(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ラニフィブラノールの重水素化誘導体
(51)【国際特許分類】
C07D 417/12 20060101AFI20240213BHJP
A61K 31/428 20060101ALI20240213BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240213BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240213BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240213BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240213BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240213BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C07D417/12 CSP
A61K31/428
A61P43/00 105
A61P1/16
A61P3/06
A61P13/12
A61P11/00
A61P17/00
(21)【出願番号】P 2021504431
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 FR2019051860
(87)【国際公開番号】W WO2020021215
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-03
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513248083
【氏名又は名称】インベンティバ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】モンタルベッティ, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ブービア, ベナイサ
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-506099(JP,A)
【文献】J.Med.Chem.,2018年,61,2246-2265
【文献】Glob J Pharmaceu Sci,2017年,1(4),79-90
【文献】MEDCHEM NEWS ,2014年,41(2),8-22
【文献】NATURE MEDICINE ,2013年,19(6),656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 417/12
A61K 31/428
A61P 43/00
A61P 1/16
A61P 3/06
A61P 13/12
A61P 11/00
A61P 17/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、上記R
1~R
7のうち、少なくとも1つの基は重水素原子であり、その他の基は水素原子である)で表されるラニフィブラノールの重水素化誘導体
又はその薬学的に許容される塩
若しくは溶媒和物。
【請求項2】
少なくとも上記R
1はDである、請求項1に記載の重水素化誘導体。
【請求項3】
4-(1-(2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-イル)スルホニル)-5-クロロ-1H-インドール-2-イル)ブタン酸である請求項2に記載の重水素化誘導体。
【請求項4】
上記R
2~R
7のうち少なくとも1つの基はDである、請求項1に記載の重水素化誘導体。
【請求項5】
上記R
2及びR
3のうち少なくとも1つの基、及び/又は上記R
4及びR
5のうち少なくとも1つの基、及び/又は上記R
6及びR
7のうち少なくとも1つの基はDである、請求項4に記載の重水素化誘導体。
【請求項6】
4-[1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロ-インドール-2-イル]-2,2,3,3,4,4-ヘキサジュウテリオブタン酸である請求項5に記載の重水素化誘導体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の重水素化誘導体又はその塩若しくは溶媒和物と、適切な担体とを含む組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の重水素化誘導体又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項9】
治療に使用される請求項1~6のいずれか一項に記載の重水素化誘導体又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物。
【請求項10】
