IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】多価金属イオン電池及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20240213BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240213BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20240213BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20240213BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240213BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20240213BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240213BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240213BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240213BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240213BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240213BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0568
H01M10/36 A
H01M4/583
H01M4/38 Z
H01M4/80 C
H01M4/66 A
H01M10/0569
H01M10/058
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/62 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019551668
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 US2018020430
(87)【国際公開番号】W WO2018175082
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】15/463,543
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0302697(US,A1)
【文献】特表2016-536743(JP,A)
【文献】特表2016-513354(JP,A)
【文献】特表2017-506812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0301096(US,A1)
【文献】特開2017-033913(JP,A)
【文献】国際公開第2007/052742(WO,A1)
【文献】特表2013-516037(JP,A)
【文献】特開平06-124708(JP,A)
【文献】特開2011-198600(JP,A)
【文献】特開2014-093192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
H01M 10/0568
H01M 10/36
H01M 4/583
H01M 4/38
H01M 4/42
H01M 4/44
H01M 4/46
H01M 4/80
H01M 4/66
H01M 10/0569
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードとイオン接触する電解質とを含む多価金属イオン電池であって、
前記アノードが、アノード活物質として、Ba、La、又はその組合せから選択される多価金属又はその合金を含有し、
前記カソードが、X線回折によって測定した場合、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張したグラファイト平面間の間隔を有するグラファイト又はカーボン材料のカソード活性層を含み、
前記多価金属イオン電池が、前記多価金属又はその合金を支持するアノード集電体を含み、前記アノード集電体が、相互連結細孔を含む電子伝達路の多孔性ネットワークを形成するように相互連結している導電性のナノメートルスケールのフィラメントの集積ナノ構造を含有し、前記フィラメントが500nm未満の寸法を有し、
前記多価金属イオン電池が、3.0ボルトより高い平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、400mAh/gより高いカソード比容量を有する
ことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項2】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記カソード活性層中の前記カーボン又はグラファイト材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボン繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項3】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記カーボン又はグラファイト材料が、細孔及び細孔壁を有するグラファイトフォーム又はグラフェンフォームから選択され、前記細孔壁が0.45nm~1.5nmの膨張した面間隔d002を有する結合グラフェン平面の積層を含有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項4】
請求項に記載の多価金属イオン電池において、前記積層が、2~100のグラフェン平面を含有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項5】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記面間隔d002が0.5nm~1.2nmであることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項6】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記面間隔d002が1.2nm~2.0nmであることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項7】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記フィラメントが、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー及びその組合せからなる群から選択される導電性材料を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項8】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記カーボン又はグラファイト材料が、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素又はホウ素から選択される非炭素元素を含有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項9】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質、イオン液体電解質から選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項10】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、NiSO、ZnSO、MgSO、CaSO、BaSO、FeSO、MnSO、CoSO、VSO、TaSO、CrSO、CdSO、GaSO、Zr(SO、Nb(SO、La(SO、BeCl、BaCl、MgCl、AlCl、Be(ClO、Ca(ClO、Mg(ClO、Mg(BF、Ca(BF、Be(BF、トリ(3,5-ジメチルフェニルボラン、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、グリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPhBu、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu)又はその組合せを含有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項11】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属窒化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項12】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、カルシウム、ベリリウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、窒化物、塩化物、臭化物又は過塩素酸塩から選択されて少なくとも1種の金属イオン塩を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項13】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項14】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、前記カソードにおけるカチオン、アニオン又は両方を含むイオンの可逆性のインターカレーション及び脱インターカレーションも支持することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項15】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、カーボン又はグラファイト材料の前記カソード活性層が、分離体又は追加のカソード集電体を含まない前記多価金属イオン電池の放電の間に電子を収集するためのカソード集電体として機能することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項16】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、カーボン又はグラファイトの前記カソード活性層が、前記カーボン又はグラファイト材料を一緒に結合してカソード電極層を形成する導電性結合剤材料をさらに含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項17】
