(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 17/16 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
H02K17/16 Z
(21)【出願番号】P 2020105248
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三須 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 活徳
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 寿郎
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/244240(WO,A1)
【文献】特許第6647464(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第103177144(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K17/00-17/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に開口する複数の固定子スロットと、それぞれ隣り合う前記固定子スロット間に形成されてコイルが巻回される複数の固定子ティースとを有する固定子と、
導電性を有するロータバーが挿通される複数の回転子スロットと、前記固定子の内周面に沿った周方向に隣り合う前記回転子スロット間に形成された複数の回転子ティースと、前記回転子ティースの前記周方向の端部から径方向の所定長さに亘って前記周方向に突出する回転子スロットチップとを有し、中心軸線を中心に回転自在に設けられた回転子と、を備え、
前記回転子は、前記回転子スロットを前記径方向に開口する開口部を外周に有し、
前記回転子スロットチップは、前記回転子スロットの外周を前記周方向に狭め、前記開口部を形成するとともに、前記回転子スロットに挿通された前記ロータバーと前記径方向にラップし、
前記固定子スロットの数をNss、前記回転子スロットの数をNrsとした場合、
Nss≧Nrs
なる関係を満たし、
複数の前記固定子ティースの
各々の前記周方向の最小幅をWst、前記ロータバーに挟まれた
複数の前記回転子ティースの
各々の前記周方向の平均幅をWrt、
複数の前記回転子スロットの
各々の前記周方向の平均幅をWrs、全ての前記固定子ティースの
前記最小幅Wstの合計をTst、全ての前記回転子ティースの
前記平均幅Wrtの合計をTrt、前記回転子スロットチップの前記径方向の長さをDtipとした場合、
前記最小幅Wstは、一つの前記固定子ティースの前記周方向の側面同士の最短距離であり、
前記平均幅Wrtは、一つの前記回転子ティースの前記周方向の側面同士の平均距離であり、
前記平均幅Wrsは、一つの前記回転子スロットの前記周方向の側面同士の平均距離であり、
Tst≦Trt、かつ、(Wst-Wrs)+2×Dtip≧Wst
なる関係を満たす
回転電機。
【請求項2】
前記回転子ティースと前記回転子スロットチップとは、面取りされた形態で連続する
請求項
1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記回転子スロットチップの前記径方向の長さDtipは、前記回転子スロットの前記周方向の幅を二分する点を通り前記中心軸線と直交する直線と前記回転子スロットの外周の円弧との仮想的な交点から、当該回転子スロットに挿通された前記ロータバーの前記径方向の外側面までの最短距離である
請求項1
または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記固定子スロットの数Nssは、36である
請求項
3に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機としては、いわゆるかご形回転子を用いたかご形回転電機が知られている。このかご形回転電機は、複数の固定子スロットを有する略円筒状の固定子鉄心に、固定子コイルが配置された固定子と、固定子の径方向内側に設けられ、固定子に対して回転自在に設けられた回転子と、により構成されている。
【0003】
回転子は、回転軸線回りに回転自在に設けられた回転軸と、この回転軸に外嵌固定された回転子鉄心と、を有している。回転子鉄心には、径方向に沿って延びる複数の回転子ティースが放射状に配置されており、周方向で隣接する回転子ティース間に、回転子スロットが形成されている。この回転子スロットには、導体バーが挿通されている。導体バーは、回転子鉄心の軸方向端部にて短絡環によって接続され短絡されている。
【0004】
このような構成のもと、回転電機は、固定子コイルに電流を供給すると、一次側(固定子側)で発生した磁束によって、導体バー(二次導体)に誘導電流が発生する。これにより、回転子に回転トルクが付与される。
