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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ナノ粒子被覆コラーゲン移植物
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/30 20060101AFI20240213BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240213BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20240213BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20240213BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20240213BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20240213BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240213BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20240213BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
A61L27/30
A61L27/54
A61L27/24
A61L27/44
A61L27/40
A61L27/34
A61L27/30 100
C12N15/09 Z ZNA
C12N1/00 Z
C07K14/78
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021513933
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 AU2019050985
(87)【国際公開番号】W WO2020051647
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】2018903475
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】514316178
【氏名又は名称】オーソセル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ミン-ハオ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-508321(JP,A)
【文献】国際公開第2007/032001(WO,A1)
【文献】特表2013-522246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0255447(US,A1)
【文献】特開平06-304241(JP,A)
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7,Article No.10489
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61K
C12N 15/09
C12N 1/00
C07K 14/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植可能なコラーゲン含有膜を製造する方法であって、前記方法はコラーゲン含有膜を銀ナノ粒子で被覆する工程を含み、コラーゲン含有膜を被覆する前記工程は超音波浴中での超音波処理工程であり、前記コラーゲン含有膜は、銀ナノ粒子で被覆されていないコラーゲン含有膜と比較して、移植時に抗菌及び抗炎症活性を示し、前記コラーゲン含有膜は80%(w/w)以上の編目構造のI型コラーゲンの繊維又は束を含む、方法。
【請求項2】
前記コラーゲン含有膜を、濃度0.6mg/mL、0.8mg/mL又は1.0mg/mLの銀ナノ粒子で被覆することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コラーゲン含有膜は宿主生物の内部に送達されるか、in vitroで使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記宿主生物はヒト又は動物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記被覆は前記コラーゲン含有膜の少なくとも一部を覆う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被覆は、天然ポリマー、合成ポリマー、金属、金属酸化物、酸化物、金属窒化物、ホウ酸塩、セラミック、ジルコニア、同種移植用硬組織、同種移植用軟組織、異種移植用硬組織、異種移植用軟組織、カーボンナノ構造、炭素、ガラス、天然材料、生体適合材料をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記銀ナノ粒子のサイズは、約0.5nm~約500nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記被覆は、感染の処置、感染の防止、炎症の処置、炎症の防止、細胞接着の促進、バイオフィルム形成の防止、バイオフィルム形成の阻害、細胞増殖の促進、生体系若しくは非生体系との結合の促進、細胞機能の増加若しくは減少、薬物及び/若しくは生物活性剤の送達、又は、材料の宿主組織とのより良い一体化の確保、の少なくとも1つを実現することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記被覆は銀ナノ粒子の1つ以上の層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記コラーゲン含有膜は、整形外科用インプラント、歯科用インプラント、獣医学用補綴材料、足場又は組織工学のマトリックスから選択される医療機器を被覆する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記整形外科用インプラントは、股関節インプラント、膝関節インプラント又は肩関節インプラントである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記歯科用インプラントは、アバットメントである請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって製造された移植可能なコラーゲン含有膜。
【請求項14】
請求項13に記載の移植可能なコラーゲン含有膜で被覆された、整形外科用インプラント、歯科用インプラント、獣医学用補綴材料、足場又は組織工学のマトリックスから選択される医療機器。
【請求項15】
銀のナノ粒子で被覆されたコラーゲン含有膜を含む包装物であって、前記銀のナノ粒子は超音波浴中での超音波処理によって適用されており、前記コラーゲン含有膜は気密容器又は真空パックされた容器に密封されており、前記コラーゲン含有膜は80%(w/w)以上の編目構造のI型コラーゲンの繊維又は束を含む、包装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌及び抗炎症活性を有する金属ナノ粒子被覆コラーゲン材料に関する。本発明は製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
毎年、何百万ものインプラントがヒトや動物を含む生物の内部に配置されている。これらのインプラントのほとんどは、組織置換、機械的サポート、組織の生成、化粧の強化、四肢の完全又は部分的な交換、関節置換、歯の置換、脊椎の再建、除細動/ペースメーカー並びに電極及びワイヤーを含むがこれらには限定されない複雑な役割を果たす。
【0003】
ほとんどのインプラントは、金属、金属酸化物、高分子材料又は動物若しくはヒトから得られた組織成分で作られている。インプラントは人体で複雑な機能を果たす必要があり、宿主組織との結合は重要であることから、多くの用途において、インプラントの生体適合性が制約をもたらす。例えば、歯科用インプラントは顎の骨に強力に密着する必要がある。インプラント表面におけるバイオフィルム形成は、これが感染やインプラントの失敗につながるため、その防止又は低減も重要である。さらに、股関節又は膝関節置換術に使用するインプラントは、骨と密接かつ強力に一体化する必要がある。これらの要件を満たすために、インプラントは、チタン、高分子材料又はセラミック材料などの生体適合材料で組み立てられている。それでも、そのような材料の比較的多くが、毎年、患者によって拒絶されており、ほとんどの場合、その理由は、インプラント表面と骨/組織との一体化の不十分さ、及び、インプラント表面での細胞の成長と密着に関連している。さらに、多くのインプラントは、インプラント表面でのバイオフィルムの増殖によって引き起こされる感染症のために生体から取り除かれる。
