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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】画像処理装置及び画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/48 20060101AFI20240213BHJP
   H04N 1/191 20060101ALI20240213BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240213BHJP
   H04N 1/60 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
H04N1/48
H04N1/191
G06T1/00 510
H04N1/60
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020002034
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021111862
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 興宜
(72)【発明者】
【氏名】村澤 孝大
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 和也
(72)【発明者】
【氏名】山縣 辰広
(72)【発明者】
【氏名】望月 勇吾
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真夫
【審査官】橋爪 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-165340(JP,A)
【文献】特開2009-135919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/04- 1/207
H04N 1/46- 1/64
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受光素子が所定の方向に配列された第1の読み取りセンサと、
複数の受光素子が前記所定の方向に配列され、前記第1の読み取りセンサと前記所定の方向に重複領域を有するように配置された第2の読み取りセンサと、
前記所定の方向と交差する交差方向における原稿と前記第1の読み取りセンサとの相対移動によって前記第1の読み取りセンサが前記原稿の画像を読み取った読み取りデータと、前記交差方向における前記原稿と前記第2の読み取りセンサとの相対移動によって前記第2の読み取りセンサが前記原稿の画像を読み取った読み取りデータと、を取得する取得手段と、
前記第1の読み取りセンサによる読み取りデータ及び前記第2の読み取りセンサによる読み取りデータに所定の画像処理を施すことにより、前記原稿の読み取り画像を生成する画像処理手段と
を備える画像処理装置であって、
前記所定の画像処理は、前記第1の読み取りセンサによる読み取りデータ及び前記第2の読み取りセンサによる読み取りデータのそれぞれを構成する複数の画素のそれぞれについて、前記受光素子により検出された複数の色成分のそれぞれに対応する複数の色信号の組み合わせを補正する色補正処理を含み、
前記画像処理手段は、
前記色補正処理を行う前に、前記第1の読み取りセンサの前記重複領域に含まれる受光素子から得られる複数の色信号と、前記第2の読み取りセンサの前記重複領域に含まれる受光素子から得られる複数の色信号とを統合して、第3の読み取りデータを生成し、
前記第1の読み取りセンサの前記重複領域に含まれない受光素子から得られる第1の読み取りデータに対する前記色補正処理と、
前記第2の読み取りセンサの前記重複領域に含まれない受光素子から得られる第2の読み取りデータに対する前記色補正処理と
前記第3の読み取りデータに対する前記色補正処理と
を互いに異なる補正特性に従って行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記画像処理手段は、前記第1の読み取りセンサ及び前記第2の読み取りセンサの前記色信号の採用又は非採用を画素ごとに定めるマスクパターンを用いることによって、前記第3の読み取りデータを生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、前記重複領域における画素位置に対応付けられた重み係数に従って、前記第1の読み取りセンサの色信号と前記第2の読み取りセンサの色信号を加重平均することによって、前記第3の読み取りデータを生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、
前記第3の読み取りデータを前記所定の方向において複数の領域に分割し、前記複数の領域のそれぞれの読み取りデータに対し、互いに異なる補正特性に従って前記色補正処理を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像処理手段は、互いに異なる3次元のルックアップテーブル又は3次元のマトリックス演算式を用いることにより、前記互いに異なる補正特性に従う前記色補正処理を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第1の読み取りセンサ及び前記第2の読み取りセンサのそれぞれで、共通の色補正用原稿を読み取ることによって得られた読み取りデータに基づいて、前記互いに異なる3次元のルックアップテーブル又は3次元のマトリックス演算式を生成する手段を更に備えることを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記色補正処理は、RGBの色信号をRGBの色信号に変換する処理であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記色補正処理は、RGBの色信号をL*a*b*の色信号に変換する処理であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記第1の読み取りセンサおよび前記第2の読み取りセンサは、互いに異なる光源を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
複数の受光素子が所定の方向に配列された第1の読み取りセンサと、
複数の受光素子が前記所定の方向に配列され、前記第1の読み取りセンサと前記所定の方向に重複領域を有するように配置された第2の読み取りセンサと、