【0005】
一般的に、固定子スロット、回転子スロットの存在により、回転子と固定子の間には磁気的な凹凸があるため、その凹凸により、導体バーには一次側の磁束の基本波以外に空間的な高調波の磁束が鎖交する。この高調波磁束により導体バーに誘導される電流はトルクに寄与せず、損失(高調波二次銅損)となる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2704666号公報
【文献】国際公開第2017/090159号
【文献】特開2016-174507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高調波二次銅損を抑制し、導体バーに生じる誘導電流を効率よくトルクに寄与させることが可能な回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の回転電機は、固定子と回転子を備える。前記固定子は、内周面に開口する複数の固定子スロットと、それぞれ隣り合う前記固定子スロット間に形成されてコイルが巻回される複数の固定子ティースとを有する。前記回転子は、導電性を有するロータバーが挿通される複数の回転子スロットと、前記固定子の内周面に沿った周方向に隣り合う前記回転子スロット間に形成された複数の回転子ティースと、前記回転子ティースの前記周方向の端部から径方向の所定長さに亘って前記周方向に突出する回転子スロットチップとを有し、中心軸線を中心に回転自在に設けられている。前記回転子は、前記回転子スロットを前記径方向に開口する開口部を外周に有する。前記回転子スロットチップは、前記回転子スロットの外周を前記周方向に狭め、前記開口部を形成するとともに、前記回転子スロットに挿通された前記ロータバーと前記径方向にラップする。前記固定子スロットの数をNss、前記回転子スロットの数をNrsとした場合、Nss≧Nrsなる関係を満たす。また、複数の前記固定子ティースの各々の前記周方向の最小幅をWst、前記ロータバーに挟まれた複数の前記回転子ティースの各々の前記周方向の平均幅をWrt、複数の前記回転子スロットの各々の前記周方向の平均幅をWrs、全ての前記固定子ティースの前記最小幅Wstの合計をTst、全ての前記回転子ティースの前記平均幅Wrtの合計をTrt、前記回転子スロットチップの前記径方向の長さをDtipとした場合、前記最小幅Wstは、一つの前記固定子ティースの前記周方向の側面同士の最短距離であり、前記平均幅Wrtは、一つの前記回転子ティースの前記周方向の側面同士の平均距離であり、前記平均幅Wrsは、一つの前記回転子スロットの前記周方向の側面同士の平均距離であり、Tst≦Trt、かつ、(Wst-Wrs)+2×Dtip≧Wstなる関係を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る回転電機の一部の概略構成を示す縦断面図。
【
図2】
図1の線A-Aに沿った回転電機の固定子および回転子の一部を概略的に示す断面図。
【
図4】第2の実施形態に係る固定子および回転子の一部を概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図。
【
図5】第3の実施形態に係る固定子および回転子の一部を概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図。
【
図6】第4の実施形態に係る固定子および回転子の一部を拡大して概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図。
【
図7】第4の実施形態の変形例に係る固定子および回転子の一部を拡大して概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら、この発明の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、実施形態に係る回転電機の中心軸線に沿って半分に分割した部分を概略的に示す縦断面図である。本実施形態では、回転電機が鉄道車両の駆動用として適用される場合を一例として想定する。ただし、回転電機の用途はこれに限定されず、その他の用途にも適用可能である。
【0012】
図1に示すように、回転電機10は、例えば、インナーロータ型の回転電機として構成されている。回転電機10は、内部が密閉されたケース12と、ケース12内に配置された固定子(ステータ)14と、かご型の回転子(ロータ)16とを備えている。以下の説明では、回転電機10において回転子16が回転する中心軸線C1に沿った方向を軸方向とし、中心軸線C1回りに回転子16が回転する方向を周方向(回転方向)とする。また、軸方向および周方向に直交する方向を径方向とし、径方向において中心軸線C1に近づく側を内、離れる側を外とする。
【0013】
