(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置および調整パターン記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2019236668
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 芳紀
(72)【発明者】
【氏名】栗山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】神田 英彦
(72)【発明者】
【氏名】牛山 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 なおみ
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晃弘
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-196367(JP,A)
【文献】特開2010-143123(JP,A)
【文献】特開2014-014978(JP,A)
【文献】特開2014-024352(JP,A)
【文献】特開2009-143152(JP,A)
【文献】特開2012-076429(JP,A)
【文献】特開2013-132899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して記録媒体にドットを記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを走査方向に走査させる走査手段と、
前記走査方向と交差する搬送方向に記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記記録媒体の搬送経路中に前記走査方向に
所定の間隔をおいて配置され、前記記録媒体を支持する複数のプラテンリブと、
前記記録ヘッドによるドットの記録位置を調整するための複数のパッチを含む調整パターンを、
前記記録ヘッドを用いて前記記録媒体に記録する調整パターン記録手段と、
を備えるインクジェット記録装置であって、
前記調整パターン記録手段は、
前記調整パターンにおいて、前記複数のプラテンリブのうちの第1のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域に、2つ以上のパッチが前記走査方向に隣接する第1のパッチの組を記録し、前記第1のプラテンリブの隣に位置する第2のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域に、2つ以上のパッチが前記走査方向に隣接する第2のパッチの組を記録し、前記走査方向において前記第1のパッチの組と前記第2のパッチの組との間の前記記録媒体の領域にはパッチを記録しないことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドが記録媒体に対向した状態において、
前記第1のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域及び前記第2のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域における、前記記録ヘッドと前記記録媒体との距離の変動は、所定の範囲内に収まり、
前記第1のパッチの組と前記第2のパッチの組との間の領域における、前記記録ヘッドと前記記録媒体との距離の変動は、前記所定の範囲よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記パッチは第1のドット群と第2のドット群とによって構成され、前記複数のパッチは、前記第1のドット群と前記第2のドット群との相対的な記録位置が互いに異なることを特徴とする
請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記調整パターン記録手段は、前記第1のドット群を前記記録ヘッドの往路走査で記録し、前記第2のドット群を前記記録ヘッドの復路走査で記録することを特徴とする
請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記調整パターン記録手段は、前記第1のドット群を前記記録ヘッドの第1の吐出口列で記録し、前記第2のドット群を前記第1の吐出口列と同じインクを吐出する第2の吐出口列で記録することを特徴とする
請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記調整パターン記録手段は、前記第1のドット群を前記記録ヘッドの第1の吐出口列で記録し、前記第2のドット群を前記第1の吐出口列と異なるインクを吐出する第2の吐出口列で記録することを特徴とする
請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記調整パターン記録手段は、
前記第1のドット群を前記記録ヘッドの往路走査で記録し、前記第2のドット群を前記記録ヘッドの復路走査で記録する第1パターンと、
前記第1のドット群を前記記録ヘッドの第1の吐出口列で記録し、前記第2のドット群を前記第1の吐出口列と同じインクを吐出する第2の吐出口列で記録する第2パターンと、
前記第1のドット群を前記記録ヘッドの第1の吐出口列で記録し、前記第2のドット群を前記第1の吐出口列と異なるインクを吐出する第2の吐出口列で記録する第3パターンとを、
同一の前記記録媒体に記録することを特徴とする
請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記走査方向に走査しながら前記複数のパッチのそれぞれの光学濃度を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された前記複数のパッチの光学濃度に基づいて、実画像を記録する際の前記記録ヘッドによるドットの記録位置の調整値を設定する設定手段と
を更に備えることを特徴とする請求項
1から7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記設定手段は、前記複数のパッチの中から前記光学濃度が最大となるパッチに対応する前記記録ヘッドによるドットの記録位置を、前記調整値として設定することを特徴とする
請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記調整パターン記録手段は、
前記第1のパッチの組と前記第2のパッチの組に含まれるパッチのそれぞれが、前記検出手段における前記走査方向のサンプリング周期に同調するように、前記
第1のパッチの組
と前記第2のパッチの組とを記録することを特徴とする
請求項8または9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記
第1のパッチの組と前記第2のパッチの組に含まれるパッチは、前記記録ヘッドの同じ吐出口列を用いて記録されることを特徴とする
請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記
第1のパッチの組と前記第2のパッチの組に含まれるパッチは、前記記録ヘッドの異なる吐出口列を用いて記録されることを特徴とする
請求項1から4いずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記調整パターン記録手段は、