前記所定の方向と交差する交差方向における原稿と前記第1の読み取りセンサとの相対移動によって前記第1の読み取りセンサが前記原稿の画像を読み取った読み取りデータと、前記交差方向における前記原稿と前記第2の読み取りセンサとの相対移動によって前記第2の読み取りセンサが前記原稿の画像を読み取った読み取りデータと、を取得する取得手段と、
を備える画像処理装置が、前記第1の読み取りセンサによる読み取りデータ及び前記第2の読み取りセンサによる読み取りデータに所定の画像処理を施して、前記原稿の読み取り画像を生成するための画像処理方法であって、
前記第1の読み取りセンサによる読み取りデータ及び前記第2の読み取りセンサによる読み取りデータのそれぞれを構成する複数の画素のそれぞれについて、前記受光素子により検出された複数の色成分のそれぞれに対応する色信号の組み合わせを補正する色補正処理工程を有し、
前記色補正処理工程を行う前に、前記第1の読み取りセンサの前記重複領域に含まれる受光素子から得られる複数の色信号と、前記第2の読み取りセンサの前記重複領域に含まれる受光素子から得られる複数の色信号とを統合して、第3の読み取りデータを生成し、
前記色補正処理工程において、前記第1の読み取りセンサの前記重複領域に含まれない受光素子から得られる第1の読み取りデータに対する色補正処理と、
前記第2の読み取りセンサの前記重複領域に含まれない受光素子から得られる第2の読み取りデータに対する色補正処理と
前記第3の読み取りデータに対する色補正処理と
を互いに異なる補正特性に従って行うことを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理装置及び画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大判のスキャナにおいては、複数の受光素子が配列された短尺の読み取りセンサを、原稿の幅方向に更に複数配置させ、長尺の読み取りセンサとして構成するものがある。このような読み取りセンサであれば、個々の読み取りセンサの製造時の歩留まりを向上させ、コストを低減させることができる。この際、隣接する2つの短尺の読み取りセンサにおいては、読み取り領域が互いに重複するように配置されることがある。
【0003】
特許文献1には、重複領域を設けながら複数のイメージセンサ(読み取りセンサ)を幅方向に配列させた構成において、イメージセンサ間の検出値のギャップに伴う画像ムラを補正する方法が開示されている。具体的には、2つのイメージセンサの重複領域で読み取った検出値の差分に基づいて、それぞれのイメージセンサの全受光素子の検出値を補正する。このような特許文献1によれば、隣接するイメージセンサの検出値のギャップに伴う画像ムラを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-540390号公報
【文献】特開2005-110089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、レッド、グリーン、ブルーのような単色の検出値のそれぞれについて、線形的な補正を行っている。このため、これら単色以外の色ついては補正が十分ではない場合があった。
【0006】
また、特許文献1の重複領域には、一方のイメージセンサの検出値にそのイメージセンサ用の補正をかけた領域と、他方のイメージセンサの検出値にそのイメージセンサ用の補正をかけた領域との明確な境界が存在する。このため、原稿によっては、互いに十分ではない異なる補正が行われた領域が境界で接した画像が出力され、その境界で色のギャップが認知されてしまう場合があった。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためのなされたものである。よってその目的とするところは、短尺の読み取りセンサを複数配列して構成される読み取りセンサを用いて原稿の読み取り処理を行う画像処理装置において、短尺の読み取りセンサの個体差に起因する画像ムラが抑制された画像を出力することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明は、複数の受光素子が所定の方向に配列された第1の読み取りセンサと、複数の受光素子が前記所定の方向に配列され、前記第1の読み取りセンサと前記所定の方向に重複領域を有するように配置された第2の読み取りセンサと、前記所定の方向と交差する交差方向における原稿と前記第1の読み取りセンサとの相対移動によって前記第1の読み取りセンサが前記原稿の画像を読み取った読み取りデータと、前記交差方向における前記原稿と前記第2の読み取りセンサとの相対移動によって前記第2の読み取りセンサが前記原稿の画像を読み取った読み取りデータと、を取得する取得手段と、前記第1の読み取りセンサによる読み取りデータ及び前記第2の読み取りセンサによる読み取りデータに所定の画像処理を施すことにより、前記原稿の読み取り画像を生成する画像処理手段とを備える画像処理装置であって、前記所定の画像処理は、前記第1の読み取りセンサによる読み取りデータ及び前記第2の読み取りセンサによる読み取りデータのそれぞれを構成する複数の画素のそれぞれについて、前記受光素子により検出された複数の色成分のそれぞれに対応する複数の色信号の組み合わせを補正する色補正処理を含み、前記画像処理手段は、前記色補正処理を行う前に、前記第1の読み取りセンサの前記重複領域に含まれる受光素子から得られる複数の色信号と、前記第2の読み取りセンサの前記重複領域に含まれる受光素子から得られる複数の色信号とを統合して、第3の読み取りデータを生成し、前記第1の読み取りセンサの前記重複領域に含まれない受光素子から得られる第1の読み取りデータに対する前記色補正処理と、前記第2の読み取りセンサの前記重複領域に含まれない受光素子から得られる第2の読み取りデータに対する前記色補正処理と前記第3の読み取りデータに対する前記色補正処理とを互いに異なる補正特性に従って行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短尺の読み取りセンサを複数配列して構成される読み取りセンサを用いて原稿の読み取り処理を行う画像処理装置において、短尺の読み取りセンサの個体差に起因する画像ムラが抑制された画像を出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】情報処理装置と画像処理装置の制御の構成を示すブロック図である。
図2】(a)~(c)は、スキャナユニットの概略構成図である。
図3】(a)及び(b)は、読み取りセンサの構造を示す図である。
図4】(a)及び(b)は、プリンタユニットの概略構成図である。
図5】2つの読み取りセンサの読み取り領域を説明するための図である。
図6】(a)及び(b)は、光源の分光特性と画像色との関係を示す図である。
図7】つなぎ処理を説明するための図である。
