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特許7434065機械学習モデルを構築する装置、方法及びそのためのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】機械学習モデルを構築する装置、方法及びそのためのプログラム
(51)【国際特許分類】
   F02G 5/04 20060101AFI20240213BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240213BHJP
   G05B 17/02 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
F02G5/04 N
G06N20/00 130
G05B17/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020095109
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021188568
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】519314478
【氏名又は名称】株式会社Jij
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174078
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】山城 悠
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋一
(72)【発明者】
【氏名】瑞慶覧 長空
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0228481(US,A1)
【文献】特開2020-035110(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146026(WO,A1)
【文献】特開平09-264584(JP,A)
【文献】特開2018-011465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0302706(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02G 5/04
G05B 17/02
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の少なくとも一部の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置のための機械学習モデルを構築する方法であって
えられた複数の時点{t(i)|iは0以上H以下の整数であって、Hは正の整数における入力の値の集合を用いて、前記複数の時点の少なくともいずれかの時点につき当該時点よりも先の時点の入力が考慮され得るように前記装置の動作を定式化した最適化計算の最適解を与える出力の前記複数の時点における値の集合を生成するステップと、
時点t(h)(hは0以上H-1以下の整数)以前における前記入力の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量とし、時点t(h+1)における前記出力値を前記時点t(h+1)における教師データとする機械学習により、前記機械学習モデルを構築するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記時点t(h)における特徴量は、前記時点t(h)における前記入力の値を含む。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、
前記時点t(h)における特徴量は、前記時点t(h+1)以降時点t(H)までの期間内の前記入力の値の少なくとも一部に対して演算を行って得られる前記時点t(h)におけるスカラー量の値を含む。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、
前記時点t(h)における特徴量は、前記時点t(h)以前の前記出力の値の少なくとも一部を含む。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法であって、
前記定式化は、二次計画問題としての定式化であり、
前記最適化計算は、アニーリングによって行う。
【請求項6】
コンピュータに、電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の少なくとも一部の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置のための機械学習モデルを構築する方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は
えられた複数の時点{t(i)|iは0以上H以下の整数であって、Hは正の整数における入力の値の集合を用いて、前記複数の時点の少なくともいずれかの時点につき当該時点よりも先の時点の入力が考慮され得るように前記装置の動作を定式化した最適化計算の最適解を与える出力の前記複数の時点における値の集合を生成するステップと、
時点t(h)(hは0以上H-1以下の整数)以前における前記入力の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量とし、時点t(h+1)における前記出力値を前記時点t(h+1)における教師データとする機械学習により、前記機械学習モデルを構築するステップと
