(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】貨物船
(51)【国際特許分類】
B63B 15/00 20060101AFI20240213BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240213BHJP
B63B 21/16 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B63B15/00 Z
B63B25/16 Z
B63B21/16
(21)【出願番号】P 2020091222
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】518144045
【氏名又は名称】三井E&S造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】木下 達弥
(72)【発明者】
【氏名】江川 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 廉彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓久
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-055771(JP,A)
【文献】特開2016-088214(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0359289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 15/00
B63B 25/16
B63B 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾から船首に向け機関区画、暴露甲板の幅が一定の貨物区画、暴露甲板の幅が先細りの船首区画が順に設けられた船体と、前記船首区画の暴露甲板に設けられ居住区と船橋を備える甲板室と、前記甲板室の前方の暴露甲板に設けられた係船機を備える貨物船であって、
前記係船機に設けられた係船操作機器の後方に位置する前記甲板室の前面は、船尾側に凹んだ凹部を有し、
前記凹部の床面には、係船作業を行う作業員が前記係船操作機器を操作する際に足を置く足場が設けられ
ていて、前記係船機は前記凹部の外部であり且つ前方側に配置される構成を有することを特徴とする貨物船。
【請求項2】
前記凹部の床面は暴露甲板であり、前記凹部の床面の暴露甲板が前記足場である請求項1に記載の貨物船。
【請求項3】
前記係船操作機器は、前記作業員が前記足場から操作可能な作業域に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の貨物船。
【請求項4】
船尾から船首に向け機関区画、暴露甲板の幅が一定の貨物区画、暴露甲板の幅が先細りの船首区画が順に設けられた船体と、前記船首区画の暴露甲板に設けられ居住区と船橋を備える甲板室と、前記甲板室の前方の暴露甲板に設けられた係船機を備える貨物船であって、
前記係船機に設けられた係船操作機器の後方に位置する前記甲板室の前面は、船尾側に凹んだ凹部を有し、
前記凹部の床面には、係船作業を行う作業員が前記係船操作機器を操作する際に足を置く足場が設けられていて、
前記凹部の船長方向の長さの最大値は、前記甲板室の船長方向の長さの最小値よりも短い
ことを特徴とする貨物船。
【請求項5】
船尾から船首に向け機関区画、暴露甲板の幅が一定の貨物区画、暴露甲板の幅が先細りの船首区画が順に設けられた船体と、前記船首区画の暴露甲板に設けられ居住区と船橋を備える甲板室と、前記甲板室の前方の暴露甲板に設けられた係船機を備える貨物船であって、
前記係船機に設けられた係船操作機器の後方に位置する前記甲板室の前面は、船尾側に凹んだ凹部を有し、
前記凹部の床面には、係船作業を行う作業員が前記係船操作機器を操作する際に足を置く足場が設けられていて、
前記凹部の船幅方向の幅の最大値は、前記甲板室の前面の船幅方向の幅の最小値よりも短い
ことを特徴とする貨物船。
【請求項6】
船尾から船首に向け機関区画、暴露甲板の幅が一定の貨物区画、暴露甲板の幅が先細りの船首区画が順に設けられた船体と、前記船首区画の暴露甲板に設けられ居住区と船橋を備える甲板室と、前記甲板室の前方の暴露甲板に設けられた係船機を備える貨物船であって、
