(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20240213BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/087 325
(21)【出願番号】P 2019200432
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018209766
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大辻 聡史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正道
(72)【発明者】
【氏名】文田 英和
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-049168(JP,A)
【文献】特開2013-242523(JP,A)
【文献】特開2013-105128(JP,A)
【文献】特開2012-103579(JP,A)
【文献】特開2007-192952(JP,A)
【文献】特開2009-271394(JP,A)
【文献】特開2008-020806(JP,A)
【文献】特開2017-207746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、及びワックスを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該ワックスは、下記式(1)及び(2)で示されるジエステル化合物からなる群から選択される少なくとも一を含み、
透過型電子顕微鏡を用いた該トナーの断面観察において、該トナー粒子の表面から0.5μmまでの領域における該ワックスの占める面積の割合をAsとしたとき、Asが、15.0%以下であり、
透過型電子顕微鏡を用いた該トナーの断面観察において、トナー粒子の断面にワックスのドメインが観察され、一つのトナー粒子の断面あたりの該ドメインの平均個数が、10個以上2000個以下であり、
蛍光X線分析による該トナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMi(ppm)としたとき、Miが、3.5ppm以上1100ppm以下であり、
X線光電子分光分析による該トナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMs(ppm)としたとき、
Mi>Ms
で
あり、
該結着樹脂はカルボキシ基を有し、
該多価金属元素が鉄であって、蛍光X線分析により測定される該鉄に基づくNet強度が、1.00kcps以上5.00kcps以下
であることを特徴とするトナー。
式(1)及び(2)中、R
1は炭素数1以上6以下のアルキレン基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数11以上25以下の直鎖アルキル基を示す。
【請求項2】
結着樹脂、及びワックスを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該ワックスは、下記式(1)及び(2)で示されるジエステル化合物からなる群から選択される少なくとも一を含み、
透過型電子顕微鏡を用いた該トナーの断面観察において、該トナー粒子の表面から0.5μmまでの領域における該ワックスの占める面積の割合をAsとしたとき、Asが、15.0%以下であり、
透過型電子顕微鏡を用いた該トナーの断面観察において、トナー粒子の断面にワックスのドメインが観察され、一つのトナー粒子の断面あたりの該ドメインの平均個数が、10個以上2000個以下であり、
蛍光X線分析による該トナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMi(ppm)としたとき、Miが、3.5ppm以上1100ppm以下であり、
X線光電子分光分析による該トナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMs(ppm)としたとき、
Mi>Ms
で
あり、
該結着樹脂はカルボキシ基を有し、
該多価金属元素がマグネシウム又はカルシウムであって、蛍光X線分析により測定される該マグネシウム又は該カルシウムに基づくNet強度が、3.00kcps以上20.00kcps以下
であることを特徴とするトナー。
式(1)及び(2)中、R
1は炭素数1以上6以下のアルキレン基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数11以上25以下の直鎖アルキル基を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式や静電印刷方式による画像形成方法に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法など静電潜像を経て画像情報を可視化する方法は、現在様々な分野で利用されており、高画質化や省エネルギー化を始めとする性能の向上が求められている。電子写真法では、まず、帯電、露光工程により電子写真感光体(像保持体)上に静電潜像を形成する。次いで、トナーを含む現像剤で静電潜像を現像し、転写工程、定着工程を経て可視化された像(定着画像)を得る。
その中でも定着工程はエネルギーを比較的多く要する工程であり、省エネルギー化と高画質化を両立するシステムや材料の開発が重要な技術課題となっている。材料面からのアプローチとして、特許文献1には特定のジエステル化合物を軟化剤として含有させる技術が開示されている。前記ジエステル化合物は定着の際に結着樹脂と相溶して結着樹脂を可塑させることで低温定着性能を向上させることが可能であり、電子写真において求められている省エネルギー化に大きく貢献することができる材料である。
一方で、前記ジエステル化合物は強い可塑効果のためにホットオフセットや定着画像のモトルに課題がある。ホットオフセットに対しては特許文献1や特許文献2にも開示されているように架橋を利用する技術により改善を図ることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/047296号
【文献】特開2017-45036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記架橋を利用する技術により低温定着性と耐ホットオフセット性の両立は可能となった。モトルもこれにより改善方向ではあるが、架橋させることで結着樹脂が十分に溶融できず、画像品質において重要な定着画像のグロスが低下してしまうことがわかった。そのため、高画質化が求められている電子写真において、ジエステル化合物を軟化剤として含有させながら、低温定着性と耐ホットオフセット性を両立しつつ、定着画像のグロス、モトルにも優れるトナーを提供する技術が求められている。
本発明の目的は、低温定着性と耐ホットオフセット性を両立しつつ、定着画像のグロス、モトルなど画像品質に優れたトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、結着樹脂、及びワックスを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該ワックスは、下記式(1)及び(2)で示されるジエステル化合物からなる群から選択される少なくとも一を含み、
透過型電子顕微鏡を用いた該トナーの断面観察において、該トナー粒子の表面から0.5μmまでの領域における該ワックスの占める面積の割合をAsとしたとき、Asが、15.0%以下であり、
透過型電子顕微鏡を用いた該トナーの断面観察において、トナー粒子の断面にワックスのドメインが観察され、一つのトナー粒子の断面あたりの該ドメインの平均個数が、10個以上2000個以下であり、
蛍光X線分析による該トナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMi(ppm)とした
とき、Miが、3.5ppm以上1100ppm以下であり、
X線光電子分光分析による該トナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMs(ppm)としたとき、
Mi>Ms
であることを特徴とするトナーである。
【0006】
【0007】
式(1)及び(2)中、R1は炭素数1以上6以下のアルキレン基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数11以上25以下の直鎖アルキル基を示す。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温定着性とホットオフセットを両立しつつ、定着画像のグロス、モトルなど画像品質に優れたトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
本発明者らは上記課題を解決するにあたり、トナーに求められる特性について検討した。まず、定着工程でトナーと定着ローラーが分離する前では耐ホットオフセット性が求められる。そのために、背景技術でも述べたようにトナーと定着ローラーの分離を促すため架橋剤を添加したような特性をトナーに持たせることが重要である。
次に、定着後は溶融したトナーのレベリング性が高く、画像表面を平滑化させて高いグロスをもった高画質な定着画像を得ることが求められる。そのためにトナーに求められる特性は定着前と真逆であり、トナーの溶融粘度を下げるために架橋剤を添加していないような特性をトナーに持たせることが重要である。
