(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】金型冷却システム、成形品の製造方法及び、成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 45/26 20060101AFI20240213BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C33/02
(21)【出願番号】P 2020064799
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲キン▼
(72)【発明者】
【氏名】川崎 一真
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-205317(JP,A)
【文献】特開平1-63111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/26
B29C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型装置を冷却する金型冷却システムであって、
成形材料が充填される内部空間、及び、前記内部空間を区画する金型内面を有する金型装置と、
金型装置の前記金型内面に、露点温度以下の温度になる内面領域と露点温度よりも高い温度になる内面領域とが含まれるように、
前記金型内面上の温度差を生じさせながら金型装置を冷却することが可能な金型冷却機構と
を備え
、
露点温度以下の温度になる前記内面領域と露点温度よりも高い温度になる前記内面領域は、少なくとも一部において連続的な表面を形成する、金型冷却システム。
【請求項2】
前記金型冷却機構は、露点温度以下の温度になる前記内面領域と露点温度よりも高い温度になる前記内面領域との間で5℃以上の温度差を生じさせることが可能に構成されてなる請求項1に記載の金型冷却システム。
【請求項3】
前記金型冷却機構は、
前記金型装置の内部に形成され、前記金型内面に近接して位置する内部流路と、
前記内部流路に供給される冷媒と、
前記内部流路に前記冷媒を供給する冷媒供給部と
を有
し、
前記冷媒により、前記金型内面上の温度差が生じる、請求項1又は2に記載の金型冷却システム。
【請求項4】
前記金型冷却機構は、周囲温度及び周囲湿度に応じて、前記冷媒供給部により前記内部流路に供給される前記冷媒の温度及び/又は流量が調整される請求項3に記載の金型冷却システム。
【請求項5】
金型装置の内部空間に成形材料を充填し、前記内部空間で成形材料を固化させて、成形品を製造する方法であって、
前記金型装置の前記内部空間を区画する金型内面における一部の内面領域上に、液体を付着させる液体付着工程と、
前記金型装置を冷却し、前記内部空間に充填された成形材料を固化させる金型冷却工程と
を含み、
前記金型冷却工程にて、前記金型装置の前記内面領域
の少なくとも1つの連続的な表面の一部に液体が付着した状態で成形材料を固化させ、前記液体により、前記内面領域に対応する前記成形品の表面の一部を視覚的表示にする、成形品の製造方法。
【請求項6】
前記金型冷却工程で、金型装置の前記金型内面が、露点温度以下の温度に冷却される内面領域と、露点温度よりも高い温度に冷却される内面領域とを含み、
露点温度以下の温度になる前記内面領域と露点温度よりも高い温度になる前記内面領域は、少なくとも一部において連続的な表面を形成し、
露点温度以下の温度に冷却される前記内面領域に結露が生じることにより、前記液体付着工程で、当該内面領域に前記液体としての水が付着する、請求項5に記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
前記金型冷却工程にて、前記金型装置の内部で前記金型内面に近接する位置に形成された内部流路に、冷媒を供給し、前記金型装置を冷却する、請求項5又は6のいずれか一項に記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記金型冷却工程で、周囲温度及び周囲湿度に応じて、前記内部流路に供給する冷媒の温度及び/又は流量を調整する、請求項7に記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
成形品であって、
当該成形品の表面が、互いに表面粗さの異なる第一表面領域及び第二表面領域を有し、
前記第一表面領域及び前記第二表面領域は、少なくとも一部において連続的な表面を形成し、
前記第二表面領域の表面粗さRa’に対する前記第一表面領域の表面粗さRaの比(Ra/Ra’)が1.4よりも大きい値であり、
前記第一表面領域により前記表面に視覚的表示が形成されてなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、射出成形における金型冷却システム、成形品の製造方法及び、成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂製等の成形品を製造するには、射出成形機から射出される溶融状態の成形材料を金型装置の内部空間に充填し、金型装置を冷却して当該内部空間で成形材料を固化させる。これにより、金型装置の内部空間に対応する形状の成形品が得られる。
