(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ゼロ空間運動と同時にゼロ直交空間内でのクラッチングによりマニピュレータアームを位置決めするためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 34/35 20160101AFI20240213BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
A61B34/35
B25J11/00 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021165866
(22)【出願日】2021-10-08
(62)【分割の表示】P 2019182903の分割
【原出願日】2014-03-18
【審査請求日】2021-10-26
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510253996
【氏名又は名称】インテュイティブ サージカル オペレーションズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】アワータッシュ,アージャン
(72)【発明者】
【氏名】スワーアップ,ニティッシュ
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-334774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0264108(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30-34/35
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドエフェクタを有する器具を支持するように構成されたマニピュレータアームであって、前記マニピュレータアームは、遠位部分、ベースに結合された近位部分、及び前記遠位部分と前記ベースとの間の複数の関節を有し、前記複数の関節は、冗長性を有するとともに前記遠位部分の状態に対して前記複数の関節の異なる関節状態の範囲を可能にする自由度を提供し、前記複数の関節は、サーボ作動することによって動作可能であり、前記複数の関節をサーボ作動させることは、所望の状態に向かって前記複数の関節を駆動することを含む、マニピュレータアームと;
前記器具の器具シャフトを遠隔中心周りで枢動させながら前記エンドエフェクタの所望の操作運動を実行する操作指令を受信する入力部と;
を有する、システムであって、
前記異なる関節状態の範囲は部分空間A、B、C、D、E、及びFを有する前記複数の関節の関節速度の関節空間内にあり:
部分空間Aは、前記遠隔中心の瞬間的な動きをもたらす前記関節速度の部分空間である前記遠隔中心のゼロ直交空間であり、
部分空間Bは、前記遠隔中心の瞬間的な動きをもたらさない前記関節速度の部分空間である前記遠隔中心のゼロ空間であり、
部分空間Cは、前記エンドエフェクタの瞬間的な動きをもたらす前記関節速度の部分空間である前記エンドエフェクタのゼロ直交空間であり、
部分空間Dは、前記エンドエフェクタの瞬間的な動きをもたらさない前記関節速度の部分空間である前記エンドエフェクタのゼロ空間であり、
部分空間Eは、前記部分空間Aと前記部分空間Cの直和であり、前記直和は、前記遠隔中心、前記エンドエフェクタ、又は両方のいずれかの瞬間的な動きをもたらす前記関節速度の部分空間を確立し、
部分空間Fは、前記部分空間Bと前記部分空間Dの交わりであり、前記交わりは、前記遠隔中心又は前記エンドエフェクタいずれの瞬間的な動きももたらさない前記関節速度の部分空間を確立し、
前記システムはさらに:
前記マニピュレータアームに
前記入力部を結合するプロセッサであって、前記プロセッサは、操作モードを備えるように構成され、前記プロセッサはさらに、前記エンドエフェクタの位置を保持しながら前記遠隔中心の手動再位置決めを可能にするポートクラッチモード、又は前記遠隔中心の位置及び前記エンドエフェクタの位置を保持しながら前記マニピュレータアームの手動再位置決めを可能にするゼロクラッチモードを備えるように構成され、前記プロセッサは:
前記操作モードにおいて、前記操作指令を受信することに応答して、前記器具を前記遠隔中心周りで枢動させながら前記複数の関節を駆動して前記器具の前記エンドエフェクタを動かすこと、及び
前記ポートクラッチモード又は前記ゼロクラッチモードにおいて、前記ポートクラッチモード又は前記ゼロクラッチモードにしたがって前記複数の関節を動作させること、
を含む、動作を実行するように構成される、プロセッサ、
を有し、
前記ポートクラッチモードにしたがって前記複数の関節を動作させることは、前記プロセッサが前記複数の関節を、同時に:
前記エンドエフェクタのゼロ直交空間において、前記エンドエフェクタの位置が維持されるように前記複数の関節をサーボ作動させること、及び
前記エンドエフェクタのゼロ空間において、前記遠隔中心が外力によって動かされることを可能にするように前記複数の関節を浮動させること、
を行うように動作させることを含み、
前記ゼロクラッチモードにしたがって前記複数の関節を動作させることは、前記プロセッサが前記複数の関節を、同時に:
前記遠隔中心の位
置及び前記エンドエフェクタの位置
が維持
されるように
前記部分空間Eに沿って前記複数の関節をサーボ作動させるこ
と、及び
前記部分空間Fに沿って前記複数の関節を浮動させるこ
と、
を行うように動作させることを含む、
システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記ポートクラッチモードを備えるように構成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記ゼロクラッチモードを備えるようにさらに構成される
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記ゼロクラッチモードを備えるように構成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
関節部分空間において前記複数の関節の関節を浮動させることが、前記外力に応じて前記関節部分空間において前記関節の動きを容易にし:前記関節部分空間における前記関節の動きに関連付けられるモータのトルクをゼロにすることを含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
関節部分空間において前記複数の関節の前記関節を浮動させることが、前記外力に応じて前記関節部分空間における前記関節の動きを容易にし:差をゼロに設定することであって、前記差は、前記関節の測定位置と指令位置との間、又は前記関節の測定速度と指令速度との間である、設定することを含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記動作は、前記複数の関節の少なくとも1つの浮動関節に摩擦又は重力補償を提供することをさらに含む、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
マニピュレータアーム及び入力部を前記マニピュレータアームに結合するプロセッサを有するシステムの作動方法であって、前記マニピュレータアームは、エンドエフェクタを有する器具を支持し、前記マニピュレータアームは、遠位部分、ベースに結合された近位部分、及び前記遠位部分と前記ベースとの間の複数の関節を有し、前記複数の関節は、冗長性を有するとともに前記遠位部分の状態に対して前記複数の関節の異なる関節状態の範囲を可能にする自由度を提供し、前記複数の関節は、サーボ作動することによって動作可能であり、前記複数の関節をサーボ作動させることは、所望の状態に向かって前記複数の関節を駆動することを含み、前記入力部は、前記器具の器具シャフトを遠隔中心周りで枢動させながら前記エンドエフェクタの所望の操作運動を実行する操作指令を受信するように構成され、前記プロセッサは、操作モードを備えるように構成され、前記プロセッサはさらに、前記エンドエフェクタの位置を保持しながら前記遠隔中心の手動再位置決めを可能にするポートクラッチモード、又は前記遠隔中心の位置及び前記エンドエフェクタの位置を保持しながら前記マニピュレータアームの手動再位置決めを可能にするゼロクラッチモードを備えるように構成され、
前記異なる関節状態の範囲は部分空間A、B、C、D、E、及びFを有する前記複数の関節の関節速度の関節空間内にあり:
部分空間Aは、前記遠隔中心の瞬間的な動きをもたらす前記関節速度の部分空間である前記遠隔中心のゼロ直交空間であり、
部分空間Bは、前記遠隔中心の瞬間的な動きをもたらさない前記関節速度の部分空間である前記遠隔中心のゼロ空間であり、
部分空間Cは、前記エンドエフェクタの瞬間的な動きをもたらす前記関節速度の部分空間である前記エンドエフェクタのゼロ直交空間であり、
部分空間Dは、前記エンドエフェクタの瞬間的な動きをもたらさない前記関節速度の部分空間である前記エンドエフェクタのゼロ空間であり、
部分空間Eは、前記部分空間Aと前記部分空間Cの直和であり、前記直和は、前記遠隔中心、前記エンドエフェクタ、又は両方のいずれかの瞬間的な動きをもたらす前記関節速度の部分空間を確立し、
部分空間Fは、前記部分空間Bと前記部分空間Dの交わりであり、前記交わりは、前記遠隔中心又は前記エンドエフェクタいずれの瞬間的な動きももたらさない前記関節速度の部分空間を確立し、
前記方法は:
前記操作モードにおいて、前記操作指令を受信することに応答して、前記プロセッサが、前記器具の器具シャフトを前記遠隔中心周りで枢動させながら前記複数の関節を駆動して前記器具の前記エンドエフェクタを動かすステップ;及び
前記ポートクラッチモード又は前記ゼロクラッチモードにおいて、前記プロセッサが、前記ポートクラッチモード又は前記ゼロクラッチモードにしたがって前記複数の関節を動作させるステップ;
を含み、
前記ポートクラッチモードにしたがって前記複数の関節を動作させることは、前記プロセッサが前記複数の関節を、同時に:
前記エンドエフェクタのゼロ直交空間において、前記エンドエフェクタの位置が維持されるように前記複数の関節をサーボ作動させること、及び
前記エンドエフェクタのゼロ空間において、前記遠隔中心が外力によって動かされることを可能にするように前記複数の関節を浮動させること、
を行うように動作させることを含み、
前記ゼロクラッチモードにしたがって前記複数の関節を動作させることは、前記プロセッサが前記複数の関節を、同時に:
前記遠隔中心の位
置及び前記エンドエフェクタの位置
が維持
されるように
前記部分空間Eに沿って前記複数の関節をサーボ作動させるこ
と、及び
前記部分空間Fに沿って前記複数の関節を浮動させるこ
と、
を行うように動作させることを含む、
方法。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記ポートクラッチモードを備えるように構成される、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記ゼロクラッチモードを備えるようにさらに構成される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記ゼロクラッチモードを備えるように構成される、
請求項8に記載の方法。
【請求項12】
関節部分空間において前記複数の関節の関節を浮動させることが、前記外力に応じて前記関節部分空間において前記関節の動きを容易にし、前記関節部分空間における前記関節の動きに関連付けられるモータのトルクをゼロにする、
請求項8乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
関節部分空間において前記複数の関節の前記関節を浮動させることが、前記外力に応じて前記関節部分空間における前記関節の動きを容易にし:
差をゼロに設定することであって、前記差は、前記関節の測定位置と指令位置との間、又は前記関節の測定速度と指令速度との間である、
請求項8乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記プロセッサが、前記複数の関節の少なくとも1つの浮動関節に摩擦又は重力補償を提供するステップをさらに含む、
請求項8乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年3月15日に出願され“Systems and Methods for Positioning a Manipulator Arm by Clutching within a Null-Perpendicular Space Concurrent with Null-Space Movement”と題する米国仮特許出願第61/799,920号(代理人整理番号ISRG03900PROV/US)からの非仮出願であるとともに、同仮出願からの優先権を主張し、その全開示が参照により本出願に援用される。
【0002】
本出願は概して、所有者が共通する次の出願:“Control of Medical Robotic System Manipulator About Kinematic Singularities”と題する、2009年6月30日に出願された米国特許出願第12/494,695号;“Master Controller Having Redundant Degrees of Freedom and Added Forces to Create Internal Motion”と題する、2009年3月17日に出願された米国特許出願第12/406,004号;“Software Center and Highly Configurable Robotic Systems for Surgery and Other Uses”と題する、2005年5月19日に出願された米国特許出願第11/133,423号(米国特許第8,004,229号);“Offset Remote Center Manipulator For Robotic Surgery”と題する、2004年9月30日に出願された米国特許出願第10/957,077号(米国特許第7,594,912号);“Master Having Redundant Degrees of Freedom”と題する、1999年9月17日に出願された米国特許出願第09/398,507号(米国特許第6,714,839号);“Manipulator Arm-to-Patient Collision Avoidance Using a Null-Space”と題する、2012年6月1日に出願された米国仮出願第61/654,755号;“System and Methods for Avoiding Collisions Between Manipulator Arms Using a Null-Space”と題する、2012年6月1日に出願された米国仮出願第61/654,773号;に関連し、これらの開示は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
本発明は、概して、改良された手術及び/又はロボット装置、システム、及び方法を提供する。
【0004】
低侵襲医療技術は、診断又は外科手術中に損傷を受ける組織の量を低減させることを目的とし、それによって、患者の回復時間、不快感、及び有害な副作用を減少させる。何百万という「観血」又は従来の手術が、米国で毎年行われており、これらの手術の多くは、潜在的に低侵襲的な方法で行うことができる。しかしながら、比較的少数の手術のみが、低侵襲手術器具や技術の制限、及びそれら低侵襲手術器具や技術を習得するために必要な追加の外科的トレーニングに起因して、低侵襲技術を現在使用している。
【0005】
