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特許7433797インクジェットヘッドおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20240213BHJP
   B41J 2/155 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/155
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019138740
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021020387
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】下山 弘幸
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-006812(JP,A)
【文献】特開2001-270115(JP,A)
【文献】特開2007-055221(JP,A)
【文献】特開2007-301886(JP,A)
【文献】特開2019-010834(JP,A)
【文献】特開2007-050662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口を設けた吐出デバイスの複数を、前記液体を該吐出デバイスに供給する液体流路口を有する基板上に、配列して接合するインクジェットヘッドの製造方法において、
前記基板上に、配置する前記吐出デバイス間の間隙部と該間隙部から前記液体流路口に至る領域の少なくとも一部を除いて、各吐出デバイスの接合領域に第1の接着剤を塗布する工程と、
前記第1の接着剤上に、複数の前記吐出デバイスを配置し、前記間隙部と前記液体流路口とが連通した状態となるように、前記吐出デバイスを前記基板に前記第1の接着剤よりなる第1の接着層で接合する工程と、
前記基板上に、前記第1の接着層により接合された隣接する前記吐出デバイス間の間隙部に、第2の接着剤を充填し、前記第1の接着層の厚みよりも厚い第2の接着層を形成する工程と、
を備えていることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第2の接着層は、前記間隙部において、前記隣接する前記吐出デバイス間に連続して形成される請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記吐出デバイス間の間隙部の幅が1mm以下である請求項1又は2に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記液体流路口から前記第2の接着層に向かって、前記基板と前記吐出デバイスとの間に空間が形成される請求項1~3の何れか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第2の接着層は、前記第1の接着層で接合された前記吐出デバイスの表面よりも低い高さに形成する請求項1~の何れか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記第2の接着剤は、フィラーを含む請求項1~の何れか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記フィラーの最小粒径は、前記第1の接着層の接合後の厚みより大い請求項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記第2の接着剤の粘度は、25℃における粘度が10Pa・s以上50Pa・s以下である請求項1~の何れか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】
液体を吐出する複数の吐出口を設けた吐出デバイスの複数が、前記液体を該吐出デバイスに供給する液体流路口を有する基板上に、配列されてなるインクジェットヘッドにおいて、
前記吐出デバイスのそれぞれと前記基板との間に配置され、前記吐出デバイスを前記基板上に接合する第1の接着層であって、前記基板上の、隣接する前記吐出デバイスに液体を供給する前記液体流路口の間の領域に、前記吐出デバイスが配列される方向にわたり、前記第1の接着層が配置されていない部分が形成されるように配置された前記第1の接着層と、
前記第1の接着層が配置されていない前記部分を含む、前記隣接する前記吐出デバイスの間隙部の前記基板上に配置され、前記第1の接着層の厚みよりも厚い第2の接着層を備え