前記係船機に設けられた係船操作機器の後方に位置する前記甲板室の前面は、船尾側に凹んだ凹部を有し、
前記凹部の床面には、係船作業を行う作業員が前記係船操作機器を操作する際に足を置く足場が設けられていて、
前記凹部の高さの最大値は、前記凹部の上方の前記甲板室の天井高さ未満であり、前記凹部の上方の前記甲板室が前記凹部の天井を構成する
ことを特徴とする貨物船。
【請求項7】
前記船体は、
前記船首区画の両舷を貫通するダクトに脱着可能に配置され、前記船体を船幅方向に移動させる推進機構であるサイドスラスターを備え、
前記凹部の天井は、取り外した前記サイドスラスターを吊り下げた状態で保持する保持部を備える請求項6に記載の貨物船。
【請求項8】
前記凹部を除く前記甲板室の前面は、船長方向に前記船首区画を2つに仕切る横隔壁である衝突隔壁上の暴露甲板上に配置される請求項1~7のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項9】
前記貨物区画は液化ガスタンクが貨物として搭載される区画であり、
船長方向において前記甲板室の後端は、前記液化ガスタンクを覆うタンクカバーの前端に接する請求項1~8のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項10】
前記甲板室の船幅方向の幅は、前記船首区画の前記暴露甲板の幅に対応して先細りに形成される請求項1~9のいずれか一項に記載の貨物船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貨物船に関する。
【背景技術】
【0002】
船尾から船首に向け機関区画、貨物区画、船首区画が順に配置された貨物船では居住区と船橋を備える甲板室を貨物区画よりも船首側に設ける場合がある(特許文献1)。
理由は貨物の高さが暴露甲板よりも高い場合、貨物区画よりも船尾側に甲板室を設けると、甲板室内の船橋からの船首方向の視界が貨物に遮られて見通しが悪くなることが挙げられる。
また、居住区の静粛性を目的とする場合もある。これは甲板室を貨物区画よりも船首側に設けると、甲板室を貨物区画よりも船尾側に設けるよりも機関区画と居住区の距離が遠くなり、主機の騒音が居住区に伝わり難くなるためである。また居住区の安全性を目的とする場合もある。これは機関区画と居住区の距離が遠くなると、機関区画で爆発やガス漏れ事故が生じた場合に居住区に被害が及び難くなるためである。また事故に備えた居住区の防爆構造等の保安装置を簡略化でき、建造コストを低減できるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
貨物船では貨物室の容積を減らさずに建造コストを削減するため、貨物区画の型幅、型深さ、船長方向長さを短くせずに船体の全長を短くする要求がある。
しかしながら貨物区画より船首側に甲板室を設ける場合、船長が短くなると船首側の先細りの暴露甲板に甲板室を設ける必要があり、居住区の幅が狭くなる。
居住区の幅が狭くなっても居住区の床面積を確保したい場合は、甲板室の階層を増やすことも考えられるが、エアドラフトが高くなり航行可能な水域が制限される。甲板室を船首方向に伸ばして居住区の床面積を確保することも考えられるが、船首側の暴露甲板にある係船機と甲板室の距離が近くなり過ぎ、係船機を操作する係船作業領域が確保し難い。
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、船首側の先細りの暴露甲板上に居住区と船橋を備える甲板室を設ける場合でも、居住区の床面積と係船作業領域を確保できる貨物船の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の貨物船は、船尾から船首に向け機関区画、暴露甲板の幅が一定の貨物区画、暴露甲板の幅が先細りの船首区画が順に設けられた船体と、前記船首区画の暴露甲板に設けられ居住区と船橋を備える甲板室と、前記甲板室の前方の暴露甲板に設けられた係船機を備える貨物船であって、前記係船機に設けられた係船操作機器の後方に位置する前記甲板室の前面は、船尾側に凹んだ凹部を有し、前記凹部の床面には、係船作業を行う作業員が前記係船操作機器を操作する際に足を置く足場が設けられていて、前記係船機は前記凹部の外部であり且つ前方側に配置される構成を有することを特徴とする。
