても、近接して配置していれば、溶断時にヒューズエレメントの切断箇所が膨らんで直接接触することになり、ヒューズエレメントを冷却させてアーク現象の継続を防止する効果が得られる。
本明細書において、「近接」とは、1mm以下であることを意味する。
絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材がヒューズエレメントの少なくとも一部に近接する場合、0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることがさらに好ましい。
【0053】
<絶縁性ペースト>
絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材は、絶縁性ペーストを含侵させた構成としてもよい。
絶縁性ペーストとは、絶縁性無機繊維物の繊維間の隙間あるいは絶縁性無機多孔質材の孔に入り込むことができる、流動性を有する絶縁物質である。絶縁性ペーストが備えることで、ヒューズエレメントの溶融飛散物の分散による絶縁化の効果を高めることができる。
絶縁性ペーストとしては、例えば、はんだ付けの際に用いられるフラックスを挙げることができる。
【0054】
本発明者が、フラックスを含侵させたセラミックペーパーを絶縁性無機繊維物として用いたところ、フラックスを含侵させないセラミックペーパーを用いた場合と比較して、遮断後の絶縁抵抗が2~4桁高くなった。絶縁抵抗を高めた理由としては、ヒューズエレメントの溶融飛散物が絶縁性無機繊維物の繊維間の隙間あるいは絶縁性無機多孔質材の孔に入るだけでなく、その隙間あるいは孔に入った溶融飛散物をフラックスが覆うことで、各隙間あるいは各孔の中でも溶融飛散物の凝集が起り不連続化することによるものと考えられる。
【0055】
以下では、絶縁性ペーストを含侵させた絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材についても、単に絶縁性無機繊維物あるいは絶縁性無機多孔質材と称する。
【0056】
<ケース部材>
ケース部材5は、内部を保護するとともに溶融したヒューズエレメント3の飛散を防止する。
図1に示すケース部材5は、上部ケース部材5Aと下部ケース部材5Bとからなる。
ケース部材5は、例えば、エンジニアリングプラスチック(特に耐トラッキング性の高いナイロン系が好ましい。)、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する材料によって形成することができる。
ケース部材5は、アルミナ等の熱伝導率が高いセラミックス材料によって形成されていることが好ましい。ヒューズエレメントが過電流により発熱した熱を効率的に外部に放熱し、中空で保持されたヒューズエレメントを局所的に加熱、溶断させることが可能となる。
【0057】
次に、上部ケース部材5Aと下部ケース部材5Bとは例えば、接着剤で接着することができ、ヒューズエレメント3がカバーされて、保護素子100が完成する。
【0058】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
第1実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、第1実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0059】
図4に示す保護素子101は、ヒューズエレメント13と、ヒューズエレメント13の少なくとも一部に接触または近接して配置する絶縁性無機繊維物14と、ヒューズエレメント13及び絶縁性無機繊維物14を封入するケース部材15と、を有する。
さらに、保護素子101は、互いに離間して配置する第1の端子部材1及び第2の端子部材2を有し、第1の端子部材1はヒューズエレメント13の第1の端部13aに接続され、第2の端子部材2はヒューズエレメント13の第2の端部13bに接続されている。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【0060】
<絶縁性無機繊維物>
図4に示す保護素子101では、ヒューズエレメント13の一方の側13Aに、ヒューズエレメント13の少なくとも一部に接触または近接して配置する絶縁性無機繊維物14を備える。
図4に示す保護素子101では、絶縁性無機繊維物14はヒューズエレメント3の一方の側13Aに載置した構成である。
絶縁性無機繊維物は、ヒューズエレメント13の他方の側13Bにも備えてもよい。この場合、2つの絶縁性無機繊維物でヒューズエレメント13を厚み方向の両側から挟み込む構成である。
【0061】
<第1の端子部材、第2の端子部材>
第1の端子部材1、及び、第2の端子部材2はそれぞれ、ヒューズエレメントの外部との接続のための剛性を補強し、電気抵抗を低減する材料からなるものであることが好ましい。
