(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】厚膜形成用ガラスペースト
(51)【国際特許分類】
C03C 8/16 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
C03C8/16
(21)【出願番号】P 2020061347
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 一将
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-177395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C8/00-8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に平均膜厚0.5mm以上のガラス厚膜を形成するために用いられるガラスペーストであって、
ガラス粉末と、有機ビヒクルと
、チクソトロピック剤とを含み、
前記チクソトロピック剤の含有率は、ガラスペースト100重量%に対して0.75~2重量%であり、
前記ガラス粉末の含有率は、ガラスペースト全体を100重量%としたときに76~88重量%であり、
ここで、粘度計により測定された、80℃、せん断速度0.1[s
-1]における粘度が69~352[Pa・s]である、厚膜形成用ガラスペースト。
【請求項2】
前記チクソトロピック剤が脂肪酸アミドである、請求項
1に記載の厚膜形成用ガラスペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜形成用ガラスペーストに関する。詳しくは、基材上に平均膜厚0.5mm以上のガラス厚膜を形成する場合に用いられる厚膜形成用ガラスペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス材料は、絶縁性、耐熱性、化学耐久性、光沢性等の様々な特徴を有するため、基材上にガラス膜を形成することにより、該基材の多機能化を実現することができる。例えば、セラミックスや金属製の基材上にガラス膜を形成する方法としては、ガラス粉末と、有機ビヒクルとを含むペースト状に調製されたガラス組成物(以下、「ガラスペースト」という。)を基材上に塗工し、乾燥させた後、焼成する方法が挙げられる。また、ガラスペーストの塗工は、ディップコーティング、スクリーン印刷、ディスペンス等の手法により実施される。例えば、下記特許文献1には、厚膜抵抗体と、該厚膜抵抗体上にスクリーン印刷により形成されたガラス膜とを備えた厚膜抵抗素子が開示されており、かかる厚膜抵抗素子は化学耐久性等に優れる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、より一層の機能性を基材に付与する方法としては、該基材上にガラス膜を厚く形成する(例えば、平均膜厚0.5mm以上のガラス厚膜を形成する)方法が挙げられる。しかしながら、上述したようなガラス厚膜の形成は、ディップコーティング、スクリーン印刷等で使用される従来に市販されているような一般的なガラスペーストによっては実現することが困難であった。これは、かかるガラスペーストの粘弾性が厚膜形成に対して適切に制御されていないため、基材上に塗工した後の流動性が高く、保形性に乏しい(即ち、液だれが生じる)ためである。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、セラミックスや金属製の基材上への良好なガラス厚膜の形成を実現することができる厚膜形成用ガラスペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を実現するべく、本発明は、基材上に平均膜厚0.5mm以上のガラス厚膜を形成するために用いられる厚膜形成用ガラスペーストを提供する。かかる厚膜形成用ガラスペーストは、ガラス粉末と、有機ビヒクルとを含み、粘度計により測定された、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度が69~352[Pa・s]であることを特徴とする。
なお、本明細書における「平均膜厚」とは、顕微鏡観察において基材の表面からガラス膜の表面までの最短距離を6点測定したときの平均値のことをいう。また、平均膜厚は、特に制限されないが、典型的には、3mm以下であり、2mm以下であり得る。
【0007】
上述したように、通常、基材上へのガラス膜の形成は、基材上にガラスペーストを塗工し、乾燥した後、焼成を行うことでなされる。しかしながら、特に乾燥工程においてガラスペーストが低粘度化し易く、液だれを伴うため、ガラスの厚膜を形成することが困難であった。そこで、本発明者は、せん断速度0.1[s-1](基材上にガラスペーストを塗工し、静置した場合を想定したせん断速度)における、80℃(乾燥温度)の粘度に注目した。そして、かかる粘度が所定の範囲内(即ち、69~352[Pa・s])である場合、乾燥時の液だれが解消され(即ち、保形性に優れ)、良好なガラス厚膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
好ましい一態様の厚膜形成用ガラスペーストは、さらにチクソトロピック剤を含有することを特徴とする。かかる構成によると、ガラスペーストの粘度を調整し易くなるため好ましい。
【0009】
