(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 201
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2019168862
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018197291
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅隆
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-027109(JP,A)
【文献】特開平07-068760(JP,A)
【文献】特開2018-015966(JP,A)
【文献】特開2012-020422(JP,A)
【文献】特開2016-092400(JP,A)
【文献】特開2008-168619(JP,A)
【文献】特開2008-307710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0017419(US,A1)
【文献】特開2013-248836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口を備える吐出口部材と、
前記液体を吐出するため当該液体を加圧する圧力発生素子と、前記圧力発生素子と電気配線を介して接続され、前記圧力発生素子を駆動する電力を前記圧力発生素子に供給するための電気接続部と、を備える電気配線層と、
前記吐出口部材および前記電気配線層を表面に有するシリコン基板と、
を有する記録素子基板を備える液体吐出ヘッドにおいて、
前記シリコン基板の裏面は(100)面であり、
前記シリコン基板は、前記シリコン基板を貫通し、前記電気接続部を露出させる貫通孔を備え、
前記圧力発生素子は、前記液体を加熱するためのヒータであり、
ワイヤーを介して前記電気接続部と電気接続され、前記電力を前記電気接続部に供給するための電気配線部材をさらに有し、
前記ワイヤーは、前記貫通孔の内部に配されており、
前記電気配線部材は、前記シリコン基板の裏面側に配置されており、
前記電気接続部と前記電気配線部材との前記ワイヤーを介した電気接続は、前記シリコン基板の裏面側で行われており、
前記シリコン基板の裏面に開口する1つの前記貫通孔の開口部の外形状は、前記シリコン基板の[110]方向に平行な辺を有さない、もしくは前記[110]方向に平行な辺を有し、前記辺の長さは前記貫通孔の[110]方向における全長の半分以下であ
り、
前記貫通孔は、第1の貫通孔および前記第1の貫通孔に隣接する第2の貫通孔を有し、前記第1の貫通孔および前記第2の貫通孔は前記[110]方向に沿う方向で合って同一直線上にそれぞれ配置されており、
前記第2の貫通孔は、前記第1の貫通孔に対して前記[110]方向と略直交する方向にずれて配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
液体を吐出する吐出口を備える吐出口部材と、
前記液体を吐出するため当該液体を加圧する圧力発生素子と、前記圧力発生素子と電気配線を介して接続され、前記圧力発生素子を駆動する電力を前記圧力発生素子に供給するための電気接続部と、を備える電気配線層と、
前記吐出口部材および前記電気配線層を表面に有するシリコン基板と、
を有する記録素子基板を備える液体吐出ヘッドにおいて、
前記シリコン基板の裏面は(100)面であり、
前記シリコン基板は、前記シリコン基板を貫通し、前記電気接続部を露出させる貫通孔を備え、
前記圧力発生素子は、前記液体を加熱するためのヒータであり、
ワイヤーを介して前記電気接続部と電気接続され、前記電力を前記電気接続部に供給するための電気配線部材をさらに有し、
前記ワイヤーは、前記貫通孔の内部に配されており、
前記電気配線部材は、前記シリコン基板の裏面側に配置されており、
前記電気接続部と前記電気配線部材との前記ワイヤーを介した電気接続は、前記シリコン基板の裏面側で行われており、
前記シリコン基板の裏面に開口する1つの前記貫通孔の開口部の外形状は、前記シリコン基板の[110]方向に平行な辺を有さない、もしくは前記[110]方向に平行な辺を有し、前記辺の長さは前記貫通孔の[110]方向における全長の半分以下であり、
前記貫通孔は、第1の貫通孔および前記第1の貫通孔に隣接する第2の貫通孔を有し、前記第1の貫通孔および前記第2の貫通孔は前記[110]方向に沿う方向で合って同一直線上にそれぞれ配置されており、
前記シリコン基板には前記吐出口に前記液体を供給するための液体供給口がさらに形成されており、
前記液体供給口を対称軸として、前記裏面の前記第1の貫通孔及び前記第2の貫通孔と非対称となる位置に、前記電気接続部を露出させる第3の貫通孔及び第4の貫通孔を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
