(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】複層塗膜の形成方法及び複層塗膜
(51)【国際特許分類】
B05D 1/38 20060101AFI20240213BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B05D1/38
B05D5/06 101B
(21)【出願番号】P 2019209194
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】宮島 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鹿内 康平
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-018474(JP,A)
【文献】特許第5221822(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/039066(WO,A1)
【文献】特開昭63-143973(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0074968(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中塗り塗着層を硬化させた中塗層上に、第1色塗着層を硬化させた第1色層と第2色塗着層を硬化させた第2色層とを互いに隣接して設けた複層塗膜の形成方法において、
第1色塗料の塗着状態における表面張力を、前記中塗り塗着層を形成する中塗り塗料の塗着状態における表面張力より低くなるように調整し
、
前記中塗り塗着層が
前記第1色塗料のダストを沈み込ませることが可能な湿潤状態でこの中塗り塗着層上の一部に前記第1色塗料を塗布して前記第1色塗着層を形成し、
前記中塗り塗着層上の前記第1色塗着層に隣接する領域に付着した前記第1色塗料のダストを、前記第1色塗着層より前記中塗り塗着層の内部側に沈み込ませ、
前記領域に第2色塗料を塗布して前記第2色塗着層を形成する、複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記中塗り塗着層の塗着粘度を第1色塗着層の塗布時に100Pa・S以上1200Pa・S以下にするとともに、前記第1色塗着層の塗着粘度を3.5Pa・S以上10.3Pa・S以下にする、請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記第1色塗料の硬化開始温度を前記中塗り塗料の硬化開始温度以上にする、請求項1又は2に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記中塗り塗着層の塗着時固形分濃度を85wt%以上90wt%以下にするとともに、前記第1色塗着層の塗着時固形分濃度を65wt%以上75wt%以下にする、請求項
1乃至3の何れかに記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至4の何れかに記載の複層塗膜の形成方法により形成された複層塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1色層と第2色層とが互いに隣接して中塗層上に設けられた複層塗膜の形成方法及び複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体等の被塗装物に複層塗膜を形成するには、電着塗装後の車体にウエットオンウエット方式などにより、中塗り塗料、色塗料及びクリヤ塗料を塗布して硬化させることが一般的に行われている。
【0003】
ツートンカラーのように所定の領域毎に異なる色に配色する場合には、例えば電着塗膜上に塗布された中塗り塗料の塗着層上の一部の領域に、第1色塗料を塗布して塗着層を形成し、マスキングを適宜施してから、中塗り塗料の塗着層上の第1色塗着層に隣接する領域に第2色塗料を塗布して塗着層を形成している。
【0004】
このような塗装工程では、中塗り塗料上に第1色を塗布する際、中塗り塗料上の第2色塗料を塗布する領域に第1色塗料のダストが付着する。そのため第2色塗料で被覆することで、中塗り塗料上の第1色塗料のダストを隠蔽していた。
ところが、単に第1色塗料のダストに対して第2色塗料を塗布することで被覆するだけでは、塗着層を硬化して得られた複層塗膜の外部から、僅かな色の差で第1色塗料のダストが視認されることがあるため、さらに隠蔽性を向上することが検討されている。
