(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20240213BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20240213BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20240213BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240213BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20240213BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20240213BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20240213BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240213BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/91 K
H01L29/91 F
H01L29/86 301F
H01L29/86 301D
H01L21/265 F
H01L21/265 601A
H01L21/265 601H
H01L29/78 301B
H01L29/78 301V
(21)【出願番号】P 2021150895
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 達雄
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-068722(JP,A)
【文献】特開2014-041917(JP,A)
【文献】特開2007-335508(JP,A)
【文献】特開2010-132556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 29/861
H01L 29/872
H01L 21/265
H01L 21/336
H01L 29/778
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層に炭素(C)又は酸素(O)のいずれか一方の元素を注入する第1のイオン注入を行い、
前記窒化物半導体層に水素(H)を注入する第2のイオン注入を行い、
前記第1のイオン注入、及び、前記第2のイオン注入の後に前記窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、
前記被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理の後に前記被覆層を剥離し、
前記被覆層を剥離した後に第2の熱処理を行う半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第2のイオン注入の水素のドーズ量は、前記第1のイオン注入の前記いずれか一方の元素のドーズ量よりも多い請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、前記第1のイオン注入で形成される前記いずれか一方の元素の濃度分布を包含する請求項1又は請求項2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記被覆層を形成する前に、前記窒化物半導体層にガリウム(Ga)を注入する第3のイオン注入を、更に行う請求項1ないし請求項3いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第3のイオン注入のガリウムのドーズ量は、前記第1のイオン注入の前記いずれか一方の元素のドーズ量よりも少ない請求項4記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第3のイオン注入で形成されるガリウムの濃度分布は、前記第1のイオン注入で形成される前記いずれか一方の元素の濃度分布に包含される請求項4又は請求項5記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第1のイオン注入の前記いずれか一方の元素のドーズ量は、1×10
11cm
-2以上1×10
15cm
-2以下である請求項1ないし請求項6いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2のイオン注入の水素のドーズ量は、1×10
15cm
-2以上である請求項1ないし請求項7いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第2の熱処理は、前記第1の熱処理より低い圧力で行われる請求項1ないし請求項8いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記被覆層は、窒化シリコンを含む請求項1ないし請求項9いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1の熱処理は、第1のステップと前記第1のステップに続く第2のステップを有し、前記第1のステップは前記被覆層の側が前記窒化物半導体層の側に対して正となる電圧を印加した状態で熱処理を行い、前記第2のステップは前記被覆層の側が前記窒化物半導体層の側に対して負となる電圧を印加した状態で熱処理を行う請求項1ないし請求項10いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
窒化物半導体層に炭素(C)又は酸素(O)のいずれか一方の元素を注入する第1のイオン注入を行い、
前記窒化物半導体層に水素(H)を注入する第2のイオン注入を行い、
前記第1のイオン注入、及び、前記第2のイオン注入の後に前記窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、
前記被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理の後に前記第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記被覆層を形成する前に、前記窒化物半導体層にガリウム(Ga)を注入する第3のイオン注入を、更に行う請求項12記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1の熱処理は水素を含む雰囲気中で行われ、前記第2の熱処理は水素を含まない雰囲気中か、又は、前記第1の熱処理の水素分圧よりも低い水素分圧の雰囲気中で行われる請求項12又は請求項13記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第2の熱処理は前記第1の熱処理の圧力よりも低い圧力で行われる請求項12ないし請求項14いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の中に位置し、アクセプタとしての活性化率が90%以上の炭素(C)を含むp型の第1の窒化物半導体領域と、
を備える半導体装置。
【請求項17】
前記第1の窒化物半導体領域の炭素濃度は1×10
16cm
-3以上である請求項16記載の半導体装置。
【請求項18】
前記窒化物半導体層の中に位置し、ドナーとしての活性化率が90%以上の酸素(O)を含むn型の第2の窒化物半導体領域を、更に備える請求項16又は請求項17記載の半導体装置。
【請求項19】
窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の中に位置し、ドナーとしての活性化率が90%以上の酸素(O)を含むn型の窒化物半導体領域と、
を備える半導体装置。
【請求項20】
前記窒化物半導体領域の酸素濃度は1×10
16cm
-3以上である請求項19記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源回路やインバータ回路などの回路には、トランジスタやダイオードなどの半導体素子が用いられる。これらの半導体素子には高耐圧及び低オン抵抗が求められる。そして、耐圧とオン抵抗の関係には、素子材料で決まるトレードオフ関係がある。
【0003】
技術開発の進歩により、半導体素子は、主たる素子材料であるシリコンの限界近くまで低オン抵抗が実現されている。耐圧を更に向上させたり、オン抵抗を更に低減させたりするには、素子材料の変更が必要である。窒化ガリウムや窒化アルミニウムガリウムなどの窒化物半導体を半導体素子の素子材料として用いることで、素子材料で決まるトレードオフ関係を改善できる。このため、半導体素子の飛躍的な高耐圧化や低オン抵抗化が可能である。
