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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04302 20160101AFI20240213BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20240213BHJP
   H01M 8/04828 20160101ALI20240213BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240213BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20240213BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20240213BHJP
【FI】
H01M8/04302
H01M8/04537
H01M8/04828
H01M8/04746
H01M8/04225
H01M8/0432
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020118502
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015572
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博之
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-258111(JP,A)
【文献】特開2014-241211(JP,A)
【文献】特開2010-218876(JP,A)
【文献】特開2011-134529(JP,A)
【文献】特開2012-009406(JP,A)
【文献】特開2008-041625(JP,A)
【文献】特開2017-084453(JP,A)
【文献】特開2008-084603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルを有する燃料電池スタックを備える燃料電池ユニットと、
前記燃料電池ユニットを制御する制御部と、
を備え、
前記燃料電池ユニットは、前記燃料電池セルの電圧を検出する電圧検出部を有し、
前記制御部は、
前記燃料電池セルの電圧に関して予め設定された異常確定前条件と、前記電圧検出部によって検出された前記燃料電池セルの電圧とを比較し、
前記燃料電池セルの電圧が前記異常確定前条件を最初に満たす場合、前記燃料電池スタックのカソード側の掃気処理を行う第1処理を実行し、
前記燃料電池セルの電圧が前記異常確定前条件を再び満たす場合、前記燃料電池スタック内に存在する水素を排気する水素排気処理、前記燃料電池スタックに水素を供給する水素供給処理、及び前記水素排気処理と前記水素供給処理とのいずれも行うことなく待機する待機処理を含む第2処理を実行する、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1処理を実行した後に、前記燃料電池セルの電圧が再び前記異常確定前条件を満たす場合、前記第2処理を実行する、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2処理において、前記水素排気処理と前記水素供給処理と前記待機処理とを含む処理サイクルを複数回繰り返す、
請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記燃料電池ユニットを氷点下環境において始動する際に、前記第1処理と前記第2処理とを実行する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、燃料電池を搭載する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、酸素を含む空気と水素を供給された燃料電池スタックにおいて酸素と水素を結合させることにより発電を行う。
【0003】
この燃料電池システムを氷点下環境において始動する際、燃料電池スタックを構成する個々の燃料電池セル内部において、残存する水が凍結し、水素の供給を適切に行えなくなることがある。燃料電池セルでは、水素の新規の供給が行われず、内部に残存する水素が発電に使用されるため、水素の濃度が低下する。このように水素が欠乏する現象(以下、「水素欠乏」という。)が発生すると、燃料電池セルの不可逆劣化が進行する。
【0004】
この燃料電池システムを氷点下環境において始動する際、燃料電池セル内部における残存水の凍結により、上記の水素欠乏のほか、酸素の供給不足により酸素が欠乏する現象(以下、「酸素欠乏」という。)が発生することもある。特許文献1には、燃料電池の電圧低下の原因を、水素欠乏であるか酸素欠乏であるかを判定し、判定結果に基づいてそれぞれ適切な対策をとることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-147102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、電流値の変化に対する電圧特性から、水素欠乏であるか酸素欠乏であるかを判定することが提案されている。しかしながら、水素欠乏が生じている場合にこのような判定を行うと、燃料電池セルの劣化を更に進行させる恐れがある。そして、水素欠乏か酸素欠乏かを判定するために一定の時間が掛かり、始動性を悪化させる問題がある。