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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】光検出器及び距離計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/4863 20200101AFI20240213BHJP
   G01S 17/894 20200101ALI20240213BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240213BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20240213BHJP
   H01L 31/107 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G01S7/4863
G01S17/894
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
H01L31/10 G
H01L31/10 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020149923
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044340
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 展
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-526754(JP,A)
【文献】国際公開第2019/186837(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/087783(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003227(WO,A1)
【文献】特開2010-071976(JP,A)
【文献】国際公開第2021/161858(WO,A1)
【文献】特表2018-537680(JP,A)
【文献】特開2019-191126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
H01L 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が少なくとも1つのセンサを含み、基板上の画素領域に互いに交差する第1方向及び第2方向に沿って2次元に配置された複数の画素と、
制御部と、
シフト回路と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1方向に沿った前記画素領域の第1座標情報に基づいて、前記画素領域内の第1部分画素領域に対応する前記複数の画素の第1サブセットをオン状態にし、
前記第1方向に沿った前記第1座標情報と異なる前記画素領域の第2座標情報に基づいて、前記画素領域内の第2部分画素領域に対応する前記複数の画素の第2サブセットをオン状態にする
ように構成され、
前記第1部分画素領域の前記第2方向に対する前記第1方向の第1傾きは、前記第2部分画素領域の前記第2方向に対する前記第1方向の第2傾きと異な
前記複数の画素は、
前記第2方向に沿って隣り合う第1画素及び第2画素と、
前記第2画素と前記第1方向に沿って隣り合う第3画素及び第4画素と、
を含み、
前記シフト回路は、
前記複数の画素の第1サブセットがオン状態となる場合、前記第2画素、前記第3画素、及び前記第4画素のうち、前記第1画素に対して前記第1傾きで並ぶ画素を前記第1画素に接続し、
前記複数の画素の第2サブセットがオン状態となる場合、前記第2画素、前記第3画素、及び前記第4画素のうち、前記第1画素に対して前記第2傾きで並ぶ画素を前記第1画素に接続する
ように構成された、
光検出器。
【請求項2】
前記複数の画素のうち、前記第2方向に沿って並ぶ画素の数は、前記第1方向に沿って並ぶ画素の数より多い、
請求項1記載の光検出器。
【請求項3】
制御部は、前記第1座標情報が、前記第1方向に沿った前記画素領域の座標情報の最大値又は最小値に近づくほど、前記第1傾きの絶対値を大きくするように構成された、
請求項1記載の光検出器。
【請求項4】
前記第1傾きの値は、正値、負値、及びゼロを含む、
請求項1記載の光検出器。
【請求項5】
前記シフト回路は、
前記第1画素の第1端に接続された第1端と、第1ノードに接続された第2端と、第1信号が供給される制御端と、を含む第1スイッチング素子と、
前記第1画素の第1端に接続された第1端と、第2ノードに接続された第2端と、前記第1信号の反転信号が供給される制御端と、を含む第2スイッチング素子と、
前記第1ノードに接続された第1端と、前記第2画素の第1端に接続された第2端と、第2信号が供給される制御端と、を含む第3スイッチング素子と、
前記第1ノードに接続された第1端と、前記第3画素の第1端に接続された第2端と、前記第2信号の反転信号が供給される制御端と、を含む第4スイッチング素子と、
前記第2ノードに接続された第1端と、前記第4画素の第1端に接続された第2端と、前記第2信号が供給される制御端と、を含む第5スイッチング素子と、
前記第2ノードに接続された第1端と、前記第2画素の第1端に接続された第2端と、前記第2信号の反転信号が供給される制御端と、を含む第6スイッチング素子と、
を含む、
請求項記載の光検出器。
【請求項6】
前記シフト回路は、
前記第3スイッチング素子及び前記第6スイッチング素子と前記第2画素の第1端との間に接続された第1バッファ回路と、
前記第4スイッチング素子と前記第3画素の第1端との間に接続された第2バッファ回路と、
前記第5スイッチング素子と前記第4画素の第1端との間に接続された第3バッファ回路と、
を更に含む、
請求項記載の光検出器。
【請求項7】
前記シフト回路は、前記第1信号が供給される第1入力端と、前記第2信号が入力される第2入力端と、前記第1画素の第2端に接続される出力端と、を含む論理和回路を更に含む、
請求項記載の光検出器。
【請求項8】
前記複数の画素の第1サブセットは、前記第1方向に沿って隣り合う第5画素及び第6画素を含む、
請求項1記載の光検出器。
【請求項9】
前記少なくとも1つのセンサは、アノードが第1電源ノードに接続されたアバランシェフォトダイオードと、第1端が第2電源ノードに接続され、第2端が前記アバランシェフォトダイオードのカソードに接続されたクエンチ素子とを含み、
前記制御部は、前記センサをオンさせている時に、前記第1電源ノードに第1電圧を印加し、前記第2電源ノードに前記第1電圧よりも高い第2電圧を印加する、
請求項1記載の光検出器。
【請求項10】
記制御部は、
記複数の画素の第1サブセットと、前記第1部分画素領域と隣り合う周辺領域において前記第1方向又は前記第2方向に沿って並ぶ第画素及び第画素と、をオン状態にし、
前記第画素からの第1データ、及び前記第画素からの第2データを、同時に出力する
ように構成された、
請求項1記載の光検出器。
【請求項11】
前記制御部は、
前記画素領域にわたって前記第1部分画素領域を走査し、
前記第1部分画素領域が走査される所定の期間にわたって、前記第1データ及び前記第2データの各々を積算し、
前記積算された第1データと、前記積算された第2データとの大小関係に基づいて、前記複数の画素の第1サブセットの位置を補正する
ように構成された、
請求項10記載の光検出器。
【請求項12】
光源と、
前記光源からの出射光を投光するように構成された出射光学系と、
前記出射光の反射光を受光するように構成された受光光学系と、
前記受光した反射光を検出するように構成され、各々が少なくとも1つのセンサを含み、基板上の画素領域に互いに交差する第1方向及び第2方向に沿って2次元に配置された複数の画素と、
制御部と、
シフト回路と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1方向に沿った前記画素領域の第1座標情報に基づいて、前記画素領域内の第1部分画素領域に対応する前記複数の画素の第1サブセットをオン状態にし、
前記第1方向に沿った前記第1座標情報と異なる前記画素領域の第2座標情報に基づいて、前記画素領域内の第2部分画素領域に対応する前記複数の画素の第2サブセットをオン状態にする
ように構成され、
前記第1座標情報及び前記第2座標情報は、前記出射光が投光される方向に応じて決定され、
前記第1部分画素領域の前記第2方向に対する前記第1方向の第1傾きは、前記第2部分画素領域の前記第2方向に対する前記第1方向の第2傾きと異な
前記複数の画素は、
前記第2方向に沿って隣り合う第1画素及び第2画素と、
前記第2画素と前記第1方向に沿って隣り合う第3画素及び第4画素と、
を含み、
前記シフト回路は、
前記複数の画素の第1サブセットがオン状態となる場合、前記第2画素、前記第3画素、及び前記第4画素のうち、前記第1画素に対して前記第1傾きで並ぶ画素を前記第1画素に接続し、
前記複数の画素の第2サブセットがオン状態となる場合、前記第2画素、前記第3画素、及び前記第4画素のうち、前記第1画素に対して前記第2傾きで並ぶ画素を前記第1画素に接続する
ように構成された、
距離計測装置。
【請求項13】
前記複数の画素の第1サブセットからの第1データ及び前記複数の画素の第2サブセットからの第2データに基づき、前記第1部分画素領域及び前記第2部分画素領域との間の第3データを生成するように構成された処理部を更に備えた、
請求項12記載の距離計測装置。
【請求項14】
前記処理部は、前記第3データを用いることなく、前記第2データを用いて前記第1データを平均化するように構成された、
請求項13記載の距離計測装置。
【請求項15】
前記処理部は、前記第3データを用いて、前記第1データを平均化するように構成された、
請求項13記載の距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、光検出器及び距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LIDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれる距離計測装置が知られている。LIDARは、レーザ光を対象物に照射し、対象物から反射された反射光の強度をセンサ(光検出器)によって検出する。そして、LIDARは、センサから出力される光強度信号の時間変化に基づいて、LIDARから対象物までの距離を計測する。LIDARで使用されるセンサは多々有るが、今後有望なものとして、2次元に配列された複数のシリコンフォトマルチプライヤを備える二次元センサ(2Dセンサ)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-518200号公報
【文献】特開2018-32810号公報
【文献】特開2018-13422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
受光パターンに生じる傾斜の変化を考慮して画素を選択する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の光検出器は、各々が少なくとも1つのセンサを含み、基板上の画素領域に互いに交差する第1方向及び第2方向に沿って2次元に配置された複数の画素と、制御部と、シフト回路と、を備える。上記制御部は、上記第1方向に沿った上記画素領域の第1座標情報に基づいて、上記画素領域内の第1部分画素領域に対応する上記複数の画素の第1サブセットをオン状態にし、上記第1方向に沿った上記第1座標情報と異なる上記画素領域の第2座標情報に基づいて、上記画素領域内の第2部分画素領域に対応する上記複数の画素の第2サブセットをオン状態にするように構成される。上記第1部分画素領域の上記第2方向に対する上記第1方向の第1傾きは、上記第2部分画素領域の上記第2方向に対する上記第1方向の第2傾きと異なる。上記複数の画素は、上記第2方向に沿って隣り合う第1画素及び第2画素と、上記第2画素と上記第1方向に沿って隣り合う第3画素及び第4画素と、を含む。上記シフト回路は、上記複数の画素の第1サブセットがオン状態となる場合、上記第2画素、上記第3画素、及び上記第4画素のうち、上記第1画素に対して上記第1傾きで並ぶ画素を上記第1画素に接続し、上記複数の画素の第2サブセットがオン状態となる場合、上記第2画素、上記第3画素、及び上記第4画素のうち、上記第1画素に対して上記第2傾きで並ぶ画素を上記第1画素に接続するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態に係る距離計測装置の構成を説明するためのブロック図。
図2】第1実施形態に係る光検出器の平面レイアウトを説明するための平面図。
図3】第1実施形態に係る光検出器の構成を説明するための回路図。
図4】第1実施形態に係るシフト回路の構成を説明するための回路図。
図5】第1実施形態に係る画素の構成を説明するための回路図。
図6】アバランシェフォトダイオードの構造の一例とSPADの動作原理とを示す模式図。
図7】第1実施形態に係る距離計測装置におけるレーザ光のスキャン方法と、受光領域との関係を説明するための模式図。
図8】第1実施形態に係る距離計測装置における受光領域選択動作を説明するためのフローチャート。
図9】第1実施形態に係る距離計測装置における受光領域選択動作に使用されるパラメタテーブルを説明するための概念図。
図10】第1実施形態に係る距離計測装置における受光領域選択動作によって選択される受光領域を説明するための模式図。
