(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】タービン動翼
(51)【国際特許分類】
F01D 5/28 20060101AFI20240213BHJP
F01D 5/22 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
F01D5/28
F01D5/22
(21)【出願番号】P 2021036320
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲村 晋一朗
(72)【発明者】
【氏名】上村 健司
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛史
(72)【発明者】
【氏名】田中 大輝
(72)【発明者】
【氏名】天野 晋作
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179711(WO,A1)
【文献】特開2010-065666(JP,A)
【文献】特開平09-209704(JP,A)
【文献】特開平11-182204(JP,A)
【文献】特開2014-028396(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109611158(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102019208703(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/28
F01D 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧面および圧力面を有し、前記負圧面と前記圧力面との境界に前縁および後縁を備える翼有効部と、
前記翼有効部の先端における前縁側の前記負圧面から突出する負圧面側突出部と、
前記翼有効部の先端における後縁側の前記圧力面から突出する圧力面側突出部と
を備えるタービン動翼であって、
前記負圧面側突出部は、
前縁側に備えられ、回転する際に、隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触する接触面および隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触しない非接触面を有する前縁側端面と、
前記非接触面から後縁側に向かって形成されるとともに翼高さ方向に貫通し、後縁側に行くに伴って突出方向における幅が狭くなる溝部と、
前記溝部に嵌合する形状を有するとともにタービン動翼を構成する材料よりも耐エロ―ジョン性に優れた材料で構成され、前記溝部に接合された接合部材と
を具備
し、
前記接合部材の前縁側の端面が、前記前縁側端面よりも後縁側に位置していることを特徴とするタービン動翼。
【請求項2】
負圧面および圧力面を有し、前記負圧面と前記圧力面との境界に前縁および後縁を備える翼有効部と、
前記翼有効部の先端における前縁側の前記負圧面から突出する負圧面側突出部と、
前記翼有効部の先端における後縁側の前記圧力面から突出する圧力面側突出部と
を備えるタービン動翼であって、
前記負圧面側突出部は、
前縁側に備えられ、回転する際に、隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触する接触面および隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触しない非接触面を有する前縁側端面と、
前記非接触面から後縁側に向かって形成されるとともに翼高さ方向に貫通し、後縁側に行くに伴って突出方向における幅が狭くなる溝部と、
前記溝部に嵌合する形状を有するとともにタービン動翼を構成する材料よりも耐エロ―ジョン性に優れた材料で構成され、前記溝部に接合された接合部材と
を具備し、
前記接合部材の前縁側の端面における接触面側の翼高さ方向の厚さは、前記接触面の翼高さ方向の厚さよりも厚いことを特徴とす
るタービン動翼。
【請求項3】
負圧面および圧力面を有し、前記負圧面と前記圧力面との境界に前縁および後縁を備える翼有効部と、
前記翼有効部の先端における前縁側の前記負圧面から突出する負圧面側突出部と、
前記翼有効部の先端における後縁側の前記圧力面から突出する圧力面側突出部と
を備えるタービン動翼であって、
前記負圧面側突出部は、
前縁側に備えられ、回転する際に、隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触する接触面および隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触しない非接触面を有する前縁側端面と、
前記非接触面から後縁側に向かって形成されるとともに翼高さ方向に貫通し、後縁側に行くに伴って突出方向における幅が狭くなる溝部と、
前記溝部に嵌合する形状を有するとともにタービン動翼を構成する材料よりも耐エロ―ジョン性に優れた材料で構成され、前記溝部に接合された接合部材と
を具備し、
前記翼有効部の先端における翼高さ方向に垂直な断面において、
前記溝部の両側面の仮想延長線が交わる点を中心とする前記溝部の両側面間の角度は、前記接合部材の両側面の仮想延長線が交わる点を中心とする前記接合部材の両側面間の角度と等しいことを特徴とす
るタービン動翼。
【請求項4】
負圧面および圧力面を有し、前記負圧面と前記圧力面との境界に前縁および後縁を備える翼有効部と、
前記翼有効部の先端における前縁側の前記負圧面から突出する負圧面側突出部と、
前記翼有効部の先端における後縁側の前記圧力面から突出する圧力面側突出部と
を備えるタービン動翼であって、
前記負圧面側突出部は、
