(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20240213BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240213BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240213BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J11/04
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2021520783
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019664
(87)【国際公開番号】W WO2020235530
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019094426
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】七島 祐
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-036081(JP,A)
【文献】特開2010-242101(JP,A)
【文献】特開2004-043732(JP,A)
【文献】特開2007-186606(JP,A)
【文献】特開2017-193624(JP,A)
【文献】国際公開第2017/065188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)
および下記式(1)
【化1】
に示されるエチレンカーボネート構造を含有するエチレンカーボネート含有モノマー(a2)を含む(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、
加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方により、フッ化物イオンを発生するフッ化物イオン発生剤(B)と
を含有す
ることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことを特徴とする請求項
1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記フッ化物イオン発生剤(B)は、フッ化物イオンをアニオンとする塩であることを特徴とする請求項1
または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えることを特徴とする粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体から容易に剥離することができる粘着シート、およびそのような粘着シートの製造を可能にする粘着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体チップや積層セラミックコンデンサといった電子部品の製造工程においては、半導体ウエハやセラミックグリーンシート積層体といった加工対象を仮固定するために粘着シートが用いられることがある。このような製造工程においては、例えば、半導体ウエハやセラミックグリーンシート積層体等の被着体を粘着シートに固定した状態で、これらを所定の大きさに切断し、その後得られた切断片を粘着シートから分離することが行われている。
【0003】
ここで、上述した粘着シートとしては、所望のタイミングで粘着シートと被着体との密着性を低下させることができるものが使用される。このような粘着シートによれば、切断片を得た後に、粘着シートと被着体との密着性を低下させることで、粘着シートから切断片を容易に分離することが可能となる。
【0004】
特許文献1~4には、上述したように、所望のタイミングで被着体との密着性を低下させることができる粘着シートが開示されている。特許文献1には、紫外線及び/又は放射線により重合硬化反応する粘着剤層を備える粘着シートが開示されており、特に、当該粘着シートによれば、粘着剤層に対して紫外線や放射線を照射することで、被着体に対する密着性を低下させることができると開示されている。特許文献2には、熱膨張性微小球を含有する熱膨張性層を備える粘着シートが開示されており、特に、当該粘着シートによれば、加熱により上記熱膨張性微小球が膨張又は/及び発泡して熱膨張性層が凹凸変形し、これによって粘着シートの被着体に対する密着性を低下させることができると開示されている。特許文献3および4には、重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシル前駆基含有(メタ)アクリレートモノマーを含有するアクリル系重合体と、酸触媒または酸発生剤とを含有する粘着剤組成物が開示されている。特に、当該粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える粘着シートは、加熱や露光等の外部刺激に起因して酸触媒または酸発生剤から生じる酸の作用によって、上述したカルボキシル前駆基からガスを発生させ、当該ガスが粘着シートと被着体との界面に溜まることで粘着シートを被着体から容易に分離できると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-188757号公報
【文献】特開2000-248240号公報
【文献】特開2012-126879号公報
【文献】特許第5577461号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような電子部品の製造方法では、より工程を簡略化して、生産効率を上昇させる観点から、被着体との分離をより容易に行えることが求められている。しかしながら、特許文献1~4に開示されるような従来の粘着シートは、被着体からの分離の際に、被着体に対する密着性がある程度残存してしまうものであった。そのため、さらに容易に剥離できる粘着剤組成物が望まれている。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、被着体から容易に剥離できる粘着シート、およびそのような粘着シートの製造を可能にする粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第一に本発明は、重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を含む(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方により、フッ化物イオンを発生するフッ化物イオン発生剤(B)とを含有するとともに、下記式(1)
【化1】