【0005】
例えば特許文献1などでは、アルミニウム粉末および酸化チタン白顔料を含有してなる隠蔽性の高い白色系塗料を使用し、3コート1ベイク方式(3C1B)により黒色等の第1色が透けて見えることを防止して複層白色塗膜を形成する方法が提案されている。
【0006】
また
図3に示すように、電着塗膜からなる基部層11に塗布された中塗層12上に第1色塗料を塗布して第1色塗着層23を形成して乾燥させた後、第1色塗料のダスト17上に、第2色塗料を2回塗装することで、第2色塗料からなる第2色塗着層24を厚く設けて乾燥させ、さらにマイカ等を分散した塗料の塗着層25及びクリヤ塗料の塗着層26を積層して加熱乾燥することで隠蔽層15及びクリヤ層16を設けることにより、外部から第1色塗料のダスト17が視認されることを防止した複層塗膜30を形成する工法も実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、
図3に示す工法では、中塗層上に互いに隣接して第1色層と第2色層とを設ける複層塗膜では、第1色塗料のダストを確実に隠蔽して優れた外観品質の複層塗膜を形成するには、第2色塗料からなる第2色層を十分に厚く形成しなければならない。
そのため、例えば一度に厚い塗着層を形成することが困難なため、塗布回数を多くしたり、乾燥して硬化させる回数を多くしたりするなど、塗装費用も嵩み手間も要するという問題点があった。
【0009】
そこで本発明は、中塗り塗着層に第1色塗料のダストが付着していても、第2色層を通して視認されることがなく、外観品質の優れた複層塗膜を容易に得ることができる複層塗膜の形成方法を提供することを一目的とし、また第1色塗料のダストが第2色層を通して視認されることがない優れた外観品質の複層塗膜を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記一目的を達成する本発明の複層塗膜の形成方法は、中塗り塗着層を硬化させた中塗層上に、第1色塗着層を硬化させた第1色層と第2色塗着層を硬化させた第2色層とを互いに隣接して設けた複層塗膜の形成方法において、第1色塗料の塗着状態における表面張力を、中塗り塗着層を形成する中塗り塗料の塗着状態における表面張力より低くなるように調整し、前記中塗り塗着層が第1色塗料のダストを沈み込ませることが可能な湿潤状態でこの中塗り塗着層上の一部に第1色塗料を塗布して第1色塗着層を形成し、中塗り塗着層上の第1色塗着層に隣接する領域に付着した第1色塗料のダストを、第1色塗着層より中塗り塗着層の内部側に沈み込ませ、前記領域に第2色塗料を塗布して第2色塗着層を形成する方法である。
【0011】
本発明の複層塗膜の形成方法では、中塗り塗着層の塗着粘度を第1色塗着層の塗布時に100Pa・S以上1200Pa・S以下にするとともに、第1色塗着層の塗着粘度を3.5Pa・S以上10.3Pa・S以下にするのが好適である。
また本発明の複層塗膜の形成方法では、第1色塗料の表面張力を中塗り塗料の表面張力以下にするのがよく、さらに第1色塗料の硬化開始温度を中塗り塗料の硬化開始温度以上にするのがよい。
【0012】
上記他の目的を達成する本発明の複層塗膜は、上記のような複層塗膜の形成方法により形成された複層塗膜である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複層塗膜の形成方法によれば、中塗り塗着層上の一部に第1塗料を塗布して第1色塗着層を形成する際、中塗り塗着層上の第1色塗着層の隣接領域に付着した第1色塗料のダストを第1色塗着層より中塗り塗着層の内部側に沈み込ませ、その後に隣接領域に第2色塗料を塗布して第2色塗着層を形成する。
そのため第1色塗着層の隣接領域に第1色塗料のダストが付着していても、ダストが中塗り塗着層上に大きく突出することがない。これにより中塗り塗着層上に第2色塗料を塗布して第2色塗着層を形成しても、第1色塗料のダストにより第2色塗着層の厚みが局部的に薄くなることを防止できる。
【0014】
よって、第2色塗着層全体の厚みを薄く形成しても、第2色塗着層を硬化させた第2色層全体で十分な隠蔽性を確保することができる。その結果、外部から視認した際、第1色塗料のダストが第2色層を通して視認されることがなく、外観品質の優れた複層塗膜を容易に形成することができる。
【0015】