請求項16に記載の多価金属イオン電池において、前記導電性結合剤材料が、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、導電性ポリマー、ポリマーカーボン又はその誘導体を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項18】
多価金属イオン電池の製造方法であって、当該方法が、
(a)Ba、La、若しくはその組合せから選択される多価金属又はその合金を含有するアノードを供給するステップであって、前記アノードにおいて多価金属又はその合金を支持するための導電性ナノフィラメントの多孔性ネットワークを供給するステップと;
(b)0.40nm~2.0nmの膨張した面間隔d002を有するカーボン又はグラファイト材料を含有するカソードを供給するステップと;
(c)前記アノードにおける前記多価金属の可逆性堆積及び溶解並びに前記カソードにおけるイオンの可逆性吸着/脱着及び/又はインターカレーション/脱インターカレーションを支持することができる電解質を供給するステップと
を備え、
前記多価金属イオン電池が、3.0ボルトより高い平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、400mAh/gより高いカソード比容量を有する
ことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記カーボン又はグラファイト材料が、0.40nm~2.0nmの面間隔を有する複数のグラフェン平面から構成される細孔壁を有するグラファイトフォーム又はグラフェンフォームを含有することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、前記電解質が、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質又はイオン液体を含有することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法において、カソードを供給するステップが、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せから選択される膨張処理と、をカーボン又はグラファイト材料に受けさせるステップを備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によって本明細書に組み込まれる、2017年3月20日出願の米国特許出願第15/463,543号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、再充電可能な多価金属電池(例えば、亜鉛-、ニッケル-又はマグネシウムイオン電池)の分野、特に、膨張した面間隔を有するグラファイト又はカーボン材料の新規群を含有する高容量カソード層、及び多価金属イオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的に、今日最も好まれている再充電可能なエネルギー貯蔵デバイスであるリチウムイオン電池は、アノードとしてリチウム(Li)金属及びカソードとしてLiインターカレーション化合物(例えば、MoS)を使用する再充電可能な「リチウム金属電池」から実際に発展した。Li金属は、その軽量(最軽量金属)、高い電気陰性度(-3.04V対標準水素電極)及び高い理論的容量(3,860mAh/g)のため、理想的なアノード材料である。これらの秀逸な特性に基づき、リチウム金属電池は高エネルギー密度応用のための理想的なシステムとして40年前に提案された。
【0004】
純粋なリチウム金属のいくつかの安全性における問題点のため、現在はリチウムイオン電池を製造するために、リチウム金属の代わりにアノード活物質としてグラファイトが導入されている。これまでの20年間、エネルギー密度、レート能力及び安全性に関してLiイオン電池において絶え間ない改良が見られている。しかしながら、Liイオン電池でのグラファイトベースのアノードの使用には、いくつかの重要な欠点がある:低い比容量(Li金属に関する3,860mAh/gとは対照的な372mAh/gの理論的容量)、長い再充電時間(例えば、電気自動車電池に関して7時間)を必要とする長いLiインターカレーション時間(例えば、グラファイト及び無機酸化物粒子内及び外のLiの低いソリッドステート拡散係数)、高いパルス電力をもたらすことが不可能であること、並びにプレリチウム化カソード(例えば、酸化コバルトに対してリチウム酸化コバルト)を使用することが必要であること。それによって利用可能なカソード材料の選択が制限される。さらに、これらの一般に使用されるカソード活物質は、比較的低いリチウム拡散係数を有する(典型的にD約10-16~10-11cm/秒)。これらのファクターは、現在のLiイオン電池の1つの主要な欠点、中程度のエネルギー密度(典型的に150~220Wh/kgセル)であるが、非常に低い電力密度(典型的に<0.5kW/kg)に寄与している。
【0005】
電気自動車(EV)、再生可能なエネルギー貯蔵及び現代のグリッドアプリケーションに関して、スーパーキャパシタが考えられている。(電解コンデンサよりも10~100倍高い)スーパーキャパシタの比較的高い体積容量密度は、多孔性電極を使用して、拡散二重層電荷の形成を補助する大きい表面積を作成することから生じる。この電気二重層容量(EDLC)は、電圧が印加される時に固体電解質界面において自然に生じる。これは、スーパーキャパシタの比容量が、電極材料、例えば活性炭の比表面積に正比例することを意味する。この表面積は電解質が接近可能でなければならず、且つ得られる界面の区域はEDLC電荷を受け入れるために十分大きくなければならない。
【0006】
このEDLCの機構は表面イオン吸着に基づくものである。必要とされるイオンは液体電解質中に前もって存在し、そして反対側の電極から到達しない。言い替えれば、陰極(アノード)活物質(例えば、活性炭粒子)の表面で堆積する、必要とされるイオンは、陽極(カソード)側から到達せず、そしてカソード活物質の表面で堆積する、必要とされるイオンは、アノード側から到達しない。スーパーキャパシタが再充電される場合、局所的な陽イオンが陰極の表面付近に堆積し、それらのマッティング陰イオンが(典型的に局所的分子又は電荷のイオン分極によって)並列して付近に留まっている。他の電極においては、陰イオンが、この陽極の表面付近に堆積し、マッティング陽イオンが並列して付近に留まる。再び、アノード活物質及びカソード活物質間のイオンの交換はない。
【0007】
いくつかのスーパーキャパシタにおいて、貯蔵されたエネルギーは、いくつかの局所的電気化学反応(例えば、酸化還元)による擬似容量の効果によってさらに増大する。そのような擬似コンデンサにおいても、酸化還元対に関与するイオンは、同一電極に前もって存在する。再び、アノード及びカソード間のイオンの交換はない。
【0008】
EDLCの形成には化学反応又は2つの対電極間のイオンの交換を伴わないため、EDLスーパーキャパシタの充電又は放電プロセスは非常に速く、典型的に数秒であり、非常に高い電力密度(典型的に3~10kW/kg)をもたらすことが可能である。電池と比較して、スーパーキャパシタはより高い電力密度を提供し、維持管理を必要とせず、より高いサイクル寿命をもたらし、非常に単純な充電回線を必要とし、そして一般により安全である。化学的というよりもむしろ物理的なエネルギー貯蔵は、それらの安全な作動及び極めて高いサイクル寿命の主要な理由である。
【0009】
スーパーキャパシタの肯定的な特質にもかかわらず、種々の工業的応用のためのスーパーキャパシタの広範囲にわたる実行には、いくつかの技術的な障壁がある。例えば、電池と比較した場合、スーパーキャパシタは非常に低いエネルギー密度を有する(例えば、鉛酸電池に関して10~30Wh/kg及びNiMH電池に関して50~100Wh/kgであるのに対して、市販のスーパーキャパシタに関しては5~8Wh/kg)。現代のリチウムイオン電池は、セル重量に基づき、典型的に150~220Wh/kgの範囲のより高いエネルギー密度を有する。
【0010】
リチウムイオンセルに加えて、他の異なるタイプの電池:アルカリZn/MnO、ニッケル金属水素化物(Ni-MH)、鉛-酸(Pb酸)及びニッケル-カドミウム(Ni-Cd)電池が社会で広く使用されている。1860年のそれらの発明から、アルカリZn/MnO電池が高度に一般的な一次(再充電不可)電池となった。酸性塩電解質が、塩基性(アルカリ性)塩電解質の代わりに利用される場合、Zn/MnO対が再充電可能な電池を構成することができることが今や知られている。しかしながら、アルカリ二酸化マンガンの再充電可能な電池のサイクル寿命は、深放電におけるMnOと関連する不可逆性及び電気化学的に不活性な相の形成のため、典型的に20~30サイクルに限定される。
【0011】
さらに、放電の間のヘテロライト(haeterolite)(ZnO:Mn)相の形成によって、ZnがMnOの格子構造を貫入する場合、電池サイクルが逆転不可能となる。Znアノードも、内部の短絡を起こして、再充電の間のZn活物質の再分配及び樹枝状結晶の形成のため、サイクル寿命に限界がある。Ohらによって[S.M.Oh及びS.H.Kim、「Aqueous Zinc Sulfate(II)Rechargeable Cell Containing Manganese(II)Salt and Carbon Powder」、米国特許第6,187,475号明細書、2001年2月13日]、並びにKangらによって[F.Kangら、「Rechargeable Zinc Ion Battery」、米国特許第8,663,844号明細書、2014年3月4日]、これらの問題のいくつかを解決する試みがなされている。しかしながら、長期サイクル安定性及び電力密度の問題が解決されなければならない。これらの理由のため、この電池の商業化は制限されている。
