IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝デバイス&ストレージ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-測距装置及び測距方法 図1
  • 特許-測距装置及び測距方法 図2
  • 特許-測距装置及び測距方法 図3
  • 特許-測距装置及び測距方法 図4
  • 特許-測距装置及び測距方法 図5
  • 特許-測距装置及び測距方法 図6
  • 特許-測距装置及び測距方法 図7
  • 特許-測距装置及び測距方法 図8
  • 特許-測距装置及び測距方法 図9
  • 特許-測距装置及び測距方法 図10
  • 特許-測距装置及び測距方法 図11
  • 特許-測距装置及び測距方法 図12
  • 特許-測距装置及び測距方法 図13
  • 特許-測距装置及び測距方法 図14
  • 特許-測距装置及び測距方法 図15
  • 特許-測距装置及び測距方法 図16
  • 特許-測距装置及び測距方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】測距装置及び測距方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/76 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
G01S13/76
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020159572
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053006
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大高 章二
(72)【発明者】
【氏名】西川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】農人 克也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 弘
(72)【発明者】
【氏名】大城 将吉
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-033543(JP,A)
【文献】特開2009-150872(JP,A)
【文献】特開2020-041923(JP,A)
【文献】特開2019-128341(JP,A)
【文献】特開2020-101474(JP,A)
【文献】特開2018-124148(JP,A)
【文献】特開2004-258009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0258973(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0063477(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0261306(US,A1)
【文献】国際公開第2008/102686(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基準信号を生成する第1基準信号源と、
位相が正弦波状に変調された第1測距信号を送信すると共に、位相が正弦波状に変調された第2測距信号を受信して第2の復調信号を復調し、前記第2の復調信号の第2の位相情報を前記第1基準信号に基づく第1のサンプル周期で取得する第1送受信器と、
を備える第1装置と、
前記第1基準信号源とは独立に動作して、第2基準信号を生成する第2基準信号源と、
前記第2測距信号を送信すると共に、前記第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調し、前記第1の復調信号の第1の位相情報を前記第2基準信号に基づく第2のサンプル周期で取得する第2送受信器と、
を備える第2装置と、
前記第1の位相情報および前記第2の位相情報に基づいて、前記第1装置と前記第2装置との間の距離を算出する算出部と、
を具備し、
記第1送受信器が前記第1測距信号を送信して、前記第2送受信器が前記第1測距信号を受信し、
前記第2送受信器が前記第2測距信号を送信して、前記第1送受信器が前記第2測距信号を受信し、
前記第1送受信器が前記第1測距信号を送信して、前記第2送受信器が前記第1測距信号を受信する、
ことを含む、前記第1測距信号および前記第2測距信号を合計3回以上送信する測距シーケンスを行い、
前記算出部は、
前記測距シーケンスにより得られた、2つ以上の前記第1の位相情報および1つ以上の前記第2の位相情報と、前記第1のサンプル周期および前記第2のサンプル周期と、に基づいて前記距離を算出し、
前記距離を算出する際に、
前記第1測距信号と前記第2測距信号の折り返し送信により得られる第1の位相情報および第2の位相情報に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の時間オフセットを補正し、
前記折り返し送信により得られる前記第1の位相情報および前記第2の位相情報と、前記折り返し送信以外の、1回以上の前記第1測距信号と前記第2測距信号との少なくとも一方の送信により得られる第1の位相情報と第2の位相情報との少なくとも一方と、に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の周波数オフセットを補正する、測距装置。
【請求項2】
記測距シーケンスは、さらに、前記第1送受信器が、受信した前記第2測距信号の位相を送信開始時の位相に設定して、前記第1測距信号を送信し、前記第2送受信器が前記第1測距信号を受信する、請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
第1基準信号を生成する第1基準信号源と、
位相が正弦波状に変調された第1測距信号を送信すると共に、位相が正弦波状に変調された第2測距信号を受信して第2の復調信号を復調し、前記第2の復調信号の第2の位相情報を前記第1基準信号に基づく第1のサンプル周期で取得する第1送受信器と、
を備える第1装置と、
前記第1基準信号源とは独立に動作して、第2基準信号を生成する第2基準信号源と、
前記第2測距信号を送信すると共に、前記第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調し、前記第1の復調信号の第1の位相情報を前記第2基準信号に基づく第2のサンプル周期で取得する第2送受信器と、
を備える第2装置と、
前記第1の位相情報および前記第2の位相情報に基づいて、前記第1装置と前記第2装置との間の距離を算出する算出部と、
を具備し、
記第1送受信器が前記第1測距信号を送信して、前記第2送受信器が前記第1測距信号を受信し、
前記第2送受信器が前記第2測距信号を送信して、前記第1送受信器が前記第2測距信号を受信し、
前記第2送受信器が前記第2測距信号を送信して、前記第1送受信器が前記第2測距信号を受信し、
前記第1送受信器が前記第1測距信号を送信して、前記第2送受信器が前記第1測距信号を受信する、
ことを含む、前記第1測距信号および前記第2測距信号を合計4回以上送信する測距シーケンスを行い、
前記算出部は、
前記測距シーケンスにより得られた、2つ以上の前記第1の位相情報および2つ以上の前記第2の位相情報と、前記第1のサンプル周期および前記第2のサンプル周期と、に基づいて前記距離を算出し、
前記距離を算出する際に、
前記第1測距信号と前記第2測距信号の折り返し送信により得られる第1の位相情報および第2の位相情報に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の時間オフセットを補正し、
前記折り返し送信により得られる前記第1の位相情報および前記第2の位相情報と、前記折り返し送信以外の、1回以上の前記第1測距信号と前記第2測距信号との少なくとも一方の送信により得られる第1の位相情報と第2の位相情報との少なくとも一方と、に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の周波数オフセットを補正する、測距装置。
【請求項4】
第1基準信号を生成する第1基準信号源と、
位相が正弦波状に変調された第1測距信号を送信すると共に、位相が正弦波状に変調された第2測距信号を受信して第2の復調信号を復調し、前記第2の復調信号の第2の位相情報を前記第1基準信号に基づく第1のサンプル周期で取得する第1送受信器と、
を備える第1装置と、
前記第1基準信号源とは独立に動作して、第2基準信号を生成する第2基準信号源と、
前記第2測距信号を送信すると共に、前記第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調し、前記第1の復調信号の第1の位相情報を前記第2基準信号に基づく第2のサンプル周期で取得する第2送受信器と、
を備える第2装置と、
前記第1の位相情報および前記第2の位相情報に基づいて、前記第1装置と前記第2装置との間の距離を算出する算出部と、
を具備し、
前記第1測距信号と前記第2測距信号との内の、一方は1回以上送信され、他方は2回以上送信され、
前記算出部は、合計3回以上の前記第1測距信号および前記第2測距信号の送信によって取得される合計3つ以上の前記第1の位相情報および前記第2の位相情報と、前記第1のサンプル周期および前記第2のサンプル周期と、に基づいて前記距離を算出し、
前記第1送受信器は、前記第2の位相情報を前記第2の復調信号の1周期以上サンプルし、
前記第2送受信器は、前記第1の位相情報を前記第1の復調信号の1周期以上サンプルすることを2回以上行い、
前記算出部は、
前記第2の復調信号および前記第1の復調信号に対して、あるサンプルから時間系列で1つ前のサンプルを減算することにより位相変化が最大となる2サンプルを求め、
1回目の前記第1の復調信号に係わる前記2サンプルを含む連続する3サンプルを用いて、受信開始した前記第1測距信号から前記第1の復調信号を復調した時刻から、前記第1の復調信号がサンプルされる時刻までの前記第2装置の経過時間tb1を算出し、
前記第2の復調信号に係わる前記2サンプルを含む連続する3サンプルを用いて、受信開始した前記第2測距信号から前記第2の復調信号を復調した時刻から、前記第2の復調信号がサンプルされる時刻までの前記第1装置の経過時間ta1を算出し、