【0004】
歯科用インプラントは、無歯顎患者の抜け歯を処置するための効果的で一般的な治療法である(Pye et al., Journal of Hospital infection, 2009, 72(2): p. 104-110)。歯科用インプラントの成功は、インプラントと歯槽骨の間のしっかりとした固定と一体化に依存しているため、歯槽骨の適切な骨量を維持することが重要である(Semb, Alveolar bone grafting in Cleft Lip and Palate. 2012, Karger Publishers. p. 124-136;Simon et al., Journal of Periodontology, 2000. 71(11): p. 1774-1791)。しかし、抜歯及び外傷はしばしば歯槽堤の劣化につながる可能性があり、その後の感染と炎症はこの劣化をさらに加速させる可能性があるので(Allegrini et al. Alveolar ridge sockets preservation with bone grafting-review. in Annales Academiae Medicae Stetinensis. 2008; Cordaro et al., Clinical oral implants research, 2002. 13(1): p. 103-111)、歯のインプラントの前に、しばしば歯槽堤の再建が必要である(Jensen & Terheyden, International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, 2009. 24; Roccuzzo et al., Clinical oral implants research, 2007. 18(3): p. 286-294)。その方法は、伝統的に代用骨を歯槽に充填し、骨の形成を開始する(Zitzmann et al., International Journal of Periodontics & Restorative Dentistry, 2001. 21(3))。代用骨は十分に開発されているが、歯肉のような急速に成長する結合組織は移植穴の内部に浸潤し、新しい骨の形成を損なう可能性がある(Donos et al., Clinical Oral Implants Research, 2002. 13(2): p. 203-213;Donos et al., Clinical Oral Implants Research, 2002. 13(2): p. 185-191)。さらに、元の歯の微小環境は、しばしば、移植片の排除、さらには骨髄炎発症を高める可能性のある感染が生じやすい(Kesting et al. International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, 2008. 23(1);Shnaiderman-Shapiro et al., Head and neck pathology, 2015. 9(1): p. 140-146)。したがって、骨の再生を誘導し、歯科用インプラントにおいて軟組織の内部成長を防ぐ能力を有する抗菌性及び抗炎症性のバリアに対する高い需要がある。
【0005】
生体適合性に優れた天然素材であるコラーゲンは、臨床で広く利用されている(Shen et al., Acta biomaterialia, 2008. 4(3): p. 477-489;Donzelli et al., Archives of oral biology, 2007. 52(1): p. 64-73;Lee et al., Journal of Orthopaedic Research, 2003. 21(2): p. 272-281)。コラーゲン生体材料は、組織の再生を促進及び調節することが示されている(Ma et al., Biomaterials, 2003. 24(26): p. 4833-4841;Ferreira et al., Acta biomaterialia, 2012. 8(9): p. 3191-3200;Prescott et al., Journal of endodontics, 2008. 34(4): p. 421-426)。具体的には、コラーゲンの足場は、骨において、骨再生誘導法(GBR)に対する適性を示している(Behring et al., Odontology, 2008. 96(1): p. 1-11)。コラーゲンの優れたGBR特性にもかかわらず、コラーゲンインプラントの大半は局所的な抗菌及び抗炎症効果を有していない。
【0006】
したがって、インプラント表面でのバイオフィルムの増殖によって引き起こされる感染症に対する耐性を有し、付着、細胞成長促進の優れた特性を有するインプラントを開発する継続的な必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
本明細書の実施の形態には、方法、デバイス、組成物、キット、材料、ツール、機器、試薬、製品、化合物、医薬品、アレイ、コンピュータプログラム及びコンピュータ実装方法が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0008】
ある側面では、移植可能なコラーゲン含有医療機器を製造する方法であって、前記方法はコラーゲン含有医療機器を金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆する工程を含み、コラーゲン含有医療機器を被覆する前記工程は超音波処理工程であり、前記コラーゲン含有医療機器は、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆されていない医療機器と比較して、移植時に抗菌及び抗炎症活性を示す方法を提供する。
【0009】
ある態様では、医療機器は、ヒト又は動物のような宿主生物の内部に送達することができるか、又はin vitroで使用することができる。前記医療機器は、プラスミド、遺伝子、核酸又はDNA若しくはRNAウイルスを含んでいてもよい。
【0010】
別の態様では、被覆は、前記機器の少なくとも一部を覆う。金属マイクロ及び/又はナノ粒子の被覆は、天然ポリマー、合成ポリマー、金属、金属酸化物、酸化物、金属窒化物、ホウ酸塩、セラミック、ジルコニア、同種移植用硬組織、同種移植用軟組織、異種移植用硬組織、異種移植用軟組織、カーボンナノ構造、炭素、ガラス、天然材料、生体適合材料をさらに含むことができる。前記被覆は、感染の処置;感染の防止;細胞接着の促進;バイオフィルム形成の防止;バイオフィルム形成の阻害;細胞増殖の促進;生体系若しくは非生体系との結合の促進;細胞機能の増加若しくは減少;薬物及び/若しくは生物活性剤の送達、又は、宿主組織への材料のより良い一体化の確保の少なくとも1つを実行することができる。
【0011】
他の態様では、コーティングは、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の1つ以上の層を含む。さらに別の態様では、前記1つ以上の層は、1種類のナノ粒子及び/若しくはマイクロ粒子、又は2種類以上のナノ粒子及び/若しくはマイクロ粒子の組合せを含む。さらに、1つ以上の層は銀のナノ粒子を含む。別の態様では、1つ以上の層は、金属、ナノ粒子、金属酸化物、カーボンナノチューブ、ポリマーナノ粒子、セラミック、リン酸カルシウム、コラーゲン及び/又はヒドロキシアパタイトナノ粒子の組合せを含む。他の態様では、前記被覆は生分解性及び/又は生体適合性であり、ナノ粒子は、各層が分解するにつれて前記ナノ粒子組成物から放出されてもよい。他の態様では、薬物、成長因子及び/又は生物活性剤は、少なくとも1つの層の内部及び/又は前記被覆の表面の層の上に含めることができる。他の態様では、前記ナノ粒子は、金、銀、金属、酸化物、カーボンナノ構造物(単層、二重、多層ナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ナノファイバー)、ヒドロキシアパタイト、ジルコニア、天然若しくは合成ポリマー、セラミック又は金属酸化物を含む。
【0012】
他の態様では、医療機器は、整形外科用インプラント、歯科用インプラント、獣医学用補綴材料、組織工学のマトリックス、同種移植用硬組織又は同種移植用軟組織である。前記整形外科用インプラントは、股関節インプラント、膝関節インプラント、肩関節インプラント、プレート、ピン、スクリュー、ワイヤー又はロッドである。前記歯科用インプラントは、アバットメント、ヒーリングスクリュー又はカバースクリューである。前記獣医学用補綴材料は、インプラント、ピン、スクリュー、プレート又はロッドである。
【0013】