また、好ましくは、上記チクソトロピック剤が脂肪酸アミドである。脂肪酸アミドは焼成時に脱離し易いため、良好なガラス厚膜を得ることができる。
【0010】
好ましい一態様の厚膜形成用ガラスペーストは、上記チクソトロピック剤の含有率が、ガラスペースト100重量%に対して0.75~2重量%であることを特徴とする。
チクソトロピック剤の含有率を上記のとおりとすることで、ガラスペーストの、粘度計により測定された、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度を所望の粘度に調整し易くなる。
【0011】
好ましい一態様の厚膜形成用ガラスペーストにおいては、上記ガラス粉末の含有率が、ガラスペースト全体を100重量%としたときに76~88重量%であることを特徴とする。
ガラス粉末の含有率を上記のとおりとすることで、優れたハンドリング性を有するガラスペーストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】例23に係る厚膜形成用ガラスペーストを用いて作製した金属板-ガラス被膜体のX線CTスキャン画像である。
【
図2】例32に係る厚膜形成用ガラスペーストを用いて作製した金属板-ガラス被膜体のX線CTスキャン画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。従って、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。また、本明細書における「ペースト」とは、例えば、ガラス粉末、バインダー、分散剤等を所定の溶剤に分散(または、溶解)させた組成物のことをいい、いわゆるスラリー状組成物、インク状組成物等も包含され得る。
【0014】
<ガラス粉末>
ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストに含まれるガラス粉末は、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、良好なガラス厚膜を得る観点から、30~500℃における平均線熱膨張係数が7×10-6~13×10-6[1/K]であることが好ましい。また、ガラス粉末のガラス転移温度は、550℃以上であることが好ましい。そして、ガラス粉末を構成する成分が以下のとおりである場合が好ましく、また、各成分の酸化物換算のモル%が以下のとおりとなる場合がより好ましい。
SiO2:17~78%
Al2O3:2~15%
Y2O3:含有しないか、10モル%以下含有する
B2O3:含有しないか、35モル%以下含有する
R2O(R=Li,K,Naのうちの少なくとも一種):含有しないか、14%以下含有する
R’O(R’=Mg,Ca,Zn,Ba,Srのうちの少なくとも一種):3~47%
【0015】
上述したように、二酸化ケイ素(SiO2)は、ガラス粉末に17~78モル%含有されている場合が好ましい。また、二酸化ケイ素の含有率は、好ましくは20~70モル%、より好ましくは30~60モル%であり得る。酸化アルミニウム(Al2O3)は、ガラス粉末に2~15モル%含有されている場合が好ましい。また、酸化アルミニウムの含有率は、好ましくは4~13モル%、より好ましくは6~11モル%であり得る。酸化イットリウム(Y2O3)は、ガラス粉末に含有されないか、10モル%以下含有される場合が好ましい。酸化イットリウムが含有される場合、その含有率は、好ましくは2~8モル%、より好ましくは3~5モル%であり得る。酸化ホウ素(B2O3)は、ガラス粉末に含有されないか、35モル%以下含有される場合が好ましい。酸化ホウ素が含有される場合、その含有率は、好ましくは1~35モル%、より好ましくは3~25モル%であり得る。酸化物:R2O(R=Li,K,Naのうちの少なくとも一種)は、ガラス粉末に含有されないか、14モル%以下含有される場合が好ましい。酸化物:R2Oが含有される場合、その含有率は、好ましくは3~10モル%、より好ましくは5~8モル%であり得る。酸化物:R’O(R’=Mg,Ca,Zn,Ba,Srのうちの少なくとも一種)は、ガラス粉末に3~47モル%含有されている場合が好ましい。また、酸化物:R’Oの含有率は、好ましくは6~41モル%、より好ましくは12~35モル%であり得る。
【0016】
上述したような構成のガラス粉末を含む厚膜形成用ガラスペーストによると、絶縁性、耐熱性等に優れたガラス厚膜を得ることができる。なお、ガラス粉末の粒子径は、作製する厚膜の厚さ等を考慮して適宜選択されるが、例えば、体積基準の累積値である50%粒径(D50)が0.5~50μmであり得る。上記D50値は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは3μm以上であり得る。一方、上記D50値は、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、好ましくは20μm以下であってもよく、さらに好ましくは15μm以下であり得る。上記D50値は、3~15μmである場合が特に好ましい。なお、上記D50値は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置等により求めることができる。また、上記ガラス粉末の含有率は、ガラスペースト全体を100重量%としたときに、例えば、50~90重量%程度とすることができ、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度を所望の粘度に調整し易くする観点から、好ましくは74~88重量%であり得る。また、ガラスペーストのハンドリング性等の観点から、より好ましくは、76~88重量%であり得る。
