(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】シートベルト用リトラクタ
(51)【国際特許分類】
B60R 22/46 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
B60R22/46 166
(21)【出願番号】P 2022036691
(22)【出願日】2022-03-09
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ルゥン,ゴック アン
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314058(JP,A)
【文献】特開2005-289260(JP,A)
【文献】国際公開第2011/059010(WO,A1)
【文献】特開2009-078633(JP,A)
【文献】特開2020-083147(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199525(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0041651(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/34-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトを巻き取るスピンドルと、
前記スピンドルを回転させる動力を発生するモータと、
前記モータからの動力を前記スピンドルに伝達可能な動力伝達機構と、を備えたシートベルト用リトラクタであって、
前記動力伝達機構は、前記モータが第1の方向に回転するとき、前記モータから前記スピンドルへの動力の伝達を可能にするクラッチ機構を備え、
前記クラッチ機構は、
前記スピンドルとともに回転する第1回転部材と、
前記第1回転部材に対して係合する係合位置と係合しない非係合位置との間で移動可能に構成された第1パウルと、
前記第1パウルを保持し、前記モータの回転に応じて回転する第2回転部材と、
前記第2回転部材と一体的に及び相対的に回転可能に構成されたフリクション部材と、
前記フリクション部材に対する摩擦力を調整する第2パウルと、を備え、
前記クラッチ機構は、
前記モータが前記第1の方向に第1の回転数だけ回転する際、前記第2パウルによって前記フリクション部材に対する摩擦力を高め、前記フリクション部材に対する前記第2回転部材の相対的な回転によって前記第1パウルを前記非係合位置から前記係合位置に移動させ、それにより前記モータから前記スピンドルへの動力の伝達を遮断したOFF状態から、前記モータから前記スピンドルへの動力の伝達を可能にするON状態に切り替わり、かつ、
前記モータが前記第1の方向と反対の第2の方向に前記第1の回転数よりも少ない第2の回転数だけ回転する際、又は、前記モータが停止する際、前記第2パウルによる前記フリクション部材に対する前記摩擦力を低下させ又は解放し、前記第2回転部材に対する前記フリクション部材の相対的な回転によって前記第1パウルを前記係合位置から前記非係合位置に移動させ、それにより前記ON状態から前記OFF状態に切り替わるように構成されている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
前記第2パウルは、前記フリクション部材の外周面に接触して前記摩擦力を調整する、請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
前記第2パウルは、前記フリクション部材を押圧可能な押圧部を有し、前記フリクション部材に対する前記押圧部の移動によって前記摩擦力を調整するように構成されている、請求項1又は2に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
前記第2パウルの前記押圧部は、前記モータの回転に連動して移動する、請求項3に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
前記第2パウルは、
前記モータが前記第1の方向に前記第1の回転数だけ回転する際、前記押圧部が前記フリクション部材を押圧することによって、前記フリクション部材の回転を停止させ、
前記モータが前記第2の方向に前記第2の回転数だけ回転する際、又は、前記モータが停止する際、前記押圧部による前記フリクション部材への押圧を解放する、請求項4に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項6】
前記クラッチ機構は、前記第2パウルと、前記モータの回転に応じて回転する第3回転部材とを連結するフリクションスプリングをさらに備え、
前記フリクションスプリングは、
前記モータが前記第1の方向に回転するとき、前記押圧部が前記フリクション部材を押圧する方向に前記第2パウルを移動させ、
前記モータが前記第2の方向に回転するとき、前記押圧部が前記フリクション部材から離れる方向に前記第2パウルを移動させる、請求項3から5のいずれか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項7】
前記第2回転部材は、ファイナルギアであり、
前記第3回転部材は、前記ファイナルギアに噛み合うアイドルギアである、請求項6に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項8】
前記クラッチ機構は、前記第2パウルを、前記押圧部が前記フリクション部材から離れる方向に付勢する第2リターンスプリングをさらに備えた、請求項6又は7に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項9】
