(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】磁性体検査装置および磁性体検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
G01N27/82
(21)【出願番号】P 2020519573
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2019018273
(87)【国際公開番号】W WO2019220953
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-10-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018093812
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【氏名又は名称】岸本 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100226470
【氏名又は名称】渡辺 由佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【氏名又は名称】江口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】飯島 健二
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】▲高▼見 重雄
【審判官】伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】特許第2733088(JP,B2)
【文献】特開2000-351575(JP,A)
【文献】特開2006-10646(JP,A)
【文献】特開2012-103177(JP,A)
【文献】特開2000-23958(JP,A)
【文献】特開2010-8213(JP,A)
【文献】特開2005-248405(JP,A)
【文献】守谷敏之,他1名,全磁束法によるワイヤロープ・鋼構造物の健全性診断,メインテナンス,1998年,No.219,pp.65-69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/22-27/90
G01R33/00-33/18
G01V3/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象であり長尺材からなる磁性体に対して予め磁界を印加し前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部と、
前記磁界印加部により磁界が印加された後に、前記磁性体の磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部とを備え、
前記磁界印加部は、前記磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石を含み、
前記磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石は、前記磁性体に対して互いに磁界を打ち消す領域を生じさせるとともに、前記磁界を打ち消す領域の前後に、前記磁性体に磁界を印加して前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整える整磁領域を生じさせるように構成され、
前記検知部は
、前記磁性体を中心として前記磁性体を取り囲み、前記磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられ、
一方の前記整磁領域、前記磁界を打ち消す領域、他方の前記整磁領域を順に通過した後の前記磁性体について前記検知信号を発生する検知コイルを含む、磁性体検査装置。
【請求項2】
前記磁界印加部は、前記整磁領域において、前記磁界を打ち消す領域を挟んで、前記磁性体に印加する磁界の向きを反転させるように構成されている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項3】
前記磁石は、前記磁性体を挟むように1対設けられており、
1対の前記磁石は、主として、前記長尺材に対して、前記長尺材の延びる方向に沿う向きに磁界を印加するように構成されている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項4】
1対の前記磁石は、それぞれの前記磁石の一方の同極の磁極面同士は対向せずに、他方の同極の磁極面同士が対向するように配置されている、請求項3に記載の磁性体検査装置。
【請求項5】
前記磁界印加部は、前記検知部に対して前記長尺材が延びる方向に所定距離離間した位置に設けられている、請求項2に記載の磁性体検査装置。
【請求項6】
前記検知コイルは、前記磁性体の延びる方向の磁界の変化を検知して前記検知信号を発生する、請求項2に記載の磁性体検査装置。
【請求項7】
前記検知コイルは、差動コイルを含むとともに、前記磁性体の延びる方向の磁界により前記差動コイルに含まれる2つのコイル部分により発生する各々の前記検知信号を出力するように構成されている、請求項6に記載の磁性体検査装置。
【請求項8】
前記検知部により出力された前記検知信号に基づいて、前記磁性体の状態の判定を行う判定部をさらに備え、
前記判定部は、前記検知部により出力された前記検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えた場合に、前記検知信号が前記1つまたは複数の所定の閾値を超えたことを示す1つまたは複数の閾値信号を外部に出力するように構成されている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記検知部により出力された前記検知信号が前記1つまたは複数の所定の閾値を超えた回数を各々カウントするとともに、カウントされた各々の回数が所定の回数を超えた場合に、カウントされた回数が前記所定の回数を超えたことを示す信号を外部に出力するように構成されている、請求項8に記載の磁性体検査装置。
【請求項10】
前記検知部は、前記磁性体の磁化の状態を励振するための励振コイルをさらに含むとともに、前記励振コイルに流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振された前記磁性体の延びる方向の磁界または磁界の変化を検知するように構成されている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項11】
前記磁界印加部によって前記磁性体に印加される磁界は、前記励振コイルが前記磁性体の磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きい、請求項10に記載の磁性体検査装置。
【請求項12】
前記検知部は、前記磁性体を前記検知部に対して前記磁性体の延びる方向に相対移動させることにより前記検知部の検知位置における前記磁性体の延びる方向の磁界または磁界の変化を検知するように構成されている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項13】
前記磁性体は、被検体に対して相対的に移動可能となるようにX線撮影装置に設けられる、前記被検体にX線を照射するX線照射部または前記被検体を透過したX線を検出するX線検出部の少なくともいずれか一方を移動させるためのワイヤを含み、
前記検知部は、前記ワイヤの延びる方向の磁界を検知するように構成されている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項14】
前記磁界印加部は、前記磁性体の延びる方向において、前記検知部の一方側に設けられた第1磁界印加部と、他方側に設けられた第2磁界印加部とを含み、
前記第1磁界印加部と前記第2磁界印加部とは、前記磁性体が延びる方向において、各々が個別に設けられている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項15】
検査対象であり長尺材からなる磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石を含む磁界印加部によって、前記磁性体に対して予め磁界を印加し前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整えるステップと、
磁界を印加した後に、前記磁性体の磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知した前記磁性体の磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力するステップとを備え、
前記磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石は、前記磁性体に対して互いに磁界を打ち消す領域を生じさせるとともに、前記磁界を打ち消す領域の前後に、前記磁性体に磁界を印加して前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整える整磁領域を生じさせるように構成され、
前記検知信号を出力するステップにおいて
、前記磁性体を中心として前記磁性体を取り囲み、前記磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられた検知コイルによって発生する
、一方の前記整磁領域、前記磁界を打ち消す領域、他方の前記整磁領域を順に通過した後の前記磁性体についての前記検知信号を出力する、磁性体検査方法。
【請求項16】
前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整えるステップにおいて、前記磁界印加部に含まれるとともに、前記磁界印加部により磁界が印加された前記磁性体の磁界または磁界の変化に基づく前記検知信号を出力する検知部に対して、前記磁性体が延びる方向における一方側と他方側とにおいて、各々が個別に設けられた第1磁界印加部と、第2磁界印加部とによって、前記磁性体に対して磁界が印加される、請求項15に記載の磁性体検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体検査装置および磁性体検査方法に関し、特に、磁性体の磁界を検知する検知部を備える磁性体検査装置および磁性体検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性体の磁界を検知する検知部を備える磁性体検査装置が知られている。このような磁性体検査装置は、たとえば、特開2003-302379号公報に開示されている。
【0003】
