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特許7434327中咽頭のカンジダ症の治療及び/又は予防のためのサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】中咽頭のカンジダ症の治療及び/又は予防のためのサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20240213BHJP
   A61K 36/064 20060101ALI20240213BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240213BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240213BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240213BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C12N1/16 G
A61K36/064
A61P31/10
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/06
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021534723
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2019085473
(87)【国際公開番号】W WO2020127136
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】1873109
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【微生物の受託番号】CNCM  CNCM I-3856
(73)【特許権者】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】バレエ ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】デシェルフ アメリー
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-509651(JP,A)
【文献】特表2015-522059(JP,A)
【文献】TIMOTHY J. BREAK; ET AL,VT-1161 PROTECTS MICE AGAINST OROPHARYNGEAL CANDIDIASIS CAUSED BY FLUCONAZOLE-SUSCEPTIBLE 以下備考,JOURNAL OF ANTIMICROBIAL CHEMOTHERAPY,英国,2017年,VOL:73, NR:1,PAGE(S):151-155,https://academic.oup.com/jac/article-pdf/73/1/151/24332359/dkx352.pdf,AND -RESISTANT CANDIDA ALBICANS
【文献】Jundishapur J. Microbiol.,2018年02月,Vol.11, No.3,e59891
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
A61K 36/00-36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中咽頭のカンジダ症の予防及び/又は治療用医薬を製造するための、2007年10月17日に番号I-3856でCNCMに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の使用であって、前記サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株が前記医薬中に存在する唯一のプロバイオティクス剤である、前記使用
【請求項2】
前記酵母菌株が生の形態又は不活性の形態にあることを特徴とする請求項1に記載の使
【請求項3】
前記酵母菌株が乾燥酵母の形態にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の使
【請求項4】
乾燥酵母の形態にある前記酵母菌株が活性乾燥酵母の形態にあることを特徴とする請求項3に記載の使
【請求項5】
前記酵母菌株が分画された形態にあることを特徴とする請求項1に記載の使
【請求項6】
前記分画された形態が、前記酵母菌株の細胞壁、前記酵母菌株の壁のβ-グルカン、前記酵母菌株の壁マンノプロテイン、前記酵母菌株の抽出物、及びそれらの任意の組み合わせから選択されることを特徴とする請求項5に記載の使
【請求項7】
前記中咽頭のカンジダ症が医学的治療の副作用であること、又は前記中咽頭のカンジダ症が免疫不全状態の患者において存在するか、若しくは発症しやすいことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記中咽頭のカンジダ症が乳児又は高齢者に存在することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
中咽頭のカンジダ症の患者における食道、胃又は小腸へのカンジダ菌による感染の広がりを予防又は阻害するための、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
中咽頭のカンジダ症の予防及び/又は治療において使用するための医薬組成物であって、有効量のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856と、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物であって、前記サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株が前記医薬組成物中に存在する唯一のプロバイオティクス剤である、前記医薬組成物。
【請求項11】
前記酵母菌株が生の形態又は不活性の形態にあることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記酵母菌株が乾燥酵母の形態にあることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
乾燥酵母の形態にある前記酵母菌株が活性乾燥酵母の形態にあることを特徴とする請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記酵母菌株が分画された形態にあることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記分画された形態が、前記酵母菌株の細胞壁、前記酵母菌株の壁のβ-グルカン、前記酵母菌株の壁マンノプロテイン、前記酵母菌株の抽出物、及びそれらの任意の組み合わせから選択されることを特徴とする請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記医薬組成物が局所投与又は経口経路による投与を意図したものであることを特徴とする請求項10から請求項15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物が、鎮静活性、抗刺激活性、鎮痛活性、抗炎症活性、創傷治癒活性、抗生物活性、解熱活性、又は抗真菌活性を有する少なくとも1種の追加の医薬活性成分をさらに含むことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物が、練り歯磨き、洗口剤、口腔用スプレー、クリーム若しくは口腔用ゲル、口腔内分散可能なストリップ、パスティーユ、口腔内に直接散布してもよい粉末、口腔内分散可能なスティック、水で希釈するスティック、又は押しボタン式のストッパーを備えたバイアルの形態にあることを特徴とする請求項10から請求項17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記中咽頭のカンジダ症が医学的治療の副作用であること、又は前記中咽頭のカンジダ症が免疫不全状態の患者において存在するか、若しくは発症しやすいことを特徴とする請求項10から請求項18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記中咽頭のカンジダ症が乳児又は高齢者に存在することを特徴とする請求項10から請求項18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
中咽頭のカンジダ症の患者における食道、胃又は小腸へのカンジダ菌による感染の広がり防又は阻害するための請求項10から請求項18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
親出願
本特許出願は、2018年12月17日に出願されたフランス特許出願番号FR18 73107の優先権を主張する。このフランス特許出願の内容は、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、カンジダ菌による中咽頭感染症の分野に関する。本発明は、より詳細には、口腔及び中咽頭のカンジダ症の治療並びに/又は予防に有用なサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae、出芽酵母、パン酵母)の特定の株に関する。
【背景技術】
【0003】