前記第1のプラテンリブに対し、前記走査方向の一方の片側の位置に、前記第1のパッチの組のうちの第1パッチを記録し、前記走査方向の他方の片側の位置に、前記第1のパッチの組のうちの第2パッチを記録し、
前記第2のプラテンリブに対し、前記走査方向の一方の片側の位置に、前記第2のパッチの組のうちの第3パッチを記録し、前記走査方向の他方の片側の位置に、前記第2のパッチの組のうちの第4パッチを記録することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記調整パターン記録手段は、
前記第1のプラテンリブに対し、前記走査方向の一方の片側の位置に、前記第1のパッチの組のうちの第1パッチの少なくとも一部を記録し、前記走査方向の他方の片側の位置に、前記第1のパッチの組のうちの第2パッチの少なくとも一部を記録し、
前記第2のプラテンリブに対し、前記走査方向の一方の片側の位置に、前記第2のパッチの組のうちの第3パッチの少なくとも一部を記録し、前記走査方向の他方の片側の位置に、前記第2のパッチの組のうちの第4パッチの少なくとも一部を記録することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
前記調整パターン記録手段は、前記調整パターンの記録の前に、前記調整パターンよりも粗い精度で前記ドットの記録位置を調整するための粗調整用パターンを記録し、当該粗調整用パターンの前記記録媒体における記録状態に基づいて、前記調整パターンの前記複数のパッチにおけるドットの記録位置を変更することを特徴とする
請求項1から14のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項16】
前記粗調整用パターンは、前記搬送方向において、前記第1のパッチの組と前記第2のパッチの組とは離れた位置であって、且つ、前記走査方向において、前記第1のパッチの組と前記第2のパッチの組との間の位置に記録されることを特徴とする請求項15に記載のインクジェット記録装置。
【請求項17】
前記調整パターン記録手段は、前記調整パターンの記録よりも前に、同一の
複数のテストパッチを、前記プラテンリブ上に前記走査方向に隣接して記録し、
当該複数のテストパッチの前記記録媒体における記録状態に基づいて、前記調整パターンの前記
第1のパッチの組と前記第2のパッチの組
の夫々に含まれるパッチの数を変更することを特徴とする
請求項1から16のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項18】
前記複数のプラテンリブは、前記走査方向において、前記記録ヘッドの記録可能領域の中心線に対し、
対称に配置されていることを特徴とする
請求項1から17のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項19】
前記調整パターン記録手段は、前記
第1のプラテンリブの両側の6mm以内の領域に、前記
第1のパッチの組
を記録
し、前記第2のプラテンリブの両側の6mm以内の領域に、前記第2のパッチの組を記録することを特徴とする
請求項1から18のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項20】
前記調整パターン記録手段は、前記
第1のパッチの組に含まれるパッチを、前記
第1のプラテンリブに対し、対称な位置に記録
し、前記第2のパッチの組に含まれるパッチを、前記第2のプラテンリブに対し、対称な位置に記録することを特徴とする
請求項1から19のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項21】
前記調整パターン記録手段は、前記
第1のプラテンリブと前記
第1のパッチ
の組との前記走査方向における位置関係
、及び、前記第2のプラテンリブと前記第2のパッチの組との前記走査方向における位置関係を、前記記録媒体のサイズによらず、一定に保つことを特徴とする
請求項1から19のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項22】
インクを吐出して記録媒体にドットを記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを走査方向に走査させる走査手段と、
前記走査方向と交差する搬送方向に記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記記録媒体の搬送経路中に前記走査方向に
所定の間隔をおいて配置され、前記記録媒体を支持する複数のプラテンリブと、
を備えるインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドによるドットの記録位置を調整するための調整パターンを、
前記記録ヘッドを用いて前記記録媒体に記録する調整パターン記録方法であって、
前記調整パターン
において、
前記複数のプラテンリブのうちの第1のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域には、2つ以上のパッチが前記走査方向に隣接する第1のパッチの組が記録され、前記第1のプラテンリブの隣に位置する第2のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域には、2つ以上のパッチが前記走査方向に隣接する第2のパッチの組が記録され、前記走査方向において前記第1のパッチの組と前記第2のパッチの組との間の前記記録媒体の領域にはパッチが記録されないことを特徴とする調整パターン記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置および当該装置の調整パターン記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、記録媒体上のドットの記録位置を調整するための記録位置調整モードが実行可能なものがある。例えば、往復走査の記録位置を調整する場合、記録位置調整モードでは、記録ヘッドにおける往路走査と復路走査の相対的な記録位置を段階的にずらした複数のパッチが記録媒体に記録される。そして、最も記録位置ずれの少ないパッチが選択され、当該パッチに対応する記録位置が調整値として設定される。
【0003】
特許文献1には、ドットの記録位置が相対的に異なる複数のパッチを、記録媒体を支持する複数のプラテンリブのそれぞれ対応づけて記録することにより、記録ヘッドと記録媒体との距離の変動の影響を抑える記録位置の調整方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、記録に使用するインクの多種類化や記録の高解像度化に伴い、記録位置の調整が必要とされる項目の数も増大して来ている。このため、記録位置調整モードにおいては、上述した往復走査の調整のためのパッチの他、更に多くのパッチを記録することが求められる。
【0006】