本発明の複層塗膜の形成方法では、特に、中塗り塗着層の塗着時固形分濃度及び第1色塗着層の塗着時固形分濃度をそれぞれ所定範囲に調整することにより、第1色塗着層が中塗り塗着層へ沈み込んで第1色塗着層と中塗り塗着層とが混ざることを抑制しつつ、第1色塗料のダストを中塗り塗着層に沈み込ませることができ、また第1色塗着層の表面の平滑性を確保することができる。そのため、より確実に外観品質の優れた複層塗膜を形成することができる。
【0016】
本発明の複層塗膜の形成方法では、第1色塗料の表面張力と中塗り塗料の表面張力とを所定関係に調整することで、第1色塗着層が中塗り塗着層へ沈み込んで第1色塗着層と中塗り塗着層とが混ざることを抑制できる。
【0017】
さらに本発明の複層塗膜の形成方法では、第1色塗料の硬化開始温度と中塗り塗料の硬化開始温度とを所定の相対関係にすることで、中塗り塗着層と第1色塗着層及び第2色塗着層の硬化時に、中塗り塗着層が硬化を開始する時点で第1色塗着層が流動性を有して中塗り塗着層より遅れて硬化を開始するため、中塗層上に安定した第1色層を形成でき、得られる複層塗膜の外観を向上できる。
【0018】
さらに、本発明の複層塗膜によれば、第1色層を構成する第1色塗料のダストが、第2色層に対応する領域における中塗層に、第1色層よりも内部側に沈み込んだ状態で存在する。そのため、第2色層に対応する領域の中塗層に第1色塗料のダストが存在していても、中塗層の表面からダストが大きく突出することがなく、ダストが存在する位置における中塗層の界面の凹凸を小さくすることができる。
【0019】
これにより中塗層上の第2色層に厚みのバラツキが生じ難く、第2色層が薄肉であっても第2層の全体で十分な隠蔽性を確保できる。その結果、複層塗膜を外部から視認した際、第1色塗料のダストが第2色層を通して視認されるようなことがなく、複層塗膜の優れた外観品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態における複層塗膜の部分拡大断面図である。
【
図2】(a)乃至(e)は本発明の実施形態における複層塗膜の形成途中を示す。
【
図3】従来の複層塗膜の一例を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態における複層塗膜及びその形成方法について詳細に説明する。
複層塗膜10は、被塗装物の表面に設けられた
図1に示すような積層膜であり、基部層11に設けられた中塗層12上に、第1色層13と第2色層14とが互いに隣接して設けられている。本実施形態では、第1色層13が黒色を呈し、第2色層14が白色を呈している。また第2色層14はカラーベースであり、第2色層14上には、マイカが含有及び分散された隠蔽層15とクリヤ層16とが積層されている。
【0022】
被塗装物は、鋼材、ステンレス鋼、アルミニウム等の各種の金属基材、各種のプラスチック基材などにより平坦又は立体形状に形成された各種の部材であり、例えば自動車、二輪車等の車体、電気製品の外装体等である。本実施形態では、鋼板を立体形状に成形して接合された自動車車体が被塗装物とした例を主として用いている。
【0023】
複層塗膜10の基部層11は、被塗装物の表面自体であってもよいが、被塗装物の表面に各種の表面処理が施されたプライマー層であってもよい。本実施形態では、被塗装物の表面に電着塗装が施された電着塗膜からなる。
【0024】
この複層塗膜10は、第1色層13を形成する際に生じた第1色塗料のダスト17が、第2色層14に対応する領域の中塗層12に存在し、中塗層12の内部側に第1色層13よりも沈み込んだ状態で配置されている。そして第2色層14は、第1色塗料のダスト17が沈み込んだ状態の中塗層12に積層して形成されている。
【0025】
このような複層塗膜10によれば、第1色塗料のダスト17が中塗層12の内部側に沈み込んだ状態で存在するため、第2色層14に対応した領域の中塗層12に第1色塗料のダスト17が存在していても、中塗層12の表面からダスト17が大きく突出することがなく、中塗層12の界面が平坦に形成されている。
【0026】
そのため、中塗層12上に第2色層14を形成しても、厚みにバラツキが生じ難く、第2色層14がダスト17の存在する部位で局部的に過剰に薄くなることがなく、第2色層14の全体で十分な隠蔽性を確保できる。これにより第2色層14を厚く設けなくても、第2色層14を通して第1色塗料のダスト17が視認されるようなことを防止でき、優れた外観品質を実現できる。
【0027】
本実施形態において、このような複層塗膜10を形成するには、閉空間内を所定条件に保つことで形成された塗装雰囲気下で、
図2(a)乃至