特開2003-302379号公報には、長手方向に延びたスチールワイヤロープの外周にスチールワイヤロープに対して相対移動可能に設けられたコイルホルダと、それぞれスチールワイヤロープを中心としてスチールワイヤロープの延びる方向に沿うようにコイルホルダの外周に巻き付けられて設けられる励磁コイルおよび検出コイルを備える磁性体検査装置が開示されている。励磁コイルは、スチールワイヤロープに対してスチールワイヤロープの長手方向に磁界を印加するように構成されている。また、検出コイルは、スチールワイヤロープから生じるスチールワイヤロープの長手方向の漏洩磁化を検知して検知信号を出力するように構成されている。また、特開2003-302379号公報に開示されている磁性体検査装置は、コイルホルダとスチールワイヤロープとを長手方向に相対移動させることにより、スチールワイヤロープが断線した位置において生じる磁界の漏洩を検知して、スチールワイヤロープの断線を警報するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2003-302379号公報の磁性体検査装置では、スチールワイヤロープが有する磁化のバラツキに起因するノイズを検出してしまう。具体的には、スチールワイヤロープ等の磁性体内部の磁化の大きさと向きとは、製造時(製造後)に、一定の大きさおよび向きに揃っていない場合がある。さらに、滑車等を通過する際に応力や曲がり等が加わることによっても磁性体内部の磁化の大きさと向きとが変化し、不均一となる。このため、スチールワイヤロープに断線がない部分であっても、スチールワイヤロープが有する磁化の大きさと向きとのバラツキに起因して、検出コイルがノイズに基づいた信号を検出してしまう場合がある。その場合には、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができないという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことが可能な磁性体検査装置および磁性体検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面における磁性体検査装置は、検査対象であり長尺材からなる磁性体に対して予め磁界を印加し磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部と、磁界印加部により磁界が印加された後に、磁性体の磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部とを備え、磁界印加部は、磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石を含み、磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石は、磁性体に対して互いに磁界を打ち消す領域を生じさせるとともに、磁界を打ち消す領域の前後に、磁性体に磁界を印加して磁性体の磁化の大きさと向きとを整える整磁領域を生じさせるように構成され、検知部は、磁界印加部から整磁領域よりも離れた位置で、磁性体を中心として磁性体を取り囲み、磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられ、検知信号を発生する検知コイルを含む。
【0008】
なお、本発明において、磁性体の「傷等」とは、磁性体のスレ、局所的磨耗、素線断線、凹み、腐食、亀裂、折れ等により生じる検知方向に対する(磁性体内部で傷等が生じた場合の空隙に起因するものを含む)断面積の変化、磁性体の錆、溶接焼け、不純物の混入、組成変化等により生じる透磁率の変化、その他磁性体が不均一となる部分を含む広い概念である。また、磁界の変化とは、磁性体と検知部とを相対移動させることによる検知部で検知される磁界の強さの時間的な変化、および、磁性体に印加する磁界を時間変化させることによる検知部で検知される磁界の強さの時間的な変化を含む広い概念である。また、磁極面とは、磁界印加部のうち、磁界の強さが最も強い点を含む面である。また、磁石が対向するとは、1対の磁石が向かい合うことに加えて、円環状の磁石により磁性体を取り囲んだ状態を含む広い概念である。
【0009】
この発明の第1の局面における磁性体検査装置は、上記のように、磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石を含む、磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部を備える。これにより、磁性体に対して予め磁界が印加されるので、磁性体の傷等のない部分の磁化の大きさと向きとは略整えられる。一方で、磁性体に傷等のある部分の磁化の大きさと向きとは整わない。その結果、検知部から出力される検知信号が傷等のある部分とない部分とで異なることにより、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。また、磁性体の両側から磁界を印加して磁性体の磁化の大きさと向きとを整えることが可能となるので、磁性体の片側から磁界を印加する場合と比較して、磁性体の磁化の大きさと向きとを効率よく整えることができる。ここで、たとえば、スチールワイヤロープのような長尺の磁性体の状態を検査する場合、磁界印加部によって磁性体に磁界を印加する際には、磁性体の短軸方向において磁極が発生するため、磁界印加部の配置によっては磁性体の短軸方向において磁性体が磁界印加部に引き寄せられる。したがって、磁性体が磁界印加部に引き寄せられないようにするために、磁性体に加える張力を大きくする必要がある。上記のように構成すれば、磁性体の状態(傷等の有無)を検知する際に、整磁領域、磁界を打ち消す領域、整磁領域、検知部の順に磁性体を通過させることができる。したがって、磁界を打ち消す領域によって、磁性体の短軸方向において磁極が発生することを抑制することが可能となり、短軸方向において磁性体が磁界印加部に引き寄せられることを抑制することができるとともに、整磁領域によって磁性体の整磁を行うことができる。その結果、磁界印加部が磁界を打ち消す領域を生じさせない場合と比較して、短軸方向において磁性体が磁界印加部に引き寄せられることが抑制されるので、磁性体に加える張力を増大させることなく磁性体の整磁を行うことができる。
【0011】
上記第1の局面における磁性体検査装置において、好ましくは、磁界印加部は、整磁領域において、磁界を打ち消す領域を挟んで、磁性体に印加する磁界の向きを反転させるように構成されている。このように構成すれば、整磁前の磁性体の磁化の大きさと向きとがどのような方向に向いていたとしても、磁性体を、整磁領域、磁化を打ち消す領域、整磁領域の順で通過させることが可能となるので、容易にかつ確実に長尺材を整磁することができる。また、磁界を打ち消す領域の前後で、磁界印加部が発する磁界の向きが反転する。その結果、磁界の向きが反転しない場合と比較して、より正確に磁界の変化を検知できるという知見を得た。
【0012】
上記磁界を打ち消す領域の前後に整磁領域を生じさせる構成において、好ましくは、磁石は、磁性体を挟むように1対設けられており、1対の磁石は、主として、長尺材に対して、長尺材の延びる方向に沿う向きに磁界を印加するように構成されている。ここで、磁石は、一方の磁極面から他方の磁極面に向かって磁界が放出されるため、磁極面の中心から離れるにしたがって、磁界の向きは長尺材の延びる方向に沿う方向を含む曲線になる。したがって、長尺材に対して長尺材の延びる方向に沿う向きに磁界を印加するように構成すれば、磁性体を挟むように1対の磁石を配置した場合でも、容易に磁性体の磁化の大きさと向きとを整えることができる。
【0013】
上記長尺材に対して長尺材の延びる方向に沿う向きに磁界を印加する構成において、好ましくは、1対の磁石は、それぞれの磁石の一方の同極の磁極面同士は対向せずに、他方の同極の磁極面同士が対向するように配置されている。このように構成すれば、たとえば、両端面に磁極面を有する棒状の1対の磁石を用いる場合でも、磁石の同極同士を対向させるとともに、長尺材の短手方向に向けて1対の磁石を配置することができる。その結果、長尺材の短手方向から長尺材に向けて磁界を印加することが可能となるので、容易に磁界を打ち消す領域および整磁領域を生じさせることができる。
【0014】
上記長尺材に対して長尺材の延びる方向に沿う向きに磁界を印加する構成において、好ましくは、磁界印加部は、検知部に対して長尺材が延びる方向に所定距離離間した位置に設けられている。ここで、検知部と磁界印加部との相対的な位置が変わると、検知部が検知する磁界印加部からの磁界が変化する。検知部が検知する磁界印加部からの磁界の変化は、検知部で検知される磁界にノイズが発生する要因となる。また、このノイズは、検知部と磁界印加部との距離が近いほど大きくなる。そのため、磁界印加部を、検知部における磁界の検知に影響がない程度にまで所定距離分離間して配置することにより、検知信号のS/N比の精度が上がる。その結果、検知部と磁界印加部との相対的な位置が変わることにより、検知部が検知する磁界印加部からの磁界が変化することに起因するノイズの発生を抑制することができる。
【0015】
上記長尺材に対して長尺材の延びる方向に沿う向きに磁界を印加する構成において、好ましくは、検知コイルは、磁性体の延びる方向の磁界の変化を検知して検知信号を発生する。このように構成すれば、検知コイルは、検知コイルの内部の全磁束あるいは全磁束の変化により電圧を発生するので、長尺材における長尺材の延びる方向の磁界の変化を容易に検知することができる。
【0016】
この場合、好ましくは、検知コイルは、差動コイルを含むとともに、磁性体の延びる方向の磁界により差動コイルに含まれる2つのコイル部分により発生する各々の検知信号を出力するように構成されている。このように構成すれば、差動コイルの一方のコイル部分と他方のコイル部分とにより発生する磁性体の傷等により生じる検知信号の差を検知することにより、磁性体の状態(傷等の有無)の局所的な変化をより容易に検知することができる。
【0017】
上記第1の局面における磁性体検査装置において、好ましくは、検知部により出力された検知信号に基づいて、磁性体の状態の判定を行う判定部をさらに備え、判定部は、検知部により出力された検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えた場合に、検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えたことを示す1つまたは複数の閾値信号を外部に出力するように構成されている。このように構成すれば、磁性体の状態(傷等の有無)が不均一となる部分を、閾値信号に基づいて容易に判定することができる。
【0018】
この場合、好ましくは、判定部は、検知部により出力された検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えた回数を各々カウントするとともに、カウントされた各々の回数が所定の回数を超えた場合に、カウントされた回数が所定の回数を超えたことを示す信号を外部に出力するように構成されている。このように構成すれば、傷等の数に基づいて、磁性体の劣化等の状態を判定することができる。
【0019】
上記第1の局面における磁性体検査装置において、好ましくは、検知部は、磁性体の磁化の状態を励振するための励振コイルをさらに含むとともに、励振コイルに流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振された磁性体の延びる方向の磁界または磁界の変化を検知するように構成されている。このように構成すれば、励振コイルにより磁性体の傷等の部分の磁化の状態が励振されるので、磁性体の傷等の部分からの磁性体が延びる方向の磁界または磁界の変化を容易に検知することができる。特に、交流電流等を励振コイルに流すことにより磁性体の磁化の状態に時間変化する励振を与える場合には、磁性体の磁界も時間変化する。そのため、磁性体と検知部とを相対移動させることなく、検知部により検知される磁界を変化させ、検知することができる。
【0020】
上記第1の局面における磁性体検査装置において、好ましくは、磁界印加部によって磁性体に印加される磁界は、励振コイルが磁性体の磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きい。ここで、磁性体の磁化の大きさと向きとが、予め磁界印加部が印加する大きい磁界により磁性体が延びる方向に整えられているため、磁性体に傷等がない領域では、励振コイルによって励振された際の磁界の変化は一様である。しかし、磁性体に傷等がある領域では、傷等がない領域と比較して、励振された際の磁界の変化は一様な変化とはならない。したがって、磁性体の状態の判定において、磁性体が延びる方向に磁化の状態を励振するために必要な磁界は、整磁するために印加される磁化より小さいものでも検知には十分な大きさである。すなわち、磁化の大きさと向きとが整えられていない場合と比較して、磁化の状態を励振するために必要な磁界の大きさを小さくすることができる。