2回目の前記第1の復調信号に係わる前記2サンプルを含む連続する3サンプルを用いて、受信開始した前記第1測距信号から前記第1の復調信号を復調した時刻から、前記第1の復調信号がサンプルされる時刻までの前記第2装置の経過時間tb2を算出し、
前記第1または第2のサンプル周期をTとしたとき、誤差を含む第1の飛行時間tx,err1
x,err1=(T-ta1-tb1)/2
により求め、
誤差を含む第2の飛行時間tx,err2
x,err2=(T-ta1-tb2)/2
により求め、
2つの前記飛行時間tx,err1およびtx,err2を平均した平均飛行時間を算出して、
前記平均飛行時間に基づき前記距離を算出する、測距装置。
【請求項5】
第1装置と第2装置との間の距離を算出する測距方法であって、
前記第1装置が、第1基準信号を生成し、
前記第1装置が、位相が正弦波状に変調された第1測距信号を送信すると共に、位相が正弦波状に変調された第2測距信号を受信して第2の復調信号を復調し、前記第2の復調信号の第2の位相情報を前記第1基準信号に基づく第1のサンプル周期で取得し、
前記第2装置が、前記第1基準信号とは独立の第2基準信号を生成し、
前記第2装置が、前記第2測距信号を送信すると共に、前記第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調し、前記第1の復調信号の第1の位相情報を前記第2基準信号に基づく第2のサンプル周期で取得し、
前記第1の位相情報および前記第2の位相情報に基づいて、前記第1装置と前記第2装置との間の距離を算出し、
記第1装置が前記第1測距信号を送信して、前記第2装置が前記第1測距信号を受信し、
前記第2装置が前記第2測距信号を送信して、前記第1装置が前記第2測距信号を受信し、
前記第1装置が前記第1測距信号を送信して、前記第2装置が前記第1測距信号を受信する、
ことを含む、前記第1測距信号および前記第2測距信号を合計3回以上送信する測距シーケンスを行い、
前記測距シーケンスにより得られた、2つ以上の前記第1の位相情報および1つ以上の前記第2の位相情報と、前記第1のサンプル周期および前記第2のサンプル周期と、に基づいて前記距離を算出し、
前記距離を算出する際に、
前記第1測距信号と前記第2測距信号の折り返し送信により得られる第1の位相情報および第2の位相情報に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の時間オフセットを補正し、
前記折り返し送信により得られる前記第1の位相情報および前記第2の位相情報と、前記折り返し送信以外の、1回以上の前記第1測距信号と前記第2測距信号との少なくとも一方の送信により得られる第1の位相情報と第2の位相情報との少なくとも一方と、に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の周波数オフセットを補正する、測距方法。
【請求項6】
記測距シーケンスは、さらに、前記第1装置が、受信した前記第2測距信号の位相を送信開始時の位相に設定して、前記第1測距信号を送信し、前記第2装置が前記第1測距信号を受信する、請求項5に記載の測距方法。
【請求項7】
第1装置と第2装置との間の距離を算出する測距方法であって、
前記第1装置が、第1基準信号を生成し、
前記第1装置が、位相が正弦波状に変調された第1測距信号を送信すると共に、位相が正弦波状に変調された第2測距信号を受信して第2の復調信号を復調し、前記第2の復調信号の第2の位相情報を前記第1基準信号に基づく第1のサンプル周期で取得し、
前記第2装置が、前記第1基準信号とは独立の第2基準信号を生成し、
前記第2装置が、前記第2測距信号を送信すると共に、前記第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調し、前記第1の復調信号の第1の位相情報を前記第2基準信号に基づく第2のサンプル周期で取得し、
前記第1の位相情報および前記第2の位相情報に基づいて、前記第1装置と前記第2装置との間の距離を算出し、
記第1装置が前記第1測距信号を送信して、前記第2装置が前記第1測距信号を受信し、
前記第2装置が前記第2測距信号を送信して、前記第1装置が前記第2測距信号を受信し、
前記第2装置が前記第2測距信号を送信して、前記第1装置が前記第2測距信号を受信し、
前記第1装置が前記第1測距信号を送信して、前記第2装置が前記第1測距信号を受信する、
ことを含む、前記第1測距信号および前記第2測距信号を合計4回以上送信する測距シーケンスを行い、
前記測距シーケンスにより得られた、2つ以上の前記第1の位相情報および2つ以上の前記第2の位相情報と、前記第1のサンプル周期および前記第2のサンプル周期と、に基づいて前記距離を算出し、
前記距離を算出する際に、
前記第1測距信号と前記第2測距信号の折り返し送信により得られる第1の位相情報および第2の位相情報に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の時間オフセットを補正し、
前記折り返し送信により得られる前記第1の位相情報および前記第2の位相情報と、前記折り返し送信以外の、1回以上の前記第1測距信号と前記第2測距信号との少なくとも一方の送信により得られる第1の位相情報と第2の位相情報との少なくとも一方と、に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の周波数オフセットを補正する、測距方法。
【請求項8】
第1装置と第2装置との間の距離を算出する測距方法であって、
前記第1装置が、第1基準信号を生成し、
前記第1装置が、位相が正弦波状に変調された第1測距信号を送信すると共に、位相が正弦波状に変調された第2測距信号を受信して第2の復調信号を復調し、前記第2の復調信号の第2の位相情報を前記第1基準信号に基づく第1のサンプル周期で取得し、
前記第2装置が、前記第1基準信号とは独立の第2基準信号を生成し、
前記第2装置が、前記第2測距信号を送信すると共に、前記第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調し、前記第1の復調信号の第1の位相情報を前記第2基準信号に基づく第2のサンプル周期で取得し、
前記第1の位相情報および前記第2の位相情報に基づいて、前記第1装置と前記第2装置との間の距離を算出し、
前記第1測距信号と前記第2測距信号との内の、一方は1回以上送信され、他方は2回以上送信され、
合計3回以上の前記第1測距信号および前記第2測距信号の送信によって取得される合計3つ以上の前記第1の位相情報および前記第2の位相情報と、前記第1のサンプル周期および前記第2のサンプル周期と、に基づいて前記距離を算出し、
前記第1装置は、前記第2の位相情報を前記第2の復調信号の1周期以上サンプルし、
前記第2装置は、前記第1の位相情報を前記第1の復調信号の1周期以上サンプルすることを2回以上行い、
前記第2の復調信号および前記第1の復調信号に対して、あるサンプルから時間系列で1つ前のサンプルを減算することにより位相変化が最大となる2サンプルを求め、
1回目の前記第1の復調信号に係わる前記2サンプルを含む連続する3サンプルを用いて、受信開始した前記第1測距信号から前記第1の復調信号を復調した時刻から、前記第1の復調信号がサンプルされる時刻までの前記第2装置の経過時間tb1を算出し、
前記第2の復調信号に係わる前記2サンプルを含む連続する3サンプルを用いて、受信開始した前記第2測距信号から前記第2の復調信号を復調した時刻から、前記第2の復調信号がサンプルされる時刻までの前記第1装置の経過時間ta1を算出し、
2回目の前記第1の復調信号に係わる前記2サンプルを含む連続する3サンプルを用いて、受信開始した前記第1測距信号から前記第1の復調信号を復調した時刻から、前記第1の復調信号がサンプルされる時刻までの前記第2装置の経過時間tb2を算出し、
前記第1または第2のサンプル周期をTとしたとき、誤差を含む第1の飛行時間tx,err1
x,err1=(T-ta1-tb1)/2
により求め、
誤差を含む第2の飛行時間tx,err2
x,err2=(T-ta1-tb2)/2
により求め、
2つの前記飛行時間tx,err1およびtx,err2を平均した平均飛行時間を算出して、
前記平均飛行時間に基づき前記距離を算出する、測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、測距装置及び測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鍵穴にキーを指し込まなくても、キーフォブ(key-fob)のボタンを押すことで自動車のドアの施錠および開錠を行うことができるシステムが多くの自動車に採用されている。このシステムでは、キーフォブと自動車との間の無線通信を利用して、ドアの施錠および開錠を行う。
【0003】
更に近年、キーフォブに触れることなくドアの施錠および開錠を行い、エンジンを始動させることができるシステムも採用されている。
【0004】
しかし、キーフォブと自動車との間の無線通信に所謂リレーアタックと呼ばれる攻撃を行って、自動車を盗難する事件が発生している。この攻撃への防御策として、キーフォブと自動車との間の距離を測定し、測定した距離が所定の距離以上であると判断したときは無線通信による自動車の制御を禁止する策が検討されている。
【0005】
キーフォブと自動車との間の距離を測定する方法としては、キーフォブに装備された測距装置と自動車に装備された測距装置との一方から所定のRF(Radio Frequency)信号(測距信号)を送信し、送信された測距信号を他方の測距装置で受信して、送信時刻と受信時刻との時間差、すなわち測距信号の飛行時間を計測または推定し、得られた飛行時間に光速度を乗算する方法がある。
【0006】
一般的には、超広帯域(Ultra Wide Band:UWB)無線技術を用いた測距装置が用いられ、広帯域のインパルス信号を測距用の測距信号として用いる。しかし、測距装置の信号処理回路は広帯域に対応する必要があるために、一般に消費電流が大きくなり大容量の電池が必要となる。その結果、キーフォブの寸法が大きくなってコストも高くなる。
【0007】