中咽頭のカンジダ症は、非常に一般的な粘膜感染症であり、ほとんどの場合、真菌であるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)によって引き起こされるが、カンジダ・グラブラタ(C.glabrata)、カンジダ・プソイドトロピカリス(C.pseudotropicalis)、カンジダ・クルセイ(C.krusei)、カンジダ・パラクルセイ(C.parakrusei)及びカンジダ・ギリエルモンディ(C.guillermondii)等の他の種もこの真菌症の原因となる場合がある。カンジダ・アルビカンスは、健康な対象の口腔細菌叢にわずかにコロニーを作り、感染を引き起こすことはない。しかしながら、この菌が増殖するとカンジダ症を引き起こし、カンジダ症は、発赤、さらには潰瘍を伴う口腔粘膜の刺激として現れる。舌や口蓋、時には中咽頭にも白っぽい多少なりともねばねばした斑点が見られることがある。口腔又は中咽頭のカンジダ症は、会話、食事、及び生活の質に支障をきたす可能性がある。
【0004】
中咽頭のカンジダ症は、免疫系が未熟な18ヵ月未満の小児や、唾液の分泌量が少なくドライマウスになりやすい高齢者、唾液分泌が始まる前の生後1ヵ月から2ヵ月までの乳児等に多く見られる。また、中咽頭のカンジダ症の発生を促進する要因は数多くあり、例えば、局所的な要因(歯列矯正器具や補綴物を長期間装着している場合等)、免疫不全状態(シェーグレン症候群、HIV感染、コントロールされていない糖尿病、特定の内分泌疾患、ビタミンB欠乏症等の栄養失調や吸収不良等に関連する)等の全身的な要因、薬剤による副作用(広域抗生物質を用いた治療、コルチコステロイドの全身的又は局所的な使用、神経弛緩薬の投与、免疫抑制剤による治療、化学療法又は放射線療法、プロトンポンプ阻害剤(PPI)又はH2抗ヒスタミン薬を用いた治療等)などである。
【0005】
中咽頭のカンジダ症の患者のために利用できる治療方法は、主に抗真菌薬の使用に限られている。ほとんどの患者には、トローチ、経口懸濁液又は経口ゲルの形で、(口の中の)局所治療が好まれる。しかしながら、場合によっては、特に免疫力の低下した人や、局所治療が奏功しなかった場合、再発した場合、又は古い感染症の場合には、経口経路又は注射により投与される全身治療が必要となる場合がある。
【0006】
現在、中咽頭のカンジダ症の治療に主に用いられている抗真菌薬は、ポリエンマクロライド系(ニスタチン、アンホテリシンB)及び/又はアゾール系(ミコナゾール、フルコナゾール)である。これらの薬剤は一般的に忍容性が高いものの、重要な欠点を伴う。アンホテリシンB等のポリエン系は、ほとんどのカンジダ分離株に有効であるが、腎毒性が強く、低カリウム血薬や腎毒性薬等の他の薬剤との併用は避ける必要がある。また、アゾール系抗真菌剤は、肝毒性(細胞融解、胆汁うっ滞)や消化器系障害(悪心(吐き気)、嘔吐、下痢)等の副作用が共通している。トリアゾール系抗真菌剤(フルコナゾール等)は、催奇形性があるため、妊娠中は禁忌とされている。さらに、上記アゾール系は、程度の差こそあれ、すべてCYP450のアイソザイムに対する酵素阻害剤であるため、多くの薬物相互作用を引き起こす。さらに、アゾール系薬剤自体も代謝現象の対象となるため、薬物相互作用の対象となる。
【0007】
最後に、これらの抗真菌剤の使用に関連する主要な問題は、カンジダ・アルビカンスの耐性株の出現の増加である(Kellyら、Lancet、1996、348:1523-1524)。さらに、利用可能な抗真菌剤は、真菌膜の「エルゴステロール」部分(ポリエン系の場合)、又はこのエルゴステロールの生合成に関与する酵素(アゾール系の場合)のいずれかに向けられているため、交差耐性のリスクもある(Kellyら、FEBS Lett.、1997、400:80-82;Whiteら、Clin.Microbiol.Rev.、1998、11:382-402)。
【0008】
それゆえ、口腔又は中咽頭のカンジダ症の治療及び/又は予防のための新しい戦略が依然として必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Kellyら、Lancet、1996、348:1523-1524
【文献】Kellyら、FEBS Lett.、1997、400:80-82
【文献】Whiteら、Clin.Microbiol.Rev.、1998、11:382-402
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、2007年10月17日にCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes(国立微生物培養コレクション)、25 rue du Docteur Roux、75724 Paris Cedex 15、France(ドクター・ルー通り25番地、75724 パリ Cedex 15、フランス)に番号I-3856で寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株が、中咽頭のカンジダ症のマウスモデル動物の口腔内におけるカンジダ・アルビカンスの負担を効果的に減少させ、その結果、食道、胃及び小腸への感染の広がりを防ぐことができることを見出した。口腔内でのカンジダ・アルビカンスの真菌増殖の抑制は、マウスの処置において使用するサッカロマイセス・セレビシエ酵母I-3856が、生きた酵母の形であっても、不活化された酵母の形であっても認められた。口腔内でのカンジダ・アルビカンスの増殖の抑制は、サッカロマイセス・セレビシエ酵母I-3856の細胞壁をマウスの処置に使用した場合にも認められた。生の形態のサッカロマイセス・セレビシエI-3856の有益な効果は、カンジダ・アルビカンスの強い凝集による機械的効果と、カンジダ・アルビカンスの病原性因子の調節による生物学的効果(アドヘシンの阻害や菌糸の移行の阻害等であり、これらは真菌細胞が口腔の上皮細胞に接着するのを妨げる)を組み合わせたものである。一方、不活化された酵母及び細胞壁の形でのサッカロマイセス・セレビシエI-3856の効果は、主にカンジダ・アルビカンスの強い凝集による機械的効果のみに起因し、これは真菌細胞が口腔の上皮細胞に接着するのを妨げるものである。これらの効果はすべて、カンジダ・アルビカンスの排除の加速を誘発し、これが弱い炎症反応、あるいは炎症反応の不在にさえもつながる。
【0011】
それゆえ、本発明は、中咽頭のカンジダ症の予防及び/又は治療において使用するための、2007年10月17日に番号I-3856でCNCMに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株に関する。
【0012】
特定の実施形態では、中咽頭のカンジダ症の予防方法及び/又は治療方法で使用されるサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856は、生の形態又は不活性の形態にある。
【0013】
特定の実施形態では、中咽頭のカンジダ症の予防方法及び/又は治療方法で使用されるサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856は、乾燥酵母、特に活性乾燥酵母の形態にある。
【0014】
特定の実施形態では、中咽頭のカンジダ症の予防方法及び/又は治療方法で使用されるサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856は、分画された形態にある。この分画された形態は、上記酵母の細胞壁、上記酵母の壁β-グルカン、上記酵母の壁マンノプロテイン、上記酵母の抽出物、及びそれらの任意の組み合わせから選択されてもよい。
【0015】
本発明は、中咽頭のカンジダ症の予防及び/又は治療において使用するための医薬組成物であって、有効量のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856と、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物にも関する。当該医薬組成物中に存在するサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856は、上記で定義された任意の形態にあってもよい。
【0016】
特定の実施形態では、当該医薬組成物は、局所投与又は経口経路による投与を意図したものである。
【0017】
特定の実施形態では、当該医薬組成物は、鎮静活性、抗刺激活性、鎮痛活性、抗炎症活性、創傷治癒活性、抗生物活性、解熱活性、又は抗真菌活性を有する少なくとも1種の追加の医薬活性成分をさらに含む。
【0018】
特定の実施形態では、当該医薬組成物は、練り歯磨き、洗口剤、口腔用スプレー、口腔用クリーム若しくはゲル、口腔内分散可能なストリップ、パスティーユ(芳香錠)、口腔内に直接散布してもよい粉末、押しボタン式のストッパーを備えたバイアル、口腔内分散可能なスティック、又は水で希釈するスティックの形態にある。
【0019】
特定の実施形態では、上記で定義した任意の形態のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856、又は上記で定義した医薬組成物を用いて予防又は治療することが意図されている中咽頭のカンジダ症は、医学的治療、特に、広域抗生物質を用いた治療、コルチコステロイドの全身的又は局所的な使用、神経弛緩薬の投与、免疫抑制剤による治療、化学療法又は放射線療法、プロトンポンプ阻害剤(PPI)又はH2抗ヒスタミン薬を用いた治療の副作用である。
【0020】
他の実施形態では、中咽頭のカンジダ症は、免疫不全状態、特にシェーグレン症候群等の疾患、HIV感染症、コントロールされていない糖尿病、特定の内分泌疾患、例えばビタミンB欠乏症等の栄養失調又は吸収不良に関連する免疫不全状態の患者において存在するか、又は発症しやすい。