【0021】
上記第1の局面における磁性体検査装置において、好ましくは、検知部は、磁性体を検知部に対して磁性体の延びる方向に相対移動させることにより検知部の検知位置における磁性体の延びる方向の磁界または磁界の変化を検知するように構成されている。このように構成すれば、磁性体の検知部に磁界を検知される部分が相対移動に伴って変化するので、傷等のある部分とない部分との比較により、容易に傷等を検知することができる。
【0022】
上記第1の局面における磁性体検査装置において、好ましくは、磁性体は、被検体に対して相対的に移動可能となるようにX線撮影装置に設けられる、被検体にX線を照射するX線照射部または被検体を透過したX線を検出するX線検出部の少なくともいずれか一方を移動させるためのワイヤを含み、検知部は、ワイヤの延びる方向の磁界を検知するように構成されている。このように構成すれば、X線撮影装置に用いられるワイヤの状態(傷等の有無)を容易に判定することができる。
【0023】
上記第1の局面における磁性体検査装置において、好ましくは、磁界印加部は、磁性体の延びる方向において、検知部の一方側に設けられた第1磁界印加部と、他方側に設けられた第2磁界印加部とを含み、第1磁界印加部と第2磁界印加部とは、磁性体が延びる方向において、各々が個別に設けられている。
【0024】
この発明の第2の局面における磁性体検査方法は、検査対象であり長尺材からなる磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石を含む磁界印加部によって、磁性体に対して予め磁界を印加し磁性体の磁化の大きさと向きとを整えるステップと、磁界を印加した後に、磁性体の磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知した磁性体の磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力するステップとを備え、磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石は、磁性体に対して互いに磁界を打ち消す領域を生じさせるとともに、磁界を打ち消す領域の前後に、磁性体に磁界を印加して磁性体の磁化の大きさと向きとを整える整磁領域を生じさせるように構成され、検知信号を出力するステップにおいて、磁界印加部から整磁領域よりも離れた位置で、磁性体を中心として磁性体を取り囲み、磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられた検知コイルによって発生する前記検知信号を出力する。
【0025】
この発明の第2の局面による磁性体検査方法では、上記のように、検査対象である磁性体の両側に同極の磁極面同士が対向するように配置された磁石を含む磁界印加部によって、磁性体に対して予め磁界を印加し磁性体の磁化の大きさと向きとを整えるステップを備える。これにより、磁性体に対して予め磁界が印加されるので、磁性体の傷等のない部分の磁化の大きさと向きとは略整えられる。一方で、磁性体に傷等のある部分の磁化の大きさと向きとは整わない。その結果、検知部から出力される検知信号が傷等のある部分とない部分とで異なることにより、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことが可能な磁性体検査方法を提供することができる。また、磁性体の両側から磁界を印加して磁性体の磁化の大きさと向きとを整えることが可能となるので、磁性体の片側から磁界を印加する場合と比較して、磁性体の磁化の大きさと向きとを効率よく整えることが可能な磁性体検査方法を提供することができる。また、上記第1の局面と同様に、磁性体の状態(傷等の有無)を検知する際に、整磁領域、磁界を打ち消す領域、整磁領域、検知部の順に磁性体を通過させることができる。したがって、磁界を打ち消す領域によって、磁性体の短軸方向において磁極が発生することを抑制することが可能となり、短軸方向において磁性体が磁界印加部に引き寄せられることを抑制することができるとともに、整磁領域によって磁性体の整磁を行うことができる。その結果、磁界印加部が磁界を打ち消す領域を生じさせない場合と比較して、短軸方向において磁性体が磁界印加部に引き寄せられることが抑制されるので、磁性体に加える張力を増大させることなく磁性体の整磁を行うことができる。
【0026】
上記第2の局面における磁性体検査方法において、好ましくは、磁性体の磁化の大きさと向きとを整えるステップにおいて、磁界印加部に含まれるとともに、磁界印加部により磁界が印加された磁性体の磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部に対して、磁性体が延びる方向における一方側と他方側とにおいて、各々が個別に設けられた第1磁界印加部と、第2磁界印加部とによって、磁性体に対して磁界が印加される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、上記のように、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことが可能な磁性体検査装置および磁性体検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態による磁性体検査装置を備える移動型X線透視装置の全体構成を示した図である。
【
図2】第1実施形態による磁性体検査装置の全体構成を示したブロック図である。
【
図3】第1実施形態による励振コイルおよび検知コイルを説明するための模式図である。
【
図4】第1実施形態による電子回路部を示したブロック図である。
【
図5】第1実施形態による磁界印加部の磁界の印加方向を説明するための模式図(A)および模式図(B)である。
【
図6】第1実施形態による励振コイルの磁化の励振を説明するための模式図(A)および模式図(B)である。
【
図7】スチールワイヤロープに傷等がある場合を示す模式図(A)~模式図(C)である。
【
図8】第1比較例よるスチールワイヤロープの磁化の大きさと向きとを説明するための模式図である。
【
図9】第1比較例による磁性体の検知信号の値のグラフ(A)および第1実施形態による磁性体の検知信号の値のグラフ(B)である。
【
図10】第1実施形態による磁性体を検査する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図11】第1実施形態および第2比較例による整磁の際の磁界の印加方向を説明するための模式図(A)および(B)である。
【
図12】第1実施形態および第2比較例による磁性体の検知信号の値のグラフ(A)および(B)である。
【
図13】第2実施形態による電子回路部を示したブロック図である。
【
図14】
参考例による励振コイルと磁気センサ素子を説明するための模式図(A)および模式図(B)である。
【
図15】
参考例による電子回路部を示したブロック図である。
【
図16】第1変形例による磁界印加部を説明するための模式図(A)~模式図(C)である。
【
図17】第2変形例による磁界印加部を説明するための模式図(A)および模式図(B)である。
【
図18】第3変形例による励振コイルおよび検知コイルを説明するための模式図(A)~模式図(F)である。
【
図19】第4変形例による励振コイルおよび検知コイルを説明するための模式図である。
【
図20】第
5変形例による検知コイルを説明するための模式図(A)および模式図(B)である。
【
図21】第
6変形例によるX線照射装置を説明するための模式図(A)~模式図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
[第1実施形態]
まず、
図1~
図9を参照して、第1実施形態による磁性体検査装置100の構成について説明する。第1実施形態では、移動型X線撮影装置(回診車)900に内蔵されているスチールワイヤロープWを検査するために磁性体検査装置100が用いられる例について説明する。
【0031】
図1に示すように、移動型X線撮影装置900は、柱Pに対して上下(X方向)移動可能に構成されているX線照射部E1と、可搬型のX線検出部E2とを備え、車輪により移動可能に構成されている。X線照射部E1は、被検体にX線を照射する。また、X線検出部E2は、被検体を透過したX線を検出し、X線画像を受像する。また、X線照射部E1とX線検出部E2とは、たとえば、それぞれX管とFPD(フラットパネルディテクター)により構成されている。また、柱P内には、X線照射部E1を牽引し支えるスチールワイヤロープWと、スチールワイヤロープWの延びる上下方向(X方向)に対して移動可能に構成されている磁性体検査装置100が内蔵されている。なお、スチールワイヤロープWは、請求の範囲の「磁性体」、「長尺材」および「ワイヤ」の一例である。また、X方向は、請求の範囲の「磁性体の延びる方向」、「長尺材の延びる方向」および「長尺材が延びる方向」の一例である。
【0032】
スチールワイヤロープWは、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成され、X方向に延びる長尺材からなる磁性体である。また、図示は省略したが、スチールワイヤロープWは、X線照射部E1を移動させる際に滑車等の機構を通過し、滑車等による応力が加えられる。スチールワイヤロープWに劣化による切断が起こりX線照射部E1が落下するのを防ぐために、普段からスチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)を監視し、劣化が進行したスチールワイヤロープWを早い段階で交換することが必要である。
【0033】
(磁性体検査装置の構成)
次に、
図2~
図4を参照して、第1実施形態における磁性体検査装置100の構成について説明する。
【0034】
図2に示すように、磁性体検査装置100は、スチールワイヤロープWに磁界を印加する磁界印加部1と、磁界が印加されたスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部2と、スチールワイヤロープWの状態を判定する電子回路部3とを備えている。また、磁界印加部1と、検知部2と、電子回路部3とは、フレームFに設けられており、検査ユニットUとして構成されている。また、磁性体検査装置100は、検査ユニットUをスチールワイヤロープWに対して移動可能にするドライバ(図示せず)および駆動部(図示せず)を備える。なお、Y方向およびZ方向はスチールワイヤロープWの延びる方向に垂直な面内で直交する2つの方向である。また、電子回路部3は、請求の範囲の「判定部」の一例である。
【0035】
磁界印加部1は、検査対象であるスチールワイヤロープWに対して予め磁界を印加してスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えるように構成されている。本実施形態では、磁界印加部1は、スチールワイヤロープWの両側(Y1側およびY2側)に同極の磁極面Pf同士が対向するように配置された磁石11を含む。具体的には、磁石11は、スチールワイヤロープWを挟むように1対設けられており、それぞれの磁石11の一方の同極面同士は対向せずに、他方の同極面同士が対向するように配置されている。
図2に示す例では、磁石11は、N極同士が対向するように配置されている。なお、