に示されるエチレンカーボネート構造を含むことを特徴とする粘着剤組成物を提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)に係る粘着剤組成物を用いて製造された粘着シートでは、加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方によってフッ化物イオン発生剤(B)からフッ化物イオンが放出される。そして、当該フッ化物イオンの作用により、エチレンカーボネート構造が分解されて二酸化炭素ガスが発生し、当該二酸化炭素ガスの作用により、被着体から粘着シートを非常に容易に剥離することが可能となる。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、前記エチレンカーボネート構造を含有するエチレンカーボネート含有モノマー(a2)を含むことが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1)において、前記粘着剤組成物は、前記エチレンカーボネート構造を含有する、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)以外の成分を含有することが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)において、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)において、前記フッ化物イオン発生剤(B)は、フッ化物イオンをアニオンとする塩であることが好ましい(発明5)。
【0014】
第2に本発明は、前記粘着剤組成物(発明1~5)から形成された粘着剤層を備えることを特徴とする粘着シートを提供する(発明6)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る粘着シートは、被着体から容易に剥離することができる。また、本発明に係る粘着剤組成物によれば、そのような粘着シートを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る粘着シートの試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着剤組成物〕
本実施形態に係る粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、フッ化物イオン発生剤(B)とを含有するとともに、
下記式(1)
【化2】
に示されるエチレンカーボネート構造(以下、単に「エチレンカーボネート構造」という場合がある。)を含む。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。さらに、「共重合体」には「重合体」の概念も含まれるものとする。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を含む。本実施形態に係る粘着剤組成物が上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を含有することにより、当該粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える粘着シートは、所定の粘着力を発揮するものとなる。
【0019】
上記フッ化物イオン発生剤(B)は、加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方により、フッ化物イオン(F-)を発生するものである。本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える粘着シートを使用する場合、当該粘着シート上に貼付された被着体を分離する際に、粘着剤層に対して加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方の処理を行う。これにより、粘着剤層内において、上述したフッ化物イオン発生剤(B)からフッ化物イオンが発生する。発生したフッ化物イオンは、上述したエチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それによりエチレンカーボネート構造が分解されて、二酸化炭素が脱離する。このようにして生じた二酸化炭素は、ガスとして粘着剤層と被着体との界面に溜まり、これにより、粘着シートと被着体とが引き離されることとなる。その結果、粘着シートを被着体から引き剥がすような物理的な力を印加する必要なく、粘着シートを被着体から非常に容易に剥離することができる。そして、このような剥離は、上述した通り、加熱や活性エネルギー線の照射といった処理をきっかけに生じるものであるため、所望のタイミングで容易に生じさせることができる。
【0020】
なお、エチレンカーボネート構造は、本実施形態に係る粘着剤組成物に含まれている限り、その形態は特に限定されない。すなわち、エチレンカーボネート構造が、如何なる成分の一部として含まれているかは限定されず、例えば、後述する通り、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の側鎖としてエチレンカーボネート構造が含まれていてもよく、または、エチレンカーボネート構造を含有する、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)以外の成分(以下、「エチレンカーボネート含有成分」という場合がある。)の一部として含まれていてもよい。
【0021】
1.(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を含む限り、特に制限されない。
【0022】
アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、重合体を構成するモノマーとして、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を含有することで、得られる粘着剤が所望の粘着性を発現することができる。この観点から、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、アルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを使用することが好ましく、特にn-ブチル(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、特にn-ブチルアクリレートを使用することが好ましい。なお、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を、60質量%以上含有することが好ましく、特に70質量%以上含有することが好ましく、さらには80質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を、99.9質量%以下で含有することが好ましく、特に99.5質量%以下で含有することが好ましく、さらには99.0質量%以下で含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量が上述した範囲であることで、得られる粘着剤層が所望の初期粘着力を発揮し易いものとなる。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、エチレンカーボネート構造を含有するエチレンカーボネート含有モノマー(a2)を含んでもよい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、当該エチレンカーボネート含有モノマー(a2)から構成されたものであることで、本実施形態に係る粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の側鎖としてエチレンカーボネート構造を含むものとなる。エチレンカーボネート含有モノマー(a2)は、一般的に重合速度が速く、そのため、得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該モノマーに由来する単位が集中したブロック様の部分が形成されたものとなり易い。それにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、二酸化炭素ガスを効果的に発生し易いものとなる。