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、氷点下環境において、燃料電池セルの劣化を抑制し、始動性を向上させることができる、燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る燃料電池システムは、燃料電池セルを有する燃料電池スタックを備える燃料電池ユニットと、燃料電池ユニットを制御する制御部と、を備え、燃料電池ユニットは、燃料電池セルの電圧を検出する電圧検出部を有し、制御部は、燃料電池セルの電圧に関して予め設定された異常確定前条件と、電圧検出部によって検出された燃料電池セルの電圧とを比較し、燃料電池セルの電圧が異常確定前条件を最初に満たす場合、燃料電池スタックのカソード側の掃気処理を行う第1処理を実行し、燃料電池セルの電圧が異常確定前条件を再び満たす場合、燃料電池スタック内に存在する水素を排気する水素排気処理、燃料電池スタックに水素を供給する水素供給処理、及び水素排気処理と水素供給処理とのいずれも行うことなく待機する待機処理を含む第2処理を実行する。
【0009】
本開示に係る燃料電池システムにおいて、制御部は、第1処理を実行した後に、再び燃料電池セルの電圧が異常確定前条件を満たす場合、第2処理を実行してもよい。
【0010】
本開示に係る燃料電池システムにおいて、制御部は、第2処理として、水素排気処理と水素供給処理と待機処理とを含む処理サイクルを複数回繰り返してもよい。
【0011】
本開示に係る燃料電池システムにおいて、制御部は、燃料電池ユニットを氷点下環境において始動する際に、第1処理と第2処理とを実行してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、氷点下環境において、燃料電池セルの劣化を抑制し、始動性を向上させることができる燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1に係る燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係るセルモニタと燃料電池の接続状態を示す説明図である。
図3】実施の形態1に係る燃料電池システムのセル電圧と制御手順との関係を示すタイミングチャートである。
図4】実施の形態1に係る燃料電池システムの制御手順と水素圧との関係を示すタイミングチャートである。
図5】実施の形態1に係る燃料電池スタックの各燃料電池セル内のアノード側の気体の成分割合を示す説明図である。
図6】実施の形態1に係る水素排気処理と水素供給処理とにより、水素欠乏状態の燃料電池セルの水素濃度が上昇する様子を示す説明図である。
図7】実施の形態1に係る燃料電池システムの制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、燃料電池システムの実施の形態につき、図面を用いて説明する。
【0015】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における燃料電池システム100の構成について、図1を参照して説明する。図1は、実施の形態1に係る燃料電池システム100の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
[燃料電池システムの構成]
図1に示される燃料電池システム100は、主に、制御部101と、燃料電池ユニット110とを備えている。
【0017】
燃料電池システム100は、発電した電力を産業車両等の負荷200に供給する。燃料電池ユニット110には、コンプレッサ111と、水素タンク112と、水素供給弁113aと、インジェクタ113bと、圧力センサ113sと、排気排水弁114と、ポンプ115と、燃料電池スタック116と、セルモニタ116sと、ラジエータ117と、電圧変換部118と、蓄電装置119とが設けられている。
【0018】
制御部101は、たとえば、CPU、RAM、ROM、インタフェース回路などを備えたコンピュータによって構成される。制御部101は、燃料電池ユニット110の発電に関連する各種制御を行うと共に、氷点下環境における始動時の制御を行う。制御部101と各構成部とは、図1中のA~Hのように接続されている。
【0019】
コンプレッサ111は、制御部101に制御され、酸素を含む空気を燃料電池スタック116に供給する。なお、燃料電池スタック116で酸素が使用された残りの空気は、カソードオフガスとして燃料電池スタック116から排出される。
【0020】
水素タンク112は、水素供給弁113aとインジェクタ113bとを通して、充填されている水素を燃料電池スタック116に供給する。水素供給弁113aとインジェクタ113bとは、制御部101に制御され、水素タンク112から燃料電池スタック116に供給する水素ガス量と水素圧を調整する。圧力センサ113sは、燃料電池スタック116における水素圧を検出し、検出結果を制御部101に通知する。
【0021】
排気排水弁114は、燃料電池スタック116から排出されるアノードオフガスに含まれる水素と水とを分離して水を排出し、水素をポンプ115に供給する。ポンプ115は、排気排水弁114により分離された水素を、水素タンク112からの水素配管に合流させ、燃料電池スタック116に供給する。
【0022】
燃料電池スタック116は、複数個の発電する燃料電池セルが積層されたスタック構造により構成されている。具体的には、燃料電池スタック116は、第1エンドプレート116aと、第1絶縁板116bと、第1集電板116cと、スタック構造の複数の燃料電池セル116dと、第2集電板116eと、第2絶縁板116fと、第2エンドプレート116gとを、順に積層したスタック構造となっている。