【0004】
窒化物半導体を用いて半導体素子を形成する場合、窒化物半導体の所望の位置に、イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することが望まれる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することにより、半導体素子の高性能化、低コスト化が容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、窒化物半導体にイオン注入法を用いて不純物領域を形成する半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層に炭素(C)又は酸素(O)のいずれか一方の元素を注入する第1のイオン注入を行い、前記窒化物半導体層に水素(H)を注入する第2のイオン注入を行い、前記第1のイオン注入、及び、前記第2のイオン注入の後に前記窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、前記被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、前記第1の熱処理の後に前記被覆層を剥離し、前記被覆層を剥離した後に第2の熱処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図。
【
図2】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図3】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図4】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図5】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図6】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図7】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図8】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図9】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図10】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図。
【
図11】第2の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図。
【
図12】第3の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図。
【
図13】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図14】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図15】第4の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図。
【
図16】第5の実施形態の半導体装置の模式断面図。
【
図17】第6の実施形態の半導体装置の模式断面図。
【
図18】第7の実施形態の半導体装置の模式断面図。
【
図19】第8の実施形態の半導体装置の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材についてはその説明を省略する場合がある。
【0010】
本明細書中、「窒化物半導体層」は「GaN系半導体」を含む。「GaN系半導体」とは、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)及びそれらの中間組成を備える半導体の総称である。
【0011】
本明細書中、「アンドープ」とは、不純物濃度が1×1015cm-3以下であることを意味する。
【0012】
本明細書中、部品等の位置関係を示すために、図面の上方向を「上」、図面の下方向を「下」と記述する。本明細書中、「上」、「下」の概念は、必ずしも重力の向きとの関係を示す用語ではない。
【0013】
また、以下の説明において、n+、n、n-及び、p+、p、p-の表記がある場合は、各導電型における不純物濃度の相対的な高低を表す。すなわちn+はnよりもn型不純物濃度が相対的に高く、n-はnよりもn型不純物濃度が相対的に低いことを示す。また、p+はpよりもp型不純物濃度が相対的に高く、p-はpよりもp型不純物濃度が相対的に低いことを示す。なお、n+型、n-型を単にn型、p+型、p-型を単にp型と記載する場合もある。
【0014】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層に炭素(C)又は酸素(O)のいずれか一方の元素を注入する第1のイオン注入を行い、窒化物半導体層に水素(H)を注入する第2のイオン注入を行い、第1のイオン注入、及び、第2のイオン注入の後に窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、第1の熱処理の後に被覆層を剥離し、被覆層を剥離した後に第2の熱処理を行う。
【0015】
図1は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図である。第1の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置は、p型不純物領域を有する窒化物半導体層を含む。
【0016】
【0017】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層準備ステップS101、炭素イオン注入ステップS102(第1のイオン注入)、ガリウムイオン注入ステップS103(第3のイオン注入)、水素イオン注入ステップS104(第2のイオン注入)、窒化シリコン層形成ステップS105(被覆層形成)、第1の窒素アニールステップS106(第1の熱処理)、窒化シリコン層剥離ステップS107(被覆層剥離)、第2の窒素アニールステップS108(第2の熱処理)を備える。
【0018】
最初に、窒化物半導体層10を準備する(S101:
図2)。窒化物半導体層10は、GaN系半導体である。以下、窒化物半導体層10が窒化ガリウム(GaN)である場合を例に説明する。
【0019】
次に、窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いて炭素(C)をイオン注入する(S102:
図3)。炭素のイオン注入は、第1のイオン注入に相当する。
【0020】
炭素をイオン注入することにより、窒化物半導体層10に不純物領域10aが形成される。例えば、炭素は、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0021】
炭素のドーズ量は、例えば、1×10
11cm
-2以上1×10
15cm
-2以下である。
図3には、深さ方向の炭素の濃度分布も示す。炭素の濃度分布は、炭素イオン注入の、イオン注入エネルギー、ドーズ量、及び、イオン注入回数を調整することで制御される。
【0022】
次に、窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いてガリウム(Ga)をイオン注入する(S103:
図4)。ガリウムのイオン注入は、第3のイオン注入に相当する。
【0023】
ガリウムは、不純物領域10aに導入される。例えば、ガリウムは、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0024】
ガリウムのドーズ量は、例えば、炭素のドーズ量よりも少ない。ガリウムのドーズ量は、例えば、1×1011cm-2以上1×1015cm-2以下である。
【0025】
図4には、ガリウムイオン注入直後の深さ方向のガリウムの濃度分布も示す。
図4に示すように、例えば、第3のイオン注入で形成されるガリウムの濃度分布が、第1のイオン注入で形成される炭素の濃度分布に包含されるように形成される。言い換えれば、例えば、不純物領域10aにおいて、深さ方向の任意の位置のガリウム濃度が、炭素濃度よりも低い。ガリウムの濃度分布は、ガリウムイオン注入の、イオン注入エネルギー、ドーズ量、及び、イオン注入回数を調整することで制御される。
【0026】
