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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】画像形成方法及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20240213BHJP
   G03G 9/093 20060101ALI20240213BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240213BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G03G9/08
G03G9/093
G03G9/097 372
G03G15/20 510
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020005522
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021113861
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩衣
(72)【発明者】
【氏名】船谷 和弘
(72)【発明者】
【氏名】梅田 健介
(72)【発明者】
【氏名】小林 進介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正道
(72)【発明者】
【氏名】田中 正健
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056897(JP,A)
【文献】特開2005-148455(JP,A)
【文献】特開2002-258514(JP,A)
【文献】特開2019-211774(JP,A)
【文献】特開2019-012188(JP,A)
【文献】特開2011-033671(JP,A)
【文献】特開2009-288587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
G03G 13/20
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、該記録材に形成された該トナー画像を該記録材に定着する定着部と、を有する画像形成装置による画像形成方法であって、
該定着部が、定着フィルムと、該定着フィルムの内部空間に設けられている加熱部材と、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該画像形成方法が、該トナー画像が形成された該記録材を該定着ニップ部で挟持搬送しつつ該トナー画像を該記録材に定着する定着工程を有し、
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含むトナーであって、
該有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有し、
R-SiO3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示し、
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、
走査透過型電子顕微鏡によって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
であり、
該加圧部材と該定着フィルムの圧接圧をσ(MPa)、該記録材が該定着ニップ部にて挟持搬送されるときの該定着フィルムの表面の温度における該トナーの貯蔵弾性率をG(MPa)としたとき、下記式(3)及び(4)を満た
10.0MPa≧G≧0.060MPa (3)
10.0×σ≧G≧σ×0.6 (4)
該定着部通過後の該記録材上の該トナーのうち最表面に存在するトナーの形状残存率が
60%以上であることを特徴とする、画像形成方法。
【請求項2】
前記凸部は、前記凸高さHが40nm以上300nm以下である「特定高さ凸部」を含み、
該特定高さ凸部のうち、該凸幅Wに対する該凸径Dの比D/Wが、0.33以上0.80以下である特定高さ凸部の個数割合P(D/W)が70個数%以上である、請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記特定高さ凸部において、前記凸高さHの累積分布をとり、前記凸高さHの小さい方から積算して80個数%にあたる前記凸高さをH80としたとき、該H80が65nm以上である、請求項に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記展開画像において、
前記直線の長さLに対する、前記凸幅Wの総和ΣWの割合(ΣW/L)が、0.30以上0.90以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記有機ケイ素重合体の前記トナー母粒子に対する固着率が80質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項6】
走査型電子顕微鏡による前記トナーの観察において、前記有機ケイ素重合体の前記凸部の最大径を凸径Rとしたときに、該凸径Rの個数平均径が20nm以上80nm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項7】
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、該記録材に形成された該トナー画像を該記録材に定着する定着部と、を有する画像形成装置による画像形成方法であって、
該定着部が、定着フィルムと、該定着フィルムの内部空間に設けられている加熱部材と該加熱部材を保持する保持部材と、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該画像形成方法が、該トナー画像が形成された該記録材を該定着ニップ部で挟持搬送しつつ該トナー画像を該記録材に定着する定着工程を有し、
該保持部材は、該加熱部材における該定着フィルムの内面と摺動接触する面と同じ高さの面を、該加熱部材よりも該記録材搬送方向下流側に有し、
該面よりもさらに該記録材搬送方向下流側において、該面よりも該加圧部材側に突き出た凸部により段差を有し、
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含むトナーであって、
該有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有し、
R-SiO3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示し、
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、
走査透過型電子顕微鏡によって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
であり、
該加圧部材と該定着フィルムの圧接圧をσ(MPa)、該記録材が該定着ニップ部にて挟持搬送されるときの該定着フィルムの表面の温度における該トナーの貯蔵弾性率をG(MPa)としたとき、下記式(3)及び(4)を満た
10.0MPa≧G≧0.060MPa (3)
10.0×σ≧G≧σ×0.6 (4)
ことを特徴とする、画像形成方法。
【請求項8】
前記段差は、前記定着ニップ部の領域外に存在する、請求項に記載の画像形成方法。
【請求項9】
前記段差の高さhが、0.01mm~1.00mmである、請求項又はに記載の画像形成方法。
【請求項10】
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、該記録材に形成された該トナー画像を該記録材に定着する定着部と、を有する画像形成装置であって、
該定着部が、定着フィルムと、該定着フィルムの内部空間に設けられている加熱部材と、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含むトナーであって、
該有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有し、
R-SiO3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示し、
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、
走査透過型電子顕微鏡によって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
であり、
該加圧部材と該定着フィルムの圧接圧をσ(MPa)、該トナーの貯蔵弾性率をG’(MPa)としたとき、下記式(3’)及び(4’)を満た
10.0MPa≧G’≧0.060MPa (3’)
10.0×σ≧G’≧σ×0.6 (4’)
該定着部通過後の該記録材上の該トナーのうち最表面に存在するトナーの形状残存率が60%以上である
ことを特徴とする、画像形成装置。
【請求項11】
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、該記録材に形成された該トナー画像を該記録材に定着する定着部と、を有する画像形成装置であって、
該定着部が、定着フィルムと、該定着フィルムの内部空間に設けられている加熱部材と該加熱部材を保持する保持部材と、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該画像形成方法が、該トナー画像が形成された該記録材を該定着ニップ部で挟持搬送しつつ該トナー画像を該記録材に定着する定着工程を有し、
該保持部材は、該加熱部材における該定着フィルムの内面と摺動接触する面と同じ高さの面を、該加熱部材よりも該記録材搬送方向下流側に有し、
該面よりもさらに該記録材搬送方向下流側において、該面よりも該加圧部材側に突き出た凸部により段差を有し、
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含むトナーであって、
該有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有し、
R-SiO 3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示し、
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、
走査透過型電子顕微鏡によって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
であり、
該加圧部材と該定着フィルムの圧接圧をσ(MPa)、該記録材が該定着ニップ部にて挟持搬送されるときの該定着フィルムの表面の温度における該トナーの貯蔵弾性率をG(MPa)としたとき、下記式(3)及び(4)を満たし、
10.0MPa≧G≧0.060MPa (3)
10.0×σ≧G≧σ×0.6 (4)
ことを特徴とする、画像形成装置。
【請求項12】
前記貯蔵弾性率G’が、150℃における前記トナーの貯蔵弾性率である、請求項10又は11に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トナーを用いて記録材に画像を形成する画像形成方法及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法においては、まず、像担持体を種々の手段で帯電し、露光することにより像担持体表面に静電荷潜像を形成する。次いで、静電荷潜像をトナーで現像してトナー画像を形成し、紙などの転写材にトナー画像を転写する。その後、熱、圧力、又は加熱加圧により転写材上にトナー画像を定着して複写物又はプリントを得る。
プリントされた画像、特に文字画像の視認性を向上させる目的で、画像の低グロス化が求められている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-276825号公報
【文献】特開2008-97041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像を低グロスにする手段としては、定着後にトナーが完全に溶融して画像表面が平滑化しないよう、トナー母粒子を熱的にある程度硬くする(トナー母粒子の貯蔵弾性率を高くする)ことが知られている。しかし、そのようなトナーを用いると、定着後の用紙上のトナーが定着フィルムに移行して部材を汚染しまう、オフセットが発生する場合があることがわかった。
この汚染は、続く印刷画像に汚れとして現れ、画像弊害を生じる。部材汚染の対策として、定着温度を上げることでトナーと紙との接着性を良くすることが考えられるが、同時に画像のグロスも上がることになるため、低グロスとのトレードオフとなる。このように、画像の低グロス化と部材汚染の抑制の両立が課題となっている。
本開示は、画像の低グロス化と定着フィルムへのトナー汚染の抑制を両立可能な画像形成方法及び画像形成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第一の画像形成方法は、
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、該記録材に形成された該トナー画像を該記録材に定着する定着部と、を有する画像形成装置による画像形成方法であって、
該定着部が、定着フィルムと、該定着フィルムの内部空間に設けられている加熱部材と、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該画像形成方法が、該トナー画像が形成された該記録材を該定着ニップ部で挟持搬送しつつ該トナー画像を該記録材に定着する定着工程を有し、
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含むトナーであって、
該有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有し、
R-SiO3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示し、
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、
走査透過型電子顕微鏡によって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
であり、
該加圧部材と該定着フィルムの圧接圧をσ(MPa)、該記録材が該定着ニップ部にて挟持搬送されるときの該定着フィルムの表面の温度における該トナーの貯蔵弾性率をG(MPa)としたとき、下記式(3)及び(4)を満た
10.0MPa≧G≧0.060MPa (3)
10.0×σ≧G≧σ×0.6 (4)
該定着部通過後の該記録材上の該トナーのうち最表面に存在するトナーの形状残存率が60%以上であることを特徴とする。
【0006】
本開示の第二の画像形成方法は、
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、該記録材に形成された該トナー画像を該記録材に定着する定着部と、を有する画像形成装置による画像形成方法であって、
該定着部が、定着フィルムと、該定着フィルムの内部空間に設けられている加熱部材と、該加熱部材を保持する保持部材と、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該画像形成方法が、該トナー画像が形成された該記録材を該定着ニップ部で挟持搬送しつつ該トナー画像を該記録材に定着する定着工程を有し、
該保持部材は、該加熱部材における該定着フィルムの内面と摺動接触する面と同じ高さの面を、該加熱部材よりも該記録材搬送方向下流側に有し、