【0021】
特定の実施形態では、中咽頭のカンジダ症は、乳児又は高齢者に存在する。
【0022】
本発明は、中咽頭のカンジダ症の患者における食道、胃又は小腸へのカンジダ菌による感染の広がりの予防方法又は阻害方法において使用するための、上記で定義された任意の形態のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856、又は上記で定義された医薬組成物にも関する。
【0023】
本発明の特定の好ましい実施形態のより詳細な説明を以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】BLIカンジダ・アルビカンスに感染し、異なる化合物で処置したマウスの口腔から放出された全光子束の定量化を、感染後+1日目、+3日目及び+6日目に測定したもの。結果は、3回の異なる実験における1群あたり5匹のマウスの平均値±SEMを示す。≠、p<0.05(FLU、GI、IYで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図2】BLIカンジダ・アルビカンスに感染し、異なる化合物で処置したマウスをインビボで撮影したもので、感染後+6日目に実施した。
図3】カンジダ・アルビカンスに感染し、異なる化合物で処置したマウスの舌のCFU数を、感染後+3日目及び+6日目に実施したもの。結果は、3回の異なる実験における1群あたり3匹のマウスの平均値±SEMを示す。≠、p<0.05(FLU、GI、IYで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図4】+8日目の組織学的検査。(A)は異なる化合物で処置した未感染マウスで実施し、(B)はBLIカンジダ・アルビカンスに感染し、異なる化合物で処置したマウスで実施した。
図5】BLIカンジダ・アルビカンスに感染し、異なる化合物で処置したマウスの(A)食道でのCFU数、(B)胃でのCFU数、(C)十二指腸でのCFU数を、感染後+6日目に実施したもの。結果は、3回の異なる実験における1群あたり3匹のマウスの平均値±SEMを示す。≠、p<0.05(FLU、GI又はIYで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図6A】BLIカンジダ・アルビカンスに感染し、異なる化合物で処置したマウスの食道及び胃のエキソビボ撮影を、感染後+6日目に実施したもの。結果は、3回の異なる実験における1群あたり5匹のマウスの平均値±SEMを示す。≠、p<0.05(FLU、GI又はIYで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図6B】BLIカンジダ・アルビカンスに感染し、異なる化合物で処置したマウスの食道及び胃のエキソビボ撮影を、感染後+8日目に実施したもの。結果は、3回の異なる実験における1群あたり5匹のマウスの平均値±SEMを示す。≠、p<0.05(FLU、GI又はIYで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図7】舌のCFU数。感染後+1日目、+2日目及び+3日目に10μlの生理食塩水、又はフルコナゾール(FLZ-4mg/ml)、又はIY、GI若しくはWG(いずれも100mg/ml)で処置した感染マウスの舌の真菌負荷を、舌の感染後+1日目、+3日目及び+6日目にCFUアッセイにより評価した。結果は、2回の異なる実験における4~6匹のマウスの平均値±SEMを示す。#、p<0.05(FLZ、IY、GI又はWGで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図8】中咽頭のカンジダ症時のSAP2、SAP6、ALS3及びHWP1の発現に対するIY、GI及びWGの効果。感染後+1日目、+2日目及び+3日目に、10μlの生理食塩水、又はフルコナゾール(FLZ-4mg/ml)、又はIY、GI若しくはWG(いずれも100mg/ml)で処置した感染マウスの舌のホモジネートの細胞画分において遺伝子(A)SAP2、(B)SAP6、(C)ALS3、及び(D)HWP1の発現を分析した。感染後3+日目及び+6日目に、舌ホモジネートを遠心分離した後、細胞画分を溶解し、全RNAを抽出してcDNAに逆転写した。カンジダ・アルビカンスの遺伝子SAP2、SAP6、ALS3、及びHWP1をリアルタイムPCRで検出し、cDNA量をカンジダ・アルビカンス接種物の転写産物に対する2-ΔΔCTで報告した。結果は、2回の異なる実験における4~6匹のマウスの3連の試料の平均値±SEMを示す。#、p<0.05(FLZ、IY、GI又はWGで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図9】腹腔内好中球の破壊活性。感染後+1日目、+2日目及び+3日目に10μlの生理食塩水、又はフルコナゾール(FLZ-4mg/ml)、又はIY、GI若しくはWG(いずれも100mg/ml)で処置した未感染マウス又は感染マウスの腹腔内好中球の破壊活性を、感染後+3日目及び+6日目に評価した。腹腔内好中球(1×10/ml)をカンジダ・アルビカンス(CA-6)(1×10/ml)の存在下で2時間インキュベートした。結果は、2回の異なる実験における各群からの4~6匹のマウスの平均値±SEMを示す。#、p<0.05(FLZ、IY、GI又はWGで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図10】IL-1β、TNF-α及びIL-6の産生。未感染マウス、又は感染後+1日目、+2日目及び+3日目に10μlの生理食塩水、若しくはフルコナゾール(FLZ-4mg/ml)、若しくはIY、GI若しくはWG(いずれも100mg/ml)で処置した感染マウスの舌ホモジネートの上清を、ELISAにより、感染後+1日目、+3日目、+6日目に、(A)IL-1βの存在、(B)TNF-αの存在、及び(C)IL-6の存在について試験した。結果は、2回の異なる実験における各群からの4~6匹のマウスの平均値±SEMを示す。*、p<0.05(生理食塩水で処置した感染マウス対未感染マウス)。#、p<0.05(FLZ、IY、GI又はWGで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図11】IL-17A/F、IL-22及びIL-23の産生。未感染マウス、又は感染後+1日目、+2日目及び+3日目に10μlの生理食塩水、若しくはフルコナゾール(FLZ-4mg/ml)、若しくはIY、GI若しくはWG(いずれも100mg/ml)で処置した感染マウスの舌ホモジネートの上清を、ELISAにより、感染後+1日目、+3日目及び+6日目に、(A)IL-17A/Fの存在、(B)IL-22の存在、及び(C)IL-23の存在について試験した。結果は、2回の異なる実験における各群からの4~6匹のマウスの平均値±SEMを示す。*、p<0.05(生理食塩水で処置した感染マウス対未感染マウス)。#、p<0.05(FLZ、IY、GI又はWGで処置した感染マウス対生理食塩水で処置した感染マウス)。
図12】IFN-αの産生。未感染マウス、又は感染後+1日目、+2日目及び+3日目に10μlの生理食塩水、若しくはフルコナゾール(FLZ-4mg/ml)、若しくはIY、GI若しくはWG(いずれも100mg/ml)で処置した感染マウスの舌ホモジネートの上清を、ELISAにより、感染後+1日目、+3日目及び+6日目にIFN-αの存在について試験した。結果は、2回の異なる実験における各群からの4~6匹のマウスの平均値±SEMを示す。*、p<0.05(生理食塩水で処置した感染マウス対未感染マウス)。#、p<0.05(FLZ、IY、GI又はWGを投与した感染マウス対生理食塩水を投与した感染マウス)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上述したように、本発明は、口腔内のカンジダ・アルビカンスの負担を軽減し、食道、胃、小腸等の消化器系の他の器官への感染の広がりを防ぐことができるサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株に関する。それゆえ、この菌株は、中咽頭のカンジダ症の治療及び/又は予防に有用である。
【0026】
I. サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株I-3856
表現「酵母菌株」は、酵母細胞の比較的均質な集団を表す。酵母菌株はクローンから得られ、クローンは単一の酵母細胞から得られた細胞の集団である。
【0027】
本発明に関して使用するサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株は、2007年10月17日に本出願人がCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes、ドクター・ルー通り25番地、75724 パリ Cedex 15、フランス)に番号I-3856で寄託した菌株である。
【0028】
このサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株は、本出願人によって、文書国際公開第2009/103884号パンフレットに先に記載されており、この文書には、上記サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株は、カンジダ・アルビカンスによる腸内コロニー形成によって引き起こされる炎症を含む、腸の病理、疾患若しくは障害の予防及び/又は治療に有用であると記載されており、また、文書国際公開第2014/009656号パンフレット及びCayzeele-Decherfらの論文(Med.J.Obst.Gynec.、2017、5(4):1112)にも記載されており、これらの文書には、上記サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株は、カンジダ菌の膣内増殖を制御すること、及び膣カンジダ症又は外陰部膣カンジダ症の再発を防止することに有効であると記載されている。しかしながら、中咽頭粘膜の環境は、特に膣粘膜や腸粘膜の環境とは異なるので、中咽頭粘膜に対する病原性真菌やプロバイオティクスの挙動は、膣粘膜や腸粘膜に対する挙動とは異なることに留意すべきである。
【0029】
本発明の文脈において、サッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856は、出発株の培養(又は増殖)によって得られる酵母細胞の形態にある。サッカロマイセス・セレビシエ株の培養は、任意の適切な方法で行ってよい。サッカロマイセス・セレビシエ株の培養方法は当該技術分野で公知であり、当業者は、各菌株の性質に応じて各菌株に対する培養条件を最適化する方法を知っている。酵母細胞は、例えば、参考文献「Yeast Technology」、第2版、1991年、Reed及びNagodawithana、出版社Van Nostrand Reinhold(ISBN 0-442-31892-8)に記載されているような培地で、サッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856を増殖させることによって得てもよい。
【0030】
従って、例えば、工業的規模では、本発明の文脈で使用可能なサッカロマイセス・セレビシエ酵母細胞は、以下の
サッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856を培地で数段階に分けて、最初は半嫌気性で、次に好気性(酸素を多く含む培地/雰囲気)で培養して、出発酵母細胞の増殖を得る工程と、
このようにして生成された酵母細胞を遠心分離して、酵母乾燥物を12%~25%含む液体酵母クリームを得る工程と
を含む方法によって得られてもよい。
【0031】
このようにして得られた酵母は、生きた酵母である。それゆえ、特定の実施形態において、本発明の文脈で使用されるサッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856は、生きた酵母の形態にある。「活性酵母」の同義語である「生きた酵母」という用語は、代謝的に活性である酵母細胞の集団を表す。
【0032】
本発明の文脈で使用される生きた酵母菌株I-3856は、乾燥酵母の形態にある。乾燥酵母は含水率が低いことが特徴であり、一般的には酵母乾燥物の割合が90%超、好ましくは乾燥物の割合が93%~96%である。乾燥酵母の利点の一つは、保存期間が長いことである。
【0033】
従って、サッカロマイセス・セレビシエ酵母番号I-3856の細胞の製造方法は、細胞を乾燥させて乾燥形態の酵母を得る後続工程をさらに含んでもよい。この乾燥は、例えば、冷凍乾燥(凍結乾燥)、流動床乾燥又は噴霧乾燥であってもよい。
【0034】
特定の実施形態では、乾燥した生きた酵母菌株I-3856は、活性乾燥酵母又はインスタント乾燥酵母の形態にある。
【0035】
活性乾燥酵母は、圧搾酵母又は液体酵母を、熱(低温)と機械的活性の複合作用によって脱水することによって得られてもよく、この複合作用によって、ペースト状の産物(圧搾酵母又は液体酵母)を、球状の乾燥産物に変えることが可能になる。例えば、活性乾燥酵母は、圧搾酵母又は液体酵母の押し出し及び流動床乾燥によって得られる。
【0036】
インスタント乾燥酵母は、圧搾酵母又は液体酵母を熱風の勾配の作用によって脱水することで得られてもよく、この熱風の勾配の作用によって、ペースト状の産物(圧搾酵母又は液体酵母)を細かい乾麺に変えることができる。安定した状態を保つために、インスタント乾燥酵母は、その後、酸素のない状態で梱包されている必要がある。
【0037】
他の実施形態では、本発明の文脈で使用されるサッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856は、(生きた酵母とは対照的に)不活性酵母の形態にある。本明細書中で区別なしに使用される「不活性酵母」及び「不活化酵母」という用語は、もはや生きていない酵母(従って、死滅した酵母)、すなわち代謝が不可逆的に停止した酵母を表す。
【0038】
本発明に係る不活性酵母は、任意の適切な方法で得られてもよい。当業者に周知の適切な技術には、酵母の熱処理、酵母を凍結と解凍との連続した数サイクルに供することからなる処理、放射線照射による処理、噴霧による処理、又はこれらの処理の任意の組み合わせが含まれる。不活性酵母は、一般的に乾燥形態にある。
【0039】
別の実施形態では、本発明の文脈で使用されるのは、サッカロマイセス・セレビシエ番号I-3856の細胞の誘導体又は画分であり、この誘導体又は画分は、上記酵母細胞の壁、上記酵母細胞の壁グルカン、上記酵母細胞の壁マンノプロテイン、上記酵母細胞の濾液又は抽出物、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0040】
「酵母細胞壁」及び「酵母外皮」という用語は、本明細書中では互換的に使用され、酵母細胞の不溶性画分、すなわち酵母の壁及び細胞膜を表す。
【0041】
「酵母濾液」及び「酵母抽出物」という用語は、本明細書中では互換的に使用され、酵母細胞の可溶性画分、すなわち酵母の壁及び細胞膜ではないすべてのものを表す。
【0042】
従来、酵母外皮又は酵母抽出物は、自己融解又は実質的にプロテアーゼによる酵素加水分解の工程の後に、不溶性画分から可溶性画分を分離する工程を含む方法で得られ、分離された不溶性画分は酵母外皮に相当し、可溶性画分は酵母抽出物(酵母エキス)に相当する。その後、不溶性画分及び/又は可溶性画分を乾燥させてもよい。酵母外皮を得る方法は、細胞壁の構造的多糖類、すなわちβ-グルカン及びマンナンを保存するようなものであり、このマンナンはマンノプロテインの形態にある。酵母外皮や酵母抽出物を得る方法は、当該技術分野で公知である(例えば、参考文献「Yeast Technology」、第2版、1991年、G.Reed及びT.W.Nogodawithana、出版社Van Nostrand Reinhold、New York、ISBN 0-442-31892-8を参照)。
【0043】
酵母外皮は、液体形態、乾燥形態、粘性のある形態にあってもよい。酵母外皮の乾燥物含有量が少なくとも85%である場合は、それは乾燥形態にあると考えられる。対照的に、酵母外皮の乾燥物の含有量が20重量%未満の場合は、液体形態にあると考えられる。乾燥物の含有量が20重量%から85重量%未満の場合、酵母外皮は粘性のある形態にあると考えられる。酵母外皮は、好ましくは乾燥形態で使用される。
【0044】
酵母抽出物は、乾燥形態、好ましくは微細な水溶性粉末の形態であっても、液体形態又はペーストの形態にあってもよい。酵母抽出物は、その乾燥物の含有量が少なくとも85%である場合、乾燥形態にあると考えられる。酵母抽出物の乾燥物の含有量が70重量%未満の場合は、その酵母抽出物は液体形態にあると考えられる。乾燥物の含有量が70重量%から85重量%未満の場合、酵母抽出物はペーストの形態にあると考えられる。使用される酵母抽出物は、好ましくは乾燥形態にあり、より好ましくは微細な水溶性粉末の形態にある。酵母抽出物は、主にタンパク質材料を含み、好ましくは少なくとも55%のタンパク質材料を含む。
【0045】
「壁β-グルカン」という用語は、酵母細胞の壁β-グルカンを表し、これは実質的に、主鎖のグルコース単位がβ-1,3結合で結合し、枝分かれがβ-1,6結合で結合したグルコースポリマーである。酵母のβ-グルカンは不溶性であり、低粘度である。当業者であれば、酵母細胞の壁からβ-グルカンを抽出する方法を知っている。一般的な方法は、塩基及び酸(酢酸等)で連続的に熱抽出した後、水洗操作で酵母外皮の可溶性化合物を除去し、壁β-グルカンからなる不溶性物質を回収することを含む。
【0046】
「壁マンノプロテイン」とは、酵母の多糖類、より正確には、グリコシド結合で結ばれ、タンパク質に結合した中性又は酸性の単糖類(炭素原子数5又は6)の共重合体を表す。酵母の壁では、グルカンがネットワークを形成し、その上に他のグルカン、キチン、マンノプロテインが共有結合している。マンノプロテインは、5つのマンノース残基の鎖を含むグリコシルリン酸を介してグルカンに結合している。当業者であれば、酵母細胞の壁からマンノプロテインを抽出する方法を知っている。一般的な方法は、β-グルカナーゼの調製物(例えば工業製品のGLUCANEX(商標))を用いて酵母の壁を酵素的に消化し、その後、遠心分離で加水分解物を分離し、限外濾過で精製することである。別の方法は、高温化学抽出法に基づく。
【0047】
II. 中咽頭のカンジダ症の治療及び/又は予防におけるサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株I-3856の使用
それゆえ、本発明は、中咽頭のカンジダ症の治療及び/又は予防のためのサッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856(上述のいずれかの形態にある)に関する。本発明は、対象における中咽頭のカンジダ症の治療方法及び/又は予防方法であって、有効量のサッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856をその対象に投与する工程を含む方法にも関する。本発明は、中咽頭のカンジダ症の治療及び/又は予防のための薬剤を製造するための、サッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856の使用にも関する。