【0012】
Xuらの米国特許出願公開第2016/0372795号明細書(12/22/2016)及び米国特許出願公開第2015/0255792号明細書(09/10/2015)には、カソード活物質として両方ともグラフェンシート又はカーボンナノチューブ(CNT)を利用するNi-イオン及びZn-イオンセルがそれぞれ報告された。これらの2つの特許出願は、カソード活物質重量に基づいて789~2500mAh/gの異常に高い比容量を主張するが、これらの2つのセルと関連していくつかの重大な問題がある:
【0013】
(1)典型的なリチウムイオン電池とは異なり、充電又は放電曲線(電圧対時間又は電圧対比容量)における平坦域部分がない。電圧曲線平坦域のこの欠如は、出力電圧が一定ではない(非常に変化する)ことを意味し、そして一定レベルのセル出力電圧を持続するために複雑な電圧調節アルゴリズムが必要とされるであろう。
【0014】
(2)実際に、Ni-イオンセルの放電曲線は、放電プロセスが開始するとすぐに、そして放電プロセスのほとんどの間、1.5ボルトから0.6ボルト未満への電圧の極めて急激な低下を示し、セル出力は0.6ボルト未満であり、これは非常に有用ではない。参照として、アルカリセル(一次電池)は1.5ボルトの出力電圧を供給する。
【0015】
(3)放電曲線は、イオンインターカレーションと反対に、カソードにおいて表面吸着又は電気めっき機構の特徴を示す。さらに、電池放電の間にカソードにおいて生じる主要な事象が電気めっきであるように思われる。Xuによって報告された高い比容量値は、グラフェン又はCNTの表面上で電気めっきされたNi又はZn金属の高い量を単に反映するものである。アノード中に過剰量のNi又はZnがあるため、放電時間が増加すると、電気めっきされた金属の量は増加する。残念なことに、アノード及びカソードの間の金属量の差異が減少し続けるため(より多くのZn又はNiがアノードから溶解し、そしてカソード表面で電気めっきされる)、アノード及びカソードの間の電気化学ポテンシャルの差は減少し続ける。これは、おそらくセル出力電圧が減少し続ける理由である。2つの電極における金属の量が実質的に等しくなるか、又は同一となる時、セル電圧出力は本質的にゼロになるであろう。この電気めっき機構の別の意味は、カソードの大表面上に堆積可能な金属の全量が、セル作成時にアノードに導入された金属の量によって規定されるという概念である。カソードにおけるグラフェンシートの高い比容量(最高2,500mAh/g)は、アノードで提供されるZnの過度に高い量を単に反映する。グラフェン又はCNTがなぜそれほど多くの金属を「貯蔵する」ことが可能であったかという他のいかなる理由又は機構もない。Xuらによって報告される異常に高い比容量値は、非常に低い電圧値で残念なことに生じ、そしてほとんど有用性値を有さないカソード材料表面上に電気めっきされたNi又はZnの高い量に基づいて不自然に得られたものである。
【0016】
明らかに、多価金属二次電池に関して(放電の間に高い平均電圧及び/又は高い平坦域電圧を有する)適切な放電電圧プロフィール、(低レートのみならず)高及び低充電/放電レートの両方における高い比容量、並びに長いサイクル寿命を提供する新規カソード材料に関する切迫した必要性が存在する。願わくは、得られる電池は、スーパーキャパシタのいくつかの好ましい特質(例えば、長いサイクル寿命及び高い電力密度)並びにリチウムイオン電池のいくつかの好ましい特質(例えば、中程度のエネルギー密度)を付与することが可能である。これらは本発明の主要目的である。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、アノードと、カソードと、アノードにおける(Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択される)多価金属の可逆性の堆積及び溶解を支持するためのアノード及びカソードとイオン接触する電解質とを含む多価金属イオン電池において、アノードがアノード活物質として多価金属又はその合金を含有し、且つカソードが、X線回折によって測定した場合、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張したグラファイト平面間の間隔を有するグラファイト又はカーボン材料のカソード活性層を含む、多価金属イオン電池を提供する。多価金属合金は、好ましくは、合金中に少なくとも80重量%(より好ましくは、少なくとも90重量%)の多価元素を含有する。選択可能な合金元素の種類に制限はない。
【0018】
我々は、選択された多価金属(例えば、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Ga、In又はCr)が、本発明の膨張したグラファイト平面間の間隔を有するグラファイト又はカーボン材料と組み合わせた場合、約1.0ボルト以上(たとえば0.85~3.7ボルト)において放電曲線平坦域を示すことができることを観察した。放電電圧対時間(又は容量)曲線のこの平坦域レジームによって、電池セルが有用な定電圧出力を提供することが可能となる。1ボルトより有意に低い電圧出力が一般に望ましくないと考えられる。この平坦域レジームに対応する比容量は、典型的に約100mAh/g~600mAh/gより高くまでである。
【0019】
この多価金属イオン電池は、多価金属又はその合金を支持するアノード集電体をさらに含むか、或いはカソード活性層を支持するカソード集電体をさらに含むことができる。集電体は、電子伝導路の3Dネットワークを形成するグラフェンシート、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せなどの導電性ナノフィラメントから構成されるマット、紙、布、箔又は発泡体であることが可能である。そのようなアノード集電体の高い表面積は、金属イオンの急速且つ均一の溶解及び堆積を促進するのみならず、交換電流密度を減少するようにも作用し、したがって、さもなければ内部短絡を引き起こす可能性のある金属樹枝状結晶を形成する傾向を減少するように作用する。
【0020】
膨張した面間隔を有するカーボン又はグラファイト材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、高度に配向された熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択され、ここで、カーボン又はグラファイト材料は、化学的又は物理的膨張処理の前に0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、且つ面間隔d002は膨張処理後、0.43nm~2.0nmまで増加する。
【0021】
未膨張のd間隔(例えば、0.33nm~0.42nmのd002)を有する上記でリストされたグラファイト又はカーボン材料は、少量ではあるがゼロではない量の選択された多価金属イオンを貯蔵することができることが指摘され得る。したがって、本発明は、アノードと、カソードと、アノードにおけるNi、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択される多価金属の可逆性の堆積及び溶解を支持するためのアノード及びカソードとイオン接触する電解質とを含む多価金属イオン電池において、アノードがアノード活物質として多価金属又はその合金を含有し、且つカソードが、X線回折によって測定した場合、0.33nm~0.42nmの面間隔d002を有する未膨張のグラファイト平面間の間隔を有するグラファイト又はカーボン材料のカソード活性層を含み、且つカーボン又はグラファイト材料が、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、高度に配向された熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択される、多価金属イオン電池を提供する。カーボンナノチューブ及びグラフェンはカーボン又はグラファイト材料のこのリストに含まれない。
【0022】
膨張処理としては、グラファイト又はカーボン材料の酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せが含まれる。上記手順に続いて、強制的熱膨張処理が行われてもよい。
【0023】
特定の実施形態において、膨張した面間隔を有するカーボン又はグラファイト材料は、細孔及び細孔壁を有するグラファイトフォーム又はグラフェンフォームから選択される。ここで細孔壁は、0.40nm~1.5nmの膨張した面間隔d002を有する結合グラフェン平面の積層を含有する。好ましくは、積層は、2~100のグラフェン平面(六角炭素原子平面)を含有する。
【0024】
特定の実施形態において、カーボン又はグラファイト材料の面間隔d002は0.5nm~1.2nmである。他の実施形態において、面間隔d002は1.2nm~2.0nmである。
【0025】
膨張処理のため、カーボン又はグラファイト材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素又はホウ素から選択される非炭素元素を含有することができる。
【0026】
本発明の多価金属イオン電池において、電解質は、NiSO、ZnSO、MgSO、CaSO、BaSO、FeSO、MnSO、CoSO、VSO、TaSO、CrSO、CdSO、GaSO、Zr(SO、Nb(SO、La(SO、BeCl、BaCl、MgCl、AlCl、Be(ClO、Ca(ClO、Mg(ClO、Mg(BF、Ca(BF、Be(BF、トリ(3,5-ジメチルフェニルボラン、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、アルキルグリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh2Bu2)2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu3)2)又はその組合せを含有し得る。
【0027】
