(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】液体物質の蒸気を空気中に分散させるための器具
(51)【国際特許分類】
A61L 9/03 20060101AFI20240213BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20240213BHJP
A01M 29/12 20110101ALI20240213BHJP
【FI】
A61L9/03
A01M1/02 B
A01M29/12
(21)【出願番号】P 2020571591
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 FR2019051490
(87)【国際公開番号】W WO2019243734
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520497874
【氏名又は名称】カエリンプ
【氏名又は名称原語表記】CAELIMP
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ペレス ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】リヴィエール フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ピション フィリップ
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-224071(JP,A)
【文献】特開平05-084286(JP,A)
【文献】特表2002-510228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0000977(US,A1)
【文献】国際公開第03/092750(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01846044(EP,A1)
【文献】米国特許第02140516(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0049259(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00 - 9/22
A01M 1/20
A01N 1/00 - 65/48
A01P 1/00 - 23/00
B65D 85/00
B65D 83/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で液体状態であり貯蔵容器に入っている物質を蒸気状態で空気中に分散するための装置であって、
屋外に開通するダクト(2,4,510)を備えており、当該ダクト内に空気の流れを通せるように構成された通気システムと、
前記貯蔵容器によって液体の物質の供給を受けるように構成された少なくとも1つのディスペンスユニット(8,208)であって、前記ダクトの出口を形成することにより当該ダクトに当該物質の蒸発領域を構成するマイクロダクトを備えているディスペンスユニット(8,208)と、
前記物質を収容し前記ディスペンスユニット(8,208)に接続された少なくとも1つの貯蔵容器(5,106,300,400,550)であって、前記ディスペンスユニットに接続された放出口を有し、前記装置が使用ポジションであるときは下向きとなり、当該使用ポジションでは前記ディスペンスユニットは前記放出口より下方に位置する貯蔵容器(5,106,300,400,550)と、
前記ディスペンスユニットの表面又は内部に設けられ、前記ディスペンスユニットを通る前記物質の流れを制御する加熱ユニット(11,211,132)と、
を備えており、
前記物質は、温度に応じて可変である粘度であって、第1の温度より低い常温では当該物質が前記ディスペンスユニットのマイクロダクト内を流れることができない粘度を有し、
前記加熱ユニットは、前記使用ポジションにおいて、前記物質がキャピラリ性質によって前記ディスペンスユニットのマイクロダクト内を流れるように前記ディスペンスユニットを第1の温度より高い第2の温度に加熱するよう構成されており、
前記ディスペンスユニットは、細孔を有する多孔質体(8,208)を備えており、
前記細孔は、前記ディスペンスユニットの前記マイクロダクトの少なくとも一部を構成する
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記細孔は、0.01~10μmの径を有する、
請求項
1記載の装置。
【請求項3】
前記多孔質体(8,208)は円柱形状である、
請求項
1又は
2記載の装置。
【請求項4】
前記物質の供給は、前記多孔質体(8)の軸に対して平行に設けられた止まり孔(9)で受ける、
請求項
3記載の装置。
【請求項5】
前記多孔質体は突出片(208b)を有し、
前記突出片(208b)は前記多孔質体の上部分に設けられ、前記多孔質体の長手軸に沿って延在し、前記物質を受けるように構成されている、
請求項
3記載の装置。
【請求項6】
前記ディスペンスユニット(8)は、前記多孔質体の周りに設けられた周囲メンブレンを備えており、
前記周囲メンブレンは、マイクロダクトを形成する孔が開けられている、
請求項
1から
5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記多孔質体(8,208)の内側部分の気孔率は、当該多孔質体における当該内側部分の周囲の外側部分の気孔率より低い、
請求項
1から
6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記多孔質体は、木材、繊維製品、セラミック又はポリマーから成る芯を備えている、請求項
1から
7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記加熱ユニット(11,132,211)は、前記多孔質体の表面に直接配置されている、
請求項
1から
8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
前記多孔質体は、前記加熱ユニットの少なくとも一部を収容する少なくとも1つの孔(210)を有する、
請求項
1から
8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
前記ディスペンスユニットは中空の針(220)を備えており、
前記針(220)は前記貯蔵容器のキャップに孔を開け、及び/又は、前記貯蔵容器のシャッタとして機能するメンブレン(310)を変位させて、前記貯蔵容器に入っている前記物質を前記蒸発
領域に移動させるように構成されている、
請求項1から
10までのいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
前記針(220)は前記多孔質体の端部のうち1つに配置されている、
請求項
11記載の装置。
【請求項13】
前記マイクロダクトの断面積は10
-4μm
2~10
6μm
2
である、
請求項1から
12までのいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
前記マイクロダクトの断面積は0.1μm
2
~10
3
μm
2
である、
請求項13記載の装置。
【請求項15】
さらに固定ユニットを備えており、
前記通気システムのダクトに対する前記固定ユニットの相対的な方向及び/又は傾きを定めることにより、前記固定ユニットが支持部に固定されるときにグラウンドに対する前記通気システムのダクトの相対的な向きを定めることができる、
請求項1から14までのいずれか1項記載の装置。
【請求項16】
前記通気システムは少なくとも1つのファン(1)を備えており、前記ファン(1)は前記ダクト(2,4,510)の一部に配置されている、
請求項1から15までのいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
前記通気システムは、前記ダクト(2,4)の端壁に設けられた開口と、当該開口の通過断面を制御できるようにするために当該開口に設けられた調整可能なシャッタと、を備えている、
請求項1から16までのいずれか1項記載の装置。
【請求項18】
前記ダクト内の空気の流れに対するレギュレータユニット(130,530)を備えており、
前記レギュレータユニット(130,530)は前記ダクト内の空気の流れを制御するために前記ファン及び/又は前記シャッタを制御するように構成されている、
請求項16又は17記載の装置。
【請求項19】
前記ディスペンスユニットにおける設定温度に従って前記加熱ユニット(11,132,211)を制御するように構成された制御装置(130,530)をさらに備えている、
請求項1から18までのいずれか1項記載の装置。
【請求項20】
