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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】結合金具
(51)【国際特許分類】
   F16L 37/086 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
F16L37/086
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020105405
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021196045
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】391001169
【氏名又は名称】櫻護謨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸城 賢三
(72)【発明者】
【氏名】和泉田 拓実
(72)【発明者】
【氏名】荒井 匠
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214949(JP,A)
【文献】登録実用新案第3183336(JP,U)
【文献】登録実用新案第3219801(JP,U)
【文献】米国特許第5005877(US,A)
【文献】実開昭62-163687(JP,U)
【文献】特開2013-079659(JP,A)
【文献】特開2018-071725(JP,A)
【文献】特開2017-213065(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162528(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108561652(CN,A)
【文献】特開2012-120560(JP,A)
【文献】特開2020-159550(JP,A)
【文献】特開2021-188734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 37/086
A62C 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差し金具を受け金具に挿入することにより、前記差し金具の外周面に設けられた凸部と、前記受け金具に設けられ前記受け金具の軸に向けて付勢された爪とが前記軸と平行な軸方向に係合し、前記外周面に対し前記軸方向にスライド可能かつ前記軸を中心とした周方向に回動可能に設けられた押し輪を前記爪と前記外周面の間に移動させて前記軸を中心とした半径方向に前記爪を押し上げることにより前記凸部と前記爪の係合が解除される結合金具であって、
前記押し輪は、前記凸部の側の先端が第1厚さを有する第1部分と、前記先端が前記第1厚さよりも小さい第2厚さを有する第2部分と、を含み、
前記爪は、前記凸部と係合した状態において前記押し輪と対向する位置に、前記軸方向と交わる規制面と、前記半径方向において前記規制面よりも前記軸の側に位置する作用面と、を有し、
前記周方向において前記第1部分と前記爪の位置が一致した状態で前記押し輪が前記爪に向け押された場合、前記第1部分が前記規制面と接触して前記爪と前記外周面の間への前記押し輪の移動が規制され、
前記周方向における前記第2部分と前記爪の位置が一致した状態で前記押し輪が前記爪に向け押された場合、前記第2部分が前記作用面と接触して前記爪が前記半径方向に押し上げられ、前記第2部分が前記爪と前記外周面の間に挿入される、
結合金具。
【請求項2】
前記規制面は、前記軸方向と直交する平面である、
請求項1に記載の結合金具。
【請求項3】
前記作用面は、前記規制面から前記軸方向に離れるに連れて前記軸との距離が小さくなる傾斜面である、
請求項1または2に記載の結合金具。
【請求項4】
前記第2部分の外周面は、前記先端から前記軸方向に離れるに連れて前記差し金具の前記外周面との距離が大きくなる傾斜面を有している、
請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の結合金具。
【請求項5】
前記第1厚さは、前記作用面の前記半径方向における高さよりも大きい、
請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の結合金具。
【請求項6】
前記凸部の外径は、前記第1部分の外径よりも小さい、
請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の結合金具。