【0025】
エチレンカーボネート含有モノマー(a2)としては、エチレンカーボネート構造を含むとともに、上述したアルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)との間で重合反応を行うことができるものである限り特に限定されない。
【0026】
エチレンカーボネート含有モノマー(a2)の好ましい例としては、エチレンカーボネート構造を有する有機基と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。このような、(メタ)アクリル酸エステルの例としては、下記式(2)
【化3】
で示されるアクリル酸エステル、または下記式(3)
【化4】
で示されるメタクリル酸エステルが挙げられる。なお、式(2)および式(3)のいずれにおいても、nは0以上の整数を表す。上記式(2)および式(3)で表される(メタ)アクリル酸エステルの中でも、良好に二酸化炭素ガスを放出し易いという観点から、n=1である(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に式(2)においてn=1であるアクリル酸エステルが好ましい。なお、エチレンカーボネート含有モノマー(a2)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、上述したエチレンカーボネート含有モノマー(a2)を含む場合には、当該エチレンカーボネート含有モノマー(a2)を、10質量%以上含有することが好ましく、特に20質量%以上含有することが好ましく、さらには30質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、上述したエチレンカーボネート含有モノマー(a2)を含む場合には、当該エチレンカーボネート含有モノマー(a2)を、70質量%以下で含有することが好ましく、特に60質量%以下で含有することが好ましく、さらには50質量%以下で含有することが好ましい。エチレンカーボネート含有モノマー(a2)の含有量が10質量%以上であることで、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層において、フッ化物イオン発生剤(B)から生じるフッ化物イオンの作用を受けて、二酸化炭素ガスが良好に発生するものとなり、当該粘着剤層を備える粘着シートの被着体からの剥離をより容易に行うことが可能となる。また、エチレンカーボネート含有モノマー(a2)の含有量が70質量%以下であることで、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量を十分に確保し易いものとなり、上述した粘着シートにおいて所望の粘着性能を達成し易くなる。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことも好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、重合体を構成するモノマー単位としてヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことで、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が側鎖としてヒドロキシ基を含有するものとなる。ここで、本実施形態における粘着剤組成物が、後述する架橋剤(C)(特にポリイソシアネート系化合物)を含有する場合には、上述のヒドロキシ基が当該架橋剤(C)との反応点として機能し、良好に架橋した粘着剤を得ることが容易となる。
【0029】
ヒドロキシ基含有モノマー(a3)の好ましい例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシへプチル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、上述した架橋剤(C)との反応性に優れる観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、特に2-ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を、1質量%以上含有することが好ましく、特に3質量%以上含有することが好ましく、さらには5質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を、20質量%以下で含有することが好ましく、特に15質量%以下で含有することが好ましく、さらには10質量%以下で含有することが好ましい。ヒドロキシ基含有モノマー(a3)の含有量が1質量%以上であることで、上述したような架橋剤(C)との反応をより良好に生じさせることが可能となる。また、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)の含有量が20質量%以下であることで、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量を十分に確保し易いものとなり、上述した粘着シートにおいて所望の粘着力を達成し易くなる。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、所望により、当該共重合体を構成するモノマー単位として、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、エチレンカーボネート含有モノマー(a2)およびヒドロキシ基含有モノマー(a3)以外の他のモノマーを含有してもよい。
【0032】
そのような他のモノマーの例としては、カルボキシ基、アミノ基、アジリジニル基といった架橋剤との反応が可能な反応基を有するモノマーが挙げられる。特に、カルボキシ基を含有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。また、アミノ基を含有するモノマーとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、n-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