前縁側に備えられ、回転する際に、隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触する接触面および隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触しない非接触面を有する前縁側端面と、
前記非接触面から後縁側に向かって形成されるとともに翼高さ方向に貫通し、後縁側に行くに伴って突出方向における幅が狭くなる溝部と、
前記溝部に嵌合する形状を有するとともにタービン動翼を構成する材料よりも耐エロ―ジョン性に優れた材料で構成され、前記溝部に接合された接合部材と
を具備し、
前記翼有効部の先端における翼高さ方向に垂直な断面において、
前記溝部の後縁側の先端部が曲面で形成され、
前記接合部材の後縁側の先端部が曲面で構成され、
前記接合部材の先端部における曲面の曲率半径R1は、前記溝部の先端部における曲面の曲率半径R0よりも小さいことを特徴とす
るタービン動翼。
【請求項5】
前記曲率半径R0と前記曲率半径R1は、
(R0-R1)≦0.20を満たすことを特徴とする
請求項4記載のタービン動翼。
【請求項6】
前記非接触面は、前記接触面との境界から負圧面側に行くに伴って前記翼有効部の根元側に翼高さ方向の厚さを増していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のタービン動翼。
【請求項7】
前記接合部材は、接触面側から負圧面側に行くに伴って前記翼有効部の根元側に翼高さ方向の厚さを増していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のタービン動翼。
【請求項8】
前記接合部材は、後縁側に行くに伴って前記翼有効部の根元側に翼高さ方向の厚さを増していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のタービン動翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タービン動翼に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンを備える火力発電設備において、高効率化の一対策として、低圧タービンの最終段落に1m以上の長翼が適用されている。最終段落における長翼からなる動翼には、大きな遠心力がかかる。このような最終段落の動翼は、強度および靭性に優れた鋼種で形成されている。
【0003】
低圧タービンの最終段落の動翼は、作動流体である湿り蒸気によって高速で回動駆動される。そのため、液滴が高速で動翼に繰返し衝突し、動翼の表面を浸食するドロップレット・エロ―ジョンが発生する。
【0004】
動翼の前縁部において、液滴の衝突による顕著な浸食が想定される。そのため、従来の動翼において、例えば、焼入れによって前縁部を高硬度化する施策が適用されている。また、従来の動翼において、動翼を構成する材料よりも耐エロ―ジョン性(耐浸食性)に優れた材料で構成された部材を前縁部に接合する施策が適用されている。
【0005】
ここで、
図14は、従来の低圧タービンにおける最終段落の動翼300の先端の一部を外周側から見たときの平面図である。
【0006】
長翼の動翼300として、ねじれ翼が使用される。ねじれ翼の翼有効部は、翼根元から翼先端に亘ってねじれている。
【0007】
図14に示すように、動翼300の先端は、負圧面から突出する負圧面側突出部310と、圧力面から突出する圧力面側突出部320を有する。負圧面側突出部310は、動翼300の前縁側に位置し、圧力面側突出部320は、動翼300の後縁側に位置する。なお、
図14には、動翼300の前縁301および後縁302も示されている。
【0008】
動翼300をタービンロータの周方向に植設した際、負圧面側突出部310は、隣接する動翼300の圧力面側突出部320と周方向に隣接する。
【0009】
そして、回転時には、動翼300の捻れ戻り(アンツイスト)が生じて、
図14に示すように、互いに隣接する動翼300における負圧面側突出部310の接触面311と、圧力面側突出部320の接触面321とが接触する。これによって、全周一群の連結構造が構成される。
【0010】
近年、このような構成の動翼300において、前縁301以外にも、負圧面側突出部310の前縁側の端面のうち、接触面311以外の端面312が浸食されることが報告されている。この端面312は、負圧面側突出部310における負圧面側の根元部313に位置する。
【0011】
回転時において、この端面312は、圧力面側突出部320と接触せずに露出しているため、液滴を含む作動流体と直接衝突する。これによって、端面312にドロップレット・エロ―ジョンが発生する。
【0012】
なお、
図14には、端面312の浸食状態を模式的に示している。浸食330は、端面312から後縁側に向かって進行する。この複数の楔状の浸食330は、端面312全体に生じる。そのため、翼高さ方向(半径方向)にこの浸食330を見た場合、浸食330は、負圧面側突出部310を貫通するように形成されている。
【0013】
浸食330の幅Weは、露出する端面312の幅と一致している。この浸食330の幅Weは、使用年数が長期化しても大きく変化することはない。一方、楔状の浸食の深さDeは、使用年数に伴い増加する。根元部313には、隣接する動翼300の圧力面側突出部320からの接触反力が作用するため、浸食が進行するに伴って負圧面側突出部310が飛散する可能性が高まる。
【0014】
ここで、浸食330の幅Weは、接触面311の仮想延長線上における浸食330の幅である。浸食330の深さDeは、接触面311の仮想延長線と、この仮想延長線に垂直な方向における浸食330の最先端との距離である。
【0015】
従来、負圧面側突出部310の根元部313において浸食が進行した動翼300は、新しい翼(新翼)に交換される。
【0016】