ケース12は、ほぼ円筒状のフレーム18と、フレーム18の軸方向の一端に取り付けられて、この一端を閉塞した円盤状の第1ブラケット19と、フレーム18の軸方向の他端に取り付けられて、この他端を閉塞した円盤状の第2ブラケット20と、を有している。第1ブラケット19の中心部に、軸受B1を内蔵した第1軸受ハウジング22aがボルト止めされている。第2ブラケット20の中心部に、軸受B2を内蔵した第2軸受ハウジング22bがボルト止めされている。軸受B1および軸受B2は、回転電機10の中心軸線C1に沿って整列して配置されている。
【0014】
固定子14は、円筒状の固定子鉄心24と固定子鉄心24に巻回された固定子コイル28とを有している。固定子鉄心24は、その外周面がフレーム18の内周面に係合した状態でフレーム18に支持され、中心軸線C1と同軸的に配置されている。固定子鉄心24は、磁性材、例えば、珪素鋼板からなる環状の金属板を多数枚積層して構成されている。固定子鉄心24の軸方向両端面には、環状の一対の鉄心押え26a,26bが固定されている。鉄心押え26a,26bは、鉄などの金属により環状に形成され、固定子鉄心24が分離しないように軸方向両端側から挟み込んで保持している。鉄心押え26a,26bの内径は、内周部が後述する固定子コイル28と接触しない程度の内径に設定されている。固定子鉄心24と鉄心押え26a,26bとは、例えば溶接などにより一体化されている。
【0015】
固定子鉄心24の内周部には、中心軸線C1に向かって突出する複数の固定子ティース60が形成されている。各固定子ティース60は、周方向に沿って等間隔に配置されている。周方向に隣り合う固定子ティース60の間の空隙は、それぞれ固定子スロット62として構成される。換言すれば、各固定子ティース60は、周方向に隣り合う固定子スロット62間に形成されている。これら複数の固定子スロット62は、固定子14、端的には固定子鉄心24の内周面に開口している。固定子ティース60および固定子スロット62は、それぞれ軸方向に延在している。各固定子スロット62を介して各固定子ティース60に固定子コイル28が巻回されている。固定子コイル28は、これらの固定子スロット62に挿通された状態で固定子鉄心24に取り付けられている。固定子コイル28のコイルエンド28eは、固定子鉄心24の両端面から軸方向に張り出している。固定子コイル28には、例えば架線からパンタグラフ(いすれも図示省略)を介して供給された直流電流が交流電流に変換されて供給される。
【0016】
回転子16は、回転シャフト30と、回転子鉄心32と、回転子鉄心32に埋め込まれた複数本の導体バー(ロータバー)40と、導体バー40の両端に接続された一対のエンドリング42a,42bとを備えている。回転シャフト30は、中心軸線C1と同軸的にケース12内に配置され、軸方向の一端部および他端部がそれぞれ軸受B1,B2により回転自在に支持されている。回転シャフト30の駆動側端部30aは、機外に延出している。駆動側端部30aには、駆動歯車装置等を接続するための継手が取り付けられる。
【0017】
回転子鉄心32は、磁性材、例えば、珪素鋼板からなる環状の金属板を多数枚積層して構成され、ほぼ円筒形状に形成されている。回転子鉄心32は、回転シャフト30の軸方向のほぼ中央部に取り付けられ、固定子鉄心24の内側に、中心軸線C1と同軸的に配置されている。回転子鉄心32の外周面は、隙間Gをあけて固定子鉄心24の内周面に対向している。回転子鉄心32の軸方向長さは、固定子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しい。また、回転子鉄心32は、軸方向の一端に位置する第1端面32aおよび軸方向の他端に位置する第2端面32bを有している。第1端面32aおよび第2端面32bは、中心軸線C1とほぼ直交して延在している。回転子鉄心32の径方向中央部には、回転シャフト30を挿通可能な貫通孔32cが軸方向全体に亘って形成されている。回転子鉄心32と回転シャフト30とは、貫通孔32cに対する回転シャフト30の圧入や接着などにより一体化されている。
【0018】
回転子鉄心32は、回転シャフト30に取り付けられた一対の鉄心押え34a,34bにより、軸方向両端側から挟まれるように支持されている。鉄心押え34a,34bは環状に形成され、その外径は回転子鉄心32の外径よりも小さい。
【0019】
回転子鉄心32の外周部には、複数の回転子ティース50が形成されている。各回転子ティース50は、固定子14、端的には固定子鉄心24の内周面に沿った周方向にほぼ等間隔で配置されている。周方向に隣り合う回転子ティース50の間の空隙は、それぞれ回転子スロット52として構成される。換言すれば、各回転子ティース50は、周方向に隣り合う回転子スロット52間に形成されている。これら複数の回転子スロット52は、周方向にほぼ等間隔で配置されている。また、各回転子ティース50は、軸方向に延在している。各回転子スロット52は、回転子鉄心32を軸方向に貫通して延び、第1端面32aおよび第2端面32bに開口している。
