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特許7433889脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240213BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240213BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08K5/14
C08L101/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019233332
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021102669
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】砂川 武宣
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103980685(CN,A)
【文献】国際公開第2010/013483(WO,A1)
【文献】特開2008-239645(JP,A)
【文献】特開2004-067894(JP,A)
【文献】特開2014-144553(JP,A)
【文献】特表2016-519189(JP,A)
【文献】特開平11-080524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08K 5/14
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(但し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)を除く。)と、
(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、
(C)過酸化物と、を溶融混錬してなる、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物であって、
前記(A)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)であり、
前記(A)における共重合成分の組成比((3-ヒドロキシブチレート)/(3-ヒドロキシヘキサノエート))が、99/1~80/20(mol/mol)であり、
前記(C)が、1分半減期温度が145~165℃の有機過酸化物である、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物
【請求項2】
(A)ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(但し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)を除く。)と、
(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、
(C)過酸化物と、を溶融混錬してなる、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物であって、
前記(A)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)であり、
前記(A)における共重合成分の組成比((3-ヒドロキシブチレート)/(3-ヒドロキシヘキサノエート))が、99/1~80/20(mol/mol)であり、
バイオマスプラスチック度が70%以上である、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物
【請求項3】
バイオマスプラスチック度が70%以上である、請求項1に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物
【請求項4】
前記(B)の含有量が、前記(A)100重量部に対して0.1~90重量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)の含有量が、前記(A)100重量部に対して0.001~10重量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート、およびポリカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項7】
結晶核剤および/または滑剤をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項9】
(A)ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(但し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)を除く。)と、
(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、
(C)過酸化物と、を溶融混錬する工程を含む、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法であって、
前記(A)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)であり、
前記(A)における共重合成分の組成比((3-ヒドロキシブチレート)/(3-ヒドロキシヘキサノエート))が、99/1~80/20(mol/mol)であり、
前記(C)が、1分半減期温度が145~165℃の有機過酸化物である、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法
【請求項10】
(A)ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(但し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)を除く。)と、
(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、
(C)過酸化物と、を溶融混錬する工程を含む、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法であって、
前記(A)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)であり、
前記(A)における共重合成分の組成比((3-ヒドロキシブチレート)/(3-ヒドロキシヘキサノエート))が、99/1~80/20(mol/mol)であり、
バイオマスプラスチック度が70%以上である、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(以下、「P3HA」または「P3HA系樹脂」と称する場合がある。)を含む脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックによる環境問題がクローズアップされている。中でも、廃棄プラスチックによる海洋汚染は深刻であり、自然環境下で分解する生分解性プラスチックの普及が期待されている。
【0003】
そのような生分解性プラスチックとしては、種々のものが知られているが、中でもP3HAは、多くの微生物種の細胞内にエネルギー貯蔵物質として生産、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、土中だけでなく、海水中でも生分解が進行しうる材料であるため、上記の問題を解決する素材として注目されている。しかし、P3HAは、耐衝撃強度に乏しい等の問題を有している。
【0004】
そのような問題を解決するための技術として、例えば、特許文献1には、P3HA系樹脂にグラフト重合体を含有する樹脂組成物等が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、P3HA系樹脂にポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロクラクトン等の、P3HA系樹脂以外の生分解性の樹脂を含有する樹脂組成物等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6291472号公報
