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特許7434036電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/16 20060101AFI20240213BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20240213BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
G03G21/00 318
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020066733
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2020181189
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019084092
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】石角 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】泉舘 浩次郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝幸
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-191232(JP,A)
【文献】特開2018-025832(JP,A)
【文献】特開2005-082327(JP,A)
【文献】特開2013-044878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/02
13/045
13/14-13/16
15/00
15/02
15/045
21/00
21/06-21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレス形状を有する電子写真用ベルトであって、
外周面に、該電子写真用ベルトの周方向に全周に亘って延びる複数の溝と、該複数の溝の間に位置し、全周に亘って存在するランドとを有し、該複数の溝のうちの少なくとも1本の溝と、該溝に隣接するランドとの間に、全周に亘って延びる凸部を有し、
該電子写真用ベルトの、該複数の溝が延びる方向に対して直交する断面において、該凸部は、該ランドよりも突出しており、
該ランドは、
(i)当該ランドを挟む2つの該凸部の間に存在し、当該ランドとそれを挟む2つの該凸部の間には、該溝は存在せず、
(ii)隣接する2つの溝の間隔をSとしたとき、該複数の溝が延在する方向に直交する方向に沿って、Sの30%以上の長さにわたって該外周面の高さ方向への変動が20nm以内である領域であり、
該複数の溝の深さは、該ランドの表面を基準として、100nm以上である、
ことを特徴とする電子写真用ベルト。
【請求項2】
前記電子写真用ベルトの外周面における日本産業規格(JIS) B0601(2001)に基づく表面粗さRzが0.2μm以上0.6μm以下であり
記ランドの表面を基準として前記凸部の高さが50nm以上である、請求項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項3】
該複数の溝が延びる方向に対して直交する断面において形成される前記凸部は、前記溝ごとに、当該溝が延びる方向に対して直交する断面において、当該溝の両側に隣接して形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真用ベルト。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の電子写真用ベルトと、該電子写真用ベルトの外周面に当接しているクリーニングブレードと、を有し、
該電子写真用ベルトは、該電子写真用ベルトの外周面と該クリーニングブレードとの当接部に対して、該複数の溝が交差するように、配置されていることを特徴とする、電子写真画像形成装置。
【請求項5】
前記クリーニングブレードの当接ニップと前記複数の溝の延在方向とがなす角が、60°以上90°以下である、請求項に記載の電子写真画像形成装置。
【請求項6】
前記クリーニングブレードの当接ニップと前記複数の溝の延在方向とがなす角が直角である、請求項に記載の電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真装置などの電子写真画像形成装置において中間転写体などとして使用される電子写真用ベルトと、電子写真用ベルトを備える電子写真画像形成装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用した電子写真画像形成装置、いわゆる電子写真装置には、トナー像を電子写真用の感光体から転写材(紙やOHTシートなど)へ直接転写する方式の装置や、中間転写方式の装置などがある。中間転写方式は、トナー像を感光体から中間転写体へ一次転写し、その後、中間転写体から転写材へ二次転写する方式である。
中間転写方式の電子写真装置においては、二次転写されきれずに中間転写体上に残存したトナー(以下「転写残トナー」という。)を確実にクリーニング(除去)することが求められている。中間転写体上の転写残トナーをクリーニングする方式の1つとして、中間転写体表面に当接配置した弾性体であるクリーニングブレードによって転写残トナーを掻きとって除去するという方式(以下「ブレードクリーニング方式」という。)が知られている。中間転写体としてはベルト状のもの、すなわち電子写真用ベルトが広く用いられている。
ブレードクリーニング方式でのクリーニング性能を向上させるものとして、日本特許公開2005-82327号公報は、中間転写体であるエンドレスベルトの外周面にそのベルトの長手方向に延びる溝を設け、幅方向での表面粗さを10点平均粗さで0.2~0.6μmとすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-82327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る電子写真用ベルトは、長期に亘る使用の結果、転写残トナーがクリーニングブレードをすり抜けるようになり、クリーニング性が低下する場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、クリーニングブレードによる転写残トナーのクリーニング性に優れた電子写真用ベルトの提供に向けたものである。
また、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を安定的に形成することができる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