そのために本発明は、インクを吐出して記録媒体にドットを記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを走査方向に走査させる走査手段と、前記走査方向と交差する搬送方向に記録媒体を搬送する搬送手段と、前記記録媒体の搬送経路中に前記走査方向に所定の間隔をおいて配置され、前記記録媒体を支持する複数のプラテンリブと、前記記録ヘッドによるドットの記録位置を調整するための複数のパッチを含む調整パターンを、前記記録ヘッドを用いて前記記録媒体に記録する調整パターン記録手段と、を備えるインクジェット記録装置であって、前記調整パターン記録手段は、前記調整パターンにおいて、前記複数のプラテンリブのうちの第1のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域に、2つ以上のパッチが前記走査方向に隣接する第1のパッチの組を記録し、前記第1のプラテンリブの隣に位置する第2のプラテンリブに支持される前記記録媒体の領域に、2つ以上のパッチが前記走査方向に隣接する第2のパッチの組を記録し、前記走査方向において前記第1のパッチの組と前記第2のパッチの組との間の前記記録媒体の領域にはパッチを記録しないことを特徴とする。
【0007】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、記録媒体の消費を抑えつつ、記録位置調整モードを高精度に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明は、インクを吐出して記録媒体にドットを記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを走査方向に走査させる走査手段と、前記走査方向と交差する搬送方向に記録媒体を搬送する搬送手段と、前記記録媒体の搬送経路中に前記走査方向にリブ間隔をおいて配置され、前記記録媒体を支持する複数のプラテンリブと、前記記録ヘッドによるドットの記録位置を調整するための複数のパッチを含む調整パターンを、前記記録媒体に記録する調整パターン記録手段と、を備えるインクジェット記録装置であって、前記調整パターン記録手段は、前記走査方向に隣接するパッチの組を、前記プラテンリブ上に前記リブ間隔に基づく間隔をおいて記録することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録媒体の消費を抑えつつ、高精度な記録位置調整を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】インクジェット記録装置の模式的斜視図である。
【
図2】ヘッドカートリッジの構成を説明するための斜視図である。
【
図3】記録ヘッドの1色分についての構造を説明するための図である。
【
図4】吐出口の配列構成を6色分について示す図である。
【
図5】反射型光学センサを説明するための模式図である。
【
図6】制御の構成例を説明するためのブロック図である。
【
図7】記録位置調整モードのフローチャートである。
【
図9】記録位置ずれ量と光学濃度の関係を示す図である。
【
図10】プラテンリブの配置状態を示す上面図である。
【
図11】3つのプラテンリブが、記録媒体を支持する様子を示す図である。
【
図12】紙間距離の差に伴う往復走査の記録位置ずれを説明するための図である。
【
図13】紙間距離の差が光学センサの検出精度に与える影響を示す図である。
【
図14】パッチと反射型光学センサのスポット径との関係を示す図である。
【
図15】調整パターンにおけるパッチの配置状態を示す図である。
【
図16】第1の実施形態の調整パターンの全体図を示す図である。
【
図17】第2の実施形態の調整パターンの全体図を示す図である。
【
図18】第3の実施形態の調整パターンの全体図を示す図である。
【
図19】第3の実施形態の記録位置調整モードのフローチャートである。
【
図20】第4の実施形態においてパッチを記録する位置を説明する図である。
【
図21】第5の実施形態においてパッチの数の設定処理を説明する図である。
【
図22】第5の実施形態のパッチの配置状態を示す図である。
【
図23】調整パターンを異なるサイズの記録媒体に記録した場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置1(以下、単に記録装置1ともいう)の模式的斜視図である。キャリッジ102は、X方向に延在するガイドシャフト103に沿って、X方向に往復移動可能となっている。キャリッジ102は、主走査モータ104により、モータプーリ105、従動プーリ106、およびタイミングベルト107等の駆動機構を介して駆動され、エンコーダ1304によってX方向の移動位置が検知される。キャリッジ102にはヘッドカートリッジ101が搭載され、キャリッジ102の側部には反射型光学センサ130が取り付けられている。
【0012】
記録媒体Pは、2組の搬送ローラ対109および111の回転により、キャリッジ102の走査方向と交差するY方向に搬送される。ヘッドカートリッジ101の下方へ突出する吐出口面(
図1では不図示)と対向する位置にはプラテン1301が配され、搬送される記録媒体Pを裏面より支持する。プラテン1301の構造については後述する。
【0013】
ヘッドカートリッジ101が移動可能な領域の端部には、ヘッドカートリッジ101におけるインクの吐出状態を良好に維持するための回復処理部114が配されている。回復処理部114には、ヘッドカートリッジ101の吐出口面をキャッピングするキャップ115、吸引ポンプ116およびワイパー118などが備えられている。
【0014】
図2(a)および(b)は、ヘッドカートリッジ101の構成を説明するための斜視図である。ヘッドカートリッジ101は、インクを貯留するインクタンク201とインクタンク201より供給されたインクを吐出する記録ヘッド202とを含んでいる。
図2(a)は、記録ヘッド202にインクタンク201が装着されている状態、同図(b)は装着されていない状態をそれぞれ示す。本実施形態のヘッドカートリッジ101には、ブラック、ライトシアン、ライトマゼンタ、シアン、マゼンタ、およびイエローの各色のインクタンク201が、着脱自在に搭載される。
【0015】
記録ヘッド202は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録ヘッドあって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えている。すなわち、記録ヘッド202は、電気熱変換体が発生する熱エネルギーによってインクを沸騰させ、その発泡エネルギーを利用して、吐出口から記録媒体Pに向かってインクを吐出する。なお、記録ヘッド202は、インクの吐出エネルギー発生素子として、電気熱変換体の他、ピエゾ素子などを用いるものであってもよい。
【0016】
図3(a)および(b)は、記録ヘッド202の1色分についての構造を説明するための図である。
図3(a)は、吐出口面510における吐出口500の配列構成を示し、同図(b)はIIIb-IIIb断面図を示す。
【0017】
図3(a)に示すように、吐出口面510には、インクを吐出可能な複数の吐出口500が、2つの列501、502を成すように配列されている。吐出口列501、502は、記録媒体が搬送されるY方向に延在する。吐出口列501、502のそれぞれにおいて、吐出口500は、600dpiに相当する間隔をピッチPyとして、384個ずつ形成されている。また、吐出口列501の吐出口500と吐出口列502の吐出口500とは、Y方向に1200dpiに相当する半ピッチ(Py/2)だけずれて配置されている。吐出口列501と吐出口列502の計768個の吐出口500から同色インクを吐出することにより、Y方向において1200dpiの密度でドットを記録することができる。
【0018】
