(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ミスト処理装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/18 20060101AFI20240213BHJP
A61L 101/06 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
A61L2/18
A61L101:06
(21)【出願番号】P 2022117945
(22)【出願日】2022-07-25
(62)【分割の表示】P 2017043834の分割
【原出願日】2017-03-08
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 修介
(72)【発明者】
【氏名】千草 尚
(72)【発明者】
【氏名】西村 孝司
(72)【発明者】
【氏名】東間 秀之
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-306577(JP,A)
【文献】特開平08-243152(JP,A)
【文献】特開2004-163055(JP,A)
【文献】特開2008-264506(JP,A)
【文献】特開2002-058417(JP,A)
【文献】特開平05-245189(JP,A)
【文献】特開平10-316517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/18
A61L 101/06
B05B 15/00
B05B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を載置可能な噴霧空間を規定するハウジングと、
殺菌成分を含むミストを前記噴霧空間に噴霧し前記対象物に供給する噴霧装置と、
前記ミストおよび水分を含む空気を前記噴霧空間から前記ハウジングの外部に排気する排気機構と、
前記噴霧空間に前記対象物が設置された状態で前記噴霧装置および前記排気機構を駆動して前記ミストの噴霧を開始するコントローラと、
を備え、
前記コントローラが、前記ハウジングの噴霧空間がハウジング外部に対して陽圧となるように制御する、ミスト処理装置。
【請求項2】
前記排気機構は、前記ハウジングに設けられた排気口と、前記排気口に設けられた排気フィルタと、前記排気口および前記排気フィルタを通して、前記噴霧空間から前記ミストおよび水分を含む空気を外部に排気する排気ファンと、を備えている請求項1に記載のミスト処理装置。
【請求項3】
前記排気フィルタは、前記殺菌成分を吸着あるいは失活する吸着材あるいは失活材を含んでいる請求項2に記載のミスト処理装置。
【請求項4】
前記排気ファンは、前記ハウジングの外に設けられ、前記排気口に対向している請求項2又は3に記載のミスト処理装置。
【請求項5】
前記排気機構は、前記排気口に装着され、前記噴霧空間に開口する一端と、前記ハウジングの外部に開口する他端とを有する排気筒を備え、前記排気フィルタは前記排気筒内に配置されている請求項2又は3に記載のミスト処理装置。
【請求項6】
前記ハウジングは、前記噴霧空間に対象物を出し入れするための挿入口、および前記挿入口を開閉する扉を備えている請求項1に記載のミスト処理装置。
【請求項7】
前記噴霧装置は、前記噴霧空間に開口した噴霧口と、前記ハウジングの外部に開口し外気を吸気するための吸気口と、を備えている請求項1に記載のミスト処理装置。
【請求項8】
前記噴霧装置は、殺菌水を貯溜する貯溜部と、前記噴霧口に対向して設けられた噴霧フィルタと、前記噴霧フィルタに前記殺菌水を供給するポンプと、前記吸気口から外気を吸気し前記噴霧フィルタを通して送風する送風ファンと、を備えている請求項7に記載のミスト処理装置。
【請求項9】
前記噴霧装置は、殺菌水を貯溜する容器と、前記容器内を加圧するポンプと、前記容器内に設けられた給水管と、前記容器に設けられ給水管に接続された噴霧ノズルと、を備え、前記噴霧ノズルは、前記噴霧空間に開口する噴霧口を有している請求項1に記載のミスト処理装置。
【請求項10】
前記噴霧装置は、前記噴霧空間に開口する噴霧口を有する筐体と、前記筐体内に設けられた超音波発振子と、殺菌水を貯溜し前記超音波発振子に殺菌水を供給する給水タンクと、を備えている請求項1に記載のミスト処理装置。
【請求項11】