【請求項7】
前記周方向における前記第1部分の長さは、前記周方向における前記第2部分の長さよりも大きい、
請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の結合金具。
【請求項8】
前記周方向における前記第2部分の長さは、前記周方向における前記爪の長さ以上である、
請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の結合金具。
【請求項9】
前記周方向における前記爪の位置を示す第1マークと、
前記周方向における前記第2部分の位置を示す第2マークと、
をさらに備える請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の結合金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差し金具を受け金具に差し込むことにより両金具が結合される差込式の結合金具に関する。
【背景技術】
【0002】
消防用ホース同士を接続するための金具として、雄金具である差し金具と、雌金具である受け金具とを備えた差込式の結合金具が知られている(例えば特許文献1,2参照)。この結合金具においては、差し金具の先端に設けられた環状の凸部と、受け金具に設けられ当該金具の内側に向けて付勢された複数の爪とを係合させることにより、差し金具が受け金具に対して抜け止めされる。
【0003】
各爪は受け金具の軸を中心とした半径方向に移動可能であり、結合時においては差し金具の外周面に接触している。また、差し金具にはその外周面に沿ってスライド可能な押し輪が装着されている。この押し輪により各爪を半径方向に押し上げることで各爪と凸部の係合が解除され、差し金具を受け金具から抜き出すことが可能となる。
【0004】
実際の消防活動においては結合金具が現場の障害物などに接触した際に押し輪が押され、差し金具と受け金具が離脱する虞がある。この点に関し、特許文献1,2においては意図せぬ離脱を抑制するための結合金具の構造が提案されている。
【0005】
特許文献1に開示された結合金具においては、差し金具の外周面および押し輪の内周面に滑り止め溝が形成され、かつこれら外周面と内周面の間に隙間が設けられている。これにより、障害物によって押し輪に不均等な力が加わった場合には押し輪の先端の一部が差し金具の外周面から浮き上がるとともに他の部分が当該外周面に当接する。この当接した部分において差し金具の外周面と押し輪の内周面の溝が係合するために押し輪の移動が規制され、押し輪の先端が爪に到達しない。
【0006】
特許文献2に開示された結合金具においては、軸線方向に延びる保護枠が受け金具の周囲に設けられ、結合時には保護枠が押し輪(解除部材)のフランジ部よりも受け金具側に位置している。さらに保護枠は弾性を有しており、障害物が押し輪に接触した場合でも保護枠の内縁を弾性変形させてフランジ部を受け口側に移動させる十分な力が加わらない限り、押し輪の先端が爪に到達しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-14477号公報
【文献】特開2018-31464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2に開示された結合金具を踏まえても、受け金具と差し金具の意図せぬ離脱を抑制するための構造に関しては未だに種々の改善の余地がある。例えば、特許文献1,2のいずれに開示された結合金具においても、押し輪が障害物により押される角度や力の程度によっては離脱を十分に抑制できない。
【0009】
そこで、本発明は、受け金具と差し金具の意図せぬ離脱をより効果的に抑制することが可能な改善された結合金具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る結合金具においては、差し金具を受け金具に挿入することにより、前記差し金具の外周面に設けられた凸部と、前記受け金具に設けられ前記受け金具の軸に向けて付勢された爪とが前記軸と平行な軸方向に係合し、前記外周面に対し前記軸方向にスライド可能かつ前記軸を中心とした周方向に回動可能に設けられた押し輪を前記爪と前記外周面の間に移動させて前記軸を中心とした半径方向に前記爪を押し上げることにより前記凸部と前記爪の係合が解除される。前記押し輪は、前記凸部の側の先端が第1厚さを有する第1部分と、前記先端が前記第1厚さよりも小さい第2厚さを有する第2部分と、を含む。前記爪は、前記凸部と係合した状態において前記押し輪と対向する位置に、前記軸方向と交わる規制面と、前記半径方向において前記規制面よりも前記軸の側に位置する作用面と、を有している。前記周方向において前記第1部分と前記爪の位置が一致した状態で前記押し輪が前記爪に向け押された場合、前記第1部分が前記規制面と接触して前記爪と前記外周面の間への前記押し輪の移動が規制される。さらに、前記周方向における前記第2部分と前記爪の位置が一致した状態で前記押し輪が前記爪に向け押された場合、前記第2部分が前記作用面と接触して前記爪が前記半径方向に押し上げられ、前記第2部分が前記爪と前記外周面の間に挿入される。