【0023】
燃料電池セル116dのそれぞれは、図示はしないが、電解質膜の両面を2つのセパレータで挟んだ構造になっている。電解質膜の一方の面にはカソード電極が配置され、電解質膜の他方の面にはアノード電極が配置される。
【0024】
燃料電池スタック116は、制御部101の制御に基づいて、水素供給弁113aとインジェクタ113bとを介した水素タンク112からの水素と、コンプレッサ111からの空気に含まれる酸素とにより、発電を行う。燃料電池スタック116には、セルモニタ116sが取り付けられている。セルモニタ116sは、各燃料電池セル116dの電圧を検出する電圧検出部を構成するものである。
【0025】
セルモニタ116sは、図2に示すように、スタック構造をなす複数の燃料電池セル116dに対して個別に接続されている。この接続状態のもとで、セルモニタ116sは、各々の燃料電池セル116dごとに、各燃料電池セル116dの電圧(以下、「セル電圧」ともいう。)を検出する。セルモニタ116sは、検出したセル電圧を制御部101に通知する。
【0026】
ラジエータ117は、燃料電池スタック116内の冷却媒体循環系を循環する冷却媒体により燃料電池スタック116で発生する熱を回収する。ラジエータ117には、冷却ファンが設けられている。ラジエータ117は、回収した熱を、冷却ファンの送風により、燃料電池ユニット110の外部に放出する。また、ラジエータ117には、温度センサ117sが設けられている。温度センサ117sは、冷却媒体の温度を制御部101に通知する。制御部101は、温度センサ117sによる冷却媒体温度の検出結果によって、燃料電池ユニット110が氷点下環境に存在するか否かを判定する。
【0027】
電圧変換部118は、DCDCコンバータなどにより構成されており、燃料電池スタック116の発電出力を一定の電圧に変換する。たとえば、電圧変換部118は、燃料電池スタック116の出力側に取り付けられた電圧変換部であり、たとえば、80ボルト程度の電圧を48ボルト又は12ボルト程度の電圧に変換して出力する。
【0028】
蓄電装置119は、電圧変換部118から出力される電力を充電可能に電圧変換部118と負荷200との間に接続されている。蓄電装置119は、負荷において瞬間的な大電流が流れる際には充電された電力を放出する。
【0029】
負荷200は、電圧変換部118から供給される電力により駆動する。この負荷200は、産業車両の走行モータなどの車両部、または荷役モータなどの荷役部が該当する。
【0030】
[燃料電池システムの制御]
上記構成からなる燃料電池システム100においては、水素タンク112から燃料電池スタック116に供給された水素と、コンプレッサ111によって燃料電池スタック116に供給されたエアに含まれる酸素とが、燃料電池スタック116内で各々の燃料電池セル116dに分配して供給される。その際、燃料電池セル116dのアノード側には水素が供給され、燃料電池セル116dのカソード側には酸素が供給される。これにより、燃料電池セル116dは、水素と酸素の電気化学反応によって発電する。
【0031】
ここで、何らかの理由により、いずれかの燃料電池セル116dで酸素欠乏または水素欠乏のいずれか一方または両方が発生すると、この燃料電池セル116dの電圧が低下する。酸素欠乏と水素欠乏とは、たとえば、氷点下の環境で燃料電池システム100を起動するときに、燃料電池セル116d内の凍結が原因で発生する。
【0032】
水素欠乏が発生した状態で燃料電池スタック116の発電を継続すると、水素欠乏を起こしている燃料電池セル116dの電圧が徐々に低下する。そして、燃料電池セル116dの電圧が負電圧となって所定の電圧値を下回ると、カーボンの酸化などによって燃料電池セル116dが劣化するおそれがある。そこで、本開示実施形態においては、上記構成の燃料電池システム100を以下のように制御することにより、燃料電池セル116dの劣化を抑制する。
【0033】
以下、燃料電池システム100の異常時の制御方法を説明する。図3は、実施の形態1に係る燃料電池システム100のセル電圧と制御手順との関係を示すタイミングチャートである。燃料電池システム100の制御方法は、制御部101の制御のもので以下のように行われる。
【0034】
[カソード掃気処理と水素欠乏復帰制御処理]
図3の(a)は、セル電圧の経時的な変化を示している。図3の(b)~(e)は、制御部101による制御処理のタイムチャートを示している。このタイムチャートにおいて、図3の(b)は、燃料電池スタック116の発電状態を示している。図3の(c)は、第1の処理として、カソード側の掃気を行うカソード掃気処理を示している。
【0035】
図3の(d)は、アノード側において燃料電池セル116d内に残っている水素を含むガスの排気と水素供給による、第2処理としての水素欠乏復帰制御処理を示している。図3の(e)は、燃料電池スタック116におけるエラーフラグの状態を示している。ここで、カソード掃気と水素欠乏復帰制御処理とを実行している場合をONと記載し、実行していない場合をOFFと記載している。エラーフラグは、燃料電池システムを停止させる必要のあるエラーが発生した場合にON状態となり、それ以外はOFF状態に保持される。
【0036】