を含む、プログラム。
【請求項7】
電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の少なくとも一部の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置のための機械学習モデルを構築する装置であって
えられた複数の時点{t(i)|iは0以上H以下の整数であって、Hは正の整数における入力の値の集合を用いて、前記複数の時点の少なくともいずれかの時点につき当該時点よりも先の時点の入力が考慮され得るように前記装置の動作を定式化した最適化計算の最適解を与える出力の前記複数の時点における値の集合を生成し、
時点t(h)(hは0以上H-1以下の整数)以前における前記入力の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量とし、時点t(h+1)における前記出力値を前記時点t(h+1)における教師データとする機械学習により、前記機械学習モデルを構築する、装置。
【請求項8】
電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置において、出力の値を決定する方法であって
気及び熱の少なくとも一方の需要量の時点t(h)以前における値を受け取るステップと、
前記時点t(h)以前における値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量として、請求項1記載の方法によって構築された機械学習モデルにより、時点t(h+1)における出力の値を決定するステップと
を含む、方法
【請求項9】
電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置に、出力の値を決定する方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は
気及び熱の少なくとも一方の需要量の時点t(h)以前における値を受け取るステップと、
前記時点t(h)以前における値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量として、請求項1記載の方法によって構築された機械学習モデルにより、時点t(h+1)における出力の値を決定するステップと
を含む、プログラム
【請求項10】
電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置であって
気及び熱の少なくとも一方の需要量の時点t(h)以前における値を受け取り、
前記時点t(h)以前における値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量として、請求項1記載の方法によって構築された機械学習モデルにより、時点t(h+1)における出力の値を決定する、装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械学習モデルを構築する装置、方法及びそのためのプログラムに関し、一例として、コージェネレーションシステムの入出力のための機械学習モデルを構築する装置、方法及びそのためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料を用いて発電した際に生じる廃熱を利用することで、燃料のエネルギー効率を高めるコージェネレーション(熱電併給)と呼ばれる技術がある。たとえば、ガスを燃料として得られた電気で照明を点灯し、その際の排熱を排熱利用装置に入力して冷暖房に利用することが考えられる。
【0003】
コージェネレーションを行うためのシステムは、具体的には、図1に示すように、電気及び熱の需要量を入力として、燃料の必要量並びに電気及び熱の生成量を運転計画として何らかのアルゴリズムで計算し、計算した運転計画に基づいて制御信号を出力して、出力値に応じた電気及び熱の生成を実際に行う。一般に、供給すべき電気及び熱の量は互いに独立して変動するが、コージェネレーションシステムでは、システムごとに生成される電気及び熱の量が相関関係にある。したがって、コージェネレーション技術によって燃料のエネルギー効率を高めるためには、変動する電気及び熱の需要量に対して、いかなる運転計画に基づいてシステムを運転するかが肝要となる。
【0004】
特許文献1には、熱と電力を発生する熱電併給装置と、熱電併給装置の熱を回収して温水として蓄えるための貯湯装置と、熱電併給装置を運転制御するための制御手段とを備えるコージェネレーションシステムが開示されており、制御手段において予測負荷データを作成して、その予測負荷データを用いて熱電併給装置を運転制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-48838号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】田中, 福島, 短時間での負荷変動を考慮した家庭用燃料電池システムの運用最適化, IEEJ Trans. PE, Vol.128, No.12, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように将来の需要量を予測して運転計画を定める試みはなされているものの、十分な結果が得られているとは言えない。それは、将来の需要量を予測することは容易ではないからである。同様の問題は、必ずしも熱電併給装置に限られるものではなく、電気又は熱の一方を生成する装置においても存在する。また、燃料の必要量と電気の生成量又は熱の生成量との間には相関があると考えられるため、燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかを運転計画として計算することが必要な場面も想定され、このような場面においても、上記問題は存在する。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、燃料を用いて電気及び熱の少なくとも一方を生成する装置において、現在の時点t(h)までの電気及び熱の少なくとも一方の需要量の少なくとも一部を入力として、将来の時点t(h+1)における燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかを決定可能な機械学習モデルを構築することにある。