前記吐出デバイス間の前記間隙部の幅は1mm以下であるインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記第2の接着層は、前記間隙部において、前記隣接する前記吐出デバイス間に連続して形成されている、請求項9に記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記液体流路口から前記第2の接着層に向かって、前記基板と前記吐出デバイスとの間に空間が存在する請求項又は10に記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記第2の接着層は、前記吐出デバイスの表面よりも低い高さに形成されている請求項11の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
前記第2の接着層がフィラーを含む接着剤よりなる請求項12の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項14】
前記フィラーの最小粒径は、前記第1の接着層の接合後の厚みより、大きい請求項13に記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置には、より高品位な画像をより速い印刷速度で出力できることが求められており、印刷速度の高速化要求に対応する一つの手段として、印字幅を長くしたインクジェットヘッドの長尺化が試みられている。インクジェットヘッドの長尺化では、特許文献1のように、インクを液滴として吐出させるための複数のインク吐出デバイスを基材の長手方向に配置して、印刷する記録媒体の幅領域の大部分を覆うことのできる、長尺のインクジェットヘッドが提案されている。このような長尺のインクジェットヘッドにおいて、印字品質をさらに向上させようとした場合、配置される吐出デバイス同士を極力近接させ、インクの着弾領域に局所的な空白箇所が発生しないようにすることが考えられる。また、吐出デバイス同士を近接させることに合わせて、吐出デバイスを基板に接合するために配置される、複数の接着剤塗布部も、近接した状態で配置されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-086463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デバイス間の間隔が狭くなると、接着剤をデバイス間に連続して塗布することがある。このような接着剤の配置では、デバイス接合の際にはみ出した接着剤が凝集してデバイスの正常な接合ができずインク吐出に影響することがある。
そこで、本発明の目的は、隣接する吐出デバイス間の過度な接着剤はみ出しによる品質不良を抑制することができる、インクジェットヘッドおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、
液体を吐出する複数の吐出口を設けた吐出デバイスの複数を、前記液体を該吐出デバイスに供給する液体流路口を有する基板上に、配列して接合するインクジェットヘッドの製造方法において、
前記基板上に、配置する前記吐出デバイス間の間隙部と該間隙部から前記液体流路口に至る領域の少なくとも一部を除いて、各吐出デバイスの接合領域に第1の接着剤を塗布する工程と、
前記第1の接着剤上に、複数の前記吐出デバイスを配置し、前記間隙部と前記液体流路口とが連通した状態となるように、前記吐出デバイスを前記基板に前記第1の接着剤よりなる第1の接着層で接合する工程と、
前記基板上に、前記第1の接着層により接合された隣接する前記吐出デバイス間の間隙部に、第2の接着剤を充填し、前記第1の接着層の厚みよりも厚い第2の接着層を形成する工程と、
を備えていることを特徴とする。
また本発明のインクジェットは、
液体を吐出する複数の吐出口を設けた吐出デバイスの複数が、前記液体を該吐出デバイスに供給する液体流路口を有する基板上に、配列されてなるインクジェットヘッドにおいて、
前記吐出デバイスのそれぞれと前記基板との間に配置され、前記吐出デバイスを前記基板上に接合する第1の接着層であって、前記基板上の、隣接する前記吐出デバイスに液体を供給する前記液体流路口の間の領域に、前記吐出デバイスが配列される方向にわたり、前記第1の接着層が配置されていない部分が形成されるように配置された前記第1の接着層と、
前記第1の接着層が配置されていない前記部分を含む、前記隣接する前記吐出デバイスの間隙部の前記基板上に配置され、前記第1の接着層の厚みよりも厚い第2の接着層を備え
前記吐出デバイス間の前記間隙部の幅は1mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