他の態様では、被覆は、1つ以上のタンパク質、アミノ酸、酵素、核酸、生物活性剤、成長因子、薬物、抗生物質、核酸、ホルモン、抗体又はバイオフィルム形成を阻害し層が分解するにつれて放出される可能性のある薬剤を含有する1つ以上の層を含む。さらなる態様では、前記成長因子は、機器の表面に隣接した部位又は機器の表面において骨形成を促進することができる骨形成タンパク質である。別の態様では、前記生物活性剤は、医療機器の表面被覆の中又は上にあり、少なくとも1つ以上の骨形成、タンパク質合成、遺伝子、発現、細胞増殖、有糸分裂、DNA転写、ホルモン産生、酵素産生、細胞死、遺伝子送達又は薬物送達において、隣接する組織又は細胞に影響を及ぼす。さらに別の態様では、前記生物活性剤は、前記ナノ粒子に結合していてもよく、前記結合は、共有結合、イオン結合、水素結合、ジスルフィド結合又は極性の共有結合であってもよい。
【0014】
別の側面では、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆されていない医療用インプラントと比較して、移植時の医療用インプラントが抗菌及び抗炎症活性を示すように、超音波処理によって前記医療用インプラントを金属マイクロ粒子及び/又はナノ粒子で被覆する工程を含む、コラーゲン含有医療用インプラント上でのバイオフィルム形成を阻害する方法を提供する。
【0015】
医療用インプラント上でのバイオフィルム形成を阻害する方法において使用するための、超音波処理によって金属マイクロ粒子及び/又はナノ粒子で被覆されたコラーゲン含有医療用インプラントであって、移植時の医療用インプラントが、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆されていない医療用インプラントと比較して、抗菌活性及び抗炎症活性を有しているインプラントも提供する。
【0016】
ある態様では、バイオフィルムは、細菌、真菌又は原生動物のバイオフィルムである。別の態様では、医療用インプラントは、整形外科用若しくは歯科用インプラント、移植物、骨材料、足場、同種移植用硬組織、同種移植用軟組織又は組織工学のマトリックスである。
【0017】
別の側面では、微生物のコロニー形成を防ぐ超音波処理によって、コラーゲン含有医療機器又はインプラントを金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒で被覆することを含む、前記機器又はインプラントにおける微生物のコロニー形成を阻害する方法を提供する。
【0018】
医療機器又はインプラント上での微生物のコロニー形成を阻害する方法において使用するための、超音波処理によって金属マイクロ粒子及び/又はナノ粒子で被覆されたコラーゲン含有医療機器又はインプラントであって、前記金属マイクロ粒子及び/又はナノ粒子が微生物のコロニー形成を防ぐ医療機器又はインプラントも提供する。
【0019】
ある態様では、コラーゲン含有機器又はインプラントは、歯科用インプラント、整形外科用インプラント、獣医学用インプラント、足場又は組織工学のマトリックスである。
【0020】
別の側面では、銀のナノ粒子を含むコラーゲン含有インプラントがあり、前記銀ナノ粒子は、前記インプラントの少なくとも1つの表面を被覆する。ある態様では、前記インプラントは歯科用インプラント又は歯科用インプラントのアバットメントである。
【0021】
別の側面では、コラーゲン含有金属ナノ粒子被覆医療機器をエチレンオキシド又はガンマ線に暴露することを含む、前記医療機器を滅菌する方法を提供する。
【0022】
別の側面では、コラーゲン含有金属ナノ粒子被覆医療機器を含む包装物であって、前記機器が気密容器又は真空パックされた容器に密封されている包装物を提供する。ある態様では、前記医療機器は、歯科用インプラント、歯科用インプラントのアバットメント又は他の医療機器である。
【0023】
別の側面では、(a) コラーゲン含有膜の表面に金属ナノ粒子を堆積させて表面コーティングを作成すること;及び (b) 前記表面で骨芽細胞を培養することを含む、骨細胞の成長を促進するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1-1】図1はAgNP被覆コラーゲン膜の特徴を示す。Aは被覆膜及び非被覆膜の両面の光学顕微鏡画像である。
図1-2】Bは異なる濃度のAgNP溶液で超音波処理したAgNP被覆コラーゲン膜及びスパッタリングで被覆したAgNP被覆コラーゲン膜の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。SEM画像(×120K)は、非被覆及びAgNP被覆コラーゲン膜を示した。
図1-3】Cは被覆したコラーゲン膜におけるAgNP量(mg)を示す。
図2-1】図2は黄色ブドウ球菌及び緑膿菌に対するAgNP被覆コラーゲン膜の抗菌効果を示す。A及びCは、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌に対するAgNP被覆コラーゲン膜の抗菌効果を示す。B及びDは、膜の面積に対する抗菌面積の比率に基づく定量結果を示す(n=3;平均±SD;p<0.05、**p<0.005)。
図2-2】同上。
図3-1】図3はin vitroにおける細胞毒性の評価及びAgNP放出試験を示す。Aは、超音波処理及びスパッタリングによるAgNP被覆コラーゲン膜並びに非被覆コラーゲン膜上で培養したC3H10細胞の3日間のMTS試験を示す。Bは、AgNP被覆膜上のC3H10細胞のLDH漏出アッセイの結果を示す。
図3-2】Cは、被覆膜の重量に対する割合としてAASで求めた水相に放出されたAgNP量を示す。Dは、被覆されていないコラーゲン膜上で培養されたC3H10細胞の放出AgNPについてのMTS試験の結果を示す。 AgNP被覆コラーゲン膜上の細胞の成長と増殖はCLSM(F-アクチンで示される細胞骨格、緑色蛍光で示されるAgNP被覆又は非被覆膜、及びDAPIで示される細胞核)で可視化した。
図4図4はAgNP被覆コラーゲン膜の抗炎症効果を示す。A及びBはLPS刺激後のRAW264.7細胞のIL-6及びTNFα遺伝子の発現、C及びDはLPS刺激後のRAW264.7のIL-6及びTNFαの分泌を示す(n=3;平均±SD;p<0.05、**p<0.005、***p<0.0005、****p<0.00005)。
図5図5はAgNP被覆コラーゲン膜上での細胞の分化を示す。3日、6日及び9日間培養後のC3H10細胞の骨形成マーカー発現(RUNX2、ALP及びOPN)、AgNP被覆群において3日目及び6日目に発現が有意に増加したことを示す(n=3;平均±SD;p<0.05、**p<0.005、***p<0.0005、****p<0.00005)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書が提供する方法、材料及び機器は、コラーゲン含有インプラントの表面に適用することができるナノ粒子(NP)又はマイクロ粒子の金属被覆に関する。以下に説明するように、より具体的には、表面被覆は医療用又は歯科用インプラントなどのコラーゲン含有インプラントに適用することができ、前記被覆は生体適合性で場合によっては生分解性であり、インプラント表面に隣接する細胞及び/又はインプラント表面の細胞の表面への密着及び増殖を促進する。表面被覆は、インプラント表面での細胞増殖及び骨石灰化の増加につながる可能性のある薬物及び/又は生物活性剤を送達することもできる。表面被覆は、バイオフィルムの増殖を減少及び防止することができ、炎症の治療及び/又は予防を促進することもできる。
【0026】
本明細書におけるすべての専門用語は、細胞生物学、生化学、分子生物学及びナノテクノロジーの分野で一般的に使用される用語であり、本発明が属する技術分野の当業者はこれを理解することができる。これらの専門用語は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (Sambrook et al., Cold Spring Harbor);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (Miller & Calos eds.)及びCurrent Protocols in Molecular Biology (F. M. Ausubel et al. eds., Wiley & Sons)の最新版で理解することができる。細胞生物学、タンパク質化学及び抗体技術は、Current Protocols in Protein Science (J. E. Colligan et al. eds., Wiley & Sons);Current Protocols in Cell Biology (J. S. Bonifacino et al., Wiley & Sons)及びCurrent Protocols in Immunology (J. E. Colligan et al. eds., Wiley & Sons.)で理解することができる。試薬、クローニングベクター及びキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、ClonTech及びSigma-Aldrich Co.などから入手できる。
【0027】