【0006】
この構成では、作業員が係船操作機器を操作する足場よりも船首側に甲板室を伸ばして居住区の床面積を確保し、係船機後方の甲板室前面の凹部に足場を設けることで係船作業領域も確保する。
そのため、船首側の先細りの暴露甲板上に居住区と船橋を備える甲板室を設ける場合でも、居住区の床面積と係船作業領域を確保できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、船首側の先細りの暴露甲板上に居住区と船橋を備える甲板室を設ける場合でも、居住区の床面積と係船作業領域を確保できる貨物船を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る貨物船の概要を示す側面図である。
【
図2】
図1の船首付近の拡大図であって(a)は側面図、(b)は平面図である。
【
図3】
図1の甲板室の外形を示す拡大斜視図である。
【
図4】
図1の船首付近の拡大図であって、サイドスラスターを暴露甲板上に吊り上げた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づき本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
まず
図1及び
図2を参照して本実施形態に係る貨物船1の概略構成を説明する。
ここでは貨物船1として、液化ガスタンク17に搭載した液化ガスを貨物として運搬する液化ガス運搬船であって、液化ガスタンク17が搭載される貨物区画7よりも船首側に、居住区と船橋を備える甲板室23が配置された船舶を例示する。
図1に示すように貨物船1は船体3、甲板室23、及び係船機29を備える。
【0010】
船体3は貨物船1の船殻となる構造体であり、船底71、側壁81、及び暴露甲板61で船内を囲むように構成される。具体的な船形や船殻構造、あるいは水密隔壁の配置等は貨物船1の用途に応じて適宜設計される。
図1に示すように船体3の内部は船尾から船首に向け機関区画5、貨物区画7、及び船首区画9が順に配置される。
【0011】
機関区画5は主機等の貨物船1の推進機構が配置される区画であり、船長方向において船体3の最も船尾側の区画である。
機関区画5の船首方向最先端には水密構造の横隔壁である機関隔壁15が設けられ、機関区画5と貨物区画7は機関隔壁15で船長方向に分離される。
機関区画5の上方の暴露甲板61上には主機の燃焼で生じた排ガスを排気する排気管が配置される化粧煙突13や、排ガス処理設備等が収納されたエンジンケーシング11が必要に応じて設けられる。
【0012】
貨物区画7は貨物船1が輸送する貨物が配置される区画であり、船長方向において、機関区画5と船首区画9の間に設けられる。
貨物区画7の船首方向最先端には水密構造の横隔壁である貨物隔壁21が設けられ、船首区画9と貨物区画7は貨物隔壁21で船長方向に分離される。
貨物区画7の容積は船体3の排水量や復原性、貨物の積載重量等を考慮して設定されるが、搭載する貨物の容量をなるべく大きくするため、直方体であるのが好ましい。そのため貨物区画7の一方の舷側から他方の舷側までの暴露甲板61の幅は一定である。
【0013】
図1では貨物船1として液化ガス運搬船を例示しているため、貨物区画7には液化ガスタンク17が配置される。
液化ガスタンク17は液化ガスを貯蔵するタンクである。液化ガスとは、常温、常圧で気体のガスを冷却や圧縮で液体にしたものである。
図1では両端が半球状の円筒形状の2つの独立タンクを、長手方向を船長方向に向けて直列配置した例を示している。ただし、液化ガスタンク17の形状、構造、容量、設置数は、船体3の排水量や復原性、貨物区画7の容積、液化ガスの積載重量、積載時の液化ガスの温度や圧力を考慮して適宜設定できる。
【0014】
貨物区画7に設置した状態の液化ガスタンク17は、
図1の機関区画5の上方の暴露甲板61よりも高い部分がある。そのため液化ガスタンク17の上方には暴露甲板61が設けられずに、タンクカバー19が設けられる。タンクカバー19は液化ガスタンク17を覆って保護するカバーであり、暴露甲板61よりも高い位置に設けられる。
【0015】
船首区画9はサイドスラスター33や図示しない投錨装置が設けられる区画であり、船長方向において船体3の最も船首側の区画である。
船首区画9の船尾側端部は貨物隔壁21で貨物区画7と分離されている。