図11】第1実施形態の変形例に係る距離計測装置における受光領域選択動作によって選択される受光領域を説明するための模式図。
図12】第2実施形態に係る光検出器の構成を説明するための回路図。
図13】第2実施形態に係る光検出器内のシフト信号とロウ選択との関係を示すテーブルの概念図。
図14】第3実施形態に係る距離計測装置の構成を説明するためのブロック図。
図15】第3実施形態に係る距離計測装置のカラムシフトを考慮した場合における位置補正用画素の配置を説明するための模式図。
図16】第3実施形態に係る距離計測装置のカラムシフトを考慮しない場合における位置補正用画素の配置を説明するための模式図。
図17】第3実施形態に係る距離計測装置における選択画素補正動作を説明するためのフローチャート。
図18】第3実施形態に係る距離計測装置における走査モデルの一例を説明するための模式図。
図19】第3実施形態に係る距離測定装置におけるカラム方向時間オフセットと位置補正用評価値との関係を説明するためのダイアグラム。
図20】第3実施形態に係る距離測定装置におけるカラム方向時間オフセットと位置補正用評価値との関係を説明するためのダイアグラム。
図21】第3実施形態に係る距離計測装置において受光部に照射されるレーザ光の照射パターンを説明するための模式図。
図22】第3実施形態に係る距離計測装置における受光領域選択動作で生成される位置補正用信号を示すテーブルの概念図。
図23】第4実施形態に係る距離計測装置のデジタル処理部の構成を説明するためのブロック図。
図24】第4実施形態に係る距離計測装置のデジタル処理部内で生成される傾き無視データのデータ構造を説明するための模式図。
図25】第4実施形態に係る距離計測装置のデジタル処理部内で生成される傾きが考慮されたデータ構造を説明するための模式図。
図26】第4実施形態の変形例に係る距離計測装置のデジタル処理部の構成を説明するためのブロック図。
図27】第4実施形態の変形例に係る距離計測装置のデジタル処理部内で生成される傾きが考慮されたデータ構造を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する構成要素については、共通する参照符号を付す。また、共通する参照符号を有する複数の構成要素を区別する場合、当該共通する参照符号に添え字を付して区別する。なお、複数の構成要素について特に区別を要さない場合、当該複数の構成要素には、共通する参照符号のみが付され、添え字は付さない。
【0008】
1.第1実施形態
第1実施形態に係る光検出器と、当該光検出器を備える距離計測装置と、について説明する。第1実施形態に係る距離計測装置は、例えば、レーザを使用して対象物との距離を測定するLiDAR(Light detection and ranging)であり、第1実施形態に係る光検出器は、例えば、半導体基板上に集積可能なフォトマルチプライヤ(Semiconductor photon-multiplier、特にSiPM:Silicon photon-multiplier)である。
【0009】
1.1 構成
第1実施形態に係る光検出器を備える距離計測装置の構成について説明する。
【0010】
1.1.1 距離計測装置
図1は、第1実施形態に係る距離計測装置の構成を説明するためのブロック図である。
【0011】
図1に示すように、距離計測装置1は、対象物TGとの間の距離を測定可能に構成される。距離計測装置1は、例えば、図示しない車載システムの一部に相当し得る。対象物TGは、例えば、距離計測装置1が搭載された乗用車の前方、後方又は側方に存在する、他の乗用車、歩行者、及び障害物等の有形の物体である。
【0012】
距離計測装置1は、出射部10、出射光学系20、受光光学系30、光検出器40、受光領域制御部50、及び計測処理部60を備える。
【0013】
出射部10は、距離計測装置1が対象物TGとの間の距離の計測に用いるためのレーザ光L1を生成及び出射する。出射部10は、例えば、出射制御部11、ドライバ12及び13、並びに光源14を含む。
【0014】
出射制御部11は、例えば距離計測装置1の動作の基準となるクロックに基づき、出射トリガを生成する。出射トリガは、距離計測装置1から対象物TGに向けて照射されるレーザ光L1の出射タイミングに対応するパルス信号を含み、例えば、ドライバ12及び13、受光領域制御部50、並びに計測処理部60に送出される。また、出射トリガは、クロックを介して、後述するスキャン位置と関連づけられ得る。
【0015】
ドライバ12は、出射制御部11からの出射トリガに応じて駆動電流を生成し、生成した駆動電流を光源14に供給する。つまり、ドライバ12は、光源14の電流供給源として機能する。
【0016】
ドライバ13は、出射制御部11からの出射トリガに応じて駆動電流を生成し、生成した駆動電流を出射光学系20内のミラー22に供給する。つまり、ドライバ13は、ミラー22の電流供給源として機能する。
【0017】
光源14は、レーザダイオード等のレーザ光源である。光源14は、ドライバ12から供給された駆動電流に基づいて、レーザ光L1を間欠的に発光(出射)する。レーザ光L1は、後述する出射光学系20を介して対象物TGに照射される。
【0018】
出射光学系20は、光源14から入射したレーザ光L1を対象物TGに出射する。出射光学系20は、例えば、レンズ21及びミラー22を含む。
【0019】
レンズ21は、光源14から出射されたレーザ光L1の光路上に配置される。レンズ21は、当該レンズ21を通過するレーザ光L1をコリメートして、ミラー22に導光する。
【0020】
ミラー22は、ドライバ13から供給される駆動電流に基づいて駆動し、レンズ21から入射したレーザ光L1を反射する。例えば、ミラー22の反射面は、1つの軸、又は互いに交差する2つの軸を中心として回転可能に構成される。ミラー22から反射されたレーザ光L1は、対象物TGに向けて、距離計測装置1の外部に出射される。
【0021】
受光光学系30は、例えば、レンズ31を含む。
【0022】
レンズ31は、対象物TGから反射された反射光を集光して、集光した反射光を光検出器40に導光する。つまり、レンズ31は、距離計測装置1から照射されたレーザ光L1の反射光(レーザ光)L2を含む外部の光を光検出器40に集める。
【0023】
なお、レーザ光L1及びL2は、距離計測装置1と対象物TGとの間において互いに異なる光路を形成する。すなわち、距離計測装置1は、出射部10から出射されるレーザ光L1の光軸と、光検出器40が受光するレーザ光L2の光軸とが互いに異なる非同軸光学系を有する。
【0024】
光検出器40は、ロウ及びカラムによって規定される2次元マトリクス状の画素領域に複数の画素が配置された受光部41を含む。光検出器40は、受光領域制御部50から受けたアドレス信号及びシフト信号に基づき、受光部41内の複数の画素の一部を、出射トリガ毎に、受光領域として選択する。
【0025】
受光部41は、レンズ31を介して入射した反射光L2を受光する。そして、受光部41は、受光した反射光L2の光強度に基づいて電気信号(アナログ信号)を生成し、当該アナログ信号を画素単位で計測処理部60に出力する。光検出器40の詳細については後述する。
【0026】
受光領域制御部50は、受光部41が反射光L2を受光する際に選択される(オン状態となる)受光領域を制御する。受光領域制御部50は、例えば、アドレス選択部51及びシフト制御部52を含む。
【0027】
アドレス選択部51は、出射制御部11から受ける出射トリガ、又は出射トリガと対応付けが可能な別の信号に基づき、受光部41の受光領域に対応するアドレスを含むアドレス信号を生成する。アドレス信号は、受光部41内に配置された複数の画素内の一群の画素を識別し得る信号であり、例えば、1又は複数のロウアドレス、及び1つのカラムアドレスを含む。アドレス選択部51は、決定されたアドレスを含むアドレス信号をシフト制御部52に送出する。
【0028】
シフト制御部52は、アドレス選択部51から受けたアドレス信号と、予め記憶されたパラメタテーブルに基づき、受光部41内における受光領域の傾きを規定する情報を含むシフト信号を生成する。そして、アドレス選択部51によって生成されたアドレス信号、及びシフト制御部52によって生成されたシフト信号の組は、光検出器40及び計測処理部60に送出される。パラメタテーブルの詳細については、後述する。
【0029】
計測処理部60は、光検出器40から受けた画素単位のアナログ信号をデジタル信号に変換した後、当該デジタル信号に基づいて距離計測装置1と対象物TGとの間の距離を計測する。具体的には、例えば、計測処理部60は、AFE(Analog front end)61、及びデジタル処理部62を含む。
【0030】
AFE61は、例えばトランスインピーダンス増幅器(TIA:Trans-impedance amplifier)、アナログ-デジタル変換器(ADC:Analog to digital convertor)、及び時間-デジタル変換器(TDC:Time to digital convertor)等を含む。AFE61は、光検出器40から入力されたアナログ信号を増幅した後、当該増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。AFE61は、生成したデジタル信号をデジタル処理部62に送出する。
【0031】
デジタル処理部62は、出射制御部11から受けた出射トリガに基づき、レーザ光L1の出射タイミングを取得すると共に、AFE61から受けたデジタル信号に基づき、反射光L2の入射タイミングを取得する。デジタル処理部62は、上述した出射タイミングと入射タイミングとに基づいて、レーザ光L1及び反射光L2の飛行時間を算出する。そして、デジタル処理部62は、当該飛行時間とレーザ光の速度とに基づいて、距離計測装置1と対象物TGとの間の距離を計測する。なお、反射光L2の入射タイミングは、例えば、デジタル信号の立ち上がり時間に基づいて決定されてもよいし、デジタル信号のピーク時刻に基づいて決定されてもよい。このような距離の計測方法は、ToF(Time of flight)方式とも呼ばれる。
【0032】
デジタル処理部62は、計測された距離計測データを後段の画像処理回路(図示せず)へと送出する。後段の画像処理回路は、例えば、当該距離計測データに基づき、距離計測装置1の計測対象の領域にわたって距離情報がマッピングされた画像データを生成する。生成された画像データは、例えば距離計測装置1を備える車両等の制御プログラムによって参照される。
【0033】
以上のような構成により、距離計測装置1は、非同軸光学系において、対象物TGとの間の距離を計測することができる。
【0034】
1.1.2 光検出器
次に、第1実施形態に係る光検出器の構成について説明する。
(平面レイアウト)
図2は、第1実施形態に係る光検出器の平面レイアウトの一例を示す。
【0035】
図2に示すように、受光部41は、例えば、半導体基板上において、ロウ方向及びカラム方向に広がるマトリクス状に配置される複数の画素PXを含む。複数の画素PXは、カラム方向に対応づけられたカラムアドレスと、ロウ方向に対応づけられたロウアドレスと、によって位置が特定可能に配置される。
【0036】
図2の例では、受光部41において、ロウ方向に沿ってi番目、かつカラム方向に沿ってj番目の画素PXが、画素PX<i、j>として示される(0≦i≦M、0≦j≦N、M及びNは任意の整数)。例えば、複数の画素PXのうち、カラム方向に並ぶ画素の数Nは、ロウ方向に並ぶ画素の数Mより多い(N>M)。以下では、説明の便宜上、ロウ方向に沿ってi番目に位置する複数の画素PX<i>はロウアドレス<i>に対応し、カラム方向に沿ってj番目に位置する複数の画素PX<j>はカラムアドレス<j>に対応するものとして説明する。
【0037】
複数の画素PXの各々は、少なくとも1つの光電子増倍素子を含む。光電子増倍素子としては、例えば、単一光子アバランシェダイオード(Single-Photon Avalanche Diode)が使用される。以下では、単一光子アバランシェダイオードのことを“SPAD”とも呼ぶ。SPADの機能の詳細については後述する。画素PXに複数のSPADが設けられる場合、複数のSPADは、例えば画素PX内においてロウ方向及びカラム方向に広がったマトリクス状に配置される。複数のSPADを含む画素PXは、シリコン光増倍素子(SiPM:Silicon Photomultiplier)とも呼ばれる。
【0038】
尚、光検出器40に含まれる画素PXとSPADとのそれぞれの個数は、図2に示された個数に限定されず、任意の個数に設計され得る。画素PXとSPADとのそれぞれの平面形状は、必ずしも正方形でなくても良い。画素PXの形状は、各画素PXに含まれるSPADの形状及び配置に応じて変化し得る。例えば、各画素PXにおいて、ロウ方向に並ぶSPADの個数と、カラム方向に並ぶSPADの個数とは異なっていても良い。光検出器40は、異なる形状の画素PXを利用しても良い。SPADの形状は、その他の形状であっても良く、例えば長方形であっても良い。
(光検出器の回路構成)
次に、第1実施形態に係る光検出器の回路構成について説明する。
【0039】
図3は、第1実施形態に係る光検出器の構成を示す回路図である。図3では、受光部41内の6つの画素PX<m,n-1>、PX<m,n>、PX<m,n+1>、PX<m+1,n-1>、PX<m+1,n>、及びPX<m+1,n+1>と、当該6つの画素PXに接続され得る選択線群が示される(0≦m≦M-1、1≦n≦N-2)。
【0040】
図3に示すように、全ての画素PXは、互いに異なる1つのロウ選択線row_sel及び1つのカラム選択線col_selの組に対応づけられる。すなわち、任意の1つの画素PXの第1端及び第2端はそれぞれ、対応するロウ選択線row_sel及び対応するカラム選択線col_selに接続される。このため、1つのロウ選択線row_sel及び1つのカラム選択線col_selの組を選択することにより、1つの画素PXを選択することができる。