細胞培養法は、一般に、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique (R. I. Freshney ed., Wiley & Sons);General Techniques of Cell Culture (M. A. Harrison & I. F. Rae, Cambridge Univ. Press)及びEmbryonic Stem Cells: Methods and Protocols (K. Turksen ed., Humana Press)の最新版に記載されている。他の図書には、Creating a High Performance Culture (Aroselli, Hu. Res. Dev. Pr. 1996)及びLimits to Growth (D. H. Meadows et al., Universe Publ. 1974)がある。組織培養用品及び試薬は、Gibco/BRL、Nalgene-Nunc International、Sigma Chemical Co.及びICN Biomedicalsなどから入手できる。
【0028】
本明細書は、技術文献を参考に当業者へのガイダンスを提供するが、単なる参照は、この技術文献が先行技術であることを認めるものではない。
【0029】
本発明の広範な側面では、移植可能なコラーゲン含有医療機器を製造する方法であって、前記方法はコラーゲン含有医療機器を金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆する工程を含み、コラーゲン含有医療機器を被覆する前記工程は超音波処理工程であり、前記コラーゲン含有医療機器は、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆されていない医療機器と比較して、移植時に抗菌及び抗炎症活性を示す方法を提供する。
【0030】
金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子の目的は、細菌感染を予防及び/若しくは治療すること、並びに/又は、炎症を予防及び/若しくは治療することである。したがって、以前に抗菌活性及び/又は抗炎症活性を有することが示された金属が本発明に含まれる。好ましくは、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子は、銀及び銅又はその組合せからなる群から選択される金属を含む。
【0031】
本明細書において使用するコラーゲンという用語は、処理されたもの又は他の方法で修飾されたものを含むすべてのコラーゲンを指す。好ましいコラーゲンは、免疫原性のテロペプチド領域を除去するために処理され(「アテロペプチドコラーゲン」)、可溶性で、線維状に再構成される。
【0032】
コラーゲン含有医療機器は、マトリックス、膜、マイクロビーズ、フリース、糸若しくはゲル、及び/又はその混合物を含むことができる。いくつかの態様では、コラーゲン含有医療機器は、I/III型コラーゲンマトリックス(ACI Matrix(登録商標))、小腸粘膜下組織(Vitrogen(登録商標))又はコラーゲン膜(CelGro(登録商標))を含む。
【0033】
コラーゲン含有膜という用語は、当該技術分野において公知の方法で製造され、例えば、米国特許第9,096,688号に開示されたコラーゲン含有組織の破片(piece)又はセグメントを指す。コラーゲン含有膜は幾何学的形状であってもよいが、通常、実質的に平面で、所定の位置で下表面又は上表面の形状に一致していてもよい。
【0034】
コラーゲン含有膜は、好ましくは以下の性質を有する:
a) 組織との一体化及び血管新生を促進するような方法で相互に接続する細孔;
b) 最終的にコラーゲン含有膜が正常組織に置き換わるような生分解性及び/又は生体吸収性;
c) 細胞の付着、増殖及び分化を促進する表面の化学的性質;
d) 強度と柔軟性、並びに
e) 低い免疫原性。
【0035】
コラーゲン含有膜は、通常、哺乳動物に見られる高密度の結合組織を含む「コラーゲン含有組織」から調製又は製造される。用語「コラーゲン含有組織」は、コラーゲンを含む哺乳類から単離することができる皮膚、筋肉等を意味する。用語「コラーゲン含有組織」は、コラーゲン又はコラーゲン含有材料が体外で組み立て又は製造された、「合成的に」生成された組織も含む。
【0036】
いくつかの態様では、コラーゲン含有組織は、ヒツジ、ウシ、ブタ又はヒトを含むがこれらには限定されない哺乳動物から単離される。他の態様では、コラーゲン含有組織はヒトから単離される。
【0037】
いくつかの態様では、コラーゲン含有組織は「自己」、すなわち、治療を必要とする患者の体から単離される。
【0038】
いくつかの態様では、コラーゲン含有膜は80%以上のI型コラーゲンを含む。他の態様では、コラーゲン含有膜は少なくとも85%のI型コラーゲンを含む。さらに別の態様では、コラーゲン含有膜は90%以上のI型コラーゲンを含む。
【0039】
コラーゲン含有膜は、当該技術分野において公知の方法、ただし、1つの好ましい方法は、以下の(i)~(iv) の工程を含む:
(i) コラーゲン含有組織を分離し、エタノール溶液中で組織をインキュベートする;
(ii) 含まれている非コラーゲン性タンパク質を変性させるために、無機塩及び陰イオン性界面活性剤を含む第1の溶液中で、工程(i)のコラーゲン含有組織をインキュベートする;
(iii) 無機酸を含む第2の溶液中で、工程(ii)で得たコラーゲン含有組織を前記材料中のコラーゲンが変性するまでインキュベートする;並びに
(iv) 無機酸を含む第3の溶液中で、工程(iii)で得たコラーゲン含有組織を、前記組織内のコラーゲン束が整列することを可能にするのに十分な時間、同時機械的刺激とともにインキュベートする、ここで、前記機械的刺激は、コラーゲン含有組織に周期的に張力を加えることを含む
によって製造してもよい。
【0040】
第1の溶液として、ルイス酸と錯体を形成することができる無機塩を使用できることが理解される。いくつかの態様では、無機塩は、塩化トリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、過塩素酸塩及びトリフルオロメタンスルホナートからなる群から選択される。他の態様では、無機塩は塩化リチウム(LiCl)である。
【0041】
第1の溶液として、任意の陰イオン性界面活性剤を使用することができるが、いくつかの態様では、前記陰イオン性界面活性剤は、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩及びアルキルアリールスルホン酸塩からなる群から選択される。特に有用な陰イオン性界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などのアルキル硫酸塩を含む。
【0042】
いくつかの態様では、第1の溶液は、約1%(v/v)のSDSと約0.2%(v/v)のLiClを含む。
【0043】
いくつかの態様では、第2の溶液中の無機酸は約0.5%(v/v)のHClを含み、第3の溶液中の無機酸は約1%(v/v)のHClを含む。
【0044】
各工程におけるインキュベーションの時間は、(i) コラーゲン含有組織の種類;(ii) 無機塩/酸、及び/又は陰イオン性界面活性剤の種類;(iii) 使用する各無機塩/酸、及び/又は陰イオン性界面活性剤の強度(濃度)、並びに (iv) インキュベーションの温度、に応じて変化することが当業者に理解される。いくつかの態様では、工程(i)のインキュベーション時間は少なくとも8時間である。他の態様では、工程(ii)のインキュベーション時間は60分未満であり、他の態様では、工程(iii)のインキュベーション時間は少なくとも20時間である。
【0045】
いくつかの態様では、工程(ii)のインキュベーションは約4℃で行う。他の態様では、工程(ii)のインキュベーションは少なくとも12時間行う。
【0046】
いくつかの態様では、第2の溶液は約0.5%(v/v)のHClを含む。
【0047】
いくつかの態様では、工程(iii)のインキュベーションは約30分間行う。他の態様では、工程(iii)のインキュベーションは振とうしながら行う。いくつかの態様では、第3の溶液は、約1%(v/v)のHCl溶液を含む。
【0048】
いくつかの態様では、工程(iv)のインキュベーションは、約12~36時間、好ましくは約24時間行う。他の態様では、工程(iv)のインキュベーションは振とうしながら行う。
【0049】
いくつかの態様では、この方法は、工程(iii)と工程(iv)の間に中和工程をさらに含み、ここでは、前記コラーゲン含有組織と約0.5%(v/v)NaOHのインキュベーションを含む。
【0050】
いくつかの態様では、この方法は、工程(iv)のコラーゲン含有組織をアセトンと共にインキュベートし、次いでコラーゲン含有組織を乾燥させることを含む工程(v)をさらに含む。
【0051】
いくつかの態様では, この方法は、脂肪及び/又は血管の除去を可視化及び促進するために、工程(ii)と(iii)の間、及び/又は工程(iii)と工程(iv)の間に、コラーゲン含有組織とグリセロールを接触させる工程をさらに含む。
