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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】エネルギー線照射装置
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/04 20060101AFI20240213BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20240213BHJP
   H01J 35/00 20060101ALI20240213BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20240213BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20240213BHJP
   H01J 35/18 20060101ALI20240213BHJP
   H05G 1/00 20060101ALI20240213BHJP
   G21K 5/00 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
G21K5/04 F
G21K5/02 X
G21K5/04 E
H01J35/00 Z
H01J35/06 C
H01J35/08 F
H01J35/18
H05G1/00 D
G21K5/00 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020071472
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021167783
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】原口 大
【審査官】関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-149398(JP,A)
【文献】特開2009-162577(JP,A)
【文献】特開2013-098090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K1/00-3/00
5/00-7/00
H01J35/00-35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の電子放出部を有する電子放出ユニットと、
前記電子放出部から放出された電子に基づくエネルギー線を出射する窓部を有する筐体と、
前記筐体内に固定され、前記電子放出ユニットを収容可能な長尺の筒状を呈するとともに、外周面のうち前記窓部に対向する部位に電子放出開口が形成されたユニット収容部と、を備え、
前記電子放出ユニットの外面と前記ユニット収容部の内面との間には、前記電子放出ユニットの外面または前記ユニット収容部の内面に摺動可能に当接して前記ユニット収容部に対する前記電子放出部の位置決めを行う複数の位置決め部を備え、
前記電子放出ユニットは、前記ユニット収容部の端部から前記ユニット収容部に対して挿入可能であり、
前記位置決め部は、前記電子放出ユニットの周方向に沿って複数設けられ、
前記電子放出ユニットの周方向に沿った前記位置決め部同士の最大の間隔は、前記電子放出ユニットの周方向における半周分よりも短い、エネルギー線照射装置。
【請求項2】
前記電子放出ユニットに対して給電する給電部を更に備え、
前記電子放出ユニットは、前記ユニット収容部の一方の前記端部から前記ユニット収容部に対して挿入可能であり、
前記給電部は、前記筐体内において、前記ユニット収容部における他方の前記端部側に設けられ、前記電子放出ユニットが前記ユニット収容部に挿入された状態において前記電子放出ユニットと当接して電気的に接続される、請求項1に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項3】
前記筐体における一方の端部には、前記電子放出ユニットを導入可能であり且つ蓋部によって開閉される導入開口が設けられている、請求項2に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項4】
前記位置決め部の外面は、凸曲面状である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項5】
前記位置決め部は、前記電子放出ユニットの外面または前記ユニット収容部の内面に当接する球状体と、前記球状体を回転可能に保持する保持部と、を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項6】
前記位置決め部は、前記電子放出部の延在方向に沿って複数設けられている、請求項1~5のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項7】
前記位置決め部は、前記電子放出部の延在方向に沿った方向において、一方及び他方の両端部にそれぞれ設けられている、請求項1~6のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項8】
前記位置決め部は、前記電子放出ユニットの外面に設けられるとともに、前記電子放出部の延在方向の中央位置よりも前記ユニット収容部への挿入方向の先端側の位置において、前記電子放出部の延在方向に沿った複数の位置にそれぞれ設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項9】
前記ユニット収容部の外面側から前記ユニット収容部の内面側に向けて突出する突起部を更に備え、
前記電子放出ユニットは、前記電子放出部の延在方向に沿って延びる溝部が外縁部に形成された回転規制部材を更に有し、
前記溝部内に前記突起部が嵌り込むことにより、前記ユニット収容部内における前記電子放出ユニットの回転方向における位置が定められる、請求項1~のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項10】
前記突起部は、前記ユニット収容部の両端側にそれぞれ設けられ、
前記回転規制部材は、前記電子放出ユニットの両端側にそれぞれ設けられている、請求項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項11】
前記エネルギー線として、前記窓部から前記電子を出射する電子線照射装置を構成する請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【請求項12】
前記電子放出部から放出された前記電子が入射することでX線を発生するX線発生部を更に備え、