手術で使用される低侵襲遠隔手術システムは、外科医の器用さを増大させるように、及び外科医が離れた場所から患者を手術することを可能にするように開発されている。遠隔手術は、手で機器を直接的に保持し且つ動かすのではなく、手術器具の動きを操作するために、外科医が、例えばサーボ機構等の遠隔制御装置のいくつかのフォームを使用するような手術システムの総称である。このような遠隔手術システムでは、外科医には、遠離れた場所における手術部位の画像が提供される。典型的には適切なビューア又はディスプレイ上で手術部位の三次元画像を見ながら、外科医は、マスタ制御入力装置を操作することによって、患者に外科手術を行い、このマスタ制御入力装置はロボット器具の動作を制御する。ロボット手術器具は、患者内の手術部位において組織を治療するために、小さな、低侵襲手術開口部、大抵、観血手術のためにアクセスすることと関連付けられる外傷、を介して挿入されることができる。これらのロボットシステムは、大抵、低侵襲開口部において器具シャフトを枢動、開口部を通じた軸方向のシャフトの摺動、開口部内でのシャフトの回転、及び/又は同様の動作によって、非常に複雑な外科的タスクを行うために十分な器用さで手術器具の作業端部を移動させることができる。
【0006】
遠隔手術用に使用されるサーボ機構は、大抵、2つのマスタ制御装置(外科医の手の各々に対して1つ)からの入力を受け取り、そして2以上のロボットアーム又はマニピュレータを含み得る。画像取込装置によって表示されたロボット器具の画像への手の動きのマッピングは、それぞれの手に関連付けられた器具についての正確な制御を外科医に提供するのに役立つことができる。多くの手術ロボットシステムでは、1又は複数の追加のロボットマニピュレータアームが、内視鏡又は他の画像取込装置、追加の手術器具等を移動させるために含められる。
【0007】
様々な構造配置が、ロボットによる手術中に、手術器具を手術部位に支持するために、使用されることができる。従動リンク機構又は「スレーブ」は、大抵、ロボット手術マニピュレータと呼ばれており、低侵襲ロボット手術中にロボット手術マニピュレータとして使用される例示的なリンク機構配置は、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されており、これらの全体の開示は、参照により本明細書に援用される。これらのリンク機構は、大抵、シャフトを有する器具を保持するために、平行四辺形の配置を利用する。このようなマニピュレータ構造は、器具シャフトが、剛性シャフトの長さに沿った空間に位置する球状回転の遠隔センタの周りを枢動するように、器具の動きを拘束することができる。(例えば、腹腔鏡手術中、腹壁にトロカール又はカニューレを用いて)内部手術部位への切開点とこの回転の中心とを位置合わせすることによって、手術器具のエンドエフェクタは、腹壁に対して潜在的に危険な力を与えることなく、マニピュレータリンク機構を用いてシャフトの近位端部を移動させることによって、安全に位置決めされることができる。代替のマニピュレータ構造は、例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、及び特許文献9に記載されており、これらの全体の開示は、参照により本明細書に援用される。
【0008】
新しいロボット手術システム及び装置は非常に効果的であり且つ有用であることが判明しているが、依然としてさらなる改良が望まれている。例えば、マニピュレータアームが、特定の状況下で、さらなる運動又は形態を提供するために、追加的な冗長関節を含む可能性がある。しかし、低侵襲手術部位内で手術器具を移動させるとき、これらの関節は、特に、大きい角度範囲に亘って低侵襲開口部の周りに器具を枢動させるときに、患者の体外でのかなりの量の動き、しばしば、必要とされる又は予想されるより大きい動きを示す可能性がある。患者の体外での不慮のマニピュレータ/マニピュレータ接触(等)を防止しながら挿入部位に対する枢動運動を拘束するように高度に設定可能な運動学的マニピュレータ関節セットに対するソフトウェア制御を用いる代替のマニピュレータ構造が提案されている。これらの代替の高度に設定可能な「ソフトウェアセンタ」手術マニピュレータシステムは、重要な利点を提供し得るが、課題も存在し得る。特に、機械的に拘束された遠隔センタリンク機構は、いくつかの条件で安全性に関する利点を有し得る。加えて、これらのマニピュレータに大抵含まれる多くの関節の広範囲の構成は、マニピュレータが、特定の処置に望ましい形態に手動で設定することが困難であることをもたらし得る。それにもかかわらず、遠隔手術システムを用いて行われる手術の範囲は拡大し続けているので、利用可能な構成及び患者内の器具の可動域を拡張するための要求が高まっている。残念ながら、これらの両方の変化は、体外のマニピュレータの動きに関連する課題を増大させ、また、幾つかのタスクに対するマニピュレータアームの過度の動きを避けることの重要性も高め得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第6,758,843号
【文献】米国特許第6,246,200号
【文献】米国特許第5,800,423号
【文献】米国特許第6,702,805号
【文献】米国特許第6,676,669号
【文献】米国特許第5,855,583号
【文献】米国特許第5,808,665号
【文献】米国特許第5,445,166号
【文献】米国特許第5,184,601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの及び他の理由のために、手術、ロボット手術及び他のロボット用途のための、改良された装置、システム、及び方法を提供することが有利であり、これらの改良された技術が、マニピュレータのセットアップ又は位置決めの間にマニピュレータアームのより一貫性があり且つ予測可能な運動を提供する能力を提供する場合には、それは特に有益である。それらの器用さを維持又は向上させたまま、寸法、機械的な複雑さ、又はこれらのシステムのコストを大幅に増加させることなく、少なくともいくつかのタスクに対して器具の動作範囲を増加させながら、このような改良を提供することがさらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は概して、改良されたロボット及び/又は手術装置、システム、及び方法を提供する。多くの実施形態では、本発明は、高度に設定可能な手術ロボットマニピュレータを用いる。これらのマニピュレータは、例えば、関連付けられる手術用エンドエフェクタが手術作業空間内で有するよりも、大きい運動の自由度を有し得る。本発明によるロボット手術システムは、典型的には、ロボット手術器具を支持するマニピュレータアーム、及び、器具のエンドエフェクタを操作するために協調関節運動を計算するためのプロセッサを含む。エンドエフェクタを支持するロボットマニピュレータの関節は、マニピュレータが、与えられたエンドエフェクタの位置及び/又は与えられた枢動(pivot)ポイント位置についての異なる形態の範囲に亘って動くことを可能にする。1つの態様では、本発明は、1又は複数の関節が、衝突回避又はアームを所望の姿勢に向かって駆動するような、様々な他のタスク又は所望の運動を生じさせるように、ゼロ空間(null space)内で駆動される間に、遠位エンドエフェクタ及び/又は遠隔中心(remote center)のような、マニピュレータアームの遠位部分が再位置決めされることを可能にするように、ゼロ直交空間(null-perpendicular space)内で1又は複数の関節を浮動(foating)させることによってマニピュレータアームの改良された運動を提供する。
【0012】
1つの態様では、ロボット手術システムは、1又は複数の関節が、エンドエフェクタ又は遠位エンドエフェクタ又はその周りを手術中にエンドエフェクタの器具シャフトが低侵襲開口部に隣接して枢動する遠隔中心のような、マニピュレータの遠位部分の運動をもたらす関節速度部分空間内で1又は複数の軸(例えば、1又は複数の自由度)に沿って浮動することを可能にされる、1又は複数のクラッチモードを利用し得る。この関節速度部分空間は、ゼロ直交空間と称され、このゼロ直交空間は、関節の運動がエンドエフェクタ及び/又は遠隔中心の状態に変化をもたらさないゼロ空間と直交する。マニピュレータアームは高度に設定可能であり、大抵、形態及び関節状態の範囲がエンドエフェクタ又は遠隔中心の与えられた状態に対して利用可能であるような冗長関節を含むので、エンドエフェクタのような、遠位部分の運動は、セットアップ(set-up)中、不完全な状態にされた形態又はマニピュレータアームと隣接するアーム又は人との間の接触をもたらすマニピュレータアームの近位部分の望ましくない運動をもたらし得る。例えば、本明細書において「ドッキング」と称される、手術前に低侵襲開口部のカニューレ内にツール先端又はマニピュレータの遠位エンドエフェクタを挿入又は位置決めするとき、ツール先端又はエンドエフェクタの運動は、マニピュレータアームのより近位部分の望ましくない運動をもたらす場合がある。したがって、1つの態様では、本発明は、ユーザ又は患者側助手が手術中にエンドエフェクタ及び/又は遠隔中心を手動でバックドライブ(backdrive)又は再位置決めできるように、ゼロ直交空間内での1又は複数の関節の浮動によってマニピュレータの改良された運動を提供する一方、マニピュレータの1又は複数の他の関節の運動は、衝突回避、所望の姿勢に向かう運動、又はゼロ空間(エンドエフェクタ又は遠隔中心とともに動くゼロ空間)を使用する様々なアルゴリズムに従う運動のような、様々な他のタスクをもたらすことによるマニピュレータアームの近位部分の改良された運動を提供するように、ゼロ空間内で駆動される。この態様は、患者側助手が、マニピュレータのそれぞれの他の関節を駆動又は操作することなしに、手術に備えるためにカニューレ内にエンドエフェクタを「ドッキング」させることを可能にすることによって、マニピュレータアームのセットアップを単純にする。この態様は、高度に設定可能なマニピュレータアーム、特に、冗長関節を有するマニピュレータ及び1又は複数の関節の主要な計算が位置ではなく速度に基づくヤコビアンベースのコントローラを利用するマニピュレータアームにおいて特に有益である。これらの特徴は、様々な他のクラッチングモード又は本明細書に記載される運動のいずれかと独立して又は組み合わせて、クラッチ機能又はクラッチモード(例えば、ゼロ直交空間浮動クラッチ)として用いられ得る。加えて、上述の特徴の様々な態様は、本明細書に記載される運動又はモードの1又は複数に組み込まれ得る。
【0013】
幾つかの実施形態では、マニピュレータアームは、衝突を回避するために、所望の姿勢に向かって動くための又は関節の調整を改良するための補助運動のような、様々な種類の運動を可能にする付加的な冗長関節を含み得る。幾つかの実施形態では、空間の固定ポイント周りにツールを枢動させるように機械的に拘束されるロボット装置、又は低侵襲開口部の組織の周りに受動的に枢動する受動関節を有するロボット装置に依存するのではなく、本発明は、開口部位の周りにマニピュレータリンク機構のリンクを枢動させることを含む動作を計算し得る。エンドエフェクタを支持するロボットリンク機構の自由度は、リンク機構が、与えられたエンドエフェクタ位置に対する形態の範囲にわたって動くことを可能にすることができ、システムは、リンク機構を、1又は複数の動いているロボット構造を巻き込む衝突を防止する形態に駆動し得る。高度に柔軟なロボットリンク機構のセットアップは、リンク機構は手動で位置決めされながら、リンク機構の1又は複数の関節を駆動するプロセッサによって容易にされることができる。関節状態センサが、後続の計算された関節運動での使用のための浮動関節の手動バックドライブ運動を感知するために使用され得る。
【0014】
幾つかの実施形態では、本発明は、患者側助手が、エンドエフェクタ又はその周りでエンドエフェクタが枢動する遠隔中心を、所望の位置(例えば、場所又はアライメント)に手動でバックドライブすることを可能にするように、関節の第1のセットの浮動を可能にする一方、関節の第2のセットが、所望の状態又は運動にしたがってマニピュレータアームを動かすように駆動される。この態様は、関節の第2のセットが、衝突回避、姿勢選択又は他の所望の運動のような、1又は複数の補助タスクを生じさせるようにゼロ空間内で駆動されながら、ゼロ直交空間内で浮動するように関節の第1のセットを駆動することによって達成される。システムは、関節の第2のセットの補助運動が計算されるゼロ空間を決定するために関節の手動移動の間の浮動関節の運動を感知する。マニピュレータアームは、使用される場合、拘束条件のセットに対して機械的に「ロック」される必要はなく、むしろ、拘束条件のセットは、ゼロ空間内で動くときマニピュレータアームの1又は複数の関節の運動を導くために利用されることができることが留意されるべきである。
【0015】
一般的に、「浮動関節」を手動でバックドライブすることは、それに応じた様々な他の関節の運動をもたらし、マニピュレータアームと隣接するアーム又は人との間の衝突、過度な運動、或いは望ましくない又は不完全な状態にされた姿勢のような、1又は複数の関節の望ましくない運動をもたらし得る。マニピュレータアームの一部を手動でバックドライブすることは、エンドエフェクタの操作で使用されるのと同じ関節を用い得る、或いは様々な他の選択された関節又は関節のセットを含み得る。マニピュレータアームの改良された運動を提供するために、冗長自由度が、エンドエフェクタ又は遠隔中心の浮動と同時にゼロ空間内でのマニピュレータアームの運動を決定するために使用され得る。これは、ゼロ直交空間内(すなわち、エンドエフェクタ及び/又は遠隔中心の運動をもたらす関節速度部分空間)で関節の第1のセットを「浮動させ」且つゼロ空間内(すなわち、エンドエフェクタ及び/又は遠隔中心の位置を維持する関節速度部分空間、ゼロ空間はゼロ直交空間と直交する)で関節の第2のセットを駆動する、複数の関節の関節運動を計算することによって達成され得る。ゼロ空間内で関節の第2のセットを駆動することは、エンドエフェクタの手動バックドライブ運動中に遠位エンドエフェクタに近位のマニピュレータアームの一部の所望の運動を提供するために、様々なアルゴリズムにしたがう位置決め中にマニピュレータアームの運動の繰り返し可能及び/又は所望のパターンを可能にする。典型的には、これらの特徴は、セットアップ又は手術前のエンドエフェクタのドッキング又は手術中の再位置決めを可能にするようにクラッチモードに含まれる。
【0016】
1つの態様では、冗長自由度を有するマニピュレータアームの運動は、ヤコビアンベースのコントローラを使用することによってのように、関節速度に基づいた主要な計算を利用する。本明細書で記載されるとき、関節の「浮動」は、概して、関節の運動に関連付けられるモータのトルクをゼロにするように関節を駆動することとして記載されることができる(例えば、コントローラメモリは、測定された位置及び速度と指令位置及び速度との間の差がゼロであるように、入力値と等しくなるように継続的にリセットされ得る)。しかし、関節の運動をもたらし得るトルクのゼロ化にもかかわらず、摩擦補償、重力補償等のために使用され得るような、様々なコントローラ機能が依然として浮動関節にトルクを与えることができ、このような機能は、関節の浮動中に変更のないままであることが理解されるべきである。本明細書で記載されるとき、関節を「サーボする」ことは、概して、遠位エンドエフェクタのような、マニピュレータの部分を、任意の特定の関節の機械的なロックを必要とせずに、所望の状態で「ロック」された状態に保つように、所望の状態(例えば、位置、アライメント、他)を維持するために必要なトルクで関節を駆動することとして記載されることができる
多くの実施形態では、プロセッサの第1及び第2のモジュールは、上述のような、クラッチモード及び所望の組織操作運動にしたがうエンドエフェクタの運動が外科医によって命令される組織操作モードのような、異なる制御モードで異なって使用される。組織操作モードは、大抵、マスタ/スレーブモードを含む。特定の関節の有効な自由度は、組織操作モードと比べてクラッチモードにおいて異なり得る。例えば、6以上の機械的自由度を持つエンドエフェクタを提供するマニピュレータアセンブリは、エンドエフェクタが、もっぱら、関節が存在しない所に位置する枢動回転中心周りの空間で動かされることを可能にするように、拘束されることができる。代替的には、このようなエンドエフェクタは、全てのリンク機構及びマニピュレータリンク機構アセンブリの関節軸に対してスキュー角にある任意の面に沿って並進移動可能であり得る。
