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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】渦電流探傷プローブと渦電流探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20240213BHJP
【FI】
G01N27/90
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021007696
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112065
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(73)【特許権者】
【識別番号】513220562
【氏名又は名称】首都高技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】北園 夏未
(72)【発明者】
【氏名】藤原 貢
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 孝明
(72)【発明者】
【氏名】大森 真実
(72)【発明者】
【氏名】紺野 康二
(72)【発明者】
【氏名】木下 剛
(72)【発明者】
【氏名】新村 祐一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 里奈
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-085894(JP,A)
【文献】特開2013-205024(JP,A)
【文献】特開2010-054352(JP,A)
【文献】特開2010-054415(JP,A)
【文献】特開2001-349875(JP,A)
【文献】特開2006-046909(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159226(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0137462(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隅肉溶接部を有する導電性の試験体のコバ面に密着させて摺動可能な摺動面と、前記摺動面の溶接部側の端面と交叉する摺動前面と、を有するコイルホルダーと、
前記コイルホルダーに内蔵され前記試験体内に前記コバ面から前記隅肉溶接部に向かう方向の誘導磁束を発生させる励磁コイルと、
前記コイルホルダーに内蔵され前記試験体の外部に漏洩する漏洩磁束によるインピーダンス変化を検出する検出コイルと、を有し、
前記検出コイルは、前記隅肉溶接部の形状変化の影響を低減するように、前記励磁コイルよりも前記隅肉溶接部から離れて位置し、
前記励磁コイルは、前記コバ面と平行かつ前記摺動前面と交叉する第1コイル軸を有し、該励磁コイルの溶接部側端面は、前記摺動前面に近接しており、
前記検出コイルは、前記第1コイル軸と平行な第2コイル軸を有し、該検出コイルの溶接部側端面は、前記励磁コイルの溶接部側端面より前記隅肉溶接部から離れる方向にオフセットしている、渦電流探傷プローブ。
【請求項2】
前記第1コイル軸と前記第2コイル軸の軸間距離は、前記励磁コイルによる磁束を前記検出コイルで直接検出可能な距離である、請求項に記載の渦電流探傷プローブ。
【請求項3】
前記励磁コイルと前記検出コイルの溶接部側端面のオフセット量は、前記軸間距離の20%以上、50%未満である、請求項に記載の渦電流探傷プローブ。
【請求項4】
請求項1の渦電流探傷プローブを用いた渦電流探傷方法であって、
前記試験体の溶接部側に前記摺動前面を向け、かつ前記摺動面を前記コバ面に密着させて位置決めし、
前記励磁コイルに高周波電流を印加して前記試験体内に前記隅肉溶接部に向かう方向の前記誘導磁束を発生させ、
前記隅肉溶接部を除く前記コバ面に前記摺動面を摺動させて前記摺動前面と前記隅肉溶接部との距離を変化させ、
