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特許7433988インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20240213BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240213BHJP
   B41J 2/015 20060101ALI20240213BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240213BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20240213BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B41J2/17
B41J2/14
B41J2/015 101
B41J2/01 501
B41J2/175 121
B41M5/00 120
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020039042
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2020152106
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019044783
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】山下 知洋
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-016567(JP,A)
【文献】特開2011-116089(JP,A)
【文献】特開2006-198846(JP,A)
【文献】特開2017-001391(JP,A)
【文献】特開2006-312146(JP,A)
【文献】特開2014-151226(JP,A)
【文献】特開2017-214461(JP,A)
【文献】特開2017-132891(JP,A)
【文献】特開2011-110487(JP,A)
【文献】特開2016-124138(JP,A)
【文献】特開2006-224460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクと、前記水性インクを収容する第1インク収容部と、前記第1インク収容部とチューブを介して接続されるとともに前記水性インクを吸収体に含浸させずに収容する第2インク収容部と、前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する機構と、前記吐出口から吸引して前記第2インク収容部内を減圧状態とすることが可能なチョーク吸引機構と、を備えたインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、色材、及びノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤を含有し、
前記インクジェット記録装置が、さらに、前記第2インク収容部と前記記録ヘッドとの接続部に配設されるフィルタを備えるとともに、前記フィルタから前記吐出口までの間の前記水性インクが流通する液室の、前記吐出口1つ当たりの容積が、0.90μL以下であり、
さらに、前記チョーク吸引機構により前記吐出口から前記第2インク収容部内を吸引して減圧状態とした後に前記減圧状態を開放して、前記第1インク収容部から前記第2インク収容部及び前記記録ヘッドに前記水性インクを供給する供給工程を有し、
前記供給工程において、(i)前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温しながら前記第2インク収容部内を吸引する、又は(ii)前記第2インク収容部に前記水性インクを供給した後に前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する、
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記記録ヘッドと前記記録媒体との1回の相対走査により、前記水性インクを前記記録媒体の単位領域に付与して画像を記録する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記フィルタの孔径が、2μm以上である請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記フィルタの孔径が、10μm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
6kHz以上の吐出周波数で前記水性インクを吐出する請求項1乃至のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
20kHz以下の吐出周波数で前記水性インクを吐出する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記界面活性剤が、フッ素系界面活性剤を含む請求項1乃至のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が、炭化水素系の界面活性剤を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記液室の、前記吐出口1つ当たりの容積が、0.50μL以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記液室の総容積が、0.10mL以上3.00mLである請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記水性インク中の前記色材の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記水性インク中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下である請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記供給工程において、(i)前記記録ヘッド内の前記水性インクを30℃以上95℃以下に加温しながら前記第2インク収容部内を吸引する、又は(ii)前記第2インク収容部に前記水性インクを供給した後に前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する請求項1乃至12のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記第1インク収容部のインク最大収容量(mL)が、60mL以上200mL以下である請求項1乃至13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記第2インク収容部のインク最大収容量(mL)が、1mL以上20mL以下である請求項1乃至14のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
水性インクと、前記水性インクを収容する第1インク収容部と、前記第1インク収容部とチューブを介して接続されるとともに前記水性インクを吸収体に含浸させずに収容する第2インク収容部と、前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する機構と、前記吐出口から吸引して前記第2インク収容部内を減圧状態とすることが可能なチョーク吸引機構と、を備える、請求項1乃至15のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置であって、
前記水性インクが、色材、及びノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤を含有し、
さらに、前記第2インク収容部と前記記録ヘッドとの接続部に配設されるフィルタと、