【0041】
より具体的には、ロウアドレス<m>に対応づけられた複数の画素PX<m>(…、PX<m,n-1>、PX<m,n>、PX<m,n+1>、…)の各々の第1端は、ロウ選択線row_sel<m>に共通接続される。同様に、ロウアドレス<m+1>に対応づけられた複数の画素PX<m+1>(…、PX<m+1,n-1>、PX<m+1,n>、PX<m+1,n+1>、…)の各々の第1端は、ロウ選択線row_sel<m+1>に共通接続される。
【0042】
一方、複数の画素PX<m>の第2端と、複数の画素PX<m+1>の第2端との間には、シフト回路SH<m>が設けられる。シフト回路SH<m>は、複数の画素PX<m+1>の各々に接続されるカラム選択線col_selを、複数の画素PX<m>の各々に接続されるカラム選択線col_selに対して、カラム方向にシフトさせる機能を有する。より具体的には、例えば、画素PX<m,n>の第2端に接続されたノードN<m,n>は、シフト回路SH<m>を介することにより、画素PX<m+1,n-1>の第2端に接続されたノードN<m+1,n-1>、画素PX<m+1,n>の第2端に接続されたノードN<m+1,n>、及び画素PX<m+1,n+1>の第2端に接続されたノードN<m+1,n+1>から選択されるいずれか1つに接続することができる。
【0043】
以下では、説明の便宜上、ノードN<m,n>がノードN<m+1,n-1>に接続される場合、「シフト回路SH<m>は、カラム選択線col_selを左方向にシフトさせる」と言う。ノードN<m,n>がノードN<m+1,n>に接続される場合、「シフト回路SH<m>は、カラム選択線col_selをシフトさせない」と言う。ノードN<m,n>がノードN<m+1,n+1>に接続される場合、「シフト回路SH<m>は、カラム選択線col_selを右方向にシフトさせる」と言う。
【0044】
また、以下では、カラム選択線col_selを左方向又は右方向にシフトさせるシフト回路SHの状態を“オン状態”と呼び、カラム選択線col_selをシフトさせないシフト回路SHの状態を“オフ状態”と呼ぶ。
【0045】
そして、シフト回路SH<m>は、全てのカラム選択線col_selを、右方向にシフトさせる、左方向にシフトさせる、又はシフトさせないように構成される。具体的には、例えば、シフト回路SH<m>は、活性化された信号left_shift<m>及び活性化されない信号right_shift<m>を受けると、画素PX<m>と画素PX<m+1>との間において、全てのカラム選択線col_selを左方向にシフトさせるように構成される。シフト回路SH<m>は、活性化されない信号left_shift<m>及び活性化された信号right_shift<m>を受けると、画素PX<m>と画素PX<m+1>との間において、全てのカラム選択線col_selを右方向にシフトさせるように構成される。また、シフト回路SH<m>は、いずれも活性化されない信号left_shift<m>及びright_shift<m>、又はいずれも活性化された信号left_shift<m>及びright_shift<m>を受けると、画素PX<m>と画素PX<m+1>との間において、全てのカラム選択線col_selをシフトさせないように構成される。
【0046】
なお、信号が活性化された状態とは、信号が活性化されない状態の反転論理を示す。すなわち、活性化された信号が“H”レベルの場合、活性化されない信号は“L”レベルであり、活性化された信号が“L”レベルの場合、活性化されない信号は“H”レベルである。
【0047】
以上のように、シフト回路SHがロウ方向に沿って並ぶ各画素PX間に設けられることにより、カラムアドレスの異なる複数の画素PXを、同一のカラム選択線col_selに接続することができる。
【0048】
図4は、第1実施形態に係るシフト回路の構成を示す回路図である。図4では、シフト回路SH<m>のうち、図3に示した部分の具体的な回路構成が示される。以下では、説明の便宜上、シフト回路SH<m>のうち、ノードN<m,n>と、ノードN<m+1,n-1>、N<m+1,n>、及びN<m+1,n+1>との接続に関する部分の構成について主に説明する。
【0049】
図4に示すように、シフト回路SH<m>は、例えば、スイッチング素子SW_L1<n>、SW_L2<n>、SW_R1<n-1>、SW_R1<n>、SW_R2<n-1>、及びSW_R2<n>、インバータINV_L及びINV_R、並びにバッファBUF<n-1>、BUF<n>、及びBUF<n+1>を含む。
【0050】
スイッチング素子SW_L1、SW_L2、SW_R1、及びSW_R2の各々は、例えば半導体基板上に形成されたMOS(Metal oxide semiconductor)トランジスタであるが、これに限らず、任意のスイッチング素子が適用可能である。MOSトランジスタが適用される場合、スイッチング素子SW_L1、SW_L2、SW_R1、及びSW_R2の各々は、p型のMOSトランジスタでもよく、n型のMOSトランジスタでもよく、CMOS(Complementary MOS)トランジスタ(トランスファーゲート)でもよい。
【0051】
インバータINV_Lは、信号left_shift<m>が供給される入力端と、当該信号left_shift<m>の反転信号を出力する出力端と、を含む。スイッチング素子SW_L1<n>は、ノードN<m,n>に接続された第1端と、ノードN[n-1]に接続された第2端と、信号left_shift<m>が供給される制御端と、を含む。スイッチング素子SW_L2<n>は、ノードN<m,n>に接続された第1端と、ノードN[n]に接続された第2端と、インバータINV_Lの出力端に接続された制御端と、を含む。
【0052】
インバータINV_Rは、信号right_shift<m>が供給される入力端と、当該信号right_shift<m>の反転信号を出力する出力端と、を含む。スイッチング素子SW_R1<n-1>は、ノードN[n-1]に接続された第1端と、バッファBUF<n-1>の入力端に接続された第2端と、インバータINV_Rの出力端に接続された制御端と、を含む。スイッチング素子SW_R2<n-1>は、ノードN[n-1]に接続された第1端と、バッファBUF<n>の入力端に接続された第2端と、信号right_shift<m>が供給される制御端と、を含む。
【0053】
スイッチング素子SW_R1<n>は、ノードN[n]に接続された第1端と、バッファBUF<n>の入力端に接続された第2端と、インバータINV_Rの出力端に接続された制御端と、を含む。スイッチング素子SW_R2<n>は、ノードN[n]に接続された第1端と、バッファBUF<n+1>の入力端に接続された第2端と、信号right_shift<m>が供給される制御端と、を含む。
【0054】
バッファBUF<n-1>は、ノードN<m+1,n-1>に接続された出力端を含む。バッファBUF<n>は、ノードN<m+1,n>に接続された出力端を含む。バッファBUF<n+1>は、ノードN<m+1,n+1>に接続された出力端を含む。
【0055】
以上のような構成により、図3に示したシフト回路SH<m>が実現される。
【0056】
なお、バッファBUFは、スイッチング素子SW_L1、SW_L2、SW_R1、SW_R2を経由することによって、カラム選択線col_selに供給される信号に生じる電圧降下を、補償する機能を有する。このため、上記した機能を有する回路であればバッファBUFに限らず適用可能である。例えば、バッファBUFに代えて、インバータが設けられてもよい。
【0057】
バッファBUFに代えてインバータが設けられる場合、カラム選択線col_selに供給される信号は、シフト回路SHを通過するたびに反転する。このため、偶数番目のロウアドレスを有する画素PXと、奇数番目のロウアドレスを有する画素PXとで、選択される際のカラム選択線col_selに供給される信号の極性が反転するように構成される。
(受光部の回路構成)
次に、第1実施形態に係る受光部の回路構成について説明する。
【0058】
図5は、第1実施形態に係る受光部の備える画素の回路構成の一例を示している。図5では、一例として、画素PX<m,n>の回路構成が示される。
【0059】
図5に示すように、画素PX<m,n>は、例えば、複数のSPAD、並びにトランジスタTr1、Tr2、Tr3、及びTr4を含む。複数のSPADの各々は、アバランシェフォトダイオードAPD及びクエンチ抵抗Rqを含む。例えば、トランジスタTr1及びTr2はn型のMOSトランジスタであり、トランジスタTr3及びTr4はp型のMOSトランジスタである。
【0060】
複数のSPADは、高電位ノードN0と低電位電源ノードSUBとの間に並列接続される。そして、複数のSPADの各々について、アバランシェフォトダイオードAPD及びクエンチ抵抗Rqは、高電位ノードN0と低電位電源ノードSUBとの間に直列に接続される。具体的には、アバランシェフォトダイオードAPDのアノードが、低電位電源ノードSUBに接続される。アバランシェフォトダイオードAPDのカソードは、クエンチ抵抗Rqの一端に接続される。クエンチ抵抗Rqの他端が、高電位ノードN0に接続される。
【0061】
距離計測装置1の距離計測動作において、高電位ノードN0の電位は、低電位電源ノードSUBに印加される電圧よりも高い。つまり、距離計測動作において、逆バイアスが、アバランシェフォトダイオードAPDに印加される。高電位ノードN0は、SPADに含まれるアバランシェフォトダイオードAPDによる光検出結果の出力端に対応する。
【0062】
トランジスタTr1は、ノードN0に接続された第1端と、電圧VSSが供給される第2端と、ロウ選択線row_sel<m>に接続された制御端と、を含む。トランジスタTr2は、ノードN0に接続された第1端と、電圧VSSが供給される第2端と、カラム選択線col_sel<n>に接続された制御端と、を含む。電圧VSSは、高電位ノードN0より低く、低電位ノードSUBより高い電圧であり、例えば-5Vである。なお、上記した電圧値は一例であり、接地電圧、例えば0Vであってもよい。
【0063】
トランジスタTr3は、ノードN0に接続された第1端と、トランジスタTr4の第1端に接続された第2端と、ロウ選択線row_sel<m>に接続された制御端と、を含む。トランジスタTr4は、出力ノードOUT<m,n>に接続された第2端と、カラム選択線col_sel<n>に接続された制御端と、を含む。
【0064】
以上のように構成されることにより、ロウ選択線row_sel<m>及びカラム選択線col_sel<n>がいずれも選択された場合に、画素PX<m,n>内の複数のSPADにおける光検出結果に対応する出力信号IOUTを、出力ノードOUT<m,n>に出力することができる。また、ロウ選択線row_sel<m>及びカラム選択線col_sel<n>の少なくとも一方が選択されない場合には、出力信号IOUTを出力ノードOUT<m,n>を介することなく、排出することができる。
【0065】
なお、画素PXの回路構成は、以上で説明した構成に限定されない。例えば、クエンチ抵抗Rqは、トランジスタに置き換えられても良い。高電位ノードN0には、クエンチ用のトランジスタがさらに接続されても良い。トランジスタTr1~Tr4は、出力信号IOUTを選択的に出力可能であれば、その他のスイッチング素子であっても良い。また、画素PXは、リカバリのためのトランジスタを含む、アクティブクエンチのSPADでもよい。SPADがアクティブクエンチの場合、通常、出力はデジタル信号となるが、ロウ選択線row_sel<m>及びカラム選択線col_sel<n>はそれぞれ、出力に繋がるNANDゲートの2つの入力のうちの1つに接続されてもよい。
【0066】
1.1.3 SPAD
以下に、図6を参照して、アバランシェフォトダイオードAPDの構成の一例と、SPADの動作原理とについて説明する。図6は、アバランシェフォトダイオードAPDの構造の一例とSPADの動作原理との概略を示す。
【0067】
まず、アバランシェフォトダイオードAPDの構成について説明する。アバランシェフォトダイオードAPDは、例えば、基板90、p型半導体層91、p型半導体層92、及びn型半導体層93を含んでいる。
【0068】
基板90は、例えばp型の半導体基板である。基板90上に、p型半導体層91、p型半導体層92、及びn型半導体層93が、この順番に積層されている。p型半導体層92におけるp型不純物の濃度は、p型半導体層91におけるp型不純物の濃度よりも高い。n型半導体層93は、n型不純物がドープされた半導体層である。例えば、n型半導体層93上には、図示が省略された電極が接続される。
【0069】
次に、SPADの動作原理について説明する。第1実施形態に係る距離計測装置1では、基板90側が低電位電源ノードSUBに対応し、n型半導体層93が高電位側(カソード)に対応している。
【0070】
距離計測装置1の距離計測動作において、アバランシェフォトダイオードAPDには、基板90側に負の高い電圧が印加される。つまり、アバランシェフォトダイオードAPDに高い逆バイアスが印加され、p型半導体層92とn型半導体層93との間に強い電界が発生する(図6(1))。すると、p型半導体層92とn型半導体層93との接合(すなわち、PN接合)領域の付近に、空乏層が形成される(図6(2))。距離計測動作では、この状態のアバランシェフォトダイオードAPDが、光信号を検知可能な状態に対応している。
【0071】
