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特許7433905車両構成要素を製造するための多段アルミニウム合金成形及び熱処理方法
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  • 特許-車両構成要素を製造するための多段アルミニウム合金成形及び熱処理方法 図1
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  • 特許-車両構成要素を製造するための多段アルミニウム合金成形及び熱処理方法 図2B
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  • 特許-車両構成要素を製造するための多段アルミニウム合金成形及び熱処理方法 図6
  • 特許-車両構成要素を製造するための多段アルミニウム合金成形及び熱処理方法 図7A
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  • 特許-車両構成要素を製造するための多段アルミニウム合金成形及び熱処理方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】車両構成要素を製造するための多段アルミニウム合金成形及び熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/053 20060101AFI20240213BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
C22F1/053
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630M
C22F1/00 631A
C22F1/00 640A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019521077
(86)(22)【出願日】2017-10-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 IB2017056598
(87)【国際公開番号】W WO2018078527
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】62/412,009
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591187162
【氏名又は名称】シェイプ・コープ
【氏名又は名称原語表記】SHAPE CORP.
【住所又は居所原語表記】1900 Hayes St., Grand Haven, Michigan 49417, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(72)【発明者】
【氏名】ウェイカンプ、ヘレン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0054666(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0228252(US,A1)
【文献】国際公開第2010/049445(WO,A1)
【文献】特開2016-141843(JP,A)
【文献】特開昭62-103350(JP,A)
【文献】特開2007-100157(JP,A)
【文献】特開昭59-113164(JP,A)
【文献】特開2007-289984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/04 - 1/057
C22C 21/00 - 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成要素を製造するためにアルミニウム展伸材を成形及び加工する方法であって、
7000系のアルミニウム合金シートを提供することと、
前記アルミニウム合金シートを溶体化熱処理して、W調質状態を提供することと、
最終調質状態を実現するために必要な複数の時効ステップのうち、100℃で、5~6時間にわたって前記アルミニウム合金シートを熱処理し、前記アルミニウム合金シートに中間調質状態をもたらす第1の時効ステップを通して、前記アルミニウム合金シートを熱処理することと、