該面よりもさらに該記録材搬送方向下流側において、該面よりも該加圧部材側に突き出た凸部により段差を有し、
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含むトナーであって、
該有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有し、
R-SiO3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示し、
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、
走査透過型電子顕微鏡によって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
であり、
該加圧部材と該定着フィルムの圧接圧をσ(MPa)、該記録材が該定着ニップ部にて挟持搬送されるときの該定着フィルムの表面の温度における該トナーの貯蔵弾性率をG(MPa)としたとき、下記式(3)及び(4)を満たす、
G≧0.060MPa (3)
G≧σ×0.6 (4)
ことを特徴とする。
【0007】
本開示の画像形成装置は、
記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、該記録材に形成された該トナー画像を該記録材に定着する定着部と、を有する画像形成装置であって、
該定着部が、定着フィルムと、該定着フィルムの内部空間に設けられている加熱部材と、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含むトナーであって、
該有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有し、
R-SiO3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示し、
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、
走査透過型電子顕微鏡によって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
であり、
該加圧部材と該定着フィルムの圧接圧をσ(MPa)、該トナーの貯蔵弾性率をG’(MPa)としたとき、下記式(3’)及び(4’)を満たす、
G’≧0.060MPa (3’)
G’≧σ×0.6 (4’)
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、画像の低グロス化と定着フィルムへのトナー汚染の抑制を両立可能な画像形成方法及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】画像形成装置の断面模式図
図2】定着装置の断面模式図
図3】トナーのSTEMによる断面観察で得られる画像の模式図
図4】有機ケイ素重合体の凸部の断面模式図
図5】凸径D>凸高さHである比較例の凸部の断面模式図
図6】トナーの形状残存率を求めたSEM画像の一例
図7】用紙上に出力したトナーの断面模式図
図8】定着装置の用紙搬送方向下流側の断面模式図
図9】実施例で用いた画像
図10】第二の実施形態における定着装置の用紙搬送方向下流側の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記画像形成方法及び画像形成装置の実施形態について説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0011】
[第一の実施形態]
(画像形成方法及び画像形成装置)
第一の実施形態に係る画像形成装置を、図1に示す画像形成装置を用いて説明する。なお、後述する定着部の加圧力にかかる条件以外は、一般的なモノクロの画像形成装置と同じ構成である。
図1に示す画像形成装置は、像担持体としてドラム型の電子写真感光体(感光ドラム)1を備えている。感光ドラム1は、装置本体100によって回転自在に支持されており、駆動手段(不図示)によって矢印Ra方向にプロセススピード約130mm/sec(レターサイズ用紙で23枚/分)で回転駆動される。なお、プロセススピードは130mm/secに限定されず、任意に設定することができる。
【0012】
感光ドラム1の周囲には、その回転方向Raに沿って順に、帯電ローラ(帯電装置)2、露光手段3、現像装置4、転写ローラ(転写装置)5が配設されている。ここで、転写ニップ部Ntを形成する転写部材として感光ドラム1と転写ローラ5が機能する。
装置本体100の下部には、記録材(用紙)Pを収納した用紙カセット(給紙トレイ)11が配設されている。そして、用紙Pの搬送経路(図中矢印)に沿って順に、給紙ローラ12、搬送ガイド28、定着入口ガイド27、定着部(定着装置)6、排紙ローラ14が配置されている。画像形成装置は、トナーを有するトナー容器を備えていてもよい。
【0013】
不図示の駆動手段によって矢印Ra方向に回転駆動された感光ドラム1は、帯電ローラ2によって所定の極性、所定の電位に一様に帯電される。帯電後の感光ドラム1は、その表面に対しレーザー光学系等の露光手段3によって画像情報に基づいた画像露光がなされ、露光部分の電荷が除去されて静電潜像が形成される。静電潜像は、現像装置4によって現像される。現像装置4は、現像ローラ41を有し、この現像ローラ41に現像バイアスを印加して感光ドラム1上の静電潜像にトナーを付着させトナー像(トナー画像)として現像(顕像化)する。
そして、トナー像は、転写ローラ5によって用紙Pに転写される。用紙Pは、用紙カセット11に収納されており、給紙ローラ12によって給紙され、搬送ガイド28に沿って感光ドラム1と転写ローラ5との間の転写ニップ部Ntに搬送される。転写ローラ5には、転写バイアスが印加され、これにより、感光ドラム1上のトナー像が用紙P上の所定の位置に転写される。
上述した、感光ドラム1、帯電ローラ2、露光手段3、現像装置4、転写ローラ5が、記録材Pに未定着のトナー画像を形成する画像形成部を構成している。
【0014】
定着工程について説明する。定着工程においては、転写によって表面に未定着トナー像を担持した(未定着トナー像が形成された)用紙Pが、定着入口ガイド27に沿って定着装置6の定着ニップ部Nfへ搬送される。定着ニップ部Nfで、未定着トナー像が加熱及び加圧されて用紙P表面に定着される。トナー像定着後の用紙Pは、排紙ガイド(図示せず)によって排紙ローラ14に導かれ、該排紙ローラ14によって装置本体100上面の排紙トレイ15上に排出される。
一方、トナー像転写後の感光ドラム1は、再度、帯電ローラ2による帯電処理がなされ、次の画像形成に供される。以上の動作を繰り返すことで、次々と画像形成を行うことができる。
【0015】
(定着部)
図1および図2に示す定着部(定着装置)6は、立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的としたフィルム加熱方式の定着装置である。
回転体としての円筒状の定着フィルム24は可撓性を有する回動可能な無端ベルトである。定着フィルムの形状は円筒状に限られず、適宜設計することができる。該定着フィルム24の内部空間には、加熱部材としてのセラミックヒータ242、該セラミックヒータ242を保持する保持部材としてのヒータホルダ241、鉄製のステー243、温度検知素子244が設けられている。該加熱部材はセラミックヒータに限定されず、公知の加熱部材を使用することができる。また、該ステーは鉄製のものに限定されず、公知のステーを使用することができる。
【0016】
また、該定着部は加圧部材(加圧ローラ)を有する。該加圧部材は、該定着フィルムを介して該加熱部材と共に定着ニップ部を形成する。図1および図2に示す定着部6において、加圧部材としての加圧ローラ23は、駆動源によって駆動され、定着フィルム24は定着ニップ部Nfで加圧ローラ23から動力を受けて従動回転する。セラミックヒータ242の熱は定着フィルム24の内面から表面に伝わり、定着ニップ部Nfで加圧ローラ23表面も加熱される。
そして、上述したように、未定着トナー像が転写された用紙Pが定着ニップ部Nfへ搬送されると、定着フィルム24と加圧ローラ23の熱が、未定着トナー像と用紙Pに伝わり、用紙Pにトナー像が定着されるようになっている。
【0017】
定着フィルムは、基層、表層の2層構成とすることが好ましい。
該基層としては特に制限されないが、ポリイミド樹脂を含有することが好ましく、ポリイミド樹脂であることが好ましい。該基層には、本開示の効果を妨げない範囲で、熱伝導率と強度を向上させるためにカーボン系のフィラーを含有することが好ましい。
基層中のポリイミド樹脂の含有量は、50質量%以上であることが好ましい。
表層は特に制限されないが、フッ素樹脂を含有することが好ましい。該フッ素樹脂の中でも離型性と耐熱性に優れるパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)を含有することがより好ましく、PFAであることがさらに好ましい。表層中のフッ素樹脂(好ましくはPFA)の含有量は、50質量%以上であることが好ましい。
加熱部材への熱伝導性及び定着フィルムの耐久性の観点から、基層は40μm~200μmであることが好ましい。同様の観点から、表層は3μm~40μmであることが好ましい。
【0018】
第一の実施形態の実施例で使用した、図2に示す定着フィルム24においては、基層としてはカーボン系フィラーを含有する厚さ50μmのポリイミド樹脂を、表層としては厚さ10μmのPFAを使用した。定着フィルム24の外径はΦ18mmで、長手方向の幅は、レターサイズに対応させて220mmとした。定着フィルムの外径及び長手方向の幅は、使用する記録材のサイズに応じて適宜変更することができる。
セラミックヒータ242としては、記録材搬送方向の幅6mm、長手方向の幅270mmの長方形の形状で厚さ1mmのアルミナの基板表面に、Ag/Pd(銀パラジウム)の通電発熱抵抗層を塗工し、その上に発熱体保護層としてガラスで覆ったものを用いた。通電発熱抵抗層の長手方向の幅は、レターサイズの長手方向の幅216mmを十分加熱できるようにレターサイズより左右1mmずつ長い218mmとした。
なお、加熱部材の寸法及び材質は、適宜変更することができる。また、通電発熱抵抗層の有無及びその材質は、適宜変更することができる。さらに、発熱体保護層及びその材質は、適宜変更することができる。
【0019】
定着装置は、温度検知素子が配置されていてもよい。図2においては、セラミックヒータ242の背面には通電発熱抵抗層の発熱に応じて昇温したセラミック基板の温度を検知するための温度検知素子244が配置されている。この温度検知素子244の信号に応じ
て、長手方向端部にある不図示の電極部から通電発熱抵抗層に流す電流を適切に制御することで、セラミックヒータ242の温度を調整している。
第一の実施形態の実施例では、用紙Pが定着ニップ部Nfを通過している間、温度検知素子244が180℃を検知するように調整した。このとき定着フィルム24の表面の温度は約150℃になっていた。
なお、記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルムの表面の温度は、以下のように測定した。
定着ニップ部において温調温度180℃で記録材が連続して挟持搬送されているときの定着フィルムの表面の温度を、ジャパンセンサー株式会社製サーモパイルTMH91-L500を用いて測定した。測定位置は、定着ニップ部における記録材の搬送方向上流側、長手中央付近とした。記録材が定着ニップ部を通過中に測定した温度と、連続して搬送される記録材が定着ニップ部に突入する前に測定した温度の平均値を、記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルムの表面の温度とした。本実施例では、上記方法で測定された、用紙が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルムの表面の温度は150℃であった。
【0020】
定着装置は、加熱部材を保持する保持部材が配置されていることが好ましい。該保持部材は、ステーなどにより補強されていることがより好ましい。
図2において、ヒータホルダ241は、セラミックヒータ242を保持している保持部材である。ヒータホルダ241の材質は、セラミックヒータ242の熱を奪い難いように低熱容量の材料(例えば液晶ポリマーなど)が好ましいが、これに限定されない。
第一の実施形態の実施例では、耐熱性樹脂である液晶ポリマー製のヒータホルダを用いた。液晶ポリマー製のヒータホルダ241は、鉄製のステー243により、セラミックヒータ242保持面とは反対の面から補強した。
第一の実施形態の実施例の加圧ローラ23は、長手方向の幅が220mm、外径がφ14mmであり、φ9mmの鉄製の芯金にシリコーンゴムを発泡した厚さ2.5mmの弾性層(発泡ゴム)が形成されているものとした。加圧ローラ23の弾性層の上には、トナーの離型層として、PFAからなる離型表層が形成されている態様とした。離型表層を含めた加圧ローラ23の表面硬度は、Asker-CSC2硬度計を用いて、83°であった。加圧部材の態様はこれに限定されず、適宜設計変更することができる。
【0021】
第一の実施形態の実施例における、セラミックヒータ242の加圧ローラ23への加圧力は、14kgfとした。なお、第一の実施形態の実施例のヒータホルダ241は、長手方向両端部から長手方向中央部にかけて、滑らかに加圧ローラが撓む方向と同じ方向に凸形状となる湾曲断面に形成されている。これにより、定着ニップ部Nfの搬送方向幅が長手方向で均一となり、定着品質の低下を防止している。
第一の実施形態の実施例では定着ニップ部Nfの搬送方向幅は5mmである。なお、定着ニップ幅は、ニッタ(株)製の圧力分布測定システムPINCHを用いて測定を行い、加圧力が検出された領域の用紙搬送方向幅を定着ニップ幅とした。また、定着ニップ部Nfで用紙に与えられる平均圧力も、ニッタ(株)製の圧力分布測定システムPINCHを用いて測定を行った。
定着ニップ部Nfで用紙に与えられる平均圧力を14kgf、定着ニップ幅を5mm、加圧ローラの長手方向幅を220mmとすると、加圧部材と定着フィルムの圧接圧は0.120MPaとなる。定着ニップ部Nfで用紙に与えられる、加圧部材と定着フィルムの圧接圧を、以下、定着ニップ圧σとも称する。該定着ニップ圧σは、加圧部材への加圧力、定着ニップ幅および加圧部材の長手方向幅を変更することで適宜調整することができる。
また、加熱部材の加圧部材への加圧は、例えば、バネによる付勢などにより行うことができる。
【0022】
記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルムの表面の温度におけるトナーの貯蔵弾性率をG(MPa、トナーの粘弾性Gとも称する)としたとき、定着ニップ圧σとトナーの粘弾性G(MPa)は、下記式(3)及び(4)を満たす。
G≧0.060MPa (3)
G≧σ×0.6 (4)
また、トナーの貯蔵弾性率をG’(MPa、トナーの粘弾性G’とも称する)としたとき、定着ニップ圧σとG’は、下記式(3’)及び(4’)を満たす。
G’≧0.060MPa (3’)
G’≧σ×0.6 (4’)
該貯蔵弾性率G’は、150℃における該トナーの貯蔵弾性率とすることができる。
上記式(3)及び(4)を満たすことで、または上記式(3’)及び(4’)を満たすことで、グロスの低い出力画像を得られるようになり、文字の読みやすさが向上することを本発明者らが実験により見出した。実験結果と第一の実施形態の詳細は後にまとめて示す。
【0023】
定着装置6通過後の記録材P上のトナーのうち最表面に存在するトナーの形状残存率(以下、単に「トナーの形状残存率」ともいう。)は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。トナーの形状残存率は、90%以下とすることができる。