図8】読み取りデータを生成する工程を説明するためのフローチャートである。
図9】暗電流が読み取り画像に与える粒状感を示す図である。
図10】色補正テーブルの作成方法を説明するための図である。
図11】色補正処理の工程を説明するためのフローチャートである。
図12】つなぎ処理で使用する重み係数を説明するための図である。
図13】つなぎ処理を行った場合の粒状感を示す図である。
図14】色補正処理とつなぎ処理の工程を説明するためのフローチャートである。
図15】情報処理システムの別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明の実施形態について説明する。
【0012】
(第一の実施形態)
図1は、本発明に使用可能な情報処理装置100と画像処理装置200における制御の構成を示すブロック図である。本実施形態において、情報処理装置100はホストPC、タブレットPC、デジタルカメラ、スマートフォンなどとすることができる。本実施形態の画像処理装置200は、マルチファンクションプリンタ(以下、MFPと記す)であり、原稿の読み取り処理を行うスキャナユニット300と、記録媒体に対する画像の記録処理を行うプリンタユニット400とを搭載している。情報処理装置100と画像処理装置200は、ネットワーク107によって接続されている。
【0013】
MFPである画像処理装置200は、スキャナ機能、プリント機能、コピー機能を実現することができる。スキャナ機能は、スキャナユニット300で原稿を読み取り、取得した読み取りデータを情報処理装置100等に送信する機能である。プリント機能は、情報処理装置100より受信した画像データに従ってプリンタユニット400で記録媒体に画像をプリントする機能である。コピー機能は、スキャナユニット300で読み取った原稿の画像を、プリンタユニット400で記録媒体にプリントする機能である。
【0014】
情報処理装置100において、CPU101は、記憶媒体103に記憶されたプログラムに従い、RAM102をワークエリアとして利用しながら、装置全体を制御する。記憶媒体103の一例としては、ハードディスクドライブやフラッシュメモリなどが挙げられる。ディスプレイI/F104は、CPU101の指示の下、不図示のディスプレイにおける表示制御を行う。マウス・キーボードI/F105は、不図示のマウス及びキーボードより入力される情報をCPU101に伝える。タブレットPCの場合、マウス・キーボードI/F105はタッチパネル制御部となる。データ転送I/F106は、ネットワーク107とのI/Fであり、有線LANや無線LAN、またはUSBポートなどを用いることができる。
【0015】
画像処理装置200において、CPU201は、ROM202や記憶媒体205に記憶されたプログラムに従い、RAM203をワークエリアとして利用しながら、装置全体を制御する。記憶媒体205の一例としては、ハードディスクドライブやフラッシュメモリなどが挙げられる。
【0016】
スキャナコントローラ206は、CPU201の指示の下、スキャナユニット300の制御を行う。スキャナユニット300で取得された読み取りデータは、RAM203に保存される。スキャナ画像処理部207は、CPU201の指示の下、RAM203に保存された読み取りデータに対し所定の画像処理を行う。具体的には、センサユニット301に配される複数の受光素子のばらつきを補正するシェーディング補正、受光素子の出力値の線形性を整えるリニアリティ補正、その他、後述する補正処理などを行う。また、鮮鋭度を調整するフィルタ処理や、ダイナミックレンジや階調を調整する処理を行っても良い。
【0017】
スキャナユニット300は、原稿を搬送するための搬送ユニット302、原稿を読み取るためのセンサユニット301、センサユニット301が検出したアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログフロントエンド303(以下、AFE)を有する。なお、搬送ユニット302は、位置決めされた原稿に対してセンサユニット301を相対移動させる構成でも良い。
【0018】
プリンタ画像処理部208は、CPU201の指示の下、RAM203に保存された画像データに対し所定の画像処理を行い、プリンタユニット400でプリントするための新たな画像データを生成する。具体的には、画像データを構成するRGBの多値データを、プリンタユニット400が使用するインク色CMYKに応じた多値データに変換したり、変換後の多値データをドットの記録(1)又は非記録(0)を示す2値データに量子化したりする。
【0019】
プリンタコントローラ209は、CPU201の指示の下、プリンタユニット400の制御を行う。プリンタユニット400は、記録媒体に画像を記録するための記録ヘッド401、記録媒体を搬送するための搬送モータ407、記録媒体に対し記録ヘッドを移動走査させるためのキャリッジモータ408等を有している。データ転送I/F204は、ネットワーク107とのI/Fであり、有線LANや無線LAN、またはUSBポートなどを用いることができる。
【0020】
なお、画像処理装置200には、情報処理装置100を介さずにユーザからの指示を受け付けるためのディスプレイユニットや各種キースイッチを備えるオペレーションユニットが備えられていても良い。
【0021】
スキャナ画像処理部207及びプリンタ画像処理部208は、CPU201よりも高速に画像処理を実行可能な画像処理アクセラレータである。画像処理アクセラレータは、CPU201が画像処理に必要なパラメータとデータをRAM203の所定のアドレスに書き込むことにより起動され、上記パラメータとデータを読み込んだ後、読み込んだデータに対し所定の画像処理を実行する。但し、本実施形態において、画像処理アクセラレータ必須な構成要素ではない。同等の画像処理はCPU201が行ってもよい。また、画像処理に必要なパラメータは、ROM202に格納しても良いし、外部のフラッシュメモリやHDDなどの外部ストレージに格納しておいても良い。
【0022】
図2(a)~(c)は、スキャナユニット300の概略構成図である。スキャナユニット300は、主に、センサユニット301と搬送ユニット302を有する。以下、スキャナユニット300において、原稿の搬送方向をY方向、これと交差する原稿の幅方向をX方向とする。図2(a)に示すように、センサユニット301と搬送ユニット302の間に挿入された原稿Dは、搬送ユニット302によって所定の速度でY方向に搬送され、その搬送の過程でセンサユニット301によって表面の画像が読み取られる。
【0023】