【0003】
金型装置の冷却に関し、特許文献1には、「局部的に狭小な部分を有するキャビティに樹脂を充填することで、前記キャビティの狭小部に対応した薄肉部を有すると共に表面に微細形状が付与された樹脂製品を成形する方法であって、少なくとも前記キャビティに樹脂を導入する際に、当該キャビティの狭小部とその狭小部とは異なる幅広部とで冷却温度を異ならせることを特徴とする樹脂製品の成形方法」が開示されている。より具体的には、「前記キャビティの狭小部における冷却温度を、前記幅広部における冷却温度よりも高くする」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、成形品の表面に模様等の装飾その他の視覚的表示を施す技術としては、インモールド転写、インモールドラベリング、ヒートアンドクール等があるが、いずれも大がかりな設備を要し、コストが増大する。
【0006】
この発明は、上述したような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、成形品の表面に模様等の視覚的表示を付与することができる金型冷却システム、成形品の製造方法及び、成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決することができる一の金型冷却システムは、金型装置を冷却するものであって、成形材料が充填される内部空間、及び、前記内部空間を区画する金型内面を有する金型装置と、金型装置の前記金型内面に、露点温度以下の温度になる内面領域と露点温度よりも高い温度になる内面領域とが含まれるように、金型内面上の温度差を生じさせながら金型装置を冷却することが可能な金型冷却機構とを備えるものである。
【0008】
また、上記の課題を解決することができる一の成形品の製造方法は、金型装置の内部空間に成形材料を充填し、前記内部空間で成形材料を固化させて、成形品を製造する方法であって、前記金型装置の前記内部空間を区画する金型内面における一部の内面領域上に、液体を付着させる液体付着工程と、前記金型装置を冷却し、前記内部空間に充填された成形材料を固化させる金型冷却工程とを含み、前記金型冷却工程にて、前記金型装置の前記内面領域に液体が付着した状態で成形材料を固化させ、前記液体により、前記内面領域に対応する前記成形品の表面の一部を視覚的表示にすることにある。
【0009】
また、上記の課題を解決することができる一の成形品は、当該成形品の表面が、互いに表面粗さの異なる第一表面領域及び第二表面領域を有し、前記第二表面領域の表面粗さRa’に対する前記第一表面領域の表面粗さRaの比(Ra/Ra’)が1.4よりも大きい値であり、前記第一表面領域により前記表面に視覚的表示が形成されてなるものである。
【発明の効果】
【0010】
上述した金型冷却システム及び、成形品の製造方法によれば、成形品の表面に模様等の視覚的表示を付与することができる。また、上述した成形品は、表面に模様等の視覚的表示を付与されたものになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の一の実施形態の金型冷却システムを射出成形機とともに示す断面図である。
【
図2】
図1の金型装置の金型内面を示す正面図である。
【
図3】
図2の金型装置を示す、
図2のIII-III線に沿う断面図及び、そのb-b線に沿う断面図である。
【
図5】
図2の金型装置の金型内面で露点温度以下の温度になる内面領域を示す、
図2と同様の正面図である。
【
図6】
図2及び3の金型装置を備える金型冷却システムを用いて製造された成形品の表面を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の金型冷却システム101は、
図1に示すように、金型装置111と、金型装置111を冷却する温度調節機等を含む金型冷却機構121とを備えるものである。この金型冷却システム101は、金型装置111が、たとえば同図に例示する射出成形機1に取り付けられて、射出成形機1を用いた成形品の製造に際して用いられ得る。
【0013】
(成形品の成形)
成形品を製造するには、射出成形機1から、多くは熱可塑性樹脂等の樹脂材料である成形材料を溶融状態で、金型装置111の内部空間Siに射出する。金型装置111の内部空間Siは製造しようとする成形品に対応する形状を有し、ここで成形材料を冷却固化させることにより、該成形材料を所定の形状の成形品とする。その後、金型装置111から成形品を取り出すことにより、成形品が製造される。
【0014】