線維性疾患、特に、肝線維症、脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎、慢性腎臓病、特発性肺線維症等の肺線維症、及び全身性強皮症から選択される線維性疾患の治療に使用される請求項1~6のいずれか一項に記載の重水素化誘導体又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラニフィブラノールの重水素化誘導体、特に治療、具体的には線維性疾患の治療に使用される該誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
ラニフィブラノール又は4-(1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロ-インドール-2-イル)ブタン酸は、特に全身性強皮症(SSc)及び非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の治療に使用するのに有用なPPAR受容体アゴニストである。具体的には、ラニフィブラノールは他のインドール誘導体と共に特許文献1に記載されており、特に高トリグリセリド血症、高コレステロール血症の予防又は治療のために、より一般的には脂質及び炭水化物代謝の混乱時の正常パラメーターの回復のために、更には内皮機能不全、炎症性疾患、又は神経変性の治療の場合に使用されることが記載されている。
【0003】
代謝安定性、場合によっては細胞透過性を改善することで代謝を変化させる手段として重水素化分子を使用する利点が知られている(非特許文献1~5、特許文献2、3)。重水素化医薬品の合成もまた、いくつかの文献に記載されている(非特許文献6、7)。
【0004】
しかし、重水素による水素置換が化学物質の代謝に及ぼす効果は未だ予測不能であり、多くの著者にとって医薬品の重水素化は確実な調節手段とは見なされていないと認められる(非特許文献8~10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/026097号
【文献】国際公開第2017/136375号
【文献】国際公開第2018/039521号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Maehr&al.,J.Med.Chem.2013,56,3878-3888
【文献】Kerekes et al.,J.Med.Chem.2011,54,201-210
【文献】Harbeson&Tung,Medchem News 2014,2 9-22
【文献】Gant,J.Med.Chem.2014,57,3595-3611
【文献】DeWitt&Maryanoff,Biochemistry 2018,57,472-473
【文献】Modutwa&al.,J.Label Compd.Radiopharm 2010,53 686-692
【文献】Junk et al.,J.Label Compd.Radiopharm 1997,39 625-630
【文献】Foster,AB,Adv Drug Res 1985,14:1-40
【文献】Fisher,MB et al,Curr Opin Drug Discov Devel,2006,9:101-09
【文献】Katsnelson,Nature Medecine 2013,19 6 656
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式(I):
【0008】
【0009】
(式中、上記R1~R7のうち、少なくとも1つの基は重水素原子(D)であり、その他の基は水素原子(H)である)で表されるラニフィブラノールの重水素化誘導体に関する。
【0010】
本発明はまた、式(I)で表される少なくとも1つの重水素化誘導体を含む組成物、特に医薬組成物に関する。
【0011】
本発明はまた、治療、特に線維性疾患の治療に使用される式(I)で表される重水素化誘導体に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、式(I):
【0013】
【0014】
(式中、上記R1~R7のうち、少なくとも1つの基は重水素原子であり、その他の基は水素原子である)で表されるラニフィブラノールの重水素化誘導体、並びにその薬学的に許容される塩及び溶媒和物に関する。
【0015】
本発明の第1実施形態によれば、少なくとも上記R1はDである。
【0016】
特に、上記ラニフィブラノールの重水素化誘導体は4-(1-(2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-イル)スルホニル)-5-クロロ-1H-インドール-2-イル)ブタン酸である。
【0017】
本発明の他の実施形態によれば、上記R2~R7のうち少なくとも1つの基はDである。より好ましくは、上記R2及びR3のうち少なくとも1つの基、及び/又は上記R4及びR5のうち少なくとも1つの基、及び/又は上記R6及びR7のうち少なくとも1つの基はDである。更に好ましくは、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7はDである。
