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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】記録装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 11/42 20060101AFI20240213BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240213BHJP
   B41J 29/13 20060101ALI20240213BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20240213BHJP
   B41J 15/04 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B41J11/42
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J29/13 103
B41J29/38 206
B41J15/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020038122
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021138059
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】村田 遼介
(72)【発明者】
【氏名】黒沼 大悟
(72)【発明者】
【氏名】島村 健史
(72)【発明者】
【氏名】張替 亮
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏明
(72)【発明者】
【氏名】徳田 康平
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321130(JP,A)
【文献】特開2004-276396(JP,A)
【文献】特開平06-344610(JP,A)
【文献】特開2019-042962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 11/42
B41J 11/00
B41J 2/01
B41J 29/13
B41J 29/12
B41J 29/38
B41J 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録装置であって、
シートがロール状に巻かれたロールシートを回転可能に支持する支持手段と、
前記ロールシートから引き出された前記シートを第1方向と、前記第1方向と反対の第2方向と、に搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により前記第1方向に搬送される前記シートに記録を行う記録手段と、を備え、
前記搬送手段は、新たな記録ジョブを受信した場合に、前回の記録ジョブの終了後であって前記新たな記録ジョブの記録前までの前記記録装置の状態変化に基づいて、前記第2方向への前記シートの搬送を含む準備動作を行うことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記支持手段に支持された前記ロールシートを覆うカバーを備え、
記記録装置の状態変化は前記カバーの開閉に関わることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記カバーが開いた状態において、前記支持手段に支持された前記ロールシート少なくとも一部が露出することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
記カバーが開いたことを検知する検知手段備えることを特徴とする請求項2または3に記載の記録装置。
【請求項5】
記カバーが閉じたことを検知する検知手段備えることを特徴とする請求項2または3に記載の記録装置。
【請求項6】
前記シートを切断するカッタを備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録手段と対向するように配され、前記シートを支持するプラテンと、
前記プラテンに設けられた孔から空気を吸引する吸引手段と、を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記シートの端部を検知するセンサを備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記記録手段はインクを吐出する記録ヘッドを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録手段は、前記ロールシートの外側の面に対して記録を行うことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記ロールシートの回転中心は前記記録手段より高い位置にあることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