本発明の特定の実施形態において、電解質は、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0028】
特定の実施形態において、電解質は、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ベリリウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、塩化物、臭化物又は過塩素酸塩から選択されて少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0029】
多価金属イオン電池において、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含む。
【0030】
特定の実施形態において、カーボン又はグラファイト材料の層は、分離体又は追加のカソード集電体を含まない電池の放電の間に電子を収集するためのカソード集電体として機能する。
【0031】
グラファイトのカソード活性層は、カーボン粒子又はグラファイト材料の繊維を一緒に結合してカソード電極層を形成する、導電性結合剤材料をさらに含んでもよい。導電性結合剤材料は、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、導電性ポリマー、ポリマーカーボン又はその誘導体から選択されてよい。
【0032】
典型的に、本発明の二次電池は、1ボルト以上(典型的に、且つ好ましくは>1.5ボルト)の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、200mAh/gより高い(好ましくは、且つより典型的に>300mAh/g、より好ましくは>400mAh/g、最も好ましくは>500mAh/gの)カソード比容量を有する。いくつかのセルは、比容量>600mAh/gを有する。
【0033】
好ましくは、二次電池は、2ボルト以上(好ましくは>2.5ボルト、より好ましくは>3.0ボルト)の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、100mAh/gより高い(好ましくは、且つより典型的に>300mAh/g、より好ましくは>400mAh/g、最も好ましくは>500mAh/gの)カソード比容量を有する。
【0034】
本発明は、多価金属イオン電池のためのカソード活性層も提供する。カソード活性層は、X線回折によって測定した場合、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張したグラフェン間の面間隔を有するグラファイト又はカーボン材料を含む。好ましくは、カーボン又はグラファイト材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、高度に配向された熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択され、ここでカーボン又はグラファイト材料は、化学的又は物理的膨張処理の前に0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、且つ面間隔d002は膨張処理後、0.43nm~2.0nmまで増加する。
【0035】
特定の実施形態において、カーボン又はグラファイト材料は、細孔及び細孔壁を有するグラファイトフォーム又はグラフェンフォームから選択される。ここで細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張した面間隔d002を有する結合グラフェン平面の積層を含有する。好ましくは、積層は、2~100のグラフェン平面(より好ましくは2~20のグラフェン平面)を含有する。
【0036】
本発明は、多価金属イオン電池の製造方法も提供する。この方法は、(a)(Ni、Zn、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In若しくはその組合せから選択される)多価金属又はその合金を含有するアノードを供給すること;(b)0.43nm~2.0nmの膨張した面間隔d002を有するカーボン又はグラファイト材料を含有するカソードを供給すること;及び(c)アノードにおける多価金属の可逆性堆積及び溶解並びにカソードにおけるイオンの可逆性吸着/脱着及び/又はインターカレーション/脱インターカレーションを支持することができる電解質を供給することを含む。好ましくは、電解質は、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質又はイオン液体を含有する。
【0037】
この方法は、多価金属又はその合金を支持するための導電性ナノフィラメントの多孔性ネットワークを供給することをさらに含む。
【0038】
いくつかの好ましい実施形態において、カーボン又はグラファイト材料は、0.40nm~2.0nmの面間隔を有する複数のグラフェン平面から構成される細孔壁を有するグラファイトフォーム又はグラフェンフォームを含有する。
【0039】
カソードを供給するステップは、好ましくは、カーボン又はグラファイト材料に、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せから選択される膨張処理を受けさせることを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A図1(A)は、インターカレート及び/又は酸化されたグラファイト、その後のはく離グラファイトワーム、並びに単純に凝集されたグラファイト又はグラフェンフレーク/プレートレットの従来の紙、マット、フィルム及び膜を製造するプロセスを例示する略図である。
図1B図1(B)は、グラファイトワームのSEM画像である。
図1C図1(C)は、グラファイトワームの別のSEM画像である。
図1D図1(D)は、膨張した面間隔を含有するグラファイト構造の製造方法を例示する略図である。
図2A図2(A)は、アノード層が多価金属の薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、膨張した面間隔(d002=0.4nm~2.0nm)を有する細孔壁を含有するグラファイトフォーム又はグラフェンフォームの層を含有する多価金属二次電池の図である。
図2B図2(B)は、アノード層が多価金属の薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、(膨張した面間隔を有筒)グラファイ又はカーボン材料の粒子又は繊維、(図示されない)導電性添加剤及び(図示されない)樹脂結合剤から構成される多価金属二次電池セルの図である。
図3A図3(A)は、2つのZn箔アノードベースセルの放電曲線であり;一方は、初期のグラファイト粒子のカソード層を含有し、他方は、膨張した面間隔を有する膨張処理されたグラファイト粒子のカソード層を含有する。
図3B図3(B)は、2つのZn箔アノードベースセルの放電曲線であり;一方は、従来の細孔壁(d間隔<0.34nm)を有するグラファイトフォームのカソード層を含有し、他方は、膨張した面間隔を有する細孔壁を含有する膨張処理されたグラファイトフォームのカソード層を含有する。
図4図4は、2つのNiメッシュアノードベースセルの放電曲線であり;一方は、初期のMCMB粒子のカソード層を含有し、且つ他方は、膨張した面間隔を有する膨張処理されたMCMB粒子のカソード層を含有する。
図5図5は、面間隔の関数としてプロットされた(Ni-イオンセルにおいてカソード活物質として使用される)多種多様なカーボンまたグラファイト材料の比容量値である。
図6図6は、(膨張した面間隔を有するMCMB粒子のカソード層を含有する)Zn-MCMBセル及び(膨張した面間隔を有する気相成長カーボンナノ繊維のカソードを含有する)V-CNFの比容量であり、両方とも、充電/放電サイクルの数の関数としてプロットされている。
図7図7は、膨張した面間隔を有する多層グラフェン細孔壁のグラフェンフォームのカソード層を含有するMg-イオンセル、及び未膨張の面間隔を有する細孔壁のグラフェンフォームのカソードを含有するMg-イオンセルの比容量であり、両方とも、充電/放電サイクルの数の関数としてプロットされている。使用された電解質は、モノグライム中1MのMgCl:AlCl(2:1)であった。
図8図8は、Mg-イオンセル(電解質=テトラヒドロフラン中1Mのトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、25℃)及びCa-イオンセル(電解質=80℃におけるEC:PC中0.45MのCa(BF)のRagoneプロットであり;アノードは、それぞれCNT及びグラフェンフォームによって支持されたか、又は支持されていないMg又はCa金属である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1(A)の上部に概略的に例示されるように、バルク天然グラファイトは、粒子境界(非晶質又は欠陥区域)が隣接するグラファイト単結晶を仕切っている状態で、それぞれのグラファイト粒子が複数の粒子(グラファイト単結晶又は結晶子である粒子)から構成されている3-Dグラファイト材料である。それぞれの粒子は、互いに平行に配向される複数のグラフェン平面から構成されている。グラファイト結晶子中のグラフェン平面又は六角炭素原子平面は、2次元の六角格子を占有する炭素原子から構成される。所与の粒子又は単結晶中、グラフェン平面は、(グラフェン平面又は底面に対して垂直である)結晶学的c方向のファンデルワールス力によって積層及び結合される。天然グラファイト材料中のグラフェン間の面間隔は約0.3354nmである。
【0042】
人工グラファイト材料も成分グラフェン平面を含有するが、それらは、X線回折の測定によると、典型的に0.32nm~0.36nm(より典型的に0.3339~0.3465nm)のグラフェン間の面間隔d002を有する。多くのカーボン又は準グラファイト材料も、それぞれ積層グラフェン平面から構成される(グラファイト結晶子、領域又はクリスタル粒子とも呼ばれる)グラファイト結晶を含有する。これらには、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズカーボン、軟質カーボン、硬質カーボン、コークス(例えば、ニードルコークス)、カーボン又はグラファイト繊維(気相成長カーボンナノ繊維若しくはグラファイトナノ繊維を含む)及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MW-CNT)が含まれる。MW-CNT中の2つのグラフェン環又は壁部の間の間隔は、約0.27~0.42nmであると報告された。だがMW-CNT中の最も一般的な間隔値は、0.32~0.35の範囲である。