前記チョーク吸引機構により前記吐出口から前記第2インク収容部内を吸引して減圧状態とした後に前記減圧状態を開放して、前記第1インク収容部から前記第2インク収容部及び前記記録ヘッドに前記水性インクを供給するに際して、(i)前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温しながら前記第2インク収容部内を吸引する、又は(ii)前記第2インク収容部に前記水性インクを供給した後に前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する制御手段と、を備え、
前記フィルタから前記吐出口までの間の前記水性インクが流通する液室の、前記吐出口1つ当たりの容積が、0.90μL以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びそれに用いるインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法によれば、写真や文書などの画像を様々な記録媒体に記録することが可能である。また、写真画質の画像を光沢紙に記録するのに適したインクや、文書などを普通紙に記録するのに適したインクなど、目的に応じた種々のインクが提案されている。
【0003】
近年、文字や図表を含むビジネス文章を普通紙などの記録媒体に印刷する場合にインクジェット記録方法が利用されており、このような用途への利用頻度が格段に増加している。そして、より大量の文書を記録するために、インクタンクの大容量化が市場から強く求められている。さらに、従来よりも高速に文書を記録可能であることも同時に求められてきている。このような状況下、大量のインクを収容可能なメインタンクを備えたインクジェット記録装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-001391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、生産性を高めるために必要なインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置の構成について検討した。その結果、キャリッジ上に記録ヘッドとともに配置されたインク収容部(以下、「サブタンク」とも記す)にインクを供給するシステムを採用することで、インクの充填、及び吸引による吐出状態の回復に要する時間が短縮され、生産性が向上することが判明した。また、記録速度を向上させるための要件について検討した。その結果、インクを吸収して保持する吸収体を内部に備えるサブタンクよりも、吸収体を備えないサブタンクを用いたほうがインクの流速を向上させることができ、高速記録により適していることがわかった。
【0006】
しかし、従来のインクの充填方法では、その内部に吸収体を備えないサブタンクにインクを速やかに充填することが困難であるといった課題がある。この課題を解決する方法として、チューブなどで形成されるインク供給経路の一部を閉塞させた状態で、吐出口側からサブタンク内を吸引して一旦減圧状態とした後、閉塞を解き、減圧状態を開放してサブタンク内及び記録ヘッドにインクを充填する方法がある。この吸引は、いわゆる「チョーク吸引」と呼ばれ、サブタンクへのインクの充填の際だけでなく、記録ヘッドに強固にインクが固着したような状態から正常に吐出可能な状態に回復するためなどの際にも実施される。
【0007】
チョーク吸引の際に減圧状態を開放すると、サブタンク内にインクが急激に流入する。サブタンクと記録ヘッドとの接続部に設置されたフィルタをインクが通過する際に、微細な泡がインク中に発生することが判明した。インクに泡が含まれていると、記録ヘッドの吐出口からのインクの正常な吐出が阻害されてしまい、記録される画像の品位が低下するといった新たな課題が生ずる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、水性インクを吸収体に含浸させずに収容するサブタンクを備えたインクジェット記録装置を使用しながらも、正常にインクが吐出されて、高い生産性で画像を記録することが可能なインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、水性インクと、前記水性インクを収容する第1インク収容部と、前記第1インク収容部とチューブを介して接続されるとともに前記水性インクを吸収体に含浸させずに収容する第2インク収容部と、前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する機構と、前記吐出口から吸引して前記第2インク収容部内を減圧状態とすることが可能なチョーク吸引機構と、を備えたインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、前記水性インクが、色材、及びノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤を含有し、前記インクジェット記録装置が、さらに、前記第2インク収容部と前記記録ヘッドとの接続部に配設されるフィルタを備えるとともに、前記フィルタから前記吐出口までの間の前記水性インクが流通する液室の、前記吐出口1つ当たりの容積が、0.90μL以下であり、さらに、前記チョーク吸引機構により前記吐出口から前記第2インク収容部内を吸引して減圧状態とした後に前記減圧状態を開放して、前記第1インク収容部から前記第2インク収容部及び前記記録ヘッドに前記水性インクを供給する供給工程を有し、前記供給工程において、(i)前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温しながら前記第2インク収容部内を吸引する、又は(ii)前記第2インク収容部に前記水性インクを供給した後に前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する、ことを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水性インクを吸収体に含浸させずに収容するサブタンクを備えたインクジェット記録装置を使用しながらも、正常にインクが吐出されて、高い生産性で画像を記録することが可能なインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】インク供給系の一例を概略的に示す模式図である。
図3図1に示すインクジェット記録装置の制御構成の一例を示すブロック図である。
図4】記録手順の一例を示す概略図である。
図5】回復動作手順の一例の一部を示す概略図である。
図6】回復動作手順の一例の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0013】
本発明者は、まず、長期間にわたって画像を高速に記録するための構成について検討した。長期間にわたって画像を記録するためには、相互にチューブで接続された、第1インク収容部(メインタンク)及び第2インク収容部(サブタンク)を有する記録装置を利用することが有効である。また、より高速に画像を記録するには、サブタンクにおけるインクの流動抵抗を抑制することが重要であることがわかった。すなわち、インクの流動を妨げるような、吸収体などの負圧発生機構をその内部に有しないサブタンクを用いることが重要である。このようなサブタンクとしては、その内部(インク収容部分)が空洞状の容器を挙げることができる。
【0014】
次いで、本発明者は、吸収体などの負圧発生機構を内部に有しないサブタンクを用いることについて検討した。その結果、記録装置を使用し始める際のサブタンクへのインクの初期充填や、記録装置に異常が生じた場合などに実施するサブタンクへのインクの再充填を含む、吸引による回復動作の際に、以下のような課題が生ずることが判明した。具体的には、記録ヘッドの吐出口を覆うキャップ、キャップ内に負圧を生じさせるポンプ、及びサブタンクに接続されるチューブを備えた供給機構により、吸収体などの負圧発生機構を内部に有しないサブタンクにメインタンクからインクを供給しようとした。しかし、サブタンク内の負圧が十分に高まらないため、メインタンクから供給したインクの少なくとも一部がサブタンクに保持されず、記録ヘッドやキャップへと流出してしまうことがわかった。
【0015】