第1の端子部材1は、外部端子孔1aaを有する。また、第2の端子部材2は、外部端子孔2aaを有する。
図4に示す保護素子101では、ヒューズエレメント13の第1の端部13aの厚み方向に第1の端子部材1の第1端部1aが重なるように接続され、また、第2の端部13bの厚み方向に第2の端子部材2の第2端部2aが重なるように接続されている。
【0062】
第1の端子部材、及び、第2の端子部材の材料としては、例えば、銅や黄銅などが挙げられる。
そのうち、剛性強化の観点では、黄銅が好ましい。
そのうち、電気抵抗低減の観点では、銅が好ましい。
第1の端子部材、及び、第2の端子部材の材料は、同じでも異なっていてもよい。
【0063】
第1の端子部材、及び、第2の端子部材を、第1の端部、第2の端部に接続する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、はんだ付けや溶接による接合、リベット接合やネジ接合などの機械的接合などが挙げられる。
【0064】
第1の端子部材、及び、第2の端子部材の厚みとしては、限定するものではないが、目安を言えば、0.3~1.0mmとすることができる。
第1の端子部材、及び、第2の端子部材の厚みは、同じでも異なっていてもよい。
【0065】
<ケース部材>
図4に示すケース部材15は、
図1に示したケース部材5と同様に上部ケース部材15Aと下部ケース部材15Bとからなる。一方、上部ケース部材15Aは天面15Aaからヒューズエレメント13に向かって、少なくとも絶縁性無機繊維物14の側面まで延在する突起部15Abを有する点で異なる。上部ケース部材15Aは、突起部15Abを備えることにより、絶縁性無機繊維物14の側面が移動規制を受けるため、絶縁性無機繊維物14の位置ずれを防ぐことが可能となる。
【0066】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0067】
図5に示す保護素子102は、4つのヒューズエレメント23a、23b、23c、23d(これらを総称して「ヒューズエレメント23」ということがある。)と、ヒューズエレメント23a、23b、23c、23dの少なくとも一部に接触または近接して配置する絶縁性無機繊維物14と、ヒューズエレメント23及び絶縁性無機繊維物14を封入するケース部材15と、を有する。
また、保護素子102は、互いに離間して配置する第1の端子部材1及び第2の端子部材2を有し、4つのヒューズエレメント23a、23b、23c、23dはそれぞれ、両端を第1の端子部材1及び第2の端子部材2に接続されている。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【0068】
<ヒューズエレメント>
図5に示すヒューズエレメント23は、4つのヒューズエレメント23a、23b、23c、23dからなるが、4つ以外の複数のヒューズエレメントからなるものでもよい。
ヒューズエレメントが複数のヒューズエレメントからなる場合、各ヒューズエレメントは材料や形状が同じものでも異なっていてもよい。例えば、各ヒューズエレメントが異なる抵抗を有するものでもよい。
ヒューズエレメントが複数のヒューズエレメント(パーツ)からなる場合、溶断時に隣接するヒューズエレメント(パーツ)は互いに接触しない程度の距離を隔てて配置する。
【0069】
ヒューズエレメント23を複数のヒューズエレメントとすることにより、各ヒューズエレメントの溶断時にアーク放電が発生した場合でも小規模となり、溶融金属の爆発的な飛散を防止することができる。
【0070】
図5に示す4つのヒューズエレメント23a、23b、23c、23dは、並列配置している。
複数のヒューズエレメントが並列配置であると、絶縁性無機繊維物4によって各ヒューズエレメントの冷却及び溶融飛散物の分散を容易に実現でき、耐アーク性能を向上させることができる。
【0071】
また、ヒューズエレメントの形状は上述の通り、平板状、棒状、又は、ワイヤー状のものを例示できる。
図5に示す4つのヒューズエレメント23a、23b、23c、23dは、棒状、又は、ワイヤー状のものの例である。
【0072】
図5に示す保護素子102では、4つのヒューズエレメントがxy面に平行な面内に並列配置する構成を示したが、並列配置するヒューズエレメント群がz方向に複数段配置する構成としてもよい。
図6に、4つのヒューズエレメントが並列配置するヒューズエレメント群がz方向に2段に配置する構成を示した。すなわち、4つのヒューズエレメント23aa、23ba、23ca、23daが並列配置するヒューズエレメント群23Aと、4つのヒューズエレメント23ab、23bb、23cb、23dbが並列配置するヒューズエレメント群23Bがz方向に配置する。ヒューズエレメント群23Aとヒューズエレメント群23Bとで、それぞれを構成するヒューズエレメントを異なるもの(材料、太さなど)としてもよい。