【0011】
例えば、前記規制面は前記軸方向と直交する平面であり、前記作用面は前記規制面から前記軸方向に離れるに連れて前記軸との距離が小さくなる傾斜面である。前記第2部分の外周面は、前記先端から前記軸方向に離れるに連れて前記差し金具の前記外周面との距離が大きくなる傾斜面を有してもよい。
【0012】
例えば、前記第1厚さは前記作用面の前記半径方向における高さよりも大きく、前記凸部の外径は前記第1部分の外径よりも小さく、前記周方向における前記第1部分の長さは前記周方向における前記第2部分の長さよりも大きく、前記周方向における前記第2部分の長さは前記周方向における前記爪の長さ以上である。
【0013】
前記結合金具は、前記周方向における前記爪の位置を示す第1マークと、前記周方向における前記第2部分の位置を示す第2マークとをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、受け金具と差し金具の意図せぬ離脱を効果的に抑制することが可能な改善された結合金具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る結合金具の概略的な側面図である。
図2図2は、図1に示した受け口をしめ輪側から軸方向に沿って見た図である。
図3図3は、図1におけるIII-III線に沿う差し口の概略的な断面図である。
図4図4は、受け口と差し口が連結された状態における結合金具の部分断面図である。
図5図5は、図3に示した押し輪の第1部分に適用し得る形状の一例を示す断面図である。
図6図6は、図3に示した押し輪の第2部分に適用し得る形状の一例を示す断面図である。
図7図7は、図3に示した押し輪の第2部分に適用し得る形状の他の例を示す断面図である。
図8図8は、図2に示した爪に適用し得る形状の一例を示す断面図である。
図9図9は、図2に示した爪に適用し得る形状の他の例を示す断面図である。
図10図10は、図2に示した他の爪に適用し得る形状の一例を示す断面図である。
図11図11は、図10に示した爪に適用し得る形状の他の例を示す断面図である。
図12図12は、規制面を有する爪と押し輪の第1部分とを含む結合金具の断面図である。
図13図13は、規制面を有する爪と押し輪の第2部分とを含む結合金具の断面図である。
図14図14は、規制面を有さない爪と押し輪の第1部分とを含む結合金具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一実施形態につき図面を参照しながら説明する。
本実施形態においては、主に消防分野での使用が想定される差込式の結合金具を例示する。ただし、当該結合金具は、消防分野以外にも工業用や農業用の流路の結合など種々の用途で利用できる。
【0017】
図1は、本実施形態に係る結合金具Cの概略的な側面図である。結合金具Cは、受け口Fと、差し口Mとを備えている。受け口Fは、軸AX1を中心とした円筒状の受け金具1(雌金具)を備えている。差し口Mは、軸AX2を中心とした円筒状の差し金具2(雄金具)を備えている。
【0018】
図1において、受け金具1と差し金具2は、軸AX1,AX2が一致した状態で並んでいる。この状態において軸AX1,AX2と平行な方向を軸方向Dxと定義する。また、軸AX1,AX2を中心として軸AX1,AX2から離れる方向を半径方向Drと定義する。
【0019】
受け金具1は、軸方向Dxにおいて第1端部1aおよび第2端部1bを有している。さらに受け金具1は、消防用ホースの端部に挿入される装着部11を第1端部1a側に有するとともに、装着部11よりも外径が大きい拡径部12を第2端部1b側に有している。装着部11の外周面には、消防用ホースを抜け止めするための軸方向Dxに並ぶ複数の環状の段差が形成されている。
【0020】
受け口Fは、拡径部12に連結された環状のしめ輪3と、しめ輪3の外周面に装着された環状のバンド4とをさらに備えている。しめ輪3は金属材料で形成され、例えば複数のねじによって拡径部12に連結されている。バンド4は例えばゴムで形成され、その外周面は受け口Fおよび差し口Mにおいて最も半径方向Drに突出している。