上述した他のモノマーの更なる例としては、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル;フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の非架橋性のアクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル;スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、上述した各モノマーを常法によって共重合することにより得ることができる。例えば、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、水溶液重合法などにより重合して製造することができる。中でも、重合時の安定性および使用時の取り扱い易さの観点から、有機溶媒中で行う溶液重合法で製造するのが好ましい。
【0035】
例えば、有機溶媒中にモノマー成分の混合物を溶解した後、従来公知のアゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミノジプロパン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ系重合開始剤またはベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系重合開始剤を添加してラジカル重合させることにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を製造することができる。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の質量平均分子量は、5万以上であることが好ましく、特に8万以上であることが好ましく、さらには10万以上であることが好ましい。また、当該質量平均分子量は、200万以下であることが好ましく、特に170万以下であることが好ましく、さらには150万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の質量平均分子量が上記範囲であることで、所望の初期粘着力を有する粘着剤層を形成し易いものとなる。なお、本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0037】
なお、本実施形態に係る粘着剤組成物は、以上説明した(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を1種含有するものであってもよく、または2種以上含有するものであってもよい。また、本実施形態に係る粘着剤組成物は、以上説明した(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)とともに、別の(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有するものであってもよい。
【0038】
2.フッ化物イオン発生剤(B)
フッ化物イオン発生剤(B)としては、加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方によりフッ化物イオン(F-)を発生し、当該フッ化物イオンによって、本実施形態に係る粘着剤組成物が含有するエチレンカーボネート構造から二酸化炭素ガスを十分に放出させることが可能である限り、特に限定されない。
【0039】
フッ化物イオン発生剤(B)の好ましい例としては、フッ化物イオンをアニオンとする塩が挙げられ、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)、フッ化テトラメチルアンモニウムといった第4級アルキルアンモニウムフッ化物;フッ酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムといったフッ化アルカリ金属塩;フッ化水素酸モノエチルアミン、トリエチルアミン三フッ化水素酸塩といったアミンのフッ化水素酸塩;ピリジンフッ化水素酸、フッ化アンモニウム、H2SiF6、HBF4、HPF6が挙げられ、これらの中でも、粘着シートの所望の性能を確保しながらも、良好にフッ化物イオンを放出し易いという観点から、第4級アルキルアンモニウムフッ化物を使用することが好ましく、特にフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)を使用することが好ましい。
【0040】
なお、フッ化物イオン発生剤(B)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
本実施形態に係る粘着剤組成物におけるフッ化物イオン発生剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)がエチレンカーボネート構造を有する場合、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.03質量部以上であることが好ましく、さらには0.75質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることが最も好ましい。また、当該含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、特に7質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。フッ化物イオン発生剤(B)の含有量が0.01質量部以上であることで、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層において効果的にフッ化物イオンを発生させることができる。それにより、当該粘着剤層から二酸化炭素ガスを良好に発生させることができ、その結果、当該粘着剤層を備える粘着シートの被着体からの剥離をより容易に行うことが可能となる。また、フッ化物イオン発生剤(B)の含有量が10質量部以下であることで、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて塗膜を形成する際に、良好な面状態を維持し易くなる。
【0042】
3.架橋剤(C)
本実施形態に係る粘着剤組成物は、架橋剤(C)を含むことが好ましい。粘着剤組成物が架橋剤(C)を含むことにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と架橋剤(C)との架橋反応が生じることが可能となり、本実施形態に係る粘着剤組成物から形成される粘着剤層において、三次元網目構造を良好に形成することが可能となる。これにより、所望の粘着力を有する粘着剤層を形成することが容易となる。
【0043】