【0073】
並列配置するヒューズエレメント群が複数段配置する構成において、絶縁性無機繊維物を複数枚備えるものとしてもよい。
図6に示した構成においては、最もカバー部材に近い位置と、ヒューズエレメント群23Aとヒューズエレメント群23Bとの間のそれぞれ、絶縁性無機繊維物14A、絶縁性無機繊維物14B、絶縁性無機繊維物14Cを備える。
【0074】
(第4実施形態)
図7は、第4実施形態に係る保護素子の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した平面図である。
上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0075】
図7に示す保護素子103は、
図5に示した保護素子102に比べて、ヒューズエレメント23の絶縁性無機繊維物14が配置する側の反対側にも絶縁性無機繊維物24を備える点、すなわち、ヒューズエレメント23を絶縁性無機繊維物14とともに挟み込むように絶縁性無機繊維物24を備える点が主な差異である。
【0076】
保護素子103は、4つのヒューズエレメント23a、23b、23c、23d(これらを総称して「ヒューズエレメント23」ということがある。)と、ヒューズエレメント23の少なくとも一部に接触または近接し、ヒューズエレメント23を厚み方向に両側から挟み込むよう配置する、絶縁性無機繊維物14及び絶縁性無機繊維物24と、ヒューズエレメント23、絶縁性無機繊維物14及び絶縁性無機繊維物24を封入するケース部材25と、を有する。
また、保護素子103は、互いに離間して配置する第1の端子部材1及び第2の端子部材2を有し、4つのヒューズエレメント23a、23b、23c、23dはそれぞれ、両端を第1の端子部材1及び第2の端子部材2に接続されている。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【0077】
<ケース部材>
図7に示すケース部材25は、
図4に示したケース部材15と同様に上部ケース部材25Aと下部ケース部材25Bとからなる点、及び、上部ケース部材25Aは天面25Aaからヒューズエレメント23に向かって、少なくとも絶縁性無機繊維物14の側面まで延在する突起部25Abを有する点は共通する。絶縁性無機繊維物14の厚みは、ヒューズエレメント23表面から上部ケース部材25Aの天面25Aaの間までの厚みで良いが、ヒューズエレメント23表面から上部ケース部材25Aの天面25Aaに接触する厚みでも良い。
一方、下部ケース部材25Bの下面25Ba側には、絶縁性無機繊維物24をヒューズエレメント23に接触または近接するように支持するための支持部25Bbを有する。絶縁性無機繊維物24の支持方法はこれに限らず、例えば、下部ケース部材25Bの下面25Ba上に単に載置することでもよい。
【0078】
(第5実施形態)
図8は、第5実施形態に係る保護素子の主要部の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はケース部材を外した状態の平面模式図である。
上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0079】
図8に示す保護素子200は、絶縁基板10と、絶縁基板10上に互いに離間して配置された2つの電極111、112と、ヒューズエレメント13と、ヒューズエレメント13のケース部材115側の少なくとも一部に接触または近接して配置する、絶縁性無機繊維物14と、ヒューズエレメント13及び絶縁性無機繊維物14を封入するケース部材115と、を有し、ヒューズエレメント13の通電方向の両端部13a、13bに2つの電極111、112が接続されている。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【0080】
<絶縁基板>
絶縁基板10は、たとえば、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材によって方形状に形成される。その他、絶縁基板10は、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等のプリント配線基板に用いられる材料を用いてもよい。
【0081】
絶縁基板10は、平板状であることが好ましい。絶縁基板10の厚さは、絶縁基板10の耐熱性や熱伝導性によっても異なるが、一般に、100μm~1000μmの範囲内にあることが好ましい。また、絶縁基板10の外周は壁状に立ち上げてもよい。
【0082】
<第1の電極、第2の電極>