前記検出コイルにより前記試験体の外部に漏洩する漏洩磁束によるインピーダンス変化を検出する、渦電流探傷方法。
【請求項5】
前記検出コイルの前記インピーダンス変化によるリサージュ波形を健全な前記コバ面のリサージュ波形と比較する、請求項に記載の渦電流探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼構造物のコバ部などに発生するき裂を検出するための渦電流探傷プローブと渦電流探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「渦電流探傷検査」は、鉄鋼、非鉄金属、黒鉛などの導電性のある材料に適用でき、材料に誘起される渦電流がクラック(き裂)によって変化する性質を利用してクラックを探し出す検査である。また「渦電流探傷装置」は、材料の上にコイルを置き、このコイルに交流電源を流して、渦電流探傷検査を実施する装置である。渦電流探傷装置は、材料表面に渦電流を誘起するという原理上、非導電性の検査には適用できないことが知られている。
【0003】
渦電流探傷装置は、コイルに交流電流を供給する発振器とコイルのインピーダンスを測定するためのブリッジ、交流増幅器、位相検波器、位相推移器などで構成される。
このうち、ブリッジ、交流増幅器、位相検波器、位相推移器などは通常単一の渦電流探傷器として構成され、渦電流探傷器にケーブルを介して接続された渦電流探傷プローブにコイルが内蔵される。
【0004】
渦電流探傷プローブは、例えば、特許文献1,2に開示されている。
【0005】
特許文献1の「渦流探傷用プローブ」は、検査面に略平行に延びる磁芯と、この磁芯の一端から略中央まで巻装された第1コイルと、この磁芯の略中央から他端まで巻装された第2コイルとを備えたものである。
【0006】
特許文献2の「渦電流探傷用プローブ」は、矩形状の励磁コイルと円形のプレーナ型検出コイルからなり、励磁コイルには、検出コイルの両側に磁性体が固定されている。プローブは、検査体の検査面に対して、励磁コイルのコイル軸が平行になるように(コイル面が垂直になるように)設置するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-349875号公報
【文献】特開2006-220630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既設の鉄鋼構造物(例えば、橋梁、高速道路、など)の溶接部の止端部等の形状急変部に、長期使用による疲労き裂が発生することがある。そのため、既設の鉄鋼構造物の溶接部などは、その健全性を維持するために適宜(定期的に又は不定期に)、き裂の有無を検査し、き裂箇所は早期に修復する必要がある。
【0009】
「コバ部」とは、例えば、母材に補強材を垂直に当接させ、補強材の当接部の周囲を母材に隅肉溶接した場合の隅肉溶接部から補強材の端面(コバ面)を含む部分を意味する。
鋼桁のコバ部は隅肉溶接部のビード形状(凹凸)により複雑な形状を有する。そのため、従来の渦電流探傷試験では、コバ部の形状変化による疑似信号が大きく現れ、きずの有無の識別が困難であった。これは、隅肉溶接部のビード形状(凹凸)や部材の端部で渦電流が乱れるためである。
【0010】
また、従来のプローブでは、スカラップ部分にプローブが入らず探傷試験が実施できなかった。
【0011】
特許文献1,2では、検査面の欠陥の真上にプローブを位置決めする必要がある。そのため、コバ部の隅肉溶接部の近傍に欠陥がある場合、隅肉溶接部の形状変化による疑似信号が大きく現れ、きずの有無の識別が困難であった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、コバ部の隅肉溶接部の近傍に欠陥がある場合でも、隅肉溶接部のビード形状(凹凸)の影響を低減又は回避して隅肉溶接部近傍のきずを検出することができる渦電流探傷プローブと渦電流探傷方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、スカラップ部分の探傷試験にも適用可能な渦電流探傷プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、隅肉溶接部を有する導電性の試験体のコバ面に密着させて摺動可能な摺動面と、前記摺動面の溶接部側の端面と交叉する摺動前面と、を有するコイルホルダーと、