【0018】
特に、上記ラニフィブラノールの重水素化誘導体は4-[1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロ-インドール-2-イル]-2,2,3,3,4,4-ヘキサジュウテリオブタン酸である。
【0019】
本発明の重水素化誘導体の薬学的に許容される塩は、ラニフィブラノールの薬学的に許容される塩、特に当該酸と薬学的に許容される非毒性無機又は有機塩基とを組み合わせた塩と同様である。上記無機塩基としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、又はカルシウムの水酸化物を使用できる。上記有機塩基としては、例えば、アミン、アミノアルコール、リジン若しくはアルギニン等の塩基性アミノ酸、又はベタイン若しくはコリン等の第四級アンモニウム官能基を有する化合物を使用できる。
【0020】
本発明の化合物は、ラニフィブラノールの通常の調製方法、例えば特許文献1に記載の方法に従って調製され、これらの通常の方法で使用される非同位体濃縮中間体を重水素化合成中間体で置き換える。
【0021】
本発明はまた、本発明の重水素化誘導体又はその塩若しくは溶媒和物、特に薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物と、その使用に適した担体とを含む組成物に関する。
【0022】
治療に使用する場合、本発明の組成物は医薬組成物であることが有利であり、上記担体は、想定される投与方法に従って選択された薬局方の通常の賦形剤を含む。
【0023】
このような組成物は当業者に知られており、具体的には特許文献1及びWO2015/189401に記載されている。
【0024】
経口投与、例えば錠剤、カプセル、トローチ、ゲル、シロップ、経口懸濁液の形態の経口投与の場合、本発明の医薬組成物は、式(I)で表される重水素化誘導体を1~1000mg、例えば、1mg、5mg、10mg、50mg、100mg、200mg、500mg、又は1000mg含むことが有利である。
【0025】
本発明はまた、治療に使用される式(I)で表される重水素化誘導体又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物に関する。
【0026】
本発明の重水素化誘導体の他の治療用途は、ラニフィブラノール及びその類似体について知られているものと同様であり、例えば特許文献1及びWO2015/189401に記載のものが挙げられる。
【0027】
よって、本発明は、高コレステロール血症、高脂血症、高トリグリセリド血症、脂質異常症、インスリン抵抗性、糖尿病、又は肥満や、血清リポタンパク質の不均衡に起因する心血管疾患に対抗するのに使用される式(I)で表される重水素化誘導体又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物に関する。本発明の化合物はまた、内皮機能不全関連疾患、アテローム性動脈硬化、心筋梗塞、高血圧、脳血管障害、特定の炎症性疾患(例えば関節リウマチ)、及び神経変性(特にアルツハイマー病又はパーキンソン病等)を予防又は治療することを目的とした薬剤の有効成分として有用である。
【0028】
本発明は特に、線維性疾患の治療に使用される式(I)で表される重水素化誘導体に関する。一実施形態において、線維性疾患とは、心臓、肺、肝臓、腎臓、消化管、皮膚、筋肉等、線維症を発症し得る器官に影響を及ぼす異常である。上記線維性疾患は、特に、肝線維症、脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎、慢性腎臓病、特発性肺線維症等の肺線維症、及び全身性強皮症から選択される。
【0029】
本発明はまた、治療を待っている患者の上述した線維性疾患を治療する方法に関し、上記方法は、上記患者に式(I)で表される重水素化誘導体を投与すること、特に、選択された投与方法に適した形態で上記(I)で表される重水素化誘導体を含む医薬組成物として投与することを含む。
【0030】
治療される線維性疾患を検出するための適切な診断方法によって、特に治療対象患者の線維性組織中のPPAR受容体発現レベルを分析することによって、患者治療の必要性を事前に判断しておくことが有利である。
【実施例】
【0031】
略語
APCI=大気圧化学イオン化法
DCM=ジクロロメタン
DMSO=ジメチルスルホキシド
eq.=当量
EtOAc=酢酸エチル
EtOH=エタノール
h=時間
HPLC=高速液体クロマトグラフィー
LCMS=液体クロマトグラフィー/質量分析法
MeOH=メタノール
min=分
Pd(PPh3)4=テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)
pTsOH=p-トルエンスルホン酸
NMR=核磁気共鳴
THF=テトラヒドロフラン
【0032】
実施例1:4-[5-クロロ-1-[(2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-イル)スルホニル)]インドール-2-イル]ブタン酸
