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  • 特許-酸素低減システム 図1
  • 特許-酸素低減システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】酸素低減システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/00 20060101AFI20240213BHJP
   A62C 35/02 20060101ALI20240213BHJP
   A62C 2/04 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
A62C3/00 J
A62C35/02 A
A62C2/04 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022108880
(22)【出願日】2022-07-06
(65)【公開番号】P2024007662
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2022-07-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390010342
【氏名又は名称】エア・ウォーター防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川本 達也
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-276428(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0105316(KR,A)
【文献】特許第5045758(JP,B2)
【文献】特開2006-110128(JP,A)
【文献】特開2004-350758(JP,A)
【文献】特開平11-076445(JP,A)
【文献】特表2009-515310(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0263413(US,A1)
【文献】特開2007-322119(JP,A)
【文献】特開2015-092889(JP,A)
【文献】特開2011-050794(JP,A)
【文献】特開2007-280265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 3/00
A62C 35/02
A62C 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から大気が供給される部屋の酸素を低減するシステムであって、
前記部屋の空気を吸い込んでその空気から酸素を減少させて酸素が減少した窒素富化空気を前記部屋に供給するとともに酸素が増加した酸素富化排気を前記部屋の外へ送る装置を備え、運転を続けると酸素濃度は平衡状態となる、酸素低減システム。
【請求項2】
前記装置は前記部屋の中に設けられる、請求項1に記載の酸素低減システム。
【請求項3】
前記装置は前記部屋に外に設けられており、前記部屋と前記装置とを接続して前記部屋の空気を前記装置へ送る第一経路と、前記部屋と前記装置とを接続して窒素富化空気を前記部屋へ送る第二経路とを備えた、請求項1に記載の酸素低減システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸素を低減する酸素低減システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素低減システムは、たとえば特許第5045758号(特許文献1)、特許第5021750号(特許文献2)、特許第4809077号(特許文献3)および特許第4679113号(特許文献4)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5045758号
【文献】特許第5021750号
【文献】特許第4809077号
【文献】特許第4679113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシステムでは、部屋の酸素濃度が低くなりすぎるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
酸素低減システムは、外部から大気が供給される部屋の酸素を低減するシステムであって、部屋の空気を吸い込んでその空気から酸素を減少させて酸素が減少した窒素富化空気を部屋に供給するとともに酸素が増加した酸素富化排気を部屋の外へ送る装置を備える。
【0006】