図1の射出成形機1は概して、内部に配置されたスクリュ12の回転及び前進ならびに、周囲に配置されたヒータ13の加熱により、成形材料を溶融させて金型装置111内に向けて射出する射出装置11と、射出装置11を金型装置111に対して前進・後退変位させる移動装置21と、金型装置111を型締状態と型開状態との間で開閉させる型締装置31と、型開状態の金型装置111から成形品を取り出すエジェクタ装置41とを備える。
【0015】
射出成形機1を用いて成形品を製造する場合の一例をより詳しく述べると、前回の成形時の後半に既に射出装置11の内部に成形材料が所定の量で蓄積されて配置された状態で、型締装置31を用いて金型装置111を閉じて型締状態とする型締工程を行う。
次いで、スクリュ12の前進により上記の成形材料を金型装置111内に向けて射出し、成形材料を金型装置111内の内部空間Siに充填する充填工程と、スクリュ12をさらに前進させて射出装置11の先端部の内部にある成形材料を所定の圧力に保持する保圧工程とを順次に行う。
【0016】
そしてその後、金型装置111の内部空間Siに充填された成形材料を冷却させて固化させ、成形品を得る冷却工程を行う。この際に、射出装置11内に別途投入した成形材料を、ヒータ13による加熱下でスクリュ12の回転により射出装置11の先端部に向けて送りながら溶融させ、所定の量の成形材料を先端部に配置する計量工程が行われる。
しかる後は、型締装置31を作動させて金型装置111を開いて型開状態とし、エジェクタ装置41により可動部材114を移動させ、金型装置111から成形品を取り出す取出工程を行う。
【0017】
(金型冷却システム)
金型冷却システム101は、先に述べたように、金型装置111と、その金型装置111を冷却する金型冷却機構121とを備える。
【0018】
なお、金型装置111は、多くの場合、
図1に示すように、型締状態で内側に内部空間Siが区画形成される固定金型112及び可動金型113、ならびに、エジェクタ装置41により変位されて成形品を押し出して取り出すエジェクタピン等の可動部材114を含んで構成される。この金型装置111は、主に固定金型112と可動金型113の二つに分割された2プレート金型と称され得るものであるが、さらにスライド型ないしスライドコアもしくはストリッパープレートを有して三つに分割された3プレート金型とすることも可能である。金型装置111は、製造しようとする成形品の形状等に応じて適宜、射出成形機1に取り付けられ、また交換され得るものであり、ここでは、金型装置111は射出成形機1の一部とはみなさない。
【0019】
金型装置111は、型締状態で固定金型112と可動金型113との間に形成される内部空間Siと、固定金型112及び可動金型113のそれぞれに設けられ、内部空間Siを区画する金型内面とを有するものである。なお、金型装置111の内部空間Siは、キャビティと称されることもある。
【0020】
図2に、金型装置111の上述した金型内面の一例として、たとえば雄型である固定金型112に設けられた金型内面115を示す。この金型内面115は、
図2に示す正面視で、固定金型112のほぼ中央域に形成された円形状のものであり、
図3(a)に金型内面115に直交する断面で示すように、ここでは図示しない可動金型113と向き合う対向面116上で、可動金型113側(
図3(a)では上方側)に突き出す凸状に設けられている。この例では、図示は省略するが、たとえば雌型である可動金型113には、固定金型112と向き合う対向面から窪む凹状の金型内面が設けられている。金型装置111の型締状態では、固定金型112の対向面116と可動金型113の対向面とが接近ないし接触し、固定金型112と可動金型113との間に、固定金型112の金型内面115と可動金型113の金型内面とで区画される内部空間Siが形成される。ここでは一例として、このような内部空間Si及び金型内面115を有する金型装置111を想定しているが、金型装置の内部空間及び金型内面は成形品の形状に応じて適宜変更され得るものであり、図示のものに限らない。また、金型内面は、図示のような平面状のものだけでなく、湾曲面や屈曲面が少なくとも一部に含まれることもある。
【0021】
なおこの例では、固定金型112の内部には、
図3(a)及び(b)に示すように、射出成形機1から射出された成形材料を金型装置111の内部空間Siまで案内するスプルー117aが形成されている。スプルー117aを通過した成形材料は、スプルー117aのテーパ状に絞られた先端を経て、金型内面115の正面視の中央に設けられたゲート117bから、内部空間Siに流入する。正面視で金型内面115の中央には、金型内面115から曲面状に盛り上がる凸部115aが設けられていて、その凸部115aの中心に上記のゲート117bが位置する。但し、この発明は、このようなダイレクトゲート方式に限らず、種々のゲート方式にも適用することが可能である。
【0022】