以上の構成によれば、隣接する吐出デバイス間に接着剤が過度にはみ出すことがなく、インク吐出の安定したインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態のインクジェットプリンタの概略平面図である。
図2】本実施形態のインクジェットヘッドの平面図、及び、変形例の平面図である。
図3】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法を示した平面図である。
図4図3に続き、第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法を示した平面図である。
図5図4(b)の断面で、良品と不良品の違いを示した断面模式図である。
図6】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法において、接着剤に含有されるフィラーの状態を示した断面図、及び、平面図である。
図7】第1の接着剤がはみ出す品質不良例を示した平面模式図である。
図8】第2の実施形態に係る接合状態を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
(インクジェットプリンタ)
まず、本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略構成について説明する。図1は本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略平面図である。インクジェットプリンタ1は、記録用紙2に液体(以下、インクという)を液滴として噴射して画像等を記録するためのインクジェットヘッド3と、インクジェットヘッド3を保持するためのキャリッジ4、そして、記録用紙2を搬送する搬送機構5を備えている。プリンタ筐体6内には、記録用紙2を支持するプラテン7が設置され、このプラテン7の上方には、2つのガイドレール8a、8bが設けられている。キャリッジ4は、図示しないキャリッジ駆動モータによって駆動されることによって、2本のガイドレール8a、8bに沿って移動することが可能である。インクジェットヘッド3は、プラテン7との間に隙間を有する状態で、キャリッジ4の下部に水平方向に沿って取り付けられており、インクジェットヘッド3の下面が液滴噴射部3aとなっている。また、インクジェットヘッド3は、インクカートリッジホルダ9と図示しないチューブによって接続されている。インクカートリッジホルダ9には、4つのインクカートリッジ10a、10b、10c、10dが装着されており、それぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクが、チューブを介してインクジェットヘッド3に供給される。メンテナンスユニット11には、キャップ12、吸引ポンプ13、及びワイパー14等が配置されており、キャップ12はモータ等の駆動源とギヤ等の動力伝達機構によって構成されたキャップ駆動部(不図示)によって昇降駆動される。キャップ12はキャップ駆動部によって上方へ移動し、インクジェットヘッド3の液滴噴射部3aに密着することにより、キャッピングを行う。キャッピングの後、キャップ12に接続されている吸引ポンプ13が、キャップ12内部の空気を吸引し、キャップ12内部を減圧することでインクジェットヘッド3の液滴噴射部3aから、キャップ12内部へインクを強制的に排出する吸引パージを行う。この吸引パージにより、インクに混入している気泡や塵、あるいは、増粘したインク等が排出され、液滴噴射の品質が劣化するのを抑制している。なお、ワイパー14は吸引パージ後にインクジェットヘッド3が液滴噴射位置に移動する際、インクジェットヘッド3の液滴噴射部3aに付着したインクを拭き取るワイピングを行うために配置されている。
以上の通り、インクジェットプリンタ1は記録用紙2を搬送機構5により記録用紙排出部15に向かって搬送させながら、インクジェットヘッド3が液滴を噴射させ、記録用紙2に画像や文字などを記録するように構成されている。
【0010】
(インクジェットヘッド)
図2(a)は本実施形態の製造方法によって製造されるインクジェットヘッド3の平面図である。インクジェットヘッド3は、基板22上に、第1の接着層25によって接合された複数の吐出デバイス21(吐出口40は不図示)と、隣接する吐出デバイス間の間隙部に配置された第2の接着層26とを有する。基板22には、吐出デバイスに液体を供給する複数の液体流路口23が形成されている。また、ここでは図示しないが、インクジェットヘッド3は、上記構成に加えて、電気配線基板、ヘッドカバー、インクジェットプリンタとの取付用基準治具で構成されている。本実施形態では、吐出デバイス21を、8個並べて接合する形態であるが、用途に応じて基板22の長さや形状を変更し、吐出デバイス21の数や配置を変更してもよい。例えば、図2(b)に示すように、図2(a)に示す基板を長手方向に延長して、吐出デバイス21を、8個を超えて並べて接合する形態としてもよい。あるいは図2(c)に示すように、図2(a)に示す基板を短手方向に拡幅して、基板の長手方向に複数並べて接合した吐出デバイス21を、基板の短手方向に複数列に並べて配列する形態としてもよい。もちろん、基板を長手方向及び短手方向の両方に拡張してより多くの吐出デバイス21を配置することも可能である。