本開示の一態様によれば、エンドレス形状を有する電子写真用ベルトであって、外周面に、該電子写真用ベルトの周方向に全周に亘って延びる複数の溝と、該複数の溝の間に位置し、全周に亘って存在するランドとを有し、複数の溝のうちの少なくとも1本の溝と、該溝に隣接するランドとの間に、全周に亘って延びる凸部を有し、該電子写真用ベルトの、該複数の溝が延びる方向に対して直交する断面において、該凸部は、該ランドよりも突出しており、該ランドは、(i)当該ランドを挟む2つの該凸部の間に存在し、当該ランドとそれを挟む2つの該凸部の間には、該溝は存在せず、(ii)隣接する2つの溝の間隔をSとしたとき、該複数の溝が延在する方向に直交する方向に沿って、Sの30%以上の長さにわたって該外周面の高さ方向への変動が20nm以内である領域であり、該複数の溝の深さは、該ランドの表面を基準として、100nm以上である、電子写真用ベルトが提供される。
本開示の他の態様によれば上記の電子写真用ベルトと、電子写真用ベルトの外周面に当接しているクリーニングブレードと、を有し、該電子写真用ベルトは、該電子写真用ベルトの外周面と該クリーニングブレードとの当接部に対して、該複数の溝が交差するように、配置されている電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、クリーニングブレードによる転写残トナーのクリーニング性に優れた電子写真用ベルトを得ることができる。また、本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を安定して形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示に基づく電子写真用ベルトの表面の構成例を示す模式断面図である。
図2】電子写真用ベルトの表面を構成する凹凸の角度を説明する図である。
図3】中間転写方式の電子写真画像形成装置の構成の一例を示す図である。
図4】電子写真用ベルトの表面に凹凸を形成する加工装置の構成を示す図である。
図5】電子写真用ベルトの表面に凹凸を形成する切削装置の構成を示す図である。
図6】電子写真用ベルトの表面に溝を形成する研磨装置の構成を示す図である。
図7】電子写真用ベルトとクリーニングブレードとの接触部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本開示の一態様に係る電子写真用ベルトについて、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、表面粗さRz及び凹凸の平均間隔Smは、いずれも、日本産業規格(JIS) B0601(2001)に基づいて測定されるものである。
本開示に係る電子写真用ベルトは、電子写真装置などの電子写真画像形成装置において中間転写体などとして用いられるものである。本開示に係る電子写真用ベルトを用いた電子写真画像形成装置では、電子写真用ベルトのほかに、この電子写真用ベルトの表面に当接して転写残トナーを除去するクリーニングブレードが設けられる。本開示に基づく電子写真用ベルトでは、その表面に、クリーニングブレードの当接ニップに対して交差する方向に延在するように複数の溝が形成されている。以下、本開示を完成するにあたり、本発明者らが得た知見を説明する。
本発明者らは、特許文献1に係るエンドレスベルトを中間転写体として用いるとともに、ブレードクリーニング方式を適用し、該エンドレスベルトのクリーニング性能を試験した。その結果、初期においては、該エンドレスベルト上の転写残トナーはクリーニングブレードによって除去されていた。しかしながら、長期に亘る使用によって、クリーニングブレードと該エンドレスベルトとの当接部から転写残トナーがすり抜ける場合があることを見出した。これは、クリーニングブレードの該エンドレスベルトとの当接部が、所謂スティックスリップにより摩耗が進行したためであると考えられる。ここでスティックスリップとは、クリーニングブレードの該エンドレスベルトとの当接部が該エンドレスベルトの回転方向に引き伸ばされ、伸びの限界においてスリップしながら回転方向とは逆向きに戻る現象のことである。摩耗したクリーニングブレードは、該エンドレスベルトとの凝着面が増加すると共にスリップ距離が長くなり、スリップ中に十分な当接荷重が得られずに転写残トナーがすり抜けやすくなると考えられる。
【0009】
そこで本発明者らは、電子写真用ベルトの外周面の形状を特定の形状とすることにより、上述した転写残トナーのすり抜けや、スティックスリップによるブレード摩耗を軽減することを検討した。具体的には、図1に示すように、隣接する2つの溝110ごとに、それらの溝110の間となる位置にランド111を形成し、ランド111とその隣接する溝110との間に凸部112を形成することを検討した。
ここでランド111及び凸部112は、複数の溝110が延在する方向に対して直交する面での電子写真用ベルトの断面において、電子写真用ベルトの外周面に現れるものであり、凸部112は、ランド111よりも突出する。凸部112の各々は、複数の溝110が延在する方向と平行に延びる稜線状の形状となる。電子写真用ベルトの表面をこのような形状とすることによって、図7(a)に示したようにクリーニングブレード11と電子写真用ベルト5の外周面に当接させたときに、ランド111とクリーニングブレード11との間にニップが形成され、転写残トナーのすり抜けが阻止される。
また、電子写真用ベルト5の外周面に延在する複数の溝110により、クリーニングブレード11と電子写真用ベルト5との間の摩擦抵抗を軽減することもできる。さらに、延在する複数の溝110に隣接するランド111よりも高い稜線状の凸部112によりクリーニングブレード11を持ち上げ、電子写真用ベルト5への過度な凝着(スティック)を抑制することができる。その結果、スティックスリップの発生が抑えられる。
後述の実施例から明らかになるように、溝110の相互間の間隔をSとすると、溝110が延びる方向に直交する方向でのランド111の長さは、0.3×S以上であることが好ましい。
クリーニングブレード11は、ランド111よりも高い稜線状の凸部112によって持ち上げられる。なお、凸部112は、ランド111の少なくとも一方の側に配置されていればよい。本開示においては、複数の溝110の間にランド111を位置させたときに、複数の溝の少なくとも1本の溝110に関し、この溝110とこの溝110に隣接するランド111との間に凸部112が形成されるにすればよい。図1に示したものでは、ランド111の両側に凸部112が設けられているが、例えば、ランド111の片側のみに凸部112が設けられる構成としてもよい。ただし、ブレード磨耗を抑えて特に耐久性を持たせるためには、後述するように、溝110の両側にそれぞれ凸部112が形成されるようにすることが好ましい。
【0010】
図1に示す電子写真用ベルトにおいて、溝110が延在する方向と、電子写真画像形成装置におけるクリーニングブレード11による当接ニップ115の長手方向とがなす角θは、直角あるいは直角近傍であることが好ましい。図2は、電子写真用ベルト5の表面を拡大して示すことにより、この角θを説明している。直角近傍とは、60°以上90°以下の角度であることを意味する。θを71°以上90°以下とすることがより好ましく、85°から直角の範囲とすることがさらに好ましい。角度θをこのような値とすることにより、ランド111よりも高い凸部112を構成する側壁部をクリーニングブレード11の当接ニップが乗り越えていく力が低く抑えられる。クリーニングブレード11のニップ部の摩耗が軽減され、長期にわたり転写残トナーのすり抜けを確実に抑制し、良好なブレードクリーニング性が達成できると考えられる。