図3(b)に示すように、吐出口列501と吐出口列502の間には、これらに共通してインクを供給する共通流路520が形成されている。共通流路520のインクは、個別流路530を介して吐出口列501、502の各吐出口500に導かれる。個別流路530において、吐出口500と対向する位置には、電気熱変換体からなる吐出ヒータ942が配されている。駆動信号に応じて駆動された吐出ヒータ942が熱エネルギーを発生することにより、個別流路530内のインクに膜沸騰が生じ、その際の発泡エネルギーによって、吐出口500からインク滴550が吐出される。
【0019】
図4は、吐出口面510における吐出口500の配列構成を、6色分について示す図である。本実施形態の記録ヘッド202は、シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y),ブラック(K)、ライトシアン(LC),ライトマゼンタ(LM)の6色のインクに対応している。図中、C1およびC2はシアン(C)のインクを吐出するための吐出口列を示し、LM1およびLM2はライトマゼンタ(LM)のインクを吐出するための吐出口列を示す。K1およびK2はブラック(K)のインクを吐出するための吐出口列を示し、Y1およびY2はイエロー(Y)のインクを吐出するための吐出口列を示す。更に、LC1およびLC2はライトシアン(LC)のインクを吐出するための吐出口列を示し、M1,M2はマゼンタ(M)のインクを吐出するための吐出口列を示す。吐出口列C1、C2、LM1およびLM2は共通の基板(チップ1)に配され、吐出口列K1、K2、Y1およびY2は共通の基板(チップ2)に配され、吐出口列LC1、LC2、M1およびM2は共通の基板(チップ3)に配されている。
【0020】
シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)及びブラック(K)のインクは比較的高い染料濃度を有する濃インクであり、ライトシアン(LC)及びライトマゼンタ(LM)は、濃インクの1/6程度の染料濃度を有する淡インクである。このように、各色2つずつの吐出口列501、502が配された記録ヘッド202を用いることにより、記録媒体には1200dpiの解像度を有するカラー画像が記録される。
【0021】
図5は、キャリッジ102に取り付けられた反射型光学センサ130(
図1参照)を説明するための模式図である。反射型光学センサ130は発光部801と受光部802とを有する。発光部801から発せられた入射光803は記録媒体Pによって反射され、受光部802によって検出される。受光部802の検出信号(アナログ信号)は、不図示のフレキシブルケーブルを介して記録装置1の電気基板上の制御回路に伝えられ、A/D変換器によってディジタル信号に変換される。
【0022】
図6は、インクジェット記録装置における制御の構成を説明するためのブロック図である。主制御部としてのコントローラ900は、例えば、マイクロコンピュータ形態のCPU901、プログラムや所要のテーブル、その他の固定データを格納するROM902、および画像データを展開する領域や作業用の領域等が設けられるRAM903を有する。
【0023】
ホスト装置910は画像データの供給源であり、記録に関わる画像データの作成、および処理等を行うコンピュータの形態の他、画像読み取り用のリーダ部等の形態であってもよい。画像データ、その他のコマンド、およびステータス信号等は、インタフェース(I/F)911を介してコントローラ900と送受信される。
【0024】
操作部920は、操作者による指示入力を受容するスイッチ群であり、電源スイッチ921、記録開始を指示するための記録開始スイッチ922、および記録ヘッド202に対する回復動作の起動を指示するための回復スイッチ923を有する。更に操作部920は、後述する記録位置調整モードを開始するための記録位置調整起動スイッチ924を有する。本実施形態では、記録動作、記録ヘッド202の回復動作、および記録位置調整モードの実行を操作部920のスイッチで指示できるようにしているが、これら動作は、ホスト装置910からの指示に基づいて実行してもよい。
【0025】
センサ群930は、
図5で説明した反射型光学センサ130、ホームポジションを検出するためのフォトカプラ931、および環境温度を検出するために適宜の部位に設けられた温度センサ932などを有する。
【0026】
ヘッドドライバ940は、記録データ等に応じて記録ヘッド202の吐出ヒータ942を駆動するドライバである。ヘッドドライバ940は、記録データを吐出ヒータ942の位置に対応させて整列させるシフトレジスタ、適宜のタイミングでラッチするラッチ回路、および駆動タイミング信号に同期して吐出ヒータ942を作動させる論理回路素子を含む。
【0027】
記録ヘッド202には
図3(b)で説明した吐出ヒータ942の他、吐出前のインクの温度調整を行うサブヒータ941が設けられている。サブヒータ941は、吐出ヒータ942と同じ基板上に配されてもよいし、記録ヘッド202の基板以外の箇所に配されてもよい。
【0028】
主走査モータドライバ950は、主走査モータ104を駆動するためのドライバである。副走査モータドライバ960は、搬送ローラ対109および111を回転させる副走査モータ961を駆動するためのドライバである。回復モータドライバ970は、回復処理部114の吸引ポンプ116やワイパー118などを動作させるためのドライバである。
【0029】
以下、本実施形態の記録位置調整モードについて説明する。
【0030】
図7は、本実施形態の記録位置調整モードにおける処理の工程を説明するためのフローチャートである。本処理は、CPU901が、ROM902に記憶されているプログラムに従って、RAM903をワークエリアとして使用しながら実行する処理である。本処理は、ユーザによって記録位置調整起動スイッチ924が押下された場合、またはホスト装置910から記録位置調整のコマンドが入力された場合に開始される。
【0031】
本処理が開始されると、CPU901は、まずS1において、記録媒体Pに所定の調整パターンを記録するための調整パターン記録処理を行う。調整パターンの詳細は後述するが、調整パターンには記録位置の調整対象となる項目のそれぞれについて、複数のパッチが含まれている。
【0032】
S2において、CPU901は、反射型光学センサ130を用いて調整パターンに含まれる各パッチの光学濃度を測定する。
【0033】
S3において、CPU901は、S2で取得した各パッチの光学濃度より、記録位置の調整値を、上記項目のそれぞれについて判定する。
【0034】
S4において、CPU901は、S3で判定した調整値を上記項目のそれぞれに対応付けてROM902に保存する。以上で本処理が終了する。
【0035】
S4で保存された調整値は、その後の記録動作によって使用され、記録装置1は記録位置ずれの無い画像を出力することができる。
【0036】
図8(a)~(c)は、
図7のS1で記録されるパッチの一例を示す図である。ここでは、項目として、往復走査の記録位置の調整値を求める場合を例に説明する。往復走査の記録位置を調整する場合、1つのパッチは、往路走査で記録する第1のドット群1000と復路走査で記録する第2のドット群1001によって構成される。本実施形態では、第1のドット群1000においても、第2のドット群1001においても、ドットを連続して記録する4画素とドットを連続して記録しない4画素とを、主走査方向に交互に繰り返すパターンとしている。そして、