前記アルミニウム合金シートを、成形ステーションにおいて、押抜き又はロール成形により、所望の形状に成形することと、
前記成形ステーションに続く溶接ステーションにおける融接プロセスで、前記成形ステーションと前記溶接ステーションとの間に処理ステップなしで、前記所望の形状の前記アルミニウム合金シートを溶接し、構成要素を提供することと、
前記加工された構成要素を、前記複数の時効ステップのうち、最終の時効ステップを通して熱処理して、前記最終調質状態としてT7調質状態を実現することと
を含み、
前記最終の時効ステップは、前記加工された構成要素を130~190℃で10~18時間にわたって熱処理することを含む、方法。
【請求項2】
前記最終の時効ステップは、前記加工された構成要素を148~158℃で熱処理することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記成形ステーションに続く溶接ステーションにおいて、前記アルミニウム合金シートを切断することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金シートを成形し、溶接することは、ビームを形成することである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金シートを管形状で固定するために前記アルミニウム合金シートの縁部を溶接することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記構成要素は、車両のための補強ビームを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
車両構成要素を製造するためにアルミニウム展伸材を成形及び加工する方法であって、
7000系のアルミニウム合金を圧延して、シートを形成することと、
前記シートを溶体化熱処理して、W調質状態を提供することと、
前記シート製品がT7調質状態を実現するために必要な複数の時効ステップのうち、100℃で、5~6時間にわたって前記アルミニウム展伸材を熱処理することを含む第1の時効ステップを通して前記シートを熱処理することと、
前記シートをロール成形機で、連続して屈曲して、所望の形状にロール成形することと、
前記ロール成形機に続く溶接機で、前記ロール成形機と前記溶接機との間に処理ステップなしで、前記所望の形状の前記シートを溶接することと、
複数の時効ステップのうち、最終の時効ステップを通して、前記車両構成要素を熱処理して、前記車両構成要素全体にわたってT7調質状態を実現することとを含み、
前記車両構成要素は、前記最終の時効ステップの前にロール成形および溶接することにより、T7調質状態のシートから成形されて融接された構成要素よりも、応力腐食亀裂を受けにくく、
前記最終の時効ステップは、前記車両構成要素を130~190℃で10~18時間にわたって熱処理することを含む、方法。
【請求項8】
前記第1の時効ステップは、前記シートがT7調質状態を実現することを可能にしない期間にわたって100℃で前記シートを熱処理することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記シートを溶接することは、前記車両構成要素の形成において、少なくとも1つの管形状を取り囲むように、前記シートの長さに沿って前記シートの縁部を前記シートの別の部分に溶接することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記シートを形成することは、前記シートをロール成形して、少なくとも1つの取り囲まれた領域を有する補強ビームを形成することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記シートを溶接することは、前記シートの溶接部分の領域がW調質状態を実現することを引き起こし、
前記溶接部分の前記領域は、前記最終の時効ステップを通した前記車両構成要素の熱処理時に、T7調質状態を実現する、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下、2016年10月24日出願の米国仮特許出願第62/412,009号の利益及び優先権を主張する。この特許出願は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、概して、アルミニウム合金の成形及び熱処理技法に関し、より詳細には、車両構成要素を成形するために使用される高強度アルミニウム合金の多段時効プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