まず、制御部101は、セルモニタ116sから与えられる検出結果に基づいて、各々の燃料電池セル116dの電圧を監視する。具体的には、セルモニタ116sによって検出される燃料電池セル116dの電圧と、燃料電池セル116dの電圧に関して予め設定された閾値電圧とを比較する。閾値電圧は、燃料電池セル116dの電圧が異常であることを確定するために予め設定される条件である。
【0037】
異常確定条件と異常確定前条件とは、たとえば次のように設定される。まず、水素欠乏の発生によって燃料電池セル116dの電圧が低下した場合に、カーボンの酸化などによって燃料電池セル116dが劣化し始める電圧を、異常確定条件の電圧として、異常確定閾値電圧V1とする。
【0038】
そして、異常確定に近づいたことを判定する異常確定前条件としての異常確定前閾値電圧V2が、上記の異常確定閾値電圧V1よりも高い電圧値で設定される。異常確定前閾値電圧V2は、セルモニタ116sによって検出される燃料電池セル116dの電圧が異常確定条件に近づいたかどうかを判断するために制御部101に設定される電圧である。
【0039】
制御部101は、セルモニタ116sによって検出される燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を満たさない場合、すなわちセル電圧が異常確定前閾値電圧V2以上である場合は、以下の制御を実行せずに、燃料電池スタック116の発電状態を発電中に維持する。より具体的に記述すると、制御部101は、すべての燃料電池セル116dの電圧が異常確定前閾値電圧V2以上であれば、以下の制御を実行せずに燃料電池スタック116の発電を継続する。
【0040】
制御部101は、セルモニタ116sによって検出される燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を満たす場合、すなわちセル電圧が異常確定前閾値電圧V2未満である場合は、以下の制御を実行する。
【0041】
なお、氷点下環境下での燃料電池システム100の始動時は、燃料電池セル116d内部の凍結により、水素欠乏状態が発生する危険性がある。水素欠乏状態になるとカーボン酸化により燃料電池セル116dの不可逆劣化が進行する。この水素欠乏状態はセル電圧が0V未満になるのに対して、カソードでの酸素欠乏状態においてもセル電圧が0V未満になる。そのため、セル電圧が0V未満だからと言って必ず水素欠乏とは限らない。水素欠乏ではなく酸素欠乏で電圧が低下したときに水素欠乏復帰制御処理を実行すると、無駄に水素を排気することになり、燃費の悪化や排気水素濃度の上昇といった懸念が発生する。
【0042】
そこで、制御部101は、以下のようにカソード掃気処理と水素欠乏復帰制御処理とを、以下のように行う。図3の(a)における(a1)のように、セルモニタ116sによって検出される燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を最初に満たす場合、すなわちセル電圧が異常確定前閾値電圧V2未満である場合は、図3の(b)における(b1)のように、燃料電池スタック116の発電状態を発電中から発電停止へと切り替える。
【0043】
制御部101は、燃料電池スタック116の発電を停止した状態で、図3の(c)における(c1)~(c2)のように、予め決められた時間だけカソード掃気処理を実行する。カソード掃気は、コンプレッサ111から燃料電池スタック116のカソードに空気を供給し、空気の流れにより各発電セルの内部に残留している水を除去する処理である。
【0044】
燃料電池スタック116の発電停止は、電圧変換部118から負荷200への電力供給を制御部101が停止することにより行われる。このとき、制御部101は、電圧変換部118を制御して燃料電池スタック116の出力電流をゼロにするため、図3の(a)における(a2)のように、セル電圧は開放電圧(OCV)レベルまで上昇する。
【0045】
ここで、図3の(b)における(b2)のように、燃料電池スタック116の発電状態を発電停止から発電中へと切り替えた場合、酸素欠乏が解消したとしても水素欠乏が解消していないと、図3の(a)における(a3)のように、セル電圧は再び異常確定前閾値電圧V2未満に低下してしまう。
【0046】
そこで、制御部101は、以下に述べる水素欠乏復帰制御を実行することにより、水素欠乏の状態を改善する。図3の(b)における(b3)のように、燃料電池スタック116の発電状態を発電中から発電停止へと切り替える。
【0047】
制御部101は、燃料電池スタック116の発電を停止した状態で、図3の(d)中の(d1)~(d2)のように、予め決められた時間だけ水素欠乏復帰制御処理として、水素の排気と供給とを実行する。このとき、制御部101は、電圧変換部118を制御して燃料電池スタック116の出力電流をゼロにするため、図3の(a)における(a4)のように、セル電圧は開放電圧(OCV)レベルまで上昇する。
【0048】
ただし、燃料電池セル116dの水素欠乏を完全に解消しないまま燃料電池スタック116の発電を再開すると、セル電圧は再び異常確定前閾値電圧V2未満に低下してしまう。そこで、制御部101は、以下に詳細に述べる水素欠乏復帰制御処理を実行することにより、水素欠乏の状態を改善する。
【0049】
以下、図4を参照して水素欠乏復帰制御処理を詳細に説明する。図4は、実施の形態1に係る燃料電池システム100の制御手順と水素圧との関係を示すタイミングチャートである。
図4の(a)は、各フェーズの処理内容を示している。図4の(b)は、ポンプ115によるアノードオフガス中の水素の環流状態を示している。図4の(c)は、排気排水弁114の開閉を示している。図4の(d)は、インジェクタ113bから燃料電池スタック116への水素供給を示している。図4の(e)は、燃料電池スタック116における水素圧の経時的な変化を示している。この図4の(e)において、縦軸のP3は水素供給目標圧であり、P2は排気目標圧であり、P1は大気圧である。
