(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】表示装置及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/04 20060101AFI20240213BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240213BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240213BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
H04R3/04
H04R1/02 102Z
H04R17/00
H04R7/04
(21)【出願番号】P 2019219406
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【氏名又は名称】岡部 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100209808
【氏名又は名称】三宅 高志
(72)【発明者】
【氏名】▲イェ▼ 載憲
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-217026(JP,A)
【文献】特表2003-509984(JP,A)
【文献】国際公開第2018/215669(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/04
H04R 1/02
H04R 17/00
H04R 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電気音響変換素子及び第2電気音響変換素子を含む複数の電気音響変換素子と、
前記複数の電気音響変換素子が接続された表示パネルと、
第1信号と、前記第1信号に基づいて前記第1電気音響変換素子から発せられた音を前記第2電気音響変換素子で受けることにより取得された第2信号とに基づいて算出された補正情報を記憶する記憶部と、
前記複数の電気音響変換素子から音を発する際に、前記第2電気音響変換素子から発せられる音を前記補正情報に基づいて補正する補正部と、
を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記補正情報は、前記第2電気音響変換素子から発せられる音の周波数に対応付けられたデータを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記補正情報は、複数の周波数帯域と、前記複数の周波数帯域に対応付けられた複数のデータにより構成されたルックアップテーブルとして前記記憶部に記憶されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記補正情報は、前記第1信号を入力とし、前記第2信号を出力としたときの伝達関数の逆関数に基づくデータを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
前記複数の電気音響変換素子は、前記表示パネルに行列状に配されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項6】
前記第2電気音響変換素子は、前記第1電気音響変換素子よりも外周に配される、
ことを特徴とする請求項5に記載の表示装置。
【請求項7】
前記第2電気音響変換素子は、前記第1電気音響変換素子を囲うように配される、
ことを特徴とする請求項6に記載の表示装置。
【請求項8】
前記複数の電気音響変換素子から音を発する際に、前記第1電気音響変換素子から発せられる音に対しては前記補正情報に基づく補正は行われない、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項9】
前記第2電気音響変換素子は、外部からの制御に応じて、スピーカとして機能する状態とマイクロフォンとして機能する状態とに切り替え可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項10】
前記複数の電気音響変換素子の各々は、圧電素子である、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項11】
前記第1信号は、可聴範囲内の周波数成分を含む信号である、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項12】
前記第1信号は、可聴範囲内の周波数においてホワイトノイズ又はピンクノイズである、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項13】
前記第1電気音響変換素子から前記第1信号に基づく音を発し、前記第1信号に基づく音を前記第2電気音響変換素子で受けるように、前記第1電気音響変換素子及び前記第2電気音響変換素子を制御する制御部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項14】
前記第1信号と前記第2信号とに基づいて前記補正情報を算出する演算部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項15】