金型冷却機構121は、上述したような金型装置111の特に金型内面115を冷却するものである。そして、この実施形態では、金型冷却機構121は、金型装置111を冷却するに当り、金型内面115を均一ではない温度に冷却して、金型内面115上の温度差を生じさせることができるように構成されている。より詳細には、金型冷却機構121は、金型内面115に、露点温度以下の温度になる内面領域と、露点温度よりも高い温度になる内面領域とが含まれるように、金型装置111を冷却することが可能なものである。
【0023】
金型冷却機構121による冷却時に、金型内面115の内面領域の一部が露点温度以下の温度になると、当該内面領域には結露が生じ、液体である水が付着する。この状態において、金型装置111の内部空間Siで射出された成形材料を固化させ、成形品を成形した場合、金型内面115の当該内面領域に接して形成される成形品表面の表面領域(第一表面領域)は、水の存在に起因して、水が付着していない内面領域で形成される他の表面領域(第二表面領域)とは異なる性状になる。これは、所定の内面領域に水が存在することで、その内面領域で転写率が低下することによるものと推測される。その結果、成形材料が固化して得られる成形品は、当該表面領域(第一表面領域)を他の表面領域(第二表面領域)から視覚的に区別できるものになり、当該表面領域(第一表面領域)により視覚的表示が付与されたものになる。
【0024】
金型内面115の内面領域の一部で結露により生じた水は、内部空間Siで形成された直後の成形品の表面に付着している場合があるが、その後に、気化ないし蒸発その他の理由により除去される。成形品の表面に付与される上述した視覚的表示は、その表面の一部が変質もしくは改質した結果として、視覚的に認識可能なものとして表れると解される。つまり、成形品の表面自体の一部が視覚的表示になる。それ故に、成形品の表面のそのような視覚的表示は、インモールド成形によって一体成形された別部材のラベル等に比して、長期間にわたってその視認性が維持され得る。
【0025】
また、成形品の表面に模様等の装飾その他の視覚的表示を施すために一般に用いられるインモールド成形では、ラベルの展開図を扇形等の所定の形状にする必要があるので、装飾可能な表面が限られ、それによりデザイン性が限定的になる。また、インサートの工程が必要になることから、生産性が低い。加えて、ラベルの位置ずれやシボ等の特有の不良現象が生じ得る。これに対し、上述した実施形態では、このようなインモールド成形におけるデザイン性、生産性及び品質に関する不都合が生じないようにできる場合がある。
【0026】
視覚的表示は、成形品の表面の一部に存在し、視覚により認識することができるものを意味し、典型的には、模様、図形、記号、色彩及び文字からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0027】
金型冷却機構121により金型内面115上で、露点温度以下の温度になる内面領域の温度と、露点温度よりも高い温度になる内面領域の温度との差として、5℃以上の温度差を生じさせることが可能であると好ましい。金型冷却機構121で、この程度の温度差を生じさせることができれば、成形品の表面の一部に視覚的表示を、より一層明瞭かつ確実に付与することができる。この際に周囲湿度は、たとえば60%~70%である場合がある。
【0028】
ところで、金型冷却機構121は具体的には、これに限らないが多くの場合、金型装置111の内部に形成され、金型内面115に近接して位置する内部流路122と、内部流路122に供給される冷水等の冷媒123と、内部流路122に冷媒123を供給する冷媒供給部124とを有する。
【0029】
図示の実施形態では、一例として、
図3(b)に示すような金型内面115に平行な断面で、スプルー117aを中心とする径の異なる大小二種類の各円の一部が欠けた円弧状の内部流路122a及び122bを形成している。内部流路122a及び122bにはそれぞれ、その円弧の円周が途切れる各端部に、当該内部流路122aもしくは122bに対する冷媒123の流入及び流出を可能にする流路入口122c及び流路出口122dを設けている。各内部流路122a及び122bはそれらの流路入口122c及び流路出口122dで、配管等に接続されて冷媒供給部124と連通されている。但し、内部流路は、所望の視覚的表示の形状等に応じて適宜変更することができる。
【0030】
冷媒供給部124は、たとえば熱交換器及び循環路等が含まれる。冷媒供給部124は、循環路で、各内部流路122a及び122bを通過して金型装置111の冷却に用いられた後に戻ってきた冷媒123を熱交換器に通して冷却し、これを再度、内部流路122a及び122bに供給する。
【0031】
ここで、
図4に示すように、金型装置111の内部に形成された内部流路122と金型内面115との間の距離Dpは、3mm~10mmであることが好ましい。内部流路122を金型内面115にある程度近づけて、距離Dpを比較的短くするほうが、冷却時に金型内面115の一部を露点温度以下の温度になる内面領域にしやすくなる。内部流路122と金型内面115との間の距離Dpは、金型内面115に直交する断面(内部流路122の延びる方向に直交する断面)で、金型内面115上に立てた法線の方向に沿って、金型内面115から、内部流路122の最も金型内面115に近接する流路内面上の点までの最短距離を意味する。