シートがロール状に巻かれたロールシートを回転可能に支持する支持手段と、前記ロールシートから引き出された前記シートを第1方向と、前記第1方向と反対の第2方向と、に搬送する搬送手段と、を備え記録装置の制御方法であって、
前記搬送手段により前記第1方向に搬送される前記シートに記録を行う記録工程と、
新たな記録ジョブを受信する受信工程と、
前記受信工程の後に、前回の記録ジョブの終了後であって前記新たな記録ジョブの記録前までの前記記録装置の状態変化に基づいて、前記第2方向への前記シートの搬送を含む準備動作を行う搬送工程と、を有することを特徴とする制御方法。
【請求項13】
前記記録装置の状態変化は、前記支持手段に支持された前記ロールシートを覆うカバーの開閉に関わることを特徴とする請求項12に記載の制御方法
【請求項14】
前記カバーが開いたことを検知する検知工程を有することを特徴とする請求項13に記載の制御方法
【請求項15】
前記カバーが閉じたことを検知する検知工程を有することを特徴とする請求項13に記載の制御方法
【請求項16】
前記シートを切断する切断工程を有することを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載の制御方法
【請求項17】
前記シートの端部を検知する端部検知工程を有することを特徴とする請求項12から16のいずれか1項に記載の制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロールシートからシートを引き出して記録を実行する記録装置が知られている。記録動作中にロールシートにユーザが触れるとシートの搬送精度に影響を与える場合がある。そこで、ロールシートを覆うカバーを設けた記録装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-176997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートを搬送する搬送機構にはバックラッシュが存在する。バックラッシュの最大量は設計上又は実験上、既知であるから、通常は、バックラッシュを考慮した制御が可能であり、シートの搬送精度に影響を与えない。しかし、例えば、記録ジョブの開始前の待機中にユーザがロールシートに触れると、最大量に達しないバックラッシュが発生し得る。このまま記録ジョブを実行すると、シートの搬送精度に影響を与える。
【0005】
本発明は、記録効率を大きく低下させることなく、シートの搬送精度を向上可能な技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
シートがロール状に巻かれたロールシートを回転可能に支持する支持手段と、
前記ロールシートから引き出された前記シートを挟む一対の回転体を備え、前記一対の回転体の回転によって前記シートを搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送される前記シートに記録を行う記録手段と、
新たな記録ジョブを実行する場合に、前記シートを順方向に搬送してから逆方向に搬送して停止する準備動作を前記搬送手段に実行させる制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前回の記録ジョブの終了後、所定の条件が成立した場合は、前記準備動作を前記搬送手段に実行させ、
前回の記録ジョブの終了後、前記所定の条件が成立しない場合は、前記準備動作を省略する、
ことを特徴とする記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、記録効率を大きく低下させることなく、シートの搬送精度を向上可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る記録装置の外観図である。
図2図1の記録装置の内部構造を示す模式図である。
図3図1の記録装置の制御装置のブロック図である。
図4】(A)及び(B)はバックラッシュの説明図である。
図5図1の記録装置の制御処理例を示すフローチャートである。
図6図1の記録装置の制御処理例を示すフローチャートである。
図7図1の記録装置の制御処理例を示すフローチャートである。
図8】(A)~(D)は図1の記録装置の動作説明図である。
図9】(A)~(D)は図1の記録装置の動作説明図である。
図10】搬送ローラとピンチローラの接離機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<記録装置の概要>