次に、窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いて水素(H)を、イオン注入する(S104:
図5)。水素のイオン注入は、第2のイオン注入に相当する。
【0027】
水素は、不純物領域10aに導入される。例えば、水素は、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0028】
第2のイオン注入の水素のドーズ量は、例えば、第1のイオン注入の炭素のドーズ量よりも多い。第2のイオン注入の水素のドーズ量は、例えば、第3のイオン注入のガリウムのドーズ量よりも多い。水素のドーズ量は、例えば、1×1015cm-2以上1×1016cm-2以下である。
【0029】
図5には、水素イオン注入直後の深さ方向の水素の濃度分布も示す。
図5に示すように、例えば、第2のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、第1のイオン注入で形成される炭素の濃度分布を包含し、かつ、第3のイオン注入で形成されるガリウムの濃度分布を包含するように形成される。言い換えれば、例えば、不純物領域10aにおいて、深さ方向の任意の位置の水素濃度が炭素濃度及びガリウム濃度よりも高い。水素の濃度分布は、水素イオン注入の、イオン注入エネルギー、ドーズ量、及び、イオン注入回数を調整することで制御される。
【0030】
なお、第1のイオン注入、第2のイオン注入、及び第3のイオン注入の順序は、入れ替わっても構わない。
【0031】
次に、公知の膜成長法を用いて、窒化物半導体層10の表面に、窒化シリコン層50を形成する(S105:
図6)。窒化シリコン層50は、被覆層の一例である。被覆層は、窒化シリコンに限られない。
【0032】
被覆層は、例えば、絶縁体である。被覆層は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、又は、窒化アルミニウムである。
【0033】
被覆層は、例えば、導電体又は半導体である。被覆層は、例えば、多結晶シリコンである。
【0034】
次に、第1の窒素アニールを行う(S106:
図7)。第1の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、900℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第1の窒素アニールは、第1の熱処理の一例である。
【0035】
第1の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、水素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0036】
次に、公知のウェットエッチング法を用いて、窒化物半導体層10の表面の窒化シリコン層50を剥離する(S107:
図8)。窒化物半導体層10の表面が露出する。
【0037】
次に、第2の窒素アニールを行う(S108:
図9)。第2の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、900℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第2の窒素アニールは、第2の熱処理の一例である。
【0038】
第2の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。第2の熱処理は、例えば、水素を含まない雰囲気中で行われる。
【0039】
以上の製造方法により、不純物領域10aを有する窒化物半導体層10が製造される。不純物領域10aは、導電性不純物である炭素が活性化されたp型の窒化物半導体領域である。不純物領域10aは、炭素を含むp型不純物領域である。不純物領域10aの炭素濃度は、例えば、1×1016cm-3以上である。
【0040】
以下、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0041】
窒化物半導体を用いて半導体素子を形成する場合、窒化物半導体の所望の位置に、イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することが望まれる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することにより、半導体素子の高性能化、低コスト化が容易になる。
【0042】
しかし、単に、窒化物半導体にp型やn型の導電性不純物をイオン注入し熱処理を行っても、低抵抗な導電性不純物領域を形成することが困難である。これは、熱処理により導電性不純物の活性化率を高くすることが困難なためである。
【0043】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、導電性不純物の活性化率を高くし、低抵抗な導電性不純物領域を形成することが可能となる。以下、詳述する。
【0044】
窒化ガリウム中の炭素は、空孔や格子間原子等の欠陥が存在しない理想的な状態では、ガリウムサイトよりも窒素サイトに入る方がエネルギー的に安定である。炭素は、窒化ガリウムの窒素サイトに入ることで、p型不純物すなわちアクセプタとして機能する。
【0045】
しかし、窒化ガリウム中に炭素を導入しても、炭素のアクセプタとしての活性化率が高くならず、炭素を含むp型不純物領域の電気抵抗が低くならないという問題がある。この問題の一因は、窒化ガリウム中に導入した炭素の一部がガリウムサイトに入ることによると考えられる。
【0046】
炭素は、窒化ガリウムのガリウムサイトに入ると、n型不純物すなわちドナーとして機能する。したがって、結果的に炭素のアクセプタとしての活性化率が低くなると考えられる。炭素が窒素サイトではなく、ガリウムサイトに入る要因は、例えば、窒化ガリウム中のガリウム空孔の存在が考えられる。また、p型不純物であるNサイトの炭素ができると、n型不純物であるGaサイトの炭素とが同時に出来るセルフコンペンセーションが起こり易くなると考えられる。本特許では、p型不純物を作る際に、不活性な水素結合炭素(H結合C)を経由するため、セルフコンペンセーションを起こさずに、最終的にp型不純物であるNサイトの炭素を形成することができる。
【0047】
炭素を含むp型不純物領域の電気抵抗を低下させるためには、炭素が窒化ガリウムのガリウムサイトに入ることを抑制し、窒化ガリウムの窒素サイトに入る炭素の割合を高くすることが必要となる。
【0048】
図10は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図である。
図10は、炭素が窒化ガリウム(GaN)に存在する各種状態のエネルギー計算の結果を示す図である。各種状態のエネルギーの計算は、第1原理計算により行われている。
【0049】
図10(a)は、炭素(C)が窒化ガリウム(GaN)の格子間位置に存在する状態(左図)と、窒素サイトに入った炭素(C)と格子間位置に存在する窒素(N)が共存する状態(右図)とのエネルギー差を比較する図である。以下、格子間位置に存在する炭素を格子間炭素、格子間位置に存在する窒素を格子間窒素とも記載する。
【0050】
図10(a)に示すように、窒素サイトに入った炭素(C)と格子間窒素が共存する状態の方が、格子間炭素が単独で存在する状態よりもエネルギー的に高い。窒素サイトに入った炭素(C)と格子間窒素が共存する状態のエネルギーが、格子間炭素が単独で存在する状態のエネルギーよりも3.0eV高い。したがって、格子間に炭素を導入するだけでは、窒素を窒素サイトから押し出し、炭素が窒素サイトに入ってアクセプタとなることが困難であることが分かる。
【0051】
発明者による検討の結果、格子間炭素が格子間水素と共存すると、炭素が水素と結合することで窒素サイトに入りやすくなることが明らかになった。
図10(b)は、格子間炭素が格子間水素と共存する状態(左図)と、水素と結合して窒素サイトに入った炭素が、格子間窒素と共存する状態(右図)とのエネルギー差を比較する図である。以下、水素と結合して窒素サイトに入った炭素を水素結合炭素(H結合C)とも記載する。
【0052】
図10(b)に示すように、水素結合炭素が格子間窒素と共存する状態の方が、格子間炭素が格子間水素と共存する状態よりもエネルギー的に低い。水素結合炭素が格子間窒素と共存する状態のエネルギーが、格子間炭素が格子間水素と共存する状態のエネルギーよりも1.0eV低い。
【0053】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の中に、第1のイオン注入で炭素を注入し、第2のイオン注入で水素を注入する。その後、第1の窒素アニールを行う。第1の窒素アニールにより、窒化物半導体層10の中で、炭素と水素が結合し、水素結合炭素が形成される。そして、水素結合炭素が窒化ガリウムの窒素サイトに入る。
