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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ニトリルゴムの水素化
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/04 20060101AFI20240213BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C08F8/04
C08C19/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021504294
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2019068382
(87)【国際公開番号】W WO2020020630
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2018/096628
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】キンチュン・リウ
(72)【発明者】
【氏名】ジェンリ・ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】カローラ・シュナイダース
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515532(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0119530(US,A1)
【文献】特開平04-323201(JP,A)
【文献】特開平04-323205(JP,A)
【文献】特開平01-113407(JP,A)
【文献】特表2018-516863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F8,C08C19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的又は完全に水素化されたニトリルゴムを調製するための方法であって、
溶液中のニトリルゴムを、成分:
(A)一般式(I):
Ru(CO)(H)(X)(L)(L) (I)
(式中、
は、アニオン性配位子であり、
及びLは、同一の又は異なる配位子であり、ここで、L及びLの少なくとも1つは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す)
を有するRu-NHC触媒;及び
(B)CaCl、クエン酸、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF*OEt)、アスコルビン酸、及びトリクロロ(フェニル)シラン、又はそれらの混合物からなる群から選択される水素化エンハンサー
を含む少なくとも1つの触媒系の存在下で水素化にかけることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記水素化エンハンサー(B)の量が、使用する前記ニトリルゴムを基準として0.01~1.0phrである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Ru-NHC触媒の量が、使用する前記ニトリルゴムを基準として0.01phr~1.00phrのRu触媒の範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記一般式(I)を有する触媒を、
(i)Lが、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホネート、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、チオエーテル、ニトリル及びイソシアニドからなる群から選択される配位子を表し、
がN-ヘテロ環状カルベン配位子を表す、触媒を使用するか、又は
(ii)両方の配位子L及びLが同一の又は異なるN-ヘテロ環状カルベン配位子を表す、触媒を使用するか
のいずれかにおいて使用する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
が、一般式(IIf):
【化1】
(式中、
、R及びRは、同一であるか又は異なり、且つC~C20アルキル、C ~C-シクロアルキル、C ~C20アルコキシ、置換若しくは非置換のC~C20アリール、C ~C20アリールオキシ、その環内に少なくとも1つのヘテロ原子を有するC~C20ヘテロアリール、その環内に少なくとも1つのヘテロ原子を有するC~C20ヘテロシクリル基又はハロゲンを表す
を有するホスフィンを表す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
が、PPh、P(p-Tol)、P(o-Tol)、PPh(CH、P(CF、P(p-FC、P(p-CF、P(C-SONa)、P(CH-SONa)、P(イソプロピル)、P(CHCH(CHCH))、P(シクロペンチル)、P(シクロヘキシル)、P(ネオペンチル)又はP(ネオフェニル)からなる群から選択され、ここで、Phはフェニルを意味し、Tolはトリルを意味する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記N-ヘテロ環状カルベン配位子が、ヘテロ原子としての少なくとも1つの窒素が環中に存在する環状カルベン型配位子であり、前記N-ヘテロ環状カルベン配位子は、非置換であっても、1つ若しくは複数の置換基で置換されていてもよい、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記N-ヘテロ環状カルベン配位子が、一般式(IIa)~(IIe):
【化2】
(式中、
、R、R10及びR11は、同一であるか又は異なり、且つ水素、直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C25-アルカリール、C~C20ヘテロアリール、C~C20ヘテロシクリル、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C20-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、C~C20-アリールチオ、-Si(R)、-O-Si(R)、-O-C(=O)R、C(=O)R、-C(=O)N(R)、-NR-C(=O)-N(R)、-SON(R)、-S(=O)R、-S(=O)R、-O-S(=O)R、ハロゲン、ニトロ又はシアノを表し;ここで、R、R、R10及びR11の意味に関連する前述の場合すべてにおいて、基Rは、同一であるか又は異なり、且つ水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又はヘテロアリールを表し、
、R、R10及びR11の1つ又は複数は、互いに独立して、直鎖状又は分岐状のC~C10-アルキル、C~C-シクロアルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリール、C~C20ヘテロアリール、C~C20ヘテロ環から選択される1つ又は複数の置換基、並びに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群から選択される官能基によって置換され得、ここで、前述の置換基は、化学的に可能な程度まで、塩臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルからなる群から選択される、1つ又は複数の置換基によってさらに置換され得る)
に対応する構造を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記N-ヘテロ環状カルベン配位子が、一般式(IIa)~(IIe)において、
式中、
及びRは、同一であるか又は異なり、且つ水素、フェニル、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル及びi-ブチルを表すか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒にシクロアルキル若しくはアリール構造を形成し、かつ、
10及びR11は、同一であるか又は異なり、且つ直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、C ~C10-シクロアルキル、フェニル、2,6-ジイソプロピルフェニル、2,6-ジメチルフェニル2,4,6-トリメチルフェニル、C~C10-アルキルスルホネート又はC~C10-アリールスルホネートを表す
場合に対応する構造を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記N-ヘテロ環状カルベン配位子が、式(IIIa)~(IIIu):
【化3】
(式中、「Ph」は、それぞれの場合にフェニルを意味し、「Bu」は、n-ブチル、sec.-ブチル、イソ-ブチル又はtert.-ブチルのいずれかを意味し、「Mes」は、それぞれの場合に2,4,6-トリメチルフェニルを表し、「Dipp」は、すべての場合に2,6-ジイソプロピルフェニルを意味し、「Dimp」は、2,6-ジメチルフェニルを意味する)
に対応する構造を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
が、水素、フッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素、直鎖状若しくは分岐状C ~C-アルキル、C ~C14-アリール、C ~C-アルコキシ、フェノキシ、C~C20-アルキルジケトネート、C~C24-アリールジケトネート、C ~C-カルボキシレート、C ~C-アルキルスルホネート、C ~C14-アリールスルホネート、C ~C-アルキルチオール、C ~C14-アリールチオール、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニルを表し、前述の基はすべて、非置換であっても、又はハロゲン、C ~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ若しくはC~C24-アリールから選択される1つ若しくは複数のさらなる置換基によって置換されていてもよく、ここで、前記置換基は、ハロゲン、C ~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルからなる群から選択される1つ又は複数の置換基によってさらに置換されていてよい、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
式(I-a)~(I-d):
【化4】
〔式中、Lは、一般式(IIa)又は(IIb):
【化5】
(式中、
及びRは、同一であるか又は異なり、水素、C~C24-アリール、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキルを表すか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒にシクロアルキル若しくはアリール構造を形成し、かつ