また、
図4に示すような金型内面115に直交する断面で、金型内面115にほぼ平行な方向に隣り合う内部流路122a及び122bが存在する場合、それらの内部流路122a及び122b間の間隔Spは、上記の距離Dpよりも小さいことが好ましい。間隔Spをある程度大きくすれば、内部流路122に比較的低温の冷媒123を流しても、金型内面115に露点温度よりも高い温度になる内面領域が存在しやすくなる。隣り合う内部流路122a及び122b間の間隔Spは、金型内面115に平行な方向に沿って測って、内部流路122a及び122bの互いに最も近接する流路内面上の点間の直線距離を意味する。
【0032】
金型冷却機構121の上記の内部流路122を用いて金型装置111を冷却することにより、金型内面115の一部を、
図5に破線で示すような露点温度以下の温度になる内面領域Riとする一方で、残部を、露点温度よりも高い温度になる内面領域とすることができる。すなわち、金型内面115上に温度差を生じさせながら、金型装置111を冷却することができる。図示の例では、露点温度以下の温度になる内面領域Riは、金型装置111の内部での内部流路122a及び122bの配設態様に応じて、金型内面115の正面視で、ゲート117bを中心とする径の異なる大小二種類の円弧状となっている。
【0033】
このような金型冷却システム101によれば、
図6に示すような成形品201が製造されることがある。この成形品201は、上述した金型装置111の金型内面115により形成された表面202を含むものであり、この表面202には、後述する表面粗さ等の性状の異なる表面領域(第一表面領域及び第二表面領域)が存在することにより視覚的表示203が形成されている。
【0034】
成形品201の表面202は、金型装置111の金型内面115により形成されたことで、
図6に示す正面視で、金型内面115と対応する円形状をなす。そして、成形品201の製造時に、先に述べたように、金型冷却機構121の内部流路122a及び122bに比較的低温の冷媒123を供給し、金型内面115が、内部流路122a及び122bの近傍で露点温度以下の温度に冷却された内面領域Riと、内部流路122a及び122bから離れた位置で露点温度よりも高い温度に冷却された内面領域とを含むものとしたことにより、成形品201の表面202に視覚的表示203が形成されている。この例では、成形品201の表面202に、各内部流路122a及び122bに対応する径の異なる大小二種類の円弧状の各視覚的表示203a及び203bが存在する。
【0035】
なお、成形品201の表面202の正面視で、表面202の中央には、金型内面115の凸部115aに対応する曲面状の凹部202aと、その凹部202aの中心に存在するゲート跡202bが形成されている。
成形品201の視覚的表示203が形成する表面領域(第一表面領域)と、他の表面領域(第二表面領域)との性状の具体的な違いについては後述する。
【0036】
金型冷却機構121により金型内面115の所定の内面領域に、結露を有効に生じさせるため、金型冷却機構121は、周囲温度及び周囲湿度に応じて、冷媒供給部124で内部流路122に供給される冷媒123の温度及び/又は流量が調整されるように制御されることが好適である。周囲温度及び周囲湿度はそれぞれ、温度調節機等としての冷媒供給部124の周囲等の、金型装置111の近傍に設けられ得る温度センサ及び湿度センサにより測定することができる。たとえば射出成形機1の制御部又は、射出成形機1とは別に設けられる制御部は、それらの周囲温度及び周囲湿度に応じて、金型装置111の金型内面115の所定の内面領域に結露による水が付着するように、金型冷却機構121を制御し、冷媒123の温度及び/又は流量を調整することができる。
【0037】
成形品によっては、様々な形状ないし態様の視覚的表示を付与することが求められる場合がある。このような要求に対応するため、金型装置111における内部流路122を含む部分を、交換可能なカートリッジとすることが可能である。これにより、異なる形状ないし態様の内部流路を有するカートリッジに取り換えるだけで容易に、同一形状の成形品に、異なる形状ないし態様の視覚的表示を付与することができる。
【0038】
(成形品の製造方法)
成形品を製造する方法は、射出成形機1側から見れば、先述したような型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程及び計量工程等が含まれる。他方、この実施形態の製造方法は、金型装置111側について、金型装置111の内部空間Siを区画する金型内面115における一部の内面領域上に、液体を付着させる液体付着工程と、金型装置111を冷却し、内部空間Siに充填された成形材料を固化させる金型冷却工程とを含む。
【0039】