図2(b)は、センサユニット301の概略構成図である。本実施形態では、幅W1を有する5つの読み取りセンサ304が、互いに重複領域を有するように配列されることにより、幅W2の読み取り幅が実現されている。本実施形態において、幅W1はA4の幅に相当し、幅W2はA0の幅に相当する。原稿検知センサ305は、原稿Dの有無を検知するためのセンサである。スキャナコントローラ206は、原稿検知センサ305の検出結果に基づいて、原稿Dの先端や後端を判断し、センサユニット301や搬送ユニット302を制御する。
【0024】
図2(c)は、搬送ユニット302の概略構成図である。原稿Dは、前搬送ローラ306及び後搬送ローラ307によって、Y方向に搬送される。前搬送ローラ306と後搬送ローラ307の間であって、個々の読み取りセンサ304に対応する位置には、原稿Dを支持するための圧板308が配されている。
【0025】
図3(a)及び(b)は、読み取りセンサ304の構造を示す図である。図3(a)は、読み取りセンサ304を原稿D側から見た図であり、同図(b)は読み取りセンサ304の断面図である。本実施形態の読み取りセンサ304は、CIS(コンタクトイメージセンサ)であり、光源311、導光体312、読み取り基板310、受光素子313、及び原稿ガラス309を有している。
【0026】
光源311は、レッド(R)、ブルー(B)、グリーン(G)のそれぞれの色を発光する発光ダイオードである。複数の受光素子313は、読み取り基板310上に600ppi(ピクセル/インチ)の密度でX方向に配列している。
【0027】
読み取り処理を行う場合、原稿Dは、図3(b)に示すように、平滑な圧板308によって平滑な原稿ガラス309に押し当てられている。圧板308と原稿ガラス309とが、原稿を平滑に支持することにより、原稿Dと受光素子313との距離が一定に維持され、読み取り画像のボケ(焦点ずれ)を防ぐことができる。
【0028】
読み取り処理が開始され原稿検知センサ305が原稿を検知すると、スキャナコントローラ206は、原稿Dを所定の速度で搬送させながら、光源311を点灯させる。カラーの読み取り処理の場合は、R,G,Bそれぞれの発光ダイオードを順番に点灯させる。モノクロの読み取り処理の場合は、1色分の発光ダイオードを点灯または3色全てを点灯させる。光源311より発せられた光は、導光体312によって読み取りセンサ304のX方向の全域に導かれ、原稿ガラス309を介して原稿Dに照射される。原稿Dの表面で反射した光は、再び原稿ガラス309を通りX方向に配列する複数の受光素子313によって受光される。受光素子313は、受光した光の強さに応じた電荷を貯め、溜まった電荷は、スキャナコントローラ206から指示されたタイミング、即ち1画素に対応するタイミングに同期して、AFE303によってデジタル信号値に変換される。スキャナコントローラ206は、変換後のデジタル信号値を、色ごと及び画素ごとにRAM203に保存する。RAM203に保存された読み取りデータは、その後スキャナ画像処理部207によって、所定の画像処理が施される(図1参照)。スキャナ画像処理部207が行う具体的な画像処理については後に詳しく説明する。
【0029】
図4(a)及び(b)は、プリンタユニット400の概略構成図である。以下、プリンタユニット400において、用紙の搬送方向をY方向、用紙の幅方向をX方向とする。図4(a)において、不図示の用紙は、前搬送ローラ402及び後搬送ローラ403によって、Y方向に搬送される。記録ヘッド401は、前搬送ローラ402と後搬送ローラ403の間において、ガイドシャフト405に案内支持されながら、図の±X方向に往復移動可能になっている。
【0030】
図4(b)は、記録ヘッド401における吐出口406の配列状態を示す図である。本実施形態では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のそれぞれに対応する吐出口列が、X方向に配列されている。個々の吐出口列においては、複数の吐出口406がY方向に1200dpi(ドット/インチ)の密度で配列している。以上の構成の下、記録ヘッド401がX又はX´方向に移動しながらインク吐出する記録走査と、用紙をY方向に搬送する搬送動作とを交互に繰り返すことにより、用紙上に1200dpiの解像度を有するカラー画像を記録することができる。なお、記録ヘッド401においては、画質向上のために、上記4色の他、ライトシアン(Lc)、ライトマゼンタ(Lm)、グレー(Gy)等のインクを吐出可能としてもよい。
【0031】
図5は、スキャナユニット300における2つの読み取りセンサ304の原稿D上の読み取り領域を説明するための図である。ここでは、便宜上、図の左側を第1の読み取りセンサ304A、右側を第2の読み取りセンサ304Bとする。第1の読み取りセンサ304Aと第2の読み取りセンサ304Bとは、互いにX方向に重複して配置されている。
【0032】
ここで、第1の読み取りセンサ304Aのうち、重複領域に含まれる受光素子313の群を第1の受光素子群501、第2の読み取りセンサ304Bのうち、重複領域に含まれる受光素子の群を第2の受光素子群502とする。また、Y方向に搬送される原稿Dにおいて、第1の読み取りセンサ304Aの、第1の受光素子群501以外の受光素子で読み取られる領域を第1領域とする。第2の読み取りセンサ304Bの、第2の受光素子群502以外の受光素子で読み取られる領域を第2領域とする。更に、原稿Dにおいて、第1の受光素子群と第2の受光素子によって読み取られる領域を第3領域とする。
【0033】
第1の読み取りセンサ304Aと第2の読み取りセンサ304Bでは、それぞれが個別の光源311を搭載しており、これらにはある程度の個体差が含まれる。
【0034】
図6(a)及び(b)は、光源311の分光特性の個体差と画像色との関係を示す図である。両図のグラフにおいて、横軸は波長を示し縦軸は相対光量を示す。また、実線で示すR(1)、G(1)、B(1)は、第1の読み取りセンサ304Aの光源311の、レッド、グリーン、ブルーそれぞれの分光特性を示す。破線で示すR(2)、G(2)、B(2)は、第2の読み取りセンサ304Bの光源311の、レッド、グリーン、ブルーそれぞれの分光特性を示す。これらグラフに示すように、同じ色の発光ダイオードであっても分光特性には多少のずれが含まれていることがある。
【0035】
図6(a)及び(b)のグラフには、上記光源311の分光特性に加えて、レッド画像とシアン画像の分光分布をそれぞれ太線で示している。また、各グラフの右側には、レッド画像とシアン画像の読み取り処理を行った場合の、第1の読み取りセンサ304Aと第2の読み取りセンサ304BのRGBの検出値(0~255の輝度値)をそれぞれ示している。
【0036】