すなわち、定着ローラーを通過する前は架橋剤を添加したような特性を、定着ローラーを通過した後は架橋剤を添加していないような特性を1つのトナーで発揮させる必要がある。このように相反する特性を持たせる必要があるが、定着工程では熱と圧力がかかるため、これらを利用して架橋状態を制御可能とする技術により課題を解決し得ると考えた。そのための形態について以下説明する。
本発明のトナーは、結着樹脂、及びワックスを含有するトナー粒子を有するトナーであって、前記ワックスは下記式(1)及び(2)で示されるジエステル化合物からなる群から選択される少なくとも一を含む。
【0010】
【0011】
(上記式(1)及び(2)中、R1は炭素数1以上6以下のアルキレン基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数11以上25以下の直鎖アルキル基を示す。)
ここで、結着樹脂は特に限られるものではなく詳細については後述する。ワックスは式(1)及び(2)で示されるジエステル化合物からなる群から選択される少なくとも一を含む。一般的にエステルワックスは結着樹脂に対する可塑性が高く、軟化剤として用いられる。特に、上記のジエステル化合物は結着樹脂に対して多量に相溶することができるため低温定着性への効果が大きく、溶融した時の溶融粘度を下げる効果もある。
溶融粘度を下げることでレべリングしやすくなるため、定着画像のグロス向上に有利である。式(1)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、エチレン基(-CH2-CH2-)又はトリメチレン基(-CH2-CH2-CH2-)がより好ましく、エチレン基がさらに好ましい。
R2及びR3は炭素数11~25の直鎖アルキル基を示し、且つ、これらR2及びR3は互いに独立である。したがって、R2及びR3は同じ基であってもよいし、互いに異なる基であってもよい。R2及びR3は、低温定着性に優れた(定着下限温度が低い)トナーが得られるとの観点から、好ましくは炭素数13~21の直鎖アルキル基、より好ましくは炭素数15~19の直鎖アルキル基である。
【0012】
式(1)及び式(2)で示されるジエステル化合物として、具体的には、エチレングリコールジステアレート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C17H35)、ジステアリルスクシナート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C18H38)、トリメチレングリコールジステアレート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C17H35)、エチレングリコールアラキジネートステアレート(R1=-C2H4-、R2=-C19H39、R3=-C17H35)、トリメチレングリコールアラキジネートステアレート(R1=-C3H6-、R2=-C19H39、R3=-C17H35)、エチレングリコールステアレートパルミテート(R1=-C2H4-、R2=-C17H35、R3=-C15H31)、トリメチレングリコールステアレートパルミテート(R1=-C3H6-、R2=-C17H35、R3=-C15H31)、エチレングリコールジミリステート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C13H27)、トリメチレングリコールジミリステート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C13H27)、エチレングリコールジペンタデカネート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C14H29)、トリメチレングリコールジペンタデカネート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C14H29)、エチレングリコールジパルミテート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C15H31)、トリメチレングリコールジパルミテート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C15H31)、エチレングリコールジマルガレート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C16H33)、トリメチレングリコールジマルガレート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C16H33)、エチレングリコールジノナデカネート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C18H37)、トリメチレングリコールジノナデカネート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C18H37)、エチレングリコールジアラキジネート(R1
=-C2H4-、R2=R3=-C19H39)、トリメチレングリコールジアラキジネート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C19H39)、エチレングリコールジベヘネート(R1=-C2H4-、R2=R3=-C21H43)、トリメチレングリコールジベヘネート(R1=-C3H6-、R2=R3=-C21H43)などが挙げられる。
これらのジエステル化合物の中でも、エチレングリコールジステアレート、ジステアリルスクシナート、トリメチレングリコールジステアレートがより好ましい。
【0013】
前記ジエステル化合物は、高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるo-ジクロロベンゼン可溶分の数平均分子量(Mn)が500以上1000以下であることが好ましい。数平均分子量(Mn)が500以上であることで、トナー粒子表面へのワックスの染み出しがより少なくなり、現像耐久性がより向上する。また、1000以下であることで、結着樹脂に対する可塑性が高く、低温定着性がより向上する。より好ましくは、550以上850以下である。
【0014】
前記ジエステル化合物の含有量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部~25質量部が好ましい。当該含有量が1質量部以上であると、低温定着性が良好になる。一方、含有量が25質量部以下であると、保存性が良好になる。
ワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対して4質量部~35質量部が好ましい。
【0015】
前記ジエステル化合物の製造方法としては、酸化反応による合成法、カルボン酸及びその誘導体からの合成、マイケル付加反応に代表されるエステル基導入反応、カルボン酸化合物とアルコール化合物からの脱水縮合反応を利用する方法、酸ハロゲン化物とアルコール化合物からの反応、エステル交換反応等が挙げられる。適宜触媒を用いることもできる。
触媒としては、エステル化反応に用いる一般の酸性又はアルカリ性触媒、例えば酢酸亜鉛、チタン化合物等が好ましい。エステル化反応後、再結晶、蒸留等により目的生成物を精製してもよい。代表的な製造例は以下の通りである。なお、本発明に用いられるジエステル化合物の製造方法は、以下に限定されるものではない。
【0016】
まず、反応容器に、原料となるアルコールとカルボン酸を加える。例えば、アルコール:カルボン酸=1:2あるいはアルコール:カルボン酸=2:1のモル比となるようにアルコールとカルボン酸を混合する。なお、脱水縮合反応における反応性等を考慮して、比率を変更してもよい。
次に、混合物を適宜加熱し、脱水縮合反応を行う。脱水縮合反応により得られるエステル化粗生成物に対し、塩基性水溶液、及び適宜有機溶媒を加え、未反応のアルコール及びカルボン酸を脱プロトン化し水相に分離する。あとは、適宜水洗、溶媒留去、及びろ過を行うことにより、ジエステル化合物が得られる。
【0017】
ワックスは、前記ジエステル化合物だけでもよいが必要に応じて他のエステル化合物を含んでいてもよい。例えば、以下を例示することができる。
ベヘン酸ベヘニル、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸パルミチルのような1価のアルコールと脂肪族カルボン酸のエステル、又は、1価のカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル;セバシン酸ジベヘニルのような2価のアルコールと脂肪族カルボン酸のエステル、又は、2価のカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル;グリセリントリベヘネートのような3価のアルコールと脂肪族カルボン酸のエステル、又は、3価のカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル;ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテートのような4価のアルコールと脂肪族カルボン酸のエステル、又は、4価のカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル;ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテートのような6価のアルコールと