以下、本開示の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0011】
<電子写真画像形成装置>
図3は、本開示に係る電子写真用ベルトを中間転写体として搭載した電子写真画像形成装置であり、電子写真装置として構成されたものの一例を示している。この電子写真画像形成装置は、給紙カセット20から供給された紙などの記録媒体Sに対してそれぞれC,M,Y,Kで表される4色のトナーを用いてカラー画像形成を行うものであり、色ごとの画像形成ステーションが略水平方向に並んで設けられている。トナーの平均粒径は6μmであり、その粒度分布はほぼ正規分布と見なせ、粒度分布のうち、1%が粒径2μm以下のトナーによって構成されている。
色ごとの画像形成ステーションにはそれぞれ感光ドラム1c,1m,1y,1kが設けられている。ここでは、参照符号に対して添え字として「c」、「m」、「y」あるいは「k」を付することによって、参照符号が付された部材がどの色の画像形成ステーションに属するものかを表している。電子写真画像形成装置には、レーザー光学ユニットであるスキャナ3が設けられ、ここから、各色の画像信号に応じたレーザー光3c,3m,3y,3kがそれぞれの感光ドラム1c,1m,1y,1kに向けて発射される。画像形成ステーションはいずれも同じ構造であるので、ここではK色用の画像形成ステーションを説明する。感光ドラム1kを囲むように、接触帯電装置である導電性ローラ2kと、現像器4kと、一次転写ローラである導電性ローラ8kと、感光ドラム1kのクリーニングに用いられるブレード14kとが配置している。現像器4kには、感光ドラム1k上の潜像を現像する現像材担持体である現像ローラ41kと、現像ローラ41kに供給されるトナーを保持する現像容器42kと、現像ローラ41上のトナー量を規制して電荷を付与する現像ブレード43kとが設けられている。
【0012】
電子写真用ベルト5は、エンドレス形状のベルトとして構成されて各色の画像形成ステーションに共通に設けられており、対向ローラ92、テンションローラ6及び駆動ローラ7に架け渡されて、駆動ローラ7により図示矢印aの方向に回動する。電子写真用ベルト5は、テンションローラ6と駆動ローラ7の間の区間において、感光ドラム1c,1m,1y,1kの表面に順次当接し、導電性ローラ8c,8m,8y,8kによってそれぞれ感光ドラム1c,1m,1y,1k側に加圧されている。
これにより、感光ドラム1c,1m,1y,1kの表面に形成されているトナー像が、中間転写体である電子写真用ベルト5の表面に転写されることになる。対向ローラ92に対向して二次転写ローラ9が設けられており、電子写真用ベルト5は二次転写ローラ9により対向ローラ92側に加圧されている。
二次転写ローラ9には、電流検知回路10を介して電源から二次転写電圧が印加される。二次転写ローラ9及び対向ローラ92によって二次転写部が構成されている。記録媒体Sは、給送ローラ12及び搬送ローラ13を介し、対向ローラ92の位置において、電子写真用ベルト5と二次転写ローラ9とのニップ部を通過することにより、電子写真用ベルト5の外周面に保持されているトナー像が転写されることになる。これにより、記録媒体Sの表面に画像が形成される。トナー像が転写された記録媒体Sは、加熱ローラ151及び加圧ローラ152のローラ対からなる定着器15を通過することによって、画像が定着され、排紙トレー21に排出される。テンションローラ6の位置には電子写真用ベルト5の外周面に当接するクリーニングブレード11が設けられている。記録媒体Sに転写されずに電子写真用ベルト5の外周面に残存したトナーは、クリーニングブレード11によって掻き取られて除去されることになる。クリーニングブレード11は、電子写真用ベルト5の移動方向に対してほぼ直交する方向に延びる部材である。
【0013】
<電子写真用ベルト>
本開示エンドレス形状の電子写真用ベルトは、図1(a)に示すように、感光ドラムに対向する側の表面すなわち外周面に、ランド111と、ランド111よりも突出した凸部112と、相互に平行に延在する複数の溝110とを有する。図1(a)は、電子写真用ベルトの外周面に平行であって、複数の溝110が延在する方向に対して直交する面での電子写真用ベルトの断面を示している。ランド111は、この電子写真用ベルトの外周面に当接するクリーニングブレードとのニップを得る目的で設けられている。溝110は、ブレードと電子写真用ベルトとの間の摩擦抵抗を低減する。凸部112は、ブレードとスティックスリップを抑制するために設けられている。溝110、ランド111及び凸部112は、電子写真用ベルトの外周面の凹凸形状113を構成する。安定したニップを得るためには、凹凸形状113における表面粗さRzを0.2μm以上0.6μm以下とすることが好ましい。図1(a)に示すものでは、凹凸形状113は、電子写真用ベルトの基層101に直接形成されている。複数の溝110は、クリーニングブレード11の当接ニップ115に対して交差する方向に延在するように設けられている(図2参照)。ランド111は、後述するように、その表面粗さが規定値以下の平坦な領域として、隣接する2つの溝の間に位置している。
【0014】
微細な凹凸を形成するための加工方法として、研磨加工、切削加工、インプリント加工などが知られているが、上述したような溝110とランド111と凸部112とを形成するためには、例えば、切削加工、インプリント加工などを利用することができる。
加工コストの観点からは、電子写真用ベルトの基層101として少なくとも熱可塑性樹脂を含有するものを使用し、この電子写真用ベルトの外周面にインプリント加工を行うことが好適である。
電子写真用ベルトの基層101に使用できる熱可塑性樹脂材料としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。これらは混合して2種以上使用することもできる。本開示電子写真用ベルトは、図1(b)に示すように、基層101と基層101上に形成された表層102とからなる二重構造とし、表層102に凹凸形状113を設けるようにしてもよい。例えば、感光ドラム1kやクリーニングブレード11に対し対向し接触することとなる側に、電子写真用ベルト5の耐久性(耐摩耗性)を向上させる観点で、表層102を設けることができる。表層102には、熱や活性エネルギー線などの照射によって硬化する硬化性樹脂材料、例えばアクリル系材料を用いることができる。この場合、表層102の膜厚は3.0μm未満とすることが好ましい。表層102の膜厚が5.0μm以上のときは、基層101として熱可塑性材料を用いたとして、ランド111を挟む複数の溝110を安定して作製することができない。
【0015】
ところで、電子写真用ベルト5を例えば図3に示す電子写真画像形成装置に装着したときに、クリーニングブレード11の当接ニップは、トナーを除去するという機能から、電子写真用ベルト5の周方向とは平行にはならない。したがって、本開示に基づく電子写真用ベルト5としては、その周方向に対して交差する方向に複数の溝110が形成され、溝110の延びる方向に直交する断面において、上述と同様にランド111と凸部112とが形成されているものも含まれる。
【実施例
【0016】