図2(e)に示すように、各塗料をウエットオンウエット方式で順次積層することとともに、適宜加熱乾燥させて硬化することにより形成することができる。以下に、その形成方法について説明する。
【0028】
被塗装物には、予め電着塗膜からなる基部層11が硬化された状態で形成されている。被塗装物を塗装雰囲気下に配置し、エアスプレー、エアレススプレー、静電塗装機などの適当な塗装手段を用いて、
図2(a)に示すように、被塗装物の基部層11に中塗り塗料を塗布し、塗装雰囲気下で揮発分を揮発させた状態で湿潤状態の中塗り塗着層22を形成する。
【0029】
中塗り塗料としては、有機溶剤に分散させた樹脂成分と硬化剤とを含有する公知の塗料などが用いられる。中塗り塗料には、必要に応じて、例えば粘性付与剤、流動調整剤、顔料分散剤等の各種添加剤を配合することができる。樹脂成分には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂またはポリウレタン樹脂等が挙げられ、具体的にはカルボキシ基を有するアクリル樹脂またはポリエステル樹脂等が用いられる。硬化剤は、例えばメラミン樹脂、ブロックポリイソシアネート等である。また塗装色に応じて各種の顔料が含有されていてもよい。
【0030】
有機溶剤としては、例えば、キシレン等の芳香族系溶剤;ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びメチルアミルケトン等のケトン系溶剤;イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、及び2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。
【0031】
このような中塗り塗料を基部層11上に塗布することで、例えば10~40μmの厚みの中塗り塗着層22を形成する。本実施形態では、中塗り塗着層22は単独では加熱乾燥を施さない状態で湿潤状態で形成される。このとき、固形分濃度や粘度などが所望の範囲となるようにして中塗り塗着層22を形成するが、詳細については後述する。
【0032】
次いで、
図2(b)に示すように、中塗り塗着層22上の一部の領域に、第1色塗料をエアスプレー、静電塗装機などの適当な塗装手段を用いて塗布し、塗装雰囲気下で揮発分を揮発させて第1色塗着層23を形成する。第1色塗料は、塗膜形成性の樹脂成分、硬化剤、顔料、溶剤、必要に応じて添加される各種の添加成分を配合して調製されたものである。
【0033】
樹脂成分としては、塗料用の樹脂成分として用いられる各種の樹脂が用いられる。例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、及びウレタン樹脂等から選ばれる少なくとも一種であり、かつ、官能基として、水酸基、カルボキシル基、ケイ素含有基、エポキシ基、及び、ブロックされていてもよいイソシアネート基を有する樹脂が挙げられる。
【0034】
硬化剤としては、前記樹脂成分中の官能基と反応するメラミン樹脂、尿素樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物、及びエポキシ基含有化合物等が挙げられる。
【0035】
顔料としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒酸化鉄(四三酸化鉄)、黒酸化チタン、銅マンガンブラック、銅クロムブラック、コバルトブラック、シアニンブラック及びアニリンブラック等の黒色顔料;フタロシアニン系、インダンスロン系及びインジゴ系等の青色顔料;アゾ系ジケトピロロピロール系ペリレン系ペリノン系及び酸化鉄等の赤色顔料等が挙げられる。本実施形態では、黒色顔料を用いている。
【0036】
溶剤としては、例えば、キシレン等の芳香族系溶剤;ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びメチルアミルケトン等のケトン系溶剤;イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、及び2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。
【0037】
この第1色塗料には、必要に応じて、例えば粘性付与剤、流動調整剤、光安定剤、紫外線吸収剤、体質顔料、及び顔料分散剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0038】