前記表示パネルは、有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode;OLED)を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項16】
前記複数の電気音響変換素子により構成された電気音響変換素子アレイを複数個備える、
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項17】
各々が表示パネルに設けられた第1電気音響変換素子及び第2電気音響変換素子を含む複数の電気音響変換素子を制御する制御部であって、前記第1電気音響変換素子から第1信号に基づく音を発し、前記音を前記第2電気音響変換素子で受けることにより第2信号を取得するように前記複数の電気音響変換素子を制御する制御部と、
前記第1信号と前記第2信号とに基づいて、前記第2電気音響変換素子から発せられる音を補正するための補正情報を算出する演算部と、
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表示パネルと、表示パネルの背面に支持されている音響発生装置とを備える表示装置が開示されている。特許文献1の表示装置は、音響発生装置を駆動して表示パネルを振動させることにより、表示パネルの前面に音を発することができる。また、特許文献1には、音質の向上のため、音響発生装置を囲むようにパーティションが配されている構造も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0131248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような物理的な構造物を設ける手法とは異なる手法による音質の向上が求められている。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、表示パネルから音を発する表示装置において、音質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、第1電気音響変換素子及び第2電気音響変換素子を含む複数の電気音響変換素子と、前記複数の電気音響変換素子が接続された表示パネルと、第1信号と、前記第1信号に基づいて前記第1電気音響変換素子から発せられた音を前記第2電気音響変換素子で受けることにより取得された第2信号とに基づいて算出された補正情報を記憶する記憶部と、前記複数の電気音響変換素子から音を発する際に、前記第2電気音響変換素子から発せられる音を前記補正情報に基づいて補正する補正部と、を備えることを特徴とする表示装置が提供される。
【0007】
本発明の他の一観点によれば、各々が表示パネルに設けられた第1電気音響変換素子及び第2電気音響変換素子を含む複数の電気音響変換素子を制御する制御部であって、前記第1電気音響変換素子から第1信号に基づく音を発し、前記音を前記第2電気音響変換素子で受けることにより第2信号を取得するように前記複数の電気音響変換素子を制御する制御部と、前記第1信号と前記第2信号とに基づいて、前記第2の電気音響変換素子から発せられる音を補正するための補正情報を算出する演算部と、を備えることを特徴とする情報処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表示パネルから音を発する表示装置において、音質を向上させることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る表示装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る圧電素子の配置を示す平面図である。
【
図3】第1実施形態に係る第1制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態に係る第1制御装置の機能ブロック図である。
【
図5】第1実施形態に係る共振補正用のルックアップテーブルの生成処理を示すフローチャートである。
【
図6】臨界帯域と伝達関数の関係の具体例を示す表である。
【
図7】臨界帯域ごとに算出された補正関数の具体例を示す表である。
【
図8】第1実施形態に係る共振補正処理を示すフローチャートである。
【
図9】表示パネルの振動分布の例を示す変位分布図である。
【
図10】共振補正の原理を模式的に示す変位分布図である。
【
図11】第2実施形態に係る圧電素子の配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。各図面を通じて共通する機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略又は簡略化することがある。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る表示装置1の概略構成図である。本実施形態の表示装置1の用途は、例えば、コンピュータの画像出力装置、テレビジョン受像機、スマートフォン、ゲーム機等であり得るが、特に限定されるものではない。
【0012】
図1に示されているように表示装置1は、圧電素子アレイ10、表示パネル20、接続部材30、第1制御装置40、第2制御装置50、データ駆動回路60及びゲート駆動回路70を有する。表示装置1は、入力されたRGBデータ等に基づいて表示パネル20に画像を表示し、入力された音声信号等に基づいて音声を発する装置である。
【0013】