吐出デバイス21の配置ピッチは特に制限されるものではないが、デバイス間の間隙が1mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましい。また基板に形成される複数の液体流路口23は、基板の短手方向に液体流路口23の長手方向が向く構成としている。これは、吐出デバイス21内部での液体流路と吐出口との配置によるものであり、基板の長手方向に液体流路口23の長手方向が向く構成としてもよい。
なお、図2(a)~(c)にいずれも、配列方向(図面の左右方向)の両端部では第1の接着層25がはみ出しており、第2の接着層26は形成されていない構成を示しているが、吐出デバイス間の間隙と同様に第2の接着層26が形成されていてもよい。
【0011】
(インクジェットヘッドの製造方法)(第一の実施形態)
以下、本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
まず、基板を用意する。
基板22に、図3(a)に示されるように、吐出デバイス21にインクを供給するための液体流路口23を設ける。本実施形態では、一つの吐出デバイスにつき、液体流路口23は、2つの開口で構成されているが、これに限定されるものではなく、任意の数の開口から構成されてもよい。基板22の材料としては、絶縁性、熱伝導性、機械的強度の点から、アルミナ材を使用することが好ましい。
また、基板22は、複数層の積層構造とすることができ、該積層により液体流路口23に連通する内部の液体流路を複雑に配置することもできる。
【0012】
次に、液体流路口23を有する基板22上に、液体を吐出する複数の吐出口を設けた吐出デバイスを、複数接合するための第1の接着剤を基板上に塗布する。
具体的には、基板22上に、図3(b)あるいは図3(c)に示すように、一つの吐出デバイスにつき、一対の液体流路口23が対応するように、第1の接着剤24を塗布する。また第1の接着剤24は、隣接する吐出デバイスに液体を供給する液体流路口の間の領域に、吐出デバイスが配列される方向にわたり、第1の接着層が存在しない(配置されていない)部分が形成されるように塗布される。つまり、吐出デバイス間の間隙部bには、第1の接着剤24は塗布されない。さらに、液体流路口23の周辺部は吐出デバイスを接合する際に第1の接着剤が押し出されて広がることから、そのマージンを見越して第1の接着剤を塗布されない。 基板22上への第1の接着剤の塗布は、塗布ロボットに記憶させた塗布プラグラムによって行われる。なお、第1の接着剤24は、塗布方法以外に、転写方式を用いて形成してもよい。また、本実施形態では第1の接着剤24として熱硬化型樹脂を用いた接着剤を用いているが、UV・熱併用型の硬化樹脂を用いた接着剤や、熱可塑性樹脂型接着剤を用いてもよい。熱可塑性樹脂型の第1の接着剤24を使用する場合は、任意の形状に加工した熱可塑性フィルムを基板22に所定パターンで熱圧着し、第1の接着剤24を基板上に転写する。
【0013】
以下では、接着剤を用いた接着層の形成方法について説明する。
図3(c)は、図3(b)のa部を拡大したものである。図3(c)には、後述する吐出デバイス21aと、吐出デバイス21bの2つが横並びに接合される領域が示されている。吐出デバイス21aの接合領域には第1の接着剤24aが一対の液体流路口23aと23bの間とその長手方向の両側にエの字状に塗布されている。図面の左右方向には、吐出デバイス間の間隙部bと、同じく間隙部b1が設けられている。液体流路口23への接着剤の入り込みを防止するため、液体流路口23の周辺部は第1の接着剤24の塗布されない領域が存在する。また、吐出デバイス21bの接合領域にも同様に第1の接着剤24bが形成されており、図面の左右方向には間隙部bと、b2が設けられている。このように、第1の接着剤24は、吐出デバイス間の間隙部と該間隙部から前記液体流路口に至る領域の少なくとも一部を除いて、各吐出デバイスの接合領域に塗布配置される。
【0014】