前記加熱ユニットは、少なくとも1つの電子基板(130,230)と、当該電子基板から給電を受ける少なくとも1つの電気抵抗器(211)と、を備えている、
請求項19記載の装置。
【請求項21】
前記制御装置は前記電子基板(130)上に設けられている、
請求項20記載の装置。
【請求項22】
前記ディスペンスユニットは温度センサ(10)を
備えている、
請求項19から21までのいずれか1項記載の装置。
【請求項23】
前記設定温度は前記物質に応じて設定される、
請求項19から22までのいずれか1項記載の装置。
【請求項24】
前記制御装置は、前記貯蔵容器(5,300,400,550)に入っている前記物質を示すマーキングであって当該貯蔵容器(5,300,400,550)に設けられたマーキングを検出するように構成された検出器に接続されており、
前記制御装置は前記マーキングに従って、前記設定温度と、空気の流れと、停止/作動サイクルを定めた時期的表示と、のうち前記装置の少なくとも1つの動作パラメータを決定する、
請求項23記載の装置。
【請求項25】
前記制御装置(130,230)は、物質と設定温度とを関連付ける値のテーブルを記憶するメモリを備えている、
請求項19から24までのいずれか1項記載の装置。
【請求項26】
前記値のテーブルを修正するために、データサーバとの有線又は無線通信を保証するための通信モジュールをさらに備えている、
請求項25記載の装置。
【請求項27】
前記物質は前記第2の温度で、液体状態で前記ディスペンスユニットの表面であって前記通気システム内にある表面上に広がる、
請求項1から26までのいずれか1項記載の装置。
【請求項28】
前記加熱ユニット(11,132,211)は前記物質を気化させることなく前記物質の粘度を変化させることにより、前記ディスペンスユニット内の前記物質の流れを制御するように構成されている、
請求項1から27までのいずれか1項記載の装置。
【請求項29】
前記第2の温度は、液滴が形成されて前記ディスペンスユニットから剥がれるのを防止するために十分に低い流量であり、なおかつ、前記通気システムによって送られる空気の流れにもかかわらず前記蒸発領域が永続的に濡れた状態に留まるために十分に高い流量で、前記物質が流れるように選択されている、
請求項1から28までのいずれか1項記載の装置。
【請求項30】
前記貯蔵容器(300)は前記放出口以外の開口を有しておらず、
前記貯蔵容器は、当該貯蔵容器の容積の少なくとも20%を占める気相と、液体の前記物質とを収容する、
請求項29記載の装置。
【請求項31】
前記貯蔵容器(400)は外部タンク(402)と、当該外部タンクに収容される内部タンク(403)とを備えており、
前記内部タンクは前記放出口を介して前記ディスペンスユニットに接続されており、
前記内部タンクは、前記放出口とは反対側の端部に、大気と繋がる通気口(401)
を備えており、
前記放出口の付近に、前記外部タンクと前記内部タンクとを連通させるための開口が設けられており、
前記外部タンクは、前記連通
させるための開口以外の開口を有しない、
請求項29記載の装置。
【請求項32】
前記貯蔵容器(5,300,400,550)は前記装置に取外し可能に嵌められ、
前記貯蔵容器(5,300,400,550)は、物質の損失なく前記装置から取り外せるように構成されている、
請求項1から31までのいずれか1項記載の装置。
【請求項33】
前記貯蔵容器は、ねじ留め又はスナップ留めにより前記装置に嵌められる、
請求項32記載の装置。
【請求項34】
前記ディスペンスユニットは、前記貯蔵容器の方を向いた第1の面を有し、
前記ディスペンスユニットには、当該ディスペンスユニットと前記貯蔵容器との密閉接続を保証するシール部(214)が設けられており、
前記ディスペンスユニットはさらに第2の面を有し、当該第2の面は前記通気システム内に設けられる、
請求項1から33までのいずれか1項記載の装置。
【請求項35】
前記貯蔵容器(300)は、当該貯蔵容器と前記ディスペンスユニットとの密閉接続を保証するように前記放出口の周りに設けられるシール部(308)を備えている、
請求項1から34までのいずれか1項記載の装置。
【請求項36】
前記貯蔵容器(400)は
、前記物質の流れを制限するために前記放出口と隣接するように容器内に設けられる保持ユニット(408)を備えており、
前記
保持ユニット(408)は、
フェルトとメラミン発泡材とスポンジとから選択された材料を含む、
請求項1から35までのいずれか1項記載の装置。
【請求項37】
前記物質は、大気圧で30℃~400℃の沸点を有する、
請求項1から36までのいずれか1項記載の装置。
【請求項38】
前記物質の粘度は25℃で1cPa・s超であり、かつ、60℃で1cPa・s未満である、
請求項1から37までのいずれか1項記載の装置。
【請求項39】
前記物質は、ヒト又は動物に使用可能な芳香品、情報化学物質、化粧品、精油、香水、植物防除用剤及び農業用剤により構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む溶液である、
請求項1から38までのいずれか1項記載の装置。
【請求項40】
動物に使用可能な前記芳香品は、脂肪酸又はエステル化形態の前記脂肪酸
の中から選択されたものである、
請求項39記載の装置。
【請求項41】
前記脂肪酸又はエステル化形態の前記脂肪酸は、オレイン酸メチル、パルミチン酸メチル、アゼライン酸ジメチル、又はピメリン酸ジメチルである、
請求項40記載の装置。
【請求項42】
前記物質は、
少なくとも1つの情報化学物質
を含む溶液であり、
前記少なくとも1つの情報化学物質は、自然由来若しくは合成由来の少なくとも1つのフェロモン、アロモン又はカイロモン
である、
請求項39記載の装置。
【請求項43】
前記物質は
、少なくとも1つの
情報化学物質を含む溶液であり、
前記
少なくとも1つの情報化学物質は、
節足動物の対象種についてポジティブ反応又はネガティブ反応を引き起こすように構成され
た性的若しくは非性的なフェロモン、アロモン、シノモン又はカイロモンである、
請求項39記載の装置。
【請求項44】
前記節足動物の対象種についての前記ポジティブ反応又はネガティブ反応は、混乱、誘引又は忌避反応である振舞いである、
請求項43記載の装置。
【請求項45】
前記混乱は性的混乱である、
請求項44記載の装置。
【請求項46】
前記誘引は性的誘引である、
請求項44記載の装置。
【請求項47】
前記節足動物はクモ綱又は六脚類である、
請求項43から46までのいずれか1項記載の装置。
【請求項48】
前記節足動物は昆虫である、
請求項43記載の装置。
【請求項49】
前記昆虫は害虫である、
請求項48
記載の装置。
【請求項50】
前記物質は、
少なくとも1つの
情報化学物質を含む溶液であり、
前記少なくとも1つの情報化学物質は、哺乳類及び鳥類
の対象種についてポジティブ反応又はネガティブ反応を引き起こすように構成された少なくとも1つのフェロモン若しくは性的フェロモン、アロモン、シノモン又はカイロモンである、
請求項39記載の装置。
【請求項51】
前記哺乳類及び鳥類の対象種についての前記ポジティブ反応又はネガティブ反応は、鎮静作用、リラックス作用、気分高揚、又は威嚇作用である振舞いである、
請求項50記載の装置。
【請求項52】
前記物質は、ミリスチン酸イソプロピル、ジプロピレングリコール、モノメチルジプロピレングリコールエーテル、又はイソパラフィン系炭化水素から選択された溶媒を含む、請求項1から
51までのいずれか1項記載の装置。
【請求項53】
複数の前記貯蔵容器(5,5a,5b,5c)を備えており、
前記複数の貯蔵容器(5,5a,5b,5c)はそれぞれ同一の物質を液体状態で含み、又は、互いに混和性である液体状態の複数の物質を含む、
請求項1
記載の装置。
【請求項54】
複数の前記貯蔵容器(5,5a,5b,5c)の集合体の全部又は一部が外側で、前記通気システムの前記ダクト(2)によって支持されている、
請求項
53記載の装置。
【請求項55】
前記各貯蔵容器(5)はそれぞれ前記ディスペンスユニットの多孔質体(8)に関連付けられており、
前記多孔質体(8)の集合体は、前記通気システムの前記ダクトの内部に配置されており、
前記各多孔質体(8)が前記ダクトの長手方向にずれるように配置されている、
請求項
53又は
54記載の装置。
【請求項56】
前記第1の温度は30℃である、
請求項1から
55までのいずれか1項記載の装置。
【請求項57】
前記第1の温度は50℃であり、前記物質はコドレモンの溶液である、
請求項1から
39まで、42から51まで、53から55までのいずれか1項記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で液体状態である物質を蒸気状態で空気の流れの中に分散させるための器具に関する。
この種の分散を達成する際に困難なことは一般に、当該分散が一定の期間にわたって空気流中で実質的に均等になると共に、空気流に対する物質の濃度を非常に低くできることを保証することである。