トナーの形状残存率が上記範囲内であると、グロスの低い出力画像を得やすくなる。トナーの形状残存率は、トナーの粘弾性G及びG’並びに定着ニップ圧σを変更したり、トナー粒子の製造条件を変更したりすることにより制御することができる。トナーの形状残存率の測定方法は後述する。
【0024】
(トナー)
本開示のトナーについて説明する。該トナーは、トナー粒子表面に、下記式(1)で表される構造(T3単位構造)を有する有機ケイ素重合体を含む。図3は、該トナーの走査透過型電子顕微鏡(以下、STEMともいう)による断面観察で得られる画像の模式図である。詳しいSTEMの観察方法については、後述する。
R-SiO3/2 (1)
式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基である。
該有機ケイ素重合体は、該トナー粒子の外表面303に凸部304を形成しており、STEMによって得たトナー粒子の断面画像301について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、
該展開画像において、
該直線の長さをLとし、
該直線上における、該凸部304と該トナー母粒子302との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、
該凸幅Wの法線方向において該凸部304の最大長を凸径Dとし、
該凸径Dを形成する線分における該凸部304の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、
凸径D=凸高さH (2)
である。
【0025】
また、該トナーにおいては、該凸部304が、該凸高さHが40nm以上300nm以下である「特定高さ凸部」を含み、
該特定高さ凸部のうち、該凸幅Wに対する該凸径Dの比D/Wが、0.33以上0.80以下である特定高さ凸部の個数割合P(D/W)が70個数%以上であることが好ましい。
【0026】
以下、上記各要件について、詳細に説明する。
該トナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子の表面に有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含む。有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有する。
R-SiO3/2 (1)
式(1)で表される構造において、Rは炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1~3のアルキル基であることがより好ましい。
炭素数が1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましく例示できる。さらに好ましくは、Rはメチル基である。
【0027】
図4は本開示のトナー粒子の外表面303に形成されている有機ケイ素重合体の凸部304の断面模式図である。有機ケイ素重合体は半球状でトナー粒子の外表面303に凸部304を形成しており、凸径D=凸高さHの関係となっている。トナーの製造方法の一例の詳細は後に示すが、このようなトナーは、例えば、トナー母粒子分散液に有機ケイ素化合物の加水分解液を添加して重合する過程で、トナー粒子表面近傍に有機ケイ素化合物が析出した状態で重合されることで得られる。
このような製法で得られたトナーにおいては、該凸部は、トナー母粒子表面に面接触している。面接触することにより、現像、転写、定着の電子写真プロセスを経る間で該凸部にストレスがかかった場合でも、凸部304の移動・脱離・埋没に対する抑制効果が顕著に期待できる。したがって、定着装置を通過した後のトナー粒子の外表面にも凸部304が残存しており、トナーと定着フィルムとの接触面積を小さくすることができ、定着フィルムへのトナーの移行を抑制することができる。
【0028】
一方、図5は、比較例として、凸径D>凸高さHである凸部の断面模式図を示している。例えば、流動性、帯電性などを改良するための外添剤として、球形の有機ケイ素重合体305がトナー粒子の外表面303に外添されている場合である。球形の有機ケイ素重合体305がトナー粒子の外表面に外添されると、図5のように、球形の有機ケイ素重合体305がトナー粒子の外表面303を変形させながら食い込むようにして、トナー表面に凸のような状態を形成する場合がある。
このように、球形の有機ケイ素重合体305がトナー粒子の外表面303に外添されているだけの状態で、すなわち、凸径Dが凸高さHよりも大きい状態(凸径D>凸高さH)であると、定着フィルムへのトナー移行を抑制することはできない。単に球形の有機ケイ素重合体305がトナー粒子の外表面303に付着しているだけでは、現像、転写、定着という電子プロセスを経ている間に球形の有機ケイ素重合体305が移動・脱離・埋没してしまう。そのため、定着装置6を通過した後のトナー粒子の外表面に球形の有機ケイ素重合体305が残存していない状態となってしまう。
【0029】
本発明者らが図4に示したような有機ケイ素重合体の凸部304の形状を制御する検討を行った結果、有機ケイ素重合体の凸部304の幅Wに対する凸径Dの比D/Wは0.33以上0.80以下の形状であれば、凸部304がより移動・脱離・埋没しにくくなり好ましいことを見出した。
加えて、個数割合P(D/W)が70個数%以上であれば、定着後の定着フィルムの汚染をより抑制できることが分かった。
【0030】
凸高さHが40nm以上であることで、定着後まで移動・脱離・埋没せずに残存した凸部が、定着フィルムと画像との接触面積を小さくするのに十分なほど突起することになる。一方、凸高さHが300nm以下であることで、外部からのストレスによる凸部の移動・脱離・埋没、特に脱離が起きにくくなる。脱離した凸部によって、定着フィルム以外の部材汚染が発生する場合もある。
したがって、個数割合P(D/W)が70個数%以上であることで、凸部が移動・脱離・埋没せずに、定着後に残存する凸部の個数を確保しやすくなるため、定着フィルムの汚
染を抑制する効果をより良好に発揮することが分かった。
P(D/W)は、75個数%以上であることがより好ましく、80個数%以上であることがさらに好ましい。一方、上限は特に制限されないが、好ましくは95個数%以下であり、より好ましくは92個数%以下である。
【0031】
また、上記展開画像において、
上記直線上における、直線の長さLに対する、凸幅Wの総和ΣWの割合(ΣW/L)が、0.30以上0.90以下であることが好ましい。ΣW/Lが0.30以上であれば定着フィルムの汚染抑制効果がより優れ、ΣW/Lが0.90以下であると低温定着性がより優れる。ΣW/Lは、0.45以上0.80以下がより好ましい。
【0032】
さらに、有機ケイ素重合体のトナー母粒子に対する固着率が、80質量%以上であることが好ましい。固着率が80質量%以上であれば、定着フィルムの汚染抑制効果を、耐久使用を通じてより持続させることができる。
該固着率は、より好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%以上である。一方、上限は特に制限されないが、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以下である。
これら固着率と、ΣW/Lは、後述する有機ケイ素重合体の製造方法、具体的には、加水分解温度、原料となるアルコキシシランの投入部数、加水分解及び重合時のpHなどによって制御できる。
【0033】
また、定着フィルムの汚染抑制効果をより良好にする観点から、該凸高さHが40nm以上300nm以下である「特定高さ凸部」において、該凸高さHの累積分布をとり、該凸高さHの小さい方から積算して80個数%にあたる該凸高さをH80としたとき、該H80は65nm以上であることが好ましい。より好ましくは75nm以上であり、さらに好ましくは80nm以上である。
上限は特に制限されないが、好ましくは130nm以下であり、より好ましくは120nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。
【0034】
走査型電子顕微鏡(以下、SEMともいう)によるトナーの観察において、有機ケイ素重合体の凸部の最大径を凸径Rとしたとき、該凸径Rの個数平均径が20nm以上80nm以下であることが好ましい。より好ましくは、35nm以上60nm以下である。
【0035】
有機ケイ素重合体は、下記式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物の縮重合物であることが好ましい。
【0036】
【化1】
【0037】
式(Z)中、Rは、炭素数1~6の炭化水素基(好ましくはアルキル基)を表し、R、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、アルコキシ基を表す。
は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0038】
、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ
基、又は、アルコキシ基である(以下、反応基ともいう)。これらの反応基が加水分解、付加重合及び縮重合させて架橋構造を形成する。
加水分解性が室温で穏やかであり、トナー母粒子の表面への析出性の観点から、炭素数1~3のアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基やエトキシ基であることがより好ましい。
また、R、R及びRの加水分解、付加重合及び縮合重合は、反応温度、反応時間、反応溶媒及びpHによって制御することができる。有機ケイ素重合体を得るには、上記に示す式(Z)中のRを除く一分子中に3つの反応基(R、R及びR)を有する有機ケイ素化合物(以下、三官能性シランともいう)を1種又は複数種を組み合わせて用いるとよい。
【0039】
上記式(Z)で表される化合物としては以下のものが挙げられる。
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシメトキシシラン、メチルエトキシジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルメトキシジクロロシラン、メチルエトキシジクロロシラン、メチルジメトキシクロロシラン、メチルメトキシエトキシクロロシラン、メチルジエトキシクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルジアセトキシメトキシシラン、メチルジアセトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジメトキシシラン、メチルアセトキシメトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジエトキシシラン、メチルトリヒドロキシシラン、メチルメトキシジヒドロキシシラン、メチルエトキシジヒドロキシシラン、メチルジメトキシヒドロキシシラン、メチルエトキシメトキシヒドロキシシラン、メチルジエトキシヒドロキシシランのような三官能性のメチルシラン。
エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリアセトキシシラン、エチルトリヒドロキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、プロピルトリアセトキシシラン、プロピルトリヒドロキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、ブチルトリアセトキシシラン、ブチルトリヒドロキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリアセトキシシラン、ヘキシルトリヒドロキシシランのような三官能性のシラン。
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリアセトキシシラン、フェニルトリヒドロキシシランのような三官能性のフェニルシラン。
【0040】
また、本開示の効果を損なわない程度に、式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物とともに、以下を併用して得られた有機ケイ素重合体を用いてもよい。一分子中に4つの反応基を有する有機ケイ素化合物(四官能性シラン)、一分子中に2つの反応基を有する有機ケイ素化合物(二官能性シラン)又は1つの反応基を有する有機ケイ素化合物(一官能性シラン)。例えば以下のようなものが挙げられる。
ジメチルジエトキシシラン、テトラエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリイソシアネートシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシメトキシシラン、ビニルエトキシジメトキシシラン、ビニルエトキシジヒドロキシシラン、ビニルジメトキシヒドロキシシラン、ビニルエトキシメトキシヒドロキシシラン、ビニルジエトキシヒドロキシシラン、のような三官能性のビニルシラン。
【0041】
さらに、トナー粒子中の有機ケイ素重合体の含有量は1.0質量%~10.0質量%であることが好ましく、2.5質量%~6.0質量%であることがより好ましい。
【0042】
上記特定の凸部をトナー粒子の外表面に形成する好ましい手法として、水系媒体にトナー母粒子を分散しトナー母粒子分散液を得たところへ、有機ケイ素化合物を添加し凸部を形成させトナー粒子分散液を得る方法が挙げられる。
【0043】
トナー母粒子分散液は固形分濃度を25質量%以上50質量%以下に調整することが好ましい。そして、トナー母粒子分散液の温度は35℃以上に調整しておくことが好ましい。また、該トナー母粒子分散液のpHは有機ケイ素化合物の縮合が進みにくいpHに調整することが好ましい。有機ケイ素重合体の縮合が進みにくいpHは物質によって異なるため、最も反応が進みにくいpHを中心として、±0.5以内が好ましい。
【0044】
一方、有機ケイ素化合物は加水分解処理を行ったものを用いることが好ましい。例えば、有機ケイ素化合物の前処理として別容器で加水分解しておく。加水分解の仕込み濃度は有機ケイ素化合物を100質量部とした場合、イオン交換水やRO水などイオン分を除去した水40質量部以上500質量部以下が好ましく、100質量部以上400質量部以下がより好ましい。加水分解の条件としては、好ましくはpHが2~7、温度が15℃~80℃、時間が30分~600分である。
【0045】
得られた加水分解液とトナー母粒子分散液とを混合して、縮合に適したpH(好ましくは1~3又は6~12、より好ましくは8~12)に調整する。加水分解液の量はトナー母粒子100質量部に対して有機ケイ素化合物5.0質量部以上30.0質量部以下に調整することで、凸部を形成しやすくする。凸部の形成と縮合の温度と時間は、35℃~99℃で60分~72時間保持して行うことが好ましい。
【0046】
また、トナー粒子の外表面の凸部を制御するにあたって、pHを2段階に分けて調整することが好ましい。pHを調整する前の保持時間及び、二段階目にpH調整する前の保持時間を適宜調整し有機ケイ素化合物を縮合することで、トナー粒子の外表面における凸部を制御できる。例えばpH4.0~6.0で0.5時間~1.5時間保持した後に、pH8.0~11.0で3.0時間~5.0時間保持することが好ましい。また、有機ケイ素化合物の縮合温度を35℃~80℃の範囲で調整することによっても凸部を制御できる。
例えば、凸幅Wは、有機ケイ素化合物の添加量、反応温度及び一段階目の反応pHや反応時間などにより制御できる。例えば、一段階目の反応時間が長くなると凸幅が大きくなる傾向がある。