【0021】
差し金具2は、軸方向Dxにおいて第1端部2aおよび第2端部2bを有している。さらに差し金具2は、受け金具1側の消防用ホースとは異なる他の消防用ホースの端部に挿入される装着部21を第1端部2a側に有するとともに、周囲よりも半径方向Drにやや突出した環状の凸部22を第2端部1b側に有している。装着部21の外周面には、装着部11と同じく複数の環状の段差が形成されている。
【0022】
差し口Mは、装着部21と凸部22の間における差し金具2の外周面2cに固定された環状の止め輪5と、凸部22と止め輪5の間に設けられた押し輪6とをさらに備えている。止め輪5は、例えば外周面2cに設けられた環状の溝に装着された金属線であり、少なくとも一部が外周面2cよりも半径方向Drに突出している。
【0023】
押し輪6は、外周面2cを囲う円筒部61と、止め輪5側の円筒部61の端部に設けられたフランジ部62とを有している。フランジ部62の反対側に位置する円筒部61の先端6aは、軸方向Dxにおいて凸部22の側面と対向している。凸部22および止め輪5により、押し輪6が差し金具2に対し抜け止めされている。押し輪6は、凸部22と止め輪5の間において軸方向Dxにスライド可能である。
【0024】
図2は、受け口Fを軸方向Dxに沿ってしめ輪3側から見た図である。図3は、図1におけるIII-III線に沿う差し口Mの概略的な断面図である。図4は、受け口Fと差し口Mが連結された状態における結合金具Cの部分断面図である。
【0025】
図2および図3に示すように、軸AX1,AX2を中心とした周方向Dθを定義する。図2に示すように、受け金具1の内部には、3つの爪7A,7B,7Cが配置されている。爪7A,7B,7Cは、周方向Dθに沿った円弧状であり、均等な間隔で周方向Dθに並んでいる。爪7A,7B,7Cの周方向Dθにおける長さは、いずれもLである。ただし、爪7A,7B,7Cの周方向Dθにおける長さが異なってもよい。
【0026】
図2の例において、受け口Fは、爪7Aの位置を示すマークMK1を有している。マークMK1は、例えば軸AX1に一つの角が向けられた三角形または矢印であり、図2および図4に示すしめ輪3の端面31に形成されている。他の例として、マークMK1は、周方向Dθにおける爪7Aの範囲を示すものであってもよい。
【0027】
図3に示すように、押し輪6の円筒部61は、第1部分P1と、第2部分P2とを有している。第1部分P1および第2部分P2は、後述するように先端6aの形状において異なる。第1部分P1は、周方向Dθにおいて長さL1を有している。第2部分P2は、周方向Dθにおいて長さL2を有している。
【0028】
長さL2は、長さL1よりも小さい(L1>L2)。一例として、長さL2は長さL1の1/2以下であり、好ましくは1/3以下である。また、長さL2は、爪7Aの周方向Dθにおける長さL以上である(L≦L2)。長さL2は、長さLよりも若干大きいことが好ましい。
【0029】
図3の例において、差し口Mは、第2部分P2の位置を示すマークMK2を有している。マークMK2は、例えば軸AX2の反対方向に一つの角が向けられた三角形または矢印であり、図4に示すフランジ部62の端面63(図3に示すフランジ部62の裏面)に形成されている。他の例として、マークMK2は、周方向Dθにおける第2部分P2の範囲を示すものであってもよい。
【0030】
押し輪6は、差し金具2の外周面2cに対して固定されていない。押し輪6は、差し口Mと受け口Fが結合されていない状態および差し口Mと受け口Fが結合された状態の双方において、外周面2cに対し周方向Dθに回動可能である。
【0031】
図4に示すように、受け金具1の第2端部1bは、周方向Dθの全体において軸AX1に向けて突出している。しめ輪3は、第2端部1bと軸方向Dxに対向する端部3aを有している。端部3aは、周方向Dθの全体において軸AX1に向けて突出している。
【0032】
受け口Fは、拡径部12の内側に配置されたシール材8と、爪7A,7B,7Cを保持する爪座9とをさらに備えている。シール材8は、例えば環状のゴムパッキンである。爪座9は、しめ輪3によって受け金具1に固定されており、第2端部1bと端部3aの間に配置されている。
【0033】
爪7Aは、爪座9と第2端部1bの間において、半径方向Drと平行に移動可能である。爪7Aは、例えば板ばねである弾性部材70によって軸AX1に向けて付勢されている。なお、爪7B,7Cも爪7Aと同じく爪座9と第2端部1bの間において半径方向Drと平行に移動可能であり、弾性部材70によって軸AX1に向けて付勢されている。
【0034】