図7のS1では、これら2つのドット群のX方向におけるずらし量を、段階的に異ならせた複数のパッチを記録媒体に記録する。詳細には、往路走査で第1のドット群を記録するために吐出ヒータ942に電圧を印加するタイミングに対する、往路走査で第2のドット群を記録するために吐出ヒータ942に電圧を印加するタイミングを、パッチごとにシフトさせる。
【0037】
図8(a)~(c)は、上記吐出タイミングが異なる3つのパッチを示している。
図8(a)は、第1のドット群1000と第2のドット群1001との記録位置が整合している状態、すなわち往路走査の吐出タイミングと復路走査の吐出タイミングが好ましい状態にある場合を示す。一方、
図8(b)は、第1のドット群1000に対し第2のドット群1001が右方向にずれている状態を示し、
図8(c)は上記ずれ量が
図8(b)よりも更に大きくなった状態を示す。
【0038】
これら3つの図を比べた場合、
図8(a)のパッチでは、全てのドットが主走査方向にほぼ等間隔に配置しており、記録媒体に対するドットの被覆率(エリアファクタ)はほぼ100%である。これに対し、
図8(b)のパッチでは、第1のドット群1000と第2のドット群1001との境界で、紙面が露出する箇所が現れ、
図8(a)に比べエリアファクタが減少している。
図8(b)よりもずれ量が大きい
図8(c)では、エリアファクタは更に減少している。
図8(b)および(c)では、
図8(a)に比べ、ドットが重複して濃度が増加する箇所も発生するが、エリアファクタの減少の方がドットの重なりよりも光学濃度に与える影響は大きい。このため、パッチ全体の濃度を測定した場合、
図8(a)のパッチ、
図8(b)のパッチ、
図8(c)のパッチの順、すなわちずれ量が大きくなる順で、光学濃度は低くなる。
【0039】
図9は、記録位置ずれ量と光学濃度の関係を示す図である。横軸は、パッチにおける第1のドット群1000に対する第2のドット群1001のずれ量を示し、縦軸はそのパッチの光学濃度を示す。光学濃度は、
図5で説明した反射型光学センサ130を用いて取得した検出濃度Dである。
【0040】
ここで、
図5の入射光803の強度をIin、反射光804の強度をIrefとすると、反射率Rは
R=Iref/Iin
である。検出濃度Dは、反射率Rの逆数の対数関数であり、反射率Rを用いて下記式で求めることができる。
D=Log
10(1/R)
【0041】
往路走査の記録位置と復路走査の記録位置のずれ量が0μmであるとき、
図8(a)のように記録媒体上のエリアファクタはほぼ100%となり、検出濃度は最高値となる。そして、左右どちらの方向であれ記録位置ずれ量が大きくなると、エリアファクタは減少し、検出濃度は低くなる。
図7のS3において、CPU901は、各パッチの検出濃度を比較し、最も検出濃度が高いパッチの記録位置を、調整値として判定する。
【0042】
図10は、X方向に延在するプラテン1301における、プラテンリブ1303の配置状態を示す上面図である。ヘッドカートリッジ101の走査領域はプラテン1301の真上にあるが、ここでは両者のX方向の位置関係を説明するため、Y方向にシフトして示している。
【0043】
記録走査中のヘッドカートリッジ101のX方向の位置は、エンコーダ1304によって管理される。図では、ヘッドカートリッジ101が、実際に画像を記録することが可能な記録可能領域Wから外れた回復処理部114にある状態を示している。
【0044】
プラテン1301はX方向に延在する板である。プラテン1301は、Y方向に所定の間隔をおいて2列設けられ、これら2列のプラテン1301の間には、記録動作中に記録媒体の端部からはみ出したインクを吸収するためのインク吸収体1302が配されている。プラテン1301上には、上方に突出するプラテンリブ1303が、X方向において所定の間隔で複数形成されている。すなわち、これらプラテンリブ1303は、記録媒体の搬送経路中に配され、搬送中の記録媒体を背面から支持する。X方向における個々のプラテンリブ1303の位置は、エンコーダ1304の座標に対応付けて管理されている。
【0045】
プラテンリブ1303は、記録可能領域Wの中心線1305に対し、左右対称に配されている。ここでは便宜上、回復処理部114に最も近い位置にあるプラテンリブ1303をR1とし、回復処理部114から離れる方向にR2、R3・・・R14と呼称する。図中には、中心線1305と各プラテンリブ1303との距離を示している。
【0046】
プラテンリブ1303上をY方向に搬送される記録媒体Pにおいては、記録媒体のサイズによらず、記録媒体Pの中心が中心線1305に一致した状態で搬送される。プラテンリブ1303の配置は、搬送が想定される記録媒体のサイズによって定められ、隣接する2つのプラテンリブ1303のリブ間隔は一定ではない。例えば、記録媒体がA4サイズの場合、当該記録媒体はプラテンリブ1303のR3とR12の内側の位置において、R4~R11の8つのプラテンリブ1303に支持されながらY方向に搬送される。
【0047】
図11は、R7、R8、R9の3つのプラテンリブ1303が、搬送中の記録媒体Pを支持する様子を示す図である。プラテンリブ1303は約2mmの高さを有し、その先端が記録媒体Pの背面に接しこれを支持している。R7とR8の間隔、およびR8とR9の間隔は、共に24mmである。
【0048】
記録媒体Pは、プラテンリブ1303に支持されている部分は上に凸の形状となり、2つのプラテンリブ1303の間では凹の形状を呈する。ここで、凸部と凹部の最下点の差を紙間最大変動量とすると、この紙間最大変動量は、例えば普通紙のようなコシの弱い記録媒体では約200μm程度となる。すなわち、記録ヘッド202の吐出口面と記録媒体Pとの紙間距離は、X方向において200μmのばらつきが含まれることになる。
【0049】
図12(a)および(b)は、紙間距離の差に伴う、往路走査と復路走査の記録位置ずれを説明するための図である。往路走査において、記録ヘッド202は速度Vxで+X方向に移動しながら、吐出速度Vzで記録媒体Pに向けてインクを吐出する。このとき、吐出されたインク滴は+X方向への速度Vxも有し、記録ヘッド202が吐出した位置よりも+X方向にずれた位置に着弾してドットを形成する。一方、復路走査において、記録ヘッド202は速度Vxで-X方向に移動しながら、吐出速度Vzで記録媒体Pに向けてインクを吐出する。このとき、吐出されたインク滴は-X方向への速度-Vxも有し、記録ヘッド202が吐出した位置よりも-X方向にずれた位置に着弾してドットを形成する。
【0050】
図12(a)は、紙間距離d1の下で、往路走査でインクが着弾する位置と復路走査でインクが着弾する位置とが一致した状態を示す。一方、
図12(b)は、紙間距離がd2(>d1)の下で、
図12(a)と同じタイミングで吐出動作を行った場合を示している。
図12(b)の場合、紙間距離が大きくなった分、インク滴が吐出されてから着弾するまでの時間が長くなり、X方向への進行距離も長くなる。そのため、
図12(a)と同じタイミングで吐出動作を行っても、往路走査で記録したドットと復路走査で記録したドットは同じ位置に形成されず、両者の間で距離sのずれが発生する。
【0051】
図13(a)および(b)は、紙間距離の差が、反射型光学センサ130の検出精度に与える影響を示す図である。
図13(a)は、反射型光学センサ130と記録媒体Pとの距離がd3である状態で記録媒体Pの光学濃度を測定した場合を示す。発光部801より発せられた入射光803は記録媒体Pで反射し、その反射光804は受光部802のほぼ中央に入射している。一方、