【文献】国際公開第2010/013483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1および2の技術では、耐衝撃性の点で改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、生分解性を有し、かつ、耐衝撃性に優れた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその成形体、ならびに上記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、P3HAを含む脂肪族ポリエステル系樹脂組成物において、特定の生分解性の樹脂と、特定の過酸化物とを溶融混錬して含ませることにより、生分解性および耐衝撃性に優れた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物が得られることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明の一態様は、(A)P3HA(但し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(以下、「P3HB」と称する場合がある。)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(以下、「P3HB3HV」と称する場合がある。)を除く。)と、(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、(C)過酸化物と、を溶融混錬してなる、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、生分解性を有し、かつ、耐衝撃性に優れた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその成形体、ならびに上記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0013】
〔1.本発明の概要〕
本発明の一実施形態に係る脂肪族ポリエステル系樹脂組成物(以下、「本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物」と称する。)は、(A)P3HA(但し、P3HBおよびP3HB3HVを除く。)と、(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、(C)過酸化物と、を溶融混錬してなることを特徴とする。
【0014】
P3HAは、(1)耐衝撃強度に乏しいこと、(2)結晶化が極めて遅いため、成形加工に際して加工性や生産性が低くなること、(3)成形加工後に経時的に脆くなる傾向があること、等の問題が知られている。
【0015】
また、P3HAに柔軟性を付与するために、従来より、可塑剤を添加することが行われているが、場合によっては可塑剤を大量に添加する必要があり、可塑剤がブリードアウトする等の問題もある。
【0016】
このような問題に対して、特許文献1では、耐衝撃強度と成形加工性の低さの改善を目的として、P3HA系樹脂にグラフト重合体を含有する樹脂組成物等が開示されている。
【0017】
また、特許文献2では、樹脂組成物のバイオマス度を高めながら、優れた柔軟性や成形加工性を改善することを目的として、P3HA系樹脂にポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロクラクトン等の、P3HA系樹脂以外の生分解性の樹脂を含有する樹脂組成物等が開示されている。
【0018】
しかし、これらの技術では、P3HAを含む樹脂組成物に十分な耐衝撃強度を付与できない。
【0019】
このような状況下、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、P3HAを含む脂肪族ポリエステル系樹脂組成物において、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、過酸化物とを溶融混錬して含ませることにより、耐衝撃性に優れた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物が得られることを初めて見出した。また、本発明者らは、上記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物に、さらに結晶核剤および/または滑剤を溶融混錬して含ませることにより、成形加工性や表面平滑性を改善できることを初めて見出した。
【0020】
上記のような特性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその成形体の開示は初めてであり、本発明は、種々の分野での利用において極めて有用である。
【0021】
〔2.脂肪族ポリエステル系樹脂組成物〕
<P3HA>
本明細書において、「P3HA」とは、以下の式(1):
[-O-CHR-CH-CO-] (1)
(式中、Rは、C2n+1で表されるアルキル基であり、nは、1~15の整数である。)で示される1種以上の単位からなる共重合体の総称を意味する。但し、本明細書において、「P3HA」と記載した場合には、P3HBおよびP3HB3HVを含まない。
【0022】
P3HAは、上記の式(1)に含まれるものであれば特に限定されない。
【0023】
本発明の一実施形態において、P3HAは、3-ヒドロキシブチレートのみを繰り返し単位とするポリ(3-ヒドロキシブチレート)であってもよいし、3-ヒドロキシブチレートと他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体であってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、P3HAは、単独重合体と1種または2種以上の共重合体との混合物であってもよいし、2種以上の共重合体の混合物であってもよい。共重合の形式は特に限定されず、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等であり得る。
【0025】
本発明の一実施形態において、P3HAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)(P3HB3HP)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。融点を低く調節でき、加工幅を広くできる観点から、好ましくは、P3HB3HH、P3HB4HB、P3HB3HPである。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB3HH、P3HB4HBが特に好ましい。なお、P3HBおよびP3HB3HVは、P3HB3HH等に比して融点が高く加工が困難になるため、本明細書における「P3HA」から除いている。
【0026】
P3HAは、好ましくは、微生物により産生される。P3HAを生産する微生物としては、P3HAの生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、P3HB3HH生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等の天然微生物が挙げられる。これらの微生物ではP3HB3HHが菌体内に蓄積されることが知られている。
【0027】
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体の生産菌としては、P3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HB3HH合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいP3HAに合わせて、各種P3HA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0028】