そこで、装置を小型化しコストを低減する方法として、比較的狭帯域の被変調信号を用いて飛行時間を検出する方法がある。しかし、距離測定の対象である第1の装置の第1の基準クロックの周期と、第2の装置の第2の基準クロックの周期とには、製造ばらつきや温度変化により誤差が生じることがある。こうした場合、検出される飛行時間に誤差が生じ、結果的に得られる距離に誤差が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2019-503472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、実施形態は、複数の装置の基準クロック周期に誤差があっても、測定される距離の誤差を小さくすることができる測距装置及び測距方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の測距装置は、第1基準信号を生成する第1基準信号源と、位相が正弦波状に変調された第1測距信号を送信すると共に、位相が正弦波状に変調された第2測距信号を受信して第2の復調信号を復調し、前記第2の復調信号の第2の位相情報を前記第1基準信号に基づく第1のサンプル周期で取得する第1送受信器と、を備える第1装置と、前記第1基準信号源とは独立に動作して、第2基準信号を生成する第2基準信号源と、前記第2測距信号を送信すると共に、前記第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調し、前記第1の復調信号の第1の位相情報を前記第2基準信号に基づく第2のサンプル周期で取得する第2送受信器と、を備える第2装置と、前記第1の位相情報および前記第2の位相情報に基づいて、前記第1装置と前記第2装置との間の距離を算出する算出部と、を具備し、記第1送受信器が前記第1測距信号を送信して、前記第2送受信器が前記第1測距信号を受信し、前記第2送受信器が前記第2測距信号を送信して、前記第1送受信器が前記第2測距信号を受信し、前記第1送受信器が前記第1測距信号を送信して、前記第2送受信器が前記第1測距信号を受信する、ことを含む、前記第1測距信号および前記第2測距信号を合計3回以上送信する測距シーケンスを行い、前記算出部は、前記測距シーケンスにより得られた、2つ以上の前記第1の位相情報および1つ以上の前記第2の位相情報と、前記第1のサンプル周期および前記第2のサンプル周期と、に基づいて前記距離を算出し、前記距離を算出する際に、前記第1測距信号と前記第2測距信号の折り返し送信により得られる第1の位相情報および第2の位相情報に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の時間オフセットを補正し、前記折り返し送信により得られる前記第1の位相情報および前記第2の位相情報と、前記折り返し送信以外の、1回以上の前記第1測距信号と前記第2測距信号との少なくとも一方の送信により得られる第1の位相情報と第2の位相情報との少なくとも一方と、に基づき、前記第1のサンプル周期と前記第2のサンプル周期の周波数オフセットを補正する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係わる測距装置の構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係わり、GMSK信号の位相を示すグラフである。
図3】第1の実施形態に係わり、GMSK信号の位相の時間変化を示すグラフである。
図4】第1の実施形態に係わり、装置Aと装置Bの間で測距信号を一往復する例を示すタイムチャートである。
図5】第1の実施形態に係わり、装置Aの基準クロック周波数に誤差がなく、装置Bの基準クロック周波数に誤差がある場合に、装置Aを起点として測距信号を一往復し、算出される測距信号の飛行時間に生じる誤差を説明するためのタイムチャートである。
図6】第1の実施形態に係わり、装置Aの基準クロック周波数に誤差がなく、装置Bの基準クロック周波数に誤差がある場合に、装置Bを起点として測距信号を一往復し、算出される測距信号の飛行時間に生じる誤差を説明するためのタイムチャートである。
図7】第1の実施形態に係わり、装置B→装置Aの順で測距信号を送信して2回の測距を行うシーケンスを示すタイムチャートである。
図8】第1の実施形態に係わる具体的な測距シーケンスの一例を示すタイムチャートである。
図9】第2の実施形態に係わり、装置Aから装置Bへ測距信号を送信してmサンプル周期の間隔で検出した時間が短くなる例を説明するためのタイムチャートである。
図10】第2の実施形態に係わり、装置Bから装置Aへ測距信号を送信してmサンプル周期の間隔で検出した時間が長くなる例を説明するためのタイムチャートである。
図11】第2の実施形態に係わり、装置Aから装置Bに測距信号を送信した後に、装置Bから装置Aに測距信号を送信するシーケンスにおいて、装置Bおよび装置Aで位相検出をK回行って得られる時間を平均化する例を示すためのタイミングチャートである。
図12】第2の実施形態に係わり、測距信号の送信を装置A→装置B→装置B→装置Aの順で行って位相検出を各1回行う図8のシーケンスと対比して、図8の後半部分に対応して位相検出をK回行うシーケンスの例を示すタイムチャートである。
図13】第3の実施形態に係わる、1.5往復シーケンスを示すタイムチャートである。
図14】第4の実施形態に係わり、測距信号の送信を装置A→装置B→装置B→装置Aの順に行う測距シーケンスに対して、通信時間を短縮する測距信号を作成する方法を説明するためのタイムチャートである。
図15】第5の実施形態に係わり、1.5往復シーケンスおよび位相折り返し測距シーケンスを取り入れたシーケンスを示すタイムチャートである。
図16】第6の実施形態に係わり、サンプル時間tとサンプル時間tの間に、測距信号の到着時間tarvAがある例を示すタイムチャートである。
図17】第7の実施形態に係わり、4点以上のサンプル点を用いてtを求める方法を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
(構成)
【0013】
図1は、本実施形態に係わる測距装置の構成を示すブロック図である。
【0014】
測距装置は、RF(Radio Frequency)信号による無線通信を行う装置A1(以下、装置A)および装置B2(以下、装置B)を備える。装置Aと装置Bは、ある距離だけ離れており、その距離は経時的に変化しても構わない(装置Aと装置Bの少なくとも一方は移動自在であって構わない)が、1回の距離測定を行う時間内での距離変化は無視できるものとする。
【0015】
装置Aは、プロセッサ11と、メモリ12と、第1基準信号源13と、第1送受信器14とを備える。
【0016】
装置Bは、プロセッサ21と、メモリ22と、第2基準信号源23と、第2送受信器24とを備える。
【0017】
第1基準信号源13は、第1の基準クロック(第1基準信号)を発生し、プロセッサ11と、メモリ12と、第1送受信器14とへ供給する。
【0018】
メモリ12は、プロセッサ11が実行するための処理プログラム、およびプロセッサ11の処理において用いられる各種のデータを記憶する。
【0019】
プロセッサ11は、メモリ12に記憶された処理プログラムに従って、第1送受信器14の送受信動作を制御する。
【0020】
第1送受信器14は、第1基準信号源13から供給された第1の基準クロックに基づき第1のサンプルクロックを生成する。第1送受信器14は、変調された第1測距信号を送信すると共に、第2送受信器24から送信された変調された第2測距信号を受信して、第2の復調信号を復調する。第1送受信器14は、第2の復調信号の第2の位相情報を、第1のサンプルクロックのタイミングでサンプルする。
【0021】
さらにプロセッサ11は、メモリ12に記憶された処理プログラムに従って、第1送受信器14でサンプルされた測距信号の位相から測距信号の飛行時間を算出し、飛行時間に光速度cを乗算することで飛行距離(装置Aと装置Bとの距離)を算出する。
【0022】
第2基準信号源23は、第1基準信号源13とは独立に動作して、第2の基準クロック(第2基準信号)を発生し、プロセッサ21と、メモリ22と、第2送受信器24とへ供給する。
【0023】
メモリ22は、プロセッサ21が実行するための処理プログラム、およびプロセッサ21の処理において用いられる各種のデータを記憶する。
【0024】
プロセッサ21は、メモリ22に記憶された処理プログラムに従って、第2送受信器24の送受信動作を制御する。
【0025】
第2送受信器24は、第2基準信号源23から供給された第2の基準クロックに基づき第2のサンプルクロックを生成する。第2送受信器24は、第2測距信号を送信すると共に、第1測距信号を受信して第1の復調信号を復調する。第2送受信器24は、第1の復調信号の第1の位相情報を、第2のサンプルクロックのタイミングでサンプルする。
【0026】
さらにプロセッサ21は、メモリ22に記憶された処理プログラムに従って、第2送受信器24でサンプルされた測距信号の位相から測距信号の飛行時間を算出し、飛行時間に光速度cを乗算することで飛行距離(装置Aと装置Bとの距離)を算出する。
【0027】
なお、プロセッサ11およびプロセッサ21は、第1の位相情報および第2の位相情報に基づいて、第1装置と第2装置との間の距離を算出する算出部である。ただし、プロセッサ11とプロセッサ21との何れか一方が算出部であっても構わない。
【0028】
実施形態では、測距信号として、既知の変調波を用いた比較的狭帯域な信号を用いる。具体的に、変調信号が、01を繰り返すGMSK(Gaussian filtered Minimum-Shift Keying)信号であるものとする。
【0029】
図2は、本実施形態に係わるGMSK信号の位相を示すグラフである。
【0030】
第1送受信器14および第2送受信器24は、受信したGMSK信号を、同相成分(I信号)と直交成分(Q信号)とに分離して復調する。GMSK信号の位相は、I,Q信号から求められる。
【0031】
図2に示すように、01を繰り返すGMSK信号は、位相平面において、(I,Q)=(1,0)と(I,Q)=(0,1)との間で遷移するのではなく、ガウスフィルタの影響で(I,Q)=(a,b)と(I,Q)=(b,a)との間で遷移する。
【0032】
図3は、本実施形態に係わるGMSK信号の位相の時間変化を示すグラフである。図3において、横軸は時間を示し、縦軸は原点からみた位相を示す。
【0033】
GMSK信号の位相θGMSKは、式(1)により近似できる。
θGMSK≒A01sin(2πf01t)+θOFF (1)
【0034】
ここで、A01は、01(位相が減少するとき0、増加するとき1)を繰り返すGMSK信号の位相の振幅、f01は01を繰り返すGMSK信号の位相の基本周波数(基本周期T01の逆数)、すなわち、GMSK信号の伝送周波数の半分、θOFFは01を繰り返すGMSK信号の位相のオフセット位相、すなわち、π/4である。時間を測定する場合、例えば、式(1)に示すθGMSKがθOFFとなる時間を検出すればよい。