【0052】
グリセロールは、脂肪及び/又は血管の除去を容易にする時間、コラーゲン含有組織と接触させてもよい。いくつかの態様では、接触時間は少なくとも10分である。
【0053】
いくつかの態様では、この方法は、工程(ii)と(iii)の間、及び/又は工程(iii)と(iv)の間で、コラーゲン含有組織の洗浄工程をさらに含む。工程(ii)と(iii)の間に行う洗浄工程の目的は、変性タンパク質の除去である。したがって、変性タンパク質を除去することができる洗浄溶液を使用することができる。いくつかの態様では、工程(ii)と(iii)の間に使用する洗浄溶液はアセトンである。
【0054】
アセトンによる洗浄後、コラーゲン含有組織を滅菌水でさらに洗浄する。
【0055】
いくつかの態様では、コラーゲン含有組織は、NaOH:NaCl溶液でさらに洗浄する。コラーゲン含有組織をNaOH:NaClで洗浄する場合、さらに滅菌水で洗浄することが好ましい。
【0056】
いくつかの態様では、工程(iv)の後、コラーゲン含有組織を第1の溶液でさらに洗浄する。
【0057】
本明細書に記載の方法で用いる用語「同時機械的刺激」は、コラーゲン含有組織の化学処理中にコラーゲン含有組織を引き延ばす工程を指す。前記コラーゲン含有組織は、静的及び/又は周期的な引き延ばしを受けてもよい。したがって、いくつかの態様では、同時機械的刺激は
(i) コラーゲン含有組織の所定の期間の引き延ばし;
(ii) コラーゲン含有組織の所定の期間の弛緩;並びに
(iii) 工程(i)及び(ii)のn回の繰り返し(nは1以上の整数)
を含んでいてもよい。
【0058】
機械的刺激でコラーゲン含有組織を引き延ばす場合、コラーゲン含有組織は、好ましくはその長軸に沿って引き延ばす。
【0059】
いくつかの態様では、同時機械的刺激は、コラーゲン含有組織に張力を周期的に加えることを含み、前記張力の周期性は、約10秒~約20秒の引き延ばし時間及び約10秒の弛緩時間を含み、それから生じるひずみは約10%で、コラーゲン含有組織内のコラーゲン束が本明細書に記載されるように整列するまで、機械的刺激を続ける。
【0060】
得られたコラーゲン含有組織は編目構造のコラーゲンの繊維又は束を含む。本明細書において、用語「編目構造」は、第1のグループの繊維又は束が主に第1の方向に伸び、第2のグループの繊維又は束が主に第2の方向に伸びる繊維又は束の第1及び第2のグループを含む構造を指し、第1及び第2の方向は互いに異なり、第1のグループの繊維又は束は、第2のグループの繊維又は束と交互に配置されるか、さもなければ織り込まれる。前記方向の相違は約90°であってもよい。
【0061】
好ましい方法によって作製されたコラーゲン含有組織は、20Nを超える「最大引張荷重強度」を有する。いくつかの態様では、本発明のコラーゲン含有組織は、25N、40N、60N、80N、100N、120N又は140Nを超える最大引張荷重強度を有する。
【0062】
さらに、コラーゲン含有組織の実施形態における編目構造は、コラーゲン含有パッチの係数を増加させながら、最大負荷時の伸びの減少を示すと考えられている。
【0063】
本明細書において、用語「係数」はヤング率を意味し、応力とひずみの比として求められる。これは、コラーゲン含有組織及び/又はパッチの剛性の尺度である。
【0064】
いくつかの態様では、コラーゲン含有組織の係数は100MPaを超える。他の態様では、コラーゲン含有組織の係数は200MPa、300MPa、400MPa又は500MPaを超える。
【0065】
本明細書において、用語「最大負荷時の伸び」は、無負荷状態でのコラーゲン含有組織の元の長さを基準とした最大引張荷重強度でのコラーゲン含有組織の伸長を意味する。これは、より大きくなる最大拡張とは対照的である。
【0066】
いくつかの態様では、コラーゲン含有組織の最大負荷時の伸びは元の長さの85%未満である。
【0067】
コラーゲン含有組織を生成した後に、使用するコラーゲン含有膜を成形してもよい。いくつかの態様では、前記コラーゲン含有膜は膜の形状とされ、in situでの操作性がよくなる。
【0068】
好ましくは、本発明のコラーゲン含有膜は細胞を支持するのに十分な厚さであるが、コラーゲン含有膜のin situでの操作性が損なわれるほど厚くない。したがって、いくつかの態様では、コラーゲン含有膜の厚さは25μm~200μmである。いくつかの態様では、コラーゲン含有膜の厚さは30μm~180μmである。他の態様では、コラーゲン含有膜の厚さは35μm~170μmである。さらに別の態様では、コラーゲン含有膜の厚さは40μm~160μmである。さらに別の態様では、コラーゲン含有膜の厚さは45μm~150μmである。さらに別の態様では、コラーゲン含有膜の厚さは50μm~140μmである。さらに別の態様では、コラーゲン含有膜の厚さは50μm~100μmである。また、いくつかの態様では、コラーゲン含有膜の厚さは約50μmである。
【0069】
コラーゲン含有膜は、コラーゲン含有医療機器として使用しても、医療機器に組み込んでもよい。例えば、コラーゲン含有膜を使用して、医療機器の表面の一部又は全部を覆うことができる。前記医療機器は、整形外科用インプラント、歯科用インプラント、獣医学用補綴材料、足場又は組織工学のマトリックスである可能性がある。
【0070】
コラーゲン含有医療機器は、超音波処理によって金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆する。超音波とは、20kHzを超える音波を指す。本明細書に記載の方法は、20kHz、30kHz、40kHz、50kHz、60kHz、70kHz、80kHz、90kHz、100kHz、110kHz、120kHz、130kHz、140kHz、150kHz、160kHz、170kHz、180kHz、190kHz、200kHz、若しくはこれ以上、又はその組合せの範囲の超音波で処理してもよい。
【0071】
ある態様では、コラーゲン含有医療機器は、水とエチレングリコール(10:1 v/v)溶液中の、Au、Ag、Fe、Co、Ni、Cu、Al又はZnなどの無機金属と接触させる。反応混合物をArでパージし、Ar-H混合物(95:5)の流れの下、超音波浴(例えば、Sweep 200 H超音波浴(SweepZone(登録商標)Technology)、50~60kHzで作動)中で高強度の超音波を照射する。
【0072】
超音波処理の最初の数分間に、反応にアンモニア水溶液(NHOH/AgNO モル比=2:1)を加えてもよい。超音波処理中、温度は通常、室温付近から約30℃に保つ。超音波処理に続いて、被覆されたコラーゲン含有医療機器を蒸留水で洗浄し、撹拌して残留金属溶液を除去する。その後、前記コラーゲン含有医療機器は室温で乾燥させることができる。
【0073】
理論に拘束されることを望むものではないが、ナノ粒子は、少なくとも1つの方向の寸法が0.5nm~100nmの粒子を指す。理論に拘束されることを望むものではないが、マイクロ粒子は、少なくとも1つの方向の寸法が100nm~1000nmの粒子を指す。しかし、当業者によって理解されるように、これらのサイズ分布には重なりがあってもよい。したがって、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子のサイズは、約0.5nm、1nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、40nm、45nm、50nm、55nm、60nm、65nm、70nm、75nm、80nm、85nm、90nm、95nm、100nm、150nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm若しくはこれらの値の±10%、又はこれらの組合せの範囲であってもよい。
【0074】
ある態様では、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子のサイズは約0.5nm~約500nmであってもよい。ある態様では、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子のサイズは約70nmであってもよい。
【0075】
マイクロ微粒子及び/又はナノ粒子のサイズは顕微鏡、例えば電子顕微鏡によって測定することができる。
【0076】
いくつかの態様では、コラーゲン含有医療機器は、天然ポリマー、合成ポリマー、金属、金属酸化物、酸化物、金属窒化物、ホウ酸塩、セラミック、ジルコニア、同種移植用硬組織、同種移植用軟組織、異種移植用硬組織、異種移植用軟組織、カーボンナノ構造、炭素、ガラス、天然材料、生体適合材料によりさらに被覆されている。
【0077】
金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子の被覆は、感染の処置;感染の防止;炎症の処置;炎症の防止;細胞接着の促進;バイオフィルム形成の防止;バイオフィルム形成の阻害;細胞増殖の促進;生体系若しくは非生体系との結合の促進;細胞機能の増加又は減少;薬物及び/若しくは生物活性剤の送達、又は、宿主組織への材料のより良い一体化の確保、の少なくとも1つを実行することができる。