船首区画9は船体3の凌波性を高め、推進抵抗を小さくするために平面視で船尾側から船首側に向けて先細りの形状を有する(
図2(b)参照)。そのため、船首区画9上の暴露甲板61も平面視で船尾側から船首側に向けて先細りの形状を有する。
図1に示す船首区画9は水密構造の横隔壁である衝突隔壁31で船長方向に2つの区画に分離されている。
【0016】
2つの区画のうち、船長方向において船尾側の区画は船尾側ボイド区画9aである。船尾側ボイド区画9aは甲板室23の下方の区画であり、甲板室23から船体3の内部に船員がアクセスする通路や、バラストタンク、燃料タンク等が必要に応じて設けられる。
【0017】
2つの区画のうち、船長方向において船首側の区画は船首側ボイド区画9bである。船首側ボイド区画9bには図示しない投錨装置が設けられる。
図1に示すように船首側ボイド区画9bにはサイドスラスター33が設けられる。サイドスラスター33は船体3を横方向、つまり船幅方向に移動させる推進機構である。
図2(a)に示すサイドスラスター33は回転式のプロペラであり、船首側ボイド区画9bの両舷を船幅方向に貫通する円筒状のダクト51内に脱着可能に配置され、回転する向きで船体3を左舷側又は右舷側に横移動させる。サイドスラスター33を脱着可能とする理由は、整備の際にダクト51から取り外す必要があるためである。
【0018】
甲板室23は船員の居住区及び操船の指揮所となる船橋を備える多層の上部構造物であり、下層には船員の居住区が配置され、上層には指揮所となる船橋が配置される。
図1に示すように甲板室23は船首区画9上の暴露甲板61に設けられており、貨物区画7よりも船首側に設けられる。これは、貨物船1では液化ガスタンク17、及びタンクカバー19の高さが暴露甲板61よりも高く、貨物区画7よりも船尾側に甲板室23を設けると、甲板室23内の船橋からの船首方向の視界がタンクカバー19に遮られて見通しが悪くなるためである。また、甲板室23内の居住区の静粛性や居住区の安全性の確保、及び保安装置の簡略化のためでもある。
【0019】
係船機29は貨物船1を港に係留する際に係船柱、係船浮標、係船杭等の係留施設に固定するロープの繰り出し、巻き取りを行うウインチであり、甲板室23の前方の暴露甲板61に設けられる。ここでいう前方とは船首方向における船首端側である。
係船機29は貨物船1の係留に必要な長さと太さのロープの繰り出し、巻き取りができる構造を備えたものであれば、公知の構造を利用できる。
図2に示すように係船機29は、係船操作機器53を備える。係船操作機器53は係船機29を作業員2が操作するための機器であり、例えばロープの繰り出し、巻き取りの操作の際に作業員2が操作するハンドルやレバーである。
以上が貨物船1の概略構成の説明である。
【0020】
次に
図2~
図4を参照して甲板室23付近の構造の詳細を説明する。
図2及び
図3に示すように甲板室23の前面41のうち、係船機29に設けられた係船操作機器53の後方に位置する部分は、船尾側に凹んだ凹部27を有する。
【0021】
凹部27は係船操作機器53の後方に位置するため、係船作業を行う作業員2が係船操作機器53を少なくとも視認できる位置にある。よって凹部27は係船操作機器53を操作する領域である係船作業領域である。
凹部27は係船作業領域であるため、床面には、係船作業を行う作業員2が係船操作機器53を操作する際に足を置く足場27aが設けられる。
【0022】
このように貨物船1では作業員2が係船操作機器53を操作する足場27aより船首側に甲板室23を伸ばして居住区の床面積を確保する。さらに、係船操作機器53の後方の甲板室23の前面41の凹部27に足場27aを設けて作業員2が係船操作機器53を操作することで、係船作業領域も確保する。
つまり、凹部27を除く甲板室23の前面41と係船操作機器53の間で作業員2が係船作業をできない程度に甲板室23を船首側に伸ばして係船操作機器53に接近させて居住区の床面積を確保した場合でも、凹部27の足場27aで係船作業領域を確保できる。
そのため、船首側の先細りの暴露甲板61上に居住区と船橋を備える甲板室23を設ける場合でも、居住区の床面積と係船作業領域を確保できる。
【0023】
足場27aの構造は、係船操作機器53の高さに応じて設定される。暴露甲板61から作業員2が係船操作機器53を操作できる程度の高さに係船操作機器53が設けられる場合、凹部27の床面は暴露甲板61であり、暴露甲板61が足場27aである。この場合、凹部27の床面に作業台のような高さを調節する構造が不要である点で有利である。