【0020】
導体バー40は、例えば銅やアルミニウムなどの導電性を有する部材(導電体)で、かつ非磁性体により形成された棒状部材である。導体バー40は、各回転子スロット52に挿通され、回転子鉄心32の軸方向に延在している。導体バー40の断面形状は、例えば、回転子スロット52の断面形状に対応し、該断面形状よりも若干小さな略相似形をなしている。したがって、回転子スロット52に挿通された状態では、導体バー40と回転子スロット52との間には、僅かなクリアランスが存在する。回転子スロット52に挿通された導体バー40は、例えばカシメや接着などにより、回転子スロット52に固定される。導体バー40の長手方向の一端部(第1バーエンド)40aは、回転子鉄心32の第1端面32aから外方に延出している。導体バー40の長手方向の他端部(第2バーエンド)40bは、回転子鉄心32の第2端面32bから外方に延出している。第1バーエンド40aの延出長さと第2バーエンド40bの延出長さとはほぼ等しく設定されている。
【0021】
第1バーエンド40aの延出端に円環状のエンドリング42aが固定されている。エンドリング42aは中心軸線C1と同軸的に配置され、複数のバーエンド40aを互いに連結している。第2バーエンド40bの延出端に円環状のエンドリング42bが固定されている。エンドリング42bは中心軸線C1と同軸的に配置され、複数のバーエンド40bを互いに連結している。導体バー40およびエンドリング42a,42bは、例えば、アルミニウム、銅など導電性を有する金属材料により形成されている。
【0022】
複数本の導体バー40および一対のエンドリング42a,42bは、回転電機10のかご型ロータを構成している。固定子コイル28に通電することにより、回転子鉄心32が誘導されて回転し、回転シャフト30が回転子鉄心32と一体に回転する。
【0023】
次に、本実施形態における固定子ティース60および固定子スロット62と、回転子ティース50および回転子スロット52との関係について説明する。
図2は、
図1の線A-Aに沿った固定子14および回転子16の一部を概略的に示す断面図、
図3は、
図2の一部を拡大して示す断面図である。
【0024】
図2および
図3に示すように、回転子スロット52は、開口部54を介して回転子鉄心32の外周に開口している。開口部54は、回転子鉄心32の軸方向の全長に亘って延在している。回転子スロット52の周方向の幅は、開口部54の周方向の幅よりも大きく設定されている。
【0025】
回転子スロット52の外周には、導体バー40の脱落を防止するためのチップ部(回転子スロットチップ)36が設けられている。チップ部36は、回転子鉄心32、端的には回転子ティース50の周方向の端部から径方向の所定長さに亘って、周方向に突出する部分であり、回転子スロット52の外周を周方向に狭める部分である。別の捉え方をすると、チップ部36は、回転子鉄心32(回転子ティース50)の外周に沿って周方向に突出し、回転子スロット52に挿通された導体バー40と径方向にラップする部分である。回転子スロット52の外周は、周方向の逆方向にそれぞれ突出する一対のチップ部36によって周方向の両側から狭められており、これらのチップ部36で狭められた回転子スロット52の外周部分(外方に臨む部分)が開口部54として形成されている。これらのチップ部36により、回転子スロット52からの導体バー40の脱落防止が図られている。
【0026】
本実施形態において、回転子スロット52の数(Nrs)は、固定子スロット62の数(Nss)以下とされている(Nss≧Nrs)。
図2には、回転子スロット52の数Nrsが固定子スロット62の数Nssよりも少ない場合(Nss>Nrs)の形態を一例として示す。この場合、例えば固定子スロット62の数Nssは36、回転子スロット52の数Nrsは26である。ただし、Nss≧Nrsなる関係(以下、該関係式を式1という)を満たしていれば、固定子スロット62の数Nssと回転子スロット52の数Nrsの組み合わせは任意である。
【0027】
また、本実施形態において、固定子ティース60、回転子ティース50、および回転子スロット52は、それぞれの周方向に対する幅寸法について所定の関係を有する。これらの各幅寸法は、次のように規定される。
【0028】
固定子ティース60の幅寸法としては、最小幅(Wst)を適用する。最小幅Wstは、固定子ティース60の周方向の側面を規定する二つの辺部60a,60b、換言すれば径方向と直交する方向の側面を規定する二つの辺部60a,60bの任意の一点ずつを結んだ距離の最短距離である。
図2に示す例では、
図3に示す二点(以下、基準点という)st1,st2を結んだ距離が最小幅Wstにあたる。基準点st1,st2は、固定子ティース60の径方向における最も内寄りに位置する点である。換言すれば、基準点st1,st2は、中心軸線C1に向かって突出する固定子ティース60の突出端部のうち、周方向の両端に位置する点である。