脂肪族カルボン酸のエステル、又は、6価のカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル;ポリグリセリンベヘネートのような多価アルコールと脂肪族カルボン酸のエステル、又は、多価カルボン酸と脂肪族アルコールのエステル;カルナバワックス、ライスワックスのような天然エステルワックス。
【0018】
さらに、ワックスは、離型剤として好適に作用するワックスを含有してもよい。
こうしたワックスの種類としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス及びその誘導体;モンタンワックス及びその誘導体;フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックス等の天然ワックス及びその誘導体;高級脂肪族アルコール;ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸;酸アミドワックス;硬化ヒマシ油及びその誘導体;植物系ワックス;動物性ワックス等が挙げられる。
この中で特に、離型性に優れるという観点からパラフィンワックス及び炭化水素ワックスが好ましい。
【0019】
また、透過型電子顕微鏡を用いたトナーの断面観察において、トナー粒子の表面から0.5μmまでの領域におけるワックスの占める面積の割合をAsとしたとき、Asが15.0%以下である。
さらに、透過型電子顕微鏡を用いたトナーの断面観察において、ワックスのドメインが観察され、一つのトナー粒子の断面あたりの前記ドメインの平均個数が10個以上2000個以下である。
【0020】
Asが15.0%以下であることは、ワックスがトナー粒子内部に多く存在しているということを示している。Asは、好ましくは12.0%以下である。一方下限は特に制限されないが、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは3.0%以上である。
また、ドメインの平均個数が10個以上2000個以下であることは、ワックスが微分散した状態で存在することを示している。ドメインの平均個数が20個以上1500個以下であることが好ましい。
Asとドメインの平均個数の両者が上記の範囲であることは、ワックスがトナー粒子内部で微分散した状態で存在することを示している。
前記ジエステル化合物は結着樹脂を相溶させるための物質であるためトナー粒子内部の結着樹脂中に微分散していることで低温定着性をより一層向上させることができるため好ましい。また、後述する多価金属元素との相互作用による架橋構造形成の面でも樹脂内部で微分散していることが好ましい。
【0021】
ワックスの存在位置、存在状態の制御は例えば結着樹脂中でワックスを一度溶融させた後に冷却する条件や、後述する多価金属元素を含有させることなどによって制御することができる。
冷却する条件は冷却開始温度、冷却速度、冷却終了温度などによって決めることができ、冷却開始温度は結着樹脂中でのワックスの結晶化温度より高い任意の温度とすることが好ましい。冷却開始温度がこの範囲であると冷却によってワックスの微細な結晶核が生成し、これを核にしてワックスのドメインが成長するため、微細なドメインの生成が促進される。
【0022】
また冷却速度は0.33℃/秒以上13.00℃/秒以下であることが好ましい。冷却速度がこの範囲であると、冷却に伴う結着樹脂の硬化が十分に速いため、板状結晶を作りやすいワックスであっても結晶の配向成長が阻害され、球状に近いドメインを形成する。一方、速すぎる場合にはトナー中の材料の組み合わせによっては熱収縮速度が異なり歪みが発生することもあるため、13.00℃/秒以下であることが好ましい。
冷却終了温度は結着樹脂のガラス転移温度(Tg)未満とすることが好ましい。冷却終了温度がこの範囲であると、結着樹脂の硬化によりワックスドメインの成長を抑制することができる。ワックスドメインの存在状態はトナー粒子の断面を透過型電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0023】
一つのトナー粒子の断面に観察されるワックスドメインの平均個数が10個以上であれば、定着時におけるワックスの結着樹脂への可塑の速さが十分となる。2000個以下であれば過剰な微分散によって相溶したままのワックスが増えることによる耐熱保存性の低下を防ぐことができる。
【0024】
また、各ワックスドメインの径のうち最も大きいものの平均値である平均長径が、0.03μm以上1.00μm以下であることが好ましい。平均長径が0.03μm以上であると、過剰な小ドメイン化による耐熱保存性の低下を防ぐことができ、1.00μm以下であれば、ドメインとトナー粒子表面の距離が近いものが増えることによるワックスのトナー粒子表面への露出が抑制される。
【0025】
また、各ワックスドメインの径のうち最も小さいものの平均値を平均短径としたときに、平均長径/平均短径の値が、1.0以上かつ3.0より小さいことが好ましい。平均長径/平均短径の値が3.0より小さいと、ワックスドメインが板状になっていないことを意味する。そのため、結着樹脂中のワックス相溶分が経時でドメインに配向することによる結晶成長によって、ワックスがトナー粒子表面に露出するのを防ぐことができる。
【0026】
さらに、本発明では、蛍光X線分析によるトナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMi(ppm)としたとき、Miが、3.5ppm以上1100ppm以下であることが必要である。また、X線光電子分光分析によるトナー粒子中の多価金属元素の質量濃度をMs(ppm)としたとき、Mi>Msである。好ましくは、15.0<Mi-Ms<900である。
【0027】
ここで、本発明における「多価金属元素」とは、多価の金属イオンを生じる金属元素のことである。
蛍光X線分析は、試料に連続X線を照射して、試料を構成する元素に固有の特性X線(蛍光X線)を発生させる。そして、発生した蛍光X線を分光結晶により分光(波長分散型)することによりスペクトルを生成させ、得られたスペクトルを測定し、その強度から構成元素を定量分析するものである。蛍光X線分析は測定対象が樹脂の場合には数mmの深さまでが測定対象であるためトナー全体の多価金属元素の量を測定することができる。
一方、X線光電子分光分析は数nmの深さまでが測定対象であるためトナー粒子表面の多価金属元素の量を測定することができる。
【0028】
すなわち、Mi>Msが表すことはトナー粒子の表面よりも内部に多価金属元素が多いことを表している。これと前記のワックスの存在位置、存在状態を満たすことにより、耐ホットオフセット性が良好であり、かつグロスやモトルなど画像品質に優れた定着画像を得られることを見出した。この機構は以下のように推測している。
まず、定着前のトナーは前記構成を取ることにより多価金属とジエステル化合物が金属カルボニルを形成して所謂金属架橋のような緩い架橋構造を形成している。すなわち、トナー粒子が、ジエステル化合物と多価金属元素とで形成された金属カルボニル構造を有することが好ましい。このようなトナーが定着ローラーで熱と圧力を受けた場合には、金属カルボニルがトナー粒子の内部により多く含まれるため、その緩い架橋構造によって瞬時には可塑化されず、定着ローラーとトナーとの分離は良好である。その後、熱と圧力の影響で金属カルボニルの結合が切れることで架橋構造が解かれてトナー全体が可塑され、画像表面が平滑化される。
つまり、定着工程で受ける熱と圧力を利用して架橋状態を制御することにより、定着ローラー通過前は架橋剤を添加したような特性を持ち、定着ローラー通過後は架橋剤を添加していないような、相反する特性を1つのトナーに持たせることが可能となった。以上のような機構で低温定着性、耐ホットオフセット性、高画質な定着画像を並立できたと推測している。
【0029】
Miが3.5ppm以上であることにより良好な耐ホットオフセット性が得られる。一方、Miが1100ppm以下であることにより良好な低温定着性が維持される。Miは、好ましくは10.0ppm以上800.0ppm以下である。
一方、Msは、好ましくは5.0ppm以上200.0ppm以下である。Mi及びMsは、トナー製造時に多価金属化合物を添加するタイミングと量により制御できる。
なお、多価金属元素を2種以上含有させる場合には、前記質量濃度の範囲はそれぞれの多価金属元素の合算値とする。
【0030】
結着樹脂は、カルボキシ基を有することが好ましい。また、前記多価金属元素が、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム、及びカルシウムからなる群から選択される一以上であることが好ましい。
この場合、さらに低温定着性、及び耐ホットオフセット性が良好となる。これは、カルボキシ基を有する結着樹脂と錯安定係数が高い金属との組み合わせにより結着樹脂とワックスがこれらの金属を介して橋渡しされたためと推測している。その結果、定着で熱と圧力を受けた時に瞬時に可塑が起きることが更に抑制される。また、可塑が起きる際には結着樹脂とワックスが橋渡しされているため、効率的に結着樹脂を可塑することで低温定着性が伸びたと考えられる。
【0031】
これらの多価金属の中でもさらに好ましいのは、以下の場合である。
前記多価金属元素がアルミニウムであって、蛍光X線分析により測定されるアルミニウムに基づくNet強度が0.10kcps以上0.50kcps以下(より好ましくは0.2kcps以上0.4kcps以下)の場合;