次に、実施例及び比較例により、本開示をさらに具体的に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例では、以下に記載する手順によって電子写真用ベルトを製作し、電子写真用ベルトの形状の測定と評価とを行った。
【0017】
(形状の測定法、評価法)
実施例および比較例で作製した電子写真用ベルトの特性値の測定方法および評価方法は次のとおりである。以下の説明において、複数の溝110が延びる方向に直交し、かつ、電子写真用ベルトの外周面に平行な方向を基準方向と呼ぶ。基準方向は、図1(a)において矢印Aで示される方向である。
(1)ランドの評価
表面形状の測定装置として、非接触三次元表面形状測定装置(商品名:NewView 6300、Zygo社製)を用い、低周波数成分(装置での測定モードをFilter:Low Pass、Filter Type:Averageとした)での形状を表面形状とした。
図1(c)に示すように、電子写真用ベルトの外周面の表面形状における任意の凸形状の間にある凹状の表面形状を極値点116とし、この極値点116を含み、基準方向に沿った凸形状間の領域をランドの候補とした。そして、候補のうち、極値点116から高さ方向に20nmの高さの範囲内にあって、凹凸の平均間隔Smの30%以上を基準方向に沿って連続している領域をランド111として定義した。
したがって、ランド111では、高さ方向への変動が20nm以内となっている。高さ方向への変動が20nmの範囲内である領域の長さ(ここでは基準方向に沿う長さ)を凹凸の平均間隔Smで除して得られる値(以降、「ランド率L」ともいう)が30%以上であれば、その領域がランド111であると言えることになる。測定は、任意に抜き取られた電子写真用ベルトに対し、幅方向2点×周方向4点の8点、各評価長さ300μmの範囲について行い、それに基づいてランドの判定を行った。
凸部112の高さHや溝110の深さDの一般的な値を考慮すると、凹凸の平均間隔Smの測定では、実際には溝110の間隔Sが測定されると考えてよく、測定された凹凸の平均間隔Smを溝110の相互の間隔Sとして扱うことができる。
したがってランド率Lが30%以上であるということは、溝110が延びる方向に直交する方向(すなわち基準方向)でのランド111の長さが、溝110の相互間の間隔をSの0.3倍以上である、ということと同義である。
【0018】
(2)凸部の評価
電子写真用ベルトの外周面に形成される凸部112の高さHの測定には、測定装置として、非接触三次元表面形状測定装置(商品名:NewView 6300、Zygo社製)を用いた。
高さHはランド111の中央からの高さとし、50nm以上の高さの部分があれば、凸部112があるものと定義した。ランド111がない場合には、平均線からの高さを高さHとし、50nm以上の高さHの部分があれば、凸部112があるものと定義した。なお測定は、任意に抜き取られた電子写真用ベルトに対し、幅方向2点×周方向4点の8点、各評価長さ300μmの範囲について行い、それに基づいて凸部112の有無の判定を行った。
(3)溝の評価
上記の高さHと後述する表面粗さRzとの差でもって溝を求めた。100nm以上の深さDであれば、それを溝110として定義した。
【0019】
(4)表面粗さRzと凹凸の平均間隔Smの評価
表面粗さRz及び凹凸の平均間隔Smの測定には、測定装置として、表面粗さ測定機(商品名:サーフコム1500SD、東京精密社製)を用いた。表面粗さRzおよび凹凸の平均間隔SmのパラメータはJIS B0601(2001)に準拠し、カットオフ波長0.25mm、測定基準長さ0.25mm、測定長1.25mmの条件で測定した。ここで、電子写真用ベルトの表面の十点平均粗さRzおよび凹凸の平均間隔Smの測定は、電子写真用ベルトの外周面に、稜線状の凸部112あるいは溝110の延びる方向と直交する方向すなわち基準方向に、測定器の触針をスキャンさせて行った。この測定は、任意に抜き取られた電子写真用ベルトに対し、幅方向2点×周方向4点の8点について行い、得られた値を平均して表面粗さRz及び凹凸の平均間隔Smとした。なお、なお電子写真用ベルトの外周面に凸部112あるいは溝110が認められない場合には、電子写真用ベルトの回転駆動方向に直交する方向で上記の評価を行った。
(5)溝あるいは凸部の角度の評価
溝110あるいは凸部112の延在する方向とクリーニングブレード11の当接ニップ115とがなす角度(図2参照)を測定した。測定装置として、非接触三次元表面形状測定装置(商品名:NewView 6300、Zygo社製)を用い、低周波数成分(Filter:Low Pass、Filter Type:Average)での形状を表面形状とした。電子写真用ベルトを電子写真画像形成装置に取り付けたときにクリーニングブレード11の当接ニップ115の延在方向と溝120あるいは凸部112の延在方向とがなす角のうち、小さい方の角(90°以下の角)を、溝120あるいは凸部112の角度θと定義した。測定は、任意に抜き取られた電子写真用ベルトに対し、幅方向2点×周方向4点の8点、各評価長さ300μmの範囲について行い、それに基づいて角度評価を行った。
【0020】
(6)クリーニング性の評価
図3に示した構成の電子写真画像形成装置を使用し、電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして装着して、ブレードクリーニングを行ったときにクリーニング性能の評価を行った。この評価は、温度25℃、相対湿度50%の環境下で行った。記録媒体Sとしては、JIS A4サイズの紙(商品名:Extra(坪量80g/m2)、オセ(OCE)社製)を使用した。
電子写真用ベルトのクリーニング性の評価は以下のように行った。
A4サイズの紙に、大きさが6ポイントのアルファベット「E」の文字を、イエロートナー、マゼンタトナー、シアントナ―及びブラックトナーの各々を用いて、各色の印字濃度が1%となるように印字した画像(以降、「E文字画像」ともいう)を25万枚出力した。このとき、E文字画像を10万枚出力した時点、15万枚出力した時点、17万5千枚出力した時点、20万枚出力した時点、及び25万枚出力した時点の各々のタイミングで、以下の操作を行った。
まず、二次転写電圧をオフ(0V)にした状態で、イエロートナー及びマゼンタトナーを用いて、レッドのベタ画像を形成する電子写真プロセスを実施した。これにより、電子写真用ベルトの外周面にはレッドのベタ画像を形成した。なお、電子写真用ベルトの外周面上の当該ベタ画像は、二次転写電圧が印加されていないため、二次転写部では紙に転写されず、クリーニングブレード11と電子写真用ベルトの外周面とのニップ部に突入し、クリーニングブレードによるクリーニング動作が行われる。
その後、二次転写電圧を印加して、A4サイズの紙を3枚通した。
このとき、電子写真用ベルトの外表面上のベタ画像が上記したクリーニング動作によってクリーニングされていれば、上記3枚の紙にはトナーは転写されない。一方、電子写真用ベルトの外表面上のベタ画像が上記したクリーニング動作によるクリーニングが不十分である場合は、上記3枚の紙の少なくとも一部にトナーが転写される。すなわち、上記3枚の紙上のトナーの付着状態を観察することで、電子写真用ベルトの外周面のクリーニングの状態を知ることが可能となる。