表示パネル20は、複数の行及び複数の列をなすように配された複数の画素Pを含む。表示装置1は、例えば、画素Pの発光素子として有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode;OLED)を用いたOLEDディスプレイであり得る。表示装置1がカラー画像を表示可能である場合には、画素Pは、カラー画像を構成する複数の色(例えばRGB)のいずれかを表示する副画素であり得る。
【0014】
圧電素子アレイ10は、複数の圧電素子11を含む。複数の圧電素子11は、表示パネル20の画像表示面に対向する面(表示パネル20の裏面)に行列状に配されている。
【0015】
圧電素子11は、圧電効果(正圧電効果)及び逆圧電効果により電気と音を相互に変換する電気音響変換素子である。圧電素子11は、例えば、バイモルフ(Bimorph)、ユニモルフ(Unimorph)等の電圧に応じて屈曲変位する素子であり得る。圧電素子11は、入力された音声信号に基づく電圧が印加されると、逆圧電効果により変位する。入力される音声信号は通常は交流電圧であるため、圧電素子11は、入力された音声信号に応じて振動し、電圧が音に変換される。また、外部からの音を受けて圧電素子11が振動すると、圧電効果により圧電素子11の電極の電圧が振動周波数に応じて変化し、音が交流電圧に変換される。このように、圧電素子11はスピーカ及びマイクロフォンとして機能する。スピーカとして機能する状態とマイクロフォンとして機能する状態とは、第1制御装置40からの制御に応じて切り替え可能である。
【0016】
接続部材30は、複数の圧電素子11の各々と表示パネル20とを接続する部材である。接続部材30は、弾性を有する材料により構成されている。接続部材30の材料には、典型的には、圧電素子11及び表示パネル20よりも小さい弾性率を有する、ゴム等の材料が用いられる。圧電素子11の一部と、表示パネル20の一部とは、接続部材30により接続されている。これにより、圧電素子11の振動が表示パネル20に伝達され、表示パネル20は、入力された音声信号に基づく音を発する。
【0017】
ホストシステム2は、画像信号(例えばRGBデータ)、音声信号及びタイミング信号(垂直同期信号、水平同期信号、データイネーブル信号等)を供給することにより表示装置1を制御する装置又は複数の装置を含むシステムである。ホストシステム2は、例えば、テレビシステム、セットトップボックス、ナビゲーションシステム、光ディスクプレーヤー、コンピュータ、ホームシアターシステム、ビデオ電話システム等であり得る。なお、表示装置1とホストシステム2は一体の装置であってもよく、別の装置であってもよい。
【0018】
第1制御装置40は、ホストシステム2から入力された音声信号及びタイミング信号に基づいて、複数の圧電素子11の各々に電圧を供給する。また、第1制御装置40は、圧電素子11に基準信号に基づく電圧を供給する処理及び圧電素子11の電極の電圧を計測して圧電素子11が受けている音に基づく信号を取得する処理を行う。
【0019】
第2制御装置50は、ホストシステム2から入力された画像データ及びタイミング信号に基づいてデータ駆動回路60及びゲート駆動回路70を制御する。データ駆動回路60は、複数の画素Pの列ごとに配された駆動線61を介して複数の画素Pにデータ電圧等を供給する。ゲート駆動回路70は、複数の画素Pの行ごとに配された駆動線71を介して複数の画素Pに制御信号を供給する。なお、駆動線61及び駆動線71の各々は、複数の配線により構成されていてもよい。
【0020】
第1制御装置40、第2制御装置50、データ駆動回路60及びゲート駆動回路70の各々は、1又は複数の半導体集積回路によって構成され得る。また、第1制御装置40、第2制御装置50、データ駆動回路60及びゲート駆動回路70のうちの一部又は全部は、1つの半導体集積回路として一体に構成されていてもよい。
【0021】
図2は、第1実施形態に係る圧電素子11の配置を示す平面図である。
図2は、表示パネル20を裏面側から見た平面図である。
図2における表示パネル20の矩形の外枠は、表示パネル20の外形を模式的に示している。圧電素子アレイ10は表示パネル20の中心付近に接続されている。
図2においては、圧電素子アレイ10の中に6行×6列の36個の圧電素子11が図示されているが、これは例示であり圧電素子11の個数は適宜調整され得る。
【0022】
圧電素子アレイ10は、中心付近の4行×4列に配された16個の圧電素子11(第1電気音響変換素子)が含まれる領域R1と、領域R1の外周に1行ずつ配された20個の圧電素子11(第2電気音響変換素子)が含まれる領域R2とに区分される。領域R1内の圧電素子11と領域R2内の圧電素子11の用途の違いについては後述する。
【0023】
図3は、第1実施形態に係る第1制御装置40のハードウェア構成を示すブロック図である。第1制御装置40は、プロセッサ401、メモリ402、インターフェース403及び圧電素子駆動回路404を有する。第1制御装置40は圧電素子アレイ10の制御のために必要な情報処理を行う情報処理装置として機能する。第1制御装置40内の各部は、不図示のバス、配線、駆動装置等を介して相互に接続される。
【0024】
メモリ402は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等を含む記憶媒体である。メモリ402は、プロセッサ401での情報処理を実現するためのプログラム及びデータの記憶、外部から入力されたデータの記憶等を行う。プロセッサ401は、メモリ402に記憶されているプログラムに基づいて情報処理及び制御を行う集積回路である。インターフェース403は、第1制御装置40と外部の装置との間の信号の入出力を行う回路であり、増幅回路、アナログデジタル変換回路、デジタルアナログ変換回路等を含み得る。