前記エネルギー線として、前記窓部から前記X線を出射するX線照射装置を構成する請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長尺状の電子放出部を備える電子線照射装置が記載されている。この電子線照射装置では、長尺状の連結板に電子放出部が取り付けられ、長尺状のレールに連結板が摺動可能に載置されている。これにより、この電子線照射装置では、レールに沿って連結板を摺動させることにより、連結板とともに電子放出部を取り出し可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-149398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の電子線照射装置は、電子放出部を含む電子放出ユニットを筐体内に配置する際に、長尺状のレールの上面に長尺状の連結板の下面を当接させる構成である。このため、この電子線照射装置では、レール及び連結板のそれぞれの精度、並びに各部材の配置精度等の影響を受けやすく、電子放出ユニットを安定して配置することができないことがある。
【0005】
そこで、本発明は、電子放出ユニットを安定して配置することができるエネルギー線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエネルギー線照射装置は、長尺状の電子放出部を有する電子放出ユニットと、電子放出部から放出された電子に基づくエネルギー線を出射する窓部を有する筐体と、筐体内に固定され、電子放出ユニットを収容可能な長尺の筒状を呈するとともに、外周面のうち窓部に対向する部位に電子放出開口が形成されたユニット収容部と、を備え、電子放出ユニットの外面とユニット収容部の内面との間には、電子放出ユニットの外面またはユニット収容部の内面に摺動可能に当接してユニット収容部に対する電子放出部の位置決めを行う複数の位置決め部を備え、電子放出ユニットは、ユニット収容部の端部からユニット収容部に対して挿入可能である。
【0007】
このエネルギー線照射装置において、電子放出ユニットの外面とユニット収容部の内面との間には、電子放出ユニットの外面又はユニット収容部の内面に摺動可能に当接する複数の位置決め部を有している。すなわち、長尺状の電子放出ユニットは、位置決め部が設けられた複数の位置で支持されることによってユニット収容部内に配置される。これにより、エネルギー線照射装置は、電子放出ユニットが長尺状であっても、電子放出ユニットを安定して配置することができる。
【0008】
エネルギー線照射装置は、電子放出ユニットに対して給電する給電部を更に備え、電子放出ユニットは、ユニット収容部の一方の端部からユニット収容部に対して挿入可能であり、給電部は、筐体内において、ユニット収容部における他方の端部側に設けられ、電子放出ユニットがユニット収容部に挿入された状態において電子放出ユニットと当接して電気的に接続されてもよい。この場合、エネルギー線照射装置では、電子放出ユニットと給電部とを接続するための特別な作業を行うこと無く、電子放出ユニットをユニット収容部内に配置する作業(ユニット収容部に電子放出ユニットを挿入する作業)を行うことによって、電子放出ユニットと給電部とを電気的に接続することができる。
【0009】
筐体における一方の端部には、電子放出ユニットを導入可能であり且つ蓋部によって開閉される導入開口が設けられていてもよい。この場合、エネルギー線照射装置では、筐体の導入開口を介して、ユニット収容部に対して電子放出ユニットを着脱することができる。
【0010】
位置決め部の外面は、凸曲面状であってもよい。この場合、位置決め部が電子放出ユニットの外面又はユニット収容部の内面に対して滑らかに摺動することができる。これにより、エネルギー線照射装置は、ユニット収容部に対して電子放出ユニットを容易に着脱することができる。
【0011】
位置決め部は、電子放出ユニットの外面またはユニット収容部の内面に当接する球状体と、球状体を回転可能に保持する保持部と、を備えていてもよい。この場合、電子放出ユニットは、位置決め部の球状体が回転することによって、ユニット収容部内でスムーズに摺動することができる。これにより、エネルギー線照射装置は、ユニット収容部に対して電子放出ユニットを容易に着脱することができる。
【0012】
位置決め部は、電子放出部の延在方向に沿って複数設けられていてもよい。この場合、エネルギー線照射装置は、ユニット収容部の延在方向に対して電子放出ユニットが傾いて収容されることを抑制し、電子放出ユニットを安定して配置できる。
【0013】
位置決め部は、電子放出部の延在方向に沿った方向において、一方及び他方の両端部にそれぞれ設けられていてもよい。この場合、エネルギー線照射装置は、ユニット収容部の延在方向に対して電子放出ユニットが傾いて収容されることをより一層抑制し、電子放出ユニットをより一層安定して配置できる。
【0014】
位置決め部は、電子放出ユニットの外面に設けられるとともに、電子放出部の延在方向の中央位置よりもユニット収容部への挿入方向の先端側の位置において、電子放出部の延在方向に沿った複数の位置にそれぞれ設けられていてもよい。この場合、エネルギー線照射装置は、長尺状の電子放出ユニットがユニット収容部に挿入される際に、延在方向の中央位置よりも挿入方向の先端側の端部寄りに配置された2以上の位置決め部が挿入の早い段階でユニット収容部に当接する。すなわち、エネルギー線照射装置では、長尺状の電子放出ユニットの挿入時に、その先端が挿入された段階でユニット収容部に対して電子放出ユニットの位置決めがされる。これにより、エネルギー線照射装置は、電子放出ユニットが長尺状の場合であっても、ユニット収容部に対して電子放出ユニットを安定して着脱することができる。
【0015】
位置決め部は、電子放出ユニットの周方向に沿って複数設けられていてもよい。この場合、エネルギー線照射装置は、ユニット収容部内において、電子放出部の延在方向に直交する方向の電子放出ユニットの位置を安定させることができる。
【0016】
エネルギー線照射装置は、ユニット収容部の外面側からユニット収容部の内面側に向けて突出する突起部を更に備え、電子放出ユニットは、電子放出部の延在方向に沿って延びる溝部が外縁部に形成された回転規制部材を更に有し、溝部内に突起部が嵌り込むことにより、ユニット収容部内における電子放出ユニットの回転方向における位置が定められてもよい。この場合、エネルギー線照射装置は、溝部及び突起部によって、電子放出ユニットの延在方向に沿って見た場合の電子放出ユニットの回転方向における位置(向き)を定めることができる。
【0017】