【0017】
<有機ビヒクル>
ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストに含まれる有機ビヒクルは、本発明の効果を妨げない限り特に制限されない。有機ビヒクルの主体としては、例えば、バインダー、溶剤等が包含され得る。バインダーとしては、通常ガラスペーストに使用されるものを使用することが可能であり、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等のセルロース系樹脂、または、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドキシルエチル(メタ)アクリレート等の重合体もしくは共重合体からなるアクリル樹脂、ポリ-α-メチルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリブテン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。上記バインダーの含有量は、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度を所望の粘度とするように適宜決定され得る。
【0018】
溶剤としては、通常ガラスペーストに使用されるものを使用することが可能であり、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、ターピネオール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、γ-ブチルラクトン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ジブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモ安息香酸、クロロ安息香酸等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。上記溶剤の含有量は、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度を所望の粘度とするように適宜決定され得る。
【0019】
<チクソトロピック剤>
ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストは、チクソトロピック剤を含んでいてもよい。かかる構成によると、ガラスペーストの粘度を調整し易くなるため好ましい。チクソトロピック剤としては、通常ガラスペーストに使用されるものを使用することが可能であるが、焼成時に脱離し易いという観点から、脂肪酸アミドが好適に使用され得る。また、上記チクソトロピック剤の含有率は、ガラスペースト100重量%に対して、例えば、0.005~20重量%の範囲で添加することができる。さらに、上記チクソトロピック剤の含有率は、好ましくは0.01重量%以上であり、より好ましくは0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であってもよく、さらに好ましくは0.75重量%以上であり得る。一方、上記チクソトロピック剤の含有率は、好ましくは15重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、さらに好ましくは2重量%以下であり得る。そして、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度を所望の粘度に調整し易くなるという観点から、上記チクソトロピック剤の含有率は0.75~2重量%である場合が特に好ましい。
【0020】
<その他の成分>
ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストは、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤等の添加剤成分を含有してもよい。上記成分は、通常ガラスペーストに使用されるものを使用することが可能である。例えば、分散剤としては、通常ガラスペーストに使用されるものを使用することが可能であり、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、変性アクリル系ブロック共重合体、顔料親和性基を有するアクリル共重合物、塩基性或いは酸性の顔料吸着基を有するブロック共重合物、顔料親和性基を有する変性ポリアルコキシレート、ポリアミノアマイド塩とポリエステル、極性酸エステルと高分子アルコールの組み合わせ、酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩、酸基を含む共重合体及びアルキルアンモニウム塩、顔料親和性基を有する高分子量ブロック共重合体、特種変性ウレア等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。上記成分の含有量は、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度を所望の粘度とするように適宜決定され得る。
【0021】
<厚膜形成用ガラスペーストの調製方法>
ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストは、ガラス粉末と、有機ビヒクルと、必要に応じてチクソトロピック剤等とを、攪拌機を備えた回転式混合機やロールミル、ボールミル等を用いた従来公知の方法により攪拌混合することにより調製することができる。また、ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストの粘度は、粘度計により測定された、せん断速度0.1[s-1](基材上にガラスペーストを塗工し、静置した場合を想定したせん断速度)における、80℃(乾燥温度)の粘度が69~352[Pa・s]の範囲内であることを特徴とする。この場合、乾燥時の液だれが解消され(即ち、保形性に優れ)、良好なガラス厚膜を形成することができる。
【0022】
<厚膜形成用ガラスペーストの用途>
ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストは、例えば、基材上に塗工することで、該基材に絶縁性、耐熱性、耐酸性等を付与することができる。上記基材の材質としては、例えば、ガラス、金属、セラミックス等が挙げられる。ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。金属としては、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼(フェライト系ステンレス鋼等)等が挙げられる。セラミックスとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、フォルステライト、炭化珪素、窒化珪素等が挙げられる。また、上記厚膜形成用ガラスペーストを基材上に塗工する方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、メタルマスク印刷等の印刷法や、ディップコーティング、ディスペンサ等の手法等が挙げられる。
【0023】
また、厚膜形成用ガラスペーストを上述したような基材上に塗工した後に、該厚膜形成用ガラスペーストに含まれるガラス粉末の焼結温度領域での加熱処理(即ち、焼成)を行う。かかる加熱処理は、ガラス粉末のガラス軟化点(Ts)以上の温度で行うことが必要である。また、焼結温度は、ガラス軟化点(Ts)+5℃~ガラス軟化点(Ts)+120℃の温度領域が好ましく、ガラス軟化点(Ts)+10℃~ガラス軟化点(Ts)+100℃の温度領域である場合より好ましい。なお、上記加熱処理前に、塗工したガラスペーストを乾燥させる工程を設けてもよい。かかる乾燥工程は、ガラスペースト内の溶剤を除去するために行われる。このように、予め溶剤を除去しておくことで、加熱工程において除去するべき成分をより確実に、かつ十分に除去することが可能になる。
また、上記加熱処理の方法としては、少なくとも塗工したガラスペーストの温度が上記温度以上となる方法であればよく、例えば、熱放射加熱、赤外線加熱、レーザ光照射、誘導加熱等が挙げられる。また、温度安定性、製造コスト等の観点から、熱放射加熱、レーザ光照射が好ましい。なお、上記加熱処理を電気炉等による熱放射加熱を行う場合、例えば、ガラスペースト中にバインダーが含まれている場合には、バインダーを除去するための脱バインダー加熱(仮焼成)と、ガラス粉末を焼結させるための本焼成の2段階で行うことが好ましい。
【0024】
ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストは、例えば、プリント基板上に印刷・焼き付けを行うことによる絶縁パターンを形成や、被封着部材の封止領域ガラス質層で封止した封止製品を製造する用途等に有用である。かかる封止製品としては、プラズマディスプレイパネル(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、蛍光表示管(VFD)等の平面表示装置、レンズキャップ、LDキャップ等の光部品、半導体パッケージ、水晶振動子や弾性表面波素子等の圧電振動子等の電子部品等が挙げられる。
【0025】
以下、ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストを使用した実施例を説明するが、かかる実施例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0026】
<厚膜形成用ガラスペーストの作製>
(例1~39)
ガラス粉末、バインダー、分散剤、および溶剤を3本ロールミルにより混錬し、各例に係るガラスペーストを調製した。ここで、各成分の含有率は、ガラスペーストを100重量%としたとき、ガラス粉末が74~90重量%、バインダーが2~5重量%、分散剤が1~3重量%、残部が溶剤(7~20重量%)となるようにした。また、ガラス粉末としては、SiO2(33モル%)Al2O3(5モル%)、Y2O3(含有されない)B2O3(13モル%)、Li2O,K2O(6モル%)、CaO,BaO(43モル%)を含有するガラスを粉砕し、平均粒径10μmとしたものを用いた。そして、バインダーとしては、エチルセルロース系バインダーを使用し、分散剤としては、ポリカルボン酸系高分子分散剤を使用し、溶剤としては、ターピネオールを使用した。
続いて、脂肪酸アミドからなるチクソトロピック剤を、上記ガラスペースト100重量%に対して表1に示す重量%となるように添加した後、再度3本ロールミルにより混錬することで、各例に係る厚膜形成用ガラスペーストを得た。
【0027】
<厚膜形成用ガラスペーストの80℃における粘度および保形性評価>