【0043】
「軟質カーボン」が、2,000℃より高い(又はより典型的に2,500℃より高い)温度まで加熱時にこれらの領域が一緒に容易に統合されることが可能であるように、1領域における六角炭素平面(又はグラフェン平面)の配向及び隣接するグラファイト領域における配向が互いから不釣り合いすぎることがない、グラファイト領域を含有するカーボン材料を意味することが指摘され得る。そのような熱処理は、一般にグラファイト化と呼ばれる。したがって、軟質カーボンは、グラファイト化が可能であるカーボン材料として定義することができる。それとは対照的に、「硬質カーボン」は、より大きな領域を得るために一緒に熱的に統合できない高度に不適合に配向されたグラファイト領域を含有するカーボン材料として定義することができる。すなわち、硬質カーボンはグラファイト化が不可能である。
【0044】
天然グラファイト、人工グラファイト及び上記リストの他のグラファイトカーボン材料中のグラファイト結晶子の成分グラフェン面間隔は、グラファイト又はカーボン材料の酸化、フッ素化、塩素化、臭素化、ヨード化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、ヨード化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せを含む、いくつかの膨張処理アプローチを使用して膨張されることが可能である(すなわち、d002間隔は0.27~0.42nmの初期範囲から0.43~2.0nmの範囲まで増加する)。
【0045】
より特に、平行なグラフェン平面を比較的弱く一緒に保持するファンデルワールス力のため、天然グラファイトは、グラフェン面間隔がc軸方向における有意な膨張を提供するように増加することが可能であるように処理されることができる。これによって、膨張した間隔を有するグラファイト材料が得られるが、六角炭素層のラメラ特徴は実質的に維持される。グラファイト結晶子の(グラフェン間の間隔とも呼ばれる)面間隔は、グラファイトの酸化、フッ素化及び/又はインターカレーションを含むいくつかのアプローチを経由して増加(膨張)可能である。これは概略的に図1(D)に例示される。インターカラント、酸素含有基又はフッ素含有基の存在は、グラファイト結晶子における2つのグラフェン面間隔を増加させる。インターカレーションされたか、又は酸化されたか、又はフッ化されたグラファイトが定体積条件下で中温(150~800℃)に暴露される場合、この面間隔はさらに増加して、1.2nm~2.0nmになり得る。これは、本明細書中、強制的膨張処理と記載される。
【0046】
図1(A)に例示するように、一プロセスにおいて、天然グラファイト粒子に強酸及び/又は酸化剤をインターカレートしてグラファイトインターカレーション化合物(GIC)又はグラファイト酸化物(GO)を得ることによって、膨張された面間隔を有するグラファイト材料が得られる。グラフェン平面間の隙間間隔における化学種又は官能基の存在は、X線回折によって決定されるグラフェン間間隔d002を増加するように機能する。それによって、さもなければc軸方向に沿ってグラフェン平面を一緒に保持するファンデルワールス力が減少する。GIC又はGOは、天然グラファイト粉末(図1(A)中の100)を硫酸、硝酸(酸化剤)及び別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム又は過塩素酸ナトリウム)の混合物に浸漬させることによって最もしばしば製造される。酸化剤がインターカレーション手順の間に存在する場合、得られるGIC(102)は、実際は、いくつかのタイプのグラファイト酸化物(GO)粒子である。次いで、このGIC又はGOを水中で繰り返し洗浄及びすすいで、過剰量の酸を除去すると、水中に分散された離散的且つ視覚的に認識できるグラファイト酸化物粒子を含有するグラファイト酸化物懸濁液又は分散体が得られる。
【0047】
水は、本質的に大量の乾燥GIC又は乾燥グラファイト酸化物粒子である「膨張性グラファイト」を得るために、懸濁液から除去されてよい。乾燥GIC又はグラファイト酸化物粒子中のグラフェン間の間隔d002は、典型的に0.43~2.0nmの範囲、より典型的に0.5~1.2nmの範囲である。この膨張性グラファイトは、膨張したグラフェン間の間隔(0.43nm~2.0nm)を有するグラファイトの一種である。「膨張性グラファイト」は「膨張グラファイト」ではないことが指摘され得る(後述でさらに説明される)。
【0048】
約30秒~約2分間の典型的に800~1,050℃の範囲の温度への膨張性グラファイトの曝露時に、GICは30~300のファクターで急速な体積膨張を経験し、「はく離グラファイト」又は「グラファイトワーム」(104)を形成する。グラファイトワームは、それぞれ、相互連結したままの、はく離されたが、主に分離されないグラファイトフレークの集合である(図1(B)及び図1(C))。はく離グラファイトにおいて、個々のグラファイトフレーク(それぞれ、一緒に積層した1~数百のグラフェン平面を含有する)が互いから高度に間隔を置いて、典型的に2.0nm~200μmの間隔を有する。しかしながら、それらは、物理的に相互連結したままであり、アコーディオン又はワーム様構造を形成し、したがって、「グラファイトワーム」という名称である。
【0049】
グラファイト産業において、グラファイトワームは、典型的に0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲の厚さを有する可撓性グラファイトシートを得るために再圧縮が可能である。本発明において、カソード活物質又はその前駆体は、それが再圧縮されて所望の特性レベル又は物理的密度のカソード層を形成する前に、グラファイトワームの細孔中に組み込まれる。
【0050】
代わりに、グラファイト産業において、主に100nmより薄いグラファイトフレーク又はプレートレットを含有する、いわゆる「膨張グラファイト」フレーク(108)を製造する目的でグラファイトワームを単純に破壊するために、低強度エアミル又はせん断機を使用することが選択されてもよい(したがって、定義上、ナノ材料ではない)。「膨張グラファイト」は「膨張性グラファイト」ではなく、また同様に「はく離グラファイトワーム」ではないことは明らかである。むしろ、「膨張性グラファイト」は、「グラファイトワーム」を得るために熱的にはく離可能であり、これは次に、さもなければ相互連結したグラファイトフレークを破壊して「膨張グラファイト」フレークを得るために、機械的せん断を受けさせることができる。
【0051】
代わりに、はく離グラファイト又はグラファイトワームは、我々の米国特許出願第10/858,814号明細書(米国特許出願公開第2005/0271574号明細書)において開示された通り、分離された単層及び多層グラフェンシート(集合的にナノグラフェンプレートリット又はNGP、112と呼ばれる)を形成するために、(例えば、超音波処理機、高せん断混合機、高強度エアジェットミル又は高エネルギーボールミルを使用して)高強度機械的せん断を受けさせてもよい。単層グラフェンは0.34nm程度の薄さであることが可能であるが、他方、多層グラフェンは100nmまでであるが、より典型的に3nm未満の厚さを有することが可能である(一般に数層グラフェンと呼ばれる)。製紙プロセスを使用して、複数のグラフェンシート又はプレートレットからNGP紙(114)を製造してもよい。
【0052】
GIC又はグラファイト酸化物において、グラフェン間の平面分離は、天然グラファイトでの0.3354nmから高度に酸化されたグラファイト酸化物での0.5~1.2nmへと増加し、隣接する平面を保持するファンデルワールス力を有意に弱くさせる。グラファイト酸化物は、2重量%~50重量%、より典型的に20重量%~40重量%の酸素含有量を有することができる。GIC又はグラファイト酸化物は、本明細書中、「強制的熱膨張」として記載される特別な処理を受けてもよい。GIC又はグラファイト酸化物が炉中(例えば、800~1,050℃において)熱衝撃に暴露され、そして支障なく膨張することが可能である場合、最終製品は、はく離グラファイトワームである。しかしながら、GIC又はグラファイト酸化物が、150℃~800℃(より典型的に300℃~600℃)の温度で加熱されながら、強制条件(例えば、型中で定体積条件下又は一軸圧縮下でオートクレーブ中に封入される)を受ける場合、膨張の範囲は強制されることが可能であり、そして製品は、1.0nm~3.0nm又は1.2nm~2.0nmの面間隔を有することが可能である。
【0053】
「膨張性グラファイト」又は膨張した面間隔を有するグラファイトは、GOの代わりにグラファイトフッ化物(GF)を形成することによって入手され得ることが指摘され得る。高温でのフッ素ガスにおけるグラファイトとのFの相互作用によって、(CF)から(CF)への共有結合グラファイトフッ化物が導かれるが、低温においてはグラファイトインターカレーション化合物(GIC)CF(2≦x≦24)が形成する。(CF)中、炭素原子はsp3混成化し、したがって、フッ化炭化水素層は、トランス結合したシクロヘキサンチェアからなり、波状となる。(CF)中、C原子の2分の1のみがフッ化され、且つ隣接カーボンシートの全ての対はC-C共有結合によって連結する。フッ素化反応に関する系統的な研究によると、得られるF/C比は、主に、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素の部分圧、並びにグラファイト化度、粒径及び比表面積を含むグラファイト前駆体の物理的特徴次第であることが示された。フッ素(F)に加えて、他のフッ素化剤(例えば、FとBr、Cl又はIとの混合物)が使用されてもよいが、利用可能な文献の大部分には、時々フッ化物の存在下で、Fガスによるフッ素化が関与する。
【0054】