図6(a)に示すように、レッド画像の場合は、RGBいずれの色についても、第1の読み取りセンサ304Aと第2の読み取りセンサ304Bとの間でRGBの検出値に然程大きな差は発生していない。これは、第1の読み取りセンサ304Aの分光特性と第2の読み取りセンサ304Bの分光特性とが互いにずれている波長の範囲において、レッドの分光分布が大きく変化せずに安定しているためである。すなわち、原稿がレッド画像である場合、第1の読み取りセンサ304Aの検出値と第2の読み取りセンサ304Bの検出値に対して特別な補正処理は必要とされない。
【0037】
一方、図6(b)に示すシアン画像の場合は、第1の読み取りセンサ304Aの分光特性と第2の読み取りセンサ304Bの分光特性とが互いにずれているG色の波長の範囲で、太線で示すシアンの分光分布が特に大きく変化している。このため、同じシアン画像を読み取った場合であっても、第1の読み取りセンサ304Aと第2の読み取りセンサ304Bの間で検出値に大きな差が発生してしまう。すなわち、原稿がシアン画像である場合、第1の読み取りセンサ304Aの出力値と第2の読み取りセンサ304Bの出力値に対して補正処理は必要とされる。
【0038】
このように、第1の読み取りセンサ304Aの出力値と第2の読み取りセンサ304Bの出力値に対する補正の要否や必要とされる補正の程度は、原稿の色によって変わる。
【0039】
以上のことより、図5の第1、第2及び第3の領域では、それぞれ個別の補正処理が行われることが好ましい。更に、5つの読み取りセンサ304を有する本実施形態においては、第1領域、第2領域のような非重複領域は5つ、第3領域のような重複領域は4つ存在することになる。すなわち、本実施形態のセンサユニット301においては、9つの領域のそれぞれに対し、個別の補正が行われることが好ましい。
【0040】
<特許文献1の補正処理>
ここでまず、図5を参照しながら、特許文献1が行っている補正処理について簡単に説明する。特許文献1では、第3の領域における、第1の受光素子群501の検出値と、第2の受光素子群502の検出値とを比較する。そして、これら検出値のギャップをなくすように、第1の読み取りセンサ304A用の補正係数と第2の読み取りセンサ304B用の補正係数を求める。その上で、第1の領域については、第1の読み取りセンサ304Aの受光素子が検出した検出値を、第1の読み取りセンサ304A用の補正係数で補正する。また、第2の領域については、第2の読み取りセンサ304Bの受光素子が検出した検出値を、第2の読み取りセンサ304B用の補正係数で補正する。更に、第3の領域については、第1の読み取りセンサ304Aと第2の読み取りセンサ304Bのうち、より中心に近い方の読み取りセンサ304の受光素子が検出した検出値を、当該読み取りセンサ304用の補正係数で補正する。そして、このような補正を、RGBのそれぞれについて行う。
【0041】
このような特許文献1において、例えば、第3の領域がレッド画像である原稿を読み取った場合、第1の領域でも第2の領域でもGの検出信号に対して殆ど補正は行われないことになる。しかしながら、同じ原稿の第1の領域と第2の領域がシアン画像であった場合、読み取り後の画像において、第1の領域と第2の領域の間では、Gの検出信号においてΔ=31の色のずれが発生してしまう(図6参照)。
【0042】
加えて、特許文献1の場合、第3の領域には、第1の読み取りセンサ304Aの検出値に基づく領域と、第2の読み取りセンサ304Bの検出値に基づく領域との明確な境界が存在する。このため、互いに異なる読み取りセンサ由来の領域が、境界を介して接した画像が出力され、原稿によっては境界で色のギャップが認知されてしまうことがある。
【0043】
このように、原稿画像の第3の領域のみに基づいて、各読み取りセンサの検出値に対し、RGBごとの補正を行う特許文献1の構成では、全ての画像色について原稿全体の色補正を適切に行うことができなかった。
【0044】
<本実施形態の色補正処理>
以下、本実施形態のスキャナ画像処理部207が実行する色補正処理について説明する。スキャナ画像処理部207は、スキャナコントローラ206がRAM203に保存した読み取りデータに対して、色補正処理を行う。ここで、読み取りデータとは、600dpiの画素ごとに保存されたRGBの検出値の群であり、読み取りセンサ304ごとに保存されている。すなわち、図5に示す第1の読み取りセンサ304Aの読み取りデータ503と、第2の読み取りセンサ304Bの読み取りデータ504とは、RAM203において個別に保存されている。
【0045】
スキャナ画像処理部207は、まず、第1の読み取りセンサ304Aの読み取りデータ503と、第2の読み取りセンサ304Bの読み取りデータ504の両方が存在する第3領域に対し所定のつなぎ処理を行う。これにより、第3領域の各画素について1つの検出値が決定する。
【0046】
図7は、つなぎ処理を説明するための図である。本実施形態では、つなぎ処理を行うために第1のマスクパターン701と第2のマスクパターン702を用いる。このようなマスクパターンは、予めROMに保存されているものとする。
【0047】
第1のマスクパターン701は、第1の読み取りデータ503における検出値の採用又は非採用を画素ごと設定する。第2のマスクパターン702は、第2の読み取りデータ504の検出値の採用又は非採用を画素ごと設定する。それぞれのマスクパターンにおいて、X方向は原稿の幅方向すなわち受光素子313の配列方向に相当し、Y方向は原稿の搬送方向に相当する。また、黒は検出値を採用とする画素を示し、白は検出値を非採用とする画素を示す。
【0048】
図7に示すように、第1のマスクパターン701と第2のマスクパターン702とは、互いの補完の関係を有している。スキャナ画像処理部207は、第1のマスクパターン701を用いて第1の読み取りデータ503を構成する個々の画素の検出値の採用又は非採用を決定する。また、第2のマスクパターン702を用いて第2の読み取りデータ504を構成する個々画素の検出値の採用又は非採用を決定する。これにより、第3領域に含まれる全ての画素は、第1の受光素子群501から得られた検出値又は第2の受光素子群502から得られる検出値のどちらか一方に決定される。
【0049】
図7に見るように、第1のマスクパターン701においても、第2のマスクパターン702においても、検出値の採用率は、読み取りセンサ304の端部から中央に向かって徐々に増加している。つまり、第3領域において、第1の読み取りセンサ304Aの検出値を採用する画素と第2の読み取りセンサ304Bの検出値を採用する画素は、互いに混在しながら、その割合が緩やかに変化する状態となる。その結果、つなぎ処理後の読み取りデータにおいて、第1の読み取りセンサ304Aの検出値から第2の読み取りセンサ304Bの検出値に切り替わる明確な境界は存在せず、読み取り画像において特定の位置で色のギャップが認識されることはない。
【0050】