図1は本実施形態における記録装置1の外観図である。図2は記録装置1の内部構造を示す模式図である。図中、Xは記録装置1の幅方向(左右方向)を示し、Yは記録装置1の奥行き方向(前後方向)を示し、Zは上下方向を示す。本実施形態では、記録ヘッドを搭載したキャリッジが走査することで記録するシリアル型のインクジェット記録装置に本発明を適用した場合について説明するが、本発明は他の形式の記録装置にも適用可能である。
【0011】
なお、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれ、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、本実施形態では記録対象である「記録媒体」としてシート状の紙を想定するが、シート状の布、プラスチック・フィルム等であってもよい。
【0012】
記録装置1は、一対の脚部5に支持されている。記録装置1の奥側(後ろ側)には給送装置2が備えられ、手前側(前側)に排紙トレイ3が備えられている。記録装置1の上面にはユーザが様々な設定やコマンドを入力したり、情報を確認したりするための操作パネル6が設けられている。
【0013】
記録装置1は、ロールシート100からシートSを引き出して画像を記録可能な装置である。シートSは連続した一枚のシートであり、ロールシート100は、筒状の芯材にシートSがロール状に巻かれたものである。ロールシート100はシートSのうち、特にロール状の部分を指す。
【0014】
給送装置2は、ロールシート100を回転可能に支持するロール支持ユニット20を備える。ロールシート100の両端部には、その回転中心軸(X方向の軸)を規定するホルダ7が脱着可能に取り付けられる。ユーザはホルダ7が装着されたロールシート100を保持部20aにセットすることで、ロールシート100を記録に使用できる。ロール支持ユニット20はホルダ7のスプール軸を回転自在に支持する左右の保持部20aを有する。保持部20aは谷型の溝であり、その底部にホルダ7の軸部を回転自在に保持する。
【0015】
給送装置2は、ロール支持ユニット20に支持されたロールシート100を覆うカバー4を備える。カバー4は断面円弧形状の部材であり、ロールシート100を覆うカバー位置(例えば図2の位置)と、ロールシート100を外部に露出させる退避位置(例えば図1の位置)との間で開閉可能に設けられている。カバー4によりロールシート100をゴミの付着から保護したり、記録中にユーザがロールシート100に触れて記録画像が乱れることを防ぐことができる。
【0016】
カバー4の内面には、ローラ21が回転自在にアーム部材22を介して支持されている。ローラ21は、ロールシート100の外周面に当接可能に設けられている。本実施形態の場合、2つのローラ21とアーム部材22の組が、X方向に離間して複数組、配置されている。アーム部材22は、カバー4にX方向の軸周りに回動自在に支持されており、その根元部分にはねじりコイルバネ等の弾性部材22aが設けられている。弾性部材22aは、ローラ21がロールシート100の外周面に圧接する方向にアーム部材22を付勢する。ロールシート100の巻径に関わらずローラ21がロールシートの外周面に圧接するので、シートSを安定して送り出すことができる。
【0017】
給送装置2は、ロール支持ユニット20に支持されたロールシート100を回転させて搬送経路RTに送り出す給送駆動ユニット25を備える。駆動ユニット25は、駆動源である給送モータ25aと、給送モータ25aの駆動力をホルダ7のスプールギヤに伝達する歯車機構等の伝達機構25bとを備える。給送モータ25aの回転により、ロールシート100のシートSを搬送経路RTに送り出すことができる。
【0018】
搬送経路RTは、上側のガイド部材25Bと下側のガイド部材25Aとの間の空間として形成されている。搬送経路RTの下流端には、搬送ローラ9とピンチローラ10のニップ部が位置している。搬送ローラ9及びピンチローラ10はいずれもX方向の軸周りに回転自在に設けられた一対の回転体である。ピンチローラ10は搬送ローラ9に圧接しており、搬送ローラ9の回転に従動して回転する。搬送ローラ9とピンチローラ10は、搬送方向(Y方向)で記録ヘッド13の記録位置よりも上流側に位置している。以下の説明において、上流側、下流側という場合、シートSの搬送方向を基準とする。
【0019】
記録装置1は搬送ローラ9を回転させる駆動ユニット18を備える。駆動ユニット18は、駆動源である搬送モータ18aと、搬送モータ18aの駆動力を搬送ローラ9に伝達する歯車機構やベルト伝動機構等の伝達機構18bとを備える。搬送モータ18aの駆動により、記録の際、シートSは搬送ローラ9とピンチローラ10に挟持されつつ、これらの回転によって、記録ヘッド13に対向して配置されたプラテン11上に搬送される。
【0020】