このように構成された酸素低減システムにおいては、酸素が減少した窒素富化空気が装置から部屋へ供給されるものの、部屋には大気が供給されるため運転を続けると酸素濃度は平衡状態となり、酸素が減少しすぎることを防止できる。運転当初は部屋の空気の酸素割合は大気の酸素割合である。運転を継続すると部屋の酸素割合が徐々に低下する。これにより酸素富化排気の酸素割合も徐々に低下する。酸素富化排気の酸素割合が大気の酸素割合と同じになると、外部から部屋に供給される大気の酸素割合と部屋から外部へ排出される酸素富化排気の酸素割合とが同じとなり、部屋における酸素割合(窒素割合)が平衡状態となる。そのため、過度に酸素が減少することを防止できる。
【0007】
好ましくは、装置は部屋の中に設けられる。この場合、装置を部屋に設けることで、装置と部屋との間の配管を簡素化または省略することが可能になる。
【0008】
好ましくは、装置は部屋に外に設けられており、部屋と装置とを接続して部屋の空気を装置へ送る第一経路と、部屋と装置とを接続して酸素が減少した空気を部屋へ送る第二経路とを備える。この場合、部屋に装置が設けられないため、部屋を効率よく利用することが可能となる。さらに、部屋に入ること無く装置をメンテナンスすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態1に従った、部屋2の内部に設けられた窒素発生装置3を有する酸素低減システム1の模式図である。
図2図2は、実施の形態2に従った、部屋2の外部に設けられた窒素発生装置3を有する酸素低減システム1の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない.各実施の形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に従った、部屋2の内部に設けられた窒素発生装置3を有する酸素低減システム1の模式図である。図1で示すように、実施の形態1に従った酸素低減システム1は、矢印4で示すように外部から大気が供給される部屋2の酸素を低減する酸素低減システム1である。酸素低減システム1は、矢印5で示すように部屋2の空気を吸い込んでその空気から酸素を減少させて酸素が減少した窒素富化空気を矢印6で示すように部屋2に供給するとともに酸素が増加した酸素富化排気を矢印7で示すように部屋の外へ送る装置としての窒素発生装置3を備える。窒素発生装置3は部屋2の内部に設けられる。
【0012】
防火システムとして、スプリンクラーのように火災発生後に消火する設備もあるが、事前に火災の発生を予防するシステムがある。
【0013】
火災を予防するシステムの一つであるイナートシステム(図1)は、部屋2の内部に対する防火システムで、室内酸素濃度を大気よりも下げておく手法である。大気中の酸素濃度は約21体積%だが、これが15%程度まで減少すると発火が困難になる。この性質を利用して、保護したい室内空気の酸素濃度を人為的に常時下げることで、火災に対する予防を行う。また、酸素濃度を下げすぎると人や生物が窒息して死亡するため、人が出入りする可能性のある区画は12%程度以上の酸素濃度に設定することが多い。
【0014】
このような酸素低減システム1では不活性ガス(窒素)が矢印6で示すように送り続けられた場合も、部屋2の内部の酸素濃度が想定より下がることはあり得ない。矢印5で示す方向に流れる原料としての空気は部屋2の内部から供給される。不活性ガスは部屋内部に供給される。酸素富化排気は矢印7で示すように室外に放出することで部屋2の内部が陰圧になり、部屋2の隙間等から矢印4で示すように吸込空気が発生する。
【0015】
ここで酸素量についてのマテリアルバランスを考える。
【0016】
前述の原料空気量/製品N量=A/N=3.5の時のデータを表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
矢印5で示す原料空気量が3.5、矢印6で示す窒素量が1のため、矢印7で示す酸素富化排気の量は2.5である。また矢印7で示す酸素富化排気が矢印4で示す吸込空気量と一致するはずなので、吸込空気量も2.5である。
【0019】
矢印6で示す窒素濃度100%(酸素濃度0%)、矢印4で示す吸込空気と初期の部屋2内の酸素濃度を21%と仮定する。窒素発生装置3の起動開始時の酸素富化排気中の酸素量、酸素濃度は表1のように計算できる。この状態では酸素富化排気に含まれる酸素量が、吸込空気に含まれる酸素量よりも多いため、部屋2内の酸素濃度が減少していく。また部屋2内の空気の酸素濃度が減少すると、原料空気量は変化しないので酸素富化排気中の酸素も減少する。
【0020】
室内酸素濃度が15%まで低下したとき、酸素富化排気と吸込大気中の酸素量が一致し、室内酸素濃度が平衡に至る。つまり、不活性ガス発生装置としての窒素発生装置3が動き続けた場合も、本システムでは物理原理的にこれ以上室内酸素濃度が低下せず、人体に安全である。
【0021】
表2では、各々の気体の流量を変化された場合の平衡時の酸素量を示している。
【0022】
【表2】
【0023】
窒素発生装置3を運転し続けるだけで、目標酸素濃度に到達するため、室内酸素濃度による制御を取り付ける必要がない。(ただし、ランニングコストのため取り付けても良い)。制御がなければ、酸素濃度計やバイパス、自動弁など必然的に機器点数も少なくなりシンプルな構造である。そのため、故障の可能性が低くなり、イニシャルコストが下がる。また特許文献1から4で用いられるタンクや室内への空気供給ライン(もしくは酸素富化ガスライン)も必要ないため省スペースである。