【0009】
なお、機械学習モデルに対する入力は、現在の時点t(h)までの電気及び熱の少なくとも一方の需要量のみに限られるものではなく、付加的な特徴量も考慮され得ること、現在の時点t(h)までの電気及び熱の少なくとも一方のすべての需要量を必ずしも必要とするものではないことを付言する。加えて、将来の時点t(h+1)における量を決定することは、さらに次のステップの時点t(h+2)における量を同時に決定することを除外せず、より一般に時点t(h+k)(kは1以上の整数)までの値の少なくとも一部の集合を決定することを除外しない。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、構築された機械学習モデルにより、燃料を用いて電気及び熱の少なくとも一方を生成する装置において、現在の時点t(h)までの電気及び熱の少なくとも一方の需要量の少なくとも一部を入力として、将来の時点t(h+1)における燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかを決定可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的のために、本発明の第1の態様は、電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点までの値の少なくとも一部の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置のための機械学習モデルを構築する方法であって、入力量の与えられたすべての時点{t(i)|iは0以上H以下の整数}における値の集合に対して、前記装置の動作を定式化した最適化計算の最適解を与える出力量の前記与えられたすべての時点における値の集合を生成するステップと、いずれかの時点t(h)(hは0以上H-1以下の整数)以前の前記入力量の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量とし、時点t(h+1)における前記出力量のそれぞれの値を前記時点t(h+1)における教師データとする機械学習により、前記機械学習モデルを構築するステップとを含む。ここで、Hは正の整数である。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記時点t(h)における特徴量は、前記時点t(h)における前記入力量の値を含む。
【0013】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記時点t(h)における特徴量は、前記時点t(h+1)以降時点t(H)までの期間内の前記入力量の値の少なくとも一部に対して演算を行って得られる前記時点t(h)におけるスカラー量の値を含む。
【0014】
また、本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様において、前記時点t(h)における特徴量は、前記時点t(h)以前の前記出力量の値の少なくとも一部を含む。
【0015】
また、本発明の第5の態様は、第1から第4のいずれかの態様において、前記定式化は、二次計画問題としての定式化であり、前記最適化計算は、アニーリングによって行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第6の態様は、コンピュータに、電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点までの値の少なくとも一部の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置のための機械学習モデルを構築する方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は、入力量の与えられたすべての時点{t(i)|iは0以上H以下の整数}における値の集合に対して、前記装置の動作を定式化した最適化計算の最適解を与える出力量の前記与えられたすべての時点における値の集合を生成するステップと、いずれかの時点t(h)(hは0以上H-1以下の整数)以前の前記入力量の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量とし、時点t(h+1)における前記出力量のそれぞれの値を前記時点t(h+1)における教師データとする機械学習により、前記機械学習モデルを構築するステップとを含む。ここで、Hは正の整数である。
【0017】