10及びR11は、同一であるか又は異なり、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、C ~C10-シクロアルキル、フェニル、2,6-ジイソプロピルフェニル、2,6-ジメチルフェニル若しくは2,4,6-トリメチルフェニル、C~C10-アルキルスルホネート又はC~C10-アリールスルホネートを表す)
の配位子を表すか、又は
、一般式(IIIa)~(IIIu):
【化6】
(式中、「Ph」は、それぞれの場合にフェニルを意味し、「Bu」は、それぞれの場合にブチルを意味し、「Mes」は、それぞれの場合に2,4,6-トリメチルフェニルを表し、「Dipp」は、すべての場合に2,6-ジイソプロピルフェニルを意味し、及び「Dimp」は、それぞれの場合に2,6-ジメチルフェニルを意味する)
の配位子を表す〕
の触媒を使用する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
式(I-a(1))~(I-d(1)):
【化7】
に従う触媒を使用する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記水素化を、60℃~200℃の範囲の温度で、且つ、0.5MPa~35MPaの範囲の水素圧力で実施する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
水素化にかける前記ニトリルゴムが、
(i)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル及びそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つのα,β-不飽和ニトリル
(ii)1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、ピペリレン及びそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの共役ジエン、及
(iii)任意選択的に、α,β-モノ不飽和のモノカルボン酸、それらのエステル及びアミド、α,β-モノ不飽和のジカルボン酸、それらのモノ又はジエステル、及び前記α,β-モノ不飽和のジカルボン酸のそれぞれの無水物又はアミドからなる群から選択される、1つ又は複数のさらなる共重合性モノマー
の繰り返し単位を含むニトリルゴムである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ニトリルゴムを部分的又は完全に水素化するための触媒としての、成分:
(A)一般式(I):
Ru(CO)(H)(X)(L)(L) (I)
(式中、
は、アニオン性配位子であり、
及びLは、同一の又は異なる配位子であり、ここで、L及びLの少なくとも1つは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す)
を有するRu-NHC触媒;及び
(B)CaCl、クエン酸、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF*OEt)、アスコルビン酸、及びトリクロロ(フェニル)シラン、又はそれらの混合物からなる群から選択される水素化エンハンサー
を含む触媒系の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ru-NHC触媒と特定の水素化エンハンサーとを含む特定の触媒系の存在下でニトリルゴムを選択的且つ効率的に水素化するための、水を含まない方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業的な目的では、NBRの水素化は、多くの場合、ロジウム又はパラジウムをベースとする不均一系又は均一系のいずれかの遷移金属触媒を使用することにより、有機溶媒中で実施される。そのようなプロセスでは、例えば、触媒金属が高価であり、且つ触媒金属の除去/リサイクルに含まれるコストがかかるといった欠点がある。この理由から、より安価な貴金属、例えばルテニウムをベースとする代替触媒の研究開発が行われてきた。
【0003】
タイプRu(X)Cl(CO)L(Xは、H又はCH=CHPhを意味する)のRuベースの錯体は、溶液でのポリマー水素化のための良好な触媒である。RuHCl(CO)L(Lは、嵩高いホスフィンである)触媒系は、(非特許文献1)に開示されているようにNBRの定量的水素化をもたらす。そのような水素化中、触媒活性を維持するために遊離ホスフィン配位子を添加することは、必要ではない。しかしながら、GPC結果は、これらの触媒が水素化中にある程度の架橋を引き起こすことを示し、得られたHNBRは、ゲル形成の傾向がある。
【0004】
(特許文献1)において、NHC配位子(N-ヘテロ環状カルベン)なしの6配位Ruベースの錯体Ru(CO)HCl(Z)(Zは、ホスフィン配位子、例えばPPhである)がニトリルゴムの水素化のために使用されているが、様々な添加物又は配位子、例えばホスフィン又はカルボン酸、例えば安息香酸又は酢酸が、ゲル形成を回避するために添加されなければならない。
【0005】
(特許文献2)は、Ru触媒及び有機添加物を用いたニトリルゴムラテックスの接触水素化を開示している。モノ-及びジカルボン酸、例えばクエン酸及びアスコルビン酸が可能な添加物として列挙されている。触媒は、Ruベースでもあるが、NHC配位子なしである。しかしながら、ラテックス形態でのNBRの水素化からの結果は、溶液条件に直接移行させるべきではない。
【0006】
同様に、(特許文献3)及び(特許文献4)は、微量の水と一緒に同じ目的のための無機添加物、例えば塩並びに硫酸及びリン酸のような酸を使用しており、それらは、厳しく腐食性であると考えなければならず、それは、水素化施設のすべてについて高価な高品位スチールの使用をさらに要求する。必要とされる触媒の量は、ゴムに対してRu金属をベースとして(特許文献4)では923~1013ppmで変動し、(特許文献3)ではおよそ100ppmのRu金属である。
【0007】
HNBRのいくつかの用途は、例えば、工業的用途向けでは添加物の存在に敏感でないことがあり得るが、一般に、よりきれいなポリマー又はより少ない汚染物質若しくは添加物を含有するポリマーを好む傾向がある政府衛生安全規制の対象となる用途も存在する。実用的理由から、すべての指定製品のために同じ触媒系をプラントにおいて稼働させることが非常に望ましく、且つ添加物なしのより簡単な触媒系が工業的用途向け及び規制用途向けの両方の製品を製造することを可能にし得る。
【0008】
さらに、貴金属、例えばパラジウム、ロジウム、イリジウム、白金及びルテニウムは、高価であるため、より高い触媒効率も望ましい。
【0009】
ニトリルゴムの水素化のために使用することができる様々なルテニウム触媒系が提案されている。
【0010】
(特許文献5)において、触媒RuCl(PPh及びRuHCl(CO)(PCyがMEK溶液でのニトリルゴム水素化のために使用されている。しかしながら、比較的高い量(約5phr)のアスコルビン酸が添加されない限り、得られる生成物は、ゲル化する。さらなる実施例では、様々な有機酸又は二塩基性酸の添加が記載されている。使用される触媒の量は、100重量部のゴム当たり229~1054ppmのRu金属であると報告されている。
【0011】
式RuHCl(CO)(IMes)(PCy)(式中、Cyは、シクロヘキシルを意味する)のルテニウム錯体がNolanら(非特許文献2)によって初めて調製され、且つ1-ヘキセン水素化について試験されており、及びRuHCl(CO)(IMes)(PCy)触媒は、より簡単なRuHCl(CO)(PCyよりも活性が低いことが見いだされた。しかしながら、この参考文献は、そのような錯体がポリマー、特にニトリルゴムを水素化するためにも使用され得るかどうか、及び触媒としてのRuHCl(CO)(PCyの使用と比較して触媒としてのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)の使用が、それによって得られる任意の水素化ニトリルゴムの物理的特性にいかなる影響を及ぼすか又は物理的特性にメリットがあるかどうかについていかなる開示、暗示又は教示も提供していない。
【0012】
Foggら(非特許文献3)は、前駆体RuHCl(CO)(PPhとそれぞれのNHC配位子との反応によってNHC=IMes又はSIMesの錯体RuHCl(CO)(PPh)NHCを調製した。
【化1】
【0013】
シクロオクテンを用いた水素化トライアルは、NHC=IMes(IMesは、N,N’-ビス(メシチル)イミダゾール-2-イリデンである)のこの触媒について良好な水素化効率を明らかにしたが、副反応として約20%のROMPポリマーも見いだされ、それは、この触媒又は誘導される活性化学種がメタセシス活性を有することを示す。これは、このプロセスがメタセシス工程によって進行するため、分子量低下がジエンポリマーの水素化に伴うであろうことをさらに暗示している。これは、より低い分子量のゴムを生成するという目的のために有益であるが、多くの最高級ゴム部品にとって必要である分子量低下なしの水素化ポリマーの制御された調製のために、それは、重大な欠点である。それに反して、ROMP重合は、水素化される基質としてのシクロドデセンで全く観察されなかった。基質に依存するこの異なる挙動は、当業者がそれらの触媒挙動に関していかなる結論を導き出すこと又はいかなる予測をすることも可能にしない。
【0014】
Foggら(非特許文献4)は、式RuHCl(H)(PCy)(L)及びRuHCl(CO)(PCy)(L)(式中、CyがシクロヘキシルであるL=P(Cy)又はIMesがN,N’-ビス(メシチル)イミダゾール-2-イリデンであるL=IMes)の触媒の水素化性能を、様々な基質、例えばスチレン及びアリルベンゼンについて且つノルボルネン及びその誘導体のROMPによって得られたポリマーについて試験した。NHC配位子あり及びなしのルテニウム錯体を比較すると、NHC配位子ありのものについて明らかな利点を見いだすことができない。トライアルは、穏やかな条件下において、例えば比較的高い触媒ローディングと共に室温及び55℃以下で行われた。
【0015】
ポリマー基質の水素化は、小分子の水素化と比較してはるかにより多い需要があり、高い/より高い触媒ローディングにもかかわらず、実質的に低下したターンオーバー頻度及び転化率をもたらし、反応時間の増加を必要とする。
【0016】
添加物ありのRuベースの触媒(NHC配位子あり及びなし)の使用は、原則として、すなわち以下の文献から公知である:
(特許文献6)は、Ru触媒(NHC配位子なし)並びに無機添加物、特に硫酸鉄、硫酸アンモニウム及び硫酸鉄アンモニウム、しかしまたHClのような鉱酸を用いたNBRラテックス水素化の方法を開示している。触媒は、Ruベースでもあるが、NHC配位子なしである。しかし、ラテックス水素化での反応条件は、溶液でのそれと大きく異なるため、この出願は、NBRの溶液水素化への前記添加物の影響を教示しない。
【0017】
(特許文献7)は、Ru触媒及び有機添加物、特にクロロ酢酸、シュウ酸、アジピン酸及びクエン酸が好ましい、カルボン酸を用いた溶液水素化を開示している。触媒は、Ruベースのホスフィン錯体でもあるが、NHC配位子なしである。反応系への水の補足添加が明確に述べられている。この特許では、追加の水が水素化において必要とされる。前に述べたように、そのような異なる種類のRu錯体への添加物の影響を予測することはできない。
【0018】