また、凸径D及び凸高さHは、有機ケイ素化合物の加水分解時温度や、有機ケイ素重合体の添加量、反応温度及び二段階目のpHなどにより制御できる。例えば、加水分解温度が高いと、凸高さHが大きくなる傾向がある。また、二段階目の反応pHが高いと凸径D及び凸高さHが大きくなる傾向がある。
【0047】
定着フィルムの汚染抑制の効果を得る観点から、後述する方法で測定されるトナーの粘弾性Gは、0.060MPa以上である。該粘弾性Gが高いほど、すなわちトナーが硬い
ほど、現像、転写、定着という電子写真プロセスで与えられるストレスによって発生し得る凸部の移動・脱離・埋没うち、特に埋没が抑制される。そのため、該粘弾性Gが0.060MPa以上であることで、定着画像上のトナー粒子の外表面に該凸部304が残存し
ている状態をより顕著に保つことができるようになり、定着画像上のトナーと定着フィルムとの接触面積を小さくすることができ、定着フィルムへのトナーの移行を抑制することができる。
該粘弾性Gは、好ましくはG≧0.070MPaを満たし、より好ましくはG≧0.080MPaを満たす。該粘弾性Gは、好ましくは10.0MPa≧Gを満たし、より好ましくは1.0MPa≧Gを満たす。
また、粘弾性Gは、好ましくはG>0.6×σを満たし、より好ましくはG≧0.7×
σを満たす。該粘弾性Gは、好ましくは10.0×σ≧Gを満たし、より好ましくは1.0×σ≧Gを満たす。
【0048】
定着フィルムの汚染抑制の効果を得る観点から、後述する方法で測定されるトナーの粘弾性G’は、0.060MPa以上である。該粘弾性G’が高いほど、すなわちトナーが硬いほど、現像、転写、定着という電子写真プロセスで与えられるストレスによって発生し得る凸部の移動・脱離・埋没うち、特に埋没が抑制される。そのため、該粘弾性G’が0.060MPa以上であることで、定着画像上のトナー粒子の外表面に該凸部304が残存している状態をより顕著に保つことができるようになり、定着画像上のトナーと定着フィルムとの接触面積を小さくすることができ、定着フィルムへのトナーの移行を抑制することができる。
該粘弾性G’は、好ましくはG’≧0.070MPaを満たし、より好ましくはG’≧0.080MPaを満たす。該粘弾性G’は、好ましくは10.0MPa≧G’を満たし、より好ましくは1.0MPa≧G’を満たす。
また、粘弾性G’は、好ましくはG’>0.6×σを満たし、より好ましくはG’≧0.7×σを満たす。該粘弾性G’は、好ましくは10.0×σ≧G’を満たし、より好ましくは1.0×σ≧G’を満たす。
【0049】
以下、該トナーの具体的な製造方法について説明するが、これらに限定されるわけではない。
トナー母粒子を水系媒体中で製造し、トナー母粒子表面に有機ケイ素重合体を含む凸部を形成することが好ましい。
トナー母粒子の製造方法として、懸濁重合法・溶解懸濁法・乳化凝集法が好ましく、中でも懸濁重合法がより好ましい。懸濁重合法では有機ケイ素重合体がトナー母粒子の表面に均一に析出しやすく、定着画像上の凸部による定着フィルムとの接触面積を小さくしやすい。以下、懸濁重合法についてさらに説明する。
【0050】
懸濁重合法は、結着樹脂を生成しうる重合性単量体、及び必要に応じて着色剤などの添加剤を含有する重合性単量体組成物を水系媒体中で造粒し、該重合性単量体組成物に含まれる重合性単量体を重合することにより、トナー母粒子を得る方法である。
重合性単量体組成物には、必要に応じて離型剤、その他の樹脂を添加してもよい。また、重合工程終了後は、公知の方法で、生成した粒子を洗浄、濾過により回収し、乾燥することができる。なお、上記重合工程の後半に昇温してもよい。さらに未反応の重合性単量体又は副生成物を除去する為に、重合工程後半又は重合工程終了後に一部分散媒体を反応系から留去することも可能である。
このようにして得られたトナー母粒子を用い、上記方法により有機ケイ素重合体の凸部を形成させることが好ましい。
【0051】
トナーには離型剤を用いてもよい。離型剤としては、以下のものが挙げられる。
パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどの石油系ワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックスなどの天然ワックス及びその誘導体、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸などの脂肪酸、あるいはその酸アミド、エステル、又はケトン、硬化ヒマシ油及びその誘導体、植物系ワックス、動物性ワックス、シリコーン樹脂。
なお、誘導体には酸化物や、ビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物を含む。離型剤は単独で用いてもよいし、複数を混合してもよい。
離型剤の含有量は、結着樹脂又は結着樹脂を生成する重合性単量体100質量部に対して2.0質量部~30.0質量部であることが好ましい。
【0052】
その他の樹脂として、例えば、以下の樹脂を用いることができる。
ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリ酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族または脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合してもよい。
【0053】
重合性単量体として、以下に示すビニル系重合性単量体が好適に例示できる。
スチレン;α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレンなどのスチレン誘導体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、iso-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、iso-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-アミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジメチルフォスフェートエチルアクリレート、ジエチルフォスフェートエチルアクリレート、ジブチルフォスフェートエチルアクリレート、2-ベンゾイルオキシエチルアクリレートなどのアクリル系重合性単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、iso-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-アミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-ノニルメタクリレート、ジエチルフォスフェートエチルメタクリレート、ジブチルフォスフェートエチルメタクリレートなどのメタクリル系重合性単量体;メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル、ギ酸ビニルなどのビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロピルケトン。
これらのビニル単量体の中でも、スチレン、スチレン誘導体、アクリル系重合性単量体及びメタクリル系重合性単量体が好ましい。
【0054】
また、重合性単量体の重合に際して、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、以下のものが挙げられる。
2,2’-アゾビス-(2,4-ジバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系、又はジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジイソプロピルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキシド、2,4
-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどの過酸化物系重合開始剤。
これらの重合開始剤の添加量は、重合性単量体100質量部に対して0.5質量部~30.0質量部が好ましく、単独で用いても複数を併用してもよい。
【0055】
また、トナー母粒子を構成する結着樹脂の分子量をコントロールするために、重合性単量体の重合に際して、連鎖移動剤を添加してもよい。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.001質量部~15.000質量部である。
【0056】
一方、トナー母粒子を構成する結着樹脂の分子量をコントロールするために、重合性単量体の重合に際して、架橋剤を添加してもよい。例えば、以下のものが挙げられる。
ジビニルベンゼン、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#200、#400、#600の各ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステル型ジアクリレート(MANDA 日本化薬)、及び以上のアクリレートをメタクリレートに変えたもの。
多官能の架橋性単量体としては以下のものが挙げられる。ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート及びそのメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシ・ポリエトキシフェニル)プロパン、ジアクリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリールクロレンデート。
好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.001質量部~15.000質量部である。
【0057】
上記懸濁重合の際に用いられる媒体が水系媒体の場合には、重合性単量体組成物の粒子の分散安定剤として以下のものを使用することができる。
リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ。
また、有機系の分散剤としては、以下のものが挙げられる。ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプン。
また、市販のノニオン、アニオン、カチオン型の界面活性剤の利用も可能である。このような界面活性剤としては、以下のものが挙げられる。ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム。
【0058】
トナーには着色剤を用いてもよく、特に限定されず公知のものを使用することができる。
なお、着色剤の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して3.0質量部~15.0質量部であることが好ましい。
【0059】
トナー製造時に荷電制御剤を用いることができ、公知のものが使用できる。これらの荷電制御剤の添加量としては、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して、0.01
質量部~10.00質量部であることが好ましい。
【0060】
トナー粒子はそのままトナーとして用いてもよいし、必要に応じて、トナー粒子に各種有機又は無機微粉体を外添してもよい。該有機又は無機微粉体は、トナー粒子に添加した時の耐久性から、トナー粒子の重量平均粒径の1/10以下の粒径であることが好ましい。
有機又は無機微粉体としては、例えば、以下のようなものが用いられる。
(1)流動性付与剤:シリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック及びフッ化カーボン。
(2)研磨剤:金属酸化物(例えばチタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化クロム)、窒化物(例えば窒化ケイ素)、炭化物(例えば炭化ケイ素)、金属塩(例えば硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)。
(3)滑剤:フッ素系樹脂粉末(例えばフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム)。
(4)荷電制御性粒子:金属酸化物(例えば酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ)、カーボンブラック。
【0061】
トナーの流動性の改良及びトナーの帯電均一化のために有機又は無機微粉体の表面処理を行ってもよい。有機又は無機微粉体の疎水化処理の処理剤としては、未変性のシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物、有機チタン化合物が挙げられる。これらの処理剤は単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0062】
(各種測定方法)
以下、各種物性の測定方法を述べる。
<トナーの形状残存率の算出方法>
トナーの形状残存率の測定は次のように行う。
出力したベタ黒画像を株式会社日立ハイテクノロジーズの走査電子顕微鏡S-4800を用いて観察する。用紙はXerox社製のXerox Vitality Multipurpose Printer Paper(商品名、坪量75g)を使用する。
【0063】
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペースト(TED PELLA,Inc、Product No. 16053,PELCO Colloidal Graphite,Isopropanol base)を薄く塗り、その上に出力したベタ黒画像の用紙先端かつ幅方向中央部の領域を5mm角に切り取って載せる。これを、15mAで15秒間白金蒸着する。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを30mmに調節する。
【0064】
(2)S-4800観察条件設定
S-4800の筺体に取り付けられているアンチコンタミネーショントラップに液体窒素を溢れるまで注入し、30分間置く。S-4800の「PC-SEM」を起動し、フラッシング(電子源であるFEチップの清浄化)を行う。画面上のコントロールパネルの加速電圧表示部分をクリックし、[フラッシング]ボタンを押し、フラッシング実行ダイアログを開く。フラッシング強度が2であることを確認し、実行する。フラッシングによるエミッション電流が20μA~40μAであることを確認する。試料ホルダをS-4800筺体の試料室に挿入する。コントロールパネル上の[原点]を押し試料ホルダを観察位置に移動させる。
加速電圧表示部をクリックしてHV設定ダイアログを開き、加速電圧を[2.0kV]、エミッション電流を[10μA]に設定する。オペレーションパネルの[基本]のタブ
内にて、信号選択を[SE]に設置し、SE検出器を[下(L)]を選択し、反射電子像を観察するモードにする。同じくオペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、電子光学系条件ブロックのプローブ電流を[Normal]に、焦点モードを[UHR]に、WDを[8.0mm]に設定する。コントロールパネルの加速電圧表示部の[ON]ボタンを押し、加速電圧を印加する。
【0065】
(3)焦点調整
コントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を5000(5k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。