状況により、アルミニウム合金に熱処理又は人工時効を施して、アルミニウム合金を所望の材料強度などの所望の材料特性に調質することが望ましいことがあり得る。しかし、アルミニウム合金構成要素が熱処理/人工時効された後に行われる切断又は溶接などの二次操作は、二次操作の現場で材料特性を損ない、場合により構成要素を腐食しやすくし得る。さらに、アルミニウム合金は、対流溶接などの局所的な発熱操作後に内部応力を受け得、それにより、いくつかのアルミニウム合金は、これらの操作後に歪み及び亀裂をより受けやすくなり得ることが一般に知られている。したがって、7000系アルミニウム合金などのいくつかのアルミニウム合金から作成された車両構成要素は、溶接操作で形成されず、溶接ではなく接着剤及び/又は機械的な固定具、例えばリベット若しくはねじを使用することが一般的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、車両のためのビーム構成要素など、構成要素を製造するためにアルミニウム合金を成形及び加工するシステム又は方法を提供する。この方法は、シート、プレート又は押出成形品など、アルミニウム展伸材を提供することができる。展伸材は、T6又はT7調質などの所望の調質状態を実現するために必要な時効ステップの組の第1の時効ステップを通して熱処理され得る。アルミニウム合金を成形して展伸材にするこれらの初期加工ステップ及び展伸材の初期熱処理は、金属製造所又は工場などの第1の場所又は施設で実施され得る。所望の調質状態を実現する前に、展伸材は、第2の場所又は施設に輸送又は配送され得る。そこで、展伸材は、所望の形状に成形され、且つ所望の形状に溶接されて、所望の構成要素を製造する。次いで、構成要素は、残りの時効ステップを通して熱処理されて、構成要素全体にわたって概して均質にT6又はT7調質などの所望の調質状態を実現する。熱処理後の最終調質状態では、アルミニウム合金構成要素は、より腐食を受けにくく、且つ一貫した材料強度を有する。したがって、本発明によれば、T6又はT7調質状態を実現するための熱処理又は時効プロセスは、少なくとも2つのステップに分けられて、これらのステップ間で展伸材が例えば溶接によって加工されることを可能にし、それにより過度の熱処理を避ける。これにより、不必要な熱処理操作のための余分な時間及びコストを避けることができる。
【0005】
本発明の一態様によれば、構成要素を製造するためにアルミニウム展伸材を成形及び加工する方法が提供される。この方法は、アルミニウム合金を含む展伸材を提供することを含む。展伸材は、最終調質状態を実現するために必要な複数の時効ステップの第1の時効ステップを通して熱処理されている。展伸材は、加工されて、所望の形状を有する構成要素を提供する。加工された構成要素は、複数の時効ステップの残りの時効ステップを通して熱処理されて、最終調質状態を実現する。
【0006】
本発明の別の態様によれば、車両構成要素を製造するためにアルミニウム展伸材を成形及び加工する方法が提供される。アルミニウム合金が圧延されて、W調質状態を有するシート製品が形成される。シート製品は、そのシート製品がT6又はT7調質状態を実現するために必要な複数の時効ステップの第1の時効ステップを通して熱処理される。シート製品は、所望の形状に成形され、且つ次いで所望の形状に溶接されて、車両構成要素を提供する。車両構成要素は、複数の時効ステップの残りの時効ステップを通して熱処理されて、車両構成要素全体にわたって均質にT6又はT7調質状態を実現する。
【0007】
本発明のさらに別の態様によれば、金属構成要素を製造するために高強度アルミニウム合金を成形及び加工する方法が提供される。この方法は、7075及び7085アルミニウム合金などの7000系アルミニウム合金を含むシートを提供することを含む。ここで、このシートは、T6又はT7調質状態を実現するために必要な複数の時効ステップの第1の時効ステップを通して熱処理されている。次いで、シートは、所望の形状に成形され、且つ/又は所望の構成に溶接されて、金属構成要素を提供する。次いで、金属構成要素は、複数の時効ステップの1つ又は複数の残りの時効ステップを通して熱処理されて、金属構成要素全体にわたって均質にT6又はT7調質状態を実現する。第1の時効ステップは、約100℃で約5~6時間にわたってシートを熱処理することを含み得る。一方、1つ又は複数の残りの時効ステップは、約150℃で約10~18時間にわたって金属構成要素を熱処理することを含み得る。シートの溶接は、任意選択的に、幾何学的及び冶金学的に強固な溶接部をもたらすためのワイヤを用いたレーザ溶接を含み得る。