【0054】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、特に、窒化物半導体層10の表面に、窒化シリコン層50を被覆層として形成する。そして、窒化シリコン層50が設けられた状態で第1の窒素アニールを行う。第1の窒素アニールは、窒化物半導体層10の表面をキャップした状態でのアニール(キャップアニール)である。このキャップは、窒化物半導体層10に水素を留める効果を発現する。したがって、水素結合炭素の形成が促進され、水素結合炭素が効率よく窒素サイトに入る
【0055】
また、第1の実施形態の製造方法では、炭素をイオン注入により、窒化物半導体層10に導入する。イオン注入のエネルギーにより、窒化ガリウム中に窒素空孔が形成される。窒素空孔が形成されることで、炭素が窒素サイトに入ることが更に促進される。
【0056】
第1の実施形態の製造方法によれば、窒化物半導体層10に炭素と水素を導入することにより、炭素が窒素サイトに入ることが促進される。したがって、窒化ガリウムの窒素サイトに入る炭素の割合を高くすることが可能となる。
【0057】
なお、水素結合炭素は、窒化ガリウムの中で不活性である。したがって、窒化ガリウムの中の炭素を活性化させるためには、水素結合炭素から水素を離脱させる必要がある。
【0058】
図10(c)に示すように、窒素サイトに水素結合炭素が存在する状態(左図)と、窒素サイトに存在する炭素から水素が離脱して水素分子(H
2)になった状態(右図)とのエネルギー差は、-0.2eVである。窒素サイトに存在する炭素から水素が離脱して水素分子(H
2)になった状態の方が、窒素サイトに水素結合炭素が存在する状態よりもエネルギーが低く安定である。したがって、炭素から水素が離脱して水素分子(H
2)になりやすいことが分かる。
【0059】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の表面の、窒化シリコン層50を剥離することで、窒化物半導体層10の表面を露出させる。この状態で、第2の窒素アニールを行う。第2の熱処理は、窒化物半導体層10の表面のキャップを取った上でのアニール(キャプレスアニール)となる。
【0060】
第2の窒素アニールをキャップレスアニールとしたことで、水素を窒化物半導体中に留めることが困難になる。このため、第2の窒素アニールにより、窒化物半導体層10の中の水素の外方拡散が促進される。したがって、炭素から水素が離脱し、窒素サイトに炭素が入った状態、すなわち、炭素が活性化した状態が実現される。炭素がp型不純物領域中で、アクセプタとして活性化された状態となる。
【0061】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、第1のイオン注入で炭素を窒化物半導体層10に注入する。この時、イオン注入のエネルギーにより、窒化ガリウム中に窒素空孔に加え、ガリウム空孔が形成される。形成されたガリウム空孔に炭素が入ると、炭素はドナーとして機能することになり好ましくない。
【0062】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、第3のイオン注入でガリウムを窒化物半導体層10に注入する。注入されたガリウムは第1の熱処理の際に、ガリウム空孔を埋める。したがって、ガリウム空孔に炭素が入ることが抑制され、ドナーとして機能する炭素が減少する。よって、第3のイオン注入を行うことにより、窒化ガリウムの窒素サイトに入る炭素の割合を更に高くすることが可能となる。
【0063】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、例えば、p型の不純物領域10aに含まれる炭素の、アクセプタとしての活性化率を90%以上とすることが可能である。言い換えれば、p型の不純物領域10aに含まれるすべての炭素原子の中で、アクセプタとして機能する炭素原子の割合を90%以上とすることが可能である。
【0064】
以上、第1の実施形態の半導体装置の製造方法よれば、窒化物半導体層10の中に第1のイオン注入で炭素を注入し、第2のイオン注入で水素を注入し、更に第3のイオン注入でガリウムを注入し、第1の熱処理(キャップアニール)及び第2の熱処理(キャップレスアニール)を行うことで、炭素のアクセプタとしての活性化率を高め、低抵抗のp型不純物領域を形成することが可能となる。
【0065】
被覆層は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を抑制し、水素結合炭素の生成効率を高くする観点から、窒化シリコンを含むことが好ましい。
【0066】
第1の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を抑制し、水素結合炭素の生成効率を高くする観点から、水素を含む雰囲気中で行われることが好ましい。また、第1の熱処理を、ヘリウムを含む雰囲気中で行うことが好ましい。ヘリウムを含む雰囲気中で第1の熱処理を行うことにより、被覆層中の水素の通り道を塞ぎ、水素の外方拡散を抑制することができる。
【0067】
第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、水素を含まない雰囲気中で行われることが好ましい。また、第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、第1の熱処理より低い圧力で行われることが好ましい。また、第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、大気圧より低い圧力で行われることが好ましい。また、第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、第1の熱処理より低い水素分圧で行われることが好ましい。また、第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、被覆層を剥離した後に行うことが好ましい。
【0068】
窒化物半導体層10中の水素結合炭素の生成効率を高くする観点から、第2のイオン注入の水素のドーズ量は、第1のイオン注入の炭素のドーズ量よりも多いことが好ましい。
【0069】
窒化物半導体層10中の水素結合炭素の生成効率を高くする観点から、
図5に示すように、第2のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、第1のイオン注入で形成される炭素濃度分布を包含することが好ましい。
【0070】
窒化物半導体層10中の水素結合炭素の生成効率を高くする観点から、第2のイオン注入の水素のドーズ量は、1×1015cm-2以上であることが好ましい。水素はc軸方向(基板垂直方向)に拡散し易いため、1×1015cm-2以上導入することで、確実に第1のイオン注入の炭素の隣接位置に拡散することが可能となる。最終的には、水素を外部に放出させてしまうため、窒化ガリウム中に水素が残留して問題になることはない。よって、水素の残留を気にせずに、十分な量の水素を導入することができる。
【0071】
第2のイオン注入の水素のドーズ量は、1×1016cm-2以下であることが好ましい。水素は軽元素ではあるが、1×1016cm-2を超えてイオン注入するとする、基板へのダメージが微量ながら生じるおそれがある。なお、1×1016cm-2以下でも水素結合炭素を十分に生成することが可能である。
【0072】
窒化物半導体層10中に窒素空孔が過剰に形成されることを抑制する観点から、第3のイオン注入のガリウムのドーズ量は、第1のイオン注入の炭素のドーズ量よりも少ないことが好ましい。更に、第3のイオン注入で注入されるガリウムの濃度は、第1のイオン注入で注入される炭素の濃度よりも、任意の位置において低いことが好ましい。
【0073】
窒化物半導体層10中の窒素空孔は、ドナーとして機能する。したがって、第3のイオン注入で窒素空孔が過剰に形成され、炭素で埋めることができないと、p型の不純物領域10aの電気抵抗が高くなる。
【0074】
窒化物半導体層10中に窒素空孔が過剰に形成されることを抑制する観点から、
図4に示すように、第3のイオン注入で形成されるガリウムの濃度分布は、第1のイオン注入で形成される炭素の濃度分布で包含されることが好ましい。
【0075】
なお、窒化物半導体層10が窒化ガリウム(GaN)である場合を例に説明したが、窒化物半導体層10が、AlGaN、AlN、あるいはInGaNなどの「GaN系半導体」を含めば、窒化ガリウムと同様の作用及び効果が実現される。
【0076】
(変形例)