搬送ローラ9の回転量はセンサ9aで検知される。センサ9aの検知結果により、シートSの搬送量を特定でき、シートSの搬送位置を特定できる。センサ9aは例えばロータリエンコーダである。
【0021】
プラテン11は、シートSを下側から支持し、記録ヘッド13とシートSとの隙間を保証する。プラテン11には、複数の吸気孔が形成されており、複数の吸気孔はダクトを介して不図示の吸引ファン(図3の吸引ファン17)に接続されている。吸引ファン17を駆動することにより、プラテン11の吸気孔に吸引負圧が発生し、シートSをプラテン11上に吸着保持することができる。
【0022】
記録ヘッド13はキャリッジ12に搭載されている。キャリッジ12はX方向(主走査方向)に往復移動可能に支持されている。キャリッジ12は、キャリッジモータ12a(図3)を駆動源とした駆動機構によりX方向に往復移動される。
【0023】
記録ヘッド13には、インクを吐出する吐出口(ノズル)が設けられている。インクは不図示のインク貯留部から記録ヘッド13に供給される。キャリッジ12が移動している間に記録ヘッド13からインクがシートS上に吐出される。記録ヘッド13の吐出動作とキャリッジ12の移動によって1ライン分の画像を記録することができる。このような画像の記録と、搬送ローラ9によるシートSの間欠的なY方向(副走査方向)の搬送とを交互に繰り返すことで、頁単位の画像を記録することができる。シートSの搬送方向で記録ヘッド13及びプラテン11よりも下流側にはカッタ16が配置されている。カッタ16は、記録済みのシートSをX方向に切断する。これによりロールシート100から、画像が記録されたカットシートを得られる。
【0024】
記録装置1は開閉可能な上面カバー8を備えており、図2の破線は上面カバー8が開放状態にある場合を示している。上面カバー8を開放することで、シートSの一部、キャリッジ12或いはカッタ16の周辺の機構が外部に露出し、これらのメンテナンスを行うことができる。
【0025】
記録装置1はシートSの先端を検知する先端検知センサ14を備えている。本実施形態の場合、先端検知センサ14はキャリッジ12に搭載されているが、先端検知センサ14の配置部位はこれに限られず、プラテン11の上流側の端部等に固定して配置してもよい。
【0026】
先端検知センサ14は、シートSの先端が検知位置14aを通過する前後で出力が変化するセンサであり、例えば光学式センサや、反射型PIセンサ、フラグ式PIセンサを使用することができる。光学式センサは、例えば、発光素子と受光素子とを備える。発光素子はシートS上に光を照射し、受光素子がその反射光を受光する。検知位置14aは搬送ローラ9とピンチローラ10とのニップ部の下流側でニップ部に隣接して設定されている。
【0027】
記録装置1はカバー4の開閉を検知する開閉検知センサ15を備えている。本実施形態では開閉検知センサ15は、装置本体側に設けられているがカバー4側に設けてもよい。開閉検知センサ15は、例えば、カバー4が閉状態の場合に押圧される押しボタン式スイッチなどの機械式センサや、カバー4の近接、離間を検知する光学式センサである。
【0028】
<制御装置>
図3を参照して記録装置1の制御装置について説明する。制御装置は、主制御部30と記録制御部34とを備える。主制御部30は、ホスト装置200から画像データとその記録指示を含む記録ジョブを受信し、記録動作を実行する。主制御部30は、処理部31、記憶部32、インタフェース部(I/F部)33を備え、記録装置1の全体を制御する。処理部31はCPUに代表されるプロセッサであり、記憶部32に記憶されたプログラムを実行する。記憶部32はRAMやROM等の記憶デバイスであり、プログラムやデータを記憶する。センサ群SRの検知結果に基づく主制御部30の指示のもと、記録制御部34は搬送モータ18a、吸引ファン17、キャリッジモータ12a、記録ヘッド13、カッタ16及び給送モータ25a等を制御する。センサ群SRにはセンサ9a、先端検知センサ14及び開閉検知センサ15等が含まれる。
【0029】
<バックラッシュ>
伝達機構18bにはバックラッシュが存在する。図4(A)及び図4(B)はその一例を示す図である。図示の例は、伝達機構18bが歯車G1及び歯車G2を含み、互いに噛み合う歯間のバックラッシュを例示している。歯間の駆動力の伝達は、バックラッシュ分、歯車が回転するまでは行われないので、搬送機構におけるシートSの搬送精度に影響し得る。
【0030】
図4(A)は、歯車G1の歯の一方の側面が歯車G2に当接し(部位301)、他方の側面と歯車G2の歯との間にバックラッシュ300が生じている状態を示す。このバックラッシュ300は、この歯車機構における最大量のバックラッシュであり、設計上又は実験上、既知である。したがって、この状態からバックラッシュを減らす方向に歯車G1を回転させて歯車G2に駆動力を伝達する場合であっても、バックラッシュによる搬送精度の影響は補正可能である。
【0031】