前記多価金属元素が鉄であって、蛍光X線分析により測定される鉄に基づくNet強度が1.00kcps以上5.00kcps以下(より好ましくは2.00kcps以上4.00kcps以下)である場合;
前記多価金属元素がマグネシウム又はカルシウムであって、蛍光X線分析により測定されるマグネシウム又はカルシウムに基づくNet強度の合計が3.00kcps以上20.00kcps以下(より好ましくは4.00kcps以上18.00kcps以下)である場合である。
【0032】
Net強度とは、金属元素が存在することを示すピーク角度におけるX線強度よりバックグラウンド強度を差し引いたX線強度のことをいう。これら特定の多価金属及び量である場合は特に低温定着性及び耐ホットオフセット性が良好である。これら金属は比較的イオン化しやすいため、金属架橋を形成しやすいと考えられる。
また、物質により好ましいNet強度の範囲が異なるのは金属の価数に関係するものと考えられる。すなわち、価数が高い場合には少ない金属量で架橋し得るため、3価のアルミニウムは少量で、2価のマグネシウムとカルシウムは多量で、混合価数を取り得る鉄はその間の量であると考えられる。
【0033】
前記多価金属元素をトナー粒子中に含有させる手段は特に限定されない。例えば、粉砕法によりトナー粒子を製造する場合には、原料の樹脂に予め前記多価金属元素を含有させる方法や、原料を溶融混練する際に添加してトナー粒子に含有させる方法が挙げられる。重合法など湿式製造法でトナー粒子を製造する場合には、原料に含有させる方法や、製造過程で水系媒体を介して添加する方法が挙げられる。湿式製造法において、水系媒体中で
イオン化させた状態を経てトナー粒子中に含有させることは均一化の観点から好ましい。例えば、乳化凝集法において、凝集剤として多価金属元素をトナー粒子に含有させることができる。
製造時に混合する際の前記多価金属元素の態様は特に限定されない。金属をそのまま用いてよく、塩化物、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物、硫化物、炭酸塩、硫酸塩、ヘキサフルオロシリル化物、酢酸塩、チオ硫酸塩、リン酸塩、塩素酸類塩、硝酸類塩等の形態で用いることもできる。前述の通りこれらを水系媒体中で一度イオン化した状態を経てトナー粒子中に含有させることが好ましい。
水系媒体とは水が50質量%以上と、水溶性の有機溶媒50質量%以下からなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを挙げることができる。
【0034】
ヒドロキシアパタイトを含有する水系媒体中でトナーを製造する場合であって、該多価金属元素としてカルシウムを用いる場合には、その添加量に注意が必要である。
ヒドロキシアパタイトの化学式はCa10(PO4)6(OH)2であり、カルシウムとリンのモル数の比は1.67である。従って、カルシウムのモル数をM(Ca)、リンのモル数をM(P)としたとき、M(Ca)≦1.67M(P)の条件下ではカルシウムはヒドロキシアパタイトに取り込まれてしまう。そのため、これを超える量のカルシウムを系内に存在させないと、トナー中に取り込まれにくくなる。
同じ理由で、水酸化マグネシウムを含有する水系媒体中でトナーを製造する場合であって、該多価金属元素としてマグネシウムを用いる場合には、その添加量に注意が必要である。水酸化マグネシウムはMg(OH)2なので、水酸化マグネシウムを調製する際には、水酸化ナトリウムに対して1/2を超えるモル数のマグネシウムを添加する必要がある。
【0035】
[結着樹脂について]
結着樹脂としては特に制限はないが、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂などを好ましく例示できる。ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂及びその他の結着樹脂として、以下の樹脂又は重合体が例示できる。
【0036】
ポリスチレン、ポリビニルトルエンのようなスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリ酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体のようなスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂。これら結着樹脂は単独で又は混合して使用できる。
【0037】
結着樹脂はカルボキシ基を含有することが好ましく、カルボキシ基を有するビニル系樹脂であることがより好ましい。
カルボキシ基を有する結着樹脂は、例えば、所望の結着樹脂を生成する重合性単量体に、カルボキシ基を含む重合性単量体を併用して製造することができる。
カルボキシ基を含む重合性単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸などのビニル性カルボン酸;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸;コハク酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、コハク酸モノアクリロイルオキシエチレンエステル、フタル酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノメタクリロイルオキシエチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸モノエステル誘導体などが挙げられる。
【0038】
ビニル系樹脂には、例えば以下のモノマーを用いることができる。
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロルスチレン、3,4-ジクロルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレンのようなスチレン及びその誘導体などのスチレン系モノマー。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸-n-オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸-2-クロルエチル、アクリル酸フェニルのようなアクリル酸エステル。
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルのようなα-メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類などのメタクリル酸エステル。
これらのなかでも、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つと、スチレンとの重合体が好ましい。
【0039】
ポリエステル樹脂としては、下記に挙げるカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させたものを用いることができる。カルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及び、トリメリット酸が挙げられる。
アルコール成分としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン、及び、ペンタエリスリトールが挙げられる。
また、ポリエステル樹脂は、ウレア基を含有したポリエステル樹脂であってもよい。ポリエステル樹脂としては末端などのカルボキシ基はキャップしないことが好ましい。
高温時におけるトナーの粘度変化の改良を目的として結着樹脂が重合性官能基を有していてもよい。重合性官能基としては、ビニル基、イソシアナート基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0040】
[架橋剤について]
トナー粒子を構成する結着樹脂の分子量をコントロールする為に、重合性単量体の重合に際して、架橋剤を添加してもよい。
例えば、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアク
リレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#200、#400、#600の各ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステル型ジアクリレート(MANDA 日本化薬)、及び以上のアクリレートをメタクリレートに変えたもの。
架橋剤の添加量としては、重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部以上15.000質量部以下であることが好ましい。
【0041】
[着色剤について]
トナー粒子には着色剤を含有させてもよい。着色剤は特に限定されず、以下に示す公知のものを使用することができる。
黄色顔料としては、黄色酸化鉄、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキなどの縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物が用いられる。具体的には以下のものが挙げられる。
C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、155、168、180。
【0042】
橙色顔料としては以下のものが挙げられる。
パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジRK、インダスレンブリリアントオレンジGK。