第1の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例は、第1のイオン注入において、炭素(O)に代えて、酸素(O)をイオン注入する点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。第1の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例で製造される半導体装置は、n型不純物領域を有する窒化物半導体層を含む。
【0077】
変形例の製造方法では、炭素イオン注入ステップS102(第1のイオン注入)に代えて、酸素イオン注入ステップを第1のイオン注入として備える。変形例の製造方法で形成される不純物領域10aはn型となる。
【0078】
窒化ガリウム中の酸素は、空孔や格子間原子等の欠陥が存在しない理想的な状態では、ガリウムサイトよりも窒素サイトに入る方がエネルギー的に安定である。酸素は、窒化ガリウムの窒素サイトに入ることで、n型不純物すなわちドナーとして機能する。
【0079】
しかし、窒化ガリウム中に酸素を導入しても、酸素のドナーとしての活性化率が高くならず、酸素を含むn型不純物領域の電気抵抗が低くならないという問題がある。この問題の一因は、窒化ガリウム中に導入した酸素の一部がガリウムサイトに入ることによると考えられる。
【0080】
酸素は、窒化ガリウムのガリウムサイトに入ると、p型不純物すなわちアクセプタとして機能する。したがって、結果的に酸素のドナーとしての活性化率が低くなると考えられる。酸素が窒素サイトではなく、ガリウムサイトに入る要因は、例えば、窒化ガリウム中のガリウム空孔の存在が考えられる。また、n型不純物であるNサイトの酸素ができると、p型不純物であるGaサイトの酸素とが同時に出来るセルフコンペンセーションが起こり易くなると考えられる。本特許では、n型不純物を作る際に、不活性な水素結合酸素(H結合O)を経由するため、セルフコンペンセーションを起こさずに、最終的にn型不純物であるNサイトの酸素を形成することができる。
【0081】
酸素を含むn型不純物領域の電気抵抗を低下させるためには、酸素が窒化ガリウムのガリウムサイトに入ることを抑制し、窒化ガリウムの窒素サイトに入る酸素の割合を高くすることが必要となる。
【0082】
発明者による検討の結果、炭素の場合と同様、格子間酸素が格子間水素と共存すると、酸素が水素と結合することで窒素サイトに入りやすくなることが明らかになった。したがって、第1の実施形態の半導体装置の製造方法において、第1のイオン注入を炭素から酸素に代えることで、酸素についても、炭素と同様の作用が得られる。したがって、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例によれば、酸素のドナーとしての活性化率を高め、低抵抗のn型不純物領域を形成することが可能となる。
【0083】
変形例の製造方法により、不純物領域10aを有する窒化物半導体層10が製造される。不純物領域10aは、導電性不純物である酸素が活性化されたn型の窒化物半導体領域である。不純物領域10aは、酸素を含むn型不純物領域である。不純物領域10aの酸素濃度は、例えば、1×1016cm-3以上である。
【0084】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例によれば、例えば、n型の不純物領域10aに含まれる酸素の、ドナーとしての活性化率を90%以上とすることが可能である。言い換えれば、n型の不純物領域10aに含まれるすべての酸素原子の中で、ドナーとして機能する酸素原子の割合を90%以上とすることが可能である。
【0085】
以上、第1の実施形態の半導体装置の製造方法及び変形例によれば、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0086】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層に炭素(C)又は酸素(O)のいずれか一方の元素を注入する第1のイオン注入を行い、窒化物半導体層に水素(H)を注入する第2のイオン注入を行い、第1のイオン注入、及び、第2のイオン注入の後に窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、第1の熱処理の後に第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う。
【0087】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、第2の熱処理の前に被覆層を剥離しない点、及び、第1の熱処理の条件と第2の熱処理の条件とが異なる点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0088】
図11は、第2の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図である。第2の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置は、p型不純物領域を有する窒化物半導体層を含む。
【0089】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層準備ステップS101、炭素イオン注入ステップS102(第1のイオン注入)、ガリウムイオン注入ステップS103(第3のイオン注入)、水素イオン注入ステップS104(第2のイオン注入)、窒化シリコン層形成ステップS105(被覆層形成)、水素アニールステップS106(第1の熱処理)、窒素アニールステップS108(第2の熱処理)を備える。
【0090】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法では、第1の熱処理の後に、被覆層を剥離せずに、第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う。
【0091】
被覆層の形成までは、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と同様である。
【0092】
次に、水素アニールを行う(S106)。水素アニールは、例えば、水素を含む雰囲気中で、900℃以上1250℃以下の温度条件で行う。水素アニールは、第1の熱処理の一例である。水素アニールの際の雰囲気中の水素分圧は、例えば、100%である。
【0093】
次に、窒素アニールを行う(S108)。窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、900℃以上1250℃以下の温度条件で行う。窒素アニールは、第2の熱処理の一例である。
【0094】
第2の熱処理は、水素を含まない雰囲気中か、又は、第1の熱処理よりも低い水素分圧の雰囲気中で行われる。第2の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0095】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の表面に、窒化シリコン層50を被覆層として形成する。そして、窒化シリコン層50が設けられた状態で水素アニールを行う。水素アニールは、窒化物半導体層10の表面をキャップした状態でのアニール(キャップアニール)である。このキャップは、窒化物半導体層10に水素を留める効果を発現する。特に、水素を含む雰囲気中で行うことにより、窒化物半導体層10から水素が外方拡散することが抑制される。
【0096】
なお、水素結合炭素は、窒化ガリウムの中で不活性である。窒化ガリウムの中の炭素を活性化させるためには、水素結合炭素から水素を離脱させる必要がある。
【0097】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法では、第2の熱処理を、水素を含まない雰囲気中か、又は、第1の熱処理の水素分圧よりも低い水素分圧の雰囲気中で行う。したがって、窒化物半導体層10の中の水素の外方拡散が促進される。よって、水素結合炭素から水素が離脱し、窒素サイトに炭素が入った状態、すなわち、炭素がアクセプタとして活性化した状態が実現される。第2の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、炭素のアクセプタとしての活性化率を高め、低抵抗のp型不純物領域を形成することが可能となる。
【0098】
なお、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例と同様、第2の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例として、第1のイオン注入で酸素を注入することで、酸素のドナーとしての活性化率を高め、低抵抗のn型不純物領域を形成することが可能となる。