一方、このような負圧面側突出部310の根元部313における浸食を抑制する技術も検討されている。従来の動翼における浸食抑制技術では、例えば、鋳造工程において浸食が生じる翼本体の表面に段部が形成され、この段部に耐エロ―ジョン性に優れた板状部材が嵌合されている。この浸食抑制技術は、新翼に対して適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
負圧面側突出部310の根元部313において浸食が進行した動翼300に対して、機械加工によって浸食部を除去した後、除去部に肉盛溶接を行う手法が考えられる。
【0019】
しかしながら、肉盛溶接の際、負圧面側突出部310への入熱量が大きいため、肉盛部近傍が大きく変形する。そのため、負圧面側突出部310に機能上要求されている寸法管理基準を逸脱する。これによって、回転時において、負圧面側突出部310は、隣接する動翼300の圧力面側突出部320と適正に接触することができない。
【0020】
このようなことから、従来、負圧面側突出部310の根元部313において浸食が進行した動翼300は、新翼に交換される。この際、新翼は、鋳造素材から再製作されるため、長期間の製作期間が必要となる。また、浸食が発生した根元部313以外の部分は継続して使用可能な状態ではあるが、この動翼300は廃棄される。このような浸食が進行した動翼300に対する従来の対応は、経済的な観点から好ましくない。
【0021】
また、上記した動翼の表面の段部に板状部材を嵌合する従来の浸食抑制技術を適用しても、時間の経過とともに浸食は進行する。浸食が段部まで浸食した動翼では、再度段部を形成することができないため、補修して再利用することは困難である。
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、翼先端における負圧面側突出部の根元部の浸食を抑制しつつ、使用寿命を延ばすことができるタービン動翼を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
実施形態のタービン動翼は、負圧面および圧力面を有し、前記負圧面と前記圧力面との境界に前縁および後縁を備える翼有効部と、前記翼有効部の先端における前縁側の前記負圧面から突出する負圧面側突出部と、前記翼有効部の先端における後縁側の前記圧力面から突出する圧力面側突出部とを備える。
【0024】
前記負圧面側突出部は、前縁側に備えられ、回転する際に、隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触する接触面および隣接するタービン動翼の前記圧力面側突出部と接触しない非接触面を有する前縁側端面と、前記非接触面から後縁側に向かって形成されるとともに翼高さ方向に貫通し、後縁側に行くに伴って突出方向における幅が狭くなる溝部と、前記溝部に嵌合する形状を有するとともにタービン動翼を構成する材料よりも耐エロ―ジョン性に優れた材料で構成され、前記溝部に接合された接合部材とを備え、前記接合部材の前縁側の端面が、前記前縁側端面よりも後縁側に位置している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施の形態の動翼を備えた蒸気タービンの鉛直方向の子午断面を示す図である。
【
図3】実施の形態の複数の動翼が周方向に亘ってロータホイールに植設された状態を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態の動翼の翼先端を外周側から見たときの平面図である。
【
図5】実施の形態の動翼における前縁側の翼先端を軸方向の下流側から見たときの平面図である。
【
図6】実施の形態の動翼における前縁側の翼先端を回転方向の上流側から見たときの平面図である。
【
図7】実施の形態の動翼における接合部材を接合していない状態の前縁側の翼先端を回転方向の上流側から見たときの平面図である。
【
図10】回転時における実施の形態の動翼の翼先端を外周側から見たときの平面図である。
【
図11】組立時における実施の形態の動翼の翼先端を外周側から見たときの平面図である。
【
図12】実施の形態の動翼が備える接合部材の斜視図である。
【
図13】実施の形態の動翼における前縁側の翼先端を回転方向の上流側における斜め下方から見たときの斜視図である。
【
図14】従来の低圧タービンにおける最終段落の動翼の先端の一部を外周側から見たときの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、実施の形態の動翼10を備えた蒸気タービン200の鉛直方向の子午断面を示す図である。なお、蒸気タービン200は、タービン段落の最終段である最終段落などに長翼を備える低圧タービンである。
【0028】
実施の形態の動翼10は、例えば、最終段落などに備えられる。なお、実施の形態の動翼10は、最終段落に限らず、作動流体に含まれる液滴が高速で動翼に衝突するタービン段落に使用することができる。実施の形態の動翼10が備えられたタービン段落以外のタービン段落には、蒸気タービンの動翼として一般に使用されている仕様の動翼が使用される。
【0029】
図1に示すように、蒸気タービン200は、ケーシング210を備える。このケーシング210内には、タービンロータ220が貫設されている。このタービンロータ220には、ロータホイール221が形成されている。なお、タービンロータ220は、図示しないロータ軸受によって回転可能に支持されている。
【0030】
ロータホイール221は、周方向Dcに亘って、タービンロータ220の外周面から半径方向外側Droに突出している。ロータホイール221は、タービンロータ220の中心軸方向に沿って複数段形成されている。
【0031】