【0048】
本発明の文脈において、「治療」は、以下を目的とする方法を意味する:(1)疾患若しくは臨床状態の発症を遅らせるか若しくは防止すること、(2)疾患の症状の進行、増悪若しくは悪化を遅らせるか若しくは停止すること、(3)疾患の症状を改善すること、及び/又は(4)疾患を治癒すること。治療薬は、疾患の開始の前に、防止的作用のために(その場合、「予防」と呼ばれる)投与されてもよいし、又は治療薬は、疾患の発症の後に、治療的作用のために投与されてもよい。
【0049】
本明細書中で、用語「対象」は、カンジダ菌による口腔感染の犠牲者である可能性があるが、必ずしも中咽頭のカンジダ症を有してはいない哺乳類、より具体的にはヒトを表す。「対象」という用語は、特定の年齢を表すものではなく、それゆえ、新生児(新生仔)、子供、青年、成人、高齢者を含む。また、「対象」が中咽頭のカンジダ症に罹患している(すなわち、罹患しているとすでに診断されている)場合、本明細書中で「対象」の代わりに「患者」という用語が用いられることがある。
【0050】
「中咽頭のカンジダ症」という用語は、感染しやすい宿主に発症する可能性がある、カンジダ属の真菌、特にカンジダ・アルビカンスによって引き起こされる口腔及び/又は中咽頭の病変を表す。
【0051】
中咽頭のカンジダ症にはいくつかの臨床形態がある。1つの臨床形態のみに罹患する患者もいれば、口腔粘膜のカンジダ症の複数の形態に罹患する患者もいる。これらの形態には以下のものがある。
・鵞口瘡としてより知られている偽膜性口腔カンジダ症。これは、口腔粘膜にカッテージチーズに似た粘着性のある白っぽい物質が存在することが特徴で、この斑点は、頬粘膜、口蓋、舌の背側面に特徴的に分布している。この斑点は、舌掻きや乾いたガーゼで擦ることで取り除くことができる。その後、下層の粘膜は正常に又は発赤して見える。
・紅斑性口腔カンジダ症。これは、全身に広がる明確な萎縮した紅斑又は斑点を特徴とする。このカンジダ症は、偽膜性カンジダ症よりも一般的である。
・過形成性口腔カンジダ症又は角質性カンジダ症。これは、擦っても消えない白っぽい斑点を特徴とする。
・口角口唇炎又は口角炎(口角びらん)。これは、口角部の亀裂、落屑、紅斑を特徴とする。
・正中菱形舌炎。これは、舌の背側面の正中線上、有郭乳頭の前に赤い斑点、又は赤と白の斑点があることを特徴とする。
【0052】
中咽頭のカンジダ症の診断には、しばしば非常に喚起的な臨床的外観で十分である。非典型的な臨床的外観の場合や、適切な治療にもかかわらず病変が持続する場合には、真菌学的検査による生物学的確認が必要となることがある。真菌学的検査は、病変部(白っぽい病変部、紅斑部、口角炎の溝部)を綿棒で採取することによって行われる。採取した試料を直接観察することで、病原菌の出芽や疑似フィラメント(病原型)の存在を探す。カンジダ・アルビカンスは、特定の培地上で24~48時間で増殖するため、コロニー数を定量化することで病原体を特定することができる。
【0053】
本発明に係る中咽頭のカンジダ症の治療方法及び/又は予防方法は、有効量のサッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856(上述のいずれかの形態にある)を対象に投与する工程を含む。この有効量は、1回以上の用量で投与されてもよく、医師によって決定されることが可能である。投与すべき正確な量は、年齢、体重、患者の一般的な状態、中咽頭のカンジダ症の重症度及び/又は程度等に応じて、患者ごとに異なる可能性がある。投与すべき有効量は、所望の治療効果(すなわち、中咽頭のカンジダ症の予防又は中咽頭のカンジダ症の治療)に応じても変化する可能性がある。投与すべき有効量は、例えば、局所的又は全身的の選択された投与経路に応じても変わる可能性がある。
【0054】
例えば、生きた乾燥酵母の形態の酵母I-3856の1日の投与量は、1.10~1.1011CFUの間、好ましくは1.10~5.1010CFUであってもよい。CFUという用語は、コロニー形成単位(Colony Forming Unit)を表す。
【0055】
例えば、不活性形態の酵母I-3856の1日の投与量は、1mg~10g、好ましくは100mg~5gであってもよい。
【0056】
例えば、酵母I-3856の細胞壁の1日の投与量は、0.5mg~5g、好ましくは50mg~2.5gであってもよい。
【0057】
本発明に係る治療方法は、中咽頭のカンジダ症の最初のエピソード(症状の出現)又は再発を治療するために使用されてもよい。いずれの場合も、患者は以前に通常の抗真菌剤又は抗真菌薬で治療を受けていてもよい。あるいは、酵母I-3856が患者に処方される最初の治療であってもよい。
【0058】
本発明に係る治療方法は、カンジダ菌による口腔又は中咽頭の感染症が、食道、胃及び小腸等の消化器系の別の部位に広がることを回避、低減、阻害又は予防するために使用されてもよい。
【0059】
また、本発明に係る治療方法は、カンジダ症が最初のエピソード(初発)であるか再発であるかにかかわらず、患者の中咽頭のカンジダ症を予防するためにも使用されてよい。これは、カンジダ菌による口腔粘膜のコロニー形成を促進することが知られている医学的治療を受けている患者の場合に当てはまる可能性があり、その例としては、広域抗生物質による治療、コルチコステロイドの全身的又は局所的な使用、神経弛緩薬の投与、免疫抑制剤による治療、化学療法又は放射線療法、プロトンポンプ阻害剤(PPI)又はH2抗ヒスタミン薬を用いた治療等が挙げられる。上記のことは、例えばシェーグレン症候群等の疾患、HIV感染、コントロールされていない糖尿病、特定の内分泌疾患、例えばビタミンB欠乏症等の栄養失調や吸収不良等と関連する免疫不全状態の患者にも当てはまる可能性がある。上記のことは、特定の高齢の患者についても当てはまる可能性がある。
【0060】
特定の実施形態では、本発明に係る治療薬は単独で投与される。言い換えれば、酵母I-3856は、任意の殺菌性洗口剤とは別に、投与される唯一の薬剤である。
【0061】
他の実施形態では、本発明に係る治療薬は、別の治療剤と組み合わせて投与され、例えば、局所的な抗真菌剤(例えば、吸う錠剤又は経口溶液としてのニスタチン、若しくは口腔内ゲルのアンホテリシンB若しくはミコナゾール)又は全身的な抗真菌剤(例えば、錠剤形態のフルコナゾール若しくはケトコナゾール若しくはイトラコナゾール)等の通常の抗真菌剤の投与と組み合わせて投与される。
【0062】
III. 医薬組成物
上述したように、サッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856は、そのまま(上述の様々な形態の1つで)投与されてもよいし、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤と組み合わせた医薬製剤又は医薬組成物の形態で投与されてもよい。従って、より具体的には、本発明に係る医薬組成物は、有効量のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株番号I-3856と、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤とを含む。本発明に係る医薬組成物は、処方箋が必要な医薬製剤又は店頭で入手可能な医薬製剤として分類することができる。
【0063】
本発明の文脈において、「生理学的に許容できる賦形剤」は、医薬活性成分(本発明では、サッカロマイセス・セレビシエ株)の生物学的活性の有効性を妨げず、かつ、投与される濃度において、患者又は対象に対して過度に毒性を示さない任意の媒体又は添加剤を意味する。生理学的に許容できる賦形剤は、哺乳動物、特にヒトへの投与に適した賦形剤であってよい。
【0064】
本発明に係る医薬組成物は、所望の治療効果/予防効果を得るために有効な、投与量と投与経路との任意の組み合わせを用いて投与されてもよい。既に述べたように、投与すべき正確な量は、年齢、体重、患者の一般的な状態、カンジダ菌感染の重症度及び程度等に応じて、患者ごとに異なる可能性がある。投与経路(局所的又は全身的)は、カンジダ菌感染の重症度及び程度に応じて、並びに/又は患者の年齢及び/若しくは健康状態に応じて選択されてもよい。
【0065】
一例として、本発明は、1.10CFU~1.1011CFUの量、好ましくは1.10CFU~5.1010CFUの量の生きた乾燥酵母の形態の酵母I-3856を日常的に使用するための上記で定義された医薬組成物に関し、有効な1日の投与量は1回、2回又は3回に分けて投与されてもよい。
【0066】
一例として、本発明は、1mg~10g、好ましくは100mg~5gの量の不活性形態の酵母I-3856を日常的に使用するための上記で定義された医薬組成物に関し、有効な1日の投与量は1回、2回又は3回に分けて投与されてもよい。
【0067】
一例として、本発明は、0.5mg~5g、好ましくは50mg~2.5gの量の酵母I-3856の細胞壁を日常的に使用するための上記で定義された医薬組成物に関し、1日の投与量は1回、2回又は3回に分けて投与されてもよい。
【0068】