【0029】
回転子ティース50の幅寸法としては、平均幅(Wrt)を適用する。平均幅Wrtは、回転子ティース50の周方向の側面を規定する二つの辺部50a,50b、換言すれば径方向と直交する方向の側面を規定する二つの辺部50a,50bの同周上(同径位置)の任意の一点ずつを結んだ距離の平均距離である。二つの辺部50a,50bで規定される周方向の側面は、回転子スロット52に挿通された導体バー40によって挟まれている。
図2に示す例では、図示する二点(以下、基準点という)rt1,rt2を結んだ距離が平均幅Wrtにあたる。基準点rt1,rt2は、回転子ティース50の径方向におけるほぼ中間に位置する点である。この場合、回転子ティース50の断面形状は、径方向の内寄りほど幅寸法が狭く、外寄りほど幅寸法が広い略台形状となっている。
【0030】
回転子スロット52の幅寸法としては、平均幅(Wrs)を適用する。平均幅Wrsは、回転子スロット52の周方向の側面を規定する二つの辺部52a,52b、換言すれば径方向と直交する方向の側面を規定する二つの辺部52a,52bの同周上(同径位置)の任意の一点ずつを結んだ距離の平均距離である。
図2に示す例では、
図3に示す二点(以下、基準点という)rs1,rs2を結んだ距離が平均幅Wrsにあたる。基準点rs1,rs2は、回転子スロット52の径方法におけるほぼ中間に位置する点である。なお、
図2に示す例では、二つの辺部52a,52bの同周上(同径位置)の一点ずつを結んだ距離は、二つの辺部52a,52bの全ての位置(点)においてほぼ一定である。すなわちこの場合、回転子スロット52の断面形状は、略長方形状となっている。
【0031】
このように規定される固定子ティース60の最小幅Wstについて、全ての固定子ティース60の最小幅Wstの合計(合計幅)をTstとする。また、回転子ティース50の平均幅Wrtについて、全ての回転子ティース50の平均幅Wrtの合計(合計幅)をTrtとする。この場合、固定子ティース60と回転子ティース50は、Tst≦Trtなる関係(以下、該関係式を式2という)を満たすように構成されている。すなわち、全固定子ティース60の最小幅Wstの合計幅Tstは、全回転子ティース50の平均幅Wrtの合計幅Trt以下とされている。
図2には、合計幅Tstが合計幅Trtよりも小さい場合(Tst<Trt)の固定子ティース60と回転子ティース50の形態を一例として示す。
【0032】
また、固定子ティース60の最小幅Wstおよび回転子ティース50の平均幅Wrtは、チップ部36の径方向の長さ(以下、深さDtipという)と所定の関係を有する。チップ部36の深さDtipは、回転子スロット52の中心線(
図3に示す一点鎖線L52)と回転子スロット52の外周の円弧(
図3に示す二点鎖線R52)との仮想的な交点Xから、導体バー40の端面40cまでの最短距離である。回転子スロット52の中心線L52は、中心軸線C1と直交し、回転子スロット52の周方向の幅(例えば平均幅Wrs)を二分する点、つまり基準点rs1,rs2を結ぶ直線の中間点を通る直線である。導体バー40の端面40cは、導体バー40の径方向の外側面である。
【0033】
チップ部36の深さDtipをこのように規定した場合、チップ部36、固定子ティース60および回転子スロット52は、(Wst-Wrs)+2×Dtip≧Wstなる関係(以下、該関係式を式3という)を満たすように構成されている。すなわち、固定子ティース60の最小幅Wstと回転子スロット52の平均幅Wrsとの差にチップ部36の深さDtipの二倍の寸法を加えた値は、固定子ティース60の最小幅Wst以上の値となる。
【0034】
このように本実施形態によれば、固定子ティース60、回転子ティース50、回転子スロット52、およびチップ部36が上述した式1,2,3を満たすように構成されている。これにより、固定子14から回転子16に流れる空間的な磁束の高調波成分が導体バー40と鎖交することを抑制できる。したがって、高調波磁束によって従来生じていた導体バーに誘導される電流の損失(高調波二次銅損)を抑制でき、導体バー40に誘導電流を効率よく発生させてトルクに寄与させることができる。このため、回転電機10のトルク損失の抑制を図ることが可能となる。
【0035】
なお、固定子ティース60、回転子ティース50、回転子スロット52、およびチップ部36が上述した式1,2,3の関係を満たすように構成されていれば、これらの形態は、
図1から
図3に示す形態に限定されない。以下、
図1から
図3に示す形態とは異なる実施形態について説明する。なお、これらの実施形態において、回転電機10の基本的な構成は
図1に示す本実施形態と同様である。したがって、以下では、本実施形態との相違点について説明し、本実施形態に係る回転電機10と同等の構成要素については、図面上で同一符号を付して説明を省略もしくは簡略化する。