そこで、サブタンクへのインクの効率的な供給方法についてさらに検討したところ、以下の手順でインクを供給することが有効であることが判明した。まず、チューブの一部を閉塞させた状態でポンプを駆動させて、サブタンク内を含むインクの供給経路を吸引する、いわゆるチョーク吸引を実施する。このチョーク吸引を実施することで、サブタンク内を十分に減圧した状態とすることができる。次いで、チューブの閉塞を解除してサブタンクの減圧状態を一気に開放すれば、チューブを通じて流入させたインクをサブタンク内及び記録ヘッドに効率的に供給することができる。
【0016】
しかし、チョーク吸引後に画像を記録すると、記録ヘッドの吐出口からのインクの吐出性が低下し、得られる画像の品位が低下する場合があることがわかった。さらに検討したところ、記録ヘッド内のインク中に微細な泡が含まれていること、及びその泡によってインクの吐出性が低下したことが判明した。
【0017】
サブタンクと記録ヘッドとの接続部には、通常、インク中の浮遊物や不要物を除去するためのフィルタが配設されている。チョーク吸引後にサブタンクの減圧状態を開放すると、導入されたインクは、サブタンク内及び記録ヘッドを含むインクの供給経路内を高速で流動する。上記のフィルタをインクが高速で通過した際に、インク中に微細な泡が大量に発生することがわかった。
【0018】
インク中の微細な泡は、記録ヘッド内におけるインクの流通空間(いわゆる液室)内に滞留する。液室内で合一することで泡が成長し、破泡により消滅すれば、画像記録時にインクの吐出性が低下するといった課題は生じない。しかし、微細な泡が残存した状態のインクで画像を記録すると、以下のような現象が起こると推測される。吐出口に向かって流れはじめたインク中の泡の動きには、浮力に伴って重力方向の上側に移動する上流側への動きと、インクの流れにしたがって重力方向の下側に移動する下流側への動きがある。高濃度の画像やサイズの大きな画像を記録する場合には、インクは吐出口のほうに高速かつ多量に流動する。このような場合、上流側への動きがあったとしても、流動のほうが勝るので、インク中の泡は吐出口のほうへと移動し、吐出口からのインクの正常な吐出を妨げることになる。これにより、インクの吐出性が低下し、記録される画像の品位が低下すると考えられる。
【0019】
本発明者は、上記のようなインク中の泡によって引き起こされる課題を解消し、インクを吸収体に含浸させずに収容する第2インク収容部(サブタンク)を用いながらも、正常にインクが吐出されて、高い生産性で画像を記録する方法について検討した。その結果、記録ヘッド内のインクを加温しながらチョーク吸引する、又はサブタンク及び記録ヘッドにチョーク吸引によりインクを供給した後に記録ヘッド内のインクを加温するとともに、インクにノニオン性界面活性剤を含有させればよいことを見出した。これにより、発生した泡を効率的に消滅させうる。
【0020】
インク中に存在する泡の表面には、界面活性剤などの界面活性能を有する材料が配向した状態で存在している。例えば、界面活性剤がノニオン性界面活性剤である場合を想定する。ノニオン性界面活性剤は、相対的に水和しやすい親水部Aと、相対的に水和しにくい疎水部Bとをその分子構造中に有しており、親水部Aが水和することで界面活性能を発現している。そして、その界面活性能はインクの温度に応じて変化する。例えば、常温(例えば25℃)よりも高い温度にインクを加温すると、親水部Aと水和していた水分子の分子運動が活発になり、親水部Aと水分子との水素結合が弱まる。その結果、親水部A中の水和している部分の割合が減少し、親水部Aの疎水性が増大するとともに、ノニオン性界面活性剤自体の疎水性も増大すると推測される。このような状態で吸引や記録などのインクの流れを生じさせる動作が実施されると、気液界面に配向していたノニオン性界面活性剤の疎水部B同士の間に、疎水性が増大した親水部Aが入り込みやすくなる。その結果、気液界面への疎水部Bの配向が阻害されることで気液界面が維持できなくなり、インク内の泡が速やかに消滅すると考えられる
【0021】
<インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、水性インクと、第1インク収容部と、第2インク収容部と、記録ヘッドと、記録ヘッド内の水性インクを加温する機構と、チョーク吸引機構とを備えたインクジェット記録装置を使用する。第1インク収容部及び第2インク収容部は、いずれも水性インクを収容する部分であり、第2インク収容部は、水性インクを吸収体に含浸させずに収容する。第1インク収容部及び第2インク収容部は、チューブを介して接続される。記録ヘッドは、第2インク収容部と接続し、第2インク収容部から供給される水性インクを吐出する吐出口が形成されている。また、チョーク吸引機構は、吐出口から吸引して第2インク収容部内を減圧状態とすることが可能な機構である。そして、本発明のインクジェット記録方法は、記録ヘッドの吐出口から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。また、本発明のインクジェット記録装置は、水性インクと、第1インク収容部と、第1インク収容部とチューブを介して接続される第2インク収容部と、記録ヘッドと、記録ヘッド内の水性インクを加温する機構と、チョーク吸引機構とを備える。さらに、インクジェット記録装置は、第2インク収容部と記録ヘッドとの接続部に配設されるフィルタを備える。インクジェット記録装置は、チョーク吸引機構により吐出口から第2インク収容部内を吸引して減圧状態とした後に減圧状態を開放して、第1インク収容部から第2インク収容部及び記録ヘッドにインクを供給する。そして、インクジェット記録装置は、第1インク収容部から第2インク収容部及び記録ヘッドにインクを供給する際に、以下に示す(i)又は(ii)を実行する制御手段を備える。
(i)記録ヘッド内のインクを加温しながら第2インク収容部内を吸引する。
(ii)第2インク収容部にインクを供給した後に記録ヘッド内のインクを加温する。
【0022】
(インクジェット記録装置)
図1は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。本実施形態のインクジェット記録装置は、X方向(主走査方向)に記録ヘッドを往復走査させて記録動作を行う、いわゆるシリアル方式のインクジェット記録装置である。記録媒体101は、搬送ローラ107によってY方向(副走査方向)へと間欠的に搬送される。キャリッジ103に搭載された記録ユニット102は、記録媒体101の搬送方向であるY方向と直交する方向であるX方向(主走査方向)に往復走査される。記録媒体101のY方向への搬送と、記録ユニット102のX方向への往復走査と、により記録動作が行われる。記録ユニット102は、供給されるインクを複数の吐出口から吐出するインクジェット方式の記録ヘッド203(図2)と、第2インク収容部としてのサブタンク202(図2)とで構成され、キャリッジ103に搭載される。キャリッジ103は、X方向に沿って配置されたガイドレール105に沿って移動可能に支持されており、ガイドレール105と並行に移動する無端ベルト106に固定されている。無端ベルト106はモータの駆動力によって往復運動し、それによってキャリッジ103がX方向に往復走査される。
【0023】
メインタンク収容部108の内部には、第1インク収容部としてのメインタンク201(図2)が収納される。メインタンク収容部108のメインタンク201と、記録ユニット102のサブタンク202とは、インク供給チューブ104を介して接続される。インクは、メインタンク201からインク供給チューブ104を介してサブタンク202に供給された後、記録ヘッド203の吐出口から吐出される。メインタンク201、インク供給チューブ104、及びサブタンク202は、いずれもインクの種類に対応した数で設けることができる。メインタンク201及びサブタンク202は、インク供給チューブ104によって、その他のインク収容部を介することなく接続されていることが好ましい。
【0024】
図2は、インク供給系の一例を概略的に示す模式図である。メインタンク201に収容されたインク(ハッチングで示す)は、インク供給チューブ104を介してサブタンク202に供給された後、記録ヘッド203へと供給される。メインタンク201には大気連通部としての気体導入チューブ204が接続される。記録が行われ、インクが消費されると、サブタンク202にメインタンク201からインクが供給され、メインタンク201内のインクが減少する。すると、その一端が大気に開放されている気体導入チューブ204からメインタンク201内に空気が導入されることによって、インク供給系において、インクを保持するための内部負圧が略一定に保たれる。