調製例1:2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール
n-BuLi(37.0mL、92.5mmol、2.5eq;2.5Mヘキサン溶液)を1,3-ベンゾチアゾール(5.0g、36.9mmol、1.0eq.)のTHF(80mL)溶液に滴下し、-78℃まで冷却した。滴下終了後、-78℃で反応混合物にD2O(4mL、222mmol、6.0eq.)を添加した。全体を30分間攪拌後、室温に戻した。反応をLCMS分析によりモニタリングした。その後、反応混合物を飽和NH4Cl水溶液で処理し、全体をDCMで3回抽出した。有機層を合わせてMgSO4で乾燥し、次いでろ過し、減圧留去して得た粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:0から40%のEtOAcのn-ヘプタン溶液)によって精製して、調製例1の化合物(3.22g、収率64%)を茶色油状物として得た。APCI MS m/z 137[M+H]+;HPLC-MS(220-254nm)純度:99%。1H NMR(300MHz DMSO-d6):δ7.46-7.58(2H,m);8.08-8.19(2H,m)。
【0033】
調製例2:2-ジュウテリオ-6-ニトロ-1,3-ベンゾチアゾール
2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール(調製例1、2.9g、21.3mmol、1.0eq.)を硫酸溶液(13mL)に0℃でゆっくりと添加し、次いで、温度を0℃未満に保ちながら硝酸(6.4mL)を滴下した。その後、反応混合物を室温に戻し、12時間攪拌してから、氷水混合物上で加水分解させた。黄色沈殿物をろ別し、水で洗浄し、エタノールから結晶化させて、所望の生成物(調製例2、1.4g、収率37%)を黄色結晶として得た。APCI MS m/z 182[M+H]+;HPLC-MS(220-254nm)純度>99%。1H NMR(300MHz DMSO-d6):δ8.27-8.38(2H,m);9.25(1H,d,J=2.3Hz)。
【0034】
調製例3:2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-アミン
塩化スズ粉末(7.3g、38.6mmol、3.5eq.)を調製例2の化合物(2.0g、11.0mmol、1.0eq.)のEtOH/EtOAc(1:1)混合物(60mL)溶液に添加し、この溶液を室温で4時間攪拌した。反応終了時に反応混合物をCelite(登録商標)カートリッジでろ過し、飽和Na2CO3溶液で抽出した。有機層を合わせてMgSO4で乾燥し、次いでろ過し、減圧留去して得られた粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:0から20%のMeOHのDCM溶液)によって精製して、所望の化合物(調製例3、970mg、収率58%)を茶色結晶として得た。APCI MS m/z 152[M+H]+;HPLC-MS(220-254nm)純度:97%。1H NMR(300MHz DMSO-d6):δ5.38(2H,s);6.8(1H,dd,J=8.7Hz及びJ=2.2Hz);7.11(1H,d,J=2.2Hz);7.7(1H,d,J=8.7Hz)。
【0035】
調製例4:2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-スルホニルクロリド
塩化チオニル(1.1mL)水溶液(4.5mL)を0℃で調製し、4℃で一晩保管した。この水溶液に塩化銅(I)(0.05eq.)を-10℃で添加した。調製例3の化合物(450mg、2.9mmol、1.0eq.)を温度を25℃未満に保ちながら塩酸(3.5mL)に溶解させ、この溶液を-10℃まで冷却してから亜硝酸ナトリウム溶液(3.3mmol、0.7mL、1.1eq.)を温度が-2℃を超えないように添加した。得られた混合物を-2℃で15分間攪拌し、最初の塩化チオニル水溶液に-5℃で滴下した。その後、反応混合物を-5℃で3時間攪拌し、次いで水中で加水分解させた。形成された沈殿物をろ過してから水で洗浄して、所望の生成物(調製例4、255mg、収率37%)を薄茶色結晶として得た。この化合物を精製せずに次の工程で使用した。HPLC-MS(220-254nm)純度:94%。
【0036】
調製例5:N-(4-クロロ-2-ヨードフェニル)-2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-スルホンアミド