液体を吐出する吐出口を備える吐出口部材と、
前記液体を吐出するため当該液体を加圧する圧力発生素子と、前記圧力発生素子と電気配線を介して接続され、前記圧力発生素子を駆動する電力を前記圧力発生素子に供給するための電気接続部と、を備える電気配線層と、
前記吐出口部材および前記電気配線層を表面に有するシリコン基板と、
を有する記録素子基板を備える液体吐出ヘッドにおいて、
前記シリコン基板の裏面は(100)面であり、
前記シリコン基板は、前記シリコン基板を貫通し、前記電気接続部を露出させる貫通孔を備え、
前記圧力発生素子は、前記液体を加熱するためのヒータであり、
ワイヤーを介して前記電気接続部と電気接続され、前記電力を前記電気接続部に供給するための電気配線部材をさらに有し、
前記ワイヤーは、前記貫通孔の内部に配されており、
前記電気配線部材は、前記シリコン基板の裏面側に配置されており、
前記電気接続部と前記電気配線部材との前記ワイヤーを介した電気接続は、前記シリコン基板の裏面側で行われており、
前記シリコン基板の裏面に開口する1つの前記貫通孔の開口部の外形状は、前記シリコン基板の[110]方向に平行な辺を有さない、もしくは前記[110]方向に平行な辺を有し、前記辺の長さは前記貫通孔の[110]方向における全長の半分以下であり、
前記シリコン基板の外形形状は、前記[110]方向に対して傾いた辺を有する平行四辺形であり、前記傾いた辺に沿って前記貫通孔が配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記シリコン基板の外形形状は、前記[110]方向に沿って延在する辺を有する長方形であることを特徴とする請求項1
乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記シリコン基板の端部に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記貫通孔の前記開口部の外形状は、長方形、平行四辺形又は円形であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
複数の前記記録素子基板が液体吐出ヘッドの長手方向に直線状に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
複数の前記記録素子基板が液体吐出ヘッドの長手方向に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
複数の前記記録素子基板が配列されるページワイド型の液体吐出ヘッドであることを特徴とする請求項1乃至請求項
8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
液体吐出ヘッドの前記吐出口が形成される側を覆うカバー部材をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項
9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記貫通孔の内部に、前記電気接続部と前記ワイヤーとの接続部を覆う封止部材が充填されていることを特徴とする請求項1乃至請求項
10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する記録素子基板の吐出口が形成されている面側には、外部電源からの電力を、液体を加圧する圧力発生素子に供給するための電気接続部が形成されている。しかしながら、電気接続部が吐出口面側に形成されていると、吐出口から吐出された液体の所謂ミスト等がこの電気接続部に付着する場合があり、電気接続部の腐食等の問題が引き起こされることがある。
【0003】
このため、電気接続部は吐出口が形成されている領域から離すことが望ましい。そこで、特許文献1には、吐出口面の裏面側に電気接続部を設ける方法が記載されている。それによると、吐出口面の裏面側に電気接続部を設けるため、シリコン基板の、吐出口を備える吐出口部材と接合される側の面の裏面側から複数の貫通孔を穿設する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコン基板を記録素子基板に用いる場合、一般に、(100)面を表面にもつシリコン基板が採用される。また、(100)面を表面にもつシリコン基板は、[110]方向に割れやすいことが知られている。したがって、シリコン基板の裏面側から穿設した複数の貫通孔の配列方向が[110]方向に沿う場合、シリコン基板に外力等が加わった際にシリコン基板が割れ、記録素子基板が破損する恐れがある。
【0006】