本評価では、各タイミングにおける上記操作の結果物としての3枚の紙(合計15枚)へのトナーの付着の有無を目視で観察した。トナーの付着が認められた場合にクリーニング不良が発生したと判断し、以下の基準で評価した。
ランクS:250000枚の画像形成時点でもクリーニング不良は発生しなかった。
ランクA:200000枚の画像形成時点まではクリーニング不良が発生しなかった。
ランクB:175000枚の画像形成時点まではクリーニング不良が発生しなかった。
ランクC:150000枚の画像形成時点まではクリーニング不良が発生しなかった。
ランクD:150000枚の画像形成時点でクリーニング不良が発生した。
【0021】
クリーニングブレード11としては、その硬度がJIS K6253規格で77°のものを用いた。その取り付け条件は、設定角φが24°、侵入量δが1.5mmであり、クリーニングブレード11の当接圧は0.6N/cmであった。設定角φは、電子写真用ベルト5とクリーニングブレード11の交点部におけるテンションローラ6の接平面とクリーニングブレード11がなす角のことであり、侵入量δは、クリーニングブレード11がテンションローラ6に対して重なる厚み方向の長さである。
【0022】
(実施例1)
図1(a)に示す、基層101からなる電子写真用ベルトを作製した。まず、ポリエチレンナフタレート樹脂をブロー成形することでボトル状の成形体を得て、これを超音波カッターにより切断することで、エンドレス状のベルト体を得た。なお、ポリエチレンナフタレート樹脂中には、抵抗調整剤として第四級アンモニウム塩(テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩)が含まれている。このようにして、厚さ70μmのポリエチレンナフタレート樹脂ベルト(ガラス転移温度:約120℃)を得た。
次に、図4に示す加工装置を用いて、樹脂ベルト60の表面形状加工を行った。この加工装置は、円柱状の中子90の外周に樹脂ベルト60を配置することができるようにするとともに、金型81を樹脂ベルト60に押し付け、かつ、金型81と中子90とを図示矢印方向に回転できるようにしたものである。
樹脂ベルト60(周長712mm、幅260mm)に中子90(直径227mm、金属製)を圧入した。次に、表面が130℃に加熱され周方向に沿って平行な複数の三角形状の凸部を備えた金型81により押圧力(当接面圧力8.0MPa)を与えて、樹脂ベルト60と金型81の軸中心線が相互に平行になるようにこの金型81を樹脂ベルト60に当接させた。金型81は、直径50mm、凸の高さ3.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金属製である。この金型を金型Aとする。加熱温度の130℃は、ポリエチレンナフタレート製の樹脂ベルト60のガラス転移温度より5~15℃高い温度である。その後、当接させた状態で中子90を周速度264mm/secで1回転させて、金型81を従動させた状態で樹脂ベルト60の表面形状加工を行った。
【0023】
表面形状加工によって得られた樹脂ベルト60の表面での凹凸の平均間隔Smは20.2μmであり、表面粗さRzは0.60μmであった。
また、表面形状加工により形成された溝深さDは465nmとなり、これは100nm以上であるので、溝110が形成されたと判断された。表面に形成されたランド率Lは37%であり、これは30%以上であるので、ランド111が形成されたと判断された。
表面での高さHは130nmであり、これは50nm以上であるので、凸部112が形成されたと判断された。このように表面形状を加工した樹脂ベルト60を電子写真用ベルトとし、この電子写真用ベルトを中間転写体として図3に示す電子写真画像形成装置に搭載し、クリーニング評価を行った。このとき、電子写真画像形成装置におけるクリーニングブレード11と電子写真用ベルト5との間の当接ニップの方向と、電子写真用ベルト5の表面の溝110の延在方向とがなす角θは90°であった。この実施例の電子写真用ベルト5では、250000枚通紙過程においてクリーニング不良が発生せず、グレードSの電子写真用ベルトであると判定された。
以上の結果を表1にも示す。表1において、溝有無、ランド有無及び凸部有無は、それぞれ、上述した定義による溝110、ランド111及び凸部112が存在しているか否かを示している。
また、クリーニング評価の欄での通紙枚数ごとの「G」及び「NG」は、当該通紙枚数においてクリーニング不良が発生しなかったこと(「G」)、あるいは発生したこと(「NG」)を示している。
【0024】
(実施例2)
金型81として、直径50mm、凸の高さ2.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金属製であるものを用いた。この金型を金型Bとする。金型Bを用いたことを除いて実施例1と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例3)
金型81として、直径50mm、凸の高さ1.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金属製であるものを用いた。この金型を金型Cとする。金型Cを用いたことを除いて実施例1と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0025】
(実施例4)
電子写真用ベルトとして、図1(b)に示すように、基層101の上に表層102を形成したものを作製した。基層101としては、実施例1でのエンドレス形状のベルト体と同じものを用いた。
基層101であるこのベルト体の上に、紫外線硬化型アクリル材料を塗布し、紫外線を照射した。その結果、基層101の表面に厚さ2.5μmの硬化樹脂膜が形成され、これを樹脂ベルト60の表層102とした。そして、当接面圧力を13.3MPaとしたことを除いては実施例1での金型Aを用いて実施例1と同じ加工条件で表層102の表面形状を加工した。その後、得られた樹脂ベルト60を本実施例の電子写真用ベルトとして、実施例1と同様の評価を行った。ただし、表面の形状などは、表層102に関するものである。結果を表1に示す。
(実施例5)
金型81として実施例2で示した金型Bを用いたことを除いて実施例4と同様にして、樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例6)
金型81として実施例3で示した金型Cを用いたことを除いて実施例4と同様にして、樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0026】
(実施例7)
実施例7では、実施例4~6と同様の電子写真用ベルトであるが、表層102の表面形状の加工を切削加工に変更して電子写真用ベルトを得た。
図5は、実施例7で用いた切削装置を説明するものであって、(a)は切削装置の構成の概略図であり、(b)は切削装置による凸部112と溝110の加工を示す断面図であり、(c)は溝110、凸部112及びランド111の加工を示す断面図である。この切削装置は、円柱状の中子54の外周に樹脂ベルト60を配置できるようにするとともに、樹脂ベルト60の表面を切削する加工バイト91を備え、中子54を回転することによって加工バイト91により表面加工を行うようにしたものである。