【0050】
図4の(a)に示すように、水素欠乏復帰制御処理は、燃料電池スタック116内に存在するアノード側の気体を排気する処理(以下、「水素排気処理」ともいう。)と、燃料電池スタック116に水素を供給する処理(以下、「水素供給処理」ともいう)と、燃料電池スタック116内に存在するアノード側の気体に対して排気および水素の供給のいずれも行うことなく待機する処理(以下、「待機処理」ともいう。)と、を含む処理サイクルを、図3の(d)における(d1)~(d2)の時間内に、複数の処理サイクル繰り返す。
【0051】
制御部101は、図4のタイミングt1において、水素欠乏復帰制御処理のうちの水素排気処理を開始する。図4のタイミングt1は、既に説明した図3の(d1)に相当する。
【0052】
タイミングt1において、制御部101は、図4の(b)に示すようにポンプ115の動作を停止させ、図4の(c)に示すように排気排水弁114を開状態とし、かつ、図4の(d)に示すようにインジェクタ113bを停止状態とする。これにより、水素排気処理では、水素タンク112から燃料電池スタック116への水素の供給が停止され、かつ、アノードオフガス中の水素の環流動作が停止された状態において、燃料電池スタック116内の水素が排気される。
【0053】
以上の水素排気処理により、図4の(e)中の(e1)のように、燃料電池スタック116の水素圧が徐々に低下する。このとき、制御部101は、圧力センサ113sによって検出される燃料電池スタック116の水素圧を監視している。そして、燃料電池スタック116の水素圧が排気目標圧P2まで低下した時点で、制御部101は、水素排気処理を停止する。
【0054】
排気目標圧P2は、燃料電池スタック116内に存在する気体を水素排気処理によって排気するときに目標とすべき圧力として、予め設定されるものである。なお、排気目標圧P2は、大気圧P1よりも高い圧力に設定されることが望ましい。このように、P2>P1という設定により、水素排気処理で排気排水弁114を開状態とした場合に、燃料電池スタック116内への大気の流入が抑制される。
【0055】
次に、制御部101は、水素供給処理を行う。水素供給処理に際して、制御部101は、図4の(b)に示すようにポンプ115の動作を停止させたまま、図4の(c)に示すように排気排水弁114を閉止状態とし、かつ、図4の(d)に示すようにインジェクタ113bを動作状態とする。これにより、水素供給処理では、アノードオフガス中の水素の環流動作が停止され、かつ、燃料電池スタック116内の水素が閉じ込められた状態で、水素タンク112から燃料電池スタック116へと水素が供給される。
【0056】
以上の水素供給処理により、図4の(e)中の(e2)のように、燃料電池スタック116の水素圧が徐々に上昇する。このとき、制御部101は、圧力センサ113sによって検出される燃料電池スタック116の水素圧を監視している。そして、燃料電池スタック116の水素圧が水素供給目標圧P3まで上昇した時点で、制御部101は、水素供給処理を停止する。
【0057】
水素供給目標圧力P3は、燃料電池スタック116に水素を供給するときに目標とすべき圧力として予め設定されるものである。なお、水素供給目標圧力P3は、たとえば、水素欠乏復帰制御処理を開始する前の水素圧にあわせて設定される。
【0058】
次に、制御部101は、一定時間の待機処理を行う。待機処理に際して、制御部101は、図4の(b)に示すようにポンプ115の動作を停止させたまま、図4の(c)に示すように排気排水弁114を閉止状態とし、かつ、図4の(d)に示すようにインジェクタ113bを動作停止状態とする。これにより、待機処理では、燃料電池スタック116に対して水素の排気および水素の供給のいずれも行われない。この待機処理を一定時間にわたって行うことにより、直前の水素供給処理によって燃料電池スタック116に供給された水素が、複数の燃料電池セル116d全てに行き渡る。また、この待機処理により、各燃料電池セル116d内の水素濃度が均一化される。
【0059】
そして、以上の一連の水素排気処理、水素供給処理、及び待機処理により、1回の処理サイクルが終了する。その後、制御部101は、次の処理サイクルにおいて、水素排気処理、水素供給処理および待機処理を実行する。すなわち、制御部101は、図3の(d)における(d1)~(d2)に示す予め決められた時間内に、複数の処理サイクル繰り返す。
【0060】
そして、水素欠乏復帰制御処理において予め決められた時間が経過し、図3の(d)における(d2)に達すると、制御部101は、水素欠乏復帰制御処理を終了し、図3の(b)における(b4)のように、燃料電池スタック116の発電状態を発電停止から発電中へと切り替える。
【0061】
以上の図3図4に示したように、カソード掃気処理と水素欠乏復帰制御処理の実行によって、酸素欠乏と水素欠乏の両方の状態が解消されているため、セル電圧は水素欠乏が発生する前の電圧レベルに回復する。また、図3の(a)における(a1)のように、燃料電池セル116dの電圧が異常確定条件V1より高い異常確定前条件を満たす時点において、制御部101は、カソード掃気処理と水素欠乏復帰制御処理とを実行するように制御しているため、図4の(e)に示すエラーフラグはOFF状態を保っている。
【0062】
[水素欠乏復帰制御処理の詳細]