【0008】
本発明のこれら及び他の目的、利点、趣旨及び特徴は、図面と併せて以下の本明細書を検討することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明によるアルミニウム合金を成形及び加工する方法を示すプロセスフローチャートである。
図2A】アルミニウムシートを成形及び人工時効する圧延プロセスの概略側面図である。
図2B】積層して保管されたアルミニウムシートを示す在庫搬送ステップの概略側面図である。
図2C】アルミニウムシートを切断及び溶接して車両構成要素を形成する形成プロセスの概略側面図である。
図3図2Cに示されるプロセスで形成されたビーム構成要素の分解上面斜視図である。
図4図3に示されるビーム構成要素の上面斜視図である。
図5図4に示されるビーム構成要素の断面図である。
図6】アルミニウム合金を成形及び加工する方法の追加の実施形態を示すプロセスフローチャートである。
図7A】アルミニウムシートを成形及び人工時効する圧延プロセスの概略側面図である。
図7B】コイルとして保管されているアルミニウムシートを示す在庫搬送ステップの概略側面図である。
図7C】シートを受け取ってビーム構成要素を形成するロール成形機、スイープステーション及び切除ステーションを用いたロール成形プロセスの概略側面図である。
図8図7Cに示されるプロセスで形成されたビーム構成要素の上面斜視図である。
図9図8に示されるビーム構成要素の上面図である。
図10図8に示されるビーム構成要素の断面図である。
図11】高強度アルミニウム合金を成形及び加工する方法の追加の実施形態を示すプロセスフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、図面及び図面に描かれている例示的実施形態を参照すると、図1、6、11にそれぞれ示されているものなど、構成要素を製造するためにアルミニウム合金を成形及び加工する(例えば、高強度アルミニウム合金を加工して車両構成要素、例えば衝撃エネルギー管理のための補強ビーム、車両フレーム構成のための構造ビーム又は他の同様の車両構成要素を形成する)ためのシステム及び方法10、110、210が提供される。一般に、アルミニウム合金などの溶体化された金属の時効は、補強相として作用することができる金属間粒子を合金元素に生成させ、それにより合金の強度を高めることにより、合金を強化することができる。溶体化熱処理可能なアルミニウム合金は、2000、6000及び7000系アルミニウム合金(2xxx、6xxx及び7xxx系合金とも呼ばれる)、例えば7003、7046A、7075及び7085合金などを含む。これらのアルミニウム合金は、図1、6及び11におけるステップ12、112、212で示されるものなど、最初に金属合金を圧延又は押出成形してW調質での展伸材にすることによって加工され得る。このW調質の状態では、展伸材のアルミニウム合金は、溶体化熱処理後に室温で腐食及び/又は自発的若しくは自然時効を受けやすいことがあり得、いくつかの環境では非常に受けやすいことがあり得る。この腐食及び自然時効を防止するために、W調質状態での展伸材は、熱処理によって人工時効され得る。
【0011】
人工時効(又は単に時効と称される)は、高温で析出物を形成させることができ、アルミニウム合金を安定化させてT6又はT7調質にするために2つ以上のステップで行われ得る。これらのステップは、図1、6及び11におけるステップ14、114、214で示されるものなど、最初にオーブン又は他の加熱環境内において約100℃で約5~6時間にわたって展伸材を時効して、微細構造を安定化させることを含み得る。この初期時効は、W調質状態に比べて腐食を受けにくくし、残りの又は後続の時効ステップ中に展伸材が所望の強度量を得ることを可能にする。多段時効プロセスは、続いて、図1、6及び11におけるステップ16、116、216で示されるものなど、約130~190℃、例えば約150℃でオーブン又は加熱環境の高温で約10~18時間にわたって展伸材を人工時効するプロセスステップを含み得る。好ましくは、展伸材のその後の人工時効は、140~160℃、より好ましくは148~158℃、さらにより好ましくは約155℃で行われる。プロセスのこれらの個別の時効ステップの両方において、時効の温度及び時間は、提示したものよりも大きくするか又は小さくして、他の環境又は材料条件の変動を考慮に入れることができ、それでも本発明の範囲内である。