【0025】
圧電素子駆動回路404は、入力された音声信号に基づいて複数の圧電素子11の各々を駆動するための電圧を供給する回路を含む。また、圧電素子駆動回路404は、複数の圧電素子11の振動によって生じた電圧から音声信号を取得する機能を有する回路を含む。この2つの回路はスイッチ等により切り替え可能である。
【0026】
図3では、第1制御装置40を構成する各部が一体の装置として図示されているが、これらの機能の一部は外付け装置により提供されるものであってもよい。例えば、圧電素子駆動回路404は、プロセッサ401等を含むコンピュータの機能を構成する部分とは別の外付け装置であってもよい。
【0027】
図4は、第1実施形態に係る第1制御装置40の機能ブロック図である。第1制御装置40は、制御部411、演算部412、補正部413、記憶部414及び駆動部415を有する。プロセッサ401は、メモリ402に記憶されているプログラムに基づいて所定の処理を行うことにより、制御部411、演算部412及び補正部413の機能を実現する。プロセッサ401は、メモリ402を制御してデータの記憶及び読み出しを行うことにより、記憶部414の機能を実現する。プロセッサ401は、複数の圧電素子11に対する電圧の入出力を行わせるようにインターフェース403及び圧電素子駆動回路404を制御することにより、駆動部415の機能を実現する。各機能ブロックにより行われる具体的な処理の内容については後述する。
【0028】
圧電素子アレイ10の振動が表示パネル20に伝達され、表示パネル20が振動する際に、共振現象により表示パネル20の面内の振動が不均一になり、音質が劣化する場合がある。本実施形態において、第1制御装置40は、共振現象による音質の劣化を補正する機能を有する。
【0029】
図5は、第1実施形態に係る共振補正用のルックアップテーブルの生成処理を示すフローチャートである。
図5の処理は、ユーザが表示装置1を用いてコンテンツの視聴を行う前にあらかじめ行われる。典型的には、
図5の処理は、表示装置1の出荷前、表示装置1の設定変更等の際のキャリブレーション時に行われる。
【0030】
ステップS11において、制御部411は、領域R1内の圧電素子11に検査信号に基づく電圧を印加する。これにより、領域R1内の圧電素子11は、検査音を発する。この検査音の生成に用いられる検査信号の特性(信号波形、強度、周波数スペクトラム等)はあらかじめ準備されており、記憶部414に記憶されている。
【0031】
表示パネル20は可聴範囲内の音を発する。そのため、可聴範囲内の伝達特性を算出できるように、検査音は可聴範囲内の周波数成分を含むことが望ましい。また、検査音は、可聴範囲内の周波数(例えば20Hzから20kHz)においてホワイトノイズであることが望ましい。この場合、検査音は、表示装置1が発する可聴範囲の周波数成分を均等に含む。そのため、ホワイトノイズの検査音は後述の伝達関数の周波数依存性を高精度に算出する上で好適である。
【0032】
また、検査音は、可聴範囲内の周波数においてピンクノイズ(1/fノイズ)であってもよい。この場合、検査音のオクターブごとのエネルギーが均等である。そのため、ピンクノイズの検査音は、聴覚特性等を考慮して対数間隔等の不均等な間隔で伝達関数を算出する場合に好適である。
【0033】
ステップS12において、制御部411は、領域R2内の圧電素子11から電圧を取得することにより、領域R2内の圧電素子11が受けた検査音に基づく信号を取得する。以下では、領域R1内の圧電素子11から発せられる検査音の生成に用いられる検査信号を第1信号と呼び、領域R2内の圧電素子11が受けた検査音に基づく信号を第2信号と呼ぶことがある。第2信号は、領域R1から領域R2に検査音が伝達する際の伝達特性に起因する波形の変化により、第1信号とは異なったものとなる。第2信号は、記憶部414に記憶される。
【0034】
ステップS13において、演算部412は、あらかじめ準備されている第1信号と、ステップS12において取得された第2信号とに基づいて伝達関数を算出する。ステップS14において、演算部412は、臨界帯域ごとに伝達関数の逆関数を補正関数として算出する。ステップS15において、記憶部414は、臨界帯域ごとに得られた補正関数をルックアップテーブルとして記憶する。
【0035】
ステップS13からステップS15の処理について、
図6及び
図7を参照しつつより詳細に説明する。
図6は、臨界帯域と伝達関数の関係の具体例を示す表である。
図7は、臨界帯域ごとに算出された補正関数の具体例を示す表である。
【0036】
人間の内耳は、周波数帯域ごとに振動を感知する場所が異なる構造を有している。そのため、人間の聴覚は周波数帯域ごとにまとめて音を知覚する性質を有しているとされている。例えば、近い周波数の2つの音が耳に到来すると、一方の音が知覚されにくくなるマスキング現象等の現象が生じることが知られている。まとめて知覚される周波数帯域は、聴覚の臨界帯域と呼ばれている。
【0037】
人間の聴覚特性を考慮すると、臨界帯域内の2つの音の分解能は低いため、臨界帯域よりも細かい周波数帯域で補正を行っても精度向上にはあまり寄与しない。したがって、本実施形態の補正処理は臨界帯域ごとに行うことが効率的である。