制御部101が上述した水素欠乏復帰制御処理を実行することにより、燃料電池セル116dの内部に新しい水素が供給され、不純物濃度が低下し、水素濃度が上昇する理由を、図5および図6を用いて説明する。
【0063】
図5は、実施の形態1に係る燃料電池スタック116の各燃料電池セル116d内のアノード側の気体の成分割合を示す説明図である。図5において、燃料電池セル116dの各セル#1~#nについて、アノード側の気体の成分割合を示している。ここで、セル#2~#nは、内部に蓄積されているアノード側の気体の成分割合として、水素が80%、その他の不純物が20%である。一方、セル#1は、内部に蓄積されているアノード側の気体の成分割合として、水素が50%、その他の不純物が50%であり、かつ、水素欠乏が発生している状態である。
【0064】
ここで、水素欠乏復帰制御処理によって、水素濃度が上昇する様子を説明する。図6は、実施の形態1に係る水素排気処理と水素供給処理とにより、水素欠乏状態の燃料電池セル116dのセル#1内の水素濃度が上昇する様子を示す説明図である。図6において、縦方向は圧力を示している。
【0065】
図6の(a)は、水素排気処理を実行する前の、水素が50%で不純物が50%のアノード側の気体を示している。すなわち、全圧のうち、水素分圧と不純物の分圧がほぼ等しくなっている。
図6の(b)は、水素排気処理を実行した後の、水素が50%で不純物が50%のアノード側の気体について、総量が減少して圧力が低下した様子を示している。図6の(b)において、セル#1内のアノード側の気体は、水素と不純物の割合が図6の(a)から変化せずに一定のまま、総量が減少する。
【0066】
次に、制御部101は、水素欠乏復帰制御処理において、図6の(b)に示す総量が減少したアノード側の気体に対して水素供給処理を行う。図6の(c)は、水素供給処理により、セル#1内のアノード側の気体における不純物の量は図6の(b)から変化せず、気体の総量が増加することで、水素の割合が増える。すなわち、セル#1において、セル内の水素分圧が高くなる。
【0067】
その後、制御部101は、再び水素排気処理を行う。これにより、図6(d)に示すように、水素と不純物の割合が図6の(c)と同じ比率のまま、セル#1内のアノード側の気体の総量が減少する。
【0068】
次に、制御部101は、水素欠乏復帰制御処理において、図6の(d)に示す総量が減少したアノード側の気体に対して水素供給処理を行う。図6の(e)は、水素供給処理により、セル#1内のアノード側の気体における不純物の量は図6の(d)から変化せず、気体の総量が増加することで、水素の割合が増える。すなわち、セル#1において、セル内の水素分圧が高くなる。
【0069】
以上のように、図6の(a)、(b)、(c)、及び(e)のように、水素排気処理と水素供給処理とを繰り返すことで、アノード側の気体中の不純物の割合が減少し、水素の割合が増加する。すなわち、以上の水素欠乏復帰制御処理により、アノード側の気体中の水素の純度が高まる。
【0070】
ここで、水素欠乏復帰制御処理における水素排気処理と水素供給処理の処理回数Mと、水素供給目標圧P3及び排気目標圧P2との関係を説明する。水素排気処理と水素供給処理とをM処理サイクル実行した後に残る不純物の減少率Xは、
X=(P2/P3)
と表すことができる。
【0071】
なお、既に説明したように、燃料電池スタック116内への大気の流入を抑制するため、大気圧P1との関係で、P2>P1に設定しておく。
たとえば、P2/P3=0.5、M=4とした場合、X=0.0625となる。これは、アノード側の気体に含まれる不純物を1/16にすることを意味する。
【0072】
また、P2/P3の値を0.5より小さく設定することにより、水素欠乏復帰制御処理を効率的に実行することができる。たとえば、P2/P3=0.4とした場合、M=3において、X=0.064となる。従って、P2/P3の値、Mの値を設定することで、所望の処理回数により、アノード側の気体に含まれる不純物を所望の値に減衰させることができる。以上のような水素欠乏復帰制御処理を実行することで、氷点下環境下での燃料電池システム100の始動時における、燃料電池セル116d内部の凍結により発生する水素欠乏状態を解消することができる。
【0073】
[燃料電池システムの制御手順]
以下、燃料電池システム100の制御手順をフローチャートに沿って説明する。図7は、実施の形態1に係る燃料電池システム100の制御手順を示すフローチャートである。ここでは、負荷200が産業車両の走行モータまたは荷役モータである場合を具体例にして、燃料電池システム100の制御手順を説明する。
【0074】
燃料電池システム100の制御部101は、産業車両のキーオン操作が行われることにより起動する。起動時のステップS101において、制御部101は、温度センサ117sによって検出される冷却媒体の温度が氷点下であるかどうかを確認する。
【0075】
ステップS101において、冷却媒体の温度が氷点下でない場合、処理がステップS112の車両動作可能へと処理が進む。
ステップS112において、制御部101は、燃料電池スタック116を発電状態にして、燃料電池ユニット110を通常モードで始動する。この結果、産業車両は動作が可能な状態になる。ここで、動作が可能とは、走行モータによる産業車両の走行が可能になること、または、荷役モータによるフォークなどの荷役部の動作が可能になることを意味する。
【0076】
一方、ステップS101において、冷却媒体の温度が氷点下であると検出された場合、処理がステップS102へと進む。
【0077】