実際にこの問題が生じるのは、特に、
大容量の閉鎖領域において香水を拡散させたい場合、又は、
例えば栽培用地等の開放的な領域において、当該用地における栽培に有利な植物防除製品を拡散させたい場合であり、
開放的な用地において行われる栽培に有害な昆虫を抑制するために作用できるフェロモン等の情報化学物質製品を当該用地において分散させたい場合にも、同様の問題が生じる。
【背景技術】
【0002】
液体の有効物質を低速で連続的に放出することができるシステムは、既に提案されており、かかる物質は一般にそのまま用いられる液体であるか、又は種々の担体に吸収させて用いられる液体であり、このような有効成分は特に、無孔質のポリマーマトリクスの中に入れるか、ポリマーエンベロープを備えたマイクロカプセルに入れるか(米国特許第3577515号明細書)、ゲル中に入れるか(米国特許第2800457号明細書)、又は中空繊維の中に入れることもできる(米国特許第4017030号明細書)。この有効成分は、受動拡散を利用して(単なる大気中の蒸発により)周辺空気中に分布される。残念なことに、有効成分の放出の運動は周囲の要因により影響を受け、これにより、有効成分が効率的に作用して当該有効成分の放出速度を制御することができない。
【0003】
その上、液体物質が複数の化合物により構成され、これらの化合物の蒸発温度が等しくない場合には、液体物質は蒸発中に徐々に変性していくため、この種の器具の有効性が持続する時間は不確かとなる。
【0004】
加熱システムを用いて有効成分が制御下で蒸発するのを保証することによって揮発性物質の拡散を制御するためのシステムも提案されており、また、芯を備えたシステムであって、芯に含まれる溶液の加熱のみを行って蒸発を行うシステム(特に欧州特許第1579762号明細書及び同第2481308号明細書参照)、又は繊維製品に含まれている溶液の加熱のみを行うシステム(仏国特許発明第2722368号明細書)も提案されている。
【0005】
また、気化すべき液体物質のタンクを加熱することも提案されている。しかし、このときに加熱を利用して一定の組成で拡散するにあたり、一般に問題が生じることが分かっている(米国特許出願公開第2007/0257016号明細書)。したがって、蒸発を制御するために加熱を行うのみである上記のシステムは全て、物質の蒸発に関連する他の変数(特に、界面における空気の流れ、物質の物理化学的特性、及び、物質と周囲の表面との相互作用が含まれる)が既知でないと、特定の時点における物質の蒸気の流れを正確に特定することはできないし、また、この流量が分布される期間を特定することもできない。
【0006】
また、処理対象の空間内の複数のポイントにおいて物質を拡散させることは、複数の器具を使用し、これらの器具をそれぞれ、使用される各拡散ポイントに配置しないと行うことができず、このような複数ポイントでの拡散は、システム外部の各場所に固有の変数の差によっては、処理対象の複数の領域で行われる分散の均等性を保証しない。それゆえ、従来公知のシステムのコストは、分散される物質の消費に悪影響を受けるだけでなく、許容範囲の効率を達成するために処理対象の面積のヘクタールあたり多数の器具を設置しなければならないという義務によっても悪影響を受けることが多く、かかる器具の設置コストは高く、その上、動作事故によって局在的な環境汚染が生じるのを防止するためにこれらの器具を監視することも、多額のコストを要する。
【発明の概要】
【0007】
よって本発明の課題は、上記の欠点のいずれかを有しない器具を提供することである。
【0008】
本発明の特定の側面は、長期間の自律性を保証するためにエネルギー消費量が少ない分散装置を提案するコンセプトを出発点とする。
【0009】
本発明の特定の側面は、ディフューザユニットの温度制御だけで分布される物質の流れを制御する分散装置を提案するコンセプトを出発点とする。
【0010】
本発明の特定の側面は、高い値の物質を、物質の損失なく高レベルの精度で分布させるために特に適した分散装置を提案するコンセプトを出発点とする。
【0011】
この目的を達成するため、本発明は、常温で液体状態であり貯蔵容器に入っている物質を蒸気状態で空気中に分散するための器具を提供するものであり、当該器具は、
-屋外に開通するダクトを備えた通気システムであって、ダクト内に空気の流れを通せるように構成された通気システムと、
-貯蔵容器から液体物質の供給を受けるように構成された少なくとも1つのディスペンスユニットであって、ダクトの出口を形成することにより当該ダクトに物質の蒸発領域を構成するマイクロダクトを備えているディスペンスユニットと、
-ディスペンスユニットの表面又は内部に設けられ、ディスペンスユニットを通る物質の流れを制御する加熱ユニットと、
を備えている。
【0012】
例えば、物質が常温で液体状態であるフェロモンを含んでいる場合等、高コストの物質では、その廃棄分が出るのを回避する必要がある。よってこの場合には、液滴を形成することなく流れを生じさせるために十分に少量で、なおかつ、通気システムによって空気の流れが送られても蒸発領域を永続的に濡れた状態に維持するために十分に多い量で、液体を導入することが望ましい。この物理現象は、低温条件ではジュリンの法則(Jurin’s law)によって支配され、高温条件ではダルシーの法則によって支配される。
【0013】
ダルシーの法則は次の式により表される:Q=KA(ΔH)/L。ここで、Qは体積流量、Kは透水係数、Aは考察対象の断面の面積であり、ΔHは試料の上流と下流との水頭の差であり、Lは試料の長さである。透水係数は数式K=kρg/μによって算出され、ここでkは多孔質媒質固有の透水性、ρは流体の密度、gは重力加速度、μは流体の粘度である。
【0014】
ジュリンの法則は数式h=(2γcos(θ))/rρgにより表され、ここでhは液体の高さであり、γは液体の表面張力であり、θは液体とマイクロダクトの壁との接触角度であり、ρは液体の密度であり、rはマイクロダクトの径であり、gは重力定数である。
【0015】
ここでの目的は、低温時にはKが低くなって流れが生じない、すなわちいわゆる「キャピラリ」現象が生じると共に、高温時には流れが表面上に広がって液体を表面に付着させるのに十分となる状態にすることである。表面に付着する液体の層はΔHを変え、流れが一定となる。というのもKが最大値に達するからである。
【0016】
したがって、2つの最も重要なパラメータは、流体の粘度と、温度である。
【0017】
一実施形態では、cosθは正、すなわち、物質は例えばセラミック製等のディスペンスユニットに対して濡れ作用を有し、液体の密度は0.6~1g/cm3であり、かつ、マイクロダクトの半径は5nm~1μmである。
【0018】
かかる構成により、低温条件では、蒸発できる液体の表面積は非常に小さくなり、すなわちマイクロダクトの総数、液体は留められて低温である(よって、液体の揮発性に対する依存性)。フェロモンの場合、低温条件での蒸発はゼロとなる。
【0019】
加熱ユニットにより熱が供給されることにより物質の動粘度が低下することによって、流体はダルシーの法則に従ってディスペンスユニット内を循環できるようになり、これによりディスペンスユニットの表面上に広がることができる。熱が追加されないとこの循環は止まる。というのも、ディスペンスユニット内での付着の総和はジュリンの法則に従うからである。換言すると、高温条件ではディスペンスユニット内を通流することができるが、常温では、流体とディスペンスユニットの表面との付着力によって流れが止まる。
【0020】
流れが存在する間は、液滴を形成して剥がれるために必要なエネルギーが、溶液をディスペンスユニット内及び貯蔵容器内に保持する力より大きくなる。これは2つの条件に拠るものである。
1.物質の動粘度は、加熱ユニットを用いて達成できる温度範囲内では弱すぎてはならない。
2.タンクの出口に存在する液体は大気圧と平衡状態でなければならない。これは種々の手法で実現することができる。例えば、貯蔵容器内の液体が存在しない部分は低圧となる。
【0021】
代替的に、容器の液体が存在しない部分の圧力を制御するためのシステムが、この平衡状態を保証する。
【0022】
本特許出願において「マイクロダクト」との用語は、真っ直ぐな断面の面積が10-4~106μm2であるダクトをいう。
【0023】
一実施形態では、ディスペンスユニットは細孔を有する多孔質体を備えており、細孔はディスペンスユニットのマイクロダクトの少なくとも一部を構成する。
【0024】
一実施形態では、細孔は0.01~10μmの径を有する。
【0025】
一実施形態では、多孔質体は円柱形状である。
【0026】
一実施形態では、物質の供給は孔の中で受ける。
【0027】
一実施形態では、孔は止まり孔であり、多孔質体の軸に対して平行に設けられる。
【0028】
一実施形態では、多孔質体は突出片を有し、突出片は多孔質体の上部分に設けられており、長手軸に沿って延在し、物質を受けるように構成されている。
【0029】