架橋剤(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)との間で架橋反応を生じることができるものである限り、特に限定されず、ポリイソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物等のポリイミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、金属アルコキシド、金属塩等が挙げられる。これらの中でも、架橋反応を制御し易いことなどの理由により、ポリイソシアネート系化合物またはエポキシ系化合物であることが好まく、特にポリイソシアネート系化合物であることが好ましい。
【0044】
ポリイソシアネート系化合物は、1分子当たりイソシアネート基を2個以上有する化合物である。具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;など、およびそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0045】
エポキシ系化合物としては、例えば、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等が挙げられる。
【0046】
本実施形態に係る粘着剤組成物が架橋剤(C)を含有する場合、当該架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには0.15質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、1質量部以下であることが好ましく、特に0.9質量部以下であることが好ましく、さらには0.8質量部以下であることが好ましい。架橋剤(C)の含有量が上述した範囲であることで、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と架橋剤(C)との架橋反応が適度に生じ、それにより、所望の粘着力を有する粘着剤層を形成することが容易となる。
【0047】
4.エチレンカーボネート含有成分
本実施形態に係る粘着剤組成物は、エチレンカーボネート構造を含有する、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)以外の成分(エチレンカーボネート含有成分)を含有してもよい。特に、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)がエチレンカーボネート構造を含有しないものである場合、本実施形態に係る粘着剤組成物は、エチレンカーボネート含有成分を含有するものとなる。
【0048】
エチレンカーボネート含有成分は、エチレンカーボネート構造を有するものである限り特に限定されず、例えば、エチレンカーボネート、前述したヒドロキシ基含有モノマー(a3)単体、当該ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を、共重合体を構成するモノマー単位として含むオリゴマー等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る粘着剤組成物がエチレンカーボネート含有成分を含有する場合、当該エチレンカーボネート含有成分の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、3質量部以上であることが好ましく、特に5質量部以上であることが好ましく、さらには10質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、70質量部以下であることが好ましく、特に60質量部以下であることが好ましく、さらには50質量部以下であることが好ましい。エチレンカーボネート含有成分の含有量が3質量部以上であることで、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層において、フッ化物イオン発生剤(B)から生じるフッ化物イオンの作用を受けて、二酸化炭素ガスが良好に発生するものとなり、当該粘着剤層を備える粘着シートの被着体からの剥離をより容易に行うことが可能となる。また、エチレンカーボネート含有成分の含有量が70質量部以下であることで、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて塗膜を形成する際に、良好な面状態を維持し易くなる。
【0050】
5.その他の成分
本実施形態に係る粘着剤組成物は、上記の成分に加えて、染料や顔料等の着色材料、難燃剤、フィラー、可塑剤、帯電防止剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0051】
6.粘着剤組成物の製造方法
本実施形態に係る粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、フッ化物イオン発生剤(B)と、所望により、架橋剤(C)と、エチレンカーボネート含有成分と、添加剤とを混合することで製造することができる。当該混合は、溶剤中で行ってもよく、この場合、粘着剤組成物の塗布液を得ることができる。
【0052】
上記溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0053】
このようにして調製された塗布液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物の濃度が10質量%以上、60質量%以下となるように希釈する。なお、塗布液を得るに際して、溶剤等の添加は必要ではなく、粘着性組成物がコーティング可能な粘度等であれば、溶剤を添加しなくてもよい。
【0054】
〔粘着シート〕
本実施形態に係る粘着シートは、本実施形態に係る粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えたものである。本実施形態に係る粘着シートは、当該粘着剤層の片面側に積層された基材を備える片面粘着シートであってもよく、当該粘着剤層が基材の両面にそれぞれ積層されてなる基材付き両面粘着シートであってもよく、または、基材を備えていない基材無し両面粘着シートであってもよい。基材付き両面粘着シートの場合は、片方の粘着剤層のみが本実施形態に係る粘着剤組成物から形成されていてもよいし、両方の粘着剤層が本実施形態に係る粘着剤組成物から形成されたものであってもよい。本実施形態に係る粘着シートが基材を備えることで、二酸化炭素ガスが封じ込められ、より剥離性能が向上するものとなる。また、本実施形態に係る粘着シートは、粘着剤層を被着体に貼付するまでの間、粘着剤層を保護する目的で、粘着剤層における被着体に貼付される面(以下「粘着面」という場合がある。)に剥離シートが積層されていてもよい。
【0055】
1.粘着シートの構成
(1)基材
本実施形態に係る粘着シートが上述した片面粘着シート、または基材付き両面粘着シートである場合、当該粘着シートを構成する基材は、粘着剤層を積層可能である限り、その構成材料は特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成される。
【0056】