各例に係る厚膜形成用ガラスペーストに対して、80℃(乾燥温度)、せん断速度0.1[s-1]における粘度を測定した。かかる測定には、粘度計(ブルックフィールド社製、DV3T)を用いた。粘度測定の結果を、表1の該当欄に示した。
また、各例に係る厚膜形成用ガラスペーストを、ディスペンサによりフェライト系ステンレス鋼であるSUS430(厚み2mm)金属板上に塗工し、80℃で60分間乾燥させた。かかる乾燥後の各例に係る厚膜形成用ガラスペーストの保形性を目視により観察した結果を、表1の該当欄に示した。なお、表1の該当欄に記載の記号は、保形性が以下のとおりであったことを示すものとする。
×:保形性が悪い(乾燥後、液だれが確認された)
〇:保形性が良い(乾燥後、液だれがほぼ確認されなかった)
◎:保形性が非常に良い(乾燥後、液だれが確認されなかった)
【0028】
<厚膜形成用ガラスペーストのハンドリング性評価>
各例に係る厚膜形成用ガラスペーストをディスペンサから吐出させた際の糸引き性・吐出性を目視により観察することにより、ハンドリング性を評価した。評価結果を、表1の該当欄に示した。なお、表1の該当欄に記載の記号は、ハンドリング性が以下のとおりであったことを示すものとする。
ランク1:ハンドリング性が悪い(糸引きが確認された)
ランク2:ハンドリング性が良い(糸引き性・吐出性共に許容範囲内であった)
ランク3:ハンドリング性が非常に良い(糸引き性・吐出性共にほぼ問題がなかった)
ランク4:ハンドリング性が特に良い(糸引き性・吐出性共に問題がなかった)
【0029】
<厚膜形成用ガラスペーストの経日安定性評価>
各例に係る厚膜形成用ガラスペーストを10日間静置した後、ペーストの分離具合を目視により観察することにより、経日安定性を評価した。評価結果を、表1の該当欄に示した。なお、表1の該当欄に記載の記号は、経日安定性が以下のとおりであったことを示すものとする。
×:経日安定性が悪い(ペーストの分離が確認された)
〇:経日安定性が良い(ペーストの分離がほぼ確認されなかった)
◎:経日安定性が非常に良い(ペーストの分離が確認されなかった)
【0030】
【0031】
<厚膜形成用ガラスペーストの効果の確認>
例23および例32に係る厚膜形成用ガラスペーストを、ディスペンサによりSUS43
0(図1の20)金属板の周囲に1mm狙いで塗工し、80℃で60分間乾燥させた後、850℃で焼成することで、各例に係る金属板-ガラス被膜体を作製した。作製した各例に係る金属板-ガラス被膜体に対してX線CTスキャンを行うことで、内部の被膜性を評価した。かかる測定には、CTスキャナ(株式会社東芝製、TOSCANER-32300μFD)を用いた。
図1は、例23に係る厚膜形成用ガラスペーストを用いて作製した金属板-ガラス被膜体のX線CTスキャン画像であり、
図2は、例32に係る厚膜形成用ガラスペーストを用いて作製した金属板-ガラス被膜体のX線CTスキャン画像である。
【0032】
表1に示すように、80℃、せん断速度0.1[s
-1]における粘度が69~352[Pa・s]の範囲内である例1~27に係る厚膜形成用ガラスペーストでは、80℃において保形性に優れることが分かった。また、80℃、せん断速度0.1[s
-1]における粘度が69[Pa・s]よりも小さい例28~33に係る厚膜形成用ガラスペーストでは、80℃において液だれが確認された。なお、例34~39に関しては、混錬した際にペースト状とならなかったため、ペーストを作製することができなかった。また、
図1(80℃、せん断速度0.1[s
-1]における粘度が69~352[Pa・s]の範囲内である例23に係る厚膜形成用ガラスペーストを使用)では良好なガラス厚膜が形成されたが(
図1の10を参照)、
図2(80℃、せん断速度0.1[s
-1]における粘度が69[Pa・s]よりも小さい例32に係る厚膜形成用ガラスペーストを使用)では、ガラス厚膜(
図2の30)に約15mm幅の未被覆領域(
図2の40)が存在することが確認された。
さらに、80℃、せん断速度0.1[s
-1]における粘度が69~352[Pa・s]の範囲内であるもののなかでも、例えば、ガラス粉末の含有率が76~88重量%の範囲内である例11~13に係る厚膜形成用ガラスペーストは、ガラス粉末の含有率が76重量%よりも小さい例1~3に係る厚膜形成用ガラスペーストと比較して、ハンドリング性に優れることが確認された。そして、例えば、チクソトロピック剤の含有率が0.75~2重量%の範囲内である例10~13に係る厚膜形成用ガラスペーストは、チクソトロピック剤の含有率が2重量%よりも大きい例14,15に係る厚膜形成用ガラスペーストと比較して、ハンドリング性および経日安定性に優れることが確認された。
このように、ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストによると、基材上への良好なガラス厚膜の形成を実現することができる。
【0033】
以上、説明したように、ここで開示される技術によると、所定の基材上に平均膜厚0.5mm以上のガラス厚膜を形成することができる。従って、本発明はまた、ここで開示される厚膜形成用ガラスペーストを用いることを特徴とする、基材上に平均膜厚0.5mm以上のガラス厚膜を形成する方法を提供することができる。そして、ここで提供するガラス厚膜形成方法は、80℃、せん断速度0.1[s-1]における粘度が69~352[Pa・s]であるガラスペーストを選択して用いることを特徴とする。
【符号の説明】
【0034】
10 例23に係るガラス厚膜
20 SUS430
30 例32に係るガラス厚膜
40 未被覆領域