図13(b)は、反射型光学センサ130と記録媒体Pとの距離がd4(>d3)である状態で、記録媒体Pの濃度を測定した場合を示す。反射型光学センサ130と記録媒体Pとの距離が長い分、反射光804はX方向にずれ、受光部802の端部に入射している。すなわち、同じ画像を測定した場合であっても、
図13(a)と(b)では、反射型光学センサ130が検出する光学濃度に差が生じてしまう。
【0052】
以上説明したように、
図11に示すような紙間距離のばらつきは、記録位置の精度および光学濃度の測定精度を低下させる要因となる。つまり、複数のパッチを記録し各パッチの光学濃度を測定する本実施形態の記録位置調整モードにおいて、複数のパッチが配置される記録媒体上の位置は、その記録媒体が搬送される過程において、紙間距離が安定していることが求められる。このような観点の下、特許文献1のように、複数のパッチを複数のプラテンリブ1303のそれぞれ対応づけて記録することは、記録位置の調整精度を保つ上で有効であると言える。
【0053】
しかしながら、調整に必要な全てのパッチをプラテンリブ1303上に配置する場合、例えば記録媒体がA4サイズであると、X方向にはR4~R11に対応する8つのパッチしか配置することができない(
図10参照)。その一方で、インクジェット記録装置1においては、上述した往復走査の記録位置だけでなく、異色インク間の記録位置(
図6参照)や、吐出口列間の記録位置(
図3(a)参照)など、様々な項目の記録位置を調整することが求められる。このような状況において、全ての項目の全てのパッチを記録媒体に記録しようとすると、記録位置調整モードのために、汎用性のない大きなサイズの記録媒体が必要となったり複数枚の記録媒体が消費されたりして、ユーザビリティの点で好ましくない。
【0054】
以上の状況に鑑み、本発明者らは、プラテンリブ1303の両側において、紙間距離の変動に伴う記録位置ずれの影響が許容できる範囲を予め確認し、確認された範囲内に上記パッチを複数ずつ配することが有効であると考えた。そして、本発明者らの検討によれば、
図11の場合、R8からR7またはR9までの距離の25%すなわち左右に6mm以内であれば、紙間距離の変動が紙間最大変動量200μmの約半分100μmに抑えられることが確認できた。紙間距離の変動を100μmに抑えられれば、記録位置の調整精度への影響は数μmレベルになり、1200dpiの記録解像度で画像を記憶する本実施形態のインクジェット記録装置において、画質に及ぼす影響を許容範囲に抑えることができる。よって、本実施形態の記録位置調整モードでは、プラテンリブ1303の片側の6mm以内に一つのパッチを記録し、当該パッチとずらし量が異なる別のパッチを、もう片側の6mm以内に記録する。これにより、記録媒体の幅方向に記録可能なパッチの数を従来よりも増大させることができる。
【0055】
このために、本発明者らは、まず、光学濃度を正常に測定するために必要なパッチの大きさを確認した。
【0056】
図14(a)および(b)は、記録媒体における1つのパッチ1700と、反射型光学センサ130の入射光803(
図5参照)のスポット径1702との関係を示す図である。パッチの濃度を精度良く測定するためには、
図14(a)のようにスポット径1702がパッチ1700の領域内に収まっていることが好ましい。スポット径1702が、
図14(b)のようにパッチ1700の領域からはみ出していると、検出濃度が入射位置のばらつきの影響を受けやすくなり、
図9のような明確な最大値が現れなくなるおそれが生じるからである。よって、本実施形態では、入射光803のスポット径を不図示のレンズで絞り、その上でスポット径が十分に収まるサイズとして、パッチのX方向のサイズを4.7mmに設定した。これにより、1つのプラテンリブ1303の両側の6mm以内に、2つのパッチを並べて配置することが可能となった。
【0057】
図15(a)および(b)は、本実施形態の記録位置調整モードの、X方向におけるパッチの配置状態を示す図である。
図15(a)はX方向の全体図、同図(b)はR4のリブ近傍の拡大図を示す。ここではA4サイズの記録媒体Pを用い、往路走査の記録位置と復路走査の記録位置を調整するための調整パターンを例に示している。図中、13のパッチのそれぞれには1401~1413の符号を付している。
【0058】
図15(b)に示すように、パッチ1401とパッチ1402は、R4のプラテンリブ1303の両側に隣接して配され、X方向に4.7mm、2つ合わせて9.4mmの幅を有する。すなわち、これら2つのパッチは、プラテンリブ1303の左右6mm以内に収まっており、許容範囲の紙間距離の変動のもと、記録位置の調整に好適に利用することができる。本実施形態では、このようなパッチの組が、R5~R9のプラテンリブ1303のそれぞれに対応付けて記録される。
図15(a)中、最も左にあるパッチ1413は、R10のプラテンリブ1303の真上に配されている。
【0059】
本実施形態では、パッチの並び順に従って、往路で記録する第1のドット群1000と復路走査で記録する第2のドット群1001の相対的な記録位置(
図8参照)を段階的に変化させていく。例えば、中央のパッチ1407は、往路走査と復路走査の吐出タイミングを設計上で整合させた状態で、第1のドット群1000と第2のドット群1001を記録する。そしてその中央のパッチ1407に対し、左のパッチほど復路走査の吐出タイミングを早くし、右のパッチほど復路走査の吐出タイミングを遅くするように、吐出タイミングを段階的に異ならせる。但し、パッチの配置順と吐出タイミングとの関係は、上記に限定されない。例えば、復路走査の吐出タイミングが最も早いパッチと最も遅いパッチとが、同じプラテンリブ1303の近傍に隣接して配置されてもよい。
【0060】
図16は、本実施形態の記録位置調整モードで記録する調整パターンの全体図を示す図である。本実施形態の調整パターンは、往復走査の記録位置を調整するための第1パターン1800と、同色の吐出口列間の記録位置を調整するための第2パターン1801と、異色の吐出口列間の記録位置を調整するための第3パターン1802とを含む。そしてこれら全てのパターンが、A4サイズの1枚の記録媒体Pに記録されている。
【0061】
以下、それぞれのパターンについて簡単に説明する。第1パターン1800は、往路走査と復路走査の記録位置を調整するためのパターンである。
図15で説明したようなX方向に配列する13個のパッチ群が、6色のインクに対応してY方向に6列記録されている。第2パターン1801は、
図3(a)の吐出口列501と502のような、同色のインクを吐出する吐出口列間の記録位置を調整するためのパターンである。吐出口列501で記録するドット群と吐出口列502で記録するドット群とのずらし量を段階的に異ならせた13個のパッチ群が、6色のインクに対応づけてY方向に6列記録されている。第3パターン1802は、
図4に示すような異色のインクを吐出する吐出口列間の記録位置を調整するためのパターンである。例えば、基準色(K1)の吐出口列で記録するドット群と調整色(C1)の吐出口列で記録するドット群とのずらし量を段階的に異ならせた13個のパッチ群が、5色の調整色に対応づけてY方向に5列記録されている。
【0062】
このように、本実施形態によれば、3つのパターンに含まれる221個のパッチ全てを、A4サイズの1枚の記録媒体に収めることができる。すなわち、記録媒体の消費を抑えつつ、記録位置調整モードを高精度に行うことが可能となる。
【0063】