なお、図7では、図5に示す第3の領域を対象として説明したが、5つの読み取りセンサ304を用いる本実施形態において、つなぎ処理を必要とする重複領域は4か所存在する。すなわち、スキャナ画像処理部207は、4箇所すべての重複領域において、上記つなぎ処理を実行する。
【0051】
図8は、スキャナ画像処理部207が、上記つなぎ処理を行いながら、RAM203に保存されている複数の読み取りセンサの読み取りデータを統合して、1つの読み取りデータを生成する工程を説明するためのフローチャートである。本処理は、スキャナユニット300による読み取り処理が開始され、複数の読み取りセンサ304の読み取りデータが、RAM203にある程度蓄積された時点で開始される。
【0052】
本処理が開始されると、スキャナ画像処理部207は、まず、S801において、X方向に配列するN個(本実施形態では5個)の読み取りセンサ304の中から、1番目(J=1)の読み取りセンサ304の読み取りデータを取得する。S802において、スキャナ画像処理部207は、変数JをJ=2とする。
【0053】
S803において、スキャナ画像処理部207は、J番目の読み取りセンサ304の読み取りデータを取得する。更に、S804において、スキャナ画像処理部207は、(J-1)番目の読み取りセンサ304の読み取りデータとJ番目の読み取りセンサ304の読み取りデータとのつなぎ処理を行う。すなわち、第1のマスクパターン701と第2のマスクパターン702を用いて、重複領域に対応する領域の検出値の採用又は非採用を決定する。
【0054】
S805において、スキャナ画像処理部207は、S804でつなぎ処理が行われ、検出値が決定した領域の読み取りデータを、RAM203に確保された長尺メモリに保存する。
【0055】
その後、スキャナ画像処理部207は、S806で変数Jをインクリメントし、S807でJ≦Nであるか否かを判定する。J≦Nの場合、スキャナ画像処理部207は、S803に戻り、J番目の読み取りセンサ304の処理を繰り返す。S807においてJ>Nの場合、本処理を終了する。
【0056】
図8で説明した処理により、個々の画素とRGBの検出値が1対1で対応付けられた読み取りデータが生成される。そして、このように生成された読み取りデータに基づく読み取り画像においては、特定の位置で色のギャップが目立つことはない。
【0057】
しかしながら、上記つなぎ処理によって特定の位置での色のギャップは緩和されるものの、読み取り画像全体においては、図6で説明した光源の分光特性の差に起因する色の差は含まれたままである。更に、本発明者らの検討によれば、上記つなぎ処理を行うことによって、粒状感という新たな課題も確認された。
【0058】
図9は、読み取りセンサに流れる暗電流が読み取り画像に与える粒状感を示す図である。暗電流とは、光電効果を示す受光素子において、熱的原因や結晶欠陥などによって、入射光がないときにも流れてしまう出力電流のことである。暗電流が流れることによって、個々の受光素子の出力電流にノイズが乗り、読み取り画像においては、画像の粒状感として感知される。
【0059】
このような粒状感は、反射光が少ない高濃度の画像を読み取ったときに顕著になる。更に、ノイズの振幅や周期は読み取りセンサごとに異なるため、読み取り画像における粒状感も、各読み取りセンサに対応する領域ごとに異なる特徴を有する。
【0060】
図9では、第1の読み取りセンサ304Aの読み取り画像901、第2の読み取りセンサ304Bの読み取り画像902、及びつなぎ処理によって得られる読み取り画像905を模式的に示す図である。読み取り画像905において、第1の領域は、読み取り画像901と同等の粒状感を有し、第2の領域は、読み取り画像902と同等の粒状感を有している。そして、つなぎ処理が行われた第3の領域においては、第1の領域とも第2の領域とも異なる特徴の粒状感が感知される。これは、第1の領域でのノイズの空間周波数特性と第2の領域でのノイズの空間周波数特性のほかに、つなぎ処理で使用するマスクパターンの空間周波数が加わってしまうためである。このような粒状感の違いは、読み取り画像において、色相や明度のような色成分の差となって感知される。すなわち、つなぎ処理を行うことによって得られる読み取り画像においては、特定の位置で色のギャップを抑制することはできるが、第1の領域、第2の領域、第3の領域のそれぞれで粒状感の違いや色ずれが感知される場合があった。
【0061】
以上説明したことに鑑み、本発明者らは、第1の領域、第2の領域、第3の領域のような領域ごとに、個別の色補正処理を行うことが有効であるという知見に至った。そのために、本実施形態では領域ごとに個別の色補正テーブルを用意する。
【0062】
図10は、色補正テーブルの作成方法を説明するための図である。まず、領域ごとに読み取りが可能な、共通の色補正用原稿1000を用意する。色補正用原稿1000には、RGBの3次元色空間において座標位置が一様に分布する複数の色パッチが記録されている。そして、それぞれの領域で色補正用原稿1000の読み取り処理を行い、上述したつなぎ処理を行う。
【0063】
その後、特許文献2などに開示されている公知のカラーマッチング技術に基づいて、色補正用の3次元ルックアップテーブル(以下、3D-LUTと称す)を領域ごとに作成する。図10の場合、第1の領域用の3D-LUT1001、第2の領域用の3D-LUT1003、第3の領域用の3D-LUT1002が作成される。カラーマッチング技術を採用した3D-LUTの作成に当たっては、sRGBのような標準の色規格をターゲットとすればよい。作成された3D-LUT1001~1003は、個々の領域に対応付けた状態でROM202に保存され、以後、MFP200が読み取り処理を行うたびに、スキャナ画像処理部207によってROM202より呼び出され、色補正処理のために使用される。
【0064】
なお、図10では、説明のため、第1~第3領域の3つの領域のみを示しているが、5つの読み取りセンサ304を用いる本実施形態においては、X方向に9つの領域が存在する。すなわち、それぞれの領域で色補正用原稿1000に対する読み取り処理、つなぎ処理、3D-LUTの生成処理及び保存処理が行われることになる。
【0065】
以上のような、3D-LUTを生成し保存するための一連の処理は、MFP200を出荷する際に工場で行われてもよいが、キャリブレーションモードとして、着荷後にユーザの指示などによって適切なタイミングで行われる形態としてもよい。
【0066】
3D-LUT1001~1003は、MFP200が読み取り処理を行う際、スキャナ画像処理部207によってROM202より呼び出され、色補正処理のために使用される。
【0067】