【0035】
ここで、装置Aおよび装置Bのサンプルクロックの周波数(サンプル周波数)を高くすれば、時間分解能が高くなるので位相θGMSKがθOFFとなる時間は正確になる。しかし、低消費電力化を考慮すると、サンプル周波数は、位相θGMSK信号の基本周波数の例えば16倍程度に抑えたい。ただし、正弦波の位相が4象限のどこに存在するかを明確にするために、サンプルクロックは、位相θGMSK信号の基本周波数の4倍以上の周波数が必要である。
【0036】
このような条件下でも装置A,B各々のサンプルクロックにより位相θGMSKをサンプルして、式(1)に示した正弦波近似が可能な信号を適用することにより、飛行時間の測定精度が大幅に低下するのを抑えることができる。なお、以下では解釈の問題が生じない範囲において、「正弦波近似が可能な信号」を単に正弦波信号と記す。そして、測距信号としてGMSK信号などの正弦波信号を用いるものとする。
【0037】
図4は、本実施形態に係わり、装置Aと装置Bの間で測距信号を一往復する例を示すタイムチャートである。図4は、装置Aの第1の基準クロックと装置Bの第2の基準クロックとに周波数の誤差差がなく、かつ、基準時間差TOFFがある場合を示している。
【0038】
図4では、上段に装置Aのタイムチャートを示し、下段に装置Bのタイムチャートを示している。装置Aと装置Bは基準クロックの周波数が同じであるので、サンプル周期Tは同じである。ただし、装置Bのサンプルタイミングは、装置Aのサンプルタイミングよりも、基準時間差TOFFだけ時間的に後にずれている。
【0039】
装置Aのサンプルタイミングで位相θOFFから始まる正弦波信号(測距信号)を送信し、装置A,B間の距離に応じた飛行時間tが経過した後に、装置Bで測距信号を受信する。図4および図4以降のタイムチャートでは、送信波を破線、受信波を実線で示す。また、サンプルクロックでサンプルされた位相θGMSK,b、θGMSK,a等を黒丸で示す。
【0040】
装置Bにおいて位相θGMSK,bがサンプルされる時刻は、位相θOFFから始まる測距信号が装置Bに到着した後に、時間tが経過した時刻である。装置Bは、測距信号を受信したことを検出してから、各種の演算等を行う所定のプロセス時間Tprcsが経過した後に、装置Bのサンプルタイミングで測距信号を送信する。
【0041】
装置Bから送信された測距信号は、飛行時間tを経過した後に、装置Aで受信される。装置Aにおいて位相θGMSK,aがサンプルされる時刻は、位相θOFFから始まる正弦波信号(測距信号)が装置Aに到着した後に、時間tが経過した時刻である。
【0042】
時間tは、装置Aでサンプルされた位相θGMSK,aから式(2)により求められ、時間tは、装置Bでサンプルされた位相θGMSK,bから式(3)により求められる。
≒{1/(2πf01)}sin-1{(θGMSK,a-θOFF)/A01} (2)
≒{1/(2πf01)}sin-1{(θGMSK,b-θOFF)/A01} (3)
【0043】
なお、図4では、装置A,Bの何れも、サンプルクロックのタイミングで送信を開始する位相はθOFFである。式(2),(3)において、サンプル周波数が正弦波信号の周波数f01の4倍以上であれば、時間tおよびtは一意に決まる。
【0044】
装置Aでは、信号を送信してから装置Bからの信号を受信するまでに、往復時間RTT(Round Trip Time)が経過する。図4から、往復時間RTTは、装置Aから装置Bへの飛行時間tと、装置Bに信号が到着してからサンプルされるまでの経過時間tと、装置Bでのプロセス時間Tprcsと、装置Bから装置Aへの飛行時間tと、装置Aに信号が到着してからサンプルされるまでの経過時間tと、の和により、式(4)で表される。
RTT=2t+t+t+Tprcs (4)
【0045】
ここで、往復時間RTTとプロセス時間Tprcsの差分は、サンプル周期Tに等しいので、式(5)が得られる。
=2t+t+t (5)
【0046】
式(5)を変形して、式(6)を得る。
=(T-t-t)/2 (6)
【0047】
従って、式(2)で時間tを求め、式(3)で時間tを求めて、既知のサンプル周期Tを用いれば、式(6)により飛行時間tを精度よく求めることができる。
【0048】
しかし、装置Aの第1の基準クロックの周期(周期は周波数の逆数)と、装置Bの第2の基準クロックの周期とに誤差がある場合、式(6)で求められる飛行時間tに誤差が生じる。誤差が生じる理由を、以下に説明する。
【0049】
例えば、装置Aの基準クロック周期Tは正確で誤差がなく、装置Bの基準クロック周期Tには誤差があるものとする。装置Aの基準クロック周期Tに対する装置Bの基準クロック周期Tの比T/Tを、式(7)により定義する。
/T=1-rerr (7)
【0050】
ここで、rerrは基準クロック周期Tの誤差比率を示す。サンプル信号は基準クロック信号を分周/逓倍して生成され、サンプル周波数は基準クロック周波数に比例するので、装置Aのサンプル周期Tに対する装置Bのサンプル周期TSBの比TSB/Tは、式(7)と類似する式(8)により表される。
SB/T=1-rerr (8)
【0051】
なお、装置Aのサンプル周期をTSAと記載しなかったのは、誤差がないことを前提にしているためである。
【0052】
図5は、本実施形態に係わり、装置Aの基準クロック周波数に誤差がなく、装置Bの基準クロック周波数に誤差がある場合に、算出される測距信号の飛行時間tに生じる誤差を説明するためのタイムチャートである。なお、装置A,Bの基準クロック周波数に誤差があるということは、つまり、装置Bの基準クロック周期に誤差があるということである。
【0053】
図5では、上段に装置Aのタイムチャートを示し、中段に基準クロック周波数に誤差がない場合の装置Bのタイムチャートを示し、下段に基準クロック周波数に誤差がある場合の装置Bのタイムチャートを示している。
【0054】
装置Bのプロセスに要する時間TprcsBが、装置Bのサンプル周期のN倍である場合には、式(9)となる。
prcsB=NTSB (9)
【0055】
式(8)の左辺の分子分母にそれぞれNを乗算すると、式(10)となる。
NTSB/NT=1-rerr (10)
【0056】
式(10)の両辺にNTを乗算すると、式(11)となる。
NTSB=NT-rerrNT (11)
【0057】
NTはクロック周期に誤差がない場合のプロセス時間Tprcsなので、式(11)の左辺に式(9)を代入すると、式(12)が得られる。
prcsB=Tprcs-rerrprcs (12)
【0058】
式(12)は、装置Bのプロセス時間TprcsBが、誤差がない場合のプロセス時間Tprcsよりも、rerrprcsだけ短くなったことを示す。
【0059】
図5の中段に示す装置Bに比べて、下段に示す装置Bが装置Aに送信を開始する時刻がrerrprcs早まることになる。その結果、装置Aのサンプルクロックで検出する受信位相θ′GMSK,aは、装置Bからの送信時刻が早まった分だけ進むことになる。
【0060】
従って、装置Aのサンプルタイミングで検出される、装置Aに信号が到着してからの経過時間は、装置Bのクロック周期に誤差がない場合のtに対して、誤差がある場合のt′がrerrprcsだけ長くなって、式(13)となる。
t′=t+rerrprcs (13)
【0061】
この誤差が生じたt′を式(6)のtに入れて、飛行時間t′を算出すると、式(14)となる。
t′=(T-t-t-rerrprcs)/2 (14)
【0062】
式(14)を式(6)と比較すればわかるように、飛行時間t′には、rerrprcsによる誤差が生じる。ここで、例えばプロセス時間Tprcsを100[μs]とし、rerr=40[ppm]とした場合、rerrprcs/2=2[ns]となる。2[ns]に光速度を乗算して距離に換算すれば、0.6[m]の距離誤差が生じることがわかる。プロセス時間やクロック周期誤差がさらに大きくなれば、距離誤差はさらに増大する。
【0063】
図5では、基準クロック周期が正確な装置Aに対して、装置Bの基準クロック周期は誤差比率rerrで短いという設定[式(7)]の下で、装置Aを起点として測距信号を一往復し、その結果、式(14)に示すように、飛行時間がrerrprcs/2だけ短く推定されることを示した。
【0064】
次に、式(7)の設定の下で、装置Bを起点として測距信号を一往復したときに、飛行時間に生じる誤差について考察する。
【0065】
図6は、本実施形態に係わり、装置Aの基準クロック周波数に誤差がなく、装置Bの基準クロック周波数に誤差がある場合に、装置Bを起点として測距信号を一往復し、算出される測距信号の飛行時間に生じる誤差を説明するためのタイムチャートである。
【0066】
図6では、上段に装置Aのタイムチャートを示し、中段に基準クロック周波数に誤差がない場合の装置Bのタイムチャートを示し、下段に基準クロック周波数に誤差がある場合(装置Bに固有の基準クロック周波数である場合)の装置Bのタイムチャートを示している。なお、図6には、中段に示す装置Bから装置Aに測距信号を送信する時刻と、下段に示す装置Bから装置Aに測距信号を送信する時刻とが、同時刻である場合を図示している。
【0067】
測距信号を一往復する順序を逆順にした場合でも、装置A,Bが共に正確な基準クロック周期であれば、往復時間RTTは式(4)で表され、飛行時間tは式(6)で表される。
【0068】
しかし、図6の下段に示す装置Bと上段に示す装置Aとの間で測距信号を一往復する場合、以下に示すように、推定される飛行時間(ひいては飛行距離)には、誤差比率rerrによる誤差が生じる。
【0069】
装置Bの内部クロックを基に検出する往復時間RTTをRTTとすると、式(15)により表される。
RTT=2t+t+t′+Tprcs (15)
【0070】
ここで、t′は、装置Bで受信したGMSK信号の検出位相θ′GMSK,bに基づき、式(3)により求められる時間である。一方、RTT=(N+1)TSBなので、式(8)とTprcs=NTを用いれば、式(16)が得られる。
RTT=(N+1)T-rerr(N+1)T
=Tprcs+T-rerr(N+1)T (16)
【0071】
式(15)と式(16)の右辺同士を比較すれば、式(17)が得られる。
=2t+t+t′+rerr(N+1)T (17)
【0072】
式(5)と式(17)を比較すると、式(18)が得られる。