なお、本実施形態では、紙間距離の変動に伴う影響を許容範囲に抑えるために、プラテンリブ1303を中心とした6mm以内の範囲にパッチを記録することを前提として説明したが、無論このような範囲は適宜変更可能である。紙間距離の変動の程度は、記録媒体の種類や使用環境、またプラテンリブ1303の幅等に応じても変化する。更に、同程度の記録位置ずれであっても、画像へ与える影響が、画像が文書画像であるか写真画像であるかや、画像の記録解像度などによって変化する。以上のことより、プラテンリブ1303を中心としたパッチの記録許容範囲は、これら様々な情報に応じて適宜調整すればよい。
【0064】
(第2の実施形態)
図17は、本実施形態の記録位置調整モードで使用する調整パターンの全体図を示す図である。本実施形態の調整パターンも、往復走査の記録位置を調整するための第1パターン1950、同色の吐出口列間の記録位置を調整するための第2パターン1951、異色の吐出口列間の記録位置を調整するための第3パターン1952を含む。そしてこれら全てのパターンが、A4サイズの1枚の記録媒体Pに記録される。
【0065】
本実施形態の調整パターンが第1の実施形態と異なる点は、同じプラテンリブ1303上に配置する2つのパッチの組み合わせである。例えば、本実施形態において、パッチ1901~1913は、シアンインクの往復走査の記録位置を調整するためのパッチである。また、パッチ1921~1933は、ライトシアンインクの往復走査の記録位置を調整するためのパッチである。すなわち、本実施形態では、同じプラテンリブ1303上に配置する2つのパッチを、異なる色すなわち異なる吐出口列で記録するパッチとする。第2パターン1951、第3パターン1952についても、同様である。
【0066】
このような本実施形態によれば、第1の実施形態よりも、各吐出口列の駆動を記録媒体P内で分散させることが可能となる。これにより、各吐出口列の吐出状態を安定させた状態で調整パターンを記録し、調整精度を更に向上させることができる。
【0067】
(第3の実施形態)
本実施形態の記録位置調整モードでは、第1の実施形態で説明した記録位置調整処理に先立って、記録位置の粗調整を行う。
【0068】
図18は、本実施形態の記録位置調整モードで使用する調整パターンの全体図である。本実施形態の調整パターンは、第1の実施形態で説明した第1パターン1800、第2パターン1801及び第3パターン1802に加え、粗調整用パターン2000を含む。そしてこれら全てのパターンが、A4サイズの1枚の記録媒体Pに記録されている。
【0069】
粗調整用パターン2000は、微調整用の第1~第3パターン1800~1802に先行して、搬送方向(Y方向)の先頭に記録される。そして、第1~第3パターン1800~1802を記録する前に、粗調整用パターン2000の読み取り処理を行い、第1~第3パターンで記録する複数のパッチにおける、ドットのずらし量(吐出タイミング)のレンジを設定する。
【0070】
図19は、本実施形態の記録位置調整モードにおける処理の工程を説明するためのフローチャートである。以下、
図18の調整パターンを参照しながら、各工程を説明する。
【0071】
本処理が開始されると、CPU901は、まずS11において、記録媒体Pに粗調整用パターン2000を記録する。
図18に示すように、粗調整用パターン2000は、記録媒体Pの搬送方向(Y方向)の先頭に記録される。
【0072】
図18に示すように、粗調整用パターン2000は、6色のインクそれぞれに対応するパターン群2001~2006を含んでいる。また、パターン群2001~2006のそれぞれには、5列3行のパッチが含まれている。粗調整においては、紙間距離の変動に伴う記録位置ずれの影響を微調整ほど考慮する必要はない。よって、本実施形態では、パターン群2001~2006をプラテンリブ1303の位置とは無関係に、X方向に等間隔に配置している。
【0073】
ここで、シアンインクに対応するパターン群2001に着目する。パッチ行2007の5つのパッチは、吐出口列C1(
図4参照)の往路走査で記録する。パッチ行2008の5つのパッチは、吐出口列C1の復路走査で記録する。パッチ行2009の5つのパッチは、吐出口列C2の往路走査で記録する。異なるインク色の他のパターン群2002~2006についても、同様である。
【0074】
S12において、CPU901は、反射型光学センサ130を用いて粗調整用パターン2000に含まれる各パッチの読み取り処理を行う。すなわち、CPU901は、記録された粗調整用パターン2000が、反射型光学センサ130の読み取り可能領域に位置するように記録媒体Pを搬送し、キャリッジ102を走査させながら反射型光学センサ130に読み取り処理を行わせる。
【0075】
S13において、CPU901は、S12で読み取った画像から、微調整用パターンの中央調整値を設定する。ここで、中央調整値とは、微調整用パターンにおいて、同じ調整項目に対応する13個のパッチの中の、記録位置の中央値に相当する値である。具体的には、パッチ行2007に含まれるパッチのX方向のエッジ位置と、パッチ行2008に含まれるパッチのX方向のエッジのずれ量の平均値を求める。そして、このズレ量を補正するための往復走査の記録位置を、第1パターン1800のシアン用の中央調整値として設定する。また、S13において、CPU901は、パッチ行2007とパッチ行2008のエッジ位置に基づいて、第2パターン1801の中央調整値を設定する。更に、CPU901は、各色のパッチ群間のエッジ位置に基づいて、第3パターン1802の中央調整値を設定する。
【0076】
S14において、CPU901は、S13で設定した中央調整値に基づいて、微調整用の調整パターン、すなわち第1パターン1800、第2パターン1801及び第3パターン1802を記録する。
【0077】
S15において、CPU901は、反射型光学センサ130を用い、第1パターン1800、第2パターン1801及び第3パターン1802に含まれる各パッチの光学濃度を測定する。
【0078】
S16において、CPU901は、S15で取得した各パッチの光学濃度に基づいて、記録位置の調整値を、上記項目のそれぞれについて判定する。
【0079】
S17において、CPU901は、S16で判定した調整値を調整項目に対応付けてROM902に保存する。以上で本処理が終了する。
【0080】
S17で保存された調整値は、その後、実画像を記録する際に使用され、記録装置1は記録位置ずれの無い画像を出力することができる。
【0081】
本実施形態のように、微調整処理の前に粗調整処理を行うことにより、微調整処理における調整レンジすなわち記録媒体に実際に記録するパッチの数を抑えることができる。このため、記録位置ずれのばらつきが大きな記録ヘッドを用いる場合であっても、所定数のパッチを記録するだけで記録位置を適切に調整することが可能となる。
【0082】
なお、以上では、微調整処理として
図16で説明した第1の実施形態の調整パターンを使用したが、無論、微調整用の調整パターンは、
図17で説明した第2の実施形態の調整パターンとしてもよい。
【0083】
(第4の実施形態)
上記実施形態では、紙間距離の変動を100μm以内に抑えるために、個々のプラテンリブ1303の両側の6mm以内に、ずらし量の異なる2つのパッチを左右対称に配置させた。これに対し、本実施形態においては、上記両側の6mm以内という条件を満たしながらも、反射型光学センサ130のサンプリング周期に同調可能な位置に各パッチを配置する。
【0084】
図20(a)および(b)は、本実施形態においてパッチを記録する位置を、上記実施形態と比較する図である。