ここで、タービンロータ220の中心軸方向を以下において単に軸方向Daという。半径方向外側Droとは、半径方向Drにおけるタービンロータ220の中心軸Oから遠ざかる側である。半径方向内側Driとは、半径方向Drにおける中心軸Oに近づく側(中心軸側)である。半径方向Drは、中心軸Oを基点とする、中心軸Oに垂直な方向である。周方向Dcとは、タービンロータ220の中心軸Oを中心とする周方向、すなわち、中心軸Oの軸周りである。
【0032】
このロータホイール221には、例えば、軸方向Daから動翼10が挿入される。そして、ロータホイール221の周方向Dcには、複数の動翼10が設けられ、動翼翼列を構成する。動翼翼列は、軸方向Daに複数段構成されている。
【0033】
ケーシング210の内周には、ダイアフラム外輪230が設置され、このダイアフラム外輪230の内側(半径方向内側Dri)には、ダイアフラム内輪231が設置されている。ダイアフラム外輪230とダイアフラム内輪231との間には、周方向Dcに複数の静翼232が配置され、静翼翼列を構成している。
【0034】
この静翼翼列は、軸方向Daに動翼翼列と交互に複数段備えられている。そして、静翼翼列と、その直下流側に位置する動翼翼列とで一つのタービン段落を構成している。
【0035】
ここで、下流側とは、軸方向Daにおいて作動流体の主流の流れ方向の下流側を意味する。上流側とは、軸方向Daにおいて作動流体の主流の流れ方向の上流側を意味する。
【0036】
ダイアフラム外輪230とダイアフラム内輪231との間には、主蒸気が流れる環状の蒸気通路233が形成されている。
【0037】
タービンロータ220とケーシング210との間には、蒸気の外部への漏洩を防止するために、グランドシール部240が設けられている。また、タービンロータ220とダイアフラム内輪231との間には、この間を蒸気が下流側へ通過するのを防止するために、シール部241が設けられている。
【0038】
また、蒸気タービン200には、クロスオーバ管250からの蒸気を蒸気タービン200の内部に蒸気を導入するための蒸気入口管(図示しない)がケーシング210を貫通して設けられている。最終段落の下流側には、タービン段落において膨張仕事をした蒸気を排気するための排気通路(図示しない)が設けられている。この排気通路は、復水器(図示しない)に連通されている。
【0039】
次に、実施の形態の動翼10の構成について説明する。
【0040】
図2は、実施の形態の動翼10の斜視図である。
図3は、実施の形態の複数の動翼10が周方向Dcに亘ってロータホイール221間に植設された状態を示す斜視図である。
【0041】
なお、
図3には、タービンロータ220の回転方向Dcrを矢印で示している。回転方向Dcrは、周方向Dcの一方向である。また、動翼10の翼先端22の半径方向外側Droの外周面には、翼先端22とダイアフラム外輪230との間からの蒸気の漏洩を防止するシール部材が備えられているが、本実施の形態に示される図においては、シール部材は省略されている。
【0042】
実施の形態の動翼10は、例えば、1m以上の長翼である。ここでは、動翼10として、最終段落の動翼を例示して説明する。
【0043】
図2に示すように、動翼10は、翼有効部20と、翼植込部40と、突出部50とを備える。
【0044】
翼有効部20は、翼根元21から翼先端22に亘る翼部分である。翼有効部20は、翼根元21から翼先端22に亘ってねじれている。翼有効部20は、半径方向外側Droに向かって延びている。ここでは、この動翼10の延びる方向を翼高さ方向Dhとする。なお、翼高さ方向Dhは、動翼10がロータホイール221間に植設された状態における半径方向Drと同義である。
【0045】
翼先端22とは、翼有効部20の翼高さ方向Dhの先端部である。翼根元21とは、翼有効部20の翼高さ方向Dhの根元部である。
【0046】
翼有効部20は、翼根元21から翼先端22に亘って、凹形状の圧力面23および凸形状の負圧面24を備える。翼有効部20の上流側の端部には、前縁25が形成されている。翼有効部20の下流側の端部には、後縁26が形成されている。
【0047】
前縁25は、翼高さ方向Dhと直交する断面において、軸方向Daの上流側において圧力面23と負圧面24とが接続される部分である。すなわち、前縁25は、軸方向Daの上流側における圧力面23と負圧面24との境界に翼高さ方向Dhに亘って形成される。
【0048】
後縁26は、翼高さ方向Dhと直交する断面において、軸方向Daの下流側において圧力面23と負圧面24とが接続される部分である。すなわち、後縁26は、軸方向Daの下流側における圧力面23と負圧面24との境界に翼高さ方向Dhに亘って形成される。
【0049】
図3に示す複数の動翼10を周方向に備えた動翼翼列において、隣接する動翼10の翼有効部20間を蒸気が通過する。
【0050】
動翼10において、
図2および
図3に示すように、翼有効部20の翼高さ方向Dh(半径方向Dr)の所定の高さ位置に中間連結部材30が備えられていてもよい。中間連結部材30は、例えば、翼高さ方向Dhにおける翼根元21と翼先端22との中間位置に備えられる。中間連結部材30は、翼有効部20の負圧面24から突出する負圧面連結部材31と、翼有効部20の圧力面23から突出する圧力面側連結部材32とを備える。
【0051】
中間連結部材30は、例えば、翼有効部20と一体的に形成される。なお、中間連結部材30の構造は、特に限定されるものではない。中間連結部材30の構造は、ねじれ翼の連結部として広く採用されている構造を適用することができる。
【0052】
タービンロータ220を回転した際、翼有効部20には捻れ戻り(アンツイスト)が発生する。このアンツイストによって、
図3に示すように、動翼10の負圧面連結部材31の接触面31aと、この動翼10の負圧面側に隣接する動翼10の圧力面側連結部材32の接触面32aとが接触する。
【0053】
翼植込部40は、
図2および
図3に示すように、翼有効部20の半径方向内側Driに形成される。翼植込部40は、プラットフォーム41と、翼根部45とを備える。
【0054】