t′=t-rerr(N+1)T (18)
【0073】
式(18)は、往復時間RTTが経過したときに、装置Aから受信した測距信号を下段の装置Bでサンプルするタイミングが、中段の装置Bよりもrerr(N+1)Tだけ早まったことを意味する。
【0074】
この誤差が生じたt′を式(6)に入れて、飛行時間t″を算出し、Tprcs=NTを用いると、式(19)となる。
t″=(T-t-t+rerrprcs+rerr)/2 (19)
【0075】
装置Aを起点として測距信号を一往復して得られる式(14)と、装置Bを起点として測距信号を一往復して得られる式(19)とを比べると、誤差時間rerrprcsの符号が反対である。さらに、式(19)にあるもう1つの誤差時間rerrは、明らかにrerrprcsに比べて小さい。このために、式(14)により推定した飛行時間t′と、式(19)により推定した飛行時間t″とを平均化すれば、rerrprcsの項が消えて、推定時間の精度が明らかに向上することがわかる。
【0076】
例えば、rerr=40[ppm],T=125[ns]とした場合、rerrprcs/4=1.25[ps]となる。1.25[ps]に光速度を乗算して距離に換算すれば、0.4[mm]の距離誤差となり、装置Aを起点として測距信号を一往復したときの距離誤差0.6[m]に比べて、測定精度が大幅に改善していることが分かる。
【0077】
従って、推定距離の大幅な精度向上は、装置A→装置Bの順で測距信号を送信して測距した後に、装置B→装置Aの順で測距信号を送信して再度測距し、2度の測距結果を平均化することにより達成される。
【0078】
ただし、図6では、装置Bが測距信号を送信したときに、装置Aに測距信号が到着してからサンプルされるまでの時間がtであると仮定しており、上記計算は、この仮定の下で行っている。
【0079】
一方、図5に示す時間tは、装置Aが測距信号を送信してから時間(N+1)Tが経過した後に装置Aが装置Bの測距信号をサンプルしたときに、到着時間からサンプルまでに経過する時間である。
【0080】
従って、図6に示す時間tは、図5に示す時間tと異なる。これらの時間が異なっても、式(19)の飛行時間が得られることを以下に示す。
【0081】
具体的に、装置Bが所定クロック、例えばLクロック遅延してから測距信号を送信しても、遅延せずに測距信号を送信した場合の式(19)で表される飛行時間が成り立ち、測距信号を送信する時刻に関係なく推定される飛行距離が同じになることを示す。
【0082】
図7は、本実施形態に係わり、装置B→装置Aの順で測距信号を送信して2回の測距を行うシーケンスを示すタイムチャートである。図7に示すシーケンスでは、装置B→装置Aの順で測距信号を送信して第1回目の測距を行い、装置Bが第1回目の測距信号を送信してから時間LTSBが経過した後に、装置B→装置Aの順で測距信号を送信して第2回目の測距を行う。
【0083】
第1回目の測距で得られる測距結果は、式(19)と同様である。
【0084】
第2回目の測距において、装置Bが第1回目の測距信号を送信してから時間LTSBが経過した後に、装置Bから測距信号を送信する。送信された測距信号を装置Aで受信した時間をtaLとする。ここで、taLは、装置Aで観測(サンプル)した位相θGMSK,aLを式(2)に代入して算出した時間である。
【0085】
測距信号の位相θGMSK,aLを検出した後、プロセス時間Tprcs=NTが経過すると、装置Aが測距信号を送信する。装置Bは、装置Aからの測距信号の位相θ′GMSK,bLを観測(サンプル)し、式(3)に代入して時間t′bLを算出する。
【0086】
第1回目の測距で装置Bが測距信号を送信してから、第2回目の測距で装置Bが測距信号を送信するまでに経過した時間LTSBは、式(8)を用いると、式(20)により表される。
LTSB=LT-rerrLT (20)
【0087】
装置Aを基準とすると、装置Bの測距信号の送信時刻はrerrLTだけ早くなる。従って、装置Aで測距信号を受信する時間もその分早くなるので、taLは式(21)となる。
aL=t+rerrLT (21)
【0088】
一方、往復時間RTT=(N+1)TSBは一定なので、第1回目の測距における往復時間も第2回目の測距における往復時間も同じである。第2回目の測距における往復時間RTTは、式(22)となる。
RTT=2t+taL+t′bL+Tprcs (22)
【0089】
式(22)は、式(15)と同じなので、t′bLは式(23)となる。
t′bL=t-rerr(N+1)T-rerrLT (23)
【0090】
飛行時間tは、装置Aおよび装置Bが正確なクロックで動作することを仮定して、式(6)のtにtaLを代入し、tにt′bLを代入することで算出し、式(24)が得られる。
=(T-taL-t′bL)/2
=(T-t-t+rerrprcs+rerr)/2 (24)
【0091】
式(19)と式(24)は同じ式なので、装置B→装置Aの順で測距信号を送信した場合の測距結果は、測距開始時間に係わらず同じ結果となる。これから、装置A→装置Bの順で測距信号を送信して第1回目の測距を行った後に、装置B→装置Aの順で測距信号を送信して第2回目の測距を行い、2回の測距結果を平均化することにより、精度を向上した飛行時間、ひいては飛行距離が得られる。
【0092】
図8は、本実施形態に係わる具体的な測距シーケンスの一例を示すタイムチャートである。図8に示す測距シーケンスでは、測距信号を送信する順を装置A→装置B→装置B→装置Aとしている。
【0093】
図8において、装置A、装置Bから測距信号を送信する回数および受信する回数がそれぞれ2回あるので、1回目に装置B、装置Aで測距信号を受信してからサンプルするまでの時間をそれぞれtb1,ta1とし、2回目に装置B、装置Aで測距信号を受信してからサンプルするまでの時間をそれぞれtb2,ta2とした。
【0094】
また、tb1,ta1から推定した飛行時間をtx1とし、tb2,ta2から推定した飛行時間をtx2とすると、式(14)と式(24)から、それぞれ式(25),(26)となる。
x1=(T-ta1-tb1)/2
=(T-t-t-rerrprcs)/2 (25)
x2=(T-ta2-tb2)/2
=(T-t-t+rerrprcs+rerr)/2 (26)
【0095】
従って、tx1とtx2とを平均した飛行時間tは、式(27)となる。
=(tx1+tx2)/2
={T-t-t+(rerr)/2}/2 (27)
【0096】
第1の実施形態によれば、起点の異なる往復シーケンス、すなわち、装置Aを起点として測距信号を往復する測距シーケンスと、装置Bを起点として測距信号を往復する測距シーケンスとを実施して、各測距シーケンスで得られる飛行時間を平均化処理している。これにより、装置Aと装置Bの基準クロック周期に誤差があっても、推定される飛行時間の誤差を大幅に低減することができ、飛行時間に光速度を乗算して得られる飛行距離の誤差を大幅に低減することができる。
【0097】
具体的に、本実施形態では、測距信号の1往復により時間オフセット(図6に示すTOFF)を補正することができ、さらに起点が異なる測距信号の1往復を追加して平均化処理を行うことで周波数オフセットを補正することが可能となっている。ここで、装置Aの基準クロック周期Tに対応する基準クロック周波数をf、装置Bの基準クロック周期Tに対応する基準クロック周波数をfとすると、式(7)は、後述する式(46)となり、補正される周波数オフセットは、式(46)から得られるrerrである。
【0098】
なお、上述では飛行時間を平均化処理したが、飛行時間から飛行距離を算出してから平均化処理を行ってもよいし、サンプルされた位相を平均化処理してから飛行時間および飛行距離を求めても構わない(第7の実施形態の式(72)等参照)。
(第2の実施形態)
【0099】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0100】
上記では装置A,Bで位相信号がゼロクロス点に相当する位相オフセットθOFFを横切ってからサンプルされるまでの時間を測定することを述べたが、第1の実施形態の説明では、受信開始した直後のサンプル点の位相θGMSK,aまたはθGMSK,bを測定するものであり、1つの位相データを対象とするものであった。
【0101】
しかし、1回の測距信号の受信期間が測距信号の周期1/f01に比べて長く、例えばK周期(K:自然数)の測距信号を受信することが可能であれば、1回の測距信号の受信期間に複数の位相オフセットθOFFを横切ってからサンプルされるまでの時間を測定することができる。この場合、複数回位相を検出して平均化を図ることで、雑音等による位相検出の測定ばらつきを抑えることができ、飛行時間tを精度よく推定することができる。
【0102】
ただし、装置A,B間で基準クロックに周波数オフセットがある場合でも、1回の位相検出により求められる飛行時間tと、複数回位相を検出して平均化処理により求められる飛行時間tと、が等しいことを示す必要がある。以下に、これらが等しいことを示す。
【0103】
周波数誤差がない場合、測距信号の周期1/f01はサンプル周期Tのm倍であるとし、測距信号を受信する期間はK/f01であるとする。
【0104】
まず、装置Aから装置Bへ測距信号を送信する場合、図9を参照して、K回サンプルした検出時間(θOFFを横切ってからサンプルされるまでの時間)の和tsumBを求める。図9は、本実施形態に係わり、装置Aから装置Bへ測距信号を送信してmサンプル周期の間隔で検出した時間が短くなる例を説明するためのタイムチャートである。すなわち、装置Bのサンプリング周期が装置Aに対して短い場合である。
【0105】
装置Bで初回に測距信号をサンプルした時間を、検出位相θGMSK,b1に基づいた時間tb1とする。初回に検出した位相から次の位相を検出するまでの時間はmTSBである。
【0106】
2回目の検出時間は初回の検出時間からmTSB経過しているので、式(8)を用いれば、正確な時間に比べてrerrmT短くなることがわかり、観測する時間はtb1-rerrmTとなる。
【0107】
同様に類推すれば、k回目の検出時間はtb1-(k-1)rerrmTとなる。従って、1回目からK回目まで検出した時間の和tsumBは、式(28)により与えられる。
sumB=Σ {tb1-(k-1)rerrmT
=K(tb1+rerrmT)-{K(K+1)/2}rerrmT (28)
【0108】
すると、K回検出を行ったときのtsumBの平均は、式(29)となる。
sumB/K=tb1-{(K-1)/2}rerrmT (29)