【0017】
マニピュレータアセンブリは、大抵、取付インターフェイスとエンドエフェクタの間に延びるシャフトを有する手術ツール又は器具を有する。第1のモードのプロセッサは、シャフトが低侵襲開口部位を通過するように、内部手術空間内のエンドエフェクタの所望の運動を引き出すように構成され得る。このようなマスタ/スレーブコントローラは、例えば、大抵第1のモジュールの一部を含む、逆ヤコビ行列、又は代替的に拡張ヤコビアンを使用する速度コントローラを有し得る。第2のモジュールは、第2の又はクラッチモードで使用されることができ、クラッチモードで許容される関節速度の組み合わせを提供するために逆ヤコビ行列とともにクラッチ行列の射影(projection)を用い得る。クラッチモードのプロセッサは、関節運動或いは所望の位置へのマニピュレータの第1の部分(例えば、エンドエフェクタ又は関連付けられる遠隔中心)の運動を可能にするように関節部分空間内で関節の第1のセットを浮動させ得る一方、様々なゼロ空間アルゴリズムにしたがってマニピュレータの他の部分(例えば、近位ベースと遠位エンドエフェクタとの間の近位部分)の所望の運動を提供するように、1又は複数のゼロ空間アルゴリズムにしたがって関節の第2のセットを駆動する。幾つかの実施形態では、エンドエフェクタ(又はマニピュレータの他の構造)の配向(orientation)は、その構造が新しい場所へのバックドライブすることによって手動で並進移動される間、被動クラッチ関節の駆動によって、配向に関して拘束され得る。
【0018】
本発明の1つの態様では、操作入力部を備える冗長自由度(RDOF)手術ロボットシステムが提供される。RDOF手術ロボットシステムは、マニピュレータアセンブリ、1又は複数のユーザ入力装置、及びコントローラを持つプロセッサを有する。アセンブリのマニピュレータアームは、与えられたエンドエフェクタ状態に対して関節状態の範囲を可能にする十分な自由度を提供する複数の関節を有する。エンドエフェクタを所望の運動で動かすように組織操作指令を受信することに応じて、システムは、ゼロ空間に直交するヤコビアンのゼロ直交空間内で関節速度を計算することによって関節のエンドエフェクタ変位運動を計算し、所望のエンドエフェクタ運動を生じさせるように計算された運動にしたがって関節を駆動する。上述の様々な他の種類の運動のための増大した操作性及び動作範囲を提供するために、システムは、マニピュレータの遠位器具シャフトのピッチに影響を及ぼす回転最近位関節及び/又は器具シャフトのピボット運動に影響を及ぼすマニピュレータアームの近位部分に器具を結合する遠位回転関節を含み得る。幾つかの実施形態では、これらの関節の一方又は両方はまた、本明細書に記載されるクラッチモードのいずれかで利用され得る。
【0019】
本発明の他の態様では、マニピュレータは、器具シャフトの中間部分が遠隔中心周りに枢動するよう動くように構成される。マニピュレータと器具との間には、器具シャフトの中間部分がアクセス部位を通過するとき、エンドエフェクタ位置に対する関節状態の範囲を可能にするように十分な自由度を提供する複数の被動関節がある。コントローラを有するプロセッサは、入力装置をマニピュレータに結合する。典型的には、組織操作モードにおいて、所望のエンドエフェクタ運動をもたらす操作指令を受信することに応じて、システムは、ゼロ空間に直交するヤコビアンのゼロ直交空間内で関節速度を計算することを含む、関節のエンドエフェクタ変位運動を計算し、器具シャフトが遠隔中心周りに枢動する所望のエンドエフェクタ運動を生じさせるように計算された運動に従って関節を駆動する。クラッチモードでは、プロセッサは、患者側助手が器具の中間部分をアクセス部位の中で動かすことを可能にするように関節の第1のセットを浮動させるように1又は複数の関節の運動を決定し、その周りをシャフトが枢動する所望の遠隔中心位置を保つ。これは、本発明の原理に従うクラッチモードの多くの変形の1つであるが、クラッチモードは、様々な他の関節が所望の状態に維持されながら、ツール先端又は遠位エンドエフェクタ又はその周りをエンドエフェクタが枢動する遠隔中心の1つ又はいずれも浮動させるように構成され得ることが理解される。加えて、様々なクラッチモードが、必要に応じて様々な他のタスクを生じさせるために同時に使用され得ることが理解される。
【0020】
幾つかの態様では、マニピュレータの関節の第1のセットからの第1の関節が、マニピュレータアームをベースに結合する回転関節である。エンドエフェクタの所望の状態は、エンドエフェクタの所望の位置、速度又は加速度を含み得る。本発明のさらに他の態様では、近位回転関節及び遠位平行四辺形リンク機構を持つ手術ロボットマニピュレータが提供され、回転関節の枢動軸は、エンドエフェクタの器具シャフトの軸と、好ましくは、該当する場合は遠隔中心で、実質的に交差する。システムはさらに、入力部をマニピュレータアームと結合するコントローラを有し、ユーザの入力指令に応じて複数の関節の運動を計算するように構成されるプロセッサを含む。システムは、関節の第2のセットの1又は複数の関節が、衝突回避、姿勢選択、又はマニピュレータアームの調整を改良するためにのような、様々なタスクを生じさせるために、1又は複数のアルゴリズムにしたがってゼロ空間内で駆動されながら、複数の関節の第1のセットが、ゼロ直交空間内で、患者側助手がエンドエフェクタ又はその周りでエンドエフェクタが手術のために所望の位置に動く遠隔中心を動かすことを可能にするように、浮動するクラッチモードを含み得る。本明細書に記載される実施形態のいずれかにおいて、関節の第1及び第2のセットのそれぞれは、1又は複数の関節を含み得るとともに、第1及び第2の関節は、1又は複数の関節を共通して含み得る又は完全に頃なる関節のセットであり得る。
【0021】
本発明の性質及び利点のさらなる理解は、明細書の残りの部分及び図面を参照することによって明らかになるであろう。しかし、図のそれぞれは、単なる説明目的のために提供されているもので、本発明の範囲の限定の定義として意図されないことが理解されるべきである。さらに、記載される実施形態のいずれかの特徴のいずれも、修正され且つ本明細書に記載される又は当業者に知られている様々な他の特徴のいずれかと組み合わされることができ、依然として本発明の精神及び範囲の中に留まることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】本発明の実施形態によるロボット手術システムの上面図であり、ロボット手術システムは、患者内の内部手術部位で手術用エンドエフェクタを有する手術器具をロボット式に動かすための複数のロボットマニピュレータを持つ手術ステーションを有する。
【
図2】
図1Aの手術システムに外科手術指令を入力するためのマスタ外科医コンソール又はワークステーションを示す斜視図であり、コンソールは、入力指令に応じてマニピュレータ指令信号を生成するためのプロセッサを含む。
【
図4】4つのマニピュレータアームを有する患者側カートの斜視図である。
【
図6A】それぞれピッチフォワード形態及びピッチバック形態にある例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図6B】それぞれピッチフォワード形態及びピッチバック形態にある例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図6C】ピッチフォワード及びピッチバック形態のそれぞれにおける沈黙円錐又は円錐ツールアクセス制限区域を含む、例示的なマニピュレータアームの手術器具エンドエフェクタの動作範囲の図形表現を示す。
【
図7A】近位回転関節の軸周りにマニピュレータアームを回転させる近位回転関節を有する例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図7B】例示的なマニピュレータアーム並びに関連付けられる動作範囲及び沈黙円錐を示し、例示的なマニピュレータアームは、近位回転関節の軸周りにマニピュレータアームを回転させる近位回転関節を有し、その運動は描かれた沈黙円錐を緩和するために使用されることができる。
【
図8A】遠位器具ホルダ近くに回転関節を有する例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図8B】遠位器具ホルダ近くに回転関節を有する例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図9A】プロセッサが手動バックドライビング運動に応じてマニピュレータ関節を設定しながら低侵襲開口部に隣接して手術ツールの手動位置決めを容易にするためにクラッチ入力スイッチを有する高度に柔軟なマニピュレータアセンブリを概略的に示す。
【
図9B】アームの手動バックドライビング運動中の代替関節形態の範囲内のマニピュレータアセンブリの関節の再配置を概略的に示す。
【
図9C】アームの手動バックドライビング運動中の代替関節形態の範囲内のマニピュレータアセンブリの関節の再配置を概略的に示す。
【
図10A】関節が関節運動のその範囲にわたって動かされる際、遠位器具ホルダ近くに回転関節を有する例示的なマニピュレータアームの連続した図を示す。
【
図10B】関節が関節運動のその範囲にわたって動かされる際、遠位器具ホルダ近くに回転関節を有する例示的なマニピュレータアームの連続した図を示す。
【
図10C】関節が関節運動のその範囲にわたって動かされる際、遠位器具ホルダ近くに回転関節を有する例示的なマニピュレータアームの連続した図を示す。
【
図11A】関節の角度変位がそれぞれ0°対90°の角度変位であるときの遠位回転関節を有する例示的なマニピュレータアームの回転した側面図を示す。
【
図11B】関節の角度変位がそれぞれ0°対90°の角度変位であるときの遠位回転関節を有する例示的なマニピュレータアームの回転した側面図を示す。
【
図12A】湾曲経路の周りにマニピュレータアームを支持する近位関節を並進移動させる近位関節を有する例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図12B】湾曲経路の周りにマニピュレータアームを支持する近位関節を並進移動させる近位関節を有する例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図12C】湾曲経路の周りにマニピュレータアームを支持する近位関節を並進移動させる近位関節を有する例示的なマニピュレータアームを示す。
【
図13A】例示的なマニピュレータアセンブリのヤコビアンのゼロ空間とゼロ直交空間との間の関係を図で示す。
【
図13B】例示的なマニピュレータアセンブリのヤコビアンのゼロ空間とゼロ直交空間との間の関係を図で示す。
【
図14】ソフトウェア遠隔中心を有するマニピュレータアームの関節速度空間の部分空間を図で示す。
【
図15】多くの実施形態による方法を概略的に示す。
【
図16】多くの実施形態による例示的な方法を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、概して、改良された手術及びロボット装置、システム、及び方法を提供する。本発明は、複数の手術ツール又は器具が、外科手術中に、関連付けられる複数のロボットマニピュレータに取り付けられ且つ動かされ得る手術ロボットシステムでの使用に特に有利である。ロボットシステムは、大抵、マスタスレーブコントローラとして構成されるプロセッサを含む、遠隔ロボット、遠隔手術、及び/又はテレプレゼンスシステムを有する。比較的大きい数の自由度を有する多関節リンク機構を持つマニピュレータアセンブリを動かすように適切に構成されたプロセッサを用いるロボットシステムを提供することによって、リンク機構の動作は、低侵襲アクセス部位を通る作業に適合されることができる。多数の自由度は、任意選択で手術の準備において、所望のエンドエフェクタ状態を維持しながら、及び/又は手術中に他の使用がエンドエフェクタを操作しながら、システムオペレータ、又は助手が、マニピュレータアセンブリのリンク機構を再配置することを可能にする。本発明の態様は概して冗長自由度を有するマニピュレータを記載しているが、態様は、非冗長マニピュレータ又は特異点に近づく冗長アームにも当てはまり得ることが理解される。
【0024】
本明細書に記載されるロボットマニピュレータアセンブリは、大抵、ロボットマニピュレータ及びそこに取付けられたツールを含む(ツールは、大抵、外科用の手術器具を有する)が、用語「ロボットアセンブリ」はまた、そこに取付けられたツールの無いマニピュレータも包含する。用語「ツール」は、汎用又は産業用ロボットツール及び専用ロボット手術器具の両方を包含し、これらの後者の構造は、大抵、組織の操作、組織の治療、組織の画像化等に適したエンドエフェクタを含む。ツール/マニピュレータインターフェイスは、大抵、迅速なツールの取り外し及び代替ツールとの交換を可能にする、クイック取り外しツールホルダ又はカップリングである。マニピュレータアセンブリは、大抵、ロボット手術の少なくとも一部の間に、空間内に固定されたベースを有し、マニピュレータアセンブリは、ベースとツールのエンドエフェクタとの間に多数の自由度を含み得る。エンドエフェクタの作動(例えば、把持装置の顎部の開閉、電気手術パドルへの通電等)は、大抵、これらマニピュレータアセンブリの自由度から分離され、及び追加される。
【0025】
エンドエフェクタは、典型的には、2から6の間の自由度で作業空間内を動く。本明細書で使用されるとき、用語「位置」は、位置及び配向(向き)の両方を包含する。従って、(例えば)エンドエフェクタの位置の変化は、第1の位置から第2の位置へのエンドエフェクタの並進、第1の配向から第2の配向へのエンドエフェクタの回転、又は両方の組み合わせを含み得る。低侵襲ロボット手術に使用されるときに、マニピュレータアセンブリの運動は、シャフト又はツール若しくは器具の中間部分が、低侵襲手術アクセス部位又は他の開口部を通る安全な動作に拘束されるように、システムのプロセッサによって制御され得る。このような動作は、例えば、開口部位を通した手術用作業空間へのシャフトの軸方向挿入、その軸回りのシャフトの回転、及びアクセス部位に隣接する枢動ポイント周りのシャフトの枢動動作を含み得る。
【0026】
本明細書中に記載される例示的なマニピュレータアセンブリの多くは、エンドエフェクタを手術部位内で位置決め及び動かすために必要とされるよりも多くの自由度を有する。例えば、低侵襲開口部を介して内部手術部位において6自由度で位置決めされることができる手術用エンドエフェクタは、いくつかの実施形態では、9つの自由度(6エンドエフェクタ自由度-位置について3つ、配向について3つ-アクセス部位拘束条件に適合するようにさらに3つの自由度)を有し得るが、大抵、10以上の自由度を有する。与えられたエンドエフェクタ位置のために必要とされるよりも多くの自由度を有する高度に設定可能なマニピュレータアセンブリは、作業空間内においてエンドエフェクタ位置に対する関節状態の範囲を可能にするための十分な自由度を有する又は提供するものとして記載されることができる。例えば、与えられたエンドエフェクタ位置に対して、マニピュレータアセンブリは、代替マニピュレータリンク機構位置の範囲のいずれかを占め(且つその間に駆動され)得る。同様に、与えられたエンドエフェクタ速度ベクトルに対して、マニピュレータアセンブリは、ヤコビアンのゼロ空間内のマニピュレータアセンブリの様々な関節に対する異なる関節運動速度の範囲を有し得る。
【0027】
本発明は、広い動作範囲が望まれ、限られた専用容積が、他のロボットリンク機構、手術従事者及び機器等の存在のために、利用可能である、外科(及びその他の)用途に特に適したロボットリンク機構構造を提供する。各ロボットリンク機構に必要とされる大きな動作範囲及び減少した容積はまた、ロボット支持構造の位置と手術又は他の作業空間との間により大きな柔軟性も提供することができ、それによって、セットアップを容易にし且つ高速化する。
【0028】