前記クラッチ機構は、前記第2回転部材に保持され、前記第1パウルを前記非係合位置に向かって付勢する第1リターンスプリングをさらに備えた、請求項1から8のいずれか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項10】
前記第1リターンスプリングは、
前記モータが前記第1の方向に前記第1の回転数だけ回転する際、前記第2回転部材と一緒に回転し、前記第1パウルが前記第1リターンスプリングに抗して前記係合位置に移動することを許容し、
前記モータが前記第1の回転数後にさらに前記第1の方向に回転する際、前記第2回転部材と一緒に回転し、前記第1パウルが前記係合位置にとどまることを許容し、
前記モータが前記第2の方向に前記第2の回転数だけ回転する際、又は、前記モータが停止する際、前記第1パウルを付勢して、それにより当該第1パウルが前記フリクション部材を前記第2回転部材に対して相対的に回転させるように構成されている、請求項9に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項11】
前記第1回転部材は、被係合部を有し、
前記第1パウルは、前記係合位置において前記被係合部に係合し且つ前記非係合位置において前記被係合部から離脱する係合部を有し、
前記第1リターンスプリングは、前記第1パウルを、前記係合部が前記被係合部から離脱する方向に付勢する、請求項10に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項12】
前記第1パウルの前記係合部は、前記モータが前記第2の方向に前記第2の回転数だけ回転する際、又は、前記モータが停止する際、前記第1リターンスプリングによって前記被係合部から離脱する方向に動き、前記フリクション部材を押して、前記フリクション部材を前記第2回転部材に対して相対的に回転させる、請求項11に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項13】
前記第1リターンスプリング、前記係合部及び前記フリクション部材は、前記モータが前記第2の方向に前記第2の回転数だけ回転する際、又は、前記モータが停止する際、前記係合部が前記フリクション部材を押す力に、前記フリクション部材を回転させる方向の分力を含むように構成されている、請求項12に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項14】
前記第2回転部材は、連結受け部を有し、
前記フリクション部材は、前記連結受け部に対応して連結部を有し、
前記モータが前記第1の方向に回転する際、まず、前記フリクション部材に対する前記第2回転部材の相対的な回転によって前記連結受け部に前記連結部が連結し、その後、前記連結部及び前記連結受け部の連結を介して前記フリクション部材が前記第2回転部材と一体的に回転し、
前記クラッチ機構の前記ON状態から、前記モータが前記第2の方向に回転する際、又は、前記モータが停止する際、前記フリクション部材は、前記連結部及び前記連結受け部の前記連結が解除される方向へと、前記第2回転部材に対して相対的に回転することを許容される、請求項1から13のいずれか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のシートベルト装置に設けられるリトラクタは、スピンドルの回転によりシートベルトの巻き取り・引き出しを行うとともに、車両衝突時にスピンドルの回転をロック機構によりロックして、シートベルトの引き出しを阻止する。
【0003】
モータ付きリトラクタとして、車両急減速状態(例えば衝突可能性がある場合)をセンサで検出した際には、モータによってスピンドルを巻き取り方向に回転させ、シートベルトを一定量巻き取って乗員を軽拘束し、また、車両衝突を検出した際には、火薬式のプリテンショナを作動させて、シートベルトを強制的に巻き取って乗員を確実に拘束するものが知られている(例えば特許文献1及び2参照)。さらに、シートベルトを着用したときのたるみ解消のため、また、シートベルトを外したときの格納性向上のために、モータによってシートベルトの巻き取りを補助することも知られている。一般に、前者の車両急減速状態の検出時にシートベルトを軽く巻き取ることは「プリクラッシュ作動」と称され、また、後者の補助的にシートベルトを巻き取ることは「コンフォート作動」と称される。
【0004】
特許文献1及び2に開示されるように、モータ付きリトラクタでは、モータからの動力をスピンドルに伝達する動力伝達機構にクラッチが介在されている。プリクラッシュ作動及びコンフォート作動を実施する際には、モータを正転させてクラッチをつなぎ、シートベルトを巻き取る。そして、プリクラッシュ作動及びコンフォート作動の実施後には、モータを逆転させてクラッチを切り、シートベルトの通常の巻き取り及び引き出しが可能な状態としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-162157号公報
【文献】国際公開2016/199525号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータ付きリトラクタにおけるモータの小型化の要求がある。しかし、モータを小型化すると、モータの寿命が短くなる。プリクラッシュ作動及びコンフォート作動の各作動において、モータをクラッチの結合及び解除の両方のために回転させる場合、結果的に、モータへの負荷が大きくなり、小型化した場合のモータの寿命に影響をおよぼすことが懸念される。
【0007】
また、仮に、モータの逆転によるクラッチの解除がプリテンショナの作動よりも遅れた場合、プリテンショナの作動時に、フォースリミッターの作動に影響をおよぼし得る。