樹脂ベルト60(周長712mm、幅260mm)に中子54(直径227mm、金属製)を圧入し、樹脂ベルト60の表面に加工バイト91(ダイヤモンドバイト、(株)アライドマテリアル製)を当接させた。その後、中子54を周速度2.2m/secで1回転させて、次いで当接させた状態で加工バイト91を樹脂ベルト60の幅方向に対して送り速度0.005mm/secで移動させた。樹脂ベルト60の幅方向に対して自由曲線状になるように加工バイトの切込み条件を制御し、表面形状加工を行った。
表面形状加工の終了後、実施例4の場合と同様に表面形状の評価及びクリーニング評価を行った。結果を表1に示す。
【0027】
実施例1~7では、電子写真用ベルトに形成される溝110の延在する方向と、クリーニングブレード11の当接ニップとがなす角度θを90°すなわち直角としたが、以下の実施例では、使用する金型を変更することによってθを90°から変更した。
(実施例8)
金型81として、直径50mm、凸の高さ2.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金型の軸中心の延びる方向と凸高さの延在方向とがなす角度85°、金属製であるものを用いた。この金型を金型Dとする。金型Dを用いたことを除いて実施例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例9)
金型81として、直径50mm、凸の高さ2.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金型の軸中心の延びる方向と凸高さの延在方向とがなす角度80°、金属製であるものを用いた。この金型を金型Eとする。金型Eを用いたことを除いて実施例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例10)
金型81として、直径50mm、凸の高さ2.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金型の軸中心の延びる方向と凸高さの延在方向とがなす角度72°、金属製であるものを用いた。この金型を金型Fとする。金型Fを用いたことを除いて実施例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例11)
金型81として、直径50mm、凸の高さ2.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金型の軸中心の延びる方向と凸高さの延在方向とがなす角度68°、金属製であるものを用いた。この金型を金型Gとする。金型Gを用いたことを除いて実施例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例12)
金型81として、直径50mm、凸の高さ2.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔20μm、金型の軸中心の延びる方向と凸高さの延在方向とがなす角度60°、金属製であるものを用いた。この金型を金型Hとする。金型Hを用いたことを除いて実施例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例13)
金型81として、直径50mm、凸の高さ2.5μm、凸底長さ2.0μm、凸頂辺0.2μm、凸間隔3.8μm、金型の軸中心の延びる方向と凸高さの延在方法とがなす角度90°、金属製であるものを用いた。この金型を金型Iとする。金型Iを用いたことを除いて実施例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0028】
(比較例1)
図6(a)に示す研磨装置を用いて、研磨により、図1(a)に示す基層101の表面に凹凸形状113が形成されている電子写真用ベルトを作製した。
研磨装置は、図6(a)に示すように、円柱状の中子54の外周に樹脂ベルト60を配置して樹脂ベルト60の表面を研磨シート50で研磨するようにしたものである。研磨シート50は、投入ローラ52、補助ローラ51及び排出ローラ53にわたって架け渡されており、補助ローラ51によって樹脂ベルト60側に向けて押圧されるようになっている。中子54を回転しつつ研磨シート50を送ることで樹脂ベルト60の表面が研磨される。図6(b)はこの研磨装置による基層101に対する加工を示し、図6(c)は、基層101上に表層102が形成されている場合の表層102に対する加工を示している。
樹脂ベルト60(周長712mm、幅260mm)に中子54(直径227mm、金属製)を圧入し、樹脂ベルト60の表面に研磨シート50(商品名:ラピカWA2000、(株)コバックス製)を補助ローラ51(直径100mm、ニトリルゴム製、硬度70)により押圧力(当接面圧力0.08kg/mm2)を与えて当接させた。硬度はJIS K6253規格による値である。
その後、当接させた状態で研磨シート50を送り速度1.3mm/secで移動させ、かつ中子54を14回転/minで回転させて、電子写真用ベルトとなる樹脂ベルト60の表面の研磨加工を行った。ここで中子54の回転方向は、研磨シート50と中子54とが当接する際の移動方向が一致する方向である。
研磨シート50の3ロットのうち、表面粗さRzが10.0μmのものを用いて上記の研磨加工を行った。その後、実施例1の場合と同様に、表面形状の評価及びクリーニング評価を行った。結果を表1に示す。この比較例では、高さHが17μmであって、凸部112が形成されなかったと判断された。
【0029】
(比較例2)
研磨シート50として、表面粗さRzが7.4μmのものを用いたほかは比較例1と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例2では、凸部112が形成されなかったと判断された。
(比較例3)
研磨シート50として、表面粗さRzが5.9μmのものを用いたほかは比較例1と同様にして樹脂ベルト60を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例3では、凸部112が形成されなかったと判断された。
【0030】
(比較例4)
電子写真用ベルトとして、図1(b)に示すように、基層101の上に表層102を形成したものを作製した。基層101として実施例1でのエンドレス形状のベルト体と同じものを用い、基層101であるこのベルト体の上に、紫外線硬化型アクリル材料を塗布し、紫外線を照射した。
その結果、基層101の表面に厚さ2.5μmの硬化樹脂膜が形成され、これを樹脂ベルト60の表層102とした。そして、当接面圧力を0.12kgf/mm2としたことを除いては、比較例1と同じ研磨条件で表層102の表面形状を加工した。その後、得られた樹脂ベルト60に対して実施例1と同様の評価を行った。ただし、表面の形状などは、表層103に関するものである。結果を表1に示す。比較例4では、凸部112が形成されなかったと判断された。
(比較例5)
研磨シート50として、比較例2で用いた表面粗さRzが7.4μmのものを用いたほかは比較例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例5では、凸部112が形成されなかったと判断された。