(非特許文献2)は、単一分子、例えばヘキセン、アリルベンゼン及びシクロオクテンのための、しかしポリマー、例えばニトリルゴムのためではない水素化触媒としての[Ru(CO)HCl(IMes)(PCy)]の使用を開示している。テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF OEt)の添加により、活性触媒が形成される。しかしながら、この刊行物は、ポリマーに対するこの触媒系の活性を示していない。
【0019】
(特許文献8)は、ニトリルゴムのための水素化触媒としてのNHC配位子ありのRuベースの錯体を開示している。利点として、他のRu-NHC触媒と比較して比較的簡単な配位子範囲、高い水素化効率、メタセシス活性の欠如、及び粘度増加の抑制が列挙されている。添加物は、この特許出願では述べられていない。
【0020】
上記を要約すると、以下が明らかになる。
(1)これまで、ニトリルゴムの選択的水素化のために活性であるRuベースの水素化触媒は、公知であり、Rh及びPdベースの触媒は、既に工業的水素化プロセスにおいて使用されている。しかしながら、Ruベースの水素化触媒は、NBR水素化のために使用される場合、改善可能な触媒活性及びゲル形成問題に依然として直面している。
(2)様々な添加物の使用は、水性媒体中でのNBRラテックス水素化反応について公知である。使用される添加物は、アルカリ性及び酸性添加物並びにアルカリ土類金属及び重金属などの様々な種類のものである。しかしながら、いずれの添加物もいずれの水素化触媒の水素化を改善するわけではないため、いずれの種類の添加物が、水を含まない溶媒中でのRu-NHC触媒のNBR水素化反応をも改善するかの明らかな教示が見つからない;及び
(3)NHC配位子を含むRuベースの触媒による活性と、NHC配位子なしのRuベースの触媒による活性とは、同一ではない。
(4)ラテックス水素化反応における活性増強添加物の教示は、有機溶媒中の水を含まない溶媒水素化に移行可能ではない。
【0021】
上述の障害を考慮して、Ru-NHC触媒を用いたニトリルゴムの改善された水素化方法が依然として必要とされた。
【0022】
理想的には、そのような方法は、制御された方法において、すなわちメタセシス反応による同時分子量低下なしに進行するべきである。
【0023】
そのような方法は、必要とされるターンオーバー頻度を触媒が既に提供しているという点において効率的であるべきである。換言すれば、同じ量のRuベースの触媒を用いて、しかしより短い反応時間で(完全に)水素化されたニトリルゴムを得ることが目的であった。先行技術によれば、過度に高い残存触媒含量を除去するために、水素化後、触媒及び添加物の除去又はリサイクル工程が多くの場合に必要とされる。したがって、提供されるべき新規方法は、好ましくは、リーブイン触媒技術の代表となるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】欧州特許出願公開第A-0 298 386号明細書
【文献】米国特許出願公開第A-5,208,296号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-0 588 098号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-0 588 096号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-0 588 097号明細書
【文献】米国特許出願公開第A-5,210,151号明細書
【文献】米国特許出願公開第A-5,258,467号明細書
【文献】国際公開第A-13/160470号パンフレット
【非特許文献】
【0025】
【文献】Journal of Molecular Catalysis A:Chemical,1997,126(2-3),115-131
【文献】Organometallics 2001,20,794
【文献】Organometallics 2005,24,1056-1058
【文献】Organometallics 2009,28,441-447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
特に、本発明の1つの目的は、国際公開第A-13/160470号パンフレットに開示されているRu-NHC触媒を使用するニトリルゴムの水素化反応の反応時間を減らすための方法を見いだすことであった。
【0027】
Ru-NHC触媒が水によって一般に失活することは、先行技術から公知であったため、水素化のための水を含まない方法を提供することがさらなる目的であった。
【0028】
そのようなプロセスは、中~高分子量を特に有し、且つ改善されたHNBR組成物をもたらす50~130のムーニー単位の範囲のムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有する水素化ニトリルゴムへのアクセスをさらに提供するべきである。さらに、所望のプロセスは、HNBRのムーニー増加及びゲル含量、したがって加工性にプラスの影響を及ぼすべきである。
【0029】
さらなる目的は、ニトリルゴムの水素化のために使用することができるRu-NHC触媒系を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記の目的は、成分(A)及び(B)を含む触媒系の存在下でニトリルゴムを水素と接触させる工程であって、
成分(A)は、下記の一般式(I)
【化2】
(式中、
は、アニオン性配位子であり、及び
及びLは、同一の又は異なる配位子であり、ここで、L及びLの少なくとも1つは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す)
のRu-NHC触媒であり、
(B)は、
・3超の(25℃での)pKsの弱有機酸、例えば酢酸、クエン酸又はアスコルビン酸、
・アルカリ土類金属塩、例えばMgCl又はCaCl
・テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF OEt)、及び
・トリクロロ(フェニル)シラン
からなる群から選択される特定の添加物(「水素化エンハンサー」とも呼ばれる)である、工程によって意外にも解決された。
【0031】
好ましくは、水素化エンハンサーは、CaCl、クエン酸、アスコルビン酸、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF OEt)、及びトリクロロ(フェニル)シラン、又はそれらの混合物からなる群から選択され、それによってニトリルゴムのポリマー主鎖中のC=C二重結合が選択的且つ効率的に水素化される。
【0032】
触媒の活性は、ゲル形成又はより高いムーニーエージング、すなわちエージング中のムーニー粘度増加に関する不利点なしに反応時間を減らすことができるように著しく高めることができる。これは、リーブイン触媒技術が追求されるため、非常に重要である。水素化エンハンサーは、ニトリルゴムを基準として典型的には10phr未満、好ましくは1phr未満の少量で使用される。追加の水が全く添加されないことを強調することは、重要である。
【0033】
水溶性水素化エンハンサーが、水を含まない有機溶媒中で活性であることは、意外である。触媒が水に不安定であるため、水を含まないことは、明らかな目的であった。
【0034】
本発明は、したがって、部分的又は完全に水素化されたニトリルゴムを調製するための方法において、ニトリルゴムを、成分:
(A)一般式(I):
Ru(CO)(H)(X)(L)(L) (I)
(式中、
は、アニオン性配位子であり、及び
及びLは、同一の又は異なる配位子であり、ここで、L及びLの少なくとも1つは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す)
を有する少なくとも1つのRu-NHC触媒:及び
(B)3超のpKs(25℃での)の弱有機酸、例えば酢酸、クエン酸若しくはアスコルビン酸、アルカリ土類金属塩、例えばMgCl若しくはCaCl、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF OEt)及びトリクロロ(フェニル)シラン又はそれらの混合物からなる群から選択される特定の添加物、すなわち水素化エンハンサー(B)
を含む触媒系の存在下で溶液中において水素化にかけることを特徴とする方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
有利には、成分(A)及び(B)を含む触媒系の使用は、ニトリルゴムの水素化反応を行うことを可能にする。成分(A)及び(B)を含む触媒系は、溶液でのニトリルゴムの前記水素化における高い活性及び選択性を特徴とする、すなわち、高い水素化度は、短い反応時間で、好ましくは低い触媒濃度で達成され得る。したがって、水素化後にRu-NHC触媒(A)と水素化エンハンサー(B)とを含む触媒系を除去又はリサイクルする必要がない。
【0036】
さらに、(A)及び(B)を含む本発明の触媒系の存在下で調製されたHNBRは、エージング後のゲル形成及びムーニー増加を有益に妨げる一定量のRu金属及びCaイオンを有する。
【0037】
本特許出願の目的で使用される「置換される」という用語は、指示された基、分子又は錯体上の水素原子が、それぞれの場合において指示された基の1つによって置き換えられていることを意味するが、ただし、指示された原子の原子価が高すぎることがなく、その置換で安定な化合物が生じる必要がある。
【0038】
本特許出願の目的のために用いられる「水を含まない」という用語は、1重量%未満の水が反応系に存在することを意味する。1重量%未満の残存水は、任意の源、すなわちNBR中の水分及び有機溶媒中の水不純物などの任意の源のものであり得る。
【0039】
本特許出願及び本発明の目的のために、上記及び下記において、一般的な項目又は好ましい範囲で与えられる基(moiety)の定義、パラメーター又は説明は、すべていかなる方法でも相互に組み合わせることができ、このように、すなわちそれぞれの範囲と好ましい範囲との組合せを含めて開示されていると見なされるものとする。
【0040】
触媒系の定義:
本発明により使用される触媒系は、成分(A)として、一般式(I):
Ru(CO)(H)(X)(L)(L) (I)
(式中、
は、アニオン性配位子であり、及び
及びLは、同一の又は異なる配位子であり、ここで、L及びLの少なくとも1つは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す)
を有するRu-NHC触媒を含む。
【0041】
一般式(I)に従う触媒は、以下のジオメトリー(geometry:幾何構造):
【化3】
、すなわち正方ピラミッド型ジオメトリーを有し得る。多数の触媒がこの正方ピラミッド型ジオメトリーを有するが、そのジオメトリーからの逸脱も、本発明の範囲内にまたあるべきである配位子範囲(ligand sphere)の変動が原因で可能である。
【0042】
及びLの定義:
一般式(I)において、L及びLは、同一の又は異なる配位子であり、その少なくとも1つは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す。
【0043】
一実施形態では、
は、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホネート、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、チオエーテル、ニトリル及びイソシアニドからなる群から選択される配位子を表し、
は、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す。