前記噴霧装置は、次亜塩素酸水のミストを噴霧する請求項1から10のいずれか1項に記載のミスト処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、殺菌水をミストの状態で対象物に噴霧するミスト処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活における様々な物、場所での衛生面や健康面の観点から、これらを殺菌することが求められている。今日まで、これらの殺菌には、次亜塩素酸ナトリウムに代表される殺菌水が使用されている。
【0003】
しかしながら、食品、青果物、衣類、畜舎、居住空間など、1)濡らせない対象物(濡らすことでダメージを受けてしまうモノ、濡らすことで使用できなくなるモノなど)、2)もしくは形状的に液体が細部まで到達しない構造を持つもの、もしくは対象物に撥水性があり液体が細部まで届かないもの、に対してウェットプロセス以外の殺菌、脱臭対策が求められている。これを解決するため、例えば、電解水の次亜塩素酸成分をドライミスト状態で空間噴霧することにより、ドライプロセス処理にて対象物を濡らすことなく殺菌することが可能であり、様々な用途での使用が考えられる。
【0004】
しかし、次亜塩素酸成分は腐蝕性があること、次亜塩素酸成分の空間噴霧に伴い、微量の塩素ガスが発生する場合があることから、環境や人体への影響を考慮すると、密閉空間で実施することが望ましい。また、次亜塩素酸成分の噴霧に伴い水分が放出される。そのため、密閉空間で噴霧を行う場合、放出された水分を回収しないと密閉空間の温度が増加する。気化方式の噴霧装置では、温度増加に伴いドライミスト放出量が減少する。更に、超音波方式の噴霧装置では、放出された水分が噴霧空間で結露する問題が発生する。
【0005】
噴霧空間中の水分回収方法として、例えば、デシカント方式やコンプレッサ方式の除湿機構を用いることで噴霧空間内の湿度を低減できるが、装置全体の構成が複雑化する。また、除湿機構で発生する熱により噴霧空間の温度が上昇してしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態の課題は、殺菌成分を含むミストを対象物に安定して供給することが可能なミスト処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、ミスト処理装置は、対象物を載置可能な噴霧空間を規定するハウジングと、殺菌成分を含むミストを前記噴霧空間に噴霧し前記対象物に供給する噴霧装置と、前記ミストを含む空気を前記噴霧空間から前記ハウジングの外部に排気する排気機構と、前記噴霧空間に前記対象物が設置された状態で前記噴霧装置および前記排気機構を駆動して前記ミストの噴霧を開始するコントローラと、を備えている。
また、前記課題を解決するために本発明は以下のような手段を取ることもできる。
(1)対象物を載置可能な噴霧空間を規定するハウジングと、
殺菌成分を含むミストを前記噴霧空間に噴霧し前記対象物に供給する噴霧装置と、
前記ミストおよび水分を含む空気を前記噴霧空間から前記ハウジングの外部に排気する
排気機構と、
を備えるミスト処理装置。
(2)前記排気機構は、前記ハウジングに設けられた排気口と、前記排気口に設けられた排気フィルタと、前記排気口および前記排気フィルタを通して、前記噴霧空間から前記ミストおよび水分を含む空気を外部に排気する排気ファンと、を備えている(1)に記載のミスト処理装置。
(3)前記排気フィルタは、前記殺菌成分を吸着あるいは失活する吸着材あるいは失活材を含んでいる(2)に記載のミスト処理装置。
(4)前記排気ファンは、前記ハウジングの外に設けられ、前記排気口に対向している(2)又は(3)に記載のミスト処理装置。
(5)前記排気機構は、前記排気口に装着され、前記噴霧空間に開口する一端と、前記ハウジングの外部に開口する他端とを有する排気筒を備え、前記排気フィルタは前記排気筒内に配置されている(2)又は(3)に記載のミスト処理装置。
(6)前記ハウジングは、前記噴霧空間に対象物を出し入れするための挿入口、および前記挿入口を開閉する扉を備えている(1)に記載のミスト処理装置。
(7)前記噴霧装置は、前記噴霧空間に開口した噴霧口と、前記ハウジングの外部に開口し外気を吸気するための吸気口と、を備えている(1)に記載のミスト処理装置。
(8)前記噴霧装置は、殺菌水を貯溜する貯溜部と、前記噴霧口に対向して設けられた噴霧フィルタと、前記噴霧フィルタに前記殺菌水を供給するポンプと、前記吸気口から外気を吸気し前記噴霧フィルタを通して送風する送風ファンと、を備えている(7)に記載のミスト処理装置。