【0025】
メインタンク201のインク最大収容量V(mL)は、サブタンク202のインク最大収容量V(mL)よりも多いことが好ましい。メインタンク201は、タンク交換の頻度を低減したり、記録可能枚数を多くすることで高い生産性を実現したりするためには、インク最大収容量V(mL)を多くすることが好ましい。具体的には、メインタンク201のインク最大収容量V(mL)は、60mL以上であることが好ましく、100mL以上であることがさらに好ましい。メインタンク201のインク最大収容量V(mL)は、200mL以下であることが好ましく、180mL以下であることがさらに好ましい。また、メインタンク201の初期のインク充填量は、インク最大収容量を基準として、95%程度までとすることが好ましい。
【0026】
サブタンク202も、メインタンク201からのインク供給の頻度を低減したり、記録ヘッド203へのインク供給を安定に行ったりするためには、インク最大収容量V(mL)を多くすることが好ましい。但し、例えば、図1に示すようなシリアル方式として、キャリッジ103にサブタンク202を搭載する形態を想定すると、サブタンク202のインク最大収容量V(mL)は多くし過ぎないことが好ましい。すなわち、あまりに多くのインクがサブタンク202に収容された場合、記録ユニット102の大型化を招き、キャリッジ103の移動速度が低下したり、キャリッジ103を移動させる無端ベルト106やモータの強度を高めたりする必要が生じる。したがって、サブタンク202のインク最大収容量V(mL)は、1mL以上であることが好ましく、2mL以上であることがさらに好ましい。サブタンク202のインク最大収容量V(mL)は、20mL以下であることが好ましく、10mL以下であることがさらに好ましい。
【0027】
メインタンク201及びサブタンク202の筺体は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、及びこれらの混合物や改質物などの熱可塑性樹脂で形成されている。高速記録実現の観点から、サブタンク202内にはインクを含浸して収容するための吸収体が配置されておらず、サブタンク202を構成する筺体内部にインクが直接貯留されている。インク収容量を多くするため、メインタンク201内にもインクを含浸して収容するための吸収体が配置されておらず、メインタンク201を構成する筺体内部にインクが直接貯留されている形態とすることが好ましい。メインタンク201から、サブタンク202及び記録ヘッドへとインクを供給する際に、メインタンク201の内部を加圧する機構を利用する必要はない。
【0028】
インク供給チューブ104は管状に成形された部材である。インク供給チューブとしては、樹脂製のチューブが好ましい。チューブを構成する樹脂は、単一の樹脂材料であっても、2種以上の樹脂材料の組み合わせであってもよい。また、各種の添加剤を配合した樹脂材料であってもよい。チューブの構造は、単層構造であっても積層構造であってもよい。チューブの構成材料としては、成形性、ゴム弾性、及び柔軟性に優れることから熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系、ウレタン系、エステル系、スチレン系、塩化ビニル系などの樹脂を挙げることができる。なかでも、柔軟性及びゴム弾性に特に優れているため、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。樹脂材料に配合される添加剤としては、例えば、軟化剤、滑剤、界面活性剤、酸化防止剤、老化防止剤、接着付与剤、顔料などを挙げることができる。
【0029】
記録ユニット102は、記録ヘッド203と、サブタンク202とで構成される。記録ヘッド203が組み込まれたヘッドカートリッジである記録ユニット102にサブタンク202を装着するとともに、サブタンク202を装着した記録ユニット102をキャリッジ103に装着する形態としてもよい。さらに、サブタンク202と記録ヘッド203とで一体的に構成された記録ユニット102を、キャリッジ103に装着する形態としてもよい。なかでも、サブタンク202を装着した記録ユニット102を、キャリッジ103にセットする形態の、シリアル方式を採用することが好ましい。
【0030】
記録ヘッド203のインク吐出方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式を挙げることができる。なかでも、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが好ましい。
【0031】
非記録時には、吐出口からのインクの蒸発を抑制するために、記録ヘッド203の吐出口を含む領域がキャップ205で覆われる。キャップ205には、大気連通弁206が設けられた大気連通部としてのチューブ207と、キャップ205内に溜まった、記録に用いられない廃インクを排出するための廃インクチューブ208と、が接続される。記録ヘッドの203の吐出口から排出された廃インクは、廃インク収容部209に貯められる。廃インクチューブ208には吸引弁210が設けられ、ポンプ211を利用して、インクの吸引が行われる。
【0032】
目的に応じて、インクを吸引する箇所や、吸引するインクの量などを適宜設定することができる。いずれの場合も、大気連通弁206を閉塞した状態でポンプ211を作動させて吸引する。吸引の主な態様について以下に説明する。
【0033】
記録ヘッドに生じた軽微な異常を回復するのに適した回復動作としては、通常の「吸引」(以下、「弱吸引」と記載することがある)を挙げることができる。弱吸引を行う場合、吸引弁210及びチョーク弁212を開いた状態でポンプ211を作動させ、相対的に弱い吸引圧でインクを吸引する。弱吸引を行うと、記録ヘッドの吐出口が形成された面とキャップとで形成される空間の圧力が負圧となる。弱吸引は、後述するチョーク吸引及びチャージ吸引のいずれとも異なる回復動作である。
【0034】
記録ヘッドに生じた比較的顕著な異常を回復するのに適した回復動作としては、上記した弱吸引に比べてより強い負圧を利用する、いわゆるチャージ吸引(以下、「強吸引」と記載することがある)を挙げることができる。強吸引を行う場合は、チョーク弁212を開放した状態、吸引弁210を閉塞した状態でポンプ211を作動させ、廃インクチューブ208内の吸引弁210の下流側における負圧を高めた状態とする。その後に吸引弁210を開放することで、インクを一気に排出することができる。強吸引は、上述の弱吸引及び後述するチョーク吸引のいずれとも異なる回復動作である。
【0035】
サブタンクへのインクの充填や、装置を長期間使用しなかった場合などに記録ヘッドに強固にインクが固着したような状態を回復するのに適した動作としては、チョーク吸引を挙げることができる。チョーク吸引を行う場合は、チョーク弁212を閉塞した状態、吸引弁210を開放した状態でポンプ211を作動させ、サブタンク202内を含む、チョーク弁212とポンプ211との間の負圧を全体的に高めた状態とする。その後にチョーク弁212を開放することで、より多くのインクを急速に排出することができる。チョーク吸引は、上述の弱吸引及び強吸引のいずれとも異なる動作である。
【0036】
本実施形態のインクジェット記録装置は、図2に示すように、第2インク収容部であるサブタンク202と記録ヘッド203との接続部に配設されるフィルタ215を備える。このため、チョーク吸引によりサブタンク202及び記録ヘッド203にインクを供給すると、サブタンク202と記録ヘッド203の間に配置されたフィルタ215をより多くのインクが高速で通過することになり、その際に泡が生ずる。なお、弱吸引や強吸引では、負圧を強くしたとしても、フィルタ215を通過するインクの流速は泡が生ずるほど大きくならない。
【0037】
(制御構成)