そのフィルムの具体例としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリアミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。またこれらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。これらの中でも、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく用いられる。上記の基材はこれらの1種からなるフィルムでもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。
【0057】
フッ化物イオン発生剤(B)として、活性エネルギー線の照射によりフッ化物イオンを発生するものを使用する場合には、基材は、活性エネルギー線に対して透過性を有するものであることが好ましい。基材がこのような透過性を有することにより、粘着剤層に対し、基材を介して活性エネルギー線を効果的に照射することが可能となる。これにより、粘着剤層中に含有されるフッ化物イオン発生剤(B)に対して活性エネルギー線を良好に照射することができ、効果的にフッ化物イオンを発生させることができる。
【0058】
基材には、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0059】
基材においては、粘着剤層から発生する二酸化炭素ガスが基材を透過することを遮断し、それにより粘着シートと被着体との界面に二酸化炭素ガスが溜まることを促進する観点から、所望により基材の片面または両面に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、スズ等の金属を蒸着させてもよく、これらの金属箔を接着剤で貼り合わせてもよい。
【0060】
また、基材においては、その表面に設けられる層(粘着剤層等)との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、プライマー層を設けるプライマー処理、酸化法、凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記プライマー処理においてプライマー層を構成する成分としては、例えば、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアクリル系などの合成樹脂が例示され、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等が挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。一例として、プライマー処理によりプライマー層を形成した樹脂フィルムが用いられる。
【0061】
基材の厚さは、粘着シートの用途に適した厚さに適宜設定することができる。例えば、基材の厚さは、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、450μm以下であることが好ましく、特に400μm以下であることが好ましく、さらには350μm以下であることが好ましい。
【0062】
(2)粘着剤層
粘着剤層は、前述した粘着剤組成物から形成されるものである。当該粘着剤層の厚さは1μm以上であることが好ましく、特に3μm以上であることが好ましく、さらには5μm以上であることが好ましい。また、粘着剤層の厚さは200μm以下であることが好ましく、特に150μm以下であることが好ましく、さらには100μm以下であることが好ましい。粘着剤層の厚さが1μm以上であることで、被着体に対する初期粘着力が十分なものとなり、被着体をより良好に固定することが可能となるとともに、粘着剤層から二酸化炭素ガスを放出させる際には、当該二酸化炭素ガスの放出量が十分なものとなる。それにより、粘着シートと被着体との界面に二酸化炭素ガスが十分に溜まることとなり、粘着シートの被着体からの剥離を容易に行い易くなる。また、粘着剤層の厚さが200μm以下であることで、粘着剤層の加熱や、粘着剤層に対する活性エネルギー線の照射が行い易くなり、それにより、粘着シートの被着体からの剥離を容易に行い易くなる。
【0063】
(3)剥離シート
本実施形態に係る粘着シートが剥離シートを備えるものである場合、当該剥離シートとしては、粘着剤層から剥離シートを良好に剥離できるものである限り限定されない。当該剥離シートの例としては、グラシン紙、コート紙、上質紙等の紙基材、これらの紙基材にポリエチレン等の樹脂をラミネートしたラミネート紙、またはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルムが挙げられる。これらの剥離面(粘着剤層と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等の剥離剤が挙げられる。
【0064】
剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20μm以上、250μm以下である。
【0065】
2.粘着シートの物性
本実施形態に係る粘着シートの初期粘着力(加熱および活性エネルギー線の照射を行う前の粘着力)は、200mN/25mm以上であることが好ましく、特に300mN/25mm以上であることが好ましく、さらには500mN/25mm以上であることが好ましい。また、当該初期粘着力は、10000mN/25mm以下であることが好ましく、特に8000mN/25mm以下であることが好ましく、さらには5000mN/25mm以下であることが好ましい。上記粘着力が200mN/25mm以上であることで、被着体に対して粘着シートが良好に密着するものとなる。また、上記粘着力が10000mN/25mm以下であることで、加熱または活性エネルギー線の照射を行った後における粘着力を十分に低下させ易くなる。なお、上記初期粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2000に準じた180°引き剥がし法により測定した粘着力をいい、詳細な測定方法は後述する実施例に示す通りである。
【0066】
本実施形態に係る粘着シートにおける、加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方を行った後の粘着力は、200mN/25mm未満であることが好ましく、特に100mN/25mm以下であることが好ましく、さらには0mN/25mmであることが好ましい。本実施形態に係る粘着シートでは、加熱および活性エネルギー線の照射の少なくとも一方に起因して、粘着シートと被着体との界面に溜まる二酸化炭素ガスにより、粘着シートが被着体から実質的に引き離される。これにより、粘着シートの粘着力を上述の通り良好に低下させることが可能となる。なお、上記初期粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2000に準じた180°引き剥がし法により測定した粘着力をいい、詳細な測定方法は後述する実施例に示す通りである。
【0067】
3.粘着シートの製造方法
本実施形態に係る粘着シートの製造方法は特に限定されず、従来の粘着シートと同様に製造することができる。
【0068】