用語、関節等の「状態」は、大抵、本明細書において、関節に関連付けられる制御変数を指す。例えば、角度関節の状態は、その動作範囲内のその関節によって規定される角度、及び/又は関節の角速度を指すことができる。同様に、軸方向又は直動関節の状態は、関節の軸方向位置、及び/又はその軸方向速度を指すことができる。本明細書中に記載されるコントローラの多くは、速度コントローラを含むが、それらはまた、大抵、いくつかの位置制御の態様も有する。代替実施形態は、位置コントローラ、加速度コントローラ等に主に又は完全に依拠し得る。そのような装置で使用されることができる制御システムの多くの態様が、米国特許第6,699,177号により完全に記載されており、この文献の全開示は、参照により本明細書に援用される。したがって、記載される運動が、関連する計算に基づく限り、本明細書に記載される関節の運動及びエンドエフェクタの運動の計算は、位置制御アルゴリズム、速度制御アルゴリズム、これらの両方の組み合わせ等を使用して行なわれ得る。
【0029】
多くの実施形態では、例示的なマニピュレータアームのツールは、低侵襲開口部に隣接する枢動点の周りを枢動する。いくつかの実施形態では、システムは、米国特許第6,786,896号に記載される遠隔中心運動学のような、ハードウェア遠隔中心を利用することができ、この文献の全内容は、全体が本明細書に援用される。このようなシステムは、マニピュレータによって支持される器具のシャフトが遠隔中心点の周りを枢動するようにリンク機構の運動を拘束する、二重平行四辺形リンク機構を利用し得る。代替の機械的に拘束された遠隔中心リンク機構システムは、知られており、及び/又は将来開発され得る。驚くべきことに、本発明の様々な態様に関連する研究は、遠隔中心リンク機構システムが、高度に設定可能な運動学的なアーキテクチャから利益を得ることができることを示す。特に、手術用ロボットシステムが、低侵襲手術アクセス部位において又はその付近で交差する2つの軸の回りの枢動動作を可能にするリンク機構を有するとき、球状の枢動動作は、患者内の所望の動作範囲の全範囲を包含し得るが、依然として回避可能な欠点(不十分に条件付けされ、アームとアームとの間又はアームと患者との間で受けやすい患者の外部の接触等)に悩まされ得る。まず、アクセス部位での又はその付近の枢動動作に機械的にも拘束される1又は複数の付加的な自由度を追加することは、動作範囲のいくつか又はいずれかの改良を提供するように思えるかもしれない。それにもかかわらず、そのような関節は、他の外科手術のための動作範囲をさらに拡張することによって等、システム全体が、衝突防止姿勢に向かって構成される又は駆動されることを可能にすることによって、重要な利点を提供することができる。他の実施形態では、システムは、米国特許第8,004,229号に記載されるような遠隔中心を実現するためにソフトウェアを利用することができ、この文献の全体の内容は、参照により本明細書に援用される。ソフトウェア遠隔中心を有するシステムでは、機械的な拘束条件とは対照的に、プロセッサは、決定された枢動点周りに器具シャフトの中間部分を枢動させるように、関節の運動を計算する。ソフトウェア枢動点を計算する能力を有することによって、システムのコンプライアンス又は剛性によって特徴付けられる異なるモードが、選択的に実装されることができる。より具体的には、枢動点/中心(例えば、可動枢動点、受動枢動点、固定/剛性枢動点、ソフト枢動点)の範囲に亘る異なるシステムモードが、必要に応じて実装されることができる。
【0030】
多数の高度に設定可能なマニピュレータを有するロボット手術システムの多くの利点にも拘わらず、マニピュレータが、ベースと器具との間に比較的多数の関節及びリンクを含むので、リンクの手動位置決めは、挑戦的且つ複雑になり得る。マニピュレータ構造が、重力の影響を避けるためにバランスを取られているときでさえ、関節のそれぞれを適切な配置に位置合せすること又は要望通りにマニピュレータを再配置することを試みることは、難しく、時間がかかり、かなりのトレーニング及び/又は技能を必要とし得る。マニピュレータのリンクが関節の周りにバランスを取られていないとき、この挑戦はさらに大きくなり得るので、手術前又は手術中にこのような高度に設定可能な構造を適切な形態に位置決めすることは、マニピュレータアーム長さ並びに多くの手術システムにおける受動的且つ柔軟な設計に起因して苦闘になり得る。
【0031】
これらの課題は、医師助手のようなユーザが、クラッチモード内で1又は複数の関節を浮動させることによりマニピュレータアームを迅速且つ容易に再配置することを可能にすることによって、対処されることができる。しかし、浮動関節を有するマニピュレータアームを再配置することは、幾つかの課題を提示し得る。多数の冗長関節は、幾つかのタスクに対して増加した動作範囲を提供し得るが、マニピュレータアームの追加の関節は、例えば、運動が予測不能に見える又は全体の運動の量が様々な他の臨床上の懸念を引き起こす等、位置決め又は再配置の間に、アームの様々な運動を過度に複雑にし得る。マニピュレータアームの運動を改良するために、システムは、クラッチモードにおけるユーザによるエンドエフェクタの手動位置決めの間に改良されたマニピュレータアーム運動を提供するように、関節の第1のセットを浮動させると同時に、1又は複数のゼロ空間アルゴリズムにしたがってゼロ空間内で関節の第2のセットを駆動する。本明細書に記載されるクラッチモードのいずれかで使用され得るゼロ空間運動の例は、“Manipulator Arm-to-Patient Collision Avoidance Using a Null-Space”と題する、2012年6月1日に出願された米国仮出願第61/654,755号、及び“System and Methods for Avoiding Collisions Between Manipulator Arms Using a Null-Space”と題する、2012年6月1日に出願された米国仮出願第61/654,773号に記載され、これらの開示はそれらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0032】
以下の説明では、本発明の様々な実施形態が説明される。説明目的のために、特定の構成及び詳細が、実施形態の完全な理解を提供するために記載される。しかし、本発明を特定の詳細なしに実施され得ることが当業者には明らかであろう。さらに、良く知られた特徴は、説明される実施形態を不明瞭にしないために、省略又は簡略化され得る。
【0033】
ここで図面を参照すると、同様の参照符号は、いくつかの図面を通じて同様の部品を表し、
図1Aは、手術台14の上に横たわっている患者12に低侵襲診断又は外科手術を行う際に使用するための、多くの実施形態に従う、低侵襲ロボット手術(MIRS)システム10の上面図である。このシステムは、手術中に外科医18による使用のための外科医側コンソール16を含むことができる。1又は複数の助手20もまた、手術に参加することができる。MIRSシステム10はさらに、患者側カート22(手術用ロボット)と電子機器カート24を含むことができる。患者側カート22は、外科医18がコンソール16を通じて手術部位を視認しながら、少なくとも1つの取り外し可能に結合されたツールアセンブリ26(以下、単に「ツール」という)を、低侵襲切開部を通して患者12の体内で操作することができる。手術部位の画像は、立体内視鏡のような、内視鏡28によって得ることができ、この内視鏡は、内視鏡28を配向させるように、患者側カート22によって操作されることができる。電子機器カート24は、外科医側コンソール16を通じた外科医18への後続の表示のために手術部位の画像を処理するために使用されることができる。一度に使用される手術ツール26の数は、一般的に、診断又は外科手術、及び特に手術室内の空間的制約に依存するであろう。手術中に使用される1又は複数のツール26を変更する必要がある場合、助手20は、患者側カート22からツール26を取り外し、それを手術室内のトレイ30から別のツール26と交換し得る。
【0034】
図1Bは、(
図1AのMIRSシステム10のような)ロボット手術システム50を概略的に示す。上述のように、(
図1Aの外科医側コンソール16のような)外科医側コンソール52は、(
図1Aの患者側カート22のような)患者側カート(手術ロボット)54を制御するために、低侵襲手術中に外科医によって使用されることができる。患者側カート54は、手術部位の画像をキャプチャし且つキャプチャした画像を(
図1Aの電子機器カート24のような)電子機器カート56に出力するために、立体内視鏡のような、撮像装置を使用することができる。上述のように、電子機器カート56は、任意の後続の表示の前に、キャプチャした画像を様々な方法で処理することができる。例えば、電子機器カート56は、外科医側コンソール52を介して外科医に合成画像を表示する前に、キャプチャした画像を仮想制御インターフェイスに重ねる(オーバーレイする)ことができる。患者側カート54は、電子機器カート56の外部で処理するためにキャプチャした画像を出力することができる。例えば、患者側カート54は、キャプチャした画像をプロセッサ58に出力することができ、このプロセッサはキャプチャした画像を処理するために使用されることができる。画像はまた、電子機器カート56及びプロセッサ58の組み合わせによっても処理されることができ、この電子機器カート56及びプロセッサ58は、キャプチャした画像を一緒に、順番に、及び/又はこれらの組み合わせで処理するように、共に結合されることができる。1又は複数の別個のディスプレイ60もまた、手術部位の画像のような画像の、又は他の関連画像の局所的及び/又は遠隔表示のために、プロセッサ58及び/又は電子機器カート56に結合されることができる。
【0035】
図2は、外科医側コンソール16の斜視図である。外科医側コンソール16は、奥行き知覚を可能にする手術部位の調整された立体視を外科医18に表示するための左眼用ディスプレイ32と右眼用ディスプレイ34とを含む。コンソール16はさらに、1又は複数の入力制御装置36を含み、この入力制御装置は、(
図1Aに示される)患者側カート22に1又は複数のツールを操作させる。入力制御装置36は、外科医にテレプレゼンスを、又は外科医がツール26を直接的に制御するための強く認識できる感覚を有するように、入力制御装置36がツール26と一体であるという知覚を提供するように、(
図1Aに示される)それらに関連付けられるツール26と同じ自由度を提供することができる。この目的を達成するために、位置、力、及び触覚フィードバックセンサ(図示せず)が、位置、力、及び触覚感覚を、ツール26から入力制御装置36を介して外科医の手に戻って送信するために用いられ得る。
【0036】
外科医側コンソール16は、通常、外科医が手術を直接的に監視し得るように、必要に応じて物理的に存在するように、そして電話又は他の通信媒体を介して話すのではなく、助手に直接的に話すように、患者と同じ部屋に位置している。しかし、外科医は、別の部屋、完全に異なる建物、又は遠隔外科手術を許可している患者から遠隔の他の場所に位置することができる。
【0037】
図3は、電子機器カート24の斜視図である。電子機器カート24は、内視鏡28と結合されることができ、外科医コンソール上で外科医に、又は局所的に及び/又は遠隔に位置する別の適切なディスプレイ上でのような、後続の表示のためにキャプチャした画像を処理するためのプロセッサを含むことができる。例えば、立体内視鏡が使用される場合、電子機器カート24は、手術部位の調整された立体画像を外科医に提示するように、キャプチャした画像を処理することができる。このような調整は、対向する画像同士間の位置合わせを含むことができ、且つ立体内視鏡の立体作動距離を調節することを含むことができる。別の例として、画像処理は、光学収差のような、画像取込装置の結像誤差を補償するように、以前に決定されたカメラ較正パラメータの使用を含むことができる。
【0038】
図4は、複数のマニピュレータアームを有する患者側カート22を示し、各アームは、手術器具又はツール26をマニピュレータアームの遠位端部で支持する。示される患者側カート22は、手術ツール26、又は手術部位の画像をキャプチャするために使用される立体内視鏡のような撮像装置28のいずれかを支持するために使用されることができる、4つのマニピュレータアーム100を含む。操作は、多数のロボット関節を有するロボットマニピュレータアーム100によって提供される。撮像装置28及び手術ツール26は、運動学的遠隔中心が切開部の大きさを最小にするよう切開部に維持されるように、患者の切開部を介して位置決めされ且つ操作されることができる。手術部位の画像は、手術器具又はツール26が撮像装置28の視野内に配置されるとき、手術器具又はツール26の遠位端部の画像を含むことができる。
【0039】
手術ツール26に関して、種々の代替のロボット手術ツール又は異なる種類の器具及び様々なエンドエフェクタが、使用されることができ、マニピュレータの少なくともいくつかの器具は、外科手術中に取り外されるとともに置き換えられる。DeBakey鉗子、マイクロピンセット、ポッツはさみ、及びクリップアプライヤを含む、これらのエンドエフェクタのいくつかは、エンドエフェクタ顎部のペアを規定するように、互いに対して枢動する第1及び第2のエンドエフェクタ要素を含む。メス及び電気焼灼プローブを含む他のエンドエフェクタは、単一のエンドエフェクタ要素を有する。エンドエフェクタ顎部を有する器具に関して、顎部は大抵、ハンドルの把持部材を絞ることによって作動される。単一のエンドエフェクタ器具もまた、例えば電気焼灼プローブにエネルギを与えるために、把持部材の把持によって作動され得る。
【0040】
器具26の細長いシャフトは、エンドエフェクタ及びシャフトの遠位端部が、低侵襲開口部を通して、大抵、腹壁等を通して手術作業部位に遠位に挿入されることを可能にする。手術作業部位はガス注入されることができ、患者内のエンドエフェクタの運動は、大抵、シャフトが低侵襲開口部を通過する位置の周りに器具26を枢動させることによって、少なくとも部分的に生み出される。換言すれば、マニピュレータ100は、エンドエフェクタの所望の動きを提供するのに役立つように、シャフトが低侵襲開口部位置を通って延びるように、器具の近位ハウジングを患者の外部で動かす。こうして、マニピュレータ100は、大抵、外科手術中、患者Pの外側で大きな動きを受ける。
【0041】
本発明の多くの実施形態による例示的なマニピュレータアームは、
図5A-13Cを参照して理解することができる。上述のように、マニピュレータアームは、概して、遠位器具又は手術ツールを支持し、ベースに対する器具の動きをもたらす。異なるエンドエフェクタを有する多数の異なる器具が、(典型的には、外科助手の助けを借りて)外科手術中に、各マニピュレータに順番に取り付けられるので、遠位器具ホルダは、好ましくは、取り付けられた器具又はツールの迅速な取り外し及び交換を可能にする。
図4を参照して理解することができるように、マニピュレータは、患者側カートのベースに対して近位に取り付けられる。典型的には、マニピュレータアームは、ベースと遠位器具ホルダとの間に延びる複数のリンク機構及び関連する関節を含む。一態様では、例示的なマニピュレータは、マニピュレータアームの関節が与えられたエンドエフェクタ位置に対して異なる形態の範囲に駆動されることができるように、冗長自由度を有する複数の関節を含む。これは、本明細書に開示されたマニピュレータアームの実施形態のいずれにも当てはまり得る。
【0042】
図5Aに示されるような、多くの実施形態では、例示的なマニピュレータアームは、マニピュレータアームを関節の遠位で関節軸回りに回転させるように、第1関節軸の回りに回転する近位回転関節J1を含む。いくつかの実施形態では、回転関節J1は、ベースに直接取り付けられるが、他の実施形態では、関節J1は、1又は複数の可動リンク機構又は関節に取り付けられ得る。マニピュレータの関節は、組み合わされて、マニピュレータアームの関節が、与えられたエンドエフェクタ位置に対して異なる形態の範囲内で駆動されることができるように、冗長自由度を有する。例えば、
図5A-