また、本発明の第7の態様は、電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点までの値の少なくとも一部の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置のための機械学習モデルを構築する装置であって、入力量の与えられたすべての時点{t(i)|iは0以上H以下の整数}における値の集合に対して、前記装置の動作を定式化した最適化計算の最適解を与える出力量の前記与えられたすべての時点における値の集合を生成し、いずれかの時点t(h)(hは0以上H-1以下の整数)以前の前記入力量の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量とし、時点t(h+1)における前記出力量のそれぞれの値を前記時点t(h+1)における教師データとする機械学習により、前記機械学習モデルを構築する。ここで、Hは正の整数である。
【0018】
また、本発明の第8の態様は、電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点までの値の少なくとも一部の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置において、出力量の値を決定する方法であって、入力として電気及び熱の少なくとも一方の需要量の時点t(h)までの値の少なくとも一部を受け取るステップと、前記時点t(h)以前の入力量の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量として、第1の態様の方法によって構築された機械学習モデルにより、時点t(h+1)における前記出力量の値を決定するステップとを含む。
【0019】
また、本発明の第9の態様は、電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置に、出力量の値を決定する方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は、入力として電気及び熱の少なくとも一方の需要量の時点t(h)以前における値を受け取るステップと、前記時点t(h)以前の入力量の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量として、第1の態様の方法によって構築された機械学習モデルにより、時点t(h+1)における前記出力量の値を決定するステップとを含む。
【0020】
また、本発明の第10の態様は、電気及び熱の少なくとも一方の需要量の各時点以前における値の入力に対して燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの次の時点における値を出力する装置であって、入力として電気及び熱の少なくとも一方の需要量の時点t(h)以前における値を受け取り、前記時点t(h)以前の入力量の値の少なくとも一部を前記時点t(h)における特徴量として、請求項1記載の方法によって構築された機械学習モデルにより、時点t(h+1)における前記出力量の値を決定する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、現在の時点t(h)までの電気及び熱の少なくとも一方の需要量の少なくとも一部を入力として、将来の時点t(h+1)における燃料の必要量、電気の生成量、及び熱の生成量の少なくともいずれかを決定可能なコージェネレーションシステム等の装置のための機械学習モデルを構築するために、学習データセットの生成を最適化計算によって行い、当該最適化計算において、ある時点の出力を生成する際にその時点よりも先の時点の入力も考慮され得るようにすることによって、入力予測を必ずしも必要とせずに当該装置の将来の振る舞いを内在させ、実際に構築された機械学習モデルを用いて運転計画を決定又は推定する際の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来のコージェネレーションシステムの概略図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる機械学習モデルの構築方法を示す図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる学習装置を示す図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる機械学習モデルの構築プロセスを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、まず、最適化計算によってある期間の装置に対する時系列(temporal sequence)の入力及び出力を学習データセットとして生成した後に、当該学習データセットを用いて、現在までの時点の少なくとも一部の入力に基づいて、未来の時点の出力を決定する機械学習モデルを構築するものである。これは、言わば最適化計算と機械学習とを組み合わせたハイブリッドモデルであり、最適化計算において、ある時点の出力を生成する際にその時点よりも先の時点の入力も考慮され得るようにすることによって、機械学習モデルの入力として直接的に予測データを用いることなく、未来の時点の出力を決定又は推測可能とすることを意図している。ここで、本発明は、ハイブリッドモデルと特徴づけることができるが、最適化計算と機械学習とが、別個の装置、コンピュータないしサーバ(以下、併せて「システム」と呼ぶことができる。)において別個のプログラムの実行によって行うことは除外されない。
【0024】
図2に、本発明の一実施形態にかかる機械学習モデルの構築方法を示す。以下、コージェネレーションシステムを例に説明を行うが、上述のとおり、当該システムに本発明は限定されるものではない。まず、Hを1以上の正の整数として、電気の需要量e(i)及び熱の需要量θ(i)の与えられたすべての時点{t(i)|0≦i≦H}の値に基づいて、電気の生成量p(i)、熱の生成量q(i)及び燃料の必要量r(i)のすべての時点の値を計算して学習データセットを生成する(S201)。