一実施形態では、ディスペンスユニットは、多孔質体の周りに設けられた周囲メンブレンを備えており、周囲メンブレンは、マイクロダクトを形成する孔が開けられている。
【0030】
一実施形態では、多孔質体の内側部分の気孔率は、多孔質体における当該内側部分の周囲の外側部分の気孔率より低い。かかる構成により、多孔質体内部の流量は低い気孔率によって規制できると共に、高い気孔率の表面により空気との交換を増大することができる。
【0031】
一実施形態では、多孔質体は芯を備えており、芯は木材、繊維製品、セラミック又はポリマーから成る。
【0032】
一実施形態では、加熱ユニットは多孔質体の表面に直接配置されている。
【0033】
一実施形態では、多孔質体は、加熱ユニットの少なくとも一部を収容する少なくとも1つの孔を有する。
【0034】
一実施形態では、ディスペンスユニットは中空の針を備えており、針は貯蔵容器のキャップに孔を開け、及び/又は、貯蔵容器のシャッタとして機能するメンブレンを変位させて、貯蔵容器に入っている物質を蒸発面に移動させるように構成されている。
【0035】
一実施形態では、針は多孔質体の端部のうち1つに配置されている。このような針は、貯蔵容器の入口に収容された穿孔可能な「自己修復」ストッパと共に、すなわち、針により開けられた穿孔を弾性により塞いで針を引っ込めた後に流れが生じないようにする弾性材料の塊と共に、使用することもできる。
【0036】
一実施形態では、貯蔵容器から蒸発領域のマイクロダクトの出口までの経路のうち、当該経路の長さの一部のみがマイクロダクトを構成する。
【0037】
一実施形態では、マイクロダクトの断面積は10-4μm2~106μm2、好適には0.1μm2~103μm2である。
【0038】
一実施形態では、蒸発領域の真っ直ぐな外法断面積に対する通気システムのダクトの内法断面積の比率は、1.2~625である。
【0039】
一実施形態では、器具はさらに固定ユニットを備えており、通気システムのダクトに対する固定ユニットの相対的な方向及び/又は傾きを定めることにより、固定ユニットが支持部に固定されるときにグラウンドに対する通気システムのダクトの相対的な向きを定めることができる。
【0040】
一実施形態では、通気システムは少なくとも1つのファンを備えており、ファンはダクトの一部に配置される。
【0041】
一実施形態では、通気システムは少なくとも1つのファンを備えており、ファンは、ダクトにおける屋外への放出口とは反対側の部分に配置されている。
【0042】
一実施形態では通気システムは、ダクトの端壁に設けられた開口と、当該開口の通過断面を制御できるようにするために当該開口に設けられた調整可能なシャッタと、を備えている。
【0043】
一実施形態では、器具はダクト内の空気の流れに対するレギュレータユニットを備えており、レギュレータユニットはダクト内の空気の流れを制御するためにファン及び/又はシャッタを制御するように構成されている。
【0044】
一実施形態では、本発明の装置の通気システムの空気の流れはレギュレータユニットに関連付けられ、レギュレータユニットは蒸発領域における空気の流れの乱流を制御することができ、レギュレータユニットは、空気の流れの温度及び/若しくは多孔質体の温度を検出する少なくとも1つの温度センサによって、又は、空気の流れの速度を検出する少なくとも1つの速度センサによって制御されることができる。
【0045】
一実施形態ではレギュレータユニットは、通気システム内の空気の流れを生じさせるファンの回転速度に対して働く信号、及び/又は、調整可能なシャッタに働く信号を発するように構成されている。
【0046】
一実施形態では、通気システムの空気の流れは0.2~60m3/hである。
【0047】
一実施形態では、ダクトに、空気の流れの速度及び温度を検出するためのセンサが備え付けられている。
【0048】
一実施形態では、配管部に、空気の流れの速度及び温度を検出するためのセンサが備え付けられており、空気の流れの温度及び/又は多孔質体の温度を検出する少なくとも1つの温度センサのおかげで、物質Sが分散される空気の乱流の制御が保証される。
【0049】
一実施形態では、物質が分散される空気の乱流の制御は、ディスペンスユニットの温度及び/又は空気の流れの温度を測定する少なくとも1つの温度センサのおかげで保証される。
【0050】
一実施形態では、器具は、ディスペンスユニットにおける設定温度に従って加熱ユニットを制御するように構成された制御装置も備えている。
【0051】
一実施形態では、加熱ユニットは少なくとも1つの電子基板と、当該電子基板から給電を受ける少なくとも1つの電気抵抗器と、を備えている。電気抵抗器は電子基板上に配置することができ、又は電子基板からずれた場所に配置することができる。
【0052】
一実施形態では、制御装置は電子基板上に設けられている。
【0053】
一実施形態では、ディスペンスユニットは温度センサを、例えば自由端等に備えている。
【0054】
一実施形態では、設定温度は物質に応じて設定される。
【0055】
一実施形態では制御装置は、容器に入っている物質を示すマーキングであって当該貯蔵容器に設けられたマーキングを検出するように構成された検出器に接続されており、制御装置は当該マーキングに従って、設定温度と、空気の流れと、停止/作動サイクルを定めた時期的表示と、のうち器具の少なくとも1つの動作パラメータを決定する。この種の時期的表示には例えば、サイクル開始日時、サイクル終了日時、サイクル持続時間、サイクル間時間等が含まれる。
【0056】
一実施形態では制御装置は、物質と設定温度とを関連付ける値のテーブルを記憶するメモリを備えている。
【0057】
一実施形態では、器具はさらに、上記の値のテーブルを修正するためにデータサーバとの有線又は無線通信を保証するための通信モジュールを備えている。
【0058】
一実施形態では本発明は、常温で液体状態である物質を蒸気状態で空気中に分散させるための装置も提供し、当該装置は、
-上述の器具と、
-物質を収容しディスペンスユニットに接続されている少なくとも1つの貯蔵容器と、
を備えている。
【0059】
一実施形態では、物質は、温度に応じて可変である粘度であって、第1の温度より低い常温では物質がディスペンスユニットのマイクロダクト内を流れることができない粘度を有し、加熱ユニットは、物質がキャピラリ性質によってディスペンスユニットのマイクロダクト内を流れるようにディスペンスユニットを第1の温度より高い第2の温度に加熱するよう構成されている。
【0060】
一実施形態では、物質は第2の温度で、液体状態でディスペンスユニットの表面であって通気システム内にある表面上に広がる。
【0061】
一実施形態では、加熱ユニットは物質を気化させることなく物質の粘度を変化させることにより、ディスペンスユニット内の物質の流れを制御するように構成されている。
【0062】
一実施形態では第2の温度は、液滴が形成されてディスペンスユニットから剥がれるのを防止するために十分に低い流量であり、なおかつ、通気システムによって送られる空気の流れにもかかわらず蒸発領域が永続的に濡れた状態に留まるために十分に高い流量で、物質が流れるように選択されている。
【0063】
一実施形態では、貯蔵容器は放出口を備えており、放出口はディスペンスユニットに接続されており、放出口の向きは、装置が使用ポジションになっているときは下向きとなる。
【0064】
装置が使用されていないとき、すなわち容器がディスペンスユニットに接続される前、又は容器がディスペンスユニットから接続解除された後は、上記のような貯蔵容器にストッパを付けることができ、このストッパは放出口に配置される。
【0065】
一実施形態では、貯蔵容器は放出口以外の開口を有しておらず、貯蔵容器は、当該貯蔵容器の容積の少なくとも20%を占める気相と、液体物質とを収容する。
【0066】
一実施形態では、貯蔵容器は外部タンクと、当該外部タンクに収容される内部タンクとを備えており、内部タンクは放出口を介してディスペンスユニットに接続されており、内部タンクは、放出口とは反対側の端部に、大気と繋がる通気口を備えており、放出口の付近に、外部タンクと内部タンクとを連通させるための開口が設けられており、外部タンクは、上記連通口以外の開口を有しない。
【0067】
一実施形態では、貯蔵容器は器具に取外し可能に嵌められ、貯蔵容器は、物質の損失なく器具から取り外せるように構成されている。
【0068】
一実施形態では、貯蔵容器はねじ留め又はスナップ留めにより器具に嵌められる。
【0069】
一実施形態では、ディスペンスユニットは、貯蔵容器の方を向いた第1の面を有し、ディスペンスユニットには、当該ディスペンスユニットと貯蔵容器との密閉接続を保証するシール部が設けられており、ディスペンスユニットはさらに第2の面を有し、第2の面は通気システム内に設けられる。
【0070】
一実施形態では貯蔵容器は、当該貯蔵容器とディスペンスユニットとの密閉接続を保証するように放出口の周りに設けられるシール部を備えている。
【0071】