【0008】
本発明は、クラッチ動作に関わるモータへの負荷を減らしてモータの小型化・長寿命化を図ることができると共に、迅速なクラッチ解除を可能にするシートベルト用リトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るシートベルト用リトラクタは、シートベルトを巻き取るスピンドルと、前記スピンドルを回転させる動力を発生するモータと、前記モータからの動力を前記スピンドルに伝達可能な動力伝達機構と、を備えたシートベルト用リトラクタであって、前記動力伝達機構は、前記モータが第1の方向に回転するとき、前記モータから前記スピンドルへの動力の伝達を可能にするクラッチ機構を備え、前記クラッチ機構は、前記スピンドルとともに回転する第1回転部材と、前記第1回転部材に対して係合する係合位置と係合しない非係合位置との間で移動可能に構成された第1パウルと、前記第1パウルを保持し、前記モータの回転に応じて回転する第2回転部材と、前記第2回転部材と一体的に及び相対的に回転可能に構成されたフリクション部材と、前記フリクション部材に対する摩擦力を調整する第2パウルと、を備え、前記クラッチ機構は、前記モータが前記第1の方向に第1の回転数だけ回転する際、前記第2パウルによって前記フリクション部材に対する摩擦力を高め、前記フリクション部材に対する前記第2回転部材の相対的な回転によって前記第1パウルを前記非係合位置から前記係合位置に移動させ、それにより前記モータから前記スピンドルへの動力の伝達を遮断したOFF状態から、前記モータから前記スピンドルへの動力の伝達を可能にするON状態に切り替わり、かつ、前記モータが前記第1の方向と反対の第2の方向に前記第1の回転数よりも少ない第2の回転数だけ回転する際、又は、前記モータが停止する際、前記第2パウルによる前記フリクション部材に対する前記摩擦力を低下させ又は解放し、前記第2回転部材に対する前記フリクション部材の相対的な回転によって前記第1パウルを前記係合位置から前記非係合位置に移動させ、それにより前記ON状態から前記OFF状態に切り替わるように構成されている。
【0010】
この態様によれば、クラッチ結合(ON状態)のために、モータを第1の方向に回転させるものの、クラッチ解除(OFF状態)のためには、モータを停止すれば足りる。あるいは、モータを第2の方向に少し回転させれば済む。これにより、上記のプリクラッシュ作動及びコンフォート作動のためのモータの総回転数を減らすことができる。したがって、モータへの負荷を減らすことができ、モータの小型化・長寿命化を図ることができる。加えて、クラッチ解除をモータの停止又は少回転で行えるため、迅速なクラッチ解除が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るシートベルト用リトラクタを模式的に示す側面図である。
【
図2】実施形態に係るシートベルト用リトラクタの、スピンドル、モータ及び動力伝達機構を示す分解斜視図である。
【
図3】
図2の矢印IIIから見たときの、動力伝達機構まわりの正面図である。
【
図4】第2回転部材及び第1パウルを示す斜視図である。
【
図5】第2回転部材及びフリクション部材を示す斜視図である。
【
図6】第2回転部材及びフリクション部材を、ロアカバー及びラチェットとともに示す拡大斜視図である。
【
図7】
図6のVII-VII線に沿って切断した断面図である。
【
図8】モータ非駆動時の、クラッチ解除状態(OFF状態)を説明するための図である。
【
図9】モータが第1の回転数だけ正転したときの、クラッチ結合状態(ON状態)を説明するための図である。
【
図10】モータが停止したときの、クラッチが解除し始めるときの状態(ON状態からOFF状態に切り替わるときの状態)を説明するための図である。
【
図11】モータが停止したときの、クラッチ解除状態(OFF状態)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、シートベルト用リトラクタ1は、シートベルト2を巻き取るスピンドル3と、スピンドル3を回転させる動力を発生するモータ4と、モータ4からの動力をスピンドル3に伝達可能な動力伝達機構5と、スピンドル3の両端を回転可能に支持するリトラクタフレーム6と、を有している。モータ4は、正回転及び逆回転の両方向に回転可能に構成され、図示省略したECUによって駆動を制御される。動力伝達機構5は、複数(ここでは3つ)のギア7、8、9からなるギアアッセンブリを有していると共に、モータ4からスピンドル3への動力の伝達を許容及び遮断可能なクラッチ機構10を有している。クラッチ機構10の一部は、ギアアッセンブリの一部のギアによって構成されている。
【0014】
このリトラクタ1では、上述したプリクラッシュ作動及びコンフォート作動を行う際に、クラッチ機構10が結合し、モータ4の回転をスピンドル3に伝達して、シートベルト2を巻き取る。プリクラッシュ作動及びコンフォート作動の実施後など、通常時は、クラッチ機構10が解除し、モータ4とスピンドル3との間の動力伝達が遮断され、スピンドル3からのシートベルト2の引き出し及び巻き取りが可能となる。
【0015】
また、リトラクタ1は、スピンドル3をシートベルト2の巻取り方向へ付勢する巻取りバネ装置13と、不図示の加速度センサによって検出される加速度に応じてシートベルト2の引出し動作をロックするロック機構14と、スピンドル3を回転させる他の動力を発生するプリテンショナ15と、をさらに有している。
【0016】