【0025】
次に、いずれかの時点t(h)(0≦h≦H-1)について、時点t(h)までの電気の需要量e(j)及び熱の需要量θ(j)(0≦j≦h)の少なくとも一部を含む特徴量を取得する(S202)。取得された特徴量に対して、生成された学習データセットのうちの時点t(h+1)における運転計画、すなわち、電気の生成量p(h+1)、熱の生成量q(h+1)及び燃料の必要量r(h+1)の少なくともいずれかを教師データとする機械学習を実行する(S203)。
【0026】
そして、機械学習によって構築される機械学習モデルは、コージェネレーションシステムの制御装置において用いられ、熱電併給装置の制御を行うための運転計画が決定される。
【0027】
このように、本発明の一実施形態にかかる機械学習モデルは、最適化計算において、ある時点の出力を生成する際にその時点よりも先の時点の入力も考慮され得るようにすることによって、入力予測を必ずしも必要とせずにコージェネレーションシステムの将来の振る舞いを内在させ、実際に構築された機械学習モデルを用いて運転計画を決定又は推定する際の精度を向上させることができる。機械学習の詳細については、後述する。
【0028】
ここで、当該機械学習モデルの構築には、学習データセットの生成が重要となるところ、電気の生成量p(i)、熱の生成量q(i)及び燃料の必要量r(i)の少なくともいずれかを大量の時点t(i)(0≦i≦H)で計算することが必要となる。具体的なHの値は、採用する機械学習手法によって異なるが、時点間の間隔を短くすることが次のステップにおける予測精度向上のためにより望ましい。一例として、1日分の学習データセットを生成する場合、Hの値は、1時間間隔とすれば24、2時間単位とすれば12、30分単位とすれば48となる。
【0029】
この計算は、熱電併給装置の動作を数理モデル(mathematical model)で表現し、当該数理モデルのコスト関数を最適化する最適化計算によって行われ、問題が複雑になるに応じて多大な計算時間を要することになる。計算時間の短縮のためには、スーパーコンピュータ、量子アニーリング等によって学習データセットの生成を行うことが好ましい。最適化計算の詳細については、後述する。
【0030】
また、計算に要する熱量を量子アニーリングでは抑制できる。たとえば、D-Wave社が提供する量子コンピュータを用いた場合、現在のスーパーコンピュータに比して1桁又は2桁以上のエネルギー消費削減が見込まれ、スーパーコンピュータで計算可能な最適化問題であっても、量子コンピュータによる学習データセットの生成は優位性を有する。
【0031】
以上の説明では、制御装置には、構築された学習モデルが記憶されており、与えられた需要量に対して運転計画を出力するものとして記述したが、図3に示すように、制御装置310に新たに入力された需要量をコンピュータネットワークを介して学習装置300に送信し、当該需要量を含めて新たに最適化計算を行って学習データセットを生成してもよい。生成された学習データセットを用いて新たに機械学習モデルを構築し、構築された機械学習モデル又は当該機械学習モデルに更新するための更新情報を制御装置300に送信することができる。
【0032】
学習装置300は、通信インターフェースなどの通信部301と、プロセッサ、量子ビットプロセッサなどの処理部302と、メモリ、ハードディスクなどの記憶装置又は記憶媒体を含む記憶部303とを備え、各処理を行うためのプログラムを実行することによって構成することができ、1又は複数の装置、コンピュータないしサーバを含むことがある。一例として、1又は複数の古典コンピュータ及び1又は複数の量子コンピュータが所要の機能を分担して学習装置300を構成することが考えられる。当該プログラムは、1又は複数のプログラムを含むことがあり、また、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録して非一過性のプログラムプロダクトとすることができる。当該プログラムは、記憶部303又は装置300からアクセス可能なデータベースなどの記憶装置又は記憶媒体304に記憶しておき、処理部302において実行することができる。なお、学習装置300と制御装置310とが別個の装置とされている例を説明したが、学習装置300をエッジ側の制御装置310と同一の装置として構成することを必ずしも除外するものではない。
【0033】
構築された機械学習モデルにより、現在の時点t(h)までの電気及び熱の少なくとも一方の需要量の少なくとも一部を入力として、将来の時点t(h+1)における燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかを出力する装置では、入力として電気及び熱の少なくとも一方の需要量の時点t(h)までの値の少なくとも一部を受け取り、時点t(h)以前の入力量の値の少なくとも一部を時点t(h)における特徴量として、時点t(h+1)における出力量の値を決定すればよい。
【0034】
なお、「××のみに基づいて」、「××のみに応じて」、「××のみの場合」というように「のみ」との記載がなければ、本明細書においては、付加的な情報も考慮し得ることが想定されていることに留意されたい。また、一例として、「aの場合にbする」という記載は、明示した場合を除き、「aの場合に常にbする」こと、「aの直後にbする」ことを必ずしも意味しないことに留意されたい。また、「Aを構成する各a」という記載は、必ずしもAが複数の構成要素によって構成されることを意味するものではなく、構成要素が単数であることを含む。
【0035】