また、P3HB3HHは、例えば、国際公開第2010/013483号公報に記載された方法によっても製造され得る。P3HB3HHの市販品としては、例えば、株式会社カネカ「カネカ生分解性ポリマーPHBH(登録商標)」等が挙げられる。
【0029】
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの共重合成分の組成比は、(3-ヒドロキシブチレート)/(3-ヒドロキシヘキサノエート)=99/1~80/20(mol/mol)であることが好ましく、97/3~75/15(mol/mol)であることがより好ましい。PHBHにおける共重合成分の組成比が上記範囲内であれば、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の物性面において優れた効果を有する。
【0030】
本発明の一実施形態において、P3HAの重量平均分子量(以下、Mwと称する場合がある)は特に限定されないが、成形加工性の観点から、重量平均分子量が5万~300万であることが好ましく、10万~250万であることがより好ましく、15万~200万であることがさらに好ましい。P3HAの重量平均分子量が5万未満では、強度等の機械的特性が不十分である場合があり、300万を超えると、成形加工性が劣る場合がある。
【0031】
P3HAの重量平均分子量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、クロロホルムを移動相として、システムとしてウオーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex K-804(ポリスチレンゲル)を用いることにより、ポリスチレン換算での重量平均分子量として求めることができる。
【0032】
<P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂>
【0033】
本明細書において、「P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂」と記載した場合には、「P3HA(但し、P3HBおよびP3HB3HVを除く。)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂」を意味するものとする。
本発明の一実施形態において、P3HA以外の生分解性の樹脂は、ガラス転移温度が-10℃以下であるP3HA以外の生分解性の樹脂であれば特に限定されない。本発明の一実施形態において、上記ガラス転移温度は、-10℃以下であり、好ましくは、-15℃以下であり、より好ましくは、-20℃以下である。ガラス転移温度が-10℃以下であるP3HA以外の生分解性の樹脂を用いることにより、本発明の効果を奏することができる。ガラス転移温度の下限は、特に限定されないが、例えば、-100℃以上であり得る。
【0034】
P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂としては、例えば、ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、「PBAT」と称する場合がある。)、ポリブチレンサクシネートアジペート(以下、「PBSA」と称する場合がある。)、ポリブチレンサクシネート(以下、「PBS」と称する場合がある。)、ポリブチレンセバケートテレフタレート(以下、「PBST」と称する場合がある。)、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(以下、「PBSAT」と称する場合がある。)、ポリカプロクラクトン(以下、「PCL」と称する場合がある。)等が挙げられる。
【0035】
本明細書において、「PBAT」とは、1,4-ブタンジオールと、アジピン酸と、テレフタル酸とのランダム共重合体を意味する。中でも、特表平10-508640号公報等に記載されているような、(a)主としてアジピン酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物35~95モル%、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物5~65モル%(個々のモル%の合計は100モル%である。)からなる混合物と、(b)1,4-ブタンジオールを含む混合物との反応(ただし上記(a)と上記(b)とのモル比が、0.4:1~1.5:1)により得られるPBATが好ましい。本発明の一実施形態において、上記1,4-ブタンジオールの代わりに、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ-ル、デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ-ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のグリコール化合物を用いてもよい。また、本発明の一実施形態において、上記アジピン酸の代わりに、シュウ酸、コハク酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等のジカルボン酸を用いてもよい。PBATの市販品としては、例えば、BASF社製「Ecoflex C1200」等が挙げられる。
【0036】
本明細書において、「PBST」とは、上記PBATの「アジピン酸またはそのエステル形成性誘導体」の部分が、「セバシン酸またはそのエステル形成性誘導体」に置換されたものを意味する。PBSTの市販品としては、例えば、BASF社製「Ecoflex FS blend B1100」(登録商標)等が挙げられる。
【0037】
本明細書において、「PBS」とは、1,4-ブタンジオールを主成分とする脂肪族ジオール成分と、コハク酸および/またはその誘導体等のコハク酸成分を主成分とする脂肪族ジカルボン酸成分とのエステル化反応および/またはエステル交換反応、ならびに縮重合反応により合成される脂肪族ポリエステル共重合体を意味する。市販品としては、例えば、三菱ケミカル社製「BioPBS FZ71」、「BioPBS FZ91」等が挙げられ、これらを1種、または2種以上を併用して使用することができる。
【0038】
本明細書において、「PBSA」とは、1,4-ブタンジオールを主成分とする脂肪族ジオール成分と、コハク酸および/またはその誘導体等のコハク酸成分を主成分とする脂肪族ジカルボン酸成分と、アジピン酸とのエステル化反応、ならびに縮重合反応により合成される脂肪族ポリエステル共重合体を意味する。市販品としては、例えば、三菱ケミカル社製「BioPBS FD72」、「BioPBS FD92」等が挙げられ、これらを1種、または2種以上を併用して使用することができる。
【0039】
本明細書において、「PBSAT」とは、脂肪族ジカルボン酸残基のうち、コハク酸:アジピン酸:フタル酸の残基を、好ましくは、70~90:5~15:5~15モル%の割合で含む共重合体を意味する。したがって、PBSATを製造するためには、上記割合のジカルボン酸と、脂肪族グリコールである1,4-ブタンジオールとを1:1.2~2.0のモル比で用いてエステル化反応させた後、縮重合反応させる。反応に用いられる反応基および反応条件は、PBS等の既存の生分解性の樹脂で使用されるものを適宜採用することができる。
【0040】
本明細書において、「PCL」とは、以下の式(2):
[-(CH-CO-O-] (2)
で表されるモノマー単位を有するポリマーを意味する。PCLは、通常、カチオンまたはアニオン開始剤、例えば、アルコール等の活性水素化合物を開始剤としたε-カプロラクトンの開環重合によって得られる。ただし、これに限定されることなく、他の製造方法により得られたPCLを用いることもできる。また、PCLの重合を促進するために、有機金属触媒を使用することもできる。さらに、PCLの末端封止の構造等は特に限定されない。本発明の一実施形態において使用されるPCLは、通常、50~65℃の融点、10~30℃の結晶化温度、および-50~-60℃のガラス転移点を有する。
【0041】
PCLの重量平均分子量は、3~50万のものが好ましく、10~40万がより好ましい。PCLの重量平均分子量が3万未満であると、本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、脆くなる場合がある。PCLの重量平均分子量が50万を超えると、本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の加工が難しくなる場合がある。