(9)前記噴霧装置は、殺菌水を貯溜する容器と、前記容器内を加圧するポンプと、前記容器内に設けられた給水管と、前記容器に設けられ給水管に接続された噴霧ノズルと、を備え、前記噴霧ノズルは、前記噴霧空間に開口する噴霧口を有している(1)に記載のミスト処理装置。
(10)前記噴霧装置は、前記噴霧空間に開口する噴霧口を有する筐体と、前記筐体内に設けられた超音波発振子と、殺菌水を貯溜し前記超音波発振子に殺菌水を供給する給水タンクと、を備えている(1)に記載のミスト処理装置。
(11)前記噴霧装置は、次亜塩素酸水のミストを噴霧する(1)から(10)のいずれか1に記載のミスト処理装置。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施形態にミスト処理装置を概略的に示す斜視図。
【
図3】
図3は、前記ミスト処理装置の噴霧装置の断面図。
【
図4】
図4は、前記噴霧装置のフィルタ部分を拡大して示す斜視図。
【
図5】
図5は、前記ミスト処理装置の排気機構を示す断面図。
【
図6】
図6は、前記ミスト処理装置全体の構成を概略的に示すブロック図。
【
図7】
図7は、対象物の設置位置におけるドライミストの到達量の測定結果を示す図。
【
図8】
図8は、噴霧空間におけるドライミスト到達量および排気空気中の次亜塩素酸成分量の測定結果を示す図。
【
図9】
図9は、噴霧空間における塩素ガス量、および排気空気中の塩素ガス量の測定結果を示す図。
【
図10】
図10は、第2の実施形態に係るミスト処理装置を示す斜視図。
【
図11】
図11は、第1変形例に係る噴霧装置を概略的に示す断面図。
【
図12】
図12は、第2変形例に係る噴霧装置を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るミスト処理装置(殺菌装置)の構成を概略的に示す斜視図、
図2は、ミスト処理装置の断面図である。
図1および
図2に示すように、ミスト処理装置は、噴霧空間Sを規定するハウジング(外囲器)10と、噴霧空間Sに殺菌水、例えば、次亜塩素酸水のミストを噴霧する噴霧装置20と、噴霧空間Sから使用済のミスト、すなわち、次亜塩素酸成分の低減したミストおよび水分を含む空気、を外部に排気する排気機構60と、を備えている。
【0012】
ハウジング10は、例えば、直方体形状を有している。ハウジング10は、例えば、合成樹脂シート、ステンレス板等の腐食し難い材料で形成されている。ハウジング10は、複数の壁面により規定された噴霧空間Sを内部に有している。噴霧空間Sは、密閉空間であることが望ましい。噴霧空間S内において、ハウジング10の底壁上に、殺菌対象となる対象物OBを設置することができる。また、ハウジング10は、対象物OBを噴霧空間S内に出し入れするための挿入口12と、この挿入口12を開閉する扉14と、を有している。
なお、ハウジング10は、直方体形状に限定されることなく、種々の形状を選択可能である。また、ハウジング10として、冷凍庫、搬送コンテナ、冷蔵庫等を用いることも可能である。
【0013】
図3は、噴霧装置の断面図、
図4は、噴霧装置のフィルタ部分を示す斜視図である。
これらの図に示すように、噴霧装置20は、例えば、気液接触方式のミスト噴霧装置として構成されている。すなわち、フィルタに次亜塩素酸水を含浸させ、このフィルタを通して空気を流通することにより、次亜塩素酸水と空気とを接触させて、次亜塩素酸水を気体(ドライミスト)に変換して放出するミスト噴霧装置である。
詳細に述べると、噴霧装置20は、箱状の筐体22を備えている。筐体22の側壁22aは吸気口24を有し、側壁22aと対向する側壁22bは噴霧口26を有している。筐体22内には、吸気ファン(送風ファン)28、フィルタ(噴霧フィルタ)30、殺菌水として次亜塩素酸水を貯溜する液体受け32、液体受け32内の次亜塩素酸水をフィルタ30に供給する給水機構34が設けられている。筐体22の天井壁22cには、補充用の次亜塩素酸水を収容した貯水タンク(あるいは貯水カートリッジ)36が脱着自在に載置されている。
筐体22は、ハウジング10の外側に設置されている。筐体22の噴霧口26側の端部は、ハウジング10の側壁に埋め込まれている。これにより、噴霧口26は、ハウジング10の噴霧空間Sに開口している。同時に、筐体22の吸気口24は、ハウジング10の外方空間に開口している。
【0014】