一実施形態では、貯蔵容器はアルベオラー(alveolar)保持ユニットを備えており、アルベオラー保持ユニットは、物質の流れを制限するために放出口と隣接するように容器内に設けられる。
【0072】
一実施形態では、加熱ユニットと貯蔵容器とはディスペンスユニットの両側に配置される。
【0073】
一実施形態ではアルベオラー保持ユニットは、ウールフェルト等のフェルトとメラミン発泡材とから選択された材料を含む。
【0074】
一実施形態では、貯蔵容器と、これに対応するディスペンスユニットとの接続は、容器の出口にストップソレノイドバルブを備えた配管部を用いて保証される。
【0075】
一実施形態では、物質を入れるための貯蔵容器とディスペンスユニットとの間に、分布制御手段が挿入される。
【0076】
一実施形態では分布制御手段は、調整可能な開口を有するバルブである。
【0077】
一実施形態では前記バルブは、開弁位置又は閉弁位置である2つの調整位置のみを有する。
【0078】
一実施形態では前記流れ制御手段は、給電を受けるポンプである。
【0079】
一実施形態では、物質は大気圧で30℃~400℃の沸点を有する。
【0080】
一実施形態では、物質の粘度は25℃で1cPa・s超、例えば25℃で8cPa・s超等であり、かつ、60℃で1cPa・s未満である。
【0081】
一実施形態では物質は、ヒト又は動物に使用可能な芳香品、情報化学物質、化粧品、精油、香水、植物防除用剤及び農業用剤により構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む溶液である。
【0082】
一実施形態では、動物に使用可能な芳香品は、脂肪酸又はエステル化形態の前記脂肪酸、例えばオレイン酸メチル、パルミチン酸メチル、アゼライン酸ジメチル、及びピメリン酸ジメチル等、の中から選択されたものである。
【0083】
一実施形態では、物質は自然由来若しくは合成由来の少なくとも1つの情報化学物質、少なくとも1つのフェロモン、アロモン又はカイロモンを含む溶液である。
【0084】
一実施形態では、物質は少なくとも1つの性的若しくは非性的なフェロモン、アロモン、シノモン又はカイロモンを含む溶液であり、対象種についてポジティブ反応又はネガティブ反応を引き起こすように構成されており、その結果の振舞いは、クモ綱又は六脚類を含む節足動物における性的混乱、他の種類の混乱、性的誘引、他の種類の誘引、あらゆる種類の忌避反応(repulsion)とすることができ、ここで六脚類は特に昆虫を含み、特に害虫を含む。
【0085】
一実施形態では、物質は、対象種についてポジティブ反応又はネガティブ反応を引き起こすように構成された少なくとも1つのフェロモン若しくは性的フェロモン、アロモン、シノモン又はカイロモンを含む溶液であり、その結果の振舞いは特に、哺乳類及び鳥類における鎮静作用、リラックス作用、気分高揚、又は威嚇作用とすることができる。
【0086】
一実施形態では物質は、ミリスチン酸イソプロピル、ジプロピレングリコール、モノメチルジプロピレングリコールエーテル、又はイソパラフィン系炭化水素、例えばイソパラフィンL又はP又はN又はV等から選択された溶媒を含む。
【0087】
一実施形態では、装置は複数の貯蔵容器を備えており、当該複数の貯蔵容器はそれぞれ同一の物質を液体状態で含み、又は、互いに混和性である液体状態の複数の物質を含む。
【0088】
一実施形態では、複数の貯蔵容器の集合体の全部又は一部が外側で、通気システムのダクトによって支持されている。
【0089】
一実施形態では、複数の貯蔵容器の集合体の全部又は一部は外側で、通気システムのダクト又はその延長配管部によって支持することができる。
【0090】
一実施形態では、各貯蔵容器はそれぞれディスペンスユニットの多孔質体に関連付けられており、これらの多孔質体の集合体は、通気システムのダクトの内部に配置されており、各多孔質体がダクトの長手方向にずれるように配置されている。
【0091】
一実施形態では、多孔質体の集合体は通気システムのダクト又は配管部の内部に配置されており、空気の流れの通過を阻害する障害物を防ぐため、各多孔質体を適切にずらすように配置することができる。
【0092】
本発明はまた、上記の器具又は装置を使用するための方法も提供し、当該方法では、通気システムのダクトの軸の方向及び/又は傾きが、処理対象の領域に到達する向きにされる。
【0093】
本発明をより良好に理解するため、以下にて、添付の図面に示されている実施形態のあくまで非限定的な図解を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1】本発明の第1の実施形態の装置の切り取った一部の斜視図である。
【
図2】複数の液体をパルス状空気の同一の流れ中に分散できる一変形形態の装置を、
図1と同様の斜視図で示す図ある。
【
図4】
図5中に配されている断面 II-II に沿った
図3の装置の断面図である。
【
図5】
図4中の線 III-III に沿って配されている水平面に沿った断面図である。
【
図6】穿孔ユニットと多孔質体とを一体化したアセンブリの簡単な説明図である。
【
図7】
図4の装置における物質の流れを示す図である。
【
図8】
図4の装置における空気の流れを示す図である。
【
図9】他の一実施形態の加熱ユニットを備えた多孔質体を示す図である。
【
図10】第3の実施形態の装置の外観斜視図である。
【
図12】貯蔵容器と、シール部により形成された密閉領域と、を示す図である。
【
図13】貯蔵容器と、スポンジにより形成された密閉領域と、を示す図である。
【
図14】完全に閉じられた一実施形態の貯蔵容器を示す図である。
【
図15】二重タンクを備えた一実施形態の貯蔵容器を示す図である。
【
図16】ディスペンスユニットの針によって貯蔵容器のバルブを開ける前の装置への貯蔵容器の挿入を示す細部拡大図である。
【
図17】バルブを開けた後の貯蔵容器の挿入を示す、
図16と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
以下説明する実施形態では、以下の組成のフェロモン溶液により構成された物質を空気の流れ中に拡散させることを想定する:
-商品名コドレモン(Codlemone)で知られる、コドリンガ(チョウ目ハマキガ科)関連のフェロモン物質である(8E,10E)-ドデカ-8,10-ジエン-1-オール87重量%、及び
-ドデカン-1-オール13重量%。
この溶液は、商品名RAK3(登録商標)で知られている。
【0096】
コドレモンの溶液の大気圧での入口沸点は約270℃であり、常温すなわち25℃での粘度は約8cPa・sであり、60℃での粘度は約1cPa・sである。
【0097】
上記の溶液では、コドレモンを、商品名RAK2(登録商標)を有する化学式(7E,9Z)-ドデカ-7,9-ジエニルアセテートのフェロモンと置き換えることができる。その沸点は約300℃であり、当該溶液の粘度はコドレモン溶液の粘度付近に留まる。RAK2(登録商標)フェロモンは無添加(100重量%)で用いることもできる。
【0098】
代替的に、物質は菜種油により構成することもできる。その粘度は20℃で7.78cPa・sであり、50℃で2.57cPa・sであり、沸点は約150℃である。
【0099】
図1に示されている第1の実施形態では、装置は、電動ファン1を備えた通気システムにより構成されており、その出口は円筒形のダクト2の軸上に配置されており、電動ファン1によりパルス状に吹き出された空気の流れはグリッド3を通過する。このグリッドを構成する部材は、ダクト2内部の空気の流れに作用する性質を有するものとすることができる。ダクト2の延長上には、ダクト2と同一径を有する配管部4が、当該ダクト2と接続されて配置されている。配管部4におけるダクト2との接続領域と反対側は、屋外に開通する。
【0100】
配管部4は外側で、物質を受けるように構成された貯蔵容器5を支持し、電動ファン1によってパルス状に吹き出された空気の流れ中へのこの物質の拡散が保証される。貯蔵容器5はその壁に出口を備えており、この出口は配管部4に支持されると共に、約800μmの内径を有するパイプ6に供給を行う。パイプは約3cmの長さを有し、パイプ6の入口にはソレノイドバルブ7が備え付けられており、ソレノイドバルブ7によって、特に緊急時にはシステムを停止することができる。パイプ6は貯蔵容器5と、セラミック製である円柱形の多孔質体8とを接続する。この多孔質体8は軸方向の円柱形の止まり孔9を有し、止まり孔9の内部にはパイプ6の端部が密閉係合している。多孔質体8におけるパイプ6が導入されない端面には、多孔質体8の温度を測定して送信できるタブレット温度計10が配置されている。円柱8は、タブレット温度計10が配置された面とは反対側の面で加熱ユニット11を支持する。多孔質体8はアルミナ製であり、100nm径の細孔を有し、40%の均等な気孔率を有する。
【0101】