【0042】
PCLの市販品としては、例えば、Ingevity社製「Capa6506」(粉末状、Mw=13万)、「Capa6500」(ペレット状、Mw=13万)、「Capa6806」(粉末状、Mw=23万)、「Capa6800」(ペレット状、Mw=23万)、および「FB100」(ペレット状、Mw=30万、PCL架橋物含有)等が挙げられ、これらを1種、または2種以上を併用して使用できる。
【0043】
本発明の一実施形態において、上記P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂は、1種のみを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明の一実施形態において、上記P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂は、PBAT、PBSA、PBS、PBST、PBSAT、およびPCLからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0045】
本発明の一実施形態において、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂の含有量は、バイオマスプラスチック度および物性のバランスの観点から、上記P3HA100重量部に対して0.1~90重量部が好ましく、1~70重量部がより好ましく、2~40重量部がさらに好ましく、3~35重量部が特に好ましい。
【0046】
<過酸化物>
本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、P3HA、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂に加えて、過酸化物を溶融混錬してなる組成物である。本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物における過酸化物は、有機過酸化物であっても、無機過酸化物であってもよい。中でも、溶融混錬する温度に適した1分半減期温度を有する物を使用できる観点から、過酸化物は、有機過酸化物であることが好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態において、有機酸化物は、公知のものであれば特に限定されないが、溶融温度や混練時間等を考慮してP3HAからの水素引抜能力が高く、かつ、分子中にP3HAを着色させる芳香環を有しない構造のものが好ましく、さらに1分半減期温度が180℃以下であるものがより好ましい。
【0048】
本明細書において、「1分半減期温度」とは、有機過酸化物が熱分解により1分間で半減するときの温度を意味する。1分半減期温度は、有機過酸化物の分解が促進され、有機過酸化物が均一に分散した後で架橋反応が起こることが適している点から、145~165℃であるものがより好ましい。使用する有機過酸化物の1分半減期温度が180℃より高いと、P3HAと反応させるために180℃より高温で押出す必要があるが、P3HAが熱分解し分子量低下を起こすため、押出は不安定となり、得られる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその成形体も不均一となる傾向がある。
【0049】
有機過酸化物としては、例えば、溶融温度や混練時間等を考慮して、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、パーオキシケタールおよびパーオキシカーボネート等が好ましく使用される。具体的には、ブチルパーオキシネオドデカノエート、オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、サクシニックパーオキサイド、トルオイルパーオキサイドとベンゾイルパーオキサイドとの混合物、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチルパーオキシラウレート、ジメチルジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)メチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ブチルパーオキシベンゾエート、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシメチルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシメチルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシメチルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシメチルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシメチルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシメチルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシエチルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシエチルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシエチルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシエチルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシエチルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシエチルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシn-プロピルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシn-プロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシn-プロピルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシn-プロピルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシn-プロピルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシn-プロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシn-ブチルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシn-ブチルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシn-ブチルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシn-ブチルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシn-ブチルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシn-ブチルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシイソブチルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシイソブチルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソブチルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシイソブチルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシイソブチルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソブチルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシsec-ブチルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシsec-ブチルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシsec-ブチルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシsec-ブチルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシsec-ブチルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシsec-ブチルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシt-ブチルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシt-ブチルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシt-ブチルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシt-ブチルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシt-ブチルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシt-ブチルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘプチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-オクチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パ-オキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシ,3,5,5-トリメチルヘキサノエート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシ)プロパン、2,2-ジ-t-ブチルパーオキシブタン等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ペンチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、およびt-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネートが、良好な水素引抜能力を持ち、1分半減期温度が145~165℃である点で、より好ましい。
【0051】
これらの有機過酸化物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
無機過酸化物としては、例えば、過酸化水素、過酸化カリウム、過酸化カルシウム、過酸化ナトリウム、過酸化マグネシウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、および過硫酸アンモニウムが、取り扱い易いことや溶融混錬の温度に適した分解温度を有する点で、より好ましい。
【0054】
これらの無機過酸化物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記有機過酸化物および上記無機過酸化物を組み合わせて用いることも可能である。
【0055】
本発明の一実施形態において、過酸化物の含有量は、P3HA100重量部に対して0.001~10重量部が好ましく、0.01~3重量部がより好ましく、0.1~1重量部がさらに好ましい。過酸化物の含有量が上記範囲にある場合、過度の縮重合反応を抑制して、効率よく分岐および架橋反応を進行させ、その結果、ゲル等の不純物がほとんど生じない長鎖分岐/架橋/高分子量化された脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。
【0056】
<結晶核剤・滑剤>
本発明の一実施形態において、本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、結晶核剤および/または滑剤をさらに含有していてもよい。本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物が結晶核剤を含有することにより、成形加工性、生産性等が向上する効果がある。また、本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物が滑剤を含有することにより、成形体の表面平滑性が向上する効果がある。
【0057】
結晶核剤としては、上記効果を奏するものであれば特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトール、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩等の無機物;エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、アラビトール等の天然物由来の糖アルコール化合物;ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、ポリエチレンオキシド、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルセバケート等のジカルボン酸誘導体;インジゴ、キナクリドン、キナクリドンマゼンタ等の官能基C=Oと、NH、SおよびOから選ばれる官能基と、を分子内に有する環状化合物;ビスベンジリデンソルビトール、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール等のソルビトール系誘導体;ピリジン、トリアジン、イミダゾール等の窒素含有ヘテロ芳香族核を含む化合物;リン酸エステル化合物、高級脂肪酸のビスアミドおよび高級脂肪酸の金属塩;分岐状ポリ乳酸;低分子量ポリ3-ヒドロキシブチレート等が挙げられる。これらの結晶核剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
結晶核剤の含有量は、P3HAの結晶化を促進できれば特に限定されないが、P3HA100重量部に対して0.05~12重量部が好ましく、0.1~10重量部がより好ましく、0.5~8重量部がさらに好ましい。結晶核剤の含有量が少なすぎると、結晶核剤としての効果が得られない場合があり、結晶核剤の含有量が多すぎると、加工時の粘度や成形体の物性の低下が生じる等の影響がある場合がある。
【0059】
本発明の一実施形態において、滑剤は、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミドおよびオレイン酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する。これにより、得られる成形体は、滑性(特に、外部滑性)を備える。ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミドおよびオレイン酸アミドの中でも、加工性や生産性が向上するという観点から、好ましくは、ベヘン酸アミド、エルカ酸アミドを含有することが好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態において、滑剤は、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドまたはこれらの2種以上の組合せであってもよく、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミドおよびオレイン酸アミド以外の滑剤(以下、「その他の滑剤」と称する。)との組み合わせであってもよい。その他の滑剤としては、例えば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド;ポリエチレンワックス、酸化ポリエステルワックス、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノラウレート等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;コハク酸飽和脂肪酸モノグリセライド等の有機酸モノグリセライド;ソルビタンベヘネート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ジグリセリンステアレート、ジグリセリンラウレート、テトラグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、デカグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ステアリルステアレート等の高級アルコール脂肪酸エステル等が挙げられるが、これらに限定されない。上記その他の滑剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