吸気ファン28は、吸気口24およびフィルタ30に対向して設けられている。吸気ファン28は、吸気口24を通して外気、すなわち、ハウジング10の外の空気、を吸気し、フィルタ30に向けて送風する。フィルタ30は、噴霧口26に対向して、かつ、液体受け32上に設けられている。フィルタ30は、例えば、矩形状に形成され、ほぼ鉛直方向に沿って立設されている。吸気ファン28から送られた外気は、フィルタ30を通り噴霧口26から噴霧空間Sに排出される。フィルタ30は、不織布を含んでいてもよい。フィルタ30の詳細については後述する。
【0015】
液受け32は、筐体22の底壁22d上に配置されている。液受け32は、所定量の次亜塩素酸水を貯溜しているとともに、フィルタ30から垂れ落ちる次亜塩素酸水を受けて貯溜する。
給水機構34は、フィルタ30の上方に設けられた滴下パイプ40と、液体受け32の底部から滴下パイプ40まで延びる給水配管42と、給水配管42の中途部に接続された送液ポンプ44と、送液ポンプ44および前述の吸気ファン28を駆動するコントローラ45と、を備えている。
【0016】
図3および
図4に示すように、滴下パイプ40は、ほぼ水平に延び、フィルタ30の上に所定の間隔を置いて配置されている。本実施形態では、滴下パイプ40の両端に給水配管42が接続され、両端から滴下パイプ40に給水される。滴下パイプ40には、複数の滴下孔40aが形成され、滴下パイプ40の軸方向に所定のピッチで並んでいる。滴下パイプ40に給水された次亜塩素酸水は、複数の滴下孔40aからフィルタ30に滴下される。次亜塩素酸水の給水量、あるいは、滴下量は、コントローラ45により適宜調整可能である。
【0017】
筐体22の天井壁22cに給水口46が設けられ、貯水タンク36の注入口部分が給水口46に脱着自在に装着されている。給水口46から液体受け32の近傍まで給水パイプ48が延出している。給水パイプ48の中途部に開閉弁50が設けられている。また、液体受け32内の液体の液面高さを検知する、すなわち、次亜塩素酸水の残量を検知するフロートセンサ52が設けられている。フロートセンサ52により次亜塩素酸水の減少が検知されると、コントローラ45は、開閉弁50を開放する。すると、貯水タンク36から給水パイプ48を通して液体受け32に次亜塩素酸水が補充される。液体受け32内の次亜塩素酸水が所定量に達すると、フロートセンサ52の検出に応じて、コントローラ45は開閉弁50を閉じ、給水を停止する。
なお、次亜塩素酸水の補充は、上述した貯水タンク36に限らず、オペレータが給水口46から手動で補充するようにしてもよい。
【0018】
噴霧装置20により次亜塩素酸水のミストあるいはドライミストをハウジング10の噴霧空間Sに噴霧する場合、まず、送液ポンプ44を駆動し、次亜塩素酸水を液体受け32から給水配管42を通して滴下パイプ40へ送る。そして、滴下パイプ40の滴下孔40aからフィルタ30に次亜塩素酸水を滴下(給水)し、フィルタ30に含浸させる。同時に、吸気ファン28を駆動し、吸気口24から吸い込んだ外気(ハウジング10の外方空間内の空気)をフィルタ30に向けて送風する。フィルタ30に含浸された次亜塩素酸水は、フィルタ30を透過する空気によりミストに変換され、噴霧口26から噴霧空間Sに噴霧される。次亜塩素酸水は、フィルタ30を離れた時点で気化し、次亜塩素酸成分がドライミストの状態で、噴霧口26から噴霧空間S内に噴霧される。なお、噴霧物質に、粒径1μ以下の液状のミストを含んでいてもよい。噴霧された次亜塩素酸成分のドライミストは、噴霧空間S内に設置された対象物OBに到達し、これらの対象物OBを濡らすことなく殺菌あるいは脱臭する。なお、対象物OBは、噴霧空間Sを形成している壁部の内面、および噴霧空間S内に配置されている設備等を含んでいてもよい。次亜塩素酸成分のドライミストは、壁部内面および設備等に到達し、これらを殺菌および脱臭する。
【0019】
なお、
図2に示すように、噴霧装置20の噴霧口26と対象物OBとの間の距離Dを5cm以上に設定することにより、噴霧口26から噴霧された粒子径1μm以下のミストは、常温では、対象物OBに到達するまでの間に気化し、気体として対象物OBに到達することができる。これにより、対象物OBを濡らすことなく、殺菌および脱臭することができる。