例えば、粘着剤層を構成する粘着剤組成物、および所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗布液を調製し、剥離シートの剥離面上に、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター等によりその塗布液を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層を形成することができる。
【0069】
このように得られた粘着剤層と剥離シートとの積層体は、そのままの状態で、または、当該積層体における剥離剤層側の面に他の剥離シートをさらに積層した状態で、基材無し両面粘着シートとすることができる。
【0070】
また、片面粘着シートを製造する場合には、上述のように得られた粘着剤層と剥離シートとの積層体における粘着剤層側の面を、基材の片面側に貼付することで、基材と粘着剤層と剥離シートとを備える片面粘着シートとすることができる。
【0071】
片面粘着シートの別の製造方法としては、上述した塗布液を基材の片面側に塗布し、得られた塗膜を乾燥させることで、基材と粘着剤層とを備える粘着シートを製造してもよい。
【0072】
さらに、基材付き両面粘着シートを製造する場合には、上述のように得られた粘着剤層と剥離シートとの積層体を2枚用意し、一の積層体における粘着剤層側の面を基材の一方の面に積層するとともに、他の積層体における粘着剤層側の面を上記基材の他方の面に積層することで、一の剥離シートと一の粘着剤層と基材と他の粘着剤層と他の剥離シートとが順に積層されてなる基材付き両面粘着シートを得ることができる。
【0073】
基材付き両面粘着シートの別の製造方法としては、上述した塗布液を基材の両面側にそれぞれ塗布し、得られた塗膜をそれぞれ乾燥させることで、一の粘着剤層と基材と他の粘着剤層とを備える粘着シートを製造してもよい。
【0074】
なお、粘着シートの製造のために使用した剥離シートは、粘着シートの製造後に剥離してもよいし、粘着シートを被着体に貼付するまでの間、粘着剤層を保護していてもよい。
【0075】
また、上述した塗布液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。
【0076】
なお、粘着剤組成物が架橋剤(C)を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と架橋剤(C)との間における架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成させることが好ましい。例えば、粘着剤層を形成した後に、23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行うことが好ましい。
【0077】
4.粘着シートの使用
本実施形態に係る粘着シートは、粘着剤層が前述した粘着剤組成物を用いて形成されたものであるため、所望のタイミングで粘着剤層の加熱または粘着剤層に対する活性エネルギー線の照射を行うことで、粘着シートを被着体から非常に容易に剥離することができる。そのため、本実施形態に係る粘着シートは、被着体に貼付した後に、当該被着体を粘着シートから分離することを行う用途に好適に使用することができる。
【0078】
例えば、本実施形態に係る粘着シートは、半導体加工のために使用することが好ましい。特に、半導体ウエハや半導体パッケージのダイシングや裏面研磨に使用することが好ましい。このようなダイシングを行うと、粘着シート上には、半導体ウエハや半導体パッケージが切断されてなる微小な切断物が多数積層された状態となる。これらの切断物は、粘着シートから個々にピックアップされることとなる。ここで、本実施形態に係る粘着シートは、所望のタイミングで粘着剤層の加熱または粘着剤層に対する活性エネルギー線の照射を行うことで、被着体から非常に容易に剥離することが可能であるため、当該粘着シートを上述したダイシングに使用することで、切断物のピックアップを良好に行うことが可能となる。また、本実施形態に係る粘着シートを裏面研磨に使用する場合には、研磨されて非常に薄くなった被着体に与える衝撃を極力抑制しながら、粘着シートを剥離することができ、被着体の割れや崩壊を効果的に抑制することができる。
【0079】
上述した加熱の手段や条件については、フッ化物イオン発生剤(B)からフッ化物イオンを十分に発生させることができ、それにより、粘着シートから被着体を容易に剥離することが可能となる限り、特に限定されない。例えば、恒温槽、熱風乾燥機、ホットプレート、近赤外線ランプ、加熱ローラー等の手段を用いて、加熱することができる。また、加熱条件としては、例えば、100℃以上、250℃以下の温度で、5秒以上、30分以下の時間加熱することが好ましい。
【0080】
上述した活性エネルギー線の照射についても、フッ化物イオン発生剤(B)からフッ化物イオンを十分に発生させることができ、それにより、粘着シートから被着体を容易に剥離することが可能となる限り、その手段や条件は特に限定されない。なお、粘着剤層に対して活性エネルギー線の照射を行う場合、照射する活性エネルギー線に対して透過性を有する部材を介して行うことが好ましい。
【0081】
上記活性エネルギー線としては、電離放射線、すなわち紫外線、電子線などが挙げられる。これらのうちでも、比較的照射設備の導入の容易な紫外線が好ましい。
【0082】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、取り扱いの容易さから波長200~380nm程度の紫外線を含む近紫外線を用いることが好ましい。紫外線の光量は、通常50mJ/cm2以上とすることが好ましく、特に100mJ/cm2以上とすることが好ましく、さらには200mJ/cm2以上とすることが好ましい。また、紫外線の光量は、通常2000mJ/cm2以下とすることが好ましく、特に1700mJ/cm2以下とすることが好ましく、さらには1400mJ/cm2以下とすることが好ましい。紫外線の照度は、通常50mW/cm2以上とすることが好ましく、特に100mW/cm2以上とすることが好ましく、さらには200mW/cm2以上とすることが好ましい。また、紫外線の照度は、通常500mW/cm2以下とすることが好ましく、特に450mW/cm2以下とすることが好ましく、さらには400mW/cm2以下とすることが好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV-LEDなどが用いられる。
【0083】
電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、通常10kV以上、1000kV以下であることが好ましい。また、照射線量は、通常0.1kGy以上、10kGy以下であることが好ましい。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0084】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0086】
〔実施例1〕