我々は、電気化学的フッ素化から得られる軽度にフッ化したグラファイト、CF(2≦x≦24)が、典型的に、0.37nm未満、より典型的に<0.35nmのグラフェン間の間隔(d002)を有することを観察した。CF中のxが2未満(すなわち、0.5≦x<2)である場合のみ、(気相フッ素化又は化学的フッ素化手順によって製造されたフッ化グラファイトにおいて)0.5nmより大きいd002間隔を観察することができる。CF中のxが1.33未満(すなわち、0.5≦x<1.33)である場合、0.6nmより大きいd002間隔を観察することができる。この重度にフッ化したグラファイトは、好ましくは>1気圧、より好ましくは>3気圧の圧力下で十分長い時間、高温(>>200℃)におけるフッ素化によって得られる。不明確なままの理由のため、グラファイトの電気化学的フッ素化では、生成物CFは1~2のx値を有するが、0.4nm未満のd間隔を有する生成物が導かれる。グラファイト中に電気化学的に導入されたF原子はグラフェン平面間の代わりに粒子境界などの欠陥中に存在する傾向があり、したがって、グラフェン間の平面間隔を膨張するように作用しない可能性がある。
【0055】
グラファイトの窒素化は、高温(200~400℃)においてグラファイト酸化物材料をアンモニアに暴露することによって実行可能である。窒素化は、より低温で熱水法によって、例えば、GO及びアンモニアをオートクレーブ中に封着し、次いで温度を150~250℃まで増加させることによって実行されてもよい。
【0056】
N、O、F、Br、Cl又はHに加えて、グラフェン平面間の他の化学種(例えば、Na、Li、K、Ce、Ca、Fe、NHなど)の存在は、面間隔を膨張させ、その中に電気化学的に活性な材料を収容するための空領域を作成するために機能することも可能である。本研究において、グラフェン平面(六角炭素平面又は底部平面)の間の膨張した隙間の間隔が、驚くべきことに、Al+3イオン及び他のアニオン(電解質成分から誘導される)も収容可能であることが見出される。グラファイトが、その後、金属元素(Bi、Fe、Co、Mn、Ni、Cuなど)と化学的又は電気化学的にイオン交換可能であるNa、Li、K、Ce、Ca、NH又はそれらの組合せなどの化学種と電気化学的にインターカレーションすることができることが指摘され得る。全てのこれらの化学種は、面間隔を膨張するために機能することができる。
【0057】
多価金属二次電池の構造をこれより以下に議論する。
【0058】
多価金属イオン電池は、典型的に、陽極(カソード)と、陰極(アノード)と、金属塩及び溶媒を含む電解質とを含む。アノードは、多価金属、又は別の元素とのその合金;例えば、Zn中0~10重量%のSnの薄い箔又はフィルムであることが可能である。多価金属は、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択されてよい。アノードは、アノード層を形成するために結合剤(好ましくは導電性結合剤)によって充てん及び結合された多価金属又は金属合金の粒子、繊維、ワイヤー又はディスクから構成されることが可能である。
【0059】
選択された多価金属(例えば、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Mn、V、Co、Fe、Cd、Ga又はCr)は、膨張したグラフェン間の平面間隔を有する本発明のグラファイト又はカーボン材料と組み合わせた場合、放電曲線平坦域又は約1.0ボルト以上の平均出力電圧を示すことができることが観察された。電圧対時間(又は容量)曲線のこのような平坦域によって、電池セルが有用な一定電圧出力を提供することが可能となる。1ボルト未満の電圧アウトプットが一般に望ましくないと考えられる。この平坦域レジームに対応する比容量は、典型的に約100mAh/g(例えばZr又はTaに関して)から600mAh/gより高く(例えばZn又はMgに関して)までである。
【0060】
所望のアノード層構造は、電子伝導路(例えばグラフェンシート、カーボンナノ繊維又はカーボンナノチューブのマット)のネットワーク及びこの導電性ネットワーク構造の表面上に堆積された多価金属又は合金コーティングの薄層から構成される。そのような集積化されたナノ構造は、相互連結細孔を含む電子伝達路の多孔性ネットワークを形成するように相互連結している導電性のナノメートルスケールのフィラメントから構成されてよい。このフィラメントは500nm未満の横断寸法を有する。そのようなフィラメントは、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー及びその組合せからなる群から選択される導電性材料を含んでもよい。多価金属のためのそのようなナノ構造化、多孔性支持材料は、アノードにおける金属堆積溶解動力学を有意に改善することができ、得られる多金属二次セルの高いレート能力を可能にする。
【0061】
図2(A)には、アノード層が多価金属の薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、グラファイトフォーム又はグラフェンフォームの層を含有し、細孔壁が、膨張した面間隔(d002=0.4nm~2.0nm、より典型的に0.43nm~1.2nm)を有する一緒に結合した複数の六角炭素原子平面を含有する多価金属二次電池の概略図が例示される。代わりに、図2(B)は、カソード活物質層が、(膨張した面間隔を有筒)グラファイ又はカーボン材料の粒子又は繊維、(図示されない)任意選択的な導電性添加剤、及び粒子又は繊維を一緒に結合して、構造完全性のカソード活性層を形成することを補助する(図示されない)樹脂結合剤から構成される多価金属二次電池セルの図を示す。
【0062】
膨張した面間隔を有するグラファイト又はカーボン材料が、カソード活物質として導入される場合、多価金属イオンセルが一定電流密度において得られる放電電圧-時間又は電圧容量曲線において電圧平坦域部分を示すことが可能となる。この平均域部門は、典型的に所与の多価金属に本質的な比較的高い電圧値で生じ、そして典型的に、高い比容量をもたらしながら、長時間続く。グラファイト/グラフェンフォーム材料のカソード層が、膨張したグラフェン間の間隔を有する細孔壁を特徴とすることによって、多価金属セルは典型的に平坦域部分を有する放電曲線と、それに続くスーパーキャパシタ型挙動を示す。スーパーキャパシタ型の挙動(EDLC又は酸化還元)は、カソード層で使用されるフォームグラファイト/グラフェン材料の高い比表面積による。
【0063】
充電放電反応のイオン輸送媒体として機能する電解質の組成は、電池性能に重大な影響を与える。多価金属二次電池を実用化するためには、比較的低い温度(例えば、室温)でさえ金属イオン堆積溶解反応が順調に、且つ十分に進むことを可能にする必要がある。
【0064】
本発明の多価金属イオン電池において、電解質は典型的に液体溶媒中に溶解された金属塩を含む。溶媒は、水、有機液体、イオン液体、有機イオン液体の混合物などであることが可能である。特定の望ましい実施形態において、金属塩は、NiSO、ZnSO、MgSO、CaSO、BaSO、FeSO、MnSO、CoSO、VSO、TaSO、CrSO、CdSO、GaSO、Zr(SO、Nb(SO、La(SO、MgCl、AlCl、Mg(ClO、Mg(BF、アルキルグリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh2Bu2)2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu3)2)又はその組合せから選択され得る。
【0065】
電解質は、一般に、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属窒化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含み得る。
【0066】
特定の実施形態において、電解質は、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、塩化物、臭化物、窒化物又は過塩素酸塩から選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0067】
多価金属イオン電池において、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含む。
【0068】
本発明は、多価金属二次電池のための高容量カソード材料を含有するカソード活性層(正極層)に関する。本発明は、水性電解質、非水性電解質、溶融塩電解質、ポリマーゲル電解質(例えば、金属塩、液体及び液体中に溶解したポリマーを含有する)、イオン液体電解質をベースとするそのような電池をも提供する。多価金属二次電池の形状は、円筒状、正方形、ボタン様などであることが可能である。本発明は、いずれかの電池形状又は構造に限定されない。
【0069】
以下の実施例は本発明の実施の最良形態についてのいくつかの具体的な詳細を例示するために使用され、そして本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0070】
実施例1:膨張した面間隔を有するグラファイトを生成するグラファイトの酸化
Asbury Carbons(405 Old Main St.,Asbury,N.J.08802,USA)によって供給される、名目上の径が45μmである天然フレークグラファイトをミル加工し、径を約14μmまで減少させた(試料1a)。発煙硝酸(>90%濃度)、硫酸(95~98%)、塩素酸カリウム(98%)及び塩酸(37%)を含む、本研究で使用される化学薬品は、Sigma-Aldrichから購入し、且つ受け取った状態で使用された。次の手順に従ってグラファイト酸化物(GO)試料を調製した。
【0071】
試料1A:磁気撹拌棒を含有する反応フラスコに、硫酸(176mL)及び硝酸(90mL)を装填し、そして氷浴中に含浸させることによって冷却した。酸混合物を撹拌し、そして15分間冷却し、そして凝集を回避するための強力撹拌下でグラファイト(10g)を添加した。グラファイト粉末が十分撹拌した後、温度の急上昇を回避するために、塩素酸カリウム(110g)を15分かけてゆっくり添加した。室温で24時間撹拌された反応混合物からの気体発生が可能となるように、反応フラスコにゆるくキャップをかぶせた。反応完了時、混合物を8Lの脱イオン水へと注入し、そしてろ過した。硫酸イオンを除去するために、HClの5%溶液中でGOを再分散及び洗浄した。硫酸イオンが存在するかどうかを決定するために、ろ液を断続的に塩化バリウムで試験した。この試験が陰性になるまで、HCl洗浄ステップを繰り返した。次いで、ろ液のpHが中性になるまで、GOを繰り返し脱イオン水で洗浄した。GOスラリーを噴霧乾燥させ、使用されるまで60℃の減圧オーブン中に貯蔵された。