そして、アバランシェフォトダイオードAPDに光が照射されると、光のエネルギーの一部が空乏層に到達する(図6(3))。空乏層に光が照射されると、空乏層において電子と正孔の対、すなわちキャリアが発生する場合がある(図6(4))。空乏層に発生したキャリアは、アバランシェフォトダイオードAPDに印加された逆バイアスの電界によりドリフトする(図6(5))。例えば、発生したキャリアのうち正孔は、基板90側に向かって加速される。一方で、発生したキャリアのうち電子は、n型半導体層93側に向かって加速される。
【0072】
型半導体層93側に向かって加速された電子は、PN接合の付近に発生した強い電界の下で、原子と衝突する。すると、原子に衝突した電子が、当該原子をイオン化させて、新たな電気と正孔の対を発生させる。アバランシェフォトダイオードAPDに印加された逆バイアスの電圧が、アバランシェフォトダイオードAPDのブレークダウン電圧を超えている場合、このような電子と正孔の対の発生が繰り返される。このような現象は、アバランシェ降伏と呼ばれている(図6(6))。
【0073】
アバランシェ降伏が発生すると、アバランシェフォトダイオードAPDが放電する(図6(7))。SPADの場合、そのままでは放電が止まらない。このような放電は、ガイガー放電と呼ばれている。ガイガー放電が発生すると、SPADの出力ノードを通じて電流が流れる。これにより、ガイガー放電とその後のリカバリに関わる電気信号が、アバランシェフォトダイオードAPD、すなわち1つのSPADから出力される。
【0074】
また、アバランシェフォトダイオードAPDから出力された電流は、例えばクエンチ抵抗Rqに流れる。その結果、電圧降下が、SPADの出力ノードにおいて発生する(図6(8))。SPADにおけるこのような電圧降下は、クエンチングとも呼ばれる。電圧降下によって、アバランシェフォトダイオードAPDに印加された逆バイアスの電圧がブレークダウン電圧未満になると、ガイガー放電が停止する。それから、アバランシェフォトダイオードAPDのPN接合における容量の充電がなされ、リカバリ電流が流れる。ガイガー放電が止まり、更にアバランシェ現象も終わって暫く後に、アバランシェフォトダイオードAPDは、次の光を検知することが可能な状態に戻る。
【0075】
以上のように、第1実施形態に係る距離計測装置1の備える受光部41は、ガイガーモードで使用されるアバランシェフォトダイオードAPDを有している。そして、これらのアバランシェフォトダイオードAPDは、光入射に応じてアバランシェ降伏を起こし、光検出結果に対応する電気信号を出力する。これにより、受光部41は、フォトン単位の受光を検知して、電気信号に変換することが出来る。
【0076】
尚、SPADユニットSUに使用されるアバランシェフォトダイオードAPDの構造は、以上で説明された構造に限定されない。例えば、p型半導体層92は省略されても良い。p型半導体層91、p型半導体層92、及びn型半導体層93のそれぞれの厚さは、適宜変更され得る。アバランシェフォトダイオードAPDのPN接合は、基板90との境界近傍に形成されても良い。アバランシェフォトダイオードAPDの構造において、p型半導体層とn型半導体層とが反転されて構成されても良い。
【0077】
1.2 動作
次に、第1実施形態に係る距離計測装置の動作について説明する。
【0078】
1.2.1 スキャン動作
第1実施形態に係る距離計測装置におけるレーザ光のスキャン動作について図7を用いて説明する。図7では、対象物TGに対して走査されるレーザ光L1の形状及び軌跡と、当該対象物TGから反射して受光部41に入射するレーザ光L2の形状及び軌跡と、の関係が模式的に示される。また、図7(A)及び図7(B)では、スキャン動作において、レーザ光L1が互いに異なる形状及び軌跡によって照射される場合が例示される。
【0079】
まず、レーザ光L1及びL2の形状及び軌跡について説明する。
【0080】
図7(A)に示すように、スキャン動作において、距離計測装置1は、紙面上下方向(縦方向)に細長い形状の照射面を有するレーザ光源、コリメータレンズ、及びシリンドリカルレンズを用いて、レーザ光L1を対象物TGの縦方向に沿った一連の部分に同時に照射する。これにより、1回の照射により、縦方向に複数の画素PXの受光が可能になり、距離画像の解像度を高めることができる。そして、レーザ光L1を対象物TGの縦方向に沿った一連の部分に同時に照射しつつ、当該レーザ光L1を紙面左右方向(横方向)にスライドさせ得る。このようなスキャン動作を実現する手段としては、例えば、ミラー22に回転ミラーや1軸のミラーを使用することが考えられる。
【0081】
また、図7(B)に示すように、距離計測装置1は、縦方向に細長い形状の照射面を有するレーザ光源、コリメータレンズ、及びシリンドリカルレンズを用いて、レーザ光L1を対象物TGの縦方向に沿った一連の部分に同時に照射しつつ、当該レーザ光L1を横方向にスライドさせる動作を、垂直方向に位置をずらして複数回繰り返し実行し得る。このようなスキャンを実現する手段としては、例えば、ミラー22に異なるチルト角を有するポリゴンミラー、回転ミラー、及び2軸のミラー等を使用することが考えられる。
【0082】
上述したいずれの方法においても、レーザ光L1は、縦方向に細長い形状で対象物TGに照射され、当該対象物TGに反射したレーザ光L2も、縦方向に細長い形状で受光部41に入射する。
【0083】
縦方向に細長い形状で対象物TGに照射される場合、レーザ光L1の形状は、距離計測装置1に対するレーザ光L1の照射位置の出射角に応じて横方向に傾く。例えば、対象物TGの中心において最も出射角が小さくなる場合、対象物TGの横方向に沿った中心部から端部に近づくほど、照射されるレーザ光L1の形状の横方向への傾きが0から正又は負の大きな値となる。
【0084】
上述の通り、本実施形態に係る距離計測装置1は、非同軸光学系によって構成され、受光部は結像光学系を有する。これにより、対象物に反射したレーザ光L2は、横方向への傾きを保ったまま受光部41に入射する(なお、方向は反転する)。このため、受光部41において、レーザ光L2の形状は、受光部41の端部に向かうほど横方向への傾きの絶対値が大きくなる。したがって、本実施形態に係る距離計測装置1では、受光部41の端部に向かうほど傾きの絶対値が大きくなる。そして、レーザ光L2が入射する領域に対応する画素PXを、過不足無く適切に選択することが求められる。
【0085】
なお、以下の説明では、レーザ光L2の形状の長軸方向は、受光部41のロウ方向に対応し、レーザ光L2の形状の短軸方向(又はレーザ光L2が傾く方向)は、受光部41のカラム方向に対応するものとする。
【0086】
1.2.2 受光領域選択動作
次に、受光領域選択動作について説明する。受光領域選択動作は、スキャン動作によって受光部41に入射したレーザ光L2を効率よく受光するために受光部41内の一群の画素PXをオン状態にする動作である。
【0087】
図8は、第1実施形態に係る距離測定装置における受光領域選択動作を示すフローチャートである。
【0088】
図8に示すように、ステップST10において、受光領域制御部50のアドレス選択部51は、出射制御部11から受けた出射トリガ、又は出射トリガと対応付けが可能な別の信号に基づき、アドレス信号を生成する。上述の通り、出射トリガは、クロックを介して、レーザ光L1の出射角に対応づけられるため、出射トリガは、受光部41においてレーザ光L2が入射するカラムアドレスに更に関連づけられる。したがって、アドレス選択部51は、出射トリガに基づいて、1つのカラムアドレス(及び1又は複数のロウアドレス)を決定することができる。アドレス選択部51は、生成したアドレス信号をシフト制御部52に送出すると共に、光検出器40及び計測処理部60に送出する。
【0089】
ステップST20において、シフト制御部52は、アドレス信号内のカラムアドレス及びパラメタテーブルに基づいて、シフト信号を生成する。シフト信号は、例えば、信号left_shift<0>~left_shift<M>、及びright_shift<0>~right_shift<M>を含む。シフト制御部52は、生成したシフト信号を光検出器40及び計測処理部60に送出する。
【0090】
ステップST30において、光検出器40は、アドレス信号及びシフト信号に基づき、一群の画素PXを同時にオン状態にする。具体的には、例えば、光検出器40は、アドレス信号内の1又は複数のロウアドレスに対応する1又は複数のロウ選択線row_selを活性化させると共に、1つのカラムアドレスに対応する1つのカラム選択線col_selを活性化させる。これにより、当該活性化された1又は複数のロウ選択線row_sel及び1つのカラム選択線col_selに対応する一群の画素PXが同時にオン状態となる。オン状態となった一群の画素PXは、受光部41に入射したレーザ光L2が成す受光形状をカバーするように選択される。
【0091】
以上のように動作することにより、受光領域選択動作が終了する。
【0092】
図9は、第1実施形態に係る距離計測装置における受光領域選択動作で使用されるパラメタテーブルを示す概念図である。
【0093】
図9に示すように、シフト制御部52は、各々が「カラム下限」、「カラム上限」、「シフト方向」、「オフセット」、及び「シフト間隔」の5つの要素を含む複数のレコードを、パラメタテーブルとして予め記憶する。「カラム下限」及び「カラム上限」はそれぞれ、当該レコードが適用されるカラムアドレスの下限及び上限を示す。すなわち、シフト制御部52は、アドレス選択部51から受けたアドレス信号内のカラムアドレスが、「カラム下限」と「カラム上限」との間に位置するレコードを用いて、シフト信号を生成する。例えば、シフト制御部52は、カラムアドレス<4>をアドレス選択部51から受けると、「カラム下限」及び「カラム上限」がそれぞれ“0”及び“4”であるレコードを用いて、シフト信号を生成する。
【0094】
「シフト方向」は、シフト回路SHを用いてカラム選択線col_selをシフトさせる方向を規定する。「シフト方向」が“左”及び“右”である場合、シフト制御部52は、シフト回路SHがカラム選択線col_selをそれぞれ左方向及び右方向にシフトさせるための信号を生成する。また、「シフト方向」が“-”である場合、シフト制御部52は、シフト回路SHによってカラム選択線col_selをシフトさせないための信号を生成する。
【0095】
「オフセット」は、ロウアドレスに沿って昇順に並ぶ複数のシフト回路SHのうち、最初にオン状態にするシフト回路SHのロウアドレスを規定する。すなわち、シフト制御部52は、「オフセット」が“0”である場合、シフト回路SH<0>を最初にオン状態にする。シフト制御部52は、「オフセット」が“1”である場合、シフト回路SH<0>はオフ状態とし、シフト回路SH<1>を最初にオン状態にする。また、シフト制御部52は、「オフセット」が“-”である場合、全てのシフト回路SHをオフ状態にする。
【0096】
「シフト間隔」は、オン状態となる2つのシフト回路SHのロウ方向の間隔を規定する。すなわち、シフト回路SH<m>がオン状態の際、シフト制御部52は、「シフト間隔」が“0”である場合、シフト回路SH<m+1>を次にオン状態にする。また、シフト制御部52は、「シフト間隔」が“1”である場合、シフト回路SH<m>の次にシフト回路SH<m+2>をオン状態にする。また、シフト制御部52は、「シフト間隔」が“-”である場合、全てのシフト回路SHをオフ状態にする。
【0097】
以上のようなパラメタテーブルを参照することにより、シフト制御部52は、1本のカラム選択線col_selに基づき、カラム方向に傾斜しつつロウ方向に並ぶ一群の画素PX(複数の画素のサブセット)を、受光領域(部分画素領域)として選択することができる。
【0098】
図10は、第1実施形態に係る距離計測装置における受光領域選択動作によって選択される受光領域を示す模式図である。図10では、一例として、アドレス選択部51からカラムアドレス<4>、<7>、及び<13>を受けた場合に、図9のパラメタテーブルに基づいて選択される受光領域が示される。
【0099】
図10に示すように、シフト制御部52は、カラムアドレスに応じて、異なる傾きを有する受光領域を選択することができる。当該受光領域選択動作について、以下に具体的に示す。
【0100】
まず、アドレス選択部51からカラムアドレス<4>を受けた場合について説明する。
【0101】
シフト制御部52は、パラメタテーブルを参照し、「カラム下限」及び「カラム上限」がそれぞれ“0”及び“4”のレコードを選択する。
【0102】
シフト制御部52は、当該レコードの「オフセット」が“0”であるため、シフト回路SH<0>を最初にオン状態にすると判定する。また、シフト制御部52は、「シフト間隔」が“0”であるため、オン状態にする2つのシフト回路SHの間に、オフ状態のシフト回路SHを設けない(すなわち、シフト回路SH<1>、SH<2>、…をオン状態にする)と判定する。
【0103】
シフト制御部52は、当該レコードの「シフト方向」が“左”であるため、オン状態にすると判定したシフト回路SH<0>、SH<1>、SH<2>、…に供給する信号left_shift<0>、<1>、<2>、…を活性化させると共に、信号right_shift<0>、<1>、<2>、…を非活性とする。
【0104】
以上のように動作することにより、画素PX<0,4>、PX<1,3>、PX<2,2>、…を同時に選択することができる。
【0105】
次に、アドレス選択部51からカラムアドレス<7>を受けた場合について説明する。
【0106】
シフト制御部52は、パラメタテーブルを参照し、「カラム下限」及び「カラム上限」がそれぞれ“5”及び“10”のレコードを選択する。
【0107】
シフト制御部52は、当該レコードの「オフセット」が“1”であるため、シフト回路SH<1>を最初にオン状態にすると判定する。また、シフト制御部52は、「シフト間隔」が“1”であるため、オン状態にする2つのシフト回路SHの間に、オフ状態のシフト回路SHを1つ設ける(すなわち、シフト回路SH<3>、SH<5>、…をオン状態にする)と判定する。