貯蔵容器5の表面上には、電子マーキング12が配置されている。この電子マーキング12は、容器5に入っているコドレモンの溶液を識別できるようにするものである。この電子マーキングは、RFID(radio frequency identification)チップの名称でも知られている無線識別チップを備えたラベルの形態となっている。容器5の高位部には、液体に対して密閉される開口が設けられており、これにより、当該液体を大気圧で容器の内部に保持することができる。多孔質体8は拡散対象の物質に応じて、本事例ではコドレモンに対応するように選択される。多孔質体8とパイプ6とは単一部品として、及び/又は互いに一体化して構成することができる。
【0102】
物質固有の特性に関する情報、多孔質体8について選択された特性に関する情報、及び/又は、多孔質体8の温度に関する情報は、電子コントローラ(不図示)へ送信される情報であり、電子コントローラは、空気の流れと所要値との比、すなわち電動ファンを用いない場合の空気の流れと、ファンにより生成された空気の流れとの比や、装置により生成された気体流中のフェロモン溶液の蒸発流を測定する(quantifiant)多孔質体8の温度を、ここで記載した制御方法の変形態様のうちいずれか1つに従って調整するために有利な幾つかの調整を自動的に行う。
【0103】
物質は、物質の表面張力により壁が当該物質で濡れているマイクロダクト内に当該物質が変位することによって生成されるキャピラリポンピング力により、パイプ6に引き込まれる。使用される材料は、上記の混合物を長期にわたって劣化させないために十分に中性であり、なおかつ、表面張力を変化させないために十分に中性であることが明らかである。キャピラリ力は、キャピラリ引込みを生じさせるために十分に狭福の流路又は細孔により構成される表面の性質によって生成され、液体がパイプ6及び多孔質体8の材料を濡らす。これにより液体は多孔質体の細孔の端部を覆い(affleure)、その集合体が、多孔質体8の周囲の蒸発面となる。
【0104】
キャピラリ引込保持の力は、蒸発面の細孔の端部を液体が覆えるようにするものでなければならず、なおかつ液体は、重力場(潜在的に存在する液柱の地球引力静圧)又は溶液と芯の表面の他の部分との相互作用により生じる静的引力により生じる力によって、蒸発面上に無制御で広がることがないように、端部を覆わなければならない。このキャピラリ引込みは、この最後の体積ブロック(細孔の端部における液体の区間/円柱)の更新によってのみ存在する。この体積は蒸発によって更新され、各溶液に固有の値に従って、気液界面における液体及び気体の分子の濃度の平衡状態により支配されるものであり、主に(大気圧における)温度すなわち飽和蒸気の圧力に依存する。蒸発させようとする溶液の温度が上昇すると飽和蒸気の圧力が上昇し、この圧力上昇により、界面における液体及び気体の分子の濃度の平衡状態が気体分子の方にシフトし、もう一度平衡状態に達するまで蒸発が行われる。気相が移動性である限り上述の平衡状態に達することはなく、液相を使い切るまで蒸発は継続する。気相の移動性が高いほど(そして、気相の分子の放出を迅速に行う傾向が強いほど)、蒸発の速度は速い。
【0105】
上記のようなシステムでは、蒸発の速度は、通気が0m/sから24m/sに変化するに伴って1~10倍増加することが判明しており、その上、液体が20℃から70℃に変化すると、蒸発の速度は20~100倍増加する。
【0106】
ここで記載されているシステムのパラメータは、ファン1に働きかけること(空気の流れに働きかけること)により、及び/又は、蒸発面に配置された加熱ユニットに、本事例では電気ヒータ11に働きかけることにより、調整することができる。電気ヒータ11は抵抗器としても知られているものである。温度計10を用いて行うことができる測定により、蒸発面が所要温度に達するように電気ヒータの作動の強度又は時間を調整することができる。配管部4の自由端には、物質の分散を行う表面を調整するために、吹き出された空気の流れを攪拌するための攪拌器又は対流器を設けることもできる。
【0107】
図2は上記装置の一変形形態を示しており、本変形形態では、装置は3つの別個の貯蔵容器5a,5b,5cを備えており、これらの貯蔵容器5a,5b,5cはそれぞれ、多孔質体8a,8b,8cにより構成されたディスペンスユニットに関連付けられており、多孔質体8a,8b,8cは合わさって、上記にて
図1の実施形態について説明した多孔質体8と同様のものとなる。各多孔質体には電気ヒータ11a,11b,11cが関連付けられており、これらの電気ヒータは各多孔質体の外表面に配置されている。多孔質体8a,8b,8cは空気の吹き出し経路において互いにずれており、この空気の吹き出し経路は、多孔質体の数を増加したことによって空気の通り道を阻害する障害物となるのを回避するように、配管部4によって画定されたものである。
図2では、多孔質体8a,8b,8cは直列に配置されているが、不図示の一変形形態では、多孔質体を並列に配置することもできる。
【0108】
以上により、
図1に示されているような装置を用いるか、又は
図2に示されているような装置を用いるかにかかわらず、装置のユーザは多孔質体8,8a,8b,8cの温度に働きかけたり、多孔質体に関連付けられた抵抗器に働きかけたり、通気速度(ファン1の給電)に働きかけたりすることにより、動作に働きかけることとなる。これらの機能は全てコントローラ(不図示)上で容易にグループ化することができ、これによって、電子マーキング12により拡散対象の液体の区別を可能にして、本発明の装置の動作はその全部を自動化することができる。コントローラは、当該コントローラからユーザへ又はその逆方向に情報を伝送するための接続アンテナを備えることができる。代替的に例えば、ユーザによってスマートフォンを用いて動作を遠隔制御すること等も可能である。
【0109】
図3に示されている第2の実施形態では、装置は、鉛直方向の軸を有する円筒形のハウジングを備えている。このハウジングは全体として符号100により示されており、ハウジングはグラウンドから約1.50mの位置において脚部112により支持されており、ハウジングは、クランプ可能な2つの挟持部112a,112bによって脚部112の上部に機械的に結合されており、挟持部112bはハウジング100と一体化している。
ハウジング100の上部分は円錐台100aの形状を有し、この円錐台100aの上部境界100bは、グラウンドとは反対側にて円形の開口100cを成している。円錐台状の壁100aは、全体として符号105により示されているカバーによって覆われることができ、カバー105はシャフト114を用いて挟持部112bにヒンジ連結(articulated)されており、シャフト114は脚部112の軸に対して垂直である。
【0110】
カバー105が
図3に示されているように開いている場合、これにより開口100cは全開となり、全体として符号106により示されている円筒形の貯蔵容器をハウジング100に入れることが可能となっている。容器106は液体物質を閉じ込めており、この液体物質が、蒸気状態で周辺空気中に拡散される対象である。容器106は、高強度のプラスチック材料から成る上部分106aと、容易に穿孔可能な壁を有する下部分106b、の2つの部分を含んでいる。容器106の上部分には、プリエンプションタブ106dが設けられている。
【0111】
図4を参照すると、カバー105が閉位置にある場合、ハウジング100に対するカバーの相対位置は、当該カバー105と一体となっている閉止要素107によって維持される。閉止要素107は、ハウジング100の適切なスナップ留め部107aと協働する。部分106bの底部を受け部121の底部に当てるため、容器106の部分106aにカバー105の一要素が支持されている。これについては後述する。カバー105が閉位置にある場合、カバー105の下部境界105aは、ハウジング100の高位部となる円錐台100aと整列しているが、境界はカバー105の底部と円錐台100aとの間に自由空間を残す。カバー105の底部には、円形のフラットなカラーの形態のフィルタ108が配置されており、このフィルタ108の軸はカバー105の軸と同一であり、カバー105が閉じられた場合、カラー状フィルタ108の軸はハウジング100の軸となる。カラー状フィルタ108の中央の孔にはファン構成部品109が入れられており、このファン構成部品109は、カバー105の壁に支持されている導体(不図示)による給電を受ける。ファン109によって空気がカバー105と円錐台100aとの間の空間に送られ、この空気はカラー状フィルタ108を通過して、円形の開口100cに達する。ハウジング100はその内部に、当該ハウジング100の上部分の円錐台100aと、当該ハウジング100の下底部となる円錐台状の拡幅部100dとを接続する構造部101を備えている。拡幅部100dの最小断面の部分と開口100cの境界100bの最小断面の部分との間に、円筒形の壁115が設けられており、この円筒形の内側には、高さの実質的に途中にクロスピース121が設けられており、これはその中央部分に容器106を支持するように構成されている。クロスピース121の中央部分は、カバー105の方向に開口する受け部121aを有し、貯蔵容器106の部分106bがこの受け部に入れられている。受け部121aの底部には穿孔ユニット121bが突出するよう設けられており、穿孔ユニット121bは、針133の端部をベベル状にカットしたものにより構成されており、この針は、オペレータによって貯蔵容器106が予定位置121aに位置決めされたときに貯蔵容器106の部分106bの底部を穿孔できるものである。針121bがキャピラリ通路134を、焼結アルミナにより構成された円柱形状の多孔質体8の方向に画定する。多孔質体8は100nm径の細孔を有し、40%の均等な気孔率を有する。針121bはスタータ孔122内に密閉状に入り込んで、接着により保持されており、多孔質体8の長手軸に沿った行き止まりダクト123を設ける。