突起部は、ユニット収容部の両端側にそれぞれ設けられ、回転規制部材は、電子放出ユニットの両端側にそれぞれ設けられていてもよい。この場合、エネルギー線照射装置は、電子放出ユニットの両端側において電子放出ユニットの回転方向における位置を定めることができ、電子放出ユニットを安定して配置することができる。
【0018】
上記のエネルギー線照射装置は、エネルギー線として、窓部から電子を出射する電子線照射装置を構成してもよい。また、上記のエネルギー線照射装置は、電子放出部から放出された電子が入射することでX線を発生するX線発生部を更に備え、エネルギー線として、窓部からX線を出射するX線照射装置を構成してもよい。この場合、電子放出ユニットを安定して配置することができる電子線照射装置及びX線照射装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子放出ユニットを安定して配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る電子線照射装置の斜視図である。
図2図2は、図1の電子線照射装置の内部構造を示す一部断面図である。
図3図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、フィラメントユニットの斜視図である。
図5図5は、フィラメントユニットの一部断面図である。
図6図6は、フィラメントユニットがレールに差し込まれる様子を示す一部断面図である。
図7図7は、フィラメントユニットの端子保持部材側の端部周りの構成を示す断面図である。
図8図8は、フィラメントユニットの回転規制部材側の端部周りの構成を示す断面図である。
図9図9は、図7のIX-IX線に沿った断面図である。
図10図10は、図8のX-X線に沿った断面図である。
図11図11(a)は、フィラメントユニットが水平方向に電子線を照射する場合のフィラメントユニット及びレールの構成を示す断面図である。図11(b)は、フィラメントユニットが下方向に電子線を照射する場合のフィラメントユニット及びレールの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1に示される電子線照射装置(エネルギー線照射装置)1は、照射対象物への電子線(エネルギー線)EBの照射によって、例えば当該照射対象物のインキの硬化、滅菌、又は表面改質等を行うために使用される。なお、以下、電子線照射装置1によって電子線EBが照射される側である電子線出射側(窓部9側)を、「前側」として説明する。
【0023】
図1図3に示されるように、電子線照射装置1は、フィラメントユニット(電子放出ユニット)2、真空容器(筐体)3、陰極保持部材4、陰極保持部材5、レール部(ユニット収容部)6、高電圧導入絶縁部材(給電部)7、及び絶縁支持部材8を備えている。フィラメントユニット2は、電子線EBを発生させる電子線発生部である。また、フィラメントユニット2は、長尺状のユニットとなっている。
【0024】
真空容器3は、金属等の導電性材料によって形成されている。真空容器3は、略円筒状を呈している。真空容器3は、内部に略円柱状の真空空間Rを形成する。フィラメントユニット2は、真空容器3の内部において、略円柱状の真空空間Rの軸線方向(長軸方向)に沿って配置されている。真空容器3におけるフィラメントユニット2の前側の位置には、真空空間Rと外部の空間とを連通する開口部3aが設けられている。真空容器3は、フィラメントユニット2から放出された電子を通過させる窓部9を備えている。窓部9は、開口部3aに対して、真空封止するように固定されている。
【0025】
窓部9は、窓材9a、及び支持体9bを備えている。窓材9aは、薄膜状に形成されている。窓材9aの材料としては、電子線EBの透過性に優れた材料(例えば、ベリリウム、チタン、アルミニウム等)が用いられる。支持体9bは、窓材9aよりも真空空間R側に配置され、窓材9aを支持する。支持体9bは、メッシュ状の部材であり、電子線EBを通過させる複数の孔を有している。
【0026】
真空容器3におけるフィラメントユニット2の後ろ側の位置には、真空容器3内の空気を排出するための排気口3bが設けられている。排気口3bに図示しない真空ポンプが接続され、真空ポンプによって真空容器3内の空気が排出される。これにより、真空容器3の内部が真空空間Rとなる。略円筒状を呈する真空容器3の他方側の端部の開口部3cは、高電圧導入絶縁部材7のフランジ部7aによって閉じられている。真空容器3の一方側の端部には筐体端部板3fが設けられている。筐体端部板3fには、真空容器3の内側空間と外側空間とに連通する差込口(導入開口)3d(図6参照)が設けられている。差込口3dは、フィラメントユニット2を導入可能な大きさとなっている。差込口3dは、筐体端部板3fに対して開閉可能(ここでは着脱可能)に設けられた蓋部3eによって閉じられる。
【0027】
陰極電位となる一対の陰極保持部材4及び5は、それぞれ真空容器3内に配置される。他方側の陰極保持部材4と一方側の陰極保持部材5との間には、陰極電位であり、フィラメントユニット2を包囲する包囲電極を兼ねるレール部6が設けられている。レール部6は、断面略C字状を呈する導電性かつ長尺状の部材である。レール部6は、断面略C字状の開口が前側(窓部9側)を向くように配置されている。レール部6は、内側部分(内部空間)においてフィラメントユニット2を保持する。言い換えると、レール部6は、フィラメントユニット2を収容可能な長尺の筒状を呈する。また、レール部6は、外周面のうち窓部9に対向する部位に開口(電子放出開口)が形成されている。レール部6の両端部は、陰極保持部材4及び高電圧導入絶縁部材7と、陰極保持部材5及び絶縁支持部材8とによって、それぞれ真空容器3に固定されている。
【0028】
筐体端部板3fの差込口3dは、レール部6の一方の端部(陰極保持部材5に固定される側の端部)に対向している。フィラメントユニット2は、真空容器3の蓋部3eが取り外された(開けられた)状態において、筐体端部板3fの差込口3dと、陰極保持部材5及び絶縁支持部材8にそれぞれ設けられた挿入孔5a及び8a(図8参照)とを介して、レール部6の一方の端部からレール部6の内側(内側空間)に差し込まれ、レール部6に保持される。このように、フィラメントユニット2は、レール部6の一方の端部からレール部6に対して抜き差し可能である(着脱可能に挿入される)。
【0029】
高電圧導入絶縁部材7は、フィラメントユニット2に対して給電を行う。高電圧導入絶縁部材7は、真空容器3における他方側の開口部3c側の端部に設けられている。高電圧導入絶縁部材7の他方側の端部は、開口部3cを介して真空容器3の外部に突出している。高電圧導入絶縁部材7は、その径方向における外側に張り出すフランジ部7aを有し、真空容器3の開口部3cを封止する。高電圧導入絶縁部材7は、絶縁材料(例えばエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、セラミック等)によって形成されている。陰極保持部材4は、接地電位である真空容器3に対して電気的に絶縁された状態で高電圧導入絶縁部材7の一方側の端部を保持する。