絶縁基板10には、第1の電極111及び第2の電極112が形成されている。第1の電極111は、絶縁基板10の表面10aに形成された第1表面電極111aと、絶縁基板10の裏面10bに形成された第1裏面電極111bと、第1表面電極111aと第1裏面電極111bとを接続するキャスタレーション111cとからなる。同様に、第2の電極112は、絶縁基板10の表面10aに形成された第2表面電極112aと、絶縁基板10の裏面10bに形成された第2裏面電極112bと、第2表面電極112aと第2裏面電極112bとを接続するキャスタレーション112cとからなる。
第1の電極111及び第2の電極112は、それぞれ、AgやCu配線等の導電パターンによって形成され、表面に適宜、酸化防止対策としてSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層16が設けられる。保護素子200は、裏面10bに形成された第1裏面電極111b、第2裏面電極112bを介して、回路基板の電流経路上に実装される。
【0083】
第1の電極111及び第2の電極112は、ハンダ等の接続材料18を介してヒューズエレメント13の通電方向の両端部13a、13bに接続されている。上述したように、ヒューズエレメント13は、接続材料18を介して第1の電極111及び第2の電極112間に搭載された後、リフローはんだ付け等により容易に接続することができる。
【0084】
<ヒューズエレメント>
ヒューズエレメント13としては上述と同様のヒューズエレメントを用いることができる。
【0085】
<絶縁性無機繊維物>
絶縁性無機繊維物14としては上述と同様の絶縁性無機繊維物を用いることができる。
【0086】
図8に示す保護素子200は、
図9(a)に示す回路構成を有する。保護素子200は、第1の外部接続電極111a、第2の外部接続電極112aを介して外部回路に実装されることにより、当該外部回路の電流経路上に組み込まれる。保護素子200は、ヒューズエレメント13に所定の定格電流が流れている間は、自己発熱によっても溶断することがない。一方、保護素子200は、定格を超える過電流が通電するとヒューズエレメント13が自己発熱によって溶断し、第1の電極111及び第2の電極112間を遮断することにより、当該外部回路の電流経路を遮断する(
図9(b))。
【0087】
保護素子200は、ヒューズエレメント13が低融点金属層と高融点金属層の積層体である場合、ヒューズエレメント13が高融点金属層よりも融点の低い低融点金属層が積層されているため、過電流による自己発熱により、溶融した低融点金属層が高融点金属層を溶解し始める。したがって、保護素子200は、ヒューズエレメント13の低融点金属層による高融点金属層の溶解作用を利用することにより、高融点金属層が溶融温度よりも低い温度で溶融され、速やかに溶断することができる。絶縁性無機繊維物14を備えるため、溶断の際にアーク放電が発生しても速やかに止まる。
【0088】
さらに、ヒューズエレメント13の溶融金属は、第1の電極111及び第2の電極112の物理的な引き込み作用により左右に分断されることから、速やかに、かつ確実に、第1の電極111及び第2の電極112間の電流経路を遮断することができる。
【0089】
<製造方法>
保護素子200の製造方法の一例を説明する。
【0090】
絶縁基板10の相対向する両端部に、第1の電極111及び第2の電極112を、それぞれ、AgやCu配線等をスクリーン印刷等によってパターンニングし、表面に適宜、酸化防止及び電極喰われ対策としてSn、Ni/Au、Ni/Pd、Ni/Pd/Au等の保護層16をメッキ加工によって形成することでベース部分を製造する。
【0091】
次に、絶縁基板10の表面10a側で、第1の電極111及び第2の電極112上にハンダペースト等の接続材料18を塗布し、第1の電極111及び第2の電極112にわたってヒューズエレメント13を接続する。これにより、第1の電極111及び第2の電極112上に、ヒューズエレメント13が搭載される。次に、ヒューズエレメント13上に、絶縁性無機繊維物14を載置する。
【0092】
次に、絶縁基板10の表面10a側に所定の範囲で接着剤19を塗布した後に、ケース部材115を接着することで、ヒューズエレメント13及び絶縁性無機繊維物14がカバーされ、保護素子200が完成する。
【0093】
(第6実施形態)
図10は、第6実施形態に係る保護素子の断面模式図である。
上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0094】
図10に示す保護素子201は、
図8に示した保護素子200に比べて、ヒューズエレメント13の絶縁性無機繊維物14が配置する側の反対側にも絶縁性無機繊維物24を備える点、すなわち、ヒューズエレメント13を絶縁性無機繊維物14とともに挟み込むように絶縁性無機繊維物24を備える点が主な差異である。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【0095】