プラットフォーム41は、翼有効部20と翼根部45との間に形成されている。なお、翼有効部20の翼根元21は、プラットフォーム41の半径方向外側Droの外周面42に位置している。プラットフォーム41は、例えば、板状に構成されている。
【0055】
翼根部45は、プラットフォーム41の半径方向内側Driに形成される。翼根部45は、例えば、軸方向Daに植え込む軸方向挿入式(アキシャルエントリー式)のクリスマスツリー型に形成される。翼根部45は、
図3に示すように、ロータホイール221の植込溝223に軸方向Daから挿入され、固定される。
【0056】
なお、このような軸方向挿入式のクリスマスツリー型の翼根部45は、大きな遠心力がかかる長翼に好適である。
【0057】
次に、突出部50の構成について説明する。
【0058】
図4は、実施の形態の動翼10の翼先端22を外周側から見たときの平面図である。
図5は、実施の形態の動翼10における前縁側の翼先端22を軸方向Daの下流側から見たときの平面図である。
図6は、実施の形態の動翼10における前縁側の翼先端22を回転方向Dcrの上流側から見たときの平面図である。
図7は、実施の形態の動翼10における接合部材90を接合していない状態の前縁側の翼先端22を回転方向Dcrの上流側から見たときの平面図である。なお、
図5~
図7には、動翼10の一部の構成が示されている。
【0059】
図8は、
図6のA-A断面が示された図である。
図9は、
図7のB-B断面が示された図である。なお、
図8および
図9は、翼有効部20の翼先端22における翼高さ方向Dhに垂直な断面が示されている。
【0060】
図10は、回転時における実施の形態の動翼10の翼先端22を外周側から見たときの平面図である。
図11は、組立時における実施の形態の動翼10の翼先端22を外周側から見たときの平面図である。
図12は、実施の形態の動翼10が備える接合部材90の斜視図である。なお、
図10には、作動流体WFの流れを矢印で示している。
【0061】
図2~
図4に示すように、突出部50は、翼有効部20の翼先端22に形成され、圧力面側突出部60と、負圧面側突出部70とを備える。ここで、突出部50は、スナッバなどと称されることもある。突出部50は、例えば、翼有効部20に一体的に形成される。
【0062】
圧力面側突出部60は、
図4に示すように、翼有効部20の翼先端22における後縁側の圧力面23から突出する。具体的には、圧力面側突出部60は、後縁側の圧力面23から後縁側に行くに伴って軸方向Daの上流側に徐々に広がりながら突出している。
【0063】
圧力面側突出部60において、圧力面23から上流側への突出高さは、後縁26の位置で最大となる。圧力面側突出部60は、翼先端22の圧力面23のうちの後縁側の一部に備えられている。
【0064】
また、圧力面側突出部60の後縁側の後縁側端面61は、平面で構成される。この後縁側端面61の一部は、動翼10が回転する際、負圧面側突出部70の前縁側の前縁側端面71の一部(接触面72)と接触する。
【0065】
負圧面側突出部70は、
図4に示すように、翼有効部20の翼先端22における前縁側の負圧面24から突出する。具体的には、負圧面側突出部70は、前縁側の負圧面24から前縁側に行くに伴って軸方向Daの下流側に徐々に広がりながら突出している。
【0066】
負圧面側突出部70において、負圧面24から下流側への突出高さは、最も前縁側の位置で最大となる。負圧面側突出部70は、翼先端22の負圧面24のうちの前縁側の一部に備えられている。
【0067】
また、負圧面側突出部70は、
図5に示すように、前縁側に行くに伴って、翼有効部20の翼根元側に広がる部分を有する。すなわち、この部分の負圧面側突出部70は、前縁側に行くに伴って、翼根元側に翼高さ方向Dhの厚さを増加している。
【0068】
さらに、負圧面側突出部70は、
図5および
図7に示すように、負圧面側に行くに伴って、翼有効部20の翼根元側に広がる部分を有する。すなわち、この部分の負圧面側突出部70は、負圧面側に行くに伴って、翼根元側に翼高さ方向Dhの厚さを増加している。
【0069】
すなわち、負圧面側突出部70は、前縁側に行くに伴って、翼有効部20の翼根元側に広がるとともに、負圧面側に行くに伴って、翼有効部20の翼根元側に広がる部分を有する。
【0070】
図6~
図9に示すように、負圧面側突出部70は、前縁側に前縁側端面71を備える。前縁側端面71は、作動流体と衝突する方向に対向する上流側の端面である。
【0071】
前縁側端面71は、動翼10が回転する際に隣接する動翼10の圧力面側突出部60と接触する接触面72と、動翼10が回転する際に隣接する動翼10の圧力面側突出部60と接触しない非接触面73とを備える。なお、
図6および
図7において前縁側端面71に示された破線は、接触面72と非接触面73の仮想境界線Lvである。また、前縁側端面71において、非接触面73は、仮想境界線Lvよりも負圧面側の面である。
【0072】
なお、動翼10の回転時において、
図10に示すように、負圧面側突出部70の接触面72と、隣接する動翼10の圧力面側突出部60の後縁側端面61の一部とが接触することで、動翼10を備える動翼翼列は、全周一群の連結構造となる。
【0073】
図6および
図7に示すように、翼高さ方向Dhにおける接触面72の厚さL0は、突出方向に亘ってほぼ一定である。一方、非接触面73は、負圧面側に行くに伴って、翼根元側に徐々に広がっている。この非接触面73を有する負圧面側突出部70は、前述したように、負圧面側に行くに伴って翼有効部20の翼根元側に広がる部分である。
【0074】
すなわち、非接触面73において、翼高さ方向Dhの厚さは、接触面側から負圧面側に行くに伴って増加する。そのため、非接触面73において、負圧面側の翼高さ方向Dhの厚さは、接触面側の翼高さ方向Dhの厚さよりも厚い。
【0075】