【0072】
試料1B:反応時間が48時間であったことを除き、試料1Aと同一の手順に従った。
【0073】
試料1C:反応時間が96時間であったことを除き、試料1Aと同一の手順に従った。
【0074】
X線回折の研究によると、24時間の処理後、グラファイトの有意な割合がグラファイト酸化物に変換されたことが示された。初期の天然グラファイトの0.335nm(3.35Å)の面間隔に相当する2θ=26.3度におけるピークは、24時間の深酸化処理後に強度が有意に減少し、そして(酸化度次第で)典型的に2θ=9~14度の付近にピークが出現した。本研究において、48及び96時間の処理時間に関する曲線は本質的に同一であり、本質的に全てのグラファイト結晶が6.5~7.5Åの面間隔を有するグラファイト酸化物に変換されたことが示される(26.3度ピークは完全に消滅し、そして2θ=約11.75~13.7度におけるピークが出現した)。
【0075】
実施例2:種々のグラファイトカーボン及びグラファイト材料の酸化及びインターカレーション
出発グラファイト材料が、それぞれ高度に配向された熱分解グラファイト(HOPG)、グラファイト繊維、グラファイトカーボンナノ繊維及び球状グラファイトの一片であったことを除き、試料1Bで使用された手順と同一の手順に従って、試料2A、2B、2C及び2Dを調製した。それらの最終面間隔値は、それぞれ6.6Å、7.3Å、7.3Å及び6.6Åである。それらの未処理の対応物は、それぞれ試料2a、2b、2c及び2dと記載される。
【0076】
実施例3:修正されたHummers法を使用するグラファイト酸化物の調製
グラファイト酸化物(試料3A)は、Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]に従って、硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを用いて、天然グラファイトフレーク(初期径200メッシュ、約15μmまでミル加工されたもの、試料3aと記載される)の酸化によって調製された。本実施例において、各1グラムのグラファイトに対して、22mlの濃硫酸、2.8グラムの過マンガン酸カリウム及び0.5グラムの硝酸ナトリウムの混合物が使用された。グラファイトフレークを混合物溶液中に含浸し、そして反応時間は35℃において約1時間であった。過熱及び他の安全性の問題を回避するために、十分制御された様式で過マンガン酸カリウムを硫酸に徐々に添加するように注意することは重要である。反応完了時に、混合物を脱イオン水中に注ぎ入れ、そしてろ過した。次いで、ろ液のpHが約5になるまで、試料を繰り返し脱イオン水で洗浄した。スラリーを噴霧乾燥し、そして減圧オーブン中60℃で24時間貯蔵した。Debye-Scherrer Xによって、得られたラメラグラファイト酸化物の中間層間隔が約0.73nm(7.3Å)であることを決定した。
【0077】
実施例4:膨張した面間隔を有する酸化メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)の調製
実施例3で使用された手順と同一の手順に従って、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)の酸化によってグラファイト酸化物(試料4A)を調製した。MCMBマイクロビーズ(試料4a)は、China Steel Chemical Co.によって供給された。この材料は、約2.24g/cmの密度、16μmの平均粒径及び約0.336nmの平面間距離を有する。深酸化処理後、得られたグラファイト酸化物マイクロビーズでの面間隔は約0.76nmである。
【0078】
実施例5:カーボン繊維の臭素化及びフッ素化
3.37Å(0.337nm)の面間隔及び10μmの繊維直径を有するグラファイト化カーボン繊維(試料5a)を、75℃~115℃の範囲の温度において臭素及び要素の組合せによって最初にハロゲン化し、中間生成物としてグラファイトの臭素-ヨウ素インターカレーション化合物を形成した。次いで、275℃~450℃の範囲の温度において中間生産物をフッ素ガスと反応させ、CFを形成した。CF試料のyの値は約0.6~0.9であった。X線回折曲線は、典型的に、それぞれ0.59nm及び0.88nmに相当する2つのピークの共存を示す。試料5Aは、実質的に0.59nmのピークのみを示し、そして試料5Bは実質的に0.88nmのピークのみを示す。
【0079】
実施例6:カーボン繊維のフッ素化
実施例5で得られたCF0.68試料を3時間、250℃及び1気圧において1,4-ジブロモ-2-ブテン(BrHC-CH=.CH-CHBr)の蒸気に暴露した。フッ素の3分の2がグラファイトフッ化物試料から失われたことが見出された。1,4-ジブロモ-2-ブテンは活動的にグラファイトフッ化物と反応し、フッ素がグラファイトフッ化物から除去され、そしてグラファイト格子中の炭素原子への結合が形成されることが推測される。得られる生成物(試料6A)は混合ハロゲン化グラファイトであり、おそらく、グラファイトフッ化物及びグラファイト臭化物の組合せである。
【0080】
実施例7:グラファイトのフッ素化
200~250メッシュのシーブ径の天然グラファイトフレークを約2時間、減圧下(10-2mmHg未満)で加熱し、グラファイトに含まれる残留湿分を除去した。フッ素ガスを反応器中に導入し、そして200mmHgのフッ素圧力を維持しながら、反応を375℃において120時間続行した。これは、米国特許第4,139,474号明細書において開示される、Watanabeらによって提案された手順に基づくものであった。得られた粉末生成物は黒色であった。生成物のフッ素含有量は次のように測定された:酸素フラスコ燃焼法に従って生成物を燃焼し、そしてフッ素をフッ化水素として水中に吸収させた。フッ素イオン電極を利用することによってフッ素の量を決定した。結果から、経験式(CF0.75を有するGF(試料7A)が得られた。X線回折によって、6.25Åの面間隔に相当する2θ=13.5度における主要(002)ピークが示された。
【0081】
640℃の反応温度で5時間であったことを除き、試料7Aと類似の様式で試料7Bを得た。化学組成は(CF0.93であると決定された。X線回折によって、9.2Åの面間隔に相当する2θ=9.5度における主要(002)ピークが示された。
【0082】
実施例8:カーボンコーティングされたGO粒子の調製
GO粒子(それぞれ、実施例3及び実施例4において調製されたもの)とフェノール樹脂を混合し、それぞれの場合において20体積%のフェノール樹脂を含む混合物を得ることによって、2種のポリマーカーボンコーティングされたGO試料(試料8-A及び8-B)を調製した。混合物を200℃において1時間硬化し、次いで、定体積条件下、500℃の温度においてアルゴン雰囲気中で炭化させた。次いで、炭化させられた生成物を粉砕及びミル加工して、平均直径が約13μmの1~23μmの粒子を得た。面間隔は、強制的膨張処理の前に、それぞれ、約0.73nm及び0.76nmであることが決定された。この強制的膨張処理の後、GO粒子のd間隔は、それぞれ、1.27nm及び1.48nmへと増加した(試料8-C及び8-D)。
【0083】
実施例9:カーボンコーティングされたGF粒子の調製
約14ミクロンの平均径までミル加工された天然フレークグラファイトに、実施例7に記載されたものと同一のフッ素化処理を受けさせて、そして(CF0.75であることが決定された(試料7B)。得られた粉末に、Tanakaら、米国特許第5,344,726号明細書によって提案される非晶質炭素の化学蒸着(CVD)を受けさせた。50mgの(CF0.75試料粉末を石英管反応器に入れ、次いで、アルゴンガス及びプロパンガスをそれぞれアルゴン供給ライン及びプロパン供給ラインから供給した。次いで、ニードルバルブを操縦することによって、粗ガスのプロパン濃度を10モル%に設定した。粗ガスの流速を12.7cm/分に設定し、そしてプロパンの供給量を0.05モル/時間に設定した。炭化水素又はプロパン以外のその誘導体が原材料として使用されてもよいことが指摘され得る。より特に、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素などが使用されてもよい。さらに特に、メタン、エタン、ブタン、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、アセチレン、ビフェニル及びその置換生成物が使用されてよい。粉末を約750℃において定体積条件下で炉によって加熱し、それによってパイレックスガラス管から供給されたプロパンが熱分解し、熱分解炭素がグラファイトフッ化物粉末の表面上に堆積した。得られた材料を約16.5ミクロンの微細粒子となるまでミル加工した。これは本質的に非晶質炭素によってコーティングされたGF粒子(試料9B)である。
【0084】
実施例10:膨張した面間隔を有するグラフェンフォームの調製
1つの試料において、5グラムのグラファイト酸化物を、15:85の比率でアルコール及び蒸留水からなる2,000mlのアルコール溶液と混合させ、スラリーを得た。次いで、混合物スラリーに様々な時間の長さで200Wの出力で超音波照射を受けさせた。20分の音波処理後、GOは効果的にはく離し、そして約23重量%~31重量%の酸素含有量を有する薄グラフェン酸化物シート中に分離する。得られた懸濁液は、水中に懸濁されたGOシートを含有する。キャスティングの直前に化学発泡剤(ヒドラゾジカルボンアミド)を添加した。
【0085】
次いで、ドクターブレードを使用して、せん断応力を及ぼし、GOシート配向を誘導するために、得られた懸濁液をガラス表面上にキャストした。得られたGOコーティング膜は、液体の除去後、約5~500μm(好ましくは、且つ典型的に10μm~50μm)で様々であることが可能な厚さを有する。
【0086】
グラフェンフォーム試験片を製造するために、次いで、典型的に1~8時間、80~350℃の初期熱還元温度を含む熱処理と、それに続く0.5~5時間、1,500~2,850℃の第2の温度での熱処理をGOコーティング膜に受けさせた。
【0087】
その後、数片のGO誘導グラフェンフォームに酸化処理を受けさせ、膨張した面間隔を有するグラフェン細孔壁を含有するGOフォームが製造された。