受け口Fと差し口Mを結合する際には、しめ輪3の開口を通じて差し金具2の第2端部2bを受け金具1の拡径部12に挿入する。このとき、凸部22が弾性部材70の付勢力に抗して爪7A,7B,7Cを半径方向Drに押し上げる。これにより、図4に示すように第2端部2bが拡径部12の内面に接触する位置まで差し金具2が受け金具1に差し込まれる。
【0035】
第2端部2bが拡径部12の内面に接触した状態においては、受け金具1の内部に形成された第1流路10と、差し金具2の内部に形成された第2流路20とが接続される。このとき、シール材8のリップが凸部22の外周面22aに接触し、受け金具1と差し金具2の隙間が液密に保たれる。
【0036】
さらに、爪7A,7B,7Cが弾性部材70の付勢力により差し金具2の外周面2cに接触する。この状態においては、爪7A,7B,7Cのそれぞれの一部が凸部22と軸方向Dxに対向する。すなわち、凸部22と爪7A,7B,7Cが軸方向Dxに係合するために、受け金具1と差し金具2を離脱させることができない。詳しくは後述するが、受け金具1と差し金具2を離脱させる際には、押し輪6を用いて凸部22と爪7A,7B,7Cの係合を解除する。
【0037】
図5は、図3に示した押し輪6の第1部分P1に適用し得る形状の一例を示す断面図である。第1部分P1において、押し輪6の先端6aは、厚さT1を有している。図5の例においては、差し金具2の外周面2cと対向する円筒部61の内周面61aと、その反対側の外周面61bとが平行である。すなわち、円筒部61の厚さが全体的に厚さT1で一定である。ただし、円筒部61は、先端6aとフランジ部62の間において厚さT1よりも厚い部分や薄い部分を含んでもよい。
【0038】
図6は、図3に示した押し輪6の第2部分P2に適用し得る形状の一例を示す断面図である。第2部分P2において、先端6aは、厚さT1よりも小さい厚さT2を有している(T1>T2)。
【0039】
図6の例においては、先端6a近傍を除く円筒部61の大部分が厚さT1を有している。また、円筒部61の外周面61bは、先端6a近傍に傾斜面6bを有している。傾斜面6bは、先端6aから軸方向Dx(図中左方)に離れるに連れて外周面2cとの距離が大きくなるように傾斜している。傾斜面6bは、例えば図示したように軸方向Dxに沿う断面形状が直線状であり、かつ周方向Dθに沿う断面形状が円弧状の曲面である。
【0040】
図7は、第2部分P2に適用し得る形状の他の例を示す断面図である。この例において、傾斜面6bは、図示したように軸方向Dxに沿う断面形状が円弧状であり、かつ周方向Dθに沿う断面形状も円弧状の曲面(円環面の一部に相当する曲面)である。
【0041】
図6および図7の例においては、先端6aが半径方向Drと平行な平面である。他の例として、先端6aは曲面であってもよいし、実質的に厚さT2が零の尖形であってもよい。
【0042】
図8は、図2に示した爪7Aに適用し得る形状の一例を示す断面図である。爪7Aは、弾性部材70と接触する付勢面71と、受け口Fと差し口Mが結合した状態において凸部22と接触する係合面72と、当該状態において差し金具2の外周面2cと接触する先端面73とを有している。付勢面71および先端面73は軸方向Dxと平行な平面であり、係合面72は半径方向Drと平行な平面である。
【0043】
爪7Aは、受け口Fと差し口Mが結合した状態において押し輪6の円筒部61と対向する位置に、作用面74および規制面75を有している。作用面74は、半径方向Drにおいて規制面75よりも先端面73側(軸AX1側)に位置している。
【0044】
作用面74は、規制面75から軸方向Dx(図中右方)に離れるに連れて軸AX1との距離が小さくなる傾斜面であり、一例では図示したように軸方向Dxに沿う断面形状が円弧状の曲面である。規制面75は、作用面74よりも垂直に近い角度で軸方向Dxと交わる面であり、一例では図示したように軸方向Dxと直交する平面である。
【0045】
作用面74は、半径方向Drにおいて高さH1を有している。規制面75は、半径方向Drにおいて高さH2を有している。一例として、高さH2は2mm以上である。図8の例においては高さH1が高さH2よりも小さいが、この例に限られない。
【0046】
図5に示した厚さT1は、高さH1よりも大きい(T1>H1)。また、厚さT1は、高さH1,H2の和よりも小さい(T1<H1+H2)。図6および図7に示した厚さT2は、高さH1よりも小さい(T2<H1)。
【0047】
図9は、爪7Aに適用し得る形状の他の例を示す断面図である。この例において、作用面74は、軸方向Dxに沿う断面形状が直線状の平面である。図8および図9に示したものに限られず、爪7Aには種々の形状を適用し得る。