【0012】
したがって、残りの又は後続の時効ステップを通した構成要素の人工時効時、アルミニウム合金に関するこの多段時効プロセスは、図1、6及び11におけるステップ18、118、218で示されるものなど、安定したT6又はT7調質状態を有し、且つ構成要素の所望の機械的特性を提供する金属部片を製造する。これらの初期及び後続の時効ステップは、直接連続して同じオーブン内で行われ得る。しかし、本発明は、初期時効ステップと後続の時効ステップとの間で切断、溶接、成形(ロール成形又は押抜きなど)などの追加の加工を行うことができるように、これらの時効ステップの時間及び/又は位置を分離することを含む。それにより、時効後の切断、溶接及び成形による腐食を低減又はさもなければ防止し、加熱操作後の内部応力による歪みを低減又はさもなければ防止する。本明細書で使用するとき、展伸材は、シート(一般に0.2mm~6.3mmの厚さを有する)若しくはプレート(一般に6.3mmよりも大きい厚さを有する)などの厚さに圧延されるアルミニウム、又は他にダイから所望の断面形状に押出成形されるアルミニウムを広く指す。
【0013】
図1を参照すると、多段プロセス10の最初のステップは、ステップ12に示されるものなど、アルミニウム合金を圧延することによってアルミニウム合金を成形して展伸材、すなわちシート30にして、W調質状態でのシート30を形成することを含む。この圧延ステップ12は、図2Aにも示されている。それにより、圧延機31に送り込まれるアルミニウム原料33を圧延機が圧縮及び延伸する結果、シート30が圧延機31から出る。次いで、アルミニウムシート30は、ステップ14での第1の時効ステップを通して、例えば約100℃で約5~6時間にわたり、又はさもなければ、展伸材がT6若しくはT7調質状態を実現するのに十分でない温度及び期間で熱処理され得る。第1の時効ステップ14も図2Aに示されている。シート30は、オーブンなどの加熱環境に置かれている。これらの初期加工ステップ12、14は、金属製造所又は工場など、第1の場所又は施設で実施され得る。
【0014】
ステップ14での初期熱処理時、金属シートがT6又はT7調質状態を実現する前に、シート30は、図1においてステップ20で示されるものなど、在庫として保管されるか、又は第2の場所若しくは施設に配送若しくは輸送され得る。第1の時効ステップ14の前又は後に、シート30は、図2Aにおいてステップ15で示されるものなど、略矩形状に切断され、積層されて平坦な形状のスタック32にされ得る。例えば、図2Bに示される積層形態32におけるものなどのシート30は、概して有害な腐食又は歪を受けることなく、しばらくの間、例えば最大約30日にわたって室温で在庫として保管するか又は輸送することができる。第1の時効ステップ14の熱及び持続時間により、ステップ14でのシート30の初期熱処理又は時効は、この在庫及び輸送期間にわたって展伸材にそのような保護特性を提供する。シートは、好ましくは、7000系アルミニウム合金を含み得、より好ましくは7075アルミニウム合金又は7085アルミニウム合金を含み得る。しかし、本発明の多段時効及び成形法は、他の金属種及び合金を用いて行われ得ることが考えられる。
【0015】
第2の場所での又は後の時点におけるものなどの後続の加工ステップにおいて、シートは、図1及び図2Cに示されるものなど、様々な加工ステップ22を受け得る。これらの加工ステップ22は、所望の部品又は車両構成要素を製造するために、成形24及び溶接26などの1つ又は複数のステップを含み得る。例えば、7075及び7085アルミニウム合金は、概して凝固割れのない幾何学的及び冶金学的に強固な溶接部をもたらすようにシートが溶接されることを可能にする高度な溶接プロセスで溶接され得る。任意選択的に、溶接は、ワイヤを用いたMIG溶接、誘導溶接又は接触溶接などによって行われ得る。溶接部を形成するために調整されるパラメータは、レーザ移動速度、ワイヤ送給速度、レーザ角度及びレーザ出力の調節を含む。追加の実施形態では、様々な加工ステップ22におけるものなど、ステップ14での初期熱処理後のシートの溶接は、任意選択的に、レーザ溶接又は摩擦撹拌溶接などを含み得ることが考えられる。加工ステップ22中、シートが溶接され得、それにより、溶接による局所的な熱により、溶接されるシートの部分又は熱感受性領域がW調質状態に戻り得ることが考えられる。