ここで、負圧面側突出部70の前縁側において、非接触面73を有する負圧面側の突出部分を根元部74という。
【0076】
また、
図5~
図9に示すように、負圧面側突出部70は、溝部80を備える。また、
図7および
図9に示すように、溝部80は、非接触面73から後縁側に向かって形成されるとともに翼高さ方向Dhに負圧面側突出部70を貫通している。また、溝部80は、後縁側に行くに伴って突出方向(軸方向Da)における幅が狭くなる先細りの形状の窪みである。
【0077】
溝部80は、負圧面側突出部70における、前縁側に行くに伴って翼有効部20の翼根元側に広がるとともに負圧面側に行くに伴って翼有効部20の翼根元側に広がる部分に形成される。そのため、溝部80は、前縁側に行くに伴って、翼有効部20の翼根元側に広がるとともに、負圧面側に行くに伴って、翼有効部20の翼根元側に広がる形状を有する。
【0078】
図9に示すように、溝部80の両側面83、84は平面で形成され、先端部85は曲面で形成されている。ここで、溝部80の先端部85の曲面の曲率半径をR0とする。
【0079】
溝部80の開口81は、非接触面73に形成されている。そのため、
図10に示すように、動翼10の回転時において、隣接する動翼10の圧力面側突出部60が開口81に至ることはない。
【0080】
ここで、後縁側への溝部80の深さDgおよび溝部80の開先角度θ0について、
図9を参照して説明する。
【0081】
溝部80の最も後縁側の先端部82を通り接触面72に平行な直線を仮想線L1とする。接触面72の延長線を仮想線L2とする。ここで、溝部80の深さDgは、仮想線L1と仮想線L2との間の距離で定義される。
【0082】
溝部80の一方の側面83の延長線を仮想線L3とする。溝部80の他方の側面84の延長線を仮想線L4とする。仮想線L3と仮想線L4とが交わった点を点Pとする。ここで、溝部80の開先角度θ0は、点Pを中心する側面83と側面84との間の角度で定義される。
【0083】
上記した溝部80には、
図6および
図8に示すように、接合部材90が接合されている。接合部材90は、溝部80に嵌合する形状を有し、接合部材90の形状は、溝部80の形状に対応して設定される。接合部材90の形状も、溝部80の形状と同様に、後縁側に行くに伴って突出方向における幅が狭くなる先細りの形状である。
【0084】
図8に示すように、接合部材90の両側面93、94は平面で形成され、先端部95は曲面で形成されている。ここで、接合部材90の先端部95の曲面の曲率半径をR1とする。
【0085】
接合部材90の前縁側の端面96は、例えば、
図8に示すように、中央が凹んだ形状を有する。この端面96は、溝部80の開口面よりも後縁側に位置するように設定されている。すなわち、接合部材90は、溝部80の開口面よりも前縁側へ突出することはない。換言すると、接合部材90は、前縁側端面71や非接触面73よりも前縁側へ突出することはない。
【0086】
ここで、後縁側への接合部材90の長さ(接合部材90の後縁側長さDc)および接合部材90の先細り角度(テーパ角度θ1)について、
図8を参照して説明する。
【0087】
接合部材90の最も後縁側の先端を先端部91とする。接合部材90の前縁側の端面96において、中央の最も後縁側へ凹んだ端面位置を凹み部92とする。ここで、接合部材90の後縁側長さDcは、先端部91と凹み部92との間の距離で定義される。
【0088】
接合部材90の一方の側面93の延長線を仮想線L5とする。接合部材90の他方の側面94の延長線を仮想線L6とする。仮想線L5と仮想線L6とが交わった点を点Qとする。ここで、接合部材90のテーパ角度θ1は、点Qを中心する側面93と側面94との間の角度で定義される。
【0089】
また、接合部材90は、動翼10を構成する材料よりも耐エロ―ジョン性に優れた材料で構成される。接合部材90は、動翼10を構成する材料よりも硬度の高い材料で構成される。具体的には、接合部材90は、例えば、Co基合金であるステライト(登録商標)などで形成される。
【0090】
接合部材90は、ロウ付けまたはTIG溶接によって溝部80に接合されている。ロウ付けに使用されるロウ材として、例えば、銀ロウなどが挙げられる。
【0091】
負圧面側突出部70における半径方向外側Droの外周面において、
図6に示すように、負圧面側突出部70の面と接合部材90の面は同一面上に位置している。すなわち、溝部80に接合部材90を接合した際、接合部材90は、溝部80から翼高さ方向Dhの外側(半径方向外側Dro)に突出しない。
【0092】
ここで、接合部材90の材料としてステライトを使用した場合、ステライトは、動翼10を構成する材料よりも、硬度が高く、摺動摩耗特性に優れている。そのため、動翼10の回転時において、例えば、接合部材90が隣接する動翼10の圧力面側突出部60と接触したときには、圧力面側突出部60が摩耗される。
【0093】
しかしながら、上記したように、溝部80の開口81は、非接触面73に形成されている。そのため、動翼10の回転時において、
図10に示すように、隣接する動翼10の圧力面側突出部60が開口81に至ることはない。さらに、接合部材90の端面96は、溝部80の開口81よりも後縁側に位置している。上記したことから、動翼10において、接合部材90が隣接する動翼10の圧力面側突出部60を摩耗することはない。
【0094】
ここで、接合部材90の後縁側長さDcは、溝部80の深さDg以下に設定される。
【0095】
なお、接合部材90の後縁側長さDcは、端面96において中央の最も後縁側へ凹んだ凹み部92に基づいて定義されている。この場合であっても、側面側の接合部材90の端面96が溝部80の開口面よりも前縁側へ突出することはない。
【0096】
また、遠心応力が作用していない組立時において、
図11に示すように、隣接する動翼10の圧力面側突出部60は、溝部80の開口81の一部を覆う状態となる。