【0108】
シフト制御部52は、当該レコードの「シフト方向」が“左”であるため、オン状態にすると判定したシフト回路SH<1>、SH<3>、SH<5>、…に供給する信号left_shift<1>、<3>、<5>、…を活性化させると共に、信号right_shift<1>、<3>、<5>、…を非活性とする。また、シフト制御部52は、オフ状態にすると判定したシフト回路SH<0>、SH<2>、SH<4>、…に供給する信号left_shift<0>、<2>、<4>、…、及び信号right_shift<0>、<2>、<4>、…をいずれも非活性とする。
【0109】
以上のように動作することにより、画素PX<0,7>、PX<1,7>、PX<2,6>、PX<3,6>、PX<4,5>、PX<5,5>…を同時に選択することができる。
【0110】
次に、アドレス選択部51からカラムアドレス<13>を受けた場合について説明する。
【0111】
シフト制御部52は、パラメタテーブルを参照し、「カラム下限」及び「カラム上限」がそれぞれ“11”及び“16”のレコードを選択する。
【0112】
シフト制御部52は、当該レコードの「オフセット」が“2”であるため、シフト回路SH<2>を最初にオン状態にすると判定する。また、シフト制御部52は、「シフト間隔」が“2”であるため、オン状態にする2つのシフト回路SHの間に、オフ状態のシフト回路SHを2つ設ける(すなわち、シフト回路SH<5>、SH<8>、…をオン状態にする)と判定する。
【0113】
シフト制御部52は、当該レコードの「シフト方向」が“左”であるため、オン状態にすると判定したシフト回路SH<2>、SH<5>、SH<8>、…に供給する信号left_shift<2>、<5>、<8>、…を活性化させると共に、信号right_shift<2>、<5>、<8>、…を非活性とする。また、シフト制御部52は、オフ状態にすると判定したシフト回路SH<0>、SH<1>、SH<3>、SH<4>、SH<6>、SH<7>…に供給する信号left_shift<0>、<1>、<3>、<4>、<6>、<7>、…、及び信号right_shift<0>、<1>、<3>、<4>、<6>、<7>、…をいずれも非活性とする。
【0114】
以上のように動作することにより、画素PX<0,13>、PX<1,13>、PX<2,13>、PX<3,12>、PX<4,12>、PX<5,12>、PX<6,11>、PX<7,11>、PX<8,11>…を同時に選択することができる。
【0115】
なお、上述の例のうち、アドレス選択部51からカラムアドレス<7>又はカラムアドレス<13>を受ける例では、局所的にみると、隣り合う画素PX間でカラム方向が変化する場合と変化しない場合とが存在し、傾きが一定でないとも言える。本明細書では、例えば、選択される複数の画素PXのサブセットのうち、ロウ方向に沿った両端の画素PXを結ぶ直線の傾きを、当該複数の画素PXのサブセットを含む部分画素領域の傾きと見なす。これにより、アドレス選択部51からカラムアドレス<7>又は<13>を受ける例における部分画素領域の傾きを一意に定めることができる。なお、当該傾きの定義方法はあくまで一例であり、部分画素領域の傾きが一意に定まるものであれば、任意の定義方法が適用可能である。
【0116】
1.3 本実施形態に係る効果
第1実施形態によれば、距離計測装置1は、非同軸光学系を有し、ロウ方向に沿って並ぶ複数の画素PXを同時にオン状態にして対象物TGからの反射光L2を検出する。アドレス選択部51は、出射トリガに基づいて、1又は複数のロウアドレス及び1つのカラムアドレスを含むアドレス信号を生成する。シフト制御部52は、パラメタテーブルを参照することにより、アドレス選択部51が選択するカラムアドレスに応じて、シフト回路SHのシフト方向、オフセット、及びシフト間隔を制御する。これにより、オン状態となる画素PXのカラムアドレスを、ロウ方向に沿って任意のタイミングでシフトさせることができる。このため、受光部41に入射するレーザ光L2の形状の傾きがカラム位置によって変化する場合においても、活性化させるカラム選択線col_selを増やすことなく、当該受光領域を含む一群の画素PXを過不足なくオン状態にすることができる。したがって、受光パターンに生じる傾斜の変化を考慮しつつ、画素PXを選択することができる。
【0117】
なお、シフト機能が無い受光方式の場合、活性化させるカラム選択線col_selを増やして、傾いた受光領域全体をカバーする矩形領域をオン状態にする必要がある。例えば、活性化させるカラム選択線col_selを10倍増やしたとすると、SiPM LiDARのSN比は、光学的ノイズが支配的であるから、ノイズも10倍増加する。このため、LiDARのSN比は、√10≒3.16倍悪化する。言い換えると、第1実施形態によれば、シフト機能が無い受光方式と比べ、SN比が√10≒3.16倍改善する。したがって、測距可能距離及び距離精度等の測距距離性能が、全般的に大きく改善することが期待される。
【0118】
補足すると、同軸光学系や分離光学系、回転型の距離計測装置では、本実施形態のような非同軸光学系と異なり、出射されたレーザ光L1と受光部41に入射するレーザ光L2との間に形状の歪み、及び傾斜は発生しない。このように、受光パターンに傾斜が生じる現象は、非同軸光学系に特有の課題である。そして、受光パターンに生じる傾斜の大きさは、距離計測装置1と対象物TGのレーザ光L1が反射する位置との間の出射角に依存する。このため、縦方向に長いレーザ光L1を対象物TGに対して横方向にスライドさせながら照射するスキャン方法を適用する場合、受光部41における受光領域の傾きは、カラム位置が受光部41の端部に近いほど大きくなり得る。また、受光部41における受光領域の傾きは、カラム位置が受光部41の第1端と第2端とで、正負が変化し得る。
【0119】
第1実施形態によれば、シフト制御部52は、カラムアドレスに応じてシフト方向、オフセット、及びシフト間隔を個別に設定可能なパラメタテーブルを予め記憶する。また、光検出器40は、ロウ方向に沿って隣り合う画素PX間に、ロウアドレス毎に設けられた複数のシフト回路SHを有する。これにより、シフト制御部52は、パラメタテーブルに基づき、任意のロウアドレスに対応するシフト回路SHを活性化させることができる。このため、選択するカラムアドレスに応じて、任意の傾きを有する受光領域を形成することができる。
【0120】
1.4 変形例
上述の第1実施形態では、アドレス選択部51が1つのカラムアドレス(例えばカラムアドレス<n>)を選択する場合について説明したが、これに限られない。例えば、アドレス選択部51は、当該1つのカラムアドレス<n>に加えて、当該カラムアドレス<n>と隣り合うカラムアドレス<n+1>又は<n-1>を更に選択してもよい。
【0121】
図11は、第1実施形態の変形例に係る距離計測装置における受光領域選択動作を説明するための模式図であり、第1実施形態における図10に対応する。
【0122】
図11に示すように、アドレス選択部51は、カラムアドレス<4>を選択した場合、カラムアドレス<4>に加えてカラムアドレス<3>を更に選択してもよい。同様に、カラムアドレス<7>を選択した場合、カラムアドレス<7>に加えてカラムアドレス<6>を更に選択してもよい。カラムアドレス<13>を選択した場合、カラムアドレス<13>に加えてカラムアドレス<12>を更に選択してもよい。
【0123】
なお、最適な選択カラム数は、カラム位置(アドレス)に依存して変わる。傾斜の少ない中央部では、選択カラム数は最小(例えば、1つ)でよいが、傾斜の大きい両端部では、選択カラム数を最大(例えば、2つ)とすべきである。当該変形例では、選択カラム数は、図9のレコードのデータとして追加され、カラム下限及びカラム上限のセット毎に指定される。
【0124】
以上のように動作することにより、受光部41に入射するレーザ光L2がカラム方向に沿って複数の画素PXにまたがる場合においても、出力信号IOUTを効率的に集めることができる。
【0125】
また、光検出器40は、アドレス信号及びシフト信号に基づき、第1実施形態に示した既存のロウ選択線row_sel及びカラム選択線col_selのうち、選択するカラム選択線col_selの本数を増やすだけでよい。このため、新たな信号線を増やすことなく、出力信号IOUTを効率的に集めることができる。
【0126】
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係る距離計測装置について説明する。第1実施形態では、ロウ選択線row_selに供給される信号と、信号left_shift及びright_shiftとが個別に生成される場合について説明した。第2実施形態は、信号left_shift及びright_shiftに基づいて、ロウ選択線row_selに供給される信号を生成する点において、第1実施形態と異なる。以下では、第1実施形態と同等の構成及び動作についてはその説明を省略し、第1実施形態と異なる構成及び動作について主に説明する。
【0127】
2.1 光検出器の回路構成
図12は、第2実施形態に係る光検出器の構成を説明するための回路図であり、第1実施形態の図3に対応する。
【0128】
図12に示すように、光検出器40には、1つのロウ選択線row_selに対応して、1つの論理和回路ORが設けられる。具体的には、論理和回路OR<m>は、信号left_shift<m>が供給される第1入力端と、信号right_shift<m>が供給される第2入力端と、ロウ選択線row_sel<m>に接続された出力端と、を含む。同様に、論理和回路OR<m+1>は、信号left_shift<m+1>が供給される第1入力端と、信号right_shift<m+1>が供給される第2入力端と、ロウ選択線row_sel<m+1>に接続された出力端と、を含む。
【0129】
図13は、第2実施形態に係る光検出器内のシフト信号とロウ選択との関係を示すテーブルである。
【0130】
図13に示すように、論理和回路OR<m>は、活性化されない(図13では“False”と記載)信号right_shift<m>及びleft_shift<m>を受けると、活性化されない信号をロウ選択線row_sel<m>に出力する。これにより、ロウ選択線row_sel<m>に接続された複数の画素PX<m>は、非選択状態となる。また、シフト回路SH<m>は、活性化されない信号right_shift<m>及びleft_shift<m>を受けると、画素PX<m>と画素PX<m+1>との間において、全てのカラム選択線col_selをシフトさせないように構成される。
【0131】
論理和回路OR<m>は、活性化された(図13では“True”と記載)信号right_shift<m>、及び活性化されないleft_shift<m>を受けると、活性化された信号をロウ選択線row_sel<m>に出力する。これにより、ロウ選択線row_sel<m>に接続された複数の画素PX<m>は、選択状態となる。また、シフト回路SH<m>は、活性化された信号right_shift<m>、及び活性化されないleft_shift<m>を受けると、画素PX<m>と画素PX<m+1>との間において、全てのカラム選択線col_selを右方向にシフトさせるように構成される。
【0132】
論理和回路OR<m>は、活性化されない信号right_shift<m>、及び活性化されたleft_shift<m>を受けると、活性化された信号をロウ選択線row_sel<m>に出力する。これにより、ロウ選択線row_sel<m>に接続された複数の画素PX<m>は、選択状態となる。また、シフト回路SH<m>は、活性化されない信号right_shift<m>、及び活性化されたleft_shift<m>を受けると、画素PX<m>と画素PX<m+1>との間において、全てのカラム選択線col_selを左方向にシフトさせるように構成される。
【0133】
論理和回路OR<m>は、活性化された信号right_shift<m>及びleft_shift<m>を受けると、活性化された信号をロウ選択線row_sel<m>に出力する。これにより、ロウ選択線row_sel<m>に接続された複数の画素PX<m>は、選択状態となる。また、シフト回路SH<m>は、活性化された信号right_shift<m>及びleft_shift<m>を受けると、画素PX<m>と画素PX<m+1>との間において、全てのカラム選択線col_selをシフトさせないように構成される。
【0134】
以上のように構成されることにより、ロウ選択線row_selに供給される信号を、同一のロウアドレスに対応する信号left_shift及びright_shiftに基づいて生成することができる。
【0135】
2.3 本実施形態に係る効果
第2実施形態によれば、光検出器40は、信号left_shift及び信号right_shiftが入力されロウ選択線row_selに接続された出力端を有する論理和回路ORを含む。これにより、ロウ選択線row_selに供給される信号を個別に生成することなく、画素PXをオン状態にすることができる。これにより、画素領域選択動作に使用する信号の数を削減することができる。このため、距離計測装置1の設計負荷の増加を抑制することができる。
【0136】
3. 第3実施形態
次に、第3実施形態に係る距離計測装置について説明する。第3実施形態は、画素領域選択動作において、選択される画素領域を補正するための位置補正用画素を更に選択する選択画素補正動作を実行する点において、第1実施形態及び第2実施形態と異なる。以下では、第1実施形態と同等の構成及び動作についてはその説明を省略し、第1実施形態と異なる構成及び動作について主に説明する。
【0137】