【0016】
例えば、図2Cに示されるように、複数の加工ステップ22は、図1に示される初期加工ステップ12、14を通して熱処理されたアルミニウム合金のシートなどの金属シート30に対して行われるものとして例示されている。図2Cに示されるステップは、アルミニウムのシートのスタック32から個々のシート30を取り出して、水平方向に真っ直ぐにスタンピングダイ36に送給することを含む。スタンピングダイ36は、シート30を切断し、シート30を湾曲させ、且つ/又はシート30に様々な形状を与えて、それぞれ所望の形状を有するシートの部片又はストリップを形成するように構成され得る。次いで、これらの部片又はストリップを溶接ステーション38に送給することができる。溶接ステーション38は、部片又はストリップを互いに取り付けて、少なくとも1つの取り囲まれた領域を有するビーム構成要素などの構成要素40を形成する。溶接ステーション38における溶接機は、シート30の部片を溶接及び固定して所望の形状にすることができる。溶接機は、例えば、図3~5に示されるものなどの取り囲まれた管形状を有するものなどの構成要素40を提供するために、部片の縁部をシートの他の部片に溶接することにより、固定具に保持されたシート30の部片を溶接する。部片を屈曲又は湾曲させることもできる。それにより、部片又はストリップを互いに取り付ける際、得られる構成要素は、全体として湾曲した形状、構成要素が取着する車両の一部の空気力学的形状に適合するそのような所望の長手方向湾曲、例えば車両ドア、車両バンプ又は車両の他の想定される領域に対応する湾曲形状を含むことができる。
【0017】
図3~5に示されるように、構成要素40は、その前壁46、後壁48、上部水平剪断壁50、中間水平剪断壁52及び下部水平剪断壁54を形成するストリップを含むアルミニウムの5つのシート又はストリップからなるビームである。剪断壁50~54は、概して平面状であるが、非直線状の前縁及び後縁を有するように予成形される。前壁46及び後壁48は、直交関係のシートが当接するときに形成されるものなど、6つの丸みのない角部56(図5)に位置する溶接部などの連続的な溶接部によって縁部に係合して固定される。前壁46及び後壁48は、後壁48における取付穴58と、前壁46におけるアクセス穴60と、付属品取付穴62などの所望の任意の他の特徴部とを含むように成形ステップ24などで予成形され得る。前壁46及び後壁48又は他の壁も予成形され得、非平坦又は平坦であり得るが、溶接固定具によって係合するように付勢されたときに縁部の形状を取るのに十分な可撓性を有し得ることが考えられる。米国特許第9,381,880号明細書にさらに記載されているように、形成されたビームは、例えば、前壁及び後壁を形成するより厚いシートと、剪断壁を形成するより薄いシートとを有することも考えられる。この特許は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0018】
図2Cを再び参照すると、溶接ステーション38から出ると、形成された構成要素40は、複数の時効ステップの残りの時効ステップ16を通して熱処理されて、車両構成要素40’全体にわたって概して均質にT6又はT7調質状態を実現することができる。したがって、追加の時効ステップ16は、少なくとも、より均質な材料特性を提供し、T6調質を有するアルミニウム合金を溶接した後に通常であれば存在するであろう腐食の問題を低減又は排除する。熱処理後の最終調質状態では、アルミニウム合金車両構成要素40’は、概してより腐食を受けにくく、且つより一貫した材料強度を有する。したがって、T6又はT7調質状態を実現するための熱処理又は時効プロセス全体がステップ14及び16などの少なくとも2つのステップに分けられて、これらのステップ間でシートが溶接されることを可能にし、それにより過度の熱処理を避ける。過度の熱処理は、不要な熱処理の余計な時間及び費用に加えて、構成要素の幾何学的形状を歪め、時間と共に溶接不良を引き起こす可能性がある。T6又はT7調質状態が実現されると、構成要素は、粉末コーティング塗料焼付けの結果など、さらに熱処理され得ることが考えられる。したがって、塗料焼付け操作前の最終調質状態は、構成要素が受ける後続の熱処理を見込んでおり、不要な熱処理を防ぐことも考えられる。
【0019】