【0038】
図6に示されているように、本実施形態では、補正関数の算出処理のために、臨界帯域(1~N)ごとに伝達関数を分離して定義する(G
1~G
N)。
図6の伝達関数の引数として括弧内に記されている周波数(100Hz、200Hz、300Hz、…)は、対応する臨界帯域の中心周波数を示している。この臨界帯域の区分に用いた尺度は、バーク尺度(Bark scale)と呼ばれているものである。しかしながら、メル尺度(mel scale)、ERB尺度(Equivalent Rectangular Bandwidth scale)等の、
図6に示したもの以外の尺度を用いてもよい。
【0039】
図7に示されているように、補正関数(F
1~F
N)は、臨界帯域(1~N)のそれぞれに対応付けられた別々のデータとして算出される。すなわち、同じ臨界帯域内では同じ補正関数が用いられる。これにより、補正用に準備すべきデータ容量が削減される。また、補正用のデータを少なくすると補正精度が劣化する場合があるが、本実施形態では聴覚特性に基づく臨界帯域を考慮して同じ補正関数を用いる周波数区間を決定しているため、補正精度の劣化が軽減されている。また、補正関数はあらかじめルックアップテーブルとして記憶部414に記憶されているため、補正時に逆関数を計算する必要がなく、補正の際の計算量が削減され、処理が高速化する。
【0040】
図8は第1実施形態に係る共振補正処理を示すフローチャートである。
図8の処理は、表示装置1に音声信号が入力され、表示装置1から音が発せられる際、すなわちユーザが表示装置1を用いてコンテンツを視聴する際に行われる。
【0041】
ステップS21において、補正部413は、ステップS15において記憶部414に記憶されたルックアップテーブルを読み出す。
【0042】
ステップS22において、補正部413は、入力された音声信号をルックアップテーブルの臨界帯域と同じ周波数範囲の複数の音声信号に分解する。この処理は、例えば、音声信号に1つの臨界帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタを作用させる等のデジタル信号処理により実現され得る。
【0043】
ステップS23において、補正部413は、臨界帯域ごとに分解された音声信号に対して、対応する臨界帯域の補正関数を作用させて各臨界帯域の補正後信号を生成する。ステップS24において、補正部413は、各臨界帯域の補正後信号を結合して、全帯域の補正後信号を生成する。
【0044】
ステップS25において、駆動部415は、圧電素子アレイ10内の圧電素子11に電圧を印加して音を発するように制御する。ここで、駆動部415は、領域R1内の圧電素子11には、元の音声信号に基づく電圧を印加し、領域R2内の圧電素子11には、補正後信号に基づく電圧を印加する。これにより、領域R1内の圧電素子11は、元の音声信号に基づく音を発し、領域R2内の圧電素子11は、補正後信号に基づく音を発する。これにより、表示パネル20は、元の音声信号に基づく音と補正後信号に基づく音とが混合された音を発する。
【0045】
上述のような補正を行うことにより得られる効果について、
図9及び
図10を参照して説明する。
図9は、表示パネル20の振動分布の例を示す変位分布図である。
図9は、圧電素子アレイ10内の圧電素子11からある周波数の音を発したときに生じる表示パネル20の変位の2次元分布を灰色の濃淡及び格子線の変形により示している。
図9のような振動分布は、例えば、有限要素法等のシミュレーション、あるいはスキャニングレーザ振動計等の振動分布計により取得することができる。
【0046】
図9に示されているように、表示パネル20の表面の振動は一様ではなく、多数のピーク(Peak)及びディップ(Dip)が局所的に生じている。これは、圧電素子アレイ10で発せられた音と表示パネル20の端部等で反射した音とが干渉することにより、表示パネル20の表面の特定の位置で共振が生じるためと考えられる。このような振動分布の不均一は、音質劣化の要因となり得る。
【0047】
図10(a)、
図10(b)及び
図10(c)は、共振補正の原理を模式的に示す変位分布図である。
図10(a)、
図10(b)及び
図10(c)の縦軸は変位であり、横軸は、表示パネル20の面のある一方向(例えば横方向)における位置である。図中のR1、R2は、領域R1、R2に相当する位置を示している。
【0048】
図10(a)は、領域R1内の圧電素子11から元の音声信号に基づく音を発したときの変位分布の例である。
図9の説明でも述べたように、音を発している圧電素子11が設けられている領域R1内だけでなく、圧電素子11が設けられている領域R1の外側にも波打った変位が生じており、共振を示すピーク及びディップが存在している。
【0049】
図10(b)は、領域R2内の圧電素子11から補正後信号に基づく音を発したときの変位分布の例である。振動源である領域R2を中心にして振動が広がっていることがわかる。
【0050】
図10(c)は、領域R1内の圧電素子11から元の音声信号に基づく音を発し、領域R2内の圧電素子11から補正後信号に基づく音を発したときの変位分布の例である。言い換えると、
図10(a)と
図10(b)を重ね合わせた変位分布である。領域R1の外側で共振を示すピーク及びディップがキャンセルされていることがわかる。
【0051】