ただし、粒径を有するミストは空間上でできるだけ早く気化され、対象物OBに到達するときにはほぼ気化された状態になっていることが望ましい。そのため、噴霧物質に含まれる次亜塩素酸成分は基本的には気化されたものが主成分となり、粒径を有する液状のミストは噴霧されないことが望ましい。もし、噴霧口から気化されずに噴霧される場合も、粒径を有する液状のミストの量はできるだけ少なくし、さらに粒径も0.3μm以下のミストであることが望ましい。液状ミストの粒径が0.3μm以下であれば、噴霧された直後にミストが気化されることとなり、対象物OBと噴霧口26との距離がさらに近くであっても対象物OBが濡れることを防ぐことができ、噴霧装置20と対象物OBの配置に自由度を増すことができる。
【0020】
図4に示すように、噴霧装置20のフィルタ30は、次亜塩素酸水を吸収又は吸着するフィルタであり、かつ、次亜塩素酸水と反応性の低い材料で形成されている。一例では、フィルタ30は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)、PVDF、塩化ビニル、セルロース、アクリル、セラミックス、無機酸化物、無機窒化物から選ばれた1種又は複数種組み合わせたものを主成分とし、アミノ基、シアネート基、メルカプト基、いずれかを含む接着剤、防腐剤、表面改質剤、着色剤、親水剤の含有率が0.1%以下である材料で形成されている。
【0021】
一般的な加湿機のフィルタに使われている接着剤、防腐剤、表面改質剤、着色剤、親水剤の含有率が0.1%以上になると、次亜塩素酸成分のHClOがこれらと反応して失活してしまい、フィルタで気化されたミストに次亜塩素酸成分が含まれなくなる。本実施形態のように、接着剤、防腐剤、表面改質剤、着色剤、親水剤の含有率が0.1%以下であれば、次亜塩素酸成分を失活せずに次亜塩素酸水を気化させ噴霧拡散させることができる。フィルタ30として不織布を用いる場合も、上記と同様の材料で不織布を形成することができる。
【0022】
図5は、排気機構の断面図である。
図1、
図2、
図5に示すように、ミスト処理装置の排気機構60は、ハウジング10内で殺菌あるいは脱臭に用いられ次亜塩素成分が減少したミストおよび水分を含むミストあるいは空気、並びに、噴霧空間S内に生じた塩素ガスを、吸着あるいは失活させた状態でハウジング10の外部に排気する。一例では、排気機構60は、ハウジング10のいずれかの壁部に設けられた排気口62と、この排気口62に嵌合された排気筒64と、排気筒64内に設けられた吸着あるいは失活用の排気フィルタ66と、排気ファン68と、を有している。
【0023】
排気口62の設置位置は、噴霧装置20から噴霧されたミストが噴霧空間S内を循環した後、すなわち、ミストが対象物OBに到達、接触した後、排気口62に至るような位置に選択されている。本実施形態では、排気口62は、噴霧口26の近傍で、噴霧口26の後方、あるいは、側方のハウジング壁部に設けられている。
図5に示すように、排気筒64は、排気口62に挿通した状態で、ハウジング10に固定されている。排気筒64の一端は、噴霧空間Sに開口した吸気口64aを形成し、排気筒64の他端は、ハウジング10の外部に開口する排気口64bを形成している。排気フィルタ66は、排気筒64内に配置され、この排気筒64の流路ほぼ全体を覆っている。排気フィルタ66は、例えば、活性炭、ゼオライト等の吸着材の集合体を含んでいる。あるいは、排気フィルタ66は、失活材としての水を含浸した不織布等を用いることができる。
【0024】
排気ファン68は、ハウジング10の外側に設けられ、排気筒64の排気口64bに対向している。排気ファン68は、コントローラ45により駆動制御される。排気ファン68を駆動すると、噴霧空間S内の空気が吸気口64aから排気筒64内に吸気され、排気フィルタ66を通って流れた後、排気口64bから外部に排気される。排気フィルタ66を通ることにより、空気中の次亜塩素酸成分および塩素ガスが排気フィルタ66に吸着され、あるいは、失活される。これにより、空気は無害化された後、水分と共に外部に排気される。また、水分を排出することにより、噴霧空間Sの湿度は、例えば、90%以下に制御されている。湿度を制御することにより、対象物OBに結露が発生しないようにすることができる。
【0025】