本発明は、上記の課題を鑑みたものであり、複数の貫通孔が裏面から形成されている記録素子基板の破損を抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、液体を吐出する吐出口を備える吐出口部材と、前記液体を吐出するため当該液体を加圧する圧力発生素子と、前記圧力発生素子と電気配線を介して接続され、前記圧力発生素子を駆動する電力を前記圧力発生素子に供給するための電気接続部と、を備える電気配線層と、前記吐出口部材および前記電気配線層を表面に有するシリコン基板と、を有する記録素子基板を備える液体吐出ヘッドにおいて、前記シリコン基板の裏面は(100)面であり、前記シリコン基板は、前記シリコン基板を貫通し、前記電気接続部を露出させる貫通孔を備え、前記圧力発生素子は、前記液体を加熱するためのヒータであり、ワイヤーを介して前記電気接続部と電気接続され、前記電力を前記電気接続部に供給するための電気配線部材をさらに有し、前記ワイヤーは、前記貫通孔の内部に配されており、前記電気配線部材は、前記シリコン基板の裏面側に配置されており、前記電気接続部と前記電気配線部材との前記ワイヤーを介した電気接続は、前記シリコン基板の裏面側で行われており、前記シリコン基板の裏面に開口する1つの前記貫通孔の開口部の外形状は、前記シリコン基板の[110]方向に平行な辺を有さない、もしくは前記[110]方向に平行な辺を有し、前記辺の長さは前記貫通孔の[110]方向における全長の半分以下であり、前記貫通孔は、第1の貫通孔および前記第1の貫通孔に隣接する第2の貫通孔を有し、前記第1の貫通孔および前記第2の貫通孔は前記[110]方向に沿う方向で合って同一直線上にそれぞれ配置されており、前記第2の貫通孔は、前記第1の貫通孔に対して前記[110]方向と略直交する方向にずれて配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の貫通孔が裏面から形成されている記録素子基板の破損を抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】第1の実施形態に係るシリコン基板を示す概略図。
【
図7】第2の実施形態に係るシリコン基板を示す概略図。
【
図8】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す概略図。
【
図9】他の実施形態に係るシリコン基板を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドおよびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。一例として、本実施形態では液体吐出ヘッドとして発熱素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式が採用されているが、ピエゾ方式およびその他の各種液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。また、本実施形態の液体吐出ヘッドとして、被記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ページワイド型ヘッドを図示するが、被記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用できる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインク用、およびカラーインク用記録素子基板を各1つずつ搭載する構成があげられる。
【0011】
(第1の実施形態)
(液体吐出ヘッド)
本実施形態に係る液体吐出ヘッドについて、
図1を用いて説明する。
図1は本実施形態に係る液体吐出ヘッド100を示す斜視図である。本実施形態の液体吐出ヘッド100は、C/M/Y/Kの4色のインクを吐出できる記録素子基板30を直線状に16個配列(インラインに配置)したページワイド型の液体吐出ヘッドである。液体吐出ヘッド100は、各記録素子基板30と、フレキシブルな電気配線部材31と、板状の電気配線基板90と、信号入力端子91と、電力供給端子92と、を有する。信号入力端子91及び電力供給端子92は、被記録媒体(不図示)を搬送する搬送部(不図示)及び液体吐出ヘッド100を有する記録装置本体(不図示)の制御部と電気的に接続される。そして、吐出駆動信号及び吐出に必要な電力を、電気配線部材31を介して記録素子基板30に供給する。電気配線部材31は、例えば、FPCである。電気配線基板90の電気回路によって配線を集約することで、信号入力端子91及び電力供給端子92の設置数を記録素子基板30の数と比べて少なくできる。これにより、記録装置本体に対して液体吐出ヘッド100を着脱するときに、取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。
【0012】
なお、