スピンドル3内には、エネルギ吸収機構を構成するトーションバー(図示せず)が設けられており、トーションバーの一端側がスピンドル3に接続され、トーションバーの他端側がプリテンショナ15からの力が入力されるトレッドヘッド(図示せず)に接続される。プリテンショナ15は、車両衝突を検出した際に作動する。プリテンショナ15では、例えば、火薬を点火して発生したガスによってボール(図示せず)を強く押し出し、ボールをピニオン(図示せず)の溝に沿って移動させ、ピニオンを回転させる。ピニオンの回転は、ロック機構14を介してトレッドヘッド、トーションバー、スピンドル3へと伝達されてシートベルト2を強制的に巻き取る。
【0017】
リトラクタフレーム6の左側面には、ケース部材であるロアカバー16及びアッパーカバー17が取り付けられている。ロアカバー16とアッパーカバー17との間の空間に動力伝達機構5が収容されている。また、アッパーカバー17の左側面に巻き取りバネ装置13が取り付けられている。さらに、リトラクタフレーム6の下方には、モータ4が配置されており、モータ4の出力軸4aに取り付けた出力ギア7がロアカバー16の下側内部に収容されている。出力ギア7はアイドルギア8に噛合し、アイドルギア8がファイナルギア9に噛合している。すなわち、アイドルギア8及びファイナルギア9は、モータ4の出力軸4aとギア結合しており、モータ4の回転に応じて回転する。
【0018】
図2及び3に示すように、クラッチ機構10は、ラチェット30(第1回転部材)、第1パウル40、第1リターンスプリング50、ガイドリング60(フリクション部材)、第2パウル70、第2リターンスプリング80、及びフリクションスプリング90を有している。また、クラッチ機構10は、ギアアッセンブリの一部のギアを利用したものであり、ここでは上記のアイドルギア8及びファイナルギア9を有している。
【0019】
ラチェット30は、その中心軸部31がスピンドル3にスプライン篏合しており、これによりスピンドル3とともに回転する。ラチェット30の外周面には、被係合部としての外歯32が形成されている。
【0020】
第1パウル40は、ラチェット30の外歯32に係脱可能な係合部41を有している。第1パウル40は、正面視、例えば「ヘ」字状のような、一端側から他端側にかけて中央部42で屈曲する形状を有しており、この一端側に係合部41を有している。第1パウル40の他端側には、第1リターンスプリング50の一端が接触されている。
【0021】
また、第1パウル40は、中央部42をファイナルギア9に軸支されており(参照:
図4)、この軸支箇所を中心として揺動可能となっている。揺動することで、第1パウル40は、係合部41が外歯32に係合する係合位置(参照:
図9)と、係合部41が外歯32に係合しない非係合位置(参照:
図8)との間で、ラチェット30に対して移動する。
【0022】
第1リターンスプリング50は、ファイナルギア9に保持されている(参照:
図4)。第1リターンスプリング50は、例えば板バネからなり、一端51が第1パウル40に取り付けられ、他端52がファイナルギア9に取り付けられる。第1リターンスプリング50は、第1パウル40を、非係合位置に向かって、すなわち係合部41が外歯32から離脱する方向に付勢する。第1リターンスプリング50及び第1パウル40は、ファイナルギア9に保持されているため、ファイナルギア9と一緒に回転する。
【0023】
ガイドリング60は、内側筒部61、外側筒部62及び底部63を有している。底部63の中央部は、ラチェット30の挿入用に開口している。内側筒部61と外側筒部62とは同心に形成されており、それぞれ、軸方向の一端側(ロアカバー16側の端部)が底部63に連結されている。ガイドリング60は、ロアカバー16の収納凹部16aに回転可能に収納される。また、ガイドリング60は、底部63の開口縁及び内側筒部61の一部をロアカバー16の軸受け部16bに回転可能に支持される(参照:
図7)。
【0024】
内側筒部61と外側筒部62との間に、ファイナルギア9に保持された第1パウル40及び第1リターンスプリング50が配置される。外側筒部62は、切り欠きのない環状面であり、ガイドリング60の外周面を構成する。そして、かかる外周面である外側筒部62の外面には、ガイドリング60に対する摩擦力を調整する第2パウル70が接触される。
【0025】
内側筒部61の内側には、底部63の開口を介してラチェット30がガイドリング60と同軸に配置される。内側筒部61は、略C字状のような、一部(上部)が切り欠かれた形状を有している。内側筒部61の切り欠き箇所を介して、第1パウル40の係合部41が内側筒部61の内側に対して進退し、ラチェット30の外歯32に係脱する。
【0026】
また、内側筒部61は、切り欠き箇所の一部に、第1パウル40の係合部41が当接可能なカム部65を有している。第1パウル40が非係合位置(参照:
図8)から係合位置(参照:
図9)に移動する際に、係合部41がカム部65に案内されて外歯32に係合する。また、第1パウル40が係合位置(参照:
図10)から非係合位置(参照:
図11)に移動する際に、係合部41はカム部65を押してガイドリング60を反時計回りに回転させ、カム部65に案内されて元の非係合位置に戻るようになっている。
【0027】
ガイドリング60は、ファイナルギア9と一体的に及び相対的に回転可能に構成されている(詳細は後述する)。
【0028】
ファイナルギア9は、外周面に歯形が形成されたリング状のギアで構成され、ラチェット30と同軸に配置される。ファイナルギア9は、第1パウル40を揺動可能に保持すると共に、第1リターンスプリング50を保持する。また、ファイナルギア9は、その中央の開口縁9aをアッパーカバー17の軸受け部17aに回転可能に支持される。ファイナルギア9に噛合するアイドルギア8は、ロアカバー16に収納されると共に、ロアカバー16に回転可能に軸支される。
【0029】