図4(B)は、歯車G1の歯の一方の側面と他方の側面と歯車G2の歯との双方の間にバックラッシュ302が生じている状態を示す。このバックラッシュ302の量は変動量であり、特定困難である。この状態から歯車G1を回転させて歯車G2に駆動力を伝達する場合、搬送精度に影響が出る。
【0032】
本実施形態では、図4(B)のようなバックラッシュ302が発生している可能性がある場合、後述する準備動作を行うことで、図4(A)のように既知のバックラッシュ300が発生するようにシートSの搬送を制御する。なお、図4(A)及び図4(B)では、伝達機構18bが歯車機構を備えた場合について説明したが、歯付ベルトを用いたベルト伝動機構等、互いに噛み合う歯を有する伝達機構を伝達機構18bとして採用した場合も同様である。
【0033】
<制御例>
主制御部30による記録装置1の制御例について説明する。図5は主制御部30による制御例を示すフローチャートである。主制御部30は電源投入により初期処理を実行した後、図5の処理を繰り返し実行する。
【0034】
S1でホスト装置200から新たな記録ジョブを受信したか否かを判定する。新たな記録ジョブを受信するとS2で準備動作の実行の有無を示すフラグがONか否かを判定する。フラグがONの場合はS3へ進み、OFFの場合はS5へ進む。S3では後述する準備動作を行い、S4ではフラグをOFFにする。
【0035】
S5以下では新たな記録ジョブを実行する。S5では駆動ユニット18、給送駆動ユニット25を駆動して搬送ローラ9及びロールシート100を回転させ、シートSを記録開始位置まで順方向に搬送する。順方向に搬送とはシートSを下流側に搬送することを意味し、逆方向に搬送とはシートSを上流側に搬送する(戻す)ことを意味する。
【0036】
S6では記録動作を行う。ここでは記録ヘッド13のインク吐出動作及びキャリッジ12の移動動作による1ライン分の画像の記録と、搬送ローラ9の回転によるシートSの間欠的な搬送とを交互に繰り返すことで、シートS上に画像が記録される。S7では排出処理を行う。ここでは駆動ユニット18、給送駆動ユニット25を駆動して搬送ローラ9、ロールシート100を回転させ、シートSを切断位置まで順方向に搬送する。S8ではカッタ16によりシートSを切断する。
【0037】
S9ではシートSを所定位置まで逆方向に搬送し、次の記録ジョブを待つ待機状態となる。図8(A)~図8(D)はS8及びS9の処理における記録装置1の動作を模式的に示している。
【0038】
図8(A)はカッタ16によりシートSを切断した状態を示す。この後、搬送ローラ9を逆転させ、図8(B)に示すようにシートSを逆方向に搬送する。その際、ロールシート100も逆転させてシートSの張力を調整してもよい。図8(C)はシートSの先端が検知位置14aを通過したことが先端検知センサ14で検知された状態を示す。ここからシートSを逆方向に所定量搬送してシートSの搬送を停止する。新たな記録ジョブの受信時には、毎回、シートSが、その先端が同じ位置(本実施形態では搬送ローラ9とピンチローラ10のニップ部から先端が僅かに下流側に出た位置)である待機位置に位置することになる。
【0039】
この待機位置に位置している場合、伝達機構18bのバックラッシュの状態は、通常、図4(A)の既知のバックラッシュが生じている状態である。しかし、ユーザがロールシート100に触れてしまった場合等、搬送ローラ9を回転させる状況があった場合、図4(B)の特定困難なバックラッシュが発生している可能性がある。こうした場合には、図5のS3の準備動作を行うことで、伝達機構18bのバックラッシュの状態を図4(A)の既知の状態にする。
【0040】
図6はS3の準備動作の処理を示すフローチャートであり、図9(A)~図9(D)は準備動作を模式的に示している。図9(A)はシートSが待機位置に位置している状態を示す。この状態から図6のS11で搬送ローラ9を正転させる。これにより図9(B)に示すようにシートSが順方向に所定量、搬送される。シートSの搬送量はシートSの先端がセンサ14の検知位置14aを超える搬送量であればよい。その際、ロールシート100も正転させてシートSの張力を調整してもよい。
【0041】
図6のS12で搬送ローラ9を逆転させ、シートSを逆方向に搬送する。S13では先端検知センサ14でシートSの先端が検知位置14aを通過したことが検知されたか否かを判定する。図9(C)は先端が検知された状態を示している。検知された場合はS14へ進み、検知されない場合はS13の判定処理を繰り返す。S14では所定量、シートSを逆方向に搬送してシートSの搬送を停止する。ここでのシートSの搬送量は図5のS9での搬送量と同じである。これによりシートSが待機位置に位置することになる。しかも、伝達機構18bのバックラッシュの状態は、図4(A)の既知のバックラッシュが生じている状態となる。このように特定困難なバックラッシュが発生している可能性がある場合に、準備動作を行うことで、既知のバックラッシュが発生している状態に伝達機構18bを矯正でき、バックラッシュを管理することができる。