本実施形態では、このような第1色塗料を中塗り塗着層22上に塗布することで、10~40μmの厚みの第1色塗着層23を中塗り塗着層22上の所定の領域に形成する。
【0039】
第1色塗料を中塗り塗着層22上の所定領域に塗布して第1色塗着層23を形成する際には、飛散した第1色塗料のダスト17が中塗り塗着層22上の第1色塗着層23に隣接する隣接領域にも付着する。
本発明では、この中塗り塗着層22に付着した第1色塗料のダスト17を、
図2(c)に示すように、中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませる。ここでは第1色塗着層23を出来るだけ沈ませずに中塗り塗着層22上に維持しつつ、第1色塗料のダスト17を第1色塗着層23よりも中塗り塗着層22の内部側へ沈み込ませる。
【0040】
ここで、第1色塗料のダスト17を第1色塗着層23よりも中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませるとは、第1色塗料のダスト17における少なくとも一部、好ましくは全部を、第1色塗着層23と中塗り塗着層22との界面よりも被塗装物側に配置することである。望ましくは、第2色塗着層24に対応する領域の中塗り塗着層22に付着したより多くの第1色塗料のダスト17が中塗り塗着層22の内部に配置されて、中塗り塗着層22の表面が平滑に形成されるのがよい。
【0041】
第1色塗着層23よりも中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませるには、塗装雰囲気下或いは大気下で放置することで沈み込む場合には、所望の沈み込み状態まで放置してもよい。本実施形態では、第1色塗着層23を中塗り塗着層22上に維持しつつ第1色塗料のダスト17を沈み込ませるために、中塗り塗着層22の塗着時固形分濃度と第1色塗着層23の塗着時固形分濃度とを所定範囲となるように調整した状態で、中塗り塗着層22上に第1色塗料を塗布するのがよい。
【0042】
この塗着時固形分濃度とは、塗料を被塗布物に塗布して未硬化の状態のまま塗装ブースのような温度、湿度が管理された条件下で形成した塗着層の質量に対する硬化後の質量の割合である。
【0043】
この塗着時固形分濃度は、例えば、各塗料の成分や溶剤の選択、溶剤による希釈率、各塗料の塗布条件、塗装ブースの温度、湿度、塗布されたからの時間などにより調整可能である。
【0044】
このような塗着時固形分濃度について、本実施形態では、中塗り塗着層22の塗着時固形分濃度を85wt%以上90wt%以下にするとともに、第1色塗着層23の塗着時固形分濃度を65wt%以上75wt%以下にするのが好適である。より好ましくは、中塗り塗着層22の塗着時固形分濃度を85.5wt%以上88.5wt%以下にするとともに、第1色塗着層23の塗着時固形分濃度を65wt%以上75wt%以下にする。
【0045】
このように、中塗り塗着層22及び第1色塗着層23の塗着時固形分濃度を上記の範囲とすることで、中塗り塗着層22の塗着粘度を100Pa・s以上1200Pa・s以下とすることができ、より好ましくは、120Pa・s以上900Pa・s以下とすることができる。また、第1色塗着層23の塗着粘度を3.5Pa・s以上10.3Pa・s以下とすることができ、より好ましくは、5Pa・s以上7Pa・s以下とすることができる。
【0046】
上記した中塗り塗着層22の塗着時固形分濃度や塗着粘度が過剰に低いと、第1色塗着層23を塗着させた際、中塗り塗着層22と第1色塗着層23とが混ざり易く、混層となってしまう結果、得られる複層塗膜10における第1色層13の表面を平滑に形成し難く、肌、艶等の品質を確保し難くなる。
一方、中塗り塗着層22の塗着時固形分濃度や塗着粘度が過剰に高いと、第2色塗着層24に対応する領域の中塗り塗着層22に付着した第1色塗料のダスト17を、中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませ難くなる。
【0047】
また、このような第1色塗着層23の塗着時固形分濃度や塗着粘度が過剰に低いと、第1色塗着層23を塗着した際、中塗り塗着層22と第1色塗着層23とが混ざり易く、混層となってしまうことで、得られる複層塗膜10における第1色層13の表面を平滑に形成し難く、肌、艶等の品質を確保し難くなる。
一方、第1塗着層23の塗着時固形分濃度や塗着粘度が過剰に高いと、第2色塗着層24に対応する領域の中塗り塗着層22に付着した第1色塗料のダスト17を中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませ難くなる。