図3は、図2に示すインクジェット記録装置の制御構成の一例を示すブロック図である。コントローラ800は主制御部であり、図4~6に示す手順を実行する。コントローラ800は、例えばマイクロコンピュータ形態のCPU801、その手順に対応したプログラムやその他の固定データを格納したROM803、及び画像データを展開する領域や作業用の領域などを設けたRAM805を有する。さらに、コントローラ800は、所定の条件下で回復動作を行うために利用されるタイマ807及びカウンタ809を有している。ホスト装置810は、画像データの供給源であり、記録に関わる画像データの生成、処理などを行うコンピュータであっても、画像読み取り用のリーダ部などであってもよい。画像データ、その他のコマンド、ステータス信号などは、インタフェース(I/F)812を介してコントローラ800と送受信される。
【0038】
操作部820は、電源スイッチ822、記録やコピーの開始を指示するためのコピースイッチ824、及び回復動作の起動を指示するための回復スイッチ826など、操作者による指示入力を受容するスイッチで構成される。センサ群830は、ポンプ211(図2)の位置を検出するためのポンプ位置センサ834など、記録装置の状態を検出するためのセンサ群で構成される。ヘッドドライバ840は、記録ヘッド1におけるインク吐出用のヒータ421、及びインク温度調整用のサブヒータ429を駆動する。搬送モータ850は、記録媒体を搬送するためのモータであり、これを駆動するのがモータドライバ852である。
【0039】
次に、チョーク吸引機構の具体的な作動方法について、図2を参照しつつ説明する。チョーク吸引機構は、記録ヘッド203の吐出口から吸引して、第2インク収容部であるサブタンク202内を減圧状態とすることが可能な機構である。サブタンク202内を減圧状態とするには、まず、サブタンク202とメインタンク201を接続するインク供給チューブの位置に設けられたチョーク弁212を閉塞した状態とする。同時に、記録ヘッド203の吐出口を含む領域をキャップ205で覆うとともに、大気連通弁206を閉塞した状態とし、廃インク収容部209を接続する廃インクチューブ208に設けられた吸引弁210を開放した状態とする。この状態で、廃インクチューブ208に設けられたポンプ211を作動させることで、記録ヘッド203の吐出口からサブタンク202内を吸引して、サブタンク202内を減圧状態とする。その後、チョーク弁212を開いてサブタンク202内の減圧状態を開放すれば、メインタンク201からサブタンク201及び記録ヘッドにインクを効率よく供給することができる。
【0040】
本実施形態のインクジェット記録方法では、チョーク吸引機構を上記のように作動させてサブタンク202内及び記録ヘッド203にインクを供給する供給工程において、以下に示す(i)又は(ii)を実行する。所定のタイミングでインクを加温しながら、サブタンク202及び記録ヘッド203にインクを供給することで、フィルタ215通過時に生ずるインク中の微細な泡を速やかに消滅させることができる。
(i)記録ヘッド203内のインクを加温しながら第2インク収容部(サブタンク202)内を吸引する。
(ii)第2インク収容部(サブタンク202)及び記録ヘッド203にインクを供給した後に引き続き記録ヘッド203内のインクを加温する。
【0041】
フィルタ215から記録ヘッド203の吐出口までの間のインクが流通する液室の、吐出口1つ当たりの容積は、0.90μL以下であり、好ましくは0.10μL以上0.50μL以下である。吐出口1つ当たりの液室の容積が0.90μL以下であると、所定のタイミングで記録ヘッド内のインクを加温することで、フィルタ通過時に生じたインク中の微細な泡を速やかに消滅させることができる。吐出口1つ当たりの液室の容積は、フィルタから吐出口までの「記録ヘッド内」を満たすのに要した液体(水などを利用可能)の体積を測定し、吐出口の数で割って算出することができる。液室の総容積は、0.10mL以上3.00mLであることが好ましい。記録ヘッドにおける1つのインク当たりの吐出口の総数は、512個以上2,560個以下であることが好ましい。
【0042】
サブタンク202と記録ヘッド203との接続部に配設されるフィルタ215は、インク中の浮遊物や不要物を除去するための部材である。フィルタの孔径は、一般的に「最大孔径」として定義される。フィルタの孔径は、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。フィルタの孔径は、10μm以下であることが好ましい。その孔径が2μm以上のフィルタを用いることで、インクに混入した異物の記録ヘッドへの侵入を抑制しながら、フィルタ通過時に生じたインク中の微細な泡を効果的に消滅させることができる。
【0043】
記録ヘッド内のインクを加温する手段としては、例えば、記録ヘッドに接触するように配設される温度調整用のサブヒータや、インク吐出用のヒータなどの、電気熱変換体を挙げることができる。インク吐出用のヒータを使用して記録ヘッド内のインクを加温する場合には、吐出口からインクが吐出されない程度にヒータを駆動させることが好ましい。記録ヘッド内のインクの温度が環境温度(例えば25℃)よりも高くなるように加温すればよい。具体的には、30℃以上95℃以下に加温することが好ましく、40℃以上95℃以下に加温することがさらに好ましく、45℃以上95℃以下に加温することが特に好ましい。加温したインクの粘度は低下するため、サブタンク内及び記録ヘッドにインクを供給しやすくなり、より短時間で供給することができる。また、加温することで泡の発生自体も抑制することができる。
【0044】
(記録工程)
次に、本実施形態のインクジェット記録方法の記録手順の具体例について説明する。図4は、記録手順の一例を示す概略図である。ステップS1にて記録指令が検知された場合、必要に応じて、ステップS3にて回復動作が実行される。回復動作が不要と判定された場合は、ステップS5にて予備吐出が実行される。この予備吐出は、吐出口近傍に存在する増粘したインクや異物などを排出するために実施する工程であり、記録動作前に各吐出口からインクを吐出させる。予備吐出としてのインクの吐出は、記録データとは関係なく、予備吐出データに基づいて行われる。ステップS5にて予備吐出が実行された後、直ちにステップS7にて記録動作が実行される。記録動作の終了後、必要に応じて、ステップS9にて回復動作が実行される場合がある。
【0045】
インクが正常に吐出されないなどの不測の事態が生じ、図4に示すように、操作者によりステップS11にて回復スイッチが必要と判定された場合にも、ステップS13にて回復動作が実行される。記録動作や回復動作が実施されない場合、ステップS15にて、記録装置に設けられたキャップによって吐出口面をキャッピングすることが好ましい。これにより、インクの固着を抑制することができる。キャップによって吐出口面をキャッピングする場合、ステップS19のキャップクローズに先立って、ステップS17にてワイピングを実行し、吐出口近傍に付着したインク滴などを除去しておくことが好ましい。
【0046】
本実施形態のインクジェット記録方法は、記録ヘッド吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。このため、ステップS7の記録動作では、吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する。記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査により、インクを記録媒体の単位領域に付与して画像を記録することが好ましい。1回の相対走査により画像を記録すること、すなわち、記録パス数を1回とすることで、短時間で記録を完了することができる。記録時間の短縮は、単位時間当たりのインク流動量の増加につながり、泡による課題がより顕著に生じやすい条件であると言える。但し、このような厳しい条件であっても、本発明で規定する要件を満足すれば、吐出性の低下を有効に抑制することができる。また、6kHz以上の吐出周波数でインクを吐出することが好ましい。6kHz以上の吐出周波数でインクを吐出することで、インクをより安定して吐出することが可能となり、より高品位な画像を記録することができる。吐出周波数は20kHz以下であることが好ましく、15kHz以下であることがさらに好ましい。
【0047】