【0112】
今しがた説明した全体的に符号101によって示されている構造部の中央部の周りには、前記円筒形の壁と同軸にもう1つの円筒形の壁110が設けられており、この円筒形の壁110は貯蔵タンク106の領域を区切り、多孔質体8の周りに延在する。円筒形の壁110は、カラー135となるベースと一体であり、カラー135は2つの円筒形の壁110及び115を互いに接続し、このカラー135に複数の電池120が載せられ、電池120はハウジング100の軸まわりに均等に分布されている。このアセンブリ110,115,135が、
図5にて明確に分かるように胴部を構成する。電池120は、本発明の装置の動作に必要なエネルギーを供給する。
【0113】
これらの電池は制御基板130に接続されており、制御基板130は、挟持部112bにおける電池の胴部を基準として接線方向に配置された部分に収容されている。基板130は、第1にファン109のモータに電気的に接続され、第2に、多孔質体8に挿入された加熱ユニット132に接続されている。加熱ユニット132は、多孔質体8のうち特に、クロスピース121の径方向アームの内側に挿入される面に挿入される。
【0114】
今しがた説明した装置では、貯蔵容器106によって導入されたコドレモン溶液は、カバー105が穿孔要素121bにより容器106bを穿孔すると直ちに、
図7中の矢印により示されているように多孔質体8に分配されてこの中を通る。多孔質体8の蒸発領域は、露出面となっている。
【0115】
図8を参照すると、カバー105の下方に蒸気を確実に通過させるための空気がファン109によって送られ、この空気は貯蔵容器106の周囲を流れてクロスピース121と交差し、多孔質体8の露出面である蒸発領域においてコドレモン溶液の蒸気の供給を受けた後、円錐台形の拡幅部100dを通過することにより外部へ放出される。この空気の流れは、矢印によって示されている。
【0116】
空気の流れ及び加熱体の温度は、制御基板130によって制御される。
【0117】
好適には、物質及び多孔質体8は、当該多孔質体8における温度制御によって流れの制御を可能にする物理的特性を有する。
【0118】
とりわけ好適な一実施形態では、
-常温、すなわち例えば0℃~30℃の温度範囲では、実質的な流れは生じない。
-加熱ユニット132によって達し得る設定温度Tを上回った場合、流れ及び蒸発が生じる。
【0119】
制御基板130は、自己のメモリに記憶された制御プログラムに従って加熱ユニット132を制御する。このプログラムは、例えば分配の開始時期及び終了時期、設定温度、空気の流れ(強制通気が行われる場合)等を定めるものである。
【0120】
図示されていない一実施形態では、第1及び第2の実施形態のソレノイドバルブは、手動バルブと置き換えることができる。また、各実施形態において省略することもできる。
【0121】
多孔質体の一変形形態が
図9に示されている。多孔質体208は円柱形状を有し、その上部に突出片208bが設けられている。この突出片により、カートリッジが装置に嵌められたときに物質を多孔質体の他の部分に導くことができる。多孔質体における突出片を支える面とは反対側の面には2つの孔210が設けられており、これらの孔210はそれぞれ加熱ユニット211を受けるようになっている。加熱ユニット211は電気抵抗器であり、これらの電気抵抗器は電気回路230から電力の供給を受ける。
【0122】
本変形形態でも同様に多孔質体は均等な気孔率を有することができ、又は不均等な気孔率を有することができる。後者の場合、開放気孔率はコア部では25%であり、表面では45%である。このようにして、開放気孔率すなわち多孔質体の体積あたりの細孔の容積がコア部から蒸発面に向かって増大していく多孔質体となる。よって、多孔質体の表面における細孔の出口の全部に対して最大可能な広がりが優先的に生じ、コア部がより高密度になっていることにより、多孔質コア部が機械的に無傷であることが保証される。
【0123】
装置の第3の実施形態が
図10に示されている。装置500は、鉛直方向の軸を有するハウジング503を備えており、ハウジングはグラウンドから約1.50mの位置において脚部512により支持されており、その上部には、装置500にエネルギーを供給するための太陽電池パネル520が固定されている。ハウジング503は、クランプ可能な2つの挟持部512a,512bによって脚部に機械的に取り付けられており、挟持部512bはハウジング503と一体化している。好適には、挟持部512bとハウジング503との間に、ハウジング503の向きを調整できるようにするためのヒンジ継手(不図示)が設けられている。
【0124】
図11を参照すると、ハウジング503は正方形の準線を有する円筒形状となっている。ハウジングの上部境界503bは、グラウンドとは反対側において正方形の角を丸めた形状の上部開口を区切っており、ハウジングの下部境界503aは、グラウンド側において正方形の角を丸めた形状の下部開口を区切っている。上部開口は上部分505bによって密閉するように覆われていると共に、下部開口は下部分505aによって密閉するように覆われている。上部分及び下部分はそれぞれ中央開口507a,507bを有し、これら2つの各中央開口は同一の中心軸を有する。
【0125】
上部分505bはカバー514によって覆うことができ、カバー514は、脚部512の軸に対して垂直なシャフト516を用いてヒンジ連結されている。
【0126】
カバー505が開いている場合、これにより中央開口507bは全開しており、全体として符号550により示されている円筒形の貯蔵容器をハウジング503に入れることが可能となっている。容器507はフェロモン溶液を含んでおり、このフェロモン溶液が、蒸気状態で周辺空気中に確実に拡散される対象となっている。
【0127】
カバー514が
図11に示されているように閉位置にある場合、ハウジング503に対するカバーの相対位置は、当該カバー514と一体となっている閉止要素526によって維持される。閉止要素526は、上部分505bの適切なスナップ留め部528と協働する。針540が容器550のストッパに穿孔するため、及び容器をハウジング内の定位置に保持するため、容器550の部分550aにカバー514の一要素が支持されている。カバー514が閉位置にある場合、その下部境界514aは、ハウジング503の高位部となる上部分507bの側壁と整列している。下部境界514aは、例えば空気をハウジング503内で循環等できるようにするため、開口522を有する。塵埃が開口522から侵入するのを防止するため、開口より後ろにフィルタ524が配置されている。
【0128】
ハウジング503は中空のシリンダ510も備えており、このシリンダ510は、2つの同一の中空シリンダ半部510a,510bにより構成されている。これらの両中空シリンダ半部510a,510bは、互いに組み付けられるときに、上部に針540を備えており加熱ユニットに支持されている多孔質体208を挟み込む。加熱ユニットの電気回路230が図示されている。針は、カラー541から針540のベースに向かって長手方向に延在するクリップ542を用いて多孔質体に固定されている。これらが組み立てられると、両シリンダ半部はそのベースでフィルタ543も挟み込み、また、両シリンダ半部の側壁の連結部において2つのファン(不図示)も挟み込む。シリンダの壁の内側の溝がカラー541を受け、針と多孔質体とにより形成されたアセンブリは当該溝により保持される。フィルタも同様の仕方でシリンダに固定される。最後に、シリンダ510は上部分507b及び下部分507aの各開口と並ぶように上部分507bと下部分507aとの間に保持され、上部分と下部分とがシリンダ510を挟み込む。
【0129】
太陽電池パネルは制御基板530に接続されており、制御基板530は、ハウジング503の壁と中空シリンダ510と上部分及び下部分との間の受け部に収容されている。基板530は、第1にファンに電気的に接続されており、第2に加熱ユニットに電気的に接続されており、加熱ユニットの電気回路230が図示されている。
【0130】