図6を参照すると、多段プロセス110の追加の実施形態は、アルミニウム合金を成形して展伸材、すなわちシート130にすることを含む。図7Aにも図示されるステップ112で示されるものなど、シート130は、W調質状態で形成される。それにより、シート130は、圧延機131から出る。圧延機131は、圧延機131に送給されるアルミニウム原料133を加工する。図1に示される実施形態と同様に、次いで、アルミニウムシート130は、ステップ114での第1の時効ステップを通して、例えば約100℃で約5~6時間にわたり、又はさもなければ、展伸材がT6若しくはT7調質状態を実現するのに十分でない温度及び期間で熱処理され得る。ステップ114での初期熱処理の実施時、シート130は、図6においてステップ120で示されるものなど、在庫として保管されるか、又は第2の場所若しくは施設に配送若しくは輸送され得る。
【0020】
図7Aのステップ115に示されるものなど、第1の時効ステップ114の前又は後に、シート130を巻いてコイル132にすることができる。図7Bに示されるような複数のコイル132は、第1の時効ステップ114の適用された熱及び持続時間により、有害な腐食又は歪を概して受けることなく、しばらくの間、例えば最大約30日にわたって室温で在庫として保管されるか又は輸送され得る。例えば、図7Cに示されるように、複数の加工ステップ122は、アルミニウムシート130に対して行われるものとして例示されている。図6及び7Cに示されるステップは、シート130がストックロールコイル132から解かれて、水平方向に真っ直ぐにロール成形機に送給されることを含む。ロール成形機は、例えば、第1のローラの組134’及び第2のローラの組134’’を有する図示のローラ成形機である。第1のローラの組134’及び第2のローラの組134’’のそれぞれは、シート30に異なる形状を与えて所望の形状を形成するように構成される。その形状は、少なくとも1つの取り囲まれた領域を有するビームであり得る。ロール成形機から出ると、溶接機136が提供されて、シート130を溶接及び固定して所望の形状にすることができ、例えばシートの長さに沿ってシートの側縁部をシートの別の部分に溶接して、少なくとも1つの管形状を取り囲むことにより、シート130を溶接する。所望の形状は、シートの縁部を溶接しない異なる断面形状にすることができ、又はシートの両方の側縁部を溶接できることも考えられる。
【0021】
溶接ステーション136から出ると、溶接された管形状は、図7Cに示されるものなど、スイープステーション138によって屈曲又はスイープされて、例えば車両バンパ又はバンパ領域の空気力学的形状に適合するなどの所望の湾曲にすることができる。連続的なビーム又は湾曲したプロファイルをある長さの区域に切断して、複数の部品を提供することもできる。それらの部品は、車両又は他の用途のための構造フレーム部材又はエネルギー吸収部材などの構成要素をそれぞれ画定することができる。例えば、形成された車両構成要素140は、図8~10に示されるものなどの車両補強ビームを提供するように構成され得る。それにより、取り囲まれたビームの長さ及び湾曲は、車両バンパの前部又は後部湾曲設計に適合され得る。また、ビームの断面形状は、所望のエネルギー吸収特性に適合され得る。図10に示されるように、構成要素140は、ロール成形されて、その長さに沿った概して一定の断面形状と、2つの取り囲まれた管状区域142とを提供する。シート130の両側の縁部144は、前壁146の後面に取着するように湾曲される。構成要素140は、剛性及び強度の向上のために前壁146に沿って形成されるチャネル又は補強リブ147も含み得る。
【0022】
図6及び7Cを再び参照すると、加工ステップ122中、シート130は、構成要素140に沿って幾何学的及び冶金学的に強固な溶接部を形成するように溶接され得る。それにより、溶接による局所的な熱により、溶接されるシートの部分又は熱感受性区域は、W調質状態に戻り得る。次いで、形成された構成要素140は、複数の時効ステップの残りの時効ステップ116を通して熱処理されて、車両構成要素140’全体にわたって概して均質にT6又はT7調質状態を実現することができる。それにより、追加の時効ステップ116は、少なくとも、より均質な材料特性を提供し、T6調質を有するアルミニウム合金を溶接した後に通常であれば存在するであろう腐食の問題を低減又は排除する。熱処理後の最終調質状態では、アルミニウム合金構成要素は、概してより腐食を受けにくく、且つより一貫した材料強度を有する。したがって、T6又はT7調質状態を実現するための熱処理又は時効プロセス全体がステップ114及び116などの少なくとも2つのステップに分けられて、これらのステップ間でシートが溶接されることを可能にし、それにより過度の熱処理を避ける。過度の熱処理は、不要な熱処理の余計な時間及び費用に加えて、構成要素の幾何学的形状を歪め、時間と共に溶接不良を引き起こす可能性がある。