【0048】
本実施形態では、第1色塗着層23を中塗り塗着層22上に維持しつつ第1色塗料のダスト17を中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませるために、中塗り塗着層22及び第1色塗着層23の塗着時固形分濃度をそれぞれ調整することに加え、第1色塗料の表面張力と中塗り塗料の表面張力とを所定関係に調整するのがよい。第1色塗料の表面張力や中塗り塗料の表面張力は、例えばポリシロキサン等の表面調整剤を添加したり、添加量を調整したりすることにより調整可能である。
【0049】
具体的には、第1色塗料の塗着状態における表面張力を中塗り塗料の塗着状態における表面張力以下にすることが好適である。このようにすることで、第1色塗着層23が中塗り塗着層22へ沈み込んで第1色塗着層23と中塗り塗着層22とが混ざることを抑制でき、得られる複層塗膜の第1色層13をより平滑にし、外観品質を向上し得る。
【0050】
さらに本実施形態では、第1色塗着層23よりも中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませるために、中塗り塗着層22及び第1色塗着層23の塗着時固形分濃度をそれぞれ調整することに加え、さらに第1色塗料の硬化開始温度と中塗り塗料の硬化開始温度との相対関係を設定するのがよい。
これらの塗料の硬化開始温度は、例えば温度変化に対する粘度の変化などから測定することができる。
【0051】
具体的には、第1色塗料の硬化開始温度を中塗り塗料の硬化開始温度以上にするのが好適である。このようにすれば、中塗り塗着層22と第1色塗着層23及び第2色塗着層24の硬化時に、中塗り塗着層22が硬化を開始する時点で第1色塗着層23が流動性を有しており、第1色塗着層23が中塗り塗着層22より遅れて硬化を開始するため、中塗層12上に平滑な第1色層13を形成し得る。
【0052】
本実施形態では、このようにして第1色塗着層23を中塗り塗着層22上に維持しつつ、第1色塗料のダスト17を第1色塗着層23よりも中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませた後、中塗り塗着層22と第1色塗着層23とを加熱乾燥することで、中塗り塗着層22と第1色塗着層23とを硬化させて、中塗層12と第1色層13とを形成する。これにより、第1色層13の隣接領域に存在する第1色塗料のダスト17は、中塗層12の内部に沈み込んだ状態で硬化し、第2色層14に対応する領域では平滑な表面が形成される。
【0053】
次いで
図2(d)に示すように、第1色塗着層23に対応する領域にマスキングを施した後、第1色塗着層23に隣接する中塗層12上の隣接領域に、第2色塗料をエアスプレー、エアレススプレー、静電塗装機などの適当な塗装手段を用いて塗布し、塗装雰囲気下で揮発分を揮発させて第2色塗着層24を設ける。このようにして、第1色塗料のダスト17が沈み込んだ領域を含む中塗り塗着層22上の所定領域に、第2色塗料を塗布して第2色塗着層24を設ける。
【0054】
本発明における第2色塗料としては、第1色塗料として例示したものを同様に使用することができる。その場合、顔料を異ならせる他は、塗膜形成性の樹脂成分、硬化剤、溶剤、各種の添加成分なども、第1色塗料と同様のものを使用することが可能である。
【0055】
このような第2色塗料を塗布して中塗層12上に形成した第2色塗着層24は、加熱乾燥させてもよいが、本実施形態では、工程を簡略化するため、加熱乾燥して硬化することなく、湿潤状態のままで次の隠蔽層15を形成するための工程に進む。
【0056】
次いで
図2(e)に示すように、第2色塗着層24に対応する領域に、公知のマイカ含有塗料を塗布し、隠蔽層15を形成するためのマイカ含有塗料の塗着層25を積層する。このマイカ含有塗料としては、第2色塗料と相溶性を有する塗膜形成性の樹脂成分、硬化剤、溶剤、各種の添加成分などを含有するもので、各種のマイカを含有して均一に分散している公知の塗料を使用可能である。
【0057】
その後、第2色塗着層24に対応する領域にクリヤ塗料を塗布することで、マイカ含有塗料の塗着層25上にクリヤ塗料の塗着層26積層する。クリヤ塗料としては、公知のものが適宜使用でき、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂等と、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂および尿素樹脂などの架橋剤と、その他の添加剤とを、有機溶剤に溶解または分散させた塗料を用いてもよい。