液体付着工程では、金型冷却工程にて内部空間Siでの成形材料の固化を、金型内面115における一部の内面領域に液体が付着した状態で行うため、その内面領域に液体を付着させる。金型内面115における一部の内面領域に液体を付着させることが可能であれば、液体を付着させる手法は特に問わない。たとえば、金型内面115の所定の内面領域をテープ等で覆った状態で、金型内面115に向けて液体を吹き付けることにより、テープ等で覆われていなかった内面領域に当該液体を付着させることができる。
【0040】
あるいは、先述した金型冷却システム101の金型冷却機構121のように、金型冷却工程で、金型内面115が、露点温度以下の温度に冷却される内面領域と、露点温度よりも高い温度に冷却される内面領域とを含むように、金型装置111を冷却することができる。このように冷却すると、露点温度以下の温度に冷却される内面領域に結露が生じ、これにより、その内面領域に液体としての水が付着する。これによって液体付着工程を行うことができる。なおこの場合、液体付着工程と金型冷却工程とは、その少なくとも一部が時間的に重複する。液体付着工程と金型冷却工程の順序の後先は特に問わず、いずれが先であってもよく、また同時であってもかまわない。
【0041】
金型冷却工程では、たとえば、先述の金型冷却機構121を用いる場合、金型装置111の内部で金型内面115に近接する位置に形成された内部流路122に、冷媒123を供給する。これにより、金型装置111が冷却され、金型内面115の一部の内面領域への液体の付着、及び、金型装置111に充填された成形材料の固化を行うことができる。
【0042】
この金型冷却工程では、結露によって内面領域へ液体を有効に付着させるため、先にも述べたように、周囲温度及び周囲湿度に応じて、内部流路122に供給する冷媒123の温度及び/又は流量を調整することが好適である。
【0043】
多くの場合、金型冷却工程で金型装置111を冷却し、液体付着工程で金型内面115の一部の内面領域に液体を付着させた後、金型装置111の内部空間Siに成形材料が充填される。そして、内部空間Siに充填された成形材料は、上記の内面領域に液体が付着した状態で、継続的に冷却される金型装置111により冷やされて固化する。このとき、先にも述べたように、液体が付着した内面領域で形成される成形品表面の表面領域は、その液体が存在することにより、液体が付着していない内面領域で形成される他の表面領域とは異なる性状になる。これにより得られる成形品では、当該表面領域を他の表面領域から視覚的に区別できるものになり、当該表面領域である表面の一部が視覚的表示になる。
【0044】
なお、金型内面115の一部の内面領域に液体が付着した状態で、ゲート117bから内部空間Siに成形材料が流れ込むとき、当該内面領域上の液体が成形材料の流れにより、その流れ方向に若干飛散することがある。この場合、かかる液体の飛散に起因して、成形品の表面には、視覚的表示の一部として、ゲート跡から放射状に拡がる模様が形成される場合がある。
【0045】
(成形品)
以上に述べたようにして製造される成形品は、その表面に、性状の異なる表面領域が存し、それによって視覚的表示が形成されたものになる。
【0046】
このことを、
図6に示す成形品201を例として説明すると、成形品201の表面202において、視覚的表示203を形成する表面領域(第一表面領域)と、他の表面領域(第二表面領域)とでは、表面粗さが異なる場合がある。具体的には、第二表面領域の表面粗さRa’に対する第一表面領域Raの比(Ra/Ra’)は、1.4よりも大きい値になることがある。この場合、第一表面領域と第二表面領域とでのそのような表面粗さの違いにより、第一表面領域によって形成される視覚的表示203が、視覚的に十分良好に把握できるものになる。ここでいう表面粗さRa、Ra’は算術平均粗さであり、JIS B0601-2001やISO 25178に準拠し、接触式もしくは非接触式の表面粗さ測定機により測定することができる。
【0047】
(射出成形機)
図1に一例として示す射出成形機1は、先に述べたように、射出装置11、移動装置21、型締装置31及びエジェクタ装置41を備えるものであるが、それらの各装置の詳細は次に述べるとおりである。
【0048】
射出装置11は主に、金型装置111に向けて延びる円筒状等のシリンダ14と、シリンダ14の内部にそれと中心軸線を平行にして配置されて、周囲にフライトが螺旋状に設けられたスクリュ12と、シリンダ14の外周側にその周囲を取り囲んで配置されたバンド状等のヒータ13と、シリンダ14及びスクリュ12の後方側に配置されたモーターボックス15とを備える。図示は省略するが、モーターボックス15内には、シリンダ14の先端部に所定の量の成形材料を蓄積させるため、スクリュ12を中心軸線周りに回転させる計量モーターや、金型装置111に接近する方向及び金型装置111から離れる方向の各方向へのスクリュ12の前進及び後退変位を行う射出モーター、スクリュ12が成形材料から受ける圧力を検出する圧力検出センサ等が配置されている。