3D-LUT1001~1003は、各読み取りセンサ304の検出値から得られる色座標(R,G,B)を、標準となるRGB空位間における色座標(R,G,B)に対応付けるための変換テーブルである。すなわち、これら3D-LUT1001~1003を用いた変換処理を行うことによって、各画素のRGBの輝度値の組み合わせはRGBの輝度値の別の組み合わせに変換される。そして、このような変換処理を行うことにより、いずれの読み取りセンサ304の検出値RGBも、標準の色空間における輝度値を表現可能なRGBに変換される。その結果、補正後の読み取り画像においては、読み取りセンサの個体差に起因する色ずれは緩和される。
【0068】
図11は、スキャナ画像処理部207が行う色補正処理の工程を説明するためのフローチャートである。本処理は、図8のフローチャートで説明したつなぎ処理後の読み取りデータが、RAM203に保存された時点で開始される。
【0069】
本処理が開始されると、スキャナ画像処理部207は、まず、S1101において、RAM203の長尺メモリに保存されている読み取りデータを読み出す。
【0070】
S1102において、スキャナ画像処理部207は、S1101で読み出した読み取りデータを、図5の第1~第3領域のように複数の領域に分割する。
【0071】
S1103において、スキャナ画像処理部207は、S1102で分割した領域の中から1つの領域を選択する。
【0072】
S1104において、スキャナ画像処理部207は、ROM202に保存されている複数の3D-LUTの中から、S1103で選択した領域に対応する3D-LUTを読み出す。
【0073】
S1105において、スキャナ画像処理部207は、S1104で読み出したLUTを用い、S1103で選択した領域を構成する個々の画素について検出値の変換処理を行う。すなわち、各画素の検出値に対応するRGBの輝度値の組み合わせを、RGBの輝度値の別の組み合わせに変換する。
【0074】
S1106において、スキャナ画像処理部207は、S1105で変換した後の読み取りデータを長尺バッファに保存する。
【0075】
S1107において、スキャナ画像処理部207は、S1102で分割した領域のうち、色補正処理が行われていない領域が残っているか否かを判定する。残っている場合はS1103に戻り、次の領域についての色補正処理を行う。一方、全ての領域について色補正処理が完了した判定した場合、本処理は終了する。
【0076】
以上説明した本実施形態によれば、複数の読み取りセンサの重複領域に対応する画像領域に対して、予め用意したマスクパターンを用いたつなぎ処理を行う。その上で、個々の領域に対応付けて予め用意された3D-LUTを用いることにより、個々の領域のRGB値を別のRGB値に変換する。これにより、特定の位置での色のギャップや領域間の色ずれが抑えられた、原稿に則した読み取り画像を出力することが可能となる。加えて、本実施形態によれば、予め記憶されている3D-LUTを用いた変換処理を行っているため、原稿の読み取り時に補正係数の算出と補正処理を行う特許文献1に比べて、処理の負荷を軽減し読み取り画像を高速に生成することができる。
【0077】
なお、図10では、重複領域に対応する第3の領域について1つの3D-LUTを用意する形態で説明した。しかし、重複領域において更に細かい段階的な色ずれが懸念されるような場合には、当該領域の中をさらに細かく分割し、それぞれの領域で異なる3D-LUTを用意してもよい。
【0078】
(第2の実施形態)
本実施形態においても、図1図4で説明した画像処理装置を用いる。本実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、つなぎ処理の方法である。ここで、再度図5を参照する。本実施形態では、第3の領域に含まれる画素の検出値を、所定の重み係数に従って、第1の受光素子群501の検出値と第2の受光素子群502の検出値を加重平均することによって算出する。
【0079】
図12は、つなぎ処理で使用する重み係数を説明するための図である。重み係数1201は、第1の受光素子群501の検出値に対する重み係数α1である。重み係数1202は、第2の受光素子群502の検出値に対する重み係数α2である。重み係数α1、α2は、重複領域においてX方向の画素位置に応じて段階的に変化し、いずれの画素位置でもα1+α2=1が満足されるように設定されている。すなわち、任意の画素に対応する第1の受光素子群501の検出値をS1、第2の受光素子群502の検出値をS2とすると、その画素のつなぎ処理後の検出値Sは、以下の式によって求められる。
S=α1・S1+α2・S2
【0080】
重み係数α1及びα2については、読み取りセンサの端部に向かって徐々に減少する形態であれば、これらを変化させる段階数は特に限定されない。例えば4段階に変化させる場合は、第3の領域を更に4つの領域に区分し、それぞれの領域でα1+α2=1となるようにα1とα2を設定すればよい。
【0081】
また、
N:重複領域を等分割して得られる領域数
S1(j):j番目の領域の第1の読み取りセンサの検出値
S2(j):j番目の領域の第2の読み取りセンサの検出値
としたとき、j番目の領域の検出値(j)を以下の式に基づいて求めてもよい。
S(j)=S1×(1-j/N)+S2×(j/N)
【0082】
本実施形態のつなぎ処理を行った場合も、第1の実施形態と同様、特定の位置での色のギャップを緩和することができる。また、本実施形態によれば、図9を用いて説明したつなぎ領域における粒状感の悪化も、抑制することができる。
【0083】
図13は、第3の領域を4つの領域に区分して本実施形態のつなぎ処理を行った場合の粒状感を示す図である。第1の読み取りセンサ304Aの読み取り画像901、第2の読み取りセンサ304Bの読み取り画像902、及びつなぎ処理によって得られる読み取り画像1300を模式的に示している。読み取り画像1300において、第1の領域は、読み取り画像901と同等の粒状感を有し、第2の領域は、読み取り画像902と同等の粒状感を有している。そして、つなぎ処理が行われた第3の領域においては、第1の領域の粒状感と第2の領域の粒状感が段階的に平均化されて、粒状感が抑制された領域となる。
【0084】
その後、第1の実施形態と同様の方法で色補正処理を行うことにより、特定の位置での色のギャップや領域間の色ずれが抑えられた、原稿に則した読み取り画像を得ることができる。この際、第3の領域においては、つなぎ処理のために区分した複数の領域ごとに3D-LUTを用意してもよい。このようにすることで、重複領域における色の補正精度を更に高めることができる。
【0085】
(第3の実施形態)
本実施形態においても、図1図4で説明した画像処理装置を用いる。第1、第2の実施形態では、つなぎ処理を行ってから色補正処理を行う形態としたが、本実施形態では、色補正処理を行ってからつなぎ処理を行う形態とする。すなわち、本実施形態において、3D-LUTは、原稿上の領域ごとではなく読み取りセンサ304ごとに用意する。