図5Dのマニピュレータアームは、異なる形態に操作され得る一方、器具ホルダ510内に支持された(ツール512又は器具シャフトが貫通するカニューレのような)遠位部材511は、特定の状態を維持し且つエンドエフェクタの与えられた位置又は速度を含み得る。遠位部材511は、典型的には、ツールシャフト512が通って延びるカニューレであり、器具ホルダ501は、典型的には、カニューレを通って患者の体内に低侵襲開口部を通って延びる前に器具が付く(スパー上を並進する煉瓦状構造として示される)キャリッジである。
【0043】
図5A-
図5Dのマニピュレータアーム500の個々のリンクを、
図5A-
図5Dに示されるようにリンクを接続する関節の回転軸に沿って説明すると、第1のリンク504は、その関節軸の回りを枢動する枢動関節J2から遠位に延び、その関節軸の回りを回転する回転関節J1に結合される。
図5Aに示されるように、関節の残りの多くは、それらの関連付けられる回転軸によって識別されることができる。例えば、示されるように、第1のリンク504の遠位端部は、その枢動軸の回りを枢動する枢動関節J3で第2のリンク506の近位端部に結合され、第3のリンク508の近位端部は、その軸線の回りを枢動する枢動関節J4で第2のリンク506の遠位端部に結合される。第3リンク508の遠位端部は、枢動関節J5で器具ホルダ510に結合される。典型的には、関節J2、J3、J4、及びJ5のそれぞれの枢動軸は、実質的に平行であり、且つ
図5Dに示されるように、互いに隣接して位置決めされたときに、リンク機構は、マニピュレータアームの減少幅wを提供するとともにマニピュレータアセンブリの操縦中の患者クリアランスを向上させるように、「積み重ねられた(stacked)」ように見える。多くの実施形態では、器具ホルダはまた、低侵襲開口部を通る器具306の軸方向運動を容易にするとともに、器具が摺動自在に挿通されるカニューレに対して器具ホルダの取り付けを容易にする直動関節J6のような、追加の関節を含む。
【0044】
遠位部材又はそこを通ってツール512が延びるカニューレ511は、器具ホルダ510の遠位側に追加の自由度を含み得る。器具の自由度の作動は、大抵、マニピュレータのモータで駆動され、代替実施形態は、クイック取り外し可能器具ホルダ/器具インターフェイスにおいて、器具を、支持マニピュレータ構造から分離することができ、それによって、器具上に存在するものとしてここで示される1又は複数の関節が、代わりに、インターフェイス上に存在し、またその逆になる。いくつかの実施形態では、カニューレ511は、ツール先端の挿入ポイント又は枢動ポイントPPの近く又は近位の回転関節J8(図示せず)を含み、このツール先端の挿入ポイント又は枢動ポイントは、一般的に低侵襲開口部の部位に配置される。器具の遠位手首は、器具手首における1又は複数の関節の器具関節軸周りの手術ツール512のエンドエフェクタの枢動運動を可能にする。エンドエフェクタ顎部要素の間の角度は、エンドエフェクタの位置及び配向とは独立して制御され得る。
【0045】
例示的なマニピュレータアセンブリの動作範囲は、
図6A-6Cを参照することによって理解することができる。手術中、例示的なマニピュレータアームは、手術作業部位内の特定の患者組織にアクセスすることが必要なとき、
図6Aに示されるように、ピッチフォワード形態に、又は
図6Bに示されるように、ピッチバック形態に操作されることができる。典型的なマニピュレータアセンブリは、少なくとも±60度で、好ましくは約±75度で前方及び後方にピッチ動作することができ、且つまた±80度でヨー動作することができるエンドエフェクタを含む。この態様は、アセンブリでエンドエフェクタの増大した操作性を可能にするが、特に、マニピュレータアームが
図6A及び6Bに示されるように、最大のピッチフォワード又は最大のピッチバック形態にあるとき、エンドエフェクタの運動が制限され得る形態があり得る。1つの実施形態では、マニピュレータアームは、外側ピッチに関して(±75度)の、及び外側ヨー関節に関して(±300度)の動作範囲(ROM)をそれぞれ有する。幾つかの実施形態では、ROMは、(±90度)より大きいROMを提供するように外側ピッチに関して増大されることができ、この場合、「沈黙円錐(cone of silence)」は完全に消されることができるが、一般的に挿入制限に関連付けられる内球はそのままである。様々な実施形態はROMを増大又は減少させるように構成されることができ、上述のROMは説明目的で提供され、さらに、本発明は本明細書に記載されるROMに限定されるものではないことが理解される。
【0046】
図6Cは、
図5A-5Bの例示的なマニピュレータのツール先端の全動作範囲及び作業空間を図式的に示す。作業空間は半球として示されているが、関節J1のような、マニピュレータの1又は複数の回転関節の動作範囲及び構成に依存して球としても示され得る。示されるように、
図6Cの半球は、中心の、球状の空隙並びに2つの円錐状の空隙を含む。空隙は、ツール先端の運動が、機械的な制約のために不可能又は、エンドエフェクタの運動を難しく若しくは遅くする過度に高い関節速度のために、実行不可能であり得る領域を示す。これらの理由のために、円錐状の空隙は、「沈黙円錐(cone of silence)」と称される。幾つかの実施形態では、マニピュレータアームは、円錐内のあるポイントで特異点に到達し得る。沈黙円錐内又は沈黙円錐近くでのマニピュレータの運動は損なわれ得るので、マニピュレータのリンク機構及び関節を再配置するためにマニピュレータの1又は複数のリンクを手動でバックドライブすることなしに、マニピュレータアームを沈黙円錐から離すことは難しく、これは、大抵、代替動作モードを必要とし且つ手術を遅らせる。
【0047】
これらの円錐部分への又はこれらの円錐部分の近くの器具シャフトの運動は、典型的には、マニピュレータの遠位リンク機構の間の角度が比較的小さいときに、発生する。このような形態は、(リンク機構が互いに対してより直交位置に動かされるように)リンク機構の間の角度を増加させるためにマニピュレータを再配置することによって回避されることができる。例えば、
図6A及び6Bに示された形態では、最遠位リンクと器具ホルダとの間の角度(角度a)が比較的小さくなるとき、マニピュレータの運動はより困難になり得る。様々な実施形態の残りの関節における関節運動の範囲に依存して、あるリンク機構の間の角度が減少するとき、マニピュレータの運動は、妨げられる場合があり、幾つかの場合には、マニピュレータアームはもはや冗長ではなくなり得る。器具シャフトがこれらの円錐状部分に近づく、又はリンク機構間の角度が比較的低いマニピュレータ形態は、マニピュレータアームの操作性及び器用さが制限されるように「不完全な状態」にあると言われる。器用さ及び運動範囲を維持するようにマニピュレータが「良い状態」にあることが望ましい。
【0048】
上述のマニピュレータの実施形態は本発明に利用され得るが、幾つかの実施形態は、追加の関節を含むことができ、この追加の関節はまた、マニピュレータアームの器用さ及び調整を改良するために使用され得る。例えば、例示的なマニピュレータは、
図5Aのマニピュレータアーム、及び、沈黙円錐を減少又は排除するために回転関節の軸周りの、それに関連付けられる、沈黙円錐を回転させるために使用されることができる、関節J1の近位の回転関節及び/又はリンク機構、を含み得る。他の実施形態では、例示的なマニピュレータはまた、器具ホルダを関節J5と実質的に直交する軸周りに枢動させる遠位枢動関節を含むことができ、それによって、沈黙円錐をさらに減少させ且つ手術ツールの運動範囲を向上させるようにツール先端をオフセットする。さらに他の実施形態では、J1のような、マニピュレータアームの近位関節は、必要に応じて沈黙円錐を動かす又は位置を変えるとともに、クラッチモードにおけるエンドエフェクタの手動位置決めの間にマニピュレータエンドエフェクタの動作範囲を向上させるように、ベースに移動可能に取り付けられ得る。このような追加の関節の使用及び利点は、
図7A-13Cを参照することによって理解されることができ、これらの図はこのような関節の例を示し、このような関節は、それぞれ、本明細書に記載される例示的なマニピュレータアームのいずれかの中で、互いに独立して使用され得る又は組み合わせて使用され得る。
【0049】
図7A-7Bは、例示的なマニピュレータアームでの使用のための追加の冗長関節-マニピュレータアームの近位部分をベースに結合する第1の関節を示す。第1の関節は、マニピュレータアームを関節J1’の関節軸周りに回転させる近位回転関節J1’である。近位回転関節J1’は、関節J1を近位回転関節J1’から所定の距離又は角度だけオフセットするリンク501を含む。リンク501は、
図7Aに示されるように、湾曲リンク機構、又は
図7Bに示されるように、直線又は傾斜リンク機構であることができる。典型的には、関節J1’の関節軸は、
図7Aのそれぞれに示されるように、遠隔中心RC又はツール先端の挿入ポイントと位置合わせされる。例示的な実施形態では、関節J1’の関節軸は、体壁での動作を防ぐために、マニピュレータアームのそれぞれの他の回転関節がするように、遠隔中心を通過し、したがって、手術中に動かされることができる。関節J1’の軸は、アームの近位部分に結合されるので、アームの後部の位置及び配向を変更するために使用されることができる。一般的に、これのような、冗長軸は、器具先端が、外科医の指令に従うことを可能にする一方同時に他のアーム又は患者の解剖学的構造との衝突を回避し、また、手動位置決め中のこのような運動又はセットアップ中のエンドエフェクタのドッキングを提供するように様々なクラッチモードで使用されることができる。1つの態様では、近位回転関節J1’は、単にフロアに対するマニピュレータの取付角度を変更するために使用される。この角度は、1)外部の患者の解剖学的構造との衝突を回避し且つ2)体内の解剖学的構造に到達するために、重要である。典型的には、近位回転関節J1’に取付けられたマニピュレータの近位リンクと近位回転の軸との間の角度aは約15度である。
【0050】
図7Bは、近位回転関節J1’とその関連付けられる関節軸と例示的なマニピュレータアームの沈黙円錐との関係を示す。近位回転関節J1’の関節軸は、沈黙円錐を通過し得る又は沈黙円錐の完全に外側にあり得る。近位回転関節J1’の軸周りにマニピュレータアームを回転させることによって、沈黙円錐は(関節J1’軸が沈黙円錐を通過する実施形態において)減らされることができる、又は(近位回転関節軸が沈黙円錐の完全に外側に延びる実施形態において)有効に除去されることができる。リンク501の距離及び角度は、沈黙円錐に対する関節J1’軸の位置を決定する。
【0051】
図8A-8Bは、例示的なマニピュレータアームでの使用のための他の種類の冗長関節を示し、遠位回転関節J7は、器具ホルダ510をマニピュレータアーム508の遠位リンクに結合する。遠位回転関節J7は、システムが、関節軸周りに器具ホルダ510を横方向に枢動させる又はねじることを可能にし、この関節軸は、典型的には、遠隔中心又は切開点を通過する。理想的には、回転関節はアームの遠位に位置し、したがって、特に、挿入軸の配向を動かすことによく適合している。この冗長軸の追加は、マニピュレータが、任意の1つの器具先端位置に対して多数の位置を取ることを可能にする。一般的に、これのような冗長軸は、他のアーム又は患者の解剖学的構造との衝突を回避しながら、器具先端が、外科医の指令に従うことを可能にする。遠位回転関節J7は挿入軸をヨー軸の近くに動かす能力を有するので、マニピュレータアームがピッチバック位置にあるとき動作範囲を増加させることができる。遠位回転関節J7の軸、J1のヨー軸及びツール先端の挿入軸の間の関係は
図8Bに示される。
図10A-10Cは、関節J7の連続的な運動及びどのように関節J7の運動がツール先端の挿入軸を左右に移動させるかを示す。
【0052】
ここで
図9Aを参照すると、他の代替マニピュレータアセンブリ520は、手術ツール524を取り外し可能に支持するためのマニピュレータリンク機構アーム522を含む。クラッチ入力部516が、手術中にアクセス部位514に隣接して配置されることになるマニピュレータのリンク518と関わる手によって作動されることができる入力ボタンを有する。これは、手が、入力部を作動させること及び手術のための適切な位置にマニピュレータを操作するのを助けることの両方を可能にする。幾つかの実施形態では、追加のクラッチ入力部が、クラッチ入力部が配置されたリンクの手動関節運動を可能にするために様々な他のリンクに取付けられ得る。多くの実施形態では、クラッチ入力部516があるリンク518は取り外し可能ツールのシャフトに軸方向挿入関節によって結合される。1つの態様では、システムは、クラッチ入力部516を作動させる手がまた、他の手からの援助なしにクラッチモードにおいてマニピュレータを再配置し得るように構成される。他の態様では、マニピュレータの再配置は、特に、リンクを所望の軸方向挿入角度に再配向するとき、ユーザの位置を、クラッチ入力部516に隣接するマニピュレータリンク518の第1の手、及びクラッチ入力部からある距離離れている第2の手の両方にすることによって、容易にされ得る。幾つかの実施形態では、クラッチ入力部516が手によって作動される間、システムプロセッサは、所望の位置へのリンク518の手動バックドライブ運動を可能にするようにマニピュレータ520の関節の第1のセットを浮動させる一方、関節の第2のセットは、リンク518の手動位置決めと別に干渉することなしに、マニピュレータアームの近位部分の所望の運動を提供するようにゼロ空間内で駆動される。
【0053】
スレーブマニピュレータリンク機構のクラッチされた(clutched)自由度が1又は複数の関節自由度と一致する場合(すなわち、幾つかの関節がロックされ且つ幾つかの関節がクラッチモードにおいて自由に動くことができる場合)、クラッチすること(clutching)は直接であり、人は単純に自由に動くことが出来るこれらの関節に対するコントローラを切る。しかし、独立した方法で関節をクラッチする(clutch)ことは大抵有利であり、この場合、1つの関節の動作は、それらが1つの自由度として一緒に手動で関節運動されることができるように、少なくとも1つの他の関節の動作にコントローラによってリンクされる。これは、ロボットマニピュレータアセンブリの少なくとも1つの関節を、少なくとも1つの他の関節の外部関節運動に応じて、駆動することによって達成され得る。コントローラは、大抵、機械的システムの自由度とは異なるこの動作を、任意選択で、他の機械的な自由度の幾つか又は全てがロックされたままである間に、オペレータが操作し得る1つの自由度として扱われることができる関節の任意の所望の線形結合を定めることによって、生じさせることができる。この一般概念は、ポートクラッチング、器具クラッチング、エルボクラッチング(中間エルボが、例えば、エンドエフェクタの状態が維持されながら、上に配向された頂点形態から横に配向された頂点形態の周りまで、動くことを可能にされる)、及び他のクラッチングモードを含む。
【0054】
様々なクラッチングモード及びクラッチング挙動は、例えば、非冗長ハードウェアセンタアーム、冗長自由度を有するハードウェアセンタアーム及びソフトウェアセンタアームを含む、本明細書に記載されるマニピュレータのいずれかに含まれ得る。1つの態様では、様々なクラッチングモード及びクラッチング挙動は別々に使用され得るが、他の態様では、様々なクラッチモード又はクラッチ機能は、互いに組み合わせて使用され得る。例えば、マニピュレータシステムは、アームクラッチモード及びポートクラッチモードを含み得る。これらのクラッチモードは、ユーザが様々なタスクを、様々な他のタスク又は所望の運動を生じさせながら、実行することを可能にする。例えば、アームクラッチモードは、患者側助手のようなユーザが、アームを所望の状態にバックドライブすることを可能にすることができ、ポートクラッチモードは、ユーザが、器具が通って延びるポートを動かすことを可能にすることができる。これらのモードは、器具が通って延びるポートを同時に動かしながら、患者側助手がアームを所望の状態にバックドライブすることを可能にするように、組み合わされ得る。幾つかの実施形態では、様々なクラッチモード又は機能を抜けると、「追従」状態が、クラッチモード又はクラッチ機能によって提供された新しいアーム状態から開始する。したがって、クラッチモードは、様々なクラッチングモード又はクラッチング機能又は挙動の組み合わせであることができ、これらの様々なものは以下に詳細に述べられる。