補正用信号は、領域R1から領域R2に音が伝達する際の伝達関数の逆関数から算出されている。そのため、領域R2からこの補正用信号に基づく音を発すると、領域R2において領域R1から領域R2に伝達した音の成分がキャンセルされる。これにより、上述の
図10(c)のような共振のキャンセルが生じる。
【0052】
以上のように、本実施形態では、領域R1内の圧電素子11から発せられた検査音を領域R2内の圧電素子11で受けることにより取得し、これを用いて補正情報を生成する。そして、圧電素子アレイ10から音を発する際には、領域R2内の圧電素子11から発せられる音を補正情報に基づいて補正する。これにより、表示パネル20での共振の影響の少なくとも一部を補正することができ、音質を向上させることができる。
【0053】
図2に示されているように、領域R2は、領域R1よりも外周に配されていることが望ましい。領域R1から音が外側に広がる際に領域R2で発せられた音が重畳され、共振補正の効果が向上されるためである。また、この効果を更に強化するため、
図2に示されているように、領域R2は、領域R1を囲うように配されていることがより望ましい。
【0054】
[第2実施形態]
本実施形態では、第1実施形態に係る圧電素子11の配置の変形例を説明する。表示装置1の基本構成、圧電素子11の構造、共振補正のアルゴリズム等は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0055】
図11は、第1実施形態に係る圧電素子11の配置を示す平面図である。本実施形態では、表示パネル20に2つの圧電素子アレイ10が設けられている。2つの圧電素子アレイ10の各々の構造は第1実施形態と同様である。2つの圧電素子アレイ10は、表示パネル20の長辺方向に並んで配されている。2つの圧電素子アレイ10には、ステレオフォニック音源の2チャンネルの音声信号がそれぞれ入力される。これにより、表示装置1は、ステレオフォニック音源の再生が可能なステレオスピーカとして機能する。
【0056】
なお、表示パネル20に設けられる圧電素子アレイ10の個数は3個以上であってもよい。3個以上の圧電素子アレイ10を設けることにより、3チャンネル以上の音源、すなわち、いわゆるサラウンド音源の再生が可能となる。
【0057】
本実施形態においても第1実施形態と同様に音質を向上させることができるとともに、圧電素子アレイ10(電気音響変換素子アレイ)を複数個備えることにより、複数チャンネルの音源に対応可能となる。
【0058】
[その他の実施形態]
上述の実施形態は、本発明を適用しうるいくつかの態様を例示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲は、上述の実施形態によって限定的に解釈されてならない。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜修正や変形を行って様々な態様で実施可能である。例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を、他の実施形態に追加した実施形態、あるいは他の実施形態の一部の構成と置換した実施形態も本発明を適用し得る実施形態であると理解されるべきである。
【0059】
上述の実施形態において、表示装置1等の装置構成は一例であり、図示したものに限定されるものではない。例えば、表示装置1は、OLEDディスプレイではなく、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ等であってもよい。しかしながら、表示装置1は、圧電素子11からの振動を効率よく表示パネル20に伝達できるものであることが望ましいため、空洞の少ないOLEDディスプレイであることが特に望ましい。
【0060】
また、上述の実施形態においては電気音響変換素子の例として圧電素子11が例示されているがこれに限定されるものではない。例えば、圧電素子11は、マグネットとコイルを用いたマグネット型の電気音響変換素子に置き換えられてもよい。しかしながら、本実施形態のように表示パネル20に電気音響変換素子が設けられる構成においては、低背化と高音圧化の両立が要求される場合が多いため、これらを両立可能な圧電素子11を用いる構成が特に望ましい。
【0061】
上述の実施形態で述べた機能を実現するように上述の実施形態の装置を動作させるプログラムを記憶媒体に記録させておき、記憶媒体に記録されたプログラムをコードとして読み出し、コンピュータにおいて実行する処理方法も各実施形態の範疇に含まれる。すなわち、非一時的なコンピュータ読取可能な記憶媒体も各実施形態の範疇に含まれる。また、上述のプログラムが記録された記憶媒体だけでなく、そのプログラム自体も各実施形態の範疇に含まれる。また、上述の実施形態に含まれる1又は2以上の構成要素は、各構成要素の機能を実現するように構成されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の回路であってもよい。
【0062】
また、記憶媒体に記録されたプログラム単体で処理を実行しているものに限らず、他のソフトウェア、拡張ボードの機能と共同して、OS(Operating System)上で動作して処理を実行するものも各実施形態の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1 表示装置
11 圧電素子
20 表示パネル
40 第1制御装置
411 制御部
412 演算部
413 補正部
414 記憶部
415 駆動部