【0099】
以上、第2の実施形態の半導体装置の製造方法及び変形例によれば、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0100】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の半導体装置の製造方法は、第2の熱処理の前に被覆層を剥離しない点、及び、第1の熱処理の条件と第2の熱処理の条件とが異なる点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。また、第2の熱処理は第1の熱処理の圧力よりも低い圧力で行われる点で、第2の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。以下、第1の実施形態及び第2の実施形態と重複する内容については一部記述を省略する。
【0101】
図12は、第3の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図である。第3の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置は、p型不純物領域を有する窒化物半導体層を含む。
【0102】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層準備ステップS101、炭素イオン注入ステップS102(第1のイオン注入)、ガリウムイオン注入ステップS103(第3のイオン注入)、水素イオン注入ステップS104(第2のイオン注入)、窒化シリコン層形成ステップS105(被覆層形成)、第1の窒素アニールステップS106(第1の熱処理)、第2の窒素アニールステップS108(第2の熱処理)を備える。
【0103】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法では、第1の熱処理の後に、被覆層を剥離せずに、第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う。
【0104】
被覆層の形成までは、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と同様である。
【0105】
次に、第1の窒素アニールを行う(S106)。第1の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、900℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第1の窒素アニールは、例えば、大気圧で行われる。第1の窒素アニールは、第1の熱処理の一例である。
【0106】
第1の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、水素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0107】
次に、第2の窒素アニールを行う(S108)。第2の窒素アニールは、第1の窒素アニールよりも低い圧力で行われる。第2の窒素アニールは、例えば、大気圧より低い圧力で行われる。第2の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、900℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第2の窒素アニールは、第2の熱処理の一例である。
【0108】
第2の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。第2の熱処理は、例えば、水素を含まない雰囲気中で行われる。
【0109】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の表面に、窒化シリコン層50を被覆層として形成する。そして、窒化シリコン層50が設けられた状態で第1の窒素アニールを行う。第1の窒素アニールは、窒化物半導体層10の表面をキャップした状態でのアニール(キャップアニール)である。このキャップは、窒化物半導体層10中に水素を留める効果を発現する。
【0110】
なお、水素結合炭素は、窒化ガリウムの中で不活性である。窒化ガリウムの中の炭素を活性化させるためには、水素結合炭素から水素を離脱させる必要がある。
【0111】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法では、第2の熱処理を、第1の熱処理よりも低い圧力で行う。例えば、第1の熱処理を大気圧で行い、第2の熱処理を大気圧よりも低い圧力で行う。
【0112】
したがって、窒化物半導体層10の中の水素の外方拡散が促進される。よって、水素結合炭素から水素が離脱し、窒素サイトに炭素が入った状態、すなわち、炭素がアクセプタとして活性化した状態が実現される。第3の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、炭素のアクセプタとしての活性化率を高め、低抵抗のp型不純物領域を形成することが可能となる。
【0113】
なお、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例と同様、第3の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例として、第1のイオン注入で酸素を注入することで、酸素のドナーとしての活性化率を高め、低抵抗のn型不純物領域を形成することが可能となる。
【0114】
以上、第3の実施形態の半導体装置の製造方法及び変形例によれば、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0115】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の半導体装置の製造方法は、第1の熱処理は、第1のステップと第1のステップに続く第2のステップを有し、第1のステップは被覆層の側が窒化物半導体層の側に対して正となる電圧を印加した状態で熱処理を行い、第2のステップは被覆層の側が窒化物半導体層の側に対して負となる電圧を印加した状態で熱処理を行う点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については一部記述を省略する。
【0116】
第4の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置は、p型不純物領域を有する窒化物半導体層を含む。
【0117】
第4の実施形態の半導体装置の製造方法は、第1の窒素アニールステップS106(第1の熱処理)が、第1のステップと第2のステップとを有する以外は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と同様である。
【0118】
図13及び
図14は、第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図である。
図13は、第1の熱処理の第1のステップの説明図である。
図14は、第1の熱処理の第2のステップの説明図である。
【0119】
第1の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、900℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第1の窒素アニールは、第1の熱処理の一例である。
【0120】
第1の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、水素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0121】
第1の熱処理の第1のステップは、
図13に示すように、窒化シリコン層50の側が窒化物半導体層10の側に対して正となる電圧を印加した状態で熱処理を行う。例えば、窒化物半導体層10と窒化シリコン層50に電極を接触させて電圧を印加する。
【0122】
第1の熱処理の第2のステップは、
図14に示すように、窒化シリコン層50の側が窒化物半導体層10の側に対して負となる電圧を印加した状態で熱処理を行う。
【0123】
第4の実施形態の半導体装置の製造方法では、第1の熱処理の前に、窒化物半導体層10に、第2のイオン注入で水素(H)、第3のイオン注入でガリウム(Ga)をイオン注入する。絶縁層の中で、水素及びガリウムは正電荷を帯びる。