図20(a)はサンプリング周期を考慮しない場合のパッチ記録位置を示し、同図(b)はサンプリング周期を考慮した本実施形態のパッチ記録位置を示す。ここでは、R6とR7のプラテンリブ1303と、これらの近傍に記録されるパッチ1404~1407を拡大して示している。
【0085】
図20(b)の下部には、所定の速度でX方向に移動する反射型光学センサ130のサンプリングタイミング2200を示している。パルスが印加されている期間に反射型光学センサ130が移動する領域がサンプリング区間2201~2206となる。
【0086】
例えば、サンプリング区間2201において、反射型光学センサ130のスポット径は、2207から2208に移動し、この移動領域がサンプリング領域となる。また、サンプリング区間2202において、反射型光学センサ130のスポット径は、2209から2210に移動し、この移動領域がサンプリング領域となる。すなわち、サンプリング区間2201およびサンプリング区間2202のサンプリング領域は、R6のプラテンリブ1303に対して、ほぼ対称な位置にある。
【0087】
しかしながら、反射型光学センサ130のサンプリング周期は、プラテンリブ1303の配置と同期しているわけではない。例えば、サンプリング区間2205およびサンプリング区間2206におけるサンプリング領域は、R7のプラテンリブ1303に対して、対称な位置にはない。
【0088】
このため、サンプリング周期を考慮せず、2つのパッチがプラテンリブ1303に対し左右対称に記録されている
図20(a)では、サンプリング領域がパッチからはみ出してしまっている。この場合、反射型光学センサ130の検出精度が低下するおそれが生じる。
【0089】
この状況を回避するために、反射型光学センサ130のサンプリングのタイミングを、一定周期ではなくプラテンリブ1303の配置に合わせることもできる。しかしながらこの場合、新たな電気回路やメモリ容量、更にファーム処理時間が要されることになりコストアップの要因となる。
【0090】
よって、本実施形態では、反射型光学センサ130のサンプリングは一定周期としながら、個々のパッチを、各プラテンリブ1303の両側の6mm以内という制限の下で、サンプリング領域を含める位置にシフトさせる。すなわち、
図20(b)に示すように、R7のプラテンリブ1303近傍の2つのパッチ1406及び1407を、R7のプラテンリブ1303に最も近い2つのサンプリング区間2205及び2206のサンプリング領域を含むように配置する。その結果、
図20(b)の場合には、2つのパッチ1406、1407は、R7のプラテンリブ1303に対して対称に配置されず、プラテンリブ1303に対して0.2mmほど右にずれた状態となる。このような状態であっても、プラテンリブ1303の両側の6mm以内に2つのパッチは収まっている。よって、紙間距離の変動を100μm以内に抑え、記録位置調整モードを高精度に行うことができる。
【0091】
すなわち、本実施形態によれば、反射型光学センサ130のサンプリング周期を一定に保ちながらも、記録媒体の消費を抑えつつ、記録位置調整モードを高精度に行うことが可能となる。
【0092】
(第5の実施形態)
記録媒体Pにおける凹凸の程度は、記録媒体の種類、環境温度、環境湿度のような様々な条件に応じて変化する。すなわち、パッチを配置できる領域もプラテンリブ1303から6mm以内に限定されず、上記条件に応じて調整可能である。本実施形態では、調整パターンにおいてプラテンリブ1303の近傍に配置するパッチの数を、適宜変更するものとする。
【0093】
図21(a)~(c)は、パッチの数を設定する処理を説明するための図である。本処理では、
図21(a)に示すように、1つのプラテンリブ1303の上とその両側に、同一のN個のテストパッチを記録する。N個のテストパッチは、
図8で説明したパッチと同じものであり、その時点の調整値に従って記録する。
図21(b)は、N個のテストパッチの上面図である。ここでは、N=5とし、テストパッチ1~テストパッチ5として示している。
【0094】
次に、反射型光学センサ130を用いて、それぞれのテストパッチの光学濃度を測定する。本例では、
図21(c)のような光学濃度が得られたとする。記録位置ずれが発生していないプラテンリブ1303上のテストパッチ(3)の濃度が最も高く、プラテンリブ1303から離れるにつれて、テストパッチの濃度は低下している。
【0095】
本実施形態では、記録位置ずれ量の許容範囲に相当する濃度差ΔDを予め定めておき、濃度差がΔD以内であるテストパッチに対応する位置にのみ、実際の記録位置調整モードでパッチを記録可能とする。すなわち、
図21(c)の場合、テストパッチ2~テストパッチ4に対応する3つの領域にパッチが配置可能とする。
【0096】
図22(a)および(b)は、本実施形態の記録位置調整モードの、X方向におけるパッチの記録状態を示す図である。
図22(a)はX方向の全体図、同図(b)はR4のプラテンリブ1303近傍の拡大図を示す。ここではA4サイズの記録媒体を用い、往路走査の記録位置と復路走査の記録位置を調整するためのパターンを例に示している。R4~R7のプラテンリブ1303には、幅4.7mmの3つのパッチ2401~2403が、プラテンリブ1303を中心に並んで配置されている。これら3つのパッチの位置は、プラテンリブ1303の位置に対し、紙間距離の変動に伴う記録位置ずれ量が十分小さいことが確認された領域に含まれている。よって、記録位置ずれ量は許容範囲に含まれ、好適な記録位置調整を行うことができる。
【0097】
ところで、
図22(a)の調整パターンにおいては、
図15(a)の調整パターンに比べ、同じ数のパッチを記録するためのX方向の幅が小さい。よって、
図22(a)の調整パターンを用いた記録位置調整モードにおいては、
図15(a)の調整パターンを用いた場合よりも、キャリッジの移動範囲が抑えられ、モード自体を短時間に終了させることができる。また、
図22(a)の調整パターンにおいては、パッチ全体を中央(図の左側)にシフトさせることにより、A4よりも小さいサイズの記録媒体が使用可能となり、記録媒体の消費も更に抑えることが可能となる。
【0098】
(その他の実施形態)
以上説明した実施形態では、A4サイズの記録媒体Pを用いる場合を前提に説明したが、無論、上記実施形態で説明した調整パターンは、A4サイズよりも大きな記録媒体に記録することもできる。
【0099】
図23(a)および(b)は、第3の実施形態で説明した
図18のパターンを、A4サイズの記録媒体Pに記録した場合と、A3サイズの記録媒体P´に記録した場合とを示す図である。図中、一点破線は、ぞれぞれの記録媒体Pが搬送される際に、R7のプラテンリブ1303が支持する領域に相当する。
【0100】
既に説明したように、上記実施形態の記録装置1においては、使用される記録媒体のサイズによらず、記録媒体Pの中心は、記録可能領域Wの中心線1305に一致した状態で搬送される。このため、記録位置調整モードにおいて、調整パターンに含まれる各パッチとプラテンリブ1303との相対的な位置関係は、記録媒体のサイズによらず、安定している。すなわち、記録位置調整モードにおいて所定サイズ以上の記録媒体を使用すれば、調整の精度がばらつくことはなく、安定した記録位置調整を行うことができる。
【0101】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 インクジェット記録装置
102 キャリッジ
202 記録ヘッド
901 CPU
1303 プラテンリブ
P 記録媒体