【0030】
また、高電圧導入絶縁部材7は、電子線照射装置1の外部の電源装置から高電圧の供給を受けるための高耐電圧型のコネクタである。高電圧導入絶縁部材7には、図示しない電源装置から高電圧供給用プラグが挿入される。高電圧導入絶縁部材7の内部には、外部から供給された高電圧をフィラメントユニット2等に供給するための内部配線が設けられている。この内部配線は、高電圧導入絶縁部材7を構成する絶縁材料によって覆われており、真空容器3との絶縁が確保されている。高電圧導入絶縁部材7における真空容器3内に配置される一方側の端部(陰極保持部材4を支持する側の端部)は、レール部6における他方側の端部(陰極保持部材4に固定される側の端部)に対向している。
【0031】
絶縁支持部材8は、真空容器3における一方側の筐体端部板3fが設けられている側の端部(蓋部3e側の端部)に設けられている。絶縁支持部材8は、絶縁材料(例えばエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、セラミック等)によって形成されている。絶縁支持部材8は、筐体端部板3fによって支持されている。陰極保持部材5は、真空容器3に対して電気的に絶縁された状態で、絶縁支持部材8によって支持される。
【0032】
図3図6に示されるようにフィラメントユニット2は、レール部6に対して着脱可能なように、一つのユニットとして構成されている。フィラメントユニット2は、フィラメント(電子放出部)10、メインフレーム11、グリッド電極12、サブフレーム13、給電線14、ガイド部材15、端子保持部材(回転規制部材)16、フィラメント固定部材17、回転規制部材18、及び張力保持ユニット19を備えている。
【0033】
メインフレーム11は、断面略コの字状を呈する長尺状の部材である。メインフレーム11は、断面略コの字状の開口が前側(窓部9側)を向くように配置されている。メインフレーム11の内側(内側空間)においてメインフレーム11の他方側の端部には、フィラメント固定部材17が設けられている。また、メインフレーム11の内側(内側空間)においてメインフレーム11の一方側の端部には、張力保持ユニット19が設けられている。
【0034】
フィラメント10は、通電によって加熱されることで電子線EBとなる電子を放出する電子放出部である。フィラメント10は、線状の部材であり、一方側から他方側に延びる、所望の軸線L上において延在する長尺状の部材である。フィラメント10は、高融点金属材料、例えばタングステンを主成分とした材料等によって形成されている。フィラメント10の一方の端部は、張力保持ユニット19に接続されている。フィラメント10の他方の端部は、フィラメント固定部材17に接続されている。
【0035】
端子保持部材16は、メインフレーム11の他方の端部に取り付けられている。端子保持部材16は、フィラメント10が電子を放出するための電流を供給するフィラメント用端子T1、フィラメントユニット2に陰極電位を供給する高電圧用端子T2、及びグリッド電極12への印加電圧を供給するグリッド電極用端子T3を互いに電気的に絶縁された状態で保持している。フィラメント用端子T1は、給電線14の他方の端部に接続されている。高電圧用端子T2は、フィラメント固定部材17と電気的に接続されている。端子保持部材16の外縁部には、軸線L方向(フィラメント10の延在方向)に沿って延在するガイド溝(溝部)16aが設けられている。本実施形態において、端子保持部材16には、ガイド溝16aが2つ設けられている。2つのガイド溝16aは、軸線L方向に沿って見たときに、軸線Lを挟み込んで対向するように設けられている。フィラメントユニット2は、端子保持部材16が設けられた他方側の端部を先頭にして、筐体端部板3fの差込口3dと、陰極保持部材5及び絶縁支持部材8にそれぞれ設けられた挿入孔5a及び8aとを介して、レール部6の一方の端部からレール部6の内側に差し込まれる。
【0036】
回転規制部材18は、メインフレーム11の一方の端部に取り付けられている。すなわち、フィラメント固定部材17及び回転規制部材18は、フィラメントユニット2の両端部の位置にそれぞれ設けられている。回転規制部材18の外縁部には、軸線L方向(フィラメント10の延在方向)に沿って延在するガイド溝(溝部)18aが設けられている。本実施形態において、回転規制部材18には、ガイド溝18aが2つ設けられている。2つのガイド溝18aは、軸線L方向に沿って見たときに、軸線Lを挟み込んで対向するように設けられている。本実施形態において、ガイド溝16a及びガイド溝18aは、軸線L方向に沿って見たときに、ガイド溝16aとガイド溝18aとが互いに重なるように設けられている。
【0037】
サブフレーム13は、断面略コの字状を呈する長尺状の部材である。サブフレーム13は、メインフレーム11と平行に配置されている。給電線14は、フィラメント用端子T1との接続位置からサブフレーム13の内側(内側空間)を通って張力保持ユニット19に接続されており、サブフレーム13は給電線14の保護機能を備えている。メインフレーム11とサブフレーム13とは、複数のガイド部材15によって互いに連結されている。
【0038】
ガイド部材15は、本実施形態においては、第1ガイド部15a、第2ガイド部15b、及び第3ガイド部15cを含んでいる。第1ガイド部15aは、フィラメントユニット2の端子保持部材16が設けられている他方側の端部において、メインフレーム11とサブフレーム13とを連結している。第3ガイド部15cは、フィラメントユニット2の回転規制部材18が設けられている一方側の端部において、メインフレーム11とサブフレーム13とを連結している。このように、第1ガイド部15a及び第3ガイド部15cは、フィラメントユニット2の両端部の位置にそれぞれ設けられている。第2ガイド部15bは、第1ガイド部15aと第3ガイド部15cとの間の位置において、メインフレーム11とサブフレーム13とを連結している。ここで、図5に示されるように、フィラメントユニット2の延在方向の中央の位置を中央位置Pとする。また、フィラメントユニット2において、中央位置Pよりも端子保持部材16側(他方側)の部分を先端側部分Yとする。本実施形態において、第2ガイド部15bは、フィラメントユニット2の先端側部分Yに設けられている。すなわち、先端側部分Yには、第1ガイド部15a及び第2ガイド部15bが設けられている。
【0039】