【0124】
第1のステップで、窒化シリコン層50の側が窒化物半導体層10の側に対して正となる電圧を印加することで、窒化物半導体層10の中の水素及びガリウムが、窒化シリコン層50を通って外方拡散することを抑制できる。したがって、水素結合炭素の生成効率を高くすることができる。また、炭素がガリウム空孔に入りドナーとなることが抑制できる。
【0125】
図15は、第4の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図である。
図15は、炭素が窒化ガリウム(GaN)に存在する状態のエネルギー計算の結果を示す図である。
【0126】
図15(a)は、格子間炭素が格子間水素と共存する状態(左図)と、水素結合炭素が、格子間窒素と共存する状態(右図)とのエネルギー差を比較する図である。
図15(a)は、
図10(b)と同じ図である。
【0127】
図15(b)は、格子間炭素が格子間水素と共存する状態(左図)と、水素結合炭素が存在する状態(右図)とのエネルギー差を比較する図である。すなわち、
図15(b)の右図の状態は、
図15(a)の右図の状態から窒素が外方拡散した状態を示す。
【0128】
図15(b)に示す窒素が外方拡散した場合の方が、
図15(a)に示す格子間窒素が
共存する場合に比べ、エネルギーが格段に低く安定である。
【0129】
絶縁層中の窒素は負に帯電する。したがって、第1のステップで、窒化シリコン層50の側が窒化物半導体層10の側に対して正となる電圧を印加することで、窒化物半導体層10の中の窒素が、窒化シリコン層50を通って外方拡散することを促進できる。よって、水素結合炭素の形成が促進される。
【0130】
また、第2のステップで、窒化シリコン層50の側が窒化物半導体層10の側に対して負となる電圧を印加することで、窒化物半導体層10の中の余剰のガリウム、及び水素が、窒化シリコン層50を通って外方拡散することを促進できる。窒化物半導体層10の中の余剰のガリウムは、半導体装置の特性を劣化させるおそれがある。したがって、第2のステップを行うことで、半導体装置の特性劣化を抑制できる。
【0131】
第4の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、炭素のアクセプタとしての活性化率を更に高め、更に低抵抗のp型不純物領域を形成することが可能となる。また、半導体装置の特性の劣化を抑制できる。
【0132】
なお、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例と同様、第4の実施形態の半導体装置の製造方法の変形例として、第1のイオン注入で酸素を注入することで、酸素のドナーとしての活性化率を高め、低抵抗のn型不純物領域を形成することが可能となる。
【0133】
以上、第4の実施形態の半導体装置の製造方法及び変形例によれば、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0134】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の中に位置し、アクセプタとしての活性化率が90%以上の炭素(C)を含むp型の第1の窒化物半導体領域と、窒化物半導体層の中に位置し、ドナーとしての活性化率が90%以上の酸素(O)を含むn型の第2の窒化物半導体領域と、を備える。第5の実施形態の半導体装置は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いて製造される。
【0135】
図16は、第5の実施形態の半導体装置の模式断面図である。第5の実施形態の半導体装置は、縦型のHigh Electron Mobility Transistor(HEMT)である。
【0136】
第5の実施形態の縦型HEMTは、窒化物半導体層10、ソース電極11、ドレイン電極12、ゲート電極13、窒化アルミニウム層14、層間絶縁層15を備える。窒化物半導体層10は、n+型のドレイン領域21、n-形のドリフト領域22、p型のボディ領域23(第1の窒化物半導体領域)、n+型のソース領域24(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)、p+型のコンタクト領域25(第1の窒化物半導体領域)を含む。
【0137】
窒化物半導体層10は、例えば、窒化ガリウムである。
【0138】
p型のボディ領域23は、炭素(C)をp型不純物として含む。ボディ領域23のp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下である。ボディ領域23の炭素のアクセプタとしての活性化率は90%以上である。ボディ領域23は、第1の窒化物半導体領域の一例である。
【0139】
n+型のソース領域24は、酸素(O)をn型不純物として含む。ソース領域24のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。ソース領域24の酸素のドナーとしての活性化率は90%以上である。ソース領域24は、第2の窒化物半導体領域又は窒化物半導体領域の一例である。
【0140】
p型のコンタクト領域25は、炭素(C)をp型不純物として含む。コンタクト領域25のp型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。コンタクト領域25の炭素のアクセプタとしての活性化率は90%以上である。コンタクト領域25は、第1の窒化物半導体領域の一例である。
【0141】
なお、不純物領域の活性化率は、例えば、Secondary Ion Mass Spectrometry(SIMS)を用いた不純物濃度測定と、ホール効果測定を用いたキャリア濃度測定から算出することができる。
【0142】
ボディ領域23、ソース領域24、及び、コンタクト領域25は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いることで、高い活性化率を実現することが可能となる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することにより、高性能化、低コスト化が実現している。
【0143】
第5の実施形態の縦型HEMTは、ドリフト領域22と窒化アルミニウム層14との間に形成される2次元電子ガスをキャリアとすることで、低いオン抵抗を実現できる。また、低抵抗なソース領域24を備えることで、低いオン抵抗を実現できる。また、ゲート電極13の直下にp型不純物濃度の高いボディ領域23を備えることで、ノーマリーオフ動作を実現できる。
【0144】
(第6の実施形態)
第6の実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の中に位置し、アクセプタとしての活性化率が90%以上の炭素(C)を含むp型の第1の窒化物半導体領域と、を備える。第6の実施形態の半導体装置は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いて製造される。
【0145】
図17は、第6の実施形態の半導体装置の模式断面図である。第6の実施形態の半導体装置は、Merged PiN Schottky Diode(MPSダイオード)である。
【0146】
第6の実施形態のMPSダイオードは、窒化物半導体層10、アノード電極31、カソード電極32を備える。窒化物半導体層10は、n+型領域33、n-形領域34、p+型領域35(第1の窒化物半導体領域)を含む。
【0147】
窒化物半導体層10は、例えば、窒化ガリウムである。
【0148】
p+型領域35は、炭素(C)をp型不純物として含む。p+型領域35のp型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。p+型領域35のアクセプタとしての活性化率は90%以上である。p+型領域35は、第1の窒化物半導体領域の一例である。
【0149】
p+型領域35は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いることで、高い活性化率を実現することが可能となる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域を形成することにより、高性能化、低コスト化が実現している。
【0150】
第6の実施形態のMPSダイオードは、p型不純物濃度の高いp+型領域35を備えることで、アノード電極31とp+型領域35のコンタクト抵抗が低減する。したがって、大きな順方向電流を流すことが可能となる。よって、高いサージ電流耐性が実現できる。
【0151】
(第7の実施形態)