図4~7に示すように、ファイナルギア9は、外周面と開口縁9aとの間に複数の連結溝9b(連結受け部)を有している。複数の連結溝9bは、ここでは3つあり、ファイナルギア9の中心を円の中心とする同一円周上に位置している。また、複数の連結溝9bは、互いに同じ長さで、均等間隔に形成されている。連結溝9bには、ガイドリング60の連結片66(連結部)が挿通されている。
【0030】
連結片66は、連結溝9bに対応して、ガイドリング60に複数(3つ)設けられている。連結片66は、内側筒部61の端部から延設されており、径方向外向きに突出したフック部を有している。連結片66のフック部がファイナルギア9の表面に対向しており、これにより、ファイナルギア9に対するガイドリング60の軸方向の抜け止めがなされている。
【0031】
ここで、連結溝9bの周方向の長さは、連結片66の周方向の長さよりも長く形成されている。したがって、連結片66が挿通された連結溝9bの一部には、周方向に隙間がの残る。この隙間の長さ分、ガイドリング60とファイナルギア9とは、互いに相対的に回転可能となっている。また、連結片66が連結溝9bの一方側の端部に接触し、その接触を維持しながらファイナルギア9が回転する場合、ファイナルギア9はガイドリング60を回転させる。すなわち、ガイドリング60は、連結片66及び連結溝9bの連結を介してファイナルギア9と一体的に回転可能となっている。
【0032】
再び、
図2及び3に戻って説明する。
第2パウル70は、ガイドリング60の外周面に接触して、ガイドリング60に対する摩擦力を調整する。第2パウル70は、ガイドリング60を押圧可能な押圧部71を有している。第2パウル70は、正面視、例えば「ヘ」字状のような、一端側から他端側にかけて中央部72で屈曲する形状を有しており、この一端側に押圧部71を有している。第2パウル70の他端側には、第2リターンスプリング80の一端が接触されている。
【0033】
また、第2パウル70は、中央部72をロアカバー16に軸支されており、この軸支箇所を中心として揺動可能となっている。揺動することで、第2パウル70は、押圧部71がガイドリング60の外側筒部62を押圧する押圧位置(参照:
図9)と、押圧部71が外側筒部62を押圧しない非押圧位置(参照:
図8)との間で、ガイドリング60に対して移動する。このように、第2パウル70は、ガイドリング60に対する押圧部71の移動によって前記摩擦力を調整する。
【0034】
第2リターンスプリング80は、例えば板バネからなり、一端81が第2パウル70に取り付けられ、他端82がロアカバー16に取り付けられる。第2リターンスプリング80は、第2パウル70を、押圧部71がガイドリング60から離れる方向に(すなわち非押圧位置に向かって)付勢する。
【0035】
フリクションスプリング90は、第2パウル70とアイドルギア8とを連結する。フリクションスプリング90は、例えば線バネからなり、一端91が第2パウル70に取り付けられ、他端92がアイドルギア8の中心部に取り付けられる。フリクションスプリング90は、アイドルギア8の回転を第2パウル70の移動(揺動)に変換する伝達部材として機能する。
【0036】
具体的には、アイドルギア8が
図3において時計回りに回転すると、フリクションスプリング90は、第2パウル70に力を印加し、押圧部71がガイドリング60を押圧する方向に第2パウル70を移動させる。第2パウル70は第2リターンスプリング80の付勢力に抗して移動し、押圧部71がガイドリング60を押圧する。他方、アイドルギア8が
図3において反時計回りに回転すると、フリクションスプリング90は、上記とは反対方向に第2パウル70に力を印加し、押圧部71がガイドリング60から離間する方向に第2パウル70を移動させる。すると、第2リターンスプリング80の付勢力ともあいまって、第2パウル70を移動させ、押圧部71がガイドリング60から離間するようになる。
【0037】
ここで、アイドルギア8が停止している場合、第2パウル70の押圧部71はガイドリング60を押圧又は接触しないように構成される。これは、第2リターンスプリング80及びフリクションスプリング90のばね力をバランスさせることで行う。
【0038】
続いて、クラッチ機構10の作動の概略を説明する。クラッチ機構10は、上記構成により、モータ4が正転(第1の方向:
図8の矢印100)するときのみ、モータ4からスピンドル3への動力の伝達を可能にする。また、クラッチ機構10は、フリクションベースで作動する。具体的には、モータ4の停止時は、クラッチ機構10にはフリクション(摩擦)はないか、ほぼない状態となる。モータ4が正転すると、クラッチ機構10にフリクションが発生し、クラッチ機構10が結合する。すなわち、モータ4からスピンドル3への動力の伝達を遮断したOFF状態(以下「クラッチOFF」という。)から、モータ4からスピンドル3への動力の伝達を可能にしたON状態(以下「クラッチON」という)へと切り替わる。その後、モータ4が停止すると、クラッチ機構10は、クラッチONからクラッチOFFへと切り替わる。すなわち、モータ4の逆転を行うことなく、クラッチ機構10が自動的に解除する。
【0039】
ただし、他の実施態様では、モータ4を少し逆転させて、クラッチ機構10を高速で解除するようにしてもよい。ここで、「モータ4を少し逆転」とは、クラッチ機構10の解除のためにモータ4を逆転させる回転数(第2の回転数)が、クラッチ機構10の結合のためにモータ4を正転させる回転数(第1の回転数)よりも少ないことを意味する。以下では、簡便な説明のため、モータ4を逆転させずにクラッチOFFとする、クラッチ機構10の自動解除を中心に説明し、必要に応じて、モータ4を少し逆転させてクラッチOFFとする、クラッチ機構10の高速解除に言及する。
【0040】
図8~11を参照して、クラッチ機構10の具体的な作動について説明する。
【0041】
1.クラッチOFF(初期位置)
まず、