【0044】
代替的な実施形態では、両配位子L及びLは、同一の又は異なるN-ヘテロ環状カルベン配位子を表す。
【0045】
がホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホネート、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジンベースの配位子又はチオエーテルを表す場合、以下の配位子を典型的に使用することができる:
・「ホスフィナイト」という用語には、例えば、フェニルジフェニルホスフィナイト、シクロヘキシルジシクロヘキシルホスフィナイト、イソプロピルジイソプロピルホスフィナイト及びメチルジフェニルホスフィナイトが含まれる。
・「ホスファイト」という用語には、例えば、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリ-tert-ブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト及びメチルジフェニルホスファイトが含まれる。
・「スチビン」という用語には、例えば、トリフェニルスチビン、トリシクロヘキシルスチビン及びトリメチルスチビンが含まれる。
・「スルホネート」という用語には、例えば、トリフルオロメタンスルホネート、トシレート及びメシレートが含まれる。
・「スルホキシド」という用語には、例えば、(CHS(=O)及び(CS=Oが含まれる。
・「チオエーテル」という用語には、例えば、CHSCH、CSCH、CHOCHCHSCH及びテトラヒドロチオフェンが含まれる。
・本出願の目的のために、「ピリジンベースの配位子」という用語は、例えば、国際公開第A-03/011455号パンフレットに述べられているようなすべてのピリジンベースの配位子又はそれらの誘導体のための集合名として使用される。「ピリジンベースの配位子」という用語には、したがって、ピリジンそれ自体、ピコリン(α-、β-及びγ-ピコリン等)、ルチジン(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-及び3,5-ルチジン等)、コリジン(すなわち2,4,6-トリメチルピリジン)、トリフルオロメチルピリジン、フェニルピリジン、4-(ジメチルアミノ)-ピリジン、クロロピリジン、ブロモピリジン、ニトロピリジン、キノリン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール及びフェニルイミダゾールが含まれる。
【0046】
一般式(I)におけるLが電子供与性の配位子としてのホスフィンを表す場合、そのようなホスフィンは、好ましくは、一般式(IIf):
【化4】
(式中、
、R及びRは、同一であるか又は異なり、さらにより好ましくは同一であり、且つC~C20アルキル、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル若しくはネオフェニル、C~C-シクロアルキル、好ましくはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル若しくはシクロオクチル、C~C20アルコキシ、置換若しくは非置換のC~C20アリール、好ましくはフェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、アントラセニル、トリル、2,6-ジメチルフェニル若しくはトリフルオロメチル、C~C20アリールオキシ、その環内に少なくとも1つのヘテロ原子を有するC~C20ヘテロアリール、その環内に少なくとも1つのヘテロ原子又はハロゲン、好ましくはフルオロを有するC~C20ヘテロシクリルを表し得る)
を有する。
【0047】
が、一般式(I)における電子供与性の配位子として一般式(IIf)のホスフィンを表す場合、そのようなホスフィンは、好ましくは、PPh、P(p-Tol)、P(o-Tol)、PPh(CH、P(CF、P(p-FC、P(p-CF、P(C-SONa)、P(CH-SONa)、P(イソプロピル)、P(CHCH(CHCH))、P(シクロペンチル)、P(シクロヘキシル)、P(ネオペンチル)又はP(ネオフェニル)を表し、ここで、Phは、フェニルを意味し、及びTolは、トリルを意味する。
【0048】
N-ヘテロ環状カルベン配位子は、ヘテロ原子としての少なくとも1つの窒素が環中に存在する状態の環状カルベン型配位子を表す。環は、環原子上に異なる置換パターンを示すことができる。好ましくは、この置換パターンは、ある程度の立体的な混み合いを提供する。
【0049】
本発明との関連で、N-ヘテロ環状カルベン配位子(本明細書では以下で「NHC配位子」と言う。)は、好ましくは、イミダゾリン又はイミダゾリジン部分をべースとする。
【0050】
NHC配位子は、典型的には、一般式(IIa)~(IIe):
【化5】
(式中、
、R、R10及びR11は、同一であるか又は異なり、且つ水素、直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C25-アルカリール、C~C20ヘテロアリール、C~C20ヘテロシクリル、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C20-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、C~C20-アリールチオ、-Si(R)、-O-Si(R)、-O-C(=O)R、C(=O)R、-C(=O)N(R)、-NR-C(=O)-N(R)、-SON(R)、-S(=O)R、-S(=O)R、-O-S(=O)R、ハロゲン、ニトロ又はシアノを表し;ここで、R、R、R10及びR11の意味に関連する上記の場合すべてにおいて、基Rは、同一であるか又は異なり、且つ水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又はヘテロアリールを表す)
に対応する構造を有する。
【0051】
これらの式(IIa)~(IIe)において、ルテニウム金属中心に結合している炭素原子は、形式的にカルベン炭素である。
【0052】
適切な場合、R、R、R10及びR11の1つ又は複数は、互いに独立して、1つ又は複数の置換基、好ましくは直鎖状又は分岐状のC~C10-アルキル、C~C-シクロアルキル、C~C10-アルコキシ、C~C24-アリール、C~C20ヘテロアリール、C~C20ヘテロシクリック、並びに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群から選択される官能基によって置換され得、ここで、上述の置換基は、化学的に可能である限り、好ましくはハロゲン、特に塩素又は臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルからなる群から選択される1つ又は複数の置換基によってさらに置換され得る。
【0053】
単に明瞭にするためにのみ、本特許出願における一般式(IIa)及び(IIb)で示されるNHC配位子の構造は、それぞれそのようなNHC配位子について文献においても多くの場合に見いだされる構造(IIa-(i))及び(IIb-(i))と同等であり、NHC配位子のカルベン的特性を強調していることが付言され得る。これは、さらなる構造(IIc)~(IIe)及び以下に示される関連する好ましい構造(IIIa)~(IIIu)にも同様に当てはまる。
【化6】
【0054】
一般式(I)の触媒における好ましいNHC配位子において、R及びRは、同一であるか又は異なり、且つ水素、C~C24-アリール、より好ましくはフェニル、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、i-ブチル若しくはtert.-ブチルを表すか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒にシクロアルキル若しくはアリール構造を形成する。
【0055】
及びRの好ましい意味及びより好ましい意味は、直鎖状又は分岐状のC~C10-アルキル又はC~C10-アルコキシ、C~C-シクロアルキル、C~C24-アリールからなる群から選択される1つ又は複数のさらなる置換基、並びにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群から選択される官能基によって置換され得、ここで、すべてのこれらの置換基は、好ましくは、ハロゲン、特に塩素又は臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルからなる群から選択される1つ又は複数の置換基によってさらに置換され得る。
【0056】
一般式(I)の触媒におけるさらなる好ましいNHC配位子において、R10及びR11は、同一であるか又は異なり、且つ好ましくは直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、より好ましくはi-プロピル若しくはネオペンチル、C~C10-シクロアルキル、より好ましくはアダマンチル、置換若しくは非置換のC~C24-アリール、より好ましくはフェニル、2,6-ジイソプロピルフェニル、2,6-ジメチルフェニル若しくは2,4,6-トリメチルフェニル、C~C10-アルキルスルホネート又はC~C10-アリールスルホネートを表す。
【0057】
10及びR11のこれらの好ましい意味は、直鎖状又は分岐状のC~C10-アルキル又はC~C10-アルコキシ、C~C-シクロアルキル、C~C24-アリールからなる群から選択される1つ又は複数のさらなる置換基、並びにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群から選択される官能基によって置換され得、ここで、それらの置換基のすべては、好ましくは、ハロゲン、特に塩素又は臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルからなる群から選択される1つ又は複数の置換基によってさらに置換され得る。
【0058】
一般式(I)の触媒における好ましいNHC配位子において、
及びRは、同一であるか又は異なり、水素、C~C24-アリール、より好ましくはフェニル、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル及びi-ブチルを表すか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒にシクロアルキル若しくはアリール構造を形成し、かつ、
10及びR11は、同一であるか又は異なり、好ましくは直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、より好ましくはi-プロピル若しくはネオペンチル、C~C10-シクロアルキル、より好ましくはアダマンチル、置換若しくは非置換のC~C24-アリール、より好ましくはフェニル、2,6-ジイソプロピルフェニル、2,6-ジメチルフェニル若しくは2,4,6-トリメチルフェニル、C~C10-アルキルスルホネート又はC~C10-アリールスルホネートを表す。
【0059】
特に好ましいNHC配位子は、以下の構造(IIIa)~(IIIu)を有し、ここで、「Ph」は、それぞれの場合にフェニルを意味し、「Bu」は、それぞれの場合にブチル、すなわちn-ブチル、sec.-ブチル、イソ-ブチル又はtert.-ブチルのいずれかを意味し、「Mes」は、それぞれの場合に2,4,6-トリメチルフェニルを表し、「Dipp」は、すべての場合に2,6-ジイソプロピルフェニルを意味し、及び「Dimp」は、それぞれの場合に2,6-ジメチルフェニルを意味する。