本発明に係る医薬組成物の製剤は、組成物の使用が意図される投与経路及び投与量に応じて変わってもよい。本発明の医薬組成物は、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤を用いて製剤化された後、哺乳動物、特にヒトへの投与に適した任意の形態、例えば、トローチ、錠剤、糖衣錠、カプセル、シロップビーズ、乳剤、軟膏、ペースト、ゲル、粉末、サシェ、注射液等の形態にあってもよい。当業者であれば、所定の種類の製剤を調製するのに最も適したビヒクル及び賦形剤を選択することができる。本発明に係る組成物は、防腐剤、甘味料、香料、増粘剤、着色剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0069】
特定の実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、単一の活性剤である酵母I-3856(又は細胞壁)のみを含有する。この医薬組成物は、特に、別のプロバイオティクス、又はプロバイオティクスの組み合わせを含まない。
【0070】
他の実施形態では、本発明に係る医薬組成物は、さらに、少なくとも1種の追加の医薬活性成分(すなわち、酵母I-3856又は細胞壁に加えて)を含有する。「医薬活性成分」は、その投与が治療効果を有するか、若しくはその投与がそれが投与される患者若しくは対象の健康若しくは一般的な状態に有益な効果を有するあらゆる化合物又は物質を意味する。
【0071】
従って、医薬活性成分は、医薬組成物の投与によって予防又は治療したいカンジダ菌による口腔粘膜の感染に対して活性であってもよいし、中咽頭のカンジダ症に関連する状態又は症状(例えば、痛みや発熱)に対して活性であってもよいし、さもなければ、医薬組成物の活性成分(1種若しくは複数種)の利用可能性及び/又は活性を増加させるものであってもよい。
【0072】
本発明の組成物中に存在してもよい医薬活性成分の例としては、限定されるものではないが、(酵母I-3856に影響を与えずに)鎮静活性、抗刺激活性、鎮痛活性、抗炎症活性、創傷治癒活性、抗生物活性、解熱活性、又は抗真菌活性を有する活性成分等が挙げられる。
【0073】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。さらに、本明細書中で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、及び他のすべての参考文献は、参照により組み込まれる。
【実施例
【0074】
以下の例は、本発明の特定の実施形態を説明する。しかしながら、例及び図は、説明のために提示されているだけであり、本発明の範囲を何ら限定するものではないことを理解されたい。
【0075】
例1:中咽頭のカンジダ症の動物モデルにおける異なる酵母産物の活性の評価
A. 材料及び方法
中咽頭のカンジダ症の動物モデル。カンジダ・アルビカンスは実験用マウスの常在種ではないため、Solis及びFiller(Nature Protoc.、2012、7(4):637-642)によって開発された、ヒトの偽膜性の中咽頭のカンジダ症を模倣した再現性のある感染症を得るための手順を、野生型C57BL/6マウスに使用した。この手順は、酢酸コルチゾンを注射することを含み、この酢酸コルチゾンにより、マウスはカンジダ菌による口腔感染及びカンジダ・アルビカンスによる感染に罹患しやすくなる。
【0076】
より具体的には、Perugia University(ペルージャ大学)(イタリア)の動物舎で、6週齢~8週齢の雌のC57BL/6マウス(Charles River(チャールス・リバー)、カルコ(Calco)、イタリア)を飼育した。このマウスに、感染の1日前から225mg/kgの酢酸コルチゾン(Sigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ))を1日おきに投与した後、チレタミン/ゾラゼパム-キシラジンの混合物(50mg/kg / 5mg/kg)(Mosciら、Virulence、2013、4:250-254)の皮下注射による麻酔下で、上記(Solis及びFiller、Nature Protoc.、20125、7:637-642)のように1×10/ml BLIカンジダ・アルビカンスの懸濁液を用いて感染させた。感染直前に口腔内を検査し、カンジダ種が事前に存在しないことを確認した(口腔内の試料を採取し、これを、クロラムフェニコール(50g/ml)を添加したYPD寒天培地に散布した(いずれもSigma-Aldrich製))。
【0077】
マウスは、特定の病原体が存在しない条件で使用した。この条件は、望ましくない感染症に対する感度試験で確認した。Federation of European Laboratory Animal Science Associations(欧州実験動物学会連合)の基準によれば、感染症は検出されなかった。動物とそのケアに関わる手順は、国内及び国際的な法律と基準に基づいて行った。動物に関するすべての実験は、欧州指令2010/63、実験目的又はその他の科学的な目的で使用される脊椎動物の保護に関する欧州条約(Convention Europeenne sur la Protection des Animaux Vertebres utilises a des Fins Experimentales ou a d’autres Fins Scientifiques)、及び国内法116/92に準拠して行った。このプロトコルは、動物のケア及び使用についてPerugia Universityの倫理委員会によって承認された。動物はすべてPerugia Universityの動物舎で飼育した。マウスは実験開始前に1週間の馴化を行った。各ケージには最大で5匹のマウスが入っており、これには餌と水を自由に与えた。
【0078】
試験した産物。本例では、サッカロマイセス・セレビシエ株I-3856の生菌体(生の形態)(GI)及び不活化菌体(不活化形態)(IY)を試験した。感染後、マウスは、+1日目、+2日目、+3日目及び+6日目に、生理食塩水(0.9%NaCl、陰性対照)、フルコナゾール(FLZ-陽性対照として使用した参照抗真菌剤)(4mg/ml)、又はGI及びIYの酵母産物(ともに100mg/ml)の経口注射(10μl)を受けた。
【0079】
カンジダ菌。融合産物ACT1p-gLUC59(gLUC59)を有するカンジダ・アルビカンスCA1398の株を用いた。C.アルビカンスの培養は、YPD寒天(Y:酵母抽出物、P:ペプトン、D:無水デキストロース-いずれもSigma-Aldrich製)上で数回の継代で維持した。生理食塩水にカンジダ・アルビカンスの単一コロニーを懸濁して真菌細胞を採取し、2回洗浄した後、血球計を用いて計数し、必要な濃度に調整した。
【0080】
口腔内でのC.アルビカンスによる感染の評価
a.CFUアッセイ。口腔内に付着したカンジダ・アルビカンスのコロニー数を、カンジダ・アルビカンスによる感染後+3日目及び+6日目に、舌ホモジネートの希釈液をCHROMAgar(商標)プレート(カンジダ菌に特異的かつ選択的な増殖培地)に広げて評価した。次いで、30℃で2日間培養した後、カンジダ・アルビカンスの生存コロニーを数えた。結果はLog CFU/g組織(フランス語ではLog UFC/g)で表した。
【0081】
b.口腔内のBLIカンジダ菌の撮影。感染後+1日目、+3日目及び+6日目に、マウスにセレンテラジン(Synchem(シンケム)、OHM)を10μl(1/10メタノール/HO混合液で0.5mg/ml)投与した後、イソフルラン2.5%の麻酔下でIVIS-200TMシステム(Xenogen Inc.(キセノゲン))を用いて撮影した。画像上で、Living ImageRソフトウェアを用いて、各マウスの口腔(関心領域、ROI)からの光子束の総放出量を定量した。10μlのセレンテラジンを投与した未感染マウスには発光が認められなかった(データは示さず)。
【0082】
c. 組織学的検査。マウスの舌の組織学的検査は、Mosciら、Virulence、2013、4(3):250-254に記載されたプロトコルに従って、感染後+8日目に実施した。
【0083】
食道、胃、腸への感染の広がり
a. CFUアッセイ。感染の広がりの後、食道、胃、十二指腸に発生したカンジダ・アルビカンスのコロニー数を、カンジダ・アルビカンスによる感染後+6日目に、組織/器官のホモジネートの希釈液をCHROMAgar(商標)プレートに広げて、評価した。結果はLog CFU/g組織(フランス語ではLog UFC/g)で表した。
【0084】
b.BLIカンジダ菌の撮影。感染後+6日目及び+8日目に、胃管を切除し、セレンテラジン(Synchem、OHM)を10μl(1/10メタノール/HO混合液で0.5mg/ml)、咽頭から食道内腔に注入した。その後、IVIS-200TMシステム(Xenogen Inc.)を用いて、マウスの食道及び胃をエキソビボで撮影した。画像上で、Living ImageRソフトウェアを用いて、各マウスの食道/胃の各系の光子束の総放出量(関心領域、ROI)を定量化した。
【0085】
統計解析。FLU、GI又はIYで処置した感染マウスと生理食塩水で処置した感染マウスとの差をマンホイットニーのU検定(Mann-Whitney U test)で評価した。p<0.05の値を有意とした。
【0086】
B. 結果
口腔内におけるカンジダ・アルビカンスによる感染の評価。図1及び図2は、様々な化合物で処置した感染マウスのインビボ撮影の結果を示す。これらの結果は、サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856が、その生菌体(GI)及び死菌体(IY)の両方において、真菌負荷をかなり低減できることを示す。この有益な効果は、フルコナゾール(FLU-陽性対照)を用いて得られたものと同様である。
【0087】