第1ガイド部15aの外面には、複数の位置決め部20が設けられている。位置決め部20は、レール部6の内面に摺動可能に当接し、レール部6に対するフィラメントユニット2の位置決めを行う。本実施形態において、位置決め部20は、図3に示されるように、第1ガイド部15a(フィラメントユニット2)の外面において、フィラメントユニット2の周方向に沿って複数設けられている。なお、フィラメントユニット2の周方向とは、長尺状のフィラメントユニット2の延在方向を軸として、フィラメントユニット2の周りを周る(回転する)方向である。位置決め部20は、第1ガイド部15aに対して4つ設けられている。
【0040】
位置決め部20は、球状体20a、及び保持部20bを備えている。球状体20aは、レール部6の内面に当接する。保持部20bは、第1ガイド部15aに対して球状体20aを回転可能に保持する。また、保持部20bは、球状体20aがレール部6の内面に当接できるように、球状体20aの一部を露出させた状態で球状体20aを保持する。これにより、フィラメントユニット2は、レール部6の内部(内部空間)においてスライドさせられたときに、球状体20aが回転することによって容易にスライドできる。
【0041】
第2ガイド部15b及び第3ガイド部15cには、それぞれ複数の位置決め部20が設けられている。第2ガイド部15b及び第3ガイド部15cに設けられた位置決め部20は、第1ガイド部15aに設けられた位置決め部20と同じ構成であり、詳細な説明を省略する。
【0042】
このように、第1ガイド部15a~第3ガイド部15cにそれぞれ位置決め部20が設けられていることにより、位置決め部20は、フィラメント10の延在方向に沿って複数設けられている。すなわち、位置決め部20は、フィラメント10の延在方向に沿った複数の位置にそれぞれ設けられている。
【0043】
また、位置決め部20は、フィラメントユニット2の両端部に位置する第1ガイド部15a及び第3ガイド部15cにそれぞれ設けられている。すなわち、位置決め部20は、フィラメント10の延在方向に沿った方向において、フィラメントユニット2における一方及び他方の両端部の位置にそれぞれ設けられている。
【0044】
フィラメントユニット2の先端側部分Yには、第1ガイド部15a及び第2ガイド部15bが設けられている。すなわち、フィラメントユニット2には、先端側部分Yにおいて、フィラメントユニット2の延在方向に沿った複数の位置にそれぞれ第1ガイド部15aの位置決め部20と第2ガイド部15bの位置決め部20とが設けられている。
【0045】
グリッド電極12は、フィラメント10の前側に配置され、ガイド部材15によって絶縁部材22を介して支持されている。グリッド電極12には、複数の孔が形成されている(図4等参照)。グリッド電極12は、図示しない配線を介してグリッド電極用端子T3と電気的に接続されている。
【0046】
張力保持ユニット19は、フィラメント10の張力を保持する。ここでは、張力保持ユニット19は、フィラメント10の一方側の端部に連結された可動体をばねによって押圧する又は引っ張ることによって、フィラメント10の張力を保持することができる。張力保持ユニット19は、メインフレーム11とは絶縁部材等を介して電気的に絶縁された状態でメインフレーム11に取り付けられている。張力保持ユニット19には、給電線14の一方の端部が接続されている。張力保持ユニット19は、フィラメント10の張力を保持しつつ、給電線14を介して供給された電力をフィラメント10に供給することができる。
【0047】
図6図8に示されるように、フィラメントユニット2は、端子保持部材16が設けられた他方側の端部を先頭にして、筐体端部板3fの差込口3dと、絶縁支持部材8に設けられた挿入孔8aと、陰極保持部材5に設けられた挿入孔5aとを介して、レール部6の内側(内側空間)に差し込まれて固定される。ここで、レール部6は、図7及び図8に示されるように、包囲部60、第1環状部61、及び第2環状部62を備えている。
【0048】
包囲部60は、フィラメントユニット2のフィラメント10が設けられた部分を包囲する。包囲部60は、断面略C字状を呈する長尺状の部材である。図7に示されるように、第1環状部61は、包囲部60の他方の端部に連結されている。レール部6の第1環状部61側(他方側)の端部が、陰極保持部材4に固定される。なお、陰極保持部材4は、レール部6の第1環状部61が設けられている他方側の端部を囲むように筒状を呈している。図8に示されるように、第2環状部62は、包囲部60の一方の端部に連結されている。レール部6の第2環状部62側(一方側)の端部が、陰極保持部材5に固定される。なお、陰極保持部材5は、レール部6の第2環状部62が設けられている一方側の端部を囲むように筒状を呈している。
【0049】
図7に示されるように、第1環状部61は、一方側、つまり筐体端部板3fの差込口3d側(包囲部60側)を向く当接面61bを有している。当接面61bは、フィラメントユニット2がレール部6に差し込まれたときに、フィラメントユニット2の他方側の先端面(端子保持部材16の他方側の端面)が当接する。これにより、当接面61bは、フィラメントユニット2の差し込み深さを定めることができる。フィラメントユニット2の先端面が当接面61bに当接した状態のフィラメントユニット2の位置を、差込完了位置とする。高電圧導入絶縁部材7は、フィラメントユニット2がレール部6に対して差込完了位置まで差し込まれた状態においてフィラメントユニット2と当接し、フィラメントユニット2と電気的に接続される。
【0050】
より詳細には、高電圧導入絶縁部材7におけるレール部6側(一方側)の面には、フィラメントユニット2に給電するための接続端子Tが3つ設けられている。接続端子Tは、陰極保持部材4の壁部4aに設けられた貫通孔を、陰極保持部材4と接触しないように貫通して、レール部6側(一方側)に露出している。フィラメントユニット2が差込完了位置まで差し込まれた状態において、フィラメント用端子T1、高電圧用端子T2、及びグリッド電極用端子T3の先端部は、高電圧導入絶縁部材7に設けられた3つの接続端子の先端部にそれぞれ当接する。これにより、フィラメント用端子T1等と、高電圧導入絶縁部材7の接続端子Tとが電気的に接続される。
【0051】