【0055】
ここで
図9A及び9Bを参照すると、マニピュレータアセンブリ502は、様々な異なる理由のいずれかのためにプロセッサによって再配置され得る。1つの態様では、関節526は、隣接するアーム、機器、若しくは人との衝突を防ぐために、又はエンドエフェクタ508の動作範囲を増やすために、下方に配向された頂点形態から上方に配向された頂点形態に駆動され得る。マニピュレータアセンブリの形態のこれらの変化の、全てではないが、幾つかは、マニピュレータアセンブリに加えられた外部の力に応答することができ、大抵、プロセッサは、外部の力によって作用されているものとは異なるマニピュレータの関節を駆動する。例えば、マニピュレータアーム運動は、患者が呼吸している等のような、患者の生理学上の運動に応じて又は手術台を再配向することによって等のような、患者の再位置決めに応じて、もたらされ得る。他の態様では、プロセッサは、プロセッサによって実行される計算に応じて、マニピュレータアセンブリを再配置し得る。何れの場合でも、プロセッサは、好ましいマニピュレータアセンブリ形態を提供するように信号に応じてマニピュレータアセンブリを駆動するために、単純なマスタスレーブコントローラから変わり得る。このようなマニピュレータアセンブリの形態は、マスタスレーブエンドエフェクタ運動の間に、マニピュレータアセンブリの手動又は他の再位置決めの間に、及び/又はクラッチ入力部を解放した後のような、別の時間の少なくとも一部で、発生し得る。多くのクラッチモードにおいて、このような運動は、ゼロ直交空間内での1又は複数の関節(又は代替的にエンドエフェクタ及び遠隔中心の一方又は両方)の浮動と同時に又は並行して、もたらされる。
【0056】
1つの態様では、アームのゼロ空間運動は、上述のように1又は複数の関節をゼロ直交空間内で浮動させながら(エンドエフェクタ及び遠隔中心の一方又は両方の浮動を含み得る)、第1のモードにおける所望の経路に沿った運動を生じさせるために拘束条件のセットに従って計算され得る。これは、セットアップ関節、エンドエフェクタ、又は遠隔中心位置のような、マニピュレータアームの他の部分は、ユーザによって所望の位置に動かされる間、マニピュレータアームの少なくとも一部が、例えば、アームの調整を改良するため等、所望の運動にしたがって動くことを可能にする。
【0057】
遠位回転関節J7の1つの利点は、それが患者クリアランス円錐を減少させるために使用され得ることであり、この患者クリアランス円錐は、患者と器具ホルダ又はマニピュレータアームの遠位リンク機構との間の衝突を回避するように患者を除去しなければならない切開ポイントの近位のマニピュレータアームの遠位部分の掃引容積(swept volume)である。
図11Aは、遠位回転関節の角度変位が0°のままである間のマニピュレータアームの近位部分の患者クリアランス円錐を示す。
図11Bは、遠位回転関節がその軸周りに90°の角度変位を有して示される間のマニピュレータアームの近位部分の減少した患者クリアランス円錐を示す。したがって、切開ポイントの近くに最少の患者クリアランスを有する手術では、本発明による関節J7の使用は、遠隔中心位置又は要望通りのエンドエフェクタ位置を維持しながら追加のクリアランスを提供し得る。
【0058】
図12A-12Cは、例示的なマニピュレータアームと共に使用するための他の種類の冗長関節を示し、近位関節は、軸周りにマニピュレータアームを並進又は回転させる。多くの実施形態では、この近位並進移動可能関節は、マニピュレータアームのより良い調整及び改良された操作性を提供するためにマニピュレータアームの動作範囲を変える又は回転させることによって沈黙円錐を減少又は排除するように、関節J1又はJ1’のような、マニピュレータの近位関節を経路に沿って並進移動させる。並進移動可能関節は、
図12A-12Dに関節J1”で示されるように、円形経路を含み得る、又は、
図13A-13Cに示されるように、半円形又はアーチ形経路を含み得る。一般的に、関節は、その周りをカニューレ511を通って延びるツール512のシャフトが枢動する遠隔中心RCと交差する並進移動可能関節の軸周りにマニピュレータアームを回転させる。
図12A-12Cに示された実施形態では、J1”の軸は垂直軸であるが、J1”の軸は水平又は様々な傾斜角度であり得る。
【0059】
幾つかの実施形態では、マニピュレータアーム500は、近位又は遠位回転関節、近位並進移動可能関節及び遠位リンク機構の平行四辺形構造のいずれか又は全てを含み得る。これらの特徴のいずれか又は全ての使用は、追加の冗長自由度を提供し、リンク機構の間の角度を増加させ、それによって再配置中及びクラッチモードを出た後のマニピュレータの器用さ及び動作を向上させることによって、より良く「調整された」マニピュレータアセンブリを提供するように、遠位エンドエフェクタ又は遠隔中心を手動でバックドライブすることと同時にマニピュレータアームの所望の運動を提供する。この例示的なマニピュレータの増加した柔軟性はまた、関節限度、特異点等を回避するために、マニピュレータリンク機構の運動学を最適化するために使用されることができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、マニピュレータの関節運動は、システムのモータを使用してコントローラにより1又は複数の関節を駆動することによって制御され、関節は、コントローラのプロセッサによって計算された、調整された関節運動に従って駆動される。数学的には、コントローラは、ベクトル及び/又は行列を使用して関節指令の計算の少なくとも幾つかを実行することができ、そのうちのいくつかは、関節の形態又は速度に対応する要素を有し得る。プロセッサに利用可能な代替の関節形態の範囲は、関節速度部分空間として概念化され得る。関節速度部分空間は、例えば、マニピュレータが自由度を有するのと同数の次元を有し得るとともに、マニピュレータの特定の形態は、関節速度部分空間内の特定の点を表すことができ、各座標は、マニピュレータの関連付けられる関節の関節状態に対応する。
【0061】
例示的な実施形態では、システムは、そのデカルト空間として本明細書で示される、作業空間における特徴部の指令位置及び速度が入力であるコントローラを含む。特徴部は、制御入力を使用して関節運動されることになる制御フレームとして使用できるマニピュレータ上の、又はマニピュレータから離れた任意の特徴部であり得る。本明細書に記載される多くの例で使用されるマニピュレータ上の特徴部の例は、ツール先端である。マニピュレータ上の特徴部の他の例は、ツール先端上に存在しないが、ピン又はペイントパターンのようなマニピュレータの一部である物理的な特徴部である。マニピュレータから離れた特徴部の例は、ツール先端から離れる正確な一定の距離及び角度である空き空間の基準点である。マニピュレータから離れた特徴部の別の例は、マニピュレータに対する位置が確立されることができる標的組織である。これら全ての場合において、エンドエフェクタは、制御入力を使用して関節運動されることになる仮想制御フレームに関連付けられる。しかし、以下では、「エンドエフェクタ」と「ツール先端」とは、同義的に使用される。一般的には、所望のデカルト空間のエンドエフェクタ位置を等価の関節空間位置にマッピングする閉じた形の関係はないが、一般的に、デカルト空間のエンドエフェクタと関節空間速度との間に閉じた形の関係がある。運動学的ヤコビアンは、関節空間位置要素に対するエンドエフェクタのデカルト空間位置要素の偏導関数の行列である。このように、運動学的ヤコビアンは、エンドエフェクタと関節との間の運動学的関係を捕える。換言すれば、運動学的ヤコビアンは、エンドエフェクタの関節動作の影響を捕える。運動学的ヤコビアン(J)は、以下の関係を用いて、関節空間速度(dq/dt)をデカルト空間エンドエフェクタ速度(dx/dt)にマッピングするために使用されることができる。
【0062】
dx/dt=J dq/dt
したがって、入力位置と出力位置との間に閉じた形のマッピングがない場合であっても、速度のマッピングが、指令ユーザ入力からマニピュレータの運動を実現するために、ヤコビアンベースのコントローラ等で、反復的に使用されることができる。しかし、様々な実装を使用することができる。多くの実施形態は、ヤコビアンベースのコントローラを含んでいるが、いくつかの実装は、本明細書で記載した特徴のいずれかを提供するために、マニピュレータアームのヤコビアンにアクセスするように構成され得る様々なコントローラを使用し得る。
【0063】
1つのそのような実装は、以下の簡略化された項で記述される。指令関節位置は、ヤコビアン(J)を計算するために使用される。各時間ステップ(Δt)の間、デカルト空間速度(dx/dt)が、所望の移動(dxdes/dt)を実行するとともに所望のデカルト空間位置からの蓄積された偏差(Δx)を補正するように、計算される。このデカルト空間速度は、次に、ヤコビアンの擬似逆行列(J#)を用いて、関節空間速度(dq/dt)に変換される。得られた関節空間指令速度は、次に、関節空間指令位置(q)を生成するために積分される。これらの関係は次の通りである。
【0064】
dx/dt=dxdes/dt+kΔx (1)
dq/dt=J#dx/dt (2)
qi=qi-1+dq/dtΔt (3)
ヤコビアン(J)の擬似逆行列は、所望のツール先端動作(いくつかの場合では、枢動ツール動作の遠隔中心)を関節速度空間に直接マッピングする。使用されているマニピュレータが、(6までの)ツール先端の自由度より多くの有用な関節軸を有している場合、マニピュレータは冗長であると言われる。例えば、ツール動作の遠隔中心が使用されるとき、マニピュレータは、遠隔中心の位置に関連付けられた3つの自由度について追加の3つの関節軸を有するべきである。冗長なマニピュレータのヤコビアンは、少なくとも1つの次元を有する「ゼロ空間」を含む。この文脈において、ヤコビアン(N(J))の「ゼロ空間」は、エンドエフェクタ動作を瞬時に実現しない関節速度の空間である(そして、遠隔中心が使用されるとき、枢動点位置の移動がない);そして「ゼロ動作」は、エンドエフェクタ及び/又は遠隔中心の位置の瞬間的な移動も生成しない関節位置の組み合わせ、軌道、又は経路である。マニピュレータの所望の再配置を達成するために計算されたゼロ空間速度をマニピュレータの制御システムに組み込む又は注入することは、上記の式(2)を以下のように変形する:
dq/dt=dqprep/dt+dqnull/dt (4)
dqprep/dt=J#dx/dt (5)
dqnull/dt=(1-J#J)z=VnVn
Tz=Vnα (6)
式(4)による関節速度は、2つの成分を有し:第1は、ゼロ直交空間成分、所望のエンドエフェクタ動作を生成する「純粋な(purest)」関節速度(最短ベクトルの長さ)(そして、遠隔中心が使用されるときに、所望の遠隔中心動作)であり;第2の成分は、ゼロ空間成分である。式(2)及び式(5)は、ゼロ空間成分なしで、同じ式が得られることを示している。式(6)は、左辺のゼロ空間成分についての従来の形式で始まり、最も右寄りの右辺で、例示的なシステムで用いられる形式を示し、ここで、(Vn)は、ゼロ空間についての直交基底ベクトルのセットであり、(α)は、それら基底ベクトルをブレンドする(blending)ための係数である。いくつかの実施形態では、αは、要望通りにゼロ空間内の動作を形成又は制御するために、例えばノブ又は他の制御手段の使用によって等、制御パラメータ、変数又は設定によって決定される。
【0065】
図13Aは、ヤコビアンのゼロ空間とヤコビアンのゼロ直交空間との間の関係を図式的に示す。
図13Aは、水平軸に沿ったゼロ空間と、垂直軸に沿ったゼロ直交空間とを示す二次元の概略図を示し、これら2つの軸は、互いに直交する。斜めのベクトルは、ゼロ空間における速度ベクトルとゼロ直交空間における速度ベクトルの和を表し、この和は、上記の式(4)を表す。
【0066】
図13Bは、「ゼロ動作多様体」として示された、4次元の関節空間内のゼロ空間とゼロ動作多様体との間の関係を図式的に示す。各矢印(q1、q2、q3、及びq4)は、主要な関節軸を表す。閉曲線は、同じエンドエフェクタ位置を瞬時に実現する関節空間位置の集合であるゼロ動作多様体を表す。この曲線上の与えられた点Aに関して、ゼロ空間は、エンドエフェクタの運動を瞬時に生じさせない関節速度の空間であるので、ゼロ空間方向(p+A)は、点Aでのゼロ動作多様体の接線に対して平行である。
【0067】
ハードウェア構成によって決定される遠隔中心周りに枢動する遠位器具を有するマニピュレータアームでは、マニピュレータアームは典型的には、マニピュレータ関節及びセットアップ関節を含み、マニピュレータ関節は、形態及びセットアップ関節の範囲内のマニピュレータアームの指令運動を可能にする。セットアップ関節の例は、マニピュレータアームを近位ベースに取付ける1又は複数の回転又は枢動関節を含み、この運動は、セットアップ関節の運動の範囲内で遠隔中心を枢動又は回転させ得る。1つの態様では、セットアップ関節は、手術に先立ってマニピュレータアームを所望の形態に位置決めするために(又は手術中の様々な所望の運動を可能にするために)使用される一方、マニピュレータ関節は、外科医が手術を実行するためにアーム及び関連付けられるエンドエフェクタを操作することを可能にする。セットアップ関節は、完全にモータ駆動される又は駆動可能である必要はなく、セットアップの間に手動で調整される関節を含み得るが、セットアップ関節は、様々なアルゴリズムにしたがって駆動される完全に駆動可能な関節を含み得る。様々なクラッチング機能は、マニピュレータ関節、セットアップ関節又は両方を含み得る。
【0068】
幾つかの実施形態では、マニピュレータがアームクラッチモードであるとき、実質的に全てのマニピュレータ関節は浮動することを可能にされる。しかし、関節が「浮動する」ことを可能にされるとき、トルクが、マニピュレータアームが駆動される又は所望の状態に手動でバックドライブされることを可能にするように重力を補償するために、依然として加えられ得ることが理解される。マニピュレータがポートクラッチモードであるとき、マニピュレータセットアップ関節は、ポートの位置が要望通りに調整されることを可能にしながらエンドエフェクタを制御された位置(例えば、固定された位置及び/又は配向)に維持するためにトルクがマニピュレータ関節に加えられたまま(例えば、「サーボ」されたまま)である間に遠隔中心が解放されるように、浮動することを可能にされる。ハードウェア遠隔中心及び非冗長関節を有するマニピュレータでは、アームクラッチ及びポートクラッチ機能の両方が同時に作動されるとき、全てのマニピュレータ関節及びマニピュレータセットアップ関節は解放される(例えば、「浮動する」ことを可能にされる)。
【0069】
冗長自由度を持つマニピュレータ関節及びハードウェア遠隔中心を有するマニピュレータでは、マニピュレータアームは、1又は多次元(DIM=n、ここでn≧1)のゼロ空間を有する。幾つかのこのようなマニピュレータアームでは、セットアップ関節は、完全にモータ駆動されない関節を含み得るので、本明細書で議論される関節速度はセットアップ関節を含まない。上述のクラッチング機能に加えて、このようなマニピュレータアームは、マニピュレータ関節の冗長自由度を用いる様々な他のクラッチモード又は機能を含み得る。例えば、幾つかのマニピュレータは、マニピュレータ関節が、ツール先端及び/又は遠位エンドエフェクタの所望の状態を維持しながら関節のゼロ空間に沿って浮動することを可能にされる、ゼロクラッチ又はゼロ浮動モードを含み得る。これは、ユーザ又は患者側助手が、例えば、1又は複数の関節を駆動することによって等、遠位エンドエフェクタの近位のマニピュレータアームを再配置することを可能にする、又は、衝突回避のような、1対1又は複数の様々な他のタスクを可能にする。
【0070】