【0088】
実施例11:膨張した面間隔を有する細孔壁を有するグラファイトフォームの調製
フォームの所望の最終形状を有するアルミニウム型にピッチ粉末、顆粒又はペレットを配置する。Mitsubishi ARA-24メソフェーズピッチを利用した。試料を1トール未満まで排気し、次いで、約300℃の温度まで加熱する。この時点で、減圧を窒素ブランケットに解放し、次いで、最高1,000psiの圧力を加えた。次いで、システムの温度を800℃まで増加させた。これは2℃/分の速度で実行された。温度を少なくとも15分間保持して浸漬を達成し、次いで、炉の出力を停止し、そして約2psi/分の速度で圧力を解放しながら、約1.5℃/分の速度で室温まで冷却した。最終フォーム温度は630℃及び800℃であった。冷却サイクルの間に、圧力は大気条件まで次第に解放される。次いで、フォームを窒素ブランケット下で1050℃まで熱処理し(炭化させ)、次いで、アルゴン中で2500℃及び2800℃までグラファイトるつぼ中で別個に熱処理した。
【0089】
実施例7で使用された手順に従って、数片のグラファイトフォームにフッ素化を受けさせ、グラファイトフッ化物フォームを得た。フォームの細孔壁は、5.3~7.2nmの膨張した間隔を有する。
【0090】
実施例12:種々の多価金属イオンセルの調製及び試験
実施例1~8で調製されたカーボン又はグラファイト材料の粒子又は繊維から別々にカソード層を製造し、そして金属イオン二次電池中に組み込んだ。カソード層は次の方法で調製した。まず第一に、95重量%の膨張した面間隔を有するカーボン又はグラファイト粉末を、NMP中でPVDF(結合剤)と一緒に混合して、スラリー混合物を得た。次いで、スラリー混合物をガラス表面上にキャストして、湿式層を作成し、これを乾燥させて、カソード層を得た。グラファイトフォーム又はグラフェンフォームの層は、カソード活性層として直接使用された。
【0091】
2タイプの多価金属アノードを調製した。一方は20μm~300μmの厚さを有する金属箔であった。他方は、多価金属又はその合金を受け取るための細孔及び細孔の壁を有する電子伝導路の集積化された3Dネットワークを形成する導電性ナノフィラメント(例えばCNT)又はグラフェンシートの表面上に堆積させた金属薄コーティングであった。金属箔自体又は集積化された3Dナノ構造のいずれもアノード集電体として機能する。
【0092】
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定は、0.5~50mV/秒の典型的な走査速度でArbin電気化学ワークステーションを使用して実行した。加えて、50mA/g~10A/gの電流密度における定電流充電/放電サイクルによって、種々のセルの電気化学的性能を評価した。長期のサイクル試験のために、LANDによって製造されたマルチチャネル電池試験機を使用した。
【0093】
図3(A)は、2つのZn箔アノードベースセルの充電及び放電曲線であり;一方は、初期のグラファイト粒子(d-間隔=0.3359nm)のカソード層を有し、他方は、膨張した面間隔を有する膨張処理されたグラファイト粒子(d-間隔=0.62nm)のカソード層を含有する。使用された電解質は、水中1MのZnSOであった。これらのデータは、初期のグラファイトが非常に低いZnイオン貯蔵能を有することを示す。ゼロではないが、最小能力は、おそらくグラファイト粒子表面(比容量<5m/g)上でのZnの表面吸着又は電気めっきと関連する。それとは対照的に、膨張した面間隔は、おそらく電解質から溶解した他のイオンと一緒に、大量のZnイオンを収容及び貯蔵することができるように思われる。放電曲線は、1.15~1.35ボルトにおける長い平坦域レジーム及びほぼ300mAh/gの比容量を示す。得られたセル-準位エネルギー密度は、リチウムイオン電池のものに非常に近い、約125Wh/kgである。それにもかかわらず、亜鉛はリチウムよりも豊富で、より安全で、且つ有意に高価ではない。
【0094】
図3(B)は、2つのZn箔アノードベースセルの放電曲線を示す(一方は、膨張した面間隔を有し、他方は有さない)。これらのデータは、膨張した面間隔を有する細孔壁を含有するグラファイトフォームの本発明のカソード層が、Znイオンインターカレーションに相当する初期の平坦域レジーム及びグラファイト細孔壁上でのZnイオン又は他の電解質誘導イオンの吸着に相当する低下曲線部分を示すことを示す。セルは、膨張したd間隔を有さない従来のグラファイトフォーム(169mAh/g)を特徴とするカソードと比較して、有意により高い比容量(250mAh/g)を有する。後者は、単に、表面吸着又は電気めっき機構によってZnイオンを貯蔵することができるのみである。面間隔を膨張することによって、他のエネルギー貯蔵の好機が開かれることは明確である。これは本当に予想外であって、そして高い有用性値を有する。
【0095】
カソード活物質として膨張d間隔を有する天然グラファイト、人工グラファイト又はグラファイト繊維を使用する広範囲の多価金属イオンセルの放電曲線の典型的な平坦域電圧範囲を以下の表1に要約する。比容量は典型的に100~650mAh/gである。それはと対照的に、それぞれのタイプの電池セルに関して、未膨張のd間隔を有する相当するグラファイト又はカーボン材料は、いずれの有意な電圧平坦域レジームも可能にせず、且ついずれの有意なイオン貯蔵能(典型的に<50mAh/g)を提供しない。
【0096】
図4は、2つのNiメッシュアノードベースのNi-イオンセルの放電曲線を示す。一方は、初期のMCMB粒子のカソード層を含有し、且つ他方は、膨張した面間隔を有する膨張処理されたMCMB粒子のカソード層を含有する。再圧縮MCMBワームによって、MCMBが、大量のイオン(最高490mAh/g)を(インターカレーション)収容及び貯蔵することが可能となる。それとは対照的に、非膨張面間隔を有する初期のMCMBビーズは、非常に低い電圧準位における電気めっきのため、非常に限定された量のNiイオンを貯蔵する。未膨張のd間隔を有する多価金属-グラファイト/カーボンセルの充電又は放電曲線において、典型的に非常に短いか、又は平坦域がないレジームが存在する。
【0097】
図5は、面間隔の関数としてプロットされた多種多様なカーボンまたグラファイト材料のカソード層を含有するNi-イオンセルの比容量値である。カーボン/グラファイトカソード材料中に貯蔵可能であるNiイオン又は他のイオンの量が面間隔によって増減することは明確である。
【0098】
Zn-イオン、V-イオン及びMg-イオンセルのためのカソード活物質として使用される場合、カーボン又はグラファイト材料のタイプ、それらのそれぞれの面間隔値及び比容量値を以下の表2に要約する。
【0099】
表1及び関連チャート(図5図8)から以下の有意な観測が得られる:
(1)多価金属イオン電池のカソードにおいて使用されるカーボン又はグラファイト材料のいずれの群においても、膨張した隙間間隔(0.45nm又は4.5Åより大きい面間隔)を有するカソード材料の比容量は、それらの未膨張の間隔の対応物のものよりも有意に高い。例えば、1A、1B、1C及び1D(グラファイト酸化物)は全て1a(天然グラファイト)よりも高い。
(2)合計の比湧出量は増大する面間隔で増加する。本発明は、多価金属イオン電池に導入されたカーボン又はグラファイトカソード材料の比容量を強化するための強力なプラットホーム技術を提供する。
(3)試料8C及び8Dのデータは、インターカレーションされた、又はフッ化/酸化された炭素/グラファイト材料の強制的膨張が、隙間間隔をさらに膨張させ、より高い電荷貯蔵能を導くことができることを実証する。
(4)図6に示されるように、(膨張した面間隔を有するMCMB粒子のカソード層を含有する)Zn-MCMBセル及び(膨張した面間隔を有する気相成長カーボンナノ繊維のカソードを含有する)バナジウム-CNFセルは、非常に安定したサイクル寿命を示し、5,000充電-放電サイクル後にそれぞれ、10%及び15%未満の容量減衰を示す。本発明の多価金属イオンセルのサイクル寿命は、典型的にリチウムイオン電池のサイクル寿命よりも有意に高い。
(5)図7は、膨張した面間隔を有する多層グラフェン細孔壁のグラフェンフォームのカソード層を含有するMg-イオンセルが、未膨張の面間隔を有する細孔壁のグラフェンフォームのカソードを含有するMg-イオンセルと比較して、有意により高い比容量及びより安定なサイクル挙動をもたらすことを示す。
(6)加えて、相互連結カーボン又はグラファイトフィラメントから構成されるナノ構造ネットワーク上に(薄膜又はコーティングの形態で)多価金属を支持することによって、金属イオンセルの電力密度及び高いレート能力を有意に増加させることができることが観察された。これは、4つのセルのRagoneプロットを提供する図8に例示される:CNT支持Mgアノードと、膨張したd間隔を有するMCMBビーズを含有するカソード層とを有するMg-イオンセル、Mg箔アノード(CNT支持なし)と、膨張したd間隔を有するMCMBビーズを含有するカソード層とを有するMg-イオンセル、グラフェン支持Caアノードと、膨張したd間隔を有するMCMBビーズを含有するカソード層とを有するCa-イオンセル、及びCaアノード(グラフェン支持なし)と、膨張したd間隔を有するMCMBビーズを含有するカソード層とを有するCa-イオンセル。Mg-イオンセル及びCa-イオンセルの両方ともリチウムイオン電池のものに相当するエネルギー密度を有するが、より高い電力密度を有する。電力密度値はスーパーキャパシタのものに相当する。換言すれば、本発明の多価金属イオン電池は、リチウムイオン電池及びスーパーキャパシタの両世界におけるベストを有する。
【0100】
相互連結カーボンナノ繊維のこのナノ構造化ネットワークは、多価金属を支持して、そしてアノード側面における金属カチオンの迅速且つ均一な溶解及び堆積を促進するために、大きい表面積を提供する。そのようなネットワークを製造するために使用することが可能な他のナノフィラメント又はナノ構造としては、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー又はその組合せが含まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A-2B】
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8