ステップS102において、制御部101は、氷点下始動時に適用される暖機モードで燃料電池スタック116に発電を実行させる。暖機モードは、燃料電池スタック116を急速に暖機するため、燃料電池ユニット110を暖機運転で始動するモードである。暖機運転では、発電状態において、コンプレッサ111によって燃料電池スタック116に供給されるエアの量を少なくして燃料電池スタック116の発熱量を増加させ、燃料電池スタック116の発熱を利用して燃料電池スタック116を暖機する。この後、処理がステップS103へと進む。
【0078】
ステップS103において、制御部101は、セルモニタ116sを用いて燃料電池セル116dの各セルのセル電圧を検出する。この後、処理がステップS104へと進む。
【0079】
ステップS104において、制御部101は、セルモニタ116sを用いて検出したセル電圧と、異常確定前条件として予め設定された異常確定前閾値電圧V2とを比較することにより、セル電圧が異常確定前閾値電圧V2未満であるかどうかを確認する。燃料電池セル116dうち1つのセルでも、電圧が異常確定前閾値電圧V2未満であれば、処理がステップS105へと進む。一方、燃料電池セル116dのすべてのセルの電圧が異常確定前閾値電圧V2以上であれば、処理がステップS110へと進む。
【0080】
ステップS105において、制御部101は、カソード掃気処理または水素欠乏復帰制御処理を実行するため、燃料電池スタック116の発電を停止する。この後、処理がステップS106へと進む。
【0081】
ステップS106において、制御部101は、カソード掃気処理を既に実行したかどうかを確認する。ステップS106において、カソード掃気処理を未実行であれば、ステップS107のカソード掃気処理実行へと処理が進む。
【0082】
ステップS107において、制御部101は、発電を停止した状態において、予め決められた時間だけカソード掃気処理を実行する。すなわち、制御部101は、コンプレッサ111から燃料電池スタック116のカソードに空気を供給し、空気の流れにより各発電セルの内部に残留している水を除去するように制御する。この後、処理がステップS109へと進む。
【0083】
一方、ステップS106において、カソード掃気処理を実行済みであれば、ステップS108の水素欠乏復帰制御処理へと処理が進む。なお、カソード掃気処理を実行済みとは、ステップS108の水素欠乏復帰制御処理を実行する直前のカソード掃気処理であってもよいし、このフローチャートの一連の始動時の処理の中で一度でもカソード掃気処理を実行した場合であってもよい。
【0084】
ステップS108において、制御部101は、発電を停止した状態において、予め決められた時間だけ水素欠乏復帰制御処理として水素排気処理と水素供給処理とを複数サイクル実行する。この水素欠乏復帰制御処理により、燃料電池スタック116内のアノード側の気体中の不純物を減少させ、水素の割合を増加させる。この後、処理がステップS109へと進む。
【0085】
ステップS109において、制御部101は、燃料電池スタック116の発電を再開する。この後、処理がステップS104へと戻る。
【0086】
セル電圧が異常確定前閾値電圧V2未満になる原因が酸素欠乏のみであれば、ステップS107のカソード掃気処理を実行することにより、ステップS109の発電再開により、セル電圧は異常確定前閾値電圧V2以上に上昇する。また、セル電圧が異常確定前閾値電圧V2未満になる原因に水素欠乏が含まれていれば、ステップS108の水素欠乏復帰制御処理を実行することにより、ステップS109の発電再開により、セル電圧は異常確定前閾値電圧V2以上に上昇する。
【0087】
従って、ステップS107のカソード掃気処理を実行した後、または、ステップS108の水素欠乏復帰制御処理を実行した後、ステップS104において、燃料電池セル116dの電圧が異常確定前閾値電圧V2以上になっていると制御部101により判断されれば、処理がステップS110へと進む。
【0088】
ステップS110において、制御部101は、氷点下始動時に適用される暖機モードで燃料電池スタック116に発電を実行させる。暖機モードは、ステップS102と同様に、燃料電池スタック116の発電時の発熱を利用して、燃料電池スタック116を暖機する。この後、処理がステップS111へと進む。
【0089】
ステップS111において、制御部101は、一定時間の暖機運転を実行した後に、暖機運転が完了したかどうかを判断する。具体的には、制御部101は、温度センサ117sによって検出される冷却媒体の温度が、予め設定された暖機運転完了温度以上に上昇したかどうかを確認する。
【0090】
ステップS111において、冷却媒体の温度が暖機運転完了温度未満であると制御部101により判断された場合、処理はステップS104に戻る。また、ステップS104において、制御部101により冷却媒体の温度が暖機運転完了温度以上と判断されれば、処理がステップS112へと進む。
【0091】
ステップS112において、制御部101は、燃料電池スタック116を発電状態にして、燃料電池ユニット110を通常モードで始動する。この結果、産業車両は動作が可能な状態になる。ここで、動作が可能とは、走行モータによる産業車両の走行が可能になること、または、荷役モータによるフォークなどの荷役部の動作が可能になることを意味する。
【0092】
[実施の形態により得られる効果]