図8に示すように、モータ4の停止時(非駆動時)では、第1パウル40は、ラチェット30に対して係合しない非係合位置にある。このとき、第1パウル40の係合部41は、第1リターンスプリング50の付勢力によって、ガイドリング60のカム部65に当接する。また、第2パウル70は、ガイドリング60を押圧しない非押圧位置にある。このとき、第2パウル70の押圧部71は、第2リターンスプリング80及びフリクションスプリング90のばね力のバランスによって、ガイドリング60の外周面を押圧又は接触しない。また、ガイドリング60の連結片66は、ファイナルギア9の連結溝9bの一方の端部側(反時計周り方向の端部側)に位置しており、連結溝9bの他方の端部側には隙間が存在している。
【0042】
モータ4の停止時では、クラッチOFFとなっている。クラッチ機構10の構成要素のうち、スピンドル3と一体回転するラチェット30のみが回転可能であり、シートベルト2の通常の巻き取り及び引き出しが可能である。
【0043】
なお、
図8には、モータ4が正転したときのギア列の回転方向を矢印100で示し、モータ4が逆転したときのギア列の回転方向を矢印200で示している。矢印100の回転方向は、シートベルト2を巻き取る方向となっている。
【0044】
2.クラッチONへの切り替え
図9に示すように、モータ4が正転し始めると、出力ギア7、アイドルギア8及びファイナルギア9が矢印100の方向に回転し始める。すると、ファイナルギア9は、まず、連結溝9bにおける上記の隙間分、ガイドリング60に対して相対的に回転する。そして、この相対的な回転によって、連結溝9bの他方の端部(時計周り方向の端部)がガイドリング60の連結片66に接触し、これにより連結溝9bと連結片66とが連結する。かかる連結を介して、ガイドリング60が、ファイナルギア9と同方向(矢印100の方向)に一体的に回転しようとする。
【0045】
しかし、ファイナルギア9がガイドリング60に対して相対的に回転し始めるのと同時に、アイドルギア8に連結されたフリクションスプリング90が、アイドルギア8の回転によって第2パウル70に力(F2)を印加し、第2パウル70の押圧部71をガイドリング60の外周面に押圧する。これによって、ガイドリング60に対する摩擦力が高まり、ガイドリング60がファイナルギア9と一体的に回転しないように、ガイドリング60を停止させる。
【0046】
そして、ガイドリング60の回転が停止させられる一方で、ファイナルギア9の回転が続行すると、ファイナルギア9に保持された第1パウル40が、ファイナルギア9の回転によって、第1リターンスプリング50の付勢力に抗しながら非係合位置から係合位置に移動させられる。このとき、第1パウル40の係合部41が、ガイドリング60のカム部65に案内されて、ラチェット30の外歯32に係合する。これにより、クラッチOFFからクラッチONに切り替わる。
【0047】
このように、クラッチ機構10は、モータ4が所定の回転数(第1の回転数)だけ正転する際、第2パウル70によってガイドリング60の回転を停止させる一方で、ガイドリング60に対するファイナルギア9の相対的な回転によって、第1パウル40を係合位置に移動させてラチェット30に係合させて、それによりクラッチOFFからクラッチONに切り替わる。
【0048】
3.クラッチONの継続
その後、モータ4が所定の回転数(第1の回転数)を超えてさらに正転すると、第1パウル40がラチェット30に係合した状態で、ファイナルギア9の回転とともにラチェット30が一体回転する。これにより、モータ4の回転がスピンドル3に伝達されて、シートベルト2が巻き取られる。
【0049】
ここで、ラチェット30がファイナルギア9と一体回転する際、ガイドリング60も一体回転する。すなわち、ガイドリング60は、第2パウル70によって押圧され続けながら、連結片66と連結溝9bとの連結を介してファイナルギア9と一体的に回転する。
【0050】
このような一体回転が可能なのは、フリクションスプリング90が第2パウル70に作用させる力(F2)と、第1リターンスプリング50が第1パウル40に作用させる力(F1)との関係を、F2>F1に設定しているからである。第1パウル40に作用する力F1によって、第1パウル40の係合部41がガイドリング60のカム部65に当接させられるところ、F2>F1に設定しているため、ファイナルギア9が回転する間は、第1パウル40が係合位置にとどまり、第1パウル40の係合部41とラチェット30との係合が維持される。
【0051】
4.クラッチOFFへの切り替え
次に、
図10に示すように、モータ4が停止すると、ファイナルギア9の回転が止まるため、ラチェット30及びガイドリング60の回転が止まる。また、アイドルギア8の回転が止まるため、フリクションスプリング90から第2パウル70への力F2がなくなる。そして、第2リターンスプリング80の付勢力によって、第2パウル70がガイドリング60を押圧しない非押圧位置に移動させられる。すなわち、停止したガイドリング60は、第2パウル70による摩擦力を低下又は解放される。
【0052】
すると、第1リターンスプリング50の付勢力(F1)によって、第1パウル40の係合部41が、ラチェット30の外歯32から離脱する方向に動かされ、ガイドリング60のカム部65を押す。カム部65を押す力には、ガイドリング60を反時計回りに回転させる方向の分力(ベクトル成分)が含まれるように構成されている。これにより、
図11に示す矢印300の方向(反時計回り)に、ガイドリング60が回転される。
【0053】
このとき、回転停止中のファイナルギア9に対してガイドリング60が相対的に回転する。すなわち、ガイドリング60は、連結片66と連結溝9bとの連結を解除される方向へと、ファイナルギア9に対して相対的に回転する。なお、