赤色顔料としては、ベンガラ、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウォッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドC、レーキッドD、ブリリアントカーミン6B、ブリラントカーミン3B、エオキシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキなどの縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が挙げられる。具体的には以下のものが挙げられる。
C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254。
【0043】
青色顔料としては、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBGなどの銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アンスラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が挙げられる。具体的には以下のものが挙げられる。
C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66。
紫色顔料としては、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキが挙げられる。
緑色顔料としては、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキが挙げられる。白色顔料としては、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛が挙げられる。
【0044】
黒色顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、非磁性フェライト、マグネタイト、上記黄色系着色剤、赤色系着色剤及び青色系着色剤を用い黒色に調色されたものが挙げられる。これらの着色剤は、単独又は混合して、さらには固溶体の状態で用いるこ
とができる。
また、必要により、重合阻害のない物質による着色剤の表面処理を施して表面改質を行ってもよい。
なお、着色剤の含有量は、結着樹脂又は結着樹脂を生成する重合性単量体100.0質量部に対して3.0質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
【0045】
[荷電制御剤について]
トナー粒子は荷電制御剤を含有してもよい。荷電制御剤としては、公知のものが使用できる。特に帯電スピードが速く、かつ、一定の帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が好ましい。さらに、トナー粒子を直接重合法により製造する場合には、重合阻害性が低く、水系媒体への可溶化物が実質的にない荷電制御剤が特に好ましい。
荷電制御剤として、トナー粒子を負荷電性に制御するものとしては、以下のものが挙げられる。
【0046】
有機金属化合物及びキレート化合物として、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ダイカルボン酸、オキシカルボン酸及びダイカルボン酸系の金属化合物。他には、芳香族オキシカルボン酸、芳香族モノ及びポリカルボン酸及びその金属塩、無水物、又はエステル類、ビスフェノールのようなフェノール誘導体類なども含まれる。さらに、尿素誘導体、含金属サリチル酸系化合物、含金属ナフトエ酸系化合物、ホウ素化合物、4級アンモニウム塩、カリックスアレーンが挙げられる。
【0047】
一方、トナー粒子を正荷電性に制御する荷電制御剤としては、以下のものが挙げられる。
ニグロシン及び脂肪酸金属塩のようなによるニグロシン変性物;グアニジン化合物;イミダゾール化合物;トリブチルベンジルアンモニウム-1-ヒドロキシ-4-ナフトスルフォン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートのような4級アンモニウム塩、及びこれらの類似体であるホスホニウム塩のようなオニウム塩及びこれらのレーキ顔料;トリフェニルメタン染料及びこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステンモリブデン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン化物、フェロシアン化物など);高級脂肪酸の金属塩;樹脂系荷電制御剤。
これら荷電制御剤は単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。また、金属を含有する荷電制御剤を用いる場合には、金属の含有量を本発明の範囲に制御すればよい。これらの荷電制御剤の添加量としては、結着樹脂100.00質量部に対して、0.01質量部以上10.00質量部以下であることが好ましい。
【0048】
〔外添剤について〕
トナー粒子は、そのままトナーとして用いてもよい。流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、いわゆる外添剤である流動化剤、クリーニング助剤などをトナー粒子に添加してトナーを得てもよい。
外添剤としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などの無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、あるいは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これら無機微粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、耐熱保管性の向上、環境安定性の向上のために、光沢処理が行われていることが好ましい。外添剤のBET比表面積は、10m2/g以上450m2/g以下であることが好ましい。
【0049】
BET比表面積は、BET法(好ましくはBET多点法)に従って、動的定圧法による低温ガス吸着法により求めることができる。例えば、比表面積測定装置(商品名:ジェミニ2375 Ver.5.0、(株)島津製作所製)を用いて、試料表面に窒素ガスを吸着させ、BET多点法を用いて測定することにより、BET比表面積(m2/g)を算出することができる。
これらの種々の外添剤の添加量は、その合計が、トナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。また、外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0050】
〔現像剤について〕
トナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
キャリアとしては、例えば鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中ではフェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリアなどを用いてもよい。
キャリアとしては、体積平均粒径が15μm以上100μm以下のものが好ましく、25μm以上80μm以下のものがより好ましい。
【0051】
[トナー粒子の製造方法について]
トナー粒子の製造方法は公知の手段を用いることができ、混練粉砕法や湿式製造法を用いることができる。粒子径の均一化や形状制御性の観点からは湿式製造法を好ましく用いることができる。さらに湿式製造法には懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化重合凝集法、乳化凝集法などを挙げることができ、本発明においては乳化凝集法を好ましく用いることができる。これは、(i)水系媒体中で前記多価金属元素をイオン化させやすい、(ii)結着樹脂を凝集させる際にトナー粒子中に前記多価金属元素を含有させやすい、(iii)前記ジエステル化合物を金属架橋させやすい、ためである。
【0052】
乳化凝集法は、まず結着樹脂の微粒子、ワックス微粒子、及び必要に応じて着色剤などの添加剤の微粒子を、分散安定剤を含有する水系媒体中で分散混合する。水系媒体中には、界面活性剤が添加されていてもよい。その後、凝集剤を添加することによって所望のトナー粒子の粒径となるまで凝集させる。好ましくは、凝集剤として上記多価金属元素の塩を用いる。その後又は凝集と同時に、微粒子間の融着を行う。融着を行う際に多価金属元素の塩など金属源を加えてもよい。さらに必要に応じて、熱による形状制御を行うことにより、トナー粒子を形成する。
ここで、結着樹脂の微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、又はいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。
トナー粒子中に内添剤を含有させる場合は、樹脂微粒子に内添剤を含有したものを用いてもよく、また、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、当該内添剤微粒子を樹脂微粒子を凝集させる際に共に凝集させてもよい。また、凝集時に組成の異なる樹脂微粒子を時間差で添加して凝集させることにより組成の異なる層構成のトナー粒子を作ることもできる。