【0058】
本実施形態では、中塗層12の第1色層13を除いた残部からなる領域に、これらの第2色塗着層24、マイカ含有塗料の塗着層25及びクリヤ塗料の塗着層26を積層した状態で加熱乾燥することにより、これらの層を硬化させ、中塗層12上に、第2色層14、隠蔽層15及びクリヤ層16を形成する。
【0059】
本実施形態では、このようにすることにより、中塗り塗着層22を硬化させた中塗層12上に、第1色塗着層23を硬化させた第1色層13と第2色塗着層24を硬化させた第2色層14とを互いに隣接して設けた複層塗膜10を形成することができる。
【0060】
以上のような複層塗膜10の形成方法によれば、中塗り塗着層22上の一部に第1塗料を塗布して第1色塗着層23を形成する際、中塗り塗着層22上の第1色塗着層23の隣接領域に付着した第1色塗料のダスト17を、第1色塗着層23より中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませ、その後に隣接領域に第2色塗料を塗布することで、第2色塗着層24を形成している。
【0061】
そのため、第1色塗着層23の隣接領域に第1色塗料のダスト17が付着していても、ダスト17が中塗り塗着層22上に大きく突出することがない。これにより、中塗り塗着層22上に第2色塗料を塗布して第2色塗着層24を形成しても、第1色塗料のダスト17により第2色塗着層24の厚みが局部的に薄くなることを防止できる。
【0062】
その結果、第2色塗着層24全体の厚みを薄く形成しても、第2色塗着層24を硬化させた第2色層14全体で十分な隠蔽性を確保でき、外部から視認した際、第1色塗料のダスト17が第2色層14を通して視認されることがなく、外観品質の優れた複層塗膜10を容易に形成することができる。
【0063】
また本実施形態の複層塗膜10の形成方法では、中塗り塗着層22と第1色塗着層23とを硬化させた後、第2色塗着層24を形成しているので、第1色塗着層23と第2色塗着層24との混ざりを防止でき、第1色層13と第2色層14との境界を鮮明に形成できる。
【0064】
本実施形態の複層塗膜10の形成方法では、中塗り塗着層22の塗着時固形分濃度及び第1色塗着層23の塗着時固形分濃度をそれぞれ所定範囲に調整している。そのため、第1色塗着層が中塗り塗着層へ沈み込んで第1色塗着層と中塗り塗着層とが混ざることを抑制しつつ、第1色塗料のダストを中塗り塗着層に沈み込ませることができ、また第1色塗着層の表面の平滑性を確保できる。
【0065】
本実施形態の複層塗膜10の形成方法では、第1色塗料の表面張力と中塗り塗料の表面張力とを所定関係に調整している。そのため、第1色塗着層が中塗り塗着層へ沈み込んで第1色塗着層と中塗り塗着層とが混ざることを抑制できる。
【0066】
さらに、本実施形態の複層塗膜10の形成方法では、第1色塗料の硬化開始温度と中塗り塗料の硬化開始温度とを所定の相対関係にしている。そのため、中塗り塗着層22と第1色塗着層23及び第2色塗着層24の硬化時に、中塗り塗着層22が硬化を開始する時点で、第1色塗着層23が流動性を有して中塗り塗着層22より遅れて硬化を開始することから、中塗層12上に安定した第1色層13を形成でき、得られる複層塗膜10の外観を向上できる。
【0067】
なお上記実施形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。
上記実施形態では、第2色層14に隠蔽層15を積層した例について説明したが、特に限定されるものではなく、第2色層14により十分な隠蔽性が得られれば、隠蔽層15を設けることなく複層塗膜10を構成することも可能である。
また上記実施形態では、第2色層14に隠蔽層15及びクリヤ層16が積層された層と第1色層13とからなるツートンカラーの複層塗膜を形成したが、3色以上の領域が設けられた多色カラーの複層塗膜を形成する場合であっても、本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
[実施例1]
電着塗装が施された平坦な試験片に、スプレーノズルにより中塗り塗料を塗布して中塗り塗着層22を形成し、試験片の中塗り塗着層22上における一部の領域に黒色の第1色塗料をスプレーノズルにより塗布し、厚み30μmの第1色塗着層23を形成した。
【0069】