図11において、連結片66が、連結溝9bの他方の端部(時計周り方向の端部)から離れていることに留意されたい。ガイドリング60が回転すると、第1リターンスプリング50の付勢力(F1)によって、第1パウル40は、ラチェット30の外歯32から離脱し、初期位置(非係合位置)に戻る。これにより、クラッチ機構10は、クラッチONからクラッチOFFへと切り替わる。
【0054】
4-1.クラッチOFFへの切り替えの際に、モータ4を少し逆転させる場合
上述したように、他の実施態様では、クラッチONからクラッチOFFへと切り替える際に、モータ4を少し逆転させてもよい。
図9は、モータ4を第1の回転数だけ正転させたときを示したものであるが、
図9を参照して説明する。
【0055】
図9の状態(ON状態)からモータ4を少し逆転させると、第2パウル70がガイドリング60の外周面から離れる方向に即座に動き、ガイドリング60に対する摩擦力を即座に解放する。このため、モータ4を少し逆転させる場合、ガイドリング60に対する摩擦力の解放タイミングが早くなる。なお、モータ4の逆転を停止させると、その後の動作(第1パウル40の付勢力によるガイドリング60の回転、第1パウル40の非係合位置への移動)は上記4(
図10及び11)で説明したとおりである。
【0056】
また、
図9の状態からモータ4を少し逆転させると、ファイナルギア9の逆転によって、第1パウル40がラチェット30から離脱することが促される。このため、モータ4を少し逆転させる場合、第1パウル40の非係合位置への移動が迅速化される。
【0057】
したがって、ON状態からモータ4を少し逆転させる場合、クラッチ機構10がクラッチONからクラッチOFFへと高速に切り替わるようになる。
【0058】
以上説明したとおり、本実施形態に係るシートベルト用リトラクタ1は、シートベルト2を巻き取るスピンドル3と、スピンドル3を回転させる動力を発生するモータ4と、モータ4からの動力をスピンドル3に伝達可能な動力伝達機構5と、を備えたシートベルト用リトラクタ1であって、動力伝達機構5は、モータ4が第1の方向(矢印100)に回転するとき、モータ4からスピンドル3への動力の伝達を可能にするクラッチ機構10を備える。そして、クラッチ機構10は、モータ4が第1の方向に第1の回転数だけ回転する際、クラッチOFFからクラッチONに切り替わり、かつ、モータ4が第1の方向と反対の第2の方向(矢印200)に第1の回転数よりも少ない第2の回転数だけ回転する際、又は、モータ4が停止する際、クラッチONからクラッチOFFに切り替わるように構成されている。
【0059】
かかる態様によれば、クラッチ結合のために、モータ4を第1の方向に回転させるものの、クラッチ解除のためには、モータ4を停止すれば足りる。あるいは、モータ4を第2の方向に少し回転させれば済む。これにより、上記のプリクラッシュ作動及びコンフォート作動のためのモータ4の総回転数を減らすことができる。したがって、モータ4への負荷を減らすことができ、モータ4の小型化・長寿命化を図ることができる。加えて、クラッチ解除をモータ4の停止又は少回転で行えるため、迅速なクラッチ解除が可能となる。また、クラッチ解除をモータ4の停止だけで行う場合には、モータ4を逆転するための制御が不要になるため、モータ4の駆動を制御するECUを単純化でき、そのコスト低減を図ることができる。
【0060】
とりわけ、本実施形態に係るシートベルト用リトラクタ1では、クラッチ機構10は、スピンドル3とともに回転するラチェット30(第1回転部材)と、ラチェット30に対して係合する係合位置と係合しない非係合位置との間で移動可能に構成された第1パウル40と、第1パウル40を保持してモータ4の回転に応じて回転するファイナルギア9(第2回転部材)と、ファイナルギア9と一体的に及び相対的に回転可能に構成されたガイドリング60(フリクション部材)と、ガイドリング60に対する摩擦力を調整する第2パウル70と、を備える。そして、クラッチ機構10は、モータ4が第1の方向に第1の回転数だけ回転する際、第2パウル70によってガイドリング60に対する摩擦力を高め、ガイドリング60に対するファイナルギア9の相対的な回転によって第1パウル40を非係合位置から係合位置に移動させ、それによりクラッチOFFからクラッチONに切り替わる。また、クラッチ機構10は、モータ4が第2の方向に第2の回転数だけ回転する際、又は、モータ4が停止する際、第2パウル70によるガイドリング60に対する前記摩擦力を低下させ又は解放し、ファイナルギア9に対するガイドリング60の相対的な回転によって第1パウル40を係合位置から非係合位置に移動させ、それによりクラッチONからクラッチOFFに切り替わる。かかる態様によれば、ファイナルギア9及び第1パウル40に対して、ガイドリング60及び第2パウル70を設計することで、構造上、上記のクラッチ動作を実現することができる。
【0061】
また、本実施形態において、第2パウル70は、ガイドリング60の外周面に接触して前記摩擦力を調整する。また、第2パウル70は、ガイドリング60を押圧可能な押圧部71を有し、ガイドリング60に対する押圧部71の移動によって前記摩擦力を調整する。さらに、第2パウル70の押圧部71は、モータ4の回転に連動して移動する。また、第2パウル70は、モータ4が第1の方向に第1の回転数だけ回転する際、押圧部71がガイドリング60を押圧することによって、ガイドリング60の回転を停止させると共に、モータ4が第2の方向に第2の回転数だけ回転する際、又は、モータ4が停止する際、押圧部71によるガイドリング60への押圧を解放する。このような態様によれば、第2パウル70によるガイドリング60の摩擦力の調整を応答性良く行うことができる。
【0062】