3.1 距離計測装置の構成
図14は、第3実施形態に係る距離計測装置の構成を示すブロック図であり、第1実施形態の図1に対応する。
【0138】
図14に示すように、デジタル処理部62は、受光部41から出力された複数の画素PXの出力信号に基づいて位置補正用信号を生成し、当該位置補正用信号をアドレス選択部51及びシフト制御部52に送出する。位置補正用信号は、受光部41においてオン状態となる画素PXの組合せを微修正(補正)するための信号である。
【0139】
アドレス選択部51及びシフト制御部52は、位置補正用信号を受けると、当該位置補正用信号に予め対応づけられた補正処理をアドレス信号及びシフト信号にそれぞれ施す。補正処理が施されたアドレス信号及びシフト信号は、光検出器40及び計測処理部60に送出される。補正処理の詳細については、後述する。
【0140】
なお、光検出器40は、デジタル処理部62において位置補正用信号を生成するために選択される位置補正用の画素を更にオン状態にしてもよい。以下の説明では、主に位置補正用信号を生成するための画素を、位置補正用画素と呼び、主に測距に使用される画素を、測距用画素と呼び、必要に応じて互いに区別する。なお、当該名称は便宜上のものであり、位置補正用画素が測距に使用されること、測距用画素が位置補正に使用されることを禁止するものではない。
【0141】
3.2 位置補正用画素
図15及び図16は、第3実施形態に係る距離計測装置における位置補正用画素を示す模式図である。図15及び図16では、測距用画素に対する位置補正用画素の配置される位置の具体例が3つ示される。図15及び図16はそれぞれ、同一の3つの具体例について、カラム方向シフトが考慮された場合、及び考慮されない場合に対応する。なお、以降の説明では、説明を簡単にするため、カラム方向シフトが考慮されない図16を用いて説明する。
【0142】
図16(A)の例では、測距用画素の中心のカラム位置において、当該測距用画素のロウ方向に沿った両端に位置する画素のペア(図16(A)における画素(a)及び(b))が、ロウ方向の位置補正用画素として使用される。また、測距用画素の中心のロウ位置において、当該測距用画素のカラム方向に沿った両端に位置する画素のペア(図16(A)における画素(c)及び(d))が、カラム方向の位置補正用画素として使用される。なお、測距用画素の中心に位置する画素は、カラム方向及びロウ方向の各々の位置補正に使用され得る。このように、位置補正用画素は、必ずしも測距用画素の端部に位置する必要はないが、ロウ方向又はカラム方向に沿って、必ず複数個配置される。ここで、位置補正用画素の、測距用画素に対する相対位置は、測距用画素の絶対位置に依存せず、不変である。
【0143】
図16(B)の例では、測距用画素を囲む4辺のうち、ロウ方向に沿った2辺に位置する画素群のペアが、ロウ方向の位置補正用画素として使用される。また、測距用画素を囲む4辺のうち、カラム方向に沿った2辺に位置する画素群のペアが、カラム方向の位置補正用画素として使用される。ロウ方向に沿って並ぶ2辺の画素群の各々のカラム方向の重心位置は等しくなり、カラム方向に沿って並ぶ2辺の画素群の各々のロウ方向の重心位置が、等しくなるように、画素群のペアが配置される。
【0144】
このように、複数の画素と複数の画素とがペアとなる場合、2つの画素群のうちの1つの画素群の出力は結合され、1つのデータとして出力されてもよい。これにより、画素数が1個の場合よりも出力値を大きくすることができ、後述する位置補正用評価値を得るための時間を短縮することができる。また、複数の画素を併用することによって、外部要因による各種ばらつきに対して出力が影響されにくくなり、より精度よくロバストに選択画素補正動作を実行し得る。
【0145】
図16(C)の例では、測距用画素の4角の画素の外側、すなわち、測距用画素の左上、右上、左下、及び右下に位置する画素が、カラム方向及びロウ方向の各々の位置補正に使用される。具体的には、例えば、左上及び右上に位置する位置補正用画素の組の出力が加算されたデータと、左下及び右下に位置する位置補正用画素の組の出力が加算されたデータと、がロウ方向位置補正用画素のペアからの出力として使用される。また、例えば、左上及び左下に位置する位置補正用画素の組の出力が加算されたデータと、右上及び右下に位置する位置補正用画素の組の出力が加算されたデータと、がカラム方向位置補正用画素のペアからの出力として使用される。なお、当該出力を加算する処理は、結線による電流の結合で実現してもよい。
【0146】
以上、図16に示したいずれの場合においても、カラム方向位置補正用画素のペアとなる1対の画素のロウ方向の位置は等しくなるように配置され、同時に(同じ画素群を選択するタイミングで)出力される。同様に、ロウ方向位置補正用画素のペアとなる1対の画素のカラム方向の位置は等しくなるように配置され、同時に出力される。
【0147】
3.3 選択画素補正動作
次に、第3実施形態に係る距離計測装置における選択画素補正動作について説明する。
【0148】
3.3.1 フローチャート
まず、第3実施形態に係る距離計測装置における選択画素補正動作のフローについて説明する。図17は、第3実施形態に係る距離計測装置における選択画素補正動作を説明するためのフローチャートである。
【0149】
図17に示すように、ステップST40において、光検出器40は、受光系の走査(すなわち、光検出器40における画素選択動作)をモデル化した走査モデルを選択する。
【0150】
ステップST50乃至ST70において、距離計測装置1は、ステップST40において選択された走査モデルに基づいて、出射光学系20の走査と、光検出器40における画素選択動作とを同期させるためのパラメタの初期設定を行う。
【0151】
具体的には、ステップST50において、距離計測装置1は、受光部41において画素選択する範囲を規定するパラメタとして、カラム方向の振幅、ロウ方向の位置オフセット、及びロウ方向の間隔の初期設定を行う。
【0152】
ステップST60において、距離計測装置1は、受光部41において画素選択するタイミングを規定するパラメタとして、カラム方向の時間オフセットの初期設定を行う。なお、カラム方向の振幅は、カラム方向の時間オフセットと共に、ステップST60において初期設定されてもよい。
【0153】
ステップST70において、距離計測装置1は、受光部41において選択する画素をシフトさせるための各種パラメタの初期設定を行う。
【0154】
ステップST80において、距離計測装置1は、カラム方向の時間オフセット、ロウ方向の位置オフセット、及びロウ方向の間隔を微修正する。
【0155】
以上のように動作することにより、選択画素補正動作が終了する。
【0156】
以下に、図17において示した各処理の詳細について順に説明する。
【0157】
3.3.2 走査モデルの選択
光検出器40において選択される画素領域を出射光学系20の走査に同期させるにあたり、まず、出射光学系20の走査方法に合った光検出器40の走査モデルが選択される(ST40)。
【0158】
例えば、出射光学系20のミラー22にポリゴンミラー又は回転ミラーが用いられる場合、並びに出射光学系20が回転型で構成される場合(走査モデル1)、レーザ光L1の水平方向に沿った出射位置は、一次関数で近似され得る。このため、走査モデル1における光検出器40のカラム方向の画素選択位置xは、時間tの関数として、以下の式(1)に表される。
【0159】
x=2a×(t-φ)/(T-ΔT) (ただし、φ≦t<T-ΔT+φ)…(1)
aは、水平振幅の半値(以下、「振幅」とも呼ぶ)であり、φは時間tについてのカラム方向のオフセット(以下、「カラム方向時間オフセット」とも呼ぶ)、Tは周期、ΔTはブランキングタイムである。振幅a、周期T、及びブランキングタイムΔTは、走査速度v=2a/(T-ΔT)を用いて表現され得る。
【0160】
また、例えば、出射光学系20のミラー22にMEMS(Micro electro mechanical systems)が用いられる場合(走査モデル2)、レーザ光L1の水平方向に沿った出射位置は、正弦関数で近似され得る。このため、走査モデル2における光検出器40のカラム方向の画素選択位置xは、時間tの関数として、以下の式(3)に表される。
【0161】
x=a×sin(ωt-φ) …(3)
ωは、角速度であり、式(1)における周期Tに対応する。
【0162】
図18は、第3実施形態に係る距離計測装置における走査モデルの一例を示す模式図である。図18では、第1実施形態の図7(B)に示したスキャン動作が適用される場合におけるレーザ光L2の走査位置と、ロウ方向に関するパラメタとの関係が示される。
【0163】
いずれの走査モデルにおいても、光検出器40は、図18に示したように、上述したカラム方向の走査を、ロウ方向に沿った位置オフセットR0(以下、「ロウ方向位置オフセット」とも呼ぶ)から開始し、ロウ方向間隔ΔR毎にずらしながら行数n回分だけ繰り返す。周期T及び行数nがユーザによって予め設定される場合、振幅a、カラム方向時間オフセットφ、ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRが初期設定すべき独立なパラメタとなる。
【0164】
なお、上述の例では、説明を簡単にするために、走査モデルを関数表現としているが、これに限られない。例えば、走査モデルは、関数表現に限らず、上記したパラメタの組と、対応する値の組と、が互いに関連づけられたテーブル表現であってもよい。
【0165】
3.3.3 振幅、ロウ方向位置オフセット、及びロウ方向間隔の初期設定
走査モデルが選択されると、続いて、振幅a、ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRの初期設定が実行される(ST50)。
【0166】
アドレス選択部51は、光検出器40内の選択画素を極めてゆっくり受光部41全面にわたって走査させる。光検出器40は、当該長い時間の間、選択される画素毎の受光量を積分させて出力する。出力結果に基づき、計測処理部60は、受光部41内においてレーザ光L2を受光し得る領域(フレーム)を、カラム方向とロウ方向の各々について判定する。
【0167】
当該判定結果に基づき、計測処理部60は、カラム方向に関するパラメタである振幅aと、ロウ方向に関するパラメタであるロウ方向位置オフセットR0及びロウ方向間隔ΔRを決定する。決定された振幅a、ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRは、受光領域制御部50に設定される。
【0168】
3.3.4 カラム方向時間オフセットの初期設定
続いて、カラム方向時間オフセットφの初期設定が実行される(ST60)。
【0169】
アドレス選択部51は、ステップST50において振幅a、ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRが設定された状態で、カラム方向時間オフセットφを所定期間毎(例えば、1フレームの走査期間毎)に大きく変化させながら、光検出器40内の選択画素を走査させる。光検出器40は、位置補正用画素の受光量を積分させて出力する。計測処理部60は、1フレームにわたって、対応する位置補正用画素の出力を積算する。例えば、計測処理部60は、図15(A)における画素(c)及び(d)の各々の出力(輝度値)を、1フレームにわたって積算し、位置補正に使用する評価値(位置補正用評価値)を算出する。
【0170】
なお、計測処理部60は、輝度の大きさだけでなく、測距可能な確率、測距データの信頼度に基づいて位置補正用評価値を算出してもよい。測距可能な確率を位置補正用評価値として用いる場合、計測処理部60は、位置補正用画素の出力を用いた測距が成功したか否かを判定し、成功と判定された回数を、例えば、1フレームの走査に要する期間でカウント(又は積算)する。測距が成功したか否かは、例えば、位置補正用画素の輝度値又は信頼度が、所定の閾値より大きいか否か、に基づいて判定される。
【0171】
図19及び図20は、第3実施形態に係る距離測定装置におけるカラム方向時間オフセットと位置補正用評価値との関係を示すダイアグラムである。図19では、カラム方向時間オフセットφの変化に対する、図15(A)で示した配置のカラム方向位置補正用画素(c)及び(d)について算出された位置補正用評価値の推移が、それぞれ線Lc及びLdとして示される。図20(B1)~図20(B3)では、特定のカラム方向時間オフセットφにおける位置補正用評価値が、カラム位置に沿った評価値の分布と共に示される。図20(A)は、図20(B1)~図20(B3)に示した評価値の分布と、カラム位置との対応関係を模式的に示す。
【0172】
図19に示すように、線Lc及びLdはそれぞれ、互いに異なるカラム方向時間オフセットφc及びφdにおいて、ピーク値をとる。これは、カラム方向位置補正用画素(c)及び(d)がそれぞれカラム方向時間オフセットφc及びφdにおいて受光領域の中心付近に位置することを示す。すなわち、カラム方向時間オフセットφcにおける線Lc及びLdはそれぞれ、図20(B1)における左側の斜線部及び右側の斜線部に対応し、カラム方向時間オフセットφdにおける線Lc及びLdはそれぞれ、図20(B3)における左側の斜線部及び右側の斜線部に対応する。
【0173】
また、線Lc及びLdは、カラム方向時間オフセットφc及びφdの間のオフセット値φ0において、交差する。これは、カラム方向時間オフセットφ0において、2つのカラム方向位置補正用画素(c)及び(d)の位置補正用評価値(例えば、輝度値や測距可能な確率)が等しくなり、当該2つのカラム方向位置補正用画素(c)及び(d)の間の画素(すなわち、測距用画素)において、位置補正用評価値が更に高くなることを示す。すなわち、カラム方向時間オフセットφ0における線Lc及びLdはそれぞれ、図20(B2)における左側の斜線部及び右側の斜線部に対応する。