【0053】
分散安定剤としては以下のものを使用することができる。
無機分散安定剤として、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタ珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベ
ントナイト、シリカ、アルミナが挙げられる。
また、有機系分散安定剤としては、種々の界面活性剤、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプンが挙げられる。
【0054】
界面活性剤として、公知のカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を使用することができる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデイシルトリメチルアンオニウムブロマイドなどが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノリルフェニルポリキオシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、スチリルフェニルポリオキシエチレンエーテル、モノデカノイルショ糖などが挙げられる。
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪族石鹸や、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどが挙げることができる。
【0055】
トナーの粒径は、画像の高精細、高解像の観点から重量平均粒径が3.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。トナーの粒径は細孔電気抵抗法により測定することができる。例えば「コールター・カウンター Multisizer 3」と、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3Version3.51」(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定及び算出することができる。
また、転写効率の向上の観点から、トナーの平均円形度が0.930~1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950~0.995である。トナーの平均円形度は、「FPIA-3000」(Sysmex社製)を用いて測定及び算出することができる。
【0056】
[トナーの物性の測定方法]
<トナー粒子の粒径の測定>
細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置(商品名:コールター・カウンター Multisizer 3)と、専用ソフト(商品名:ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51、ベックマン・コールター社製)を用いる。アパーチャー径は100μmを用い、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、ベックマン・コールター社製のISOTON II(商品名)が使用できる。
なお、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は(標準粒子10.0μm、ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON II(商品名)に設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
【0057】
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液約30mLを入れる。ここにコンタミノンN(商品名)(精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業(株)製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器(商品名:Ultrasonic Dispersion System Tetora150、日科機バイオス(株)製)
の水槽内にイオン交換水所定量とコンタミノンN(商品名)を約2mL添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー(粒子)約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー(粒子)を分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
【0058】
<トナー(粒子)の平均円形度の測定方法>
トナー(粒子)の平均円形度の測定には、フロー式粒子像分析装置である「FPIA-3000型」(シスメックス(株)製)を用い、校正作業時の測定・解析条件で測定する。
イオン交換水20mLに、分散剤として界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩を適量加えた後、測定試料0.02gを加える。発振周波数50kHz、電気的出力150ワットの卓上型の超音波洗浄器分散機(商品名:VS-150、(株)ヴェルヴォクリーア製)を用いて2分間分散処理を行い、測定用の分散液とする。その際、分散液の温度が10℃以上40℃以下となる様に適宜冷却する。
測定には、標準対物レンズ(10倍)を搭載した前記フロー式粒子像分析装置を用い、シース液にはパーティクルシース「PSE-900A」(シスメックス(株)製)を使用する。前記手順に従い調整した分散液をHPF測定モードで、トータルカウントモードにて3000個のトナー(粒子)を計測する。粒子解析時の2値化閾値を85%とし、解析粒子径を円相当径1.98μm以上19.92μm以下に限定し、トナー(粒子)の平均円形度を求める。
測定にあたっては、測定開始前に標準ラテックス粒子(例えば、Duke Scientific社製の5100A(商品名)をイオン交換水で希釈)を用いて自動焦点調整を行う。その後、測定開始から2時間毎に焦点調整を実施することが好ましい。
【0059】
<透過型電子顕微鏡を用いたトナーの断面観察>
トナーの断面観察は以下の方法により行う。トナーを可視光硬化性包埋樹脂(D-800、日新EM社製)で包埋し、超音波ウルトラミクロトーム(EM5、ライカ社製)によ
り60nm厚のトナー断面を作製する。
得られた断面を、真空電子染色装置(filgen社、VSC4R1H)を用いて、RuO4ガス5
00Pa雰囲気で15分間染色し、透過型電子顕微鏡(JEOL社、JEM2800)を用いてST
EM観察を行う。観察するトナーは、その直径が重量平均粒径から±2.0μm以内のものを任意に10個選択し撮影を行う。得られた画像に画像処理ソフト「Image-Pro Plus (Media Cybernetics社製)」を用い、2値化して、ワックスのドメインとバインダーの領域の区別を明確化する。
トナー粒子の表面(断面の輪郭)から0.5μmまで(0.5μmの境界を含む)の領域を残してマスキング処理を行い、残った領域の面積に対するワックスドメインの面積百分率を算出し、トナー10個の平均値をAs(%)とする。
また、撮影した10個のトナー粒子画像各々のワックスのドメイン数をカウントし、その平均値をワックスドメインの平均個数とする。
【0060】
<蛍光X線分析による多価金属元素の含有量の測定>
波長分散型蛍光X線分析装置「Axios」(PANalytical社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「SuperQ ver.4.0F」(PANalytical社製)を用いる。なお、X線管球のアノードとしてはRhを用い、測定雰囲気は真空、測定径(コリメーターマスク径)は27mm、測定時間10秒とする。また、軽元素を測定する場合にはプロポーショナルカウンタ(PC)、重元素を測定する場合にはシンチレーションカウンタ(SC)で検出する。
測定サンプルとしては、専用のプレス用アルミリングの中にトナー粒子4gを入れて平らにならし、錠剤成型圧縮機「BRE-32」(前川試験機製作所社製)を用いて、20MPaで、60秒間加圧し、厚さ2mm、直径39mmに成型したペレットを用いる。
定量のためには、金属元素を含まない樹脂サンプル100質量部に対して、定量したい多価金属を質量基準で5.0ppmとなるように添加し、コーヒーミルを用いて充分混合する。同様にして、定量したい多価金属が50.0ppm、500.0ppm、5000.0ppmとなるように、樹脂サンプルとそれぞれ混合し、これらを検量線用の試料とする。
それぞれの試料について、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにして検量線用の試料のペレットを作製して測定する。この際、X線発生装置の加速電圧、電流値はそれぞれ、24kV、100mAとする。得られたX線の計数率を縦軸に、各検量線用試料中の多価金属添加量を横軸として、一次関数の検量線を得る。
次に、分析対象のトナー粒子を、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにしてペレットとして測定する。そして、上記の検量線からトナー粒子中の多価金属元素含有量を求める。(Net強度の算出)