次に、上述のステップS3、ステップS9、及びステップS13の回復動作の一例について説明する。図5は、回復動作手順の一例の一部を示す概略図である。ここでは、弱吸引又は強吸引を行う場合を例に挙げて説明する。弱吸引及び強吸引のいずれを採用するかは、記録ヘッドの吐出状態や吐出量などに応じて決定することができる。まず、ステップS21及びステップS27にて、吸引や吐出口面のワイピングの要否を判定する。そして、ステップS21の吸引は、以下の場合に実行される。吸引が実行されない状態が長時間続いた場合、ノズル内のインクは増粘するとともに、インク中に気泡が発生する。これにより、インクの吐出性が低下することがある。このようなインクの吐出性の低下を予防するために、弱吸引又は強吸引を行う。例えば、記録装置に設けたタイマなどを用いて最終からの経過時間を測定し、経過時間が閾値以上となった場合に吸引するように制御する。
【0048】
また、吸引が実行されない状態で長時間記録した場合、ノズル内や吐出口近傍に気泡が徐々に付着してしまい、インクの吐出性が低下することがある。このようなインクの吐出性の低下を予防するために、所定条件下で弱吸引又は強吸引を行う。例えば、記録装置に設けたカウンター(吸引用カウンター)などを用いて最終吸引時からの累積吐出数を計測し、累積吐出数が閾値以上となった場合に吸引するように制御する。
【0049】
一方、ステップS27のワイピングは、以下の場合に実行される。ワイピングが実行されない状態で長時間記録した場合、吐出口近傍にインク滴が多量に付着してしまい、インクの吐出性が低下することがある。このようなインクの吐出性の低下を抑制するために、所定条件下でワイピングが実行される。例えば、記録装置に設けたカウンター(ワイピング用カウンター)などを用いて最終ワイピング時からの累積吐出数を計測し、累積吐出数が閾値以上となった場合にワイピングするように制御する。ステップS21にて弱吸引又は強吸引が必要と判定されれば、ステップS23にて吸引が実行される。吸引終了後、又はステップS27にてワイピングが必要と判定された場合には、ステップS25にてワイピングが実行される。
【0050】
(供給工程)
上述のステップS3、ステップS9、及びステップS13の回復動作の別の一例(チャージ吸引)について説明する。図6は、回復動作手順の一例の一部を示す概略図である。図6中、(i)は、記録ヘッド内のインクを加温しながら第2インク収容部内を吸引する手順を示し、(ii)は、第2インク収容部及び記録ヘッドにインクを供給した後に引き続き記録ヘッド内のインクを加温する手順を示す。
【0051】
(i)の手順では、まず、ステップS29にて記録ヘッドのノズル内の増粘したインクの粘度を低下させる。ここでは、ノズル内のインクを加熱してインクの粘度を低下させた後にチョーク吸引を行う場合を例に挙げて説明する。ノズル内のインクの温度が上昇しすぎると、吐出口からインク中の液体成分が蒸発しやすくなり、吐出口近傍にインクが固着するなど、回復性がかえって低下することも想定される。このため、ステップS31にて適度な温度で加熱を終了することが好ましい。
【0052】
インク吐出用のヒータを使用してノズル内のインクを加熱する場合には、吐出口からインクが吐出されない程度にヒータを駆動させることが好ましい。ノズル内のインクの加熱温度及び保温温度は、環境温度(25℃)よりも高くすればよく、30℃以上95℃以下とすることが好ましく、40℃以上95℃以下とすることがさらに好ましく、45℃以上95℃以下とすることが特に好ましい。
【0053】
ステップS29の加熱開始及びステップS33の加温開始のいずれもが、インクを加熱(加温)する操作に含まれる。インクの加温を継続した状態で、ステップS35にてチョーク吸引が実行される。チョーク吸引の実施により第2インク収容部内を吸引して減圧状態とした後、減圧状態を開放する。これにより、第1インク収容部から第2インク収容部及び記録ヘッドにインクを供給することができるとともに、フィルタ通過の際にインク中に生じた微細な泡を消滅させることができる。記録ヘッド内のインクの加温は、ステップS35のチョーク吸引からステップS37のインク供給まで継続した後、ステップS39にて終了する。
【0054】
次いで、ステップS41にて弱吸引が実行される。ステップS41の弱吸引が終了した後、ステップS43にて予備吐出が実行される。ステップS43の予備吐出は、ステップS41の弱吸引の実行時に隣接する異なる色のインクが混入した場合の混色などを抑制すべく、吐出口近傍に存在するインクの混合物を排出するために実行される。
【0055】
(ii)の手順では、まず、ステップS45にてチョーク吸引が実行される。チョーク吸引の実施により第2インク収容部内を吸引して減圧状態とした後、減圧状態を開放する。これにより、ステップS47にて第1インク収容部から第2インク収容部に及び記録ヘッドインクを供給するインク供給を実施することができる。ステップS47にてインク供給を実施した後、ステップS49にて記録ヘッド内のインクの加温開始を実行する。これにより、フィルタ通過の際にインク中に生じた微細な泡を消滅させることができる。そして、ステップS51にて加温を終了した後、ステップS53にて弱吸引が実行される。ステップS53の弱吸引が終了した後、ステップS55にて予備吐出が実行される。
【0056】
画像を記録する対象の記録媒体としては、どのようなものを用いてもよい。なかでも、普通紙や非コート紙などのコート層を有しない記録媒体、及び、光沢紙やアート紙などのコート層を有する記録媒体のような、浸透性を有する紙を用いることが好ましい。
【0057】
(水性インク)
本発明のインクジェット記録方法は、記録ヘッドの吐出口から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。そして、この水性インクは、色材、及びノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤を含有する。本発明のインクジェット記録方法においては、水性インクに接触した際に反応や増粘を生じる液体と併用する必要はない。以下、インクを構成する成分などについて説明する。
【0058】
[色材]
色材としては、顔料や染料を用いることができる。インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
色材として顔料を用いる場合、顔料の分散方式は特に限定されない。例えば、樹脂分散剤により分散させた樹脂分散顔料、界面活性剤により分散させた顔料、及び顔料の粒子表面の少なくとも一部を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面にアニオン性基などの親水性基を含む官能基を結合させた自己分散顔料や、顔料の粒子表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた顔料(樹脂結合型の自己分散顔料)などを用いることもできる。また、分散方式の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
顔料としては、カーボンブラックなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を挙げることができる。これらの顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
染料としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料、食用染料などを挙げることができる。なかでも、アニオン性基を有する染料を用いることが好ましい。染料骨格の具体例としては、アゾ、トリフェニルメタン、フタロシアニン、アザフタロシアニン、キサンテン、アントラピリドンなどを挙げることができる。
【0062】
[界面活性剤]
インクは、ノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤を含有する。ノニオン性界面活性剤としては、炭化水素系のノニオン性界面活性剤が好ましい。炭化水素系のノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーなどを挙げることができる。
【0063】