【化7】
【0060】
NHC配位子が環中に「N」(窒素)のみならず、「O」(酸素)も含有する場合、R、R、R10及び/又はR11の置換パターンは、一定の立体的な混み合いを提供することが好ましい。
【0061】
の定義
一般式(I)の触媒において、Xは、好ましくは、アニオン性配位子を表す。
【0062】
一般式(I)の触媒の1つの実施形態では、Xは、水素、ハロゲン、プソイドハロゲン、直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルキルジケトネート、C~C24-アリールジケトネート、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルキルスルホネート、C~C24-アリールスルホネート、C~C20-アルキルチオール、C~C24-アリールチオール、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニルを表す。
【0063】
を意味するとして上で列挙した残基は、1つ又は複数のさらなる置換基、例えばハロゲン、好ましくはフッ素、C~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリールによって置換され得、それらの基は、ハロゲン、好ましくはフッ素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルからなる群から選択される1つ又は複数の置換基によってさらに置換され得る。
【0064】
好ましい実施形態では、Xは、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素、ベンゾエート、C~C-カルボキシレート、C~C-アルキル、フェノキシ、C~C-アルコキシ、C~C-アルキルチオール、C~C14-アリールチオール、C~C14-アリール又はC~C-アルキルスルホネートである。
【0065】
特に好ましい実施形態では、Xは、塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、フェノキシ、メトキシ、エトキシ、トシレート(p-CH-C-SO)、メシレート(CHSO)又はトリフルオロメタンスルホネート(CFSO)を表す。
【0066】
一般式(I)に従ったより好ましい触媒は、式(I-a)~(I-d):
【化8】
〔式中、Lは、一般式(IIa)又は(IIb):
【化9】
(式中、
及びRは、同一であるか又は異なり、水素、C~C24-アリール、より好ましくはフェニル、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル及びi-ブチルを表すか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒にシクロアルキル若しくはアリール構造を形成し、かつ、
10及びR11は、同一であるか又は異なり、好ましくは直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、より好ましくはi-プロピル若しくはネオペンチル、C~C10-シクロアルキル、より好ましくはアダマンチル、置換若しくは非置換のC~C24-アリール、より好ましくはフェニル、2,6-ジイソプロピルフェニル、2,6-ジメチルフェニル若しくは2,4,6-トリメチルフェニル、C~C10-アルキルスルホネート又はC~C10-アリールスルホネートを表す)
の電子供与性配位子を表すか、又は
は、好ましくは、上述した一般式(IIIa)~(IIIu)の電子供与性配位子を表す〕
の触媒である。
【0067】
一般式(I)に従うさらにより好ましい触媒は、式(I-a(1))、(I-b(1))、(I-c(1))及び(I-d(1)):
【化10】
の触媒である。
【0068】
支持材上の触媒:
さらなる代替的な実施形態では、一般式(I)に従うすべての触媒は、固定化型で使用することができる。固定化は、支持材の表面への触媒の化学結合によって都合よく起こる。例えば、下に示す一般式(支持体-Ie)及び(支持体-If)(式中、L、L及びXは、一般式(I)について本出願において上に列挙したすべての一般的な、好ましい、より好ましい、特に好ましい、最も好ましい意味を有し得、「supp」は、支持材を表す)を有する触媒が好適である。好ましくは、支持材は、高分子材料又は例えばシリカゲルなどの無機材料を表す。高分子材料として合成ポリマー又は樹脂が使用され得、ポリエチレングリコール、ポリスチレン又は架橋ポリスチレン(例えば、ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)コポリマー(PS-DVB))がさらにより好ましい。そのような支持材は、配位子L又はLの1つと共有結合を形成することができる官能基をその表面上に含む。
【化11】
【0069】
一般式(支持体-Ie)又は(支持体-If)の固定化触媒において、「supp」は、より好ましくは、上記の式で示した配位子の1つと共有結合を形成することができる1つ又は複数の官能基「X」をそれらの表面上に有するポリマー支持体、樹脂、ポリエチレングリコール又はシリカゲルを表す。
【0070】
表面上の好適な官能基「X」は、ヒドロキシル、アミノ、チオール、カルボキシル、C~C20アルコキシ、C~C20アルキルチオ、-Si(R)、-O-Si(R)、C~C14アリールオキシ、C~C14ヘテロ環、-C(=O)R、-C(=O)OR、-C(=O)N(R)、-SON(R)、-S(=O)R又は-S(=O)Rであり、ここで、XにおけるRの上記の場合すべてにおいて、Xは同一であるか又は異なり、且つH、C~C-アルキル、C~C-シクロアルキル、C~C-アルケニル、C~C-アルキニル、フェニル、イミダゾリル、トリアゾリル又はピリジニル基を意味するものとする。
【0071】
ポリスチレン又は架橋ポリスチレン、さらにより好ましくは触媒への容易なカップリングを可能にするヒドロキシル基を表面上に有するものが好ましい支持材である。
【0072】
一般式(I)に従う触媒の合成:
NHC配位子の合成:
NHC配位子の合成のために、長い期間をかけて既に最適化されている文献からのいくつかの手順を用いることができる。
【0073】
Hintermann(Beilstein Journal of Organic Chemistry 2007,3,No.22)は、安価な基本的な化学薬品をベースとする3つの異なるイミダゾリニウム塩のための合成手順を示している。これらの塩は、強塩基の作用によってそれぞれのフリーカルベンに容易に転化することができる。特に、イミダゾール窒素原子に結合した基に関連した置換パターンは、好適なアミンを用いることによって容易に変更することができる。今日入手可能な幅広い脂肪族及びさらに多くの芳香族アミンを考慮すると、有機合成の当業者は、最適化された触媒組成物を得るのが比較的簡単であることを十分に理解するであろう。
【0074】
イミダゾリンベースのNHCカルベンの合成は、Kuhn及びGrubbsの研究によっても最近最適化されている(Org Lett.2008 May 15;10(10):2075-2077)。Kuhn及びGrubbsは、幅広いホルムアミジンの容易な調製から出発する反応シーケンス及びイミダゾリニウム塩を生成するための一段階反応での閉環を提案している。構造変動の数をかなり増大させる非対称NHC配位子をも調製できることは、注目に値する。
【0075】
最後に、Strassberger(Appl.Organometal.Chem.2010,24,142-146)は、4及び5位のC原子上での可能な置換のために特に有益である比較的安価な有機化学薬品を使用して、マルチリアクタントワンポットルートにおいて置換イミダゾリニウム塩を合成することに成功し、したがってNHC配位子の嵩高さをさらに微調整することができ、且つ様々な基の導入によってNHC配位子の電子的特性を変えることができる。上に言及された方法は、多様なNHC配位子に展開できる。
【0076】
一般式(I)の触媒を調製するための方法
一般式(I)に従う触媒錯体は、下に示される例示的な反応経路で、Foggら(Organometallics 2005,24,1056-1058)に記載されているものなど、カルベン配位子を使用する簡単な配位子交換反応によって調製することができる。
RuHCl(CO)(PPh+IMes→RuHCl(CO)(PPh)(IMes)+2PPh
【0077】
類似の手順は、Nolanら(Organometallics 2001,20,794)にも見いだすことができる。この反応は、NHC型カルベンが、多くのホスフィン配位子と比較してより強い結合性能を有する比較的電子に富むカルベンであるために可能である。
【0078】
別の選択肢は、Foggら(Adv.Synth.Catal.2008,350,773-777)に記載されているような錯体、例えばRuHCl(CO)(NHC)(PPh)の合成及び後続のPCyとの配位子交換反応である。この反応は、導入されるホスフィン配位子が例えばPPhと比較してルテニウムにより強く結合するという条件で様々なホスフィン錯体にアクセスすることを可能にする。
【0079】
別の合成アプローチには、NHC配位子を既に有するルテニウム錯体とアルキリデン配位子との反応が含まれる。例は、アルコールでの処理がベンジリデン配位子の分離及びカルボニル錯体の形成をもたらす、MolらのEur.J.Inorg.Chem.2003,2827-2833に見いだすことができる。しかしながら、この反応経路は、アルキリデン配位子の導入がかなり簡単である場合に好ましいにすぎない。
【0080】
ほとんどのNHC配位子は、かなり安定であり、したがって単離し、且つ上述の配位子交換反応によって触媒中に導入することができる。
【0081】
しかしながら、NHC配位子の他の典型的な前駆体は、例えば、イミダゾリウム又はイミダゾリニウム塩などのそれぞれの塩である。これらの塩は、文献から、例えばArduengoら(J.Am.Chem.Soc.,1991,113,361-363)及びそれからの引き続く研究において周知であるように強塩基で脱プロトン化し、フリーカルベンを発生させることができる。NHC型の多くのカルベンは、意外に安定であるが、ルテニウム錯体との意図される反応の前にそれらを単離することが必ずしも実用的であるとは限らないことがあり得る。その場合、カルベンを含有する反応混合物は、先行トライアルにおいてカルベンへのNHC塩の十分に高い転化率が確立されている場合、配位子交換反応に直接使用することができる。
【0082】
水素化エンハンサー(B):
本発明による触媒系は、水素化エンハンサーとしての添加物(B)をさらに含む。
【0083】
水素化エンハンサーは、
・3超のpKs(25℃での)の弱有機酸、例えば酢酸、クエン酸又はアスコルビン酸、
・アルカリ土類金属塩、例えばMgCl又はCaCl
・テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF OEt)、及び
・トリクロロ(フェニル)シラン
からなる群から選択される。
【0084】
好ましくは、水素化エンハンサーは、CaCl、クエン酸、アスコルビン酸、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF OEt)及びトリクロロ(フェニル)シラン又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0085】