前記コイルホルダーに内蔵され前記試験体内に前記コバ面から前記隅肉溶接部に向かう方向の誘導磁束を発生させる励磁コイルと、
前記コイルホルダーに内蔵され前記試験体の外部に漏洩する漏洩磁束によるインピーダンス変化を検出する検出コイルと、を有し、
前記検出コイルは、前記隅肉溶接部の形状変化の影響を低減するように、前記励磁コイルよりも前記隅肉溶接部から離れて位置し、
前記励磁コイルは、前記コバ面と平行かつ前記摺動前面と交叉する第1コイル軸を有し、該励磁コイルの溶接部側端面は、前記摺動前面に近接しており、
前記検出コイルは、前記第1コイル軸と平行な第2コイル軸を有し、該検出コイルの溶接部側端面は、前記励磁コイルの溶接部側端面より前記隅肉溶接部から離れる方向にオフセットしている、渦電流探傷プローブが提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記の渦電流探傷プローブを用いた渦電流探傷方法であって、
前記試験体の溶接部側に前記摺動前面を向け、かつ前記摺動面を前記コバ面に密着させて位置決めし、
前記励磁コイルに高周波電流を印加して前記試験体内に前記隅肉溶接部に向かう方向の前記誘導磁束を発生させ、
前記隅肉溶接部を除く前記コバ面に前記摺動面を摺動させて前記摺動前面と前記隅肉溶接部との距離を変化させ、
前記検出コイルにより前記試験体の外部に漏洩する漏洩磁束によるインピーダンス変化を検出する、渦電流探傷方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コイルホルダーがコバ面を摺動可能な摺動面と溶接部側の摺動前面を有するので、溶接部側に摺動前面を向けかつ摺動面を隅肉溶接部を除くコバ面に密着させて位置決めすることができる。
この状態で、励磁コイルに高周波電流を印加して試験体内に隅肉溶接部に向かう方向の誘導磁束を発生させ、かつ摺動面を隅肉溶接部を除くコバ面に密着させたまま摺動させる。これにより、検出コイルにより試験体の外部に漏洩する漏洩磁束によるインピーダンス変化を検出することができる。
【0016】
なお、検出コイルと励磁コイルの隅肉溶接部からの距離が同じ場合、検出コイルが隅肉溶接部の形状変化によって渦電流変化の影響を強く受け、きずの検出が困難となる。
本発明では、検出コイルが、励磁コイルよりも隅肉溶接部から離れて位置するので、隅肉溶接部の形状変化の影響を低減して漏洩磁束によるインピーダンス変化を検出することができる。
【0017】
本発明によれば、摺動面を隅肉溶接部を除くコバ面を摺動させるので、隅肉溶接部の上にコイルホルダーを位置決めする必要がない。従って、コバ部の隅肉溶接部の近傍に欠陥がある場合でも、隅肉溶接部のビード形状(凹凸)の影響を低減又は回避して隅肉溶接部近傍のきずを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】コバ部の説明図である。
図2】本発明の渦電流探傷プローブを含む渦電流探傷装置の全体構成図である。
図3】本発明の渦電流探傷プローブの構成図である。
図4】励磁コイルと検出コイルの位置関係を示す図である。
図5】渦電流探傷プローブを用いた渦電流探傷方法を示すフロー図である。
図6】基礎試験の結果を示す表である。
図7】オフセット量を0とした場合のリサージュ波形の比較図である。
図8】9種の渦電流探傷プローブのオフセット量と軸間距離を示す表である。
図9】オフセット量が1mm、軸間距離が5.5mmの場合の試験結果である。
図10】オフセット量が2mm、軸間距離が5.0mmの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0020】
図1は、コバ部Kの説明図である。
図1(A)において、1は母材、2は補強材であり、補強材2は厚さTの板材である。厚さTは、例えば6~16mmである。