図2に示す例では、便宜上、磁石11のN極に斜線のハッチングを付して図示している。また、磁石11のS極は斜線のハッチングを付さずに図示している。なお、本実施形態では、磁石11のN極の磁極面Pfを磁極面Pf1、S極の磁極面Pf2とする。また、磁石11のうち、磁極面Pf以外の側面を磁極以外の側面部Sfとする。また、磁極以外の側面部Sfのうち、N極側を磁極以外の側面部Sf1、S極側を磁極以外の側面部Sf2とする。
【0036】
また、磁界印加部1は、検知部2からX方向に所定距離離間した位置に設けられている。具体的には、スチールワイヤロープWのたわみや、磁界印加部1と検知部2とが固定するフレームFのガタツキなどにより、スチールワイヤロープWに対する磁界印加部1および検知部2の相対位置の関係が変化する。スチールワイヤロープWに対する磁界印加部1および検知部2の相対位置の関係が変化すると、検知部2が検知する磁界印加部1からの磁界が変化する。検知部2が検知する磁界印加部1からの磁界の変化は、検知部2で検知される磁界にノイズが発生する要因となる。そのため、磁界印加部1は、検知部2に与える磁界の変化の影響が問題とならない程度に所定距離分離間した位置に設けられている。
【0037】
また、磁界印加部1は、スチールワイヤロープWに対して磁界を印加する第1磁界印加部1aと、X方向において、検知部2の第1磁界印加部1aとは反対側(X2側)に設けられ、スチールワイヤロープWに対して磁界を印加する第2磁界印加部1bとを含む。第1磁界印加部1aおよび第2磁界印加部1bは、それぞれ、フレームFに対して固定されている。
【0038】
また、第1磁界印加部1aは、1対の磁石11aおよび11bを含む。第2磁界印加部1bは、1対の磁石12aおよび12bを含む。磁石11a、11b、12aおよび12bは、たとえば、それぞれ永久磁石により構成されている。磁界印加部1により印加される磁界の大きさは、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを(傷等のない部分においては)略均一に整えることが可能な大きさに設定されている。
【0039】
図2に示す例では、第1磁界印加部1aにおいて互いに対向している1対の磁石11の磁極面Pfと第2磁界印加部1bにおいて互いに対向している1対の磁石11の磁極面Pfとが同極同士である。
【0040】
また、磁界印加部1によって磁性体に印加される磁界は、励振コイル21(後述)がスチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きくなるように設定されている。具体的には、磁界印加部1により印加される磁界は、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを略X方向に整える(揃える)ことが可能な大きさに設定される必要がある。一方で、励振コイル21によりスチールワイヤロープWの磁化を励振するのに必要な磁界は、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整える(揃える)ために磁界印加部1から印加される磁界よりも小さく設定することができる。詳しくは後述する。
【0041】
検知部2は、磁界印加部1により磁界が印加されたスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力するように構成されている。具体的には、検知部2は、
図3に示すように、励振コイル21と検知コイル22とを含む。また、励振コイル21および検知コイル22は、長尺材からなる磁性体であるスチールワイヤロープWの延びる方向を中心軸として、長手方向に沿うように複数回巻回され、X方向に沿って円筒形となるように形成される導線部分を含むコイルである。したがって、巻回される導線の形成する面は、スチールワイヤロープWの延びる方向に略直交し、スチールワイヤロープWはコイルの内部を通過する。また、検知コイル22は、励振コイル21の内側に設けられている。検知部2がスチールワイヤロープWの状態を判定する詳細な構成については後述する。
【0042】
電子回路部3は、検知部2により出力された検知信号に基づいて、スチールワイヤロープWの状態の判定を行うように構成されている。具体的には、電子回路部3は、
図4に示すように、交流電源31と、増幅器32と、AD変換器33と、CPU(Central Processing Unit)34と、デジタル出力インターフェース35とを含む。
【0043】
交流電源31は、励振コイル21に交流電流を流す(出力する)。増幅器32は、検知コイル22から出力される検知信号(スチールワイヤロープWの磁界の強さに基づく電流)を増幅し、AD変換器33に出力する。AD変換器33は、増幅器32により増幅されたアナログの検知信号を、デジタルの検知信号に変換する。CPU34は、AD変換器33から出力される検知信号から交流成分を取り除く処理を行い、検知信号の絶対値の変化に対応した信号(DCレベル信号)に変換する同期検波整流処理を行うとともに、検知信号が後述する所定の閾値Thを超えた場合に、警報信号を出力する。また、CPU34は、交流電源31により出力される電流の強さを制御する。また、傷等の大きさを判定する機能をCPU34に持たせている。デジタル出力インターフェース35は、外部の図示しないPCなどに接続され、処理がされた検知信号や警報信号のデジタルデータを出力する。また、外部のPCは、入力された信号の大きさをメモリに保存や、信号の大きさの時間経過に伴うグラフの表示とともに、CPU34を介して、検知部2(一体構成されたフレームF)のスチールワイヤロープWに対する移動速度の制御等を行う。
【0044】
また、電子回路部3は、検知コイル22(検知部2)により出力された検知信号が第1閾値Th1を超えた場合に、検知信号が第1閾値Th1を超えたことを示す第1閾値信号を外部に出力するとともに、検知部2により出力された検知信号が第2閾値Th2を超えた場合に、検知信号が第2閾値Th2を超えたことを示す第2閾値信号を外部に出力するように構成されている。
【0045】
(磁性体の磁化の大きさと向きとを整える構成)
次に、
図5を参照して、第1実施形態における磁界印加部1が、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整える構成について説明する。
図5(A)は、磁性体検査装置100をZ方向から見た模式図である。
図5(B)は、磁界印加部1(第1磁界印加部1a)付近を拡大した模式図である。
【0046】
図5(A)に示す例において、検査ユニットUをX1方向に移動させることにより、検査ユニットUに設けられた磁界印加部1および検知部2とスチールワイヤロープWとを相対移動させる場合、第1磁界印加部1a(磁石11aおよび11b)によって検知部2により検査される部分に予め磁界が印加され、磁化の大きさと向きとが整えられる。また、検査ユニットUをX2方向に移動させることにより、検査ユニットUに設けられた磁界印加部1および検知部2とスチールワイヤロープWとを相対移動させる場合、第2磁界印加部1b(磁石11cおよび11d)によって検知部2により検査される部分に予め磁界が印加され、磁化の大きさと向きとが整えられる。したがっていずれの方向に相対移動させる場合にも、磁界印加部1は、スチールワイヤロープWに対して、検知部2によって検知されるよりも前に、予め磁界を印加して磁化の大きさと向きとを整えることができる。
【0047】
図5(B)に示すように、1対の磁石11(磁石11aおよび11b)は、スチールワイヤロープWの短手方向(Y方向)からスチールワイヤロープWに磁界を印加するように構成されている。具体的には、1対の磁石11(磁石11aおよび11b)は、主として、スチールワイヤロープWに対して、X方向に沿う向きに磁界を印加するように構成されている。なお、
図5(B)に示す例では、磁石11から放出される磁界の向きを破線13で図示している。
【0048】
第1実施形態では、
図5(B)に示すように、磁石11aおよび11bは、スチールワイヤロープWを挟んで対向するように配置されている。そのため、磁石11aから印加される磁界と、磁石11bから印加される磁界とは、所定の位置で衝突する。したがって、それぞれの磁石11から印加された磁界は、所定の位置において互いに打ち消し合う。その結果、1対の磁石11(磁石11aおよび11b)は、スチールワイヤロープWに対して互いに磁界を打ち消す領域14を生じさせる。
【0049】
第1実施形態では、1対の磁石11(磁石11aおよび11b)は、磁界印加部1によってスチールワイヤロープWに磁界を印加する際に、スチールワイヤロープWが磁界を打ち消す領域14を通過する位置に磁界を打ち消す領域14が形成される位置に配置される。したがって、磁界印加部1によってスチールワイヤロープWに磁界を印加する際には、磁界を打ち消す領域14によってスチールワイヤロープWに印加されるY方向の磁界の大きさはゼロになる。なお、
図2に示す例では、磁石11aおよび磁石11bは、磁力の大きさが同一のものを用いた例であるため、磁石11aからの距離r1と、磁石11bからの距離r2とが等しい位置に磁界を打ち消す領域14が形成される。磁石11aおよび11bの磁力の大きさが異なる場合は、スチールワイヤロープWが通過する位置に磁界を打ち消す領域14が形成されるように、磁石11aおよび磁石11bを配置する位置を調整すればよい。
【0050】
また、磁石11からスチールワイヤロープWに印加される磁界は、一方の磁極面Pf1(N極)から他方の磁極面Pf2(S極)に向かって磁界が放出されるため、磁極面Pfの中心から離れるにしたがって、磁界の向きはスチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿う方向を含む曲線になる。そのため、磁石11の中心から離れるにしたがって(磁界印加部1がスチールワイヤロープW上を移動するにつれて)、磁界が印加される向きは、スチールワイヤロープWの長手方向(X方向)に沿う方向になる部分が生じる。したがって、1対の磁石11は、スチールワイヤロープWに磁界を印加してスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整える整磁領域15を生じさせる。具体的には、1対の磁石11は、スチールワイヤロープW上を移動した結果、スチールワイヤロープW内の磁化の大きさと向きとを、略X方向に整える整磁領域15を生じさせる。なお、整磁領域15は、スチールワイヤロープWの磁化を、厳密にスチールワイヤロープWが延びる方向(X方向)に整えなくてもよい。整磁領域15は、1対の磁石11によって印加される磁界によって、スチールワイヤロープW内の磁化の大きさと向きとベクトルの合計が略X方向に向くように整磁すればよい。
【0051】
また、1対の磁石11は、検知部2と磁界を打ち消す領域14の前後に、整磁領域15を生じさせるように構成されている。具体的には、
図5(B)に示すように、磁石11から印加される磁界は、左右対称に放出されるため、磁界を打ち消す領域14を挟んで2か所の整磁領域15(整磁領域15aおよび15b)が生じる。このうち、検知部2と磁界を打ち消す領域14との間に生じた整磁領域15(
図5(B)の例では整磁領域15a)によって整磁されることにより、検知部2において検知する際のノイズを低減することができる。なお、磁界を打ち消す領域14の前後とは、磁界印加部1が相対移動する方向における前後方向のことである。
【0052】
図5(B)に示すように、1対の磁石11は、整磁領域15aにおいてX1方向に沿う向きにスチールワイヤロープWを磁化させた後に、磁界を打ち消す領域14において、スチールワイヤロープWの磁化を打ち消し、さらに整磁領域15bにおいて、X2方向に沿う向きにスチールワイヤロープWを磁化させると考えられる。すなわち、第1磁界印加部1aは、整磁領域15において、磁界を打ち消す領域14を挟んで、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きを反転させるように構成されている。