次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。この操作を更に2度繰り返し、ピントを合わせる。観察粒子の最大径の中点を測定画面の中央に合わせた状態でコントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を10000(10k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。
次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。その後、倍率を500倍に設定し、上記と同様にフォーカスつまみ、STIGMA/ALIGNMENTつまみを使用して焦点調整を行い、再度オートフォーカスでピントを合わせる。この操作を再度繰り返し、ピントを合わせる。
【0066】
(4)画像保存
ABCモードで明るさ合わせを行い、サイズ640×480ピクセルで写真撮影して保存する。
任意の1か所を選んで上記(2)~(4)の操作を行った後、その隣接する周囲8か所について上記(2)~(4)の操作を繰り返し行い、合計9枚の画像を得る。
得られた画像から、トナーの形状残存率を求める。測定には米国国立衛生研究所の画像処理ソフトウェアImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)を用いる。
定着装置通過前の記録材上のトナーのうち最表面に存在するトナーの形状を、後述する方法により特定する。
定着装置通過後の記録材上のトナーのうち最表面に存在するトナーの形状を、目視により特定する。1枚の観察画像0.048mmのうち、トナーが溶け広がって隣り合うトナー同士の境界が見えなくなっている領域はトナーの形状が残存していない領域と判断し、該領域以外の領域はトナーの形状が残存している領域と判断する。
トナーの形状が残存している領域をライン描画ツールでなぞって囲み、塗りつぶす。この塗りつぶした領域の占める面積率を2値化によって求める。この塗りつぶし領域の面積率の、9枚の平均値を形状残存率とする。
トナーの形状残存率が24.8%と求まった観察画像を図6(a)に、トナーの形状残存率が84.34%と求まった観察画像を図6(b)に、それぞれ示す。
【0067】
(定着装置通過前のトナーの形状を特定する手段)
<走査型電子顕微鏡(SEM)によるトナーの形状特定方法>
SEM観察の方法は、以下の通り。日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800((株)日立ハイテクノロジーズ)にて撮影される画像を用いて行う。S-4800の画像撮影条件は以下の通りである。
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペースト(TED PELLA,Inc、Product No. 16053,PELCO Colloidal Graphite,Isopropanol base)を薄く塗り、その上にトナーを吹き付ける。さらにエアブローして、余分なトナーを試料台から除去した後、15mAで15秒間白金蒸着する。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを30mmに調節する。
(2)S-4800観察条件設定~(3)焦点調整
<トナーの形状残存率の算出方法>の(2)S-4800観察条件設定~(3)焦点調整に示した条件と同様の操作を行う。
(4)画像保存
ABCモードで明るさ合わせを行い、サイズ640×480ピクセルで写真撮影して保存する。
【0068】
<走査透過型電子顕微鏡(STEM)によるトナーの断面の観察方法>
走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察されるトナーの断面は以下のようにして作製する。
以下、トナーの断面の作製手順を説明する。
まず、カバーガラス(松波硝子社、角カバーグラス;正方形No.1)上にトナーを一層となるように散布し、オスミウム・プラズマコーター(filgen社、OPC80T)を用いて、保護膜としてトナーにOs膜(5nm)及びナフタレン膜(20nm)を施す。
次に、PTFE製のチューブ(内径Φ1.5mm×外径Φ3mm×3mm)に光硬化性樹脂D800(日本電子社)を充填し、チューブの上に前記カバーガラスをトナーが光硬化性樹脂D800に接するような向きで静かに置く。この状態で光を照射して樹脂を硬化させた後、カバーガラスとチューブを取り除くことで、最表面にトナーが包埋された円柱型の樹脂を形成する。
超音波ウルトラミクロトーム(Leica社、UC7)により、切削速度0.6mm/sで、円柱型の樹脂の最表面からトナーの半径(例えば、重量平均粒径(D4)が8.0μmの場合は4.0μm)の長さだけ切削して、トナー中心部の断面を出す。
次に、膜厚100nmとなるように切削し、トナーの断面の薄片サンプルを作製する。このような手法で切削することで、トナー中心部の断面を得ることができる。
STEMのプローブサイズは1nm、画像サイズ1024×1024pixelにて画像を取得する。また、明視野像のDetector ControlパネルのContrastを1425、Brightnessを3750、Image ControlパネルのContrastを0.0、Brightnessを0.5、Gammmaを1.00に調整して、画像を取得する。画像倍率は100,000倍にて行い、図3のようにトナー1粒子中の断面の周のうち4分の1から2分の1程度収まるように画像取得を行う。
【0069】
得られた画像について、米国国立衛生研究所の画像処理ソフトウェアImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)を用いて画像解析を行い、有機ケイ素重合体を含む凸部の計測を行う。画像解析はSTEM画像30枚について行う。
まず、ライン描画ツール(StraightタブのSegmented lineを選択)にてトナー母粒子の周に沿った線を描く。有機ケイ素重合体の凸部がトナー母粒子に埋没しているような部分は、トナー母粒子の周の曲率を維持するように、その埋没はないものとして滑らかに線をつなぐ。
その線を直線へ変換(EditタブのSelection選択し、propertiesにてline widthを500pixelに変更後、EditタブのSelectionを選択しStraightenerを行う)する。
これにより、トナー母粒子の輪郭線を直線に展開した展開画像が得られる。該展開画像において、有機ケイ素重合体を含む凸部一箇所ずつ、凸幅W、凸径D及び凸高さHを測定する。
該展開画像において、該直線の長さをLとする。Lが、STEM画像中のトナー母粒子表面の長さに相当する。該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとする。また、凸幅Wの法線方向において凸部の最大長を凸径Dとし、凸径Dを形成する線分における凸部の頂点(トナー粒子の外側の頂点)から該直線までの長さを凸高さHとする。
【0070】
画像解析に用いた展開画像に存在する凸高さHが40nm以上300nm以下となる「特定高さ凸部」の凸幅Wの合計値をΣWとする。一枚の画像から凸径D、凸高さH及びΣW/Lを算出し、STEM画像30枚の相加平均値を採用する。
また、STEM画像30枚測定した結果から、P(D/w)を算出する。凸高さHの累積分布をとり、H80を算出する。
詳細な凸部の計測に関しては、前述の説明や図4~5のとおりである。
計測はImage Jにて、画像上のスケールをStraightタブのStraight Lineで重ね、AnalyzeタブのSet Scaleにて、画像上のスケールの長さを設定したのち行う。凸幅Wまたは凸高さHに相当する線分をStraightタブのStraight Lineで描き、AnalyzeタブのMeasureにて計測ができる。
上記で求めた凸径D及び凸高さHの相加平均値について、それぞれを小数点第一位で四捨五入した値(単位:nm)が等しいとき、凸径D=凸高さHであると判断する。
【0071】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による凸部の平均粒径(凸径R)の算出方法>
SEM観察の方法は、以下の通り。日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800((株)日立ハイテクノロジーズ)にて撮影される画像を用いて行う。S-4800の画像撮影条件は以下の通りである。
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペースト(TED PELLA,Inc、Product No. 16053,PELCO Colloidal Graphite,Isopropanol base)を薄く塗り、その上にトナーを吹き付ける。さらにエアブローして、余分なトナーを試料台から除去した後、15mAで15秒間白金蒸着する。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを30mmに調節する。
【0072】
(2)S-4800観察条件設定~(3)焦点調整
倍率を500倍に設定して焦点調整を行う操作を、倍率50000(50k)倍に設定して焦点調整を行うように変更する以外は、<トナーの形状残存率の算出方法>の(2)S-4800観察条件設定~(3)焦点調整に示した条件と同様の操作を行う。
(4)画像保存
ABCモードで明るさ合わせを行い、サイズ640×480ピクセルで写真撮影して保存する。
得られたSEM画像から、トナー粒子表面に存在する、20nm以上の該凸部500箇所の個数平均径(D1)の計算を米国国立衛生研究所の画像処理ソフトウェアImageJを用いて行う。測定方法は以下の通りである。
・有機ケイ素重合体の凸部の個数平均径の測定
粒子解析により、画像中の凸部とトナー母粒子を二値化により、色分けする。次に、計
測コマンドの中から、選択された形状の最大長さを選択し、凸部1箇所の凸径R(最大径)を計測する。この操作を複数行い、500箇所の相加平均値を求めることで、凸径Rの個数平均径を算出する。
【0073】
<有機ケイ素重合体の組成(T3単位構造)の確認方法>
トナー粒子表面の有機ケイ素重合体の組成の同定には、NMRを用いる。
トナー中に、有機ケイ素重合体以外に、シリカ微粒子などの外添剤が含まれる場合は、以下の操作を行う。
トナー1gをバイアル瓶に入れクロロホルム31gに溶解させ、分散させる。分散には超音波式ホモジナイザーを用いて30分間処理して分散液を作製する。
超音波処理装置:超音波式ホモジナイザーVP-050(タイテック株式会社製)
マイクロチップ:ステップ型マイクロチップ、先端径φ2mm
マイクロチップの先端位置:ガラスバイアルの中央部、且つバイアル底面から5mmの高さ
超音波条件:強度30%、30分
このとき、分散液が昇温しないようにバイアルを氷水で冷却しながら超音波を掛ける。
該分散液をスイングローター用ガラスチューブ(50mL)に入れ替えて、遠心分離機(H-9R;株式会社コクサン社製)にて、58.33S-1、30分間の条件で遠心分離を行う。遠心分離後のガラスチューブ内においては、下層に比重の重い粒子、例えば、シリカ微粒子が含まれる。上層の有機ケイ素重合体を含むクロロホルム溶液を採取して、クロロホルムを真空乾燥(40℃/24時間)にて除去しサンプルを作製する。
上記サンプル又はトナーを用いて、有機ケイ素重合体中のR-SiO3/2で表されるT3単位構造などの構造を、固体29Si-NMRで確認する。
固体29Si-NMRでは、有機ケイ素重合体を構成するSiに結合する官能基数によって、異なるシフト領域にピークが検出される。
各ピークの官能基数は標準サンプルを用いて特定することができる。また得られたピーク面積から各構成化合物の存在量比を算出することができる。
固体29Si-NMRの測定条件は、例えば下記の通りである。
装置:JNM-ECX5002(JEOL RESONANCE)
温度:室温
測定法:DDMAS法 29Si 45°
試料管:ジルコニア3.2mmφ
試料:試験管に粉末状態で充填
試料回転数:10kHz
relaxation delay:180s
Scan:2000
【0074】
また、上記Rで表される炭化水素基は、13C-NMRにより確認する。
13C-NMR(固体)の測定条件≫
装置:JEOLRESONANCE製JNM-ECX500II
試料管:3.2mmφ
試料:試験管に粉末状態で充填
測定温度:室温
パルスモード:CP/MAS
測定核周波数:123.25MHz(13C)
基準物質:アダマンタン(外部標準:29.5ppm)
試料回転数:20kHz
コンタクト時間:2ms
遅延時間:2s
積算回数:1024回
該方法にて、ケイ素原子に結合しているメチル基(Si-CH)、エチル基(Si-C)、プロピル基(Si-C)、ブチル基(Si-C)、ペンチル基(Si-C11)、ヘキシル基(Si-C13)またはフェニル基(Si-C)などに起因するシグナルの有無により、上記Rで表される炭化水素基を確認する。
【0075】
該測定後に、有機ケイ素重合体の、置換基及び結合基の異なる複数のシラン成分をカーブフィッティングにて下記X1構造、X2構造、X3構造、及びX4構造にピーク分離して、それぞれピーク面積を算出する。
なお、下記X3構造がT3単位構造である。
X1構造:(Ri)(Rj)(Rk)SiO1/2 (A1)
X2構造:(Rg)(Rh)Si(O1/2 (A2)
X3構造:RmSi(O1/2 (A3)
X4構造:Si(O1/2 (A4)
【0076】
【化2】
【0077】
該式(A1)、(A2)及び(A3)中のRi、Rj、Rk、Rg、Rh、Rmはケイ素に結合している、炭素数1~6の炭化水素基などの有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基又はアルコキシ基を示す。
なお、構造をさらに詳細に確認する必要がある場合、上記13C-NMR及び29Si-NMRの測定結果と共にH-NMRの測定結果によって同定してもよい。
【0078】
<トナー中にシリカ微粒子などの外添剤が含まれる場合の有機ケイ素重合体の定量方法>
トナーを、上記のようにクロロホルムに分散させ、その後に遠心分離を用い、比重の差で有機ケイ素重合体及びシリカ微粒子などの外添剤を分離し、各サンプルを得、有機ケイ素重合体又はシリカ微粒子などの外添剤の含有量を求める。
以下、外添剤がシリカ微粒子の場合について例示する。他の微粒子であっても、同様の手法で定量することができる。
まず、プレスしたトナーを蛍光X線で測定し、検量線法又はFP法などの解析処理を行うことでトナー中のケイ素の含有量を求める。
次に、有機ケイ素重合体及びシリカ微粒子を形成する各構成化合物について、固体29Si-NMR及び熱分解GC/MSなどを用いて構造を特定し、有機ケイ素重合体中及びシリカ微粒子中のケイ素含有量を求める。
蛍光X線で求めたトナー中のケイ素の含有量と、固体29Si-NMR及び熱分解GC/MSで求めた有機ケイ素重合体中及びシリカ微粒子中のケイ素含有量の関係から、計算によってトナー中の有機ケイ素重合体の含有量を求める。
【0079】
<有機ケイ素重合体の、トナー母粒子に対する固着率の測定方法>
50mL容量のバイアルに「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の30質量%水溶液20gを秤量し、トナー1gと混合する。
いわき産業(株)製「KM Shaker」(model: V.SX)にセットし、speedを50に設定して120秒間振とうする。これにより、有機ケイ素重合体又はシリカ微粒子の固着状態に依っては、有機ケイ素重合体又はシリカ微粒子などの外添剤が、トナー母粒子又はトナー粒子表面から、分散液側へ移行する。
その後、遠心分離機(H-9R;株式会社コクサン社製)(16.67S-1にて5分間)にて、トナーと上澄み液に移行した有機ケイ素重合体又はシリカ微粒子などの外添剤を分離する。