より好ましい水素化エンハンサーは、CaCl及びクエン酸である。
【0086】
触媒系中の水素化エンハンサー(B)の量は、触媒の性質及び触媒活性に依存する。用いる水素化エンハンサーの量は、使用するニトリルゴムを基準として0.01~1.0phr、好ましくは0.04~0.6phr、より好ましくは0.044~0.556phrの範囲で典型的に選択する。
【0087】
(A)及び(B)を含む触媒系を調製するための方法
成分(A)及び(B)は、ニトリルゴムと接触させる前に混合することができる。成分(A)又は成分(B)のいずれかが水素化反応前にニトリルゴムと既に接触していることも可能である。
【0088】
ニトリルゴムを水素化するための方法
ニトリルゴムの水素化は、ニトリルゴムを水素の存在下で触媒錯体系と接触させることによって実施することができる。
【0089】
水素化は、60℃~200℃、好ましくは80℃~180℃、最も好ましくは100℃~160℃の範囲の温度において且つ0.5MPa~35MPa、より好ましくは3.0MPa~10MPaの範囲の水素圧力において実施することが好ましい。
【0090】
好ましくは、ニトリルゴムの水素化時間は、10分間~24時間、好ましくは15分間~20時間、より好ましくは30分間~8時間、さらにより好ましくは1時間~4時間、最も好ましくは1時間~3時間である。
【0091】
使する触媒の量は、使用するニトリルゴムを基準として0.01phr~1.00phrの触媒、好ましくは0.02phr~0.5phr、特に0.035phr~0.3phrの範囲で典型的に選択される。
【0092】
第一に、好適な水を含まない溶媒中のニトリルゴムの水を含まない溶液が調製される。水素化反応におけるニトリルゴムの濃度は、決定的に重要であるわけではないが、反応混合物の過度に高い粘度及び任意の関連混合問題によって反応が悪影響を受けないことが必然的に確保されるべきである。反応混合物中のNBRの濃度は、全反応混合物を基準として好ましくは1~25重量%の範囲、特に好ましくは5~20重量%の範囲である。
【0093】
水素化反応は、使用される触媒を失活させず、且つまた決して反応に悪影響を及ぼさない、水を含まない好適な溶媒中で典型的に実施する。好ましい溶媒には、モノクロロベンゼン、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、クロロフェノール、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン及びシクロヘキサンが含まれるが、それらに限定されない。特に好ましい溶媒は、モノクロロベンゼンである。
【0094】
存在する水の量は、触媒の失活が全くない程度、好ましくは1重量%未満に低く保つべきである。本発明の方法は、ラテックス水素化反応ではないことを現時点で明言する。
【0095】
ニトリルゴムのそのような溶液を、次いで、上で述べた圧力で水素の存在下において本発明の触媒系と接触させる。反応混合物を、典型的には、撹拌するか、又は任意の種類の剪断混合を溶液と水素相との十分な接触を可能にするために導入する。
【0096】
本発明の1つの大きい利点は、使用する触媒系が極めて高活性であることであり、そのため、最終的なHNBR製品中の残存触媒が十分に低く、触媒金属を除去又はリサイクルする工程が軽減されるか又はさらに必要とされない。しかしながら、所望の程度により、本発明の方法において使用した触媒を除去し得る。そのような除去は、例えば、欧州特許出願公開第A-2 072 532A1号明細書及び欧州特許出願公開第A-2 072 533A1号明細書に記載されているように、イオン交換樹脂を使用することによって実施することができる。水素化反応の完了後に得られた反応混合物は、取り出して、窒素下で48時間、例えば100℃において、樹脂への触媒の結合をもたらすイオン交換樹脂で処理することができ、一方で、反応混合物は、通常の仕上げ方法でワークアップすることができる。
【0097】
水素化ニトリルゴムは、次いで、公知のワークアップ手順、例えば水蒸気凝固、溶媒蒸発又は沈澱によって溶液から得、典型的なゴム加工方法での使用を可能にする程度まで乾燥させることができる。
【0098】
本発明の目的のために、水素化は、少なくとも50%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは95~100%の程度までの出発ニトリルゴム中に存在する二重結合の反応である。完全に水素化されたニトリルゴムは、1%以下の量の残存二重結合を有する。
【0099】
本発明による水素化の完了後、1~130、好ましくは10~100の範囲の、ASTM標準D 1646に従って測定されるムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有する水素化ニトリルゴムが得られる。
【0100】
これは、2,000~400,000g/molの範囲、好ましくは20,000~200,000g/molの範囲の重量平均分子量Mwに対応する。
【0101】
得られた水素化ニトリルゴムは、1~5の範囲、好ましくは2.7~4.0の範囲の多分散PDI=Mw/Mn(ここで、Mwは、重量平均分子量であり、Mnは、数平均分子量である)も有する。
【0102】
高いゲル含量は、耐老化性にマイナス影響を及ぼす。ゲル含量は、pH値があまりに低い場合、例えばRu錯体又はMCB溶媒からの解離により、例えばHClが発生する場合に高くなる。
【0103】
ニトリルゴム:
本発明の方法において使用されるニトリルゴムは、少なくとも1つのα,β-不飽和ニトリル、少なくとも1つの共役ジエン及び必要に応じて1つ又は複数のさらなる共重合性モノマーのコポリマー又はターポリマーである。
【0104】
共役ジエンは、いかなる性質のものでもあり得る。より好ましくは、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、ピペリレン及びそれらの混合物からなる群から選択される(C~C)共役ジエンを使用することが好ましい。1,3-ブタジエン及びイソプレン又はそれらの混合物が非常に特に好ましい。1,3-ブタジエンがとりわけ好ましい。
【0105】
α,β-不飽和ニトリルとしては、好ましくは(C~C)α,β-不飽和ニトリル、より好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル及びそれらの混合物からなる群から選択される公知のα,β-不飽和ニトリルを使用することができる。特に好ましいのは、アクリロニトリルである。
【0106】
したがって、本発明の方法において使用される特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから誘導される繰り返し単位を有するコポリマーである。
【0107】
共役ジエン及びα,β-不飽和ニトリルとは別に、水素化ニトリルゴムは、当技術分野で公知の1つ又は複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を含み得、そのようなものとしては、例えば、α,β-不飽和(好ましくはモノ不飽和)モノカルボン酸、それらのエステル及びアミド、α,β-不飽和(好ましくはモノ不飽和)ジカルボン酸、それらのモノエステル又はジエステル、さらに前記α,β-不飽和ジカルボン酸に対応する無水物又はアミドなどが挙げられる。
【0108】
α,β-不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸を使用することが好ましい。
【0109】
α,β-不飽和モノカルボン酸のエステル、特にアルキルエステル、アルコキシアルキルエステル、アリールエステル、シクロアルキルエステル、シアノアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル及びフルオロアルキルエステルを使用することもできる。
【0110】
アルキルエステルとしては、好ましくはα,β-不飽和モノカルボン酸のC~C18アルキルエステル、より好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸のC~C18アルキルエステル、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、tert.-ブチルアクリレート、2-エチル-ヘキシルアクリレート、n-ドデシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、tert.-ブチルメタクリレート及び2-エチルヘキシル-メタクリレートが使用される。
【0111】
アルコキシアルキルエステルとしては、好ましくはα,β-不飽和モノカルボン酸のC~C18アルコキシアルキルエステル、より好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル、例えばメトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート及びメトキシエチル(メタ)アクリレートが使用される。
【0112】
アリールエステル、好ましくはC~C14-アリールエステル、より好ましくはC~C10-アリールエステル、最も好ましくは上述のアクリレート及びメタクリレートのアリールエステルを使用することも可能である。
【0113】
また別の実施形態では、シクロアルキルエステル、好ましくはC~C12-、より好ましくはC~C12-シクロアルキル、最も好ましくは上述のシクロアルキルアクリレート及びメタクリレートが使用される。
【0114】
シアノアルキルエステル、シアノアルキル基中に2~12のC原子を有する特にアクリル酸シアノアルキル又はメタクリル酸シアノアルキル、好ましくはアクリル酸α-シアノエチル、アクリル酸β-シアノエチル又はメタクリル酸シアノブチルを使用することも可能である。
【0115】
別の実施形態では、ヒドロキシアルキルエステル、特にヒドロキシルアルキル基中に1~12のC原子を有するアクリル酸ヒドロキシアルキル及びメタクリル酸ヒドロキシアルキル、好ましくはアクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル又はアクリル酸3-ヒドロキシプロピルも使用される。
【0116】
フルオロベンジルエステル、特にアクリル酸フルオロベンジル又はメタクリル酸フルオロベンジル、好ましくはアクリル酸トリフルオロエチル及びメタクリル酸テトラフルオロプロピルを使用することも可能である。例えば、アクリル酸ジメチルアミノメチル及びアクリル酸ジエチルアミノエチル等の、置換されたアミノ基を含むアクリレート及びメタクリレートを使用し得る。
【0117】
α,β-不飽和カルボン酸の他の各種のエステルを使用することもでき、そのようなものとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシメチル)アクリルアミド又はウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0118】
上述のα,β-不飽和カルボン酸のエステルの混合物もすべて使用することができる。
【0119】
さらに、α,β-不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸を使用し得る。
【0120】
また別の実施形態では、α,β-不飽和ジカルボン酸の無水物、好ましくは無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び無水メサコン酸が使用される。