カンジダ・アルビカンスによる感染後+3日目及び+6日目に評価した、マウスの舌に付着したカンジダ・アルビカンスのコロニー数から、サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856の生菌体(GI)と死菌体(IY)の両方が真菌負荷を大幅に低減することができるということが確認される。この有益な効果は、フルコナゾール(FLU-陽性対照)を用いて得られたものと同様である(図3)。
【0088】
2つの酵母産物で処置した未感染マウスに対して実施した組織学的検査(図4(A))は、GI及びIYで処置した未感染マウスの舌には病変がなく、好中球の動員も観察されなかったことを示す。様々な化合物で処置した感染マウスに対して実施した組織学的検査(図4(B))は、サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856の生菌体(GI)及び死菌体(IY)で処置した感染マウスの舌にはともに、カンジダ・アルビカンスによって誘発される病変が見られないことを明らかにした。この有益な効果は、フルコナゾール(FLU-陽性対照)を用いて得られたものと同様である。
【0089】
食道、胃、十二指腸への感染の広がり。感染の広がりの後、食道(図5(A))、胃(図5(B))及び十二指腸(図5(C))に発生したカンジダ・アルビカンスのコロニー数の決定を、カンジダ・アルビカンスによる感染後+6日目に評価した。得られた結果は、サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856の生菌体(GI)は真菌繁殖を著しく阻害することができるのに対して、その死菌体(IY)は食道及び胃の真菌繁殖を抑制する傾向があることを示す。GIの有益な効果は、フルコナゾール(FLU-陽性対照)を用いて得られたものと同様である。感染後+6日目(図6A)及び+8日目(図6(B))の食道及び胃のエキソビボ撮影により、サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856の生菌体(GI)が消化管における感染の広がりを防ぎ、死菌体(IY)も、より低い程度ではあるが、消化管における感染の広がりを防ぐことが確認される。
【0090】
C. 結論
総合的に考えると、例1で得られた結果は、サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856が、その生菌体(GI)及び死菌体(IY)の両方において、真菌負荷をかなり低減することができ、従って食道及び胃への広がりを防ぐことができることを示す。この有益な効果は、フルコナゾール(陽性対照)を用いて得られたものと同様である。
【0091】
例2:カンジダ・アルビカンスによる中咽頭感染に対する免疫反応に対するサッカロマイセス・セレビシエ株I-3856の効果
唾液は、カンジダ菌による口腔感染に対する生得的な防御機構の一つである。唾液は、歯や口腔上皮に膜を形成する。この膜の主成分はムチンと免疫グロブリンA(IgA)であり、これらはカンジダ・アルビカンスを凝集させる可能性があり、カンジダ・アルビカンスは嚥下作用によって除去される。さらに、唾液は、殺菌作用のあるヒスタチン-5、リゾチーム、ラクトフェリン、カルプロテクチン等の生理活性物質を含有する。これらの薬剤は唾液中に低濃度で存在しているが、これらの薬剤の組み合わせの効果は、相加的又は相乗的である。さらには、唾液中の防御剤と、唾液の流れによる動的な効果との組み合わせにより、カンジダ・アルビカンスによる口腔上皮のコロニー形成、増殖、侵入が制限され、カンジダ・アルビカンスに対する生得的な口腔内抵抗が生じる(Fellerら、J.Oral.Pathol.Med.、2014、43:563-569)。
【0092】
抗カンジダ粘膜免疫には、好中球とT細胞が重要な役割を果たす。好中球は酸化的なメカニズムでカンジダ菌細胞を貪食し、死滅させる(Moyesら、Clin.Dev.Immunol.、2011、346307)。カンジダ菌に対する口腔内反応に主に関与するT細胞は、ヘルパーTリンパ球(ヘルパーT細胞、Th)Th1及びTh17である。Th1細胞は、好中球の有効な活性化剤であるIFN-γを産生する(Gattoniら、Clin.Ter.、2006、157:457-468)。IL-6、IL-1β及びTGF-βの存在下で、T細胞はTh17に分化し、IL-23の刺激を受けて成熟する。Th17細胞は、IL-17A、IL-17F及びIL-22を産生する。IL-17A及びIL-17Fは、上皮細胞を刺激して抗菌ペプチドを産生し、好中球の動員と活性化を促進することで、真菌の排除を可能にする。IL-22は、上皮細胞に関してIL-17と同様の効果を有し、真菌の増殖を制限する(Hebeckerら、Expert.Rev.Anti Infect.Ther.、2014、12:867-879;Moyesら、Clin.Dev.Immunol.、2011、346307)。)
【0093】
例1では、サッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856が、生菌体(GI)であっても、不活化された形態(IY)であっても、口腔内の真菌負荷を低減し、食道及び胃へのカンジダ菌感染の広がりを防ぐことができるということが明らかにされた。本例では、まずWG(サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856の細胞壁)が口腔内真菌負荷を低減する能力を評価し、次にIY、GI及びWGの経口投与が、中咽頭のカンジダ症における真菌の病原性因子及び炎症反応に影響を与えることができるかどうかを判定した。
【0094】
A. 材料及び方法
カンジダ・アルビカンスの菌株及び培養条件。高病原性のカンジダ・アルビカンス株(CA-6)を使用した(Bistoniら、Infect.Immun.1986、51:6668-674)。カンジダ・アルビカンスの培養は、YPD寒天培地(Y:酵母抽出物、P:ペプトン、D:無水デキストロース-いずれもSigma-Aldrich製)上で連続的な継代で維持した。生理食塩水にカンジダ・アルビカンスの単一コロニーを懸濁して真菌細胞を採取し、2回洗浄した後、血球計を用いて計数し、必要な濃度に調整した。
【0095】
中咽頭のカンジダ症の動物モデル。Perugia University(イタリア)の動物舎で、6週齢~8週齢の雌のC57BL/6マウス(Charles River、カルコ、イタリア)を飼育した。このマウスに、感染の1日前から225mg/kgの酢酸コルチゾン(Sigma-Aldrich製)を1日おきに投与した後、チレタミン/ゾラゼパム-キシラジンの混合物(50mg/kg / 5mg/kg)(Mosciら、Virulence、2013、4:250-254)の皮下注射による麻酔下で、上記(Solis及びFiller、Nature Protoc.、20125、7:637-642)のように1×10/mlのカンジダ・アルビカンス(CA-6)の懸濁液を用いて感染させた。感染直前に口腔内を検査し、カンジダ種が事前に存在しないことを確認した(口腔内の試料を採取し、これを、クロラムフェニコール(50g/ml)を添加したYPD寒天培地に散布した(いずれもSigma-Aldrich社製)。倫理的宣言については例1を参照。
【0096】
試験した産物。この例では、サッカロマイセス・セレビシエ株I-3856を、生菌体(GI)及び不活化された形態(IY)だけでなく、細胞壁の形態(WG)でも試験した。感染後、マウスは、感染後+1日目、+2日目及び+3日目に、生理食塩水(0.9%NaCl、陰性対照)、フルコナゾール(FLZ、4mg/ml、陽性対照)、IY、GI又はWG(いずれも100mg/ml)の経口注射(10μl)を受けた。
【0097】
CFUアッセイ。操作条件については例1を参照。感染後+1日目、+3日目及び+6日目に真菌負荷を測定した。
【0098】
SAP2、SAP6、ALS3及びHWP1遺伝子の発現の定量的分析。カンジダ・アルビカンスに口腔感染し、生理食塩水、又はフルコナゾール、又はIY、GI若しくはWGで上述のように処置したマウスの舌のホモジネートを、感染後+1日目、+3日目及び+6日目に得た。このマウス舌ホモジネートを3000回転/分で5分間遠心分離した後、細胞画分をTrizol(トリゾール)(Life Technology(ライフ・テクノロジー))で溶解した。
【0099】
総RNAを抽出し、製造者の取扱説明書に従ってモロニーマウス白血病ウイルスの逆転写酵素反応(M-MLV RT)を用いて逆転写した。相補的DNA(cDNA)の濃度は、分光光度計を用いて測定した。カンジダ・アルビカンスのSAP2、SAP6、ALS3及びHWP1遺伝子を、公知のプライマー(Naglikら、J.Med.Microbiol.、2006、55:1323-1327;Naglikら、Microbiology、2008、154:3266-3280;Roudbarmohammadiら、Adv.Biomed.Res.、2016、5:105)を用いて検出した。リアルタイムPCR反応は、SYBR green(BioRad(バイオ・ラッド)製)を用いて96ウェルPCRプレートで行った。リアルタイムPCR反応には、200ngのcDNAを用いた。すべての試料は3連で測定した。感染後の異なる時間におけるカンジダ遺伝子の相対的な発現レベルは、カンジダ・アルビカンス接種物の転写産物に対する2-ΔΔCTで報告した(Pericoliniら、Virulence、2017、8:74-90))。使用した増幅条件は、SAP2、SAP6、ALS3及びHWP1について同じであり、95℃で3分、並びに95℃で10秒及びプライマーの特異的ハイブリダイゼーション温度で30秒の40サイクルである。実験はエッペンドルフ社のMastercycler(マスターサイクラー)を用いて行った。