図5(B)に示す例では、整磁領域15aにおいて第1磁界印加部1aが印加する磁界の向きはX2方向である。また、第1磁界印加部1aが印加する磁界の大きさは、磁界を打ち消す領域14に近づくにつれて大きくなる。磁界を打ち消す領域14では、第1磁界印加部1aが印加する磁界のうち、スチールワイヤロープWに沿う方向(X方向)に印加する磁界の大きさはゼロになる。整磁領域15bにおいては、第1磁界印加部1aが印加する磁界の向きはX1方向である。また、第1磁界印加部1aが印加する磁界の大きさは、磁界を打ち消す領域14から離れるにつれて小さくなる。なお、第2磁界印加部1bにおける1対の磁石11(磁石11cおよび磁石11d)においても、第1磁界印加部1aにおける1対の磁石11と同様に、磁界を打ち消す領域14の前後に、整磁領域15を生じさせるように構成されている。また、第2磁界印加部1bは、第1磁界印加部1aと同様に、整磁領域15において、磁界を打ち消す領域14を挟んで、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きを反転させるように構成されている。
【0053】
(磁性体の状態を検査する構成)
次に、
図6~
図9を参照して、第1実施形態における検知部2および電子回路部3がスチールワイヤロープWの状態を検査する構成について説明する。
【0054】
図6(A)は、検知部2の内部を通過するスチールワイヤロープWの模式図である。
図6(B)は、検知部2に設けられた励振コイル21によってスチールワイヤロープWの磁化の状態を励振させる際の模式図である。
【0055】
図6(A)に示すように、検知コイル22は、内部を通過するスチールワイヤロープWから生じる磁界を検知するように構成されている。具体的には、検知コイル22は、スチールワイヤロープWから生じるX方向の磁界の変化を検知して電圧を発生するように構成されている。また、検知コイル22は、磁界印加部1により磁界が印加されたスチールワイヤロープWに対して、磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWの磁界の変化に基づく電圧を出力するように構成されている。また、検知コイル22は、励振コイル21によって発生する磁界の略全てが検知可能に(入力される様に)配置されている。
【0056】
検知コイル22は、2つのコイル部分である検知コイル22aおよび22bからなる差動コイルとなっている。また、検知コイル22は、励振コイル21に流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振されたスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知する。
【0057】
第1実施形態では、
図6(B)に示すように、励振コイル21に励振電流が流されることにより、励振コイル21の内部において、励振電流に基づいて発生する磁界がX方向に沿う向きに印加されるように構成されている。これにより、励振コイル21は、スチールワイヤロープWの磁化の状態を励振する。具体的には、
図6(B)に示すように、励振コイル21に一定の大きさかつ一定の周波数を有する交流電流(励振電流)が外部から流されることにより、スチールワイヤロープWの延びるX方向に振動する(X1方向への磁界とX2方向への磁界が周期的にあらわれる)ように磁界が印加される。また、励振コイル21に流れる時間変化する励振電流の向き(実線または破線)に伴って、励振コイル21により印加される磁界(実線16または破線17)の方向も変化する。
【0058】
したがって、時間変化する磁界によりスチールワイヤロープWの磁化の大きさ(強さ)が変化し、スチールワイヤロープWから発せられる磁界も時間変化する。その結果、スチールワイヤロープWと検知コイル22との相対位置を変化させることなく、スチールワイヤロープWの同じ部分による磁界が時間変化するため、磁界の変化を検知する検知コイル22により、スチールワイヤロープWの状態を判定することができる。なお、
図6(B)に示す例では、便宜上、X2方向に励振された際のスチールワイヤロープWの磁化を実線の矢印18で図示している。また、X1方向に励振された際のスチールワイヤロープWの磁化を破線の矢印19で図示している。また、
図6(B)に示す例では、励振された際のスチールワイヤロープWの磁化の大きさ(強さ)の変化を見やすくするために、スチールワイヤロープWの磁化の矢印18および矢印19のY方向の位置をずらして図示しているが、実際にはスチールワイヤロープWの磁化の矢印18および矢印19のY方向の位置は一致している。なお、矢印18で図示したスチールワイヤロープWの磁化は、励振コイル21によりX2方向の磁界が印加されるため、励振コイル21による磁界の印加前よりも、磁界の大きさが大きくなっている。また、矢印19で図示したスチールワイヤロープWの磁化は、励振コイル21によりX1方向に磁界が印加されるため、励振コイル21による磁界の印加前よりも、磁界の大きさが小さくなっている。
【0059】
図7は、傷等のあるスチールワイヤロープWの例である。
図7において、素線の編まれ方は、簡略化して示されている。
図7(A)のスチールワイヤロープWは、表面部分の素線が断線している。また、
図7(B)のスチールワイヤロープWは、スレもしくは打痕により表面部に凹みが生じている。また、
図7(C)のスチールワイヤロープWは、内部に素線断線が生じている。これら傷等のある位置の断面積SA1、SA2、SA3は、傷等のない部分の断面積SA0と比較して、それぞれ小さくなっているため、スチールワイヤロープWの全磁束(磁界に透磁率と面積とを掛けた値)は傷等のある部分で小さくなる。以上のように、磁界の漏れや、全磁束の減少が生じるため、傷等のある部分では検知される磁界に変化が生じる。
【0060】
その結果、たとえば、傷等のある場所に位置する検知コイル22aの検知電圧の値が検知コイル22bと比較して減少するため、差動コイル(検知コイル22全体)による検知電圧の差の値(検知信号)が大きくなる。すなわち、傷等のない部分での検知信号は略ゼロとなり、傷等のある部分では検知信号がゼロより大きい値を持つので、差動コイルにおいて、傷等の存在をあらわす明確な信号(S/N比の良い信号)が検知される。これにより、電子回路部3は、検知信号の差の値に基づいてスチールワイヤロープWの傷等の存在を検出することができる。また、傷等の大きさ(断面積の減少量の大きさ)が大きいほど、検知信号の値が大きくなるため、傷等の大きさを判定(評価)する際に、ある程度以上に大きな傷等があれば、検知信号が所定の第1閾値Th1または第2閾値Th2を超えたことを自動で判定することが可能となる。なお、傷等には錆等による透磁率の変化も含まれ、同様に検知信号としてあらわれる。
【0061】
(第1比較例)
ここで、磁界印加部1が設けられていないことを除いて同様に構成されている第1比較例による磁性体検査装置と比較しながら、磁性体検査装置100の磁界印加部1による磁化について説明する。なお、第1比較例と本実施形態との比較は、整磁を行うか否かの比較である。
【0062】
磁界印加部1が設けられていない第1比較例による磁性体検査装置(図示省略)では、励振コイル21により、X方向に磁場が印加される。このとき、傷等の無い均一な部分で検知される検知信号(移動や励振等に伴う磁界の時間変化も含む磁性体の磁界の大きさ)が等しくなるように、励振コイル21によりX方向に印加する磁界を大きくする必要がある。また、予め磁化の大きさと向きとを整えて(揃えて)いないので、励振コイル21によりX方向に印加される磁界は、磁化の大きさと向きとを略X方向に揃える程度に大きくする必要がある。
【0063】
ここで、
図8に示すように、磁界を印加する前において、磁性体であるスチールワイヤロープW内は、製造時点で、内部の構造ごとに磁化の大きさと向きとがバラついている。また、滑車等の機構を通過し、応力等の外力が加えられることによっても、これらの磁化の大きさと向きとは変化していく。したがって、傷等の無い均質な部分であっても、励振コイル21により磁化の大きさと向きとをX方向に励振しても磁化の大きさと向きとのバラツキが消しきれないため、スチールワイヤロープWの場所ごとの磁化の大きさおよび方向のバラツキにより検知信号にノイズが生じる原因となる。
【0064】
一方で、
図6(A)に示すように、磁界印加部1により予め磁界を印加することにより磁化の大きさおよび方向を整えて(揃えて)おく場合は、スチールワイヤロープWの傷等のない部分の磁界はX2方向に略揃っているとともに、略一定の大きさとなって検知されるため、傷からの信号と区別が容易となる。また、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとが、予め磁界印加部1が印加する大きい磁界によりX方向に整えられているため、スチールワイヤロープWに傷等がない領域では、励振コイル21によって励振された際の磁界の変化は一様である。しかし、スチールワイヤロープWに傷等がある領域では、傷等がない領域と比較して、励振された際の磁界の変化は一様な変化とはならない。したがって、スチールワイヤロープWの状態の判定において、X方向に磁化の状態を励振するために必要な磁界は、整磁するために印加される磁化より小さいものでも検知には十分な大きさである。
【0065】
図9のグラフは、第1比較例および第1実施形態における、スチールワイヤロープWの磁界の変化のグラフである。グラフの縦軸は、検知信号の大きさに対応し、グラフの横軸は、検知位置(スチールワイヤロープWの検知される場所)に対応している。CPU34により同期検波整流処理がされているため、励振コイル21により印加される磁界の時間変化の影響は取り除かれている。
【0066】
磁界印加部1を設けない第1比較例による磁性体検査装置において、
図9(A)の整磁なしのグラフに示すように、傷等の無い部分であっても、磁化の大きさおよび方向のバラツキによるノイズが検知されている。そのため、このような第1比較例による磁性体検査装置では、経験や知識(たとえば、特徴的な検知信号のあらわれのパターン方など)のない非専門化が傷等の有無を判断することは難しい。特に、閾値等を設けて信号の大きさのみに基づいて判定する場合、誤判定の原因となる。
【0067】
一方で、磁界印加部1が設けられた第1実施形態による磁性体検査装置100において、
図9(B)の整磁ありのグラフに示すように、ノイズはほとんど検知されない。具体的には、ノイズの大きさが相対的に小さく、S/N比の良好なグラフとなり、検知信号が明確にあらわれている。したがって、磁界印加部1によりスチールワイヤロープWの整磁することにより、非専門家や閾値Thによる判定であっても、誤判定が生じない程度にノイズを低減することができる。なお、
図9の整磁後のグラフにおいて、スチールワイヤロープWの傷等のある部分の位置が差動コイルの一方側から他方側に移ったことによる検知信号の正負の逆転が明瞭にあらわれていることがわかる。
【0068】
(磁性体の検査処理)
次に、
図10を参照して、第1実施形態による磁性体検査装置100がスチールワイヤロープWの検査を行う処理の流れについて説明する。
【0069】
ステップS1において、磁界印加部1は、検査対象であるスチールワイヤロープWの両側に同極(N極)の磁極面Pf(Pf1)同士が対向するように配置された磁石11によって、スチールワイヤロープWに対して予め磁界を印加しスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整える。その後、処理はステップS2に進む。
【0070】