(第7実施形態)
図11は、第7実施形態に係る保護素子の主要部の模式図であり、(a)は断面模式図であり、(b)は第7実施形態に係る保護素子を、ケース部材を外して示す平面模式図である。
上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0096】
図11に示す保護素子300は、絶縁基板10と、絶縁基板10上に互いに離間して配置された2つの電極111、112と、ヒューズエレメント33と、絶縁性無機繊維物34と、絶縁基板10上に配置された発熱体20と、発熱体20の第1端に接続された発熱体電極29と、発熱体20の第2端とヒューズエレメント33に接続された発熱体引出電極26と、を有し、ヒューズエレメント33が2つの電極111、112に接続され、ヒューズエレメント33の絶縁基板10に対向しない側の少なくとも一部に、絶縁性徐熱部材34が接触または近接して配置している。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【0097】
<発熱体>
発熱体20は、通電すると発熱する導電性を有する部材であって、たとえばニクロム、W、Mo、Ru等又はこれらを含む材料からなる。発熱体20は、これらの合金あるいは組成物、化合物の粉状体を樹脂バインダ等と混合してペースト状にしたものを、絶縁基板10上にスクリーン印刷技術を用いてパターン形成して、焼成する等によって形成することができる。
【0098】
発熱体20は、絶縁部材22によって被覆され、絶縁部材22を介して発熱体20と対向するように発熱体引出電極26が形成されている。発熱体引出電極26は、絶縁基板10の表面10a上に形成されるとともに発熱体20と接続された下層部26aと、発熱体20と対向して絶縁部材22上に積層されるとともにヒューズエレメント33と接続される上層部26bとを有する。これにより、発熱体20は、発熱体引出電極26を介してヒューズエレメント33と電気的に接続されている。
発熱体電極29は、絶縁基板10の表面10aに形成された発熱体表面電極29aと、絶縁基板10の裏面10bに形成された発熱体裏面電極29bと、発熱体表面電極29aと発熱体裏面電極29bとを接続するキャスタレーション29cとからなる。
発熱体20は、一端が発熱体引出電極26と接続され、他端が発熱体電極29と接続されている。
【0099】
<ヒューズエレメント>
また、保護素子300は、ヒューズエレメント33が発熱体引出電極26と接続されることにより、発熱体20への通電経路の一部を構成する。したがって、保護素子300は、ヒューズエレメント33が溶融し、外部回路との接続が遮断されると、発熱体20への通電経路も遮断されるため、発熱を停止させることができる。
【0100】
ヒューズエレメント33は、ヒューズエレメント33が高融点金属層を備えることにより高温環境に対する耐性が向上されているため実装性に優れ、接続材料18を介して第1の電極111、第2の電極112及び発熱体引出電極26上に搭載された後、リフローはんだ付け等により容易に接続することができる。
【0101】
<絶縁性無機繊維物>
絶縁性無機繊維物34としては上述と同様の絶縁性無機繊維物を用いることができる。
【0102】
図11に示す保護素子300は、
図12に示すような回路構成を有する。保護素子300は、発熱体引出電極26を介して第1裏面電極111b、第2裏面電極112b間にわたって直列接続されたヒューズエレメント33と、ヒューズエレメント33の接続点となる発熱体引出電極26を介して通電して発熱させることによってヒューズエレメント33を溶融する発熱体20とからなる回路構成である。保護素子300においては、第1裏面電極111b、第2裏面電極112b及び発熱体裏面電極29bを介して外部回路基板に接続されることにより、ヒューズエレメント33が第1、第2の電極111、112を介して外部回路の電流経路上に直列接続され、発熱体20が発熱体電極29を介して外部回路に設けられた電流制御素子と接続される。
このような回路構成からなる保護素子300は、外部回路の電流経路を遮断する必要が生じた場合に、外部回路に設けられた電流制御素子によって発熱体20に通電される。保護素子300において、発熱体20の発熱により、外部回路の電流経路上に組み込まれたヒューズエレメント33が溶融され、ヒューズエレメント33の溶融導体が発熱体引出電極26及び第1、第2の電極111、112に引き寄せられることによりヒューズエレメント33が溶断される。これによって、外部回路の電流経路が遮断され、また、ヒューズエレメント33が溶断することにより、発熱体20への給電も停止される。
【0103】