【0097】
しかしながら、接合部材90の後縁側長さDcを溝部80の深さDg以下にすることで、接合部材90が圧力面側突出部60と接触することはない。そのため、組立作業性を効率よく進行することができる。
【0098】
前述したように、接合部材90の形状は、溝部80の形状に対応して先細りの形状(テーパ形状)に形成される。接合部材90の形状を溝部80の形状に対応させることで、溝部80に嵌合された接合部材90は、接合時の入熱に伴う溝部80の収縮変形を抑制する。そのため、溝部80が形成された負圧面側突出部70の変形は抑制される。
【0099】
さらに、接合部材90のテーパ角度θ1は、溝部80の開先角度θ0と等しく設定されることが好ましい。これによって、接合部材90の側面93、94と、溝部80の側面83、84との間隙(以下、側面間間隙という。)を等しくすることができる。
【0100】
ここで、側面間間隙は、0.2mm以下に設定されることが好ましい。
【0101】
ロウ付けによって接合部材90を溝部80に接合する場合において、側面間間隙を0.2mm以下とすることで、溶融したロウ材(例えば、銀ロウ材)が毛細管現象によって適切に拡散する。なお、ロウ付けによって接合部材90を溝部80に接合する場合において、側面間間隙を0.10~0.15とすることがより好ましい。
【0102】
TIG溶接によって接合部材90を溝部80に接合する場合において、側面間間隙を0.2mm以下とすることで、溶接作業性を向上することができる。なお、TIG溶接によって接合部材90を溝部80に接合する場合において、側面間間隙はできる限り小さいことが好ましい。すなわち、側面間間隙は「0」とされてもよい。
【0103】
上記したように、接合部材90のテーパ角度θ1を溝部80の開先角度θ0と等しく設定し、側面間間隙を上記した範囲とすることで接合性が向上する以外にも、接合部材90が接合時の入熱に伴う溝部80の収縮変形を抑制する効果が向上する。
【0104】
また、溝部80の先端部85における曲面の曲率半径R0と接合部材90の先端部95における曲面の曲率半径R1とが以下の関係式(1)を満たすことが好ましい。
(R0-R1) ≦ 0.20 … 式(1)
【0105】
ロウ付けによって接合部材90を溝部80に接合する場合において、上記式(1)を満たすことで、溶融したロウ材(例えば、銀ロウ材)が毛細管現象によって適切に拡散する。なお、ロウ付けによって接合部材90を溝部80に接合する場合において、(R0-R1)を0.10~0.15とすることがより好ましい。
【0106】
TIG溶接によって接合部材90を溝部80に接合する場合において、上記式(1)を満たすことで、溶接作業性を向上することができる。なお、TIG溶接によって接合部材90を溝部80に接合する場合において、(R0-R1)は、できる限り小さいことが好ましい。すなわち、(R0-R1)は「0」とされてもよい。
【0107】
なお、上記式(1)を満たすことで、接合性が向上する以外にも、接合部材90が接合時の入熱に伴う溝部80の収縮変形を抑制する効果の向上も得られる。
【0108】
前述したように、接合部材90の形状は、溝部80の形状に対応して設定される。そこで、接合部材90は、
図6に示すように、接触面側から負圧面側に行くに伴って翼有効部20の根元側に翼高さ方向Dhの厚さが増加するように形成されることが好ましい。すなわち、接合部材90の下面(翼高さ方向Dhの下面)は、接触面側から負圧面側に行くに伴って翼有効部20の根元側に傾斜して広がるように形成されることが好ましい。
【0109】
また、接合部材90は、後縁側に行くに伴って、翼有効部20の根元側に翼高さ方向Dhの厚さが増加するように形成されることが好ましい。すなわち、接合部材90の下面(翼高さ方向Dhの下面)は、後縁側に行くに伴って、翼有効部20の根元側に傾斜して広がるように形成されることが好ましい。
【0110】
すなわち、接合部材90は、後縁側に行くに伴って翼有効部20の翼根元側に広がるとともに負圧面側に行くに伴って翼有効部20の翼根元側に広がる形状を備えることが好ましい。
【0111】
上記したことから、
図12に示すように、例えば、接合部材90の前縁側の端面96において、翼高さ方向Dhにおける負圧面側の接合部材90の厚さT2は、翼高さ方向Dhにおける接触面側の接合部材90の厚さT1よりも厚い。後縁側の溝部80の先端における接合部材90の厚さT0は、厚さT1よりも厚い。また、厚さT2は、厚さT0以上の厚さである。ここで、厚さT0は、溝部80の後縁側の先端における翼高さ方向Dhの溝深さ以下に設定される。厚さT2は、溝部80の最も前縁側でかつ最も負圧面側における翼高さ方向Dhの溝深さ以下に設定される。
【0112】
また、
図6に示すように、厚さT1および厚さT2は、翼高さ方向Dhにおける接触面72の厚さL0よりも厚い。なお、厚さT0は、翼高さ方向Dhにおける接触面72の厚さL0よりも厚い。
【0113】
ここで、動翼10が回転する際、接合部材90と溝部80との接合部には、圧力面側突出部60からの接触反力に加えて、負圧面側突出部70の遠心応力に起因するモーメント荷重が作用する。モーメント荷重は、負圧面側突出部70における翼高さ方向Dhの下部領域において接合部材90を剥離する方向に作用する。
【0114】
そこで、接合部材90の形状を接触面側から負圧面側に行くに伴って翼有効部20の根元側に翼高さ方向Dhの厚さが増加する形状とすることで、負圧面側突出部70の下部領域における応力集中が緩和される。
【0115】
また、翼高さ方向Dhにおいて、接合部材90の厚さを接触面72の厚さL0よりも厚くすることで、圧力面側突出部60からの接触反力に対しての強度を向上させることができる。
【0116】
なお、接合部材90の形状を接触面側から負圧面側に行くに伴って翼高さ方向Dhの厚さが一定の形状とすることもできるが、上記理由から、接合部材90の形状を接触面側から負圧面側に行くに伴って翼有効部20の根元側に翼高さ方向Dhの厚さが増加する形状とすることが好ましい。