ステップS2において、検知部2は、磁界を印加したスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力する。その後、処理はステップS3へ進む。
【0071】
ステップS3において、電子回路部3は、検知部2により出力された検知信号に基づいて、スチールワイヤロープWの状態の判定を行い、処理を終了する。
【0072】
上記のように、第1実施形態における磁性体検査方法は、検査対象であるスチールワイヤロープWの両側に同極(N極)の磁極面Pf(Pf1)同士が対向するように配置された磁石11を含む磁界印加部1によって、スチールワイヤロープWに対して予め磁界を印加しスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えるステップS1と、磁界を印加したスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力するステップS2とを備える。
【0073】
(第2比較例)
ここで、
図11および
図12を参照して、磁界印加部40(
図11参照)の磁石41(
図11参照)がスチールワイヤロープWの長軸方向に沿って1つ設けられている第2比較例による磁性体検査装置によるスチールワイヤロープWの整磁と、本実施形態における磁性体検査装置100の磁界印加部1によるスチールワイヤロープWの整磁とについて説明する。
図11(A)は、本実施形態における磁界印加部1の磁石11の配置を示している。
図11(A)に示す構成では、スチールワイヤロープWは、整磁領域15a、磁界を打ち消す領域14、整磁領域15b、検知部2の順に通過する。スチールワイヤロープWが磁石11から受ける磁界は、磁界を打ち消す領域14の前後で、X1方向からX2方向へ反転する。
図11(B)は、第2比較例の磁界印加部40の磁石41の配置を示している。
図11(B)に示す構成では、磁石41から放出される磁界の磁力線に沿って、スチールワイヤロープWが受ける磁界の向きはわずかに変化するものの、スチールワイヤロープWに沿う方向(X方向)の磁界の向きはおおむね変化しない。すなわち、
図11(B)に示す構成では、磁石41の前後において、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きは反転しない。また、磁界を打ち消す領域14は存在しない。
【0074】
図12(A)は、本実施形態における検知部2が検知した検知信号の波形を示すグラフ43の模式図である。
図12(B)は、第2比較例における検知部42(
図11(B)参照)が検知した検知信号の波形を示すグラフ44である。グラフ43および44は、縦軸が信号強度であり、横軸が検知位置である。また、グラフ43および44における領域45および領域46は、スチールワイヤロープWの素線に断線が生じている位置を表している。なお、
図12(A)および
図12(B)に示すグラフ43および44は、
図11(A)および
図11(B)の構成により、同一のスチールワイヤロープWに対して実際に検知信号の取得を行った実験結果を示している。
【0075】
グラフ43に示すように、本実施形態における磁界印加部1によって整磁された後のスチールワイヤロープWの検知信号は、領域45において特徴的な波形を示している。したがって、スチールワイヤロープWの素線の断線の位置を容易に把握することができる。
【0076】
一方、グラフ44に示すように、第2比較例における磁界印加部40によって整磁された後のスチールワイヤロープWの検知信号は、領域46において特徴的な波形を示しているが、領域46以外においても、素線の断線箇所と似たような形状の波形が見られる。したがって、スチールワイヤロープWの素線の断線の位置を容易に把握することは難しい。これらにより、磁界が急激な反転を伴わない第2比較例と比較して、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きを反転させることにより、正確な信号検知を行うことが可能であるという知見を得ることができた。
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0077】
第1実施形態では、上記のように、磁性体検査装置100は、検査対象であるスチールワイヤロープWに対して予め磁界を印加しスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部1と、磁界印加部1により磁界が印加されたスチールワイヤロープWの磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部2とを備え、磁界印加部1は、スチールワイヤロープWの両側に同極(N極)の磁極面Pf(Pf1)同士が対向するように配置された磁石11を含む。これにより、スチールワイヤロープWに対して予め磁界が印加されるので、スチールワイヤロープWの傷等のない部分の磁化の大きさと向きとは略整えられる。一方で、スチールワイヤロープWに傷等のある部分の磁化の大きさと向きとは整わない。その結果、検知部2から出力される検知信号が傷等のある部分とない部分とで異なることにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。また、スチールワイヤロープWの両側(Y1方向およびY2方向)から磁界を印加してスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えることが可能となるので、スチールワイヤロープWの片側から磁界を印加する場合と比較して、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを効率よく整えることができる。
【0078】
また、第1実施形態では、上記のように、磁石11は、スチールワイヤロープWを挟むように1対設けられており、スチールワイヤロープWに対して互いに磁界を打ち消す領域14を生じさせるとともに、磁界を打ち消す領域14の前後に、スチールワイヤロープWに磁界を印加してスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整える整磁領域15を生じさせるように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWに対して互いに磁界を打ち消す領域14を生じさせることにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)を検知する際に、整磁領域15、磁界を打ち消す領域14、整磁領域15、検知部2の順にスチールワイヤロープWを通過させることができる。したがって、磁界を打ち消す領域14によって、スチールワイヤロープWの短軸方向(Y方向)において磁極が発生することを抑制することが可能となり、短軸方向(Y方向)においてスチールワイヤロープWが磁界印加部1に引き寄せられることを抑制することができるとともに、整磁領域15によってスチールワイヤロープWの整磁を行うことができる。その結果、磁界印加部1が磁界を打ち消す領域14を生じさせない場合と比較して、短軸方向(Y方向)においてスチールワイヤロープWが磁界印加部1に引き寄せられることが抑制されるので、スチールワイヤロープWに加える張力を増大させることなくスチールワイヤロープWの整磁を行うことができる。
【0079】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1は、整磁領域15において、磁界を打ち消す領域14を挟んで、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きを反転させるように構成されている。これにより、整磁前のスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとがどのような方向に向いていたとしても、スチールワイヤロープWを、整磁領域15b、磁化を打ち消す領域14、整磁領域15aの順で通過させることが可能となるので、容易にかつ確実にスチールワイヤロープWを整磁することができる。また、磁界を打ち消す領域14の前後で、磁界印加部1が発する磁界の向きが反転する。その結果、上記第2比較例で示した知見から明らかなように、磁界の向きが反転しない場合と比較して、より正確に磁界の変化を検知できる。
【0080】
また、第1実施形態では、上記のように、磁性体は、スチールワイヤロープWからなり、1対の磁石11は、主として、スチールワイヤロープWに対して、スチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って磁界を印加するように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWに対してスチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って磁界を印加することにより、スチールワイヤロープWを挟むように1対の磁石11を配置した場合でも、容易にスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えることができる。
【0081】
また、第1実施形態では、上記のように、1対の磁石11(磁石11aおよび11b、または、磁石11cおよび磁石11d)は、それぞれの磁石11の一方の同極(S極)の磁極面Pf(Pf2)同士は対向せずに、他方の同極(N極)の磁極面Pf(Pf1)同士が対向するように配置されている。これにより、たとえば、両端面に磁極面Pf(Pf1およびPf2)を有する棒状の1対の磁石11を用いる場合でも、磁石11の同極同士を対向させるとともに、スチールワイヤロープWの短手方向(Y方向)に向けて1対の磁石11を配置することができる。その結果、スチールワイヤロープWの短手方向(Y方向)からスチールワイヤロープWに向けて磁界を印加することが可能となるので、容易に磁界を打ち消す領域14および整磁領域15を生じさせることができる。
【0082】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1は、検知部2からスチールワイヤロープWが延びる方向(X方向)に所定距離離間した位置に設けられている。ここで、検知部2と磁界印加部1との相対的な位置が変わると、検知部2が検知する磁界印加部1からの磁界が変化する。検知部2が検知する磁界印加部1からの磁界の変化は、検知部2で検知される磁界にノイズが発生する要因となる。また、このノイズは、検知部2と磁界印加部1との距離が近いほど大きくなる。そのため、磁界印加部1を、検知部2における磁界の検知に影響がない程度にまで所定距離分離間して配置することにより、検知信号のS/N比の精度が上がる。その結果、検知部2と磁界印加部1との相対的な位置が変わることにより、検知部2が検知する磁界印加部1からの磁界が変化することに起因するノイズの発生を抑制することができる。
【0083】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1は、スチールワイヤロープWに対して磁界を印加する第1磁界印加部1aと、スチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)において、検知部2の第1磁界印加部1aの側とは反対側(X2方向)に設けられ、スチールワイヤロープWに対して磁界を印加する第2磁界印加部1bとを含む。これにより、検知部2の両側に磁界印加部1を配置することができる。その結果、磁界印加部1とスチールワイヤロープWとを相対移動させることによりスチールワイヤロープWが延びる方向(X方向)の磁界の変化を検知する場合に、スチールワイヤロープWが延びる方向(X方向)の一方側(X1方向)および他方側(X2方向)のうちいずれの方向に相対移動させても、検知部2による磁界が検知されるよりも前に、磁界印加部1によりスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えることができる。