図1において、記録素子基板30を液体吐出ヘッドの長手方向に直線状に配置したページワイド型の液体吐出ヘッドを示したが、本発明はこれに限られず、記録素子基板30を長手方向に千鳥状に配置したページワイド型の液体吐出ヘッドでもよい。
【0013】
(記録素子基板)
本発明の特徴部である記録素子基板について、
図2乃至
図4を参照しながら説明する。まず、記録素子基板30と電気配線部材31の電気接続について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、液体吐出ヘッド100に設けられる複数の記録素子基板30と電気配線部材31のうち、1つの記録素子基板30と電気配線部材31を示す斜視図であり、記録素子基板30の吐出口が設けられる面の裏面(以下、単に、裏面と称す。)を示している。
図2(a)は、記録素子基板30と電気配線部材31とを電気接続する前の状態を示す斜視図である。
図2(b)は、夫々を電気接続した際の状態を示す斜視図である。
【0014】
本実施形態においては、
図2(b)に示すように、記録素子基板30の裏面に形成された電気接続部17と、電気配線部材31の端子51とは、金属のワイヤー7(
図3)を用いて電気接続されている。そして、その夫々の電気接続部は、封止部材63により覆われており、封止部材63の一部は貫通孔3内に充填されている(
図3)。本実施形態においては
図2(b)示すように記録素子基板30と電気配線部材31とが接続された状態を1つのモジュールとして、総計16個のモジュールを配列することでページワイド型の液体吐出ヘッドを構成している。このようにモジュール形態とすることで、搭載するモジュールの数を適宜変更することで必要とする長さの液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0015】
次に、
図3を参照して、記録素子基板30の構成を詳しく説明する。
図3は、
図2(b)のB-B断面の一部を示した概略図である。なお、
図2(b)においては、流路部材120を図示していないが、
図3においては説明のため図示している。電気配線部材31はシリコン基板1の裏面上に載置され、所謂ワイヤーボンディングにより、電気配線部材31の端子51と記録素子基板30の電気接続部17とが電気接続されている。記録素子基板30は、封止部材121を介して流路部材120と密着している。流路部材120により形成された液体供給口20から吐出口19にインクが供給される。
【0016】
図3に示すように、記録素子基板30は、シリコン基板1、電気配線層22、吐出口部材21を含んでいる。記録素子基板30には液体供給口20が形成されており、液体供給口20から供給されたインクは、圧力発生素子18により加圧され、吐出口19から吐出される。なお、本実施形態においては、圧力発生素子18は熱エネルギを発生するヒータであり、加熱によりインク中に気泡を発生させ、気泡の発泡圧力によりインクを吐出する。圧力発生素子18は電気配線層22を介して電気接続部17と電気接続されており、電気接続部17が記録素子基板30の外部と接続されることにより、圧力発生素子18を駆動するための電力が圧力発生素子18に供給される。シリコン基板1の裏面には所謂ドライエッチング法により貫通孔3が形成されており、貫通孔の底部16に電気接続部17が位置している。したがって、貫通孔3は、電気接続部17を露出させている。また、圧力発生素子18と、電気接続部17とから電気配線層が構成されている。
図3に示すように、シリコン基板1は、吐出口部材と21と電気配線層を表面に有している。
【0017】
なお、次に述べる記録素子基板30(
図4)における貫通孔3と、
図3における貫通孔3の形状とは異なるが、本発明はどちらの形態にも適用可能である。説明のため、
図3においては、
図4における記録素子基板30よりも簡易に示したに過ぎない。
【0018】
次に、
図4を用いて、本発明の要部である記録素子基板30における貫通孔3について説明する。
図4(a)は、複数の記録素子基板30が形成されているウエハおよびその一部の拡大図を示す図である。
図4(a1)に示すように、記録素子基板に用いるシリコン基板1の外形は、[110]方向に平行な辺と直交する辺を有する長方形である。第1の貫通孔3aと第2の貫通孔3bは、
図4(a1)に示すように、[110]方向に沿う方向であって同一直線上12にそれぞれ配されている。
図4(b)は、
図4(a2)に示すウエハのA-A´断面を示す図である。本発明においては、結晶方位(100)面を表面にもつウエハ32を使用することにより、シリコン基板1の裏面の結晶方位が(100)面となるようにしている。(100)面を表面に有するシリコン基板は、矢印53に示す[110]方向に割れやすい。したがって、詳しくは
図10を参照しながら後述するが、貫通孔3が[110]方向に平行な辺を有していると、シリコン基板1は貫通孔3のその辺を始点に[110]方向に割れが生じやすくなる。