【0024】
暴露甲板61から作業員2が係船操作機器53を操作できる程度の高さよりも高い位置に係船操作機器53が設けられる場合、足場27aは凹部27の床面の暴露甲板61上に設けられた作業台である。
この構成では作業台の高さを調整することで、作業員2が作業をしやすい高さに足場27aを設定できるので、作業性の点で有利である。なお、凹部27の床面の高さを暴露甲板61よりも高くして足場27aとしてもよい。この構造でも、作業台を設けた場合と同じ効果が得られる。
【0025】
凹部27は係船作業領域であるため、
図3に示す作業員2が足場27aから操作可能な作業域Rに係船操作機器53が位置するのが好ましい。
ここでいう作業域Rとは、凹部27の足場27aに位置する作業員2が、手を伸ばして係船操作機器53に届く範囲を意味する。
作業員2が足場27aから操作可能な作業域Rに係船操作機器53が位置することで、凹部27で囲まれた足場27aから作業員2が手で直接、係船操作機器53を操作できる。そのため係船機29を遠隔操作する必要がない。
なお、係船操作機器53を遠隔操作する際は、作業員2が足場27aから操作可能な作業域Rの範囲外に係船操作機器53を配置してもよい。ただしこの場合でも、足場27aは係船操作機器53の後方にあるため、作業員2が足場27aから係船操作機器53を視認しながら操作でき、作業性は良好である。
【0026】
凹部27の形状と寸法は、作業員2が係船作業の際に立ち入って作業が可能な範囲で適宜設定する。
図2及び
図3に示す凹部27の形状は、船首方向を向く1つの面のみが開放され、他の面が甲板室23の壁面である窪みであり、立方体状の空間であるが、係船作業に支障がないのであれば立方体以外の形状、例えば半円柱状でもよい。
図2(a)に示す凹部27の船長方向の長さL、及び
図2(b)に示す凹部27の船幅方向の幅Wは、少なくとも作業員2が立ち入れる程度の寸法である。長さL及び幅Wの寸法が大きいほど係船作業領域が広くなるため、係船作業の効率は向上するが、居住区の床面積が減少する。そのため長さL及び幅Wは係船作業の効率と居住区の床面積との兼ね合いで設定する。
【0027】
具体的には凹部27の船長方向の長さLの最大値は甲板室23の長さL0の最小値よりも短いのが好ましい。この構造では凹部27の後方に居住区を設けられる。
ただし係船作業領域を十分に確保したい場合は、長さLを甲板室23の長さL0と同じ長さとして、甲板室23を貫通するトンネル状に凹部27を形成してもよい。
【0028】
また、
図2(b)に示す凹部27の船幅方向の幅Wの最大値は、甲板室23の前面41の幅W
1の最小値よりも短いのが好ましい。
この構造では凹部27の両側面に甲板室23の一部が配置されるので、居住区の床面積をより広くできる。ただし凹部27に天井27bがある場合で、かつ係船作業領域を十分に確保したい場合は幅Wを幅W
1と同じ幅にしてもよい。具体的には凹部27の両側面が開放されて、天井27bより上方の甲板室23の階層が天井27bより下側の階層からオーバーハングした形状にしてもよい。
【0029】
凹部27の床面から天井27bまでの最大高さHは少なくとも作業員2の身長、及び係船操作機器53よりも高い必要がある。作業員2の身長、及び係船操作機器53よりも最大高さHが低いと凹部27内で係船作業ができないためである。
【0030】
より好ましくは、
図2(a)に示すように凹部27の高さHの最大値は、凹部27の上方の甲板室23の天井47の高さH
0未満であり、凹部27の上方の甲板室23が凹部27の天井27bを構成する。
この構成では凹部27に天井27bがあるため、天井27bより上方の甲板室23を居住区として利用でき、居住区の床面積が益々広くなる。
また、係船作業以外の暴露甲板61上での作業に必要な器具を天井27bに吊り下げられるので、これらの器具を設置する場所を暴露甲板61上に設ける必要がなく、居住区の床面積をより広くしやすい。
【0031】
係船作業以外の暴露甲板61上での作業とは、例えばサイドスラスター33の整備が挙げられる。
この場合、
図3に示すように凹部27の天井27bは、ダクト51から取り外したサイドスラスター33を吊り下げた状態で保持する保持部73を備える。
保持部73はサイドスラスター33を保持するフックのような係合部材を備え、さらに係合部材を上下動させるウインチを必要に応じて備えた吊具である。