続いて、第1の接着剤上に、複数の前記吐出デバイスを配置し、前記間隙部と前記液体流路口とが連通した状態となるように、前記吐出デバイスを前記基板に前記第1の接着剤よりなる第1の接着層で接合する。具体的には、図3(d)に示すように、第1の接着剤24a上には、複数の吐出口40が設けられた吐出デバイス21a、第1の接着剤24b上には吐出デバイス21bを、それぞれ接合する。本実施形態では、第1の接着剤24には、熱硬化型の接着剤を用いているため、吐出デバイス21a、21bを加熱した状態で押圧し、接合している。この際、第1の接着剤24aは、吸熱により硬化作用が働き、所定時間で硬化することで、硬化した第1の接着層25となる。なお、押圧時に第1の接着剤は押し出され、第1の接着層は第1の接着剤の塗布厚よりも薄い厚みとなる。また、第1の接着剤の塗布厚み及び塗布領域は、押圧時の押出量を考慮して、デバイス接合領域外へのはみ出しや基板の液体流路口への垂れ込みが品質に影響しない範囲で行う。なお、接合方法は本実施形態に限られるものではなく、使用する接着剤の物性に応じて、UV光と熱を併用した接合方法、或いは第1の接着剤24以外に、仮止め接着剤を併用した接合方法を用いてもよい。
【0015】
図3(e)は、図3(d)において、吐出デバイス21a、21bを透過した状態を示している。同図に示すように、吐出デバイスと基板との間に第1の接着層25が存在しない空間30が間隙部bと液体流路口23との間に形成され、間隙部bと前記液体流路口23とが連通した状態となっている。つまり、この時点においては、液体流路口23a、23b、23c、23dは、完全にシールされておらず、間隙部bから空間30を介して外部と繋がった状態である。この空間30の高さは、第1の接着層25の厚みに相当し、本実施形態では0.03mm以内とした。空間30の高さは、後述する第2の接着剤26aに含有されているフィラー27の最小粒径より小さくすることが好ましい。つまり、フィラー27の最小粒径は、第1の接着層の接合後の厚みよりも大きくすることで、空間30への第2の接着剤の入り込みを抑制している。
【0016】
次に、吐出デバイス間の間隙部bに、第2の接着剤を充填し、第2の接着層により前記空間30を封止する。
具体的には、図4(a)に示すように、吐出デバイス21aと、吐出デバイス21bの隣接角部にある、塗布開始位置P1から、第2の接着層26を形成するために、第2の接着剤26aを塗布する。第2の接着剤26aの塗布は、図4(b)に示すように、塗布開始位置P1から塗布された第2の接着剤26aが、塗布終了位置P2に到達した時点で終了する。なお、塗布終了位置P2は、接着剤の物性値によって適宜変更可能である。そして、第2の接着剤26aの塗布終了後、オーブンにてキュア処理を行い、第2の接着剤26aを図4(c)に示すように硬化させることで、第2の接着層26を形成する。本実施形態では、第2の接着剤26aとして100℃以上で硬化する接着剤を使用したため、110℃×1時間のキュア処理を行い、第2の接着層26を形成した。第2の接着層26の形成により、液体流路口23a、23b、23c、23dは、第1の接着層25aと、第1の接着層25bと、第2の接着層26により、囲われる構成となり、外部領域とは遮断されたシール状態が完成する。この第1の接着層25a及び25bと第2の接着層26に囲われる領域が、前述した図6(b)に示す空間30である。第2の接着剤26aの塗布については、塗布開始位置P1、塗布終了位置P2、それぞれにおいて、本実施形態に限定するものではなく、前述の間隙部b、b1、及びb2を、第2の接着剤26aで充填するように塗布できればよい。
【0017】
なお、図5(a)に示すように、第2の接着剤26aが、吐出デバイス21a、21bの上面より高くならないよう、塗布をする。仮に、図5(b)のように、第2の接着剤26aの塗布面が、吐出デバイス21a、21bの上面(表面)より高くなると、第2の接着剤26aが、吐出デバイスの上面に設けられている吐出口を塞いでしまうことがあり、印字品質が劣化してしまう。第2の接着剤26aの塗布面が吐出デバイスの上面よりも高くならないようするため、第2の接着剤26aは、流動性が高い低粘度の接着剤を選択することが好ましい。具体的には、室温(25℃)における粘度が50Pa・s以下が、好ましく、30Pa・s以下がより好ましい。一方、過剰に低粘度化すると、第2の接着剤が第1の接着層の形成されていない領域(前記空間30の開口面)から吐出デバイス下に侵入し、基板に設けた液体流路口に達することがある。したがって、第2の接着剤の室温(25℃)における粘度は、10Pa・s以上が好ましく、15Pa・s以上がより好ましい。なお、接着剤の粘度は回転式粘度計によって測定された値である。
更に、第2の接着剤26aは、第1の接着層25に接触した状態で高温処理にて硬化反応し、第2の接着層26を形成するため、第1の接着層25と線膨張係数の近い接着剤を選択することが好ましい。それにより、それぞれの接着層における、熱膨張状態から常温に戻る際の収縮差を軽減することができ、接合部分の剥離といった品質低下の問題を防止することが可能となる。