【0117】
ここで、
図13は、実施の形態の動翼10における前縁側の翼先端22を回転方向Dcrの上流側における斜め下方から見たときの斜視図である。
【0118】
上記した接合部材90を溝部80に接合した場合、
図13に示すように、溝部80の翼高さ方向Dhの下方側において、溝部80が接合部材90によって充填されてない空間領域86が存在する。すなわち、溝部80の翼高さ方向Dhの下方側において、接合部材90で埋められていない空間領域86が存在する。
【0119】
そこで、翼高さ方向Dhの下方側における接合部材90の形状を空間領域86を充填する形状に構成してもよい。これによって、負圧面側突出部70の根元部74の形状は、溝部80が形成されていない状態の根元部74の形状とほぼ同じ形状となる。接合部材90をこの形状にすることで、負圧面側突出部70の下部領域における応力集中をさらに緩和することができる。
【0120】
ここで、上記した実施の形態の動翼10の構成は、新しい動翼(新翼)および使用された動翼(使用翼)に対して適用することができる。使用翼としては、例えば、負圧面側突出部70の根元部74が浸食された動翼などが挙げられる。
【0121】
ここで、実施の形態の動翼10の構成を新翼に対して適用する場合、まず、翼有効部20、翼植込部40および突出部50を備える翼本体を鋳造によって形成する。
【0122】
この際、突出部50の負圧面側突出部70における溝部80は、鋳造時に形成されてもよい。また、負圧面側突出部70に溝部80は、翼本体を鋳造後、機械加工によって形成されてもよい。
【0123】
続いて、接合部材90を鋳造または機械加工によって形成する。機械加工では、ブロック状の材料を切削して接合部材90を形成する。
【0124】
続いて、負圧面側突出部70の溝部80に接合部材90を嵌合して接合する。接合部材90は、ロウ付けまたはTIG溶接によって溝部80に接合される。なお、接合の際、接合部材90は、接合時の入熱に伴う溝部80の収縮変形を抑制する。
【0125】
一方、実施の形態の動翼10の構成を使用翼に対して適用する場合、まず、負圧面側突出部70の根元部74の浸食部を機械加工によって除去する。これによって、根元部74には、溝部80が形成される。
【0126】
続いて、接合部材90を鋳造または機械加工によって形成する。なお、接合部材90は、切削加工された溝部80の形状に対応して形成される。
【0127】
続いて、新翼の場合と同様に、負圧面側突出部70の溝部80に接合部材90を嵌合して接合する。
【0128】
このようにして、実施の形態の動翼10は製造される。
【0129】
上記した動翼10において、
図10に示すように、回転時に突出部50が全周一群の連結構造になった際、負圧面側突出部70の前縁側端面71において液滴を含む作動流体WFに衝突するのは、接合部材90の端面96である。
【0130】
このように、上記した実施の形態の動翼10では、作動流体WFに衝突する負圧面側突出部70の根元部74に耐エロ―ジョン性に優れた接合部材90を設けることで、根元部74におけるドロップレット・エロ―ジョンによる浸食を抑制できる。
【0131】
また、動翼10は、負圧面側突出部70の根元部74において浸食を受ける部分を接合部材90で置き換える構成を備える。これによって、根元部74において、接合部材90を除く負圧面側突出部70自体の浸食は、ほぼ生じない。
【0132】
そのため、例えば、長年の使用によって接合部材90が浸食された場合には、接合部材90のみを交換することができる。これによって、動翼10の使用寿命を延ばすことができるため、動翼10を使用することは経済的である。また、接合部材90の交換は、容易に行うことができる。
【0133】
実施の形態の構成を新翼に適用した場合には、負圧面側突出部70の根元部74におけるドロップレット・エロ―ジョンによる浸食を抑制できる動翼10を提供できる。
【0134】
実施の形態の構成を使用翼に適用した場合には、浸食が発生した負圧面側突出部70の根元部74のみを接合部材90に置き換えることで、根元部74以外の使用可能な部分を継続して使用することができる。すなわち、新翼に交換するとなく、使用翼を補修して使用することができる。これによって、動翼10のメンテナンス作業時間を短縮することができる。さらに、補修された使用翼は、根元部74における浸食を抑制する機能を備える。
【0135】
以上説明した実施形態によれば、翼先端における負圧面側突出部の根元部74の浸食を抑制しつつ、使用寿命を延ばすことが可能となる。
【0136】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0137】
10…動翼、20…翼有効部、21…翼根元、22…翼先端、23…圧力面、24…負圧面、25…前縁、26…後縁、30…中間連結部材、31…負圧面連結部材、31a、32a、72…接触面、32…圧力面側連結部材、40…翼植込部、41…プラットフォーム、42…外周面、45…翼根部、50…突出部、60…圧力面側突出部、61…後縁側端面、70…負圧面側突出部、71…前縁側端面、73…非接触面、74…根元部、80…溝部、81…開口、82、95…先端部、83、84、93、94…側面、85、91…先端部、86…空間領域、90…接合部材、92…凹み部、96…端面、200…蒸気タービン、210…ケーシング、220…タービンロータ、221…ロータホイール、223…植込溝、230…ダイアフラム外輪、231…ダイアフラム内輪、232…静翼、233…蒸気通路、240…グランドシール部、241…シール部、250…クロスオーバ管、Da…軸方向、Dc…周方向、Dcr…回転方向、Dh…翼高さ方向、Dr…半径方向、Dri…半径方向内側、Dro…半径方向外側、R0、R1…曲率半径、θ0…開先角度、θ1…テーパ角度。