ここで、フィラメント用端子T1は、フィラメントユニット2の差し込み方向において弾性変形可能な構成であってもよい。この場合、フィラメント用端子T1は、接続端子Tに対してより確実に当接して電気的に接続され得る。また、フィラメント用端子T1の端面と接続端子Tの端面とが当接する構成である。このため、フィラメント用端子T1の中心位置と接続端子Tの中心位置とに位置にずれが生じていても端面同士が当接していれば、フィラメント用端子T1と接続端子Tとが電気的に接続される。同様に、フィラメント用端子T1は、フィラメント用端子T1及び接続端子Tの突出長さにばらつきが生じていても、弾性変形することによって突出長さのばらつきを吸収することができ、接続端子Tに当接することができる。さらに、フィラメントユニット2が差し込まれて、フィラメント用端子T1と接続端子Tとが当接したときの衝撃をフィラメント用端子T1の弾性変形によって緩和することができる。同様に、高電圧用端子T2及びグリッド電極用端子T3も、フィラメントユニット2の差し込み方向において弾性変形可能な構成であってもよい。フィラメント用端子T1等と同様に、接続端子Tがフィラメントユニット2の差し込み方向において弾性変形可能な構成であってもよい。
【0052】
図7及び図9に示されるように、第1環状部61は、フィラメントユニット2の先端面が当接面61bに当接した状態において、端子保持部材16を囲んでいる。なお、図9では、陰極保持部材4の図示が省略されている。第1環状部61は、第1環状部61(レール部6)の外面側(外周側)から第1環状部61(レール部6)の内面側(内側)に向って突出するガイド突起(突起部)61aが設けられている。本実施形態において、第1環状部61には、ガイド突起61aが2つ設けられている。2つのガイド突起61aは、軸線L方向に沿って見たときに、軸線Lを挟み込んで対向するように設けられている。フィラメントユニット2がレール部6に差し込まれたときに、第1環状部61のガイド突起61aが、フィラメントユニット2の先端部に設けられた端子保持部材16のガイド溝16aに嵌め込まれる。これにより、レール部6内におけるフィラメントユニット2の延在方向を軸とした、回転方向における位置(向き)が定められる。また、フィラメントユニット2は、高電圧導入絶縁部材7に設けられた3つの接続端子Tと、フィラメント用端子T1~グリッド電極用端子T3との位置合わせをしつつこれらを接続することができる。
【0053】
図8及び図10に示されるように、第2環状部62は、フィラメントユニット2の先端面が当接面61bに当接した状態において、回転規制部材18を囲んでいる。なお、図10では、陰極保持部材5の図示が省略されている。第2環状部62は、第2環状部62(レール部6)の外面側(外周側)から第2環状部62(レール部6)の内面側(内側)に向って突出するガイド突起(突起部)62aが設けられている。本実施形態において、第2環状部62には、ガイド突起62aが2つ設けられている。2つのガイド突起62aは、軸線L方向に沿って見たときに、軸線Lを挟み込んで対向するように設けられている。このように、ガイド突起61a及びガイド突起62aは、レール部6の両端部の位置にそれぞれ設けられている。本実施形態において、ガイド突起61a及びガイド突起62aは、軸線L方向に沿って見たときに、ガイド突起61aとガイド突起62aとが互いに重なるように設けられている。フィラメントユニット2がレール部6に差し込まれたときに、第2環状部62のガイド突起62aが、フィラメントユニット2に設けられた回転規制部材18のガイド溝18aに嵌め込まれる。これにより、レール部6内におけるフィラメントユニット2の延在方向を軸とした回転方向における位置(向き)が定められる。
【0054】
図8に示されるように、フィラメントユニット2がレール部6に差し込まれた状態において、陰極保持部材5の挿入孔5aにユニット押圧部21が取り付けられる。ユニット押圧部21は、固定部21a、及び押圧部材21bを備えている。固定部21aは、陰極保持部材5の挿入孔5aを覆うように陰極保持部材5に着脱可能に取り付けられる。押圧部材21bは、固定部21aにおけるフィラメントユニット2側(レール部6側)である他方側の面に取り付けられている。押圧部材21bは、フィラメントユニット2を差し込み方向の奥側(陰極保持部材4側)である他方側に向けて押圧する。押圧部材21bは、例えば圧縮ばねである。ユニット押圧部21によってフィラメントユニット2が押圧されることにより、フィラメントユニット2の先端面が第1環状部61の当接面61bに当接した状態が維持される。なお、ユニット押圧部21は、陰極保持部材5に取り付けられることに限定されず、絶縁支持部材8に着脱可能に取り付けられてもよく、筐体端部板3fに着脱可能に取り付けられてもよい。
【0055】
フィラメント10は、フィラメントユニット2がレール部6の差込完了位置まで差し込まれた状態において、通電によって加熱された状態で、マイナス数10kV~マイナス数100kVといった高い負電圧が印加されることにより、電子を放出する。グリッド電極12には、所定の電圧が印加される。例えば、グリッド電極12には、フィラメント10に印加される負電圧よりも100V~150V程度プラス側の電圧が印加されてもよい。グリッド電極12は、電子を引き出すとともに拡散を抑制するための電界を形成する。これにより、フィラメント10から放出された電子は、グリッド電極12に設けられた孔から電子線EBとして前側に出射される。
【0056】
ここで、電子線照射装置1は、例えば、電子線EBを水平方向に向けて照射する場合、窓部9が水平方向を向くように設置される。また、電子線照射装置1は、例えば、電子線EBを下方に向けて照射する場合、窓部9が下方を向くように設置される。このように、電子線照射装置1は、電子線EBを照射する向きに応じて設置の向きが定められる。電子線照射装置1は、様々な方向に向けて設置された場合であっても、レール部6によってフィラメントユニット2を安定して配置することができる。
【0057】
具体的には、図11(a)に示されるように、第1ガイド部15aの外面には、フィラメントユニット2の周方向に沿って予め定められた間隔で4つの位置決め部20が設けられている。また、図11(a)に示されるように、フィラメントユニット2から水平方向に電子線EBを照射する場合、第1ガイド部15aに設けられた4つの位置決め部20は、ガイド部材15(フィラメントユニット2)における下方側を向く面に2つの位置決め部20が位置するように設けられている。なお、下方側を向く面とは、真下を向く面だけでなく、斜め下方を向く面も含まれる。すなわち、下方側を向く面とは、水平方向よりも下側を向く面である。これにより、フィラメントユニット2が重力の影響を受けた場合であっても、下方側を向く面に設けられた2つの位置決め部20がレール部6の包囲部60の内面60aに当接する。
【0058】
図11(b)に示されるように、フィラメントユニット2から真下方向に向けて電子線EBを照射する場合、第1ガイド部15aに設けられた4つの位置決め部20は、ガイド部材15(フィラメントユニット2)における下方側を向く面に2つの位置決め部20が位置するように設けられている。これにより、フィラメントユニット2が重力の影響を受けた場合であっても、下方側を向く面に設けられた2つの位置決め部20がレール部6の包囲部60の内面60aに当接する。