【0048】
図10は、爪7B,7Cに適用し得る形状の一例を示す断面図である。爪7B,7Cは、爪7Aと同じく付勢面71、係合面72および先端面73を有している。さらに、爪7B,7Cは、受け口Fと差し口Mが結合した状態において押し輪6の円筒部61と対向する位置に作用面76を有している。
【0049】
図10の例における作用面76は、図8に示した作用面74と同様の曲面である。爪7B,7Cは、爪7Aの規制面75に相当する部分を有していない。
【0050】
作用面76は、半径方向Drにおいて高さH3を有している。高さH3は、高さH1よりも大きく(H1<H3)、一例では高さH1,H2の和と同程度である(H1+H2=H3)。また、図5に示した第1部分P1における先端6aの厚さT1は、高さH3よりも小さい(T1<H3)。
【0051】
図11は、爪7B,7Cに適用し得る形状の他の例を示す断面図である。この例において、作用面76は、軸方向Dxに沿う断面形状が直線状の平面である。図10および図11に示したものに限られず、爪7B,7Cには種々の形状を適用し得る。
【0052】
続いて、本実施形態に係る結合金具Cの作用について説明する。
図12乃至図14は、受け口Fと差し口Mが連結された状態における結合金具Cの一部を示す断面図である。図12の断面図は押し輪6の第1部分P1と爪7Aを含み、図13の断面図は押し輪6の第2部分P2と爪7Aを含み、図14の断面図は押し輪6の第1部分P1と爪7Bを含む。
【0053】
図12において矢印Aで示すように押し輪6が爪7Aに向けて押されると、押し輪6が差し金具2の外周面2cに対し軸方向Dxにスライドする。このとき、押し輪6の円筒部61はしめ輪3の端部3aと外周面2cの隙間および爪座9と外周面2cの隙間を通じて爪7Aに向かい、やがて先端6aが爪7Aに接触する。
【0054】
図5および図8を用いて説明したように、第1部分P1における先端6aの厚さT1は、作用面74の高さH1よりも大きい。したがって、図12に示すように周方向Dθにおいて第1部分P1と爪7Aの位置が一致した状態においては、押し輪6が所定位置まで押し込まれると先端6aが規制面75に接触し、爪7Aと外周面2cの間への押し輪6の移動が規制される。すなわち、爪7Aが半径方向Drに押し上げられないので、爪7Aと凸部22の係合が維持される。
【0055】
図13に示すように周方向Dθにおいて押し輪6の第2部分P2と爪7Aの位置が一致した状態で押し輪6が押された場合も、円筒部61は、しめ輪3の端部3aと外周面2cの隙間および爪座9と外周面2cの隙間を通じて爪7Aに向かう。
【0056】
図6および図8を用いて説明したように、第2部分P2における先端6aの厚さT2は、作用面74の高さH1よりも小さい。したがって、先端6aが規制面75と接触せずに作用面74と外周面2cの間に入り込む。さらに、第2部分P2の傾斜面6bと作用面74が接触して、作用面74に半径方向Drへの力が働く。これにより、押し輪6が押し込まれるに連れて爪7Aが弾性部材70の付勢力に抗して半径方向Drに押し上げられ、凸部22と爪7Aの係合が解除される。
【0057】
図5および図10を用いて説明したように、第1部分P1における先端6aの厚さT1は、爪7Bの作用面76の高さH3よりも小さい。したがって、図14に示すように周方向Dθにおいて第1部分P1と爪7Bの位置が一致した状態で押し輪6が押された場合、先端6aが作用面76と外周面2cの間に入り込む。さらに、先端6aの角部と作用面76が接触して、作用面76に半径方向Drへの力が働く。これにより、押し輪6が押し込まれるに連れて爪7Bが弾性部材70の付勢力に抗して半径方向Drに押し上げられ、凸部22と爪7Bの係合が解除される。同様に、爪7Cと凸部22の係合も第1部分P1によって解除することが可能である。
【0058】
なお、図12に示すように、凸部22の外径φ1は、第1部分P1における押し輪6の外径φ2よりも小さい(φ1<φ2)。外径φ1は軸AX1,AX2から円筒部61の外周面22aまでの距離に相当し、外径φ2は軸AX1,AX2から凸部22の外周面61bまでの距離に相当する。
【0059】
さらに、差し口Mが受け口Fに挿し込まれていない状態(爪7Aが最大限内側に突出した状態)においては、爪7Aの作用面74と規制面75の境界が軸AX1から半径φ3の箇所に位置する。半径φ3は、外径φ1よりも大きく、かつ外径φ2よりも小さい(φ1<φ3<φ2)。
【0060】