(比較例6)
研磨シート50として、比較例3で用いた表面粗さRzが5.9μmのものを用いたほかは比較例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例6では、凸部112が形成されなかったと判断された。
(比較例7)
図6に示す研磨装置を用いて表層102の表面の研磨を10回行ったこと以外は比較例4と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例7では、凸部112が形成されなかったとともに、ランド率Lが30%より小さく、ランド111も形成されなかったと判断された。
【0031】
(比較例8)
比較例8では、比較例4~6と同様の電子写真用ベルトであるが、表層102の表面形状の加工を図5(a)に示した切削装置による切削加工に変更して電子写真用ベルトを得た。
まず、樹脂ベルト60(周長712mm、幅260mm)に中子54(直径227mm、金属製)を圧入し、樹脂ベルト60の表面に加工バイト91(ダイヤモンドバイト、(株)アライドマテリアル製)を当接させた。その後、中子54を周速度2.2m/secで1回転させて、次いで当接させた状態で加工バイト91を樹脂ベルト60の幅方向に対して送り速度0.005mm/secで移動させた。樹脂ベルト60の幅方向に対して正弦波(周期20μm、振幅150nm)の形状になるように加工バイトの切込み条件を制御し、表面形状加工を行った。
表面形状加工の終了後、比較例4の場合と同様に表面形状の評価及びクリーニング評価を行った。結果を表1に示す。比較例8では、凸部112は形成されたもののランド111は形成されなかったと判断された。
(比較例9)
加工バイト91の略切込み条件を変更したこと以外は比較例8と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例9では、凸部112は形成されたもののランド111は形成されなかったと判断された。
(比較例10)
加工バイト91の略切込み条件を変更したこと以外は比較例8と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例10では、溝110が形成されなかったと判断された。
(比較例11)
加工バイト91の略切込み条件を変更したこと以外は比較例8と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例11では、凸部112が形成されなかったと判断された。
【0032】
(比較例12)
電子写真用ベルトにおいて表面の凹凸形状の形成を行わないものとして、研磨加工を行う前の比較例4での樹脂ベルト60を比較例12の電子写真用ベルトとし、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例12では、ランド111は存在すると判断されたものの、溝110及び凸部112については、いずれも、存在しないと判断された。
(比較例13)
加工バイト91の略切込み条件を変更したこと以外は比較例8と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例13では、凸部112が形成されなかったと判断された。
(比較例14)
加工バイト91の略切込み条件を変更したこと以外は比較例8と同様にして樹脂ベルト60を作製し、比較例4と同様の評価を行った。結果を表1に示す。比較例14では、ランド111が形成されなかったと判断された。
【0033】
【表1】
【0034】
ランド率Lは、高さ方向への変動が20nmの範囲内である領域の基準方向に沿う長さを凹凸の平均間隔Smで除したものであるが、上述したように、凹凸の平均間隔Smを溝110の相互の間隔Sとみなすことができる。表1に示すように、溝深さDが100nm以上の溝、溝の間隔Sの30%以上の長さのランド、及び高さHが50nm以上の凸部を形成することで、長期にわたり満足するブレードクリーニングが可能となり、電子写真用ベルトに対する要求性能を満足できた。
【0035】
比較例1~14の電子写真用ベルトでは、いずれも、繰り返してブレードクリーニングを行った結果、15万枚の通紙に至る前にクリーニング不良が発生した。このように比較的小さい通紙枚数でクリーニング不良が発生する原因は、以下のようなものであると考えられる。
比較例1~6,11及び13に係る電子写真用ベルトの外周面は、ランド111によりクリーニングブレード11に対するニップを形成して転写残トナーのすり抜けを阻止するとともに、溝110により摩擦抵抗を軽減するような形状となってはいる。
しかしながらこれらの比較例では、高さHが50nm以上の凸部112が形成されていない。これによりニップが摩耗してブレードの当接部と電子写真用ベルトの外周面との凝着面が増加し、このブレードの当接部が電子写真用ベルトの回転方向に大きく伸ばされてスティックスリップが発生し、転写残トナーがすり抜けやすくなったと考えられる。
比較例7では、電子写真用ベルトの外周面にランドが存在しないため安定したニップが得られず、繰り返しブレードクリーニングを行った結果、ニップが摩耗してニップ領域が狭い箇所から転写残トナーがすり抜けたと考えられる。さらに比較例7では凸部が形成されていないため、ブレードの当接部と電子写真用ベルトの外周面との凝着面が増加し、上述と同様にブレードの当接部が大きく伸ばされ、スティックスリップが発生し、転写残トナーがすり抜けやすくなったと考えられる。
比較例8,9及び14では、電子写真用ベルトの外周面にランドが形成されていないため安定したニップが得られず、繰り返しブレードクリーニングを行った結果、ニップが摩耗してニップ領域が狭い箇所から転写残トナーがすり抜けたと考えられる。
【0036】
比較例10では、電子写真用ベルトの外周面に溝110が形成されていないため、初期よりクリーニングブレード11と電子写真用ベルトとの間の摩擦抵抗が増加するように形状となっている。その結果、繰り返してブレードクリーニングを行ったときに、ニップが摩耗して転写残トナーがすり抜けたと考えられる。
比較例11では、電子写真用ベルトの外周面に凸部が形成されていないため、ブレードの当接部と電子写真用ベルトの外周面との凝着面が増加し、上述と同様にスティックスリップが発生し、転写残トナーがすり抜けやすくなったと考えられる。
比較例12では、電子写真用ベルトの外周面に溝110及び凸部112が形成されていないため、初期よりクリーニングブレード11と電子写真用ベルトとの間の摩擦抵抗が増加するような形状となっている。そのため、繰り返しブレードクリーニングを行ったときにニップが大きく摩耗してブレードの当接部と電子写真用ベルトの外周面との凝着面が増加し、上述と同様にスティックスリップが発生し、転写残トナーがすり抜けやすくなったと考えられる。
【0037】
一方、本開示に係る電子写真用ベルトの外周面には、複数の溝110だけでなく、ランド111と凸部112が設けられている。ランド111は、クリーニングブレード11と電子写真用ベルトとの間にニップを形成して転写残トナーのすり抜けを阻止する。