「コバ部」とは、例えば、母材1に補強材2を垂直に当接させ、補強材2の当接部の周囲を母材1に隅肉溶接した場合の隅肉溶接部3から補強材2の端面(以下、コバ面2a)を含む部分(図中の破線部分)を意味する。
【0021】
コバ部Kの隅肉溶接部3の止端部等の形状急変部に、長期使用による疲労き裂等のきず4が発生することがある。このきず4は、例えば隅肉溶接部3の止端部に沿って補強材2の表面に厚さ方向に延びる線状の溝である。
【0022】
従来の渦電流探傷用プローブは、検査面の欠陥(きず4)の真上にプローブを位置決めする必要があった。しかし、きず4が隅肉溶接部3の止端部近傍に位置する場合、従来のプローブは最適位置に位置決めすることができない。また、隅肉溶接部3の近傍に欠陥がある場合、隅肉溶接部3の形状変化による疑似信号が大きく現れるため、従来のプローブではきず4の有無の識別が困難であった。
以下、隅肉溶接部3を、特に必要な場合を除き、単に「溶接部3」と呼ぶ。
【0023】
図1(B)は、上述したコバ部Kを模擬したコバ部模擬試験体5の説明図である。この図において(a)はコバ面2aの正面図、(b)はその左側面図である。
後述する例で、コバ部模擬試験体5の板厚Tは9mmであり、隅肉溶接部3の寸法は底辺15mm、高さ15mmの直角三角形である。
【0024】
図2は、本発明の渦電流探傷プローブ14を含む渦電流探傷装置100の全体構成図である。
この図において、渦電流探傷装置100は、プローブユニット10、渦電流探傷器20、及び制御用タブレット24を備える。
【0025】
プローブユニット10は、信号ケーブル12と渦電流探傷プローブ14を有する。プローブタイプは、相互誘導形、単一方式であるのがよい。
【0026】
図2において、渦電流探傷器20は、渦電流探傷プローブ14に信号ケーブル12を介して連結されている。信号ケーブル12は、可撓性を有することが好ましい。
渦電流探傷器20は、渦電流探傷プローブ14を制御する。
【0027】
制御用タブレット24は、例えば制御・探傷結果表示用のタブレットPCであり、プローブユニット10で検出された検査信号に基づく検査画像25を表示する。
渦電流探傷器20と制御用タブレット24は、例えば無線通信で双方向通信が可能になっているのがよい。
【0028】
図3は、本発明の渦電流探傷プローブ14の構成図である。
この図において、(A)は図1(B)のコバ面2aに渦電流探傷プローブ14を位置決めした状態を示す正面図、(B)はその左側面図である。
【0029】
この図において、渦電流探傷プローブ14は、コイルホルダー15、励磁コイル16、及び検出コイル18を有する。
【0030】
コイルホルダー15は、摺動面15aと摺動前面15bを有する。コイルホルダー15の形状はこの例では、直方体であるが、本発明はこれに限定されず、その他の形状であってもよい。
コイルホルダー15は、非導電性かつ非磁性体であるのがよい。
【0031】
摺動面15aは、隅肉溶接部3を有する導電性の試験体TPの溶接部3を除くコバ面2aに密着させて摺動可能に構成されている。摺動面15aは、この例では平面であるが、溶接部3を除くコバ面2aに密着する形状である限り平面以外の面(例えば曲面)であってもよい。以下、溶接部3を除くコバ面2aを必要な場合を除き、単にコバ面2aと呼ぶ。
【0032】
摺動前面15bは、摺動面15aの溶接部側の端部と交叉する。この例で、摺動前面15bは摺動面15aと直交しているが、任意の角度で交叉してもよい。また、摺動前面15bは、平面に限定されず曲面であってもよい。
【0033】
励磁コイル16は、コイルホルダー15に内蔵され試験体内にコバ面2aから溶接部3に向かう方向の誘導磁束B1を発生させる。
この例で、励磁コイル16は、コバ面2aと平行かつ摺動前面15bと交叉する第1コイル軸19aを有する。また、励磁コイル16の溶接部側端面16aは、摺動前面15bに近接している。
以下、溶接部側とは、隅肉溶接部側を意味する。
誘導磁束B1は、励磁コイル16から直接発生する磁束と渦電流を介して発生するものとがある。直接発生する磁束も渦電流を介して発生する磁束も試験体表面に誘導される。