沈殿しているトナーは、真空乾燥(40℃/24時間)することで乾固させて、水洗後トナーとする。
【0080】
次に、日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800((株)日立ハイテクノロジーズ)を用いて、上記水洗工程を行わないトナー(水洗前トナー)、及び、上記水洗工程を経て得られたトナー(水洗後トナー)を撮影する。
また、測定対象の同定は、エネルギー分散型X線分析(EDS)を用いた元素分析により行う。
そして、撮影されたトナー表面画像を、画像解析ソフトImage-Pro Plus
ver.5.0((株)日本ローパー)を用いて解析し、被覆率を算出する。算出した被覆率に基づき、固着率を算出する。
S-4800の画像撮影条件は以下のとおりである。
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペーストを薄く塗り、その上にトナーを吹きつける。さらにエアブローして、余分なトナーを試料台から除去し十分乾燥させる。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを36mmに調節する。
【0081】
(2)S-4800観察条件の設定
被覆率の測定に際して、予め、上述したエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素分析を行い、トナー表面の有機ケイ素重合体又はシリカ微粒子などの外添剤を区別した上で測定を行う。
S-4800の筺体に取り付けられているアンチコンタミネーショントラップに液体窒素を溢れるまで注入し、30分間置く。S-4800の「PC-SEM」を起動し、フラッシング(電子源であるFEチップの清浄化)を行う。画面上のコントロールパネルの加速電圧表示部分をクリックし、[フラッシング]ボタンを押し、フラッシング実行ダイアログを開く。フラッシング強度が2であることを確認し、実行する。フラッシングによるエミッション電流が20~40μAであることを確認する。試料ホルダをS-4800筺体の試料室に挿入する。コントロールパネル上の[原点]を押し試料ホルダを観察位置に移動させる。
加速電圧表示部をクリックしてHV設定ダイアログを開き、加速電圧を[1.1kV]、エミッション電流を[20μA]に設定する。オペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、信号選択を[SE]に設置し、SE検出器を[上(U)]及び[+BSE]を選択し、[+BSE]の右の選択ボックスで[L.A.100]を選択し、反射電子像で観察するモードにする。同じくオペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、電子光学系条件ブロックのプローブ電流を[Normal]に、焦点モードを[UHR]に、WDを[4.5mm]に設定する。コントロールパネルの加速電圧表示部の[ON]ボタンを押し、加速電圧を印加する。
【0082】
(3)トナーの個数平均粒径(D1)算出
コントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を5000(5k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。この操作をさらに2度繰り返し、ピントを合わせる。
その後、トナー300個について粒径を測定して個数平均粒径(D1)を求める。なお、個々の粒子の粒径は、トナーの粒子を観察した際の最大径とする。
【0083】
(4)焦点調整
(3)で得た、個数平均粒径(D1)の±0.1μmの粒子について、最大径の中点を測定画面の中央に合わせた状態でコントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を10000(10k)倍に設定する。
操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。
その後、倍率を50,000(50k)倍に設定し、上記と同様にフォーカスつまみ、STIGMA/ALIGNMENTつまみを使用して焦点調整を行い、再度オートフォーカスでピントを合わせる。この操作を再度繰り返し、ピントを合わせる。ここで、観察面の傾斜角度が大きいと被覆率の測定精度が低くなりやすいので、ピント調整の際に観察面全体のピントが同時に合うものを選ぶことで、表面の傾斜が極力無いものを選択して解析する。
【0084】
(5)画像保存
ABCモードで明るさ合わせを行い、サイズ640×480ピクセルで写真撮影して保存する。この画像ファイルを用いて下記の解析を行う。トナー一つに対して写真を1枚撮影し、トナー25粒子について画像を得る。
【0085】
(6)画像解析
下記解析ソフトを用いて、上述した手法で得た画像を二値化処理することで被覆率を算出する。このとき、上記一画面を正方形で12分割してそれぞれ解析する。
画像解析ソフトImage-Pro Plus ver.5.0の解析条件は以下のとおりである。ただし、分割区画内に、粒径が30nm未満及び300nmを超える有機ケイ素重合体、又は、粒径が30nm未満及び1200nmを超えるシリカ微粒子などの外添剤が入る場合はその区画では被覆率の算出を行わないこととする。
画像解析ソフトImage-Pro Plus5.0において、
ツールバーの「測定」から「カウント/サイズ」、「オプション」の順に選択し、二値化条件を設定する。オブジェト抽出オプションの中で8連結を選択し、平滑化を0とする。その他、予め選別、穴を埋める、包括線は選択せず、「境界線を除外」は「なし」とする。ツールバーの「測定」から「測定項目」を選択し、面積の選別レンジに2~10と入力する。
被覆率の計算は、正方形の領域を囲って行う。このとき、領域の面積(C)は24,000~26,000ピクセルになるようにする。「処理」-二値化で自動二値化し、有機ケイ素重合体の無い領域の面積の総和(D)を算出する。
正方形の領域の面積C、有機ケイ素重合体の無い領域の面積の総和Dから下記式で被覆率が求められる。
被覆率(%)=100-(D/C×100)
得られた全データの算術平均値を被覆率とする。
そして、水洗前トナーと水洗後トナーの、それぞれの被覆率を算出し、
〔水洗後トナーの被覆率〕/〔水洗前トナーの被覆率〕×100を、「トナー母粒子に対する有機ケイ素重合体の固着率」とする。
【0086】
<トナーの粘弾性G及びG’の測定方法>
TA Instruments社のレオメーターARES-G2を用いて、トナーの粘弾性測定を行う。
NPaシステム株式会社のプレス機NT-100H-V9を用いて、直径Φ8mm、厚さ約2mmの試料を作製する。
第一の実施形態及び第二の実施形態の実施例においては、記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルム表面の温度は150℃であったため、レオメーターの温度設定は150℃とした。
レオメーターの振動数設定は、1Hz~100Hzの間を20点測定するモードで測定した。第一の実施形態及び第二の実施形態の実施例においては、定着ニップ部Nfで用紙およびその上のトナーが圧を与えられる時間は、プロセススピード130mm/sec、定着ニップ幅5mmであることから、約0.04secであった。この0.04secの間に、用紙およびその上のトナーには、定着ニップ部Nf突入時と抜け時の2回、やや強めの応力が加わるため、0.04sec中に2波の応力がかかると仮定し、振動数50Hzの貯蔵弾性率の値を参照することとした。
レオメーターのチャンバーの温度が設定値150℃に到達したことを確認後、試料を挿入して5分経過した後、測定を開始した。
なお、記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルムの表面の温度が150℃以外の温度である場合、レオメーターのチャンバーの温度の設定値も変更する。例えば、記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルムの表面の温度が165℃であるときは、レオメーターのチャンバーの温度の設定値は165℃とする。
【0087】
[第一の実施形態の実施例]
本実施例で使用するトナーの具体的な製造方法を下記に示す。ただし、本開示に係る構成は、実施例に具現化された構成に限定されるものではない。また、実施例及び比較例中で使用する「部」は特に断りのない限り質量基準である。
【0088】
[トナー6の製造例]
(水系媒体1の調製工程)
撹拌機、温度計、還留管を具備した反応容器中にイオン交換水650.0部に、リン酸ナトリウム(ラサ工業社製・12水和物)14.0部を投入し、窒素パージしながら65℃で1.0時間保温した。
T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、15000rpmにて攪拌しながら、イオン交換水10.0部に9.2部の塩化カルシウム(2水和物)を溶解した塩化カルシウム水溶液を一括投入し、分散安定剤を含む水系媒体を調製した。さらに、水系媒体に10質量%塩酸を投入し、pHを5.0に調整し、水系媒体1を得た。
【0089】
(重合性単量体組成物の調製工程)
・スチレン :60.0部
・カーボンブラック :6.5部
前記材料をアトライタ(三井三池化工機株式会社製)に投入し、さらに直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5.0時間分散させて、顔料分散液を調製した。前記顔料分散液に下記材料を加えた。
・スチレン:20.0部
・n-ブチルアクリレート:20.0部
・架橋剤(ジビニルベンゼン):0.90部
・飽和ポリエステル樹脂:5.0部
(プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物)とテレフタル酸との重縮合物(モル比10:12)、ガラス転移温度Tg=68℃、重量平均分子量Mw=10000、分子量分布Mw/Mn=5.12)
・フィッシャートロプシュワックス(融点78℃):7.0部
これを65℃に保温し、T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、500rpmにて均一に溶解、分散し、重合性単量体組成物を調製した。
【0090】
(造粒工程)
水系媒体1の温度を70℃、T.K.ホモミクサーの回転数を15000rpmに保ちながら、水系媒体1中に重合性単量体組成物を投入し、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート10.0部を添加した。そのまま該撹拌装置にて15000rpmを維持しつつ10分間造粒した。
【0091】
(重合・蒸留工程)
造粒工程の後、攪拌機をプロペラ撹拌羽根に換え150rpmで攪拌しながら70℃を保持して5.0時間重合を行い、85℃に昇温して2.0時間加熱することで重合反応を行った。
その後、反応容器の還留管を冷却管に付け替え、スラリーを100℃まで加熱することで、蒸留を6時間行い未反応の重合性単量体を留去し、トナー母粒子分散液を得た。
【0092】
(有機ケイ素化合物の重合工程)
撹拌機、温度計を備えた反応容器に、イオン交換水60.0部を秤量し、10質量%の塩酸を用いてpHを4.0に調整した。これを撹拌しながら加熱し、温度を40℃にした。その後、有機ケイ素化合物であるメチルトリエトキシシラン40.0部を添加して2時間以上撹拌して加水分解を行った。加水分解の終点は目視にて油水が分離せず1層になったことで確認を行い、冷却して有機ケイ素化合物の加水分解液を得た。
得られたトナー母粒子分散液の温度を55℃に冷却したのち、有機ケイ素化合物の加水分解液を25.0部添加して有機ケイ素化合物の重合を開始した。そのまま15分保持した後に、3.0%炭酸水素ナトリウム水溶液で、pHを5.5に調整した。55℃で撹拌を継続したまま、60分間保持したのち、3.0%炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpHを9.5に調整し、更に240分保持してトナー粒子分散液を得た。
【0093】
(洗浄、乾燥工程)
重合工程終了後、トナー粒子分散液を冷却し、トナー粒子分散液に塩酸を加えpH=1.5以下に調整して1時間撹拌放置してから加圧ろ過器で固液分離し、トナーケーキを得た。これをイオン交換水でリスラリーして再び分散液とした後に、前述のろ過器で固液分離してトナーケーキを得た。
得られたトナーケーキを40℃の恒温槽にて72時間かけて乾燥・分級を行い、トナー粒子6を得た。トナー粒子6をそのままトナー6とした。
【0094】
[トナー7の製造方法]
(比較水系媒体2の調製工程)
撹拌機、温度計、還留管を具備した反応容器中にイオン交換水650.0部に、リン酸ナトリウム(ラサ工業社製・12水和物)14.0部を投入し、窒素パージしながら65℃で1.0時間保温した。
T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、15000rpmにて攪拌しながら、イオン交換水10.0部に9.2部の塩化カルシウム(2水和物)を溶解した塩化カルシウム水溶液を一括投入し、分散安定剤を含む水系媒体を調製した。さらに、水系媒体に10質量%塩酸を投入し、pHを5.0に調整し、比較水系媒体2を得た。
【0095】
(重合性単量体組成物の調製工程)
・スチレン :60.0部
・カーボンブラック :6.5部
前記材料をアトライタ(三井三池化工機株式会社製)に投入し、さらに直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5.0時間分散させて、顔料分散液を調製した。前記顔料分散液に下記材料を加えた。
・スチレン:20.0部
・n-ブチルアクリレート:20.0部
・架橋剤(ジビニルベンゼン):0.90部
・メチルトリエトキシシラン:10.0部
・飽和ポリエステル樹脂:5.0部
(プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物)とテレフタル酸との重縮合物(モル比10:12)、ガラス転移温度Tg=68℃、重量平均分子量Mw=10000、分子量分布Mw/Mn=5.12)
・フィッシャートロプシュワックス(融点78℃):7.0部
これを65℃に保温し、T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、500rpmにて均一に溶解、分散し、重合性単量体組成物を調製した。
【0096】
(造粒工程)
比較水系媒体2の温度を70℃、T.K.ホモミクサーの回転数を15000rpmに保ちながら、水系媒体1中に重合性単量体組成物を投入し、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート10.0部を添加した。そのまま該撹拌装置にて15000rpmを維持しつつ10分間造粒した。
【0097】
(重合・蒸留工程)
造粒工程の後、攪拌機をプロペラ撹拌羽根に換え150rpmで攪拌しながら70℃を保持して5.0時間重合を行った。このとき水系媒体のpHは5.1であった。次に、1.0mol/L-NaOH水溶液を10.0部加えてpH8.0にし、85℃に昇温して2.0時間加熱することで重合反応を行った。その後、10%塩酸4.0部をイオン交換水50部に溶解した水溶液を加え、pHを5.1にした。
その後、反応容器の還留管を冷却管に付け替え、スラリーを100℃まで加熱することで、蒸留を6時間行い未反応の重合性単量体を留去し、トナー粒子分散液を得た。
【0098】
(洗浄、乾燥工程)
重合工程終了後、トナー粒子分散液を冷却し、トナー粒子分散液に塩酸を加えpH=1.5以下に調整して1時間撹拌放置してから加圧ろ過器で固液分離し、トナーケーキを得た。これをイオン交換水でリスラリーして再び分散液とした後に、前述のろ過器で固液分離してトナーケーキを得た。