【0049】
なおここでは、金型装置111の固定金型112が取り付けられる型締装置31の固定プラテン32aに接近する向きを前方側とし、固定プラテン32aから離隔する向きを後方側とする。したがって、
図1では固定プラテン32aの右側に位置する射出装置11について見ると、固定プラテン32aに接近する左向きが前方側となり、固定プラテン32aから離隔する右向きが後方側になる。
【0050】
シリンダ14は、後方側でモーターボックス15の手前に、成形材料をシリンダ14内に投入するためのホッパー等が取り付けられる供給口14aが設けられるとともに、金型装置111に近接する先端部に、その前方側で横断面積が小さくなるノズル14bが設けられている。なお、供給口14aの近傍には水冷等による水冷シリンダ14cを設けることができる。
ノズル14bの周囲を含むシリンダ14の周囲に配置されるヒータ13は、たとえば図示のように、軸線方向(
図1の左右方向)で複数の部分に分割されて、各ヒータ部分の内側のシリンダ14の内部を異なる温度で加熱できるものとすることができる。
【0051】
このような構成を有する射出装置11によれば、供給口14aからシリンダ14の内部に投入された成形材料は、計量工程で、シリンダ14の外周側のヒータ13による加熱の下、計量モーターで駆動されるスクリュ12の回転に基づいて溶融されつつ、シリンダ14の内部で前方側に向けて送られて、シリンダ14の先端部に充填される。この際に、スクリュ12は射出モーターにより後退変位させられて、シリンダ14の先端部に、成形材料が充填される空間を形成する。なお、先にも述べたように、この計量工程は、前回の成形時の冷却工程等の際に行うことができる。
【0052】
その後、充填工程で、スクリュ12を前進変位させることにより、シリンダ14の先端部の成形材料は、ノズル14bを経て金型装置111に向けて射出される。さらにその後の保圧工程では、シリンダ14の先端部に残留している成形材料を通じて、金型装置111のキャビティに充填された成形材料に圧力を作用させる。このとき、金型装置111のキャビティで成形材料の冷却収縮に起因して不足した成形材料を補充することができる。
【0053】
なお、この射出成形機1はインラインスクリュ式のものであるが、可塑化シリンダ及び可塑化スクリュと、射出シリンダ及び射出プランジャーとに構造及び機能上分離させたプリプラ式の射出成形機とすることも可能である。
【0054】
移動装置21は、たとえば射出装置11のモーターボックス15の下部等に設けられ、後述の固定プラテン32aに対して射出装置11を前進及び後退変位させる進退駆動機構である。移動装置21を構成する進退駆動機構としては種々の機構を採用することができるが、たとえば、先端が固定プラテン32aに固定されたピストンロッド22を押出・引込運動させる複動型の液圧シリンダを含んで構成され得る。この移動装置21は、上述した液圧ポンプ及び液圧シリンダが取り付けられたスライドベース、ならびに、フレームFr上に敷設されて該スライドベースの直線運動を案内するガイド23をさらに含むものであり、それにより、スライドベースの上部に載置された射出装置11の進退変位を実現する。
【0055】
移動装置21により、射出装置11を金型装置111から離隔させたり、また、射出装置11を金型装置111に接近させて、射出装置11のシリンダ14のノズル14bを所定の圧力で金型装置111に押し付ける、いわゆるノズルタッチを行ったりすることが可能になる。
【0056】
型締装置31は、金型装置111の固定金型112に対して可動金型113を変位させて金型装置111を開閉し、金型装置111を型締状態、型閉状態または型開状態とする。この射出成形機1の型締装置31は、主として、金型装置111を両側から挟んで配置されるプラテン32、及び、プラテン32を可動させるプラテン稼働機構33とを有する。
【0057】
ここで、プラテン32は、射出装置11及び金型装置111の相互間に位置し、フレームFrに対して固定された固定プラテン32aと、固定プラテン32aとの間に金型装置111を隔てて位置し、固定プラテン32aに対して接近・離隔変位可能な可動プラテン32bとを含む。固定プラテン32aと可動プラテン32bとの間に位置する金型装置111の固定金型112は、固定プラテン32a側に取り付けられるとともに、可動金型113は、可動プラテン32b側に取り付けられる。また、型締装置31には、固定プラテン32aから後述のリヤプラテン34側に延びて固定プラテン32aとリヤプラテン34とを連結する一本又は複数本のタイバー32cが設けられている。可動プラテン32bは、この実施形態では、タイバー32cにより固定プラテン32aに対する離隔・接近変位がガイドされるものとしているが、タイバー32cでガイドされなくてもかまわない。
【0058】