また、上記測定により得られる、金属元素が存在することを示すピーク角度におけるX線強度よりバックグラウンド強度を差し引いたX線強度をNet強度とする。
(トナーからの外添剤の分離)
以下の方法により、トナーから外添剤を除いて得たトナー粒子を試料として用いる。
イオン交換水100mLにスクロース(キシダ化学製)160gを加え、湯せんをしながら溶解させ、ショ糖濃厚液を調製する。遠心分離用チューブに上記ショ糖濃厚液を31gと、コンタミノンN(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を6mL入れ分散液を作製する。この分散液にトナー1.0gを添加し、スパチュラなどでトナーのかたまりをほぐす。
遠心分離用チューブをシェイカーにて350spm(strokes per min)、20minで振とうする。振とう後、溶液をスイングローター用ガラスチューブ(50mL)に入れ替えて、遠心分離機にて3500rpm、30minの条件で分離する。この操作により、トナー粒子と外れた外添剤が分離する。トナーと水溶液が十分に分離されていることを目視で確認し、最上層に分離したトナーをスパチュラ等で採取する。採取
したトナーを減圧濾過器で濾過した後、乾燥機で1時間以上乾燥し、トナー粒子を得る。この操作を複数回実施して、必要量を確保する。
【0061】
<X線光電子分光分析による多価金属元素の含有量の測定>
X線光電子分光分析(ESCA)により表面組成分析を行い算出する。
本発明では、ESCAの装置及び測定条件は、下記の通りである。
サンプル調製は以下のように行う。サンプルホルダーとしては、装置付属の75mm角のプラテン(サンプル固定用の約1mm径のねじ穴が具備されている)を用いた。そのプラテンのネジ穴は貫通しているため、樹脂等で穴をふさぎ、深さ0.5mm程度の粉体測定用の凹部を作製する。その凹部に測定試料(トナー粒子)をスパチュラ等で詰め込み、すり切ることでサンプルを作製する。
使用装置:
PHI社(Physical Electronics Industries,INC.)製Quantum2000ScanningESCAMicroprobe
測定条件:
励起X線:Al Kα
光電子脱出角度:45°
X線:100μm 25W 15kV
ラスター:300μm×200μm
電子中和銃:20μA、1V
イオン中和銃:7mA、10V
Pass Energy:58.70eV
Step Size:0.125eV
以上の条件により測定された各元素のピーク強度から、PHI社提供の相対感度因子を用いて表面原子濃度(原子%)を算出し、原子量を用いて多価金属元素の質量濃度を計算する。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の配合における部数は、特に断りのない限り質量部を示す。
まず、実施例で行った評価について、その方法を以下に述べる。
【0063】
(1)低温定着性、耐ホットオフセット性の評価
トナーと、シリコーン樹脂で表面コートしたフェライトキャリア(平均粒径42μm)とを、トナー濃度が6質量%になるようにそれぞれ混合し、二成分現像剤を調製した。市販のフルカラーデジタル複写機(商品名:CLC700、キヤノン(株)製)を使用し、受像紙(80g/m2)上に未定着のトナー画像(1.2mg/cm2)を形成した。
市販のフルカラーデジタル複写機(商品名:CLC700、キヤノン(株)製)から取り外した定着ユニットを定着温度が調節できるように改造し、これを用いて未定着画像の定着試験を行った。常温常湿下、プロセススピードを200mm/秒に設定し、110℃以上250℃以下の範囲で設定温度を5℃おきに変化させながら、各温度で上記トナー画像の定着を行った。得られた定着画像を4.9kPaの荷重をかけたシルボン紙で5往復摺擦し、摺擦前後の濃度低下率が10%以下となる温度を低温側の定着開始温度とした。この温度が低いほど低温定着性に優れている。160℃未満を良好と判断した。
画像濃度については、「マクベス反射濃度計RD918」(マクベス社製)を用いて、原稿濃度が0.00の白地部分のプリントアウト画像に対する反射濃度を測定した。
また、得られた画像を目視で観察し、オフセットが発生し始めた高温側の温度をホットオフセット発生温度とした。170℃以上を良好と判断した。
【0064】
(2)定着画像グロスの評価
定着温度180℃でベタ画像(トナーの載り量:0.6mg/cm2)を出力し、PG-3D(日本電色工業製)を用いてグロス値の測定を行った。転写材としては、LETTERサイズの普通紙(XEROX4200用紙、XEROX社製、75g/m2)を用いた。C以上を良好と判断した。
(評価基準)
A:グロス値が50以上。
B:グロス値が40以上50未満。
C:グロス値が20以上40未満。
D:グロス値が20未満。
【0065】
(3)定着画像モトルの評価
評価紙は、ラフ紙であるOCE RED LABEL(坪量:80g/m2)を使用した。印字比率100%のベタ画像をそれぞれの評価紙に100枚ずつ片面連続で通紙した。得られた画像のモトルを目視で確認し、下記指標で判断した。モトルとは、定着不良画像の一種で、トナー画像の溶融粘度が低すぎて紙の洲が出てガサついた画像になることである。C以上を良好と判断した。
A:100枚全てにモトル発生箇所無し。
B:100枚中、1~3枚にモトル発生箇所有り。
C:100枚中、4~9枚にモトル発生箇所有り。
D:100枚中、10枚以上にモトル発生箇所有り。
【0066】
(4)耐熱保存性の評価/耐ブロッキング性
約10gのトナーを100mLの樹脂製カップに入れ、温度45℃、湿度95%環境に7日放置した後、目視で評価する。C以上を良好と判断した。
(評価基準)
A:凝集物は見られない。
B:凝集物は見られるが、容易に崩れる。
C:凝集物は見られるが、振れば崩れる。
D:凝集物をつかむことができ、容易に崩れない。
【0067】
(5)高温高湿環境放置後の画像耐久試験
高温高湿環境(30℃,80%)に1晩放置したトナーとシリコーン樹脂で表面コートしたフェライトキャリア(平均粒径42μm)とを、トナー濃度が6質量%になるようにそれぞれ混合し、二成分現像剤を調製した。市販のフルカラーデジタル複写機(商品名:CLC700、キヤノン(株)製)を用いて、32.5℃,湿度80%の環境で15000枚のプリント試験を行った。15000枚プリント試験終了後にベタ画像を出力し、該ベタ画像の濃度を(1)と同じ方法で10点測定し、面内の最高濃度と最低濃度との濃度差を評価した。トナーが高温高湿環境下でダメージを受けると、カートリッジ内の動きが悪くなり濃度ムラが発生する。ランク分けは以下のように行った。C以上を良好と判断した。
A:濃度差が0.05未満。
B:濃度差が0.05以上0.10未満。
C:濃度差が0.10以上0.20未満。
D:濃度差が0.20以上。
【0068】
[ジエステル化合物の製造例1]
温度計、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を備えた4つ口フラスコに、ステアリン酸312.9部と、エチレングリコール31部とを加え、窒素気流下、180℃で反応水を留去しつつ、15時間常圧で反応させた。この反応によって得られたエステル化粗生成物100部に対して、トルエン20部と、エタノール4部とを加えた。さらに、前記エステル化
粗生成物の酸価の1.5倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。
攪拌後30分間静置した後、エステル相から分離した水相(下層)を除去することによって、前記エステル化粗生成物を水洗した。水相のpHが7になるまで、上記水洗を4回繰り返した。その後、180℃、1kPaの減圧条件下で、水洗されたエステル相から溶媒を留去し、濾過を行い、ジエステル化合物(1A)(エチレングリコールジステアレート)を得た。ジエステル化合物(1A)の結晶化温度は65℃であった。
【0069】
[ジエステル化合物の製造例2]
ジエステル化合物の製造例1において、ステアリン酸312.9部をコハク酸118.1部、エチレングリコール31部をステアリルアルコール148.7部に変更した以外は、製造例1と同様にしてジエステル化合物(2A)(ジステアリルスクシナート)を得た。ジエステル化合物(2A)の結晶化温度は65℃であった。
【0070】
[実施例1]
<結着樹脂粒子分散液の調製>
スチレン89.5部、アクリル酸ブチル9.2部、カルボキシ基付与モノマーとしてアクリル酸1.3部、n-ラウリルメルカプタン3.2部を混合し溶解させた。この溶液にネオゲンRK(第一工業製薬社製)1.5部をイオン交換水150部に溶解させた水溶液を添加して、分散させた。
さらに10分間ゆっくりと撹拌しながら、過硫酸カリウム0.3部をイオン交換水10部に溶解させた水溶液を添加した。窒素置換をした後、70℃で6時間乳化重合を行った。重合終了後、反応液を室温まで冷却し、イオン交換水を添加することで固形分濃度が12.5質量%、体積基準のメジアン径が0.2μmの樹脂粒子分散液を得た。
なお、樹脂粒子を構成する樹脂は、アクリル酸に由来するカルボキシ基を有していた。また、結着樹脂のガラス転移温度は60℃であった。
【0071】
<ワックス分散液の調製>
ジエステル化合物(1A)100部、離型ワックスとしてパラフィンワックス「HNP-9」(日本精蝋社製、融点75℃)30部、ネオゲンRK20部をイオン交換水400部に混合した。その後、湿式ジェットミル JN100((株)常光製)を用いて約1時間分散してワックス分散液を得た。
【0072】
<着色剤分散液の調製>