【0100】
カンジダ殺傷力の試験。感染後+3日目及び+6日目に、未感染マウス及び上記のように感染させて処置したマウスの腹腔内好中球を、エンドトキシンを含まない10%チオグリコレートの溶液(Difco(ディフコ))0.5mlを腹腔内に注射した18時間後に採取した。
【0101】
好中球破壊活性は、CFU阻害アッセイにより測定した。手短に言えば、平底96ウェル組織培養プレートに、1ウェルあたり0.1mlの懸濁液中の好中球(10個)を、5%FBSを含む0.1mlのRPMI中のカンジダ・アルビカンス(CA-6)10個と一緒にインキュベートし、5%CO存在下、37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを激しく撹拌し、Triton X-100(蒸留水で0.1%、各ウェルの最終濃度は0.01%)を加えて細胞を溶解した。各ウェルから蒸留水で連続希釈した試料を作成した。この試料を、クロラムフェニコール(50mg/ml)を添加したサブローデキストロース寒天培地に3連で散布し、37℃で24時間インキュベートしてCFU値を評価した。いわゆる対照培養は、エフェクター細胞を含まない5%のFCSを含有するRPMI-1640でインキュベートしたカンジダ・アルビカンス(CA-6)からなっていた。
【0102】
サイトカインの産生。未感染マウス、又は上記のように経口感染して処置したマウスの舌ホモジネートを、感染後+1日目、+3日目及び+6日目に得た。この舌ホモジネートを3000回転/分で5分間遠心分離し、上清を回収して、IL-1β、TNF-α、IL-6、IL-17A/F、IL-22、IL-23及びIFN-γのレベルをELISAアッセイ(eBioscience(イー・バイオサネンス))によって測定した。
【0103】
統計解析。結果は、2回の異なる実験において、各群からの4~6匹のマウスから2連又は3連で採取した試料の平均値±SEMである。生理食塩水で処置した感染マウスと未感染マウスとの差、又はFLU、GI、IY又はWGで処置した感染マウスと生理食塩水で処置した感染マウスとの差を、マンホイットニーのU検定で評価した。p<0.05の値を有意とした。
【0104】
B. 結果と考察
まず、WG(サッカロマイセス・セレビシエ株CNCM I-3856の細胞壁)の能力について、それが口腔内のカンジダ・アルビカンスの負荷に影響を与えるかどうかを評価した。この目的のために、マウスにカンジダ・アルビカンス(10/ml)を感染させてから+1日目、+2日目及び+3日目にIY、GI又はWG(いずれも100mg/ml)で処置した。このように処置したマウスの舌のCFU値を、感染後+1日目、+3日目及び+6日目に評価した。得られた結果を図7に示すが、この結果は、WGを含む試験したすべての化合物はカンジダ・アルビカンスの負荷を有意に抑制することができ、その有益な効果はフルコナゾール(FLZ)を用いて得られたものと同様であることを示す。
【0105】
次に、本発明者らは、真菌負荷の阻害がカンジダ・アルビカンスの特定の病原性因子の阻害と関連するかどうかを調べた。そこで本発明者らは、カンジダ菌による組織への侵入に関与するアスパラギン酸プロテアーゼ(Sap)の発現量を測定した。SAP2遺伝子とSAP6遺伝子の測定は、感染後+1日目、+3日目及び+6日目に実施した。その結果は、図8(A)及び(B)に示されているが、GIで処置した後にはSAP2及びSAP6の発現が有意に阻害されるが、IY及びWGでは阻害されなかった(効果は感染後+6日目に観察した)ことを示す。
【0106】
カンジダ・アルビカンスはインベイシンAls3を発現しており、これは上皮細胞に結合して真菌をエンドサイトーシスさせ、上皮細胞に積極的に侵入してその上皮細胞を損傷させ、炎症性サイトカインを放出させる(Naglikら、Microbes Infect.、2011、13:963-976)。カンジダ・アルビカンスのHWP1(hyphal wall protein 1)遺伝子は、真菌細胞壁のタンパク質をコードしており、このタンパク質は、菌糸の成長及び真菌の上皮細胞への接着に必要である(Orsiら、Microb.Pathog.、2014、69-70:20-27)。ASL3及びHWP1の2つの遺伝子の発現は、GIでの処置後に有意に減少したが、IYやWGでの処置後には減少しないことが判明した(図8(C)及び(D)参照)。これらの結果は、GIによるCFUの阻害は、カンジダ菌の上皮細胞への接着を阻害するとともに、酵母-菌糸の移行を阻害し、その結果としての細胞の損傷を軽減することに起因するのではないかということを示唆する。IY及びWGはカンジダ菌の遺伝子発現に影響を与えないことから、これら2つの化合物で観察されたCFUの低下に関する他の作用機序がある。
【0107】
好中球は真菌破壊における主要なエフェクター免疫細胞である(Gazendamら、Immunol.Rev.、2016、273:299-311)。それゆえ、好中球の破壊活性を調べた。得られた結果を図9に示す。それらは、カンジダ・アルビカンスによる感染時に、未感染マウスに比べて弱まる好中球の破壊活性が、試験した酵母産物を用いた処置によって回復することを示す。特に、感染後+6日目にGI、IY及びWGで処置した感染マウスでは、未処置の感染マウスと比較して、好中球の破壊活性の大きな上昇が認められた。
【0108】
口腔カンジダ症の経過において、炎症性サイトカインを放出することで、上皮細胞は好中球の動員を誘導し、この好中球は、カンジダ菌の排除を促進することにより上皮細胞への損傷の範囲を制限する(Trautwein-Weidnerら、Mucosal.Immunol.、2015、8:221-231)。炎症性サイトカインであるIL-1β、TNF-α及びIL-6の産生を、本例で用いた実験系で試験した。得られた結果を図10に示す。これらの結果は、感染から1日後には、各種化合物で処置したか否かにかかわらず、感染マウスでは、未感染マウスと比較して、IL-1β、TNF-α及びIL-6等の炎症性サイトカインの産生量に変化は見られなかったことを示す。しかしながら、感染後3日目になると、感染マウスはIL-1β及びTNF-αの産生量が大幅に増加しており、酵母産物又はFLZで処置すると、これらのサイトカインがかなり阻害される。この時、IL-6の産生量はFLZを除いて未処置のマウスと比較して変化しなかった。感染後6日目に炎症性サイトカインの分析を行ったところ、感染マウスの舌の上清では、未感染マウスの舌の上清と比較して大きな増加が認められ、GI、WG及びFLZで処置すると、すべてのサイトカインの産生量が大幅に減少したが、IYはTNF-αの産生を有意に阻害することができただけであった(図10)。
【0109】
IL-17、IL-22及びIL-23は、口腔カンジダ症の際の真菌の排除に役割を果たすことが知られている(Hebeckerら、Expert.Rev.Anti Infect.Ther.、2014、12:867-879;Moyesら、Clin.Dev.Immunol.、2011、346307)。それゆえ、本系では、T細胞のサイトカインIL-17、IL-22及びIL-23の存在も測定した。得られた結果(図11)は、感染から6日後、感染マウスの舌の上清では、未感染マウスの舌の上清よりも、これらすべてのサイトカインの存在量が大きいことを示す。GI及びWGで処置すると、試験したすべてのサイトカインが有意に阻害されたが、IYではIL-23の産生の場合にのみ有意な減少が誘導された。
【0110】
感染後+3日目及び+6日目の感染マウスの舌の上清には、T細胞の典型的なサイトカインであるIFN-γの増加も観察されたが、試験化合物で処置するとIFN-γの産生が大きく減少した(図12参照)。
【0111】
総合的に考えると、これらの結果は、試験化合物を用いた処置の後に認められた炎症性サイトカインの阻害は真菌負荷が減少したことに起因するのではないかということを示唆する。GIは、カンジダ菌のアスパラギン酸プロテアーゼやアドヘシン等のいくつかの病原性因子を阻害することにより、カンジダ菌の負荷を抑え、炎症反応を抑制することができると考えられる。今回の実験では、IY及びWGはカンジダ菌の病原性因子には影響を与えないようであるが、それらは真菌負荷を大きく減らすことができた。IYはカンジダ菌と強い凝集を起こすことができるということが以前に示されている(Pericoliniら、Virulence、2017、8:74-90)。WGが同様のメカニズムで効果を発揮することが考えられる。さらに、試験したすべての化合物を用いた処置後に観察された好中球の破壊活性の上昇も、真菌負荷の大きな減少を説明することができよう。
【0112】
C. 結論
得られた結果は、試験したすべての酵母産物(GI、IY及びWG)が、口腔内のカンジダ菌の真菌増殖を阻害(抑制)する能力があることを明らかにする。GIの有益な効果は、少なくとも部分的にはカンジダ菌のアドヘシンの阻害による上皮細胞へのカンジダ菌の接着の阻害と、菌糸の移行の阻害によるものである。この結果は、WG及びIYの効果が、特にカンジダ菌の強い凝集を引き起こすことによる機械的効果によるもので、これがカンジダ菌の上皮細胞への接着を妨げるということを示唆する。すべてのこれらの効果により、カンジダ菌の排除が大幅に促進され、これにより、炎症反応が抑えられるか、あるいは起こらなくなる。興味深いことに、実施したすべての測定において、試験した酵母産物(GI、IY及びWG)で処置した後に得られた真菌負荷は、中咽頭のカンジダ症の治療に使用される標準的な抗真菌剤であるフルコナゾールで得られたものと同等であったことが注目される。
【0113】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12