【0174】
このようなカラム方向時間オフセットφ0を初期値として設定することにより、カラム方向の受光領域に対する画素選択領域のずれを小さくすることが期待できる。
【0175】
なお、上述したカラム方向時間オフセットφの初期設定では、被写体(ターゲット)を必要とするが、車載用LiDARの場合、定常的に路面(例えば、駐車場の地面)からの反射光を受光できるため、当該路面を被写体として利用することができる。路面を被写体として利用する場合、当該路面は視野の下半分にあるため、上述の1フレーム分の走査に要する期間でカウント(又は積算)できるデータは、1フレームのうちの下半分の領域となる。このため、計測処理部60は、1フレームのうちの路面に対応する下半分の領域を走査する期間において、位置補正用画素からの出力を積算する。
【0176】
また、上述したカラム方向時間オフセットφの初期設定では、路面のうち、測距可能な確率の高い、比較的短距離の路面を利用することが望ましい。これにより、測距可能な確率の低い長距離の路面を被写体とする場合よりも、比較的短期間で初期設定を完了させることができる。
【0177】
3.3.5 シフトパラメタの初期設定
走査モデルの各種パラメタの初期値が決定された後、シフトパラメタの初期値が設定される(ST70)。
【0178】
図21は、第3実施形態に係る距離計測装置において受光部に照射されるレーザ光の照射パターンを示す模式図である。
【0179】
図21に示すように、受光部41に照射されるレーザ光L2の照射パターンは、ロウ方向に或る傾きを有しつつ、ロウ方向における中心の画素PX_centerについて、概ね2回対称である。ステップST60までは、当該照射パターンの傾きがゼロであると仮定して、当該照射パターンの中心画素PX_centerの位置が概ね正しくなるように振幅a、及びカラム方向時間オフセットφ等のパラメタの初期値が算出されていることに注意する。
【0180】
上述の通り、シフト量は、カラム位置に依存するため、例えば、図9に示したようなテーブルが設定される。通常、シフト量は、光学系の設計時から大きく変化することはないため、当該設計時のシフトパラメタを固有値として使用することで、概ね最適な結果を得ることができる。
【0181】
なお、シフトパラメタは、設計時に定めされた所定のテーブルによらず、自動的に求めることもできる。例えば、あるカラム位置におけるシフトパラメタを決定する場合、当該シフトパラメタ決定対象のカラム位置における測距用画素からの出力値が用いられる。
【0182】
具体的には、例えば、シフト制御部52は、シフトを考慮しない場合の測距用画素によって選択される領域を、中心の画素を固定しつつ左側に徐々にシフトさせる。計測処理部60は、測距用画素をシフトさせる毎に出力を受け、当該測距用画素に関する評価値を算出する。続いて、シフトを考慮しない場合の測距用画素によって選択される領域を、中心の画素を固定しつつ右側に徐々にシフトさせる。計測処理部60は、測距用画素をシフトさせる毎に出力を受け、当該測距用画素に関する評価値を算出する。ここでの評価値は、上述した位置補正用評価値と同様、輝度の大きさ、測距可能な確率、及び測距データの信頼度等が適用可能である。
【0183】
このようにして左右への複数回のシフトの各々について算出された評価値のうち、最大となる評価値を与える際の測距用画素の選択領域を規定するシフトパラメタが、当該シフトパラメタ決定対象のカラム位置におけるシフトパラメタとして適用される。そして、当該シフトパラメタの決定手法が、例えば、図9に示したテーブルの各行に対応するカラム位置について実行される。
【0184】
以上により、シフトパラメタが設定される。
【0185】
3.3.6 カラム方向時間オフセット、ロウ方向位置オフセット、及びロウ方向間隔の微修正
続いて、カラム方向時間オフセットφ、ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRの微修正が実行される(ST80)。
【0186】
カラム方向時間オフセットφの微修正処理では、カラム方向時間オフセットφを変化させる幅が微少となる点を除いて、カラム方向時間オフセットφの初期設定と同等の処理が実行される。具体的には、カラム方向時間オフセットφの微修正処理では、1画素分、又は1画素の数分の1から数十分の1に対応する幅で、カラム方向時間オフセットφを変化させる。
【0187】
図20(A)及び図20(B1)に示すように、画素(c)の方が画素(d)よりも位置補正用評価値が大きい場合、測距用画素が受光領域に対して紙面右側にずれていることが示唆される。このため、アドレス選択部51は、例えば、1画素の50分の1に相当する量だけ測距用画素及び位置補正用画素を紙面左側にずらすように、カラム方向時間オフセットφを微修正する。
【0188】
また、図20(A)及び図20(B3)に示すように、画素(d)の方が画素(c)よりも位置補正用評価値が大きい場合、測距用画素が受光領域に対して紙面左側にずれていることが示唆される。このため、アドレス選択部51は、例えば、1画素の50分の1に相当する量だけ測距用画素及び位置補正用画素を紙面右側にずらすように、カラム方向時間オフセットφを微修正する。
【0189】
アドレス選択部51は、カラム方向時間オフセットφの微修正量が所定量を超えた場合(例えば、微修正量が小数点以下の値が1を超えた場合)、測距用画素及び位置補正用画素を実際に1画素移動させるように、アドレス信号を生成する。
【0190】
ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRの微修正処理では、カラム方向時間オフセットφの微修正処理と同等の処理が実行される。
【0191】
すなわち、図20(A)の画素(a)の方が画素(b)よりも位置補正用評価値が大きい場合、測距用画素が受光領域に対して紙面下側にずれていることが示唆される。このため、アドレス選択部51は、例えば、1画素の50分の1に相当する量だけ測距用画素及び位置補正用画素を紙面上側にずらすように、ロウ方向位置オフセットR0及びロウ方向間隔ΔRを微修正する。
【0192】
また、図20(A)の画素(b)の方が画素(a)よりも位置補正用評価値が大きい場合、測距用画素が受光領域に対して紙面上側にずれていることが示唆される。このため、アドレス選択部51は、例えば、1画素の50分の1に相当する量だけ測距用画素及び位置補正用画素を紙面下側にずらすように、ロウ方向位置オフセットR0及びロウ方向間隔ΔRを微修正する。
【0193】
アドレス選択部51は、ロウ方向位置オフセットR0及びロウ方向間隔ΔRの微修正量が所定量を超えた場合(例えば、微修正量が小数点以下の値が1を超えた場合)、測距用画素及び位置補正用画素を実際に1画素移動させるように、アドレス信号を生成する。
【0194】
以上の方法により、光検出器40において選択される画素の走査を、出射光学系20から出射されるレーザ光L1の走査に対して精度よく自動追随させることができる。
【0195】
なお、上述したカラム方向時間オフセットφ、ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRの微修正では、カラム方向時間オフセットφの初期設定と同様に、被写体を必要とする。このため、計測処理部60は、1フレームのうちの路面に対応する下半分の領域を走査する期間において、位置補正用画素からの出力を積算する。
【0196】
一方、カラム方向時間オフセットφ、ロウ方向位置オフセットR0、及びロウ方向間隔ΔRの微修正では、カラム方向時間オフセットφを大きく変化させる初期設定と異なり、比較的長距離の路面を利用することが望ましい。ところで、本実施形態の非同軸光学系においては、出射光学系20からの出射光L1の光軸と、受光光学系L2への反射光L2の光軸とが異なるため、一般に、長距離からの反射光L2について、出射光L1の光軸の方向と反射光L2の光軸の方向とが一致するように調整される。しかしながら、短距離からの反射光L2に対しては、出射光L1の光軸の方向と反射光L2の光軸の方向との間に差(視差)が生じる。比較的長距離の路面を利用することにより、被写体からの反射光が受ける視差、そしてその影響を、短距離の路面を利用する場合よりも低減することができ、微修正の精度を高めることができる。
【0197】
図22は、第3実施形態に係る距離計測装置における選択画素補正動作で生成される位置補正用信号の具体例を示すテーブルである。図22の例では、図15(C)に示した4角の位置補正用画素の出力値の大小関係に応じて生成される位置補正用信号が示す測距用画素領域の補正方向の一例が示される。
【0198】
図22に示すように、左下画素の出力値が他の3角の画素の出力値よりも大きい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の下方の画素を左方向へシフトさせるように生成される。
【0199】
右下画素の出力値が他の3角の画素の出力値よりも大きい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の下方の画素を、右方向へシフトさせるように生成される。
【0200】
右下画素及び左下画素の出力値が他の2角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の全ての画素を下方向へシフトさせるように生成される。
【0201】
左上画素の出力値が他の3角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の上方の画素を左方向へシフトさせるように生成される。
【0202】
左上画素及び左下画素の出力値が他の2角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の全ての画素を左方向へシフトさせるように生成される。
【0203】
左上画素及び右下画素の出力値が他の2角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の上方の画素を左方向へシフトさせ、かつ下方の画素を右方向へシフトさせるように生成される。
【0204】
左上画素、右下画素、及び左下画素の出力値が他の1角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の上方の画素を左方向へシフトさせ、かつ全ての画素を下方向へシフトさせるように生成される。
【0205】
右上画素の出力値が他の3角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の上方の画素を右方向へシフトさせるように生成される。
【0206】
右上画素及び左下画素の出力値が他の2角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の上方の画素を右方向へシフトさせ、かつ下方の画素を左方向へシフトさせるように生成される。
【0207】
右上画素及び右下画素の出力値が他の2角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の全ての画素を右方向へシフトさせるように生成される。
【0208】
右上画素、右下画素、及び左下画素の出力値が他の1角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の上方の画素を右方向へシフトさせ、かつ全ての画素を下方向へシフトさせるように生成される。
【0209】
右上画素及び左上画素の出力値が他の2角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の全ての画素を上方向へシフトさせるように生成される。
【0210】
右上画素、左上画素、及び左下画素の出力値が他の1角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の全ての画素を上方向へシフトさせ、かつ下方の画素を左方向へシフトさせるように生成される。
【0211】
右上画素、左上画素、及び右下画素の出力値が他の1角の画素の出力値よりも小さい場合、位置補正用信号は、測距用画素領域の全ての画素を上方向へシフトさせ、かつ下方の画素を右方向へシフトさせるように生成される。
【0212】
なお、図22に示した補正方向はあくまで一例であり、位置補正用画素の出力値に応じて任意の設定を適用することができる。
【0213】
また、上述の通り、図15(C)における左上画素及び右上画素の出力値の合計は、図15(A)における画素(a)の出力値に対応し得る。図15(C)における左下画素及び右下画素の出力値の合計は、図15(A)における画素(b)の出力値に対応し得る。図15(C)における左上画素及び左下画素の出力値の合計は、図15(A)における画素(c)の出力値に対応し得る。図15(C)における右上画素及び右下画素の出力値の合計は、図15(A)における画素(d)の出力値に対応し得る。このように、位置補正用画素を図15(C)とは異なる場所に配置した場合(例えば、図15(A)に示した配置の場合)においても、図22と同等の補正方向の表を作成することができる。
【0214】
3.3 本実施形態に係る効果
第3実施形態によれば、距離計測装置1は、選択画素補正動作を、出射光学系20の走査位置及び角度等に対するセンサ(図示せず)と当該センサの信号伝達系を必要とすることなく実行できる。このため、当該センサ及び信号伝達系を必要とする補正動作と比べて、コストを低減できる。
【0215】
また、上述の通り、第3実施形態に係る選択画素補正動作は、出射光学系20の走査位置及び角度等に対するセンサを必要としない。このため、位置補正用信号と、当該センサの信号との対応ずれを考慮する必要がなく、より原理的に堅牢な補正動作を実現できる。また、出射光学系20のセンサ等に依存しないため、受光系の独立性が高く、出射系と受光系とを自由に組み合わせることができるので、利便性が高めることができる。