インクには、各種の界面活性剤を含有させることができる。界面活性剤としては、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などを挙げることができる。これらの界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれであってもよい。なかでも、インクに含有させる界面活性剤は、フッ素系界面活性剤を含むことが好ましく、このフッ素系界面活性剤はノニオン性のものであることが好ましい。特に、炭化水素系のノニオン性界面活性剤及びフッ素系のノニオン性界面活性剤の両方を用いることが好ましい。これらを併用する場合、フッ素系のノニオン性界面活性剤の含有量よりも、炭化水素系のノニオン性界面活性剤の含有量のほうが多いことが好ましい。
【0064】
インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上1.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
[樹脂]
インクには樹脂を含有させることができる。インク中における樹脂の状態は、水性媒体に溶解した状態であってもよく、水性媒体中に樹脂粒子として分散した状態であってもよい。本明細書における「樹脂が水溶性である」とは、樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法などの測定方法により粒径を測定しうる粒子を形成しないことを意味する。
【0066】
樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類などを挙げることができる。なかでも、記録ヘッドの吐出口からの吐出特性の観点から、アクリル樹脂及びウレタン樹脂が好ましい。但し、樹脂粒子などの樹脂成分は気泡を保持しやすい傾向にあるため、インクにはあまり多く含有させないことが好ましい。
【0067】
水溶性樹脂中のアニオン性基は、塩を形成していてもよい。塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のカチオン;アンモニウムイオン(NH );ジメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アンモニウムのカチオンなどを挙げることができる。樹脂の酸価は、40mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0068】
アクリル樹脂を用いる場合において、アクリル樹脂の酸価は250mgKOH/g以下であることが好ましく、240mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。また、ウレタン樹脂を用いる場合において、ウレタン樹脂の酸価は200mgKOH/g以下であることが好ましく、160mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。
【0069】
[水性媒体]
インクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクである。インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0070】
水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0071】
[その他の成分]
インクには、さらに、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、及びトリメチロールエタンなどの25℃で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【実施例
【0072】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0073】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
水5.5gに濃塩酸70.6mmolを溶かした溶液を温度5℃に冷却し、4-アミノフタル酸9.8mmolを加えた。この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌し、溶液を常に10℃以下に保った状態とした。これに、5℃の水9.0gに亜硝酸ナトリウム24.9mmolを溶かした溶液を加えた。さらに15分間撹拌後、顔料6.0gを撹拌下で加えた。顔料としては、カーボンブラック(商品名「ブラックパールズ880」、キャボット製)を用いた。その後、さらに15分間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過した後、十分に水洗し110℃のオーブンで乾燥させて自己分散顔料を得た。イオン交換水を用いて顔料の含有量を調整して、顔料分散液1を得た。顔料分散液1には、カウンターイオンがナトリウムであるフタル酸基が粒子表面に結合した自己分散顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%であった。
【0074】
(顔料分散液2)
イオン交換水500g、及び顔料(カーボンブラック、商品名「ブラックパールズ880」、キャボット製)15.0gを混合し、回転数15,000rpmで30分間撹拌して顔料を予備湿潤した。さらにイオン交換水4,485gを加えて、高圧ホモジナイザーで分散して分散液を得た。得られた分散液を高圧容器に移して、圧力3.0MPaで加圧しながら、オゾン濃度100ppmのオゾン水を高圧容器内に導入して、顔料を酸化処理した。高圧容器から混合物を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液を添加して液体のpHを10.0に調整した後、適量のイオン交換水を添加し、顔料の含有量を調整して顔料分散液2を得た。顔料分散液2には、カウンターイオンがナトリウムであるカルボン酸基が粒子表面に直接結合した自己分散顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%であった。
【0075】
(顔料分散液3)
顔料7.0g、((4-アミノベンゾイルアミノ)-メタン-1,1-ジイル)ビスホスホン酸の一ナトリウム塩14.0mmol、硝酸40.0mmol、及び純水200.0mLを混合した。顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:3を用いた。そして、シルヴァーソン混合機を用いて、室温にて6,000rpmで混合した。30分後、この混合物に少量の水に溶解させた40.0mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。亜硝酸ナトリウムを添加することによって混合物の温度は60℃に達した。この状態で1時間反応させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて混合物のpHを10に調整した。30分後、純水20.0mLを加え、スペクトラムメンブランを用いてダイアフィルトレーションした。イオン交換水を用いて顔料の含有量を調整して、顔料分散液3を得た。顔料分散液3には、-C-CONH-CH(PONa基が粒子表面に結合した自己分散顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%であった。
【0076】
(顔料分散液4)
顔料の種類をC.I.ピグメントレッド122に変更したこと以外は、前述の顔料分散液3と同様の手順で顔料分散液4を得た。顔料分散液4には、-C-CONH-CH(PONa基が粒子表面に結合した自己分散顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%であった。
【0077】
(顔料分散液5)