【0034】
検出コイル18は、コイルホルダー15に内蔵され試験体TPの外部に漏洩する漏洩磁束B2によるインピーダンス変化を検出する。
検出コイル18の中心近傍に漏洩磁束B2が貫通することで、検出コイル18に電流が発生する。検出コイル18は、この電流によってコイルのインピーダンス変化を検出する。
【0035】
この例で、検出コイル18は、溶接部3の形状変化の影響を低減するように、励磁コイル16よりも溶接部3から離れて位置する。
またこの例で、検出コイル18は、第1コイル軸19aと平行な第2コイル軸19bを有する。また、検出コイル18の溶接部側端面18aは、励磁コイル16の溶接部側端面16aより溶接部3から離れる方向にオフセットしている。
オフセットとは、検出コイル18の溶接部側端面18aと励磁コイル16の溶接部側端面16aの位置がずれていることを意味する。このずれ量を「オフセット量」と呼ぶ。
【0036】
検出コイル18は、試験体表面の渦電流変化による磁束と漏洩磁束B2の両方とも検出する。隅肉溶接部3に近づけると隅肉溶接の形状変化による渦電流変化の影響を強く受け、健全な状態においても検出コイル18のインピーダンス変化が大きくなる。
隅肉溶接の形状変化による渦電流変化は、微細なきず4による渦電流変化よりも大きいため,きず4の有無による変化を捕えられない、ことが試験結果から明らかになった。
そこで、本発明では、検出コイル18の位置を隅肉溶接の形状による渦電流変化が極力小さく、きず4による漏洩磁束B2を捕らえられる位置まで、離して置くことでコバ部Kに発生するきず4を捕らえることができるようにしている。
【0037】
励磁コイル16と検出コイル18の両端は、信号ケーブル12の信号線に接続され、信号ケーブル12を介して渦電流探傷器20に接続されている。
【0038】
図4は、励磁コイル16と検出コイル18の位置関係を示す図である。
この図において、(A)は図3(A)に相当する正面図、(B)はその左側面図、(C)は、(A)のC-C矢視図である。
【0039】
図4において、励磁コイル16の溶接部側端面16aと検出コイル18の溶接部側端面18aの間隔(オフセット量)をA、第1コイル軸19aと第2コイル軸19bの軸間距離をBとする。
また、Cは第1コイル軸19aと第2コイル軸19bのコバ面2aからの距離(以下、検出高さ)、Dは励磁コイル16と検出コイル18の平均直径(以下、平均コイル径)、Eは励磁コイル16と検出コイル18の長さ(以下、コイル長さ)である。
【0040】
後述する実施例では、オフセット量Aは1~2mm、軸間距離Bは4.5~5.5mm、検出高さCは3~4mm、平均コイル径Dは約3mm、コイル長さEは約3mmである。
なお、この例では、励磁コイル16と検出コイル18の検出高さC、平均コイル径D、コイル長さEは同一であるが、本発明はこれに限定されず、それぞれ異なってもよい。
【0041】
図4(A)に示すように、検出コイル18は、励磁コイル16で発生する強い磁束が、直接検出できる位置に位置することが好ましい。
このため、第1コイル軸19aと第2コイル軸19bの軸間距離Bは、励磁コイル16による磁束を検出コイル18で直接検出可能な距離であるのがよい。
この観点から、軸間距離Bは、平均コイル径Dの1.5倍~2倍であるのがよい。
【0042】
オフセット量Aは、0の場合、後述する実施例で、検出コイル18が隅肉溶接部3の形状変化によって渦電流変化の影響を強く受け、きず4の検出が困難となることがわかった。
後述する実施例から、オフセット量Aは、軸間距離Bの20%以上、50%未満であるのがよい。
【0043】
図4(C)に示すように、検出コイル18は、励磁コイル16で試験体内に発生する誘導磁束B1を直接検出できることが好ましい。
このため、検出高さCは、軸間距離Bよりも小さく、例えば軸間距離Bの25%以上、90%未満であるのがよい。
【0044】
また後述する実施例から、励磁コイル16と検出コイル18は、フェライトコアを有することが好ましい。
【0045】