【0086】
図14は、本実施形態のスキャナ画像処理部207が行う色補正処理とつなぎ処理の工程を説明するためのフローチャートである。
【0087】
本処理が開始されると、スキャナ画像処理部207は、まず、S1501において、X方向に配列するN個(本実施形態では5個)の読み取りセンサ304の中から、1番目(J=1)の読み取りセンサ304の読み取りデータを取得する。
【0088】
S1502において、スキャナ画像処理部207は、ROM202に保存されている複数の3D-LUTの中から、1番目の読み取りセンサ304に対応する3D-LUTを読み出す。
【0089】
S1503において、スキャナ画像処理部207は、S1502で読み出した3D-LUTを用い、S1501で取得した読み取りデータの色補正処理を行う。
【0090】
S1504において、スキャナ画像処理部207は、変数JをJ=2とする。
【0091】
S1505において、スキャナ画像処理部207は、J番目の読み取りセンサ304の読み取りデータを取得する。
【0092】
S1506において、スキャナ画像処理部207は、ROM202に保存されている複数の3D-LUTの中から、J番目の読み取りセンサ304に対応する3D-LUTを読み出す。
【0093】
S1507において、スキャナ画像処理部207は、S1506で読み出した3D-LUTを用い、S1505で取得した読み取りデータの色補正処理を行う。
【0094】
S1508において、スキャナ画像処理部207は、(J-1)番目の読み取りセンサ304の色補正処理後の読み取りデータとJ番目の読み取りセンサ304の色補正処理後の読み取りデータとのつなぎ処理を行う。つなぎ処理の方法としては、第1の実施形態のようにマスクパターンを用いてもよいし、第2の実施形態のように色ごとに加重平均処理を行ってもよい。
【0095】
S1509において、スキャナ画像処理部207は、S1508でつなぎ処理が行われた領域の読み取りデータを、RAM203に確保された長尺メモリに保存する。
【0096】
その後、スキャナ画像処理部207は、S1510で変数Jをインクリメントし、S1511でJ≦Nであるか否かを判定する。J≦Nの場合、スキャナ画像処理部207は、S1505に戻り、J番目の読み取りセンサ304の処理を繰り返す。S1511においてJ>Nの場合、本処理を終了する。
【0097】
以上説明した本実施形態によれば、読み取りセンサ304に適した色補正処理によって共通の色空間にマッピングされた後の読み取りデータを用いて、つなぎ処理が行われることになる。すなわち、読み取りセンサ304の個体差に起因する色のギャップが補正された状態でつなぎ処理を行うことができるため、特定の位置における色のギャップは緩和される。また、本実施形態の場合、色補正用の3D-LUTは、読み取りセンサ304の数だけ用意すればよく、上記実施形態に比べて3D-LUTを保存するためのメモリ領域を抑えることができる。
【0098】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、スキャナユニット300とプリンタユニット400とを搭載したMFP200を用いる形態としたが、スキャナ機能とプリント機能とは異なる装置に備えられていてもよい。
【0099】
図15は、スキャナ機能を備えたスキャナ装置600と、プリント機能を備えたプリンタ800と、情報処理装置100とがネットワーク107を介して接続された情報処理システムを示す図である。図15のような形態であっても、情報処理装置100、スキャナ装置600及びプリンタ800との連携によって、スキャナ機能、プリント機能、コピー機能を実現することができる。本形態の場合、情報処理装置100は、スキャナ600におけるスキャナ動作と、プリンタ800におけるプリント動作とを同時に実行させることができる。そして、本形態の場合は、スキャナユニット300が取得した読み取りデータに対し上記実施形態で説明した一連の画像処理を行うスキャナ装置600が、本発明の画像処理装置となる。
【0100】
また、第1~第3の実施形態では、色補正処理のために3D-LUTを用意したが、RGBの3次元色空間における任意の座標(R、G、B)を目的の色を表現可能な別の座標(R、G、B)に変換することができれば、変換方法は特に限定されない。例えば、キャリブレーション処理では、色補正用原稿1000の読み取りデータに基づいて3次元のマトリックス演算式を領域ごとに求め、このマトリックス演算式をROM202に記憶する形態としてもよい。この場合、原稿の読み取り処理を行う際は、読み出した演算式を用いて変換先の座標を算出することになる。
【0101】
この際、3次元の色空間は、必ずしもRGBを座標軸とした色空間でなくてもよい。例えば、個々の読み取りセンサから得られた検出値の輝度値RGBを、L***空間のL値、a値、b値に変換する形態であってもよい。いずれにしても、色空間において1つの座標を定める色信号の組み合わせを、別の座標を定める色信号の組み合わせに変換する形態であればよい。そして、その変換が、領域ごとに用意された補正特性に従って行われる形態であれば、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0102】
また、以上の実施形態では、受光素子313としてCISを配列した読み取りセンサ304を用いたが、受光素子としてはCCDを用いることもできる。CCDを用いる場合、図6で説明したような光源由来の分光特性のズレは存在しないが、3色のフィルタの色特性のずれが発生する。すなわち、CCDが配列された読み取りセンサ用いる場合であってもCISが配列された読み取りセンサ用いた場合と同じ課題は発生し、上記実施形態は有効に機能する。
【0103】
更に、以上では、画像処理アクセラレータであるスキャナ画像処理部が、図11図14のフローチャートに従って領域ごと又は読み取りセンサ304毎に色補正処理を行う形態で説明した。しかしながら、画像処理アクセラレータとしては、GPUのような並列処理が可能な構成をとることもできる。この場合には、3D-LUTの読み出しや検出値の変換処理のような負荷の重い処理を、領域ごと又は読み取りセンサ毎に並行して行うことができ、上記画像処理全体を更に高速に行うことができる。
【0104】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0105】
200 画像処理装置
206 スキャナコントローラ
207 スキャナ画像処理部
304A 第1の読み取りセンサ
304B 第2の読み取りセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15