【0024】
さらに、本システムでは圧縮装置一体型のNPSAのような装置を、保護したい部屋に置けば、酸素富化排気を室外に送るダクトを取り付けるだけでイナートシステムが完成する。A/N(矢印5の流量/矢印6の流量)のみあらかじめ調整した装置を用意すればよく、従来の配管を敷設するようなイナートシステムより簡易に設置できる。
【0025】
室内で人間が活動する際は酸素を消費するため、必ず換気(外気を部屋2内に給気)が必要である。特許文献1および2では圧縮空気を室内に送り込むことで、実質的に換気を行っている。その他イナートシステムでも、記載がなくとも、別に室内に取り付けられた換気扇などがない限り、酸素濃度が減少する。
【0026】
実施の形態の酸素低減システム1では、特に換気ライン等を敷設せずとも、室内が陰圧になることから自然と室外空気を部屋2の通気口もしくは隙間から取り込むことになる。換気システムを別に用意する必要がない。
【0027】
設定酸素濃度はA/Nのみによって決まり、部屋2の大きさや形状に影響を受けない。流量によって、部屋2の空気を置換する速度が変わってくるので、流量のみいくつかラインナップを作れば、どんな部屋2にも設計変更なしで対応できる。
【0028】
部屋2内の酸素濃度を測定するための測定装置を設けてもよい。測定装置は、たとえば1分間に1回の頻度で連続的に酸素濃度を測定する。測定装置によって測定された酸素が所定の値以下となると、測定装置に接続された制御装置が、窒素発生装置3の運転を停止することができる。
【0029】
測定装置によって測定された酸度濃度が所定値以下となると、部屋2の中の人間に警報または警告を与えることができる。警報または警告は、たとえば、音または光により行うことができる。
【0030】
酸素低減雰囲気であることを示す掲示を部屋2におけるすべての出入口に配置することができる。
【0031】
窒素発生装置3の運転を制御する制御装置は、酸素もしくはその他の物質の測定結果、警報、監視装置上での故障状態の表示、状態の変化および資源管理情報を収集し、処理し、適宜送信する。安全に関連した構成要素への配線に断線および短絡がないかを制御装置が監視することができる。
【0032】
制御装置は、平均酸素濃度、警報、警告、故障表示、運転時間および待機時間の少なくともいずれかのデータを記録し、所定の期間保存できるものであってもよい。これらのデータを保持することにより、部屋2内での異変、たとえば人間の体調不良、が起こった時のその異変の原因を究明することができる。
【0033】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に従った、部屋2の外部に設けられた窒素発生装置3を有する酸素低減システム1の模式図である。
【0034】
図2で示すように、実施の形態2に従った酸素低減システム1においては、窒素発生装置3が部屋2の外に置かれている点において、実施の形態1に従った酸素低減システム1と異なる。部屋2と窒素発生装置3とは、部屋2と窒素発生装置3とを接続して窒素富化空気を部屋へ送る第二経路としての配管8、および、部屋2と窒素発生装置3とを接続して部屋2の空気を窒素発生装置3へ送る第一経路としての配管9で結ばれている。
【0035】
配管9内を矢印5で示すように部屋2内の空気が流れる。空気は窒素発生装置3へ供給される。配管8内を矢印6で示すように窒素富化空気が流れる。
【0036】
このように窒素発生装置3を部屋2の外に置くことで、部屋2内を充分に活用することができる。さらに、窒素発生装置3の振動およびノイズが部屋2に伝わることを防止できる。窒素発生装置3が過熱したとしても部屋2内に影響を及ぼすことがない。
【0037】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、ここで示した実施の形態は様々に変形することが可能である。まず、この酸素低減システム1は、美術館、倉庫などの防護区画を保護するものとして使用される。
【0038】
これとは反対に、酸素富化空気を部屋2の内部に送り、窒素富化空気を部屋2の外へ送ることで、図1および2において酸素富化システムを構成することができる。この場合であっても矢印4で示すように外部の大気が部屋2内に流入する。部屋2内の空気を矢印5で示すように窒素発生装置3に供給する。
【0039】
これにより、部屋2の中の酸素濃度が高くなる。しかしながら、運転を継続すると窒素富化空気中の酸素濃度と大気の酸素濃度とが同じになるため、部屋2内の酸素の濃度が平衡状態となる。その結果、酸素の濃度が過剰に上昇することを防止できる。
【0040】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0041】
1 酸素低減システム、2 部屋、3 窒素発生装置、4-7 矢印、8,9 配管。
図1
図2