また、念のため、なんらかの方法、プログラム、端末、装置、サーバ又はシステム(以下「方法等」)において、本明細書で記述された動作と異なる動作を行う側面があるとしても、本発明の各態様は、本明細書で記述された動作のいずれかと同一の動作を対象とするものであり、本明細書で記述された動作と異なる動作が存在することは、当該方法等を本発明の各態様の範囲外とするものではないことを付言する。
【0036】
また、本明細書において、ある量が「時系列」であるとは、時間の経過に沿って量が観測されることをいい、時点間の間隔が等間隔であるものに必ずしも限定されない。
【0037】
最適化計算の詳細
本発明においては、与えられたある期間の電気及び熱の需要量の少なくとも一方の入力に対して最適化計算によって当該期間の燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの出力を生成して、学習データセットを用意することが必要となる。ここで「最適化計算」とは、特定の集合A上で定義された、解くべき問題を数理モデルとして定式化した目的関数E(x)を最小化又は最大化する最適解を計算することをいう。xは、各時点t(i)における入力及び出力の各量の値が含まれる。Aについては、定式化に応じて制約が付き、具体的には、
等式制約 Q(x)=C(Cは定数)
不等式制約 G(x)≦F(Fは定数)
の少なくとも一方が課されることで、最適解が取り得る元が制約されることとなる。
【0038】
最適化問題としては、さまざまな分類の問題を扱うことが可能であるが、線形計画問題が一例として挙げられる。計算手法として、古典コンピュータ又は量子コンピュータによるアニーリングを採用すれば、目的関数E(x)が二乗の項を含むことも許容され、二次計画問題を含む幅広い問題に対応可能となる。コージェネレーションシステムにおける制御を線形計画問題として定式化する手法の具体例として、非特許文献1が挙げられる。
【0039】
機械学習の詳細
図4を参照して、本発明の一実施形態にかかる機械学習モデルの構築プロセスを説明する。上述した手法によって、一例として、与えられたすべての時点{t(i)|iは0以上H以下の整数}における電気及び熱の量のそれぞれの値に対して、最適化計算の最適解を与える当該与えられたすべての時点における燃料の必要量並びに電気及び熱の生成量の値の集合が生成される。そして、いずれかの時点t(h)(hは0以上H-1以下の整数)以前の入力の量の値の少なくとも一部(図4において、{入力(h)}で表す。)を当該時点t(h)における特徴量(図4において、{特徴量(h)}で表す。)とし、次の時点t(h+1)における出力の量の値(図4において、出力(h+1)で表す。)を当該時点t(h+1)における教師データとする機械学習により、機械学習モデルを構築する。
を含む。
【0040】
ここで、特徴量(h)は、時点t(h)における入力の量の少なくとも一部又はそれぞれの値を含むことが好ましい。一例として、時点t(h-1)、t(h-2)及びt(h-3)における入力の量の少なくとも一部又はそれぞれの値をさらに特徴量(h)に含めてもよい。また、特徴量(h)は、一例として、時点t(h)における出力の量の少なくとも一部又はそれぞれの値を含んでもよく、また、時点t(h-1)、t(h-2)及びt(h-3)における出力の量の少なくとも一部又はそれぞれの値を含んでもよい。
【0041】
図4の例では、時点t(h+1)のみにおいて出力されるそれぞれの量の値を教師データとしたが、時点{t(h+l)|lは1以上の整数}において出力されるそれぞれの量の値(この場合、{出力(h+1)}で表すことができる。)を時点t(h+1)以降の時系列の教師データとする機械学習によって機械学習モデルを構築してもよい。「時点t(h+1)において出力される量のそれぞれの値を教師データとする」という記載は、いずれの態様も包含するものであることを付言する。また、時点t(h+k)(kは1以上の整数)のみにおいて出力される燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの値を教師データとしてもよく、この場合、時点{t(h+l)|lはk以上の整数}において出力される燃料の必要量、電気の生成量及び熱の生成量の少なくともいずれかの値(この場合、{出力(h+k)}で表すことができる。)を時点t(h+k)以降の時系列の教師データとする機械学習によって機械学習モデルを構築してもよい。
【0042】
また、実運用において、時点t(h+1)以降における入力の量のいずれかの予測は実行難易度が高いところ、たとえば、入力の量のそれぞれについて、時点t(h+1)以降時点t(H)までの期間内の総量の予測は、各量の各時点の時系列データまでを直接的に必要とせず、計算の難易度が下がることが考えられる。このような場合には、特徴量(h)として、当該総量を含めることが必ずしも除外されるものではない。より一般に、時点t(h+1)以降時点t(H)までの期間内の入力の量の少なくとも一部に対して演算を行って得られる時点t(h)におけるスカラー量の予測を行い、予測された当該量を時刻t(h)における特徴量(h)に含めてもよい。
【0043】
特徴量(h)には、解くべき問題に応じて、時刻又は時間帯、温度等上述の説明で直接的に言及しなかったさまざまなものが包含され得る。
【0044】
機械学習の手法としては、ランダムフォレスト、LTSM等の任意の公知のものが適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
300 学習装置
301 通信部
302 処理部
303 記憶部
304 データベース
310 制御装置
図1
図2
図3
図4