【0019】
一方、
図4(a2)に示すように、本実施形態における貫通孔3の開口部52の外形状は、[110]方向に対して傾いた辺、例えば辺33を少なくとも有する。特に本実施形態における貫通孔3は、[110]方向に平行な辺を有しないので割れの始点となる辺がなく、[110]方向にシリコン基板1が割れることを抑制することができる点で好ましい。また仮に、
図4(a2)の紙面上方向からシリコン基板1に向かって亀裂2が生じたとしても貫通孔3には亀裂の進行方向である[110]方向に沿う辺がないため、進行してきた亀裂2は貫通孔3で止まる。したがって、仮に割れが生じたとしても、本実施形態における貫通孔により、貫通孔3の位置で割れの進行を抑制することができる。
【0020】
さらに、本実施形態における貫通孔3の配置において、第1の貫通孔3aの端部11と第2の貫通孔3bの端部12とが[110]方向に対して直交する方向であるx方向にずれている。これにより、仮に亀裂が端部11を始点に生じたとしても、端部11に最も近い第2の貫通孔3bの端部12に亀裂が伝播することを抑制することができる。
【0021】
なお、
図4においては、ダイシングライン9、即ち記録素子基板30の端部に沿って貫通孔3を配置したが、本実施形態はこれに限られない。すなわち、例えば、ダイシングライン9と液体供給口20との間の領域に貫通孔3を配置してもよい(
図4(c))。この場合にも、
図4(a)におけるシリコン基板1と同様な効果が得られる。また、
図4(a1)に示すように、外形形状が長方形であるシリコン基板1を用いて以上説明を行ったが、本発明は外形形状が平行四辺形であるシリコン基板を用いてもよい。即ち、シリコン基板1の外形形状が[110]方向に対して傾いた辺を有する平行四辺形でもよい。
【0022】
(比較例)
本発明に対する比較例について、
図10を参照しながら説明する。
図10は、比較例に係るシリコン基板を示す概略図である。比較例に係るシリコン基板1が上述した本発明に係るシリコン基板1と異なる点は、貫通孔3が[110]方向に平行な辺を有することである。したがって、貫通孔3の[110]方向に平行な辺を始点にシリコン基板が[110]方向に破損しやすくなる。
【0023】
一方、本実施形態においては上述したように、[110]方向に対して傾いた辺を有するように貫通孔3を形成することにより、[110]方向に沿って延在する辺を有しないので割れの始点となる辺がない。したがって、[110]方向にシリコン基板1が割れることを抑制することができる。
【0024】
(液体吐出ヘッドの製造方法)
本実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法について、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
図5は、各製造工程を示すフローチャート図である。
図6は、
図5に示す各製造工程に対応した記録素子基板30の、
図4(a2)に示すA-A´断面を示す概略図である。
【0025】
まず、吐出口部材21等が設けられたシリコン基板1を用意する(
図5の工程1、
図6(a))。次に、テンティングレジスト41を用いたパターニングでシリコン基板1の裏面10にマスクを形成する(
図5の工程2、
図6(b))。次に、テンティングレジスト41をマスクとして電気接続用の穴をリアクティブイオンエッチング(RIE)で穿設する。この際、シリコン基板1を貫通させても良いし、二段形状にする場合は、下記に述べるテンティングレジスト42を用いて二段形状にすることもできる(
図5の工程3、
図6(c))。
【0026】
次に、テンティングレジスト41を除去した後、テンティングレジスト41の開口部よりも小さい開口部を有するテンティングレジスト42をシリコン基板1の裏面に形成する。テンティングレジスト42をマスクとして、シリコン基板1をRIEで加工することで、二段形状貫通孔3を形成する。さらに、そのマスクを利用して電気接続用の電極部(電気接続部)17上の絶縁層(不図示)を除去し電気接続部17を露出させる(
図5の工程4、
図6(d))。
【0027】
次に、ダイシングライン9に沿ってシリコン基板1をダイシングすることで個々のチップ形態とする。その後、実装部材43に形成された電気配線部材31と裏面に形成された電気接続部17とをAuワイヤ7のような柔軟性のある配線を用いて、ワイヤーボンディング方式で電気的に接続する。その後、貫通孔3の内部に、電気接続の箇所を覆う封止部材63を充填する(
図5の工程5、
図6(e))。なお、
図6(e)における電気配線部材31の位置と、
図3における電気配線部材31の位置とは異なっているが、本発明はどちらでもよく、更にはこのどちらかに限られるものではない。
【0028】
(第2の実施形態)
本発明に係る第2の実施形態について、