【0059】
また、水平方向及び真下方向に向けて電子線EBを照射する場合と同様に、第1ガイド部15aに設けられた4つの位置決め部20は、フィラメントユニット2から真上方向に向けて電子線EBを照射する場合においても、ガイド部材15(フィラメントユニット2)における下方側を向く面に2つの位置決め部20が位置するように設けられている。
【0060】
このように、フィラメントユニット2は、いずれの方向に向けて電子線EBが照射されるように電子線照射装置1が設置された場合であっても、第1ガイド部15aの下方側を向く面に設けられた2つの位置決め部20によって、レール部6に対して安定した状態で配置される。第2ガイド部15b及び第3ガイド部15cについても、第1ガイド部15aと同様の位置決め部20の配置構成である。これにより、いずれの方向に向けて電子線EBが照射されるように電子線照射装置1が設置された場合であっても、第2ガイド部15bに設けられた位置決め部20及び第3ガイド部15cに設けられた位置決め部20によって、フィラメントユニット2がレール部6に対して安定した状態で配置され得る。
【0061】
また、水平方向、真下方向、及び真上方向に電子線EBを照射する場合に限定されず、斜め下方向、及び斜め上方向など、様々な方向に向けて電子線EBを照射するように電子線照射装置1が配置される場合がある。この場合であっても、第1ガイド部15a~第3ガイド部15cのそれぞれについて、下方側を向く面に位置決め部20が2つ設けられていればよい。
【0062】
このように、第1の方向に向けて電子線EBを照射するようにフィラメントユニット2が配置された状態において、第1ガイド部15aに設けられた複数の位置決め部20は、第1ガイド部15a(フィラメントユニット2)における下方側を向く面に2以上設けられるように配置されている。また、第1の方向とは異なる第2の方向に向けて電子線EBを照射するようにフィラメントユニット2が配置された状態において、第1ガイド部15aに設けられた複数の位置決め部20は、第1ガイド部15a(フィラメントユニット2)における下方側を向く面に2以上設けられるように配置されている。第2ガイド部15b及び第3ガイド部15cに設けられた位置決め部20についても、第1ガイド部15aに設けられた位置決め部20と同様の配置となっている。
【0063】
また、第1ガイド部15aに設けられた複数の位置決め部20において、フィラメントユニット2の周方向に沿った位置決め部20同士の最大の間隔は、半周分よりも短い。第2ガイド部15b及び第3ガイド部15cにそれぞれ設けられた位置決め部20同士の間隔についても、第1ガイド部15aに設けられた位置決め部20と同じとなっている。
【0064】
第1ガイド部15aに設けられた4つの位置決め部20は、フィラメント10の延在方向に沿って見たときに、所望の基準線に対して線対称、または、予め定められた基準点に対して点対称に設けられていてもよい。第2ガイド部15b及び第3ガイド部15cに設けられた位置決め部20についても、第1ガイド部15aに設けられた位置決め部20と同様の配置となっていてもよい。
【0065】
以上のように、電子線照射装置1において、フィラメントユニット2の外面とレール部6の内面60aとの間には、レール部6の内面60aに摺動可能に当接する複数の位置決め部20を有している。すなわち、長尺状のフィラメントユニット2は、位置決め部20が設けられた複数の位置で支持されることによってレール部6内に配置される。これにより、電子線照射装置1は、例えばフィラメントユニット2の下面全体をレール部6の底面上に当接させる場合に比べて、フィラメントユニット2の位置決め部20をレール部6の内面60aに当接させやすくなる。すなわち、電子線照射装置1は、フィラメントユニット2が複数の位置決め部20を有していることによって、レール部6に対するフィラメントユニット2の位置決めを行いつつ、レール部6によってフィラメントユニット2を保持させることができる。以上のように、電子線照射装置1は、フィラメントユニット2が長尺状であっても、フィラメントユニット2を安定して配置することができる。
【0066】
高電圧導入絶縁部材7に設けられた3つの接続端子Tは、フィラメントユニット2がレール部6に挿入され、差込完了位置まで差し込まれた状態において、フィラメントユニット2のフィラメント用端子T1~グリッド電極用端子T3にそれぞれ当接して電気的に接続される。この場合、電子線照射装置1では、フィラメントユニット2と高電圧導入絶縁部材7の接続端子Tとを接続するための特別な作業を行うこと無く、フィラメントユニット2をレール部6内に配置する作業(レール部6にフィラメントユニット2を挿入する作業)を行うことによって、フィラメントユニット2と高電圧導入絶縁部材7とを電気的に接続することができる。
【0067】
真空容器3におけるレール部6の一方の端部に対向する部位には、蓋部3eによって開閉される差込口3dが設けられている。この場合、電子線照射装置1では、真空容器3の差込口3dを介して、レール部6の一方の端部からフィラメントユニット2を着脱することができる。
【0068】
位置決め部20は、球状体20aを備えている。この場合、フィラメントユニット2は、位置決め部20の球状体20aが回転することによって、レール部6内でスムーズに摺動することができる。これにより、電子線照射装置1は、レール部6に対してフィラメントユニット2を容易に着脱することができる。
【0069】
位置決め部20は、フィラメント10の延在方向に沿って設けられた第1ガイド部15a~第3ガイド部15cのそれぞれに設けられている。すなわち、位置決め部20は、フィラメント10の延在方向に沿って複数設けられている。この場合、電子線照射装置1は、レール部6の延在方向に対してフィラメントユニット2が傾いて収容されることを抑制し、フィラメントユニット2を安定して配置できる。
【0070】
位置決め部20は、フィラメントユニット2の両端部にそれぞれ設けられている。この場合、電子線照射装置1は、レール部6の延在方向に対してフィラメントユニット2が傾いて収容されることをより一層抑制し、フィラメントユニット2をより一層安定して配置できる。
【0071】
フィラメントユニット2の先端側部分Yには、それぞれ位置決め部20を備える第1ガイド部15a及び第2ガイド部15bが設けられている。この場合、電子線照射装置1は、長尺状のフィラメントユニット2がレール部6に挿入される際に、先端側部分Yに配置された第1ガイド部15a及び第2ガイド部15bの位置決め部20が挿入された早い段階でレール部6の内面60aに当接する。すなわち、電子線照射装置1では、長尺状のフィラメントユニット2の差し込み時に、早い段階でレール部6に対してフィラメントユニット2の位置決めがされる。これにより、電子線照射装置1は、フィラメントユニット2が長尺状の場合であっても、レール部6に対してフィラメントユニット2を安定して着脱することができる。さらに、フィラメントユニット2が傾斜した状態で差し込まれること抑制でき、フィラメントユニット2が他の部位に緩衝することを抑制できる。