1つの態様では、本発明によるマニピュレータシステムは、ゼロ空間内の関節の運動が任意の様々なゼロ空間アルゴリズムによって制御されながら、エンドエフェクタが浮動すること可能にするゼロ直交クラッチ又はゼロ直交浮動を含み得る。この態様は、ユーザ又は患者側助手がエンドエフェクタをバックドライブする(例えば、手動で関節運動させる)ことを可能にする一方、ゼロ空間運動に関連する様々な他の機能又はアルゴリズムが定められる(例えば、衝突回避、指令再配置、ゼロ空間内で所望の経路に沿って進む、1又は複数の関節の運動の範囲を制御又は増加させるように運動を強調する、又はゼロ空間に属する任意の他の運動)。このような運動の例は次の出願委より詳細に記載される:“Manipulator Arm-to-Patient Collision Avoidance Using a Null-Space”と題する、2012年6月1日に出願された米国仮出願第61/654,755号;“Commanded Reconfiguration of a Surgical Manipulator Using the Null-Space”と題する、2012年6月1日に出願された米国仮出願第61/654,764号;“System and Methods for Avoiding Collisions Between Manipulator Arms Using a Null-Space”と題する、2012年6月1日に出願された米国仮出願第61/654,773号に記載され、これらのそれぞれについて、全内容が全ての目的のために完全に本明細書に援用される。
【0071】
遠隔中心の位置がソフトウェアによって決定される冗長自由度を持つ関節を有するマニピュレータでは、マニピュレータの関節は、セットアップ関節対マニピュレータ関節として分類される必要はない。例えば、ハードウェア遠隔中心を有するマニピュレータアームでは、最低3運動学的セットアップ関節自由度が、3次元空間内で遠隔中心を位置決めするために必要とされ、6運動学的マニピュレータ自由度が、3次元空間内でエンドエフェクタを位置決め及び配向するために必要とされる。追加の関節自由度は、セットアップ又はマニピュレータ運動学のいずれかに冗長性を提供する。ソフトウェアによって定められる遠隔中心を有するマニピュレータアームでは、ハードウェア遠隔中心と対照的に、遠隔中心の配置並びにエンドエフェクタの位置決め及び配向は、関節の運動が明確なセットアップ関節及びマニピュレータ関節の使用なしにセットアップ及びマニピュレータ運動学の両方に寄与し得るように、マニピュレータ関節によって集合的に実行され得る。したがって、3次元空間内で遠隔中心及びエンドエフェクタのそれぞれを位置決めするために、少なくとも9運動学的自由度が、一般的な非冗長ソフトウェアセンタマニピュレータアームにおいて必要とされる。これらを超える追加の関節は、エンドエフェクタ、遠隔中心、又は両方のいずれかに冗長性をもたらす。このようなマニピュレータの関節空間のさらなる理解は、以下に論じされる
図14を参照することによって、得られることができる。
【0072】
図14は、ゼロ空間(N)並びに遠隔中心(RC)及びエンドエフェクタ(EE)のゼロ空間関連運動に直交するゼロ直交空間
【数1】
内にソフトウェア遠隔中心を有する例示的なマニピュレータアームのn次元関節速度空間の様々な部分空間を図式的に示し、次元の数は(DIM=n)で示される。図示された部分空間は以下の通りである。
【0073】
部分空間A
【数2】
は、遠隔中心のゼロ直交空間であり、これは、遠隔中心の動作をもたらす関節速度の部分空間である。遠隔中心の位置は、3自由度を必要とする3次元空間内であることを必要とするので、この部分空間は3次元である。
【0074】
部分空間B(N(RC))は、遠隔中心のゼロ空間であり、これは、遠隔中心の瞬間的な動作をもたらさない関節速度の部分空間である。この部分空間は、部分空間Bが(n-3)次元であるように部分空間Aと直交し、ここでnは、完全な関節速度空間の次元(例えば、関節の全体の数)である。
【0075】
部分空間C
【数3】
は、エンドエフェクタのゼロ直交空間であり、これは、エンドエフェクタの動作をもたらす関節速度の部分空間である。エンドエフェクタを位置決めすること及び配向することは、位置に関して3自由度及び配向に関して3自由度を必要とするので、この部分空間は6次元である。
【0076】
部分空間D(N(EE))は、エンドエフェクタのゼロ空間であり、これは、エンドエフェクタの瞬間的な動作をもたらさない関節速度の部分空間である。この部分空間は、(n-6)次元であるように部分空間Cと直交する。
【0077】
部分空間Eは、部分空間A及び部分空間Cの
和集合(union)又は直和(direct sum)である:
【数4】
。これは、遠隔中心、エンドエフェクタ、又は両方のいずれかの動作をもたらす関節速度の部分空間である。部分空間(A)及び部分空間(C)の定義から、この部分空間は9次元である。
【0078】
部分空間F(N(RC+EE))は、部分空間B及び部分空間Dの交わりであり、これは、遠隔中心又はエンドエフェクタのいずれかの瞬間的な動作をもたらさない関節速度の部分空間である。この部分空間は、(n-9)次元であるように部分空間Eと直交する。
【0079】
ソフトウェア遠隔中心を有するマニピュレータアームの部分空間は、限定されるものではないが、アームクラッチモード、ポートクラッチモード、アームゼロクラッチモード、ポートゼロクラッチモード、アームゼロ直交クラッチモード、ポートゼロ直交クラッチモード、アームポートゼロ直交クラッチモード、アームポートゼロクラッチモード、本明細書に記載された任意のモード、又はこれらの様々な組み合わせを含む、様々な他のクラッチモードによって、利用されることができる。幾つかのクラッチモード機能が、
図14に示された例示の部分空間を参照して以下にさらに詳細に論じられる。
【0080】
1つの態様では、ポートクラッチ挙動のいずれも臨床的に許容可能にするために、運動学は、マニピュレータベースよりむしろ遠隔中心に対して定められる遠位エンドエフェクタ位置及び配向を用いてセットアップされる可能性がある。このような場合では、ポートクラッチが作動され、遠隔中心が、恐らく、体壁に従って(following)、浮動及びバックドライブされるとき、エンドエフェクタは、バックドライブされるポートにも従う(follow)。これは、エンドエフェクタの運動学がベースに対して定められる場合と対照的であり、この場合、ポートをクラッチすることは、エンドエフェクタを望ましくなく静止して保つ。前者の相対運動学定義を使用して、体壁の入口に対するエンドエフェクタの動作は最小化され、これは、エンドエフェクタが解剖学的構造と相互に作用し得るので、望ましい。
【0081】
1つの態様では、本発明は、アームクラッチモード又は機能を提供する。アームクラッチ機能は、エンドエフェクタを手動で関節運動させることによってのように、1又は複数の関節をバックドライブすることによってユーザ(例えば、患者側助手)によりエンドエフェクタが再位置決めされることを可能にするように、遠隔中心の状態を維持する(遠隔中心がサーボ作動される)。アームクラッチ機能は、それだけで又は以下に記載されるポートクラッチ機能のような様々な他のクラッチ機能と同時に、使用され得る。典型的には、アームクラッチモードがそれだけで使用されるとき、ヤコビアンベースのコントローラは、部分空間A内で「サーボ」作動し、部分空間Bに沿って浮動させる。
【0082】
他の態様では、本発明は、ポートクラッチモード又は機能を提供する。ポートクラッチ機能は、例えば、患者側助手による手動バックドライブ運動によって等、1又は複数の関節をバックドライブすることによって、ユーザにより遠隔中心が再位置決めされることを可能にする。遠隔中心が再位置決めされているとき、エンドエフェクタを空間内に固定して保持することは、部分空間C内でサーボ作動することによって可能である。しかし、臨床医は、エンドエフェクタが遠隔中心に対して動かないことを直観的に期待するであろう。したがって、ポートクラッチ機能がそれだけで使用されるとき、ヤコビアンベースのコントローラは、マニピュレータのベースから遠隔中心の間の関節を浮動させ、遠隔中心からエンドエフェクタまでの関節をサーボ作動させる。
【0083】
本明細書に記載された様々なクラッチモード又は機能は、アームクラッチ及びポートクラッチ機能を含んで、同時に又は並行して利用され得る。幾つかの実施形態では、アームクラッチ及びポートクラッチ機能を同時に生じさせることは、マニピュレータアームの全ての関節を浮動させる。この機能を実装する代替手段は、以下に記載されるアームポートゼロ直交クラッチである。
【0084】
他の態様では、本発明は、ゼロクラッチモード又は機能を提供する。ゼロクラッチ機能は、遠隔中心及びエンドエフェクタの両方がサーボ作動されるままにする一方、マニピュレータ関節が1又は複数の関節をバックドライブすることによりユーザによって再位置決めされることを可能にする。多くの実施形態では、この機能が使用されるとき、ヤコビアンベースのコントローラは、部分空間E内で関節をサーボ作動させ、部分空間Fに沿って関節を浮動させる。
【0085】
さらに他の態様では、本発明は、アームゼロ直交クラッチモード又は機能を提供する。アームゼロ直交クラッチ機能は、(a)エンドエフェクタを浮動させ、(b)遠隔中心をサーボ作動させ、及び(c)ゼロ空間アルゴリズムが関節を駆動することを可能にすることによって、所望の挙動を提供する。これは、部分空間Aに沿ってサーボ作動させ;部分空間Aに直交する部分空間E内で部分空間に沿って浮動させ;ゼロ空間アルゴリズムが部分空間Fに沿って駆動することを可能にすること;によって達成される。
【0086】
他の態様では、本発明は、ポートゼロ直交クラッチモード又は機能を提供する。ポートゼロ直交クラッチ機能は、(a)エンドエフェクタをサーボ作動させ、(b)遠隔中心を浮動させ、及び(c)ゼロ空間アルゴリズムが関節を駆動することを可能にすることによって、所望の挙動を提供する。この挙動は、部分空間Cに沿ってサーボ作動させ;部分空間Cに直交する部分空間E内で部分空間に沿って浮動させ;ゼロ空間アルゴリズムが部分空間Fに沿って駆動することを可能にすること;によって達成される。
【0087】
さらに他の態様では、本発明は、アームポートゼロ直交クラッチモード又は機能を提供する。アームポートゼロ直交クラッチモード機能は、(a)エンドエフェクタを浮動させ、(b)遠隔中心を浮動させ、及び(c)ゼロ空間アルゴリズムが関節を駆動することを可能にすることによって、所望の挙動を提供する。この挙動は、部分空間Eに沿って関節を浮動させ;ゼロ空間アルゴリズムが部分空間Fに沿って駆動することを可能にすること;によって達成される。
【0088】
図15-16は、本発明の多くの実施形態によるロボット手術システムのマニピュレータアセンブリを再配置する方法を示す。
図15は、上述の式に関連して、患者側カート関節状態を制御するための一般的なアルゴリズムを実装する必要がある必須のブロックの簡略図を示す。
図15の方法によれば、システムは:マニピュレータアームの順運動学を計算し;次に、式(1)を用いてdx/dtを計算し、式(5)を用いてdq
prep/dtを計算し、次に、式(6)を用いて、dq
prep/dt及びヤコビアンに依存し得るzからdq
null/dtを計算する。計算されたdq
prep/dt及びdq
null/dtから、システムは、式(4)及び式(3)使用してdq/dt及びqをそれぞれ計算し、それによって、関節の第1のセットの浮動及びユーザによる手動バックドライブ運動中に、所望のエンドエフェクタの状態及び/又は遠隔中心の位置を維持しながら、コントローラがマニピュレータの所望の再配置を生じさせることができる運動を提供する。
【0089】
図16は、ロボットシステムで使用するための例示的な方法のブロック図を示す。描かれるクラッチモードでは、ロボットシステムは、エンドエフェクタ又は遠隔中心の位置又は配向と関連付けられるマニピュレータアームの関節の第1のセットを浮動させ、関節の第1のセットの浮動中のエンドエフェクタ又は遠隔中心の手動バックドライブ運動を感知し、所望の状態又は運動にしたがうゼロ空間内でのマニピュレータアームの近位部分の運動に関連付けられる関節の第2のセットの運動を計算し、エンドエフェクタ又は遠隔中心の手動バックドライブ運動と同時にマニピュレータアームの所望の状態又は運動を提供するように、関節の浮動中に計算された運動にしたがって関節を駆動する。この方法は、本明細書に記載された実施形態のいずれかの様々な態様又は特徴を含み得ることが理解されることができる。
【0090】
例示的な実施例は、理解を明確にするために及び例としてある程度詳細に記載されているが、種々の適合、修正、及び変更が、当業者には明らかであろう。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0091】
次の付記を記す。
(付記1) 移動可能な遠位エンドエフェクタ、ベースに結合される近位部分、及び前記エンドエフェクタと前記ベースとの間の複数の関節を含むマニピュレータアームを提供するステップであって、前記複数の関節は、手術作業空間の中で与えられたエンドエフェクタ状態に対して異なる関節状態の範囲を可能にする十分な自由度を有する、ステップ;
ヤコビアンのゼロ直交空間内で前記複数の関節の関節の第1のセットを浮動させるステップであって、前記関節の第1のセットは、前記作業空間内の前記エンドエフェクタの位置に関連付けられ、前記ゼロ直交空間は、前記関節の第1のセットの運動が前記エンドエフェクタの運動をもたらす関節速度空間である、ステップ;
前記作業空間内の所望の位置への前記エンドエフェクタの手動バックドライブ運動を感知するステップ;
前記マニピュレータアームの近位部分の所望の運動を生じさせるように前記複数の関節の関節の第2のセットの補助運動を計算するステップであって、前記補助運動を計算するステップは、前記ヤコビアンのゼロ空間内で前記関節の第2のセットの関節速度を計算するステップを含み、前記ゼロ空間は前記ゼロ直交空間と直交する、ステップ;及び
前記関節の第1のセットの浮動と同時に計算された前記補助運動にしたがって前記関節の第2のセットを駆動するステップ;を含む、
ロボット方法。
(付記2) 前記エンドエフェクタの前記所望の位置は、カニューレを通る前記遠位エンドエフェクタの挿入又は低侵襲開口部に隣接した前記エンドエフェクタの位置決めを可能にするための前記作業空間内の前記エンドエフェクタの位置及び/又はアライメントを含む、
付記1に記載のロボット方法。
(付記3) 前記マニピュレータアームの前記近位部分の前記所望の状態又は運動は、所望の位置、速度、形態、姿勢、再配置運動、又は前記作業空間内での前記マニピュレータアームの衝突回避運動のいずれか又は全てである、
付記1に記載のロボット方法。
(付記4) 前記マニピュレータアームの前記近位部分の前記所望の状態又は運動は、前記遠位エンドエフェクタに近位の前記マニピュレータアームの一部の状態又は運動を含む、
付記3に記載のロボット方法。
(付記5) 前記関節の前記第1及び前記第2のセットのそれぞれは、1又は複数の関節を含む、
付記1に記載のロボット方法。
(付記6) 前記関節の前記第1及び前記第2のセットは、1又は複数の関節を共通に含む、
付記1に記載のロボット方法。
(付記7) 前記関節の第1のセットを浮動させるステップ、前記補助運動を計算するステップ、及び前記補助運動にしたがって前記関節を駆動するステップは、前記関節の運動を決定するプロセッサの第1のクラッチモードの中で発生し、前記プロセッサはさらに、組織操作モードを有し、前記方法はさらに:
所望の組織操作を生じさせるように前記エンドエフェクタを動かすためのユーザ入力から組織操作指令を受信するステップと;
前記マニピュレータを前記所望の運動で動かすように前記組織操作指令に応じて前記複数の関節の操作運動を計算するステップと;を含む、
付記1に記載のロボット方法。
(付記8) 前記組織操作モードにあるとき、前記方法はさらに:
前記組織操作中に前記マニピュレータアームの所望の状態又は運動を生じさせるように、前記複数の関節の関節のサブセットの補助運動を計算するステップであって、前記補助運動を計算するステップは、前記ゼロ空間内で前記関節のサブセットの関節速度を計算するステップを含む、ステップ;及び