【0078】
移植可能なコラーゲン含有医療機器は、当該技術分野において公知の適切な方法によって宿主生物に送達することができる。例えば、移植可能なコラーゲン含有医療機器は、直接外科的に配置するか又は局所に適用することによって送達することができるが、決してこれらに限定されるものではない。送達は、哺乳動物の任意の細胞型又は組織に対して行うことができる。
【0079】
以下に方法の具体例を示す。それらは代表的なものあって、限定するものではない。
【実施例
【0080】
実施例1 銀被覆コラーゲン膜の調製
歯科用骨再生誘導法でCEマークが承認されているCelGro(登録商標)コラーゲン膜をOrthocell Ltd, Australiaから入手した。銀の70nmナノ粒子濃縮溶液はSuzhou ColdStones Technology Co., Ltd.(Jiangsu, China)から購入した。
【0081】
超音波被覆
70nm銀ナノ粒子を含有するAgNP濃縮溶液(濃度20mg/mL)を、0.6、0.8、1.0及び1.2mg/mLに希釈した。以下の試験に応じて、コラーゲン膜を1.0、1.5又は2.0cmの正方形に切り取った。化学用のすべての試薬はSigma-Aldrich(Steinheim, Germany)から購入し、精製することなく使用した。
【0082】
いくつかのパラメーターについて、銀のナノ粒子をコラーゲン膜に被覆するための最良の条件を得た:超音波の出力、溶液温度、反応時間及び試薬濃度。代表的な実験の結果は以下のとおりである。コラーゲン膜を、100mL超音波処理用フラスコ内の0.02M AgNO溶液(溶媒:水とエチレングリコール(10:1v/v))に加えた。次いで、反応混合物にArを1時間パージして微量のO/空気を除去し、Ar-H混合物(95:5)の流れの下で、高強度の超音波を2時間照射した(Sweep 200 H超音波浴(SweepZone(登録商標)Technology)、50~60kHzで作動)。
【0083】
超音波処理の最初の10分間に、25wt%のアンモニア水溶液(NHOH/AgNO モル比=2:1)を反応スラリーに添加した。超音波処理中、30℃に保った冷却浴に超音波処理用フラスコを入れた。超音波処理後、被覆した試料を蒸留水に浸し、手で20秒間撹拌して、残った銀の溶液をすべて除去した。次に、試料を室温で24時間風乾した。
【0084】
スパッタリング被覆
スパッタリングによるAgNP被覆コラーゲン膜は、高周波マグネトロンスパッタリング(Hummer BC-20 DC/RF Sputter System, AnatechUSA)による直接堆積によって製造した。高純度の銀(99.99%、Ezzi Vision Pty Ltd, Australia)を銀のソースとして使用した。コラーゲン膜は、スパッタリング槽内の試料台に両面テープで固定して、スパッタリング中の安定性を確保した(Jiang et al., Surface and Coatings Technology, 2010. 204(21-22): p. 3662-3667;Song et al., Thin Solid Films, 2011. 519(20): p. 7079-7085)。スパッタリングの前に、スパッタリング槽を一晩(約10時間)真空シールし3.0×10-7Torrとした。スパッタリング中に、流量20sccmのArガス(純度99.99%)をスパッタリング槽にパージした。スパッタリングは、100WのDC電力を10分間印加して、17℃、1×10-2Torrで行った。コラーゲン膜と銀の間の距離は12cmであった。
【0085】
走査型電子顕微鏡(SEM)用の試料を、目的のサイズ(3×3mm)に切り取り、スタブに取り付けた。次いで試料に白金の層をスパッタリングし、その後、Centre for Microscopy, Characterisation and Analysis, University of Western Australia (CMCA-UWA)においてZeiss55を使用して加速電圧15kVでSEM画像を取得した。
【0086】
光学顕微鏡画像は、コラーゲン二分子膜の構造的特徴:よく配向されたコラーゲン繊維からなる「滑らかな」面とランダムに整列したコラーゲン繊維を含む「粗い」面、を明確に示した(図1A)。AgNPは、超音波処理ではコラーゲン膜の両面に均一に被覆されたが、スパッタリングでは片面のみが被覆された(図1)。SEM画像は、超音波による被覆中、高濃度のAgNPはより多くのAgNP沈着をコラーゲン繊維にもたらすことを明らかにしたのに対し、スパッタリングによる被覆ではコラーゲン繊維上に大きくて不均一な量のAgNPが見られた。スパッタリングによる被覆は超音波による被覆と比較して、はるかに多くのAgNPがコラーゲン膜に付着したこと、及びAgNPは被覆溶液の濃度の増加とともに増加したことを、AASは示した。
【0087】
被覆されたコラーゲン膜のAgNPの量を測定するために、試料を同じ大きさ(1cm)に切り取り、1%硝酸に浸してコラーゲンを溶解した。硝酸溶液中のAgNPの濃度を原子吸光分析(AAS)で測定した。
【0088】
AgNP放出試験では、AgNPで被覆されたコラーゲン膜の重量を記録し、膜を6mLの1×PBS溶液に浸した。24時間後、3mLの溶液を取り出して保存し、被覆された膜を含む元の溶液に3mLの新しいPBS溶液を加えた。次いで混合物を振とうした。3mLの銀-PBS溶液を取り出し、毎回3mLの新しいPBS溶液と交換するという、これらの2つの工程を6日間連続して繰り返した。7日目に、被覆された膜をPBS溶液から取り出した。放出されたAgNP量はAASで試験した。校正溶液としてPBS溶液中に0、0.5、1.0、1.5、2.0及び3.0ppmの銀イオンを含む溶液を使用した。中空陰極(HC)ランプ、重水素(D2)ランプ及びフレームを最大の吸収感度に調整した後、校正溶液を試験し、銀濃度を記録した(Kulthong et al., 2010, Particle and fibre toxicology, 7(1): p. 8)。PBS中に放出されたAgNPの濃度は、被覆された膜の重量に対する割合として計算した。培養培地(1日目)中の放出されたAgNPのピーク濃度を選択し、このAgNP含有培養培地を細胞毒性試験に使用した。
【0089】
実施例2 金属被覆コラーゲン膜の試験
抗菌活性試験
試験生物と適切な培養液の混合物を用いて、0.5~10.0のマクファーランド濁度標準を調製した。目で比較した後、抗菌試験のために0.5マクファーランド濁度標準を選択した。寒天プレートを調製するために、各ペトリ皿に15mlの溶原培地(LB)寒天を注ぎ、固化させた。100μlの黄色ブドウ球菌(株:ATCC 6538P)又は緑膿菌(株:ATCC 9027)の細菌懸濁液を固体LB寒天培地の表面に均一に分散し、沈降させた。異なる銀濃度を有する超音波AgNP被覆コラーゲン膜とスパッタリングAgNP被覆コラーゲン膜を、直径5mmの円形に切り取り、細菌懸濁液で覆われたLB寒天培地の表面に置いた。被覆されていないコラーゲン膜を対照とした。LB寒天-細菌-AgNP被覆コラーゲン膜のプレートを37℃で96時間インキュベートし、24時間ごとに、阻害ゾーンを各膜の周囲に細菌の増殖がない面積(mm)として測定した。
【0090】
異なる濃度のAgNPを使用して超音波処理で作成したAgNP被覆コラーゲン膜又はスパッタリングで作成したAgNP被覆コラーゲン膜を、細菌を接種したプレートに置き、抗菌活性を試験した。黄色ブドウ球菌及び緑膿菌に対するAgNPの抗菌効果は、被覆コラーゲン膜を囲む増殖阻害ゾーンの定量化によって測定した(図2)。4日間の培養後、超音波処理によって製造されたAgNP被覆コラーゲン膜は、AgNP含量0.6mg/mL~1.0mg/mLにおいて抗菌効果が増加した。興味深いことに、1.0mg/mL及び1.2mg/mLのAgNP溶液を使用して超音波処理で被覆した膜は、スパッタリングで被覆したものと同様の抗菌効果を示した(図2)。
【0091】
細胞培養
C3H101/2細胞を細胞毒性と生存率を試験するために使用し、RAW264.7細胞をサイトカイン放出を測定するために使用した。両方の細胞株を、5%COを含む加湿雰囲気中、37℃でインキュベートした。C3H101/2細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco(登録商標))並びに1%ストレプトマイシン及びペニシリン混合物を添加した最小必須培地(MEMα、Gibco(登録商標))で培養した。RAW264.7細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco(登録商標))並びに1%ストレプトマイシン及びペニシリン混合物を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM+GlutaMAX(登録商標)-I)で培養した。
【0092】