溝110は、クリーニングブレード11と電子写真用ベルトの間の摩擦抵抗が軽減する。凸部112は、クリーニングブレード11を持ち上げ、電子写真用ベルトへの過度な凝着(スティック)を抑制するように形状となっている。その結果、本開示に係る電子写真用ベルトでは、スティックスリップの発生が低く抑えられ、実施例1~13に示すように、15万枚通紙した時点でもクリーニング不良が発生しないこととなる。
ここで、溝110が延在する方向と、クリーニングブレード11による当接ニップ115の長手方向とがなす角θの影響について検討する。表1に示されるように、この角度θが60°以上であれば、15万枚通紙した時点でもクリーニング不良が発生せず、71°以上であれば、17万5千枚通紙した時点でもクリーニング不良が発生しなかった。特に、θが85°以上であれば、20万枚通紙した時点でもクリーニング不良が発生しなかった。
これは、角度θを直角あるいは直角近傍(60°≦θ≦90°)とすることにより、複数の溝110に隣接するランド111よりも高い凸部112の側壁を当接ニップが乗り越えていく力が低く抑えられ、ニップ部の摩耗が軽減されるためと考えられる。ニップ部の摩耗が軽減されれば、長期にわたり転写残トナーのすり抜けを確実に抑制し、良好なブレードクリーニング性が達成できると推定される。実施例の結果からすれば、θを71°以上90°以下とすることがより好ましく、85°から直角の範囲とすることがさらに好ましい。
【0038】
次に、凸部112を形成することの意義について、観察結果に基づいてさらに説明する。上述の実施例1~13の各々においては25万枚通紙によるクリーニング評価を行っているが、各実施例においてクリーニング評価を行った後にクリーニングブレード11と電子写真用ベルト5とを観察した。
その結果、25万枚通紙時点で転写残トナーのすり抜けが認められた実施例3,5~12では、クリーニングブレード11に磨耗が観察された。一方、25万枚通紙時点においても転写残トナーのすり抜けが認められなかった実施例1,2,4及び13では、電子写真用ベルト5において、溝110が紙粉やトナーの外添剤で埋まってなお溝110が残っていることが観察された。これらの観察結果から、溝110が残っていることでクリーニングブレード11とエンドレス形状の電子写真用ベルト5との間での接触面積の増大が軽減され、これにより摩擦力の増大も抑制され、クリーニングブレード11の磨耗が軽減したものと考えられる。さらに、このように磨耗が軽減した結果、実施例1,2,4及び13では25万枚の通紙を経てもなおクリーニング不良が発生しなかった、すなわち最上級のグレードSの評価になったものと考えられる。
【0039】
図7(a)は、テンションローラ6の回転軸の方向から電子写真用ベルト5とクリーニングブレード11とが接触する位置の近傍を示す図であって、図7(b)は図7(a)において破線Bで示した部分の拡大図である。
図7においては、説明のため、クリーニングブレード11の侵入量δを実際よりも小さく描いている。弾性体からなり厚さが例えば2mmであるクリーニングブレード11は、断面がL字形状の取付金具11aに取り付けられている。
図7(a)において符号Nbは、クリーニングブレード11と電子写真用ベルト5の外周面との間に形成される当接ニップを示している。図7に示すように、クリーニングブレード11は、エンドレス形状の電子写真用ベルト5の回転方向aに対して、カウンター方向で配置されている。このため、クリーニングブレード11において電子写真用ベルト5と接触することとなる先端部は、ベルト搬送方向に関して摩擦力を受ける。クリーニングブレード11の先端部が受ける摩擦力は、クリーニングブレード11の先端部をベルト搬送方向に追従して曲げる方向の力となる。その結果、接触部分の摩擦力によりクリーニングブレード11の接触部が図7(b)に示すように湾曲することで、巻き込み部Mが形成される。巻き込み部Mにおいてクリーニングブレード11は電子写真用ベルト5に対して面として接触する。ベルト搬送方向における巻き込み部Mの長さが図においてmで示されている。
【0040】
クリーニングブレード11の磨耗について考える。溝110が紙粉などによって埋まると、クリーニングブレード11と電子写真用ベルト5の実質的な接触面積が増大する。接触面積の増大は、適切な巻き込み部Mが維持されずにスティックスリップ現象を引き起こし、クリーニングブレード11の磨耗につながると考えられる。したがって、上述したクリーニング性能についての多数回の繰り返し試験を行っても溝110が埋まらなければ、クリーニングブレード11における接触面積が増大せずに適切な巻き込み部Mが維持され、ブレード磨耗も改善できると考えられる。この観点からすると、製品寿命として20万枚通紙を超える耐久性を得るためには、紙粉や外添剤による溝110の埋没を軽減するために、溝110の深さDをより深くする必要がある。電子写真用ベルト5の表面に凸部112が形成されて場合には、溝110の埋没を軽減してクリーニングブレード11の磨耗を防止するために、溝深さDを0.40μm以上とすることが好ましいと考えられる。
金型を当接させて電子写真用ベルト5の表面に溝110を形成する場合には、溝深さDを大きくするために金型の当接面圧力を大きくする必要がある。実施例4~6の電子写真用ベルト5におけるように表層に紫外線硬化型アクリル材料を塗布するような構成では、表層が硬い状態であるため、金型の当接面圧力を大きくすると、溝110を形成する際に表層に割れが発生することができる。表層の割れは、当接面圧力を調節することで防ぐことができるが、その場合には、十分な溝深さDを得ることができない。
【0041】
20万枚通紙を超える耐久性を見据えた本発明者らの検討によれば、溝110の両側にそれぞれ凸部112を形成することで、ブレード摩耗がさらに抑制されることが分かった。具体的には、隣接する2つの溝110ごとに、それらの溝110の間となる位置にランド111を形成し、さらに溝110の各々についてその溝110の両側とランド111との間にそれぞれ凸部112を形成する。このように構成すれば、埋没に関する溝110の実効的な深さは、凸部112の高さHと、図1を用いて説明したように定義される溝深さDとの和であると考えることができる。したがって、金型によって形成される実際の溝110の溝深さDに比べて実効的な深さを大きくすることができるので、溝110を形成するときの金型の当接面圧力を小さくしつつ、ブレード磨耗を軽減することが可能になる。実施例1~13について溝深さDと凸部高さHとの和を計算すると、実施例1では595nm、実施例2では425nm、実施例4では490nm、実施例13では403nmであった。一方、実施例3,5~12では、溝深さDと凸部高さHとの和は360nm以下となっている。また実施例1~13において、溝深さDに対して凸部高さHは24%から97%の範囲にある。このことは、溝110の実効的な深さが溝深さDの124%から197%の範囲にあって、金型の当接面圧力を少なくしても必要な製品寿命に応じて最適な実効的な深さを得ることができたことを意味する。
【0042】
なお、本開示は、上記の実施形態及び各実施例に限定されるものではなく、本開示の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本開示の範囲から排除するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7