アルゴン下、4-クロロ-2-ヨードアニリン(564mg、2.2mmol、1.0eq.)を無水ピリジン(8mL)に溶解させ、調製例4の化合物(600mg、2.5mmol、1.15eq.)を添加した。次いで、この溶液を室温で2時間攪拌した。溶媒を蒸発させ、粗反応物をフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:0から30%のEtOAcのn-ヘプタン溶液)によって精製して、所望の生成物(調製例5、0.73g、収率73%)を茶色結晶として得た。APCI MS m/z 452[M+H]+;HPLC-MS(220-254nm)純度:94%。1H NMR(300MHz DMSO-d6):δ7.01(1H,d,J=8.5Hz);7.4(1H,dd,J=8.5Hz及びJ=2.3Hz);7.82(1H,dd,J=8.7Hz及びJ=1.8Hz);7.88(1H,d,J=2.4Hz);8.26(1H,d,J=8.7Hz);8.6(1H,d,J=1.5Hz);10.03(1H,s)。
【0037】
調製例6:4-[5-クロロ-1-[(2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-イル)スルホニル)]インドール-2-イル]ブタン酸
アルゴン下、調製例5の化合物(1.31g、2.9mmol、1.0eq.)を無水DMF(30mL)に溶解させた後、5-ヘキシン酸(360mg、3.2mmol、1.1eq.)、ヨウ化銅(56mg、0.3mmol、0.1eq.)、Pd(PPh3)4(168mg、0.15mmol、0.05eq.)、及びトリエチルアミン(606μL、4.4mmol、1.5eq.)を添加し、反応混合物を80℃で2時間攪拌した。反応終了時にこの混合物を1N塩酸水溶液に取り、酢酸エチルで2回抽出した。有機層を合わせてMgSO4で乾燥し、次いでろ過し、減圧留去して得た粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:0から5%のMeOHのDCM溶液)によって精製して、所望の生成物(実施例1、1.05g、収率83%)を茶色結晶として得た。APCI MS m/z 452[[M+H]+;HPLC-MS(220-254nm)純度:94%。1H NMR(300MHz DMSO-d6):δ1.86-2.01(2H,m);2.29-2.41(2H,m);3.08(2H,t,J=7.2Hz);6.61(1H,s);7.31(1H,dd,J=8.7Hz及びJ=2.0Hz);7.51(1H,d,J=2.0Hz);7.84(1H,dd,J=8.7Hz及びJ=1.8Hz);8.08(1H,d,J=8.7Hz);8.19(1H,d,J=8.7Hz);8.97(1H,d,J=1.8Hz);12.13(1H,s)。500MHz NMR分析による重水素導入率:98%。
【0038】
実施例2:4-[1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロ-インドール-2-イル]-2,2,3,3,4,4-ヘキサジュウテリオブタン酸
調製例7:2-(1,1,2,2,3,3,4,4-オクタジュウテリオ-4-ヨード-ブトキシ)テトラヒドロピラン
ヨードトリメチルシラン(25g、125mmol、1eq.)を0℃でTHF-D8(10g、125mmol、1eq.)に添加した。0℃で2時間攪拌後、エーテル(80mL)及び水(20mL)を添加した。この混合物を3時間攪拌し、その後デカンテーションした。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、ろ過し、減圧濃縮した。得られた粗反応物を0℃でDCM(100mL)に取り、その後ジヒドロピラン(12.5mL、150mmol、1.2eq.)及びpTsOH(50mg、0.2mmol、0.002eq.)を添加した。その後、反応混合物を0℃で一晩攪拌した。この溶液をNaHCO3飽和溶液(3×15mL)、次いで塩水で順に洗浄してから、Na2SO4で乾燥した後、減圧濃縮した。粗反応物をフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:1:20から1:5のEtOAc:ヘキサン)によって精製して、所望の生成物(調製例7、23g、収率62%)を無色油状物として得た。この生成物をそのまま次の工程で使用した。
【0039】
調製例8:2-(1,1,2,2,3,3,4,4-オクタジュウテリオヘキサ-5-インオキシ)テトラヒドロピラン
新たに蒸留したDMSO(60mL)にリチウムアセチリド(19.94g、186.3mmol、1eq.)を溶解させた溶液を5℃で調製例7の化合物(30g、102.7mmol、0.55eq.)のDMSO(30mL)溶液に滴下した。得られた溶液を2時間攪拌してから、NH4Cl溶液で0℃で加水分解させた。次いで、この混合物をヘキサンで抽出し、硫酸銅(5%、20mL)溶液、次いで塩水(20mL)で洗浄した。有機層を合わせてNa2SO4で乾燥した後、減圧濃縮して、所望の生成物(調製例8、10.7g、収率55%)を黄色油状物として得た。この生成物を精製せずにそのまま次の工程で使用した。
【0040】
調製例9:1,1,2,2,3,3,4,4-オクタジュウテリオヘキサ-5-イン-1-オール