滑剤の含有量(滑剤が複数使用される場合は、その合計含有量)は、滑性を付与できれば特に限定はないが、上記P3HA100重量部に対して0.01~20重量部が好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.5~10重量部がさらに好ましく、0.5~5重量部が特に好ましく、0.7~4重量部がとりわけ好ましい。滑剤の含有量が少なすぎると、効果が発現しない場合があり、滑剤の含有量が多すぎると、成形体表面にブリードアウトし、成形体表面の外観を損なう場合がある。
【0062】
<その他の成分>
本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、P3HA、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂、過酸化物、結晶核剤および/または滑剤の他、得られる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を含む成形体の機能を損なわない範囲で、可塑剤;無機充填剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料等の着色剤;帯電防止剤等の他の成分を含有し得る。
【0063】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエート等の変性グリセリン系化合物;ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート等のアジピン酸エステル系化合物;ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレート等のポリエーテルエステル系化合物;安息香酸エステル系化合物;エポキシ化大豆油;エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル;セバシン酸系モノエステル等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記可塑剤の中でも、入手のし易さや効果の高さの点で、変性グリセリン系化合物およびポリエーテルエステル系化合物が好ましい。また、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
無機充填剤としては、特に限定されないが、例えば、クレー、合成珪素、カーボンブラック、硫酸バリウム、マイカ、ガラス繊維、ウィスカー、炭素繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス粉末、金属粉末、カオリン、グラファイト、二硫化モリブデン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系化合物類、ベンゾトリアゾール系化合物類、トリアジン系化合物類、サリチル酸系化合物類、シアノアクリレート系化合物類、ニッケル錯塩系化合物類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
顔料、染料等の着色剤としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化クロム、亜酸化銅、珪酸カルシウム、酸化鉄、カーボンブラック、グラファイト、チタンイエロー、コバルトブルー等の無機系着色剤、レーキレッド、リソールレッド、ブリリアントカーミン等の溶性アゾ顔料、ジニトリアンオレンジ、ファストイエロー等の不溶性アゾ顔料、モノクロロフタロシアニンブルー、ポリクロロフタロシアニンブルー、ポリブロモフタロシアニングリーン等のフタロシアニン顔料、インジゴブルー、ペリレンレッド、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド等の縮合多環系顔料、オラセットイエロー等の染料等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
帯電防止剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸エステル化合物、脂肪族エタノールアミン化合物、脂肪族エタノールアミド化合物、等の低分子型帯電防止剤や、高分子型帯電防止剤等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
上記各成分の含有量は、本発明の効果を発現できれば特に限定されず、当業者により適宜設定され得る。
【0070】
<製造方法>
本発明の一実施形態において、本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法を提供する。すなわち、本発明の一実施形態に係る脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、(A)P3HA(但し、P3HBおよびP3HB3HVを除く。)と、(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、(C)過酸化物と、を溶融混錬する工程を含むことを特徴とする。
【0071】
なお、本実施形態においては、上記の<P3HA>、<P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂>、<過酸化物>、<結晶核剤・滑剤>、<その他の成分>の各項目に記載した内容が援用される。
【0072】
また、本実施形態においては、後述する〔4.本成形体の製造方法〕のうち、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を製造する工程までの内容も援用される。
【0073】
〔3.脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を含む成形体〕
本発明の一実施形態に係る成形体(以下、「本成形体」と称する。)は、本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を含む。
【0074】
本成形体は、本脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を含むものであれば特に限定されないが、例えば、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器)、食品用トレー、袋、部品等が挙げられる。
【0075】
また、本発明の一実施形態において、本成形体は、その物性を改善するために、本成形体とは異なる材料から構成される成形体(例えば、繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等)と複合化することもできる。これらの材料も、生分解性であることが好ましい。
【0076】
本発明の一実施形態において、射出成形時の離型時間は、成形加工性の観点から、例えば、60秒以下であり、好ましくは、40秒以下である。離型時間が短いほど結晶化が早く、上記範囲内であれば、成形加工性が良好となる。なお、射出成形時の離型時間は、実施例に記載の方法により測定される。