図6に示すように、ミスト処理装置は、コントローラ45に接続されたタイマ70、および警告ブザー、ランプ等の警報器72を備えていてもよい。上述したミスト処理において、コントローラ45は、ハウジング10の噴霧空間Sがハウジング外部に対して陽圧となるように、吸気ファン28および排気ファン68の駆動を制御している。また、ミスト処理において、タイマ70により処理時間を設定し、処理が終了した後、警報器72で操作者に処理終了を報知するようにしてもよい。この場合、コントローラ45は、噴霧空間Sに対象物OBが設置された状態で、噴霧装置20の吸気ファン28および排気機構60の排気ファン68を駆動し、ミストの噴霧を開始する。タイマ70によりセットされた処理時間が経過すると、コントローラ45は、吸気ファン28を停止し、その後、排気ファン68を停止する。更に、コントローラ45は、警報器72を作動させ、操作者に処理終了を報知する。これにより、コントローラ45は、操作者に、対象物OBの取り出しを促す。このような構成によれば、対象物OBの過度の殺菌、脱臭を抑制し、同時に、殺菌水の無駄な消費を抑えることが可能となる。
【0026】
上記のように構成されたミスト処理装置における、ミストの到達量および排気空気の無害化状態を検証した。
図7は、対象物OBの設置位置におけるドライミストの到達量の測定結果を示し、
図8は、ドライミストの到達量に対する排気空気中のドライミスト量の測定結果を示し、
図9は、噴霧空間における塩素ガス量に対する排気空気中の塩素ガス量の測定結果を示している。
図7において、FACは、噴霧装置20内の次亜塩素酸水の有効塩素濃度を示し、(温
/湿)は、噴霧空間Sの温度および湿度を示している。図に示すように、噴霧開始から30分ごとのドライミスト到達量を測定した結果、いずれの経過時間においても、140μg以上のドライミスト到達量が得られることが分かる。また、時間の経過に応じて、次塩素酸水の有効塩素濃度が低下し、これに伴い、ドライミスト到達量も低下していく。新しい次塩素酸水を補充した後(180min以降)は、再び、ドライミスト到達量が300μg程度まで上昇している。ミスト噴霧に伴う、噴霧空間Sの温度上昇は見られない。すなわち、全経過時間に亘り、噴霧空間Sの温度は17℃前後に保たれている。
更に、噴霧空間Sの湿度は、90%以下に保たれている。このことから、噴霧空間Sに生じた水分は、排気機構60によりハウジング10外に排気され、噴霧空間Sの湿度がほぼ一定に保たれていることが分かる。このように、ミスト処理装置では、ドライミストが安定供給されることが検証された。
【0027】
図8に示すように、ドライミスト到達量が300μgの状態において、ハウジング10から排気された空気中にドライミストは検出されていない。すなわち、次亜塩素酸成分は排気フィルタ66により、失活あるいは吸着され、外部に排気されていないことが分かる。
図9に示すように、噴霧空間Sに生じる塩素ガス量が0.5ppmである場合、ハウジング10から排気された空気中に塩素ガスは検出されていない。すなわち、塩素ガスは排気フィルタ66により、失活あるいは吸着され、外部に排気されていないことが分かる。このように、排気空気は、次亜塩素酸成分および塩素ガスを含んでおらず、無害化されていることが検証された。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、対象物に対して殺菌水のミスト(ドライミスト)を安定して供給することができ、かつ、無害化した空気を排気することが可能なミスト処理装置を得ることができる。また、ミスト処理装置では、ハウジングの外の乾燥した空気を取り入れ、次亜塩素酸成分が低くなった水分を含む空気を噴霧空間Sの外部に排気することで、次亜塩素酸成分のミストを安定的に空間噴霧することができるとともに、噴霧空間Sの湿度を90%以下に保つことができる。湿度の上昇によるドライミスト噴霧量の低減および結露の発生を防止することができる。更に、このような水分の回収について、デシカント方式やコンプレッサ方式の除湿機構を設ける必要がなく、装置全体の構成を簡略化することが可能である。
【0029】
噴霧装置20および排気ファン68はハウジング10の外部に設けられていることから次亜塩素酸成分あるいは塩素ガスによる、これら装置およびファンの腐食を抑制することができる。これに限らず、腐食対策を施した状態で、噴霧装置および排気ファンの少なくとも一方をハウジング内に設置してもよい。但し、噴霧装置は、その吸気口がハウジングの外部に開口するように、設置される。
第1の実施形態において、ハウジング10として、冷蔵庫あるいは搬送コンテナを用いる場合、
図2に2点鎖線で示すように、噴霧空間Sを冷却するための冷却器74をハウジング10に設置してもよい。
【0030】