得られたトナーケーキを40℃の恒温槽にて72時間かけて乾燥・分級を行い比較トナー粒子7を得た。比較トナー粒子7をそのままトナー7として用いた。表1に比較トナー粒子7の製造の条件を示す。
【0099】
[比較トナー粒子8およびトナー粒子9の製造方法]
表1に示す条件に変更した以外は、トナー粒子1と同様にして比較トナー粒子8およびトナー粒子9を得た。比較トナー粒子8及びトナー粒子9をそのままそれぞれトナー8及び9として用いた。比較トナー粒子8およびトナー粒子9の製造条件を下記表に示す。
【0100】
[比較トナー10の製造方法]
トナー粒子6の製造方法の中で、有機ケイ素化合物の重合の工程を省き、作製したトナー母粒子に以下の条件で外添剤を外添することで、比較トナー10を作製した。
該トナー母粒子100部に、疎水性ゾルゲルシリカ(日本アエロジル社製:個数平均径
80nm)を3.0部添加しヘンシェルミキサーにて攪拌翼の周速20m/sで混合し、比較トナー10を作製した。
【0101】
【表1】
【0102】
[トナー1~5の製造例]
架橋剤(ジビニルベンゼン)の使用量を表2に示す通りに変更したこと以外はトナー6の製造例と同様にして、トナー粒子1~5を得た。トナー粒子1~5をそのままトナー1~5とした。
【0103】
【表2】
【0104】
<出力画像サンプルのグロス、および、文字の読みやすさの関係>
グロスは、上記トナーの形状残存率を測定したベタ黒画像と同様の画像を、日本電色工業株式会社製の光沢計PG-II(75°)を用いて測定することにより求めた。また、同条件で文字画像も出力し、文字の読みやすさも確認した。先述した通り、グロスが高い画像であると、画像に当たった光の反射光は鏡面反射成分が強くなる。そのため、画像が部分的に白く見えてしまい、読みにくい文書となってしまう。
【0105】
表2は、上述したように測定した出力画像のグロスと文字の読みやすさの関係を調べるために、実験を行った結果を示している。本実施例の画像形成装置を用い、トナーの粘弾性Gを変えながら、トナーの粘弾性Gと定着ニップ圧σ×0.6との関係を振ったときの
、トナーの形状残存率とベタ黒画像出力時のグロス、および、文字画像出力時の文字の読みやすさを評価した。なお、定着フィルム表面の温度が150℃となるようにしたため、表2中のトナー1~5の粘弾性においてはG=G’となる。
【0106】
トナーの粘弾性G(G’)は、トナー粒子を構成する結着樹脂の分子量を大きくするほど高くなり、結着樹脂の分子量は、重合性単量体の重合に際して添加する架橋剤量を増減させることにより、調整することができる。詳細なトナーの製造方法は前述の通りであるが、トナー1~5においては、架橋剤としてジビニルベンゼンを使用し、0.30部~1.10部の範囲で架橋剤量を増やすほど、トナーの粘弾性G(G’)を高くすることができた。
【0107】
トナー粘弾性G(G’)が大きくなるにつれて、出力された画像上のトナーの形状残存率が増え、グロスが低下している。定着ニップ圧σが0.12MPaである条件においては、トナー粘弾性G(G’)が0.072MPa以上の時、トナー形状残存率が60%以上となり、画像のグロスが目標の5.0以下を達成できた。
グロスが低下するほど文字の読みやすさは向上し、グロスが5.0以下を示すときに、十分に読みやすい文書が得られることを確認した。本実施例におけるグロスの目標値は5.0以下であり、グロスが5.0以下であるときの文字の読みやすさを良好(GOOD)とし、グロスが5.0を超えるときの文字の読みやすさをNGとした。トナー粘弾性G(G’)が定着ニップσ×0.6以上であるときトナーの形状残存率が60%以上となり、画像のグロスが十分に低くなり、読みやすい文書が得られることが分かった。
【0108】
トナー粘弾性G(G’)と定着ニップσ×0.6の関係を特定の範囲内とすることで低グロスとなる理由については、用紙の凹凸が起因していると推測する。
オフィス環境等で一般的に使用される用紙はトナー径よりも大きな凹凸を有している。用紙と用紙上のトナーに直接触れる定着フィルムは樹脂フィルムであることが一般的であり、定着フィルムの表面が用紙の凹凸に完全に倣うことができるほど柔らかくないことが多い。その場合、定着ニップ圧σは、用紙の凸部に対して大きく作用し、凹部に対しては小さく作用する。
【0109】
図7は、凹凸を有する用紙上に出力したトナーの断面模式図である。図7(a)は定着装置6を通過する前の未定着状態のトナーであり、前述した画像形成工程によって、凹凸のある用紙上にトナー約2~3個分のトナー層が形成されている様子を示している。
図7(b)~図7(d)は、図7(a)の状態の用紙および用紙上のトナーが定着装置6を通過した後の状態を示している。図7(b)は、トナーの粘弾性G(G’)が低く柔らかい、もしくは、定着ニップ圧σが高いために、該粘弾性G(G’)と該定着ニップ圧σが所定の関係を満たさず、最上層に存在するトナーが溶け広がって平滑な膜を形成している状態である。このようにトナーが潰れて平滑になっている領域が多いと、用紙表面に入射した光の反射光は鏡面反射成分が多くなる。そのため、出力画像のグロスは高くなる。
【0110】
図7(c)は図7(b)よりもトナーの粘弾性G(G’)が高い、又は、定着ニップ圧σが低いために、該粘弾性G(G’)と該定着ニップ圧σが所定の関係を満たし、用紙凹部の定着ニップ圧σが作用しにくい領域でトナーの形状が一部残存している状態である。図7(d)はさらにトナーの粘弾性G(G’)が高い、又は、さらに定着ニップ圧σが低い場合を示しており、用紙凹部でトナーの形状が残存している領域が図7(c)よりもさらに増えている。
このように、図7(b)、図7(c)及び図7(d)を比較すると、用紙の凸部では定着ニップ圧σが強く作用するため平滑な膜を形成しやすい。一方、用紙の凹部ではトナーの形状が残存している領域の大きさが変化していることが分かる。トナーの形状が残存し
ている領域が多いと、用紙表面に入射した光の反射光は拡散反射光の成分が多くなる。そのため、グロスは低くなる。
【0111】
以上示したように、出力画像のグロスは、用紙全体の内、用紙凹部に存在するトナーが、定着装置6を通過した後においてもどのくらい形状が残存しているかに依存していると考えられる。
一方、用紙凹部に存在するトナーが受ける加圧力を、用紙の凹凸をキーエンス社製のレーザー顕微鏡VK-X250で測定した結果を基に、用紙、定着フィルム表面とトナーをそれぞれモデル化して見積もってみたところ、定着ニップ圧σに対して、60%程度しか作用していないことが分かった。
以上より、トナーの粘弾性G(G’)が定着ニップ圧σの0.6倍以上となるようにトナーの粘弾性G(G’)及び定着ニップ圧σを設定することで、用紙凹部に存在するトナーが潰れて平滑になってしまうことを抑制することができ、図7(c)や図7(d)に示したような、用紙凹部で形状が残存しているトナーが多い状態を作り出すことが可能となり、低グロスの出力画像を得ることができる。
【0112】
<有機ケイ素重合体による定着フィルムへのトナー汚染抑制効果について>
一方で、先述したような、有機ケイ素重合体がトナー粒子の外表面に凸部を形成しているトナーを用いることで、定着フィルムのトナー汚染が抑制される。図8を用いてその効果について説明する。
図8は、定着装置6にトナー像が形成された用紙が搬送された時における定着装置6の用紙搬送方向下流側の断面模式図である。定着フィルムへのトナー汚染は、定着装置6通過後もトナーが潰れて平滑になっていなかったり、定着装置6通過後のトナー表面の凸が移動・脱離・埋没してしまったりすることにより発生しやすい。
【0113】
図8(a)は、トナー粘弾性G(G’)が小さい、又は、定着ニップ圧σが高いために、該粘弾性G(G’)と該定着ニップ圧σが所定の関係を満たさず、定着装置6を通過後、用紙上のトナーが大きく潰れた場合の状態を表している。このような場合、用紙上のトナーは溶け広がって隣り合うトナー同士で平滑な膜を形成し、トナー同士が強く結着する。そのため、定着フィルムへのトナー汚染は発生しにくい。
図8(b)は、例えば、出力画像の低グロス化のために、トナー粘弾性G(G’)を大きく、又は、定着ニップ圧σを低くして、トナーを潰さずに粒子形を保った状態を表している。このような場合、隣り合うトナー同士の結着が非常に弱い。このようなトナーは、定着フィルムにオフセットしやすい。
また、図8(b)のようになる他の例として、トナー粒子の外表面に有機ケイ素重合体の凸部304が形成されていたとしても、トナーの粘弾性G(G’)が低すぎる場合があげられる。トナーの粘弾性G(G’)が低く柔らかいと、現像、転写の電子写真プロセスを経ている間にトナー粒子の外表面に形成された有機ケイ素重合体の凸部304の移動・脱離・埋没が発生してしまい、定着装置6通過後には凸部304がトナー表面から消失し、後述する凸部による定着フィルムへのトナー汚染抑制効果が得られない。
【0114】
従来は、この定着フィルムへのトナー汚染を抑制するために、定着温調を上げたり、定着ニップ圧を上げたりして、トナーを潰し、トナーがオフセットしにくい状態を作ることで対応していた。つまり、図8(a)の状態までトナーを潰してしまうことで対応していた。そのため、先述したようなトナーの低グロス化の性能を、十分に発揮することができていない場合があった。
図8(c)は、本実施例の状態を表しており、用紙が定着装置6を通過した後も用紙上のトナー外表面に形成されている凸部304が残存している状態である。トナー粒子の外表面に凸部304が存在すると、定着フィルムとの接触面積が減少するため、隣り合うトナー同士の結着が弱くても定着フィルムにトナーが移行しにくい。よって、定着フィルム
へのトナーによる汚染を抑制できる。
以上示したように、トナー粘弾性G(G’)を高く、具体的には0.060MPa以上として凸部の移動・脱離・埋没を抑制しながら、定着ニップ圧σをトナー粘弾性Gに対して弱い設定とする、具体的にはG≧σ×0.6又はG’≧σ×0.6を満たすようにすることで、出力画像の低グロス化(潰れたトナーが少ない状態)と定着フィルム汚染の抑制を両立することができる。
【0115】
(本実施例の実施形態の特徴)
以下、本実施例の実施形態の特徴をまとめて、下記に説明する。
本実施例のトナーは、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含み、該有機ケイ素重合体が上記式(1)で示される構造を有し、該有機ケイ素重合体がトナー粒子の外表面に凸部を形成している。
かつ、STEMによって得た該トナー粒子の断面画像について、該トナー母粒子の輪郭線を直線に展開して該断面画像の展開画像を得たとき、該展開画像において、該直線の長さをLとし、該直線上における、該凸部と該トナー母粒子との境界を構成している部分の線分の長さを凸幅Wとし、該凸幅Wの法線方向において該凸部の最大長を凸径Dとし、該凸径Dを形成する線分における該凸部の頂点から該直線までの長さを凸高さHとしたとき、凸径D=凸高さHを満たす。
かかる構成とすることによって、画像形成プロセス中にかかるトナーへのストレスによる凸部の移動・脱離の発生を防ぎ、定着後に残存する凸部の個数を確保することができるため、定着フィルムの汚染を抑制する効果を発揮する。
【0116】
さらに、トナー粘弾性G(G’)は、0.060MPa以上である。表3の実施例では
、粘弾性G(G’)が0.080MPaであるトナー6及び粘弾性G(G’)が0.07
0MPaであるトナー9を用いた。トナー粘弾性G(G’)が高い、すなわち、トナー粒
子が硬いほど、現像、転写、定着という電子写真プロセスを経ても凸部の埋没が起こりにくく、定着画像上のトナー粒子の外表面に凸部が残存している状態を保つことができる。そのため、定着フィルムの汚染を抑制する効果を発揮できる。
このようなトナーを用いて、表3の実施例の定着装置は、定着ニップ圧σがトナーの粘弾性Gに対して、G≧σ×0.6の関係となるように、また定着ニップ圧σがトナーの粘弾性G’に対して、G’≧σ×0.6の関係となるように、実施例1-1では0.12MPaに、実施例1-2では0.08MPaに設定した。先述した通り、定着ニップ圧σが0.12MPaである条件においてはトナーの粘弾性G(G’)が0.072MPa以上のとき、定着ニップ圧σが0.08MPaである条件においてはトナーの粘弾性G(G’)が0.048MPa以上のときに、トナー形状残存率が60%以上となり、画像のグロスが目標の5.0以下を達成できた。グロスが低下するほど文字の読みやすさは向上し、グロスが5.0以下を示すときに、十分に読みやすい文書が得られる。
【0117】
【表3】
【0118】
(検証実験結果)
上述した本実施例の効果を確認するため、本実施例の画像形成装置で、図9に示した用紙先端から用紙中央部までをベタ黒にした画像を出力し、トナーの形状残存率とグロス、定着フィルム汚染を評価した結果を、表3を用いて説明する。
トナー形状残存率とグロスの評価は、先述した方法と同様なので説明を省略する。先述した通り、文字の読みやすさの観点で、ベタ黒画像のグロスの目標値は5.0以下である。
定着フィルム汚染の評価は、定着装置通過後のトナーの形状残存率およびグロスを評価した出力画像と同じ図9の画像を用いて、用紙後端の白部に発生する画像汚れ(オフセット)を評価した。用紙先端の黒部で定着フィルムへのトナー汚染が発生していると、トナーが付着した部分から定着フィルム一周後の用紙上にトナーが付着し、画像汚れとなる。用紙後端の白部にトナーが付着する画像汚れが発生した場合をNG、発生しなかった場合をGOODとした。
【0119】
表3に示す実施例1-1~1-2及び比較例1~4の画像形成装置においては、比較例2を除き、ヒータ242の温調温度を180℃とし、このときに記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルム表面の温度は150℃であった。そこで、実施例1~2及び比較例1,3~4においては、150℃,50Hzで測定したときの貯蔵弾性率を粘弾性Gとした。なお、定着ニップ圧σは表3に記載の通りとした。
【0120】
実施例1-1は、トナー粒子の外表面に有機ケイ素重合体の凸部が形成されているトナー6を用いた例である。
トナー6の粘弾性Gは0.080MPaであり、粘弾性G’も0.080MPaであった。また、定着ニップ圧σが0.12MPaとなるように画像形成装置を調整した。
実施例1-1においては、出力画像上のトナーの形状残存率は70%であり、グロスは目標値である5.0以下である4.8を示した。また、上記の画像汚れの発生が見られなかった。
【0121】
従来例は、架橋剤の使用量を調整することでトナーの粘弾性Gと定着ニップ圧σが所定の関係を満たすように設計したものの、トナー粒子の外表面に有機ケイ素重合体の凸部が形成されていないトナー7を用いた例である。
トナー7の粘弾性Gは0.080MPaであり、粘弾性G’も0.080MPaであっった。また、定着ニップ圧σが0.12MPaとなるように画像形成装置を調整した。
従来例においては、出力画像上のトナーの形状残存率は70%であり、グロスは目標値である5.0以下である4.8を示した。しかし記録材が定着ニップ部にて挟持搬送されるときの定着フィルムの表面の温度においてはトナーの離型性が十分に発揮できず、定着フィルムへのトナー汚染が発生した。
【0122】
比較例1は、トナー7を用い、かつ、用紙上で隣り合うトナー同士を強く結着させて定着フィルムへのトナー汚染を抑制するために、定着ニップ圧σを従来例よりも0.02MPa高く設定して0.14MPaとした場合の例である。
定着ニップ圧σに0.6をかけた値は0.084MPaであり、トナーの粘弾性Gよりも大きい。そのため、定着装置6通過後に出力画像上のトナーが平滑な膜を形成している領域が増え、トナーの形状残存率が45%まで低下した。また、グロスが目標値である5.0を超えた10を示した。定着フィルムへのトナー汚染は防止できたが、画像は十分な低グロス状態でなかった。