【0109】
装置Aから装置Bへ測距信号を送信する場合、mサンプル周期の間隔でK回検出した時間の平均は、最初の1回だけ検出した時間と比べて、時間{(K-1)/2}rerrmTだけ短くなる。
【0110】
次に、時間NTSBが経過した後に、装置Bから装置Aに測距信号を送信し、装置AでK回検出位相に基づく時間について図10を参照しながら算出する。図10は、本実施形態に係わり、装置Bから装置Aへ測距信号を送信してmサンプル周期の間隔で検出した時間が長くなる例を説明するためのタイムチャートである。
【0111】
最初の位相検出に基づき算出された時間をta1とする。1回目の位相検出と2回目の位相検出との時間差はmTであり、その間に装置BはrerrmTだけ時間が進んでいて、その分だけ測距信号を送信するのが早くなる。このために、2回目の位相検出に基づき算出された時間はta1+rerrmTとなる。
【0112】
同様に類推すれば、k回目の検出時間はta1+(k-1)rerrmTとなる。従って、1回目からK回目まで検出した時間の和tsumAは、式(30)により与えられる。
sumA=Σ {ta1+(k-1)rerrmT
=K(ta1-rerrmT)+{K(K+1)/2}rerrmT (30)
【0113】
すると、K回検出を行ったときのtsumAの平均は、式(31)となる。
sumA/K=ta1+{(K-1)/2}rerrmT (31)
【0114】
装置Bから装置Aへ測距信号を送信する場合、mサンプル周期の間隔でK回検出した時間の平均は、最初の1回だけ検出した時間と比べて、時間{(K-1)/2}rerrmTだけ長くなる。
【0115】
しかしながら、式(6)のt,tの代わりにtsumA/K,tsumB/Kを用いて最初の往復による飛行時間tx1_avgを推定すると、式(32)となる。
x1_avg={T-(tsumA/K)-(tsumB/K)}/2
=(T-ta1-tb1)/2
=(T-t-t-rerrprcs)/2=tx1 (32)
【0116】
これは、平均化しない飛行時間と同じである。
【0117】
図11は、本実施形態に係わり、装置Aから装置Bに測距信号を送信した後に、装置Bから装置Aに測距信号を送信するシーケンスにおいて、装置Bおよび装置Aで位相検出をK回行って得られる時間を平均化する例を示すためのタイミングチャートである。
【0118】
実施形態1において1回の位相検出により飛行時間を算出する場合、図8に示したように測距信号を装置Aから装置B、装置Bから装置A、装置Bから装置A、装置Aから装置Bへ送信するシーケンスを用いて、算出した時間を平均化することにより飛行時間推定tx1に含まれる周波数ずれによる誤差を小さく抑えた。
【0119】
同様に、本実施形態において、mサンプル周期の間隔でK回検出した位相から得られる時間の平均をとった場合でも、図8に示したシーケンスを用いれば、飛行時間の推定誤差が小さくなる。
【0120】
図12は、本実施形態に係わり、測距信号の送信を装置A→装置B→装置B→装置Aの順で行って位相検出を各1回行う図8のシーケンスと対比して、図8の後半部分に対応して位相検出をK回行うシーケンスの例を示すタイムチャートである。
【0121】
図12の1段目および2段目のシーケンスは、図8と同じシーケンスを示している。図12の3段目と4段目のシーケンスは、図8の後半部分に対応する、装置Bから装置A、装置Aから装置Bへ測距信号をそれぞれ送信して、位相検出をK回行うシーケンスのイメージを示している。なお、図8の前半部分に対応する、装置Aから装置B、装置Bから装置Aへ測距信号をそれぞれ送信して、位相検出をK回行うシーケンスのイメージは図11に示しているので、図12においては図示を省略している。
【0122】
図12の3段目および4段目に示すように、装置Bから装置Aに測距信号を送信して、装置Aで測距信号を受信したときに、初回の検出位相がθGMSK,a2であり、検出位相に対応する時間がta2であるとする。
【0123】
その後、K回まで位相を検出したときに、検出された各位相から算出される時間の和tsumA2は、式(30)においてta1をta2に置き換えた式と等しい。従って、tsumA2の平均tsumA2/Kは、式(33)となる。
sumA2/K=ta2+{(K-1)/2}rerrmT (33)
【0124】
次に、装置Aから装置Bに測距信号を送信して、装置Bで測距信号を受信したときに、初回の検出位相がθGMSK,b2であり、検出位相に対応する時間がtb2であるとする。
【0125】
その後、K回まで位相を検出したときに、検出された各位相から算出される時間の和tsumB2は、式(29)においてtb1をtb2に置き換えた式と等しい。従って、tsumB2の平均tsumB2/Kは、式(34)となる。
sumB2/K=tb2-{(K-1)/2}rerrmT (34)
【0126】
式(6)のt,tの代わりにtsumA2/K,tsumB2/Kを用いて2回目の往復による飛行時間を推定すると、式(35)となって、平均化しない飛行時間推定と同じになる。
x2_avg={T-(tsumA2/K)-(tsumB2/K)}/2
=(T-ta2-tb2)/2
=(T-t-t+rerrprcs+rerr)/2=tx2 (35)
【0127】
x1_avgとtx2_avgの平均により飛行時間tx_avgを求めると、式(36)となる。
x_avg=(tx1_sum+tx2_sum)/2
={T-t-t+(rerr/2)}/2=t (36)
【0128】
装置Aから装置B、装置Bから装置A、装置Bから装置A、装置Aから装置Bの順序で測距信号を送信するシーケンスにおいて、位相検出をK回行い、各位相から得られた時間を平均化処理した飛行時間は、1回だけ位相検出を行って得られた飛行時間と同じになる。ただし、同じ結果になるのは期待値であり、平均化処理をした結果は、測定ばらつきに起因する誤差が小さくなっている。
【0129】
第2の実施形態によれば、上述した第1の実施形態とほぼ同様の効果を奏するとともに、測距シーケンスによりサンプルするデータ数を増やして、得られたデータを平均化処理することにより、さらに高精度な測距を実施することができる。
(第3の実施形態)
【0130】
図13は、本実施形態に係わる1.5往復シーケンスを示すタイムチャートである。第3の実施形態では、第1,2の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0131】
図8に示す測距シーケンスにおいて、装置Aまたは装置Bが1回の測距信号を送信してから、装置Aまたは装置Bが次の測距信号を送信するまでの時間はNサンプルクロック分なので、装置A→装置B→装置B→装置Aの順で測距信号を送信すると3Nクロック分の時間が必要となる。装置Aの基準クロックで換算すれば3NTとなる。本実施形態は、図13に示すシーケンス(以下では、1.5往復シーケンスと呼ぶ)を採用することで、測距時間をおよそ3NTから2NTに短縮する。
【0132】
図8のシーケンスでは、装置Aで2回の位相を測定して、時間ta1,ta2を得る。本実施形態の1.5往復シーケンスでは、図13に示すように、装置Aにおける位相の測定を1回だけ測定にして、測距信号を送信する順を装置A→装置B→装置Aにする。この1.5往復シーケンスは、図8のシーケンスにおいて、L=Nと設定した場合に相当し、ta1=ta2となる。これにより、後半の1往復シーケンス(装置B→装置A)がNT分早く時間シフトすることに相当する。
【0133】
式(19)と式(24)の比較で示したように、装置B→装置Aの1往復測距シーケンスは時間の始点に関わらず一意の飛行時間tx2が得られる。従って、図13に示す装置B→装置Aのシーケンスにおいて観測する時間はtx2となる。
【0134】
なお、ここでは図示しないが、第2の実施形態に示すmサンプル毎にK回位相検出を行い、各位相から得られる時間を平均化処理する方法を本実施形態にも適用できることは明らかである。
【0135】
第3の実施形態によれば、上述した第1,2の実施形態の2往復測距シーケンスに代えて、実質的に1.5往復とした測距シーケンスを用いることにより、測距時間を短縮することができる。ここで、図13のシーケンスで短縮される時間の具体例は、図8のシーケンスの時間の例えば約33%となる。
(第4の実施形態)
【0136】
第4の実施形態では、第1~3の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0137】
飛行時間tを求めるには、装置Aと装置Bで位相を検出して得られる、位相オフセットθOFFを横切ってからサンプルされるまでの経過時間ta1,ta2,tb1,tb2のデータが必要である。
【0138】
装置Aで飛行時間tを計算するには、装置Bからtb1,tb2のデータを装置Aに伝える必要があり、装置Bで飛行時間tを計算するには装置Aからta1,ta2のデータを装置Bに伝える必要がある。
【0139】
この測距データのやり取りは、測距データを検出した後に、一般的なデジタル通信を用いて実施される。測距データの通信に要する時間は、測距データの要求精度、伝送レート等に依存するが、例えば数100[μs]程度の時間を要する場合がある。従って、測距データの通信が不要であれば、測距シーケンスに要する時間が短縮される。本実施形態は、測距データの通信時間を短縮または削除する測距信号を作成する技術に係わる。
【0140】
図14は、本実施形態に係わり、測距信号の送信を装置A→装置B→装置B→装置Aの順に行う測距シーケンスに対して、通信時間を短縮する測距信号を作成する方法を説明するためのタイムチャートである。
【0141】
図14と、第1の実施形態の図8との相違は、以下である。装置Bが最初に装置Aに測距信号を送信するときは、装置BのタイミングNTSBにおける位相を、オフセット位相θOFFに代えて、装置Aからの測距信号を受信した位相θGMSK,b1としている。さらに、装置Aが2回目に装置Bに測距信号を送信するときは、装置AのタイミングNTにおける位相を、オフセット位相θOFFに代えて、装置Bからの測距信号を受信した位相θGMSK,a2としている。これらの相違点は、共に、受信位相での折り返し送信をしていることになる。
【0142】
なお、装置BがタイミングNTSBで位相θGMSK,b1の測距信号を送信することと、装置AがタイミングNTで位相θGMSK,a2の測距信号を送信することと、の何れか一方を行うだけでも、測距時間の短縮効果がある。
【0143】
以下に、装置BがタイミングNTSBで位相θGMSK,b1の測距信号を送信することにより、測距時間を短縮できる理由を述べる。ただし、測距計算は装置Aが実施することとする。