【0121】
さらなる実施形態では、α,β-不飽和ジカルボン酸のモノエステル又はジエステルを使用することもできる。好適なアルキルエステルは、例えば、C~C10-アルキル、好ましくはエチル-、n-プロピル-、iso-プロピル、n-ブチル-、tert.-ブチル、n-ペンチル-又はn-ヘキシルのモノエステル又はジエステルである。好適なアルコキシアルキルエステルは、例えば、C~C12アルコキシアルキル、好ましくはC~C-アルコキシアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なヒドロキシアルキルエステルは、例えば、C~C12ヒドロキシアルキル、好ましくはC~C-ヒドロキシアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なシクロアルキルエステルは、例えば、C~C12-シクロアルキル、好ましくはC~C12-シクロアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なアルキルシクロアルキルエステルは、例えば、C~C12-アルキルシクロアルキル、好ましくはC~C10-アルキルシクロアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なアリールエステルは、例えば、C~C14-アリール、好ましくはC~C10-アリールのモノエステル又はジエステルである。
【0122】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルモノマーの明白な例としては、以下のものが挙げられる:
・マレイン酸モノアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル及びマレイン酸モノ-n-ブチル;
・マレイン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル及びマレイン酸モノシクロヘプチル;
・マレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル及びマレイン酸モノエチルシクロヘキシル;
・マレイン酸モノアリールエステル、好ましくはマレイン酸モノフェニル;
・マレイン酸モノベンジルエステル、好ましくはマレイン酸モノベンジル;
・フマル酸モノアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル及びフマル酸モノ-n-ブチル;
・フマル酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル及びフマル酸モノシクロヘプチル;
・フマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチルシクロペンチル及びフマル酸モノエチルシクロヘキシル;
・フマル酸モノアリールエステル、好ましくはフマル酸モノフェニル;
・フマル酸モノベンジルエステル、好ましくはフマル酸モノベンジル;
・シトラコン酸モノアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル及びシトラコン酸モノ-n-ブチル;
・シトラコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル及びシトラコン酸モノシクロヘプチル;
・シトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチルシクロペンチル及びシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・シトラコン酸モノアリールエステル、好ましくはシトラコン酸モノフェニル;
・シトラコン酸モノベンジルエステル、好ましくはシトラコン酸モノベンジル;
・イタコン酸モノアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル及びイタコン酸モノ-n-ブチル;
・イタコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル及びイタコン酸モノシクロヘプチル;
・イタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチルシクロペンチル及びイタコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・イタコン酸モノアリールエステル、好ましくはイタコン酸モノフェニル;
・イタコン酸モノベンジルエステル、好ましくはイタコン酸モノベンジル。
【0123】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルモノマーとしては、上に明記したモノエステルモノマーをベースとした類似のジエステルを使用し得るが、しかしながら、酸素原子を介してC=O基に結合される2つの有機基は、同一であるか又は異なり得る。
【0124】
さらなるターモノマーとして、一般式(I):
【化12】
(式中、Rは、水素又は分岐若しくは非分岐のC~C20-アルキル、好ましくはメチル、エチル、ブチル又はエチルヘキシルであり、nは、1~8、好ましくは2~8、より好ましくは2~5、最も好ましくは3であり、Rは、水素又はCH-である)
のPEGアクリレートに由来するPEGアクリレートモノマーを使用することができる。
【0125】
本発明に関連して、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」を表す。一般式(I)中のR基がCH-である場合、この分子は、メタクリレートである。「ポリエチレングリコール」という用語又は「PEG」という略語は、1つの繰り返しエチレングリコール単位を有するモノエチレングリコールセクション(PEG-1;n=1)及び2~8つの繰り返しエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールセクション(PEG-2~PEG-8;n=2~8)の両方を表す。「PEGアクリレート」という用語は、PEG-X-(M)A(ここで、「X」は、繰り返しエチレングリコール単位の数を表し、「MA」は、メタクリレートを表し、「A」は、アクリレートを表す)とも略記される。一般式(I)のPEGアクリレートに由来するアクリレートモノマーは、「PEGアクリレートモノマー」と言われる。
【0126】
好ましいPEGアクリレートモノマーは、以下の式番号1~番号10(ここで、nは、1、2、3、4、5、6、7又は8、好ましくは2、3、4、5、6、7又は8、より好ましくは3、4、5、6、7又は8、最も好ましくは3である)から選択される。
【0127】
【表1】
【0128】
さらなるターモノマーとしては、ビニル芳香族モノマー、例えばスチレン、α-メチルスチレン及びビニルピリジン、さらに非共役ジエン、例えば4-シアノシクロヘキセン及び4-ビニルシクロヘキセン、さらにアルキン、例えば1-若しくは2-ブチンを使用し得る。
【0129】
特に好ましいのは、以下に示す式:
【化13】
(式中、
は、水素又はメチル基であり、及び
、R、R、Rは、同一であるか又は異なり、且つH、C~C12アルキル、C~Cシクロアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、エポキシアルキル、アリール又はヘテロアリールを表し得る)
から選択されるターモノマーである。
【0130】
使用するNBRポリマー中での共役ジエンとα,β-不飽和ニトリルとの比率は、広い範囲で変化させることができる。共役ジエン又は共役ジエンの合計の比率は、全ポリマーを基準にして、通常、40~90重量%の範囲、好ましくは60~85重量%の範囲である。α,β-不飽和ニトリル又はα,β-不飽和ニトリルの合の比率は、全ポリマーを基準にして、通常、10~60重量%、好ましくは15~40重量%である。いずれの場合にも、モノマーの比率を合計したものが100重量%となる。追加のモノマーは、全ポリマーを基準にして0~40重量%、好ましくは0.1~40重量%、特に好ましくは1~30重量%の量で存在し得る。この場合、単一若しくは複数の共役ジエン及び/又は単一若しくは複数のα,β-不飽和ニトリルの対応する比率を追加のモノマーの比率で置き換え、それぞれの場合において全部のモノマーの比率を合計して100重量%とする。
【0131】
上述のモノマーの重合によるニトリルゴムの調製は、当技術分野で十分に公知である。本発明の目的のために使用することができるニトリルゴムは、例えば、ARLANXEO Deutschland GmbHのPerbunan(登録商標)及びKrynac(登録商標)銘柄の製品範囲からの製品としても市販されている。
【0132】
「アクリロニトリル-ブタジエンゴム」又は「ニトリルゴム」(略して「NBR」とも呼ばれる)という用語は、広く解釈されるべきであり、少なくとも1つのα,β-不飽和ニトリル、少なくとも1つの共役ジエン及び必要に応じて1つ又は複数のさらなる共重合性モノマーのコポリマー、ターポリマー、クォーターポリマーなどであるゴムを指す。
【0133】
水素化NBR(略して「HNBR」とも呼ばれる)は、NBRの水素化によって商業的に製造される。したがって、ジエンベースのポリマー中の炭素-炭素二重結合の選択的水素化は、そのポリマー鎖中のニトリル基及び他の官能基(例えば、そのポリマー鎖中に他の共重合性モノマーが導入された場合のカルボキシル基)に悪影響を及ぼさないように実施しなければならない。
【0134】
HNBR中の共重合させたジエン単位の水素化度は、50~100%の範囲で変化させることができ、望まれる水素化度は、約80~約100%、好ましくは約90~約99.9%である。HNBRの市販グレードは、典型的には、18%未満の不飽和度が残り、アクリロニトリルの含量がおよそ約50%までである。
【0135】
均一系又は不均一系いずれかの水素化触媒を使用して、NBRの水素化を実施することができる。使用される触媒は、通常、ロジウム、ルテニウム又はパラジウムをベースとするものであるが、白金、イリジウム、レニウム、オスミウム、コバルト若しくは銅を金属として又は好ましくは金属化合物の形態で使用することも可能である(例えば、米国特許出願公開第A-3,700,637号明細書、欧州特許出願公開第A-0 134 023号明細書、独国特許出願公開第A-35 41 689号明細書、独国特許出願公開第A-35 40 918号明細書、欧州特許出願公開第A-0 298 386号明細書、独国特許出願公開第A-35 29 252号明細書、独国特許出願公開第A-34 33 392号明細書、米国特許出願公開第A-4,464,515号明細書及び米国特許出願公開第A-4,503,196号明細書を参照されたい)。均一相における水素化のために好適な触媒及び溶媒も独国特許出願公開第A-25 39 132号明細書及び欧州特許出願公開第A-0 471 250号明細書から公知である。
【0136】
本発明は、水素化ニトリルゴムであって、
・実施例の部に記載される方法に従ってICP-OESによって測定される100ppm~10,000ppm、好ましくは300ppm~5,000ppm、より好ましくは500~5,000ppm、さらにより好ましくは1,000ppm~4,000ppmのカルシウムイオン、及び
・実施例の部に記載される方法に従ってICP-OESによって測定される任意選択的に150ppm以下、好ましくは130ppm以下、より好ましくは1~50ppmのルテニウムイオン
を含み、