このような関係においては、受け口Fに差し口Mを挿し込む際に、凸部22が爪7Aの規制面75と接触せずに、作用面74と接触する。また、凸部22は、爪7B,7Cの作用面76にも接触する。これにより、規制面75に阻害されることなく、凸部22が爪7A,7B,7Cを押し上げて、差し金具2が図12に示した位置まで挿し込まれる。凸部22の挿入を円滑化するために、第2端部2b側の凸部22の角部に傾斜面が設けられてもよい。この場合において、軸方向Dxに沿う傾斜面の断面形状は直線状であってもよいし、円弧状であってもよい。
【0061】
従来の差込式の結合金具においては、押し輪の先端が周方向の全体にわたって一様な形状であり、かつ複数の爪も同形状である。このような結合金具で結合された消防用ホースを用いた消火活動において、結合金具が何らかの障害物に当たると、押し輪が意図せず押されて差し金具と受け金具が離脱する可能性がある。このような離脱は、消火活動の重大な遅延に繋がりかねない。
【0062】
これに対し、本実施形態に係る結合金具Cにおいては、押し輪6が第1部分P1と第2部分P2を有している。さらに、爪7Aは第2部分P2で押し上げることができるが、第1部分P1では押し上げることができない。この場合、例えば受け金具1と差し金具2を結合した後に、消防隊員などの作業者が意図的に押し輪6を回動させて爪7Aと第2部分P2の周方向Dθにおける位置を合わせない限り、押し輪6が障害物などに押されたとしても凸部22と爪7Aの係合が解除されない。したがって、受け金具1と差し金具2の意図せぬ離脱を効果的に抑制できる。
【0063】
その後、受け金具1と差し金具2を離脱させる際には、作業者が押し輪6を回動させて爪7Aと第2部分P2の周方向Dθにおける位置を一致させる。この状態で作業者が押し輪6を押せば凸部22と爪7A,7B,7Cの係合が全て解除され、受け金具1と差し金具2を離脱させることができる。
【0064】
図8および図9に示したように規制面75が軸方向Dxと直交する平面であれば、第1部分P1における押し輪6の先端6aを規制面75で好適に受け止めることができる。したがって、押し輪6に大きな力が加わったとしても、受け金具1と差し金具2の意図せぬ離脱を抑制できる。
【0065】
また、図6および図7に示したように第2部分P2が傾斜面6bを有し、図8乃至図10に示したように作用面74,76が傾斜していれば、結合の解除に際して爪7A,7B,7Cを容易に押し上げることができる。
【0066】
また、図2に示したように受け口Fが爪7Aの位置を示すマークMK1を有し、図3に示したように差し口Mが第2部分P2の位置を示すマークMK2を有していれば、受け金具1と差し金具2のロックとその解除が極めて容易となる。すなわち、これらマークMK1,MK2の位置をずらせば爪7Aと第2部分P2の位置がずれ、これらマークMK1,MK2の位置を一致させれば爪7Aと第2部分P2の位置が一致する。
【0067】
本実施形態においては、マークMK1がしめ輪3の端面31に形成され、マークMK2がフランジ部62の端面63に形成されている。この場合、結合金具Cを差し口M側から受け口F側に向けて見ることで、マークMK1,MK2の双方を同時に視認することができる。これにより、押し輪6を回動させてマークMK1,MK2の位置を一致させる作業が極めて容易となる。
【0068】
以上の実施形態は、本発明の範囲を各実施形態にて開示した構成に限定するものではない。その他にも、用途に応じた種々の構造を結合金具に適用できる。
【0069】
例えば、上記実施形態においては消防用ホースが受け口Fおよび差し口Mの双方に接続される結合金具Cを例示したが、受け口Fおよび差し口Mの少なくとも一方が消火栓や消防車両などの構造物に設けられてもよい。
【0070】
また、上記実施形態においては受け口Fが3つの爪7A,7B,7Cを備える場合を例示したが、受け口Fが備える爪の数は3つに限定されず、2つ以下であってもよいし4つ以上であってもよい。
【0071】
また、上記実施形態においては受け口Fが備える複数の爪7A,7B,7Cのうち爪7Aにのみ規制面75が設けられる場合を例示したが、他の爪にも規制面75が設けられてもよい。この場合において、規制面75が設けられた爪に対応する数の第2部分P2を円筒部61に設けてもよいし、これらの爪をカバーし得る長さの第2部分P2を円筒部61に設けてもよい。
【符号の説明】
【0072】
C…結合金具、F…受け口、M…差し口、1…受け金具、2…差し金具、3…しめ輪、4…バンド、5…止め輪、6…押し輪、6a…先端、P1…第1部分、P2…第2部分、7A,7B,7C…爪、8…シール材、9…爪座、22…凸部、70…弾性部材、74…作用面、75…規制面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14