【0144】
装置BがタイミングNTSBで位相θGMSK,b1の測距信号を送信すると、オフセット位相θOFFとなるタイミングは、タイミングNTSBよりもtb1前となる。オフセット位相θOFFとなる時刻が測距信号の送信開始時刻とすると、送信開始時刻はNTSB-tb1となる。
【0145】
次に、装置Aでこの測距信号を受信する場合について考える。まず、装置BがタイミングNTSBで位相θOFFの測距信号を送信開始した場合、装置Aはサンプルタイミングで位相θGMSK,a1をサンプルし、これを検出時間ta1に変換する。
【0146】
これに対して、装置BがタイミングNTSB-tb1で位相θOFFの測距信号を送信開始した場合、装置Aは位相θOFFの経過時間ta1よりも時間tb1分早く測距信号が到着したと判断する。すると、装置Aがサンプルタイミングでサンプルする位相は、位相θGMSK,a1ではなく、時間tb1分早く受信したことに対応する位相θGMSK,ab1となる。従って、式(37)の関係が成り立つ。
a1+tb1≒{1/(2πf01)}sin-1{(θGMSK,ab1-θOFF)/A01} (37)
【0147】
よって、位相θGMSK,ab1を検出することにより、装置Bで検出した経過時間tb1のデータを装置Aで取得できる。一方、装置BがタイミングNTSB-tb1で位相θOFFの測距信号を送信しなければ、装置Bは、検出した経過時間tb1のデータを装置Aに送信する必要がある。
【0148】
なお、同様に、装置AがタイミングNTで位相θGMSK,a2の測距信号を送信することにより、装置Bは位相θGMSK,ab2を検出するが、この位相と2回目の往復シーケンスにより検出すべき時間ta2+tb2の関係は、式(38)となる。
a2+tb2≒{1/(2πf01)}sin-1{(θGMSK,ab2-θOFF)/A01} (38)
【0149】
ただし、もし装置Aで距離計算を行う場合、この結果を装置Aに送信する必要があるために、2回目の往復シーケンスでは送信する測距信号の位相をシフトする必要はない。この結果が測距時間を短縮するのは、装置Bで距離計算を行う場合である。装置Bで距離計算を行う場合は、式(28)で検出した結果を装置Bに送信する必要がある。従って、装置Aと装置Bの何れで距離計算を行うかに応じて、測距信号の位相シフトの何れか一方を行えばよい。
【0150】
確認のために、式(37)と式(38)を用いることにより測距精度が向上することを以下に示す。式(25)~式(27)を用いて、平均した飛行時間tを変形すると、式(39)となる。
=(tx1+tx2)/2
={2T-(ta1+tb1)-(ta2+tb2)}/4 (39)
【0151】
式(39)の(ta1+tb1)は式(37)から求められ、式(39)の(ta2+tb2)は式(38)から求められる。よって、装置Aと装置Bの何れで距離計算を行うかにより、式(37)、式(38)の何れかを使用することができ、検出時間のデータ通信を削減することができる。
【0152】
なお、ここでは図示しないが、第2の実施形態に示すmサンプル毎にK回位相検出を行い、各位相から得られる時間を平均化処理する方法を本実施形態にも適用できることは明らかである。
【0153】
第4の実施形態によれば、上述した第1~3の実施形態とほぼ同様の効果を奏するとともに、受信した測距信号の位相で折り返し測距信号を送信することにより、データ通信時間が削減され、測距時間をより短縮することができる。
(第5の実施形態)
【0154】
第5の実施形態では、第1~4の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0155】
本実施形態は、第3の実施形態の1.5往復測距と、第4の実施形態の受信した位相での折り返し測距とを取り入れることで、さらに測距時間の短縮を図ったものである。図15は、本実施形態に係わり、1.5往復シーケンスおよび位相折り返し測距シーケンスを取り入れたシーケンスを示すタイムチャートである。図15のシーケンスでは、測距信号の送信を装置A→装置B→装置Aの順に行う。
【0156】
図15のシーケンスと図13の1.5往復シーケンスとの相違は、装置Aが最後に送信する測距信号の位相である。図13では、装置AのタイミングNTでオフセット位相θOFFの測距信号を送信した。
【0157】
これに対し、図15では、タイミングNTで送信する位相は、装置Aで受信した位相θGMSK,a1から推定した到着時間ta1の2倍の到着時間に相当する位相θGMSK,TXa、すなわち、式(40)を満たすθGMSK,TXaである。
2ta1≒{1/(2πf01)}sin-1{(θGMSK,TXa-θOFF)/A01} (40)
【0158】
この位相θGMSK,TXaで装置Aから装置Bへ測距信号を送信すると、装置Bでは推定する到着時間がθGMSK,TXa=θOFFで推定される時間tb2に対して2ta1加算された時間となり、それに伴い受信する位相はθGMSK,ab2となる。従って、式(41)が成り立つ。
2ta1+tb2≒{1/(2πf01)}sin-1{(θGMSK,ab2-θOFF)/A01} (41)
【0159】
ただし、1.5往復の場合、前述したように式(42)の解釈を行うと、式(43)の左辺は右辺に書き替えられる。
a1=ta2 (42)
2ta1+tb2=ta1+ta2+tb2 (43)
【0160】
一方、装置Aからの最初の測距信号を受信した装置Bで検出される位相は、式(3)のbをb1に変更したものなので、検出された位相から得られる時間tb1は式(44)となる。
b1≒{1/(2πf01)}sin-1{(θGMSK,b1-θOFF)/A01} (44)
【0161】
式(41),(43),(44)から、装置Bでtb1および(ta1+ta2+tb2)を推定することができる。式(39)を変形すると、式(45)を得る。
=(tx1+tx2)/2
={2T-(ta1+tb1+ta2+tb2)}/4 (45)
【0162】
従って、装置Bで推定したtb1および(ta1+ta2+tb2)を加算することにより、式(45)を用いて飛行距離を推定することができる。
【0163】
なお、ここでは図示しないが、第2の実施形態に示すmサンプル毎にK回位相検出を行い、各位相から得られる時間を平均化処理する方法を本実施形態にも適用できることは明らかである。
【0164】
第5の実施形態によれば、第3の実施形態の1.5往復測距と、第4の実施形態の位相折り返し測距とを組み合わせることで、装置Aと装置Bの何れか一方(上記説明では装置B)でta1+tb1+ta2+tb2を推定することができ、データ通信時間をさらに削減して、測距時間をより一層短縮することができる。
(第6の実施形態)
【0165】
第6の実施形態では、第1~5の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0166】
オフセット位相θOFFを過ぎて初めてサンプルされた位相θGMSK,ai,θGMSK,bi,(i=1,2)から、オフセット位相θOFFを横切ってからサンプルされるまでの経過時間ta1,ta2,tb1,tb2を求めるのは、例えば式(2),(3)を用いる。
【0167】
ここで、式(7),(8)で定義したように装置Aは正確なクロックであり、装置Bは周波数誤差があるとする。装置Aの基準クロック周波数fと、装置Bの基準クロック周波数fとを用いると、式(7)は式(46)となる。
/f=1-rerr (46)
【0168】
装置A,装置Bで生成されるRF信号(測距信号)の周波数は、基準クロック周波数に所定の倍数を乗算した周波数なので、基準クロック周波数と同じ比で誤差が生じる。すなわち、装置AのRF周波数をfRFA、装置BのRF周波数をfRFBとすると、式(47)となる。
RFA/fRFB=1-rerr (47)
【0169】
従って、装置BのRF周波数fRFBは、装置AのRF周波数fRFAと比べて、rerrRFBだけ高い。すなわち、装置Aと装置BがRF周波数設定を同じにしても、装置BのRF信号を装置Aが受信すると、DC(Direct Current)信号を受信するのではなく、周波数rerrRFBの信号を受信することになる。
【0170】
このずれの周波数をfΔ=rerrRFBとおき、装置Bと装置Aの初期位相の差分をΔθBAとすると、装置Aで受信する測距信号の位相は、式(48)となる。
θGMSK,a≒A01sin(2πf01t)+2πfΔt+θOFF+ΔθBA (48)
【0171】
求めたい時間は、装置A、装置B間の周波数オフセットがない状態でのオフセット位相θOFFを横切る時間である。このオフセット位相θOFFを横切る時間は、位相の変化分が最大となる。オフセット位相θOFFを横切る時間に位相の変化分が最大となることは、周波数オフセットfΔがあっても、初期位相の差分ΔθBAがあっても変わることはない。従って、式(48)を時間で微分して、微分した値が最大となるときの時間が、装置Aに測距信号が到着した時間である。式(48)の時間微分は、式(49)となる。
dθGMSK,a/dt≒2πf0101cos(2πf01t)+2πfΔ (49)
【0172】
式(49)の最大値は、t=0[s]のときの、2πf0101+2πfΔとなる。
【0173】
一方、装置Aと装置Bの基準クロックが全く同一の場合、周波数オフセットがなく、初期位相が同一であるときは、装置Aでは式(1)の測距信号を受信する。式(1)の時間微分をとると、最大値は2πf0101であるが、最大値をとる時間はt=0[s]である。最大値に周波数差の違いがあるが、位相の時間微分の最大値をとる時間を検出すれば、装置Aに到着した時間tarvAを検出できることになる。
【0174】
ただし、サンプル周期は無限に小さくできず有限であるので、位相の微分が最大値をとる時間を、サンプル点で取得した位相から推定する必要がある。推定精度を上げるために、例えば象限あたり3点の位相をサンプルする場合、サンプル周波数は12f01となる。以下では、サンプルした位相から、到着時間tarvAを推定する処理を説明する。
【0175】
到着時間tarvAの推定は、式(48)をもとにした微分操作を、差分操作に変えることで行う。式(48)の位相信号のオフセット位相はθOFF+ΔθBAであるが、表記の簡略化のために、θOFFA=θOFF+ΔθBAとする。
【0176】