図7を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所は同一の符号を付し、説明は省略する。
図7は、第2の実施形態におけるシリコン基板1を示す図である。
図7(a)はシリコン基板1の裏面の上面図、
図7(b)は
図7(a)に示すE-E´断面の概略図を示す。
【0029】
本実施形態と第1の実施形態との違いは、液体供給口20を対称軸として、第1の貫通孔3a及び第2の貫通孔3bと非対称となる位置に貫通孔3c及び貫通孔3dが形成されていることである。さらには、第1の貫通孔3aと第2の貫通孔3bが[110]方向と略直交するX方向にずれて配置されている。シリコン基板は[110]方向と直交するX方向においても割れやすいことが知られている。したがって、本実施形態のような貫通孔3の配置とすることにより、[110]方向と直交するX方向においてもシリコン基板1の剛性を大きくすることができるため、X方向におけるシリコン基板1の破損を抑制することができる。すなわち、本実施形態においては、貫通孔3の外形状が[110]方向に平行な辺を有さないことにより[110]方向におけるシリコン基板1の破損を抑制しつつ、貫通孔3の配置をX方向にずらすことにより[110]方向と直交する方向における破損も抑制することができる。
【0030】
(第3の実施形態)
本発明に係る第3の実施形態について、
図8を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。本実施形態の特徴部は、液体吐出ヘッド100の吐出口19が形成されている吐出口側にカバー部材110が取り付けられていることである。
【0031】
図8(a)は、
図2(b)に示すB―B断面で記録素子基板30を見たときの一部を示す概略図である。
図8(b)は、カバー部材110に取り付けられた複数の記録素子基板30およびカバー部材110を、記録素子基板30の裏面側から見た概略図である。
図8(b)に示すように、カバー部材110は記録素子基板30を露出するための開口部を備える枠体形状をしており、接着剤(不図示)を用いて枠体の内面側と記録素子基板30とを固定している。
【0032】
記録素子基板30の裏面には貫通孔3が形成されているため、その部位の基板の厚みが薄くなり強度が低下し、基板が変形したり割れたりする恐れがある。
図8において、貫通孔3が設けられている位置に対応してカバー部材110が設けられている。つまり吐出口面からみて、貫通孔3とカバー部材110の枠部とが重複する位置にある。したがって、本実施形態は、記録素子基板30の貫通孔3がある部分の強度が向上する点で好ましい。カバー部材110の材料としては樹脂や金属等、各種材料が適用可能であるが、強度の点からはSUS等の金属が好ましい。また、樹脂も適用可能であるが、強度の点からはフィラーを含有させた樹脂を適用することが好ましい。
【0033】
また、液体吐出ヘッドにカバー部材110が取り付けられることにより、吐出口19から液体吐出ヘッド内の液体を吸引する際に使用する吸引器(不図示)がカバー部材110と密着し、吸引の効率も向上する。
【0034】
(他の実施形態)
本発明に係る他の実施形態について、
図9を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所は同一の符号を付し、説明は省略する。
図9は、貫通孔3の開口部52の外形状の変形例を示す概略図である。
図9(a)は貫通孔3の外形状が楕円となっているものを示す概略図、
図9(b)は
図9(a)に示すF-F´における断面図である。
図9(c)は、曲率を有する領域と曲率を有さない領域とが混在する外形状となっている貫通孔3を示す概略図である。
【0035】
図9(a)に示す貫通孔3の外形状は、第1の実施形態で説明したように、[110]方向に平行な辺を有さないため、[110]方向にシリコン基板1が破損することを抑制することができる。なお、本発明は以上説明した貫通孔の形状に限られることはない。例えば、
図9(a)において貫通孔3の外形状が楕円となっているものを示したが、円形であってもよい。また、
図9(c)に示す貫通孔3の外形状は、[110]方向に平行な辺を有するが、その平行な辺の長さは、貫通孔3の[110]方向における全長の半分以下となっている。貫通孔3の外形状が[110]方向に平行な辺を有していたとしても、その平行な辺の長さが貫通孔3の全長の半分以下とすることにより、[110]方向にシリコン基板1が破損することを抑制することができる。すなわち、貫通孔3の外形形状が[110]方向に平行な辺を有していても、本発明の効果が得られる場合がある。
【符号の説明】
【0036】
1 シリコン基板
3a 第1の貫通孔3a
3b 第2の貫通孔3b
16 裏面
17 電気接続部
18 圧力発生素子
19 吐出口
21 吐出口部材
22 電気配線
30 記録素子基板
52 開口部
100 液体吐出ヘッド