図5は、上述した渦電流探傷プローブ14を用いた渦電流探傷方法を示すフロー図である。
この図において、本発明の方法は、S1~S7の各ステップ(工程)からなる。
【0046】
ステップS1では、励磁コイル16に高周波電流を印加して試験体内に溶接部3に向かう方向の誘導磁束B1を発生させる。高周波電流の周波数は、20kHz~70kHzであるのがよい。
【0047】
ステップS2では、探傷条件を調整する。探傷条件とは、位相角調整、探傷感度、試験周波数の調整である。位相角調整は、健全部のリサージュ波形を水平に設定するのがよい。
【0048】
リサージュ波形は、縦軸、横軸に関する取り決めはなく、検出コイル18のインピーダンス変化のベクトル表示である。本発明の渦電流探傷器20は、リサージュ波形を0°~360°まで自由に調整できる機能(位相角調整機能)を有している。
従って、探傷感度、探傷条件の設定時に基準となる試験体を用い、あらかじめ健全部のリサージュ信号を水平(0°)となるように画面表示位相角を調整するのがよい。
【0049】
ステップS3では、試験体TPの溶接部側に上述したコイルホルダー15の摺動前面15bを向け、かつ摺動面15aをコバ面2aに密着させて位置決めする。
【0050】
ステップS4では、隅肉溶接部3を除くコバ面2aに摺動面15aを摺動させて摺動前面15bと隅肉溶接部3との距離を変化させる。
この際、摺動面15aが溶接部3に重ならないように、溶接部3を除くコバ面2aのみを摺動する。
【0051】
ステップS5では、検出コイル18により試験体TPの外部に漏洩する漏洩磁束B2によるインピーダンス変化を検出する。なお、この検出は、表面に開口したきず4がある場合に発生する漏洩磁束B2による検出コイル18のインピーダンス変化を検出できればよい。
【0052】
ステップS6では、検出コイル18のインピーダンス変化によるリサージュ波形を作成する。上述したように、リサージュ波形はインピーダンス変化のベクトル表示である。
リサージュ波形は、上述した検査画像25であり、制御用タブレット24に表示するのがよい。
【0053】
ステップS7では、作成されたリサージュ波形を健全部(健全なコバ面2a)のリサージュ波形と比較する。この比較により顕著な相違がある場合にきず4があると判定する。
ステップS3~S7は、繰り返して実施するのがよい。
【0054】
以下、実施例を説明する。
【実施例1】
【0055】
(基礎試験)
最初にきず4に対する励磁コイル16と検出コイル18の向き、すなわち第1コイル軸19aと第2コイル軸19bの向きを変化させて隅肉溶接部3の形状変化による影響を試験した。
この試験は、500巻の励磁コイル16と485巻の検出コイル18を作製し、高周波電流の周波数を50kHz、設定感度を44dB,設定位相を90°とした。
【0056】
図6は、基礎試験の結果を示す表である。
この表のうち、(1)と(5)が、本発明の渦電流探傷プローブ14に相当する。(1)は励磁コイル16と検出コイル18のコイル内にフェライトコアがある場合であり、(5)は励磁コイル16が空芯(フェライトコアがない)の場合である。
この結果から、(1)のフェライトコアがある本発明の渦電流探傷プローブ14が、隅肉溶接部3の形状変化による影響が最も少なくきず4を検出できることがわかった
【実施例2】
【0057】
(オフセット量Aの試験)
図7は、オフセット量Aを0とした場合のリサージュ波形の比較図である。
この図において、右図は健全部の検査結果であり、左図はきず4のある部分の検査結果である。なお、健全部とは、コバ面2aのうちきず4のない部分を意味する。
この結果から、オフセット量Aが0の場合には、検出コイル18が隅肉溶接部3の形状変化によって渦電流変化の影響を強く受け、きず4の検出が困難となることがわかった。
【実施例3】
【0058】
オフセット量Aと軸間距離Bの影響を試験するため、これらを変化させた9種の渦電流探傷プローブ14を作製した。
図8は、9種の渦電流探傷プローブ14のオフセット量Aと軸間距離Bを示す表である。
【0059】