上述した本開示の燃料電池システム100においては、セルモニタ116sによって検出された燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を満たす場合に、燃料電池スタック116のカソード掃気処理を行う第1処理と、燃料電池スタック116内に存在する水素を排気する水素排気処理、燃料電池スタック116に水素を供給する水素供給処理を含む水素欠乏復帰制御処理、及び水素排気処理と水素供給処理とのいずれも行うことなく待機する待機処理を行う第2処理と、を実行する構成を採用している。これにより、酸素欠乏と水素欠乏の両方の状態が解消され、燃料電池セル116dの劣化を抑制し、氷点下環境において、電圧低下に起因するエラーを引き起こすことなく、迅速に燃料電池スタック116の発電を再開させ、燃料電池システム100を始動することができる。
【0093】
本開示の燃料電池システム100において、燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を最初に満たす場合はカソード掃気処理を行い、カソード掃気処理を実行した後に、燃料電池セルの電圧が異常確定前条件を再び満たす場合には水素欠乏復帰制御処理を実行する。これにより、水素欠乏か酸素欠乏かを判断するための時間が不要であって迅速に処理を進めることができ、始動性を向上させることができる。また、無駄に水素を使用することがなくなる。
【0094】
本開示の燃料電池システム100において、カソード掃気処理を行った直後にセル電圧が異常確定前条件を満たす場合、水素欠乏復帰制御処理を実行する。これにより、水素欠乏か酸素欠乏かを判断するための時間が不要であって、迅速に処理を進めることができ、始動性を向上させることができる。また、必要な場合に水素欠乏復帰制御処理を実行するため、無駄に水素を使用することがなくなる。
【0095】
本開示の燃料電池システム100において、燃料電池スタック116内に存在する水素を排気する処理と、燃料電池スタック116に水素を供給する処理と、水素の排気と水素の供給とのいずれも行うことなく待機する待機処理とを含む処理サイクルを、複数回繰り返すことにより水素欠乏復帰制御処理を実行する。これにより、燃料電池スタック116内の水素分圧を効率良く短時間で改善することができる。
【0096】
本開示の燃料電池システム100において、氷点下環境において、燃料電池ユニット110が発電を開始する際に、カソード掃気処理と水素欠乏復帰制御処理とを実行する。これにより、氷点下環境において凍結により発生しやすい酸素欠乏または水素欠乏に対し、燃料電池セル116dの劣化を抑制し、電圧低下に起因するエラーを引き起こすことなく、迅速に燃料電池スタック116の発電を再開させ、燃料電池システム100を始動することができる。
【0097】
[その他の実施の形態]
制御部101は、燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を最初に満たす場合にカソード掃気処理を行い、カソード掃気処理の実行の後に再び燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を再び満たす場合、必ずしも水素欠乏復帰制御処理を行わなくてもよい。この場合、制御部101は、カソード掃気処理を行う回数を予め記憶しており、カソード掃気処理を行う毎にその回数をカウントし、カソード掃気処理を行う回数が所定回数に達した時点でフラグを立てるようにする。
【0098】
そして、制御部101は、図7中のステップS107のカソード掃気処理を行った後に再び燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を再び満たす場合、ステップS106の確認においてカソード掃気処理を行う回数が所定回数未満であれば、再びステップS107のカソード掃気処理実行へと処理を進める。
【0099】
一方、制御部101は、図7中のステップS107のカソード掃気処理を行った後に再び燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を再び満たす場合、ステップS106においてカソード掃気処理を行った回数が所定回数に達したことをフラグにより確認すると、ステップS108の水素欠乏復帰制御処理へと処理を進める。
【0100】
このような制御によると、燃料電池セル116dの電圧が異常確定前条件を再び満たす場合、カソード掃気処理を所定回数実行した後に水素欠乏復帰制御処理を行うため、カソード掃気処理によって異常を解消できれば、水素を無駄に使わずに、氷点下環境において燃料電池セルの劣化を抑制し始動性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示は、たとえば、燃料電池システム100を搭載したフォークリフト等の産業車両において、氷点下環境で産業車両に電力供給を停止している状態において、第1処理としてのカソード掃気処理と、第2処理としての水素欠乏復帰制御処理を実行し、燃料電池セル116dの劣化を抑制し、電圧低下に起因するエラーを引き起こすことなく、迅速に燃料電池スタック116に発電せることができる。
【符号の説明】
【0102】
100 燃料電池システム、101 制御部、110 燃料電池ユニット、111 コンプレッサ、112 水素タンク、113a 水素供給弁、113b インジェクタ、113s 圧力センサ、114 排気排水弁、115 ポンプ、116 燃料電池スタック、116s セルモニタ(電圧検出部)、117 ラジエータ、117s 温度センサ、118 電圧変換部、119 蓄電装置、200 負荷。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7