n-ブチルアクリレート70質量部と、前述した式(2)においてn=1であるアクリル酸エステル25質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート5質量部とを溶液重合法により共重合させることで、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を得た。なお、当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位としてエチレンカーボネート含有モノマー(a2)を含むものであり、すなわち、側鎖にエチレンカーボネート構造を有するものである。また、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を後述する方法で測定したところ、13.8万であった。
【0087】
得られた(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部(固形分換算;以下同じ)と、フッ化物イオン発生剤(B)としてのフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)0.03質量部とを溶媒としてのメチルエチルケトン中で混合し、固形分濃度40質量%の粘着剤組成物の塗布液を得た。
【0088】
得られた塗布液を、基材としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:50μm)の片面上に塗布し、80℃で1分間加熱することで乾燥させて、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。続いて、当該粘着剤層における基材とは反対側の面に、剥離シート(リンテック株式会社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離面を積層することで、基材、粘着剤層および剥離シートが順に積層されてなる粘着シートを得た。
【0089】
ここで、上述した質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の質量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー株式会社製,HLC-8020
・カラム :「TSK guard column HXL-L」、「TSK gel G2500HXL」、「TSK gel G2000HXL」、「TSK gel G1000HXL」(いずれも東ソー株式会社製)を順次連結したもの
・カラム温度:40℃
・展開溶媒 :テトラヒドロフラン
・流速 :1.0mL/min
・検出器 :示差屈折計
・標準試料 :ポリスチレン
【0090】
〔実施例2〕
基材として、片面にアルミニウム箔が接着剤で貼り合わされたポリエチレンテレフタレートフィルム(アジヤアルミ株式会社製,製品名「アルペット」,厚さ:75μm)を使用し、当該フィルムのアルミニウム箔面に上述した塗布液を塗布し粘着剤層を形成した以外、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0091】
〔比較例1〕
フッ化物イオン発生剤(B)を添加することなく粘着剤組成物の塗布液を作製し、当該塗布液を使用した以外、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0092】
〔比較例2〕
フッ化物イオン発生剤(B)を添加することなく粘着剤組成物の塗布液を作製し、当該塗布液を使用した以外、実施例2と同様にして粘着シートを得た。
【0093】
〔試験例1〕(粘着力の測定)
実施例1および比較例1で製造した粘着シートを裁断し、幅25mm×長さ100mmの試験片を得た。当該試験片から剥離シートを剥離し、露出した粘着面を、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、ソーダライムガラスに貼付し、同環境下に24時間静置した。これにより、粘着力測定用サンプルを得た。
【0094】
この粘着力測定用サンプルについて、JIS Z0237;2000に準じ、万能型引張試験機(株式会社オリエンテック製,製品名「TENSILON/UTM-4-100」)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°にてステンレス板から粘着シートを剥離し、そのときに測定される粘着力を加熱前の粘着力(mN/25mm)とした。結果を表1に示す。
【0095】
また、上記と同様に作製した粘着力測定用サンプルを、180℃の恒温槽に1分間投入することで加熱した。そして、上記同様の条件にて、粘着シートの粘着力を測定し、これを加熱後の粘着力(mN/25mm)とした。結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
〔試験例2〕(気泡の確認)
実施例2および比較例2で製造した粘着シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面をガラス板に貼付し、これを気泡確認用サンプルとした。当該気泡確認用サンプルを、180℃の恒温槽に1分間投入することで加熱し、当該加熱の前後において、粘着剤層とガラス板との界面における気泡の発生の有無を確認した。
【0098】
図1には、気泡確認用サンプルの加熱前後の状態を撮影した画像を示す。図示されるように、加熱前では、実施例2に係る気泡確認用サンプルおよび比較例2に係る気泡確認用サンプルのいずれにおいても、粘着剤層とガラス板との間に気泡の発生は全く確認されなかった。
【0099】
一方、加熱後では、実施例2に係る気泡確認用サンプルにおいて、粘着剤層とガラス板との間に、多数の気泡が発生していることが確認された。これに対し、比較例2に係る気泡確認用サンプルでは、加熱前と同様に、粘着剤層とガラス板との間に気泡の発生は全く確認されなかった。
【0100】
なお、実施例2の粘着シートにおける粘着剤層の上述した加熱の前後における粘着剤層について、それぞれ赤外分光法により赤外吸収スペクトルを取得して比較したところ、加熱前の赤外吸収スペクトル中においてみられたエチレンカーボネート構造に由来するピークが、加熱後の赤外吸収スペクトル中では消失していることが確認された。なお、上述したピークがエチレンカーボネート構造に由来するものであることは、比較例2の粘着シートについて、加熱後に同様に赤外分光法を行って得た赤外吸収スペクトルにおいて当該ピークが存在していることからも確認されたものである。
【0101】
試験例1の結果(表1)から分かるように、実施例で得られた粘着シートは、加熱によって粘着力が消失し、非常に簡単に剥離することが可能であった。また、試験例2の結果から分かるように、実施例で得られた粘着シートは、加熱によって粘着剤層から二酸化炭素ガスが発生し、当該二酸化炭素ガスが被着体と粘着シートとの界面に溜まり、被着体と粘着シートとを引き離すように作用した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る粘着シートは、被着体に貼付した後に、当該被着体が粘着シートから剥離される用途に好適に使用することができる。