【0084】
また、第1実施形態では、上記のように、検知部2は、スチールワイヤロープWを中心としてスチールワイヤロープWを取り囲み、スチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って巻回するように設けられ、スチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)の磁界の変化を検知して検知信号を発生する検知コイル22を含む。これにより、検知コイル22は、検知コイル22の内部の全磁束あるいは全磁束の変化により電圧を発生するので、スチールワイヤロープWにおけるスチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)の磁界の変化を容易に検知することができる。
【0085】
また、第1実施形態では、上記のように、検知コイル22は、差動コイルを含むとともに、スチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)の磁界により差動コイルに含まれる2つのコイル部分により発生する各々の検知信号を出力するように構成されている。これにより、差動コイルの一方のコイル部分と他方のコイル部分とにより発生するスチールワイヤロープWの傷等により生じる検知信号の差を検知することにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の局所的な変化をより容易に検知することができる。
【0086】
また、第1実施形態では、上記のように、検知部2により出力された検知信号に基づいて、スチールワイヤロープWの状態の判定を行う電子回路部3をさらに備え、電子回路部3は、検知部2により出力された検知信号が2つの所定の閾値Th(第1閾値Th1および第2閾値Th2)を超えた場合に、検知信号が2つの所定の閾値Th(第1閾値Th1および第2閾値Th2)を各々超えたことを示す2つの閾値信号(第1閾値信号および第2閾値信号)を外部に出力するように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)が不均一となる部分を、閾値信号に基づいて容易に判定することができる。
【0087】
また、第1実施形態では、上記のように、検知部2は、スチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するための励振コイル21をさらに含むとともに、励振コイル21に流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振されたスチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)の磁界または磁界の変化を検知するように構成されている。これにより、励振コイル21によりスチールワイヤロープWの傷等の部分の磁化の状態が励振されるので、スチールワイヤロープWの傷等の部分からのスチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)の磁界または磁界の変化を容易に検知することができる。特に、交流電流等を励振コイル21に流すことによりスチールワイヤロープWの磁化の状態に時間変化する励振を与える場合には、スチールワイヤロープWの磁界も時間変化する。そのため、スチールワイヤロープWと検知部2とを相対移動させることなく、検知部2により検知される磁界を変化させ、検知することができる。
【0088】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1によってスチールワイヤロープWに印加される磁界は、励振コイル21がスチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きい。これにより、磁化の大きさと向きとが整えられていない場合と比較して、磁化の状態を励振するために必要な磁界の大きさを小さくすることができる。
【0089】
また、第1実施形態では、上記のように、磁性体は、被検体に対して相対的に移動可能となるようにX線撮影装置900に設けられる、被検体にX線を照射するX線照射部E1または被検体を透過したX線を検出するX線検出部E2の少なくともいずれか一方を移動させるためのスチールワイヤロープWを含み、検知部2は、X方向の磁界を検知するように構成されている。これにより、X線撮影装置900に用いられるスチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)を容易に判定することができる。
【0090】
また、第1実施形態では、上記のように、検査対象であるスチールワイヤロープWの両側に同極(N極)の磁極面Pf(Pf1)同士が対向するように配置された磁石11を含む磁界印加部1によって、スチールワイヤロープWに対して予め磁界を印加しスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えるステップS1と、磁界を印加したスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力するステップS2とを備える。これにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことが可能な磁性体検査方法を提供することができる。また、スチールワイヤロープWの両側(Y1方向およびY2方向)から磁界を印加してスチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えることが可能となるので、スチールワイヤロープWの片側から磁界を印加する場合と比較して、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを効率よく整えることが可能な磁性体検査方法を提供することができる。
【0091】
[第2実施形態]
次に、
図2および
図13を参照して、第2実施形態による磁性体検査装置200(
図2参照)の構成について説明する。第2実施形態による磁性体検査装置200は、第1実施形態とは異なり、励振コイル21に供給される励振電流が時間変化しない直流電流である。
【0092】
具体的には、磁性体検査装置200は、検査ユニットUに設けられた電子回路部302を含む。また、電子回路部302は、
図13に示すように、直流電源312を含む。直流電源312は、励振コイル21に時間変化しない(一定値となる)直流電流を流す。これにより、励振コイル21内には、X方向に一定の大きさとなる静磁界が生じる。
【0093】
ここで、第2実施形態による磁性体検査装置200では、検知部202(
図2参照)は、スチールワイヤロープWを検知部2に対してX方向に略一定となる定速度で相対移動させることにより検知部202の検知位置におけるスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知するように構成されている。
【0094】
具体的には、検査時において、検知部202の検知コイル22により検知されるスチールワイヤロープWの位置が時間変化するのに伴って、検知コイル22により検知される磁界も時間変化する。検知コイル22がスチールワイヤロープWの傷等のない部分を通過している場合には、検知コイル22内の磁界のX方向の大きさは略一定となるので、検知信号も一定値となる。一方、検知コイル22がスチールワイヤロープWの傷等のある部分に位置する場合、検知位置における磁界の大きさが時間変化するので、検知信号が変化する。これにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)を判定することができる。
【0095】
第2実施形態のその他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0096】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、上記のように、検知部202は、スチールワイヤロープWを検知部2に対してX方向に略一定となる定速度で相対移動させることにより検知部202の検知位置におけるスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知するように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWの検知部202に磁界を検知される部分が相対移動に伴って変化するので、傷等のある部分とない部分との比較により、容易に傷等を検知することができる。また、定速度で相対移動させることによって、傷等のない位置では検知信号が略一定となり、傷等のある位置では異なる検知信号が出力されるため、スチールワイヤロープWの傷等の状態の判定が容易となる。
【0097】
第2実施形態のその他の効果については、第1実施形態と同様である。
【0098】
[
参考例]
次に、
図2、
図14および
図15を参照して、
参考例による磁性体検査装置300(
図3参照)の構成について説明する。
参考例による磁性体検査装置300は、第1実施形態とは異なり、スチールワイヤロープWの磁界を検知する磁気センサ素子23が設けられている。
【0099】
具体的には、磁性体検査装置300は、検査ユニットUに設けられる検知部203(
図2参照)と電子回路部303(
図2参照)とを備えている。また、
図14(A)に示すように、検知部203は、スチールワイヤロープWの長手方向に直交する面において、スチールワイヤロープWを円周状に取り囲むように配置された複数(スチールワイヤロープWを軸として対称に12個)の磁気センサ素子23を含む。磁気センサ素子23は、たとえば、コイル、励振コイルつきコイル、励振コイルつき差動コイル、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子などのいずれか1つあるいはいくつかが複合したものにより構成されている。ここで、単にコイルを用いる場合は、静磁界を検出できないため、磁性体を移動させながら測定を行う必要があるのに対し、励振コイル21を併用した場合は、測定対象の磁性体を静止させた状態においても、測定を行うことが可能となる。また、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子を用いたときは、これら素子そのものが静磁界を測定することが可能なことから、測定対象の磁性体を静止させた状態においても、測定を行うことが可能となる。なお、磁気センサ素子23を、2方向あるいは3方向を検出するように複数の磁気センサ素子23を複数個所に配置してもよい。また、磁気センサ素子23は、磁界の変化の大きさのみならず磁界の大きさも検出するように構成することもできる。
【0100】
また、
図15に示すように、電子回路部303は、磁気センサ素子23への電圧の印加を行う電圧印加機構36を含む。電子回路部303は、磁気センサ素子23を電気的に制御し、検知部203からの電気信号を処理して検知信号として出力するように構成される。
【0101】
参考例のその他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0102】
(参考例の効果)
参考例では、上記のように、磁界印加部1によりX方向に磁界が印加された後のスチールワイヤロープWに対して、磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWの磁界に基づく検知信号を出力する検知部202を設ける。これによっても、磁化の大きさおよび方向のバラツキが低減した状態で検知が行われるため、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【0103】