図12を参照すると、貯蔵容器300はその下部分302に開口304を有する。貯蔵容器が使用されていないときに物質が流れるのを防止するため、開口にはストッパが付けられている。このストッパはリング306により構成されており、リング306はOリングシール308と、当該リングに接着されたメンブレン310とを支持する。メンブレンは、密閉されたアルミニウムのシートを含み、このアルミニウムのシートは穿孔可能であるか、又はシャッタの要領で変位可能となっている。
【0131】
貯蔵容器は取外し可能に構成することができる。その理由は特に、かかる構成によって、貯蔵容器をより低いコストで交換しやすくなるからである。不図示の一実施形態では、ストッパは、貯蔵容器が装置から取り外されたときに閉じるように構成されたシャッタも備えている。この場合には、多孔質体に含まれる物質が当該多孔質体の全部に浸透するまで、貯蔵容器を取り外すことが不可能である。
【0132】
針やシャッタを使用する態様に代わる代替的な一態様として、貯蔵容器は、
図13及び
図15に示されているようなスポンジを備えることができる。多孔質体の突出片208bが、保持ユニットを構成する他の多孔質体、本事例ではスポンジ408と接触し、スポンジ408は貯蔵容器に収容され、貯蔵容器の自由端のうち1つを成す。その後、スポンジ408は多孔質体208によって圧縮され、これにより良好な接触が確保される。保持ユニットへの多孔質体208の送りは、接触とキャピラリ引込みとによって行うことができる。ここで貯蔵容器は取外し可能であり、多孔質体208との接触が破られたときに液体が容器から流出することはなく、また低温条件(常温)での動作中と同様、多孔質体208から液体が流出することもない。このスポンジ408は一般に、ウールフェルト製又はメラミン製である。最後に、スポンジは好適には可撓性であり、かつ、多孔質体208によって僅かに圧縮可能である。これにより上記接触が保証される。
【0133】
一般に、貯蔵容器は加圧によって、例えばクリップ等を用いて装置に保持され、又は、貯蔵容器のヘッドをねじ留めすることにより装置に保持される。いかなる場合においても、貯蔵容器と多孔質体との接触部は、シール部の存在の結果として密閉される。
【0134】
多孔質体208への物質の付着が十分となるようにするため、制御対象のパラメータのうち1つは、貯蔵容器の内部の圧力である。実際には、貯蔵容器が屋外に対して開放している場合、物質の付着は、液体にかかる重力を相殺するために十分になることはない。よって、この重力を制御する必要がある。2種類の貯蔵容器を用いることができる。第1種類の貯蔵容器は、端部のうち多孔質体と接触する1つの端部を除いて完全に閉鎖されるタンクである。この種の貯蔵容器が
図14に示されている。貯蔵容器300は1つのタンク303を備えており、このタンク303の上部には密閉閉止部301が設けられている。貯蔵容器の下部分302は、
図12に記載されているストッパを備えている。液滴が多孔質体に向かって流れる毎に、貯蔵容器の高位部305、すなわち液体が存在しない部分又は液体が無くなった部分において低圧が増加する。貯蔵容器300が装置に入れられたときに流れが全体的に生じるためには、タンク内に十分に大きな体積の液体、すなわちタンクの総容積に対して約40%の体積の液体を、残しておく必要がある。それゆえ、低圧は徐々に増加して自由な流れを阻止するが、多孔質体の表面に向かう流れの全部をブロックするために十分になることはない。
【0135】
図15を参照すると、貯蔵容器400は外部タンク402を備えており、この外部タンク402は、内部タンク403と接触する端部を除いて完全に閉じられている。内部タンク403の上端には通気口401が設けられており、この通気口401は、外気と内部タンク内部との間の圧力平衡を可能にするものである。内部タンク403はその下端部で多孔質体と接触する。これにより、液滴が多孔質体に向かって流れる毎に内部タンク403はその通気口401によって平衡状態になり、レベルを低下させる。2つのタンク間で連結部404を介してやりとりする容器により、外部タンク402は内部タンク403への充填を行うが、その後、外部タンク402における液体が存在しない部分又は液体が存在しなくなった部分において低圧が増加する。よって、外部タンク402の低圧により内部タンク403の平衡状態が達成される。しかし、通気口401と、ディスペンスユニットの多孔質体により生じる引込みとにより、内部タンク403はその平衡状態を失うことができる。装置に貯蔵容器400が入れられたときに流れが正常に生じることができるようにするため、外部タンク402には物質が完全に充填されている。
【0136】
上記にて説明した保持ユニットを貯蔵容器400において使用することも可能である。貯蔵容器400では、例えばスポンジ製又はアルベオラー発泡体製の保持ユニットは、下部タンク403の全部又は一部を占有することができる。
【0137】
図16を参照すると、貯蔵容器300に入っている物質を分散させるための器具は、上記にて説明した多孔質体208を備えており、多孔質体208の底部は加熱ユニットと協働する。この加熱ユニットの電気回路230が図示されている。多孔質体の突出片208bの上部に中空の針220が設けられており、突出片208bは針のベース部222に嵌められている。ベース部222は、多孔質体の上表面を覆うまで径方向に延在する。突出片と針との密閉接続を保証するため、当該突出片を完全に包囲するOリングシール214が突出片と針との間に配置される。針の上部分216は、
図12や
図14に記載されている貯蔵容器のストッパをより穿孔しやすくするため、ベベル形状となっている。貯蔵容器300は、下部分302が器具に入れられる。貯蔵容器はねじ留めにより器具に保持される。
【0138】
容器の下部分302のねじ留めを開始すると、針はリング306内に通され、その後側面で、リングにより支持されているOリングシール308と接触し、これにより針とストッパとの接続部が密閉される。その後、ねじ込みを続けるにつれて、針はリングに接着されたメンブレン310に接近していく。
【0139】
ねじ込みの終了時には、
図17に示されているように、針のベベル部がシャッタの要領でメンブレン310を反転変位させる。容器の下部分302は、針のベース部222の径方向延長部の上に配置されたシール部224と接触する。このようにして、物質は針の内部に流入することができる。針は物質を突出片と同程度の距離まで案内する。その後、物質は多孔質体208のマイクロダクトに入って、蒸発面に到達することができる。
【0140】
例えば貯蔵容器が空になったため、又は物質を交換しなければならない等の理由により、貯蔵容器を交換しなければならない場合、容器を回転して取り外す。針がメンブレンに通されなくなった場合、メンブレンは閉じ、これにより物質が流れるのが防止される。
【0141】
一変形態様の貯蔵容器300では、メンブレン310に代えて上記のアルベオラー保持ユニットを使用する。この場合、ディスペンスユニットは針を有しておらず、その代わり、上記のキャピラリ引込みを生じさせるためにアルベオラー保持ユニットと直接接触する多孔質体を備える。
【0142】
<定量的事例>
農業用途では、コドレモンの溶液を媒質中に拡散させる。その周囲温度は典型的には0℃~50℃の間で変動し、好適には10℃~45℃の間で変動する。
【0143】
装置の構成は以下の通りである:
-加熱の作動により、及び/又は、例えば50℃~65℃等の選択された設定温度での加熱の作動により、蒸発した溶液の流量が、例えば1mg/h~100mg/h等の所定の公称流量Dと等しくなる。この公称流量Dは、好適には5mg/h~20mg/hである。
-加熱を作動しない場合、すなわち常温では、蒸発流量はD/10未満となり、好適にはD/50未満となる。
【0144】
公称流量Dの制御のための関連パラメータは動作温度及び溶液の粘度だけでなく、例えばディスペンスユニットの寸法等の構造パラメータ、とりわけディスペンスユニットの蒸発面の面積である。
【0145】
ここで記載した要素の一部、特に制御装置、制御基板又は電子コントローラは、別の形態で製造することができ、単一部品又は分散形態とすることができ、またハードウェア構成要素及び/又はソフトウェア構成要素を用いて製造することができる。使用可能なハードウェア構成要素は、専用のASIC集積回路、FPGAプログラマブルロジックネットワーク又はマイクロプロセッサである。時間基準を提供するため、上記の要素にローカルクロック及び/又はネットワーククロックを組み込むことができる。
【0146】
複数の特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態に決して限定されることはなく、ここで記載されている手段と均等である全ての技術及びその組み合わせは、本発明の範囲に属する限りにおいて、本発明はその全てを包含することが明らかである。
【0147】
動詞「備える」、「含む」又は「有する」及びその活用形を使用している場合、請求項に記載の要素又はステップ以外の他の要素又はステップの存在を除外するものではない。
【0148】
特許請求の範囲では、括弧書きのいかなる符号も請求項の限定と解すべきものではない。