顔料10.0部、樹脂分散剤の水溶液(樹脂(固形分)の含有量20.0%)20.0部、及びイオン交換水70.0部を混合して混合物を得た。顔料としては、カーボンブラック(商品名「ブラックパールズ880」、キャボット製)を用いた。また、樹脂分散剤の水溶液としては、水溶性樹脂であるスチレン-アクリル酸共重合体(重量平均分子量10,000、酸価200mgKOH/g)を、酸価に対して中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いてイオン交換水に溶解させたものを用いた。得られた混合物を、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散した後、ポアサイズが1.2μmであるミクロフィルター(富士フイルム製)で加圧ろ過した。次いで、イオン交換水を加えて顔料の含有量を調整し、顔料分散液5を得た。顔料分散液5には、水溶性樹脂(樹脂分散剤)により分散された顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%、水溶性樹脂の含有量は4.0%であった。
【0078】
(顔料分散液6)
顔料の種類をC.I.ピグメントレッド122に変更したこと以外は、前述の顔料分散液5と同様の手順で顔料分散液6を得た。顔料分散液6には、水溶性樹脂(樹脂分散剤)により分散された顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%、水溶性樹脂の含有量は4.0%であった。
【0079】
(顔料分散液7)
顔料の種類をC.I.ピグメントイエロー74に変更したこと以外は、前述の顔料分散液5と同様の手順で顔料分散液7を得た。顔料分散液7には、水溶性樹脂(樹脂分散剤)により分散された顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%、水溶性樹脂の含有量は4.0%であった。
【0080】
(顔料分散液8)
顔料の種類をC.I.ピグメントブルー15:3に変更したこと以外は、前述の顔料分散液5と同様の手順で顔料分散液8を得た。顔料分散液8には、水溶性樹脂(樹脂分散剤)により分散された顔料が含まれており、顔料の含有量は10.0%、水溶性樹脂の含有量は4.0%であった。
【0081】
<染料水溶液の調製>
(染料水溶液1)
染料を含有する市販の染料水溶液(商品名「Projet Fast Black 2」、富士フイルム製)を用意した。用意した染料水溶液の染料の含有量を調整して染料水溶液1を得た。染料水溶液1中の染料の含有量は10.0%であった。
【0082】
(染料水溶液2)
染料を含有する市販の染料水溶液(商品名「Projet Fast Magenta」、富士フイルム製)を用意した。用意した染料水溶液の染料の含有量を調整して染料水溶液2を得た。染料水溶液2中の染料の含有量は10.0%であった。
【0083】
<インクの調製>
表1-1及び1-2の上段に示す各成分(単位:%)を混合して十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。調製したインクの特性を表1-1及び1-2の下段に示す。また、表1-1及び1-2中の各成分の詳細を以下に示す。
・アセチレノールE100:川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物)
・NIKKOL BC20:日光ケミカルズ製のノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンセチルエーテル、エチレンオキサイド基の付加モル数20)
・ユニオックスG-1200:日油製のノニオン性界面活性剤(グリセリンのエチレンオキサイド付加物)
・ゾニールFS-3100:デュポン製のノニオン性界面活性剤(パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物)
・ゾニールFSO-100:デュポン製のノニオン性界面活性剤(パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物)
・メガファックF-410:DIC製のアニオン性界面活性剤(パーフルオロアルキルカルボン酸塩)
【0084】
【0085】
【0086】
<画像の記録及び評価>
(インクジェット記録装置の用意)
図1に示す主要部の構成を有するとともに、図2に示す構成のインク供給系を組み込んだインクジェット記録装置を用意した。この記録装置は、記録ヘッド203が組み込まれるとともに、サブタンク202を装着した記録ユニット102をキャリッジ103に搭載した、シリアル方式の記録装置である。メインタンク201とサブタンク202を接続するチューブ(インク供給チューブ104)としては、スチレン系の熱可塑性エラストマーで形成された、内径2mm、外径4mmのものを用いた。メインタンクのインク最大収容量Vは150mL、サブタンクのインク最大収容量Vは5mLとした。サブタンク202としては、以下に示す2種類(サブタンク1、サブタンク2)を用いた。
【0087】
[サブタンクの種類]
・サブタンク1:熱可塑性樹脂で形成された筐体の内部に吸収体が配置されていない。
・サブタンク2:熱可塑性樹脂で形成された筐体の内部に吸収体が配置されている。
【0088】
(画像の記録及び評価)
上記のインクジェット記録装置のメインタンクに調製したインクを注入し、表2-1~2-4に示す条件にしたがって吸引を行い、サブタンク及び記録ヘッドにインクを供給した。その後、記録デューティが50%であるベタ画像をA4サイズのPPC用紙(商品名「GF-500」、キヤノン製)10枚の全面に連続して記録した。このベタ画像の記録によって、インク中に生じた泡がインクの流れにより吐出口のほうへと移動することになる。次いで、A4サイズのPPC用紙(商品名「GF-500」、キヤノン製)に、各ノズルの吐出状態を確認するためのパターン(ノズルチェックパターン)を記録した。本実施例では、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴当たりの質量が5ngであるインク滴を2滴付与する条件で記録したベタ画像の記録デューティを100%と定義する。表2-1~2-4中、「吸引方式」及び「加熱条件のタイミング」の詳細は以下に示す通りである。
【0089】
[吸引方式]
・チョーク:チョーク弁212を閉塞した状態で記録ヘッド203の吐出口からサブタンク202内を吸引して減圧状態とした(図2)。
・通常:チョーク弁212を開放した状態で記録ヘッド203の吐出口からサブタンク202内を吸引した(図2)。この吸引は「弱吸引」に相当する。
【0090】
[加熱条件のタイミング]
・(i):サブタンク内の吸引と同時に記録ヘッド内のインクを加温
・(ii):サブタンク内及び記録ヘッドにインクを供給した後に引き続き記録ヘッド内のインクを加温
【0091】
記録したノズルチェックパターンを目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出性を評価した。以下に示す評価基準で、「AA」、「A」及び「B」を許容できるレベルとし、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表3に示す。
AA:不吐出のノズルの割合が、全ノズルの1%以下であった。
A:不吐出のノズルの割合が、全ノズルの1%を超えて5%以下であった。
B:不吐出のノズルの割合が、全ノズルの5%を超えて8%以下であった。
C:不吐出のノズルの割合が、全ノズルの8%を超えていた。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
実施例1及び24の記録パス数は、それぞれ1パス及び2パスである。実施例1の記録速度は実施例24の2倍であり、単位時間当たりのインク流動量が多い条件であったが、吐出性はいずれもAランクであった。
【0098】
参考例1~3では、内部に吸収体が配置されたサブタンクを備えたインクジェット記録装置を使用した。このため、チョーク吸引や加熱の実施/不実施にかかわらず、泡に起因するインクの不吐出は生じなかった。しかし、吐出周波数を高めて記録しようとするとインクの供給が間に合わなくなり、記録速度が低下した。
【0099】
参考例4~6では、チョーク吸引を実施せず、弱吸引を実施してサブタンク及び記録ヘッドにインクを供給したため、泡に起因するインクの不吐出が生じなかった。しかし、サブタンク及び記録ヘッドが満たされるまでに極めて長い時間を要したうえ、供給したインクの一部がキャップへと流出した。

図1
図2
図3
図4
図5
図6