中塗り塗料はポリエステル樹脂メラミン硬化系樹脂の中塗用塗料と有機溶剤40wt%とを均一に混合して使用した。中塗用塗料組成物中には、顔料成分として、酸化チタン40wt%及びカーボンブラック0.05wt%が含有されていた。ここでwt%は有機溶剤を除いた固形分に対する比率である。
有機溶剤は、酢酸エチル10wt%、酢酸ブチル5wt%、メタノール5wt%、ブタノール5wt%、キシレン10wt%、及びソルベント#150(三共化学社製)5wt%と、を混合して使用した。ここでwt%は塗料組成物全体に対する比率である。
【0070】
この中塗り塗料を塗着して形成された中塗り塗着層22について、第1色塗料の塗布時における塗着時固形分濃度を測定したところ、86wt%であった。また塗着粘度を、コーンプレート型粘度計(ブルックフィールド製)で測定したところ、550Pa・sであった。
【0071】
また、この中塗り塗着層22の表面張力は、接触角計DMo-501(協和界面科学製)で測定したところ、28.8dyn/cmであった。
【0072】
さらに、この中塗り塗着層22の硬化開始温度を剛体振子型物性試験器(RPT-3000Wエー・アンド・デイ製)を用いて測定したところ、113℃であった。
【0073】
一方、中塗り塗着層22上に塗布した黒色の第1色塗料としては、アクリル樹脂酸エポキシ硬化系樹脂塗料の塗料組成物と、有機溶剤を均一に混合して使用した。第1色の塗料組成物中には、顔料成分としてカーボンブラック3wt%が含有されていた。
有機溶剤として、酢酸ブチル7wt%、ブタノール13wt%、エチル-3-エトキシプロビオネート7wt%、及びソルベント#100(三共化学社製)18wt%と、を混合して使用した。
【0074】
黒色の第1色塗料を塗布して形成された第1色塗着層23を中塗り塗着層22と同様に測定したところ、塗着時固形分濃度が70wt%であった。また塗着粘度を測定したところ、6.1Pa・sであった。
表面張力は28.6dyn/cmであり、中塗り塗料の表面張力以下であった。
さらに硬化開始温度は117℃であり、中塗り塗料の硬化開始温度以上であった。
【0075】
このようにして中塗り塗着層22上の一部の領域に第1色塗着層23を形成したところ、第1色塗着層23以外の領域に、塗着時に飛散した第1色塗料からなる多数のダスト17が付着した。
塗布終了後、塗着層の断面をマイクロスコープを用いて500倍で拡大観察したところ、これら多数のダスト17は、中塗り塗着層22の内部に沈み込んだことが確認された。このとき第1色塗着層23は中塗り塗着層22上に平坦に保たれていた。
【0076】
その後、中塗り塗着層22上に第1色塗着層23を形成した状態で、試験片を140℃の乾燥炉で30分の間、加熱乾燥して各層を硬化させることで、中塗層12及び第1色層13を形成した。
【0077】
次に、加熱硬化後の試験片を用い、第1色層13にマスキングを施して被覆し、残部の領域に白色の第2色塗料をスプレーノズルにより塗布することで、厚み13μmの第2色塗着層24を中塗り塗着層22上に形成した。この白色の第2色塗料としては、ポリエステル樹脂メラミン硬化系塗料の塗料組成物60wt%と、有機溶剤40wt%を均一に混合して使用した。
【0078】
第2色の塗料組成物中には、顔料成分として酸化チタン50wt%及びカーボンブラック0.03wt%が含有されていた。ここでwt%は、有機溶剤を除いた固形分に対する比率である。
【0079】
その後、試験片を前記と同様の条件で加熱乾燥して、第2色塗着層24を硬化させることで、中塗層12上の第1色層13に隣接する領域に第2色層14を形成した。得られた試験片を目視により確認したところ、第2色層14の領域において第1色塗料の塗布時に中塗り塗着層22に多数付着していた第1色塗料のダスト17は全く視認されなかった。
【0080】
[比較例1]
第1色塗料の塗布時における中塗り塗着層22の塗着粘度を2000Pa・sとして、中塗り塗着層22上に付着した第1色塗料のダストを適切に中塗り塗着層22の内部側に沈み込ませない状態にした他は、全て実施例1と同一にして複層塗膜を形成した。
その結果、比較例1では、第2色層14を実施例1と同じ方法で同じ厚みに形成しているものの、得られた試験片を自然光の下で外表面側から目視すると、第1色塗料のダスト17の形状が視認された。
【符号の説明】
【0081】
10 複層塗膜
11 基部層
12 中塗層
13 第1色層
14 第2色層
15 隠蔽層
16 クリヤ層
17 ダスト
22 中塗り塗着層
23 第1色塗着層
24 第2色塗着層
25 マイカ含有塗料の塗着層
26 クリヤ塗料の塗着層