【0036】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る固定子14および回転子16の一部を概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図である。第1の実施形態(Nss>Nrs)と異なり、
図4には、回転子スロット522の数Nrsが固定子スロット62の数Nssと一致する場合(Nss=Nrs)の形態を一例として示す。固定子ティース60および固定子スロット62の形態は、第1の実施形態と同様である。この場合、例えば固定子スロット62の数Nsは36、回転子スロット522の数Nrは36である。
【0037】
回転子スロット522の断面形状は、径方向の内寄りほど周方向の幅寸法が狭く、外寄りほど周方向の幅寸法が広い略台形状となっている。回転子スロット522に挿通される導体バー402の断面形状は、回転子スロット522の断面形状に対応し、該断面形状よりも若干小さな略相似形の台形状をなしている。回転子スロット522の平均幅Wrsは、回転子スロット522の径方向におけるほぼ中間に位置する二点rs1,rs2間を結んだ距離にあたる。
これに対し、回転子ティース502の断面形状は、略長方形状となっている。したがって、回転子ティース502の周方向の幅寸法は、径方向において一定である。全固定子ティース60の最小幅Wstの合計幅Tstは、全回転子ティース502の平均幅Wrtの合計幅Trtと一致している。
【0038】
このように本実施形態においては、回転子ティース502の周方向の幅寸法が径方向において一定となるため、回転子ティース502での磁気抵抗を径方向の内寄りと外寄りとで異ならせずに済む。結果として、回転子ティース502での磁気抵抗を低下させることができるとともに、磁束密度を均一化させることができる。これにより、導体バー402に誘導電流を効率よく発生させ、発生した誘導電流を回転シャフト30のトルクに効率的に寄与させることができる。このため、回転電機10のトルク損失の抑制を図ることが可能となる。
なお、回転子スロットの数Nrsを固定子スロットの数Nssと一致させ、例えば、回転子スロットおよび導体バーの断面形状をそれぞれ略長方形状、回転子ティースの断面形状を略台形状としてもよい。
【0039】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態に係る固定子14および回転子16の一部を概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図である。第1の実施形態(Nss>Nrs)と同様に、
図5には、回転子スロット523の数Nrsが固定子スロット62の数Nssと一致する場合(Nss=Nrs)の形態を一例として示す。固定子ティース60および固定子スロット62の形態は、第1の実施形態と同様である。この場合、例えば固定子スロット62の数Nsは36、回転子スロット523の数Nrは26である。
【0040】
その一方で、回転子ティース503、回転子スロット523、および導体バー403の形態は、第1の実施形態に係る回転子ティース50、回転子スロット52、および導体バー40とは相違している。
【0041】
回転子ティース503の断面形状は、略長方形状となっている。したがって、回転子ティース503の周方向の幅寸法は、径方向において一定である。ただし、全固定子ティース60の最小幅Wstの合計幅Tstは、全回転子ティース50の平均幅Wrtの合計幅Trtよりも小さい(Tst<Trt)。
【0042】
これに対し、回転子スロット523の断面形状は、径方向の内寄りほど周方向の幅寸法が狭く、外寄りほど周方向の幅寸法が広い略台形状となっている。回転子スロット523に挿通される導体バー403の断面形状は、回転子スロット523の断面形状に対応し、該断面形状よりも若干小さな略相似形の台形状をなしている。回転子スロット523の平均幅Wrsは、回転子スロット523の径方向におけるほぼ中間に位置する二点rs1,rs2間を結んだ距離にあたる。
【0043】
このように本実施形態は、第2の実施形態において、回転子スロット523の数Nrsと固定子スロット62の数Nssとを一致させた(Nss=Nrs)形態に相当する。
本実施形態によれば、第2の実施形態と同様に、回転子ティース503の周方向の幅寸法が径方向において一定となるため、回転子ティース503での磁気抵抗を径方向の内寄りと外寄りとで異ならせずに済む。結果として、回転子ティース503での磁気抵抗を低下させることができるとともに、磁束密度を均一化させることができる。第2の実施形態の回転子ティース502と比べて、回転子ティース503の平均幅Wrtが広いため、回転子ティース503での磁束密度が小さくなり、磁気抵抗の低下効果をより高めることができる。
【0044】
(第4の実施形態)
上述した第1の実施形態から第3の実施形態においては、回転子スロット52,522,523、および導体バー40,402,403の断面形状を四辺形(四角形)としているが、これらはそれ以上の多角形の断面形状を有するように構成されてもよい。