保護素子300は、ヒューズエレメント33が低融点金属層と高融点金属層の積層体である場合、ヒューズエレメント33が高融点金属層よりも融点の低い低融点金属層が積層されているため、過電流による自己発熱により、溶融した低融点金属層が高融点金属層を溶解し始める。したがって、保護素子300は、ヒューズエレメント33の低融点金属層による高融点金属層の溶解作用を利用することにより、高融点金属層が溶融温度よりも低い温度で溶融され、速やかに溶断することができる。
【0104】
<製造方法>
保護素子300の製造方法の、ヒューズエレメントを絶縁基板上に搭載する部分についてその一例を説明する。
【0105】
絶縁基板10の表面10a側で、第1の電極111及び第2の電極112、発熱体引出電極26上にハンダペースト等の接続材料18を塗布し、第1の電極111及び第2の電極112,発熱体引出電極26にわたってヒューズエレメント33を接続する。これにより、第1の電極111及び第2の電極112,発熱体引出電極26上に、ヒューズエレメント33が搭載される。次に、ヒューズエレメント33上に、絶縁性無機繊維物34を載置する。
【0106】
次に、絶縁基板10の表面10a側に所定の範囲で接着剤19を塗布した後に、ケース部材115を接着することで、ヒューズエレメント33がカバーされ、保護素子300が完成する。
【0107】
(第8実施形態)
図13は、第8実施形態に係る保護素子の断面模式図である。
上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0108】
図13に示す保護素子301は、
図11に示した保護素子300に比べて、ヒューズエレメント33の絶縁性無機繊維物34が配置する側の反対側にも絶縁性無機繊維物44を備える点が主な差異である。
絶縁性無機繊維物部材に替えて、絶縁性無機多孔質材を用いてもよい。
【実施例】
【0109】
(実施例1)
図3(a)に示す積層体タイプのヒューズエレメント(内層が幅5.4mm×長さ11mm×厚み0.3mmのSn合金からなり、外層が厚み6μmのAgからなる)と、絶縁性無機繊維物としてセラミックファイバーペーパー(坂口電熱株式会社製)と、ケース部材として樹脂製のケース部材とを用い、
図4に示すタイプをベースにヒューズエレメントの両面を絶縁性無機繊維物で挟み込んだ構造の保護素子を作製した。
【0110】
(比較例1)
セラミックファイバーペーパーを用いなかった以外は実施例1と同様にして、保護素子を作製した。
【0111】
(比較例2)
セラミックファイバーペーパーを用いないで、消弧剤をケース部材に充填した以外は実施例1と同様にして、保護素子を作製した。
【0112】
(電流遮断試験1)
100V、295Aで電流遮断試験を行った。
実施例1の保護素子は0.3秒で電流が遮断し、ケース部材には特に影響はなかった。
比較例1の保護素子は0.3秒で電流が遮断し、ケース部材が飛散した。
比較例2の保護素子は0.5秒で電流が遮断し、音がしてケース部材の上部ケース部材が外れた。
【0113】
(実施例2)
図3(a)に示す積層体タイプのヒューズエレメント(内層が幅1.0mm×長さ11mm×厚み0.2mmのSn合金からなり、外層が厚み4μmのAgからなる)と、絶縁性無機繊維物としてセラミックファイバーペーパー(坂口電熱株式会社製)と、ケース部材として樹脂製のケース部材とを用い、
図6に示すタイプの保護素子を作製した。
【0114】
(比較例3)
セラミックファイバーペーパーを用いなかった以外は実施例2と同様にして、保護素子を作製した。
【0115】
(比較例4)
セラミックファイバーペーパーを用いないで、消弧剤をケース部材に充填した以外は実施例2と同様にして、保護素子を作製した。
【0116】
(電流遮断試験2)
120V、200Aで電流遮断試験を行った。
実施例2の保護素子は0.7秒で電流が遮断し、ケース部材には特に影響はなかった。
比較例3の保護素子は0.4秒で電流が遮断し、ケース部材には特に影響はなかった。
比較例4の保護素子は0.9秒で電流が遮断し、爆発音がしてケース部材に穴があき燃焼した。
【0117】
(電流遮断試験3)
140V、200Aで電流遮断試験を行った。
実施例2の保護素子は0.7秒で電流が遮断し、ケース部材には特に影響はなかった。
比較例3の保護素子は0.5秒で電流が遮断し、ケース部材が飛散した。
【0118】
(電流遮断試験4)
150V、190Aで電流遮断試験を行った。
実施例2の保護素子は0.9秒で電流が遮断し、ケース部材には特に影響はなかった。
【符号の説明】
【0119】
1 第1端子部材(端子部材)
2 第2端子部材(端子部材)
3、13、23、33 ヒューズエレメント
4、14、24、34、44 絶縁性無機繊維物(絶縁性無機多孔質材)
5、15、25,115 ケース部材
10絶縁基板
20 発熱体
26 発熱体引出電極
29 発熱体電極
100、101、102、103、200、201、300、301 保護素子
111 第1の電極
112 第2の電極