また、参考例では、上記のように、検知部202は、スチールワイヤロープWの磁界を検知する少なくとも1つの磁気センサ素子23がスチールワイヤロープWの外側に配置されるように構成されている。これにより、内部にスチールワイヤロープWを通過させるようなコイルを含む検知部2と異なり、スチールワイヤロープWの大きさあるいは設置状況の制限が緩和されるので、応用範囲を広げることができる。
【0104】
参考例のその他の効果については、第1実施形態と同様である。
【0105】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0106】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、磁性体を長尺材とする例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、磁性体は、長尺材以外の薄板、鉄球(ベアリング)等でもよい。その他、均一な構造をもつ磁性体全般の検査に本発明を用いることができる。また、磁性体が薄板等である場合、薄板等の面に垂直な方向(厚みの方向)に磁化を印加し、薄板等の面の延びる方向の磁界または磁界の変化を検知するように構成してもよい。
【0107】
また、上記第1および第2実施形態では、長尺材からなる磁性体をスチールワイヤロープWとする例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、長尺材からなる磁性体は、薄板、角材、円筒状のパイプ、針金、チェーン等でもよい。
【0108】
また、上記第1および第2実施形態では、磁界印加部1が検査ユニットUと一体構成とされている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、磁界印加部1と検知部2との相対位置は変更可能に構成してもよい。具体的には、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを磁界印加部1によりスチールワイヤロープWの長手方向(X方向)に整えた後、磁界印加部1のみをスチールワイヤロープWから離した位置に移動させてもよい。これにより、検知部2(202、203)によるスチールワイヤロープWの磁界または磁界の変化の検知時に、磁界印加部1の磁界が検知部2(202、203)に影響しないように磁界印加部1と検知部2(202、203)とを離すことができる。
【0109】
また、第1
および第
2実施形態において、スチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)に予め磁界を印加する場合に、磁界印加部1の構成を、
図16に示すような構成としてもよい。具体的には、
図16(A)に示すように、1対の磁石11aと磁石11bとは、S極同士が対向するように配置されていてもよい。また、磁石11cと磁石11dとは、S極同士が対向するように配置されていてもよい。また、
図16(B)に示すように、磁石11aおよび11bと、磁石11cおよび11dとの磁界の配置方向は、平行でなくてもよい(それぞれ、Y方向と、Y方向に対して角度θ傾いた方向となっている)。また、
図16(C)に示すように、検知部2の片側にのみ磁石11aおよび11b(または、磁石11cおよび磁石11d)を設けるように構成してもよい。
【0110】
また、上記第1および第2実施形態では、磁界印加部1を永久磁石により構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁界印加部1を電磁石(コイル)により構成してもよい。
【0111】
また、上記第1
および第
2実施形態では、磁界印加部1が1対の磁石11を含む例を示した本発明はこれに限られない。たとえば、
図17(A)に示すように、リング状の磁石11e(磁石11f)を備える構成でもよい。リング状の磁石11e(磁石11f)としては、
図17(B)に示すように、リングの内側がN極(またはS極)であり、リングの外側がS極(またはN極)となるように着磁された磁石を用いればよい。
図17(B)に示すようなリング状の磁石11e(磁石11f)を用いることにより、1つの磁石によってスチールワイヤロープWを挟んで同極(N極)を対向させるように配置することができる。
【0112】
また、上記第1および第2実施形態では、励振コイル21の内側に差動コイルとなる検知コイル22aおよび22bを配置する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図18(A)に示すように、差動コイルからなる検知コイル22cおよび22dを励振コイル21cの外側に配置してもよい。また、
図18(B)に示すように、差動コイルからなる検知コイル22eおよび22fを、励振コイル21dを挟むように励振コイル21dのX方向(長手方向)の両側に並べて配置してもよい。また、
図18(C)に示すように、差動コイルではない単一の検知コイル22gを励振コイル21eの内側(または、外側)に配置してもよい。また、
図18(D)に示すように、2つの励振コイル21fおよび21gを、単一の検知コイル22hを挟むように検知コイル22hのX方向(長手方向)の両側に並べて配置してもよい。
図18(E)に示すように、単一の励振コイル21hと単一の検知コイル22iとをX方向(長手方向)に並べて配置してもよい。また、
図18(F)に示すように、差動コイルとなる検知コイル22jおよび22k(または、単一の検知コイル22)を配置し、励振コイル21を省略した構成としてもよい。
【0113】
また、上記第1
および第
2実施形態では、円筒形のコイル(検知コイル22および励振コイル21)がスチールワイヤロープWを取り囲むように設けられている例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、
図19に示すように、検知コイル22および励振コイル21は、角筒形の検知コイル220(励振コイル210)としてもよい。
【0114】
また、上記第1
および第
2実施形態では、検知コイル22がスチールワイヤロープWを取り囲む例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば
、図2
0に示すように、半円筒形(馬蹄形)のコイル部分20a(
図20(a)参照)を2つ組み合わせた円筒型コイル20b(
図20(b)参照)を用いても良い。なお、半円筒型(馬蹄形)のコイルは、スチールワイヤロープWが設置された(端部が塞がれた)状態でも、容易に着脱可能である。
【0115】
また、上記第1および第2実施形態では、磁性体検査装置100(200、300、検査ユニットU)がスチールワイヤロープWに沿って移動可能に構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、磁性体検査装置100(200、300、検査ユニットU)は移動しないように構成されていてもよい。この場合、磁性体検査装置100(200、300)は、定位置において内部または付近を通過するスチールワイヤロープWの磁界を検知する。
【0116】
また、上記第1および第2実施形態では、電子回路部3(302、303)は、検知コイル22(検知部2(202、203))により出力された検知信号が所定の閾値Th(第1閾値Th1および第2閾値Th2)を超えた場合、外部に信号を出力するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、電子回路部3(302、303)を、検知信号が閾値Thを超えた回数Nを各々カウントするとともに、カウントされた回数Nが所定の回数Mを超えた場合に、カウントされた回数Nが所定の回数Mを超えたことを示す信号を外部に出力するように構成してもよい。これにより、電子回路部3(302、303)は、閾値Thを超えた回数Nをカウントし、傷等の多さに基づいてスチールワイヤロープWの劣化の状態を判定することができる。また、電子回路部3(302、303)を、前回測定時において閾値Thを超えた回数Nと今回測定時に閾値Thを超えた回数Nとを比較することにより、スチールワイヤロープWの傷等の有無の状態の継時的な変化(たとえば、劣化の進行速度)を判定するように構成してもよい。また、所定の閾値Thの数は、1つや、2つ以外の複数(たとえば、3つ)としてもよい。
【0117】
また、上記第1
および第
2実施形態では、磁性体検査装置100(200、300)を、移動型X線撮影装置(回診車)900に用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体検査装置100(200、300)を、
図21(a)に示す据え置き型のX線照射装置(X線撮影装置)901、
図21(b)に示すスタンド型のX線照射装置(X線撮影装置)902および
図21(c)に示すスタンド型のX線検出装置(X線撮影装置)903に用いてもよい。さらに、ワイヤを利用した装置やインフラ、例えば、エレベータ、ロープウエイなどの移動用装置や、つり橋・橋脚等のワイヤ部分についても適用可能である。さらに、ワイヤのみならず、電柱、上下水道配管、ガス管、パイプライン等、磁性体の損傷を測定するあらゆる用途に適用可能である。なお、X線照射部E11およびX線照射部E12は、ともにX線管等を含みX線を照射する部分であり、X線検出部E23は、FPD等を含むX線を検出する部分である。また、X線照射部E11、X線照射部E12およびX線検出部E23は、それぞれスチールワイヤロープWに牽引され支えられている。また、磁性体検査装置100(200、300)は、スチールワイヤロープWに沿って移動可能に構成されている。
【0118】
また、上記第1および第2実施形態では、磁性体の「傷等」として主に磁性体表面の傷を検出対象として説明したが、断線(完全ではなくワイヤロープであれば素線の断線)、太さの変化、腐食(錆)、亀裂、透磁率の不均一も検出対象に含まれる。また、検出対象は、磁性体の表面に限らず、内部でもよい。その他、磁性体の磁界または磁界の不均一性を生じさせる状態であれば、「磁性体の状態」として検出可能である。
【0119】
また、「磁性体の磁界または磁界の変化」には、外部から磁界を印加した場合の、磁界が印加された磁性体の近傍で観測される磁界または磁界の変化の他、外部から磁界を印加しない場合の、磁性体そのものから生ずる磁界または磁界の変化をも含む。
【符号の説明】
【0120】
1 磁界印加部
1a 第1磁界印加部
1b 第2磁界印加部
2、202、203 検知部
3、302、303 電子回路部(判定部)
14y ヨーク部(磁界印加部)
21、21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、21h、210 励振コイル
22、22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h、22i、22j、22k、220、221 検知コイル
100、200、300 磁性体検査装置
900 移動型X線撮影装置(X線撮影装置)
901 据え置き型X線照射装置(X線撮影装置)
902 スタンド型X線照射装置(X線撮影装置)
903 スタンド型X線検出装置(X線撮影装置)
E1、E11、E12 X線照射部
E2、E23 X線検出部
M 所定の回数
Pf、Pf1、Pf2 磁極面
Th 所定の閾値
Th1 所定の第1閾値
Th2 所定の第2閾値
X方向 磁性体の延びる方向、長尺材の延びる方向、長尺材が延びる方向
W スチールワイヤロープ(磁性体、長尺材、ワイヤ)