【0123】
比較例2は、トナー7を用い、かつ、定着フィルムへのトナー汚染抑制のために、定着装置6内ヒータ242の温調温度を20℃高く設定した場合の例である。
温調温度を20℃高く設定すると、定着フィルム表面の温度も15℃上がることが確認できたため、従来例及び比較例1で示したトナーと同じトナー7ではあるが、トナーの粘
弾性Gとしては、165℃における貯蔵弾性率を使用した。
比較例2のトナー(トナー7)の165℃、50Hzにおける貯蔵弾性率は0.050MPaであった。このように、定着フィルムの表面温度に応じて、トナー粘弾性Gの測定方法は適宜変更する必要がある。トナーの粘弾性Gが0.050MPaであるのに対し、定着ニップ圧σが0.12MPaであるので、G≧σ×0.6の関係を満たしていない。そのため、比較例1同様に、定着装置6通過後に出力画像上のトナーが平滑な膜を形成している領域が増え、トナーの形状残存率が30%まで低下した。また、グロスが目標値である5.0を超えた25を示した。定着フィルムへのトナー汚染は防止できたが、画像は十分な低グロス状態でなかった。
【0124】
比較例3は、定着フィルムへのトナー汚染を抑制しようとする目的で、トナー6と同様、有機ケイ素重合体がトナー粒子の外表面に凸径D=凸高さHを満たすように凸部を形成しているトナー8を用いた例を示している。ただし、この例では、架橋剤の量を調整して、150℃、50Hzにおける貯蔵弾性率(トナーの粘弾性G)が0.050MPaであるトナーを用いた。トナー8の粘弾性G’も0.050MPaである。
また、比較例3では定着ニップ圧σを0.08MPaに設定した。
トナーの形状残存率は75%、グロスは目標値である5.0以下である4.5を示しており、低グロスは達成した。しかし、定着フィルムへのトナー汚染が発生した。これは、トナー粒子の外表面に有機ケイ素重合体の凸部が形成されていても、トナー粒子の粘弾性G(G’)が低く柔らかいと、現像、転写の電子写真プロセスを経ている間に凸部が埋没し、定着装置6通過後に凸部がトナー粒子の外表面から消失して凸部による効果が得られなくなっているためと考えられる。
【0125】
実施例1-2として、比較例3に対してトナー製造時の架橋剤の量を調整し、粘弾性Gを0.070MPaまで高くしたトナー9を用いた例を示す。トナー9の粘弾性G’も0.070MPaである。
粘弾性G(G’)を0.060MPa以上とし、かつ、定着ニップ圧σの0.6倍以上とすることで、電子写真プロセス中の凸部の埋没を抑制することができ、定着フィルムのトナー汚染を抑制する効果を得られることが確認できた。この例は、本開示の条件を満たしている構成であり、低グロスと定着フィルムトナー汚染の抑制を両立できた。
【0126】
比較例4は、比較例3や実施例1-2に対してトナーの製造方法を変更し、トナー粒子の外表面に、球形の有機ケイ素重合体が外添されて付着している場合、つまり凸径D>凸高さHであるトナー10を用いた例を示している。
この場合は、有機ケイ素重合体の凸部がトナー粒子の外表面に形成されていても、現像、転写、定着という電子写真プロセスを経ている間に外添剤である有機ケイ素重合体が移動・脱離・埋没してしまうため、定着後の画像上トナー表面に、球形有機ケイ素重合体305が残存しなくなってしまうため、定着フィルム汚染を抑制できなかった。
【0127】
このように、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含み、該有機ケイ素重合体が上記式(1)で表される構造を有し、該有機ケイ素重合体が該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、凸径D=凸高さであるトナーを用い、かつ、トナーの粘弾性Gが0.060MPa以上であり、定着ニップ圧σの関係がG≧σ×0.6を満たすことで、出力画像の低グロスと、定着フィルムへのトナー汚染抑制を両立することができる。
また、トナー母粒子及び該トナー母粒子表面の有機ケイ素重合体を有するトナー粒子を含み、該有機ケイ素重合体が上記式(1)で表される構造を有し、該有機ケイ素重合体が該トナー粒子の外表面に凸部を形成しており、凸径D=凸高さであるトナーを用い、かつ、トナーの粘弾性G’が0.060MPa以上であり、定着ニップ圧σの関係がG’≧σ×0.6を満たすことで、出力画像の低グロスと、定着フィルムへのトナー汚染抑制を両
立することができる。
【0128】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態で示す好ましい構成では、耐久後であっても、トナー容器内でトナーが攪拌を繰り返されている間にトナー粒子の外表面に形成された有機ケイ素重合体の凸部が移動・脱離・埋没することが抑制でき、定着フィルムへのトナー汚染の発生を抑制することができる。
【0129】
本実施例では、定着装置の保持部材が、加熱部材における定着フィルムの内面と摺動接触する面(定着ニップ部を形成するための面)と同じ高さの面を、加熱部材(定着ニップ部)よりも記録材搬送方向下流側において、当該面よりも加圧部材方向(加圧ローラ23)側に突き出た凸部により段差が設けられている。かかる構成にすることで、耐久後においても、出力画像の低グロスを保ちながら、定着フィルムへのトナー汚染を抑制することができる。
【0130】
実施例2-1~2-3で用いたトナーは、実施例1-1と同じトナー6であるため説明を省略する。
実施例2-1~2-3で用いた画像形成装置100は、定着装置6の構成以外は第1の実施例と同じであるため説明を省略する。また、定着装置6の各部材は、ヒータホルダ以外の部材については第1の実施形態の実施例と同じであり、説明を省略する。
【0131】
(ヒータホルダの段差Aによる定着フィルム汚染の抑制)
本実施例のヒータホルダ241’について、図10の定着装置6の断面模式図を用いて説明する。図10(a)は本実施例の定着装置6を表しており、加熱部材を保持する保持部材であるヒータホルダ241’には、ヒータ242保持部分に対して用紙搬送方向下流側に段差Aが設けられている。段差Aはヒータ242の面に対して、加圧ローラ23方向に高さhだけ突出している形状である。すなわち、ヒータホルダ241’は、ヒータ242における定着フィルム24の内面と摺動接触する面(定着ニップ部Nfを形成するための面)と同じ高さの面を、ヒータ242(定着ニップ部Nf)よりも用紙搬送方向下流側に有する。そして、当該面よりもさらに用紙搬送方向下流側において、当該面よりも加圧部材側(加圧ローラ23側)に突き出た凸部により段差Aが設けられている。段差Aを形成する凸部の先端部(先端面)は、定着フィルム24において定着ニップ部Nfを抜けた部分が、同じく用紙において定着ニップ部Nfを抜けた部分に対し、定着ニップ部Nf後端から所定の範囲において部分的に押し付けられるように、定着フィルム24の内面をガイドする。すなわち、定着フィルム24の外面と用紙の画像形成面とは定着ニップ部Nfを通過した後も、段差Aの作用により互いに接触した状態が維持される。本実施例では、段差Aを、ヒータホルダ241’の上記面から、ヒータ242の定着フィルム24内面と摺動接触する面に垂直な方向に突出する凸部により形成し、段差Aの高さhは当該方向に測った高さとしている。図10(b)は比較例で、ヒータホルダ241にそのような段差がない定着装置6を表している。
【0132】
ヒータホルダ241に段差Aが設けられていることにより、定着フィルム24の軌道と用紙の軌道が変化する。本実施例のように段差Aが設けられている場合、定着フィルム24において定着ニップNfを通過した部分は、段差Aが設けられていない構成と比較して、一旦、加圧ローラ23に近づく方向に向かうような構成となっている。すなわち、定着フィルム24において定着ニップ部Nfを通過した部分は、定着ニップ部Nfから離れるほど加圧ローラ23周面から離れるようにガイドされるが、段差Aを設けることで、段差Aを設けない場合よりも、加圧ローラ23周面からの離れ具合が小さくなる。用紙は加圧ローラ23の周面に沿ったカールがくせ付けされて定着ニップ部Nfから排出されるが、
用紙のカール具合よりも段差Aによる定着フィルム24のガイド軌跡の変化具合が大きく、定着フィルム24は、定着ニップ部Nf通過後も所定の範囲で、用紙を加圧ローラ2側に押すようにガイドされる。すなわち、用紙において定着ニップ部Nfから排出された部分は、加圧ローラ23周面から離れた後も、段差Aによる定着フィルム24の押し付けにより、段差Aを設けない場合と異なり、加圧ローラ23側に押し下げられるようにガイドされる。定着フィルム24において段差A部分を抜けた部分は、加圧ローラ23から離れる方向に向かうが、その軌跡の方向の転換具合は、段差Aを設けない場合よりも大きくなる。一方、用紙は、定着ニップNfを通過した後、段差Aよって、定着フィルム24同様に一旦加圧ローラ3に対して(段差Aを設けない場合と比べて)近づく方向に向かった後、そのまま図内矢印Bの方向に向かって進んでいく。このため、用紙と定着フィルム24は、用紙が定着ニップNfを抜けたあと、分離角θaで離れる。この分離角θaは段差Aを設けたことによって、設けない場合のθbよりも大きくなっており、定着フィルム24と、用紙および用紙上トナーとの分離性は、図10(a)の構成の方が、図10(b)の構成よりも高くなる。
なお、定着フィルム24と用紙の上述した所望のガイド軌跡を形成するための構成としては、上述した段差Aによる構成に限定されるものではない。例えば、単一の凸部による構成だけでなく、複数の凸部によって構成してもよいし、その場合、複数の凸部を用紙搬送方向に並べた構成でもよいし用紙搬送方向と直交する方向に複数配置した凸部により構成してもよい。また、凸部をヒータホルダ241’と一体の構成ではなく、別体で形成してヒータホルダ241’に取り付けるような構成でもよい。さらに、凸部の形状も、上述したヒータ242の定着フィルム24内面と摺動接触する面に垂直な方向に突出する断面角形の形状に限定されず、例えば、角の無い丸形断面形状でもよいし、定着フィルム24内面の所定のガイド方向に倣った扁平な断面形状であってもよい。また、凸部は、定着フィルムにおいて定着ニップ部を形成する部分の内面と摺動接触する位置に設けられていてもよい。すなわち、上述した所望のガイド軌跡を形成することができる範囲において種々の形状構成を適宜採用してよい。
【0133】
実施例2-1において、段差Aの高さhは0.20mmとした。段差Aの高さhは、分離角θを大きくして出力画像上のトナーと定着フィルム24の分離性を向上させる観点から、0.01mm以上が好ましく、0.10mm以上がより好ましい。一方、定着ニップ部Nfを抜けた後の記録材上のトナーに加圧力が加わることでトナーが潰れてグロスが高くなる現象を避ける観点から、高さhは1.00mm以下が好ましく、0.50mm以下がより好ましく、0.50mm未満がさらに好ましい。該数値範囲は任意に組み合わせることができる。高さhは、例えば0.01mm~1.00mmとすることができる。
【0134】
また、段差Aは、図10(a)に示したように定着ニップ部Nfの領域外に存在することが好ましい。かかる構成であれば、高さhをなるべく大きい構成にして、用紙上のトナーと定着フィルム24の分離性を確保することと、定着ニップ圧σが大きくなって用紙にさらなる加圧力が加わることを抑制することの、両立が可能である。
なお、定着ニップ部Nfの領域外に段差Aを設ける場合であっても、高さhは0.01mm以上が好ましく、0.10mm以上がより好ましい。また、高さhは1.00mm以下が好ましく、0.50mm以下がより好ましく、0.50mm未満がさらに好ましい。該数値範囲は任意に組み合わせることができる。高さhは、例えば0.01mm~1.00mmとすることができる。
高さhが0.01mm以上であると、分離角θを大きくでき、出力画像上のトナーと定着フィルム24の分離性を向上させることができる。高さhが1.00mm以下であると、定着フィルム24内にヒータホルダを納めるために要する定着フィルム24の内周長を小さくすることができ、コストダウンに資する。また、高さhが1.00mm以下であると、定着フィルム24に繰り返し屈曲が複数回作用することを避けることができるため、定着フィルムの耐久性の観点から好ましい。繰り返し屈曲が複数回作用すると、定着フィ
ルムの長手方向に亀裂が入る可能性があり、この亀裂が成長すると、定着フィルムが破れ、定着装置が故障してしまうことにつながるため、繰り返し屈曲が複数回作用することは避けることが好ましい。
【0135】
また、定着フィルム24の内面には、定着フィルム24の走行を安定させるために、グリスが塗られてもよい。定着フィルム24の内面にグリスが塗られている定着装置の場合、定着装置6の長手方向に段差Aが連続して存在すると、段差Aがグリスをせき止めてしまう可能性がある。そのような場合には、グリスが通過するためのスリットが段差Aに切られているような構成であってもよい。
ここで、図10(a)および図10(b)に示した定着ニップ圧σを、ニッタ(株)製の圧力分布測定システムPINCHを用いて測定したところ、図10(a)および図10(b)のいずれも、定着ニップ圧σは0.12MPa、定着ニップ幅は5mmであった。
【0136】
【表4】
【0137】
<検証実験結果>
本実施例の効果を確認するため、75,000枚を実際に通紙耐久した。10,000枚おきに図9に示した用紙先端から用紙中央部までをベタ黒にした画像を出力し、トナーの形状残存率とグロス、耐久後の定着フィルム汚染を評価した。表4に結果を示す。
実施例2-1~2-3いずれも、トナーの形状残存率およびグロスは、75,000枚耐久を通じてほぼ変化が見られず、定着フィルム汚染が発生してした時点の形状残存率およびグロスを記載した。また、耐久後の定着フィルム汚染の評価方法は、第一の実施形態の実施例に記載した方法と同じであるため説明を省略するが、表4には、定着フィルム汚染が発生した枚数を記載した。
【0138】
実施例2-2の構成では、トナーの形状残存率が70%と高く、かつ、トナー粒子の外表面に有機ケイ素重合体の凸部が形成されているトナー6を用いているため、耐久初期においては、低グロスも定着フィルム汚染の抑制も両立できていた。しかし、耐久を行ってみると、40,000枚時点で定着フィルム汚染が発生した。
【0139】
実施例2-3は、実施例2-2の構成に対して、定着フィルム汚染を改善するために、ヒータホルダに段差Aを設け、その高さhを0.03mmとした場合の例である。この構成であれば、定着フィルムの汚染を50,000枚まで抑制することができた。
【0140】
実施例2-1では、実施例2-3に対して、さらに段差Aの高さhを高くし、0.20mmとした例である。この構成であれば、耐久枚数が75,000枚に到達しても、定着フィルム汚染は発生しなかった。
【0141】
このように、ヒータホルダに段差Aを設けることによって、耐久後であっても定着フィルム汚染を抑制することができた。また、第一の実施態様の実施例と同様に、定着ニップ圧σがG≧σ×0.6を満たすように設定されていることで、出力画像の低グロスと、定着フィルムへのトナー汚染抑制を両立することもできていた。
【符号の説明】
【0142】
1‥‥感光ドラム、2‥‥帯電ローラ、3‥‥露光手段、4‥‥現像装置、41‥‥現像ローラ、5‥‥転写ローラ、6‥‥定着装置、11‥‥給紙トレイ、12‥‥給紙ローラ、14‥‥排紙ローラ、15‥‥排紙トレイ、23‥‥加圧ローラ、24‥‥定着フィルム、241‥‥ヒータホルダ、242‥‥ヒータ、243‥‥ステー、301‥‥トナーのSTEM観察画像、302‥‥トナー、303‥‥トナー粒子の外表面、304‥‥有機ケイ素重合体の凸部、305‥‥球形の有機ケイ素重合体、Nf‥‥定着ニップ幅、A‥‥第2の実施形態におけるヒータホルダが有する凸部D‥‥凸径D、H‥‥凸高さH、W‥‥凸幅W
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10