まず、装置Aでは、受信した位相信号の位相θGMSK,aを、変調周期T01=1/f01以上の期間観測する。装置A、装置B間の事前の通信により変調周期は既知であるので、サンプル数は決まる。ここでの仮定ではサンプル周期Tで12サンプル以上の位相を観測すれば、位相の変化量の最大値を検出することができる。その12サンプルをt(i=0~11)とする。実際は12サンプル以上の位相を観測するので、より多数のサンプルが行われるが、説明のために、特定の12サンプルをもとに装置Aで推定する到着時間tarvAを求める。
【0177】
受信した位相θGMSK,aの位相の変化量の最大値を求めるには、i=0~10について式(50)の値を求めて、その中の最大値を求めればよい。
ΔθGMSK,a(t)=θGMSK,a(ti+1)-θGMSK,a(t) i=0~10 (50)
【0178】
位相の変化量の最大値を与えるサンプル時間tをもとに、3サンプルを抽出する。なお、3サンプル以上のサンプル数とすることで、到着時間tarvAの推定精度をより上げることは可能であるが、ここでは3サンプルで到着時間tarvAを推定する過程を示す。
【0179】
ΔθGMSK,a(t)の最大値がi=1のときに与えられる場合、すなわち、サンプル時間tとサンプル時間tの間に、求めるべき、装置Bからの測距信号の到着時間tarvAがある場合の、θGMSK,a(t)とサンプル点tとの関係を図16に示す。図16は、本実施形態に係わり、サンプル時間tとサンプル時間tの間に、測距信号の到着時間tarvAがある例を示すタイムチャートである。
【0180】
このときに、到着時間tarvAの推定に用いる3サンプル点を、t,t,tとする。なお、サンプル点をt,t,tとしても同様な結果が得られるが、ここではその説明を省略する。
【0181】
時間t,t,tのサンプル点に対する検出位相θGMSK,a(t)を関連付ける方程式は、下記の式(51)~(53)となる。
θGMSK,a(t)≒A01sin(2πf01)+2πfΔ+θOFFA (51)
θGMSK,a(t)≒A01sin(2πf01)+2πfΔ+θOFFA (52)
θGMSK,a(t)≒A01sin(2πf01)+2πfΔ+θOFFA (53)
【0182】
=t-t=t-tなので、式(53)から式(52)を減算した結果から、式(52)から式(51)を減算した結果を差し引くと、式(54)となる。
θGMSK,a(t)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(t
=A01{sin(2πf01)-2sin(2πf01)+sin(2πf01)} (54)
【0183】
式(54)のサンプル時間t,tを、tを用いてそれぞれ式(55),(56)により表し、式(54)に代入すると、式(57)となる。
=-T+t (55)
=T+t (56)
θGMSK,a(t)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(t
=2A01sin(2πf01){cos(2πf01)-1} (57)
【0184】
サンプル時間tとサンプル時間tの間にある到着時間tarvAからサンプル時間tまでの時間はtなので、tは式(58)により表される。
=tarvA+t (58)
【0185】
到着時間tarvAは、測距信号である正弦波信号の位相がオフセット位相θOFFとなる時間なので、式(59)となる。
sin(2πf01arvA)=0 (59)
【0186】
式(57)中のsin(2πf01)を、式(58)を用いて変形すると、式(60)となる。
sin(2πf01)=sin{2πf01(tarvA+t)}
=sin(2πf01) (60)
【0187】
式(57)と式(60)から、式(61)を得る。
sin(2πf01)=[θGMSK,a(t)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(t)]/[2A01{cos(2πf01)-1}] (61)
【0188】
式(61)を、tを求める式に変形すると、式(62)となる。
={1/(2πf01)}sin-1[{θGMSK,a(t)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(t)}/(2A01{cos(2πf01)-1})] (62)
【0189】
3点での位相の検出結果と、サンプル周期T、01のGMSK信号の周波数f01、および振幅A01からtが求まることが、式(62)からわかる。測距信号の到着時間tarvAは、式(58)から、サンプル時間tよりも時間t前となる。なお、第5の実施形態までで述べたように、飛行時間tの計算に必要となるのは、式(62)で求めるtである。
【0190】
同様な処理を行うことにより、装置Bで検出した測距信号の到着時刻からサンプル点までの経過時間t、さらに交番シーケンスで検出するta1,tb1,ta2,tb2が求められるのは自明である。
【0191】
第6の実施形態によれば、第1~5の実施形態で説明した装置A,Bにおいて、測距信号が到着した時間tarvA,tarvBを正確に求めることが可能となる。
(第7の実施形態)
【0192】
第7の実施形態では、第1~6の実施形態と同様の部分に同一の符号を付して説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0193】
第6の実施形態ではサンプル点12点のうち、3点だけを抽出して測距信号の到着時刻からサンプル点までの経過時間tを求めた。本実施形態では、第6の実施形態の方法を拡張し、4点以上のサンプル点を用いて、tを求める方法を示す。なお、サンプル点の条件は、第6の実施形態と同一であるとして説明する。
【0194】
図17は、本実施形態に係わり、4点以上のサンプル点を用いてtを求める方法を説明するためのタイムチャートである。
【0195】
図17に示すように、測距信号の到着時間tarvAから前後各6サンプルの合計12サンプルの時間を順に、t,t,t10,t11,t,t,t,t,t,t,t,tとする。
【0196】
第6の実施形態では、到着時間tarvAから時間tが経過した後のサンプル時間tから1サンプル時間T前後のt,tでのサンプルを用いた。これに対して本形態では、iサンプル時間iT前後のtmod(2-i),t2+iでのサンプルを用いる。ここで、modは12の剰余を表し、例えば、mod(-1)=11である。i=2の場合について、計算例を以下に示す。
【0197】
i=2の場合、サンプル時間t以外のサンプル時間はt,tであり、位相は式(63),(64)となる。なお、以下には、サンプル時間tにおける式(52)を再度記載する。
θGMSK,a(t)≒A01sin(2πf01)+2πfΔ+θOFFA (63)
θGMSK,a(t)≒A01sin(2πf01)+2πfΔ+θOFFA (52)
θGMSK,a(t)≒A01sin(2πf01)+2πfΔ+θOFFA (64)
【0198】
式(51)~(53)を用いて式(54)を導出したのと同様に、式(63),(52),(64)を用いれば式(65)が得られる。
θGMSK,a(t)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(t
=A01{sin(2πf01)-2sin(2πf01)+sin(2πf01)} (65)
【0199】
さらに、次の式(66),(67)が成り立つ。
=-2T+t (66)
=2T+t (67)
【0200】
式(66),(67)を用いれば、式(65)は、式(68)となる。
θGMSK,a(t)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(t)=2A01sin(2πf01){cos(2πf012T)-1} (68)
【0201】
式(62)の結果を得るときと同様な処理を行って時間tを求めると、式(69)となる。
={1/(2πf01)}sin-1[{θGMSK,a(t)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(t)}/(2A01{cos(2πf012T)-1})] (69)
【0202】
同様な処理により、ここでの仮定では、i≦5において、時間tを求めると、式(70)となる。
={1/(2πf01)}sin-1[{θGMSK,a(t2+i)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(tmod(2-i))}/(2A01{cos(2πf01iT)-1})] (70)
【0203】
式(70)において、i=1,2,3,4,5として求めた時間tを新たに時間ta,iと記載すると、時間tを多数のサンプル点を用いた平均値として、式(71)により算出することができる。
=(1/5)×Σi=1 a,i (71)
【0204】
ただし、本仮定の場合のように、01のGMSK信号の周波数f01の位相のサンプル点を12にした場合、サンプル時間tから半周期ずれたtでのサンプルはこの平均化処理には用いられない。これを避けるには、1周期のサンプル点を奇数とすればよい。
【0205】
なお、時間tの平均化処理は、式(70)のsin-1の位相項を平均化処理した後に時間に変換することで行ってもよい。この場合、式(72)となる。
={1/(2πf01)}sin-1[(1/5)×Σi=1 {θGMSK,a(t2+i)-2θGMSK,a(t)+θGMSK,a(tmod(2-i))}/(2A01{cos(2πf01iT)-1})] (72)
【0206】
すなわち、位相の平均化処理によっても、多数のサンプル点を用いた平均化処理が可能である。
【0207】
なお、同様な処理を行うことにより、装置Bで検出した測距信号の到着時刻からサンプル点までの経過時間t、さらに交番シーケンスで検出するta1,tb1,ta2,tb2が求められるのは自明である。
【0208】
第7の実施形態によれば、上述した第1~6の実施形態とほぼ同様の効果を奏するとともに、距離を算出するのに必要な、測距信号が装置に到着した時間からサンプルされるまでの時間を、容易に求めることができる。また、時間を平均化するのに代えて位相を平均化することでも、同様の結果を得ることができる。
【0209】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0210】
1…装置A、2…装置B、11…プロセッサ、12…メモリ、13…第1基準信号源、14…第1送受信器、21…プロセッサ、22…メモリ、23…第2基準信号源、24…第2送受信器24
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17