【0216】
また、カラム方向用位置補正用画素は、同じロウ位置において複数配置され、ロウ方向用位置補正用画素は、同じカラム位置において複数配置される。当該カラム方向用位置補正用画素及びロウ方向用位置補正用画素は、同時に出力される。これにより、選択画素の走査によって照射位置がサンプリングタイミング毎に変化しても、サンプリングタイミング毎にカラム方向用位置補正用画素及びロウ方向用位置補正用画素の出力を全て得ることができる。
【0217】
3.4 変形例
なお、上述の第3実施形態では、光検出器40における選択画素の走査(受光系の走査)を出射光学系20の走査に合わせる第1同期手法について説明したが、これに限られない。例えば、出射光学系20の走査を受光系の走査に合わせる第2同期手法が適用されてもよいし、第1同期手法と第2同期手法とが適宜組み合わされてもよい。
【0218】
例えば、第2同期手法が適用される場合、カラム方向時間オフセットφの調整は、レーザ光L1の出射トリガに対するオフセット時間の調整に代替されることができる。カラム方向時間オフセットφに代えて出射トリガに対するオフセット時間を調整する場合、微修正処理における1画素の数十分の1程度の修正量は、例えば、出射トリガに対する最小のオフセット時間(具体的には、数ナノ秒)が設定され得る。出射トリガに対するオフセット時間は、カラム方向時間オフセットφよりも簡便に調整できる場合があるため、選択画素補正動作の負荷を軽減することができる。
【0219】
また、図17のステップST50に第2同期手法を適用することにより、受光部41の受光面に合わせて、レーザ光L1の出射角(第1同期手法における振幅aに相当)を決定することができ、反射光L2の照射が受光面からはみ出す、及び反射光L2が受光面の一部にしか当たらない、といった問題を回避できる。その結果、レーザ光L1の利用効率を高めること、又は受光部41の受光面を有効に用いることができ、測距性能を高めることができる。一方、第1同期手法は、受光系だけで補正が完結しているため、系の独立性が高く、簡便である。このように、第1同期手法と第2同期手法共に長所があり、その両方を適用可能にして、場合により使い分け、組合せることが望ましい。
【0220】
4. 第4実施形態
次に、第4実施形態に係る距離計測装置について説明する。第4実施形態では、取得された画素PXの出力信号のSN比(Signal to noise ratio)を、近傍の画素PXの出力信号を使用して改善する点において、第1実施形態乃至第3実施形態と異なる。以下の説明では、第1実施形態と同等の構成及び動作については説明を省略し、第1実施形態と異なる構成及び動作について主に説明する。
【0221】
4.1 デジタル処理部の構成
図23は、第4実施形態に係る距離計測装置のデジタル処理部の構成を示すブロック図である。
【0222】
図23に示すように、デジタル処理部62には、受光部41から出力された画素PX毎のアナログ信号が、AFE61によってデジタル変換されて入力される。デジタル処理部62は、平均化部65、傾き復元部66、及び補間部67を含む。
【0223】
なお、デジタル処理部62に入力されるデジタルデータは、例えば、上述したような受光部41に入射するレーザ光L2の傾きを無視したデータ構造を有する。傾きを無視したデータ構造は、例えば、レーザ光L1の出射順番と、データ順番と、に対応づけられた2次元のデータ空間を有する。傾きを無視したデータ構造の詳細については後述する。
【0224】
平均化部65は、対象画素に対応するデジタル信号を、当該対象画素の近傍の画素に対応する複数のデジタル信号を使用して平均化する、又は積算する処理(以下、「平均化処理」とも呼ぶ)を実行する。平均化処理により、対象画素に対応するデジタル信号に含まれるノイズ成分を、信号成分に対して減少させることができる。
【0225】
具体的には、平均化部65は、AFE61から入力された傾きを無視したデータ構造を有するデジタルデータ(傾き無視データ)に対して平均化処理を実行し、平均化処理後傾き無視データを生成する。平均化部65は、生成した平均化処理後傾き無視データを傾き復元部66に送出する。
【0226】
傾き復元部66は、傾きを無視したデータ構造を有するデータを、傾きが考慮されたデータ構造を有するデータ(傾き復元済みデータ)へと変換する機能を有する。傾きが考慮されたデータ構造は、ロウ方向及びカラム方向に対応づけられた2次元のデータ空間を有する。すなわち、傾きが考慮されたデータ構造の2次元データ空間は、傾きを無視したデータ構造の2次元データ空間とは異なる。傾きが考慮されたデータ構造の詳細については後述する。
【0227】
傾き復元部66は、平均化部65から平均化処理後傾き無視データを受けると、当該データに基づき、平均化処理後傾き復元済みデータを生成する。傾き復元部66は、生成した平均化処理後傾き復元済みデータを補間部67に送出する。
【0228】
補間部67は、傾き復元済みデータ内のデータ間の間隔が等間隔になるように、補間されたデータ(補間済みデータ)を生成する機能を有する。補間部67は、傾き復元部66から平均化処理後傾き復元済みデータを受けると、当該データに基づき、平均化処理後補間済みデータを生成する。補間部67は、生成した平均化処理後補間済みデータを例えば外部の画像処理部へ送出する。
【0229】
4.2 平均化処理
次に、平均化処理について、図24を用いて説明する。
【0230】
図24は、第4実施形態に係る距離計測装置のデジタル処理部内で生成される傾きを無視したデータ構造を示す模式図である。図24では、図10に示したパラメタテーブルに従って取得されたデータのうち、カラムアドレス<7>からカラムアドレス<13>までに対応するデータが示される。図24では、1つのデータD<x,y>が、対応する画素PXのロウアドレス<x>及びカラムアドレス<y>を示す数字“x,y”を囲む四角として示される。
【0231】
図24に示すように、傾きを無視したデータ構造は、例えば、出射されたレーザ光L1(すなわち、受光部41に入射したレーザ光L2)に対応するデータ列が紙面上下方向に並び、当該データ列が出射されたレーザ光L1の順番に紙面左右方向に並ぶ。図24の例では、紙面上下方向に並ぶデータ列内の各データに対応する画素PXのロウアドレスが、紙面下方向に昇順となる場合が示される。
【0232】
例えば、カラムアドレス<7>に対応してオン状態となった受光領域によって取得されたデータ列のうち、データD<1,7>とデータD<2,6>とは、カラム方向にずれた位置のデータである。しかしながら、傾きを無視したデータ構造では、データ間のカラム方向のずれは、表現されない。
【0233】
平均化部65は、当該傾きを無視したデータ構造において、平均化処理対象の画素PXのデータに、近傍の画素PXのデータを積算した後、平均化する。具体的には、例えば、データD<3,8>を平均化する場合、平均化部65は、データD<2,7>、D<2,8>、D<2,9>、D<3,7>、D<3,9>、D<4,6>、D<4,7>、及びD<4,8>が使用され得る。
【0234】
4.3 補間処理
次に、補間処理について、図25を用いて説明する。
【0235】
図25は、第4実施形態に係る距離計測装置のデジタル処理部内で生成される傾きが考慮されたデータ構造を示す模式図であり、図24に対応する。
【0236】
図25に示すように、傾きが考慮されたデータ構造は、受光部41内の複数の画素PXの2次元配置に対応したデータ構造を有するため、データ間のカラム方向のずれが表現される。したがって、カラムアドレスに応じてオン状態となる選択画素領域の傾きが変化することにより、データが存在しない領域(図25における斜線部)が発生し得る。
【0237】
補間部67は、このようなデータが存在しない領域を補間することにより、傾きが考慮されたデータ構造を有するデータの間隔を等間隔にすることができる。例えば、図25において欠落したデータD<2,10>は、データD<2,9>及びD<2,11>の値と、カラムアドレスとによって線形補間される。なお、データの補間方法は上述の例に限らず、任意の手法が適用可能である。また、データが存在しない領域を残した方がよい場合は、補間処理を行わなくてもよい。
【0238】
4.4 本実施形態に係る効果
第4実施形態によれば、平均化部65は、受光部41の出力データに対して、傾きを考慮する前に平均化処理を実行する。平均化処理後傾き無視データは、傾き復元部66によって傾き復元済みデータに変換された後、補間部67によって補間される。これにより、画像処理部に出力される距離計測データのSN比を改善することができると共に、距離計測データのデータ構造を、レーザ光L1がスキャンした空間に対応させることができる。
【0239】
4.5 変形例
なお、上述の第4実施形態では、傾き無視データに対して平均化処理を実行する場合について説明したが、これに限られない。例えば、平均化処理は、傾き復元済みデータに対して実行されてもよい。
【0240】
図26は、第4実施形態の変形例に係る距離計測装置のデジタル処理部の構成を示すブロック図であり、図23に対応する。
【0241】
図26に示すように、傾き復元部66は、AFE61からの傾き無視データを受けると、当該データに基づき、平均化処理前傾き復元済みデータを生成する。傾き復元部66は、生成した平均化処理前傾き復元済みデータを補間部67に送出する。
【0242】
補間部67は、傾き復元部66から平均化処理前傾き復元済みデータを受けると、当該データに基づき、平均化処理前補間済みデータを生成する。補間部67は、生成した平均化処理前補間済みデータを平均化部65に送出する。
【0243】
平均化部65は、補間部67から平均化処理前補間済みデータを受けると、当該データに対して平均化処理を実行し、平均化処理後補間済みデータを生成する。平均化部65は、生成した平均化処理後補間済みデータを例えば外部の画像処理部へ送出する。
【0244】
図27は、第4実施形態の変形例に係る距離計測装置のデジタル処理部内で生成される傾きが考慮されたデータ構造を示す模式図であり、図25に対応する。
【0245】
図27に示すように、図25の場合と同様にデータD<3,8>を平均化する場合、平均化部65は、データD<2,7>、D<2,8>、D<2,9>、D<3,7>、D<3,9>、D<4,7>、及びD<4,8>を使用するが、データD<4,6>を使用しない。また、平均化部65は、データD<3,8>の平均化処理において、補間部67によって生成されたデータD<4,9>を更に使用することができる。
【0246】
以上のような構成によれば、補間処理によって等間隔なデータを使用することにより、より精度良く平均化処理を実行できる。
【0247】
以上、説明を判り易くするため、巨大なメモリサイズを有する計算機にてソフトウェア処理をする場合の、逐次アルゴリズムとして記した。しかし、実際には、平均化の処理量は膨大で、現在のPC(Personal computer)やGPU(Graphics processing unit)では処理が困難であり、専用ハードウェア(例えば、IC(Integrated circuit)又はFPGA(Field programmable gate array))としての実装が必要である。一方、平均化には、1画素あたり、1つの時系列のサンプリングデータを必要とする。図24図27に示したような、フレームに相当するサンプリングデータは、巨大なメモリサイズを必要とするため、専用ハードウェアとしての実装は現実的ではない。そこで、実際には、必要な直前数回分の出射されたレーザ光L1に対応するサンプリングデータのみを保持して、平均化処理が行われる。図27に示された傾きの再現については、ロウ方向のシフト量の違いだけを求め(通常は最大で2画素)、当該違いの分だけ余分にサンプリングデータを保持し、積算のタイミングを当該違いの分だけ遅らせ、当該画素に対するシフト量だけずらした画素のサンプリングデータを積算することにより、並列処理可能なハードウェアとして実現される。
【0248】
5. その他
以上、種々の実施形態について説明したが、上述の第1実施形態乃至第4実施形態は、これに限られず、種々の変形が適宜適用可能である。
【0249】
例えば、上述の第1実施形態乃至第4実施形態では、シフト回路SHが、ロウ方向に対するカラム方向の傾きをカラムアドレスに応じて変化させる場合について説明したが、これに限られない。例えば、シフト回路SHは、カラム方向に対するロウ方向の傾きをロウアドレスに応じて変化させるように構成されてもよい。
【0250】
また、上述の第1実施形態乃至第4実施形態では、シフト制御部52は、パラメタテーブルにおいて1つの「シフト間隔」を記憶する場合について説明したが、これに限られず、複数の「シフト間隔」を記憶していてもよい。これにより、シフト制御部52は、受光部41に入射するレーザ光L2の傾きにより合った形状の受光領域をオン状態にすることができる。
【0251】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0252】
1…距離計測装置、10…出射部、11…出射制御部、12,13…ドライバ、14…光源、20…出射光学系、21,31…レンズ、22…ミラー、30…受光光学系、40…光検出器、41…受光部、50…受光領域制御部、51…アドレス選択部、52…シフト制御部、60…計測処理部、61…AFE、62…デジタル処理部、65…平均化部、66…傾き復元部、67…補間部、90…基板、91…p型半導体層、92…p型半導体層、93…n型半導体層。
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