C3H10細胞をAgNP被覆コラーゲン膜に播種し、細胞増殖と細胞膜の完全性を、それぞれMTS試験と乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)漏出アッセイで評価した。24時間の培養後、AgNPの用量に依存して細胞数の減少が見られたが、1日目以降の増殖率は同様であった(図3)。一方、スパッタリング法で銀を被覆したコラーゲンは細胞増殖が深刻に阻害され、このコーティング技術は、細胞増殖においてAgNP-コラーゲン構造の製造には適していないことを示唆する(図3A)。細胞膜の完全性は、LDH漏出アッセイで評価した。24時間の培養後、コラーゲン膜の被覆に使用したAgNPの濃度と相関する漏出したLDH量の増加があり、1.0と1.2mg/mLの超音波処理群の間に有意差があるので、AgNPが細胞膜に損傷を与える可能性があることを示す(図3B)。抗菌活性と最小限の細胞毒性を考慮して、1.0mg/mLのAgNP溶液を用いたAgNP被覆コラーゲン膜を以下の試験の用量として選択した。
【0093】
コラーゲン膜から放出されたAgNPが細胞毒性を引き起こす可能性があるかどうかを決定するために、1.0mg/mLで超音波被覆したコラーゲン膜から放出されたPBS中のAgNPをAASで測定した(図3C)。AgNPの最大放出は24時間で生じ(1.86×10-6mg/mL)、放出された銀ナノ粒子の量は、被覆コラーゲン膜の0.02wt%未満であった。放出された銀のナノ粒子は24時間以降、徐々に減少した。放出されたAgNPの細胞毒性を評価するために、放出された銀の最高濃度を選択して、AgNPを添加した培地(AASによる最終濃度は1.86×10-6mg/mL)で細胞増殖を試験し、MTSで調べた。細胞増殖の阻害は観察されなかった(図3D)。
【0094】
AgNPを被覆していないコラーゲン膜に播種した細胞と被覆したコラーゲン膜に播種した細胞は明らかな形態学的な差異を示さなかったことが、共焦点レーザー走査型顕微鏡の画像から明らかとなった。
【0095】
MTS試験及びLDH放出アッセイ
この実験では、C3H10細胞を用い細胞増殖及び細胞生存率を試験した(Vangsness et al., Clinical orthopaedics and related research, 1997, 337: p. 267-271)。AgNP被覆コラーゲン膜から放出されたAgNPの細胞毒性を評価するために、AgNP被覆コラーゲン膜(直径1cm)にC3H10細胞を3×10細胞の密度で播種し、24時間インキュベートして付着させた。超音波で被覆した膜から放出されたAgNPの細胞毒性を評価するために、AgNPを被覆していないコラーゲン膜(直径1cm)にC3H10細胞を3×10細胞の密度で播種し、最終濃度1.86×10-6mg/mLのAgNPが補充された培地で培養した。
【0096】
MTS試験を、CellTiter(登録商標)96 AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay kit(Promega, USA)を用いて行った。このキットは、基質である3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニ)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(MTS)を、代謝的に活性な細胞内のデヒドロゲナーゼ酵素によって茶色のホルマザンに生物学的に還元することに基づく(Cory et al., Cancer communications, 1991. 3(7): p. 207-212;Salih et al., Journal of Materials Science: Materials in Medicine, 2000, 11(10): p. 615-620;Salgado et al., Materials Science and Engineering, 2002, 20(1): p. 27-33)。24時間のインキュベーション後、各ウェルにMTS溶液を添加した。続いて、5%COを含む加湿雰囲気中、暗所、37℃でさらに3時間インキュベートし、その後、96ウェルプレートリーダー(Bio-Rad, Model 680, USA)を使用し、光学密度(OD)を波長490nmで測定した。
【0097】
C3H10細胞によるLDH放出アッセイで細胞膜の完全性を評価した。AgNP被覆コラーゲン膜に細胞を播種した。CytoTox 96(登録商標)Non-Radioactive Cytotoxiciy Assay Kit(Promega USA)の説明書に従い、24時間培養後に、放出されたLDHを測定した。収集した培地のODを96ウェルプレートリーダー(Bio-Rad, Model 680, USA)で490nmの波長で読み取った。
【0098】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)では、マクロファージ細胞株RAW264.7を使用した。細胞をAgNP被覆コラーゲン膜に播種し、24時間かけて付着させた。次いで、細胞を100ng/mlのリポ多糖(LPS)で刺激し、細胞培養物の上清を0、2、4及び8時間目に収集して分析した。被覆及び非被覆膜に播種した細胞であってLPSで刺激していない細胞を対照とした。TNFα及びインターロイキン6(IL-6)の産生を、マウスTNFα ELISAキット及びマウスIL-6 ELISAキット(Novex(登録商標), ThermoFisher Scientific, USA)で測定した。簡潔に述べると、標準液及び試料をアッセイ希釈液で希釈した。標準、試料及び対照(各100μl)を適切なウェルに追加した。プレートを密封し、室温で2時間インキュベートした。インキュベーション後、検出抗体(100μl、MS Biotin Conjugate溶液)を添加し、室温で30分間インキュベートした。洗浄後、各プレートにストレプトアビジン-HRP試薬(100μl)を添加し、室温で30分間インキュベートした。洗浄後、各ウェルに安定化させたクロモゲン(100μl)を添加し、暗所、室温で30分間インキュベートした。停止溶液(50μl)を用いて各ウェルの反応を停止し、450nmで吸光度を読み取った。
【0099】
AgNP被覆コラーゲン膜の抗炎症効果を、q-PCRとELISAによってさらに調査した。LPSで刺激しなかった場合、コラーゲン膜に播種したRAW264.7細胞のIL-6及びTNFαの遺伝子発現に、AgNPの被覆の有無で有意差はなかった(図4A、B)。LPSで刺激した場合、AgNP被覆コラーゲン膜上のIL-6遺伝子の発現は、LPS刺激の1時間及び2時間後では、被覆していない群と比較して低かったが、TNFαの発現は1時間後にのみ抑制された(図4A、B)。ELISAの結果は、放出されたIL-6及びTNFαがLPS刺激の2、4及び8時間後にさらに抑制されることを明らかにした(図4C、D)。
【0100】
AgNP被覆コラーゲン膜のin vitroでの骨形成の影響を調べるために、AgNP被覆コラーゲン膜にC3H10細胞を播種し、q-PCRで骨形成プロファイルを試験した。図5に示すように、AgNP被覆コラーゲン膜はC3H10細胞の骨形成分化を誘導した。RUNX、ALP及びOPNを含む骨形成マーカーの初期の発現は、3日目及び6日目では、AgNPを被覆していない膜と比較して被覆した膜上で培養した細胞において著しく高かったが、細胞を9日目まで培養した場合、有意差は認められなかった(図5)。
【0101】
実施例3 定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Q-PCR)
PureLinkTM RNA Mini Kit(Invitrogen, ThermoFisher Scientific, USA)を製造元の指示に従って使用し、培養したC3H101/2細胞から全RNAを単離した。QuantiTec Reverse Transcription kit(Qiagen)を使用して相補的DNA(cDNA)を合成した。iQTM SYBR(登録商標)Green Supermixを製造元の指示に従って使用して、リアルタイムPCRを行った。骨形成遺伝子(RUNX2、ALP、OPN)の相対的な発現量を、ハウスキーピング遺伝子(36B4)に対して正規化することによって得た。炎症性サイトカイン遺伝子発現試験では、1、2及び4時間前に、AgNP被覆膜に播種したRAW264.7細胞に100ng/mlのLPSで刺激した。RNA抽出、cDNA合成及びq-PCRを上述したように行った。TNFα及びIL-6の発現量を得、ハウスキーピング遺伝子(36B4)に対して正規化した。選択した遺伝子のプライマーを表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
共焦点レーザー走査型顕微鏡分析