固定プラテン32aに対して可動プラテン32bが離隔する位置では、金型装置111の可動金型113が固定金型112から開いた型開状態となり、この離隔位置から可動プラテン32bを固定プラテン32aに向けて接近させることで、可動金型113が固定金型112に対して閉じた型閉状態となるとともに、さらに可動プラテン32bを固定プラテン32aにて接近させて、可動金型113が固定金型112に対して押し付けられた型締状態となる。
【0059】
なお、型締装置31の固定プラテン32aを除く大部分及び、後述のエジェクタ装置41は、
図1では固定プラテン32aの左側に位置するので、型締装置31のその大部分及びエジェクタ装置41について見れば、固定プラテン32aに接近する右向きが前方側となり、固定プラテン32aから離隔する左向きが後方側になる。
【0060】
またここで、プラテン稼働機構33は、フレームFr上に配置されたリヤプラテン34と、リヤプラテン34上に設けた型締モーター35と、型締モーター35の回転運動を、可動プラテン32bの変位方向の直線運動に変換する運動変換機構36と、運動変換機構36に伝達された力を増大させて可動プラテン32bに伝えるトグル機構37とを備えるものである。
【0061】
このうち、運動変換機構36は、回転運動を直線運動に変換できる種々の機構とすることができるが、この例では、型締モーター35により回転駆動されるねじ軸36a及び、ねじ軸36aに羅合するナット36bを含んで構成されるものとしている。運動変換機構36をボールねじとすることも可能である。
【0062】
そして、運動変換機構36からの伝達力を増大させるトグル機構37は、リヤプラテン34及びナット36bと可動プラテン32bとをつなぐ複数のリンク37a~37cを、ジョイントで揺動可能に接続してなるものである。
リンク及びジョイントの個数ならびにその形状は適宜変更することが可能であるが、
図1に示すところでは、ナット36bに接続されて上下方向に延びるクロスヘッド37dに、該クロスヘッド37dを隔てて上下に位置するリンク37a~37cからなる一対のリンク群が、揺動可能に接続されて設けられている。
【0063】
なお、リヤプラテン34上には、上述した型締モーター35の他、型厚調整モーター38も設けることができる。この型厚調整モーター38は、先述のプラテン32の各タイバー32cの延長部分に接続されたねじ軸及びナットに回転駆動力を付与することにより、固定プラテン32aと、フレームFr上で移動可能に配置されたリヤプラテン34との間の間隔を調整するべく機能する。これにより、金型装置111の交換や、温度変化に起因する金型装置111の厚みの変更等の際にも、金型装置111に所期したとおりの型締力を与えることができるように型厚の調整を行うことができる。図示は省略するが、フレームFr上で固定プラテン側を移動可能とし、リヤプラテン側を固定としても、型厚の調整を実現可能である。
【0064】
図示の型締装置31は、可動プラテン32bの移動方向が水平方向と平行な横型のものであるが、該移動方向を垂直方向とした竪型のものとすることも可能である。
【0065】
可動プラテン32bに設けられるエジェクタ装置41は、可動プラテン32bを貫通して延びて、金型装置111のエジェクタピン等の可動部材114を後方側から押圧するよう進退駆動されるエジェクタロッド42と、エジェクタロッド42を作動させるべく、たとえばモーター及びボールねじ等の運動変換機構を含むロッド駆動源43とを有する。
【0066】
エジェクタ装置41により、成形品の取出工程で、ロッド駆動源43により駆動されるエジェクタロッド42を前進させて、金型装置111内で可動部材114を突き出し、金型装置111から成形品を取り出すことが可能になる。なお、可動部材114を突き出した後は、ロッド駆動源43によりエジェクタロッド42を後退させて元の位置に戻すことができる。
【符号の説明】
【0067】
1 射出成形機
11 射出装置
12 スクリュ
13 ヒータ
14 シリンダ
14a 供給口
14b ノズル
14c 水冷シリンダ
15 モーターボックス
21 移動装置
22 ピストンロッド
23 ガイド
31 型締装置
32 プラテン
32a 固定プラテン
32b 可動プラテン
32c タイバー
33 プラテン稼働機構
34 リヤプラテン
35 型締モーター
36 運動変換機構
36a ねじ軸
36b ナット
37 トグル機構
37a~37c リンク
37d クロスヘッド
38 型厚調整モーター
41 エジェクタ装置
42 エジェクタロッド
43 ロッド駆動源
101 金型冷却システム
111 金型装置
112 固定金型
113 可動金型
114 可動部材
115 金型内面
115a 凸部
116 対向面
117a スプルー
117b ゲート
121 金型冷却機構
122、122a、122b 内部流路
123 冷媒
124 冷媒供給部
201 成形品
202 表面
202a 凹部
202b ゲート跡
203、203a、203b 視覚的表示
Dp 金型内面と内部流路との距離
Sp 隣り合う内部流路間の間隔
Ri 露点温度以下の温度になる内面領域