前記マニピュレータアームの前記所望の運動と同時に前記指令操作運動にしたがって前記エンドエフェクタを動かすように、前記計算された補助運動及び前記操作運動にしたがって前記関節のサブセットを駆動するステップ;を含む、
付記7に記載のロボット方法。
(付記9) 前記マニピュレータアームは、中間部分を有するツールを支持するように構成され、前記中間部分は挿入軸に沿って前記近位部分の遠位に延び、前記エンドエフェクタは前記中間部分の遠位端部にあり、前記関節の少なくとも幾つかは、前記マニピュレータアームの前記ツールが、低侵襲開口部を通ってアクセスされる作業部位で前記エンドエフェクタの運動を容易にするよう前記挿入軸に沿って配置される遠隔中心周りに枢動するように、前記ベースに対して前記ツールの運動を機械的に拘束する、
付記1に記載のロボット方法。
(付記10) 前記エンドエフェクタに隣接する前記マニピュレータアームの一部は、前記拘束される部分が動くとき前記エンドエフェクタの器具シャフトが遠隔中心周りに枢動するように、前記ベースに対して機械的に拘束される、
付記9に記載のロボット方法。
(付記11) 前記複数の関節の第1の関節は、前記近位部分を前記ベースに結合し、前記第1の関節は、回転関節の関節運動が前記マニピュレータアームの前記遠位部分を前記回転関節の枢動軸周りに枢動させるように、前記マニピュレータアームの前記遠位部分を支持する回転関節を有し、前記枢動軸は、前記マニピュレータアームの前記挿入軸が前記遠隔中心に向かって配向される遠位に先細にされた円錐に沿って動くように、前記回転関節から前記遠隔中心を通って延びる、
付記9に記載のロボット方法。
(付記12) 前記関節の第2のセットは前記第1の関節を含む、
付記11に記載のロボット方法。
(付記13) 移動可能な遠位エンドエフェクタ、ベースに結合される近位部分、及び前記エンドエフェクタと前記ベースとの間の複数の関節を含むマニピュレータアームを提供するステップであって、前記複数の関節は、手術作業空間の中で与えられたエンドエフェクタ状態に対して異なる関節状態の範囲を可能にする十分な自由度を有し、前記エンドエフェクタは、手術中に前記作業空間内で低侵襲開口部に隣接する遠隔中心周りに枢動する器具シャフトを有する、ステップ;
ヤコビアンのゼロ直交空間内で前記複数の関節の関節の第1のセットを浮動させるステップであって、前記ゼロ直交空間は、前記関節の第1のセットの運動が前記作業空間内の前記遠位エンドエフェクタの運動をもたらす関節速度空間である、ステップ;
前記遠隔中心を前記作業空間で制御された位置に保つように前記複数の関節を駆動するステップ;
前記作業空間内の所望の位置への前記遠位エンドエフェクタの手動バックドライブ運動を感知するステップ;
前記マニピュレータアームの所望の運動を生じさせるように前記複数の関節の第2のセットの補助運動を計算するステップであって、前記補助運動を計算するステップは、前記ヤコビアンのゼロ空間内で前記関節の第2のセットの関節速度を計算するステップを含み、前記ゼロ空間は前記ゼロ直交空間と直交し、前記ゼロ空間は、関節運動が前記エンドエフェクタの状態を維持する関節速度空間である、ステップ;及び
前記遠隔中心の前記位置を維持すること及び前記マニピュレータアームの前記所望の運動と同時に、計算された前記補助運動にしたがって前記関節の第2のセットを駆動するステップ;を含む、
ロボット方法。
(付記14) 前記関節の前記第1及び前記第2のセットは、1又は複数の関節を共通に含む、
付記13に記載のロボット方法。
(付記15) 前記制御された位置は、前記作業空間内の固定された場所を含む、
付記13に記載のロボット方法。
(付記16) 移動可能な遠位エンドエフェクタ、ベースに結合される近位部分、及び前記エンドエフェクタと前記ベースとの間の複数の関節を含むマニピュレータアームを提供するステップであって、前記複数の関節は、与えられたエンドエフェクタ状態に対して異なる関節状態の範囲を可能にする十分な自由度を有し、前記遠位エンドエフェクタは、手術中に手術作業空間内で低侵襲開口部に隣接する遠隔中心周りに枢動する器具シャフトを有する、ステップ;
ヤコビアンのゼロ直交空間内で前記複数の関節の第1のセットを浮動させるステップであって、前記ゼロ直交空間は、前記関節の運動が前記作業空間内の前記遠隔中心の運動をもたらす関節速度部分空間である、ステップ;
前記エンドエフェクタの制御された位置を前記作業空間内に保つように前記複数の関節を駆動するステップ;
前記作業空間内の所望の場所への前記遠隔中心の手動バックドライブ運動を感知するステップ;
前記マニピュレータアームの所望の運動を生じさせるように前記複数の関節の第2のセットの補助運動を計算するステップであって、前記補助運動を計算するステップは、前記ヤコビアンのゼロ空間内で前記関節の第2のセットの関節速度を計算するステップを含み、前記ゼロ空間は前記ゼロ直交空間と直交し、前記ゼロ空間は、関節運動が前記遠位エンドエフェクタの状態を維持する関節速度空間である、ステップ;及び
前記エンドエフェクタの前記制御された位置を維持すること及び前記マニピュレータアームの前記所望の運動と同時に、前記関節の第1のセットの浮動の間に、計算された前記補助運動にしたがって前記関節の第2のセットを駆動するステップ;を含む、
ロボット方法。
(付記17) 前記関節の前記第1及び前記第2のセットは、1又は複数の関節を共通に含む、
付記16に記載のロボット方法。
(付記18) 前記制御された位置は、前記遠隔中心に対する前記エンドエフェクタの固定された位置又はアライメントを含む、
付記17に記載のロボット方法。
(付記19) 前記制御された位置は、前記作業空間内の前記エンドエフェクタの固定された位置又はアライメントを含む、
付記17に記載のロボット方法。
(付記20) 移動可能な遠位エンドエフェクタ、ベースに結合される近位部分、及び前記エンドエフェクタと前記ベースとの間の複数の関節を含むマニピュレータアームを提供するステップであって、前記複数の関節は、手術作業空間の中で与えられたエンドエフェクタ状態に対して異なる関節状態の範囲を可能にする十分な自由度を有し、前記エンドエフェクタは、手術中に前記手術作業空間内で低侵襲開口部に隣接する遠隔中心周りに枢動する器具シャフトを有する、ステップ;
ヤコビアンのゼロ直交空間内で前記複数の関節の関節の第1のセットを浮動させるステップであって、前記ゼロ直交空間は、関節運動が前記遠位エンドエフェクタの位置及び前記作業空間内の前記遠隔中心の場所の両方の運動をもたらす関節速度部分空間である、ステップ;
前記作業空間内の所望の位置への前記エンドエフェクタの手動バックドライブ運動及び前記作業空間内の所望の場所への前記遠隔中心の運動を感知するステップ;
前記マニピュレータアームの所望の状態又は運動を生じさせるように前記複数の関節の関節の第2のセットの補助運動を計算するステップであって、前記補助運動を計算するステップは、前記ヤコビアンのゼロ空間内で前記関節の第2のセットの関節速度を計算するステップを含み、前記ゼロ空間は前記ゼロ直交空間と直交し、前記ゼロ空間は、前記関節の第2のセットの運動が前記エンドエフェクタの状態及び前記遠隔中心を維持する関節速度部分空間である、ステップ;及び
前記マニピュレータアームの前記所望の状態又は運動と同時に、前記作業空間内で、前記遠位エンドエフェクタ及び前記遠隔中心両方の所望の位置及び場所それぞれへの手動バックドライブ運動を可能にするように、前記関節の第1のセットを浮動させながら、計算された前記補助運動にしたがって前記関節の第2のセットを駆動するステップ;を含む、
ロボット方法。
(付記21) 近位ベースに対して遠位エンドエフェクタをロボット式に動かすように構成されるマニピュレータアームであって、前記マニピュレータアームは、前記エンドエフェクタと前記ベースに結合される近位部分との間に複数の関節を有し、前記複数の関節は、手術作業空間の中で与えられたエンドエフェクタ状態に対して異なる関節状態の範囲を可能にする十分な自由度を有し、前記エンドエフェクタは、手術中に前記作業空間内で低侵襲開口部に隣接する遠隔中心周りに枢動する器具シャフトを有する、マニピュレータアーム;
前記エンドエフェクタの所望の組織操作運動を生じさせるように操作指令を受信するための入力部;及び
前記入力部を前記マニピュレータアームに結合する、操作モード及びクラッチモードを有する、プロセッサ;を有し、
前記操作モードの前記プロセッサは、前記操作指令に応じて前記所望のエンドエフェクタ運動を生成するための関節運動を計算するように構成され、
前記クラッチモードの前記プロセッサは:
前記作業空間内の所望の位置への前記エンドエフェクタの手動バックドライブ運動を可能にするためにヤコビアンのゼロ直交空間内で前記複数の関節の関節の第1のセットを浮動させるようにであって、前記ゼロ直交空間は、前記関節の運動が前記遠位エンドエフェクタの運動をもたらす関節速度部分空間であり;
前記マニピュレータアームの所望の運動を生じさせるために前記複数の関節の関節の第2のセットの補助運動を計算するようにであって、前記補助運動を計算することは、前記ヤコビアンのゼロ空間内で前記関節の第2のセットの関節速度を計算することを含み、前記ゼロ空間は前記ゼロ直交空間と直交し、;及び
前記関節の第1のセットの浮動と同時に前記計算された前記補助運動にしたがって前記関節の第2のセットを駆動するように;構成される、
ロボットシステム。
(付記22) 前記クラッチモードでは、前記プロセッサは、前記補助運動の計算及び前記計算された補助運動に従う前記関節の第2のセットの駆動と同時に前記関節の第1のセットを浮動させるように構成される、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記23) 前記エンドエフェクタの前記所望の位置は、カニューレを通る前記遠位エンドエフェクタの挿入又は低侵襲開口部に隣接した前記エンドエフェクタの位置決めを可能にするための前記作業空間内の前記エンドエフェクタの位置及び/又はアライメントを含む、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記24) 前記マニピュレータアームの前記所望の状態又は運動は、所望の位置、速度、形態、姿勢、再配置運動、又は前記作業空間内での前記マニピュレータアームの衝突回避運動のいずれか又は全てである、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記25) 前記マニピュレータアームは、前記関節の前記第1及び前記第2のセットのそれぞれが、1又は複数の関節を含むように構成される、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記26) 前記マニピュレータアームは、前記関節の前記第1及び前記第2のセットが、1又は複数の関節を共通に含む、ように構成される、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記27) 前記近位部分を前記ベースに結合する前記複数の関節の第1の関節は、回転関節の関節運動が前記マニピュレータアームの1又は複数の前記関節を前記回転関節の枢動軸周りに枢動させるように、前記マニピュレータアームの前記関節を支持する回転関節であり、前記枢動軸は、前記回転関節から前記エンドエフェクタのシャフトを通って延びる、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記28) 前記関節の前記第1及び前記第2のセットの一方又は両方は、前記第1の関節を含む、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記29) 前記マニピュレータの関節は、前記マニピュレータアームの遠位部分の運動を、低侵襲開口部に隣接する挿入軸に沿って遠隔中心枢動点周りに枢動させるよう機械的に拘束するように構成され、前記プロセッサはさらに、前記枢動点周りに前記中間部分を維持するよう前記関節を駆動するように構成される、
付記21に記載のロボットシステム。
(付記30) 近位ベースに対して遠位エンドエフェクタをロボット式に動かすように構成されるマニピュレータアームであって、前記マニピュレータアームは、前記エンドエフェクタと前記ベースに結合される近位部分との間に複数の関節を有し、前記複数の関節は、手術作業空間の中で与えられたエンドエフェクタ状態に対して異なる関節状態の範囲を可能にする十分な自由度を有し、前記エンドエフェクタは、手術中に前記作業空間内で低侵襲開口部に隣接する遠隔中心周りに枢動する器具シャフトを有する、マニピュレータアーム;
前記エンドエフェクタの所望の組織操作運動を生じさせるように操作指令を受信するための入力部;及び
前記入力部を前記マニピュレータアームに結合するプロセッサであって、前記プロセッサは、操作モード及びクラッチモードを持つように構成され;
前記操作モードの前記プロセッサは、前記エンドエフェクタを前記所望の操作運動で動かすように前記指令に応じて前記関節の運動を計算するように構成され、
前記クラッチモードの前記プロセッサは:
前記エンドエフェクタ及び/又はその周りを前記エンドエフェクタが枢動する関連付けられる遠隔中心の手動バックドライブ運動を可能にするためにヤコビアンのゼロ直交空間内で前記複数の関節の関節の第1のセットを浮動させるようにであって、前記ゼロ直交空間は、前記関節の第1のセットの運動が前記作業空間内で前記エンドエフェクタ及び/又は前記遠隔中心の運動をもたらす関節速度部分空間であり;
前記マニピュレータアームの所望の運動を生じさせるために前記複数の関節の関節の第2のセットの補助運動を計算するようにであって、前記補助運動を計算することは、前記ヤコビアンのゼロ空間内で前記関節の第2のセットの関節速度を計算することを含み、前記ゼロ空間は前記ゼロ直交空間と直交し、前記ゼロ空間は、関節運動が前記エンドエフェクタ及び/又は前記関連付けられる遠隔中心の状態を維持する関節速度部分空間であり;及び
前記エンドエフェクタ及び/又は前記関連付けられる遠隔中心の所望の運動と同時に前記計算された前記補助運動にしたがって前記関節の第2のセットを駆動するように;構成される、
ロボットシステム。
(付記31) 前記クラッチモードの前記プロセッサは、前記ゼロ直交空間が、前記関節の運動が前記作業空間内での前記遠位エンドエフェクタの運動をもたらす関節速度部分空間であるように構成され、
前記プロセッサはさらに、前記遠隔中心を制御された位置に保つように前記クラッチモードにおいて前記複数の関節の運動を計算するように構成される、
付記30に記載のロボットシステム。
(付記32) 前記クラッチモードの前記プロセッサは、前記ゼロ直交空間が、前記関節の運動が前記作業空間内での前記遠隔中心の運動をもたらす関節速度部分空間であるように構成され、
前記プロセッサはさらに、前記遠隔中心の運動及び前記マニピュレータアームの前記所望の運動を可能にするよう前記関節の第1のセットを浮動させることと同時に前記エンドエフェクタを制御された位置に保つように、前記クラッチモードにおいて前記複数の関節の運動を計算するように構成される、
付記30に記載のロボットシステム。
(付記33) 前記遠隔中心の前記制御された位置は、前記遠隔中心に対する前記エンドエフェクタの固定された位置又はアライメントを含む、
付記32に記載のロボットシステム。
(付記34) 前記遠隔中心の前記制御された位置は、前記作業空間内での前記エンドエフェクタの固定された位置又はアライメントを含む、
付記32に記載のロボットシステム。
(付記35) 前記クラッチモードの前記プロセッサは、前記ゼロ直交空間が、前記関節運動が前記作業空間内での前記エンドエフェクタの位置及び前記遠隔中心の場所の両方の運動をもたらす関節速度部分空間であるように構成され、
前記クラッチモードの前記プロセッサはさらに、前記マニピュレータアームの前記所望の状態又は運動を提供すると同時に、前記作業空間内で、所望の位置及び場所への前記エンドエフェクタ及び前記遠隔中心の両方の手動バックドライブ運動をそれぞれ可能にするように、前記関節の第1のセットを浮動させながら、前記計算された補助運動にしたがって前記関節の第2のセットを駆動するように構成される、
付記30に記載のロボットシステム。