【0045】
図6は、第4の実施形態に係る固定子14および回転子16の一部を拡大して概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図である。
図6に示すように、回転子スロット524の断面形状は六角形状とされている。
図6に示す例では、径方向の内寄りほど周方向の幅寸法が狭く、外寄りほど周方向の幅寸法が広い略台形の内寄りの角が面取り(例えばC面取り)された略六角形状の断面形状となるように、回転子スロット524が構成されている。別の捉え方をすれば、このような六角形状の断面形状の回転子スロット524が周方向に並ぶように、回転子ティース504が構成されている。回転子ティース504は、このように回転子スロット524が面取りされた形態でチップ部36と連続している。回転子スロット524に挿通される導体バー404の断面形状は、回転子スロット524の断面形状に対応し、該断面形状よりも若干小さな略相似形の六角形状をなしている。
【0046】
また、
図7は、第4の実施形態の変形例に係る固定子14および回転子16の一部を拡大して概略的に示す
図1の線A-Aに相当する位置での断面図である。
図7に示すように、回転子スロット524aの断面形状は八角形状とされている。
図7に示す例では、略長方形の内寄りの角が面取り(例えばC面取り)されるとともに、周方向に対向する二面が互いに接近するように途中で屈曲した略八角形状の断面形状となるように、回転子スロット524aが構成されている。別の捉え方をすれば、このような八角形状の断面形状の回転子スロット524aが周方向に並ぶように、回転子ティース504aが構成されている。回転子ティース504aは、このように回転子スロット524aが面取りされた形態でチップ部36と連続している。回転子スロット524aに挿通される導体バー404aの断面形状は、回転子スロット524aの断面形状に対応し、該断面形状よりも若干小さな略相似形の八角形状をなしている。
【0047】
このように本実施形態においては、回転子スロット524,524aが面取りされた形態で回転子ティース504,504aがチップ部36と連続している。換言すれば、回転子ティース504,504aとチップ部36との連続部56は、回転子スロット524,524aにおいて面取りされている。このため、第1の実施形態から第3の実施形態(
図3、
図4、
図5)と比べて、回転子ティース504,504aにおけるチップ部36との連続部56が広くなる。このため、チップ部36の近傍における回転子ティース504,504aでの磁束密度が小さくなり、磁気抵抗を低下させることができる。これにより、固定子14から回転子16に流れる空間的な磁束の高調波成分が導体バー404,404aと鎖交することを抑制できる。したがって、導体バー402に誘導電流を効率よく発生させてトルクに寄与させることができ、回転電機10のトルク損失の抑制を図ることが可能となる。
【0048】
以上、本発明のいくつかの実施形態(変形例を含む)を説明したが、上述した各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0049】
例えば、第1の実施形態から第4の実施形態においては、回転子ティース50,502,503,504,504a、回転子スロット52,522,523,524、524a、および導体バー40,402,403,404,404aの形態をそれぞれ相違させている。これに代えてもしくは加えて、固定子ティース60および固定子スロット62の形態を、式1,2,3の関係を満たすような形態にそれぞれ相違させてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10…回転電機、12…ケース、14…固定子(ステータ)、16…回転子(ロータ)、18…フレーム、24…固定子鉄心、26a,26b…鉄心押え、28…固定子コイル、30…回転シャフト、32…回転子鉄心、34a,34b…鉄心押え、36…チップ部、40,402,403,404,404a…導体バー(ロータバー)、40c…端面(外側面)、50,502,503,504,504a…回転子ティース、50a,50b…辺部、52,522,523,524、524a…回転子スロット、52a,52b…辺部、54…開口部、56…連続部、60…固定子ティース、60a,60b…辺部、62…固定子スロット、C1…中心軸線、Dtip…チップ部の深さ、L52…回転子スロットの中心線、R52…回転子スロットの外周円弧、X…交点、rs1,rs2…回転子スロットの基準点、rt1,rt2…回転子ティースの基準点、st1,st2…固定子ティースの基準点、Trt…全回転子ティースの平均幅の合計幅、Tst…全固定子ティースの最小幅の合計幅、Wrs…回転子スロットの平均幅、Wrt…回転子ティースの平均幅、Wst…固定子ティースの最小幅。