【0023】
図11を参照すると、多段プロセス210の追加の実施形態は、アルミニウム合金を成形して展伸材、すなわち押出成形品にすることを含む。ステップ212に示されるものなど、押出成形品は、W調質状態で成形される。それにより、この押出成形品は、アルミニウム原料を加工する押出ダイから出る。上述した実施形態と同様に、次いで、アルミニウム押出成形品230は、ステップ214での第1の時効ステップを通して人工時効又は熱処理され得、例えば中間調質状態を実現するか、又はさもなければ、展伸材がT6若しくはT7調質などの最終調質状態を実現するのに十分でない熱及び/又は持続時間で時効する。ステップ214での初期熱処理の実施時、押出成形品は、ステップ220で示されるものなど、在庫として保管されるか、又は第2の場所若しくは施設に配送若しくは輸送され得る。在庫から取り出されるか又は次の段階に輸送されると、展伸材は、図11においてステップ222で示されるものなど、加工されて構成要素部品を形成することができる。構成要素部品は、想定される用途の中でもとりわけ車両又は家具の構成などに関して、様々な種類又は形状の構成要素であり得ることが考えられる。形成された構成要素は、図11に示されるように、残りの時効ステップ216を通して熱処理されて、例えば構成要素40全体にわたって概して均質に最終調質状態を実現することができる。
【0024】
本明細書で論じる全般的な方法又は成形ステップに関して、それらのステップは、論じられたものと異なる様々な順序で実施されて、所望の構成要素若しくはビーム又はその一部の形成を同様にもたらすことができる。
【0025】
本明細書で使用するとき、アルミニウム合金に関する調質記号は、以下のように理解される。W調質は、溶体化熱処理後に自発的に時効する合金にのみ適用される。一方、T調質は、安定した調質状態を生成するために、補助的なひずみ硬化を伴って又は伴わずに熱処理される製品に適用される。T調質は、T6など、常にその後に1つ又は複数の数字が付く。この数字は、溶体化処理され、次いで人工時効される合金を表す。すなわち、T6調質は、(a)溶体化処理後に冷間加工されない製品、又は(b)平坦化若しくは真直化における冷間加工の効果が機械的特性限界で認識され得ない製品に適用される。T7調質は、溶体化熱処理及び過時効/安定化処理される合金を表す。すなわち、T7調質は、(a)何らかの重要な特性若しくは特徴の制御を提供するように実現可能な最大値を超えて強度を増加させるために、溶体化熱処理後に人工時効される展伸材、又は(b)寸法及び強度の安定性を提供するために、溶体化処理後に人工時効される鋳造品に適用される。
【0026】
また、本開示の目的のために、「上部」、「下部」、「右」、「左」、「後」、「前」、「垂直」、「水平」という用語及びそれらの派生語は、図5の向きでの本発明に関するものとする。しかし、本発明は、逆であることが明示的に指定されている場合を除いて、様々な代替の向きを取り得ることが理解される。添付図面に示し、本明細書に記載した特定のデバイス及びプロセスは、添付の特許請求の範囲に定義されている発明概念の単なる例示的な実施形態であることも理解される。したがって、本明細書に開示されている実施形態に関する特定の寸法及び他の物理的特性は、他に特許請求の範囲に明示的に述べられていない限り、限定と見なされるべきではない。
【0027】
具体的に述べた実施形態に対する変更形態及び修正形態は、本発明の原理から逸脱することなくなされ得る。本発明は、特許法の原則に従って解釈される添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。本開示は、例示的に述べられてきた。また、使用された用語は、性質上、限定ではなく説明のための言葉として意図されていることが理解される。上記の教示に照らして、本開示の多くの修正形態及び変形形態が可能である。本開示は、具体的に述べたものと異って実施され得る。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11