本実施形態において、ミスト処理装置の噴霧空間および対象物は、種々選択することができる。例えば、噴霧空間は、厩舎、倉庫、居住空間、野菜室、施設、クローゼット等、対象物を設置可能な種々の空間を選択することができる。
対象物は、表面撥水性を有する生物を含んでいる。このような生物としては、イチゴ、種籾、オクラ、キュウリ、カボチャ、なすを含む青果物、豚、牛、鳥を含む家畜、又は、花卉を選択することができる。接触角が90度以上の表面撥水性のある生物は、液体だと弾いてしまい次亜塩素酸成分が全体に到達しないが、気体だと表面全体を処理できる。そのため、これらの生物については、次亜塩素酸成分を空間に放出してドライプロセス処理を行うことにより、効果的に殺菌又は脱臭することができる。例えば、ぶどう、イチゴなどは、水分の接触角が100~30度程度であり、稲、米は、接触角が130度以上である。
【0031】
対象物は、表面が粒子径1μm以下の繊維状で覆われている物、および、毛や粉をまとった、又は気孔や気根を有し、空気を取り込む構造を持った生物を含んでいてもよい。放出される次亜塩素酸成分もしくはミストは、気体あるいは粒子径が1μm以下と小さいため、これらの対象物の繊維間、あるいは、気孔に侵入し易く、これらの対象物を効果的に殺菌あるいは脱臭することが可能である。
【0032】
更に、対象物は、嫌水性(収穫後は水で洗えない)を有するもの、例えば、イチゴ、また、液体では内部に成分が浸透しない構造物、例えば、生物、種籾、を含んでいてもよい。
【0033】
その他、対象物として、衣類、ゴミ等、生活における様々な物、場所での衛生面や健康面から殺菌や脱臭が求められるあらゆる物を選択することが可能である。
【0034】
次に、他の実施形態および変形例に係るミスト処理装置について説明する。以下に説明する他の実施形態および変形例において、前述した第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化し、第1の実施形態と異なる部分を中心に詳しく説明する。
【0035】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態に係るミスト処理装置を示す斜視図である。
図10に示すように、ミスト処理装置は、噴霧空間Sを規定するハウジングとして機能する収容容器80と、収容容器80の上部開口に設置された噴霧装置20とを備えている。収容容器80の内部空間は、殺菌水が噴霧される噴霧空間Sを形成している。収容容器80は、対象物OBを出し入れするための挿入口82と、この挿入口82を開閉する扉83とを有している。また、収容容器80内に、対象物OBを載置するための複数段の網棚84が設けられている。本実施形態によれば、収容容器80は、噴霧空間Sの体積が10m
3以下となる大きさに形成されている。
【0036】
ミスト処理装置は、偏平な矩形状の筐体92を有し、この筐体92は、収容容器80に対向する底壁92dと、底壁に対向する天井壁92cと、底壁92dの側縁に沿って立設された複数の側壁92a、92bと、を有している。対向する2つの側壁92a、92bに、外部に開口する吸気口94がそれぞれ形成され、また、底壁92dに噴霧空間Sに開口する複数の噴霧口96が設けられている。筐体92の天井壁92cには、次亜塩素酸水を給水するための給水口86が設けられている。
【0037】
前述した第1の実施形態と同様に、筐体92内には、次亜塩素酸水を貯溜する液体受け、フィルタ、液体受けの次亜塩素酸水をフィルタに給水する給水機構、吸気口94から外気を吸気し、フィルタに向けて送風するファン等が設けられている。
収容容器80の側面下部に、排気機構60が設けられている。排気機構60は、第1の実施形態と同様に、排気口、排気口に嵌合された排気筒、この排気筒内に設けられた排気フィルタ、および排気筒に対向して収容容器80の外部に設けられた排気ファン68を有している。
【0038】
上記ミスト処理装置においては、殺菌の対象物OBとして、例えば、野菜、果物等の食品、その他、任意の対象物を収容容器80内に入れ、網棚54に載置する。そして、扉53を閉じた状態で、ミスト処理装置を駆動することにより、噴霧口96から次亜塩素酸水をドライミストに変換して収容容器50の噴霧空間Sに噴霧し、対象物OBに到達させる。これにより、内部空間S内、および対象物OBの殺菌および脱臭を行う。また、排気機構60により、次亜塩素酸成分の低下したミスト、水分、および塩素ガスを収容容器80の下部から外部に排気する。この際、排気フィルタにより、排気空気中の次亜塩素酸成分および塩素ガスを吸着あるいは失活することにより、空気を無害化した状態で排気する。