【0018】
また、図6(a)には、図5(a)のc部の拡大断面図が記されており、本実施形態で使用されている第2の接着剤26aには、液体流路口23cに空間30の開口面から第二の接着剤26aが入り込まないよう、フィラー27が含有されている。フィラー27の最小粒径は、硬化した第1の接着層25a、25bの厚みTより、大きく設定されており、図6(b)に示すように、液体流路口23b及び23cに第2の接着剤26aが入り込まないようにしている。なお、図6(b)では、液体流路口23に接着剤26aが入り込まない状態を明確にするため、接合済みの吐出デバイス21bを取り除いた状態を示している。本実施形態では、硬化した第1の接着層25の厚みTは0.03mm以内とし、フィラー27の最小粒径を0.05mm以上としたが、これに限るものではなく、構成部品の厚み公差や、その他、後工程の製法条件によっては、適宜変更可能である。
そして、ここでは図示しないが、その後、電気配線基板、ヘッドカバー、インクジェットプリンタとの取付用基準治具をそれぞれ接合し、インクジェットヘッド3が完成する。
以上説明した本実施形態の製造方法によれば、基板22上に、配置する吐出デバイス間の間隙部bと該間隙部から液体流路口23に至る領域の少なくとも一部を除いて、各吐出デバイスの接合領域に第1の接着剤24を塗布する。続いて、第1の接着剤24上に、吐出デバイスを順次配置して、第1の接着層25にて接合する。そして、接合された吐出デバイス間の間隙部に、第2の接着剤を塗布して第2の接着層を形成することにより、吐出デバイス間に発生する、接着剤過多によるはみ出しを抑制して、品質不良を防止することができる。
【0019】
これに対し、間隙部bにも第1の接着剤を塗布する場合、図7(a)~(d)に示すように品質不良が生じる。以下、この点について説明する。図7(a)では、図3に示した間隙部bにも第1の接着剤24cを塗布した場合の、基板22を示している。
図7(b)は、図7(a)のb部を拡大したものであり、吐出デバイス21aと21bの2つが、横並びに接合される領域が示されている。前述の図3(c)との違いは、吐出デバイス21aの接合領域と、吐出デバイス21bの接合領域が繋がった形で、基板22上に第1の接着剤24cが塗布されている。それにより、吐出デバイス21aの接合領域と、吐出デバイス21bの接合領域の隣接部には、接触領域eが形成されている。
次に、図7(c)に示すように、吐出デバイス21aを加熱した状態で、第1の接着剤24c上に押圧し、接合を行う。この際、接触領域eの第1の接着剤24cが、吐出デバイス21aの側壁部を伝うように上方に隆起する。隆起した第1の接着剤24cは、吐出デバイス21aからの吸熱により硬化作用が働き、所定時間で硬化し、吐出デバイス21aの側壁部に隆起部71が形成される。続いて、吐出デバイス21aの接合領域に隣接する吐出デバイス21bの接合領域に、同様に加熱した吐出デバイス21bを押圧し、接合を行う。しかしながら、図7(d)に示すように、吐出デバイス21bの押圧時に隆起部71と接触する場合がある。隆起部71と、吐出デバイス21bが接触することで、吐出デバイス21bの接合精度がずれてしまい、品質不良の原因となってしまう。
【0020】
(第2の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態と異なる吐出デバイス21a、21bを用いる形態である。
図8は、実施形態1と同様に、基板22上に、第1の接着層25a及び25bを介して吐出デバイス21a、21bを接合し、その後、第2の接着剤26aを塗布した状態を示している。
インク吐出デバイス21a、21bを個片化する際、ダイシング条件によっては図8(a)に示すような端面形状となることがある。本実施形態は、このような端面形状が第1の実施形態とは異なる吐出デバイス21a、21bを用いる形態を示している。第2の接着剤26aには、最小粒径が第1の接着層25a、25bの厚みTより大きいフィラー27を含有しているため、第2の接着剤は、液体流路口23a、23bに入り込むことはない。また、図8(b)に示すように、第2の接着剤26cが吐出デバイス下に一部入り込んでいるが、空間30が依然として存在している。
【符号の説明】
【0021】
21 吐出デバイス
22 基板
23 液体流路口
24 第1の接着剤
25 第一の接着層
26 第2の接着層
26a 第2の接着剤
30 空間
40 吐出口
b 間隙部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8