・2%以下、好ましくは1%以下の残存二重結合(RDB)を有し、
・実施例の部に記載される方法に従って測定される6%未満、好ましくは4%未満、より好ましくは3%未満のゲル含量を有する、水素化ニトリルゴムにさらに関する。
【0137】
そのような水素化ニトリルゴムは、上述した本発明の方法によって得られる。
【0138】
本発明は、ニトリルゴムを部分的又は完全に水素化するための触媒系としての、成分:
(A)一般式(I):
Ru(CO)(H)(X)(L)(L) (I)
(式中、
は、アニオン性配位子であり、
及びLは、同一の又は異なる配位子であり、ここで、L及びLの少なくとも1つは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を表す)
を有する少なくとも1つのRu-NHC触媒;及び
(B)CaCl、クエン酸、アスコルビン酸、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル(HBF OEt)及びトリクロロ(フェニル)シラン又はそれらの混合物からなる群から選択される水素化エンハンサー
を含む触媒系の使用にさらに関する。
【0139】
以下の実施例により、本発明をさらに説明するが、本発明は、それらによって限定されることを意図されておらず、実施例におけるすべての部及びパーセントは、特に断らない限り、重量基準である。
【実施例
【0140】
略語:
phr 100ゴム当たり(重量)
rpm 1分当たりの回転
Mn 数平均分子量
Mw 重量平均分子量
PDI Mw/Mnと定義される多分散指数
PPh トリフェニルホスフィン
MCB モノクロロベンゼン
RT 室温(22±2℃)
RDB %単位での、残存二重結合、RDB=NBRが100%のRDBを有する状態で(1-水素化度)100
NHC N-ヘテロ環状カルベン
Cy シクロヘキシル環
EtN トリエチルアミン
IMes N,N’-ビス(メシチル)イミダゾール-2-イリデン
【0141】
A 触媒の調製
A1 NHC配位子
N,N’-ビス(メシチル)イミダゾール-2-イリデン(IMes)は、TCIから購入した。
【0142】
以下の触媒(a)及び(b)を使用し;触媒(b)は、以下に概要を示される文献に見いだされる手順と同様に調製した:
(a)RhCl(PPh(比較例において使用される)(ウィルキンソン触媒)
Sigma-Aldrichから入手し、さらなる精製なしに使用した。
(b)RuHCl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例において使用される)
錯体RuHCl(CO)(PCyは、以下の通り、JamesらのAdv.in Chem.Ser.,196(1983)による手順に従って調製した:RuCl・xHO(0.635g、2.5mmol)をメトキシエタノール(15mL)に溶解させた。5分後、PCy(2.056g、7.5mmol)を添加した。混合物を20分間還流下で加熱した。次いで、EtN(2mL)を添加した。混合物を別の6時間還流下で加熱し、次いで冷却した。微結晶オレンジ色生成物を濾過し、次いでトルエン(2回、各10mL)で洗浄し、真空中で乾燥させた。生成物は、80%収率(1.45g)で黄色結晶として得られた。MCB中の飽和溶液に関するFT-IRは、1901cm-1に単一ピーク(CO)を与え、したがって可能な副生成物RuHCl(CO)(PCyを含まないと考えられた。RuHCl(CO)(PCyを、以下の通り、Nolanら(Organometallics 2001,20,794)における手順に従ってIMesと反応させた:100mLのフラスコにRuHCl(CO)(PCy(510mg、0.7mmol)及びIMes(302mg、1.05mmol)を装入し、脱ガスした。次いで、20mLのトルエンを注射器によって添加した。次いで、溶液を2時間80℃に加熱し、その後、室温で18時間撹拌した。溶媒を真空下で除去した。オレンジ黄色残留物を20mLのエタノール(脱ガスし、乾燥させた)に分散させ、懸濁液を濾過した。沈澱物をエタノールで洗浄し(20mL、3回)、真空下で乾燥させた。生成物は、1897cm-1(文献CHCl中で1896cm-1)に単一ピーク(CO)を有するオレンジ色結晶として得られた(125.7mg)。
【0143】
B ニトリルブタジエンゴム
実施例において使用されるニトリル-ブタジエンゴムは、公知の方法による乳化重合によって得られ、表1に概要を示されるような特性を有する。
【0144】
【表2】
【0145】
C ニトリルゴムの水素化
セクションEのもとで下記表に示されるように、触媒(a)及び(b)は、0.03phr~0.065phrの範囲の量で使用し、水素化エンハンサー(B)は、0.01phr~1.0phrの範囲で使用した。
【0146】
水素化のための条件は、以下の通りであった。
・8.3MPa(1200psi)の水素圧力
・800rpmの撹拌
・温度:後続の表に示されるように120℃~155℃で変動して可変
・時間:後続の表に示されるように水素化の進行に応じて可変
【0147】
水素化手順:
(1)ニトリルゴムを一定量のMCBに溶解させてNBR溶液(13重量%濃度)を形成した。溶液をオートクレーブ(600mL容積又は2L容積)に入れ、20分間窒素ガスをバブリングして溶解酸素を除去した。
(2)窒素防護下において、触媒を十分な量の脱ガスMCBに溶解させた。窒素防護下で溶液を注射器により、オートクレーブに弁で連結されたステンレスボンベに移した。
(3)オートクレーブを所望の温度に加熱した後、水素化エンハンサー(B)を含む触媒溶液を、水素圧力を加えることによってオートクレーブ中に発射した。次いで、水素圧力を所望の値に上げた。
(4)サンプルを、FT-IR試験のために間隔を置いて採取してRDBをモニターした。
(5)NBR水素化の終了後、溶液を冷却し、圧力を解いた。
【0148】
D 分析及び試験
FT-IRによる水素化度の測定:
水素化反応前、その間及びその後のニトリルゴムのスペクトルをPerkin Elmer spectrum 100 FT-IR分光計に記録した。(水素化)ニトリルブタジエンゴムのMCB中溶液をKBrペレット上にキャストして、乾燥させ、試験のための膜を形成させた。水素化度は、ASTM D5670-95法に従ってFT-IR分析により求めた。
【0149】
ゲル含量の測定:
ポリマーのゲル含量は、メチルエチルケトン不溶性物質の百分率として測定する。0.1~0.2gのポリマーサンプルを容量フラスコに秤量し、室温で18h放置し、次いで2時間振盪した。結果として生じた混合物を遠心分離管に移し、25,000rpmで遠心分離した。液体部分をデカンテーションし、湿った残渣を秤量した。残渣を次いで一定重量まで60℃で乾燥させた。ゲルの量は、遠心分離からの残渣で割った乾燥残渣の全質量と液体に溶解したポリマーとの間の差である。ゲル含量は、ゲルの量とポリマーサンプルの質量との間の関係であり、重量パーセント単位で示される。
【0150】
ICP-OESによる水素化後の乾燥HNBR中のRu含量の測定
HNBR中のルテニウム含量は、白金ジャー中550℃で灰分に変えられた0.5gのHNBRに関して測定した。残渣を塩酸に溶解させ、脱イオン水で希釈した。ルテニウム含量は、ルテニウムに特徴的である以下の波長240.272nm及び267.876nmでICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析)によって測定した。
【0151】
較正は、同じ波長でそれぞれの金属の酸性溶液に関して行った。固有波長の選択のために、サンプルマトリックスとの干渉は、回避される。金属含量の測定の前にピーク最大値の適切な調整を行った。また、較正曲線の線形領域で測定を行うために、金属溶液の濃度の調整も行った。
【0152】
E 結果
【0153】
【表3】
【0154】
【表4】
【0155】
Ru触媒(b)と水素化エンハンサー(B)とを含むEx.1は、CEx.2よりも高い水素化度を有する。Ex.2は、CEx.3よりも高い水素化度を有する。したがって、CaClを含む本発明による触媒系を用いる水素化方法は、より高い水素化度をもたらす。
【0156】
【表5】
【0157】
Ex.3は、CEx.2よりも高い水素化度を有する。Ex.4は、CEx.3よりも高い水素化度を有する。
【0158】
【表6】
【0159】
Ex.5は、CEx.3よりも高い水素化度を有する。Ex.6は、CEx.3よりも高い水素化度を有する。Ex.7は、CEx.3よりも高い水素化度を有する。
【0160】
上記の実施例は、一般式(I)による触媒系が、水素化増強添加物(B)なしの周知のウィルキンソン触媒Rh(PPhCl又は触媒RuHCl(CO)(IMes)(PCy)単独よりも、水素化増強添加物(B)の存在下でニトリルゴムの水素化ではるかに活性であることを明らかに示す。これは、水素化プロセスを実施するためのコストの明確な減少をもたらす。
【0161】
必要とされる触媒の低い量を考慮すると、触媒又は触媒金属のための回収プロセスが - 樹脂での溶液スクラビングによって可能ではあるが - 実際に必要ではないことも示される。ニトリルゴムの水素化のための他の可能な金属、例えばパラジウム、ロジウム及びイリジウムと比較してルテニウムについての長期間のより低いコストのため及び触媒の合成調製が簡単なために明らかなコスト利点が達成される。
【0162】
ニトリルゴム基質に関しては水素化を問題なく行うために特別な要件は、全く必要とされない。これは、標準的な乳化剤系、例えば脂肪酸石鹸、ロジン石鹸、スルホネート又はスルフェート乳化剤及び標準的なレドックス活性化系を使用することによって調製される市販のニトリルゴムグレードを使用できることを意味する。標準的なNBR配合操作における有用性を単に確保すること以外、NBRの製造についてのさらなる特別な要件は、全くないため、非常に広範囲の市販のNBRゴムを水素化ニトリルゴムに容易に転化することができ、現在入手可能なものと同程度にはるかに幅広い選択グレードを提供することを可能にする。
【0163】
実験の部において用いたすべての触媒がホスフィン配位子を含有するが、追加のPPhを明らかに必要とするウィルキンソン触媒と異なり、ニトリルゴムの問題のない水素化のためにさらなる量のホスフィンを追加することは、必要とされない。
【0164】
(A)と、(B)(ここで、(B)は、CaClである)とを含む触媒系の存在下での水素化によって生じるHNBRは、Ruの残存量が、ICP-OESによって測定される150ppm以下、好ましくは130ppm以下の範囲であり、ここで、Caの残存量は、100ppm~10,000ppm、好ましくは300ppm~5,000ppm、より好ましくは500~5,000ppm、さらにより好ましくは1,000ppm~4,000ppmの範囲であることを特徴とする。
【0165】
HNBR中のRu及びCaのこれらの残存量の影響を表E.5に示す。
【0166】
残存ルテニウム及びカルシウムイオンのプラス効果
Therban(登録商標)3627をアセトンに溶解させ、振盪機上で2時間エタノール中のRu化合物及びCaCl溶液と混合した。溶液を55℃でその後乾燥させて固体ゴムを得た。ゴムをオーブン中で140℃において4日間エージングした。
【0167】
【表7】
【0168】
表E.5の結果は、HNBR中のRu及び1,000ppm~4,000ppmの範囲のCaの残存量が、特に140℃で4日エージング後、ゲル含量及びムーニー増加にプラスの影響を及ぼすことを明らかに示す。水素化ニトリルゴムにおける低いゲル含量は、好ましいものであり、且つ加工性を向上させる。