図1(B)に示した試験体TPを準備し、図8の9種の渦電流探傷プローブ14を用いて健全部と全面きずでの信号比較を行った。なお、「全面きず」とは、コバ面2aの幅全体に延びるきず4を意味する。
この試験では、健全部のリサージ波形を水平(0°)に設定し、全面きずの位相に着目した。なお、試験周波数は、20kHzから80kHzまで10kHz刻みで変化させ、各試験周波数での健全部と全面きずの位相差を比較した。
【0060】
図9は、オフセット量Aが1mm、軸間距離Bが5.5mmの場合の試験結果である。これは図8の(3)に相当し、きず4の深さhが1.0mm、きず4の幅wが2.0mmの場合である。
この結果から、20kHzから80kHzまでの試験周波数において、健全部に対するきず4の位相差が大きく、きず4を検出できることが確認された。
【0061】
図10は、オフセット量Aが2mm、軸間距離Bが5.0mmの場合である。これは図8の(8)に相当し、きず4の深さhが2.0mm、きず4の幅wが1.5mmの場合である。
この結果からも、20kHzから80kHzまでの試験周波数において、健全部に対するきず4の位相差が大きく、きず4を検出できることが確認された。
【0062】
また、図8の(1)~(9)のすべてにおいて、同様の結果が得られ、少なくともこの範囲で、実機適用への可能性が確認された。
なかでも、図10に示す、A2.0mm-B5.0mm(h2.0×W1.5)で試験周波数20kHzが最も位相差が大きく、最適であることが確認された。
【0063】
上述した本発明の実施形態によれば、コイルホルダー15が摺動面15aと摺動前面15bを有するので、試験体TPの溶接部側に摺動前面15bを向けかつ摺動面15aを隅肉溶接部3を除くコバ面2aに密着させて位置決めすることができる。
この状態で、励磁コイル16に高周波電流を印加して誘導磁束B1を発生させ、かつ摺動面15aをコバ面2aに密着させたまま摺動させることで、検出コイル18により試験体TPの外部に漏洩する漏洩磁束B2を検出することができる。
【0064】
なお、検出コイル18と励磁コイル16の溶接部3からの距離が同じ場合、検出コイル18が隅肉溶接部3の形状変化によって渦電流変化の影響を強く受け、きず4の検出が困難となる。
本発明では、検出コイル18が、励磁コイル16よりも溶接部3から離れて位置するので、隅肉溶接部3の形状変化の影響を低減して漏洩磁束B2を検出することができる。
【0065】
上述した本発明の実施形態によれば、摺動面15aを隅肉溶接部3を除くコバ面2aを摺動させるので、隅肉溶接部3の上にコイルホルダー15を位置決めする必要がない。従って、コバ部Kの隅肉溶接部3の近傍に欠陥がある場合でも、溶接部3のビード形状(凹凸)の影響を低減又は回避して隅肉溶接部近傍のきず4を検出することができる。
【0066】
また、上述した実施例によれば、オフセット量Aは1~2mm、軸間距離Bは4.5~5.5mm、検出高さCは3~4mm、平均コイル径Dは3mm、コイル長さEは約3mmである。従って、コイルホルダー15の外径寸法を1辺10mm以下の立方体又は直方体に製作することができる。
従って、隅肉溶接部3を有する通常の大きさのスカラップ部分に本発明の渦電流探傷プローブ14を挿入し探傷試験を実施することが可能である。
【0067】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
A オフセット量、B 軸間距離、B1 誘導磁束、B2 漏洩磁束、
C 検出高さ、D 平均コイル径、E コイル長さ、K コバ部、
TP 試験体、1 母材、2 補強材、2a コバ面(端面)、
3 隅肉溶接部(溶接部)、4 きず、
10 プローブユニット、12 信号ケーブル、
14 渦電流探傷プローブ(渦電流探傷プローブ)、
15 コイルホルダー、15a 摺動面、15b 摺動前面、
16 励磁コイル、16a 溶接部側端面、18 検出コイル、
18a 溶接部側端面、19a 第1コイル軸、19b 第2コイル軸、
20 渦電流探傷器、24 制御用タブレット、
25 検査画像、100 渦電流探傷装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10