【0042】
次に、フラグのON制御について説明する。新たな記録ジョブを実行する度に準備動作を行ってもよいが、その場合、準備動作の頻度が不必要に多くなる。すなわち、既知のバックラッシュが発生している状態で準備動作を行うことは無駄であり、準備動作の時間だけ、記録効率を低下させる。そこで、本実施形態では所定の条件が成立した場合にフラグをONにして準備動作を行い、所定の条件が成立しない場合は準備動作を省略する。これにより記録効率を大きく低下させることなく、搬送機構のバックラッシュを管理してシートの搬送精度を向上することができる。
【0043】
図7はフラグのON制御に関わる処理例を示すフローチャートである。本実施形態では、前回の記録ジョブの終了後、新たな記録ジョブの受信までの間、記録装置1を監視し、搬送ローラ9を回転させる可能性のある状況が生じたか否かを判定する。
【0044】
S21では、今回の記録ジョブが終了したか否かを判定する。今回の記録ジョブが終了した場合S22へ進み、記録装置1の監視を開始する。なお、本実施形態の場合、図5のS9の処理によりシートSを待機位置に搬送したことにより記録ジョブが終了したと判定する。
【0045】
S22では、開閉検知センサ15の検知結果を取得する。S23ではS22で取得した開閉検知センサ15の検知結果に基づいて、フラグをONにする条件が成立したか否かを判定する。具体的には、カバー4が開放されたか否かを判定する。カバー4が開放された場合、ユーザがロールシート100に手を触れてロールシート100が回転した可能性がある。この場合、シートSをニップしている搬送ローラ9が回転している可能性があり、特定困難なバックラッシュが発生し得る。よって、カバー4が開放されていた場合は、条件が成立したとしてS24へ進みフラグをONにする。これにより新たな記録ジョブを実行する場合に準備動作が行われることになる。
【0046】
カバー4が開放されていない場合はS25へ進む。S25では新たな記録ジョブを受信したか否かを判定する。新たな記録ジョブを受信した場合は監視を終了し、受信していない場合はS22へ戻って監視を継続する。
【0047】
<第二実施形態>
第一実施形態では、カバー4が開放されたことを条件として準備動作を行ったが、準備動作を実行する条件はこれに限定されるわけではない。記録装置1が備えるカバー4以外の開閉部に対するユーザの開操作が検知された場合に準備動作を実行してもよい。例えば、上面カバー8のように、開操作によって、記録装置1の内部のうち、ロールシート100から、搬送ローラ9とピンチローラ10までの領域の少なくとも一部が露出する開閉部に対する開操作が検知された場合である。
【0048】
また、開閉部以外の所定の操作が行われたことを条件として準備動作を行ってもよい。例えば、搬送ローラ9とピンチローラ10との圧接を解除可能な操作部を設けた構成において、その解除操作が行われた場合である。図10(A)及び図10(B)はその一例を示している。
【0049】
図10(A)において、接離機構40はレバー状の操作部40aに対する操作により、搬送ローラ9とピンチローラ10とを離間させる機構である。図10(A)は搬送ローラ9とピンチローラ10とが圧接した状態にある。図10(B)に示すように操作部40aに対してユーザが解除動作を行うと接離機構40はピンチローラ10を変位して搬送ローラ9から離間させる。
【0050】
搬送ローラ9とピンチローラ10との接離状態は、接離検知センサ19により検知される。接離検知センサ19は、例えば、接離機構40が備えるリンクであって、ピンチローラ10の変位に同期して変位するリンクの動きを検知する光学式センサ或いは機械式センサである。
【0051】
搬送ローラ9とピンチローラ10とが離間して両者の圧接が解除されると、搬送ローラ9が微回転して伝達機構18bのバックラッシュ状態が変動する可能性がある。よって、前回の記録ジョブの終了後、接離検知センサ19により搬送ローラ9とピンチローラ10との離間が検知された場合はフラグをONにして準備動作を実行する。
【0052】
フラグをONにする条件は、一つに限られず、複数であってもよい。例えば、開閉部に対する開操作があった場合、或いは、搬送ローラ9とピンチローラ10との離間が検知された場合は、いずれもフラグをONにしてもよい。
【0053】
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0054】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0055】
1 記録装置、9 搬送ローラ、10 ピンチローラ、13 記録ヘッド、100 ロールシート
図1
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