【0077】
本発明の一実施形態において、アイゾット衝撃強度は、耐衝撃性に優れるという観点から、例えば、3.0kJ/mを超える範囲であり、好ましくは、3.05kJ/m以上であり、より好ましくは、3.08kJ/m以上である。なお、アイゾット衝撃強度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0078】
本発明の一実施形態において、メルトフローレート(以下、「MFR」と称する場合がある。)は、加工性や生産性の観点から、例えば、3~100g/10分であり、好ましくは、5~50g/10分であり、より好ましくは、10~40g/10分である。なお、MFRは、実施例に記載の方法により測定される。
【0079】
本発明の一実施形態において、バイオマスプラスチック度は、環境負荷の低減に非常に有効であるという観点から、例えば、50%以上であり、好ましくは、60%以上であり、より好ましくは、70%以上である。なお、バイオマスプラスチック度は、実施例に記載の方法により算出される。
【0080】
〔4.本成形体の製造方法〕
本発明の一実施形態において、本成形体を製造する方法を提供する。
【0081】
本成形体の製造方法においては、まず、P3HA、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂、および過酸化物、さらには必要に応じて、結晶核剤、滑剤、およびその他上記添加剤を、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて溶融混練して、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を作製する工程を行う。続いて、上記工程で得られた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を、ストランド状に押し出した後にカットすることで、バー状、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状等の粒子形状の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を含む成形体を得ることができる。
【0082】
上記溶融混練の工程において、P3HAと、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、過酸化物と、必要に応じて、結晶核剤、滑剤、およびその他上記添加剤とを溶融混練する温度は、使用するP3HAの融点、溶融粘度等やP3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂の溶融粘度等により変動するため一概には規定できないが、溶融混練物のダイス出口での脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の温度が120~200℃であることが好ましく、125~195℃であることがより好ましく、130~190℃がさらに好ましい。溶融混練物の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物のダイス出口での温度が140℃未満であると、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂が分散不良となる場合があり、200℃を超えるとP3HAが熱分解する場合がある。
【0083】
本発明の一実施形態において、本成形体は、上記工程で得られた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形することにより得られる。そのような方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト成形法等の射出成形法、キャスト成形法、ブロー成型法、インフレーション成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でも、インモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH-PULL、SCORIM等を採用することもできる。なお、射出成形法はこれらに限定されるものではない。射出成形時の成形温度は、140~190℃が好ましく、金型温度は、20~80℃が好ましく、30~70℃であることがより好ましい。
【0084】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0085】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>(A)ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(但し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)を除く。)と、
(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、
(C)過酸化物と、を溶融混錬してなる、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
<2>前記(B)の含有量が、前記(A)100重量部に対して0.1~90重量部である、<1>に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
<3>前記(C)の含有量が、前記(A)100重量部に対して0.001~10重量部である、<1>または<2>に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
<4>前記(B)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート、およびポリカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
<5>前記(C)が、1分半減期温度が180℃以下である有機過酸化物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
<6>結晶核剤および/または滑剤をさらに含む<1>~<5>のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
<7><1>~<6>のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を含む、成形体。
<8>(A)ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(但し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)を除く。)と、
(B)前記(A)以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、
(C)過酸化物と、を溶融混錬する工程を含む、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【実施例
【0086】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
〔材料〕
(P3HA)
P3HAとして、(3-ヒドロキシブチレート)/(3-ヒドロキシヘキサノエート)=94.6/5.4(mol/mol)、GPCで測定した重量平均分子量Mwが35万のPHBH(カネカ社製、カネカ生分解性ポリマーPHBH(登録商標))を使用した。PHBHにおける共重合成分の組成比の分析方法としては、PHBH約20mgに1mLの硫酸-メタノール混液(15:85)と1mLのクロロホルムとを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでPHBH分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに0.5mLの脱イオン水を加えてよく混合した後、水層と有機層とが分離するまで放置した。その後、分取した有機層中のPHBH分解物のモノマー単位組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。得られたピーク面積から、ポリ(3-ヒドロキシヘキサノエート)の比率を算出した。