さらに、本実施形態において、クラッチ機構10は、第2パウル70と、モータ4の回転に応じて回転するアイドルギア8(第3回転部材)とを連結するフリクションスプリング90をさらに備え、フリクションスプリング90は、モータ4が第1の方向に回転するとき、押圧部71がガイドリング60を押圧する方向に第2パウル70を移動させ、モータ4が第2の方向に回転するとき、押圧部71がガイドリング60から離れる方向に第2パウル70を移動させる。かかる態様によれば、アイドルギア8を利用してフリクションスプリング90を移動させるという簡易な構成により、第2パウル70によるガイドリング60の摩擦力の調整を行うことができる。
【0063】
また、本実施形態において、クラッチ機構10は、第2パウル70を、押圧部71がガイドリング60から離れる方向に付勢する第2リターンスプリング80を備える。かかる態様によれば、第2リターンスプリング80によって、クラッチ解除の際、押圧部71によるガイドリング60への押圧を低下又は解放させることができる。
【0064】
さらに、本実施形態において、クラッチ機構10は、ファイナルギア9に保持され、第1パウル40を非係合位置に向かって付勢する第1リターンスプリング50を備える。また、第1リターンスプリング50は、(1)モータ4が第1の方向に第1の回転数だけ回転する際、ファイナルギア9と一緒に回転し、第1パウル40が第1リターンスプリング50に抗して係合位置に移動することを許容し、(2)モータ4が第1の回転数後にさらに第1の方向に回転する際、ファイナルギア9と一緒に回転し、第1パウル40が係合位置にとどまることを許容し、(3)モータ4が第2の方向に第2の回転数だけ回転する際、又は、モータ4が停止する際、第1パウル40を付勢して、それにより第1パウル40がガイドリング60をファイナルギア9に対して相対的に回転させる。かかる態様によれば、第1パウル40及びファイナルギア9に関連付けた第1リターンスプリング50を利用することで、クラッチ結合・解除を含むプリクラッシュ作動及びコンフォート作動を、モータ4への負荷を低減しながら行うことができる。
【0065】
また、本実施形態において、ラチェット30は、外歯32(被係合部)を有し、第1パウル40は、係合位置において外歯32に係合し且つ非係合位置において外歯32から離脱する係合部41を有し、第1リターンスプリング50は、第1パウル40を、係合部41が外歯32から離脱する方向に付勢する。また、第1パウル40の係合部41は、モータ4が第2の方向に第2の回転数だけ回転する際、又は、モータ4が停止する際、第1リターンスプリング50によって外歯32から離脱する方向に動き、ガイドリング60を押して、ガイドリング60をファイナルギア9に対して相対的に回転させる。かかる態様によれば、クラッチ解除の際、第1パウル40の係合部41を利用して、ガイドリング60をファイナルギア9に対して相対的に回転させることができる。
【0066】
また、本実施形態において、第1リターンスプリング50、係合部41及びガイドリング60は、モータ4が第2の方向に第2の回転数だけ回転する際、又は、モータ4が停止する際、係合部41がガイドリング60を押す力に、ガイドリング60を回転させる方向の分力を含むように構成されている。かかる態様によれば、構造上、ガイドリング60を回転させてクラッチ解除することができ、クラッチの自動解除に有用となる。
【0067】
さらに、本実施形態において、ファイナルギア9は、連結溝9b(連結受け部)を有し、ガイドリング60は、連結溝9bに対応して連結片66(連結部)を有し、(1)モータ4が第1の方向に回転する際、まず、ガイドリング60に対するファイナルギア9の相対的な回転によって連結溝9bに連結片66が連結し、その後、連結溝9b及び連結片66の連結を介してガイドリング60がファイナルギア9と一体的に回転し、(2)クラッチONから、モータ4が第2の方向に回転する際、又は、モータ4が停止する際、ガイドリング60は、連結溝9b及び連結片66の前記連結が解除される方向へと、ファイナルギア9に対して相対的に回転することを許容される。かかる態様によれば、簡易な構造により、ガイドリング60をファイナルギア9と一体的に及び相対的に回転させることができる。
【0068】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。例えば、第2パウル70は、爪形の部材でなくてもよい。第2パウル70は、フリクション部材(ガイドリング60)に対する摩擦力を調整することができる摩擦力調整部材であれば、他の形状を取ることができる。また、連結溝9b及び連結片66の個数はそれぞれ複数かつ同数に限るものではなく、1つであってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…シートベルト用リトラクタ、2…シートベルト、3…スピンドル4…モータ、4a…出力軸、5…動力伝達機構、6…リトラクタフレーム、7…出力ギア、8…アイドルギア(第3回転部材)、9…ファイナルギア(第2回転部材)、9a…開口縁、9b…連結溝(連結受け部)、10…クラッチ機構、13…巻取りバネ装置、14…ロック機構、15…プリテンショナ、16…ロアカバー、16a…収納凹部、16b…軸受け部、17…アッパーカバー、17a…軸受け部、30…ラチェット(第1回転部材)、31…中心軸部、32…外歯、40…第1パウル、41…係合部、42…中央部、50…第1リターンスプリング、51…一端、52…他端、60…ガイドリング(フリクション部材)、61…内側筒部、62…外側筒部、63…底部、65…カム部、66…連結片(連結部)、70…第2パウル、71…押圧部、72…中央部、80…第2リターンスプリング、81…一端、82…他端、90…フリクションスプリング、91…一端、92…他端、100…正方向の回転、200…逆方向の回転、300…ガイドリングの回転