着色剤としてカーボンブラック「Nipex35(オリオンエンジニアドカーボンズ社製)」100部、ネオゲンRK15部をイオン交換水885部に混合させ、湿式ジェットミル JN100を用いて約1時間分散して着色剤分散液を得た。
【0073】
<トナー1の作製例>
樹脂粒子分散液265部、ワックス分散液80部、着色剤分散液10部をホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて分散させた。撹拌しながら容器内の温度を30℃に調整して、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH=8.0に調整した。
凝集剤として、塩化アルミニウム0.05部をイオン交換水10部に溶解した水溶液を、30℃攪拌下、10分間かけて添加した。3分間放置した後に昇温を開始し、50℃まで昇温し、会合粒子の生成を行った。その状態で、「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)にて会合粒子の粒径を測定した。重量平均粒径が6.5μmになった時点で、塩化ナトリウム3.0部とネオゲンRK8.0部を添加して粒子成長を停止させた。
ここに、追添金属化合物として塩化アルミニウム0.10部を添加してから95℃まで
昇温した。95℃で撹拌保持して会合粒子の融着と球形化を行った。平均円形度が0.980に到達した時点で80℃まで冷却して80℃のまま保持した。そこに氷水を添加することで急冷開始温度80℃から急冷終了温度30℃まで急冷速度3℃/secの速さで急冷してトナー粒子分散液1を得た。
得られたトナー粒子分散液1に塩酸を添加してpH=1.5以下に調整して1時間撹拌放置してから加圧ろ過器で固液分離し、トナーケーキを得た。これをイオン交換水でリスラリーして再び分散液とした後に、前述のろ過器で固液分離した。リスラリーと固液分離とを、ろ液の電気伝導度が5.0μS/cm以下となるまで繰り返した後、固液分離してトナーケーキを得た。
得られたトナーケーキは気流乾燥機フラッシュジェットドライヤー(セイシン企業製)にて乾燥を行った。乾燥の条件は吹き込み温度80℃、乾燥機出口温度37℃、トナーケーキの供給速度はトナーケーキの含水率に応じて出口温度が37℃から外れない速度に調整した。
さらにコアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて微粗粉をカットし、トナー粒子1を得た。得られたトナー粒子100.0部に対して一次粒子の個数平均粒径が40nmのシリカ微粒子1.0部を加え、FMミキサ(日本コークス工業製)を用いて混合しトナー1を得た。得られたトナーの物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0074】
[実施例2~4]
球形化の後の急冷開始温度、急冷終了温度、急冷速度を表1のように変えた以外は、トナー1の作製例と同様の方法でトナー2~4を作製した。物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0075】
[実施例5~7、9~26]
添加する凝集剤の種類と量、追添金属化合物の種類と量を表1のように変えた以外は、トナー1の作製例と同様の方法でそれぞれトナー5~7、トナー9~26を作製した。物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0076】
[実施例8]
結着樹脂粒子分散液の調製で混合するモノマーをスチレン90.8部、アクリル酸ブチル9.2部として、カルボキシ基付与モノマーを混合しなかった以外は、トナー1の作製例と同様の方法でトナー8を作製した。トナー8の物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0077】
[実施例27]
ワックス分散液の調製で添加するジエステル化合物(1A)をジエステル化合物(2A)に変えた以外は、トナー1の作製例と同様の方法でトナー27を作製した。トナー27の分析結果を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0078】
[比較例1]
ワックス分散液の調製でジエステル化合物(1A)を添加しなかった。それ以外は、トナー1の作製例と同様の方法で比較用トナー1を作製した。比較用トナー1の分析結果を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0079】
[比較例2~4]
球形化の後の急冷開始温度、急冷終了温度、急冷速度を表1のように変えた以外は、トナー1の作製例と同様の方法で比較用トナー2~4を作製した。比較用トナー2~4の物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0080】
[比較例5~7]
添加する凝集剤の種類と量、追添金属化合物の種類と量を表1のように変えた以外は、トナー1の作製例と同様の方法で比較用トナー5~7を作製した。比較用トナー5~7の物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0081】
[比較例8]
添加する凝集剤の種類と量を表1のように変えた。また、追添金属化合物として荷電制御剤であるサリチル酸アルミニウム(オリエント化学株式会社製、商品名:ボントロンE88)を添加した。それ以外は、トナー1の作製例と同様の方法で比較用トナー8を作製した。比較用トナー8の物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0082】
[比較例9]
モノビニル単量体としてスチレン75部及びアクリル酸n-ブチル25部、ブラック着色剤としてカーボンブラック(三菱化学社製、商品名「#25B」)7部、架橋性の重合性単量体としてジビニルベンゼン0.60部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン1.0部、及びマクロモノマーとしてポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成社製、商品名「AA6」)0.25部を、メディア型湿式粉砕機を用いて湿式粉砕を行った。その後、ジエステル化合物(1A)を10部、混合して、重合性単量体組成物を得た。
他方、攪拌槽において、室温下で、イオン交換水250部に塩化マグネシウム7.4部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム4.1部を溶解した水溶液を、攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド分散液(水酸化マグネシウム3.0部)を調製した。
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイド分散液に、25℃で、上記重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで攪拌し、そこに重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油社製、商品名「パーブチルO」)5部を添加後、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名「エバラマイルダー」)を用いて、15,000rpmの回転数で高剪断攪拌して重合性単量体組成物の液滴形成を行った。
上記により得られた重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を、攪拌翼を装着した反応器内に投入し、90℃に昇温し、重合反応を開始させた。重合転化率がほぼ100%に達したときに、反応器内にメチルメタクリレート(シェル用重合性単量体)1.5部、及びイオン交換水20部に溶解した2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド)(シェル用重合開始剤、和光純薬社製、商品名「VA-086」、水溶性)0.15部を添加した。その後、更に3時間、90℃で維持して、重合を継続した後、水冷して反応を停止し、比較用トナー粒子分散液9を得た。
得られた比較用トナー粒子分散液9に塩酸を添加してpH=1.5以下に調整して1時間撹拌放置してから加圧ろ過器で固液分離し、トナーケーキを得た。これをイオン交換水でリスラリーして再び分散液とした後に、前述のろ過器で固液分離した。リスラリーと固液分離とを、ろ液の電気伝導度が5.0μS/cm以下となるまで繰り返した後、固液分離してトナーケーキを得た。
得られたトナーケーキは気流乾燥機フラッシュジェットドライヤー(セイシン企業製)にて乾燥を行った。乾燥の条件は吹き込み温度80℃、乾燥機出口温度37℃、トナーケーキの供給速度はトナーケーキの含水率に応じて出口温度が37℃から外れない速度に調整した。
さらにコアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて微粗粉をカットし、比較用トナー粒子9を得た。得られたトナー粒子100.0部に対して一次粒子の個数平均粒径が40nmのシリカ微粒子1.0部を加え、FMミキサ(日本コークス工業製)を用いて混合し比較用トナー9を得た。得られたトナーの物性を表2に、各評価の結果を表3に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
表2及び表3より明らかな様に、本発明により、低温定着性と耐ホットオフセット性を両立しつつ、定着画像のグロス、モトルなど画像品質に優れたトナーを提供することができる。