AgNP被覆コラーゲン膜上の付着細胞の成長及び増殖は、共焦点レーザー走査顕微鏡画像で可視化した。C3H101/2細胞を、96ウェルプレート中のAgNP被覆コラーゲン膜に、3.0×10生細胞/cmの細胞密度で播種した。24時間のインキュベーション後、膜をPBSで3回穏やかに洗浄した。細胞の固定には4%パラホルムアルデヒドを使用し(室温で20分)、続いてPBSで3回洗浄した。ローダミンファロイジン(5単位/mL;Biotium, USA)を用い、細胞骨格を暗所で30分間染色した。PBSで3回洗浄した後、Hoechst(分子プローブ、Eugene, USA)を用い、核を暗所で15分間染色し、続いてPBSで3回洗浄した。すべての標本は、共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM;Nikon A1, Nikon, Japan)を使用して可視化した。
【0104】
統計分析
すべてのデータを平均±標準偏差として表示する。一元配置分散分析(ANOVA)を行い、群間の有意差を求め、p<0.05である場合に有意であると見なした。
【0105】
考察
骨との一体化と感染の予防は、歯槽骨の再建において最も重要である。この実験では、抗菌活性及び抗炎症活性を組み合わせた2種のバリア膜を開発し、AgNP被覆コラーゲン膜を生成する2種の被覆方法の有効性を評価した。AgNP溶液によるコラーゲン膜の超音波処理は、均一な分布と制御可能な沈着を備えた膜を効果的に生成することが見出された。抗菌効果と細胞毒性を検討することで被覆濃度を確定した。この実験で開発されたAgNP被覆コラーゲン膜は、骨再生を誘導する可能性、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌に対する優れた抗菌効果を示し、効果的な抗炎症及び骨形成誘導能を実証した。
【0106】
超音波による被覆は高放射の超音波によって行われ、浮遊したAgNPがコラーゲン膜に浸透することを可能にした。スパッタリングによる被覆は、純粋な銀とのアルゴンガス衝突を引き起こし、銀からのAgNPの放出をもたらし、コラーゲン膜に向けられた。超音波処理ではAgNP溶液の濃度の制御が可能で、コラーゲン膜へのAgNPの沈着を制御することができた。これとは対照的に、沈着が非常に速く進行し、AgNPの濃度制御に関する主な制限のためにAgNP堆積が多すぎるので、スパッタリングによる被覆は制御が困難であった。一般に、超音波処理とスパッタリングの両者で、コラーゲン膜へのAgNPの被覆に成功したことをSEMは示した。
【0107】
黄色ブドウ球菌(グラム陽性)及び緑膿菌(グラム陰性)は、感染症における2種の一般的な病原体で、黄色ブドウ球菌は術後の歯槽骨インプラントの病原体で一定の割合を占める。この実施例において、超音波処理又はスパッタリングのいずれかによって作製された被覆されたコラーゲン膜は、これらの2つの菌株に対して優れた抗菌効果を示した。興味深いことに、抗菌効果は特定の濃度範囲のAgNPに依存し、被覆濃度が1.0mg/mlのときに最大に達した。超音波による被覆で最小限の機能的な被覆を達成できることが示された。
【0108】
超音波処理の群では、24時間以内に最初の細胞膜損傷が生じたのみで、細胞増殖率に対する影響は3日間認められなかったことが示された。しかし、スパッタリングによるAgNP被覆コラーゲン膜は、非常に高い細胞増殖阻害を示した。24時間以内に生じる細胞膜構造の損傷は、AgNP被覆表面への細胞の接着による可能性があると推測した。さらに、被覆コラーゲン膜から放出される少量のAgNPの細胞毒性は無視することができ、AgNP被覆コラーゲン膜の局所投与は周囲の組織に悪影響を及ぼさないことが示された。最高の抗菌効果と低い細胞毒性を達成するために、1.0mg/mLの超音波によるコーティングを被覆の条件として選択した。正常な細胞形態及び細胞クラスターは、共焦点レーザー走査型顕微鏡で可視化でき、組織がAgNP被覆コラーゲン膜の内部で成長する可能性が示された。
【0109】
代用骨の配置後、感染又は骨移植によって誘発された炎症が骨との一体化を不十分にし、最終的に歯のインプラントの成功の信頼性が低下する傾向がある。TNFαやIL-6のような炎症性サイトカインの長期的な存在は、マトリックスメタロプロテイナーゼの過剰活性につながる可能性があり、細胞外マトリックスの分解をもたらす。IL-6は線維芽細胞増殖の強力な刺激因子で、外因性のIL-6が瘢痕形成に関与している可能性があることを示唆する証拠があり、骨との一体化に悪影響を及ぼす可能性がある。敗血症及び感染症における全身反応の主要なメディエーターであるTNFαは、過剰に産生されると組織損傷を引き起こす可能性がある。まとめると、感染又は骨の移植に対する宿主の反応によって引き起こされた過度の炎症は、術後に悪影響を及ぼす可能性がある。AgNP被覆コラーゲン膜は、遺伝子発現とタンパク質放出の両者でTNFαとIL-6を有意に阻害することがq-PCR及びELISAによって示され、その抗炎症活性が示された。したがって、過剰な炎症を伴う多くの感染状態において、AgNP被覆コラーゲンは、感染症と闘い、同時に炎症を和らげる二つの効果があり、これにより、歯槽骨再建後の感染症や移植による炎症のリスクを減らすことが可能となる。
【0110】
さらに、AgNP被覆コラーゲン膜は、被覆されていない膜と比較して、骨形成分化を誘導する優れた能力を有した。
以下に、本願の出願当初の請求項を実施の態様として付記する。
[1]移植可能なコラーゲン含有医療機器を製造する方法であって、前記方法はコラーゲン含有医療機器を金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆する工程を含み、コラーゲン含有医療機器を被覆する前記工程は超音波処理工程であり、前記コラーゲン含有医療機器は、金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子で被覆されていない医療機器と比較して、移植時に抗菌及び抗炎症活性を示す、方法。
[2]前記金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子は、銀及び銅又はその組合せからなる群から選択される金属を含む、[1]に記載の方法。
[3]前記コラーゲン含有医療機器はコラーゲン含有膜である、[1]に記載の方法。
[4]前記コラーゲン含有医療機器は宿主生物の内部に送達されるか、in vitroで使用される、[1]に記載の方法。
[5]前記宿主生物はヒト又は動物である、[1]に記載の方法。
[6]前記被覆は前記機器の少なくとも一部を覆う、[1]に記載の方法。
[7]前記被覆は、天然ポリマー、合成ポリマー、金属、金属酸化物、酸化物、金属窒化物、ホウ酸塩、セラミック、ジルコニア、同種移植用硬組織、同種移植用軟組織、異種移植用硬組織、異種移植用軟組織、カーボンナノ構造、炭素、ガラス、天然材料、生体適合材料をさらに含む、[1]に記載の方法。
[8]前記金属マイクロ粒子及び/又は金属ナノ粒子のサイズは、約0.5nm~約500nmである、[1]に記載の方法。
[9]前記被覆は、感染の処置、感染の防止、炎症の処置、炎症の防止、細胞接着の促進、バイオフィルム形成の防止、バイオフィルム形成の阻害、細胞増殖の促進、生体系若しくは非生体系との結合の促進、細胞機能の増加若しくは減少、薬物及び/若しくは生物活性剤の送達、又は、材料の宿主組織とのより良い一体化の確保、の少なくとも1つを実現することができる、[1]に記載の方法。
[10]前記被覆は金属マイクロ粒子及び金属ナノ粒子を含む、[1]に記載の方法。
[11]前記被覆は金属ナノ粒子を含む、[1]に記載の方法。
[12]前記被覆は金属ナノ粒子及び/又は金属マイクロ粒子の1つ以上の層を含む、[1]に記載の方法。
[13]前記1つ以上の層は銀のナノ粒子を含む、[12]に記載の方法。
[14]前記医療機器は、整形外科用インプラント、歯科用インプラント、獣医学用補綴材料、足場又は組織工学のマトリックスである、[1]に記載の方法。
[15]前記整形外科用インプラントは、股関節インプラント、膝関節インプラント又は肩関節インプラントである、[14]に記載の方法。
[16]前記歯科用インプラントは、アバットメントである[14]に記載の方法。
[17]インプラントにおけるバイオフィルム形成を阻害する方法であって、前記方法は、バイオフィルムの形成及び/又は細菌の増殖を防ぐために、銀のナノ粒子で被覆されたコラーゲン含有膜で前記インプラントを覆う工程を含む、方法。
[18]前記バイオフィルムは、細菌、真菌又は原生動物のバイオフィルムである、[17]に記載の方法。
[19]前記インプラントは、整形外科用インプラント、歯科用インプラント、足場又は組織工学のマトリックスである、[17]に記載の方法。
[20]医療機器又はインプラントにおける微生物のコロニー形成を阻害する方法であって、前記方法は、微生物のコロニー形成を防ぐために、銀のナノ粒子で被覆されたコラーゲン含有膜で前記機器又はインプラントを覆うことを含む、方法。
[21]銀のナノ粒子で被覆されたコラーゲン含有医療機器を含む包装物であって、前記銀のナノ粒子は超音波処理によって適用されており、前記機器は気密容器又は真空パックされた容器に密封されている、包装物。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
【配列表】
0007434293000001.app