第7の実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の中に位置し、アクセプタとしての活性化率が90%以上の炭素(C)を含むp型の第1の窒化物半導体領域と、窒化物半導体層の中に位置し、ドナーとしての活性化率が90%以上の酸素(O)を含むn型の第2の窒化物半導体領域と、を備える。第7の実施形態の半導体装置は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いて製造される。
【0152】
図18は、第7の実施形態の半導体装置の模式断面図である。第7の実施形態の半導体装置は、横型HEMTである。横型HEMTは、ゲート電極がトレンチ(リセス)内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
【0153】
第7の実施形態の横型HEMTは、窒化物半導体層10、ソース電極41、ドレイン電極42、ゲート電極43、ゲート絶縁層44、層間絶縁層45を備える。窒化物半導体層10は、基板51、バッファ層52、チャネル層53、バリア層54、n+型のソース領域55(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)、n+型のドレイン領域56(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)、p型のトレンチ底部領域57(第1の窒化物半導体領域)、トレンチ58を備える。
【0154】
窒化物半導体層10は、例えば、窒化ガリウムである。
【0155】
n+型のソース領域55は、酸素(O)をn型不純物として含む。ソース領域55のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。ソース領域55の酸素のドナーとしての活性化率は90%以上である。ソース領域55は、第2の窒化物半導体領域又は窒化物半導体領域の一例である。
【0156】
n+型のドレイン領域56は、酸素(O)をn型不純物として含む。ドレイン領域56のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。ドレイン領域56の酸素のドナーとしての活性化率は90%以上である。ドレイン領域56は、第2の窒化物半導体領域又は窒化物半導体領域の一例である。
【0157】
p型のトレンチ底部領域57は、炭素(C)をp型不純物として含む。トレンチ底部領域57のp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下である。トレンチ底部領域57の炭素のアクセプタとしての活性化率は90%以上である。トレンチ底部領域57は、第1の窒化物半導体領域の一例である。
【0158】
ソース領域55、ドレイン領域56、及び、トレンチ底部領域57は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いることで、高い活性化率を実現することが可能となる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することにより、高性能化、低コスト化が実現している。
【0159】
第7の実施形態の横型HEMTは、チャネル層53とバリア層54との間に形成される2次元電子ガスをキャリアとすることで、低いオン抵抗を実現できる。また、低抵抗なソース領域55、及び、ドレイン領域56を備えることで、低いオン抵抗を実現できる。また、ゲート電極43の直下にp型不純物濃度の高いトレンチ底部領域57を備えることで、閾値電圧を高くすることができる。
【0160】
(第8の実施形態)
第8の実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の中に位置し、アクセプタとしての活性化率が90%以上の炭素(C)を含むp型の第1の窒化物半導体領域と、窒化物半導体層の中に位置し、ドナーとしての活性化率が90%以上の酸素(O)を含むn型の第2の窒化物半導体領域と、を備える。第8の実施形態の半導体装置は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いて製造される。
【0161】
図19は、第8の実施形態の半導体装置の模式断面図である。第8の実施形態の半導体装置は、横型のHEMTである。横型HEMTは、ゲート電極がトレンチ(リセス)内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
【0162】
第8の実施形態の横型HEMTは、窒化物半導体層10、ソース電極41、ドレイン電極42、ゲート電極43、ゲート絶縁層44、第1の層間絶縁層45、第2の層間絶縁層46、第1の窒化アルミニウム層47を備える。窒化物半導体層10は、基板51、バッファ層52、チャネル層53、バリア層54、n+型のソース領域55(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)、n+型のドレイン領域56(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)、p型のトレンチ底部領域57(第1の窒化物半導体領域)、トレンチ58、第2の窒化アルミニウム層59を備える。
【0163】
窒化物半導体層10は、例えば、窒化ガリウムである。
【0164】
n+型のソース領域55は、酸素(O)をn型不純物として含む。ソース領域55のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。ソース領域55の酸素のドナーとしての活性化率は90%以上である。ソース領域55は、第2の窒化物半導体領域又は窒化物半導体領域の一例である。
【0165】
n+型のドレイン領域56は、酸素(O)をn型不純物として含む。ドレイン領域56のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。ドレイン領域56の酸素のドナーとしての活性化率は90%以上である。ドレイン領域56は、第2の窒化物半導体領域又は窒化物半導体領域の一例である。
【0166】
p型のトレンチ底部領域57は、炭素(C)をp型不純物として含む。トレンチ底部領域57のp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下である。トレンチ底部領域57の炭素のアクセプタとしての活性化率は90%以上である。トレンチ底部領域57は、第1の窒化物半導体領域の一例である。
【0167】
ソース領域55、ドレイン領域56、及び、トレンチ底部領域57は、第1ないし第4の実施形態の半導体装置の製造方法を用いることで、高い活性化率を実現することが可能となる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することにより、高性能化、低コスト化が実現している。
【0168】
第8の実施形態の横型HEMTは、第2の窒化アルミニウム層59とチャネル層53との間は、ヘテロ接合界面となる。ヘテロ接合界面に2次元電子ガスが形成され、キャリアとなる。したがって、低いオン抵抗を実現できる。また、低抵抗なソース領域55、及び、ドレイン領域56を備えることで、2次元電子ガスへのコンタクト抵抗が低減され、低いオン抵抗を実現できる。また、p型不純物濃度の高いトレンチ底部領域57を備えることで、閾値電圧を高くすることができる。トレンチ底部領域57は、トレンチ底付近の側面から底面の少なくとも一部の領域である。
【0169】
第5ないし第8の実施形態では、半導体装置としてHEMT又はダイオードを例に説明したが、本発明はその他の半導体装置に適用することも可能である。例えば、LED(Light Emmitting Diode)などの光半導体装置に、本発明を適用することも可能である。
【0170】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0171】
10 窒化物半導体層
10a 不純物領域(第1の窒化物半導体領域、第2の窒化物半導体領域)
23 ボディ領域(第1の窒化物半導体領域)
24 ソース領域(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)
25 コンタクト領域(第1の窒化物半導体領域)
35 p+型領域(第1の窒化物半導体領域)
50 窒化シリコン層(被覆層)
55 ソース領域(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)
56 ドレイン領域(第2の窒化物半導体領域、窒化物半導体領域)
57 トレンチ底部領域(第1の窒化物半導体領域)