【0088】
(P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂)
P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂として、PBAT(BASF社製「Ecoflex C1200」、ガラス転移温度:-30℃)、PBSA(三菱ケミカル社製「BioPBS FD92」、ガラス転移温度:-47℃)、およびPCL(Ingevity社製「Capa6800」、ガラス転移温度:-60℃)を使用した。
【0089】
(過酸化物)
過酸化物として、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油社製「パーブチルI」)、ジラウロイルパーオキサイド(日油社製「パーロイルL」)、およびp-メンタンヒドロパーオキサイド(日油社製「パーメンタH」)を使用した。
【0090】
(結晶核剤)
結晶核剤として、ペンタエリスリトール(三菱ケミカル社製「ノイライザーP」、表中「PETL」と称する。)を使用した。
【0091】
(滑剤)
滑剤として、ベヘン酸アミド(日本精化社製「BNT22H」、表中「BA」と称する。)およびエルカ酸アミド(日本精化社製「ニュートロンS」、表中「EA」と称する。)を使用した。
【0092】
〔ペレットの作製〕
60℃で3時間乾燥したP3HAと、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂と、1分半減期温度が180℃以下である過酸化物との混合物を、日本製鋼所株式会社製44mm二軸押出機(TEX44)を用いて、以下の条件(成形温度、スクリュー回転数、吐出量、およびダイス径)で溶融混練させ、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を作製した。さらに、後述する実施例1に記載の方法でペレットを作製した。なお、成形時の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の温度の実温度は、ダイス出口での脂肪族ポリエステル系樹脂組成物をK型熱電対で接触測定した。測定した脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の実温度を各表で示した(表中、「押出時の樹脂温度[℃]」)。
成形温度:C2-3=100℃、C4=160℃、C5=160℃、C6-7=160℃、C8=140℃、C9=140℃、ダイス=140℃
スクリュー回転数:100rpm
吐出量:10~15kg/hr
ダイス径:3mmφ。
【0093】
〔測定および評価方法〕
(射出成形条件)
上記の方法で作製したペレットを60℃で3時間乾燥したものを原料として使用した。射出成形機(FANUC社製:AUTOSHOT-100B)を用いて、上記原料を以下の条件で射出成形し、物性評価用の成形体(試験片)を得た。
シリンダ温度:C1=160℃、C2=150℃、C3=140℃、ノズル=160℃、金型=40℃、冷却時間=30秒。
【0094】
(離型時間)
脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の加工性は、射出成形時の離型時間で評価した。金型内に上記樹脂組成物を射出した後、金型を開いて突き出しピンにより成形体(試験片)を変形させることなく突き出し、金型から離型させることができるまでに要する時間を、離型時間とした。離型時間が短いほど結晶化が早く、成形加工性が良好であることを示す。
【0095】
(表面平滑性)
上記射出成形で得られた成形体(試験片)の表面を目視で観察し、充填材の浮き上がり状態を基準として射出成形体の表面平滑性を評価した。充填材の浮き上がり、盛り上がり、毛羽立ち、および凹凸がなく、試験片の表面が平滑であったものを「○」とし、試験片の表面に充填材の浮き上がり、盛り上がり、毛羽立ち、凹凸が局所的または広い範囲にわたって認められたものを「×」とした。
【0096】
(アイゾット衝撃強度)
アイゾット衝撃強度は、上記射出成形により得られた成形体(試験片)を23℃の恒温室内で7日間養生し、ISO-180に準拠して測定した(試験片形状:1/8インチ、Uノッチ付き、ノッチ深さ:2mm、測定温度:23℃、サンプル数5の平均値、単位:kJ/m)。アイゾット衝撃強度は、高いほど良好であることを示す。なお、アイゾット衝撃強度は、衝撃耐性の指標である。
【0097】
(メルトフローレート(MFR))
MFRは、上記ペレット作製により得られたペレットを23℃の恒温室内で7日間養生し、さらに60℃で3時間乾燥したものを、ISO-1133に準拠して、MFRテスター(安田精機製作所製:No.120-LABOT)を使用して測定した(測定温度:160℃、荷重:5kg、サンプル数3の平均値、単位:g/10分)。
【0098】
(バイオマスプラスチック度)
各脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の全質量に対するバイオマスプラスチック成分の質量比率をバイオマスプラスチック度とした。バイオマスプラスチック度は、環境負荷の低減の観点から、高いほど良い。
【0099】
(実施例1)
上記PHBH、PBAT、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ペンタエリスリトール、ベヘン酸アミド、およびエルカ酸アミドを、表1に示した配合比率(以下、表中の配合比は、重量部を示す。)で、同方向噛合型二軸押出機(日本製鋼社製:TEX44)を用いて、上記条件にて溶融混錬し、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を得た。当該脂肪族ポリエステル系樹脂組成物をダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を原料として、射出成形機でバー状の成形体(試験片)を成形した。その後、上記の方法により、射出成形時の離型時間、射出成形体の表面平滑性、アイゾット衝撃強度およびMFRの測定/評価、ならびにバイオマスプラスチック度の算出を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例2~16)
各材料の配合比を表1に示す配合比に変更した以外は実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、成形体(試験片)を成形した。その後、上記の方法により、射出成形時の離型時間、射出成形体の表面平滑性、アイゾット衝撃強度およびMFRの測定/評価、ならびにバイオマスプラスチック度の算出を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例1~7)
各材料の配合比を表2に示す配合比に変更した以外は実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、成形体(試験片)を成形した。その後、上記の方法により、射出成形時の離型時間、射出成形体の表面平滑性、アイゾット衝撃強度およびMFRの測定/評価、ならびにバイオマスプラスチック度の算出を行った。結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0102】
〔結果〕
表1および2に示すように、実施例1~16と比較例1~7との比較より、P3HA、P3HA以外のガラス転移温度が-10℃以下の生分解性の樹脂、および過酸化物を含む脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を用いた場合に、アイゾット衝撃強度、すなわち、耐衝撃性が優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により、生分解性を有し、かつ、耐衝撃性に優れた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物およびその成形体を提供することができるため、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。