【0032】
この構成では
図4に示すようにサイドスラスター33の整備の際には、ダクト51から取り外したサイドスラスター33を、凹部27の天井27bに設けられた保持部73で吊り下げた状態で保持する。
よって取り外したサイドスラスター33を吊り下げて保持する器具を他に設ける必要がないので、居住区の床面積をより広くしやすい。
【0033】
例えば凹部27がない場合にサイドスラスター33を整備する場合は、
図4に示す脚立71aのようにサイドスラスター33を吊り下げて保持する器具を暴露甲板61に設置する必要がある。この構造では脚立71aの天板の下面に取り付けたフック等でサイドスラスター33を保持するが、脚立71aを設置するスペースを確保する必要がある。特に貨物船1のように居住区と船橋を備える甲板室23を先細りの船首区画9に設ける場合、このようなスペースを設けると居住区の床面積を確保するのが困難な場合がある。
そこで凹部27の天井27bに保持部73を設けることで、脚立71aを設置するスペースを暴露甲板61上に別途設ける必要がなくなるため、居住区の床面積をより広くしやすくなる。
【0034】
甲板室23は船首区画9上の暴露甲板61に設けられ、貨物区画7よりも船首側に設けられ、かつ凹部27を備えていれば、設置位置は適宜設定できる。
ただし、凹部27を除く甲板室23の前面41は、
図2(a)に示すように衝突隔壁31上の暴露甲板61上に配置されるのが好ましい。
この構成では甲板室23が衝突隔壁31の船長方向船尾側に配置される。そのため衝突隔壁31よりも船首側にある船首側ボイド区画9bが浸水した場合でも、浸水が衝突隔壁31で阻止されて甲板室23の下方にある船尾側ボイド区画9aまで浸水しない。よって甲板室23に設けられた居住区の安全性を、衝突隔壁31よりも船首側に甲板室23を設ける場合より高められる。
【0035】
また、船長方向において甲板室23の船尾側端部である後端43は、液化ガスタンク17を覆うタンクカバー19の船首側端部である前端に接するのが好ましい。
この構成では甲板室23がタンクカバー19よりも前方に設けられるので、液化ガスタンク17から液化ガスの漏洩が生じても甲板室23への漏洩がタンクカバー19で阻止されるので、甲板室23の安全性を向上させる点で益々有利になる。
【0036】
図2(b)に示す甲板室23の船幅方向の幅W
0は、甲板室23が設置された暴露甲板61の幅よりも短い。
ただし幅W
0は一定である必要はない。例えば
図2(b)に示すように、甲板室23の側面45が船首区画9の暴露甲板61の幅に対応して平面視で先細りに形成された傾斜面45aを備えてもよい。
このように甲板室23が船首の形状に対応して先細りになることで甲板室23の側面45に接する暴露甲板61上の通路の幅を確保できる。
以上が甲板室23付近の構造の詳細の説明である。
【0037】
このように本実施形態の貨物船1は、船首区画9の暴露甲板61に設けられ居住区と船橋を備える甲板室23と、甲板室23前方の暴露甲板61に設けられた係船機29を備え、係船操作機器53の後方に位置する甲板室23の前面41が凹部27を有する。
この構成では作業員2が係船操作機器53を操作する足場27aよりも船首側に甲板室23を伸ばして居住区の床面積を確保し、係船操作機器53の後方の甲板室23の前面41の凹部27に足場27aを設けることで、係船作業領域も確保する。
そのため、船首側の先細りの暴露甲板61上に居住区と船橋を備える甲板室23を設ける場合でも、居住区の床面積と係船作業領域を確保できる。
【0038】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1 :貨物船
2 :作業員
3 :船体
5 :機関区画
7 :貨物区画
9 :船首区画
9a :船尾側ボイド区画
9b :船首側ボイド区画
11 :エンジンケーシング
13 :化粧煙突
15 :機関隔壁
17 :液化ガスタンク
19 :タンクカバー
21 :貨物隔壁
23 :甲板室
27 :凹部
27a :足場
27b :天井
29 :係船機
31 :衝突隔壁
33 :サイドスラスター
41 :前面
43 :後端
45 :側面
45a :傾斜面
47 :天井
51 :ダクト
53 :係船操作機器
61 :暴露甲板
71 :船底
71a :脚立
73 :保持部
81 :側壁
R :作業域