なお、噴霧物質には、粒径1μ以下、さらに望ましくは粒径0.3μ以下の液状のミストを含んでいてもよい。
【0039】
上記のように構成された第2の実施形態によれば、殺菌水のミストを安定して対象物に供給し、対象物を濡らすことなく殺菌あるいは脱臭することが可能なミスト処理装置が得られる。また、上記ミスト処理装置によれば、使用済のミストおよび塩素ガスを無害化して容器の外部に排気することにより、噴霧空間の湿度上昇および温度上昇を抑制することができ、一層、安定してミストを供給することができる。
本実施形態によれば、噴霧空間Sの体積を10m3以下とすることにより、次亜塩素酸水のミストあるいはドライミストを噴霧空間Sの全域に濃度ムラなく噴霧することが可能となる。同時に、対象物OBを濡らすことなく、次亜塩素酸成分をムラなく到達させることができ、ミスト粒子径が小さいこと(1μm以下)の作用効果を最大限に生かすことができる。
【0040】
(第1変形例)
図11は、第1変形例に係るミスト処理装置の噴霧装置を概略的に示す図である。第1変形例によれば、噴霧装置20は、スプレー式としている。すなわち、噴霧装置20は、次亜塩素酸水を貯溜している容器100と、容器100内を加圧するポンプ102と、容器100内に設けられ容器100の上端から底壁の近傍まで延びる給水管104と、容器100の上端に設けられ給水管104に接続された噴霧ノズル106と、を備えている。容器100は、その一部が、ミスト処理装置のハウジング10の側壁に埋め込まれている。噴霧ノズル106の噴霧口106aは、ハウジング10内の噴霧空間Sに開口している。ポンプ102は、ハウジング10の外に設けられている。ポンプ102は、外部に開口する吸気口から外気を吸気し、加圧した後、容器100内に供給する。
【0041】
上記ミスト処理装置によれば、ポンプ102により容器100内を加圧した状態で、噴霧ノズル106を押すことにより、噴霧ノズル106の噴霧口106aから次亜塩素酸水をドライミスト(気体)あるいは粒径1μm以下の次亜塩素酸成分を含むミストに変換して噴霧する。このような噴霧装置20を用いた場合でも、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
(第2変形例)
図12は、第2変形例に係るミスト処理装置の噴霧装置を概略的に示す図である。第2変形例によれば、噴霧装置20は、超音波式の噴霧装置としている。すなわち、噴霧装置20は、箱状の筐体110を有し、この筐体110内に、給水タンク112および超音波発振子114が設けられている。筐体110の天井壁に噴霧口118および給水口(吸気口)120が設けられている。給水タンク112には、例えば、塩分濃度500mg/kg以下、有効塩素濃度5~200mg/kg、pH5~8の次亜塩素酸水が貯溜されている。噴霧装置20は、ハウジング10の外側に配置され、筐体110の一部が、ハウジング10の側壁に埋め込まれている。噴霧口118は、ハウジング10内の噴霧空間Sに開口している。吸気口を兼ねる給水口120は、ハウジング10の外側に位置している。
【0043】
上記噴霧装置20によれば、給水タンク112から送られた次亜塩素酸水に、超音波発振子114により超音波振動を与えることにより、次亜塩素酸水を気体(ドライミスト)あるいは粒径1μm以下の次亜塩素酸成分を含むミストに変換して噴霧口118から噴霧空間Sに噴霧する。
このような噴霧装置20を用いたミスト処理装置においても、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、第2変形例において、超音波発振子114に代えてヒータを設けてもよい。この場合、ヒータにより次亜塩素酸水を加熱し、蒸発させることにより、次亜塩素酸水を気体あるいは粒径1μm以下の次亜塩素酸成分を含むミストに変換してすることができる。
【0044】
本発明は上述した実施形態あるいは変形例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態あるいは変形例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…ハウジング、20…噴霧装置、24…吸気口、26…噴霧口、28…吸気ファン、
30…フィルタ、45…コントローラ、60…排気機構、62…排気口、
64…排気筒、66…排気フィルタ、68…排気ファン、S…噴霧空間、OB…対象物