調製例8の化合物(10.7g、56.2mmol、1eq.)を0℃でTHF(12.5mL)及びMeOH(350mL)の混合物に溶解させた溶液にpTsOH(360mg、1.82mmol、0.03eq.)を小分けにして添加し、得られた反応混合物を一晩攪拌した。次いで、この混合物をNaHCO3飽和溶液(3×15mL)及び塩水(15mL)で洗浄してから、Na2SO4で乾燥した後、減圧濃縮した。粗反応物をフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:1:20から1:5のEtOAc:ヘキサン)によって精製して、所望の生成物(調製例9、5g、収率82%)を無色油状物として得た。この生成物をそのまま次の工程で使用した。
【0041】
調製例10:2,2,3,3,4,4-ヘキサジュウテリオヘキサ-5-イン酸
調製例9の化合物(9.25g、87mmol、1eq.)のアセトン(87mL)溶液に攪拌下、Jones試薬(CrO3(17.45g、174.5mmol、2eq.)の10N H2SO4(218mL)溶液)を0℃で5分かけて添加した。次いで、反応混合物を1時間攪拌後、減圧濃縮した。直ちにエーテル(130mL)及び水(4mL)を添加した。得られた固体をろ別し、ろ液をエーテル(6×100mL)で抽出した。有機層を合わせて水で洗浄してから、Na2SO4で乾燥した後、ろ過し、減圧濃縮して、所望の生成物(調製例10、9.17g、収率89%)を橙色油状物として得た。この生成物を精製せずにそのまま次の工程で使用した。
【0042】
調製例11:4-[1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロ-インドール-2-イル]-2,2,3,3,4,4-ヘキサジュウテリオブタン酸
ベンゾチアゾール-6-スルホン酸(4-クロロ-2-ヨード-フェニル)-アミド(16g、35.5mmol、1eq.)、ヘキサ-5-イン酸(調製例10、5.2g、44mmol、1.24eq.)、ヨウ化銅(335mg、1.75mmol、0.05eq.)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.24g、1.72mmol、0.05eq.)、トリエチルアミン(130mL)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(130mL)の混合物を窒素下、110℃で1時間攪拌した。次いで、反応混合物を1M HCl溶液で希釈し、酢酸エチルで抽出した。不溶物をろ別し、ろ液をNa2SO4で乾燥した後、減圧濃縮した。粗反応物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製してから、DCMから再結晶させて、所望の生成物(実施例2、2.3g、収率15%)を白色固形物として得た。500MHz NMR分析による重水素導入率:>99%。1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ 6.62(1H,d,J=0.6Hz),7.32(1H,dd,J=8.9及び2.2Hz),7.57(1H,d,J=2.1Hz),7.85(1H,dd,J=8.7及び2.1Hz),8.10(1H,d,J=8.9Hz),8.20(1H,d,J=8.7Hz),8.99(1H,s),9.66(1H,s),12.15(1H,s)。
【0043】
実施例3:薬理活性
本発明の化合物を生物学的試験に供して、特定の症状を治療又は予防できる可能性を評価した。まず、これらの化合物が核内受容体PPARの活性化因子として作用する能力を測定した。
【0044】
トランス活性化試験を一次スクリーニング検査として用いた。マウス又はヒト受容体のキメラPPAR-Gal4(受容体PPARα-Gal4又はPPARδ-Gal4又はPPARγ-Gal4)を発現するプラスミド及びレポータープラスミド5Gal4pGL3 TK LucでCos-7細胞をトランスフェクトした。このトランスフェクションは、化学薬品(Jet PEI)を使用して行った。
【0045】
トランスフェクトした細胞を384ウェルプレートに分配し、24時間静置した。24時間後、培地を交換した。試験対象の生成物を培地に添加した(終濃度10-4~3×10-10M)。一晩インキュベーション後、メーカーの説明書(Promega)に従い、「SteadyGlo」の添加後のルシフェラーゼ発現を測定した。
【0046】
10-5Mのフェノフィブリン酸(PPARαアゴニスト)、10-8MのGW501516(PPARδアゴニスト)、及び10-6Mのロシグリタゾン(PPARγアゴニスト)を参照として使用した。
【0047】
結果は、適切な参照の活性%(参照=100%)である基礎値と比較した誘導率(倍率)として示す。効果濃度曲線及びEC50は、Assay Explorer(MDL)ソフトウェアを使用して算出した。
【0048】
【0049】
上記表から分かるように、ラニフィブラノールの重水素化誘導体はPPAR受容体の3つのサブタイプ(PPARα、PPARγ、及びPPARδ)を活性化し、各サブタイプについてEC50値は2.5μM未満であった。また、2つのPPARサブタイプのEC50比は100未満である又は0.01を超えることが注目される。
【0050】
参考文献
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