【0072】
位置決め部20は、フィラメントユニット2の外面において、フィラメントユニット2の周方向に沿って複数設けられている。この場合、電子線照射装置1は、レール部6内において、フィラメントユニット2の延在方向に直交する方向のフィラメントユニット2の位置を安定させることができる。
【0073】
フィラメントユニット2の端部に設けられた端子保持部材16のガイド溝16aに、レール部6の第1環状部61に設けられたガイド突起61aが嵌め込まれる。また、フィラメントユニット2の端部に設けられた回転規制部材18のガイド溝18aに、レール部6の第2環状部62に設けられたガイド突起62aが嵌め込まれる。この場合、電子線照射装置1は、ガイド溝16a及び18aと、ガイド突起61a及び62aとによって、フィラメントユニット2の延在方向に沿って見た場合のフィラメントユニット2の回転方向における位置(向き)を定めることができる。
【0074】
また、ガイド溝16a及び18aは、フィラメントユニット2の両端部に設けられている。ガイド突起61a及び62aはレール部6の両端部に設けられている。この場合、電子線照射装置1は、フィラメントユニット2の両端部においてフィラメントユニット2の回転方向における位置を定めることができ、フィラメントユニット2を安定して配置することができる。また、例えば、ガイド溝16a及び18aにガイド突起61a及び62aがそれぞれ嵌め込まれるようにフィラメントユニット2をレール部6に差し込む際に、差込方向の奥側(他方側)のガイド突起61a及びガイド溝16aは作業者から見えないことがある。この場合であっても差込方向の手前側(一方側)のガイド溝18aにガイド突起62aを嵌め込むことにより、差込方向の奥側のガイド溝16a内にもガイド突起61aが嵌り込む状態となる。このように、電子線照射装置1は、フィラメントユニット2の両端部にガイド溝16a及び18aを設けて回転方向における位置を定める構成であっても、レール部6にフィラメントユニット2を容易に差し込んで配置できる。
【0075】
以上、本発明の実施形態及び種々の変形例について説明したが、本発明は、上記実施形態及び種々の変形例に限定されない。例えば、位置決め部20は、フィラメントユニット2の外面に設ける場合に限らず、レール部6の内面60aの方に設けてもよい。この場合、位置決め部20は、フィラメントユニット2の外面に当接する。また、位置決め部20は、球状体20aを備える構成に限定されない。例えば、位置決め部20は、外面が凸曲面状の凸部であってもよい。この場合、フィラメントユニット2は、位置決め部である凸曲面状の凸部がレール部6の内面60aに対して滑らかに、引っ掛かることを抑制しつつ摺動することができる。これにより、電子線照射装置1は、レール部6に対してフィラメントユニット2を容易に着脱することができる。なお、位置決め部20が凸部である場合、位置決め部20の外面は凸曲面状でなくてもよい。位置決め部20はガイド部材15の外面に設けられていることに限定されない。レール部6の外面等に直接設けられていてもよい。ガイド部材15は、第1ガイド部15a~第3ガイド部15cのように3つのガイド部を有していたが、ガイド部の数は3つに限定されない。また、一つのガイド部に設けられる位置決め部20の数は4つに限定されない。
【0076】
フィラメントユニット2の回転方向における位置を定めるガイド突起61a及び62aは、レール部6の両端部に設けられていることに限定されない。例えば、ガイド突起は、レール部6の両端部に加えて、レール部6の両端部の間の位置に1又は複数設けられていてもよいし、レール部6の延在方向に沿って全体的に設けられていてもよい。この場合、フィラメントユニット2は、レール部6に差し込まれる途中の段階においても回転方向における位置が定められる。また、レール部6にガイド突起61a及び62aを設け、フィラメントユニット2にガイド溝16a及び18aを設けたが、これに限定されない。例えば、レール部6にガイド溝が設けられ、フィラメントユニット2にガイド突起が設けられていてもよい。
【0077】
高電圧導入絶縁部材7からフィラメントユニット2に対して給電する方法は、フィラメント用端子T1~グリッド電極用端子T3を用いた方法に限定されない。絶縁支持部材8は、筐体端部板3fに固定される構成でなくてもよい。例えば、絶縁支持部材8の一方の端部が真空容器3の円筒部分の内周面に固定され、絶縁支持部材8の他方の端部が陰極保持部材5を固定していてもよい。
【0078】
レール部6の包囲部60は、断面略C字状を呈する形状に限定されない。例えば、包囲部60は、断面が多角形の形状であってもよい。ガイド部材15の形状についても、上述した形状に限定されず、包囲部60に応じた形状であってもよい。
【0079】
また、エネルギー線照射装置としての電子線照射装置1は、X線を照射するX線照射装置として構成されていてもよい。X線照射装置として構成されている場合、フィラメントユニット2から放出された電子線EBが入射することでX線を発生するX線発生部であるX線ターゲット(例えば、タングステン、モリブデン等)を備え、X線ターゲットで発生したX線を窓部9から出射することができる。この場合、一例として、図1に示される窓部9が、X線の透過性の高い窓材(例えば、ベリリウム、ダイヤモンド等)と、窓材の真空空間R側の面に設けられたX線ターゲットとによって構成されるX線照射用の窓部に変更されてもよい。これにより、フィラメントユニット2から出射された電子線EBをX線ターゲットに入射させ、X線ターゲットからX線を出射させることができる。
【0080】
以上に記載された実施形態及び種々の変形例の少なくとも一部が任意に組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…電子線照射装置(エネルギー線照射装置)、2…フィラメントユニット(電子放出ユニット)、3…真空容器(筐体)、3d…差込口(導入開口)、3e…蓋部、6…レール部(ユニット収容部)、7…高電圧導入絶縁部材(給電部)、10…フィラメント(電子放出部)、16…端子保持部材(回転規制部材)、16a,18a…ガイド溝(溝部)、18…回転規制部材、20…位置決め部、20a…球状体、20b…保持部、61a,62a…ガイド突起(突起部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11